説明

ニッケルマンガン複合水酸化物粒子とその製造方法、非水系電解質二次電池用正極活物質とその製造方法、ならびに、非水系電解質二次電池

【課題】高容量、高出力かつサイクル特性が良好な非水系電解質二次電池を得るための、小粒径で均一な粒径を有し、中空構造を有するリチウムニッケルマンガン複合酸化物からなる正極活物質の前駆体となる、ニッケルマンガン複合水酸化物粒子を提供する。
【解決手段】晶折反応によってニッケルマンガン複合水酸化物粒子を得る際に、少なくともNi化合物とMn化合物を含み、ニッケル、マンガンおよびコバルトと錯イオンを形成する錯イオン形成剤を含まない核生成用水溶液を、液温が60℃以上、液温25℃基準のpH値が11.5〜13.5となるように制御し、核生成を行った後、該形成された核を含有する粒子成長用水溶液を、液温が60℃以上、液温25℃基準のpH値が9.5〜11.5、かつ核生成工程におけるpH値よりも低いpH値となるように制御して前記核を成長させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系電解質二次電池用の正極活物質の前駆体であるニッケルマンガン複合水酸化物粒子とその製造方法、このニッケルマンガン複合水酸化物粒子を原料とする非水系電解質二次電池用正極活物質とその製造方法、および、この非水系電解質二次電池用正極活物質を正極材料として用いる非水系電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やノート型パソコンなどの携帯電子機器の普及に伴い、高いエネルギ密度を有する小型で軽量な非水系電解質二次電池の開発が強く望まれている。また、モータ駆動用電源、特に輸送機器用電源の電池として高出力の二次電池の開発が強く望まれている。
【0003】
このような要求を満たす二次電池として、リチウムイオン二次電池がある。リチウムイオン二次電池は、負極、正極、電解液などで構成され、負極および正極の活物質として、リチウムを脱離および挿入することが可能な材料が用いられている。
【0004】
リチウムイオン二次電池については、現在研究開発が盛んに行われているところであるが、その中でも、層状またはスピネル型のリチウム金属複合酸化物を正極材料に用いたリチウムイオン二次電池は、4V級の高い電圧が得られるため、高いエネルギ密度を有する電池として実用化が進んでいる。
【0005】
かかるリチウムイオン二次電池の正極材料として、現在、合成が比較的容易なリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO2)や、コバルトよりも安価なニッケルを用いたリチウムニッケル複合酸化物(LiNiO2)、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LiNi1/3Co1/3Mn1/32)、マンガンを用いたリチウムマンガン複合酸化物(LiMn24)、リチウムニッケルマンガン複合酸化物(LiNi0.5Mn0.52)などのリチウム複合酸化物が提案されている。
【0006】
これらの正極活物質の中でも、近年、埋蔵量の少ないコバルトを用いずに熱安定性に優れて高容量であるリチウムニッケルマンガン複合酸化物(LiNi0.5Mn0.52)が注目されている。リチウムニッケルマンガン複合酸化物(LiNi0.5Mn0.52)は、リチウムコバルト複合酸化物やリチウムニッケル複合酸化物などと同じく層状化合物であり、遷移金属サイトにおいてニッケルとマンガンを基本的に組成比1:1の割合で含んでいる(非特許文献1参照)。
【0007】
ところで、リチウムイオン二次電池が良好な性能、すなわち、高出力、低抵抗、高サイクル特性、高容量などの特性を得る条件として、正極材料には、均一で適度な粒径を有する粒子によって構成されていることが要求される。
【0008】
これは、粒径が大きく比表面積が低い正極材料を使用すると、電解液との反応面積が十分に確保できず、反応抵抗が上昇して高出力の電池が得られないためである。また、粒度分布が広い正極材料を使用すると、電極内で粒子に印加される電圧が不均一となることに起因して、充放電を繰り返すと微粒子が選択的に劣化し、容量が低下してしまうためである。
【0009】
リチウムイオン二次電池の高出力化を目指すためには、リチウムイオンの正極負極間移動距離を短くすることが有効であることから、正極板を薄く製造することが望まれており、この観点からも小粒径の正極材料を用いることが有用である。
【0010】
したがって、正極材料の性能を向上させるためには、正極活物質であるリチウムニッケルマンガン複合酸化物について、小粒径で粒径が均一な粒子となるように製造することが重要となる。
【0011】
リチウムニッケルマンガン複合酸化物は、通常、複合水酸化物から製造されるので、リチウムニッケルマンガン複合酸化物を小粒径で粒径が均一な粒子とする上では、その原料となる複合水酸化物として、小粒径で粒径の均一なものを使用することが必要である。
【0012】
つまり、正極材料の性能を向上させて、最終製品である高性能のリチウムイオン二次電池を製造する上では、正極材料を形成するリチウムニッケルマンガン複合酸化物の原料となる複合水酸化物として、小粒径で狭い粒度分布を有する粒子からなる複合水酸化物を使用することが必要となる。
【0013】
リチウムニッケルマンガン複合酸化物の原料として用いるニッケルマンガン複合水酸化物としては、たとえば、特許文献1には、実質的にマンガン:ニッケルが1:1である複合水酸化物粒子であって、平均粒径が5〜15μm、タップ密度が0.6〜1.4g/ml、バルク密度が0.4〜1.0g/ml、比表面積が20〜55m2/g、含有硫酸根が0.25〜0.45質量%であり、かつ、X線回折において15≦2θ≦25にあるピークの最大強度(I0)と、30≦2θ≦40にあるピークの最大強度(I1)との比(I0/I1)が、1〜6であることを特徴とする、マンガンニッケル複合水酸化物粒子が提案されている。また、その二次粒子表面および内部の構造は、一次粒子によるひだ状壁により網状を形成し、そのひだ状壁で囲まれた空間が比較的大きいとされている。
【0014】
さらに、その製造方法として、マンガンイオンの酸化の程度を一定の範囲に制御しつつ、pH値が9〜13の水溶液中で、錯化剤の存在下、マンガンとニッケルの原子比が実質的に1:1であるマンガン塩とニッケル塩の混合水溶液を、アルカリ溶液と適当な攪拌条件下で反応させて生じる粒子を共沈殿させることが開示されている。
【0015】
しかしながら、特許文献1のリチウムマンガンニッケル複合酸化物とその製造方法においては、粒子の構造について検討されているものの、開示されている電子顕微鏡写真からも明らかなように、得られる粒子には粗大粒子と微粒子が混在しており、粒径の均一化についての検討はなされていない。
【0016】
一方、リチウム複合酸化物の粒度分布に関して、たとえば、特許文献2には、粒度分布曲線において、その累積頻度が50%の粒径を意味する平均粒径D50が3〜15μm、最小粒径が0.5μm以上、最大粒径が50μm以下の粒度分布を有する粒子であり、かつ、その累積頻度が10%のD10と90%のD90との関係において、D10/D50が0.60〜0.90、D10/D90が0.30〜0.70であるリチウム複合酸化物が開示されている。そして、このリチウム複合酸化物は、高い充填性を有し、充放電容量特性および高出力特性に優れ、充放電負荷の大きい条件下であっても劣化しにくいので、このリチウム複合酸化物を用いれば、優れた出力特性を持ち、かつ、サイクル特性の劣化の少ないリチウムイオン非水電解液二次電池を得ることができるとの記載もある。
【0017】
しかしながら、特許文献2に開示されているリチウム複合酸化物は、平均粒径3〜15μmに対して、最小粒径が0.5μm以上、最大粒径が50μm以下となっていることから微細粒子および粗大粒子が含まれている。そして、上記D10/D50およびD10/D90で規定される粒度分布では、粒径分布の範囲が狭いとはいえない。つまり、特許文献2のリチウム複合酸化物は、粒径均一性が十分に高い粒子であるとはいえず、かかるリチウム複合酸化物を採用しても、正極材料の性能向上は望めず、十分な性能を有するリチウムイオン非水電解液二次電池を得ることは難しい。
【0018】
また、粒度分布を改善することを目的とした、複合酸化物の原料となる複合水酸化物の製造方法についても、提案がなされている。特許文献3では、非水電解質電池用正極活物質の製造方法において、2種以上の遷移金属塩を含む水溶液を、または異なる遷移金属塩の2種以上の水溶液とアルカリ溶液とを同時に反応槽に投入し、還元剤を共存させながら、または不活性ガスを通気しながら共沈させることにより、前駆体である水酸化物または酸化物を得る方法が提案されている。
【0019】
しかし、特許文献3の技術は、生成した結晶を分級しながら回収するものであるため、均一な粒径の生成物を得るためには、製造条件を厳密に管理する必要があると考えられ、工業的規模の生産は難しい。しかも、大きな粒径の結晶粒子は得ることができても、小径の粒子を得ることは難しい。
【0020】
さらに、電池を高出力化するためには、粒径を変えずに反応面積を大きくすることが効果的である。すなわち、粒子を多孔質あるいは粒子構造を中空化することで、電池反応に寄与する表面積を大きくすることができ、反応抵抗を低減することが可能となる。
【0021】
たとえば、特許文献4には、少なくとも層状構造のリチウム遷移金属複合酸化物を有する非水電解液二次電池用正極活物質であって、前記リチウム遷移金属複合酸化物は、外側の外殻部と、該外殻部の内側の空間部とを有する中空粒子からなるリチウム遷移金属複合酸化物であることを特徴とする非水電解液二次電池用正極活物質が開示されている。そして、この非水電解液二次電池用正極活物質は、サイクル特性、出力特性、熱安定性などの電池特性に優れ、リチウムイオン二次電池に好適に用いられるとの記載もある。
【0022】
しかしながら、特許文献4に開示されている正極活物質は、中空粒子であることから、中実粒子より比表面積の増加は期待されるものの粒径に関する記載はない。したがって、比表面積の増加による電解液との反応性の向上は期待できるが、微粒子化による上記リチウムイオンの移動距離に対する効果は不明であり、十分な出力特性の改善は期待できない。さらに、粒度分布に関しては、従来の正極活物質と同等と考えられるため、電極内での印加電圧の不均一性による微粒子の選択的劣化が発生して、電池容量が低下する可能性が高い。
【0023】
以上のように、現在のところ、リチウムイオン二次電池の性能を十分に向上させ得るリチウム複合酸化物や、かかる複合酸化物の原材料となる複合水酸化物も開発されていない。また、複合水酸化物を製造する方法についても種々検討されているものの、現在のところ、工業的規模において、リチウムイオン二次電池の性能を十分に向上させ得る複合酸化物の原料となる複合水酸化物を製造することができる方法は開発されていない。つまり、小粒径で粒径均一性が高く、かつ、反応面積が大きい、たとえば中空構造を有する正極活物質は開発されておらず、このような正極活物質とその工業的な製造方法の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0024】
【特許文献1】特開2004−210560号公報
【特許文献2】特開2008−147068号公報
【特許文献3】特開2003−86182号公報
【特許文献4】特開2004−253174号公報
【非特許文献】
【0025】
【非特許文献1】Chemistry Letters, Vol.30(2001), No.8, p.744
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
本発明はかかる問題点に鑑み、原料として用いると、小粒径で粒径均一性が高く、中空構造により高比表面積となっているリチウムニッケルマンガン複合酸化物が得られる、ニッケルマンガン複合水酸化物粒子を提供することを目的とする。
【0027】
また、電池に用いた場合に測定される正極抵抗の値を低減することができる非水系二次電池用正極活物質とともに、該正極活物質を用いた高容量でサイクル特性が良好で、高出力が得られる非水系電解質二次電池を提供することを目的とする。
【0028】
さらに、本発明においては、上記ニッケルマンガン複合水酸化物粒子および正極活物質の工業的な製造方法を提供することも目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0029】
本発明者は、リチウムイオン二次電池の正極材料として用いた場合に、優れた電池特性を発揮できるリチウムニッケルマンガン複合酸化物について鋭意検討した結果、原料となるニッケルマンガン複合水酸化物を、粒度分布が制御され、微細一次粒子からなる中心部と中心部の外側に該一次粒子よりも大きな一次粒子からなる外殻部を有する構造とすることで、上記小粒径で粒径均一性が高く、中空構造を有したリチウムニッケルマンガン複合酸化物が得られるとの知見を得た。また、該ニッケルマンガン複合水酸化物は、晶析時のpH制御により核生成工程と粒子成長工程に分離するとともに、各工程の水溶液を、ニッケル、マンガンおよびコバルトと錯イオンを形成する錯イオン形成剤を実質的に含まないものとすることで得られるとの知見を得た。本発明は、これらの知見に基づいて完成されたものである。
【0030】
すなわち、本発明のニッケルマンガン複合水酸化物粒子の製造方法は、晶析反応によって一般式:NixMnyCozt(OH)2+a(x+y+z+t=1、0.3≦x≦0.7、0.1≦y≦0.55、0≦z≦0.4、0≦t≦0.1、0≦a≦0.5、Mは、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の添加元素)で表されるニッケルマンガン複合水酸化物粒子を製造する製造方法であって、
少なくともニッケルを含有する金属化合物およびマンガンを含有する金属化合物を含み、ニッケル、マンガンおよびコバルトと錯イオンを形成する錯イオン形成剤を実質的に含まない核生成用水溶液を、液温が60℃以上、かつ、液温25℃を基準として測定するpH値が11.5〜13.5となるように制御し、微細一次粒子からなる中心部である核を生成する核生成工程と、
前記核生成工程において形成された核を含有し、ニッケル、マンガンおよびコバルトと錯イオンを形成する錯イオン形成剤を実質的に含まない粒子成長用水溶液を、液温が60℃以上、液温25℃を基準として測定するpH値が9.5〜11.5、かつ、核生成工程におけるpH値よりも低いpH値となるように制御して、前記核の外面に該微細一次粒子よりも大きな板状または針状の一次粒子からなる外殻部を成長させる粒子成長工程とを備えることを特徴とする。
【0031】
前記核生成工程および粒子成長工程においては、反応槽内の酸素濃度を10容量%以下に制御することが好ましい。
【0032】
前記粒子成長用水溶液として、前記核生成工程が終了した前記核生成用水溶液のpH値を調整して形成されたものを用いることができる。または、前記粒子成長用水溶液として、前記核生成工程において形成された核を含有する水溶液を、該核を形成した核生成用水溶液とは異なる、ニッケル、マンガンおよびコバルトと錯イオンを形成する錯イオン形成剤を実質的に含まず、液温が60℃以上、液温25℃を基準として測定するpH値が9.5〜11.5、かつ、核生成工程におけるpH値よりも低いpH値となるように制御された成分調整用水溶液に対して添加したものを用いることもできる。
【0033】
前記粒子成長用水溶液の液体成分の一部を除去した後に、前記粒子成長工程を開始することが好ましい。
【0034】
また、前記1種以上の添加元素を含むニッケルマンガン複合水酸化物を作製する際には、前記核生成工程および粒子成長工程において、ニッケルを含有する金属化合物およびマンガンを含有する金属化合物を含み、ニッケル、マンガンおよびコバルトと錯イオンを形成する錯イオン形成剤を実質的に含まない混合水溶液に、前記1種以上の添加元素を含む塩を溶解させた水溶液を添加して、前記核生成用水溶液あるいは前記粒子成長用水溶液とすることができる。
