説明

ニンニクの脱臭方法、及びアリイン含有量の高い脱臭ニンニク食品素材、並びにこれを使用した食品

【課題】アリイン含有量の高い低臭ニンニク、低臭おろしニンニク及び低臭ニンニクエキスを製造する方法、及び臭いはほとんど無いが風味のあるニンニク素材或いはこの素材を添加した食品を提供すること。
【解決手段】冷凍した生ニンニクを高濃度のエタノール混合溶媒中にて低温で解凍し、そのまま粉砕することでアリインをアリシンに変換させることを防ぎ、更に乾燥することでアリイン高含有量の低臭ニンニク食品素材(スラリー、粉末、エキス等)を製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニンニクの脱臭方法、及びこれを用いて得られる脱臭ニンニク食品素材(スラリー、粉末、エキス)、並びにこれを使用した食品に関する。
特に、脱臭処理後においても、ニンニクの有効成分であるアリインを多量に含有する食品素材が得られることを特長とする。
本願発明において、「脱臭」とは、「無臭乃至低(減)臭化」を意味する。
【背景技術】
【0002】
ニンニクは滋養強壮効果を持つ食品素材、あるいは香辛料として古来より親しまれており、現在も洋の東西を問わず料理の素材として重要である。また、健康食品素材としても利用されており、有効成分としてはアリイン、アリシン、アホエン、γ−グルタミル−S−アリルシステイン等の含硫アミノ酸由来の化合物が知られている。
【0003】
アリシンはニンニクに特徴的な強い臭い物質で、アミノ酸の一種である無臭のアリインがアリイナーゼによって分解されてできるアリルスルフェン酸の脱水反応により生成する。
このアリシンを主成分とする臭いのため、仕事や重要な会合の前にはニンニクを食べるのを控えることも多い。そのため、様々な無臭化の試みがなされてきた。
【0004】
ニンニクの無臭化の方法として、高周波加熱(例えば、特許文献1参照)、アルコール漬け加熱(例えば、特許文献2参照)、蜂蜜漬け加熱(例えば、特許文献3参照)、活性炭処理(例えば、特許文献4参照)、牛乳中のミネラルによる処理(例えば、特許文献5参照)、加圧処理(例えば、特許文献6、7、8参照)、発酵処理(例えば、特許文献9、10、11参照)、有機酸と無機塩類を含む水溶液への浸漬(例えば、特許文献12参照)、卵黄の被膜を形成させる方法(例えば、特許文献13参照)、pH7.0以上又はpH4.0以下の溶液による処理(例えば、特許文献14参照)等が知られている。
【0005】
これらの方法のうち加熱工程を設けているものは、昇温中にニンニク細胞内でわずかでもアリイナーゼによる反応が起こり、臭い物質が生成する。また、アリイナーゼによる反応でなくても、加熱時に含流化合物が反応して臭い物質が生成する。高周波加熱は最も短時間でニンニクの温度を上昇させることが出来るが、それでも臭い物質の生成を完全には抑制できない。また、特許文献2の方法では、使用するアルコール溶液の濃度が数パーセントと低いため酵素失活効果は低く、ニンニクの煮沸とほとんど変わりがない。沸騰水中で煮沸したニンニクが無臭でないことは周知の事実である。特許文献3の方法では、臭い物質の生成に加え、処理後の蜂蜜除去や2度の高周波加熱による成分破壊の問題がある。加圧処理の場合も加圧時に加熱されるとやはり臭い物質が生成するが、特許文献6、7、8の方法ではいずれも加熱工程がある。
【0006】
発酵処理は、特許文献9、10、11いずれの方法においても培養に数日〜1ヶ月以上の期間を要し、しかも培養だけでは完全に無臭化することができず他の方法と組み合わせている。そのため、製造工程も煩雑である。
【0007】
