説明

ナノ粒子、ナノ粒子生成方法及びナノ粒子生成装置

【課題】高品質のナノ粒子を造粒でき、しかも安定した粒径制御を可能にしたナノ粒子生成方法、前記ナノ粒子生成方法に基づいて生成したナノ粒子及び前記ナノ粒子生成方法に基づくナノ粒子生成装置を提供することである。
【解決手段】金属含有物質を含む溶媒を収容した溶媒反応部1の液中に対向電極対(2、3等)を配置し、バースト化された高電圧高周波パルスV2を対向電極の電極間に印加して電極付近の溶媒を気化し、前記気化により発生させた気泡に液中プラズマPを発生させた後に高電圧高周波パルスV2の印加を停止して液中プラズマPを消滅させ液中プラズマPの発生領域の液温度を降下させる、前記印加及び前記停止の処理期間を1サイクルとして、高電圧高周波パルスV2の前記印加と前記停止を繰り返し行って間欠的に発生させた液中間欠プラズマにより前記金属含有物質の含有金属のナノ粒子を生成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属含有物質から含有金属のナノ粒子を生成するナノ粒子生成方法、前記ナノ粒子生成方法に基づいて生成したナノ粒子及び前記ナノ粒子生成方法に基づいてナノ粒子を生成するナノ粒子生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノ粒子の代表的な生成方法は気相法、液相法及び固相法に大別される。気相法には、CVD法、気相合成法、レーザーやアークの加熱蒸発による蒸発・凝縮法などがある。液相法には、液相還元法や化学沈殿法などがある。固相法には固相合成法や粉砕法などがある。
【0003】
これらの生成方法以外にも、例えば特許文献1などに開示されているように、金属イオンを含む水溶液に超音波を照射して超微粒子を得る方法も提案されている。また、特許文献2には、水性溶媒中に含まれる気泡内に発生させたプラズマにより酸化又は還元反応を生起させる液中プラズマ方法が開示されているが、液中プラズマによるナノ粒子製造への応用可能性を示唆するにとどまっている。液中プラズマによるナノ粒子の生成に関しては、特許文献3に、例えば塩化金酸等の金属塩溶液中に配置した一対の液中電極間に高電圧高周波パルスを連続印加して液中プラズマを生じさせることにより、金属塩溶液中の元素や化合物のラジカルや電子を生じさせ、これらの元素や化合物のラジカルや電子によって溶液中の金属イオンを還元することにより、金属塩を構成する金属のナノ粒子(例えば金ナノ粒子)を生成する液中プラズマナノテクノロジーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−152213号公報
【特許文献2】特表2005−529455号公報
【特許文献3】特開2008−13810号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記液中プラズマナノテクノロジーにおいて、金属ナノ粒子を大量に生成するために、前記液中プラズマを連続して発生させたところ、造粒したナノ粒子の大半が凝集して生成粒子径が大きくなってしまう品質上の問題を生じることが判明した。即ち、液中プラズマによってナノ粒子が造粒されるものの、液中プラズマの連続発生によってナノ粒子の凝集化も進行して、全体として粒子径の大きいナノ物質が生成された。例えば、塩化金酸の合成反応実験では、液中連続プラズマによる生成物(金ナノ粒子)の大半が50nm(nm(ナノメートル):10−9m)〜500nmサイズの凝集体になっていた。従って、前記液中プラズマによるナノ化処理には、触媒等への利用の目安となる10nm以下のナノ粒子の大量生成を可能にする高品質化対策が求められていた。
【0006】
また、金属ナノ粒子を大量に生成する際には、金属塩溶液を循環流通させる流路に前記一対の液中電極を配置して行うのが高速処理の面で好ましいが、溶液と液中連続プラズマとの合成反応が溶液の流速(移動速度)の影響を受けるので、ナノ粒子径(粒子サイズ)の制御が困難となる問題も有していた。
【0007】
従って、本発明の目的は、高品質のナノ粒子を造粒でき、しかも安定した粒径制御を可能にしたナノ粒子生成方法及びそのナノ粒子生成方法に基づき高品質のナノ粒子を生成することのできるナノ粒子生成装置を提供することである。更に、本発明の別の目的は、本発明に係るナノ粒子生成方法により生成された高品質のナノ粒子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記液中連続プラズマに起因する課題につき鋭意研究した結果、液中プラズマを間欠的に発生させるバースト処理により、10nm以下のナノ粒子を安定且つ大量に造粒することに成功して、液中間欠プラズマによるバースト処理がナノ粒子の高品質化及び粒径制御を可能にする知見を得るに至った。
【0009】
本発明は上記課題を解決するため、上記知見に基づきなされたものであり、本発明の第1の形態は、金属含有物質を含む溶媒を収容した溶媒反応部の液中に少なくとも一対の対向電極を配置し、高電圧高周波パルスを前記対向電極の電極間に印加して前記対向電極付近の溶媒を気化し、前記気化により発生させた気泡に液中プラズマを発生させた後に前記印加を停止して前記液中プラズマを消滅させ前記液中プラズマの発生領域の液温度を降下させる、前記印加及び前記停止の処理期間を1サイクルとして、前記高電圧高周波パルスの前記印加と前記停止を繰り返し行って間欠的に発生させた液中間欠プラズマにより前記金属含有物質の含有金属のナノ粒子を生成するナノ粒子生成方法である。
【0010】
本発明の第2の形態は、第1の形態において、前記高電圧高周波パルスの前記印加と前記停止を0.001〜1秒の周期で繰り返すナノ粒子生成方法である。
【0011】
本発明の第3の形態は、第1又は第2の形態において、前記液中プラズマの発生領域の液温度が前記溶媒による雰囲気温度又はその近傍の温度に降下するまで、前記高電圧高周波パルスの印加停止を行うナノ粒子生成方法である。
【0012】
本発明の第4の形態は、第3の形態において、前記溶媒を加熱して前記溶媒による雰囲気温度を室温より高くしたナノ粒子生成方法である。
【0013】
本発明の第5の形態は、第1〜第4の形態のいずれかの形態において、前記高電圧高周波パルスは、1kV〜20kVの範囲のいずれかのピーク間電圧値を有するナノ粒子生成方法である。
【0014】
本発明の第6の形態は、前記第1〜第5の形態のいずれかにおいて、前記高電圧高周波パルスは、0.1kHz〜300kHzの範囲のいずれかの周波数を有するナノ粒子生成方法である。
【0015】