【0035】
あるいは、前記粒子成長工程で得られたニッケルマンガン複合水酸化物に、1種以上の前記添加元素を含む化合物を被覆してもよい。被覆の方法としては、ニッケルマンガン複合水酸化物を懸濁した液中に、所定のpHとなるように制御しつつ、前記1種以上の添加元素を含む水溶液を添加して、ニッケルマンガン複合水酸化物表面に析出させる方法、ニッケルマンガン複合水酸化物と前記1種以上の添加元素を含む塩を懸濁したスラリーを噴霧乾燥させる方法、あるいは、ニッケルマンガン複合水酸化物と前記1種以上の添加元素を含む塩を固相法で混合する方法などがある。特に、添加元素が、ニッケル、マンガンおよびコバルトと錯イオンを形成する錯イオン形成剤以外の錯イオン形成剤、たとえば、上記の範囲に各反応水溶液のpH値を制御するためのpH調整剤との間で錯イオンを形成する場合には、この被覆手段による必要がある。
【0036】
本発明のニッケルマンガン複合水酸化物粒子は、一般式:NixMnyCozt(OH)2+a(x+y+z+t=1、0.3≦x≦0.7、0.1≦y≦0.55、0≦z≦0.4、0≦t≦0.1、0≦a≦0.5、Mは、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の添加元素)で表され、複数の一次粒子が凝集して形成された略球状の二次粒子であり、該二次粒子は、平均粒径が3〜7μmであり、粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90−d10)/平均粒径〕が0.55以下であり、微細一次粒子からなる中心部を有し、中心部の外側に該微細一次粒子よりも大きな板状または針状の一次粒子からなり、厚さが0.3〜3μmである外殻部を有することを特徴とする。
【0037】
前記微細一次粒子は、平均粒径0.01〜0.3μmであり、前記微細一次粒子よりも大きな板状または針状の一次粒子は、平均粒径0.3〜3μmであることが好ましく、前記外殻部の厚さは、前記二次粒子の粒径に対する比率で10〜45%であることが好ましい。
【0038】
また、前記1種以上の添加元素が、前記二次粒子の内部に均一に分布および/または該二次粒子の表面を均一に被覆していることが好ましい。
【0039】
なお、この本発明のニッケルマンガン複合水酸化物粒子は、上記の本発明に係る複合水酸化物粒子の製造方法によって生成されたものであることが好ましい。
【0040】
本発明の正極活物質の製造方法は、一般式:Li1+uNixMnyCozt2(−0.05≦u≦0.50、x+y+z+t=1、0.3≦x≦0.7、0.1≦y≦0.55、0≦z≦0.4、0≦t≦0.1、Mは、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の添加元素)で表され、層状構造を有する六方晶系の結晶構造を有するリチウムニッケルマンガン複合酸化物からなる正極活物質の製造方法であって、
本発明のニッケルマンガン複合水酸化物粒子を、105〜750℃の温度で熱処理する熱処理工程と、前記熱処理後の粒子に対してリチウム化合物を混合して、リチウム混合物を形成する混合工程と、該混合工程で形成された前記混合物を、酸化性雰囲気中、800〜980℃の温度で焼成する焼成工程とを備えることを特徴とする。
【0041】
前記リチウム混合物は、該リチウム混合物に含まれるリチウム以外の金属の原子数の和とリチウムの原子数との比が、1:0.95〜1.5となるように調整されることが好ましい。
【0042】
また、前記焼成工程において、焼成前にあらかじめ350〜800℃の温度で仮焼を行うことが好ましい。
【0043】
さらに、前記焼成工程における酸化性雰囲気を18〜100容量%の酸素を含有する雰囲気とすることが好ましい。
【0044】
本発明の正極活物質は、一般式:Li1+uNixMnyCozt2(−0.05≦u≦0.50、x+y+z+t=1、0.3≦x≦0.7、0.1≦y≦0.55、0≦z≦0.4、0≦t≦0.1、Mは、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の添加元素)で表され、層状構造を有する六方晶系リチウム含有複合酸化物により構成されるリチウムニッケルマンガン複合酸化物からなる正極活物質であって、平均粒径が2〜8μmであり、粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90−d10)/平均粒径〕が0.60以下であり、比表面積が1〜2m2/gであり、粒子内部の中空部とその外側の外殻部で構成される中空構造を有し、該外殻部の厚さが0.5〜2.5μmであることを特徴とする。
【0045】
前記外殻部の厚さは、前記リチウムニッケルマンガン複合酸化物粒子の粒径に対する比率で5〜45%であることが好ましい。
【0046】
なお、この本発明に係る非水系電解質二次電池用正極活物質は、上記の本発明に係る正極活物質の製造方法によって生成されたものであることが好ましい。
【0047】
本発明の非水系電解質二次電池は、正極が、上記の非水系電解質二次電池用正極活物質によって形成されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0048】
本発明により、小粒径で粒径均一性が高く、中空構造により高比表面積であるリチウムニッケル複合酸化物からなる非水系電解質二次電池用の正極活物質を工業的に提供することが可能となる。この正極活物質を正極材料として用いることにより、高容量、高出力で、サイクル特性も良好である、優れた電池特性を備えた非水系電解質二次電池が得られる。
【0049】
本発明の正極活物質およびその前駆体としてのニッケルマンガン複合水酸化物粒子の製造方法は、いずれも容易で大規模生産に適したものであることから、その工業的価値はきわめて大きいといえる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】図1は、本発明のニッケルマンガン複合水酸化物を製造する工程の概略フローチャートである。
【図2】図2は、本発明のニッケルマンガン複合水酸化物を製造する他の工程の概略フローチャートである。
【図3】図3は、本発明のニッケルマンガン複合水酸化物から正極活物質であるリチウムニッケルマンガン複合酸化物を製造する工程の概略フローチャートである。
【図4】図4は、本発明のニッケルマンガン複合水酸化物の製造から、非水系電解質二次電池を製造するまでの概略フローチャートである。
【図5】図5は、本発明のニッケルマンガン複合水酸化物のSEM写真(観察倍率1,000倍)である。
【図6】図6は、本発明のニッケルマンガン複合水酸化物の断面SEM写真(観察倍率10,000倍)である。
【図7】図7は、本発明の正極活物質であるリチウムニッケルマンガン複合酸化物のSEM写真(観察倍率1,000倍)である。
【図8】図8は、本発明の正極活物質であるリチウムニッケルマンガン複合酸化物の断面SEM写真(観察倍率10,000倍)である。
【図9】図9は、電池評価に使用したコイン型電池の概略断面図である。
【図10】図10は、インピーダンス評価の測定例と解析に使用した等価回路の概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0051】
本発明は、(1)非水系電解質二次電池用正極活物質の前駆体であるニッケルマンガン複合水酸化物粒子とその製造方法、(2)該ニッケルマンガン複合水酸化物粒子を原料に用いた非水系電解質二次電池用正極活物質とその製造方法、(3)該非水系電解質二次電池用正極活物質を正極に用いた非水系電解質二次電池に関する。
【0052】
非水系電解質二次電池の性能を向上させるためには、正極に採用される非水系電解質二次電池用正極活物質の影響が大きい。かかる優れた電池特性が得られる非水系電解質二次電池用正極活物質を得るためには、その粒径と粒度分布、および比表面積が重要な要因であり、所望の粒子構造を有し、かつ、所望の粒径と粒度分布に調整された正極活物質が好ましい。かかる正極活物質を得るためには、その原料であるニッケルマンガン複合水酸化物粒子として、所望の粒子構造を有し、かつ、所望の粒径と粒度分布のものを使用する必要がある。
【0053】
以下、上記(1)〜(3)の発明のそれぞれについて詳細に説明するが、最初に、本発明の最大の特徴である、ニッケルマンガン複合水酸化物粒子とその製造方法について説明する。
【0054】
(1−1)ニッケルマンガン複合水酸化物粒子
本発明のニッケルマンガン複合水酸化物粒子は、一般式:NixMnyCozt(OH)2+a(x+y+z+t=1、0.3≦x≦0.7、0.1≦y≦0.55、0≦z≦0.4、0≦t≦0.1、0≦a≦0.5、Mは、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の添加元素)で表され、複数の一次粒子が凝集して形成された略球状の二次粒子であり、該二次粒子は、平均粒径が3〜7μmであり、粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90−d10)/平均粒径〕が0.55以下であり、微細一次粒子からなる中心部を有し、中心部の外側に該微細一次粒子よりも大きな板状または針状の一次粒子からなり、厚さが0.3〜3μmである外殻部を有するものである。
【0055】
そして、上記複合水酸化物粒子は、本発明の中空構造を有する正極活物質の原料として特に適したものであるので、以下、本発明の正極活物質の原料に使用することを前提として説明する。
【0056】
(粒子構造)
本発明の複合水酸化物粒子は、図5に例示されるように、略球状の粒子である。具体的には、図6に例示されるように、複数の一次粒子が凝集して形成された略球状の二次粒子となっており、さらに詳細には、粒子内部は微細一次粒子からなる中心部を有し、中心部の外側に該微細一次粒子よりも大きな板状または針状の一次粒子からなる外殻部を有する構造を備えている。かかる構造により、本発明の正極活物質であるリチウムニッケルマンガン複合酸化物を形成する焼結工程において、粒子内へのリチウムの拡散が十分に行われるため、リチウムの分布が均一で良好な正極活物質が得られる。
【0057】
ここで、上記中心部は微細な一次粒子が集合した構造であるため、より大きく、厚みのある板状の一次粒子からなる外殻部と比較すると、上記焼成工程において、低温から焼結、収縮反応が始まる。その後、進行の遅い外殻に向かって焼結、収縮反応が進行するため、中心部に空間が生じる。これは、中心部の微細結晶が非常に反応活性が高く、収縮率も高いこと、また微細結晶はオストワルド成長により、外殻の大きな一次粒子に吸収されることから、中心部に十分大きな空間が形成される。これにより、焼成後に得られる正極活物質が中空構造となる。
【0058】
また、板状または針状の一次粒子がランダムな方向に凝集して二次粒子の外殻部を形成したものであれば、より好ましい。板状または針状の一次粒子がランダムな方向に凝集することで、一次粒子間にほぼ均一に空隙が生じて、リチウム化合物と混合して焼成するとき、溶融したリチウム化合物が二次粒子内へ行きわたり、リチウムの拡散が十分に行われるからである。さらに、ランダムな方向に凝集していることで、上記焼成工程における中心部の吸収も均等に生じることから、正極活物質内部に十分な大きさを有する空間を形成することができるので、この点からも好ましいといえる。
【0059】
上記焼成時の空間形成のため、上記微細一次粒子は、その平均粒径が0.01〜0.3μmであることが好ましく、0.1〜0.3μmであることがさらに好ましい。また、この微細一次粒子よりも大きな板状または針状の一次粒子は、その平均粒径が0.3〜3μmであることが好ましく、0.4〜1.5μmであることがさらに好ましく、0.4〜1.0μmであることが特に好ましい。前記微細一次粒子の平均粒径0.01μm未満であると、複合水酸化物粒子において十分な大きさの中心部が形成されないことがあり、0.3μmを超えると、上記中心部の吸収が十分でなく、焼成後に十分な大きさの空間が得られないことがある。一方、前記外殻部の板状または針状の一次粒子の平均粒径が、0.3μm未満であると、焼成時の焼結が低温化して焼成後に十分な大きさの空間が得られないことがあり、3μmを超えると、得られる正極活物質の結晶性を十分なのもとするために、焼成温度を高くする必要があり、上記二次粒子間で焼結が発生して、得られる正極活物質の粒径が上記範囲を超えることがある。
【0060】
さらに、前記微細一次粒子は、板状または針状であることが好ましい。前記微細一次粒子が、これらの形状となることで、上記中心部は十分に低密度となり、焼成によって大きな収縮が発生して十分な量の空間が生じる。
【0061】
上記二次粒子においては、前記外殻部の厚さは、0.3〜3μmであることが必要である。該外核部の厚さが、0.3μm未満では焼成時に外殻の収縮が大きく、また、周囲の二次粒子とも焼結が進行するため、二次粒子の形態を維持できない。3μmを超えると外殻構造が緻密なものとなり、中空部と通じる孔が形成されず、中空部が反応表面として生かされないという問題が生じる。なお、安定的な生産性の観点から、0.5〜1.5μmであることが好ましい。
【0062】
また、上記二次粒子においては、前記外殻部の厚さは、該二次粒子の粒径に対する比率で10〜45%であることが好ましく、10〜40%であることがより好ましく、10〜35%がさらに好ましい。上記複合水酸化物を原料として得られる正極活物質粒子は、中空構造を有し、該粒子径に対する外殻部の厚さの比率は、上記複合水酸化物二次粒子の該比率が概ね維持される。したがって、上記二次粒子径に対する外殻部の厚さの比率を上記範囲とすることで、リチウムニッケルマンガン複合酸化物粒子に十分な中空部を形成することができる。該外殻部の厚さが、二次粒子の粒径に対する比率で10%未満と薄すぎると、正極活物質の製造時の焼成工程において、複合水酸化物粒子の収縮が大きくなり、かつ、リチウムニッケルマンガン複合酸化物の二次粒子間に焼結が生じて、正極活物質の粒度分布が悪化することがある。一方、45%を超えると、十分な大きさの中心部が形成されないなどの問題を生ずる場合がある。
【0063】
なお、上記微細一次粒子、板状または針状の一次粒子の粒径、上記二次粒子の外殻部の厚さ、ならびに、上記二次粒子径に対する外殻部の厚さの比率は、ニッケルマンガン複合水酸化物粒子の断面を、走査型電子顕微鏡を用いて観察することによって測定できる。
【0064】
たとえば、複数のニッケルマンガン複合水酸化物粒子(二次粒子)を樹脂などに埋め込み、クロスセクションポリッシャ加工などにより該粒子の断面観察が可能な状態とする。上記微細一次粒子および板状または針状の一次粒子の粒径は、該二次粒子中の、好ましくは10個以上の上記一次粒子断面の最大径を粒径として測定し、平均値を計算することで求めることができる。
【0065】
また、上記外殻部の厚さの二次粒子径に対する比率は、以下のように求めることができる。上記樹脂中の二次粒子から、ほぼ粒子中心の断面観察が可能な粒子を選択して、3箇所以上の任意の箇所で、外殻部の外周上と中心部側の内周上の距離が最短となる2点間の距離を測定して、粒子ごとの外殻部の平均厚みを求める。二次粒子外周上で距離が最大となる任意の2点間の距離を二次粒子径として該平均厚みを除することで、粒子ごとの外殻部の厚さの上記比率を求める。さらに、10個以上の粒子について求めた粒子ごとの該比率を平均することで、上記ニッケルマンガン複合水酸化物粒子における、二次粒子径に対する外殻部の厚さの比率を求めることができる。
【0066】
(平均粒径)
