説明

ニッケル−カドミウム二次電池の製造方法

【課題】電解液の注液から封口までの時間の長短にかかわらず、セパレータ内へのコバルト酸化物の再析出を抑制し、高い電池性能を有するニッケル−カドミウム二次電池の製造方法を提供する。
【解決手段】外装缶1の内方に電極体を収納するステップと、電極体が収納された外装缶1の内方に電解液を注入するステップと、電解液が注入された外装缶1を封口体5を用い、外装缶1の開口側端部をカシメ加工することで封口するステップとを経て、Ni−Cd電池10を形成する。ここで、電極体を構成するニッケル正極板は、活物質にコバルト化合物を有し、カドミウム負極板は、活物質が酸化カドミウム状態の未化成カドミウム負極板である。そして、電解液をするステップを実行した後、封口するステップを実行するまでの間、電極体および電解液が収納された状態の外装体1を5[℃]以下の温度雰囲気下で保管する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル−カドミウム二次電池の製造方法に関し、特に未水和状態のカドミウム負極板を用いる製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケル−カドミウム二次電池(以下では、「Ni−Cd電池」と記載する。)の製造方法の一つとして未水和状態のカドミウム負極板を用いる方法があり(例えば、特許文献1、2)、その概略は、次の通りである。
(1)コバルト化合物を有するニッケル正極板と、活物質が酸化カドミウムの状態のカドミウム負極板とを用い電極体を形成する。
(2)外装体の内方へ電極体を収納する。
(3)外装体の内方にアルカリ電解液を注液する。
(4)外装体の開口を封口体を用い封口する。
【0003】
ここで、アルカリ電解液の注液後においては、正負極板の各々においては、次のような反応が生じている。
・カドミウム負極板;負極活物質の酸化カドミウムがアルカリ電解液との反応により水和され、水酸化カドミウムへと変化する。
・ニッケル正極板;ニッケル正極板のコバルト化合物からアルカリ電解液中へとコバルトイオンが溶出する。溶出したコバルトイオンは、水酸化コバルトもしくは酸化コバルト等のコバルト酸化物としてニッケル正極板の活物質表面に再析出する。再析出したコバルト酸化物は、電池完成後の充電によりさらに酸化され、オキシ水酸化コバルトへと変化することにより、正極板に導電性を付与することになる。
【0004】
以上のように、カドミウム負極板においては、水和処理がなされ、ニッケル正極板においては、導電性の付与がなされる。
【特許文献1】特開昭63−155567号公報
【特許文献2】特開平07−130364号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のようにコバルト酸化物を含むニッケル正極板と未水和状態のカドミウム負極板とを組み合わせたNi−Cd電池においては、電解液を注液した後すぐに封口することができないような場合に、完成したNi−Cd二次電池の電池電圧の低下を生じることがある。これは、アルカリ電解液を注液してから封口するまでに時間を要した場合に、ニッケル正極板の活物質表面だけでなく、セパレータ内へもコバルト酸化物の再析出が顕著になることにより、微小短絡が発生しやすくなり自己放電が加速されるためであると考えられる。
【0006】
本発明は、上記問題を解決しようとなされたものであって、電解液の注液から封口までの時間の長短にかかわらず、セパレータ内へのコバルト酸化物の再析出を抑制し、高い電池性能を有するニッケル−カドミウム二次電池の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係るNi−Cd二次電池の製造方法は、コバルト化合物を含むニッケル正極板と、活物質が酸化カドミウム状態のカドミウム負極板との組み合わせからなる電極体を準備し、有底筒状の外装体の内方に対し電極体を収納するステップと、電極体が収納された外装体の内方に電解液を注入するステップと、電解液が注入された外装体を封口するステップとを有する。そして、本発明に係るNi−Cd二次電池の製造方法では、電解液を注入するステップの実行の後の電極体および電解液を、封口するステップの実行までの間、酸化抑制雰囲気下で保持することを特徴とする。
