説明

ニットデザイン装置

【構成】
・ 横編機のキャリッジの進行方向前方のカムシステムでインターシャ柄の境界に対して進行方向後方の第1の編地を編成し、進行方向後方のカムシステムで境界に対して進行方向前方の第2の編地を編成するコースで、
・ 第1の編地の端の編目で、直前に編成したコースに比べ、進行方向前方へ突出する編目を、ニットデザイン装置は第1の編目として編成データから検出する。第1の編目を検出すると、第1の編目に対して1コース下に位置する、第2の編地の第2の編目をミスに置き換える。
【効果】
インターシャ柄の境界部での編糸の引っ掛けを、編成効率を低下させずに防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はインターシャ柄をデザインするためのニットデザイン装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インターシャ柄の編地は、柄毎に異なる編糸、通常は色が異なる編糸を用いて、横編機により編成される。なおインターシャ柄とその編成は良く知られている。ここで発明者は、インターシャ柄の境界で、隣の柄の編糸を針が引っ掛けて編み込むことがあることに着目した。隣の柄の停止している給糸口から編地に渡る編糸が、他の柄の編成の際に編み込まれると、本来の編糸と引っ掛けられた編糸が2重になり、柄が不鮮明になる。
【0003】
このような問題を図11に示す。横編機の図示しないキャリッジが図の左から右へ移動し、キャリッジは進行方向の前後に一対のカムシステムを備えているものとする。ここで、キャリッジの進行方向前方のカムシステムが編糸41を用いて図11の左側の柄を編成し、進行方向後方のカムシステムが編糸42を用いて図11の右側の柄を編成するとする。柄の境界の針40は直前のコースでは右側の柄に割り当てられ、今回のコースでは左側の柄に割り当てられている。針40は直前のコースで右側の柄の最後の編目を形成するので、給糸口Bからの編糸42は針40から右側の柄につながっている。この状態から、給糸口Aからの糸41を針40により操作して編目を形成すると、編糸42を針40が引っ掛けて編目内に引き込むことがある。
【0004】
この時の、針40と編糸41,42との関係を図12に示す。編糸42の先に直前のコースで編成した編目44が有り、針40に保持されている。そして編糸42は編糸41で針40側へ押さえ込まれ、引っ掛けられ易くなっている。編糸42が針40に引っ掛けられた際の、編糸41,42の編目配置を図13に示す。符号K3-2を付した編目が針40で形成した編目で、編糸41,42が2重に編目を形成し、このため編目の色が滲む。なお図13の左のボックスは、針の操作をニットKとタックTとに区分けして示し、ボックスの行はキャリッジのコースを示している。またボックスの外に付した矢印は、キャリッジの進行方向を示す。
【0005】
上記の状況でも編糸42が引っ掛けれられずに、良好に編成できることもあり、良好に編成がされた際の編目配置を図14に示す。なお発明者の経験によると、編機のゲージが細かく編成速度が高いほど編糸の引っ掛けが生じやすく、給糸口の停止位置の精度が低いほど編糸の引っ掛けが生じやすい。ここで関連する先行技術を示すと、特許文献1(特許4163130)は、インターシャ編成で、編目列の1コースをキャリッジの2コースに分けて編成することを示している。この技術を応用して、図11の右側の編目を2コースに分けて編成し、図11の状態で針40が編糸42を保持していないようにすると、引っ掛けの問題は生じない。しかしこのようにすると編成効率が低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許4163130
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この発明の課題は、インターシャ柄の境界部での編糸の引っ掛けを、編成効率を低下させずに、防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、横編機で編成するためのインターシャ柄の編成データを作成するニットデザイン装置であって、
横編機のキャリッジの進行方向前方のカムシステムで、インターシャ柄の境界に対してキャリッジの進行方向後方の第1の編地を編成し、キャリッジの進行方向後方のカムシステムで、前記境界に対してキャリッジの進行方向前方の第2の編地を編成するコースで、前記第1の編地の端の編目で、直前に編成したコースに比べ、キャリッジの進行方向前方へ突出する編目を、第1の編目として編成データから検出するための検出手段と、
