説明

ニッケル粉の製造方法及び該製造方法により得られたニッケル粉

【課題】 電子部品材料用として分散性が十分に確保され、不純物品位が低いニッケル粉とその簡潔な製造方法を提供する。
【解決手段】 ニッケル塩水溶液をアルカリ水溶液で中和して水酸化ニッケルの沈殿を生成させる工程(A)と、該水酸化ニッケルを空気中で熱処理して酸化ニッケルを生成させる工程(B)と、該酸化ニッケル粉表面を水溶性のアルカリ金属ハロゲン化物で被覆あるいは付着させる工程(C)と、該水溶性のアルカリ金属ハロゲン化物で表面を被覆あるいは付着させた酸化ニッケルを還元ガス雰囲気中で還元してニッケル粉とする工程(D)と、前記アルカリ金属ハロゲン化物を洗浄除去する工程(E)とを備えた製造方法とした。
本方法により得られるニッケル粉は、粒度分布D90が1.0μm以下、比表面積が4.6m/g以下、塩素、ナトリウム、カリウム品位が100質量ppm以下となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル粉およびその製造方法に関するものである。詳しくは、電子部品用の材料として好適なニッケル粉とその製造方法に関し、具体的には、分散性に優れ、かつ、比表面積を低減させ、さらに残留する塩素やアルカリ金属元素濃度を低減したニッケル粉に関する。
【背景技術】
【0002】
1.0μm以下の粒子径を有するニッケル粉は、積層セラミックコンデンサーなどの電子部品の導電体形成用材料としての主流であり広く使用されている。ニッケル粉を積層型の導電体形成材料として使用する場合、性能を向上させるためには積層数を増加させることが有効な手段となるが、積層数の増加は電子部品の大型化の原因となるため、これを防ぐためには一層あたりの厚みを薄くする必要がある。電極層を薄層化する場合、その材料となるニッケル粉には、粒子径が小さいこととともに高い分散性が要求される。例えば、多数の粒子が凝集したニッケル粉を使用した場合には、形成される電極厚みのばらつきの原因となり、電極の短絡や絶縁抵抗の低下などの原因となる。したがって、電子部品材料用のニッケル粉の製造に関しては、ニッケル粉の分散性の確保が重要な課題である。
【0003】
また、電子部品材料用としてニッケル粉を使用する場合には、ニッケル粉を樹脂や溶剤などと混練してペースト化し、スクリーン印刷などの技術を利用して部品を形成する手法が一般的である。この時、使用するニッケル粉の比表面積が大きい場合、粒子の酸化などにより劣化しやすいことや、ペースト混練時の混合不良やペースト経時劣化など不具合の原因となることがあるため好ましくない。したがって、電子部品材料用のニッケル粉は、分散性が確保できていれば、比表面積が低いほど有利となる。
一般に、電子部品材料用として用いられる粒子径1.0μm以下のニッケル粉は、気相還元法、湿式還元法、噴霧熱分解法、蒸発凝集法などの公知の技術により製造されている。ただし、電子部品材料の小型化や高効率化が求められ、従来よりも粒子径が小さく、かつ、分散性が優れた粒子への要求が大きくなると、それぞれ以下のような欠点が顕在化し、その改善が求められてきた。
【0004】
すなわち、気相還元法、噴霧熱分解法、蒸発凝集法に代表される気相粒子合成法においては、分散性に優れた粒子を製造するためには、粒子の生成密度を小さく制御する必要があり製造コストが大きくなってしまう問題がある。一方で、生産性を重視した場合には、連結粒子や粗大粒子の発生が起こりやすく、これを除去するためには分級操作を繰り返す必要が生じるため、やはりコストの増大という問題が発生する。
【0005】
また、湿式還元法によるニッケル粉の製造は、粒子径が微細で分散性に優れた粒子の製造方法として適している。しかし、湿式還元法によりニッケル粉を製造する場合には、多量の還元剤を用いるとともに表面に分散剤などを吸着させる方法が一般的であり、不純物品位の増加や製造時に発生する難処理廃液の処理コストが増大するなどの問題がある。
【0006】
一方で、比較的低コストで高い生産性が得られるニッケル粉の製造プロセスとしては、酸化物粉末還元法がある。すなわち、湿式中和法によりニッケル塩を中和して水酸化ニッケルを晶析し、得られた水酸化ニッケルをそのまま用いるか、あるいは熱処理により酸化物へ変換した後、水素などの還元ガス雰囲気下で還元処理することによりニッケル粉を得る方法である。しかし、本方法によりニッケル粉を製造した場合、熱処理時、特に、還元処理時にニッケル粉が焼結して粗大粒子が発生しやすくなる問題がある。一方で、焼結を抑制するためには、比較的低温で熱処理することが有効であるが、この場合には焼結をある程度抑制できるものの、熱による表面平滑化が十分でないために比表面積が大きくなりやすく、これらの特性を調整するには厳しく条件を調整する必要がある。
【0007】
こうした問題を解決する技術として、水酸化ニッケルの晶析条件を調整し、還元温度を400〜550℃に制御することで還元ニッケル粉の焼結による粗大化を防止する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。しかし、この方法により得られるニッケル粉は、平均粒子径1.0μm以下のものも得られるが、粒子の分散性、比表面積あるいは不純物量に十分配慮されているとは言えず、電子部品材料用として最近要求されているレベルの粒子径や分散性を備えているとは言い難い。このように、酸化物粉末還元法において、晶析や熱処理の条件制御により、粒径が1μm以下で高分散性と低比表面積を両立することは極めて困難である。
