説明

ナラ菌増殖防止剤及びナラ枯れ防止方法

【課題】高い薬効及び注入成功率を維持しつつも注入時間を短縮できて優れた薬液注入作業性を可能にするナラ菌増殖防止剤及びナラ枯れ防止方法を提供すること。
【解決手段】全質量に対して、1000〜250000ppmのナラ菌に対して殺菌活性を有する殺菌成分と、10〜99.8質量%の低級アルコールと、0.1〜10質量%のシリコーン系界面活性剤を含有するナラ菌増殖防止剤、及び、このナラ菌増殖防止剤を樹体内に注入するナラ枯れ防止方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ナラ菌増殖防止剤及びナラ枯れ防止方法に関し、さらに詳しくは、高い薬効及び注入成功率を維持しつつも注入時間を短縮できて優れた注入作業性を可能にするナラ菌増殖防止剤及びナラ枯れ防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1によると、1980年代末以降、日本各地でナラ類、シイ・カシ類の樹木の大量枯死が発生していた。この大量枯死の特徴は、樹幹に例えばカシノナガキクイムシ(Platypus quercivorus)などの甲虫が形成した穿孔を伴うことである。この大量枯死の現象は、森林・林業関係者の間で、「ナラ枯れ」、「ナラ類集団枯損」、「ナラ類集団枯死」などと称していた。この発明においては、これらのように称された現象を一括して「ナラ枯れ」と称する。
【0003】
以前においては、「ナラ枯れ」は虫害であるとされてきた。が、近年の研究の成果により、「ナラ枯れ」の原因は、カシノナガキクイムシに共生するナラ菌であると明らかにされた。
【0004】
現在においては、この「ナラ枯れ」を防止する方法として、樹幹に形成された穿孔に、NCS剤を注入する方法が採用されている(非特許文献1の第20頁参照)。このNCS剤は、カーバム剤とも称される。このNCS剤は、キュウリのネコブセンチュウ、スイカのネコブセンチュウ、大根のネグサレセンチュウなどの野菜、果樹などの白紋羽病などに有効な農薬である。
【0005】
ナラ枯れに効果のある薬剤として、このNCS剤の他にベノミル剤を用いた樹幹注入剤として防除方法が報告されている(非特許文献2)。このベノミル剤は水分散性が悪く、このベノミル剤を樹幹注入するには、注入用にドリルなどを用いて新たに開けた穴に注入することができるように、ベノミル剤を固体粉末として懸濁含有する水和液を調製しなければならない。そうすると、ベノミル剤を懸濁する水和液を樹幹注入しても、前記穿孔内にベノミル剤の粉末が残留することになり、樹木の導管中を移動することにより、樹木中であって穿孔以外の部位に導管を通って移動したナラ菌をこのベノミル剤で完全に死滅させ、又は、その増殖を防止することが困難になる。
【0006】
このような課題、すなわち、「樹幹に形成された穿孔内に進入した害虫により持ち込まれて前記穿孔内に存在するナラ菌のみならず、穿孔内から導管を通って樹木中に存在するに到ったナラ菌の繁殖乃至増殖を有効に防止する」という課題を解決できる技術として、特許文献1には、「ステロール生合成阻害剤を含有することを特徴とするナラ菌増殖防止剤」(請求項1)、及び、「前記請求項1又は2に記載のナラ菌増殖防止剤を使用することを特徴とするナラ枯れ防止方法」(請求項3)が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−184930号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】「ナラ枯れの被害をどう減らすか−里山林を守るために−」 独立行政法人森林総合研究所関西支所発行、2007年3月30日発行 http:/www.fsm.affrc.go.jp/index.html
【非特許文献2】日本森林学会 中部支部大会 発表(2007年10月13日)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1のナラ菌増殖防止剤及びナラ枯れ防止方法は、ナラ菌の繁殖乃至増殖を有効に防止できるので、例えば森林管理に大きく貢献する。この特許文献1のナラ菌増殖防止剤及びナラ枯れ防止方法において、ナラ菌増殖防止剤の注入は、例えば、その試験例3(0035欄)に記載されているように、「薬液100mLを充填したノズルつき透明プラスチックアンプル(容量200mL)を差し込み、そのノズルつき透明プラスチックアンプルの最後部の上側に1mm程度の穴をあけることにより自然圧による注入」を行っている。このように多量の薬液を自然圧によって樹幹に注入するには、早くても1日、通常、数日から数週間を要する。したがって、実際の生木に対する薬液の注入作業は、注入作業に加えて後日改めて「ノズルつき透明プラスチックアンプル」などを回収する回収作業が必要であった。
【0010】