本発明の複合水酸化物粒子は、その平均粒径が、3〜7μm、好ましくは3.5〜6.5μm、さらに好ましくは4.0〜5.5μmに調整されている。平均粒径を3〜7μmとすることで、本発明の複合水酸化物粒子を原料として得られる正極活物質を所定の平均粒径(2〜8μm)に調整することができる。このように、複合水酸化物粒子の粒径は、得られる正極活物質の粒径と相関するため、この正極活物質を正極材料に用いた電池の特性に影響するものである。
【0067】
具体的には、この複合水酸化物粒子の平均粒径が3μm未満であると、得られる正極活物質の平均粒径も小さくなり、正極の充填密度が低下して、容積あたりの電池容量が低下する。逆に、上記複合水酸化物粒子の平均粒径が7μmを超えると、正極活物質の比表面積が低下して、電解液との界面が減少することにより、正極の抵抗が上昇して電池の出力特性が低下する。
【0068】
(粒度分布)
本発明の複合水酸化物粒子は、その粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90−d10)/平均粒径〕が、0.55以下、好ましくは0.52以下、さらに好ましくは、0.50以下となるように調整されている。
【0069】
正極活物質の粒度分布は、原料である複合水酸化物粒子の影響を強く受けるため、複合水酸化物粒子に微粒子あるいは粗大粒子が混入していると、正極活物質にも同様の粒子が存在するようになる。すなわち、〔(d90−d10)/平均粒径〕が0.55を超え、粒度分布が広い状態であると、正極活物質にも微粒子あるいは粗大粒子が存在するようになる。
【0070】
微粒子が多く存在する正極活物質を用いて正極を形成した場合、微粒子の局所的な反応に起因して発熱する可能性があり、電池の安全性が低下するとともに、微粒子が選択的に劣化するため、電池のサイクル特性が悪化してしまう。一方、大径粒子が多く存在する正極活物質を用いて正極を形成した場合、電解液と正極活物質との反応面積が十分に取れず、反応抵抗の増加により電池出力が低下する。
【0071】
よって、本発明の複合水酸化物粒子において、〔(d90−d10)/平均粒径〕が0.55以下となるように調整しておけば、これを原料として用いて得られる正極活物質も粒度分布の範囲が狭いものとなり、その粒子径を均一化することができる。すなわち、正極活物質の粒度分布について、〔(d90−d10)/平均粒径〕が0.60以下となるようにすることができる。これにより、本発明の複合水酸化物粒子を原料として形成された正極活物質を正極材料として用いた電池において、良好なサイクル特性および高出力を達成することができる。
【0072】
なお、粒度分布の広がりを示す指標〔(d90−d10)/平均粒径〕において、d10は、各粒径における粒子数を粒径の小さい側から累積し、その累積体積が全粒子の合計体積の10%となる粒径を意味している。また、d90は、同様に粒子数を累積し、その累積体積が全粒子の合計体積の90%となる粒径を意味している。
【0073】
平均粒径や、d90、d10を求める方法は特に限定されないが、たとえば、レーザ光回折散乱式粒度分析計で測定した体積積算値から求めることができる。平均粒径としてd50を用いる場合には、d90と同様に累積体積が全粒子体積の50%となる粒径を用いればよい。
【0074】
(粒子の組成)
本発明の複合水酸化物粒子は、その組成が、以下の一般式で表されるように調整される。このような組成を有するニッケルマンガン複合水酸化物を原料として、リチウムニッケルマンガン複合酸化物を製造すれば、このリチウムニッケルマンガン複合酸化物を正極活物質とする電極を電池に用いた場合に、測定される正極抵抗の値を低くできるとともに、電池性能を良好なものとすることができる。
【0075】
一般式:NixMnyCozt(OH)2+a
(x+y+z+t=1、0.3≦x≦0.7、0.1≦y≦0.55、0≦z≦0.4、0≦t≦0.1、0≦a≦0.5、Mは、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の添加元素)
【0076】
複合水酸化物粒子を原料として正極活物質を得た場合、この複合水酸化物粒子の組成比(Ni:Mn:Co:M)は、得られる正極活物質においても維持される。したがって、本発明の複合水酸化物粒子の組成比は、得ようとする正極活物質に要求される組成比と同様となるように調整される。
【0077】
(1−2)ニッケルマンガン複合水酸化物粒子の製造方法
本発明の複合水酸化物粒子の製造方法は、晶析反応によってニッケルマンガン複合水酸化物粒子を製造する方法であって、a)核生成を行う核生成工程と、b)核生成工程において生成された核を成長させる粒子成長工程とから構成されている。
【0078】
すなわち、従来の連続晶析法では、核生成反応と粒子成長反応とが同じ槽内において同時に進行するため、得られる複合水酸化物粒子の粒度分布が広範囲となってしまう。これに対して、本発明の複合水酸化物粒子の製造方法では、主として核生成反応が生じる時間(核生成工程)と、主として粒子成長反応が生じる時間(粒子成長工程)とを明確に分離することにより、得られる複合水酸化物粒子において狭い粒度分布を達成している点に特徴がある。
【0079】
また、本発明では、前記核生成工程および粒子成長工程において、ニッケル、マンガンおよびコバルトと錯イオンを形成する錯イオン形成剤を実質的に含まない水溶液を用いることに特徴がある。ニッケルマンガン複合水酸化物粒子を晶析により得る場合、通常、ニッケル、マンガン、コバルトなどと錯イオンを形成する錯イオン形成剤、たとえば、アンモニア水溶液などのアンモニウムイオン供給体が投入されるが、本発明では、このような錯イオン形成剤を用いない。錯イオン形成剤を用いないことで、核生成工程における反応溶液中でのニッケル、マンガン、コバルトなど溶解度が低下し、微細な一次粒子が生成される。また、晶析中の錯イオン形成剤の揮発などによる濃度変動により、晶析場を制御しにくくなることを避けるためであり、また、副次的には排水処理の負荷低減のためである。
【0080】
なお、ニッケル、マンガンおよびコバルトと錯イオンを形成する錯イオン形成剤としては、アンモニウムイオン供給体のほか、これらの金属とキレート錯体を形成する酢酸、クエン酸などを挙げることができる。
【0081】
最初に、本発明の複合水酸化物粒子の製造方法の概略を、図1に基づいて説明する。なお、図1および図2では、(A)が核生成工程に相当し、(B)が粒子成長工程に相当する。
【0082】
(核生成工程)
図1に示すように、まず、少なくともニッケルおよびマンガンを含有する複数の金属化合物を所定の割合で水に溶解させ、混合水溶液を作製する。本発明の複合水酸化物粒子の製造方法では、得られる複合水酸化物粒子における上記各金属の組成比は、混合水溶液における各金属の組成比と原則として同様となる。
【0083】
よって、混合水溶液中における各金属の組成比が、本発明の複合水酸化物粒子中における各金属の組成比と同じ組成比となるように、水に溶解させる金属化合物、主として、ニッケル、マンガン、コバルトの割合を調節して、混合水溶液を作製する。なお、添加元素については、後工程で水酸化物粒子に被覆させることもできるため、その場合には、混合水溶液中の各金属の組成比を後の添加を考慮して調整すればよい。また、反応槽内の温度を一定に保持するため、混合水溶液の温度を25〜50℃に、好ましくは30〜45℃に加温してから給液すると良い。25℃より低いと槽内の温度との差が大きく、槽内の温度を制御しにくくなる。また50℃を超えると混合水溶液の持込熱量と槽内の中和反応に伴う発熱と撹拌による摩擦熱による発熱の総熱量が大きくなり、槽内の温度が設定温度を大きく上回ってしまうこととなる。
【0084】
一方、反応槽には、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ水溶液、および水を供給して混合してニッケル、マンガンおよびコバルトと錯イオンを形成する錯イオン形成剤を実質的に含まない水溶液を形成する。この水溶液(以下、「反応前水溶液」という)について、その温度を、ジャケットを通した蒸気または温水加熱により、60℃以上となるように調節し、また、そのpH値を、アルカリ水溶液の供給量を調整することにより、液温25℃基準で11.5〜13.5の範囲となるように調節する。反応槽内の水溶液のpH値については、それぞれ一般的なpH計によって測定可能である。
【0085】
ここで、上記実質的に含有しないとは、反応水溶液中での上記金属化合物の溶解度に影響を及ぼさない程度以下の含有を意味するものであり、錯イオン形成剤の種類によって許容量は異なるが、たとえば、アンモニウムイオンの場合には、1g/L以下が好ましく、0.5g/L以下がより好ましく、0.1g/L以下がさらに好ましい。また、酢酸イオンの場合には、3.5g/L以下が好ましく、1.8g/L以下がより好ましく、0.35g/L以下がさらに好ましい。いずれの場合でも、通常に用いられる分析で検出されないことが特に好ましい。核生成用水溶液にこのような錯イオン形成剤が許容量を超えて含まれている場合、ニッケルおよびコバルトの溶解度が上昇するため、複合水酸化物の析出速度が低下して一次粒子が成長しやすくなるため、微細な一次粒子が凝集した核、すなわち、上記複合水酸化物粒子の二次粒子の中心部となる核を形成することができなくなり、よって、中実粒子が得られやすくなる。
【0086】
また、反応槽内の雰囲気を、酸素濃度が10容量%以下の雰囲気となるように調整することが好ましい。この雰囲気の制御は、たとえば、窒素やアルゴンなどの不活性ガスを用いて調整することが可能である。より具体的には、あらかじめ所定の酸素濃度となるように、反応槽内に流入する雰囲気ガスにおける大気と不活性ガスの流量を調整し、一定量の雰囲気ガスを流通させることにより、調整可能である。
【0087】
反応槽内における、雰囲気、反応前水溶液の温度およびpHが調整されると、反応前水溶液を攪拌しながら混合水溶液を反応槽内に供給する。これにより、反応槽内には、反応前水溶液と混合水溶液とが混合した、核生成工程における反応水溶液である核生成用水溶液が形成され、核生成用水溶液中において複合水酸化物の微細な核が生成されることになる。このとき、核生成用水溶液の温度およびpH値が上記範囲にあるので、生成した核はほとんど成長することなく、核の生成が優先的に生じる。
【0088】
なお、混合水溶液の供給による核生成に伴って、核生成用水溶液のpH値が変化するので、核生成用水溶液には、混合水溶液とともに、アルカリ水溶液を供給して、核生成用水溶液のpH値が液温25℃基準で11.5〜13.5の範囲を維持するように制御する。また、その温度も60℃以上に維持するように制御する。
【0089】
上記核生成用水溶液に対する混合水溶液およびアルカリ水溶液の供給により、核生成用水溶液中には、連続して新しい核の生成が継続される。そして、核生成用水溶液中に、所定の量の核が生成されると、核生成工程を終了する。所定量の核が生成したか否かは、核生成用水溶液に添加した金属塩の量によって判断する。
【0090】
(粒子成長工程)
核生成工程の終了後、反応槽内の雰囲気および60℃以上の温度を維持しつつ、前記核生成用水溶液のpH値を、液温25℃基準で9.5〜11.5、好ましくは9.5〜11.0、かつ、核生成工程におけるpH値よりも低いpH値となるように調整して、粒子成長工程における反応水溶液である粒子成長用水溶液を得る。具体的には、この調整時のpHの制御は、アルカリ水溶液の供給量を調節することにより行う。
【0091】
粒子成長用水溶液のpH値を上記範囲とすることにより、核の生成反応よりも核の成長反応の方が優先して生じるから、粒子成長工程において、粒子成長用水溶液には、新たな核はほとんど生成することなく、核が成長(粒子成長)して、所定の粒子径を有する複合水酸化物粒子が形成される。
【0092】
同様に、混合水溶液の供給による粒子成長に伴って、粒子成長用水溶液のpH値が変化するので、粒子成長用水溶液にも、混合水溶液とともに、アルカリ水溶液を供給して、粒子成長用水溶液のpH値が液温25℃基準で9.5〜11.5の範囲を維持するように制御する。その後、上記複合水酸化物粒子が所定の粒径まで成長した時点で、粒子成長工程を終了する。この粒子成長工程の終了は、予備試験により核生成工程と粒子成長工程の各工程におけるそれぞれの反応水溶液への金属塩の添加量と得られる粒子の関係を求めておけば、各工程での金属塩の添加量から容易に判断することができる。
【0093】
以上のように、上記複合水酸化物粒子の製造方法の場合、核生成工程では核生成が優先して起こり、核の成長はほとんど生じず、逆に、粒子成長工程では核成長のみが生じ、ほとんど新しい核は生成されない。このため、核生成工程では、粒度分布の範囲が狭く均質な核を形成させることができ、また、粒子成長工程では、均質に核を成長させることができる。したがって、上記複合水酸化物粒子の製造方法では、粒度分布の範囲が狭く、均質なニッケルマンガン複合水酸化物粒子を得ることができる。
【0094】
なお、上記製造方法の場合、両工程において、金属イオンは、核または複合水酸化物粒子となって晶出するので、それぞれの反応水溶液中の金属成分に対する液体成分の割合が増加する。この場合、見かけ上、供給する混合水溶液の濃度が低下したようになり、特に粒子成長工程において、複合水酸化物粒子が十分に成長しない可能性がある。
【0095】
したがって、上記液体成分の増加を抑制するため、核生成工程終了後から粒子成長工程の途中で、粒子成長用水溶液中の液体成分の一部を反応槽外に排出することが好ましい。具体的には、粒子成長用水溶液に対する混合水溶液、アルカリ水溶液の供給および攪拌を停止して、核や複合水酸化物粒子を沈降させて、粒子成長用水溶液の上澄み液を排出する。これにより、粒子成長用水溶液における混合水溶液の相対的な濃度を高めることができる。そして、混合水溶液の相対的な濃度が高い状態で、複合水酸化物粒子を成長させることができるので、複合水酸化物粒子の粒度分布をより狭めることができ、複合水酸化物粒子の二次粒子全体としての密度も高めることができる。
【0096】
また、図1に示す実施形態では、核生成工程が終了した核生成用水溶液のpHを調整して粒子成長用水溶液を形成して、核生成工程から引き続いて粒子成長工程を行っているので、粒子成長工程への移行を迅速に行うことができるという利点がある。さらに、核生成工程から粒子成長工程への移行は、反応水溶液のpHを調整するだけで移行でき、pHの調整も一時的にアルカリ水溶液の供給を停止することで容易に行うことができるという利点がある。なお、反応水溶液のpHは、金属化合物を構成する酸と同種の無機酸、たとえば、硫酸塩の場合、硫酸を反応水溶液に添加することでも調整することができる。
【0097】
しかしながら、図2に示す別実施形態のように、核生成用水溶液とは別に、粒子成長工程に適したpHに調整された成分調整水溶液を形成しておき、この成分調整水溶液に、別の反応槽で核生成工程を行って生成した核を含有する水溶液(核生成用水溶液、好ましくは核生成用水溶液から液体成分の一部を除去したもの)を添加して反応水溶液とし、この反応水溶液を粒子成長用水溶液として粒子成長工程を行ってもよい。なお、この場合の成分調整水溶液としては、反応前水溶液と同様に、ニッケル、マンガンおよびコバルトと錯イオンを形成する錯イオン形成剤を実質的に含まず、液温が60℃以上、液温25℃を基準として測定するpH値が9.5〜11.5、かつ、核生成工程におけるpH値よりも低いpH値となるように制御したものを用いる。
【0098】
この場合、核生成工程と粒子成長工程の分離を、より確実に行うことができるので、各工程における反応水溶液の状態を、各工程に最適な条件とすることができる。特に、粒子成長工程の開始時点から、粒子成長用水溶液のpHを最適な条件とすることができる。粒子成長工程で形成されるニッケルマンガン複合水酸化物粒子を、より粒度分布の範囲が狭く、かつ、均質なものとすることができる。
【0099】
(pH制御)
