説明

ナノ粒子の抽出方法

【課題】混合抽出工程と分離工程の双方を同時にかつ連続的に行うことにより、比較的多くのナノ粒子を比較的短時間に抽出する。
【解決手段】水系溶媒又は非水系溶媒からなる一方の溶媒にナノ粒子が分散したナノ粒子分散液に非水系溶媒又は水系溶媒からなる他方の溶媒と他方の溶媒と親和性を有する分散剤の双方を添加混合してナノ粒子を一方の溶媒から他方の溶媒に抽出する混合抽出工程と、一方の溶媒とナノ粒子が抽出された他方の溶媒とを分離する分離工程とを有するナノ粒子の抽出方法である。混合抽出工程を行い得る溶媒混合部11と分離工程を行い得る分離部12とを有する装置10を用い、溶媒混合部11において混合された一方の溶媒と他方の溶媒を含む混合溶液を分離部12に順次流入させることにより混合抽出工程と分離工程とを連続的に行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属及びセラミックスなどのナノ粒子分散液に対し、ナノ粒子を水系溶媒から非水系溶媒へ、または非水系溶媒から水系溶媒へ抽出し、なおかつ抽出先の溶媒中におけるナノ粒子濃度を増大させるナノ粒子の抽出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、溶液中で各種のナノ粒子の合成方法が検討されているが、用途に応じて、分散媒である溶媒を水系から非水系、もしくは非水系から水系へと変換することが望まれる場合がある。この場合、水系溶媒又は非水系溶媒からなる一方の溶媒にナノ粒子が分散したナノ粒子分散液に、非水系溶媒又は水系溶媒からなる他方の溶媒とその他方の溶媒と親和性を有する分散剤の双方を添加混合し、これによりナノ粒子表面に存在する分散剤を抽出先の溶媒に好適なものへと置換して、そのナノ粒子を一方の溶媒から他方の溶媒に抽出する方法が検討されてきた(例えば、特許文献1〜3参照。)。そして、このようなナノ粒子の抽出方法では、ナノ粒子を一方の溶媒から他方の溶媒に抽出する混合抽出工程を行った後、分離工程においてその一方の溶媒とナノ粒子が抽出された他方の溶媒とを分離するようにしている。
【特許文献1】特開平5−271718号公報(明細書[0011]、[0012])
【特許文献2】特開2005−270957号公報(明細書[0007])
【特許文献3】特開2006−176876号公報(明細書[0007])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上記従来の方法は、いずれもバッチ式の操作に応じたものであり、ナノ粒子を一方の溶媒から他方の溶媒に抽出する混合抽出工程と、その一方の溶媒とナノ粒子が抽出された他方の溶媒とを分離する分離工程の双方を同時にかつ連続的に行うことはできずに、比較的多くのナノ粒子を比較的短時間に一方の溶媒から他方の溶媒に抽出させることは困難であり、量産性に欠ける不具合があった。
【0004】
本発明の目的は、混合抽出工程と分離工程の双方を同時にかつ連続的に行うことにより、比較的多くのナノ粒子を比較的短時間に抽出し得るナノ粒子の抽出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に係る発明は、図1に示すように、水系溶媒又は非水系溶媒からなる一方の溶媒にナノ粒子が分散したナノ粒子分散液に非水系溶媒又は水系溶媒からなる他方の溶媒と他方の溶媒と親和性を有する分散剤の双方を添加混合してナノ粒子を一方の溶媒から他方の溶媒に抽出する混合抽出工程と、一方の溶媒とナノ粒子が抽出された他方の溶媒とを分離する分離工程とを有するナノ粒子の抽出方法の改良である。
【0006】
その特徴ある点は、混合抽出工程を行い得る溶媒混合部11と分離工程を行い得る分離部12とを有する装置10を用い、溶媒混合部11において混合された一方の溶媒と他方の溶媒を含む混合溶液を分離部12に順次流入させることにより混合抽出工程と分離工程とを連続的に行うところにある。
【0007】