第1の編目を検出すると、
第1の編目に対して1コース下に位置する、第2の編地の第2の編目をミスに置き換えるか、
第1の編目をミスに置き換えるか、または
第1の編目を第2の編地の編目に置き換えるように、編成データを修正する編成データ処理手段、とを設けたことを特徴とする。
【0009】
第1の編目を形成する際に引っ掛けられるのは、給糸口から第2の編目へつながっている編糸である。第2の編目をミスに変えると、引っ掛けれられる編糸が無くなり、第1の編目を形成する際に編糸が引っ掛けられることが無くなる。次に第1の編目をミスに変えると、第1の編目の1コース上の編目では、キャリッジの移動方向が第1の編目と逆になるため、引っ掛けの問題は生じない。引っ掛けが生じる条件の1つは、キャリッジの進行方向前方のカムシステムで進行方向後方の第1の編地を編成し、進行方向後方のカムシステムで進行方向前方の第2の編地を編成することであり、この条件が充たされなくなるためである。第1の編目をミスに置き換えることと同様に、第1の編目を第2の編地の編目に置き換えても編糸の引っ掛けを防止できる。この場合も、キャリッジの進行方向前方のカムシステムで進行方向後方の第1の編地を編成し、進行方向後方のカムシステムで進行方向前方の第2の編地を編成する、との引っ掛けが生じる条件が充たされなくなるためである。以上のようにこの発明では、第1の編目を形成する際に編糸を引っ掛けることが無くなり、しかも編成速度を低下させる必要がない。
【0010】
好ましくは、第1の編目を検出すると、第2の編目をミスに置き換える。このようにすると第1の編目がコース方向に沿って複数目続くために、第2の編目もコース方向に沿って複数目続く場合でも、インターシャの柄間を接続するタックの長さが増さない、との効果が得られる。また好ましくは、第2の編地の編糸を供給する横編機の給糸口が、第1の編目を基準として、キャリッジの進行方向に沿って次の編目に編糸を供給する位置にあることを、検出手段が編成データから検出した際に、編成データ処理手段が編成データを修正する。このようにすると、糸の引っ掛けが生じるおそれがあるか否かをより確実に判別できる。なおこの明細書において、編目に関していうとき、コースとは編地の幅方向(キャリッジの往復方向)に沿った編目の列である。またキャリッジに関していうとき、コースとはキャリッジの編幅方向に沿った移動である。ウェールは編目のコースに直角な方向で、編丈の方向である。

【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例のニットデザイン装置のブロック図
【図2】デザイン対象のインターシャ編地の例を示す図
【図3】編成に用いる横編機の要部ブロック図
【図4】実施例で柄の境界を編成する際の、針と糸とを模式的に示す図
【図5】実施例での、柄の境界の針への糸の掛かり具合を模式的に示す図
【図6】実施例での、柄の境界付近での編目配置を示す図
【図7】実施例での、インターシャ編地のデザインデータの例を示す図
【図8】図7のデザインデータを、糸が不用意に編み込まれないように修正した実施例のデータを示す図
【図9】図7のデザインデータに対する変形例のデータを示す図
【図10】図7のデザインデータに対する第2の変形例のデータを示す図
【図11】従来例で柄の境界を編成する際の、針と糸とを模式的に示す図
【図12】従来例での、柄の境界の針への糸の掛かり具合を模式的に示す図
【図13】従来例で、糸が不用意に編み込まれた際の編目配置を示す図
【図14】従来例での良好な編目配置を示す図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、発明を実施するための最適実施例を示す。この発明の範囲は、特許請求の範囲の記載に、周知技術による変更の可能性を加味して解釈されるべきである。
【実施例】
【0013】
図1〜図10に、実施例とその変形とを示す。図1にニットデザイン装置2の構造を示し、4はバス、6はカラーモニタ、8はプリンタ、10はペンで、画像上の位置、範囲などを入力するために用いる。ペン10に代えてジョイスティック,トラックボール,マウスなどを用いてもよい。12はキーボード、14はネットワークインターフェース、16は外部メモリドライブである。
【0014】