【0008】
これに対して、ニッケル粉同士の焼結を抑制しながら熱処理を行う技術としては、焼結防止剤をニッケル粉の表面に被覆あるいはニッケル粉と混合させることにより焼結を抑制する方法が知られている。例えば、周期律表第IIA族元素、第IV族元素および希土類元素から選ばれる少なくとも1種の元素の水酸化物にて被覆する方法が示されている(例えば、特許文献2参照。)。また、アルカリ土類金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩および炭酸水素塩よりなる群から選ばれたアルカリ土類金属化合物の微粉末とを混合した後、またはニッケル粉の各粒子表面に該アルカリ土類金属化合物を被覆させた後、熱処理をする方法が開示されている(例えば、特許文献3参照。)。
【0009】
これらの技術は、おもにニッケル粉の熱収縮特性の改善に主眼が置かれており、あらかじめ湿式法などで製造した分散性に優れたニッケル粉を原料に、そのニッケル粉の形状や分散性、化学組成を維持しながら熱処理を施す技術である。したがって、還元反応時の焼結抑制が課題である酸化物粉末還元法の場合、粒子の組成および形状の変化を伴うため上記技術の適用は困難である可能性が高い。また、添加した焼結防止剤が不純物として電子部品材料としての特性を損なう可能性があるが、この除去の観点においても、上記技術は基本的に原料形状を維持する技術であり、形状の変化を伴う酸化物粉末還元法への適用は十分でない可能性が高い。
【0010】
化学反応を伴う系において焼結を抑制する技術としては、ニッケル水溶液に、アルカリ金属化合物を添加して中和反応に付し、ニッケル化合物と焼結防止剤を含むスラリーを形成し、それを乾燥してニッケル化合物と焼結防止剤の混合物を生成させ、混合物を還元した後、浸出処理にて焼結防止剤を除去する方法が開示されている(例えば、特許文献4参照。)。この技術によれば、走査電子顕微鏡の観察によって測定される平均粒径が0.1μm未満の粒子が得られるとされているが、粒子の分散状態を評価する測定結果が示されておらず、平均粒径が0.1μm未満の粒子は凝集しやすいため、電子部品材料用として要求されているレベルの分散性が得られない可能性が高い。さらに、残存する不純物量は示されておらず、不純物の残存量も問題となる可能性が高い。
【0011】
また、塩化ニッケル粉末に添加剤として、ステアリン酸マグネシウムまたはステアリン酸カルシウムを添加した後、還元処理する技術が開示されている(例えば、特許文献5参照。)。この技術によれば、平均粒径が0.1〜1.0μmであり、単分散性に優れたニッケル粉末が得られるとされている。しかしながら、得られたニッケル粉末の表面にマグネシウム化合物やカルシウム化合物が生成しているとしているばかりか、塩化ニッケル由来の塩素も残留している可能性がある。ニッケル粉末の表面に生成しているマグネシウム化合物やカルシウム化合物は塩酸や酢酸等の溶液に浸漬して除去可能としているが、除去後のこれらの不純物量は示されておらず、電子部品用材料としては好ましくない量の不純物が残存している可能性が高い。
【0012】
このように、現状においては、電子部品材料用として分散性が十分に確保され、不純物品位も低いニッケル粉は開発されていない。また、コスト面からも低コスト化が可能な簡潔な製造方法が望まれている。
【特許文献1】特開2003−213310号公報
【特許文献2】特開2001−192702号公報
【特許文献3】特開2002−146401号公報
【特許文献4】特開2004−323884号公報
【特許文献5】特開平10−88205公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、電子部品材料用として分散性が十分に確保され、不純物品位が低いニッケル粉と簡潔なその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、生産性が高く低コストである酸化物粉末還元法について、分散性の向上と不純物品位の低減について鋭意検討した。その結果、水酸化ニッケル粉の焙焼によって得られる酸化ニッケル表面に水溶性アルカリ金属ハロゲン化物を特定条件で被覆あるいは付着させた後に還元処理すること、および還元後にアルカリ金属ハロゲン化物を特定条件で洗浄除去することにより、分散性が良く不純物品位が低いニッケル粉が得られることを見出した。さらに、前記還元を特定温度で行うことで分散性を維持しながら比表面積を低減できることを見出し、本発明をなすに至った。
【0015】
すなわち、本発明のニッケル粉の製造方法は、ニッケル塩水溶液をアルカリ水溶液で中和して水酸化ニッケルの沈殿を生成させる工程(A)と、該水酸化ニッケルを空気中で熱処理して酸化ニッケルを生成させる工程(B)と、該酸化ニッケル粉表面を水溶性のアルカリ金属ハロゲン化物で被覆あるいは付着させる工程(C)と、該水溶性のアルカリ金属ハロゲン化物で表面を被覆あるいは付着させた酸化ニッケルを還元ガス雰囲気中で還元してニッケル粉とする工程(D)と、前記アルカリ金属ハロゲン化物を洗浄除去する工程(E)とを備えたニッケル粉の製造方法である。
【0016】