【0008】
なお、上記において、「酸化抑制雰囲気下で保持する」とは、製造過程で注液後の電解液が曝される雰囲気(環境)が、従来の製造過程よりも注液後の電解液が酸化され難い雰囲気下にこれらを置くということを意味する。
また、本発明に係るNi−Cd二次電池の製造方法は、上記電解液を注入するステップの実行後の外装体内の電解液の温度を、封口するステップの実行までの間、常温(25[℃])以下に維持することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
上記のような問題は、コバルト化合物を含むニッケル正極板および未水和状態のカドミウム負極板とを組み合わせた場合に顕著に発生し、例えば、水和処理を事前に施したカドミウム負極板を用いた場合には、上記問題は発生しない。そこで、上記事実および問題のNi−Cd二次電池を調査した結果から、本発明者等は上記問題が発生するメカニズムを以下のように考察した。
【0010】
未水和状態のカドミウム負極板を用いたNi−Cd二次電池の製造では、アルカリ電解液を注液したとき、酸化カドミウムとアルカリ電解液との反応により反応熱が発生する。そして、発生した反応熱により注液したアルカリ電解液の温度が上昇し、ニッケル正極板とアルカリ電解液との間での反応によるコバルトイオンの溶出も促進されることになる。この状態が長時間続く場合には、ニッケル正極板からアルカリ電解液に対して過度のコバルトイオンが溶出することになる。
【0011】
そして、アルカリ電解液を注液してから封口するまでに時間を要すると、上述のように、過度に溶出したコバルトイオンがセパレータ中でアルカリ電解液中および空気中の酸素と反応し、セパレータ中でコバルト酸化物の再析出が促進されることになる。
即ち、セパレータ中の過度の量のコバルト酸化物の再析出の原因は、酸化カドミウムの水和反応によるニッケル正極板からのコバルトイオンの過度の溶出と、注液してから封口までの時間を要したことによりコバルトイオンが酸化される酸化雰囲気下に長時間置かれたこと、という2つの条件が重なったためであると考えられる。
【0012】
そこで、本発明に係るNi−Cd二次電池の製造方法では、外装体に収納された状態の電極体および電解液を、封口するまでの間、酸化抑制雰囲気下で保持するので、その間におけるセパレータ中へのコバルト酸化物の再析出が抑制される。即ち、電極体が収納された外装体内に電解液を注液すると、カドミウム負極板における酸化カドミウムから水酸化カドミウムへの変化に伴う反応熱が発生するが、本発明に係る製造方法では、上記保持期間での雰囲気を酸化抑制雰囲気としているので、上述の関係に基づき、たとえ上記のような反応熱が発生した場合にも、セパレータ内へのコバルト酸化物の再析出が抑制されることになる。
【0013】
また、本発明に係る他のNi−Cd二次電池の製造方法では、電解液を注入するステップが実行された後、封口するステップが実行されるまでの間の電解液の温度を、常温(25[℃])以下に維持する、という方法を採用することができる。ここで、常温以下に維持するのは、電解液そのものの温度であり、雰囲気温度を常温以下にすることを意図するものではない。
【0014】
水和処理を事前に施したカドミウム負極板を用いたNi−Cd二次電池の製造方法の場合、水和熱が発生せず上記問題を生じることがないことから、水和処理を施したカドミウム負極板を用いた電池の製造方法と同様の状態、即ち注液後の電解液の温度を常温以下とすることで、ニッケル正極板からの過度のコバルトイオンの溶出を抑制することができる。このため、セパレータ中への過度の量のコバルト酸化物の再析出を抑制することができる。
【0015】
以上のように、本発明に係る上記の何れかの製造方法、あるいは両製造方法を採用する場合には、電解液の注液から封口までの時間の長短にかかわらず、セパレータ内への水酸化コバルトの再析出を抑制し、高い電池性能を有するNi−Cd二次電池の製造を行なうことができる。
上記本発明に係るNi−Cd二次電池の製造方法は、次のようなバリエーション(「酸化抑制雰囲気下に保持する」および「電解液の温度を常温以下に維持する」の具体的手段)を採用することが可能である。