この発明は、高い薬効及び注入成功率を維持しつつも注入時間を短縮できて優れた注入作業性を可能にするナラ菌増殖防止剤及びナラ枯れ防止方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するための手段として、
請求項1は、全質量に対して、1000〜250000ppmのナラ菌に対して殺菌活性を有する殺菌成分と、10〜99.8質量%の低級アルコールと、0.1〜10質量%のシリコーン系界面活性剤とを含有するナラ菌増殖防止剤であり、
請求項2は、前記低級アルコールは炭素数1〜4のアルコールを含む請求項1に記載のナラ菌増殖防止剤であり、
請求項3は、前記低級アルコールはモノアルコールを含む請求項1又は2に記載のナラ菌増殖防止剤であり、
請求項4は、前記シリコーン系界面活性剤はポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤を含む請求項1〜3のいずれか1項に記載のナラ菌増殖防止剤であり、
請求項5は、請求項1〜4のいずれか1項に記載のナラ菌増殖防止剤を樹体内に注入するナラ枯れ防止方法であり、
請求項6は、前記樹体に穿孔された注入孔1個当たり0.1〜5.0mLの前記ナラ菌増殖防止剤を注入する請求項5に記載のナラ枯れ防止方法である。
【発明の効果】
【0012】
この発明に係るナラ菌増殖防止剤は、全質量に対して、1000〜250000ppmのナラ菌に対して殺菌活性を有する殺菌成分と、10〜99.8質量%の低級アルコールと、0.1〜10質量%のシリコーン系界面活性剤とを含有している。また、この発明に係るナラ枯れ防止方法はこの発明に係るナラ菌増殖防止剤を樹体内に注入する。そして、この発明に係るナラ菌増殖防止剤が樹体に少量注入されれば高濃度の前記殺菌成分を樹体に速やかに浸透させてこの殺菌成分の効能を十分に発揮させることができる。
【0013】
したがって、この発明によれば、高い薬効及び注入成功率を維持しつつも注入時間を短縮できて優れた注入作業性を可能にするナラ菌増殖防止剤及びナラ枯れ防止方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
この発明に係るナラ菌増殖防止剤は、ナラ菌に対して殺菌活性を有する殺菌成分と低級アルコールとシリコーン系界面活性剤とを含有している。この発明に係るナラ菌増殖防止剤はナラ菌に対して殺菌活性を有する殺菌成分と低級アルコールとシリコーン系界面活性剤とを含有し、ナラ菌の繁殖又は増殖を防止する薬剤組成物と称することができる。
【0015】
前記殺菌成分は、ナラ菌に対して殺菌活性を有する成分、換言すると、ナラ菌の繁殖又は増殖を防止する活性を持つ成分であれば特に限定されず、例えば、ステロール生合成阻害剤、ベンズイミダゾール系薬剤、各種抗生物質、メトキシアクリレート系薬剤、その他の薬剤などが挙げられる。したがって、この発明に係るナラ菌増殖防止剤は、殺菌成分として、ステロール生合成阻害剤、ベンズイミダゾール系薬剤、各種抗生物質、メトキシアクリレート系薬剤及びその他の薬剤から成る群より選択される少なくとも1種を含んでいるのが好ましい。
【0016】
ステロール生合成は、生体内で、酢酸からメバロン酸、スクワレンなどを経てステロールを合成するプロセスである。このステロール生合成の反応経路におけるいずれかの反応を特異的に阻害する一連の化合物群がステロール生合成阻害剤と称される。このステロール阻害剤は、またエルゴステロール阻害剤とも称される。このステロール生合成阻害剤は、子のう菌類、担子菌類、不完全菌類などに有効な阻害作用を有することが知られているが、糸状菌の一種であるナラ菌の繁殖乃至増殖を有効に阻害する作用を有することは、驚異的である。糸状菌は体内でエルゴステロール又はその類縁化合物であるステロールを合成する。ステロールは糸状菌の体内における生体膜のリン脂質の二重層の間に存在、細胞膜の強度、透過性、各種の膜酵素の機能に重要な影響を与えている。したがって、ステロール生合成阻害剤は、糸状菌に作用する結果、糸状菌の細胞膜強度を著しく低下させて糸条菌の生存を妨げる作用を有するものと、考えられる。
【0017】
前記ステロール生合成阻害剤としては、トリアゾール系ステロール生合成阻害剤、イミダゾール系ステロール生合成阻害剤、ピリミジン系ステロール生合成阻害剤、ピペラジン系ステロール生合成阻害剤、モルフォリン系ステロール生合成阻害剤などを挙げることができる。具体的には、このステロール生合成阻害剤として、トリフミゾール、プロクロラズ、ペフラゾエート、フェナリモル、トリホリン、トリアジメホン、ビテルタール、フェンブコナゾール、シクロブタニル、ヘキサコナゾール、テブコナゾール、プロピコナゾ-ル、ジフェノコナゾール、イプコナゾール、イミベンコナゾール、シプロコナゾール、テトラコナゾール及びシメコナゾールなどを挙げることができる。これらの中でも、トリホリン、ビテルタール、フェンブコナゾール、シクロブタニル、テブコナゾール、テトラコナゾールよりなる群から選択される一種を好適に挙げることができる。