本発明の第7の形態は、第1〜第6の形態のいずれかにおいて、前記高電圧高周波パルスは、0.1μS〜100μSの範囲のいずれかのパルス幅を有するナノ粒子生成方法である。
【0016】
本発明の第8の形態は、第1〜第7の形態のいずれかにおいて、前記金属は、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、プラチナ(Pt)、コバルト(Co)、チタン(Ti)、インジウム(In)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)又はこれらの2種以上の合金からなるナノ粒子生成方法である。
【0017】
本発明の第9の形態は、第1〜第8の形態のいずれかにおいて、前記金属含有物質は、金属有機化合物又は金属無機化合物からなるナノ粒子生成方法である。
【0018】
本発明の第10の形態は、第1〜第9の形態のいずれかに係るナノ粒子生成方法により生成したナノ粒子である。
【0019】
本発明の第11の形態は、金属含有物質を含む溶媒を収容した溶媒反応部と、前記溶媒反応部の液中に配置した少なくとも一対の対向電極と、前記対向電極の電極間に高電圧高周波パルスを印加する高電圧高周波パルス発生手段と、前記高電圧高周波パルスを前記対向電極の電極間に印加して前記対向電極付近の溶媒を気化し、前記気化により発生させた気泡に液中プラズマを発生させた後に前記印加を停止して前記液中プラズマを消滅させ前記液中プラズマの発生領域の液温度を降下させる、前記印加及び前記停止の処理期間を1サイクルとして、前記高電圧高周波パルスの前記印加と前記停止を繰り返し行う高電圧高周波パルス供給制御手段とを有し、前記高電圧高周波パルスの前記印加と前記停止を繰り返し行って間欠的に発生させた液中間欠プラズマにより前記金属含有物質の含有金属のナノ粒子を生成するナノ粒子生成装置である。
【0020】
本発明の第12の形態は、第11の形態において、前記高電圧高周波パルス制御手段は、1〜1000Hzのバースト周波数に基づき前記高電圧高周波パルスの前記印加と前記停止を繰り返し行うナノ粒子生成装置である。
【0021】
本発明の第13の形態は、第11又は第12の形態において、前記高電圧高周波パルス制御手段は、前記液中プラズマの発生領域の液温度が前記溶媒による雰囲気温度又はその近傍の温度に降下するまで、前記高電圧高周波パルスの印加停止を行うパルス停止制御手段を含むナノ粒子生成装置である。
【0022】
本発明の第14の形態は、第11、第12又は第13の形態において、前記溶媒反応部に前記溶媒を供給する溶媒供給手段を有し、前記溶媒供給手段は前記溶媒による雰囲気温度を室温より高い温度に昇温する加熱手段を含むナノ粒子生成装置である。
【0023】
本発明の第15の形態は、第11〜第14のいずれかの形態において、前記高電圧高周波パルス発生装置は、基本高周波信号を複数に分周すると共に位相を複数段にずらしたスイッチング信号に基づき直流電力をスイッチングして得られたパルス電圧を合成した高電圧高周波パルスを発生させる高電圧高周波パルス発生回路からなるナノ粒子生成装置である。
【発明の効果】
【0024】
本発明の第1の形態によれば、前記高電圧高周波パルスを前記電極間に印加して前記対向電極付近の溶媒を気化して発生させた気泡に液中プラズマを所望の短時間だけ発生させた後に前記印加を停止して前記液中プラズマを消滅させ前記液中プラズマの発生領域の液温度を降下させる、前記印加及び前記停止の処理期間を1サイクルとして、前記高電圧高周波パルスの前記印加と前記停止を繰り返し行って間欠的に発生させた液中間欠プラズマ(液中でグロー放電・異常グロー放電領域のプラズマを所望の短時間だけ発生させた間欠プラズマ)により前記金属含有物質の含有金属のナノ粒子を生成するので、生成過程での合成反応時間のばらつきを解消でき、ナノ粒子間の凝集化の進行を抑制して粒子径の拡大化を防止し、10nm以下の高品質のナノ粒子を大量に造粒することができる。しかも、前記高電圧高周波パルス供給をオンオフ制御するだけで前記液中プラズマの間欠的発生を行って、簡易且つ安定的に粒径制御を行うことができる。
【0025】
本発明における前記溶媒には、水、アルコール、各種有機溶媒等を使用することができる。前記液中電極の設置数は少なくとも1つあればよく、多数個設置することにより、液中間欠プラズマの発生率を高め、より効率的なナノ粒子の造粒処理が可能になる。前記対向電極の電極形状はプラズマ放電を誘引可能な電極形状を有すればよく、針状電極の他、平板電極、メッシュ状電極、有孔電極等を使用することができ、また異種形状の組合せ電極対を使用してもよい。前記電極間の間隔は例えば、針状電極であれば0.5〜5mmが好ましい。
【0026】
本発明の第2の形態によれば、前記高電圧高周波パルスの前記印加と前記停止を0.001〜1秒の周期で繰り返すことにより、前記液中間欠プラズマ、つまり液中におけるグロー放電・異常グロー放電領域のプラズマが極めて短時間だけ発生する間欠プラズマを用いて生成ナノ粒子の高品質化を実現することができる。
【0027】
本発明の第3の形態によれば、前記液中プラズマの発生領域の液温度が前記溶媒による雰囲気温度又はその近傍の温度に降下するまで、前記高電圧高周波パルスの印加停止を行うので、前記液中プラズマが完全に消滅させた後に前記高電圧高周波パルスの印加による前記液中プラズマの再発生を行い、ナノ粒子どうしが凝集するのを抑制できる抑制期間を確保して粒子径の拡大化を防止し、生成ナノ粒子の高品質化を実現することができる。
【0028】
本発明の第4の形態によれば、前記溶媒を加熱して前記溶媒による雰囲気温度を室温より高くすることにより、例えば、溶媒が水のときには30℃〜90℃に昇温することによって、前記液中プラズマの発生領域の液温度と前記溶媒による雰囲気温度との温度差を小さくして前記液中プラズマによるナノ化の反応を迅速化することができるので、液中間欠プラズマによるナノ粒子生成処理の高速化及び生成処理時間の短縮化による低コスト化を実現することができる。
【0029】
本発明の第5の形態によれば、前記高電圧高周波パルスは、1kV〜20kVの範囲のいずれかのピーク間電圧値を有するので、ナノ粒子の造粒処理に好適な液中プラズマ放電を発生させて、高品質のナノ粒子の量産化を実現することができる。
【0030】
本発明の第6の形態によれば、前記高電圧高周波パルスは、0.1kHz〜300kHzの範囲のいずれかの周波数を有するので、ナノ粒子の造粒処理に好適な液中プラズマ放電を発生させて、高品質のナノ粒子の量産化を実現することができる。
【0031】