また、前記工程(C)において、工程(B)で得られた酸化ニッケル粉と水溶性のアルカリ金属ハロゲン化物の水溶液とを混合してスラリー化した後、このスラリーを乾燥して水分を除去することによって、アルカリ金属ハロゲン化物で表面を被覆あるいは付着した酸化ニッケルを得ることが好ましい。
前記水溶性のアルカリ金属ハロゲン化物は、塩化ナトリウムあるいは塩化カリウムの少なくとも一種であることが好ましく、前記工程(C)において、酸化ニッケル表面に被覆あるいは付着させるために添加する水溶性のアルカリ金属ハロゲン化物の量は、酸化ニッケルの質量を100とした場合の質量比で0.05〜10とすることが好ましい。
また、前記工程(D)の還元は、430〜450℃で行うことが好ましい。
【0017】
さらに、前記工程(E)の洗浄除去は、ニッケル粉を有機酸水溶液中で攪拌することにより行うことが好ましく、前記有機酸は、クエン酸、グルタミン酸、アスコルビン酸から選ばれる少なくとも一種とすることが好ましい。前記工程(E)において、洗浄は30〜80℃に加熱した状態で行うことが好ましい。
また、前記水酸化ニッケルの沈殿を生成させる工程(A)の後に、工程(A)で生成した水酸化ニッケルを硫酸あるいは硫酸塩水溶液で洗浄し、さらに水洗する工程(F)を備えていることが好ましい。
【0018】
本発明のニッケル粉は、上記ニッケル粉の製造方法によって得られたニッケル粉であって、レーザー散乱法で測定した粒度分布のD90が1.0μm以下であることを特徴とする。BET法で測定された前記ニッケル粉の比表面積は、4.6m/g以下であることが好ましい。
また、前記ニッケル粉は、塩素品位とナトリウム品位あるいはカリウム品位がいずれも100質量ppm以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、電子部品材料用として好適な分散性に優れ、不純物品位が低いニッケル粉を得ることができる。また、比表面積も低く、ペースト化して用いる場合にも好適である。さらに、本発明の製造方法は、簡潔なプロセスで効率がよく、その工業的価値は大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に、本発明によるニッケル粉およびその製造方法について詳細に説明する。
本発明のニッケル粉の製造方法は、ニッケル塩水溶液をアルカリ水溶液で中和して水酸化ニッケルの沈殿を生成させる工程(A)と、該水酸化ニッケルを空気中で熱処理して酸化ニッケルを生成させる工程(B)と、該酸化ニッケル粉の表面を水溶性のアルカリ金属ハロゲン化物で被覆あるいは付着する工程(C)と、該水溶性のアルカリ金属ハロゲン化物で表面を被覆あるいは付着させた酸化ニッケルを還元ガス雰囲気中で還元してニッケル粉とする工程(D)と、前記アルカリ金属ハロゲン化物を洗浄除去する工程(E)とを備えたニッケル粉の製造方法である。
本発明のニッケル粉の製造方法においては、水酸化ニッケルに特定の水溶性アルカリ金属ハロゲン化物を付加した後に還元処理すること、および還元後にアルカリ金属ハロゲン化物を特定条件で洗浄除去することが重要である。すなわち、工程(C)において酸化ニッケル表面に被覆あるいは付着した水溶性のアルカリ金属ハロゲン化物が、工程(D)の還元処理においてニッケル粉の過度の焼結による連結粒子の発生を抑制するので、分散性に優れたニッケル粉を得ることができる。さらに、還元処理後に工程(C)で付加したアルカリ金属ハロゲン化物を洗浄除去することでニッケル粉の不純物品位を電子部品用として好適な範囲に低減させることができる。
【0021】
以下に、各工程毎に詳細を説明する。
[工程A]
工程(A)はニッケル塩水溶液をアルカリ水溶液で中和して水酸化ニッケルの沈殿を生成させる工程である。ニッケル塩は、廃水処理の容易さなど環境への影響とコスト面を考慮すると、塩化ニッケルを用いることが好ましい。水酸化ニッケルの沈殿を生成させる方法については、公知の技術を用いることができるが、均一な沈殿を得るためにニッケル塩水溶液とアルカリの中和は、pHを一定に保ちながら行うのが、沈殿生成速度を一定に保つことができるため好ましい。この時、均一な特性の水酸化ニッケルを得るために、十分に攪拌されている反応槽内に、ニッケル塩水溶液と水酸化ナトリウム水溶液をダブルジェット方式で添加しながら中和生成させることが有効である。反応槽内にあらかじめ入れておく液は純水を用いることができるが、中和生成に一度使用したろ液を所定のpHにアルカリで調整した液を用いることが好ましい。使用するアルカリ水溶液については、水酸化ナトリウム水溶液や水酸化カリウム水溶液などの水酸化アルカリ金属の水溶液を用いることが好ましく、入手しやすさや価格などの点で水酸化ナトリウム水溶液が好ましい。また、より分散性に優れたニッケル粉を得るために、公知の技術の利用として、水酸化ニッケルにマグネシウムなどの周期表第II属元素を添加することができ、本発明と併用することでその効果を一層高めることができる。
【0022】
生成した水酸化ニッケルをろ過により脱水し、ろ過ケーキを得る。この時、原料に塩化ニッケルを用いた場合には、十分に残留塩素濃度を下げることが好ましいため、数回のろ過・レパルプ洗浄を繰り返してもよいが、残留塩素濃度を下げながらスラリー濃度を上げていく方法としてクロスフロー方式のろ過を用いることも有効である。