【0018】
ベンズイミダゾール系薬剤としては、例えば、ベノミル、チオファネートメチル、チアベンタゾール及びジエトフェンカルブなどが挙げられる。
【0019】
前記抗生物質としては、例えば、バリダマイシン、ポリオキシン、カスガマイシン、ストレプトマイシン、オキシテトラサイクリン及びミルディオマイシンなどが挙げられる。
【0020】
前記メトキシアクリレート系薬剤としては、例えば、アゾキシストロビン、クレソキシムメチル、トリフロキシストロビン、メトミノミノストロビン及びファモキサドンなどが挙げられる。
【0021】
前記その他の薬剤としては、例えば、イミノクタジン酢酸塩、イミノクタジンアルベシル酸塩、クロロタロニル、キャプタン、トリアジン及びフェンヘキサミドなどが挙げられる。
【0022】
この殺菌成分は、使用目的、注入対象樹木などに応じて適宜の成分が選択されるが、液状の殺菌成分を含有するこの発明に係るナラ菌増殖防止剤は極めて速やかに樹木に浸透すなわち吸収されるので、浸透時間の短縮に特に着目するのであればこの発明に係るナラ菌増殖防止剤に含有される殺菌成分は液状であるのが好ましい。
【0023】
この殺菌成分は、この発明に係るナラ菌増殖防止剤の全質量に対して1000〜250000ppmの質量割合で含有されている。この発明に係るナラ菌増殖防止剤は速やかに樹体内に浸透するから殺菌成分を前記範囲の高濃度で含有することができる。この発明において、ナラ菌増殖防止剤中の殺菌成分の含有率が1000ppm未満であると殺菌成分の薬効が十分に発揮されない場合があり、一方、250000ppmを越えると注入対象木に縮葉、落葉、注入部の癒合阻害などの薬害が発生する場合がある。この発明において、効果、薬害、注入量の削減の観点から、ナラ菌増殖防止剤中の殺菌成分の含有率は、ナラ菌増殖防止剤の全質量に対して100000〜250000ppmであるのが好ましく、150000〜200000ppmであるのが特に好ましい。
【0024】
この殺菌成分として殺菌成分を含有する市販の薬剤を用いる場合には、薬剤中の殺菌成分の濃度を考慮して殺菌成分のナラ菌増殖防止剤中の含有率が前記範囲内になるように、市販の薬剤の使用量すなわち含有率が決定される。例えば、市販の薬剤は、ナラ菌増殖防止剤の全質量に対して0.1〜90質量%、好ましくは10〜80質量%の含有率で、低級アルコール及びシリコーン系界面活性剤と混合される。
【0025】
低級アルコールは、炭素数が1〜4のアルコールであるのが好ましく、炭素数が1〜4の脂肪族アルコールであるのがさらに好ましく、樹体内への浸透速度が速い点で炭素数が1〜4の脂肪族モノアルコールであるのが特に好ましい。したがって、この発明において、低級アルコールは、好ましくは炭素数が1〜4のアルコールを含んでおり、さらに好ましくは炭素数が1〜4の脂肪族アルコールを含んでおり、樹体内への浸透速度が速い点で特に好ましくは炭素数が1〜4の脂肪族モノアルコールを含んでいる。炭素数が1〜4のアルコールとしては、具体的には、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、iso−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、iso−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコールが挙げられる。炭素数が1〜4のアルコールは、樹体内への浸透速度が速い点で、メチルアルコール、エチルアルコールであるのが好ましく、エチルアルコールが特に好ましい。すなわち、この発明において、低級アルコールは、メチルアルコール、エチルアルコールを含むのが好ましく、エチルアルコールを含むのが特に好ましい。
【0026】
この低級アルコールは、この発明に係るナラ菌増殖防止剤の全質量に対して10〜99.8質量%の割合で含有されている。この発明において、ナラ菌増殖防止剤中の低級アルコールの含有率が10質量%未満であるとナラ菌増殖防止剤の注入速度すなわち浸透速度を十分に改善できない場合があり、一方、99.8質量%を越えると殺菌成分と同様に注入対象木に縮葉、落葉、注入部の癒合阻害などの薬害が発生する場合がある。この発明において、ナラ菌増殖防止剤中の低級アルコールの含有率は、注入速度の向上及び注入対象木への安全性の観点から、ナラ菌増殖防止剤の全質量に対して10〜50質量%であるのが好ましく、10〜20質量%であるのが特に好ましい。
【0027】
