ニッケル合金粉末
【課題】耐酸化性に優れた導電性ペースト用ニッケル合金粉末として、ニッケルと銀の合金粉末が優れた特性を示すことを知見し、これを提供する。
【解決手段】ニッケルを主体とし、銀を0.1〜30原子%含有し、平均粒径が0.1〜2μmであるニッケル合金粉末は銀が粒の表面近傍に偏析し、耐酸化性に優れた導電性ペースト用ニッケル合金粉末である。この粉末はニッケルの塩化物21及び銀の塩化物22を反応容器11内に装入し、高温雰囲気に保持しつつキャリアガス13及び還元ガス12を送入して合金粉生成域15で化学気相反応させ、生成することができる。
【解決手段】ニッケルを主体とし、銀を0.1〜30原子%含有し、平均粒径が0.1〜2μmであるニッケル合金粉末は銀が粒の表面近傍に偏析し、耐酸化性に優れた導電性ペースト用ニッケル合金粉末である。この粉末はニッケルの塩化物21及び銀の塩化物22を反応容器11内に装入し、高温雰囲気に保持しつつキャリアガス13及び還元ガス12を送入して合金粉生成域15で化学気相反応させ、生成することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル合金粉末に関する。さらに詳しくは、導電性ペースト用途に特に適したニッケル合金粉末に係るものである。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサの内部電極にニッケル超微粉が使用されている。このようなニッケル超微粉は、有機バインダ等によってペースト化され、スクリーン印刷等によってセラミックグリーンシート上に薄層に印刷され、その積層体は、脱脂、焼結、焼成等を経て積層セラミックコンデンサとなる。ニッケル超微粉は安価で優れた特性を有するが、上記脱脂、焼結、焼成等の工程において、雰囲気中の酸素によって容易に酸化する問題がある。この酸化により、酸化物の混入を生じたり、焼結不良になったり、電気抵抗が増加する等の問題があり、その改善が望まれている。
【0003】
そこで、ニッケルよりも高温で焼結を開始し、その際に雰囲気により酸化されない粉末として、ニッケルを主体とし、V,Cr,Zr,Nb,Mo,Ta,Wなどを含み、平均粒径が0.1〜1μmである導電ぺ一スト用ニッケル合金粉が開発されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
その技術は、ニッケルの焼結開始温度を高め、酸化量を低下させ、高温硬さを向上させる一方、電気比抵抗をあまり増加させない元素を添加するものである。V,Cr,Zr,Nb,Mo,Ta,Wなどは焼結温度を高める元素として、高融点であり、原子半径が大きく、拡散が困難な元素である。また合金化によって、活量低下と不働態の形成を図り、耐熱性を向上させることができる。
【特許文献1】特開2000−60877号公報(第2−4頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らはさらに、ニッケル合金粉末について研究を進め、ニッケルと銀の合金粉末が優れた特性を示すことを知見し、本発明を完成するに至った。
【0006】
本発明は、このようなニッケル合金粉末を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記実情に鑑み開発されたもので、製造されるニッケル合金粉末におけるAg含有量が所定量となるようにニッケルの塩化物と銀もしくは銀の塩化物との量を調整して装入した反応容器内において、気相化学反応を用いて製造されるニッケル合金粉末であって、前記ニッケル合金粉末が、ニッケルを主体とし、銀を0.1〜30原子%含有し、平均粒径が0.1〜5μmで、表層の銀濃度が、平均の銀濃度よりも高いことを特徴とするニッケル合金粉末である。
【0008】
この場合、前記ニッケル合金粉末の表層の銀濃度が平均の銀濃度よりも高いことが好適である。
【0009】
なお、電気抵抗に悪影響を与えない元素や、融点を低下させない元素や、Niに固溶しない元素や、耐酸化性に障害を与えない成分であれば他の元素の存在を否認するものではなく、ニッケルと銀以外の第三の成分を含んでもよい。この場合、ニッケルと銀の合計量が90原子%以上であると好ましい。
【0010】
特に第三の成分として、硫黄を0.0005〜5原子%含有することが一層好ましい。
【0011】
本発明は、銀とニッケルとの合金から成る粒子では、銀がニッケル粒子の表層近傍に濃化し易く、表面エネルギーを下げるという顕著な特性の知見に基づくもので、表層に濃化した銀がニッケル合金の耐酸化性向上に大きく寄与する。