また、ニッケル粉中の不純物塩素をより効果的に低減するために、硫酸あるいは硫酸塩水溶液で洗浄した後、さらに水洗する工程(F)を備えることが好ましい。
【0023】
[工程F]
工程(F)は、原料水酸化ニッケル粉中の不純物濃度を低減させるために、生成した水酸化ニッケルを硫酸あるいは硫酸塩水溶液で洗浄した後、さらに水洗する工程である。
工程(F)は、得られた水酸化ニッケルのゲルを解消しながらの洗浄となるため、水酸化ニッケルに残留する塩素を効率よく低減させることができる。そのため、次工程以降の塩素による負荷を下げることにもなり、得られる効果は大きい。
工程(F)を実施するときに洗浄に使用する硫酸あるいは硫酸塩水溶液濃度は、0.0004〜0.0015mol/Lであることが好ましい。硫酸あるいは硫酸塩水溶液濃度が0.0004mol/L未満であると洗浄効果が十分に得られず、濃度が0.0015mol/Lを超えた場合、残留する硫黄濃度が高くなりすぎて粒子の焼結挙動を著しく変化させるため、次工程以降の熱処理時に目的とする粒子が得られない可能性があるため好ましくない。洗浄時の水溶液の温度は常温で可能であるが、洗浄効果を高めるため加熱してもよい。
水酸化ニッケル粉に対する硫酸あるいは硫酸塩水溶液の量は特に限定されるものではなく、残留塩素が十分に低減できる量とすればよいが、水酸化ニッケル粉を良好に分散させるためには、水酸化ニッケル粉/処理液の混合比を100g/L程度とすることが好ましい。また、洗浄時間は特に限定されるものではなく、洗浄条件により残留塩素濃度が十分に低減される洗浄時間とすればよい。
【0024】
洗浄に用いる装置は特に限定されるものではなく、通常の湿式反応槽を用いることができる。洗浄中はニッケル粉を含むスラリーを攪拌することが好ましく、洗浄には、例えば、超音波攪拌を用いるか機械式攪拌を用いることができる。
工程(F)における洗浄は、あらかじめ硫酸あるいは硫酸塩濃度を調整した水溶液を準備し、これに攪拌しながら乾燥した水酸化ニッケルの粉末を加えることで行えるが、含水したままのケーキ状のものを使用する方が、均一な処理を行いやすく洗浄の効率が良くなるばかりか、工程の短縮にもなるために好ましい。ケーキ状の水酸化ニッケルを洗浄する場合には、水酸化ニッケルのろ過ケーキに少量の水を加えてスラリー状にした後、添加後に所定の濃度となるように調整した硫酸あるいは硫酸塩水溶液を攪拌しながら一度に添加することが、均一な処理のために好ましい。
水酸化ニッケルケーキの水分含有率については、10〜40質量%であることが好ましく、30質量%程度にすることがさらに好ましい。水分含有率が10質量%よりも低い場合、均一に水溶液中に分散しにくく洗浄の効率が悪くなることや、水分含有率を下げるためにより厳しい脱水処理が必要となるなどの制約があり好ましくない。一方で、水分含有率が40質量%よりも高い場合、水酸化ニッケルのハンドリング性が悪く、均一な処理を妨げる場合がある。また、一定量の水酸化ニッケルを得るために必要な処理量が増加してしまう。
洗浄後の水酸化ニッケルは、真空乾燥などの公知の方法で乾燥すればよい。
【0025】
[工程B]
工程(B)は、工程(A)で得られた水酸化ニッケルを空気中で熱処理して酸化ニッケルとする酸化ニッケルを生成させるための熱処理工程である。熱処理工程(B)では、静置式焙焼炉、転動炉、バーナー炉、搬送式連続炉、流動焙焼炉など、一般的な焙焼炉を用いて公知の方法で行うことができるが、目的とするニッケル微粉を得るためには、ここで均一な特性の酸化ニッケルを得ることが重要である。その際の条件は、目的とする粒子径などの特性が得られるように、炉の特性に応じて任意に設定することができるが、均一な処理を行うためには、ガス気流中で行うことが好ましい。
熱処理の雰囲気は、非還元性雰囲気であれば問題なく、ガス種については不活性ガスおよび酸化性ガスであれば種類は制約されるものではないが、空気を使用することがコストや取り扱いやすさなどの点で優れている。
【0026】
[工程C]
工程(C)は、工程(B)で得られた酸化ニッケル粉表面に水溶性のアルカリ金属ハロゲン化物を被覆あるいは付着させる工程である。ここで、酸化ニッケル粉に前記アルカリ金属ハロゲン化物を付加することが重要である。工程(C)で酸化ニッケル粉表面に前記アルカリ金属ハロゲン化物を被覆あるいは付着させることで、次の工程(D)の還元処理において焼結を抑制して粒子同士の連結が防止され、高い分散性のニッケル粉を得ることができる。
本発明で採用している酸化物粉末還元法は、還元処理する際に起きる酸化ニッケル粉の粒子形状の変化を制御して目的とするニッケル粉を生成させる技術である。すなわち、形状などが均一な酸化ニッケルの還元処理を制御しながら行うことで、目的とする特性を持った均一なニッケル粉が得られるのであり、焼結防止剤の役割を果たすアルカリ金属ハロゲン化物の付加は、酸化ニッケル粉への転換後に行う必要がある。
例えば、水酸化ニッケル生成時に、添加あるいは反応生成物を利用することにより、アルカリ金属ハロゲン化物を水酸化ニッケルに付加させる方法では、その後の熱処理によって得られる酸化ニッケルが微細になり過ぎるとともに粒径が不均一になるため、最終的に得られるニッケル粉は微細で粒度分布が広いものとなってしまう。また、水酸化ニッケルは表面の一部ないし全体がゲル状になりやすいことから、均一なアルカリ金属ハロゲン化物の付加を行なうことができない。したがって、アルカリ金属ハロゲン化物の付加は酸化ニッケル粉に対して行う必要がある。