本発明の第7の形態によれば、前記高電圧高周波パルスは、0.1μS〜100μSの範囲のいずれかのパルス幅を有するので、ナノ粒子の造粒処理に好適な液中プラズマ放電を発生させて、高品質のナノ粒子の量産化を実現することができる。
【0032】
本発明の第8の形態によれば、金、銀、銅、ニッケル、プラチナ、コバルト、チタン、インジウム、ロジウム、イリジウム又はこれらの2種以上の合金からなる前記金属に適用することにより、金、銀、銅、ニッケル、プラチナ、コバルト、チタン、インジウム、ロジウム、イリジウム又はこれらの2種以上の合金からなる高品質の金属ナノ粒子を大量に生成することができる。
【0033】
本発明の第9の形態によれば、金属有機化合物又は金属無機化合物からなる前記金属含有物質を出発物質として、高品質の金属ナノ粒子を大量に生成することができる。
【0034】
金属有機化合物には、ナフテン酸塩、オクチル酸塩、ステアリン酸塩、安息香酸塩、パラトレイル酸塩等の脂肪酸塩、イソプロポキシド、トキシド等の金属アルコキシド、アセチルアセトン錯塩等を使用することができる。金属無機化合物の場合には、例えば、金属元素に銀を使用するとき炭酸銀AgCOや硝酸銀AgNO等、金を使用するとき塩化金酸(塩化金:HAuCl)、AuCl、AuCl等の金塩化物や金錯体H[Au(NO]・3HO等、あるいは、パラジウムを使用するときパラジウム塩化物PdClや硝酸パラジウム塩Pd(NO等を使用することができる。なお、金属有機化合物及び金属無機化合物を夫々、2種以上使用して、合金化された金属核からなる複合金属ナノ粒子を生成することができる。
【0035】
本発明の第10の形態によれば、本発明に係るナノ粒子生成方法により、10nm以下の高品質性を具備したナノ粒子が大量製造可能に得られ、殊に1〜5nmの超ナノ粒子を安定して得られることから、そのナノメートルオーダーの超微粒子の有する、原子や分子、あるいはバルク体とも異なる特異な物性を利用して、例えば電子材料、磁性材料、触媒又は生体分子検査薬等の新素材として広範囲に活用することができ、ナノ粒子材料の利用分野の拡大及び実用化の促進に寄与することができる。
【0036】
本発明の第11の形態によれば、前記高電圧高周波パルス発生手段により発生させた前記高電圧高周波パルスの印加によって発生させた気泡に液中プラズマを所望の短時間だけ発生させた後に前記印加を停止して前記液中プラズマを消滅させ前記液中プラズマの発生領域の液温度を降下させる、前記印加及び前記停止の処理期間を1サイクルとして、前記高電圧高周波パルス供給制御手段によって前記高電圧高周波パルスの前記印加と前記停止を繰り返し行って間欠的に発生させた液中間欠プラズマにより前記金属含有物質の含有金属のナノ粒子を生成するので、生成過程でのナノ粒子間の凝集化の進行を抑制して粒子径の拡大化を防止し、10nm以下の高品質のナノ粒子を大量に造粒することができ、更に、前記高電圧高周波パルス供給をオンオフ制御するだけで前記液中プラズマの間欠的発生を行って、簡易且つ安定的に粒径制御を行えるナノ粒子生成装置を提供することができる。
【0037】
本発明の第12の形態によれば、前記高電圧高周波パルス制御手段は、1〜1000Hzのバースト周波数に基づき前記高電圧高周波パルスの前記印加と前記停止を繰り返し行うので、前記液中間欠プラズマ、つまり液中におけるグロー放電・異常グロー放電領域のプラズマが短時間だけ発生する間欠プラズマを用いて生成ナノ粒子の高品質化を実現することができ、しかも、前記バースト周波数の調整により高精度の粒径制御を簡易且つ低コストに行うことができるナノ粒子生成装置を提供することができる。
【0038】
本発明の第13の形態によれば、前記高電圧高周波パルス制御手段により、前記液中プラズマの発生領域の液温度が前記溶媒による雰囲気温度又はその近傍の温度に降下するまで前記高電圧高周波パルスの印加停止を行うので、前記液中プラズマが完全に消滅させた後に前記高電圧高周波パルスの印加による前記液中プラズマの再発生を行い、ナノ粒子どうしが凝集するのを抑制できる抑制期間を確保して粒子径の拡大化を防止し、生成ナノ粒子の高品質化を実現することができるナノ粒子生成装置を提供することができる。
【0039】
本発明の第14の形態によれば、前記加熱手段により前記溶媒による雰囲気温度を室温より高い温度に昇温して、前記溶媒供給手段により前記溶媒反応部に前記溶媒を供給することにより、生成ナノ粒子の高品質化、粒径制御及び高速化を実現することができるナノ粒子生成装置を提供することができる。
【0040】
本発明の第15の形態によれば、前記高電圧高周波パルス発生装置は、基本高周波信号を複数に分周すると共に位相を複数段にずらしたスイッチング信号に基づき直流電力をスイッチングして得られたパルス電圧を合成した高周波パルスを発生させる高周波パルス発生回路からなるので、前記高周波パルスの印加によりナノ粒子の造粒処理に好適な液中プラズマ放電を発生させて、生成ナノ粒子の高品質化及び粒径制御を実現することができるナノ粒子生成装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の一実施形態に係るナノ粒子生成装置の概略構成図である。
【図2】前記実施形態におけるナノ粒子生成処理制御部の概略構成ブロック図である。
【図3】前記ナノ粒子生成処理制御部におけるナノ粒子生成処理手順を示すフローチャートである。
【図4】前記実施形態に用いる高電圧高周波パルスのバースト化処理を説明するための電圧波形図である。
【図5】前記ナノ粒子生成装置により生成された金ナノ粒子の100万倍と250万倍のTEM写真である。
【図6】前記ナノ粒子生成装置により生成された金ナノ粒子を含む溶液全体の5万倍のTEM写真である。
【図7】前記実施形態における液中プラズマ発生機構による液中状態を模式的に示す図、前記実施形態において得られた金ナノ粒子のTEM写真、前記実施形態において得られた金ナノ粒子溶液と、異なる生成方法により得られた金ナノ粒子溶液の色目の違いを示す溶液写真である。
【図8】前記本実施形態のナノ粒子生成処理中における対向電極間の溶液温度の変化図、バースト化された高電圧高周波パルスV2の印加波形図及び高電圧高周波パルスV2印加時に流れる各電極の通電電流変化図である。
【図9】本実施形態により得られた微細金ナノ粒子の検査薬への応用実験を示す溶液写真である。