上述のように、核生成工程においては、反応水溶液のpH値が、液温25℃基準で11.5〜13.5、好ましくは11.8〜13.3、さらに好ましくは12.0〜13.1の範囲となるように制御する必要がある。pH値が13.5を超える場合、生成する核が微細になり過ぎ、反応水溶液がゲル化する問題がある。また、pH値が11.5未満では、核生成とともに核の成長反応が生じるので、生成される核の粒度分布の範囲が広くなり不均質なものとなってしまう。すなわち、核生成工程において、上述の範囲に反応水溶液のpH値を制御することで、核の成長を抑制してほぼ核生成のみを起こすことができ、形成される核も均質かつ粒度分布の範囲が狭いものとすることができる。
【0100】
一方、粒子成長工程においては、反応水溶液のpH値が、液温25℃基準で9.5〜11.6、好ましくは9.5〜11.0、さらに好ましくは10.0〜10.6の範囲となるように制御する必要がある。pH値が11.5を超える場合、あらたに生成される核が多くなり、微細ニ次粒子が生成するため、粒径分布が良好な水酸化物粒子が得られない。また、pH値が9.5未満では、ニッケルの溶解度が高く、析出せずに液中に残る金属イオンが増えるため、生産効率が悪化する。すなわち、粒子成長工程において、上述の範囲に反応水溶液のpHを制御することで、核生成工程で生成した核の成長のみを優先的に起こさせ、新たな核生成を抑制することができ、得られるニッケルマンガン複合水酸化物粒子を均質かつ粒度分布の範囲が狭いものとすることができる。
【0101】
核生成工程および粒子成長工程のいずれにおいても、pHの変動幅は、設定値の上下0.2以内とすることが好ましい。pHの変動幅が大きい場合、核生成と粒子成長が一定とならず、粒度分布の範囲の狭い均一なマンガン複合水酸化物粒子が得られない場合がある。
【0102】
なお、pH値が11.5の場合は、核生成と核成長の境界条件であるため、反応水溶液中に存在する核の有無により、核生成工程もしくは粒子成長工程のいずれかの条件とすることができる。すなわち、核生成工程のpH値を11.5より高くして多量に核生成させた後、粒子成長工程でpH値を11.5とすると、反応水溶液中に多量の核が存在するため、核の成長が優先して起こり、粒径分布が狭く比較的大きな粒径の前記水酸化物粒子が得られる。
【0103】
一方、反応水溶液中に核が存在しない状態、すなわち、核生成工程においてpH値を11.5とした場合、成長する核が存在しないため、核生成が優先して起こり、粒子成長工程のpH値を11.5より小さくすることで、生成した核が成長して良好な前記水酸化物粒子が得られる。
【0104】
いずれの場合においても、粒子成長工程のpH値を核生成工程のpH値より低い値で制御すればよく、核生成と粒子成長を明確に分離するためには、粒子成長工程のpH値を核生成工程のpH値より0.5以上低くすることが好ましく、1.0以上低くすることがより好ましい。
【0105】
(核生成量)
核生成工程において生成する核の量は、特に限定されるものではないが、粒度分布の良好な複合水酸化物粒子を得るためには、全体量、つまり、複合水酸化物粒子を得るために供給する全金属塩の0.1%から2%とすることが好ましく、1.5%以下とすることがより好ましい。上述のように、この核生成量は、予備試験により反応水溶液への金属塩の添加量と得られる核の量との関係を求めておくことによって、制御することができる。
【0106】
(複合水酸化物粒子の粒径制御)
上記複合水酸化物粒子の粒径は、粒子成長工程の時間により制御できるので、所望の粒径に成長するまで粒子成長工程を継続すれば、所望の粒径を有する複合水酸化物粒子を得ることができる。
【0107】
また、複合水酸化物粒子の粒径は、粒子成長工程のみならず、核生成工程のpH値と核生成のために投入した原料量でも制御することができる。すなわち、核生成時のpHを高pH値側とすることにより、あるいは核生成時間を長くすることにより投入する原料量を増やし、生成する核の数を多くする。これにより、粒子成長工程を同条件とした場合でも、複合水酸化物粒子の粒径を小さくできる。一方、核生成数を少なくするように制御すれば、得られる前記複合水酸化物粒子の粒径を大きくすることができる。
【0108】
また、一次粒子の形状や大きさについては、温度とpH値を上述のように制御することにより行うことができる。たとえば、各二次粒子を構成する粒子のうち、核を構成する微細一次粒子を平均粒径0.01〜0.3μmとするためには、核生成工程における温度を60℃以上に制御する。一方、粒子成長工程で核の周囲に晶析し、外殻部を構成する一次粒子を板状または針状、かつ、その平均粒径を0.3〜3μmとするためには、粒子成長工程におけるpHを9.5以上に制御する。
【0109】
さらに、前記外殻部の厚さを、0.3〜3μmの範囲とするためには、溶解度を大きくするように制御する。また、この外殻部の厚さを二次粒子の粒径に対する比率で10〜45%とするためには、温度を60℃以上、pHを9.5〜12での晶析量を制御する。
【0110】
以下、金属化合物、反応温度などの条件を説明するが、核生成工程と粒子成長工程との相違点は、反応水溶液のpHを制御する範囲のみであり、金属化合物、反応温度などの条件は、両工程において実質的に同様である。
【0111】
(ニッケル、マンガン、コバルト源)
ニッケル、マンガン、コバルトの金属源としては、目的とする金属を含有する化合物を用いる。使用する化合物は、水溶性の化合物を用いることが好ましく、硝酸塩、硫酸塩、塩酸塩などがあげられる。水酸化物粒子への混入ないしは廃液処理などの観点から、これらのうち、硫酸塩、たとえば、硫酸ニッケル、硫酸マンガン、硫酸コバルトを用いることが好ましい。
【0112】
(添加元素源)
添加元素(Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の元素)源としては、水溶性の化合物を用いることが好ましく、たとえば、硫酸チタン、ペルオキソチタン酸アンモニウム、シュウ酸チタンカリウム、硫酸バナジウム、バナジン酸アンモニウム、硫酸クロム、クロム酸カリウム、硫酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、シュウ酸ニオブ、モリブデン酸アンモニウム、タングステン酸ナトリウム、タングステン酸アンモニウムなどを用いることができる。
【0113】
かかる添加元素を複合水酸化物粒子の内部に均一に分散させる場合には、混合水溶液に、添加元素を含有する添加物を添加すればよく、複合水酸化物粒子の内部に添加元素を均一に分散させた状態で共沈させることできる。
【0114】
また、上記複合水酸化物粒子の表面を添加元素で被覆する場合には、たとえば、添加元素を含んだ水溶液で該複合水酸化物粒子をスラリー化し、所定のpHとなるように制御しつつ、前記1種以上の添加元素を含む水溶液を添加して、晶析反応により添加元素を複合水酸化物粒子表面に析出させれば、その表面を添加元素で均一に被覆することができる。この場合、添加元素を含んだ水溶液に替えて、添加元素のアルコキシド溶液を用いてもよい。さらに、上記複合水酸化物粒子に対して、添加元素を含んだ水溶液あるいはスラリーを吹き付けて乾燥させることによっても、複合水酸化物粒子の表面を添加元素で被覆することができる。また、複合水酸化物粒子と前記1種以上の添加元素を含む塩が懸濁したスラリーを噴霧乾燥させる、あるいは複合水酸化物と前記1種以上の添加元素を含む塩を固相法で混合するなどの方法により被覆することができる。
【0115】
なお、表面を添加元素で被覆する場合、混合水溶液中に存在する添加元素イオンの原子数比を被覆する量だけ少なくしておくことで、得られる複合水酸化物粒子の金属イオンの原子数比と一致させることができる。また、粒子の表面を添加元素で被覆する工程は、複合水酸化物粒子を加熱した後の粒子に対して行ってもよい。
【0116】
(混合水溶液の濃度)
混合水溶液の濃度は、金属化合物の合計で1〜2.6mol/L、好ましくは1.5〜2.2mol/Lとすることが好ましい。混合水溶液の濃度が1mol/L未満では、反応槽当たりの晶析物量が少なくなるために生産性が低下して好ましくない。
【0117】
一方、混合水溶液の塩濃度が2.6mol/Lを超えると、常温での飽和濃度を超えるため、結晶が再析出して設備の配管を詰まらせるなどの危険がある。
【0118】
また、金属化合物は、必ずしも混合水溶液として反応槽に供給しなくてもよく、たとえば、混合すると反応して化合物が生成される金属化合物を用いる場合、全金属化合物水溶液の合計の濃度が上記範囲となるように、個別に金属化合物水溶液を調製して、個々の金属化合物の水溶液として所定の割合で同時に反応槽内に供給してもよい。
【0119】
さらに、混合水溶液などや個々の金属化合物の水溶液を反応槽に供給する量は、晶析反応を終えた時点での晶析物濃度が、概ね30〜200g/L、好ましくは80〜150g/Lになるようにすることが望ましい。晶析物濃度が30g/L未満の場合には、一次粒子の凝集が不十分になることがあり、200g/Lを超える場合には、添加する混合水溶液の反応槽内での拡散が十分でなく、粒子成長に偏りが生じることがあるからである。
【0120】
(反応温度)
反応槽内において、反応温度を、60℃以上、好ましくは60〜90℃、特に好ましくは60〜80℃となるように調節する必要がある。このような反応温度の範囲とすることにより、錯イオン形成剤を添加することなく、ニッケル、マンガンおよびコバルトの金属を適切かつ一定の溶解度で晶析反応に必要な量だけ溶解させることが可能となる。反応温度が60℃未満の場合、温度が低いためニッケル、マンガンおよびコバルトの溶解度が低くなり過ぎ、核が生成しやすくなり、その制御が困難となる傾向がある。なお、90℃を超えても晶析反応は可能であるが、水の揮発が促進されるため反応系の制御が困難となり、工業的には、高温に保つためのコストや安全上のリスクが高まるため好ましくない。
【0121】
なお、反応温度を60℃以上に維持するためには、核生成工程においては、反応前水溶液と混合水溶液のいずれも25〜50℃とすることが好ましく、さらには30〜45℃とするのが好ましい。また、粒子成長工程においても、核生成工程に引き続いて反応水溶液の温度を60℃以上に保持するとともに、これに加えられる混合水溶液の温度を25〜50℃とすることが好ましく、さらには30〜45℃とするのが好ましい。
【0122】
(アルカリ水溶液)
反応水溶液中のpHを調整するアルカリ水溶液については、ニッケル、マンガンおよびコバルトの錯イオンを形成しないものであれば、特に限定されるものではなく、たとえば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物水溶液を用いることができるが、コストや取扱いの容易性の観点から水酸化ナトリウムが好ましい。かかるアルカリ金属水酸化物の場合、直接、反応水溶液中に供給してもよいが、反応槽内における反応水溶液のpH制御の容易さから、水溶液として反応槽内の反応水溶液に添加することが好ましい。
【0123】
アルカリ水溶液を反応槽に添加する方法についても、特に限定されるものではなく、反応水溶液を十分に攪拌しながら、定量ポンプなど、流量制御が可能なポンプで、反応水溶液のpH値が所定の範囲に保持されるように、添加すればよい。
【0124】
(晶析時の雰囲気)
核生成工程においては、コバルト、マンガンの酸化を抑制して粒子を安定して生成させる観点から、反応槽内空間の酸素濃度を好ましくは10容量%以下、より好ましくは5容量%以下、さらに好ましくは1容量%以下に制御する必要がある。粒子成長工程でも酸化制御が重要であり、反応槽内空間の酸素濃度を同様に制御する必要がある。雰囲気中の酸素濃度は、たとえば、窒素、アルゴンなどの不活性ガスを用いて調整することができる。雰囲気中の酸素濃度が所定の濃度となるように調節するための手段としては、たとえば、当該雰囲気中に常に一定量の雰囲気ガスを流通させることが挙げられる。
【0125】
(晶析時間)
上記核生成工程および粒子成長工程における晶析時間は、目的とする複合水酸化物粒子の粒径などにより適宜選択されるものである。たとえば、硫酸ニッケルと硫酸マンガンの混合水溶液(1.8mol/L)と水酸化ナトリウム水溶液(25質量%)を用いて、本発明の所定の範囲にある二次粒子を得ようとする場合には、核生成工程を20秒〜4分、粒子成長工程を3時間〜4時間とすることが好ましい。核生成工程が20秒未満の場合には十分な量の核を生成することができず、4分を超える場合には、核が多くなり過ぎ、凝集による粒径、粒度のバラツキを生じる問題がある。一方、粒子成長工程が3時間未満の場合、粒子成長に要する時間が十分でないので粒径の制御が困難となり、均一な二次粒子を得ることができない。また、4時間を超える場合は、二次粒子の平均粒径が所望の範囲を超えたり、生産効率が悪化するという問題が生じる。なお、生産効率の観点から、核生成工程を30秒〜3分30秒、粒子成長工程を3時間30〜4時間とすることがより好ましい。
【0126】
(製造設備)
本発明の複合水酸化物粒子の製造方法では、反応が完了するまで生成物を回収しない方式の装置を用いる。たとえば、撹拌機が設置された通常に用いられるバッチ反応槽などである。かかる装置を採用すると、一般的なオーバーフローによって生成物を回収する連続晶析装置のように、成長中の粒子がオーバーフロー液と同時に回収されるという問題が生じないため、粒度分布が狭く粒径の揃った粒子を得ることができる。
【0127】
また、反応雰囲気を制御することが好ましいため、密閉式の装置などの雰囲気制御可能な装置を用いることが好ましい。このような装置を用いることで、得られる複合水酸化物粒子を上記構造のものとすることができるとともに、核生成反応や粒子成長反応をほぼ均一に進めることができるので、粒径分布の優れた粒子、すなわち粒度分布の範囲の狭い粒子を得ることができる。
【0128】
(2−1)非水系電解質二次電池用正極活物質
本発明の正極活物質は、一般式:Li1+uNixMnyCozt2(−0.05≦u≦0.50、x+y+z+t=1、0.3≦x≦0.7、0.1≦y≦0.55、0≦z≦0.4、0≦t≦0.1、Mは、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の添加元素)で表されるリチウムニッケルマンガン複合酸化物粒子であって、層状構造を有する六方晶系の結晶構造を有するものである。なお、層状構造を有する六方晶系の構造をとる正極活物質は、スピネル構造正極活物質と比較して、理論容量密度やサイクル特性に優れるという利点がある。
【0129】
(組成)
本発明の正極活物質は、リチウムニッケルマンガン複合酸化物粒子であるが、その組成が、上記一般式で表されるように調整される。
【0130】
本発明の正極活物質においては、リチウムの過剰量を示すuが、−0.05から0.50までの範囲である。リチウムの過剰量uが−0.05未満の場合、得られた正極活物質を用いた非水系電解質二次電池における正極の反応抵抗が大きくなるため、電池の出力が低くなってしまう。一方、リチウムの過剰量uが0.50を超える場合、上記正極活物質を電池の正極に用いた場合の初期放電容量が低下するとともに、正極の反応抵抗も増加してしまう。リチウムの過剰量uは、該反応抵抗をより低減させるためには0.10以上とすることが好ましく、0.35以下とすることが好ましい。
【0131】
また、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)は、Liとともに、層状構造を有する六方晶系リチウム含有複合酸化物の基本骨格を構成する。これらの含有量を示す原子比x、y、zは、得られた正極活物質を用いた非水系電解質二次電池における、電池容量やサイクル特性、安全性などを考慮して決定される。xの値は、0.3〜0.7、好ましくは0.33〜0.65とし、yの値は、0.1〜0.55、好ましくは0.2〜0.5とし、zの値は0.4以下、好ましくは0.35以下とする。
【0132】