特許文献12の方法は臭い物質をかなり良く除去できるが、有効成分の損失も大きい。特許文献13の方法はマイクロ波加熱処理に加え、更に2度の加熱処理工程があるため臭い物質が発生する。卵黄で被覆しても摂食後体内で臭い物質が発生するため、根本的な無臭化とはならない。特許文献14の方法は酸性又はアルカリ性の溶液にニンニクを浸漬した後加熱や破砕を行うことに加え、多糖類の添加等かなり複雑な工程を必要としている。ニンニクの場合、浸漬するだけでは内部のpHを容易に変えることができないので、加熱や破砕の工程があれば臭い物質が発生する。
【0008】
健康食品として販売されているニンニク加工品の中には無臭を謳っているものがかなりあるが、生理活性を持つ硫黄化合物を多量に含有するものは非常に少ない(非特許文献1)。また、無臭化ニンニクの製造法に関する特許文献1〜14について、臭い成分の含有量が記載されているものはあるが(特許文献4、12)、アリインをはじめとする無臭の有効成分の含有量を記載しているものはなく有効成分の含有量まで配慮していない。この事実は、非特許文献1の指摘を暗に裏付けている。
【0009】
【特許文献1】特公昭40−12464
【特許文献2】特公昭55−7222
【特許文献3】特公昭52−15655
【特許文献4】特開平5−103622
【特許文献5】特開平6−245729
【特許文献6】特開平6−311865
【特許文献7】特開平6−335360
【特許文献8】特開平7−87920
【特許文献9】特開平7−46966
【特許文献10】特開2000−83616
【特許文献11】特開2001−299261
【特許文献12】特開平9−187247
【特許文献13】特開2001−25371
【特許文献14】特開2004−159515
【非特許文献1】New Food Industry,Vol.36,No.11,1−10
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ニンニクは、無臭のアリインを出発物質する数種類の硫黄化合物を主な有効成分として含み、健康に良い食品素材として認知されている。しかしながら有効成分の1つであるアリシンは強い臭いを持ち、ほんの少し生成しただけでもニンニクと判るほどである。生成したアリシンのみ除去できればよいが、無臭化のみを追及すると肝心の有効成分も除去してしまい、ニンニクの価値が失われてしまう。
【0011】
本発明は、種々の有効成分の出発物質であり自身も有効成分であるアリインを極力アリシンに変えず、重量比1%以上の高濃度のアリインを含む脱臭ニンニクを提供することおよび、滋養、強壮の成分でニンニクに多量に含有されるアルギニンも、1%以上の高濃度で含まれる状態で提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、ニンニクを凍結、融解することによりアリインをアリシンに変える酵素であるアリイナーゼの活性が低下すること、更にエタノール、又はエタノールと水の混合溶媒中でニンニクを粉砕することによりアリイナーゼが失活することを見出した。この発見により臭い物質の生成を抑制し、かつアリシン以外の臭い物質が発生し易い加熱工程を回避することが可能となった。また、臭い物質であるアリシンは脂溶性であるため、ニンニクの粉砕以前に生成していたアリシンは大部分が混合溶媒に移行することを見出した。更に、乾燥工程においてエタノールは容易に蒸発し除去できるが、エタノールに溶解した臭い物質も同時に蒸発して除去されることを見出した。
【0013】
使用するエタノールと水の混合溶媒のエタノール濃度を変えることにより、ニンニク粉砕後固液分離したときに各々に分配される成分の含有量を制御できることを見出した。液体部分に成分を多く含むようなエタノール濃度の場合、それを減圧乾燥すれば低臭のニンニクエキスを製造できるが、エタノール除去後活性炭処理を行うと透明で薄い褐色・より低臭のニンニクエキスが得られることを見出した。
【0014】
従って、本発明は以下のように構成されている。
〔請求項1〕 下記の(1)及び(2)を混合して粉砕することを特徴とするニンニクの脱臭方法。