【図10】液中連続プラズマを発生させてナノ粒子の連続生成を実施した比較例における対向電極間の溶液温度の変化図、連続矩形波の高電圧高周波パルスの波形図及び連続矩形波の高電圧高周波パルスの印加時に流れる各電極の通電電流変化図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明に係るナノ粒子生成装置の実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。
図1は本発明の一実施形態に係るナノ粒子生成装置の概略構成を示す。
本実施形態に係るナノ粒子生成装置は本発明のナノ粒子生成方法に基づき、ナノ化の出発物質としての金属含有物質を含む溶媒を収容した溶媒反応部1の液中に3組の対向電極対(対向電極2と対向電極3、対向電極4と対向電極5、対向電極6と対向電極7)を配置し、バースト(BURST)化された高電圧高周波パルスV2を各対向電極の電極間に印加して各対向電極付近の溶媒を気化し、前記気化により発生させた気泡に液中プラズマPを所望の短時間だけ発生させた後に高電圧高周波パルスV2の印加を停止して液中プラズマPを消滅させ液中プラズマPの発生領域の液温度を降下させる、前記印加及び前記停止の処理期間を1サイクルとして、高電圧高周波パルスV2の前記印加と前記停止を繰り返し行って間欠的に発生させた液中間欠プラズマにより前記金属含有物質の含有金属のナノ粒子を生成することができる。本実施形態においては、金属含有物質に塩化金酸を用いて金(Au)ナノ粒子の生成を行う。溶媒には水を使用し、陰イオン性界面活性剤であるラウリル硫酸ナトリウム(SDS)を添加して、塩化金酸、水及びSDSの混合水溶液9を反応原液としている。反応原液の配合比例は、水1840ml、塩化金酸1g、SDS160mlであり、含有金量は約0.5gである。
【0043】
SDSの添加は金属粒子の液中での分散性を向上させるために行っている。分散促進剤としては、SDSやステアリン酸ナトリウム等のアニオン性界面活性剤以外にも水に分散または溶解可能な化合物、例えば、オリゴ糖等の糖類、ポリエチレングリコール等の高分子類、ドデシルトリメチルアンモニウムクロリド等のカチオン性界面活性剤、アルキルジメチルアミンオキシド等の両性イオン界面活性剤、アルキルグリコシドのような低分子系又はポリエチレングリコールやポリビニルアルコールのような高分子系の非イオン性界面活性剤などの界面活性剤類を使用することができる。
【0044】
溶媒反応部1は、塩化金酸、水及びSDSの混合水溶液9が流通可能な縦型の容器からなる。溶媒反応部1の容器の上下には流入口11、流出口12が開口されている。流入口11は、溶液供給手段の循環ポンプ15を介して、溶液貯留槽8の溶液供給管10と連通接続している。溶液供給管10の下端は溶液貯留槽8の中間より下方まで延設されている。流出口12は、循環管路13、及び、溶液貯留槽8の溶液帰還口14に接続されている。溶液貯留槽8内の混合水溶液9は、図1の矢印に示すように、循環ポンプ15の駆動により溶液供給管10を通じて吸い上げられ溶媒反応部1に供給された後、循環管路13を通じて帰還するように循環可能になっている。
【0045】
溶媒反応部1の容器内には、3組の対向電極対(対向電極2と対向電極3、対向電極4と対向電極5、対向電極6と対向電極7)が混合水溶液9の流通方向に所定間隔をおいて液中電極対として配設されている。溶媒反応部1及び循環管路13等の循環流路は絶縁性樹脂により形成されている。各対向電極は、導電性部材、例えば、金、タングステン、イリジウム又はこれらの合金から形成された針状電極からなる。各対向電極は容器側部より導入され、水平に配置されている。各対向電極の導電線の両端以外は、セラミック又はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製の絶縁カバー材34により覆われて、容器側部から外延されている。各対向電極の導電線は漏液防止用シールド材(図示せず)により封止して容器側部に緊密に挿着されている。
【0046】
各対向電極間の間隔はプラズマ放電可能な距離、即ち、0.5〜5mmに設定されている。各対向電極の電極間に印加するバースト化された高電圧高周波パルスV2は後述の高電圧高周波パルス発生装置により発生される。各対向電極間の間隔が離れている場合には、各電極端部ごとに液中プラズマが発生する。図1においては、各対向電極間の間隔を短くしており、液中プラズマPは対向電極間全体に発生した状態を示している。
【0047】
図4は高電圧高周波パルスのバースト化処理を説明するための電圧波形図である。
本実施形態に用いる高電圧高周波パルス発生装置は、高周波パルスVaを発生する高周波パルス発生回路44、バースト信号Vbを生成するバースト信号生成回路46、高周波パルスVaとバースト信号Vbによりバースト化処理を行って印加パルス電圧V1を生成する印加パルスバースト処理回路33、及び図1に示すパルストランス32からなる。印加パルスバースト処理回路33の出力段にパルストランス32の1次側が接続され、印加パルス電圧V1を高電圧化した高電圧高周波パルスV2が2次側から各電極対に供給されている。
【0048】
高周波パルス発生回路44は、発振器45の基準周波数に基づき高周波を発生させ、それを多数個にn(n=3、5、7等の奇数)分周し、且つ位相をずらす分周位相制御回路と、前記分周位相制御回路の複数個の出力信号をスイッチングして合成し高周波パルスを生成するスイッチング回路を含み、最終段の前記スイッチング回路から、1kHz以上、最大300kHzの合成出力を得ることができる。
【0049】
図4の(4A)、(4B)及び(4C)は夫々、高周波パルスVa、バースト信号Vb、バースト化された印加パルス電圧V1の電圧波形を示す。バースト信号生成回路46は矩形波発振回路からなり、T1時間オンし、T4時間オフする低周波のオン・オフ信号であるバーストコントロール用バースト信号Vbを生成する。バースト信号Vbのバースト周波数には、1Hz〜1kHzを使用することができる。本実施形態における金ナノ粒子の生成例では、高周波パルスVaとして、周波数100kHz且つパルス幅1μsの基本電圧パルスを使用し、バースト条件として周波数500Hz且つパルス幅250μsのバースト信号Vbを使用している。印加パルスバースト処理回路33は高周波パルスVaと、高周波パルスVaより低周波のバースト信号Vbを受け入れてこれらを加算合成処理を行う加算合成回路からなる。印加パルスバースト処理回路33からは印加パルス電圧V1として出力され、印加パルス電圧V1は(4C)に示すように連続矩形波の高周波パルスVaからバースト化処理された間欠(バースト)出力パルス波形を有する。即ち、印加パルス電圧V1はバースト信号Vbのオン・オフに夫々対応する、印加時間T1及び非印加時間T4を1サイクルとしたバースト電圧パルスになっている。前記バースト条件においては、印加時間T1及び非印加時間T4は夫々、250μs、1750μsとなる。