シリコーン系界面活性剤は、特に限定されないが、水に溶解しやすく樹体内への浸透速度が速い点で親水性のシリコーン系界面活性剤であるのが好ましい。したがって、この発明において、シリコーン系界面活性剤は親水性のシリコーン系界面活性剤を含んでいるのが好ましい。親水性のシリコーン系界面活性剤としては、例えば、アミン変性シリコーン系界面活性剤、ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤などが好適に挙げられ、浸透速度に加えて取扱性にも優れ、この発明の目的をよく達成できる点で、ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤が特に好適に挙げられる。アミン変性シリコーン系界面活性剤は、主鎖又は側鎖がアミン化合物で変性されたシリコーン系界面活性剤であり、例えば、モノアミン、ジアミン、特殊アミンなどのアミン化合物で変性されたシリコーン系界面活性剤などが挙げられる。また、ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤は、主鎖又は側鎖がポリエーテルで変性されたシリコーン系界面活性剤であり、例えば、アラルキル、フロロアルキル、長鎖アルキル、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド、ポリエーテル・長鎖アルキル・アラルキル、長鎖アルキル・アラルキル、フェニルで変性されたシリコーン系界面活性剤などが挙げられる。
【0028】
このようなアミン変性シリコーン系界面活性剤としては、具体的には、モノアミン変性シリコーン系界面活性剤(商品名「KF−868」、信越化学工業株式会社製)、モノアミン変性シリコーン系界面活性剤(商品名「KF−865」、信越化学工業株式会社製)およびジアミン変性シリコーン系界面活性剤(商品名「KF−859」、信越化学工業株式会社製)などが挙げられる。また、ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤としては、具体的には、ポリエーテル変性シリコーンオイル(商品名「X−22−4515」、HLB5、信越化学工業株式会社製)、ポリエーテル変性シリコーンオイル(商品名「KF−353」、HLB10、信越化学工業株式会社製)、ポリエーテル変性シリコーンオイル(商品名「KF−642」、HLB12、信越化学工業株式会社製)、ポリエーテル変性シリコーンオイル(商品名「KF−640」、HLB14、信越化学工業株式会社製)、ポリエーテル変性シリコーンオイル(商品名「KF−354L」、HLB16、信越化学工業株式会社製)などが挙げられる。
【0029】
この発明において、親水性のシリコーン系界面活性剤は、例えば、HLBが5〜20、好ましくは12以上のシリコーン系界面活性剤と別言することもできる。ここで、HLBは、親水親油バランスとも称され、グリフィン法によって測定される値である。
【0030】
シリコーン系界面活性剤は、この発明に係るナラ菌増殖防止剤の全質量に対して0.1〜10質量%の割合で含有されている。この発明において、ナラ菌増殖防止剤中のシリコーン系界面活性剤の含有率が0.1質量%未満であるとナラ菌増殖防止剤の注入速度すなわち浸透速度を十分に改善できない場合があり、一方、10質量%を越えると殺菌成分と同様に注入対象木に縮葉、落葉、注入部の癒合阻害などの薬害が発生する場合がある。この発明において、ナラ菌増殖防止剤中のシリコーン系界面活性剤の含有率は、注入速度の向上及び注入対象木への安全性の観点から、ナラ菌増殖防止剤の全質量に対して0.5〜5質量%であるのが好ましく、0.5〜2質量%であるのが特に好ましい。
【0031】
この発明に係るナラ菌増殖防止剤は、殺菌成分、低級アルコール及びシリコーン系界面活性剤の外に、必要に応じて、安定剤、pH調整剤、被膜形成剤、水、シリコーン系界面活性剤以外の界面活性剤、低級アルコール以外の溶剤などを含有していてもよい。必要に応じて含有される成分は、この成分、殺菌成分、低級アルコール及びシリコーン系界面活性剤の合計が100質量%となる割合で、含有される。
【0032】
安定剤は、この発明に係るナラ菌増殖防止剤に含まれていると製剤の安定性及び分散性を保持することができるので、好適に含有される。安定剤としては、例えば、BHT、DBHQ、トコフェロールなどの酸化防止剤が主として挙げられる。
【0033】
前記pH調整剤としては、例えば、酸、アルカリ及びその塩などが挙げられ、前記被膜形成剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂などが挙げられる。
【0034】
シリコーン系界面活性剤以外の界面活性剤は、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤及びカチオン系界面活性剤などを挙げることができる。前記ノニオン系界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油エーテルなどが挙げられる。前記アニオン系界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、ジアルキルスルホコハク酸、高級脂肪酸塩などを挙げることができる。カチオン系界面活性剤としては、アルキルアミン類、第4級アンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩などを挙げることができる。
【0035】
低級アルコール以外の溶剤としては、殺菌成分を溶解することができる限り特に制限がなく、親水性溶剤であっても親油性溶剤であってもよい。
【0036】
親水性溶剤すなわち水と混和する溶剤としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール及びジエチレングリコールなどのグリコール類、前記グリコール類のエステル類及び前記グリコール類のエーテル類、前記グリコール類の誘導体、前記グリコール類のエステル類の誘導体、前記グリコール類のエーテル類の誘導体、シクロヘキサノン、アセトン及びメチルエチルケトンなどのケトン類、酢酸エチル及び酢酸ブチルなどのカルボン酸エステル類、ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類、グリセリン、グリセリンのエステル誘導体、グリセリンのエーテル誘導体、N−メチルピロリドンなどのピロリドン類、アセトニトリルなどのニトリル類、テトラヒドロフラン及びジオキサンなどの環状エーテル類などを挙げることができる。
【0037】
親油性溶剤としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン及びベンジルアルコールなどの芳香族化合物、へキサンなどの環状脂肪族炭化水素、パラフィン系、ケトン系、エステル系、グリコール系などの高沸点溶剤、菜種油、大豆油、オリーブ油、魚油、肝油、ラノリンのような動植物性油脂、オレイン酸、ラノリン酸、及びパルミチン酸などの脂肪酸、前記脂肪酸の誘導体などを挙げることができる。
【0038】
この発明に係るナラ菌増殖防止剤は、全質量に対して10〜99.8質量%の低級アルコールと全質量に対して0.1〜10質量%のシリコーン系界面活性剤と全質量に対して1000〜250000ppmの高濃度で殺菌成分を含有する原液の形態であってもよく、また、殺菌成分、低級アルコール及びシリコーン系界面活性剤それぞれが全質量に対して前記含有率となるように適宜に希釈された希釈溶液であってもよい。すなわち、この発明に係るナラ菌増殖防止剤は、原液として存在し、またその原液を希釈してなる希溶液として存在することができる。さらに、この発明に係るナラ菌増殖防止剤は、乳剤、フロアブル、マイクロエマルション、エマルションオイルインウォータ、サスポエマルションの形態であってもよい。この発明に係るナラ菌増殖防止剤は、現場での取扱性及び施行容易性の点で、これらの中でも原液又は希釈溶液の形態が好ましい。
【0039】
この発明に係るナラ菌増殖防止剤は、液状の形態である場合に原液のまま使用されることができ、また所定の割合に希釈された希釈液又は水和剤として使用されることもできる。
【0040】
この発明に係るナラ菌増殖防止剤は、液状の形態である場合に、樹木に対して、散布、塗布、株元施用、潅注処理、樹幹注入などにより投与されることができる。この発明に係るナラ菌増殖防止剤を樹木に対してどのように投与するかは、使用状況に応じて、又は、樹木の状態に応じて適宜に決定することができる。
【0041】
この発明に係るナラ菌増殖防止剤の好適な投与方法つまり使用方法としては、ドリルなどを用いて樹木に開けた注入用の穴(以下、注入穴と称することがある。)に、又は、カシノナガキクイムシが樹木に開穿した穿孔に、すなわち樹体内に、この発明に係るナラ菌増殖防止剤を注入する方法が挙げられる。このようにこの発明に係るナラ菌増殖防止剤を注入穴又は穿孔に注入すると、カシノナガキクイムシに共生するナラ菌が穿孔内に存在していても導管を経由して樹木中に存在していても、このナラ菌の繁殖又は増殖を防止してナラ菌を殺菌できる。このとき樹木に開けられる注入穴数は、樹木の胸高直径を基準にして決定される樹木1本当りの注入量及び注入穴1つ当りの注入量に応じて適宜に設定され、例えば、胸高直径20〜50cmの樹木1本当りの注入穴数は5〜16個とされる。注入穴は、通常、投与する樹木の根元又は地表から10〜50cmまでの高さに穿孔され、その直径、深さ及び穿孔角度についてはこの発明に係るナラ菌増殖防止剤を注入できる程度に適宜に設定され、例えば、直径は2〜10mm、深さは1〜10cm、穿孔角度は水平面に対して30〜60°に設定される。
【0042】
いずれの形態により、また、どのような施用態様であれ、この発明に係るナラ菌増殖防止剤は、樹木の胸高直径を基準にして投与量すなわち注入量が決定され、例えば、胸高直径が20〜50cmの樹木の場合には、この発明に係るナラ菌増殖防止剤中の殺菌成分が投与対象又は注入対象となる樹木1本当り2.5〜2000mgとなるように、投与されるのが好ましい。この場合は、注入穴数は5〜16個に設定されるので、注入穴1個当りの注入量は0.5〜125mgとなり、10〜100mgとするのが好ましい。このとき1注入穴当りの投与量は極めて少量の0.1〜5.0mLとなる。