(1)ニンニクの可食部
(2)エタノール、又はエタノールと水の混合溶媒
〔請求項2〕 ニンニク可食部として、生のニンニクを冷凍したものを使用する請求項1に記載するニンニクの脱臭方法。
〔請求項3〕 使用する混合溶媒のエタノール濃度が40%以上、かつニンニク可食部の1倍〜5倍、好ましくは2倍〜4倍である請求2に記載するニンニクの脱臭方法。
〔請求項4〕 粉砕時の混合物の温度が30℃以下、好ましくは5℃以下である請求項1〜請求項3に記載するニンニクの脱臭方法。
〔請求項5〕 ニンニクの可食部に対し、請求項1〜請求項4に記載するニンニクの脱臭方法を適用して得られるアリイン含有量の高い脱臭ニンニクスラリー。
〔請求項6〕 請求項5に記載するスラリーを、固形分と液体分を分離せずに、そのまま乾燥して得られるアリイン含有量の高い脱臭ニンニク粉末。
〔請求項7〕 ニンニクの可食部に対し、請求項1〜請求項4に記載するニンニクの脱臭方法を適用して得られたスラリーから固形分を分離して乾燥して得られるアリイン含有量の高い脱臭ニンニク粉末。
〔請求項8〕 ニンニクの可食部に対し、請求項1〜請求項4に記載するニンニクの脱臭方法を適用して得られたスラリーから液体分を回収し、減圧濃縮後活性炭処理して得られるアリイン含有量の高い脱臭ニンニクエキス。
〔請求項9〕 請求項5〜請求項8に記載する製造方法により製造されるアリイン含有量の高い脱臭ニンニクスラリー、脱臭ニンニク粉末、又は脱臭ニンニクエキスを添加した食品。
なお、本願発明において、エタノール(水との混合溶媒を除く)とは、99.5%以上のエタノールをいう。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ニンニクの可食部をエタノール、又はエタノールと水の混合溶媒中で粉砕すれば、アリイン含有量の高い脱臭ニンニクスラリーを容易に得ることができる。
特に、冷凍生ニンニクをエタノールと水の混合溶媒中で粉砕した後乾燥させることにより、有効成分のアリイン及びアルギニンを多量に含む低臭ニンニク及び低臭ニンニクエキスを製造することができる。エタノールによるタンパク質の変性は起こるが、加熱処理をしていないため成分の変質の少ない低臭ニンニク及び低臭ニンニクエキスを得ることができる。
ここでの低臭とは、臭いはあるが良く嗅がないとニンニクとは分からない程度に臭いが少ないことを言う。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明で用いられる生ニンニクは、鱗茎、茎、葉、花等どの部分でも良いが、加工前のアリシン生成を少なくするため傷の少ないものが好ましい。生ニンニクの鱗茎ならば、マイナス10℃以下の冷凍庫で確実に凍結する。
【0017】
凍結したニンニクの鱗茎を重量で1倍〜5倍、好ましくは2倍〜4倍のエタノールと水の混合溶媒に投入する。エタノール濃度は重量%で20%〜100%、好ましくは50%〜100%である。混合溶媒は予め5℃以下に冷やしておいた方が良いが、ニンニク投入後5℃以下の冷蔵庫に入れても良い。ニンニクは溶質含有量が高いため、混合溶媒がニンニクの2倍重量の場合、5℃以下の冷蔵庫に置いても30分程で解凍する。
【0018】
解凍したニンニクをエタノール、又はエタノールと水の混合溶媒と共にジューサーに投入してホモジナイズするが、ホモジネートの粒子径は小さいほど良いため、微粉砕可能な粉砕機を用いることが望ましい。吸引濾過等により固液分離を行って各々を真空乾燥すると、エタノール濃度が高いほどニンニク成分は固形分に残留し、低いと液体部分に移行することがわかる。ニンニクの2倍重量の99.5%エタノールを使用した場合、成分は85%以上固形分に留まるが、60%エタノールでは30%以下である。
【0019】