【0050】
各対向電極対の一方の対向電極2、4、6の外延導体線22、24、26は結線され、その結線28の端部は、パルストランス32の2次側端子30に接続されている。各対向電極対の他方の対向電極3、5、7の外延導体線23、25、27は結線され、その結線29の端部は、パルストランス32の別の2次側端子31に接続されている。1次側に供給された印加パルス電圧V1は、パルストランス32の2次側端子31より出力されて、バースト化された高電圧高周波パルスV2が各対向電極の電極間に印加され、各対向電極付近の混合水溶液9を気化し、前記気化により発生させた気泡に液中プラズマPを発生させる。
【0051】
液中プラズマ放電の発生には、高電圧高周波パルスV2の周波数を高くし、あるいは立ち上がりを急峻にすることにより、効率的に放電発生を誘引することができる。即ち、本実施形態では、液中プラズマ放電発生の効率を高めるために、以下のパルス発生条件に基づいて高電圧高周波パルスV2が前記高電圧高周波パルス発生装置により生成される。
【0052】
高電圧高周波パルスV2の印加期間T1におけるパルス電圧は1kV〜20kVの範囲のいずれかのピーク間電圧値Vppに設定され、またその周波数Fは、1kHz〜300kHzの範囲のいずれかの周波数値に設定され、更に、パルス幅Wは、0.1μS〜100μSの範囲のいずれかのパルス幅値に設定される。上記パルス発生条件を満たすパルス電圧を有してバースト化された高電圧高周波パルスV2を使用すれば、プラズマ中のラジカルやイオンの誘引を行って、より効率的な液中間欠プラズマを発生させることができる。
【0053】
溶液貯留槽8内には、容器内の液温を室温より高いベース温度tに昇温する加熱ヒータ19が収設され、液温を検出する温度センサー35が設置されている。加熱ヒータ19は設定温度にヒータコントローラ20により通電制御される。ベース温度tは各対向電極付近における雰囲気温度に相当し、合成反応促進の観点から予め室温以上に設定され、溶媒等に応じて30℃〜90℃に設定される。溶液加熱手段には熱交換して昇温するヒートパイプを使用することができる。溶液貯留槽8底部には、収納液を排出するための排出口16が設けられている。排出口16には開閉バルブ18を介して排出管17が接続されている。なお、溶液貯留槽8上部に反応開始時に被反応溶液を搬入する溶液搬入口(図示せず)が設けられている。
【0054】
上記ナノ粒子生成装置はナノ粒子生成処理制御部40によるナノ粒子の連続生成処理のためのタイマー管理機能を具備する。
図2は本実施形態におけるナノ粒子生成処理制御部40の概略構成を示す。
ナノ粒子生成処理制御部40はCPU41、ナノ粒子生成処理制御プログラムを記憶するプログラム記憶メモリのROM42及びワーキングメモリのRAM43からなるマイクロプロセッサにより構成されている。ナノ粒子生成処理制御部40には、ベース温度tの設定やタイマー設定等の各種データの設定入力に使用するキー入力装置48及び起動スイッチ(SW)49による入力信号が入力される。起動SW49の押下によりナノ粒子生成処理制御プログラムを起動させることができる。キー入力装置48による設定データは液晶表示装置47に外部出力されて表示される。温度センサー35による温度検出出力Cがナノ粒子生成処理制御部40に与えられている。金ナノ粒子の予備実験から得られたナノ粒子生成処理時間をキー入力装置48による設定入力操作により予めROM42に設定、記憶することができる。
【0055】
外部出力手段として、高周波パルス発生回路44、バースト信号生成回路46、循環ポンプ15及びヒータコントローラ20がナノ粒子生成処理制御部40に接続されている。ナノ粒子生成処理制御部40は高周波パルス発生回路44、バースト信号生成回路46、循環ポンプ15及びヒータコントローラ20に夫々、駆動制御信号を出力する。高周波パルス発生回路44はナノ粒子生成処理制御部40より発生パルス制御信号Dを受けて高周波パルスVaを出力する。バースト信号生成回路46は発生パルス制御信号Eを受けてバースト信号Vbを出力する。循環ポンプ15はポンプ駆動制御信号Aを受けて駆動・停止を行う。ヒータコントローラ20は加熱制御信号Bを受けて加熱ヒータ19の通電制御を行う。ナノ粒子生成処理制御部40には、ナノ粒子生成処理の終了状態を報知する報知ブザー装置50が接続され、該終了時には終了信号が出力されて報知ブザー装置50によるブザー鳴動が行われる。また、稼働状態に応じた処理進行情報が液晶表示装置47に表示出力される。
【0056】
ナノ粒子生成処理制御部40の制御下において、高電圧高周波パルスV2を印加する印加期間T1と、印加を停止する非印加期間T4の処理期間を1サイクルとして、高電圧高周波パルスV2の印加と停止が繰り返し実行されて液中間欠プラズマをタイマー設定時間の期間中、発生させることができる。
【0057】
図8は本実施形態のナノ粒子生成処理中における対向電極間の溶液温度の変化(8A)、高電圧高周波パルスV2の間欠印加サイクル(8B)及び高電圧高周波パルスV2印加時に流れる各電極の通電電流変化(8C)を示す。1サイクルの処理期間における印加期間T1は、ベース温度tを起点としてジュール加熱によるプラズマ発生前の昇温期間T2と、液中プラズマのプラズマ発生期間T3からなる。各サイクルにおける温度変化カーブ8a、8dは昇温期間T2におけるベース温度tからプラズマ状態8b、8eに至る昇温変化を示す。プラズマ状態8b、8eへの移行時における液温tは約100℃である。非印加期間T4は液中プラズマの発生状態から、高電圧高周波パルスの停止によりベース温度tまで降温する降温期間に相当する。温度変化カーブ8c、8fは非印加期間T4におけるプラズマ状態8b、8eからベース温度tまで降下する降温変化を示す。(8C)に示すように、プラズマ発生期間T3においては液中プラズマの発生により通電量が大幅に増大する。
【0058】
各サイクルの非印加期間T4において高電圧高周波パルスの停止により、液中プラズマ発生領域の溶液温度は瞬時に温度降下するので、実質的に同一の時間幅になり、各サイクルのパルス供給のオン時間とオフ時間を一定にしてナノ粒子の合成反応を連続的に行うことができる。
【0059】
図3はナノ粒子生成処理制御部40におけるナノ粒子生成処理手順を示す。