ニットデザイン装置2はコンピュータから成り、CPU20とメモリ24とを備えている。入力処理部22,編成データ処理部26,検出部28は、CPU20とメモリ24,及び図示しないプログラムなどで実現される。入力処理部22は、ペン10,キーボード12等から入力されたインターシャ柄の編地のデザインを処理し、得られたデザインを例えばカラーコードなどに変換してメモリ24に記憶する。編成データ処理部26は、メモリ24のデザインデータを横編機で編成可能な編成データに変換する。なお編成データは、編目の配列と編目の種類、編目間の接続関係、キャリッジの制御データ、及び給糸口の制御データ等を含むデータから成っている。給糸口の制御データは例えばどの給糸口をどの位置からキャリッジにより連行し、どの位置で連行を解除するかのデータである。検出部28はインターシャ柄の編地において、編糸の引っ掛けが生じ得る箇所を検出し、このような箇所を検出すると、編成データ処理部26は編糸の引っ掛けが生じないように編成データを修正する。
【0015】
図2はインターシャ柄の編地30を模式的に示し、編地30はA,B2種類の柄から構成されている。図3に示す横編機32で編地30を編成する場合、キャリッジ34に設けられた複数のカムシステム35から、例えば図2の左から右へ編成する際に、キャリッジ34の進行方向前方のカムシステムC1を柄Aに、後方のカムシステムC2を柄Bに割り当てる。また図2の右から左へ編成する際にはキャリッジ34の進行方向前方のカムシステムC2を柄Aに、後方のカムシステムC1を柄Bに割り当てる。なお図3の36,36は前後一対の針床、38はキャリアレールで、図示しない複数の給糸口をガイドするレールである。そして給糸口は、例えば図示しない連行ピンを介してキャリッジ34により連行される。
【0016】
キャリッジ34が図2の左から右へと移動する際に、柄Aが柄B側へ突き出す箇所を通過することがある。この時、キャリッジ34の進行方向前方のカムシステムC1が、柄Bよりも進行方向後方の柄Aを先に編成する。この状況で、柄Aが柄B側へ突き出す個所の編目を形成する際に、編糸の引っ掛けが生じやすい。また図2で、キャリッジが右から左へ移動する際に、柄Aが柄B側へ突き出す箇所でも編糸の引っ掛けが生じやすい。
【0017】
図4,図5に、実施例での編糸の引っ掛け防止のための処理を示す。以下、図11〜図13の従来技術と同じ符号は同じものを表す。針40により編糸41を用いて編目を形成する際に、編糸42の引っ掛けが問題になった。実施例では、問題の針40は1コース前でミスし編目を形成しないようにする。すると給糸口Bの配置は、図4のように針40から1針分右側へシフトし、この結果、針40で編糸41を用いて編成する際に、編糸42の引っ掛けは生じなくなる。この時の針40の状態を図5に示し、編糸42は針40から離れており、また編糸41により針40側へ押さえ込まれていないので、針40へ引き込まれにくくなっている。
【0018】
図6に、編糸の引っ掛けが問題となる箇所とその周囲での編糸の流れを示す。図6の符号K3-2は下から3コース目で左から2ウェール目の編目を示し、特許請求の範囲での第1の編目に相当する。編目K3-2の1コース下の位置はミスで、編目が形成されていない。1コース下のミスの位置が特許請求の範囲での第2の編目の位置である。また編糸41で編成される編地が特許請求の範囲での第1の編地、編糸42で編成される編地が第2の編地である。さらにキャリッジの移動方向を図6の左側の矢印で示し、Kはニットを、Tはタックを示す。また図6の左のボックスでの、縦の2重線よりも左側の編目はカムシステムC1で、右側の編目はカムシステムC2で形成される。
【0019】
図6の最初のコースで第2の編地が例えば3目編成され、次のコースで第2の編目の位置をカムシステムC1はミスし、編糸41によりカムシステムC2はタック目T1を形成する。次いでキャリッジが反転して図の左から右へと移動し、カムシステムC1により編目K3-2等が形成され、この編目に後行のカムシステムC2によりタック目T2が重ねられ、最後のコースでは4目の編目とタック目T3とが形成される。そしてタック目T1〜T3により、第1の編地と第2の編地とが連結される。編糸の引っ掛けが生じるのは編目K3-2の位置であるが、直下の位置がミスされている。このため編目K3-2を形成する際に、給糸口Bは編目K3-3へ接続された位置にあり、編糸の引っ掛けが生じない。
【0020】