【0012】
なお、ここに表層とは、ニッケル合金粉末粒子の表面ではなく、表面から該粒子の内部に向かってある程度の深さの範囲までをいう。具体的には粒子の粒径の数%程度までの範囲である。
【0013】
また、ニッケル合金が硫黄を含有すると、ニッケル合金粒子の表層にいっそう銀が濃化し易くなるので、銀添加によるニッケル合金粉末の耐酸化性が向上し、好ましい。
【0014】
上記本発明のニッケル合金粉末は、ニッケルの塩化物と銀乃至は銀の塩化物とを反応容器内に装入し、高温雰囲気に保持しつつキャリアガス及び還元ガスを送入して化学気相反応させ、銀含有ニッケル合金粉末を生成することによって得られる。
【0015】
さらに、ニッケル合金粉末に硫黄を含有させるには、反応容器内に装入する装入物中にS含有物質を含めるとよく、特にニッケルの硫化物ないしは硫酸化物またはSO2ないしSO3ないしH2S等のガスであることが好ましい。これらの物質は、塩化ニッケルに所定比率で混合して装入するか、あるいはキャリアガスに混入すると、得られるニッケル合金粉末の組成のばらつきが少なくなり、好ましい。
【0016】
前記高温雰囲気は950〜1200℃とすればよい。また、前記生成した銀含有ニッケル合金粉末をさらに焼鈍すると、耐酸化性が一層向上するので好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の耐酸化性に優れた導電性ペースト用ニッケル合金粉末は以上のように構成されているので、耐酸化性に優れ、積層セラミックコンデンサ用の導電ペースト用として極めて好適な特性を示すという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明はニッケルを主体とし、銀を0.1〜30原子%含有するニッケル合金粉末で、耐酸化性に優れたものである。
【0019】
銀含有量が0.1原子%未満ではニッケル合金粉末の耐酸化性の向上が見られず、改善効果がない。また、銀を多量に含有すると、導電性ペースト用に使用した場合に銀ペーストと同様の効果を期待することができ好ましいが、一方、銀は高価であるから、耐酸化性の向上と、合金粉末のコストアップと、焼結開始温度の低下とのバランスの観点から上限を30原子%に限定した。
【0020】
本発明のニッケル合金粉末の平均粒径は0.1〜5μmとする。高性能の薄膜から成る多重積層セラミックコンデンサを製造するためには、平均粒径0.1〜5μmのほぼ球形の粉末が好適である。このような平均粒径のニッケル合金粉末は化学気相反応(CVD)によって容易に得ることができる。また、粒径が小さい程積層セラミックコンデンサ用として好ましく、粒径が小さいと比表面積が増大するので、ニッケルの表面に濃化してネットワーク状の耐酸化層を形成する銀の作用効果が顕著になる。
【0021】
さらに、ニッケル合金粉末中に0.0005〜5原子%の硫黄を含有させるとニッケル合金粒子の表層にいっそう銀が濃化し易くなるので、銀添加によるニッケル合金粉末の耐酸化性が向上し、好ましい。硫黄の含有量が0.0005原子%未満では粒子表層への銀の濃化に対する硫黄の効果が乏しくなる。一方5原子%を超えると銀の硫化物やニッケルの硫化物の量が増大し、ニッケル合金粉末の導電性その他の性質を劣化させるので好ましくない。
【0022】
化学気相反応の具体的条件については、生産効率、成分範囲などに応じて原料配合比、反応温度、反応ガス流量等を設定することができる。
【0023】
ここで、ニッケルと銀との合金粒子は、粒子の表層近傍に銀が濃化し、粒子全体が一様な合金組成でないことについて説明する。
【0024】
図11、図12はNi−13原子%Agの試作合金のスパッタリング時間(分)を横軸に、縦軸にDPH(デリバティブピーク高さ)をとって試験結果を図示したグラフである。横軸はスパッタリングがFe換算深さ2.7nm/minに相当し、表面から内部への深さを示す指標である。図11、図12中、曲線31、41はニッケルの量、曲線32、42は銀の量、曲線33、43は酸素の量、曲線44は硫黄の量をそれぞれ示している。銀の量を示す曲線32、42はニッケルの表層近傍に大部分が存在し、この銀が粒子の酸化を防止している。図11、図12から明らかなように銀を含有する本発明のニッケル合金粉末は表層近傍に銀が濃化していることが明らかである。
【0025】
次に、本発明の製造方法について説明する。図1は本発明の実施例の耐酸化性に優れた導電性ペースト用ニッケル合金粉末の製造方法を示すプロセスの工程図である。
