説明

ヌクレオリンを介したがん診断および治療方法

ヌクレオリンがエンドスタチンの特異性レセプターであるという発見に基づく本発明は、エンドスタチンや、他の血管新生阻害剤を用いた治療に適する腫瘍の種類およびがん患者の検査およびスクリーニングのための診断用キットを提供する。特に、この診断用キットは、ヌクレオリンに対する抗体およびヌクレオリンをコードする核酸と結合するDNAまたはRNAを含む。本発明は、血管新生阻害剤、特にエンドスタチンの作用と類似した阻害剤をスクリーニングする方法も提供する。また、本発明は、細胞毒性薬、例えば腫瘍壊死因子αをヌクレオリン抗体と連結することによって、特異的に内皮細胞の増殖および腫瘍血管新生を特異的に抑制する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は2005年5月12日に出願された中国特許出願200510011707.3の優先権を主張する。
【0002】
技術分野
本発明は抗血管新生がん療法に適したがん対象、特にヒト患者を同定する新しい方法に関する。本発明は、血管新生阻害剤、細胞、特に血管新生依存性のがん細胞の悪性増殖の抑制に有効と考えられる分子を探索およびスクリーニングする新規な方法にも関する。本発明は、ヌクレオリン(nucleolin、以下、「NL」と略す)を用いた血管新生阻害剤をスクリーニングする方法を開示する。特に、本発明は、エンドスタチン(endostatin、以下、「ES」と略す)の作用メカニズムに類似する血管新生阻害剤をスクリーニングすることに関する。本発明は、NLがESの特異的レセプターであり、ESの血管新生抑制活性に関するシグナル伝達経路に関与しているという知見に基づくものである。
【背景技術】
【0003】
近年開発された新たながん療法として、ESを介して腫瘍の血管新生を抑制し、腫瘍への血流を遮断することによって腫瘍の成長を抑制するというものがある。ESはXVIII型コラーゲンのC末端球状ドメインで、分子量は20kDaである。ESは、最初にマウス血管内皮腫細胞系の培養上清から分離され、毛管内皮細胞の増殖を抑制する。動物試験では、ES処置が繰り返された後、腫瘍の消滅を促進し、薬剤耐性も生じなかった。さらに、動物試験および臨床試験でESの低毒性が観察された。ESは顕著な内皮細胞の増殖、遊走、接着、生存を抑制する能力を示し、細胞のアポトーシスを誘発する。インテグリン、トロポミオシン、グリピカンおよびEセレクチンがESのレセプターとして細胞の遊走を制御すること、β−カテニンとShbアダプターはESによって誘発された内皮細胞のG1期休眠とアポトーシスに関与すると予想されるが、ESの正確な分子機構はまだ議論があり、動物試験と臨床試験で観察されたESの低毒性の具体的な理由はまだ知られていない。一方、動物試験と臨床試験で高濃度のESが抗腫瘍効果に必要であるという事実に対し、まだ十分な説明がなされていない。
【0004】
ESは血管新生を抑制することによって腫瘍を殺滅するので、有効ながん治療薬として認められている。腫瘍細胞は血管新生によって転移する。腫瘍細胞集団の毎回の増加は、腫瘍に集まる新しい毛細管の形成の後でなければ生じない。この現象はほとんど普遍的である:多数のヒトの固形腫瘍あるいは血液がんは血管新生依存性である。抗血管新生療法のさらなる利点は、低毒性、最小の薬剤耐性、およびこの治療の繰り返されたサイクルの後にさらなる治療なしで長い腫瘍休止状態が続くことを包む。Boehm et al., Antiangiogenic therapy of experimental cancer does not induce acquired drug resistance. Nature (1997) 390: 404-407を参照。しかしながら、これまで、ESの機能のメカニズムはまだ明らかにされていない。したがって、ES療法は各々の患者の感受性を考慮することなく、がん患者に一様に適用されている。同時に、ESが効果的に血管新生阻害剤として機能し、望ましい制がん作用を生じるために、大量のESを生産してがんを患う哺乳類またはヒトに投与しなければならないことが示された。このプロセスにおいて高用量のESが必要なので、これはひどく高価となり得る。したがって、他の方法で新しい血管新生阻害剤を産生し、そして、経済的さらに効果的に腫瘍治療に用いることが緊急に必要である。多くの臨床試験が有効な抗血管新生薬を見つけることを期待して行われた。一方、客観的な基準を用いてES治療に適合する患者を選ぶことができるならば、それは顕著な進歩である。