【0043】
この発明に係るナラ菌増殖防止剤を適用することによりナラ枯れを有効に防止することのできる樹木としては、例えば、ウバメガシ、クヌギ、アベマキ、カシワ、ミズナラ、コナラ、イチイガシ、アカガシ、アラカシ、ウラジロガシ、シラカシなどのコナラ属、クリなどのクリ属、スダジイ、ツブラジイなどのシイ属、マテバシイなどのマテバシイ属の樹木を挙げることができる。
【0044】
このように、この発明に係るナラ菌増殖防止剤は、ナラ菌に対して殺菌活性を有する殺菌成分と低級アルコールとシリコーン系界面活性剤とを所定の質量割合で含有しているから、ナラ枯れを効果的に防止することができる。また、この発明に係るナラ菌増殖防止剤は、殺菌成分を高濃度で含有しているから、樹木1本当りの注入量を大幅に低減でき、注入時間を短縮できると共に注入成功率が向上するうえ、例えば「ノズルつき透明プラスチックアンプル」などの注入装置を後日回収する必要もなくその場で注入作業が完了し、高い注入作業を実現できる。
【実施例】
【0045】
(試験例1)
ナラ菌増殖防止剤に含有される溶剤が殺菌成分の浸透性に与える影響を調べた。具体的には、加害樹種ミズナラの円盤状木片の辺材部分に木工用ドリルで開けた直径8mmで深さ5cmの注入穴に第1表に示す各組成の薬剤組成物1〜7をマイクロピペッターにて0.5mLを注入し、薬剤0.5mL全量が円盤状木片に完全に浸透するまでの浸透時間を測定した。その結果を第1表に示す。なお、薬剤組成物No.1におけるトリホリン含有率は180000ppmで薬剤組成物No.2〜7におけるトリホリン含有率は150000ppmであった。
【0046】
【表1】

【0047】
第1表に示されるように、トリホリン乳剤単独、又は、蒸留水、N−メチルピロリドン若しくはテトラヒドロフランなどの溶剤を含む薬剤組成物1〜4は浸透に60minを超える時間を要したのに対して、メチルアルコール、エチルアルコール及びiso−プロピルアルコールの低級アルコールを溶剤として含有する薬剤組成物5〜7は20min以下という短時間で速やかにミズナラの円盤状木片に浸透することが分かった。
【0048】
(試験例2)
ナラ菌増殖防止剤に含有される界面活性剤が殺菌成分の浸透性に与える影響を調べた。具体的には、加害樹種ミズナラの円盤状木片の辺材部分に木工用ドリルで開けた直径8mmで深さ5cmの注入穴に第2表に示す各組成の薬剤組成物11〜18をマイクロピペッターにて0.5mLを注入し、薬剤0.5mL全量が円盤状木片に完全に浸透するまでの浸透時間を測定した。その結果を第2表に示す。なお、薬剤組成物それぞれにおけるトリホリン含有率は150000ppmであった。
【0049】
なお、第2表において、ポリエーテル変性シリコーンオイル*1は商品名「KF−640」(HLB 14、信越化学工業株式会社製)であり、ポリエーテル変性シリコーンオイル*2は商品名「KF−642」(HLB 12、信越化学工業株式会社製)であり、ポリエーテル変性シリコーンオイル*3は商品名「X−22−4515」(HLB 5、信越化学工業株式会社製)であり、モノアミン変性シリコーン系界面活性剤*4は商品名「KF−868」(信越化学工業株式会社製)である。
【0050】
【表2】


【0051】
第2表に示されるように、界面活性剤を含有しない薬剤組成物11、及び、農薬等に一般的に使用される界面活性剤を含有する薬剤組成物16〜18は浸透に8分以上を要した。これに対して、シリコーン系界面活性剤を含有する薬剤組成物12〜15は浸透に5分以下の短時間で、特にHLBが5〜20のポリエーテル変性シリコーンオイルを含有する薬剤組成物12〜14は浸透に10秒又は1分という極めて短時間で速やかにミズナラの円盤状木片に浸透することが分かった。
【0052】
(試験例3)
ナラ菌増殖防止剤に含有されるシリコーン系界面活性剤の含有率が殺菌成分の浸透性に与える影響を調べた。具体的には、加害樹種ミズナラの円盤状木片の辺材部分に木工用ドリルで開けた直径8mmで深さ5cmの注入穴に第3表に示す各組成の薬剤組成物21〜26をマイクロピペッターにて0.5mLを注入し、薬剤0.5mL全量が円盤状木片に完全に浸透するまでの浸透時間を測定した。その結果を第3表に示す。なお、第3表において、ポリエーテル変性シリコーンオイル*1は商品名「KF−640」(HLB 14、信越化学工業株式会社製)である。なお、薬剤組成物それぞれにおけるトリホリン含有率は150000ppmであった。
【0053】
【表3】

【0054】
第3表に示されるように、シリコーン系界面活性剤を0.1〜10質量%含有する薬剤組成物21〜26はいずれも浸透に40秒以下という短時間で速やかにミズナラの円盤状木片に浸透することが分かった。また、薬剤組成物中のシリコーン系界面活性剤の含有率が多くなると浸透時間が短縮される反面、その浸透促進効果が鈍くなることも分かった。
【0055】
(試験例4)