起動SW49のオンによりナノ粒子生成処理制御プログラムが起動すると、タイマー監視終了時間(反応処理時間)の入力設定有無が判断され(ステップS1、S2)、未設定時には、キー入力装置48を操作してタイマー監視終了時間の入力設定が行われる(ステップS10)。タイマー監視終了時間が設定済みのとき、循環ポンプ15を駆動して混合溶液9の循環供給を開始すると共に、ヒータコントローラ20による加熱ヒータ19の通電制御を開始する(ステップS3、S4)。
【0060】
加熱ヒータ19の加熱により、温度センサー35の検出温度が設定温度のベース温度tに達したとき、前記高電圧高周波パルス発生装置の駆動を開始する(ステップS5、S6)。前記高電圧高周波パルス発生装置の駆動によって、高電圧高周波パルスV2を印加する印加期間T1と、印加を停止する非印加期間T4の処理期間を1サイクルとして、高電圧高周波パルスV2の印加と停止が繰り返し実行されて、液中間欠プラズマがタイマー設定時間の期間中、発生する(ステップS6、S7)。液中間欠プラズマによるナノ粒子生成処理がタイマー監視終了時間の間実行されて、タイムアップすると前記高電圧高周波パルス発生装置の駆動を停止する(ステップS7、S8)。ついで、循環ポンプ15の駆動を停止して混合溶液9の循環供給を停止し、更にヒータコントローラ20による加熱ヒータ19の通電制御を停止し、報知ブザー装置50による終了報知を行ってナノ粒子の連続生成処理を終了する(ステップS8、S9)。生成処理終了後は開閉バルブ18を開成して排出管17を通じて反応済み溶液を外部容器に回収する。このとき、マニュアル駆動モードで循環ポンプ15を逆転駆動して、溶媒反応部1及び循環管路13に残留する反応済み溶液を溶液貯留槽8側に回収することができる。
【0061】
上記ナノ粒子処理手順により、ナノ粒子の連続生成の処理管理が行われるので、液中間欠プラズマによるナノ粒子の合成反応処理を自動化することができ、金属ナノ粒子の高速且つ大量生成工程の省人化及び低コスト化を図ることができる。
【0062】
本実施形態においては、印加期間T1において各対向電極に接する液温をジュール加熱により速やかに上昇させてその近傍の気化部位を形成し、その気化部位にて液中プラズマPを生起させる液中プラズマ発生機構を構成している。
【0063】
図7の(7A)は前記液中プラズマ発生機構による液中状態を模式的に示す。
塩化金酸76が含まれている混合溶液9の液相70に、液中プラズマ放電により対向電極2〜7の周囲が沸騰状態に達し、HやOHのラジカルを含む活性水蒸気(気泡)が発生し、気相・液相境界領域72を生ずる。気泡による気相71中に、液中プラズマP(アーク放電に移行させない手前の異常グロー放電領域までのプラズマ)のプラズマ相73が発生する。プラズマ相73の周辺にはプラズマが気相71に拡散した拡散領域74が拡がっている。拡散領域74より更に外側にプラズマ・気相境界領域75が存在する。前記活性水蒸気及び液中プラズマPに接触することにより、混合溶液9中の塩化金酸76が還元されて金ナノ粒子77が生成される。生成された金ナノ粒子は液中に溶解する。
【0064】
図7の(7B)は本実施形態において得られた金ナノ粒子のTEM写真を示す。本実施形態においては、前記液中プラズマ発生機構によって液中プラズマ放電を発生させると共に、印加パルス電圧をバースト化した高電圧高周波パルスV2の間欠供給により、プラズマ発生状態8b、8eが非印加期間T4をおいて断続的に発生する液中間欠プラズマによるナノ粒子の連続生成処理を行って、(7B)のTEM写真に示すように、10nm以下の微細な金ナノ粒子77を大量に生成することができる。
【0065】
本実施形態のナノ粒子生成装置によるナノ粒子生成性能を検証するために、溶媒反応部1及び前記3組の対向電極対を用いて連続矩形波の高電圧高周波パルスを各対向電極の電極間に印加して液中連続プラズマを発生させた場合と比較した。
【0066】
図10は、図1のナノ粒子生成装置を用いて液中連続プラズマを発生させてナノ粒子の連続生成を実施した比較例における対向電極間の溶液温度の変化(10A)、連続矩形波の高電圧高周波パルスの印加パルス電圧波形(10B)及び連続矩形波の高電圧高周波パルスの印加時に流れる各電極の通電電流変化(10C)を示す。
【0067】
(10B)に示すように、高周波パルス発生回路44の発生パルスをバースト化せずに連続矩形波のまま各電極間に流すと、(10A)に示すように各電極間付近の溶液は温度変化カーブ10aに沿ってベース温度tを起点としてジュール加熱により昇温された後、プラズマ状態10bに移行する。連続矩形波の高電圧高周波パルスが印加されるため、プラズマ状態10bがその印加の間継続し、(10C)に示すように各電極に流れる電流も増加した状態が継続される。従って、連続矩形波を各電極間に流した場合には、液中プラズマが間断なく連続して発生する液中連続プラズマの発生状態となって、金ナノ粒子が生成された後にも液中プラズマによる還元作用が継続するため、金ナノ粒子どうしの凝集が進行して、粒径の拡大化を生じた。一方、本実施形態では、液中プラズマPの発生後の非印加期間T4に消滅させる液中間欠プラズマにより、合成反応時間のばらつきを解消して1回の液中プラズマP発生による還元量を定量化でき、金ナノ粒子どうしの凝集化を回避することができる。しかも、液中プラズマPの発生・消滅の間に新しい混合溶液9が供給されるので、再び液中プラズマPによる還元を行って金ナノ粒子を新たに生成して、高品質の金ナノ粒子の連続生成が可能になる。更に、バースト信号Vbのオン・オフのデューティ比及び/又はバースト周波数の電気的パラメータをバースト信号生成回路46により調整することによってT1/T4の比率を可変できるので、液中プラズマPによるナノ粒子の合成反応時間を微細に調整して、各種ナノ粒子の平均粒径分布が1nm〜数十nmとなる粒径制御を高精度且つ簡易に行え、高品質のナノ粒子の量産化を実現することができる。なお、本実施形態に係るナノ粒子生成装置は金ナノ粒子の生成に限らず、例えば、硝酸銀溶液を用いて銀ナノ粒子を生成したり、塩化ロジウム溶液を用いてロジウムナノ粒子を生成したりすることができる。
【0068】
図5、図6は本実施形態に係るナノ粒子生成装置により生成された金ナノ粒子のTEM(透過型電子顕微鏡Trasmission Electron Microscope)写真を示す。図5の(5A)及び(5B)は夫々、金ナノ粒子の100万倍と250万倍のTEM写真である。図6は金ナノ粒子を含む溶液全体の5万倍のTEM写真である。これらのTEM写真による金ナノ粒子は、混合水溶液300mlに対して溶液ベース温度を56〜59℃にして、周波数を100kHz、ピーク間電圧値2kV、パルス幅を1μsとした高電圧高周波パルス(基本電圧パルス)に対して周波数を500Hz、パルス幅を250μsとしたバースト信号によりバースト化された高電圧高周波パルスを印加して、液中間欠プラズマにより得られた生成ナノ粒子である。金ナノ粒子の反応処理時間(溶液循環時間)は120分である。