【0005】
異なる患者において、がん療法の効果は種々の内的または外的要因によって、相違が極めて大きい。外的要因は治療を実施する時のがんの進行段階(がんの発見が早いほど治療と回復に有利になる)および治療を与える相対強度、例えば手術、化学療法あるいは放射線療法を包含する。内的要因は患者の免疫系の健康の程度を包含する。強健な免疫系はより長く、より強い処置を維持することを可能にし、そして、患者がより速く回復することを援助する。がん治療において、また、一般的な医学分野においても、個人化医療と呼ばれる一つの重要な問題が検討されている。異なる個人が同じがん治療薬に対する異なる耐容性と感受性を持ち得るという概念は、特定のがん治療効果を高めるための様々なアプローチを提供するものである。したがって、個体の多様性のために、ある患者で有効な薬が他の患者で有効であるとは限らない。がん治療領域において、患者の遺伝子型を通じて、ある特定の薬物が特定の遺伝子的特徴を有する患者に有効であるかどうかを理解する試みが行われている。同様に、ES治療の個人化を実現するため、最近遺伝子チップ技術によって遺伝子発現プロファイルを取得して、ESがどのようにして内皮細胞血管新生を抑制することができるかを研究する試みもなされている。M. Mazzanti, et al., Genome Research, 14:1585-1593 (2004)参照。
【0006】
ヌクレオリンは、遍在する非ヒストンタンパク質であり、最初に核小体から分離された。NLの量はGranzyme Aと自己切断能力によって制御され、興味深いことに、それは細胞増殖と相関している。NLも自己切断されて、その切断は細胞の増殖速度の増加に伴って減少する。同時に、それはまた細胞障害性リンパ球によって分泌されるエステラーゼであるGranzyme Aによって切断される。(Chen et al., J. Biol. Chem., 1991, 266, 7754-7758; Fang and Yeh, Exp. Cell. Res., 1993, 208, 48-53; Pasternack et al., J. Biol. Chem., 1991, 266, 14703-14708)。それらの切断およびそれに伴う分解はNLの翻訳後制御を構成する。
多機能タンパク質として、NLは細胞増殖に対して決定的かつ基本的な効果を有する。それは核小体クロマチンの配列、pre-RNAのパッケージング、rDNA の転写およびリボース体の組み立てである。NLのこれらの活性は、CK2やcdc2などの特定のプロテインキナーゼによって調節され、後者はまた他の細胞周期タンパク質により厳格に制御される。そして、NLも細胞表面、細胞質と核の間を往復し、細胞表面マーカーとして機能する。多くのウイルスとサイトカインのレセプターとして、リガンドと結合する時に、NLはリガンドの内在化を誘発する。
【0007】
Orrickら(1973)は下記のような報告をした:NLの分子量が約100〜110kDaであり、主に増殖細胞の核の中に存在していた。NLは自己分解されて、ウエスタンブロット法分析において70と50kDaの2本のバンドを示す。NLは、高度にリン酸化およびメチル化され、さらにはADPリボシル化され得る。NLの合成が細胞分裂速度の増加に正相関しているので、腫瘍細胞や速く分裂する細胞の中のNL含有量はより高いレベルである。NLの配列については、Srivastavaらが、Cloning and sequencing of the human nucleolin cDNA.FEBS Lett.250(1), 99−105(1989)に報告している。
【0008】
NL(別名P92またはC23)は活発に増殖する細胞の核小体の中で最も量の多いリンタンパク質である(Srivastava et al., FEBS Lett., 1989, 250, 99-105; Srivastava et al., J. Biol. Chem., 1990, 265, 14922-14931)。NLは主にリボソームの生合成に関与することが報告されている(Ghisolfi et al., Mol. Biol. Rep., 1990, 14, 113-114; Sipos and Olson, Biochem. Biophys. Res. Commun., 1991, 177, 673-678)。