【0027】
前記焼結抑制の効果を均一に発現させるためには、酸化ニッケル粉表面にアルカリ金属ハロゲン化物を被覆あるいは付着させることが必要である。このため、アルカリ金属ハロゲン化物の添加処理は、前記酸化ニッケル粉と水溶性のアルカリ金属ハロゲン化物の水溶液とを混合してスラリー化した後、このスラリーを乾燥して水分を除去することが好ましい。アルカリ金属ハロゲン化物は、不純物の混入を防止するため、純水に溶解して水溶液とすることが好ましい。スラリーの乾燥時にろ過による脱水を行なうと、脱水とともにアルカリ金属ハロゲン化物が失われるため、スラリーはそのまま乾燥することが好ましい。このため、スラリーの濃度は0.1〜2g/Lとすることが好ましい。2g/Lを超えると、酸化ニッケル粉とアルカリ金属ハロゲン化物の水溶液との混合が均一にできない場合があり、0.1g/L未満では、蒸発させる水分量が多く経済的でない。乾燥方法は、特に限定されるものではなく、通常の乾燥に用いる方法でよいが、スプレードライヤーなどを用いることもできる。
【0028】
アルカリ金属ハロゲン化物は、還元処理後に洗浄除去すること、および前記被覆あるいは付着の必要性から、水溶性を示すものを使用することが必要である。水溶性のアルカリ金属ハロゲン化物を使用することで、電子部品材料として使用する際の不純物となるアルカリ金属元素やハロゲン元素を効率よく除去することが可能となるとともに、酸化ニッケル粉表面への被覆あるいは付着を容易に行うことができる。
使用するアルカリ金属ハロゲン化物としては、入手しやすさやコスト、さらには除去した場合の環境への影響等を考慮すると、塩化ナトリウムあるいは塩化カリウムの少なくとも一種を用いることが好ましい。また、酸化ニッケル表面に被覆あるいは付着させるために添加するアルカリ金属ハロゲン化物の量は、酸化ニッケルの質量を100とした場合の質量比で0.05〜10とすることが好ましい。付加量比が0.05未満の場合には、焼結抑制の効果が十分に得られないことや、均一な付加処理が難しくなる場合があり、付加量比が10を超えると、工程(D)における還元を妨げる場合があるほか、不純物品位が増大するリスクが増えるので好ましくない。
【0029】
[工程D]
工程(D)は、得られた酸化ニッケルを還元ガス雰囲気中で還元処理してニッケル粉を生成する工程である。還元処理においても、目的とする粒子径などに応じて適宜、処理温度および時間などの処理条件を設定することができるが、工程(B)と同様にガス気流中で行うことが、均一なニッケル粉を得るために好ましい。
還元処理は一般的な熱処理炉を使用できるが、その場合1μm以下の粒子径のニッケル粉を得るためには、還元温度は300〜550℃とすることが好ましい。300℃未満では、還元が十分に行われず、酸素含有量が多くなり過ぎる場合がある。還元温度が高いほど、また、還元時間を長く設定するほど粒子径は大きくなる傾向があるため、電子部品材料用としてより好ましい0.5μm以下で酸素含有量が十分に少ない微細なニッケル粉を得るためには、還元温度は350〜500℃とすることが好ましい。特に、比表面積を低減させたい場合には、還元温度を430〜450℃とすることが好ましい。430℃未満では、比表面積を十分に低減できない場合がある。
還元時間は温度、処理量により、得ようとするニッケル粉の粒径に応じて適宜設定すればよいが、可能な限り短時間とすることが好ましい。
還元ガスは特に制約されるものではないが、入手しやすさや環境への影響を考慮すると、含水素ガスを使用することが好ましい。上記温度範囲で還元処理を行う場合には、付加したアルカリ金属ハロゲン化物は安定して存在できるため、塩化水素ガスの発生などの原因とはならない。
【0030】
[工程E]
工程(E)は、還元処理後に工程(C)で付加したアルカリ金属ハロゲン化物を洗浄除去する工程である。工程(E)により、不純物であるアルカリ金属品位やハロゲン品位を低下させたニッケル粉を得ることが可能となる。一方で、湿式の洗浄工程を経ることにより、乾燥時に乾燥凝集が発生してニッケル粉の分散状態が悪化することや、表面の酸化による比表面積の増加が発生する。乾燥凝集に関しては焼結による粗大粒子の発生とは異なり、乾式・湿式の解砕処理により容易に解消することができる。また、比表面積の増加に関しては、工程(E)における洗浄液を有機酸水溶液とすることで緩和できるため好ましい。前記水溶液中に含有させる有機酸は、クエン酸、グルタミン酸、アスコルビン酸から選ばれる少なくとも一種とすることが好ましい。工程(C)で付加されたアルカリ金属ハロゲン化物は水溶性のため、純水を用いた洗浄によってもかなりの部分を除去することが可能であるが、洗浄液に上記有機酸を含有させて攪拌して洗浄した場合には、付加したアルカリ金属ハロゲン化物をより効率よく除去することができる。また、アルカリ金属ハロゲン化物以外にも工程(A)で塩化ニッケルを用いた場合に残留した塩化ニッケル由来の塩素や、分散性向上のために添加した第II族元素なども除去することができる。さらに、上記有機酸はニッケル表面への吸着性が高いため、表面保護剤としてニッケル粉の過度の酸化を抑制する作用も示す。
【0031】