また、上記一般式で表されるように、本発明の正極活物質は、リチウムニッケルマンガン複合酸化物粒子に添加元素Mを含有するように調整されていることが、より好ましい。上記添加元素Mを含有させることで、これを正極活物質として用いた電池の耐久特性や出力特性を向上させることができる。
【0133】
特に、添加元素が粒子の表面または内部に均一に分布することで、粒子全体で上記効果を得ることができ、少量の添加で上記効果が得られるとともに容量の低下を抑制できる。さらに、より少ない添加量で効果を得るためには、粒子内部より粒子表面における添加元素の濃度を高めることが好ましい。
【0134】
全金属原子(Ni、Mn、Coおよび添加元素M)に対する添加元素Mの原子比tが0.1を超えると、Redox反応に貢献する金属元素が減少するため、電池容量が低下するため好ましくない。したがって、添加元素Mは、上記原子比tが上記範囲となるように調整する。
【0135】
(平均粒径)
本発明の正極活物質は、平均粒径が2〜8μmである。平均粒径が2μm未満の場合には、正極を形成したときに粒子の充填密度が低下して、正極の容積あたりの電池容量が低下する。一方、平均粒径が8μmを超えると、正極活物質の比表面積が低下して、電池の電解液との界面が減少することにより、正極の抵抗が上昇して電池の出力特性が低下する。
【0136】
したがって、本発明の正極活物質を、平均粒径が2〜8μm、好ましくは3〜8μm、より好ましくは3〜6.5μmとなるように調整すれば、この正極活物質を正極に用いた電池では、容積あたりの電池容量を大きくすることができるとともに、高安全性、高出力などに優れた電池特性が得られる。
【0137】
(粒度分布)
図7に例示されるように、本発明の正極活物質は、粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90−d10)/平均粒径〕が0.60以下であり、平均粒径が2〜8μmである、きわめて均質性が高いリチウムニッケルマンガン複合酸化物の二次粒子により構成される。
【0138】
本発明の正極活物質は、その粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90−d10)/平均粒径〕が、0.60以下、好ましくは0.55以下、さらに好ましくは0.52以下である。
【0139】
粒度分布が広範囲になっている場合、正極活物質に、平均粒径に対して粒径が非常に小さい微粒子や、平均粒径に対して非常に粒径の大きい粗大粒子が多く存在することになる。微粒子が多く存在する正極活物質を用いて正極を形成した場合には、微粒子の局所的な反応に起因して発熱する可能性があり、安全性が低下するとともに、微粒子が選択的に劣化するのでサイクル特性が悪化してしまう。一方、粗大粒子が多く存在する正極活物質を用いて正極を形成した場合には、電解液と正極活物質との反応面積が十分に取れず、反応抵抗の増加による電池出力が低下する。
【0140】
したがって、正極活物質の粒度分布を前記指標〔(d90−d10)/平均粒径〕で0.60以下とすることで、微粒子や粗大粒子の割合を少なくすることができ、この正極活物質を正極に用いた電池は、安全性に優れ、良好なサイクル特性および電池出力を有するものとなる。なお、上記平均粒径や、d90、d10は、上述した複合水酸化物粒子に用いられているものと同様のものであり、測定も同様にして行うことができる。
【0141】
(粒子構造)
本発明の正極活物質は、図8に例示するように、二次粒子内部の中空部とその外側の外殻部で構成される中空構造を有する点に特徴がある。このような中空構造とすることにより、反応表面積を大きくすることができ、かつ、外殻部の一次粒子間の粒界あるいは空隙から電解液が浸入して、粒子内部の中空側の一次粒子表面における反応界面でもリチウムの挿脱入が行われるため、Liイオン、電子の移動が妨げられず、出力特性を高くすることができる。
【0142】
本発明では、前記外殻部の厚さを、0.5〜2.5μmの範囲とする。0.5〜2μmの範囲とすることが好ましく、0.6〜1.8μmの範囲にあることが特に好ましい。外殻部の厚さが0.5μm未満の場合には、中空度が大きくなり過ぎ、電極への充填性が悪化し、また二次粒子の強度が不足し、電極形成時に粒子が壊れ微粉が発生する、2.5μmを超えた場合には外殻部を構成する粒子により中空部と繋がる孔が塞がれ、中空構造を生かすことが出来ず、特性が低下するという問題が生じる。
【0143】
また、前記外殻部の厚さの粒径に対する比率において5〜45%であることが好ましく、5〜38%であることがより好ましい。外殻部の厚さの比率が5%未満であると、該リチウムニッケルマンガン複合酸化物粒子の強度が低下するため、粉体取扱時および電池の正極とするときに粒子が破壊され微粒子が発生し、特性を悪化させる。一方、外殻部の厚さの比率が45%を超えると、粒子内部の中空部へ電解液が侵入可能な上記粒界あるいは空隙から電解液が少なくなり、電池反応に寄与する表面積が小さくなるため、正極抵抗が上がり、出力特性が低下してしまう。
【0144】
なお、リチウムニッケルマンガン複合酸化物粒子の外殻部の厚さおよび粒子径に対する外殻部の厚さの比率は、上記複合水酸化物粒子と同様にして求めることができる。
【0145】
(比表面積)
本発明の正極活物質は、比表面積が1〜2m2/gm、好ましくは1.2〜1.8m2/gmである。比表面積が1m2/g以上であると、正極活物質と電解液との反応面積が十分に大きいので、かかる正極活物質で形成された正極を使用した電池は高出力電池が可能となる。一方、比表面積が大きくなり過ぎると、粒径が小さくなり過ぎ、限られた容積の電池内に充電可能な活物質量が減少して、電池の容積あたりの容量が減少する。このため、本発明の正極活物質においては、比表面積の上限を2m2/gとしている。
【0146】
(特性)
上記正極活物質は、たとえば、2032型コイン電池の正極に用いた場合、コバルトを添加しない場合において200mAh/g以上、コバルトを原子比でリチウム以外の全金属元素の30%程度添加した場合においても150mAh/g以上の高い初期放電容量と、低い正極抵抗および高いサイクル容量維持率が得られるものとなり、非水系電解質二次電池用正極活物質として優れた特性を示すものである。
【0147】
(2−2)非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法
本発明の正極活物質の製造方法は、上記平均粒径、粒度分布、粒子構造および組成となるように正極活物質を製造できるのであれば、特に限定されないが、以下の方法を採用すれば、該正極活物質をより確実に製造できるので、好ましい。
【0148】
本発明の正極活物質の製造方法は、図3に示すように、a)上記製造方法により得られた本発明の正極活物質の原料となるニッケルマンガン複合水酸化物粒子を熱処理する工程と、b)熱処理後の粒子に対してリチウム化合物を混合して混合物を形成する混合工程、c)混合工程で形成された混合物を焼成する焼成工程を含むものである。以下、各工程を説明する。
【0149】
a)熱処理工程
熱処理工程は、ニッケルマンガン複合水酸化物粒子(以下、単に「複合水酸化物粒子」という)を105〜750℃の温度に加熱して熱処理する工程であり、複合水酸化物粒子に含有されている水分を除去している。この熱処理工程を行うことによって、粒子中に焼成工程まで残留している水分を一定量まで減少させることができる。これにより、得られる製造される正極活物質中の金属の原子数やリチウムの原子数の割合がばらつくことを防ぐことができる。
【0150】
なお、正極活物質中の金属の原子数やリチウムの原子数の割合にばらつきが生じない程度に水分が除去できればよいので、必ずしもすべての複合水酸化物粒子をニッケルマンガン複合酸化物粒子(以下、単に「複合酸化物粒子」という)に転換する必要はない。しかしながら、上記ばらつきをより少なくするためには、加熱温度を500℃以上として複合水酸化物粒子を複合酸化物粒子にすべて転換することが好ましい。
【0151】
熱処理工程において、加熱温度が105℃未満の場合、複合水酸化物粒子中の余剰水分が除去できず、上記ばらつきを抑制することができない。一方、加熱温度が750℃を超えると、熱処理により粒子が焼結して均一な粒径の複合酸化物粒子が得られない。熱処理条件による複合水酸化物粒子中に含有される金属成分を分析によって予め求めておき、リチウム化合物との比を決めておくことで、上記ばらつきを抑制することができる。
【0152】
熱処理を行う雰囲気は特に制限されるものではなく、非還元性雰囲気であればよいが、簡易的に行える空気気流中において行うことが好ましい。
【0153】
また、熱処理時間は、特に制限されないが、1時間未満では複合水酸化物粒子の余剰水分の除去が十分に行われない場合があるので、少なくとも1時間以上が好ましく、5〜15時間がより好ましい。
【0154】
そして、熱処理に用いられる設備は、特に限定されるものではなく、複合水酸化物粒子を非還元性雰囲気中、好ましくは、空気気流中で加熱できるものであればよく、ガス発生がない電気炉などが好適に用いられる。
【0155】
b)混合工程
混合工程は、上記熱処理工程において熱処理された複合水酸化物粒子(以下、「熱処理粒子」という)などと、リチウムを含有する物質、たとえば、リチウム化合物とを混合して、リチウム混合物を得る工程である。
【0156】
ここで、上記熱処理粒子には、熱処理工程において残留水分を除去された複合水酸化物粒子のみならず、熱処理工程で酸化物に転換された複合酸化物粒子、もしくはこれらの混合粒子も含まれる。
【0157】
熱処理粒子とリチウム化合物とは、リチウム混合物中のリチウム以外の金属の原子数、すなわち、ニッケル、マンガン、コバルトおよび添加元素の原子数の和(Me)と、リチウムの原子数(Li)との比(Li/Me)が、0.95〜1.5、好ましくは1〜1.5、より好ましくは1.1〜1.35となるように、混合される。すなわち、焼成工程前後でLi/Meは変化しないので、この混合工程で混合するLi/Meが正極活物質におけるLi/Meとなるため、リチウム混合物におけるLi/Meが、得ようとする正極活物質におけるLi/Meと同じになるように混合される。
【0158】
リチウム混合物を形成するために使用されるリチウム化合物は、特に限定されるものではないが、たとえば、水酸化リチウム、硝酸リチウム、炭酸リチウム、もしくはこれらの混合物が、入手が容易であるという点で好ましい。特に、取り扱いの容易さ、品質の安定性を考慮すると、水酸化リチウムもしくは炭酸リチウムを用いることがより好ましい。
【0159】
なお、リチウム混合物は、焼成前に十分混合しておくことが好ましい。混合が十分でない場合には、個々の粒子間でLi/Meがばらつき、十分な電池特性が得られないなどの問題が生じる可能性がある。
【0160】
また、混合には、一般的な混合機を使用することができ、たとえば、シェーカーミキサ、Vブレンダ、リボンミキサ、ジュリアミキサ、レーディゲミキサなどを用いることができ、熱処理粒子などの形骸が破壊されない程度で、複合酸化物粒子とリチウムを含有する物質とが十分に混合されればよい。たとえば、シェーカーミキサを使用する場合、混合条件を5〜20分間とすることで、複合水酸化物粒子とリチウム化合物を十分に混合することが可能となる。
【0161】
c)焼成工程
焼成工程は、上記混合工程で得られたリチウム混合物を焼成して、六方晶系の層状リチウムニッケルマンガン複合酸化物を形成する工程である。焼成工程においてリチウム混合物を焼成すると、熱処理粒子に、リチウムを含有する物質中のリチウムが拡散するので、リチウムニッケルマンガン複合酸化物が形成される。
【0162】
(焼成温度)
リチウム混合物の焼成は、800〜980℃で、より好ましくは820〜960℃で行われる。
【0163】
焼成温度が800℃未満であると、熱処理粒子中へのリチウムの拡散が十分に行われず、余剰のリチウムや未反応の粒子が残ったり、結晶構造が十分整わなくなったりして、電池に用いられた場合に十分な電池特性が得られない。
【0164】
また、焼成温度が980℃を超えると、複合酸化物粒子間で激しく焼結が生じるとともに、異常粒成長を生じる可能性があり、このため、焼成後の粒子が粗大となって粒子形態(後述する球状二次粒子の形態)を保持できなくなる可能性がある。このような正極活物質は、比表面積が低下するため、電池に用いた場合、正極の抵抗が上昇して電池容量が低下するという問題が生じる。
【0165】
なお、熱処理粒子とリチウム化合物との反応を均一に行わせる観点から、昇温速度を3〜50℃/minとして上記温度まで昇温することが好ましい。さらには、リチウム化合物の融点付近の温度にて1〜5時間程度保持することで、より反応を均一に行わせることができる。
【0166】
(焼成時間)
焼成時間のうち、所定温度での保持時間は、少なくとも1時間以上とすることが好ましく、より好ましくは、2〜12時間である。1時間未満では、リチウムニッケルマンガン複合酸化物の生成が十分に行われないことがある。保持時間終了後、特に限定されるものではないが、リチウム混合物を匣鉢に積載して焼成する場合には匣鉢の劣化を抑止するため、降下速度を2〜10℃/minとして、200℃以下になるまで雰囲気を冷却することが好ましい。
【0167】
(仮焼)
特に、リチウム化合物として、水酸化リチウムや炭酸リチウムを使用した場合には、焼成する前に、焼成温度より低く、かつ、350〜800℃、好ましくは450〜780℃の温度で1〜10時間程度、好ましくは3〜6時間、保持して仮焼することが好ましい。すなわち、水酸化リチウムや炭酸リチウムと熱処理粒子の反応温度において仮焼することが好ましい。この場合、水酸化リチウムや炭酸リチウムの上記反応温度付近で保持すれば、熱処理粒子へのリチウムの拡散が十分に行われ、均一なリチウムニッケルマンガン複合酸化物を得ることができる。
【0168】
なお、リチウムニッケルマンガン複合酸化物粒子の表面の添加元素Mの濃度を高めたい場合には、原料である熱処理粒子として、添加元素Mによって粒子表面が均一に被覆されたものを用いればよい。かかる熱処理粒子を含むリチウム混合物を、適度な条件で焼成することで、前記リチウムニッケルマンガン複合酸化物粒子表面の添加元素Mの濃度を高めることができる。より具体的には、添加元素Mによって被覆された熱処理粒子を含むリチウム混合物を、焼成温度を低く、かつ、焼成時間を短くして焼成すれば、粒子表面の添加元素Mの濃度を高めたリチウムニッケルマンガン複合酸化物粒子を得ることができる。たとえば、焼成温度を800〜900℃、焼成時間を1〜5時間とすることで、粒子表面の添加元素Mの濃度を1〜10%程度高めることができる。
【0169】
一方、添加元素Mによって被覆された熱処理粒子を含むリチウム混合物を焼成した場合であっても、焼成温度を高く、焼成時間を長くすると、添加元素が粒子内に均一に分布したリチウムニッケルマンガン複合酸化物粒子を得ることができる。すなわち、原料とする熱処理粒子および焼成条件を調整すれば、目的とする濃度分布を有するリチウムニッケルマンガン複合酸化物粒子を得ることができる。
【0170】
(焼成雰囲気)
焼成時の雰囲気は、酸化性雰囲気とすることが好ましく、酸素濃度が18〜100容量%とすることがより好ましく、上記酸素濃度の酸素と不活性ガスの混合雰囲気とすることが特に好ましい。すなわち、焼成は、大気ないしは酸素気流中で行うことが好ましい。酸素濃度が18容量%未満であると、リチウムニッケルマンガン複合酸化物の結晶性が十分でない状態になる可能性がある。特に電池特性を考慮すると、酸素気流中で行うことが好ましい。
【0171】
なお、焼成に用いられる炉は、特に限定されるものではなく、大気ないしは酸素気流中でリチウム混合物を加熱できるものであればよいが、炉内の雰囲気を均一に保つ観点から、ガス発生がない電気炉が好ましく、バッチ式あるいは連続式の炉をいずれも用いることができる。
【0172】
(解砕)