この請求項1に記載されたナノ粒子の抽出方法では、ナノ粒子を一方の溶媒から他方の溶媒に抽出する混合抽出工程と、その一方の溶媒とナノ粒子が抽出された他方の溶媒とを分離する分離工程の双方を同時にかつ連続的に行うことができる。このため、比較的多くのナノ粒子を比較的短時間に一方の溶媒から他方の溶媒に抽出させることができ、量産性に富むナノ粒子の抽出方法を提供することができる。
【0008】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明であって、混合抽出工程における他方の溶媒は一方の溶媒より少ないことを特徴とする。
この請求項2に記載されたナノ粒子の抽出方法では、比較的低濃度でしか合成できない分散系について、高濃度に濃縮できる効果が得られる。
【0009】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に係る発明であって、装置10は単一の溶媒混合部11と溶媒混合部11で混合された溶液が流入する単一の分離部12が第1方向に隣接する3つ以上の混合分離槽21を有し、3つ以上の混合分離槽21が第1方向と直交する第2方向に隣接して1つの混合分離槽21における分離部12が隣接する他の混合分離槽21の溶媒混合部11と隣接するように配置され、第2方向に配置された3つ以上の混合分離槽21の内の第2方向の先端と基端を除く中間の混合分離槽21は中間の混合分離槽21における分離部12で分離した一方の溶液を第2方向の基端側に隣接する混合分離槽21の溶媒混合部11に排出し分離した他方の溶液を第2方向の先端側に隣接する混合分離槽21の溶媒混合部11に排出するように配置され、第2方向の先端の混合分離槽21における溶媒混合部11に一方の溶媒を供給して第2方向の先端の混合分離槽21における分離部12に流入させた後第2方向の基端側の混合分離槽21の溶媒混合部11に一方の溶媒を順次流入させ、第2方向の基端の混合分離槽21における溶媒混合部11に他方の溶媒と分散剤を供給して第2方向の基端の混合分離槽21における分離部12に流入させた後第2方向の先端側の混合分離槽21の溶媒混合部11に他方の溶媒を順次流入させることを特徴とする。
【0010】
この請求項3に記載されたナノ粒子の抽出方法では、各混合分離槽21において、ナノ粒子の抽出及び分離が繰り返され、その抽出の効率を向上させることが可能となる。
【0011】
請求項4に係る発明は、請求項3に係る発明であって、1の混合分離槽21における溶媒混合部11においてナノ粒子を一方の溶媒から他方の溶媒に抽出し、他の混合分離槽21においてナノ粒子を抽出した他の溶媒を洗浄することを特徴とする。
【0012】
この請求項4に記載されたナノ粒子の抽出方法では、ナノ粒子を抽出した混合分離槽と異なる他の混合分離槽21において他の溶媒を洗浄するので、その他の溶媒に含まれる不純物を分離して除去することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明のナノ粒子の抽出方法では、混合抽出工程を行い得る溶媒混合部と分離工程を行い得る分離部とを有する装置を用い、溶媒混合部において混合された一方の溶媒と他方の溶媒を含む混合溶液を分離部に順次流入させることにより混合抽出工程と分離工程とを連続的に行うので、比較的多くのナノ粒子を比較的短時間に一方の溶媒から他方の溶媒に抽出させることができる。
【0014】
装置は単一の溶媒混合部と溶媒混合部で混合された溶液が流入する単一の分離部が第1方向に隣接する3つ以上の混合分離槽を有し、3つ以上の混合分離槽が第1方向と直交する第2方向に隣接して1つの混合分離槽における分離部が隣接する他の混合分離槽の溶媒混合部と隣接するように配置されたものであれば、各混合分離槽において、ナノ粒子の抽出及び分離が繰り返され、その抽出の効率を向上させることができる。この場合には、ナノ粒子を抽出した混合分離槽と異なる他の混合分離槽において他の溶媒を洗浄して、その他の溶媒に含まれる不純物を分離して除去することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