エタノールと水の混合溶媒のエタノール濃度が50〜70%重量の場合、凍結ニンニクの2倍重量を用いると、固液分離後の各々の凍結乾燥物のアリイン含有量は1%を超える。固形分は乾燥すると歩留まりは30%以下であるが、アリインやアルギニンの含有量が高い状態の乾燥物を得ることができる。エタノール含有量が80%を超えると、固液分離した場合に固形分の歩留まりは45%を超えるものの、アリイン含有量は1%未満となり多くが液体分に移行してしまう。従って、臭い成分を除去しつつ成分を保持する最良の方法は、ニンニクの2倍重量以上の99.5%以上のエタノールを使用して粉砕し固液分離せずに真空乾燥することである。
【0020】
エタノールと水の混合溶媒のエタノール濃度が50〜60%重量の場合アリイナーゼの失活作用が弱まるため、粉砕時に臭い成分が生成して乾燥工程後も残存する可能性が高くなる。また、成分の70%以上が液体分に移行するが、減圧濃縮するとエタノールに溶けていた成分が沈殿し緑色に変色する。本発明の低臭ニンニクを原料として調味料等に使用する場合、沈澱物と色が障害になり得る。残存する臭い物質とエタノール除去に伴う沈殿物及び色素を除去するには、減圧濃縮してエタノールを除去した後回収した水溶液の5%〜10%重量の活性炭を添加し、良く攪拌した後濾過する。ほとんど無臭のニンニクエキスの製造を目的とするならば、エタノール濃度は50〜60%重量にした方が、歩留まりが高くなる。しかしながら、アリインやアルギニンの含有量は確保できるものの、ニンニクの風味はかなり失われる。
【実施例】
【0021】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0022】
実施例1
スーパーマーケット等で普通に購入可能な青森県産ニンニク(福地ホワイト6片)の鱗茎を一粒ずつに分けて皮を剥き、約100gをマイナス18℃のチェストフリーザー(HF−10CG、三洋電機株式会社)に入れて冷凍した。一方、同じニンニクで冷凍していないものも約100g用意した。凍結ニンニクを室温の純水に1時間浸漬して十分に融解後冷えた水を捨て、改めてそれぞれのニンニクに対して2倍重量の室温の純水(約200g)を加え、ジューサー(TM807、株式会社テスコム)でホモジナイズした。それぞれのホモジネート全量を真空凍結乾燥機(DC800、ヤマト科学株式会社)用フラスコに入れてマイナス18℃のフリーザー(HF−10CG、三洋電機株式会社)で凍結後、凍結乾燥した。乾燥物はミル(TM807、株式会社テスコム)で粉砕して粉末化し、アミノ酸抽出に供した。
【0023】
アミノ酸抽出及び分析は以下のように行った。ニンニクの凍結乾燥粉末を1.00g量り取り、ホモジナイザー(エースホモジナイザーAM−3、株式会社日本精機製作所)用カップに入れて純水50mlを加え15,000rpm、10分間ホモジナイズした。ホモジネートを定量濾紙(No.5A,150mm、東洋濾紙株式会社)で濾過した後濾紙に残った残渣を回収し、再度純水50mlを加えて15,000rpm、10分間ホモジナイズした。ホモジネートを定量濾紙(No.5A,150mm、東洋濾紙株式会社)で濾過した後先の濾液と合わせ、200mlメスフラスコに移して純水にて定容した。この溶液の一部をポアサイズ0.2μmのメンブランフィルター(ミニザルトRC15、ザルトリウス株式会社)で濾過し、濾液をアミノ酸分析用サンプル希釈液(クエン酸リチウム緩衝液:6.9g/L クエン酸リチウム(4HO)、1.3g/L 塩化リチウム、8.8g/L クエン酸、4.0ml/L 塩酸、40.0ml/L エタノール、3.1ml/L BRIJ−35(20%)、2.5ml/L チオジグリコール、0.1ml/L n−カプリル酸(日本電子株式会社で販売))で適宜希釈してアミノ酸分析用サンプル溶液とした。サンプル溶液を全自動アミノ酸分析機(JLC−500/V、日本電子株式会社)用のバイアル瓶に入れてセットし、50μlを注入して分析を行った。装置の操作は付属の操作マニュアルに従った。尚、標準物質としてのアリインは、L(+)−Alliinを和光純薬工業株式会社より購入した。両者のアリイン(Alli)及びアルギニン(Arg)の含有量を表1に示す。