洗浄液中の有機酸の濃度は5〜50g/Lとすることが好ましい。濃度が5g/L未満の場合には洗浄効果が十分でなく、アルカリ金属ハロゲン化物や残留塩素が低減できない可能性がある。濃度が50g/Lよりも大きくしても特に問題はないが、洗浄効果に向上が見られず経済的でない。
上記洗浄の温度は任意の温度で行うことが可能であるが、30〜80℃に加熱して行うことが好ましく、40〜60℃とすることがさらに好ましい。洗浄温度を高くする方が不純物の除去という点においては優れているが、洗浄温度が高いほどニッケル粉が酸化されやすくなるほか、温度を上げるためのエネルギーが必要になるなどの問題点がある。したがって、その影響を加味すると上記範囲が好ましい。
【0032】
ニッケル粉と洗浄液の混合比は特に限定されるものではなく、実施する規模に応じて適宜変化させることができるが、ニッケル粉/洗浄液の混合比を50〜500g/Lとすることが好ましい。この混合比が500g/Lを超える場合には、ニッケル粉の分散が悪化して洗浄が十分に行えなくなる可能性がある。一方で混合比が50g/L未満の場合には、洗浄のために大量の薬液が必要となり、経済性や操作性に問題がある。また、洗浄時間は特に限定されるものではなく、スラリー中のニッケル粉濃度、有機酸の濃度、洗浄条件によりアルカリ金属ハロゲン化物および残留塩素濃度が十分に低減される洗浄時間とすればよい。
洗浄に用いる装置は特に限定されるものではなく、通常の湿式反応槽を用いることができる。洗浄中はニッケル粉を含むスラリーを攪拌することが好ましく、洗浄には例えば超音波攪拌を用いるか機械式攪拌を用いることができる
【0033】
以上の方法により製造されたニッケル粉は分散性に優れており、電子部品用の材料として好適である。具体的には、レーザー散乱法で測定される粒度分布のD90が1.0μm以下である。粒度分布のD90は、平均粒径が小さくなれば小さい値となるが、本発明のニッケル粉における最小値は0.5μm程度である。また、BET法で測定された比表面積が4.6m/g以下であることが好ましい。比表面積は平均粒径が大きくなれば小さい値となるが、電子部品用材料として好ましい平均粒径である1.0μm以下を考慮すると、本発明のニッケル粉における最小値は3.0m/g程度である。不純物品位は、塩素品位とナトリウム品位あるいはカリウム品位がいずれも100質量ppm以下であることが好ましい。
本発明のニッケル粉の製造方法は、湿式法により製造した水酸化ニッケルを還元処理するため、複雑な工程を備えておらず、さらに簡便な方法で不純物品位を低減させることができるので、その製造コストも低く抑えることができる。
【実施例】
【0034】
以下に、本発明の実施例及び比較例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。なお、本実施例および比較例で用いている塩素品位の評価は、ニッケル粉を硝酸で溶解した後に硝酸銀を加えて塩化銀を沈殿させ、沈殿物中の塩素を蛍光X線定量分析の検量線法により測定した。また、ナトリウム品位は原子吸光分析法で測定し、マグネシウム品位はICP発光分光分析法により測定した。酸素品位は、不活性ガス溶融−赤外線吸収法で測定した。比表面積は、窒素ガス吸着によるBET一点法により測定した。粒子の分散性の評価は、レーザー光回折・散乱型粒度分布測定により粒度分布を測定し、10%体積径(以下、D10と表記)、50%体積径(以下、D50と表記)、90%体積径(以下、D90と表記)を求めて分散状態の指標とした。
【0035】
(実施例1)
還元時の融着抑制剤となるマグネシウムを0.04g/L含んだニッケル濃度60g/Lの塩化ニッケル水溶液と、24質量%の水酸化ナトリウム水溶液をpH=8.3となるように調整しながら連続的に添加することで水酸化ニッケルの沈殿を生成させた。その後、ろ過と30分の純水レパルプを3回繰り返して水分含有率30質量%の水酸化ニッケルろ過ケーキを得た。さらに、このろ過ケーキ3kgに少量の水を加えた後、先に加えた水との合計で0.0015mol/Lの硫酸10Lとなるように濃度調整した硫酸を加え、30分間攪拌して洗浄した。洗浄後にろ過し、再度、純水でレパルプ洗浄し、乾燥して水酸化ニッケル微粉末を得た。
【0036】
得られた水酸化ニッケル粉末1500gを、搬送式連続焼成炉により一加熱帯あたり27L/minの流量で、空気を導入しながら480℃で2時間熱処理して酸化ニッケル粉を得た。得られた酸化ニッケル粉100gと10g/Lの塩化ナトリウム水溶液100mLを混合し、超音波分散装置により分散処理をすることで、酸化ニッケル100に対する質量比(以下、NaCl比と表記)が1となる量の塩化ナトリウムを含む均一な酸化ニッケルスラリーを作製した。このスラリーをそのまま120℃で真空乾燥し、乳鉢で解砕することにより塩化ナトリウムで表面を被覆あるいは付着させた酸化ニッケル粉(以下、被覆酸化ニッケル粉)を得た。
【0037】
得られた被覆酸化ニッケル粉80gを雰囲気焼成炉により25L/minの流量で窒素80%−水素20%の混合ガスを導入しながら、420℃で2時間還元処理して還元ニッケル粉を得た。得られた還元ニッケル粉に対して、粒度分布と比表面積の測定を行ったところ、D10が0.31μm、D50が0.49μm、D90が0.77μmであり、比表面積が4.8m/gであった。また、酸素と塩素、ナトリウム、マグネシウムの品位を測定したところ、酸素品位は1.1質量%であり、塩素品位は5300質量ppmであり、ナトリウム品位は7100質量ppmであり、マグネシウム品位は580質量ppmであった。