【0026】
本発明の耐酸化性に優れた導電性ペースト用ニッケル合金粉末は、図1に示す化学気相反応(CVD)装置10によって製造することができる。図1(a)に示すように、反応容器11内に原料として塩化ニッケル21を収納したボート23と塩化銀乃至は銀22を収納したボート24を置き、反応容器11を例えば950〜1200℃に保ち、キャリアガス13を送入して塩化ニッケル21及び塩化銀22を蒸発させる。塩化ニッケル21と塩化銀22とを混合して1つのボートに装入してもよいし、ボート23とボート24の位置を入れ替えてもよい。
【0027】
また硫黄含有物質(硫化ニッケルないし硫酸ニッケル)は塩化ニッケルに混合するのがよい。
【0028】
一方、還元ガス12、例えば水素ガスを送入する。反応装置10の入口側から原料収納ボート23までの距離b、還元ガス送入位置までの距離a、温度条件、原料の量などは、反応装置の規模、製品粒子の大きさその他の条件に応じて定めることができる。
【0029】
図1(b)は蒸発した原料が合金粉生成域15で還元されると共に合金粉が生成される反応工程を示すものである。生成した合金粉はキャリアガス13と共に排出路14から排出される。
【0030】
図1(c)に示すように、原料である塩化ニッケル21、塩化銀22が蒸発完了したとき、製造工程を終了する。
【実施例】
【0031】
図1に示すような実験室規模の気相化学反応装置10を用いて本発明のニッケル合金粉末を製造した。この装置10に、純度99.5質量%のNiCl2と純度99.5質量%のAgClとの混合物を、Ag/(Ni+Ag)の値が0.1〜30原子%となるように調整し、装置内に装入した。温度1100℃に加熱した状態において、窒素ガスをキャリアガスとして、上記NiCl2及びAgClの蒸気を上記反応容器11内で反応させ、反応容器11の出側において、塩化物蒸気と水素ガスとを接触、混合させ、還元反応を起こさせて、ニッケル合金粉末を製造した。
【0032】
得られたニッケル合金粉末のSEMによる画像解析により求めた平均粒径D50、BET法で測定した比表面積、及び350℃×2時間大気中にさらしたときの酸化増量(TG増%)を表1〜表4に示した。
【0033】
比較例として、上記と同一の装置を用いて、NiCl2のみを原料とするニッケル粉末も製造した。得られたニッケル粉末の上記と同様の特性を表1〜表4に併せて示した。
【0034】
次に、銀が表層近傍に偏析したニッケル合金粉末を得るための試作実験を行った結果について説明する。この実験は、図1に示すような石英反応管を反応容器として用いたCVD装置10により行った。直径50mmφ長さ1000mmLの石英管を用い、使用原料としてNiCl2及びAgClを用い、原料装入量20〜30g/ch(チャージ)、キャリアガスとして窒素3L/min、還元ガスとして水素1L/minを用い、炉設定温度1100℃で銀含有ニッケル合金粉末の製造を行った。
【0035】
表5、表6に各チャージごとのNi、Ag、Oの原子%、及びBET値を示した。また、表7に各チャージごとの原料装入量、反応管上流端より原料ボート上流端までの距離b(mm)、反応管上流端より水素ノズル下流端までの距離a(mm)を示した。なお、ボートの長さは120mmとした。
【0036】
図2〜図7は表5に示すch.No.WNA−01〜−04、−07、−09に対応する試作粉のSEM写真である。
【0037】
次に、図8は、図6に示すch.No.WNA−07と同様で、NiCl2及びAgClを予め混合してボートに収納した原料を用いて製造した、ニッケル合金粉末のSEM写真である。このニッケル合金粉末のEDX像を調べた結果では、純ニッケル粉末と比較して大部分の粒子に銀が分布していると認められた。
【0038】
図9は、図7に示すch.No.WNA−09と同様で、原料NiCl2及びAgClを個別にボートに入れて作成した、ニッケル合金粉末を示すSEM写真である。このニッケル合金粉末のEDX像を調べたところ、予め原料を混合したch.No.WNA−07と差が認められなかった。
【0039】
図10は純ニッケル粉末のSEM写真を示すもので、そのEDX像を調べたところ、ch.No.WNA−07とは異なり、何れの粒子においても銀は検出されなかった。
【0040】