【0016】
・上記本発明に係るNi−Cd二次電池の製造方法では、電解液を注入するステップが実行された後、封口するステップの実行までの間の外装体を、5[℃]以下の温度雰囲気下で保管する、という方法を採用することもできる。このようにすることで、ニッケル正極板からの過度のコバルトイオンの溶出を抑制することができ、さらにセパレータ中へのコバルト酸化物の再析出を効果的に抑制できる。特に、本バリエーションの条件を採用する場合には、外装体に電解液を注液後、時間をあけずに封口するのと殆ど変わらない電池性能を確保することができる。
【0017】
・上記本発明に係るNi−Cd二次電池の製造方法では、酸化抑制雰囲気下で電解液を注入するステップを実行する、という方法を採用することもできる。このように酸化抑制雰囲気下で電解液の注入を実行すれば、セパレータ中でのコバルト酸化物の再析出を一層抑制する、という観点から望ましい。
なお、電解液を注液する際での酸化抑制雰囲気の具体例としては、例えば、窒素ガスが充填された雰囲気や、減圧雰囲気などをあげることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下では、本発明を実施するための最良の形態について、一例を示して説明する。なお、以下の説明で用いる実施の形態は、本発明の構成および効果を分かりやすく説明するために用いる一例であって、本発明は、その本質的な特徴部分以外、何ら以下の形態に限定を受けるものではない。
1.Ni−Cd二次電池の製造方法の概要
本実施の形態に係るNi−Cd二次電池の製造方法の概要について、図1および図2を用い説明する。
(a)電極体の作製
図示を省略しているが、本実施の形態に係るNi−Cd二次電池の製造方法では、次のような工程を経て作製された電極体2を用いる。
【0019】
(a1)ニッケル正極板の作製
まず、活物質としての水酸化ニッケルと、活物活性化剤としての金属コバルトおよび水酸化コバルトとを、それぞれ92[質量部]、5.5[質量部]、2.5[質量部]の割合で混合する。次に、結着剤としてのヒドロキシプロピルセルロース(HPC)0.05[質量部]を33[質量部]の水に溶解させて作製し、この溶液に上記活物質などの混合物を加えて混練する。さらに、この混練物に対して結着剤としてのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)0.7[質量部]を加えて、再度混練し正極スラリーを作製する。
【0020】
正極スラリーを導電性基板であるニッケルスポンジに対して充填し、乾燥および圧延を施すことでニッケル正極板が作製される。
(a2)カドミウム負極板の作製
まず、活物質としての酸化カドミウムと金属カドミウムと、活物質水和防止剤としてのリン酸水素二ナトリウムとを、それぞれ75[質量部]、25[質量部]、1[質量部]の割合で混合する。次に、 結着剤としてのヒドロキシプロピルセルロース(HPC)0.05[質量部]を33[質量部]の水に溶解させて作製し、この溶液に上記活物質などの混合物を加えて混練する。混練により作製された負極ペーストをニッケルメッキ穿孔鋼鈑上に塗着っせ、これを乾燥することでカドミウム負極板が作製される。
【0021】
(a3)電極体2の作製
上記のように作製されたニッケル正極板とカドミウム負極板とを、その間にセパレータを挟んで対向配置し、これを渦巻状にして電極体2を作製する。
(b)外装缶1への電極体2の収納
図1(a)に示すように、上記のようにして作製された電極体2の巻回上下端のそれぞれに、正極集電板3および負極集電板4を接合する。正極集電板3は、円板状の本体部分でニッケル正極板の導電性基板と接合されており、短冊状のリード部3aが一部から延出された構造となっている。負極集電板4は、円板状をしており、カドミウム負極板の導電性基板と接合されている。
【0022】
上記のような外装缶1と電極体2とを準備し、外装缶1の開口部1aから電極体2を収納する。
電極体2が外装缶1の内方に収納された状態で、負極集電板4と外装缶1の缶底面との缶を接合する。接合には、抵抗溶接やレーザ溶接を用いることができる。
(c)縮径ステップ