【0069】
図6及び図5の(5A)に示すように、液中間欠プラズマによるバースト処理により得られた溶液中には10〜200nmの金ナノ粒子の凝集体92、93、94、51、54等が一部生じてはいるものの、図5の(5B)に示すように、2nmの金ナノ粒子の単離体52や、5nmの金ナノ粒子の単離体53等、10nm以下の微細金ナノ粒子が多く造粒されていることが分かる。従って、本実施形態に係るナノ粒子生成装置を用いれば、液中間欠プラズマによるバースト処理により、金ナノ粒子どうしの凝集化を抑制して、溶液内に金ナノ粒子の分散化を行え、ナノ粒子の粒径制御を円滑に行うことができる。なお、図6には酸化銅の不純物90、91が散見されたが、これはTEM撮像時に混入したものと考えられる。
【0070】
金が金色に見えるのは赤、黄、緑の光をよく反射するためである。ところで、金には、粒径が光の波長より小さくなると金色でなくなる性質が知られている。例えば、粒径が50〜100nmのときには紫色(紫の波長:380〜450nm)に見える。粒径が20nm以下のときには濃い赤色に見える。この場合、金原子の回りを周回する電子振動が緑の色を吸収し、その結果補色の赤が強調されて濃い赤色に見える(緑の波長:495〜570nm;赤の波長:620〜750nm)。更に、粒径が10nm以下のときには黄色に見える。10nm以下になると、青色を吸収し、その結果補色の黄が強調されて黄色に見える(青の波長:450〜495nm;黄の波長:570〜590nm)。
【0071】
上記の粒径に応じた散乱色の色目の違いに基づいて、本実施形態に係るナノ粒子生成装置によって生成した金ナノ粒子を観察した。
図7の(7C)は、夫々ビーカーに収容した、混合水溶液9の透明原液80、前記液中連続プラズマにより生成した金ナノ粒子を含有した反応済み溶液81、液中プラズマを変調して発生させた液中変調プラズマにより生成した金ナノ粒子を含有した反応済み溶液82、本実施形態の液中間欠プラズマにより生成した金ナノ粒子を含有した反応済み溶液83を示す。図8の破線に示すように、液中変調プラズマの実験例は、液中間欠プラズマとは異なり、非印加期間T4においても前記基本電圧パルスよりピーク間電圧値が半分の電圧パルス21を印加して液中連続プラズマ発生させた場合である。なお、液中変調プラズマにおける各電極の通電電流変化は省略している。
【0072】
前記液中連続プラズマ実験による反応済み溶液81は濃い赤紫色を呈し、50〜100nmのナノ粒子の凝集体が多く生成されていることが観察された。前記液中変調プラズマ実験による反応済み溶液82は濃い目の赤色を呈し、50nm以上のナノ粒子が多く生成されていることが観察された。本実施形態の液中間欠プラズマによる反応済み溶液83は黄色を呈し、10nm以下の金ナノ粒子が多く生成されていることが観察され、前掲図5のTEM写真の結果と一致した。以上の生成ナノ粒子含有溶液の目視観察からも、本実施形態に係る液中間欠プラズマ法によれば、高品質の微細金ナノ粒子を大量に造粒できることが分かった。
【0073】
10nm以下の、例えば3〜5nmの微細金ナノ粒子は化学反応の進行を助ける触媒等に利用することが可能になる。特に、2nm以下の超微細金ナノ粒子の場合には紫外線照射により発光する光学的性質が知られており、図5の(5B)に示したように、本発明のナノ粒子生成方法により2nmの微細金ナノ粒子を量産可能となるので、係る光学的性質を利用した応用技術の実用化に寄与することができる。
【0074】
2nm以下の超微細金ナノ粒子の一応用例として、例えば、特許4258650号公報に開示されている生体分子の検出方法への応用がある。即ち、係る超微細金ナノ粒子に糖類修飾を施した糖類修飾金ナノ粒子を作製し、微粒子表面に固定した糖類部分と検出したい分子やウイルス等との間のアフィニティ(親和性)を利用して、微粒子の凝集反応や色調変化により目的分子を検出することができる。
【0075】
本発明者は、本実施形態により得られた微細金ナノ粒子による上記生体分子の検出方法への適用可能性を探るための検査薬の応用実験を試みた。
図9は本実施形態により得られた微細金ナノ粒子の検査薬への応用実験を示す。図9の(9A)は、夫々容器に収容した、Na、K、Ca2+、Mg2+、Cl等の電解質成分を含む市販のスポーツドリンク溶液の原液9a、本実施形態により得られた微細金ナノ粒子の反応済み溶液9b、原液9aと反応済み溶液9bの混合したときの混合後12時間経過した混合溶液9cを示す。
【0076】
図9の(9B)及び(9C)は反応済み溶液9b中に含まれるナノ粒子の粒径を検証するための発光実験を示す。即ち、(9B)は反応済み溶液9bの収容容器に白色LEDランプの白色LED光を照射する前の状態を示し、(9C)は白色LED光を照射したときの状態を示す。(9C)から明らかなように、白色LED光を照射することにより、黄色の色目を示しており、反応済み溶液9bには10nm以下の金ナノ粒子が多く含まれていることが分かる。(9A)の混合溶液9cから明らかなように、NaやK等の電解質成分と微細金ナノ粒子が反応して色調変化が発生しており、生体液の一部成分の検出が可能であることが判明した。上記発光実験から、本実施形態により得られた微細金ナノ粒子の生体液との色調反応性を利用して血液や尿の検査薬に利用することができる。
【0077】
本発明は、上記実施形態や変形例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲における種々変形例、設計変更などをその技術的範囲内に包含するものであることは云うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明によれば、10nm以下の高品質のナノ粒子を量産することができるので、ナノメートルオーダーの超微粒子の有する、原子や分子、あるいはバルク体とも異なる特異な物性を利用して、例えば電子材料、磁性材料、触媒又は生体分子検査薬等の新素材としてのナノ粒子材料の利用分野の拡大及び実用化の促進を図ることができる。
【符号の説明】
【0079】
1 溶媒反応部
2 対向電極
3 対向電極
4 対向電極
5 対向電極
6 対向電極
7 対向電極
8 溶液貯留槽
8a 温度変化カーブ
8b プラズマ状態
8c 温度変化カーブ
8d 温度変化カーブ
8e プラズマ状態
8f 温度変化カーブ
9 混合溶液
9a 原液