次に、反応管の上流端より原料ボート上流端までの距離b、反応管上流端より水素ノズル下流端までの距離aを一定とし、ニッケルに対する銀含有率の異なるニッケル合金粉末を製造した。(ch.No.WNA−10〜−13)。その製品成分の原子%、空気中で350℃2時間保持後の酸化増量(ΔTg%)、平均粒径、比表面積を表8に示した。銀含有量が増加すると粒径が小さく、比表面積が大きくなる傾向があり、TG%が比表面積増加に伴って漸増する傾向が見られたが、耐酸化性のレベルは従来より低いことがわかる。
【0041】
次に本発明の効果について説明する。
【0042】
以上の実施例について、350℃、2時間空気中で保持したときの酸化増量(ΔTg:質量%)を調べた結果を図13に示す。図中、曲線51は昇温曲線、曲線52〜54はそれぞれ、平均粒径0.2μm(201)、0.3μm(301)、0.4μm(401)のニッケル粉末を示し、350℃で2時間経過後の酸化増量(ΔTg:質量%)はそれぞれ14.8%、12.1%、9.1%となっている。一方、曲線55は銀を7.5原子%を含み平均粒径0.2μmのニッケル合金粉末、曲線56は銀を13原子%を含み平均粒径0.42μmのニッケル合金粉末である。曲線55及び曲線55の酸化増量(ΔTg:質量%)はそれぞれ5.8%、5.3%であり、曲線52〜54で示したニッケル粉末に対して著しく改善されている。
【0043】
なお、図14はこれらの試作品の焼結挙動を比較するもので、横軸に温度をとり、縦軸に温度上昇に伴う圧粉体の高さ収縮率(TMA)%をとって示した。曲線62〜64はそれぞれ図13の曲線52〜54と対応する平均粒径0.2〜0.4μmの純ニッケル粉末について示したものである。曲線65は銀を4.6%含有し平均粒径0.46μmのニッケル合金粉末、曲線66は銀を2.9%含有し平均粒径0.55μmのニッケル合金粉末である。銀を含有した本発明のニッケル合金粉末(曲線65、66)では曲線62〜64で示すニッケル粉末に比べて低い焼結温度を示している。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
【表3】
【0047】
【表4】
【0048】
【表5】
【0049】
【表6】
【0050】
【表7】
【0051】
【表8】
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の実施例の耐酸化性に優れた導電性ペースト用ニッケル合金粉末の製造方法を示すプロセスの工程図である。
【図2】実施例のニッケル合金粉末のSEM写真である。
【図3】実施例のニッケル合金粉末のSEM写真である。
【図4】実施例のニッケル合金粉末のSEM写真である。
【図5】実施例のニッケル合金粉末のSEM写真である。
【図6】実施例のニッケル合金粉末のSEM写真である。
【図7】実施例のニッケル合金粉末のSEM写真である。
【図8】実施例のニッケル合金粉末のSEM写真である。
【図9】実施例のニッケル合金粉末のSEM写真である。
【図10】純ニッケル粉末のSEM写真である。
【図11】実施例の試験結果を図示したグラフである。
【図12】実施例の試験結果を図示したグラフである。
【図13】本発明の効果である酸化増量を示すグラフである。
【図14】焼結による圧粉体の高さ収縮率を示すグラフである。
【符号の説明】
【0053】
10 化学気相反応(CVD)装置
11 反応容器
12 還元ガス
13 キャリアガス
14 排出路
15 合金粉生成域
21 ニッケルの塩化物
22 銀の塩化物
23、24 原料収納ボート
31、32、33、41、42、43 曲線
51〜56 曲線
62〜66 曲線
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル合金粉末に関する。さらに詳しくは、導電性ペースト用途に特に適したニッケル合金粉末に係るものである。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサの内部電極にニッケル超微粉が使用されている。このようなニッケル超微粉は、有機バインダ等によってペースト化され、スクリーン印刷等によってセラミックグリーンシート上に薄層に印刷され、その積層体は、脱脂、焼結、焼成等を経て積層セラミックコンデンサとなる。ニッケル超微粉は安価で優れた特性を有するが、上記脱脂、焼結、焼成等の工程において、雰囲気中の酸素によって容易に酸化する問題がある。この酸化により、酸化物の混入を生じたり、焼結不良になったり、電気抵抗が増加する等の問題があり、その改善が望まれている。
【0003】
