説明

ニトロ体の製造方法

【課題】環状カルボジイミド化合物の中間体の製造方法を提供する。
【解決手段】o−ハロゲン置換ニトロベンゼンあるいはo−ジニトロベンゼンニトロで代表される化合物(A)とペンタエルスリトール(B)とを、相間移動触媒およびアルカリ金属水酸化物の水溶液の存在下で、反応させて(C)で表わされるニトロ体を得る。


Rは水素原子、炭素原子数1〜6のアルキル基。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はニトロ体の製造方法に関する、さらに詳しくは特定のニトロ体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル等のエステル結合を有する化合物は、カルボキシル基等の極性基により加水分解が促進されるため、カルボキシル基の封止剤を適用して、カルボキシル基濃度を低減することが提案されている(特許文献1、特許文献2)。かかるカルボキシル基の封止剤として、カルボジイミド化合物が使用されている。
しかし、このカルボジイミド化合物は、いずれも線状の化合物であるため、使用時、揮発性のイソシアネート化合物が副生して、悪臭を発し、作業環境を悪化させるという欠点を有する。
そこで、出願人は、封止剤として、カルボキシル基と反応してもイソシアネート化合物が副生しない環状カルボジイミド化合物を見出し国際出願した(特許文献3)。しかし、この有用な環状カルボジイミド化合物およびその中間体の工業的な製造方法は確立されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−332166号公報
【特許文献2】特開2005−350829号公報
【特許文献3】PCT/JP2009/071190
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、下記式(A)で表わされる化合物(A)と下記式(B)で表わされる化合物(B)とを反応させて、下記式(C)で表わされるニトロ体を合成する際に、工業的により有利に適用可能な方法を用いて、反応収率を向上させることにある。
【0005】
【化1】

【0006】
(式(A)中、Rは、水素原子、炭素原子数1〜6のアルキル基である。Xはハロゲン原子またはニトロ基である。)
【0007】
【化2】

【0008】
【化3】

【0009】
(式(C)中、Rは式(A)と同じである)
化合物(C)を得るために適用される一般的な方法は、化合物(B)に脱離基を導入し、置換o−ニトロフェノールと反応させる方法、および化合物(B)と置換o−ハロニトロベンゼンを反応させる方法が適用可能である。
【0010】
特に有用なのは後者であるが、一般には非プロトン性極性溶媒下、固体塩基性化合物を作用させる方法が用いられる。非プロトン性極性溶媒とは、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシドなどに代表される。これらは一般に高価であり、工業生産においては回収サイクルが必要である。しかしながら水と相溶性があり、また一般に高沸点であるため回収が困難かつ多大なエネルギーを必要とする。固体塩基性化合物とは、一般に炭酸カリウム、水素化ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等で代表されるが、潮解性や、水素発生による爆発の危険、強アルカリ性の粉じんなど取り扱いに注意を必要とする場合が多い。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、下記式(A)で表わされる化合物(A)と下記式(B)で表わされる化合物(B)とを反応させて、下記式(C)で表わされるニトロ体を合成する際、工業的により有利に適用可能な方法を用いて、反応収率を向上させる手段について検討した。その結果、反応に際し、特定の触媒とアルカリ金属水酸化物の水溶液とを組み合わせて存在させると、非プロトン性極性溶媒を用いずとも、高収率かつ高純度でニトロ体を製造可能であることを見出し、本発明を完成した。
即ち、本発明は、以下の発明を包含する。
1.下記式(A)で表わされる化合物(A)と下記式(B)で表わされる化合物(B)とを、相間移動触媒およびアルカリ金属水酸化物の水溶液の存在下で、反応させることを特徴とする、下記式(C)で表わされるニトロ体の製造方法。
【0012】
【化4】