ナラ菌増殖防止剤に含有される殺菌成分を種々の成分に代えて薬剤組成物の浸透性を調べた。具体的には、マテバシイの生木樹幹部(根元部分)に木工用ドリルで開けた直径8mm、深さ5cm、角度45°の注入穴に、第4表に示す薬剤組成物30〜39をマイクロピペッターにて0.5mL注入し、薬剤0.5mL全量がマテバシイ生木に完全に浸透するまでの浸透時間を測定した。その結果を第4表に示す。なお、試験例4においては、殺菌成分の成分濃度(ナラ菌増殖防止剤中の含有率)を100000ppmに一定にするため、その他の成分として蒸留水を第4表に示す含有率で含有させた。第4表において、ポリエーテル変性シリコーンオイル*1は商品名「KF−640」(HLB 14、信越化学工業株式会社製)であり、トリホリン乳剤は住商アグロインターナショナル株式会社製の乳剤を、テトラコナゾール液剤はアリスタライフサイエンス株式会社製の液剤を、イミノクタジン酢酸塩液剤は日本曹達株式会社製の液剤を、チオファネートメチル水和剤は日本曹達株式会社製の水和剤を、ベノミル水和剤は住友化学株式会社製の水和剤をそれぞれ用いた。
【0056】
【表4】

【0057】
第4表に示されるように、殺菌成分としてトリホリン(トリホリン乳剤)、テトラコナゾール(テトラコナゾール液剤)、イミノクタジン酢酸塩(イミノクタジン酢酸塩液剤)、チオファネートメチル(チオファネートメチル水和剤)及びベノミル(ベノミル水和剤)のいずれを用いても低級アルコール及びシリコーン系界面活性剤を含有する薬剤組成物30、32、34、36及び38は、低級アルコール及びシリコーン系界面活性剤を含有しない薬剤組成物31、33、35、37及び39に比して、浸透時間が大幅に短縮されることが分かった。特に、殺菌成分が液状であるトリホリン(トリホリン乳剤)、テトラコナゾール(テトラコナゾール液剤)及びイミノクタジン酢酸塩(イミノクタジン酢酸塩液剤)を含有する薬剤組成物は浸透時間が5分以内という極めて短時間で浸透することが分かった。
【0058】
(試験例5)
ミズナラの生木樹幹部の地表から0.5m地点に木工用ドリルで開けた直径8mm、深さ5cm、角度45°の注入穴5個それぞれに、1注入穴当りのトリホリン注入量が72mgとなるように、商品名「ウッドキングSP」(殺菌成分「トリホリン」、トリホリン含有率360ppm、注入量200mL、サンケイ化学株式会社製)を専用ボトルで自然圧によって注入し、また、第3表におけるNo.22の薬剤組成物(トリホリンの含有率150000ppm、注入量0.5mL)をマイクロピペッターで注入した。これらの薬剤組成物の全量がミズナラの生木に完全に浸透するまでの浸透時間を各注入穴について測定した。また、各薬剤組成物が注入穴に完全に浸透するか否かの注入成功率を求めた。さらに、このようにして各薬剤組成物を注入したミズナラ生木の薬害の有無を注入後1ヶ月及び3ヶ月の時点で生木全体(第5表において樹全体と表記する)及び注入穴について目視で評価した。これらの結果を第5表に示す。
【0059】
【表5】

【0060】
第5表に示されるように、「ウッドキングSP」は注入量が200mLと多く平均で18.6時間の浸透時間を要したのに対して、No.22の薬剤組成物は注入量が0.5mLと極めて少量で10秒というきわめて短時間で即座に生木に浸透した。さらに、No.22の薬剤組成物は注入成功率が100%で生木全体及び注入穴のいずれの時点においても薬害が確認されず、「ウッドキングSP」と同等の注入成功率及び無害性を有していることが分かった。なお、「ウッドキングSP」の注入後に専用ボトルを回収した。
【0061】
(試験例6)
胸高直径を測定したミズナラ生木を15本選定して、これらを、商品名「ウッドキングSP」を注入する第1グループ、第3表におけるNo.22の薬剤組成物を注入する第2グループ及び無処理の第3グループに5本ずつ3グループに群分けした。第1グループ及び第2グループのミズナラ生木10本それぞれの生木樹幹部の地表から0.5m地点に直径8mm、深さ5cm、角度45°の注入穴4個を木工用ドリルで開けた。第1グループの各ミズナラ生木の注入穴それぞれに、1注入穴当りのトリホリン注入量が72mgとなるように、商品名「ウッドキングSP」(殺菌成分「トリホリン」、トリホリンの含有率360ppm、注入量200mL、サンケイ化学株式会社製)を専用ボトルで自然圧によって注入した。また、第2グループの各ミズナラ生木の注入穴それぞれにNo.22の薬剤組成物(トリホリンの含有率150000ppm、注入量0.5mL)をマイクロピペッターで注入した。
【0062】