NLは自身のリボ核タンパク質共通配列を介して一時的にプレリボソームと結合することによって、リボソームの合成に関与する(Bugler et al., J. Biol. Chem., 1987, 262, 10922-10925; Ghisolfi-Nieto et al., J. Mol. Biol., 1996, 260, 34-53; Sapp et al., Eur. J. Biochem., 1989, 179, 541-548)。NLは全核小体タンパク質の5%を占める(Lapeyre et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 1987, 84, 1472-1476; Sapp et al., Eur. J. Biochem., 1989, 179, 541-548)。NLはまた細胞質分裂、核の形成、細胞の増殖と成長、転写抑制、DNA 複製、シグナル伝達とクロマチン脱凝縮に関与している(総説、Tuteja and Tuteja, Crit. Rev. Biochem. Mol. Biol., 1998, 33, 407-436を参照)。
【0009】
前記NLの多機能性は、いくつかの構造的および機能的な独立ドメインの存在に起因する(Creancier et al., Mol. Biol. Cell., 1993, 4, 1239-1250; Sapp et al., Eur. J. Biochem., 1989, 179, 541-548)。NLの3つのドメインが知られている:N末端ドメイン、中間ドメインおよびC末端ドメインである。N末端ドメインの中にHMGタンパク質の相同配列が含まれ、クロマチンと相互作用することができる(Erard et al., Eur. J. Biochem., 1988, 175, 525-530)。中間ドメインは4つのRNA認識モチーフを含み、特に18Sおよび28SリボソームRNAの短いステムループと結合する(Bugler et al., J. Biol. Chem., 1987, 262, 10922-10925)。C末端ドメインはRNA内塩基の非スタッキングを行うドメインを含む(Ghisolfi et al., Mol. Biol. Rep., 1990, 14, 113-114; Ghisolfi-Nieto et al., J. Mol. Biol., 1996, 260, 34-53)。NLは2つに分かれた(bipartite)核局在シグナルを含み、これはタンパク質のN末端と中間部位にわたる。この配列はNLが核内に局在することを助ける。NLは、他のタンパク質との相互作用によって核内に蓄積する(Schmidt-Zachmann and Nigg, J. Cell Sci., 1993, 105, 799-806)。
【0010】
NLは、そのドメイン構造によりAg-NORタンパク質(核仁組織領域に局在する活性リボソーム遺伝子)と分類され、これは活性リボソーム遺伝子のマーカーとして知られている(Roussel et al., Exp. Cell. Res., 1992, 203, 259-269)。リボソーム遺伝子の転写がAg-NORタンパク質の存在を必要とすることが示されており、そして、Ag-NORタンパク質の発現が腫瘍成長率の予測に使用されている。
NLは、ヒト赤白血病細胞からマトリックス結合領域(MAR)結合タンパク質としても精製された。研究によって、NLが、クロマチンループが核マトリックスに定着する過程に関与することが明らかになった(Dickinson and Kohwi-Shigematsu, Mol. Cell. Biol., 1995, 15, 456-465)。
【0011】
NLは高度にリン酸化されて、カゼインキナーゼII(以下、「CK2」と略す)(Csermely et al., J. Biol. Chem., 1993, 268, 9747-9752; Schneider and Issinger, Biochem. Biophys. Res. Commun., 1988, 156, 1390-1397)、プロテインキナーゼCζ (Zhou et al., J. Biol. Chem., 1997, 272, 31130-31137)およびCdc2(Belenguer et al., Mol. Cell. Biol., 1990, 10, 3607-3618)の基質であることが示された。さらに、NLのリン酸化状態はNLの細胞内局在を制御することが示された。