そこで、ニッケルよりも高温で焼結を開始し、その際に雰囲気により酸化されない粉末として、ニッケルを主体とし、V,Cr,Zr,Nb,Mo,Ta,Wなどを含み、平均粒径が0.1〜1μmである導電ぺ一スト用ニッケル合金粉が開発されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
その技術は、ニッケルの焼結開始温度を高め、酸化量を低下させ、高温硬さを向上させる一方、電気比抵抗をあまり増加させない元素を添加するものである。V,Cr,Zr,Nb,Mo,Ta,Wなどは焼結温度を高める元素として、高融点であり、原子半径が大きく、拡散が困難な元素である。また合金化によって、活量低下と不働態の形成を図り、耐熱性を向上させることができる。
【特許文献1】特開2000−60877号公報(第2−4頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らはさらに、ニッケル合金粉末について研究を進め、ニッケルと銀の合金粉末が優れた特性を示すことを知見し、本発明を完成するに至った。
【0006】
本発明は、このようなニッケル合金粉末を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記実情に鑑み開発されたもので、製造されるニッケル合金粉末におけるAg含有量が所定量となるようにニッケルの塩化物と銀もしくは銀の塩化物との量を調整して装入した反応容器内において、気相化学反応を用いて製造されるニッケル合金粉末であって、前記ニッケル合金粉末が、ニッケルを主体とし、銀を0.1〜30原子%含有し、平均粒径が0.1〜5μmで、表層の銀濃度が、平均の銀濃度よりも高いことを特徴とするニッケル合金粉末である。
【0008】
この場合、前記ニッケル合金粉末の表層の銀濃度が平均の銀濃度よりも高いことが好適である。
【0009】
なお、電気抵抗に悪影響を与えない元素や、融点を低下させない元素や、Niに固溶しない元素や、耐酸化性に障害を与えない成分であれば他の元素の存在を否認するものではなく、ニッケルと銀以外の第三の成分を含んでもよい。この場合、ニッケルと銀の合計量が90原子%以上であると好ましい。
【0010】
特に第三の成分として、硫黄を0.0005〜5原子%含有することが一層好ましい。
【0011】
本発明は、銀とニッケルとの合金から成る粒子では、銀がニッケル粒子の表層近傍に濃化し易く、表面エネルギーを下げるという顕著な特性の知見に基づくもので、表層に濃化した銀がニッケル合金の耐酸化性向上に大きく寄与する。
【0012】
なお、ここに表層とは、ニッケル合金粉末粒子の表面ではなく、表面から該粒子の内部に向かってある程度の深さの範囲までをいう。具体的には粒子の粒径の数%程度までの範囲である。
【0013】
また、ニッケル合金が硫黄を含有すると、ニッケル合金粒子の表層にいっそう銀が濃化し易くなるので、銀添加によるニッケル合金粉末の耐酸化性が向上し、好ましい。
【0014】
上記本発明のニッケル合金粉末は、ニッケルの塩化物と銀乃至は銀の塩化物とを反応容器内に装入し、高温雰囲気に保持しつつキャリアガス及び還元ガスを送入して化学気相反応させ、銀含有ニッケル合金粉末を生成することによって得られる。
【0015】
さらに、ニッケル合金粉末に硫黄を含有させるには、反応容器内に装入する装入物中にS含有物質を含めるとよく、特にニッケルの硫化物ないしは硫酸化物またはSO2ないしSO3ないしH2S等のガスであることが好ましい。これらの物質は、塩化ニッケルに所定比率で混合して装入するか、あるいはキャリアガスに混入すると、得られるニッケル合金粉末の組成のばらつきが少なくなり、好ましい。
【0016】
前記高温雰囲気は950〜1200℃とすればよい。また、前記生成した銀含有ニッケル合金粉末をさらに焼鈍すると、耐酸化性が一層向上するので好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の耐酸化性に優れた導電性ペースト用ニッケル合金粉末は以上のように構成されているので、耐酸化性に優れ、積層セラミックコンデンサ用の導電ペースト用として極めて好適な特性を示すという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明はニッケルを主体とし、銀を0.1〜30原子%含有するニッケル合金粉末で、耐酸化性に優れたものである。
【0019】