【0024】
【表1】

【0025】
表1に示されるように、生ニンニク粉末のアリイン含有量は非常に少なく、アリイナーゼの反応によって多くのアリインがアリシンに変換されたものと思われる。凍結ニンニクではアリインが生ニンニクの約21倍残存しており、凍結、融解によってアリイナーゼの活性が大きく低下したことがわかる。尚、両方ともに強いニンニク臭があった。
【0026】
実施例2
青森県産ニンニクを約200g凍結後、約50gずつ500mlビーカー4個に入れた。5℃に冷却した99.5%エタノール(特級エタノール、関東化学株式会社)をそれぞれのビーカーに対してニンニクの半分重量、等重量、2倍重量、3倍重量、4倍重量加えて5℃の冷蔵庫で30分放置し、ニンニクを融解させた。融解後それぞれのビーカーの中身をジューサー(TM807、株式会社テスコム)に入れてホモジナイズし、ホモジネートを真空凍結乾燥機(DC800、ヤマト科学株式会社)用フラスコに入れて真空凍結乾燥機を用いて真空乾燥した。ある程度乾燥したら中身を取り出してミル(TM807、株式会社テスコム)で粉末状に粉砕し、再度真空凍結乾燥機(DC800、ヤマト科学株式会社)で真空乾燥した。乾燥した各々の粉末は1.00gずつ正確に量り取り、実施例1と同様の方法でアミノ酸抽出及びアミノ酸分析を行った。各サンプルの臭いの程度とアリイン(Alli)及びアルギニン(Arg)の含有量を表2に示す。
【0027】
【表2】

【0028】
表2に示されるように、冷凍ニンニクを等重量以上の冷99.5%エタノール中でホモジナイズして真空乾燥することにより、1.6%以上のアリインと2.2%以上のアルギニンを含有するほとんど無臭のニンニク粉末が得られた。また、これらいずれのサンプルのアリイン含有量も実施例1の冷凍ニンニク粉末のそれに対して2倍以上であることから、エタノールがアリイナーゼの失活に有効であることがわかる。一方、生ニンニクを2倍重量の99.5%エタノール中でホモジナイズして真空乾燥した粉末はアリイン含有量1407.7mg/100g、アルギニン含有量2316.5mg/100gであったが、強いニンニク臭があった。
【0029】
実施例1の生ニンニク凍結乾燥粉末と本実施例のエタノール2倍重量添加で作製したほとんど無臭のニンニク粉末(以下低臭ニンニク)の栄養成分分析結果を表3に示す。
【0030】
【表3】

【0031】
製造工程上成分の損失はほとんど無いはずであるが、表3に示されるように本実施例で作製された低臭ニンニク粉末の栄養成分分析値は、生ニンニクの分析値とほとんど同じであることがわかる。
【0032】
実施例3
99.5%エタノール(特級エタノール、関東化学株式会社)に純水を加えてエタノール含有量が重量比で50%、60%、70%、80%の混合溶媒を調製し、約50gの冷凍ニンニクに対してそれぞれの混合溶媒を2倍重量加え、5℃の冷蔵庫に30分間置いて解凍した。解凍後各ニンニクを混合溶媒ごとジューサー(TM807、株式会社テスコム)でホモジナイズし、実施例2の場合と同様に真空乾燥した。得られた乾燥粉末は実施例1の場合と同様にアミノ酸抽出及びアミノ酸分析を行った。各サンプルの臭いの程度とアリイン(Alli)及びアルギニン(Arg)の含有量を表4に示す。
【0033】
【表4】

【0034】
表4に示されるように、各サンプルのアリインやアルギニンの含有量に大きな違いは無いが、エタノール含有量が70%以下の場合臭い成分が乾燥工程で除去しきれずにかなり残ることがわかった。また、エタノール含有量が70%の場合ホモジネート中の固形分はサラサラしているが、80%以上になると漆喰のような硬さでまとまってしまう現象が見られた。