焼成によって得られたリチウムニッケルマンガン複合酸化物粒子は、凝集もしくは軽度の焼結が生じている場合がある。この場合には、解砕してもよく、これにより、リチウムニッケルマンガン複合酸化物、つまり、本発明の正極活物質を得ることができる。なお、解砕とは、焼成時に二次粒子間の焼結ネッキングなどにより生じた複数の二次粒子からなる凝集体に、機械的エネルギを投入して、二次粒子自体をほとんど破壊することなく二次粒子を分離させて、凝集体をほぐす操作のことである。なお、解砕の方法はピンミル、ハンマーミルなどの公知の手段を用いることができるが、その際、二次粒子を破壊しないように解砕力を適切に調整することが好ましい。
【0173】
(3)非水系電解質二次電池
本発明の非水系電解質二次電池は、上記非水系電解質二次電池用正極活物質を正極材料に用いた正極を採用したものである。まず、本発明の非水系電解質二次電池の構造を説明する。
【0174】
本発明の非水系電解質二次電池は、正極材料に本発明の正極活物質を用いたこと以外は、一般的な非水系電解質二次電池と実質的に同様の構造を備えている。
【0175】
具体的には、本発明の二次電池は、ケースと、このケース内に収容された正極、負極、非水系電解液およびセパレータを備えた構造を有している。より具体的にいえば、セパレータを介して正極と負極とを積層させて電極体とし、得られた電極体に非水系電解液を含浸させ、正極の正極集電体と外部に通ずる正極端子との間、および、負極の負極集電体と外部に通ずる負極端子との間を、それぞれ集電用リードなどを用いて接続し、ケースに密閉することによって、本発明の二次電池は形成される。
【0176】
なお、本発明の二次電池の構造は、上記例に限定されないのはいうまでもなく、また、その外形も筒形や積層形など、種々の形状を採用することができる。
【0177】
(正極)
まず、本発明の二次電池の特徴である正極について説明する。正極は、シート状の部材であり、本発明の正極活物質を含有する正極合材ペーストを、たとえば、アルミニウム箔製の集電体の表面に塗布乾燥して形成されている。
【0178】
なお、正極は、使用する電池にあわせて適宜処理される。たとえば、目的とする電池に応じて適当な大きさに形成する裁断処理や、電極密度を高めるためにロールプレスなどによる加圧圧縮処理等が行われる。
【0179】
前記正極合材ペーストは、正極合材に、溶剤を添加して混練して形成されたものである。正極合材は、粉末状になっている本発明の正極活物質と、導電材および結着剤とを混合して形成されたものである。
【0180】
導電材は、電極に適当な導電性を与えるために添加されるものである。この導電材は、特に限定されないが、たとえば、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛および膨張黒鉛など)や、アセチレンブラックやケッチェンブラックなどのカーボンブラック系材料を用いることができる。
【0181】
結着剤は、正極活物質粒子をつなぎ止める役割を果たすものである。この正極合材に使用される結着剤は、特に限定されないが、たとえば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、スチレンブタジエン、セルロース系樹脂、ポリアクリル酸などを用いることができる。
【0182】
なお、正極合材には、活性炭などを添加してもよく、活性炭などを添加することによって、正極の電気二重層容量を増加させることができる。
【0183】
溶剤は、結着剤を溶解して、正極活物質、導電材および活性炭などを結着剤中に分散させるものである。この溶剤は特に限定されないが、たとえば、N−メチル−2−ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。
【0184】
また、正極合材ペースト中における各物質の混合比は、特に限定されない。たとえば、溶剤を除いた正極合材の固形分を100質量部とした場合、一般の非水系電解質二次電池の正極と同様、正極活物質の含有量を60〜95質量部、導電材の含有量を1〜20質量部、結着剤の含有量を1〜20質量部とすることができる。
【0185】
(負極)
負極は、銅などの金属箔集電体の表面に、負極合材ペーストを塗布し、乾燥して形成されたシート状の部材である。この負極は、負極合材ペーストを構成する成分やその配合、集電体の素材などは異なるものの、実質的に前記正極と同様の方法によって形成され、正極と同様に、必要に応じて各種処理が行われる。
【0186】
負極合材ペーストは、負極活物質と結着剤とを混合した負極合材に、適当な溶剤を加えてペースト状にしたものである。
【0187】
負極活物質は、たとえば、金属リチウムやリチウム合金などのリチウムを含有する物質や、リチウムイオンを吸蔵および脱離できる吸蔵物質を採用することができる。
【0188】
吸蔵物質は、特に限定されないが、たとえば、天然黒鉛、人造黒鉛、フェノール樹脂などの有機化合物焼成体、およびコークスなどの炭素物質の粉状体を用いることができる。かかる吸蔵物質を負極活物質に採用した場合には、正極同様に、結着剤として、PVDFなどの含フッ素樹脂を用いることができ、負極活物質を結着剤中に分散させる溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。
【0189】
(セパレータ)
セパレータは、正極と負極との間に挟み込んで配置されるものであり、正極と負極とを分離し、電解質を保持する機能を有している。かかるセパレータは、たとえば、ポリエチレンやポリプロピレンなどの薄い膜で、微細な孔を多数有する膜を用いることができるが、上記機能を有するものであれば、特に限定されない。
【0190】
(非水系電解液)
非水系電解液は、支持塩としてのリチウム塩を有機溶媒に溶解したものである。
【0191】
有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネートなどの環状カーボネート;また、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート;さらに、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジメトキシエタンなどのエーテル化合物;エチルメチルスルホンやブタンスルトンなどの硫黄化合物;リン酸トリエチルやリン酸トリオクチルなどのリン化合物などから選ばれる1種を、単独で、あるいは2種以上を混合して、用いることができる。
【0192】
支持塩としては、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiN(CF3SO22、およびそれらの複合塩などを用いることができる。
【0193】
なお、非水系電解液は、電池特性改善のため、ラジカル捕捉剤、界面活性剤、難燃剤などを含んでいてもよい。
【0194】
(本発明の非水系電解質二次電池の特性)
本発明の非水系電解質二次電池は、上記構成であり、本発明の正極活物質を用いた正極を有しているので、150mAh/g以上、好ましくは155mAh/gの高い初期放電容量、10Ω以下、好ましくは9Ω以下の低い正極抵抗が得られ、高容量で高出力となる。また、200サイクル容量維持率も80%以上、好ましくは85%以上とすることができ、サイクル特性においても優れており、さらに、従来のリチウムニッケル系酸化物の正極活物質との比較においても、熱安定性が高く、安全性においても良好であるといえる。
【0195】
(本発明の二次電池の用途)
本発明の二次電池は、上記性質を有するので、常に高容量を要求される小型携帯電子機器(ノート型パーソナルコンピュータや携帯電話端末など)の電源に好適である。
【0196】
また、本発明の二次電池は、高出力が要求されるモータ駆動用電源としての電池にも好適である。電池は、大型化すると安全性の確保が困難になり、高価な保護回路が必要不可欠であるが、本発明の二次電池は、優れた安全性を有しているため、安全性の確保が容易になるばかりでなく、高価な保護回路を簡略化し、より低コストにできる。そして、小型化、高出力化が可能であることから、搭載スペースに制約を受ける輸送機器用の電源として好適である。
【実施例】
【0197】
(実施例1)
[複合水酸化物粒子の製造]
複合水酸化物粒子を、以下のようにして作製した。なお、すべての実施例を通じて、複合水酸化物粒子、正極活物質および二次電池の作製には、和光純薬工業株式会社製試薬特級の各試料を使用した。
【0198】
(核生成工程)
まず、反応槽(34L)内に、水を7Lまで入れて撹拌しながら、槽内温度を70℃に設定し、窒素ガスを30分間流通させ、反応槽内空間の酸素濃度を1%以下に保持した。この反応槽内の水に、25質量%水酸化ナトリウム水溶液を適量加えて、液温25℃基準で、槽内の反応前水溶液のpH値が13.1となるように調整した。
【0199】
次に、硫酸ニッケルと硫酸マンガンを水に溶かして1.8mol/Lの混合水溶液を調製した。この混合水溶液では、各金属の元素モル比が、Ni:Mn=50:50となるように調整した。
【0200】
この混合水溶液を、反応槽内の反応前水溶液に88ml/minの割合で加えて反応水溶液とした。同時に、25質量%水酸化ナトリウム水溶液も、この反応水溶液に一定速度で加えていき、窒素ガスを流通させながら反応水溶液(核生成用水溶液)中のpH値を13.1(核生成pH値)に制御しながら、2分30秒間晶析させて核生成を行った。pH値の変動幅は、±0.2であった。また、槽内温度は60℃以上に維持されていた。
【0201】
(粒子成長工程)
核生成終了後、槽内温度を60℃以上に維持しつつ、反応水溶液のpH値が液温25℃基準で10.6になるまで硫酸を添加した。反応水溶液のpH値が10.6に到達した後、反応水溶液(粒子成長用水溶液)に、再度、混合水溶液と25質量%水酸化ナトリウム水溶液の供給を再開して、pH値を液温25℃基準で10.6に制御したまま、4時間晶析を行った。そして、生成物を水洗、濾過、乾燥させて複合水酸化物粒子を得た。
【0202】
上記晶析において、pHは、pHコントローラにより水酸化ナトリウム水溶液の供給流量を調整することで制御され、変動幅は設定値の±0.2の範囲内であった。
【0203】
[複合水酸化物の分析]
得られた複合水酸化物について、その試料を無機酸により溶解した後、ICP発光分光法により化学分析を行ったところ、その組成は、Ni0.5Mn0.5(OH)2+a(0≦a≦0.5)であった。
【0204】
また、この複合水酸化物について、平均粒径および粒度分布を示す〔(d90−d10)/平均粒径〕値を、レーザ回折散乱式粒度分布測定装置(日機装株式会社製、マイクロトラックHRA)を用いて測定した体積積算値から算出して求めた。その結果、平均粒径は3.9μmであり、〔(d90−d10)/平均粒径〕値は、0.49であった。
【0205】
次に、得られた複合水酸化物粒子のSEM(株式会社日立ハイテクノロジース製、走査電子顕微鏡S−4700)観察(倍率:1000倍)を行ったところ、この複合水酸化物粒子は、略球状であり、粒径がほぼ均一に揃っていることが確認された。SEM観察結果を図5に示す。
【0206】
また、得られた複合水酸化物粒子の試料を、樹脂に埋め込み、クロスセクションポリッシャ加工を行ったものについて、倍率を10,000倍としたSEM観察結果を行ったところ、この複合水酸化物粒子が二次粒子により構成され、該二次粒子は略球状であり、粒径0.05μmの微細一次粒子を有する中心部と、粒径0.8μmの板状または針状の一次粒子を有する外殻部が観察され、外殻部の厚さは1.2μmであった。この断面のSEM観察結果を、図6に示す。この断面のSEM観察から求めた、二次粒子径に対する外殻部の厚さは、30.8%であった。
【0207】
[正極活物質の製造]
上記複合水酸化物粒子を、大気(酸素:21容量%)雰囲気において、700℃で6時間の熱処理を行って、複合酸化物粒子に転換して回収した。
【0208】
Li/Me=1.35となるように水酸化リチウムを秤量し、上記複合酸化物粒子と混合してリチウム混合物を調製した。混合は、シェーカーミキサ装置(ウィリー・エ・バッコーフェン(WAB)社製、TURBULA TypeT2C)を用いて行った。
【0209】
得られたリチウム混合物を大気(酸素:21容量%)雰囲気において、500℃で4時間仮焼した後、900℃で4時間焼成し、冷却した後、解砕して正極活物質を得た。
【0210】
[正極活物質の分析]
複合水酸化物粒子と同様の方法で、得られた正極活物質の粒度分布を測定したところ、平均粒径は4.3μmであり、〔(d90−d10)/平均粒径〕値は0.55であった。
【0211】
また、複合水酸化物粒子と同様の方法で、正極活物質のSEM観察および断面SEM観察を行ったところ、得られた正極活物質は、略球状であり、粒径がほぼ均一に揃っていることが確認された。この正極活物質のSEM観察結果を図7に示す。一方、断面SEM観察により、この正極活物質が、一次粒子が焼結して構成された外殻部と、その内部に中空部を備える中空構造となっていることを確認した。外殻部の厚さは0.66μmであった。この正極活物質の断面SEM観察結果を図8に示す。この観察から求めた、正極活物質の粒子径に対する外殻部の厚さの比率は、15.3%であった。
【0212】
得られた正極活物質について、流動方式ガス吸着法比表面積測定装置(ユアサアイオニクス社製、マルチソーブ)により比表面積を求めたところ、1.5m2/gであった。
【0213】
また、得られた正極活物質について、X線回折装置(パナリティカル社製、X‘Pert PRO)を用いて、Cu−Kα線による粉末X線回折で分析したところ、この正極活物質の結晶構造が、六方晶の層状結晶リチウムニッケルマンガン複合酸化物単相からなることを確認した。
【0214】
さらに、同様にICP発光分光法により、正極活物質の組成分析を行ったところ、Liが9.55質量%、Niが29.7質量%、Mnが27.8質量%の組成であり、Li1.36Ni0.50Mn0.502であることが確認された。
【0215】
[二次電池の製造]
得られた正極活物質の評価には、2032型コイン電池を使用した。図9に示すように、このコイン型電池1は、ケース2と、このケース2内に収容された電極3とから構成されている。
【0216】
ケース2は、中空かつ一端が開口された正極缶2aと、この正極缶2aの開口部に配置される負極缶2bとを有しており、負極缶2bを正極缶2aの開口部に配置すると、負極缶2bと正極缶2aとの間に電極3を収容する空間が形成されるように構成されている。
【0217】
電極3は、正極3a、セパレータ3cおよび負極3bとからなり、この順で並ぶように積層されており、正極3aが正極缶2aの内面に接触し、負極3bが負極缶2bの内面に接触するようにケース2に収容されている。
【0218】
なお、ケース2は、ガスケット2cを備えており、このガスケット2cによって、正極缶2aと負極缶2bとの間が電気的に絶縁状態を維持するように固定されている。また、ガスケット2cは、正極缶2aと負極缶2bとの隙間を密封して、ケース2内と外部との間を気密液密に遮断する機能も有している。
【0219】
このコイン型電池1を、以下のようにして作製した。まず、得られた正極活物質52.5mg、アセチレンブラック15mg、およびポリテトラフッ化エチレン樹脂(PTFE)7.5mgを混合し、100MPaの圧力で直径11mm、厚さ100μmにプレス成形して、正極3aを作製した。作製した正極3aを、真空乾燥機中、120℃で12時間乾燥した。この正極3aと、負極3b、セパレータ3cおよび電解液とを用いて、コイン型電池1を、露点が−80℃に管理されたAr雰囲気のグローブボックス内で作製した。
【0220】
なお、負極3bには、直径14mmの円盤状に打ち抜かれた平均粒径20μm程度の黒鉛粉末と、ポリフッ化ビニリデンが銅箔に塗布された負極シートを用いた。また、セパレータ3cには、膜厚25μmのポリエチレン多孔膜を用いた。電解液には、1MのLiClO4を支持電解質とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の等量混合液(富山薬品工業株式会社製)を用いた。