本発明は、混合抽出工程と分離工程とを有するナノ粒子の抽出方法である。この混合抽出工程は、一方の溶媒にナノ粒子が分散したナノ粒子分散液に他方の溶媒とその他方の溶媒と親和性を有する分散剤の双方を添加混合し、これによりナノ粒子を一方の溶媒から他方の溶媒に抽出する工程である。ここで、一方の溶媒は、水系溶媒又は非水系溶媒からなり、他方の溶媒は非水系溶媒又は水系溶媒からなる。そして、分離工程は、一方の溶媒とナノ粒子が抽出された後の他方の溶媒とを分離する工程であり、この分離は比重の差を利用して両者を分離するものである。
【0016】
本発明の特徴ある点は、混合抽出工程を行い得る溶媒混合部と、分離工程を行い得る分離部とを有する装置を用いてナノ粒子の抽出を行うところにある。そして、その装置の溶媒混合部において混合された一方の溶媒と他方の溶媒を含む混合溶液を分離部に順次流入させることにより混合抽出工程と分離工程とを同時にかつ連続的に行うことを特徴とする。溶媒混合部と分離部とを有する装置としては、(1)ミキサセトラ、(2)パルスカラム、(3)遠心抽出機が挙げられる。但し、(2)及び(3)は、原子力産業において溶媒の放射線損傷を抑える観点から発展した機器であり、そのような問題の生じない使用環境下において使用するものであり、抽出時に加えられる遠心力によりナノ粒子の凝集を回避する観点からも、上記(1)におけるミキサセトラが、安価であることからも最も好ましい装置といえる。
【0017】
図1及び図2に示すように、装置であるミキサセトラ10は、二種類の溶媒を混合する溶媒混合部11と、混合後の溶媒を分離する分離部12を有する槽で構成され、必要に応じてこれを多段とすることも可能とするものである。溶媒混合部11の一方の側壁上部には比重の軽い軽液を流入させるための堰13が形成され、その一方の側壁に対向する他方の側壁の下部には比重の重い重液を流入させるための堰14が形成される(図2)。また、この溶媒混合部11には、攪拌羽根15aが周囲に設けられた回転軸15bから成る攪拌機15が設けられる。溶媒混合部11と分離部12を仕切る仕切壁16には、溶媒混合部11と分離部12を連通させる連通孔16aが形成され、溶媒混合部11において混合された混合溶液がこの連通孔16aを介して分離部12に順次流入するように構成される。そして、分離部12の一方の側壁下部には比重の重い重液を排出させるための堰17が形成され、その一方の側壁に対向する他方の側壁の上部には比重の軽い軽液を排出させるための堰18が形成される(図2)。
【0018】
そして、この装置であるミキサセトラ10における基本的な抽出操作は次のとおりである。即ち、溶媒混合部11の一方の側壁上部における堰13から比重の軽い軽液として一方の溶媒を流入させ、他方の側壁の下部における堰14から比重の重い重液とした他方の溶媒を流入させる。そして、攪拌機15を駆動して溶媒混合部11内で、一方の溶媒にナノ粒子が分散したナノ粒子分散液に他方の溶媒とその他方の溶媒と親和性を有する分散剤の双方を添加して混合させる。するとナノ粒子の表面における分散剤が置換され、そのナノ粒子の一方の溶媒から他方の溶媒への移動が生じる。そして、その溶媒混合部11において混合された一方の溶媒と他方の溶媒を含む混合溶液をその溶媒混合部11から分離部12に順次流入させる。すると、その分離部12では、比重差により上下に分離し、軽液である一方の溶媒は上部の堰18から排出され、重液である他方の溶媒は下部に設けられた堰17から排出される。
【0019】
このように混合抽出工程を行い得る溶媒混合部11と分離工程を行い得る分離部12とを有する装置10を用いた本発明のナノ粒子の抽出方法では、ナノ粒子を一方の溶媒から他方の溶媒に抽出する混合抽出工程と、その一方の溶媒とナノ粒子が抽出された他方の溶媒とを分離する分離工程の双方を同時にかつ連続的に行うことができる。このため、本発明では比較的多くのナノ粒子を比較的短時間に一方の溶媒から他方の溶媒に抽出させることができ、量産性に富むナノ粒子の抽出方法といえる。