図1(b)に示すように、電極体2が収納された状態の外装缶1に対し、その外壁面から径方向内側に向けて縮径加工を施し、これにより外装缶1の外壁面には縮径部1bが形成される。ここで、縮径加工を施すのは、外装缶1における正極集電板3の本体部分が収納された領域のすぐ上の部分であり、外装缶1の外周面からコマ状のジグを用い塑性加工により行う。
【0023】
なお、図1(b)では、図示を省略しているが、正極集電板3と外装缶1の内壁面との間にはリング状の絶縁体が挿入されている。
(d)封口体5の取り付け
図1(c)に示すように、外装缶1の開口部1aから外方に出ている正極集電板3のリード部3aの先端付近に封口体5を接合する。封口体5は、全体が外装缶1の開口部1aの内側形状に合致する円盤状をしており、2枚の浅皿状の板体51、52を向かい合わせに接合して形成されている。そして、内方には、弁機構が備えられており(不図示)、弁機構が収納された内方空間と外方とを繋ぐように板体51、52の各々には、孔5aが設けられている(板体52に設けられた孔については、図示の都合上省略)。
【0024】
正極集電板3のリード部3aと封口体5との接合は、板体5の主面の一部にリード部3aの先端を抵抗溶接することでなされている。
(e)電解液の注液
図2(a)に示すように、電極体2が収納された外装缶1の内方に対し、アルカリ性の電解液を室温雰囲気下(25[℃])で注液する。電解液の注液を受けて、電極体2では、次のような反応が生じる。
【0025】
(e1)カドミウム負極板
負極活物質の酸化カドミウムがアルカリ性の電解液との反応により水和され、水酸化カドミウムへと変化する(化成処理が行われる)。
(e2)ニッケル正極板
活物質に含まれているコバルト化合物からアルカリ電解液中へとコバルトイオンが溶出する。溶出したコバルトイオンは、コバルト酸化物としてニッケル正極板の活物質表面に再析出する。
(f)封口体5を用いた封口
図2(a)に示すように、縮径加工により外装缶1の内壁面は内側に向かって張出した状態となっているが(縮径部1c)、この縮径部1cに封口体5の外縁部分を載置し、その状態で外装缶1の開口部近傍をカシメ加工する(図2(b)に示すカシメ加工部1d)。なお、封口体5と外装缶1の内壁面との間には、シール性の確保および絶縁性の確保のために、ガスケットが介挿される(図示を省略)。
【0026】
以上のようにして、Ni−Cd二次電池10が完成する。
2.注液から封口までの保管雰囲気
上記のようにNi−Cd二次電池10の製造がなされるのであるが、本実施の形態に係る製造方法では、注液後すぐに封口を実施しない場合も考慮し、次のような方策を講じる。
【0027】
図2(a)に示す注液を実行した後、図2(b)に示す封口を行うまでの間の電極体2および電解液が収納された外装缶1を5[℃]以下の温度雰囲気下で保管する。
3.本実施の形態に係るNi−Cd二次電池10の製造方法を採用することにより得られる優位性
上述のように、図2(a)に示すように外装缶1の内方に電解液を注液すると、 負極活物質の酸化カドミウムがアルカリ性の電解液との反応により水和され、水酸化カドミウムへと変化する。このとき、負極活物質からは反応熱が発生する。
【0028】
一方、ニッケル正極板と電解液との間では、ニッケル正極板の活物質に含まれているコバルト化合物からアルカリ性の電解液中へとコバルトイオンが溶出する、という反応が発生する。溶出したコバルトイオンは、コバルト酸化物としてニッケル正極板の活物質表面に再析出する。ここで、電解液を注液した後、時間をあけずに封口する場合には、実質的な問題を生じることはないのであるが、常温程度(25[℃]程度)以上の温度環境下で封口までの放置期間が長期にわたる場合には、上記反応熱の影響を受けて、電解液に対するコバルトイオンの溶出が過度に生じ、セパレータ中に過度の両のコバルト酸化物の再析出が生じる。従来の製造方法を採用する場合には、このような問題を生じる可能性があり、品質の低いNi−Cd二次電池が生じてしまうことがあった。
【0029】