【0221】
[電池評価]
得られたコイン型電池1の性能を評価する、初期放電容量、サイクル容量維持率、正極抵抗は、以下のように定義した。
【0222】
初期放電容量は、コイン型電池1を作製してから24時間程度放置し、開回路電圧OCV(open circuit voltage)が安定した後、正極に対する電流密度を0.1mA/cm2としてカットオフ電圧4.8Vまで充電し、1時間の休止後、カットオフ電圧2.5Vまで放電したときの容量を初期放電容量とした。
【0223】
サイクル容量維持率は、正極に対する電流密度を2mA/cm2として、4.5Vまで充電して3.0Vまで放電を行うサイクルを200回繰り返し、充放電を繰り返した後の放電容量と初期放電容量の比を計算して容量維持率とした。充放電容量の測定には,マルチチャンネル電圧/電流発生器(株式会社アドバンテスト製、R6741A)を用いた。
【0224】
また、正極抵抗は、以下のようにして評価した。コイン型電池1を充電電位4.1Vで充電して、周波数応答アナライザおよびポテンショガルバノスタット(ソーラトロン製、1255B)を使用して、交流インピーダンス法により測定すると、図10に示すナイキストプロットが得られる。このナイキストプロットは、溶液抵抗、負極抵抗とその容量、および、正極抵抗とその容量を示す特性曲線の和として表しているため、このナイキストプロットに基づき等価回路を用いてフィッティング計算して、正極抵抗の値を算出した。
【0225】
上記正極活物質を用いて形成された正極を有するコイン型電池について、電池評価を行ったところ、初期放電容量は206.5mAh/gであり、正極抵抗は8.3Ωであった。また、200サイクル後の容量維持率は86%であった。
【0226】
本実施例により得られた複合水酸化物の特性を表1に、正極活物質の特性およびこの正極活物質を用いて製造したコイン型電池の各評価を表2に、それぞれ示す。また、以下の実施例2〜4および比較例1〜3についても、同様の内容について、表1および表2に示す。
【0227】
(実施例2)
Li/Me=1.25となるように水酸化リチウムと複合酸化物粒子を混合したこと、焼成温度を850℃としたこと以外は、実施例1と同様にして、非水系電解質二次電池用正極活物質を得た。
【0228】
正極活物質の平均粒径は4.8μmであり、〔(d90−d10)/平均粒径〕値は0.52、比表面積は1.6m2/gであった。また、SEM観察により、正極活物質は、略球状であること、粒径がほぼ均一に揃っていること、一次粒子が焼結して構成された外殻部と、その内部に中空部を備える中空構造となっていることを確認した。この観察から求めた、正極活物質の外殻部の厚さは0.58μm、粒子径に対する外殻部の厚さの比率は、14.1%であった。さらに、この正極活物質の結晶構造が、六方晶の層状結晶リチウムニッケルマンガン複合酸化物単相からなること、この正極活物質の組成は、Liが8.84質量%、Niが29.9質量%、Mnが28.0質量%からなり、Li1.25Ni0.500.502で表されることが確認された。
【0229】
上記正極活物質を用いて形成された正極を有するコイン型電池について、実施例1と同様に電池評価を行ったところ、初期放電容量は202.3mAh/gであり、正極抵抗は8.9Ωであった。また、200サイクル後の容量維持率は85%であった。
【0230】
(実施例3)
槽内温度を65℃に設定し、反応前水溶液のpH値を、液温25℃基準で12.8に調節するとともに、硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸マンガン、硫酸ジルコニウムを水に溶かして、各金属の元素モル比が、Ni:Co:Mn:Zr=33.2:33.1:33.3:0.5となるようにして得た1.8mol/Lの混合水溶液を用い、核生成時の反応水溶液のpH値を12.8に制御したこと以外は、実施例1と同様にして複合水酸化物粒子を得た。
【0231】
この複合水酸化物粒子の組成は、Ni0.332Co0.331Mn0.332Zr0.005(OH)2+a(0≦a≦0.5)で表され、平均粒径は3.8μmであり、〔(d90−d10)/平均粒径〕値は0.41であった。また、SEM観察により、複合水酸化物粒子は、略球状であること、粒径がほぼ均一に揃っていることが確認された。さらに、この複合水酸化物粒子は二次粒子により構成され、該二次粒子は略球状であり、粒径0.04μmの一次粒子を有する中心部と、粒径0.9μmの板状または針状の一次粒子を有する外殻部が観察され、外殻部の厚さは0.95μm、粒子径に対する外殻部の厚さの比率は、25%であった。
【0232】
次に、得られた複合水酸化物を、150℃、12時間熱処理した後、リチウム化合物として炭酸リチウムを用い、Li/M=1.15となるようにリチウム混合物を得て、得られたリチウム混合物を、大気中にて、760℃、4時間で仮焼し、950℃、10時間で焼成したこと以外は、実施例1と同様にして正極活物質を得た。
【0233】
正極活物質の平均粒径は4.0μmであり、〔(d90−d10)/平均粒径〕値は0.47、比表面積は1.3m2/gであった。また、SEM観察により、正極活物質は、略球状であること、粒径がほぼ均一に揃っていること、一次粒子が焼結して構成された外殻部と、その内部に中空部を備える中空構造となっていることを確認した。この観察から求めた、正極活物質の外殻部の厚さは0.92μm、粒子径に対する外殻部の厚さの比率は、23%であった。さらに、この正極活物質の結晶構造が、六方晶の層状結晶リチウムニッケルマンガン複合酸化物単相からなること、この正極活物質の組成は、Liが7.93質量%、Niが19.2質量%、Coが19.3質量%、Mnが18.0質量%、Zrが0.45質量%の組成で、Li1.15Ni0.332Co0.331Mn0.332Zr0.0052で表されることが確認された。
【0234】
上記正極活物質を用いて形成された正極を有するコイン型電池について、カットオフ電圧を3.0〜4.3Vとしたこと以外は、実施例1と同様に評価を行ったところ、初期放電容量は158.2mAh/gであり、正極抵抗は3.2Ωであった。また、200サイクル後の容量維持率は91%であった。
【0235】
(実施例4)
晶析反応時に、タングステン酸ナトリウム水溶液を同時に連続的に添加したこと以外は、実施例3と同様にして、複合水酸化物粒子を得た。
【0236】
この複合水酸化物粒子の組成は、Ni0.33Co0.33Mn0.33Zr0.0050.005(OH)2+a(0≦a≦0.5)で表され、平均粒径は4.0μmであり、〔(d90−d10)/平均粒径〕値は0.44であった。また、SEM観察により、複合水酸化物粒子は、略球状であること、粒径がほぼ均一に揃っていることが確認された。さらに、この複合水酸化物粒子は二次粒子により構成され、該二次粒子は略球状であり、粒径0.03μmの一次粒子を有する中心部と、粒径0.8μmの板状または針状の一次粒子を有する外殻部が観察され、外殻部の厚さは1.0μm、粒子径に対する外殻部の厚さの比率は、25%であった。
【0237】
その後、実施例3と同様にして、この複合水酸化物粒子より正極活物質を得た。正極活物質の平均粒径は4.3μmであり、〔(d90−d10)/平均粒径〕値は0.49、比表面積は1.4m2/gであった。また、SEM観察により、正極活物質は、略球状であること、粒径がほぼ均一に揃っていること、一次粒子が焼結して構成された外殻部と、その内部に中空部を備える中空構造となっていることを確認した。この観察から求めた、正極活物質の外殻部の厚さは0.95μm、粒子径に対する外殻部の厚さの比率は、22%であった。さらに、この正極活物質の結晶構造が、六方晶の層状結晶リチウムニッケルマンガン複合酸化物単相からなること、この正極活物質の組成は、Liが8.07質量%、Niが19.6質量%、Coが19.7質量%、Mnが18.3質量%、Zrが0.46質量%、Wが0.93質量%の組成で、Li1.15Ni0.33Co0.33Mn0.33Zr0.0050.0052で表されることが確認された。
【0238】
上記正極活物質を用いて形成された正極を有するコイン型電池について、実施例3と同様に評価を行ったところ、初期放電容量は157.4mAh/gであり、正極抵抗は3.1Ωであった。また、200サイクル後の容量維持率は92%であった。
【0239】
(実施例5)
硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸マンガン、硫酸ジルコニウムを水に溶かして、各金属の元素モル比が、Ni:Co:Mn:Zr=33.2:33.1:33.2:0.5となるようにして得た1.8mol/Lの混合水溶液を用いるとともに、晶析反応時に、タングステン酸ナトリウム水溶液を同時に連続的に添加したこと以外は、実施例1と同様にして、複合水酸化物粒子を得た。
【0240】
この複合水酸化物粒子の組成は、Ni0.33Co0.33Mn0.33Zr0.0050.005(OH)2+a(0≦a≦0.5)で表され、平均粒径は3.8μmであり、〔(d90−d10)/平均粒径〕値は0.42であった。また、SEM観察により、複合水酸化物粒子は、略球状であること、粒径がほぼ均一に揃っていることが確認された。さらに、この複合水酸化物粒子は二次粒子により構成され、該二次粒子は略球状であり、粒径0.03μmの一次粒子を有する中心部と、粒径0.8μmの板状または針状の一次粒子を有する外殻部が観察され、外殻部の厚さは1.0μm、粒子径に対する外殻部の厚さの比率は、26.3%であった。
【0241】
次に、得られた複合水酸化物を、150℃、12時間熱処理した後、リチウム化合物として炭酸リチウムを用い、Li/M=1.15となるようにリチウム混合物を得て、得られたリチウム混合物を、大気中にて、760℃、4時間で仮焼し、950℃、10時間で焼成したこと以外は、実施例1と同様にして正極活物質を得た。
【0242】
正極活物質の平均粒径は4.1μmであり、〔(d90−d10)/平均粒径〕値は0.48、比表面積は1.3m2/gであった。また、SEM観察により、正極活物質は、略球状であること、粒径がほぼ均一に揃っていること、一次粒子が焼結して構成された外殻部と、その内部に中空部を備える中空構造となっていることを確認した。この観察から求めた、正極活物質の外殻部の厚さは0.94μm、粒子径に対する外殻部の厚さの比率は、23%であった。さらに、この正極活物質の結晶構造が、六方晶の層状結晶リチウムニッケルマンガン複合酸化物単相からなること、この正極活物質の組成は、Liが8.07質量%、Niが19.6質量%、Coが19.7質量%、Mnが18.3質量%、Zrが0.46質量%、Wが0.93質量%の組成で、Li1.15Ni0.33Co0.33Mn0.33Zr0.0050.0052で表されることが確認された。
【0243】
上記正極活物質を用いて形成された正極を有するコイン型電池について、カットオフ電圧を3.0〜4.3Vとした以外は、実施例1と同様に評価を行ったところ、初期放電容量は158.2mAh/gであり、正極抵抗は3.2Ωであった。また、200サイクル後の容量維持率は92%であった。
【0244】
(実施例6)
核生成用水溶液とは別に用意した成分調整溶液に、核生成工程終了後の核生成用水溶液を添加して反応水溶液とし、この反応水溶液を粒子成長水溶液として粒子成長工程を行ったこと以外は、実施例1と同様に複合水酸化物粒子を得た。なお、前記成分調整水溶液は、硫酸ニッケルと硫酸マンガンを水に溶かして得た1.8mol/Lの混合水溶液と、25質量%の水酸化ナトリウム水溶液とを混合してpH値を10.6に調整したものであった。
【0245】
この複合水酸化物粒子の組成は、Ni0.50Mn0.50(OH)2+a(0≦a≦0.5)で表され、平均粒径は4.1μmであり、〔(d90−d10)/平均粒径〕値は0.50であった。また、SEM観察により、複合水酸化物粒子は、略球状であること、粒径がほぼ均一に揃っていることが確認された。さらに、この複合水酸化物粒子は二次粒子により構成され、該二次粒子は略球状であり、粒径0.04μmの一次粒子を有する中心部と、粒径0.9μmの板状または針状の一次粒子を有する外殻部が観察され、外殻部の厚さは1.1μm、粒子径に対する外殻部の厚さの比率は、26.8%であった。
【0246】
その後、実施例1と同様にして、この複合水酸化物粒子より正極活物質を得た。正極活物質の平均粒径は4.3μmであり、〔(d90−d10)/平均粒径〕値は0.53、比表面積は1.2m2/gであった。また、SEM観察により、正極活物質は、略球状であること、粒径がほぼ均一に揃っていること、一次粒子が焼結して構成された外殻部と、その内部に中空部を備える中空構造となっていることを確認した。この観察から求めた、正極活物質の外殻部の厚さは1.1μm、粒子径に対する外殻部の厚さの比率は、25.6%であった。さらに、この正極活物質の結晶構造が、六方晶の層状結晶リチウムニッケルマンガン複合酸化物単相からなること、この正極活物質の組成は、Liが9.53質量%、Niが29.6質量%、Mnが27.7質量%からなり、Li1.36Ni0.500.502で表されることが確認された。
【0247】
上記正極活物質を用いて形成された正極を有するコイン型電池について、実施例1と同様に電池評価を行ったところ、初期放電容量は203.3mAh/gであり、正極抵抗は8.6Ωであった。また、200サイクル後の容量維持率は85%であった。
【0248】
(実施例7)
粒子成長工程の途中で、一度、混合水溶液および水酸化ナトリウム水溶液の供給および攪拌を停止して核や複合水酸化物を沈降させて、粒子成長水溶液の上澄み液を排出したこと以外は、実施例1と同様にして、複合水酸化物粒子を得た。
【0249】
この複合水酸化物粒子の組成は、Ni0.50Mn0.50(OH)2+a(0≦a≦0.5)で表され、平均粒径は3.9μmであり、〔(d90−d10)/平均粒径〕値は0.48であった。また、SEM観察により、複合水酸化物粒子は、略球状であること、粒径がほぼ均一に揃っていることが確認された。さらに、この複合水酸化物粒子は二次粒子により構成され、該二次粒子は略球状であり、粒径0.05μmの一次粒子を有する中心部と、粒径0.9μmの板状または針状の一次粒子を有する外殻部が観察され、外殻部の厚さは1.3μm、粒子径に対する外殻部の厚さの比率は、33.3%であった。
【0250】
その後、実施例1と同様にして、この複合水酸化物粒子より正極活物質を得た。正極活物質の平均粒径は4.3μmであり、〔(d90−d10)/平均粒径〕値は0.54、比表面積は1.4m2/gであった。また、SEM観察により、正極活物質は、略球状であること、粒径がほぼ均一に揃っていること、一次粒子が焼結して構成された外殻部と、その内部に中空部を備える中空構造となっていることを確認した。この観察から求めた、正極活物質の外殻部の厚さは0.7μm、粒子径に対する外殻部の厚さの比率は、16%であった。さらに、この正極活物質の結晶構造が、六方晶の層状結晶リチウムニッケルマンガン複合酸化物単相からなること、この正極活物質の組成は、Liが9.55質量%、Niが29.7質量%、Mnが27.8質量%からなり、Li1.36Ni0.500.502で表されることが確認された。
【0251】
上記正極活物質を用いて形成された正極を有するコイン型電池について、実施例1と同様に電池評価を行ったところ、初期放電容量は204.5mAh/gであり、正極抵抗は8.4Ωであった。また、200サイクル後の容量維持率は85%であった。
【0252】
(比較例1)