【0020】
また、本発明のナノ粒子の抽出方法では、溶媒混合部11の供給する一方の溶媒と他方の溶媒の供給量を調整することにより混合する溶媒比を自由に変更できることから、抽出後の溶媒中に含まれるナノ粒子濃度を向上もしくは低下させることが可能となる。このため、混合抽出工程における他方の溶媒を一方の溶媒より少なくするようにすれば、比較的低濃度でしか合成できない分散系についても、高濃度で濃縮できる効果が得られる。
【0021】
更に、本発明のナノ粒子の抽出方法では、ある溶媒中でナノ粒子を合成し、他方の溶媒中に分散剤を添加して合成されたナノ粒子を他方の溶媒中に素早く抽出する合成法においても適用可能である。その場合、溶媒混合部11は、ナノ粒子の合成操作と抽出操作を兼ねることとなる。このため、溶媒混合部11において行われる混合抽出工程においてナノ粒子の合成を行い、合成後のナノ粒子を他方の溶媒中へ抽出して一方の溶媒から分離するようにすれば、前駆体から製品を分離する精製効果が得られる。
【0022】
図3に、単一の溶媒混合部11と、その溶媒混合部11で混合された溶液が流入する単一の分離部12が第1方向に隣接する3つ以上の混合分離槽21を有する装置10を示す。図3は装置10を上方から見た図であって、4つの混合分離槽21が第1方向と直交する第2方向に隣接して配置されたものを示す。そして、1つの混合分離槽21における分離部12は第2方向に隣接する他の混合分離槽21の溶媒混合部11と隣接するように配置される。また、第2方向に配置された3つ以上の混合分離槽21の内の第2方向の先端と基端を除く中間の混合分離槽21は、その中間の混合分離槽21における分離部12で分離した一方の溶液を第2方向の基端側に隣接する混合分離槽21の溶媒混合部11に排出し、分離した他方の溶液を第2方向の先端側に隣接する混合分離槽21の溶媒混合部11に排出するように配置される。
【0023】
このように、3つ以上の混合分離槽21を有する装置10を用いた場合には、一方の溶媒と分散剤を第2方向の先端の混合分離槽21における溶媒混合部11に供給し、実線矢印で示すように、第2方向の先端の混合分離槽21における分離部12に流入させた後、第2方向の基端側の混合分離槽21の溶媒混合部11に一方の溶媒を順次流入させる。一方、他方の溶媒は、第2方向の基端の混合分離槽21における溶媒混合部11に供給し、破線矢印で示すように、第2方向の基端の混合分離槽21における分離部12に流入させた後、第2方向の先端側の混合分離槽21の溶媒混合部11に他方の溶媒を順次流入させる。
【0024】
このように、3つ以上の混合分離槽21を有する装置10を用いた本発明のナノ粒子の抽出方法では、一方の溶媒は第2方向の基端の混合分離槽21における分離部12から外部に排出され、他方の溶媒は、第2方向の先端の混合分離槽21における分離部12から外部に排出されることになる。そして、各混合分離槽21において、ナノ粒子の抽出及び分離が繰り返され、その抽出の効率を向上させることが可能となる。また、このような3つ以上の混合分離槽21を有する効果としては、一方の相へ微粒子を抽出した後、この分散液と不純物を含まない他の溶媒に対し、その混合、抽出及び分離の操作を繰り返すことで、ナノ粒子を抽出した相中に含まれる不純物を除去する操作も可能となる。
【0025】
なお、本発明で用いられる非水系溶媒としては、高級アルコール、ベンゼン、トルエン及びドデカン等が挙げられる。また、本発明で用いられる水系溶媒と親和性を有する分散剤としては、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)、ポリビニルピロリドン等が挙げられ、非水系溶媒と親和性を有する分散剤としては、長鎖脂肪酸等が挙げられる。
【0026】
また、ナノ粒子分散液における一方の溶媒とナノ粒子の比率は、一方の溶媒が90〜99.9質量%であって、ナノ粒子が0.1〜10量%であることが好ましい。