銀含有量が0.1原子%未満ではニッケル合金粉末の耐酸化性の向上が見られず、改善効果がない。また、銀を多量に含有すると、導電性ペースト用に使用した場合に銀ペーストと同様の効果を期待することができ好ましいが、一方、銀は高価であるから、耐酸化性の向上と、合金粉末のコストアップと、焼結開始温度の低下とのバランスの観点から上限を30原子%に限定した。
【0020】
本発明のニッケル合金粉末の平均粒径は0.1〜5μmとする。高性能の薄膜から成る多重積層セラミックコンデンサを製造するためには、平均粒径0.1〜5μmのほぼ球形の粉末が好適である。このような平均粒径のニッケル合金粉末は化学気相反応(CVD)によって容易に得ることができる。また、粒径が小さい程積層セラミックコンデンサ用として好ましく、粒径が小さいと比表面積が増大するので、ニッケルの表面に濃化してネットワーク状の耐酸化層を形成する銀の作用効果が顕著になる。
【0021】
さらに、ニッケル合金粉末中に0.0005〜5原子%の硫黄を含有させるとニッケル合金粒子の表層にいっそう銀が濃化し易くなるので、銀添加によるニッケル合金粉末の耐酸化性が向上し、好ましい。硫黄の含有量が0.0005原子%未満では粒子表層への銀の濃化に対する硫黄の効果が乏しくなる。一方5原子%を超えると銀の硫化物やニッケルの硫化物の量が増大し、ニッケル合金粉末の導電性その他の性質を劣化させるので好ましくない。
【0022】
化学気相反応の具体的条件については、生産効率、成分範囲などに応じて原料配合比、反応温度、反応ガス流量等を設定することができる。
【0023】
ここで、ニッケルと銀との合金粒子は、粒子の表層近傍に銀が濃化し、粒子全体が一様な合金組成でないことについて説明する。
【0024】
図11、図12はNi−13原子%Agの試作合金のスパッタリング時間(分)を横軸に、縦軸にDPH(デリバティブピーク高さ)をとって試験結果を図示したグラフである。横軸はスパッタリングがFe換算深さ2.7nm/minに相当し、表面から内部への深さを示す指標である。図11、図12中、曲線31、41はニッケルの量、曲線32、42は銀の量、曲線33、43は酸素の量、曲線44は硫黄の量をそれぞれ示している。銀の量を示す曲線32、42はニッケルの表層近傍に大部分が存在し、この銀が粒子の酸化を防止している。図11、図12から明らかなように銀を含有する本発明のニッケル合金粉末は表層近傍に銀が濃化していることが明らかである。
【0025】
次に、本発明の製造方法について説明する。図1は本発明の実施例の耐酸化性に優れた導電性ペースト用ニッケル合金粉末の製造方法を示すプロセスの工程図である。
【0026】
本発明の耐酸化性に優れた導電性ペースト用ニッケル合金粉末は、図1に示す化学気相反応(CVD)装置10によって製造することができる。図1(a)に示すように、反応容器11内に原料として塩化ニッケル21を収納したボート23と塩化銀乃至は銀22を収納したボート24を置き、反応容器11を例えば950〜1200℃に保ち、キャリアガス13を送入して塩化ニッケル21及び塩化銀22を蒸発させる。塩化ニッケル21と塩化銀22とを混合して1つのボートに装入してもよいし、ボート23とボート24の位置を入れ替えてもよい。
【0027】
また硫黄含有物質(硫化ニッケルないし硫酸ニッケル)は塩化ニッケルに混合するのがよい。
【0028】
一方、還元ガス12、例えば水素ガスを送入する。反応装置10の入口側から原料収納ボート23までの距離b、還元ガス送入位置までの距離a、温度条件、原料の量などは、反応装置の規模、製品粒子の大きさその他の条件に応じて定めることができる。
【0029】
図1(b)は蒸発した原料が合金粉生成域15で還元されると共に合金粉が生成される反応工程を示すものである。生成した合金粉はキャリアガス13と共に排出路14から排出される。
【0030】
図1(c)に示すように、原料である塩化ニッケル21、塩化銀22が蒸発完了したとき、製造工程を終了する。
【実施例】
【0031】
図1に示すような実験室規模の気相化学反応装置10を用いて本発明のニッケル合金粉末を製造した。この装置10に、純度99.5質量%のNiCl2と純度99.5質量%のAgClとの混合物を、Ag/(Ni+Ag)の値が0.1〜30原子%となるように調整し、装置内に装入した。温度1100℃に加熱した状態において、窒素ガスをキャリアガスとして、上記NiCl2及びAgClの蒸気を上記反応容器11内で反応させ、反応容器11の出側において、塩化物蒸気と水素ガスとを接触、混合させ、還元反応を起こさせて、ニッケル合金粉末を製造した。
【0032】