【0038】
次に、前記還元ニッケル粉10gを濃度10g/Lのクエン酸水溶液80mL中に分散し、60℃に加熱しながら30分間機械的に攪拌して洗浄処理を行った。洗浄後のニッケル粉スラリーを固液分離した後、得られたニッケル粉ケーキに純水80mLを加えて分散してニッケル粉スラリーとし、室温で30分間攪拌しながら洗浄し、余分な酸を除去した。洗浄後のニッケル粉スラリーを固液分離し、乾燥処理してとする目標とするニッケル粉を得た。得られたニッケル粉の粒度分布と比表面積の測定を行ったところ、D10が0.31μm、D50が0.50μm、D90が0.80μmであり、比表面積が5.2m/gであった。得られたニッケル粉の比表面積、粒度分布の測定結果を表1に示す。また、塩素とナトリウム、マグネシウムの分析を行ったところ、塩素品位は30質量ppm未満であり、ナトリウム品位は30質量ppm未満であり、マグネシウム品位は60質量ppmであった。洗浄前後の塩素、ナトリウム、マグネシウムの分析結果を表2に併記して示す。
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】

【0041】
(実施例2)
NaCl比が0.1となるように調整した以外は実施例1と同様にしてニッケル粉を得なお、還元ニッケル粉の粒度分布の測定を行ったところ、D10が0.31μm、D50が0.49μm、D90が0.80μmであり、比表面積が4.5m/g であった。また、酸素と塩素、ナトリウム、マグネシウムを測定したところ、酸素品位は1.1質量%であり、塩素品位は1200質量ppmであり、ナトリウム品位は520質量ppmであり、マグネシウム品位は590質量ppmであった。
また、還元処理後に洗浄して最終的に得られたニッケル粉の粒度分布の測定を行ったところ、D10が0.31μm、D50が0.50μm、D90が0.83mであり、比表面積が5.1m/g であった。
また、塩素とナトリウム、マグネシウムの品位を測定したところ、塩素品位は30質量ppm未満であり、ナトリウム品位は30質量ppm未満であり、マグネシウム品位は60質量ppmであった。得られたニッケル粉の比表面積、粒度分布の測定結果を表1に、洗浄前後の塩素、ナトリウム、マグネシウムの分析結果をそれぞれ表2に示す。
【0042】
(実施例3)
NaCl比が10となるように調整した以外は実施例1と同様にしてニッケル粉を得た。なお、還元ニッケル粉の粒度分布の測定を行ったところ、D10が0.32μm、D50が0.48μm、D90が0.75μmであり、比表面積が4.3m/gであった。また、酸素品位は、1.4質量%であった。
また、還元処理後に洗浄して、最終的に得られたニッケル粉の粒度分布の測定を行ったところ、D10が0.32μm、D50が0.47μm、D90が0.77μmであり、比表面積が6.6m/g であった。得られたニッケル粉の比表面積、粒度分布の測定結果を表1に示す。
【0043】
(比較例1)
前記被覆酸化ニッケル粉とする処理を行わなかったこと、還元ニッケル粉に対する洗浄処理を行わなかった以外は実施例1と同様にしてニッケル粉を得た。得られたニッケル粉の粒度分布の測定を行ったところ、D10が0.45μm、D50が0.73μm、D90が1.13μmであり、比表面積が4.2m/g であった。また、酸素濃度の測定を行ったところ、0.88質量%であった。得られたニッケル粉の比表面積、粒度分布の測定結果を表1に示す。
【0044】
(比較例2)
前記被覆酸化ニッケル粉とする処理に変えて、同量の塩化ナトリウムと酸化ニッケル粉を混合した以外は実施例1と同様にして還元ニッケル粉を得た。得られた還元ニッケル粉の粒度分布の測定を行ったところ、D10が0.35μm、D50が0.60μm、D90が1.04μmであり、比表面積が4.0m/g であった。洗浄前の還元ニッケル粉でD90が1.0μmを越えており、塩化ナトリウムと酸化ニッケル粉を混合するのみでは、分散性を改善する効果が十分でないことが分かる。
【0045】
表1より本発明のニッケル粉の製造方法に従って得られた実施例1〜3は、D90が1.0μm以下であり分散性に優れていることが分かる。一方、塩化ナトリウムを添加せず被覆酸化ニッケル粉とする処理を行わなかった比較例1は、D90が1.13μmであり、十分な分散性が得られていないことが分かる。
さらに、表2より実施例1および2は還元ニッケル粉を洗浄することで塩素品位、ナトリウム品位、カリウム品位がいずれも100質量ppm以下のニッケル粉となり、残留する塩素やアルカリ金属元素濃度が十分に低減されていることがわかる。
【0046】
(実施例4)
前記還元処理時の温度を420℃から430℃とした以外は実施例1と同様にしてニッケル粉を得た。得られたニッケル粉の粒度分布の測定を行ったところ、D10が0.33μm、D50が0.53μm、D90が0.82μmであり、比表面積が4.6m/g であった。また、酸素濃度の測定を行ったところ、0.88質量%であった。得られたニッケル粉の比表面積、粒度分布の測定結果を表3に示す。
【0047】
(実施例5)
前記還元処理時の温度を440℃とした以外は実施例1と同様にしてニッケル粉を得た。得られたニッケル粉の粒度分布の測定を行ったところ、D10が0.32μm、D50が0.53μm、D90が0.88μmであり、比表面積が4.2m/gで あった。また、酸素濃度の測定を行ったところ、0.87質量%であった。得られたニッケル粉の比表面積、粒度分布の測定結果を表3に示す。