図7にインターシャ柄のデザインの例を示し、柄A,Bの境界での編目45(柄Aに所属)が引っ掛けが生じ得る編目である。なおキャリッジの移動方向を矢印で示し、編目45は柄Aに属し、編目45の位置で柄Aが柄B側に突き出し、この時キャリッジは柄Aから柄B側へ移動して、キャリッジの進行方向前方のカムシステムで柄Aを、進行方向後方のカムシステムで柄Bを編成する。これらの条件を満たす際に、図11での編糸の引っ掛けが生じる。
【0021】
図8は実施例での編成データの修正を示し、矢印はキャリッジの移動方向を示し、以下同様である。編目45の直下の編目46(柄Bに属する編目)をミスに変更する。これによって編糸の引っ掛けが生じなくなる。
【0022】
図9は変形例を示し、編糸の引っ掛けが問題となる編目45をミスに変更する。そしてミスに変更した編目の1コース上側の編目では、キャリッジの進行方向が逆になるので、編糸の引っ掛けが生じない。
【0023】
図10は第2の変形例を示し、編糸の引っ掛けが問題となる編目45を柄Bの編目に変更する。すると柄Aは編目45の直上の編目で柄Bへ突き出すが、この編目を形成するとき、図9と同様にキャリッジの進行方向が逆になるので、編糸の引っ掛けが生じない。
【0024】
図8の実施例と図9の変形例とは、コース方向に沿って複数のミスの目46が続く場合に、インターシャ柄の柄間を接続するタックのしやすさの点で相違が生じる。図8の実施例では、ミスの目46の左下の柄Aの編目から、ミスの目46の下の柄Bの編目にタックすれば良く、ミスの目46がコース方向に続いても、タックの長さは増さない。図9の変形例では、ミスの目46の左の柄Aの編目から、ミスの目46の右上の柄Bの編目にタックする。このため、ミスの目46がコース方向に続くと、タックの長さが増す。図10の第2の変形例では、引っ掛けが生じやすいため柄Bへ所属を変えた編目45の左の編目から、編目45の右上の柄Bの編目にタックする。このため編目45がコース方向に複数目続くと、タックの長さが増す。
【0025】
以上のように実施例では、編成速度を低下させずに、また給糸口の停止位置を精密に制御する必要無しに、インターシャ柄の境界で、隣の柄の編糸が引っ掛けられて編み込まれることを防止できる。特に編機のゲージが細かいと、インターシャ柄の境界で隣の柄の編糸を引っ掛け易いので、効果が著しい。またニットデザイン装置が自動的に編成データを適切に修正できる。

【符号の説明】
【0026】
2 ニットデザイン装置
4 バス
6 カラーモニタ
8 プリンタ
10 ペン
12 キーボード
14 ネットワークインターフェース
16 外部メモリドライブ
20 CPU
22 入力処理部
24 メモリ
26 編成データ処理部
28 検出部
30 編地
32 横編機
34 キャリッジ
35 カムシステム
36 針床
38 キャリアレール
40 針
41,42 編糸
44 編目
45 引っ掛けが生じ得る編目
46 ミスの目

【特許請求の範囲】
【請求項1】
横編機で編成するためのインターシャ柄の編成データを作成するニットデザイン装置であって、
横編機のキャリッジの進行方向前方のカムシステムで、インターシャ柄の境界に対してキャリッジの進行方向後方の第1の編地を編成し、キャリッジの進行方向後方のカムシステムで、前記境界に対してキャリッジの進行方向前方の第2の編地を編成するコースで、前記第1の編地の端の編目で、直前に編成したコースに比べ、キャリッジの進行方向前方へ突出する編目を、第1の編目として編成データから検出するための検出手段と、
第1の編目を検出すると、
第1の編目に対して1コース下に位置する、第2の編地の第2の編目をミスに置き換えるか、
第1の編目をミスに置き換えるか、または
第1の編目を第2の編地の編目に置き換えるように、編成データを修正する編成データ処理手段、とを設けたことを特徴とする、ニットデザイン装置。
【請求項2】
第1の編目を検出すると、第2の編目をミスに置き換えるようにしたことを特徴とする、請求項1のニットデザイン装置。
【請求項3】
第2の編地の編糸を供給する横編機の給糸口が、第1の編目を基準として、キャリッジの進行方向に沿って次の編目に編糸を供給する位置にあることを、検出手段が編成データから検出した際に、編成データ処理手段が編成データを修正することを特徴とする、請求項1または2のニットデザイン装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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