実施例2、3により、ホモジネートを固液分離せずに乾燥させた場合、良く嗅がないとニンニクであることが分からない程度に脱臭するためには、99.5%エタノール溶液であればニンニクと等重量以上、ニンニクの2倍重量であればエタノール濃度が80%以上の混合溶媒を使用しなければならないことがわかった。
【0035】
実施例4
実施例3の場合と同様にエタノール含有量が重量比で50%、60%、70%、80%の混合溶媒を調製し、加えて99.5%エタノールも用意して、約40gの冷凍ニンニクに対してそれぞれの混合溶媒を2倍重量加え、5℃の冷蔵庫に30分間置いて解凍した。解凍後各ニンニクを水溶液ごとジューサー(TM807、株式会社テスコム)でホモジナイズし、ホモジネートを吸引濾過して固形分と液体分に分離した。固形分は実施例2の場合と同様に真空乾燥し、液体分はロータリーエバポレーター(RE400、ヤマト科学株式会社)で減圧濃縮してエタノールを除去した後、真空凍結乾燥機(DC800、ヤマト科学株式会社)で凍結乾燥した。各乾燥物は実施例1の場合と同様にアミノ酸抽出及びアミノ酸分析を行った。使用した冷凍ニンニク及び混合溶媒の重量、乾燥物の重量や固形分、液体分乾燥物の総乾燥物重量に対する割合、固形分乾燥物、液体分乾燥物のアリイン(Alli)及びアルギニン(Arg)の含有量、臭いの程度を表5に示す。
【0036】
【表5】

【0037】
表5に示されるように、混合溶媒中で解凍ニンニクを粉砕して固液分離の後それぞれを乾燥すると、エタノール濃度の違いにより両者の乾燥物重量の割合が大きく変わることがわかる。すなわち、エタノール濃度が高くなると固形分への成分の残存率が上がり、60%では28%であったものが99.5%では86.8%と著しく上昇する。本実施例では混合溶媒の添加量がニンニクの2倍重量であったが、99.5%エタノールの添加量を増やせば更にこの割合が高くなることが示唆される。
なお、エタノール含有量80%及び99.5%の混合溶媒を使用した場合、特に固形分乾燥物のアリイン含有量が少なくなっている。液体分乾燥物のアリインを含めて総量を考えても50%〜70%の場合と比較して大きく減少している。ニンニクは、エタノール含有量が高い混合溶媒(含有量80%以上)を加えてホモジナイズすると粘りが出て粘土のような性状になるが、これを乾燥すると漆喰のように硬くなる。本実施例ではアリイン、アルギニン等の遊離アミノ酸を純水で抽出しているが、上記のような固形分の性状のため抽出効率が大きく低下し、検出したアリインが少なかったものと思われる。
固液分離を行うと、固形分乾燥物の臭いは分離を行わない場合に比べて非常に少なくなることがわかった。特に60%エタノール処理の場合、固液分離後の固形分はおろしニンニクのような性状で得られるので、真空凍結乾燥機(DC800、ヤマト科学株式会社)で生乾きの状態まで乾燥してある程度エタノールを除去した後加水し、低臭おろしニンニクを製造できた。
【0038】
実施例5
冷凍ニンニク249.3gに99.5%エタノール(特級エタノール、関東化学株式会社)に純水を加えて調製した重量比60%の混合溶媒を498.7g加え、5℃の冷蔵庫に30分間置いて解凍した。解凍後ニンニクを水溶液ごとジューサー(TM807、株式会社テスコム)でホモジナイズし、吸引濾過して液体分を回収した。ロータリーエバポレーター(RE400、ヤマト科学株式会社)で減圧濃縮してエタノールを除去した後、残液の重量に対して5%の活性炭(特製白鷺、キリンフードテック株式会社)を加え、良く混合した後吸引濾過した。濾液を回収して真空凍結乾燥機(DC800、ヤマト科学株式会社)で凍結乾燥後、ミル(TM807、株式会社テスコム)で粉砕して粉末化した。得られた乾燥粉末は実施例1の場合と同様にアミノ酸抽出及びアミノ酸分析を行った。粉末にはほのかに甘い香りがあり、不快な臭いは皆無であった。また、減圧濃縮後の残液にはかなりの沈殿物があり緑色を帯びていたが、活性炭処理後は透明で薄い褐色であった。尚、減圧濃縮せずに活性炭処理を行った場合は臭い、色共に除去できなかった。乾燥粉末サンプルのアリイン(Alli)及びアルギニン(Arg)の含有量を表6に示す。