更に、ナノ粒子分散液と他方の溶媒とその他方の溶媒と親和性を有する分散剤の混合割合は、ナノ粒子分散液が0.1〜10質量%であって、他方の溶媒が80〜99.8質量%であって、その他方の溶媒と親和性を有する分散剤が0.1〜10質量%であることが好ましい。
【実施例】
【0027】
(1) 金属ナノ粒子水分散液の非水系溶媒への抽出
<実施例1>
水系溶媒である水から成る一方の溶媒に金ナノロッドと水系分散剤を含ませたナノ粒子分散液を準備した。なお、このナノ粒子分散液における金ナノロッドは長軸長さ40nm、短軸長さ10nm、アスペクト比4.0であり、金ナノロッド含有量は0.03質量%、水系分散剤は、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド(以下、「CTAB」と記す。)であって、その含有量は5質量%である。
また、非水系溶媒であるn−ヘキシルアルコールを他方の溶媒として準備し、これとは別にこの他の溶媒と親和性を有する分散剤として、ビッグケミー社製の商標名「Dispebyk−2000」からなる分散剤を準備した。そしてこの分散剤を他方の溶媒に混合して分散剤が5質量%混合された他の溶媒を得た。
また、溶媒混合部と分離部とを有する装置として、図3に示す4つの混合分離槽21を有する東京理化器械株式会社製の向流多段式抽出装置(ミキサセトラ)を準備した。
【0028】
そして、この抽出装置の容積の全てに、予め体積比1:1の割合で一方の溶媒と他方の溶媒を張り込んだ。この当初張り込んだ一方の溶媒と他方の溶媒の質量は2.4kgであった。その後、第2方向の先端の混合分離槽21における溶媒混合部11にナノ粒子分散液を1分間に50gの割合で供給すると共に、第2方向の基端の混合分離槽21における溶媒混合部11に分散剤が5質量%混合された他の溶媒を1分間に50gの割合で供給した。これとともに、撹拌機15を駆動して溶媒混合部11における混合を開始し、ナノ粒子を一方の溶媒から他方の溶媒に抽出させた。そして、この装置全体の容積のおよそ5倍に相当する量、即ちナノ粒子分散液と分散剤が5質量%混合された他の溶媒の和が12kgとなる量を供給した。
【0029】
<実施例2>
第2方向の基端の混合分離槽における溶媒混合部に分散剤が5質量%混合された他の溶媒を1分間に10gの割合で供給したことを除いて、実施例1と同一の条件及び手順で、ナノ粒子を一方の溶媒から他方の溶媒に抽出させた。そして、この装置全体の容積のおよそ5倍に相当する量、即ちナノ粒子分散液と分散剤が5質量%混合された他の溶媒の和が12kgとなる量を供給した。
【0030】
<実施例3>
水系溶媒である水から成る一方の溶媒に金属微粒子と水系分散剤を含ませたナノ粒子分散液を準備した。なお、このナノ粒子分散液における金属微粒子は、直径が30nmの球状銀微粒子であり、その含有量は0.03質量%である。また、水系分散剤はCTABであって、その含有量は5質量%である。
また、非水系溶媒であるチルイソブチルケトンを他方の溶媒として準備し、これとは別にこの他の溶媒と親和性を有する分散剤として、ドデカンチオールを準備した。そしてこの分散剤を他方の溶媒に混合してドデカンチオールからなる分散剤が1質量%混合されたメチルイソブチルケトンからなる他の溶媒を得た。
【0031】
そして、実施例1で用いた向流多段式抽出装置(ミキサセトラ)の容積の全てに、予め体積比1:1の割合で一方の溶媒と他方の溶媒を張り込んだ。この当初張り込んだ一方の溶媒と他方の溶媒の質量は2.4kgであった。
その後、第2方向の先端の混合分離槽における溶媒混合部にナノ粒子分散液を1分間に50gの割合で供給すると共に、第2方向の基端の混合分離槽における溶媒混合部に分散剤が5質量%混合された他の溶媒を1分間に20gの割合で供給した。これとともに、撹拌機を起動して溶媒混合部における混合を開始し、ナノ粒子を一方の溶媒から他方の溶媒に抽出させた。そして、この装置全体の容積のおよそ5倍に相当する量、即ちナノ粒子分散液と分散剤が5質量%混合された他の溶媒の和が12kgとなる量を供給した。