NLは自己切断するか、あるいは細胞障害性リンパ球によって分泌されるエステラーゼ、Granzyme Aに切断されるが、細胞が増殖期に入ることに伴い自己切断活性は低下する(Chen et al., J. Biol. Chem., 1991, 266, 7754-7758; Fang and Yeh, Exp. Cell. Res., 1993, 208, 48-53; Pasternack et al., J. Biol. Chem., 1991, 266, 14703-14708)。前記切断過程およびそれに伴う分解はNLの翻訳後制御を構成する。
抗NL抗体は、全身性紅斑性狼瘡(SLE)(Minota et al., J. Immunol., 1990, 144, 1263-1269; Minota et al., J. Immunol., 1991, 146, 2249-2252)および強皮症様慢性移植片対宿主病(scleroderma-like chronic graft vs. host disease)(Bell et al., Br. J. Dermatol., 1996, 134, 848-854)を含む全身性結合組織疾患患者の血清で見つかる。したがって、病的状態下でNLの発現を薬理学的に調節するのは適切な治療方法になる可能性がある。
【発明の開示】
【0012】
本発明は、がん対象のESがん療法に対する感受性を測定するキットを提供し、これはNL標識用の標識および使用説明を含む。このキットは対象から採取する試料中のNLを標識し、試料中のNLの量を検出する。好ましくは、対象は哺乳類である。より望ましくは、対象はヒトである。本発明の特定の好ましい態様において、標識されるNLは細胞表面NLである。本発明の他の態様において、前記標識は抗体、好ましくは、ポリクローナル抗体、より望ましくは、モノクローナル抗体を含む。本発明のもう一つの態様において、前記標識は核酸分子あるいはプローブ、好ましくは、DNAプローブである、より好ましくは、RNAプローブを含む。
【0013】
本発明はさらに、対象にESがん療法を実行した場合の成功の見込みを判断する方法を提供する。これは、対象から採取した試料中のNLの発現量を測定することを含み、測定されたNLの発現量に基づいて前記対象がESがん療法に感受性か否かを判断する。
本発明は、血管新生阻害剤をスクリーニングする方法、特にESの作用メカニズムに類似する分子をスクリーニングする方法を提供する。本発明はNLを標的分子として、従来の方法論を用いて、NLに特異的に結合し、かつ、抗血管新生活性を有する分子を探索する。NLがESの特異的細胞表面マーカーであるという事実に基づいて、前記方法を用いて発見される分子はESに類似する作用メカニズムを有する。
【0014】
1つの態様において、本発明はNLに有効かつ特異的な血管新生阻害剤を得る方法を提供する。これは下記工程を含む:適切な結合実験を用いて候補分子のプールから各々のNLに特異的結合する分子を得る工程;抗血管新生分析により血管新生を妨げる有効性を評価する工程;および、前記結果によって、NLに特異的結合する分子の中から血管新生抑制を生じる分子を選ぶ工程。
別の態様において、本発明はインビトロで内皮細胞の増殖または遊走を妨げる能力がある血管新生阻害剤を選ぶ方法を提供する。これは下記工程を含む:薬学的に許容できる方法を用い、NLを標的分子としてNLと特異的に相互作用する分子を見出す工程;前記見出された分子が内皮細胞の増殖または遊走を妨げる有効性を評価する工程;前記内皮細胞増殖または遊走の抑制能力のある分子を集めて、ESの抗血管新生機能の効果と比較する工程。
【0015】
本発明はまた、内皮細胞のESに対する感受性を強化する方法も提供する。前記方法は外因性NL分子を標的内皮細胞に導入し、そしてNLを前記内皮細胞内で野生型に比べて過剰発現させる。好ましくは、これらの標的細胞は、通常では高レベルの内因性NLを発現しない。さらなる方法は、NLを標的細胞に導入し、これらの細胞がESの抗血管新生活性にいっそう影響されやすく、ESに効果的に殺傷されるようにする。本発明は、抗NL抗体を用いて、細胞表面に大量のNLを発現している標的ガン細胞(あるいは内皮細胞)を検出できる。この種のがんはES治療に好適である。
【0016】
さらなる態様において、本発明は、標的細胞の血管新生阻害剤に対する感受性を高める方法を提供する。これは下記工程を含む:外因性のNLを標的細胞に導入する工程、それによって外因性のNLを発現する改変された標的細胞を得る工程、そしてESの改変された標的細胞に対する致死率を測定する工程。