「ウッドキングSP」及びNo.22の薬剤組成物の全量がミズナラ生木に完全に浸透するまでの浸透時間(平均値)を各ミズナラ生木について算出した。また、「ウッドキングSP」及びNo.22の薬剤組成物が注入穴に完全に浸透するか否かの注入成功率を求めた。さらに、「ウッドキングSP」及びNo.22の薬剤組成物を注入した1ヵ月後に各グループのミズナラ生木それぞれにカシノナガキクイムシの穿孔害(フラス)の有無(第6表において「穿孔害」と表記する。)を確認した。また、このようにして「ウッドキングSP」及びNo.22の薬剤組成物を注入したミズナラ生木の注入後3ヶ月状態を各グループのミズナラ生木それぞれについて評価し、並びに、「ウッドキングSP」及びNo.22の薬剤組成物を注入したミズナラ生木の薬害の有無を注入後1ヶ月及び3ヶ月の時点で生木全体(第6表において樹全体と表記する)及び注入穴について目視で評価した。これらの結果を第6表に示す。
【0063】
【表6】

【0064】
第6表に示されるように、「ウッドキングSP」は注入量が200mLと多く7.25〜27時間の浸透時間を要したのに対して、No.22の薬剤組成物は注入量が0.5mLと極めて少量で7.5秒以下というきわめて短時間で即座に生木に浸透した。また、No.22の薬剤組成物は注入成功率が100%で「ウッドキングSP」と同等の注入成功率を発揮することが分かった。さらに、No.22の薬剤組成物を注入した第2グループのミズナラ生木はそれぞれ1ヵ月後にカシノナガキクイムシの穿孔害(フラス)が確認され、ナラ菌が侵入したにもかかわらず、注入3ヶ月後の状態においてミズナラ生木に異常は確認されず、生木全体及び注入穴のいずれの時点においても薬害が確認されず、「ウッドキングSP」と同等の薬効及び無害性を有していることが分かった。なお、第1グループ及び第2グループにおける薬剤注入3ヵ月後に無処理の第3グループは5本中4本に異常が確認された。なお、「ウッドキングSP」の注入後に専用ボトルを回収した。
【0065】
(試験例7)
試験例6で選定した第1グループ及び第2グループのミズナラ生木からそれぞれ1本ずつ選んでトリホリンの樹体内濃度を地表から直上に0.5m、1.0m、2.0m及び5.0mの地点でドリルにて木片を採取し、高速液体クロマトグラフィーにて測定した。具体的には、試験例6で「ウッドキングSP」及びNo.22の薬剤組成物を注入した胸高直径15.6cm(第1グループ)及び18.3cm(第2グループ)のミズナラ生木において、地上高0.5m、1.0m、2.0m及び5.0mの地点を分析部位として「ウッドキングSP」又はNo.22の薬剤組成物の注入1週間後、注入1ヵ月後及び注入3ヵ月後に各分析部位におけるトリホリンの樹体内濃度を測定した。その結果を第7表に示す。
【0066】
【表7】

【0067】
第7表に示されるように、No.22の薬剤組成物を注入したミズナラ生木においては、いずれの分析部位においても、またいずれの時点においてもトリホリンの樹体内濃度が「ウッドキングSP」を注入したミズナラ生木のトリホリンの樹体内濃度と大きく相違することなく、「ウッドキングSP」の場合と同様に殺菌成分であるトリホリンが高い樹体内移行性を示し、ミズナラ生木に広範に移行することが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0068】
この発明に係るナラ菌増殖防止剤及びナラ枯れ防止方法は、ナラ菌の繁殖又は増殖を効果的に抑制してナラ枯れを防止することができるので、森林管理に大きく貢献する。ナラ枯れはカシナガキクイムシがナラ菌を伝播させることによって発生する樹木の伝染病である。この樹木の伝染病をこの発明により抑制し、防止することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
全質量に対して、1000〜250000ppmのナラ菌に対して殺菌活性を有する殺菌成分と、10〜99.8質量%の低級アルコールと、0.1〜10質量%のシリコーン系界面活性剤とを含有するナラ菌増殖防止剤。
【請求項2】
前記低級アルコールは、炭素数1〜4のアルコールを含む請求項1に記載のナラ菌増殖防止剤。
【請求項3】
前記低級アルコールは、モノアルコールを含む請求項1又は2に記載のナラ菌増殖防止剤。
【請求項4】
前記シリコーン系界面活性剤は、ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤を含む請求項1〜3のいずれか1項に記載のナラ菌増殖防止剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のナラ菌増殖防止剤を樹体内に注入するナラ枯れ防止方法。
【請求項6】
前記樹体に穿孔された注入孔1個当たり0.1〜5.0mLの前記ナラ菌増殖防止剤を注入する請求項5に記載のナラ枯れ防止方法。

【公開番号】特開2012−180312(P2012−180312A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−44988(P2011−44988)
【出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【出願人】(591049930)サンケイ化学株式会社 (8)
【Fターム(参考)】