【0039】
【表6】

【0040】
表5の60%エタノール処理サンプルの液体分乾燥物と表6の結果を比較すると、アリイン、アルギニンともに表6の方が少し含有量が低い。臭い成分や沈殿物、色素と共に、アミノ酸類もある程度活性炭に吸着し損失したと思われる。しかしながら、アリイン、アルギニンとも十分に高い含有量を維持していた。ほのかに甘い香りがあり不快な臭いは皆無であったが、ニンニクの風味がかなり失われており実施例2〜実施例4で得られた低臭ニンニクの方が味としては風味を良く残していた。
【0041】
実施例6
実施例2の99.5%エタノールを冷凍ニンニクの2倍重量用いて作製した低臭ニンニク粉末を使用して、以下の処方によるキムチを試作した。
【0042】
【表7】

【0043】
比較のため、低臭ニンニク粉末の変わりにおろしニンニク(株式会社ナカユキスパイス)を40g添加したものも試作した。添加量はニンニクの水分含有量が約65%であるため、おろしニンニク40gに対し低臭ニンニク粉末を14g(重量比35%)とした。
【0044】
両者を比較したところ、おろしニンニクを使用したものはニンニク臭の強い普通のキムチだが、低臭ニンニク粉末を使用したものはニンニク臭が感じられず、前者では気づかなかったパプリカの臭い(パプリカ4万SS由来と思われる)を感じた。味はニンニクの風味がしっかり出ており、本発明の低臭ニンニクを用いてニンニク臭のほとんど無いキムチが製造可能であることがわかった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(1)及び(2)を混合して粉砕することを特徴とするニンニクの脱臭方法。
(1)ニンニクの可食部
(2)エタノール、又はエタノールと水の混合溶媒
【請求項2】
ニンニク可食部として、生のニンニクを冷凍したものを使用する請求項1に記載するニンニクの脱臭方法。
【請求項3】
使用する混合溶媒のエタノール濃度が40%以上、かつニンニク可食部の1倍〜5倍、好ましくは2倍〜4倍である請求2に記載するニンニクの脱臭方法。
【請求項4】
粉砕時の混合物の温度が30℃以下、好ましくは5℃以下である請求項1〜請求項3に記載するニンニクの脱臭方法。
【請求項5】
ニンニクの可食部に対し、請求項1〜請求項4に記載するニンニクの脱臭方法を適用して得られるアリイン含有量の高い脱臭ニンニクスラリー。
【請求項6】
請求項5に記載するスラリーを、固形分と液体分を分離せずに、そのまま乾燥して得られるアリイン含有量の高い脱臭ニンニク粉末。
【請求項7】
ニンニクの可食部に対し、請求項1〜請求項4に記載するニンニクの脱臭方法を適用して得られたスラリーから固形分を分離して乾燥して得られるアリイン含有量の高い脱臭ニンニク粉末。
【請求項8】
ニンニクの可食部に対し、請求項1〜請求項4に記載するニンニクの脱臭方法を適用して得られたスラリーから液体分を回収し、減圧濃縮後活性炭処理して得られるアリイン含有量の高い脱臭ニンニクエキス。
【請求項9】
請求項5〜請求項8に記載する製造方法により製造されるアリイン含有量の高い脱臭ニンニクスラリー、脱臭ニンニク粉末、又は脱臭ニンニクエキスを添加した食品。


【公開番号】特開2010−22289(P2010−22289A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−188153(P2008−188153)
【出願日】平成20年7月22日(2008.7.22)
【出願人】(503353025)株式会社アセラ (10)
【Fターム(参考)】