これに対して、本実施の形態に係るNi-Cd二次電池の製造方法では、電解液を注液した後、封口するまでの間の電極体2および電解液が収納された外装缶1を、5[℃]以下の温度環境下で保管するので、カドミウム負極板の水和の進行に伴い発生する反応熱が、ニッケル正極板と電解液との間の反応に影響を及ぼし難い。よって、本実施の形態に係る製造方法を採用する場合には、封口までの間に、ニッケル正極板から電解液に対し過度にコバルトイオンが溶出することを抑制できる。さらに、5[℃]以下の温度環境に保管しているため、電解液中や空気中の酸素とコバルトイオンとの反応を抑制でき、セパレータ中へのコバルト酸化物の再析出を抑制できる。
【0030】
従って、本実施の形態に係る製造方法を採用して製造したNi−Cd二次電池10では、高い電池性能を有する。
4.優位性の確認実験
次に、上記本実施の形態に係る製造方法の優位性を確認するために行った実験の結果について説明する。
(実施例)
実施例に係る電池サンプルについては、図2(a)の状態、即ち、電解液を注液した後の製造中間品を、5[℃]の温度雰囲気下で30[min.]間放置し、封口を行い作製した。なお、実施例に電池サンプルについて、3サンプル準備した。
(比較例1)
比較例1に係る電池サンプルについては、電解液を注液した後の製造中間品を、20[℃]の温度雰囲気下で30[min.]放置し、封口を行い作製した。比較例1に係る電池サンプルについても、3サンプル準備した。
(比較例2)
比較例2に係る電池サンプルについては、電解液を注液した後、すぐに封口を行い作製した。比較例2に係る電池サンプルについても、3サンプル準備した。
(実験)
上記実施例、比較例1および比較例2の各々に係る電池サンプルを、初回活性化のための充電を行った後、25[℃]の雰囲気下で1ヶ月放置した。そして、1ヶ月経過後の電池電圧を測定し、その結果を(表1)に示す。なお、初回活性化のための充電においては、実施例、比較例1および比較例2の各々の電池サンプルの電池電圧が同一となるようにした。
【0031】
【表1】


(表1)に示すように、封口までの間、20[℃]の温度雰囲気下で放置した比較例1に係る電池サンプルでは、1ヶ月経過後の平均電池電圧が1.046[V]まで低下していた。なお、比較例1に係る電池サンプルの作製においては、電解液を注液した後の製造中間品を、20[℃]の温度雰囲気下で30[min.]放置したが、このときの電解液の温度については、常温(25[℃])よりも高くなっていた。これは、上記のように、注液された電解液と酸化カドミウムとの反応により発生する熱によるものである。
【0032】
一方、実施例および比較例2に係る電池サンプルでは、1.211[V]および1.210[V]の電池電圧が維持されていた。比較例1に係る電池サンプルでは、1ヶ月放置により、電池電圧が0.176[V]低下したのに対し、実施例に係る電池サンプルでは、0.011[V]しか低下せず、比較例2に係る電池サンプルと同等の電池性能を維持していた。
【0033】
以上より、実施例に係る電池サンプルでは、セパレータ内への水酸化コバルトの再析出が効果的に抑制され、電解液を注入した後すぐに封口した比較例2に係る電池サンプルと同等の電池性能を有する。このことから、実施例のように電解液を注入した後、封口を行うまでの製造中間品を5[℃]以下の温度雰囲気下で保管し、この間における電解液の温度を常温(25[℃])以下に維持することで、電池性能の低下を抑制することができることが分かる。
【0034】
5.その他の事項
上記実施の形態では、電解液を注液した後の製造中間品を封口するまでの間、5[℃]の温度雰囲気下で保管することとしたが、注液後の電解液の温度が常温(25[℃])以下とすることができるような温度雰囲気下で保管すれば、温度の差異に応じて、電解液へのコバルトイオンの過度の溶出を抑制することができ、完成後における電池性能の低下を抑制することができる。なお、図2(a)に示す電解液の注液後であれば、注液された電解液が凍結する温度として保管してもよい。電解液の注液後におけるコバルトイオンの過度の溶出を抑制すべく、言換えれば、外装缶1内での過度の化学反応の進行を抑制できれば温度雰囲気下で製造中間品を保管することとすればよい。
【0035】