9b 反応済み溶液
9c 混合溶液
10 溶液供給管
10a 温度変化カーブ
10b プラズマ状態
11 流入口
12 流出口
13 循環管路
14 溶液帰還口
15 循環ポンプ
16 排出口
17 排出管
18 開閉バルブ
19 加熱ヒータ
20 ヒータコントローラ
21 電圧パルス
22 外延導体線
23 外延導体線
24 外延導体線
25 外延導体線
26 外延導体線
27 外延導体線
28 結線
29 結線
30 2次側端子
31 2次側端子
32 パルストランス
33 印加パルスバースト処理回路
34 絶縁カバー材
35 温度センサー
40 ナノ粒子生成処理制御部
41 CPU
42 ROM
43 RAM
44 高周波パルス発生回路
45 発振器
46 バースト信号生成回路
47 液晶表示装置
48 キー入力装置
49 起動スイッチ
50 報知ブザー装置
51 凝集体
52 単離体
53 単離体
54 凝集体
70 液相
71 気相
72 気相・液相境界領域
73 プラズマ相
74 拡散領域
75 プラズマ・気相境界領域
76 塩化金酸
77 金ナノ粒子
80 透明原液
81 反応済み溶液
82 反応済み溶液
83 反応済み溶液
90 不純物
91 不純物
92 凝集体
93 凝集体
94 凝集体
P 液中プラズマ
V 高電圧高周波パルス
Va 高電圧高周波パルス
Vb バースト信号
T1 印加期間
T2 昇温期間
T3 プラズマ発生期間
T4 非印加期間
ベース温度
液温

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属含有物質を含む溶媒を収容した溶媒反応部の液中に少なくとも一対の対向電極を配置し、高電圧高周波パルスを前記対向電極の電極間に印加して前記対向電極付近の溶媒を気化し、前記気化により発生させた気泡に液中プラズマを発生させた後に前記印加を停止して前記液中プラズマを消滅させ前記液中プラズマの発生領域の液温度を降下させる、前記印加及び前記停止の処理期間を1サイクルとして、前記高電圧高周波パルスの前記印加と前記停止を繰り返し行って間欠的に発生させた液中間欠プラズマにより前記金属含有物質の含有金属のナノ粒子を生成することを特徴とするナノ粒子生成方法。
【請求項2】
前記高電圧高周波パルスの前記印加と前記停止を0.001〜1秒の周期で繰り返す請求項1に記載のナノ粒子生成方法。
【請求項3】
前記液中プラズマの発生領域の液温度が前記溶媒による雰囲気温度又はその近傍の温度に降下するまで、前記高電圧高周波パルスの印加停止を行う請求項1又は2に記載のナノ粒子生成方法。
【請求項4】
前記溶媒を加熱して前記溶媒による雰囲気温度を室温より高くした請求項3に記載のナノ粒子生成方法。
【請求項5】
前記高電圧高周波パルスは、1kV〜20kVの範囲のいずれかのピーク間電圧値を有する請求項1〜4のいずれかに記載のナノ粒子生成方法。
【請求項6】
前記高電圧高周波パルスは、1kHz〜300kHzの範囲のいずれかの周波数を有する請求項1〜5のいずれかに記載のナノ粒子生成方法。
【請求項7】
前記高電圧高周波パルスは、0.1μS〜100μSの範囲のいずれかのパルス幅を有する請求項1〜6のいずれかに記載のナノ粒子生成方法。
【請求項8】
前記金属は、金、銀、銅、ニッケル、プラチナ、コバルト、チタン、インジウム、ロジウム、イリジウム又はこれらの2種以上の合金からなる請求項1〜7のいずれかに記載のナノ粒子生成方法。
【請求項9】
前記金属含有物質は、金属有機化合物又は金属無機化合物からなる請求項1〜8のいずれかに記載のナノ粒子生成方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかのナノ粒子生成方法により生成したことを特徴とするナノ粒子。
【請求項11】
金属含有物質を含む溶媒を収容した溶媒反応部と、前記溶媒反応部の液中に配置した少なくとも一対の対向電極と、前記対向電極の電極間に高電圧高周波パルスを印加する高電圧高周波パルス発生手段と、前記高電圧高周波パルスを前記対向電極の電極間に印加して前記対向電極付近の溶媒を気化し、前記気化により発生させた気泡に液中プラズマを発生させた後に前記印加を停止して前記液中プラズマを消滅させ前記液中プラズマの発生領域の液温度を降下させる、前記印加及び前記停止の処理期間を1サイクルとして、前記高電圧高周波パルスの前記印加と前記停止を繰り返し行う高電圧高周波パルス供給制御手段とを有し、前記高電圧高周波パルスの前記印加と前記停止を繰り返し行って間欠的に発生させた液中間欠プラズマにより前記金属含有物質の含有金属のナノ粒子を生成することを特徴とするナノ粒子生成装置。
【請求項12】
前記高電圧高周波パルス制御手段は、1〜1000Hzのバースト周波数に基づき前記高電圧高周波パルスの前記印加と前記停止を繰り返し行う請求項11に記載のナノ粒子生成装置。
【請求項13】
前記高電圧高周波パルス制御手段は、前記液中プラズマの発生領域の液温度が前記溶媒による雰囲気温度又はその近傍の温度に降下するまで、前記高電圧高周波パルスの印加停止を行うパルス停止制御手段を含む請求項11又は12に記載のナノ粒子生成装置。
【請求項14】
前記溶媒反応部に前記溶媒を供給する溶媒供給手段を有し、前記溶媒供給手段は前記溶媒による雰囲気温度を室温より高い温度に昇温する加熱手段を含む請求項11、12又は13に記載の粉体ナノ粒子生成装置。
【請求項15】
前記高電圧高周波パルス発生装置は、基本高周波信号を複数に分周すると共に位相を複数段にずらしたスイッチング信号に基づき直流電力をスイッチングして得られたパルス電圧を合成した高電圧高周波パルスを発生させる高電圧高周波パルス発生回路からなる請求項11〜14のいずれかに記載のナノ粒子生成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図8】
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【図10】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−167335(P2012−167335A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−30065(P2011−30065)
【出願日】平成23年2月15日(2011.2.15)
【出願人】(598033929)株式会社栗田製作所 (12)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【Fターム(参考)】