【0048】
(実施例6)
前記還元処理時の温度を450℃とした以外は実施例1と同様にしてニッケル粉を得た。得られたニッケル粉の粒度分布の測定を行ったところ、D10が0.32μm、D50が0.55μm、D90が0.94μmであり、比表面積が4.1m/g であった。また、酸素濃度の測定を行ったところ、0.80質量%であった。得られたニッケル粉の比表面積、粒度分布の測定結果を表3に示す。
【0049】
【表3】

【0050】
表3より、還元処理の温度を高くすることで、比表面積を低減できることが分かる。特に、還元処理温度を430〜450℃とした実施例4〜6では、比表面積が4.6m/g以下であり、ペースト化して用いる電子部品用材料としてより好適なものであることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明のニッケル粉の製造方法により、分散性および比表面積が良好で、かつ塩素品位やナトリウムなどの不純物品位を低減したニッケル粉が得られる。得られたニッケル粉は、電子部品材料として好適であり、特に配線材料、電極材料等として好適である。さらに、樹脂や溶剤などと混練してペーストとしても安定して用いることができ、スクリーン印刷などの技術を利用した部品の形成にも好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル塩水溶液をアルカリ水溶液で中和して水酸化ニッケルの沈殿を生成させる工程(A)と、該水酸化ニッケルを空気中で熱処理して酸化ニッケルを生成させる工程(B)と、該酸化ニッケル粉表面を水溶性のアルカリ金属ハロゲン化物で被覆あるいは付着させる工程(C)と、該水溶性のアルカリ金属ハロゲン化物を表面を被覆あるいは付着させた酸化ニッケルを還元ガス雰囲気中で還元してニッケル粉とする工程(D)と、前記アルカリ金属ハロゲン化物を洗浄除去する工程(E)とを備えることを特徴とするニッケル粉の製造方法。
【請求項2】
前記工程(C)において、工程(B)で得られた酸化ニッケル粉と水溶性のアルカリ金属ハロゲン化物の水溶液とを混合してスラリー化した後、このスラリーを乾燥して水分を除去することによってアルカリ金属ハロゲン化物で表面を被覆あるいは付着させた酸化ニッケルを得ることを特徴とする請求項1に記載のニッケル粉の製造方法。
【請求項3】
前記水溶性のアルカリ金属ハロゲン化物が、塩化ナトリウムあるいは塩化カリウムの少なくとも一種であることを特徴とする請求項1または2に記載のニッケル粉の製造方法。
【請求項4】
前記工程(C)において、水溶性のアルカリ金属ハロゲン化物の量を、酸化ニッケルの質量を100とした場合の質量比で0.05〜10とすることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のニッケル粉の製造方法。
【請求項5】
前記工程(D)の還元を、430〜450℃で行うことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のニッケル粉の製造方法。
【請求項6】
前記工程(E)の洗浄除去を、ニッケル粉を有機酸水溶液中で攪拌することにより行うことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のニッケル粉の製造方法。
【請求項7】
前記有機酸をクエン酸、グルタミン酸、アスコルビン酸から選ばれる少なくとも一種とすることを特徴とする請求項6に記載のニッケル粉の製造方法。
【請求項8】
前記工程(E)において、洗浄を30〜80℃に加熱した状態で行うことを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載のニッケル粉の製造方法。
【請求項9】
前記水酸化ニッケルの沈殿を生成させる工程(A)の後に、工程(A)で生成した水酸化ニッケルを硫酸あるいは硫酸塩水溶液で洗浄し、さらに水洗する工程(F)を備えていることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載のニッケル粉の製造方法。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載のニッケル粉の製造方法によって得られたニッケル粉であって、レーザー散乱法で測定した粒度分布のD90が1.0μm以下であることを特徴とするニッケル粉。
【請求項11】
BET法で測定された比表面積が4.6m/g以下であることを特徴とする請求項10に記載のニッケル粉。
【請求項12】
塩素品位とナトリウム品位あるいはカリウム品位がいずれも100質量ppm以下であることを特徴とする請求項10または11に記載のニッケル粉。

【公開番号】特開2010−132944(P2010−132944A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−308013(P2008−308013)
【出願日】平成20年12月2日(2008.12.2)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】