得られたニッケル合金粉末のSEMによる画像解析により求めた平均粒径D50、BET法で測定した比表面積、及び350℃×2時間大気中にさらしたときの酸化増量(TG増%)を表1〜表4に示した。
【0033】
比較例として、上記と同一の装置を用いて、NiCl2のみを原料とするニッケル粉末も製造した。得られたニッケル粉末の上記と同様の特性を表1〜表4に併せて示した。
【0034】
次に、銀が表層近傍に偏析したニッケル合金粉末を得るための試作実験を行った結果について説明する。この実験は、図1に示すような石英反応管を反応容器として用いたCVD装置10により行った。直径50mmφ長さ1000mmLの石英管を用い、使用原料としてNiCl2及びAgClを用い、原料装入量20〜30g/ch(チャージ)、キャリアガスとして窒素3L/min、還元ガスとして水素1L/minを用い、炉設定温度1100℃で銀含有ニッケル合金粉末の製造を行った。
【0035】
表5、表6に各チャージごとのNi、Ag、Oの原子%、及びBET値を示した。また、表7に各チャージごとの原料装入量、反応管上流端より原料ボート上流端までの距離b(mm)、反応管上流端より水素ノズル下流端までの距離a(mm)を示した。なお、ボートの長さは120mmとした。
【0036】
図2〜図7は表5に示すch.No.WNA−01〜−04、−07、−09に対応する試作粉のSEM写真である。
【0037】
次に、図8は、図6に示すch.No.WNA−07と同様で、NiCl2及びAgClを予め混合してボートに収納した原料を用いて製造した、ニッケル合金粉末のSEM写真である。このニッケル合金粉末のEDX像を調べた結果では、純ニッケル粉末と比較して大部分の粒子に銀が分布していると認められた。
【0038】
図9は、図7に示すch.No.WNA−09と同様で、原料NiCl2及びAgClを個別にボートに入れて作成した、ニッケル合金粉末を示すSEM写真である。このニッケル合金粉末のEDX像を調べたところ、予め原料を混合したch.No.WNA−07と差が認められなかった。
【0039】
図10は純ニッケル粉末のSEM写真を示すもので、そのEDX像を調べたところ、ch.No.WNA−07とは異なり、何れの粒子においても銀は検出されなかった。
【0040】
次に、反応管の上流端より原料ボート上流端までの距離b、反応管上流端より水素ノズル下流端までの距離aを一定とし、ニッケルに対する銀含有率の異なるニッケル合金粉末を製造した。(ch.No.WNA−10〜−13)。その製品成分の原子%、空気中で350℃2時間保持後の酸化増量(ΔTg%)、平均粒径、比表面積を表8に示した。銀含有量が増加すると粒径が小さく、比表面積が大きくなる傾向があり、TG%が比表面積増加に伴って漸増する傾向が見られたが、耐酸化性のレベルは従来より低いことがわかる。
【0041】
次に本発明の効果について説明する。
【0042】
以上の実施例について、350℃、2時間空気中で保持したときの酸化増量(ΔTg:質量%)を調べた結果を図13に示す。図中、曲線51は昇温曲線、曲線52〜54はそれぞれ、平均粒径0.2μm(201)、0.3μm(301)、0.4μm(401)のニッケル粉末を示し、350℃で2時間経過後の酸化増量(ΔTg:質量%)はそれぞれ14.8%、12.1%、9.1%となっている。一方、曲線55は銀を7.5原子%を含み平均粒径0.2μmのニッケル合金粉末、曲線56は銀を13原子%を含み平均粒径0.42μmのニッケル合金粉末である。曲線55及び曲線55の酸化増量(ΔTg:質量%)はそれぞれ5.8%、5.3%であり、曲線52〜54で示したニッケル粉末に対して著しく改善されている。
【0043】
なお、図14はこれらの試作品の焼結挙動を比較するもので、横軸に温度をとり、縦軸に温度上昇に伴う圧粉体の高さ収縮率(TMA)%をとって示した。曲線62〜64はそれぞれ図13の曲線52〜54と対応する平均粒径0.2〜0.4μmの純ニッケル粉末について示したものである。曲線65は銀を4.6%含有し平均粒径0.46μmのニッケル合金粉末、曲線66は銀を2.9%含有し平均粒径0.55μmのニッケル合金粉末である。銀を含有した本発明のニッケル合金粉末(曲線65、66)では曲線62〜64で示すニッケル粉末に比べて低い焼結温度を示している。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
【表3】
【0047】
【表4】
【0048】
【表5】
【0049】
【表6】
【0050】
【表7】
【0051】
【表8】