【0013】
(式(A)中、Rは、水素原子、炭素原子数1〜6のアルキル基である。Xはハロゲン原子またはニトロ基である。)
【0014】
【化5】

【0015】
【化6】

【0016】
(式(C)中、Rは式(A)と同じである)
2.相間移動触媒は、下記式(i)で表される化合物である上記1記載の製造方法。
【0017】
【化7】

【0018】
(式(i)中、R1〜R4各々独立に、炭素原子数1〜20のアルキル基、炭素原子数6〜20のアリール基、炭素原子数7〜20のアラルキル基から選ばれる基である。Aはハロゲンアニオンである)
3.相間移動触媒は、テトラエチルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、トリオクチルメチルアンモニウム塩、ベンジルジメチルオクタデシルアンモニウム塩、ベンジルトリエチルアンモニウム塩、ベンジルトリメチルアンモニウム塩およびベンジルトリブチルアンモニウム塩からなる群より選ばれる少なくとも一種類の化合物である上記1記載の製造方法。
4.アルカリ金属水酸化物の水溶液は、水酸化ナトリウム水溶液または水酸化カリウム水溶液である上記1記載の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明の製造方法によれば、環状カルボジイミド化合物の中間体として有用な、特定のニトロ体を高収率で製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、下記式(A)で表わされる化合物(A)と下記式(B)で表わされる化合物(B)とを、相間移動触媒の存在下、アルカリ金属水酸化物の水溶液の存在下で、反応させて下記式(C)で表わされるニトロ体を得ることを特徴とする。
【0021】
(化合物(A))
化合物(A)は下記式で表される。
【0022】
【化8】

【0023】
式(A)中、Rは、水素原子、炭素原子数1〜6のアルキル基である。Xはハロゲン原子またはニトロ基である。炭素原子数1〜6のアルキル基として、メチル基、エチル基、n−プロピル基、sec−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基、sec−ブチル基、iso−ブチル基、n−ペンチル基、sec−ペンチル基、iso−ペンチル基、n−ヘキシル基、sec−ヘキシル基、iso−ヘキシル基等が挙げられる。また、ハロゲン原子として、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
化合物(A)として、o−クロロニトロベンゼン、o−フロロニトロベンゼン、o−ジニトロベンゼンが好適に使用される。これらは置換されていても良い。
化合物(A)の量は、化合物(B)に対して、好ましくは4〜8当量、さらに好ましくは4〜6当量である。
【0024】
(化合物(B))
化合物(B)は下記式にて示される、ペンタエリスリトールである。
【0025】
【化9】

【0026】
(ニトロ体)
ニトロ体は下記式(C)で表される。
【0027】
【化10】

【0028】
式(C)中、Rは式(A)と同じであり、水素原子または炭素原子数1〜6のアルキル基である。炭素原子数1〜6のアルキル基として、メチル基、エチル基、n−プロピル基、sec−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基、sec−ブチル基、iso−ブチル基、n−ペンチル基、sec−ペンチル基、iso−ペンチル基、n−ヘキシル基、sec−ヘキシル基、iso−ヘキシル基等が挙げられる。
【0029】
(相間移動触媒)
本発明において特徴的なことは、相間移動触媒およびアルカリ金属水酸化物の水溶液の存在下で、上記化合物(A)と化合物(B)とを反応させることにある。
本発明において相間移動触媒は、下記式(i)で表される化合物であることが好ましい。
【0030】
【化11】