また、上記実施の形態に係る製造方法では、電解液の注液に際しては特に従来技術との差異を設けなかったが、電解液の注液を開始する時点から封口が終了するまでの間の工程を、例えば、窒素ガスが充填された容器内、あるいは減圧雰囲気下で実行することとしても、セパレータ内への水酸化コバルトイオンの再析出を効果的に抑制することができる。即ち、これらの方策を講じれば、例え電解液中に過度のコバルトイオンが溶出された場合にも、その酸化が抑制される。
【0036】
なお、上記実施の形態では、円筒形のNi−Cd二次電池の製造方法を一例としたが、電池の外観形状については、これに何らの限定を受けるものではなく、角形の外観形状を有するNi−Cd二次電池の製造にも上記製造方法を適用することができ、その場合にも同様の効果を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、製造工程のフレキシビリティを確保しながら、高い電池性能を有するニッケル-カドミウム二次電池を製造するのに有効な技術である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】実施の形態に係るNi−Cd二次電池10の製造過程の一部を模式的に示す斜視工程図である。
【図2】実施の形態に係るNi−Cd二次電池10の製造過程の一部を模式的に示す斜視工程図である。
【符号の説明】
【0039】
1.外装缶
2.電極体
3.正極集電板
4.負極集電板
5.封口体
10.Ni−Cd二次電池
51、52.板体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コバルト化合物を含むニッケル正極板と、活物質が酸化カドミウム状態のカドミウム負極板との組み合わせからなる電極体を準備し、
有底筒状の外装体の内方に対し、前記電極体を収納するステップと、
前記電極体が収納された前記外装体の内方に電解液を注入するステップと、
前記電解液が注入された前記外装体を封口するステップとを有し、
前記電解液を注入するステップの実行の後の前記電極体および前記電解液を、前記封口するステップの実行までの間、酸化抑制雰囲気下で保持する
ことを特徴とするニッケル−カドミウム二次電池の製造方法。
【請求項2】
コバルト化合物を含むニッケル正極板と、活物質が酸化カドミウム状態のカドミウム負極板との組み合わせからなる電極体を準備し、
有底筒状の外装体の内方に対し、前記電極体を収納するステップと、
前記電極体が収納された前記外装体の内方に電解液を注入するステップと、
前記電解液が注入された前記外装体を封口するステップとを有し、
前記電解液を注入するステップが実行された後の前記電解液の温度を、前記封口するステップの実行までの間、常温以下に維持する
ことを特徴とするニッケル−カドミウム二次電池の製造方法。
【請求項3】
コバルト化合物を含むニッケル正極板と、活物質が酸化カドミウム状態のカドミウム負極板との組み合わせからなる電極体を準備し、
有底筒状の外装体の内方に対し、前記電極体を収納するステップと、
前記電極体が収納された前記外装体の内方に電解液を注入するステップと、
前記電解液が注入された前記外装体を封口するステップとを有し、
前記電解液を注入するステップが実行された後の前記電解液の温度を、前記封口するステップの実行までの間、常温以下に維持し、且つ、酸化抑制雰囲気下に保持する
ことを特徴とするニッケル−カドミウム二次電池の製造方法。
【請求項4】
前記電解液を注入するステップが実行された後の前記外装体を、前記封口するステップの実行までの間、5℃以下の温度雰囲気下で保管することにより酸化抑制を行う
ことを特徴とする請求項1または3に記載のニッケル−カドミウム二次電池の製造方法。
【請求項5】
前記電解液を注入するステップを、酸化抑制雰囲気下で実行する
ことを特徴とする請求項1から4の何れかに記載のニッケル−カドミウム二次電池の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2008−251408(P2008−251408A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−93025(P2007−93025)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】