【0032】
<比較試験1>
実施例1〜3において、ナノ粒子分散液と分散剤が5質量%混合された他の溶媒の和が12kgとなる量の供給が終了した後、第2方向の先端の混合分離槽における分離部から排出された他方の溶媒と、第2方向の基端の混合分離槽における混合部から排出された一方の溶媒における金属濃度をそれぞれ評価した。この評価は誘導結合プラズマ発光分析装置を用いて評価した。この結果を抽出後の濃度として表1に記載した。
更に、流量を考慮して、それぞれの混合分離槽に移行する金属微粒子の質量比を抽出割合として、同じく表1に記載した。なお、この混合分離槽中の金属濃度の測定にあっても、誘導結合プラズマ発光分析装置を用いて評価した。
【0033】
【表1】

<比較例1>
実施例1と同一のナノ粒子分散液と、分散剤が5質量%混合された実施例1と同一の他の溶媒を準備した。このナノ粒子分散液50gと、分散剤が5質量%混合された他の溶媒50gを分液ロート中に投入し、その中で10分間攪拌してナノ粒子を一方の溶媒から他方の溶媒に抽出させた。その後30分間静置させ、分液ロート中で一方の溶媒と他方の溶媒を比重の差で分離させた。
【0034】
<比較例2>
実施例1と同一のナノ粒子分散液と、分散剤が5質量%混合された実施例1と同一の他の溶媒を準備した。このナノ粒子分散液50gと、分散剤が5質量%混合された他の溶媒10gを分液ロート中に投入し、その中で10分間攪拌してナノ粒子を一方の溶媒から他方の溶媒に抽出させた。その後30分間静置させ、分液ロート中で一方の溶媒と他方の溶媒を比重の差で分離させた。
【0035】
<比較例3>
実施例3と同一のナノ粒子分散液と、分散剤が1質量%混合された実施例3と同一の他の溶媒を準備した。このナノ粒子分散液50gと、分散剤が1質量%混合された他の溶媒20gを分液ロート中に投入し、その中で10分間攪拌してナノ粒子を一方の溶媒から他方の溶媒に抽出させた。その後30分間静置させ、分液ロート中で一方の溶媒と他方の溶媒を比重の差で分離させた。
【0036】
<比較試験2>
比較例1〜3において、分液ロート中で分離した一方の溶媒と他方の溶媒における金属濃度をそれぞれ評価した。この評価は誘導結合プラズマ発光分析装置を用いて評価した。この結果を抽出後の濃度として表2に記載した。
更に、流量を考慮して、それぞれの混合分離槽に移行する金属微粒子の質量比を抽出割合として、同じく表2に記載した。なお、この混合分離槽中の金属濃度の測定にあっても、誘導結合プラズマ発光分析装置を用いて評価した。
【0037】
【表2】

<評価1>
比較例1〜3におけるそれぞれの相中に含まれる金属濃度は、いずれも、実施例1〜3に比べて、抽出割合が低下している。これは抽出段数が少ないことによるものと考えられる。
なお、実施例2より、水相と有機相の比率を変えることで、抽出される金属ナノ粒子の濃度をかえられることを確認した。
【0038】
(2)金属ナノ粒子非水系分散液の水系溶媒への抽出
<実施例4>
非水系溶媒から成る一方の溶媒に金属であるパラジウムの微粒子が分散したナノ粒子分散液を準備した。このナノ粒子分散液の合成方法は、「 Journal of the chemical society, chemical communications, 1992, 16, 1095」の文献中に記載された方法に従った。即ち、まず、上記文献に記載された“酢酸パラジウムの熱分解法”を用いて、Pdコロイドのメチルイソブチルケトン(以降、「MIBK」と記す。)分散液(0.5mmol-Pd/L)をナノ粒子分散液として調製した。
【0039】
次に、水系溶媒である水に分散剤としてSigma Aldrich製のSodium Diphenylphosphinobenzenesulfonate (以降、「DPPS」と記す。 )を溶解させて、そのDPPSが93mmol/リットル溶解した水溶液を他方の溶媒として調製し、準備した。
そして、実施例1で用いた向流多段式抽出装置(ミキサセトラ)の容積の全てに、予め体積比1:1の割合で一方の溶媒であるメチルイソブチルケトンと他方の溶媒を張り込んだ。