別の態様において、本発明は血管新生阻害剤の標的内皮細胞に対する抗血管新生効果を強化する方法を提供する。これは下記工程を含む:薬学的有効量の外因性のNL分子を前記標的細胞に導入し、NL分子を標的細胞に発現させる工程、そして、前記血管新生阻害剤を改変した標的細胞と一緒にインキュベートし、それによって該標的細胞の増殖を抑制する工程。
【0017】
一つの態様において、本発明は、患者腫瘍成長を制御する血管新生阻害剤の効果を増強する方法を提供する。これは下記工程を含む:実行可能な方法を用いてがん患者の内在性NL分子の発現量を調査する工程;前記患者のNLの発現量に基づいて、血管新生阻害剤の腫瘍成長の制御における有効性を評価する工程。ここで、NLの発現量が多いほど血管新生阻害剤の治療効果が良い。前記血管新生阻害剤は、好ましくはESである。
別の態様において、本発明は、抗血管新生阻害剤治療に感受性の標的細胞を特定する診断用キットを提供する。このキットはNLに特異的な結合分子および薬学的に許容できる担体を含む。好ましくは、前記分子はポリクローナル抗体である。より好ましくは、前記分子はモノクローナル抗体である。
【0018】
さらなる態様において、本発明は、抗血管新生阻害剤治療に感受性の標的がん細胞を特定する方法を提供する。これは下記方法を含む:抗NL抗体を作製する工程、前記抗NL抗体を用いて前記標的がん細胞の検体をスクリーニングする工程、および標的がん細胞と抗NL抗体との間の特定の相互作用によって示される、抗血管新生阻害剤治療に感受性の標的がん細胞を特定する工程。好ましくは、前記抗体はポリクローナル抗体である。より望ましくは、前記抗体はモノクローナル抗体である。
別の態様において、本発明は抗血管新生阻害剤治療に感受性の標的がん細胞を特定する診断用キットを提供する。これは、NLに対する抗体および薬学的に許容できる担体を含む。
【0019】
さらなる態様において、本発明は、抗血管新生阻害剤治療に感受性のがん患者の特定およびスクリーニングのための診断キットを提供する。前記キットはNLと結合し、その存在を示すことができる標識および使用説明書を含む。このキットは、がん患者から採取した検体中のNLの発現量を測定することができる。
さらなる態様において、本発明は、細胞試料中の内皮細胞の増殖および/または遊走を抑制する方法を提供する。これは以下の工程を含む:抗ヌクレオリン抗体を細胞毒性薬と連結させて、抗ヌクレオリン毒性抗体を形成する工程;および前記抗ヌクレオリン毒性抗体を前記細胞試料に適用し、前記内皮細胞の増殖および/または遊走を抑制する工程。好ましくは、前記細胞毒性薬はサイトカインである。より好ましくは、前記細胞毒性薬は腫瘍壊死因子である。一つの好ましい態様において、前記細胞試料はがん患者から得たものである。
【0020】
図面の説明
図1はヒト微小血管内皮細胞(Human Microvascular Endothelial Cell、以下、「HMEC」と略す)が遊走および増殖についてESに感受性の細胞系であることを示す。aは、表示濃度のESの存在下で、HMECを用いて行った細胞遊走アッセイの結果である。PBSを対照とした。bは、表示濃度のESの存在下で、HMECを用いて行った細胞増殖アッセイの結果である。PBSを対照とした。細胞数はMTTアッセイにより評価した。結果は、平均値±SEMで示し、n = 3(a)、およびn = 5(b)であった。
【0021】
図2は、ESが細胞表面NLと結合することを示す。aは、HMECの細胞表面から分離されたES結合タンパク質が、NLとその断片であることが特定されたことを示す。方法の項に記載のとおり、ES結合タンパク質はES-Ni-NTAアフィニティーカラムを用いてHMECの細胞膜から分離した。PBSバッファー中500mMの塩化ナトリウムで溶出した画分をSDS-PAGE分析(左)に供し、またNLに対するモノクローナル抗体を用いてイムノブロット(右)を行った。bは、インビトロでESがNLと特異的に結合することを示す。免疫沈降は組み換えNLおよびESを用いて行った。cは、ヘパリンがES-NL複合体の形成を中断することを示す。組み換えNLおよびESを用いて、免疫沈降をヘパリン(200nM)存在下または非存在下、インビトロで行った。dは、ESが細胞表面のNLを介してHMECと特異的に結合することを示す。HMECと、ESおよび異なる濃度の抗NL抗体とを室温で30分でインキュベーションし、その後PBSバッファーで3回洗浄した。細胞はSDS-PAGE分析を行い、抗ES抗体を用いてイムノブロットした。β-アクチンを対照とした。eは、HMECとES(60μg/ml)とを37℃、5%CO2にて異なる時間インキュベーションした結果である。新鮮な培地で洗浄後、抗NL抗体および抗ES抗体をそれぞれ用い、免疫沈降およびイムノブロットを行った。β-アクチンを対照とした。f〜iは、HMEC細胞表面におけるNLおよびESの共局在を示す。インタクトなHEMCをマウス抗NL抗体およびウサギ抗ES抗体で染色した。その後、レーザー走査型共焦点顕微鏡で間接免疫蛍光を計測した。スケールバーは20μmである。