【0031】
式(i)中、R1〜R4各々独立に、炭素原子数1〜20のアルキル基、炭素原子数6〜20のアリール基、炭素原子数7〜20のアラルキル基から選ばれる基である。Aはハロゲンアニオンである。
【0032】
炭素原子数1〜20のアルキル基として、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、へキサデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基等が挙げられる。炭素原子数6〜20のアリール基として、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。これらは、炭素原子数1〜10のアルキル基で置換されていても良い。置換基としての炭素原子数1〜10のアルキル基として、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等が挙げられる。炭素原子数7〜20のアラルキル基として、ベンジル基、フェネチル基、メチルベンジル基、ジフェニルメチル基等が挙げられる。Aのハロゲンアニオンとして、フッソイオン、塩素イオン、臭素イオン等が挙げられる。
【0033】
相間移動触媒として、テトラエチルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、トリオクチルメチルアンモニウム塩、ベンジルジメチルオクタデシルアンモニウム塩、ベンジルトリエチルアンモニウム塩、ベンジルトリメチルアンモニウム塩、ベンジルトリブチルアンモニウム塩を挙げることができ、これらは単独で用いても二種以上を併用してもよい。相間移動触媒として4級アンモニウム塩等が適用可能である。化合物(B)に対して、0.1〜5当量が使用可能である。
【0034】
(アルカリ金属水酸化物の水溶液)
アルカリ金属として、ナトリウム、カリウム等が挙げられる。アルカリ金属水酸化物の水溶液としては、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液が好ましく用いることができる。水溶液の濃度は、好ましくは60〜20重量パーセント、より好ましくは工業的に入手可能な48〜30重量パーセントである。
アルカリ金属水酸化物の水溶液として、水酸化ナトリウム水溶液または水酸化カリウム水溶液が好ましい。アルカリ金属水酸化物の水溶液は、連続に添加しても、分割に添加してもよい。アルカリ金属水酸化物の水溶液の使用量は、アルカリ金属水酸化物として、化合物(B)に対して4〜15当量の範囲、反応の進行および経済性を考慮すると4.5〜10当量が好ましい。
アルカリ金属水酸化物の水溶液は、炭酸カリウム、水素化ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の固体塩基性化合物に比べ取り扱い易く、安価であるという利点を有する。
【0035】
(反応)
反応系には、化合物(A)の昇華性および融点の観点から、少量の有機溶媒を反応系に添加することもできるが、無論無溶媒でも実行可能である。反応終了後、反応液は強アルカリ性を示すが、酸で中和することも可能だが、しなくともよい。ろ過後の洗浄は、水溶性の不純物を洗い流すために水で洗浄することが好ましい。その後、原料等の不純物を洗い流すために有機溶媒で洗浄することができ、特に工業的に多用されているトルエンやメタノールが利用できる。またこれら有機溶媒は回収し、生産系へ戻すことが可能である。本反応系は高価な非プロトン性極性溶媒を使用しないため、当然その回収を必要とせず、工業的に有利に製造することができる。
【実施例】
【0036】
以下本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。各値は以下の方法により求めた。
【0037】
(1)化合物の同定:
各化合物の同定は、NMR:日本電子(株)製JNR-EX270および質量分析計:(株)島津製作所製GCMS―QP5000で行なった。
(2)収量、収率:
合成したニトロ体の収量、収率は、化合物(B)を基準として算出した。
(3)LC純度:
LC純度は、高速液体クロマトグラフィーを用いた分析により確認し、溶媒および原料化合物(A)を除く各ピークの総面積値を100としたときの、化合物(C)の面積パーセントを示す。
(4)選択率:
選択率とは、テトラニトロ体の面積値/(テトラニトロ体の面積値+トリニトロモノハロゲン体の面積値)×100で示される。
なお、テトラニトロ体およびトリニトロモノハロゲン体の面積値は高速液体クロマトグラフィーを用いた分析により求めた。
【0038】
[実施例1]
ペンタエリスリトール:4.08g、o−クロロニトロベンゼン:23.63g、トルエン:4ml、塩化ベンジルトリエチルアンモニウム:6.83gをガラス製反応機に仕込み、70〜85℃で48%水酸化カリウム水溶液:31.56gを5時間かけ添加した。その後、同温度で20時間反応させた。冷却後、水50gを添加し、塩酸で中和した。その後ろ過し、水60g、メタノール90mlで順次洗浄後、乾燥し化合物(C)を得た(収量:17.90g/収率:96.2%/LC純度:96.7%/選択率:97.7%)。
【0039】
[実施例2]
ペンタエリスリトール:4.08g、o−クロロニトロベンゼン:23.63g、トルエン:4ml、水4.5g、臭化テトラブチルアンモニウム:6.96gをガラス製反応機に仕込み、80〜84℃で48%水酸化ナトリウム水溶液:22.5gを4時間40分かけ添加した。その後、同温度で22時間反応させた。冷却後、水:40g、トルエン:4mlを添加し、塩酸で中和した。その後、ろ過し、水40g、メタノール60mlで順次洗浄後、乾燥し化合物(C)を得た(収量:17.89g/収率:96.1%/LC純度:95.9%/選択率:96.4%)。
【0040】
[実施例3]
ペンタエリスリトール:1.36g、o−フロロニトロベンゼン:6.77g、トルエン:2.5ml、臭化テトラブチルアンモニウム:0.77g、48%水酸化カリウム:9.35gをガラス製反応機に仕込み、70℃で18時間反応させた。冷却後濃塩酸で中和し、トルエン:7.5mlを添加した。その後ろ過し、水:20ml、メタノール:60mlで洗浄後、乾燥し化合物(C)を得た(収量:6.18g/収率:99.6%/LC純度:99.9%/選択率:100%)。
【0041】
[実施例4]
ペンタエリスリトール:0.68g、o−ジニトロベンゼン:4.20g、トルエン:3ml、臭化テトラブチルアンモニウム:0.38g、48%水酸化ナトリウム:3.33gをガラス製反応機に仕込み、55℃で20時間反応させた。冷却後、水:10gを添加し濃塩酸で中和した。その後ろ過し、水:20ml、メタノール:30mlで洗浄後、乾燥し化合物(C)を得た(収量:2.80g/収率:90.2%/LC純度:99.8%)。
【0042】
[参考例](相間移動触媒未添加)
ペンタエリスリトール:0.68g、o−クロロニトロベンゼン:3.94g、トルエン:5ml、30%水酸化ナトリウム4.0gをガラス製反応機に仕込み、還流下24時間反応させた。目的とする化合物(C)は、全く得られなかった。
【0043】
[比較例]
ペンタエリスリトール:1.36g、o−クロロニトロベンゼン:6.61g、N,N−ジメチルアセトアミド:13g、固体水酸化ナトリウム2.0gをガラス製反応機に仕込み、60℃で23時間反応させた。冷却後、水20gを添加し、上澄み液を廃棄後、メタノール30mlを添加し、結晶を分散させた。ろ過後、水30ml、メタノール30mlで洗浄し、乾燥後化合物(C)を得た(収量:4.51g/収率:72.7%/LC純度:77.4%/選択率:95.2%)。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明で得られる式(C)で表されるニトロ体は、ポリエステルの末端封止剤として有用な環状カルボジイミド化合物の中間体である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(A)で表わされる化合物(A)と下記式(B)で表わされる化合物(B)とを、相間移動触媒およびアルカリ金属水酸化物の水溶液の存在下で、反応させることを特徴とする、下記式(C)で表わされるニトロ体の製造方法。
【化1】