【0040】
その後、第2方向の先端の混合分離槽における溶媒混合部にナノ粒子分散液を1分間に50gの割合で供給すると共に、第2方向の基端の混合分離槽における溶媒混合部に分散剤が混合された他の溶媒を1分間に50gの割合で供給した。これとともに、撹拌機を起動して溶媒混合部における混合を開始し、ナノ粒子を一方の溶媒から他方の溶媒に抽出させた。そして、この装置全体の容積のおよそ5倍に相当する量、即ちナノ粒子分散液と分散剤が混合された他の溶媒の和が12kgとなる量を供給した。
【0041】
<比較試験3>
実施例4において、ナノ粒子分散液と分散剤が混合された他の溶媒の和が12kgとなる量の供給が終了した後、第2方向の先端の混合分離槽における分離部から排出された他方の溶媒と、第2方向の基端の混合分離槽における混合部から排出された一方の溶媒における金属濃度をそれぞれ評価した。この評価は誘導結合プラズマ発光分析装置を用いて評価した。この結果を抽出後の濃度として表3に記載した。
更に、流量を考慮して、それぞれの混合分離槽に移行する金属微粒子の質量比を抽出割合として、同じく表3に記載した。なお、この混合分離槽中の金属濃度の測定にあっても、誘導結合プラズマ発光分析装置を用いて評価した。
【0042】
【表3】

<比較例4>
実施例4と同一のナノ粒子分散液と、分散剤が混合された実施例4と同一の他の溶媒を準備した。このナノ粒子分散液50gと、分散剤が混合された他の溶媒50gを分液ロート中に投入し、その中で10分間攪拌してナノ粒子を一方の溶媒から他方の溶媒に抽出させた。その後30分間静置させ、分液ロート中で一方の溶媒と他方の溶媒を比重の差で分離させた。
【0043】
<比較試験4>
比較例4において、分液ロート中で分離した一方の溶媒と他方の溶媒における金属濃度をそれぞれ評価した。この評価は誘導結合プラズマ発光分析装置を用いて評価した。この結果を抽出後の濃度として表4に記載した。
【0044】
【表4】

<評価2>
比較例4における相中に含まれる金属濃度は、いずれも、実施例4に比べて、抽出割合が低下している。これは抽出段数が少ないことにによるものと考えられる。
【0045】
(3) 不純物分離
<実施例5>
実施例1と同一のナノ粒子分散液と、分散剤が混合された実施例1と同一の他の溶媒を準備した。
また、実施例1と同様に、図3に示す4つの混合分離槽21を有する東京理化器械株式会社製の向流多段式抽出装置(ミキサセトラ)を準備した。そして、この抽出装置の容積の全てに、予め体積比1:1の割合で一方の溶媒と他方の溶媒を張り込んだ。
【0046】
その後、第2方向の先端から2段目の混合分離槽21における溶媒混合部11にナノ粒子分散液を1分間に50gの割合で供給すると共に、第2方向の基端の混合分離槽21における溶媒混合部11に分散剤が5質量%混合された他の溶媒を1分間に50gの割合で供給した。また、第2方向の先端における混合分離槽21の溶媒混合部11には精製水を1分間に50gの割合で供給するとともに、その先端における混合分離槽21の分離槽で他の溶媒から分離された精製水はそのまま外部に排出するようにした。
【0047】
そして、各混合分離槽21における撹拌機15を駆動して溶媒混合部11における混合を開始し、第2方向の先端から2段目の混合分離槽21から順次基端の混合分離槽21までの間においてナノ粒子を一方の溶媒から他方の溶媒に抽出させた。そして、ナノ粒子を抽出した他の溶媒が流入した先端の混合分離槽21において、その他の溶媒に含まれるCTABを精製水中に抽出させてそのCTABを除去させた。そして、ナノ粒子分散液と分散剤が混合された他の溶媒は、その和が12kgとなるまで供給した。この詳細を表5に示す。
【0048】
【表5】

<比較試験5及び評価3>