上部にオーバーフロー用配管を備えた連続晶析用の反応槽を用いて、大気雰囲気中で、反応水溶液のpH値を液温25℃基準で11.0の一定値に保ちながら、実施例1と同様の混合水溶液と、10g/Lのアンモニア水溶液および25質量%の水酸化ナトリウム溶液を一定流量で連続的に加えて、オーバーフローするスラリーを連続的に回収する、一般的な方法により晶析を行った。槽内温度は40℃に維持した。反応槽内の平均滞留時間を10時間として、連続槽内が平衡状態になってから、スラリーを回収して、固液分離して、晶析物を得たこと以外は、実施例1と同様にして、非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価した。
【0253】
得られた複合水酸化物粒子の組成は、実施例1と同様のNi0.50Mn0.50(OH)2+a(0≦a≦0.5)であり、平均粒径は10.2μmであり、〔(d90−d10)/平均粒径〕値は0.70であった。また、SEM観察により、複合水酸化物粒子は、全体が実施例1の外殻部と同様な一次粒子で構成されていることが確認された。
【0254】
また、正極活物質の平均粒径は10.5μmであり、〔(d90−d10)/平均粒径〕値は0.73、比表面積は1.4m2/gであった。SEM観察により、正極活物質は、略球状であること、粒径がほぼ均一に揃っていること、緻密な中実構造の粒子であることが分かった。さらに、この正極活物質の結晶構造が、六方晶の層状結晶リチウムニッケルマンガン複合酸化物単相からなること、この正極活物質の組成は、実施例1と同様のLiが9.55質量%、Niが29.7質量%、Mnが27.8質量%の組成であり、Li1.36Ni0.50Mn0.502で表されることが確認された。
【0255】
実施例1と同様に電池による評価を行ったところ、初期放電容量は208.2mAh/gであり、正極抵抗は30.5Ωであった。また、200サイクル後の容量維持率は78%であった。
【0256】
(比較例2)
晶析反応中に25質量%アンモニア水を液中アンモニア濃度が15g/Lとなるように添加し、槽内温度を40℃として、核生成pHを12.8、核成長pHを11.6としたこと以外は、実施例3と同様にして、複合水酸化物粒子を得た。
【0257】
この複合水酸化物粒子の組成は、Ni0.332Co0.331Mn0.332Zr0.005 (OH)2+a(0≦a≦0.5)であり、平均粒径は4.2μmであり、〔(d90−d10)/平均粒径〕値は0.43であった。また、SEM観察により、複合水酸化物粒子は、全体が実施例1の外殻部と同様な一次粒子で構成されていることが確認された。
【0258】
その後、実施例3と同様にして、この複合水酸化物粒子より正極活物質を得た。正極活物質の平均粒径は4.4μmであり、〔(d90−d10)/平均粒径〕値は0.51、比表面積は0.85m2/gであった。SEM観察により、正極活物質は、略球状であること、粒径がほぼ均一に揃っていること、緻密な中実構造の粒子であることが分かった。さらに、この正極活物質の結晶構造が、六方晶の層状結晶リチウムニッケルマンガン複合酸化物単相からなること、この正極活物質の組成は、実施例3と同様のLiが7.93質量%、Niが19.2質量%、Coが19.3質量%、Mnが18.0質量%、Zrが0.45質量%の組成で、Li1.15Ni0.332Co0.331Mn0.332Zr0.0052で表されることが確認された。
【0259】
実施例3と同様に電池による評価を行ったところ、初期放電容量は155.6mAh/gであり、正極抵抗は5.1Ωであった。また、200サイクル後の容量維持率は90%であった。緻密な構造の粒子となったために、同様の組成を有する実施例3と比較して、比表面積が低く、正極抵抗値が高くなった。
【0260】
(比較例3)
槽内温度を40℃とし、粒子成長時のpHを11.6とし、焼成条件を1050℃、10時間としたこと以外は、実施例3と同様にして、複合水酸化物粒子を得た。
【0261】
この複合水酸化物粒子の組成は、Ni0.332Co0.331Mn0.332Zr0.005 (OH)2+a(0≦a≦0.5)であり、平均粒径は4.0μmであり、〔(d90−d10)/平均粒径〕値は0.44であった。また、SEM観察により、複合水酸化物粒子は、略球状であること、粒径がほぼ均一に揃っていることが確認された。さらに、この複合水酸化物粒子は二次粒子により構成され、該二次粒子は略球状であり、粒径0.05μmの一次粒子を有する中心部と、粒径0.9μmの板状または針状の一次粒子を有する外殻部が観察され、外殻部の厚さは1.0μm、粒子径に対する外殻部の厚さの比率は、25%であった。
【0262】
その後、実施例3と同様にして、この複合水酸化物粒子より正極活物質を得た。この正極活物質の平均粒径は8.9μmであり、〔(d90−d10)/平均粒径〕値は0.92、比表面積は0.42m2/gであった。また、SEM観察により、正極活物質は、略球状であるが、二次粒子同士の焼結が進み、三次粒子を形成していることを確認した。また、断面観察から、一次粒子の焼結、粒成長が進み、中空部がかなり小さくなっていることを確認した。この観察から求めた、正極活物質の外殻部の厚さは2.0μm、粒子径に対する外殻部の厚さの比率は、22.5%であった。さらに、この正極活物質の結晶構造が、六方晶の層状結晶リチウムニッケルマンガン複合酸化物単相からなること、この正極活物質の組成は、Liが7.80質量%、Niが19.1質量%、Coが19.1質量%、Mnが17.9質量%、Zrが0.45質量%の組成で、Li1.146Ni0.332Co0.331Mn0.332Zr0.0052で表されることが確認された。
【0263】
実施例3と同様に電池による評価を行ったところ、初期放電容量は141.4mAh/gであり、正極抵抗は8.6Ωであった。また、200サイクル後の容量維持率は76%であった。焼成温度が高く焼結が進んだために、同様の組成を有する実施例3と比較して、比表面積が低く、正極抵抗値が高くなっていた。
【0264】
【表1】

【0265】
(複合水酸化物粒子の製造条件および特性)
【0266】
【表2】

【0267】
(正極活物質の製造条件および特性)
【産業上の利用可能性】
【0268】
本発明の非水系電解質二次電池は、常に高容量を要求される小型携帯電子機器(ノート型パーソナルコンピュータや携帯電話端末など)の電源に好適である。
【0269】
また、本発明の非水系電解質二次電池は、優れた安全性を有し、小型化、高出力化が可能であることから、搭載スペースに制約を受ける輸送用機器の電源として好適である。
【符号の説明】
【0270】
1 コイン型電池
2 ケース
2a 正極缶
2b 負極缶
2c ガスケット
3 電極
3a 正極
3b 負極
3c セパレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
晶析反応によって,
一般式:NixMnyCozt(OH)2+a(x+y+z+t=1、0.3≦x≦0.7、0.1≦y≦0.55、0≦z≦0.4、0≦t≦0.1、0≦a≦0.5、Mは添加元素であり、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の元素)で表されるニッケルマンガン複合水酸化物粒子を製造する製造方法であって、
少なくともニッケルを含有する金属化合物およびマンガンを含有する金属化合物を含み、ニッケル、マンガンおよびコバルトと錯イオンを形成する錯イオン形成剤を含まない核生成用水溶液を、液温が60℃以上、かつ、液温25℃を基準として測定するpH値が11.5〜13.5となるように制御して、微細一次粒子からなる中心部である核を生成する核生成工程と、
前記核生成工程において形成された核を含有し、ニッケル、マンガンおよびコバルトと錯イオンを形成する錯イオン形成剤を実質的に含まない粒子成長用水溶液を、液温が60℃以上、液温25℃を基準として測定するpH値が9.5〜11.5、かつ、核生成工程におけるpH値よりも低いpH値となるように制御して、前記核の外面に該微細一次粒子よりも大きな板状または針状の一次粒子からなる外殻部を成長させる粒子成長工程と、
を備えることを特徴とするニッケルマンガン複合水酸化物粒子の製造方法。
【請求項2】
前記核生成工程および粒子成長工程において、反応槽内の酸素濃度を10容量%以下に制御することを特徴とする請求項1に記載のニッケルマンガン複合水酸化物粒子の製造方法。
【請求項3】
前記粒子成長用水溶液として、前記核生成工程が終了した前記核生成用水溶液のpH値を調整して形成されたものを用いることを特徴とする、請求項1または2に記載のニッケルマンガン複合水酸化物粒子の製造方法。
【請求項4】
前記粒子成長用水溶液として、前記核生成工程において形成された核を含有する水溶液を、該核を形成した核生成用水溶液とは異なる、ニッケル、マンガンおよびコバルトと錯イオンを形成する錯イオン形成剤を実質的に含まず、液温が60℃以上、液温25℃を基準として測定するpH値が9.5〜11.5、かつ、核生成工程におけるpH値よりも低いpH値となるように制御された成分調整用水溶液に対して添加したものを用いることを特徴とする、請求項1または2に記載のニッケルマンガン複合水酸化物粒子の製造方法。
【請求項5】
前記粒子成長用水溶液の液体成分の一部を除去した後に、前記粒子成長工程を開始することを特徴とする、請求項4に記載のニッケルマンガン複合水酸化物粒子の製造方法。
【請求項6】
前記粒子成長工程で得られたニッケル複合水酸化物に、前記1種以上の添加元素を含む化合物を被覆することを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のニッケルマンガン複合水酸化物粒子の製造方法。
【請求項7】
一般式:NixMnyCozt(OH)2+a(x+y+z+t=1、0.3≦x≦0.7、0.1≦y≦0.55、0≦z≦0.4、0≦t≦0.1、0≦a≦0.5、Mは、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の添加元素)で表され、複数の一次粒子が凝集して形成された略球状の二次粒子であり、該二次粒子は、平均粒径が3〜7μmであり、粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90−d10)/平均粒径〕が0.55以下であり、微細一次粒子からなる中心部を有し、中心部の外側に該微細一次粒子よりも大きな板状または針状の一次粒子からなり、厚さが0.3〜3μmである外殻部を有することを特徴とする、ニッケルマンガン複合水酸化物粒子。
【請求項8】
前記微細一次粒子は、平均粒径0.01〜0.3μmであり、前記微細一次粒子よりも大きな板状または針状の一次粒子は、平均粒径0.3〜3μmであることを特徴とする、請求項7に記載のニッケルマンガン複合水酸化物粒子。
【請求項9】
前記外殻部の厚さは、前記二次粒子の粒径に対する比率で10〜45%であることを特徴とする、請求項7または8に記載のニッケルマンガン複合水酸化物粒子。
【請求項10】
前記1種以上の添加元素が、前記二次粒子の内部に均一に分布および/または該二次粒子の表面を均一に被覆していることを特徴とする、請求項7〜9のいずれかに記載のニッケルマンガン複合水酸化物粒子。
【請求項11】
請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法によって生成されたものであることを特徴とする、請求項7〜10のいずれかに記載のニッケルマンガン複合水酸化物粒子。
【請求項12】
一般式:Li1+uNixMnyCozt2(−0.05≦u≦0.50、x+y+z+t=1、0.3≦x≦0.7、0.1≦y≦0.55、0≦z≦0.4、0≦t≦0.1、Mは添加元素であり、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の元素)で表され、層状構造を有する六方晶系の結晶構造を有するリチウムニッケルマンガン複合酸化物からなる正極活物質の製造方法であって、
請求項7〜11のいずれかに記載のニッケルマンガン複合水酸化物粒子に対してリチウム化合物を混合して、リチウム混合物を形成する混合工程と、該混合工程で形成された前記混合物を、酸化性雰囲気中、800〜980℃の温度で焼成する焼成工程とを備えることを特徴とする、非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項13】
前記リチウム混合物は、該リチウム混合物に含まれるリチウム以外の金属の原子数の和とリチウムの原子数との比が、1:0.95〜1.5となるように調整されることを特徴とする、請求項12に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項14】
前記混合工程において、混合前にあらかじめ105〜750℃の温度でニッケルマンガン複合水酸化物粒子を熱処理することを特徴とする請求項12または13に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項15】
前記焼成工程において、焼成前にあらかじめ350〜800℃の温度で仮焼を行うことを特徴とする、請求項12〜14のいずれかに記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項16】
前記焼成工程における酸化性雰囲気を、18〜100容量%の酸素を含有する雰囲気とすることを特徴とする、請求項12〜15のいずれかに記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項17】
一般式:Li1+uNixMnyCozMtO2(−0.05≦u≦0.50、x+y+z+t=1、0.3≦x≦0.7、0.1≦y≦0.55、0≦z≦0.4、0≦t≦0.1、Mは添加元素であり、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の元素)で表され、層状構造を有する六方晶系リチウム含有複合酸化物により構成されるリチウムニッケルマンガン複合酸化物からなる正極活物質であって、平均粒径が2〜8μmであり、粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90−d10)/平均粒径〕が0.60以下であり、比表面積が1〜2m2/gであり、粒子内部の中空部とその外側の外殻部で構成される中空構造を有し、該外殻部の厚さが0.5〜2.5μmであることを特徴とする、非水系電解質二次電池用正極活物質。
【請求項18】
前記外殻部の厚さは、前記リチウムニッケルマンガン複合酸化物粒子の粒径に対する比率で5〜45%であることを特徴とする、請求項17に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質。
【請求項19】
請求項12〜15のいずれかに記載の製造方法によって生成されたものであることを特徴とする、請求項17または18に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質。
【請求項20】
正極が、請求項17〜19のいずれかに記載の非水系電解質二次電池用正極活物質によって形成されていることを特徴とする、非水系電解質二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図9】
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【図10】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−254889(P2012−254889A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−127763(P2011−127763)
【出願日】平成23年6月7日(2011.6.7)
【特許番号】特許第4894969号(P4894969)
【特許公報発行日】平成24年3月14日(2012.3.14)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】