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の実施例の耐酸化性に優れた導電性ペースト用ニッケル合金粉末の製造方法を示すプロセスの工程図である。
【図2】実施例のニッケル合金粉末のSEM写真である。
【図3】実施例のニッケル合金粉末のSEM写真である。
【図4】実施例のニッケル合金粉末のSEM写真である。
【図5】実施例のニッケル合金粉末のSEM写真である。
【図6】実施例のニッケル合金粉末のSEM写真である。
【図7】実施例のニッケル合金粉末のSEM写真である。
【図8】実施例のニッケル合金粉末のSEM写真である。
【図9】実施例のニッケル合金粉末のSEM写真である。
【図10】純ニッケル粉末のSEM写真である。
【図11】実施例の試験結果を図示したグラフである。
【図12】実施例の試験結果を図示したグラフである。
【図13】本発明の効果である酸化増量を示すグラフである。
【図14】焼結による圧粉体の高さ収縮率を示すグラフである。
【符号の説明】
【0053】
10 化学気相反応(CVD)装置
11 反応容器
12 還元ガス
13 キャリアガス
14 排出路
15 合金粉生成域
21 ニッケルの塩化物
22 銀の塩化物
23、24 原料収納ボート
31、32、33、41、42、43 曲線
51〜56 曲線
62〜66 曲線
【特許請求の範囲】
【請求項1】
製造されるニッケル合金粉末におけるAg含有量が所定量となるようにニッケルの塩化物と銀もしくは銀の塩化物との量を調整して装入した反応容器内において、気相化学反応を用いて製造されるニッケル合金粉末であって、
前記ニッケル合金粉末が、ニッケルを主体とし、銀を0.1〜30原子%含有し、平均粒径が0.1〜5μmで、表層の銀濃度が、平均の銀濃度よりも高いことを特徴とするニッケル合金粉末。
【請求項2】
ニッケルと銀の合計量が90原子%以上であることを特徴とする請求項1に記載のニッケル合金粉末。
【請求項3】
前記ニッケル合金粉末がさらに硫黄を0.0005〜5原子%含有することを特徴とする請求項1または2に記載のニッケル合金粉末。
【請求項4】
前記ニッケル合金粉末が導電性ぺーストに使用されるものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のニッケル合金粉末。
【請求項1】
製造されるニッケル合金粉末におけるAg含有量が所定量となるようにニッケルの塩化物と銀もしくは銀の塩化物との量を調整して装入した反応容器内において、気相化学反応を用いて製造されるニッケル合金粉末であって、
前記ニッケル合金粉末が、ニッケルを主体とし、銀を0.1〜30原子%含有し、平均粒径が0.1〜5μmで、表層の銀濃度が、平均の銀濃度よりも高いことを特徴とするニッケル合金粉末。
【請求項2】
ニッケルと銀の合計量が90原子%以上であることを特徴とする請求項1に記載のニッケル合金粉末。
【請求項3】
前記ニッケル合金粉末がさらに硫黄を0.0005〜5原子%含有することを特徴とする請求項1または2に記載のニッケル合金粉末。
【請求項4】
前記ニッケル合金粉末が導電性ぺーストに使用されるものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のニッケル合金粉末。
【図1】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2008−208465(P2008−208465A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−116788(P2008−116788)
【出願日】平成20年4月28日(2008.4.28)
【分割の表示】特願2003−199488(P2003−199488)の分割
【原出願日】平成15年6月16日(2003.6.16)
【出願人】(000200301)JFEミネラル株式会社 (79)
【出願人】(591149229)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年4月28日(2008.4.28)
【分割の表示】特願2003−199488(P2003−199488)の分割
【原出願日】平成15年6月16日(2003.6.16)
【出願人】(000200301)JFEミネラル株式会社 (79)
【出願人】(591149229)
【Fターム(参考)】
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