ナノ粒子分散液と分散剤が混合された他の溶媒の和が12kgとなる量の供給が終了した後、第2方向の先端から2段目の混合分離槽21からその先端における混合分離槽21に流入する他の溶媒と、その先端における混合分離槽21の分離部12から外部に排出される他の溶媒を分取し、真空乾燥機を用いて溶媒を蒸発させた。得られた金属微粒子析出物について、炭素/金質量比を評価した。その結果は、2段目の混合分離槽21からその先端における混合分離槽21に流入する他の溶媒の炭素/金質量比は、先端における混合分離槽21から外部に排出される他の溶媒の炭素/金質量比の1/10以下であった。この炭素分は主としてCTABに由来すると考えられることから、抽出液中に含まれる不純物であるCTABを分離できることを確認した。なお、炭素/金質量比の評価には、炭素分析装置(LECO 製 CS−444LS 型)と、ICP−AESを用いた。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明実施形態の抽出方法に用いる装置の断面構成図である。
【図2】その装置における混合分離槽の斜視図である。
【図3】その混合分離槽が4つ隣接して設けられた装置を示す構成図である。
【符号の説明】
【0050】
10 装置
11 溶媒混合部
12 分離部
21 混合分離槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水系溶媒又は非水系溶媒からなる一方の溶媒にナノ粒子が分散したナノ粒子分散液に非水系溶媒又は水系溶媒からなる他方の溶媒と前記他方の溶媒と親和性を有する分散剤の双方を添加混合して前記ナノ粒子を前記一方の溶媒から前記他方の溶媒に抽出する混合抽出工程と、前記一方の溶媒と前記ナノ粒子が抽出された前記他方の溶媒とを分離する分離工程とを有するナノ粒子の抽出方法において、
前記混合抽出工程を行い得る溶媒混合部と前記分離工程を行い得る分離部とを有する装置を用い、
前記溶媒混合部において混合された前記一方の溶媒と前記他方の溶媒を含む混合溶液を前記分離部に順次流入させることにより前記混合抽出工程と前記分離工程とを連続的に行う
ことを特徴とするナノ粒子の抽出方法。
【請求項2】
混合抽出工程における他方の溶媒は一方の溶媒より少ない請求項1記載のナノ粒子の抽出方法。
【請求項3】
装置は単一の溶媒混合部と前記溶媒混合部で混合された溶液が流入する単一の分離部が第1方向に隣接する3つ以上の混合分離槽を有し、
前記3つ以上の混合分離槽が第1方向と直交する第2方向に隣接して1つの混合分離槽における分離部が隣接する他の混合分離槽の溶媒混合部と隣接するように配置され、
第2方向に配置された3つ以上の混合分離槽の内の第2方向の先端と基端を除く中間の混合分離槽は前記中間の混合分離槽における分離部で分離した一方の溶液を第2方向の基端側に隣接する混合分離槽の溶媒混合部に排出し分離した他方の溶液を第2方向の先端側に隣接する混合分離槽の溶媒混合部に排出するように配置され、
第2方向の先端の混合分離槽における溶媒混合部に一方の溶媒を供給して前記第2方向の先端の混合分離槽における分離部に流入させた後第2方向の基端側の混合分離槽の溶媒混合部に前記一方の溶媒を順次流入させ、
第2方向の基端の混合分離槽における溶媒混合部に他方の溶媒と分散剤を供給して前記第2方向の基端の混合分離槽における分離部に流入させた後第2方向の先端側の混合分離槽の溶媒混合部に前記他方の溶媒を順次流入させる請求項1又は2記載のナノ粒子の抽出方法。
【請求項4】
1の混合分離槽における溶媒混合部においてナノ粒子を一方の溶媒から他方の溶媒に抽出し、他の混合分離槽においてナノ粒子を抽出した他の溶媒を洗浄する請求項3記載のナノ粒子の抽出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−5506(P2010−5506A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−165667(P2008−165667)
【出願日】平成20年6月25日(2008.6.25)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】