(式(A)中、Rは、水素原子、炭素原子数1〜6のアルキル基である。Xはハロゲン原子またはニトロ基である。)
【化2】

【化3】

(式(C)中、Rは式(A)と同じである)
【請求項2】
相間移動触媒は、下記式(i)で表される化合物である請求項1記載の製造方法。
【化4】

(式(i)中、R1〜R4各々独立に、炭素原子数1〜20のアルキル基、炭素原子数6〜20のアリール基、炭素原子数7〜20のアラルキル基から選ばれる基である。Aはハロゲンアニオンである)
【請求項3】
相間移動触媒は、テトラエチルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、トリオクチルメチルアンモニウム塩、ベンジルジメチルオクタデシルアンモニウム塩、ベンジルトリエチルアンモニウム塩、ベンジルトリメチルアンモニウム塩およびベンジルトリブチルアンモニウム塩からなる群より選ばれる少なくとも一種類の化合物である請求項1記載の製造方法。
【請求項4】
アルカリ金属水酸化物の水溶液は、水酸化ナトリウム水溶液または水酸化カリウム水溶液である請求項1記載の製造方法。


【公開番号】特開2012−1475(P2012−1475A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−137173(P2010−137173)
【出願日】平成22年6月16日(2010.6.16)
【出願人】(000199681)川口化学工業株式会社 (23)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】