【0022】
図3は、NLがESのレセプターであることを示す。a:ヒト臍帯血管内皮細胞(Human Umbilical Vascular Endothelial Cell,以下、「HUVEC」と略す)を用いて細胞遊走アッセイを行い、表示濃度の組み換えNLがESの阻害活性を抑制することを確認した。PBSを対照とした。b:組み換えNL自体は細胞遊走に影響を及ぼさない。HUVECの遊走アッセイにおいて、表示濃度のES、NLおよび両者の混合物をそれぞれ加えた。PBSを対照とした。c:HUVECの増殖アッセイにおいて、表示濃度のES、NLおよびNL抗体をそれぞれ加えた。PBSを対照とした。細胞数はMTTアッセイによって評価した。d:NL欠損群とHMEC対照群を用いて細胞接着アッセイを行った。RNAiプラスミドpBS/U6/1356でNLの発現を抑えることによってNL欠損細胞を得た。空のプラスミドpBS/U6でトランスフェクトした細胞を対照とした。結果は、平均値±SEM(n = 4(a、d)、n = 5(b、c))で示した。e:抗NL抗体を用いたイムノブロットによってRNAiプラスミドによるNL発現抑制作用を検証した。プラスミドBS/U6/1356はNLの発現を抑制することができる。これに対し、BS/U6/263にはその作用がない。β-アクチンを対照とした。f:NL欠損群とHMEC対照群を用いて細胞増殖アッセイを行った。RNAiプラスミドpBS/U6/1356でNLの発現を抑えることによってNL欠損細胞を得た。空のプラスミドpBS/U6でトランスフェクトした細胞を対照とした。ESの添加濃度は図に示した。細胞数はMTTアッセイによって評価した。
【0023】
図4は、NLがESのシグナルネットワークを媒介することを示す。a〜f:ESはHMECによって内在化される。HMECは10μg/mlのビオチン化ESの非存在下(a)、あるいは存在下で、0.5時間(b)、1時間(c)、 2時間(d)、3時間(e)および7時間(f)インキュベートした。内在化されたESはTRITC標識したアビジンで染色した。g:細胞を抗NL抗体とともにインキュベートすることによってESの内在化が阻害された。スケールバーは25μmである。h:核内で、ESはカゼインキナーゼ-2(casein kinase-2、以下、「CK2」と略す)によって媒介されるNLリン酸化を抑制した。方法の項に記載されたとおりにリン酸化分析を行った。リン酸化されたNLは、SDS-PAGEおよびオートラジオグラフィーによって評価した。NLのイムノブロットを前記試料の対照とした。i〜k:HMECの細胞表面でNLはインテグリンβ1と共局在した。インタクトなHMECをマウス抗NL抗体およびウサギ抗インテグリンβ1抗体で染色し、レーザー走査型共焦点顕微鏡を用いた間接免疫蛍光法によって評価した。スケールバーは10μmである。
【0024】
図5は、細胞表面NLの分布が細胞増殖に依存することを示す。a〜h:HMECの細胞表面NLの分布を示す。増殖細胞および静止細胞表面のNLは、ウサギ抗NL抗体を用いた間接免疫蛍光法によって評価した。DAPIは視野中の細胞核の位置を示す。スケールバーは20μmである。増殖細胞(g)と静止細胞(h)の細胞周期段階はフローサイトメトリーによって測定した。相対的に静止期にある細胞は24時間の血清飢餓によって得た。i〜l:担癌ヌードマウスの細胞表面NLの分布を示す。方法の項に記載された方法に基づいて免疫組織化学染色を行った。心臓(i)、腎臓(j)、肺(k)および腫瘍(l)の血管を矢印で示す。細胞表面にNLを発現した内皮細胞は茶色に染色された。スケールバーは50μmである。
【0025】
図6は、NLがESのシグナルネットワークを媒介する様子を示す。細胞表面NL、インテグリン(例えばインテグリンα5β1)と他のタンパク質からなる大きな複合体は、ESのシグナルネットワークに関与している。NLはミオシンと結合し、そして、それを介してアクチンフィラメントと結合する。同様に、インテグリンは細胞内アンカータンパク質タリン、α-アクチニン、フィラミンおよびビンキュリンを介して、アクチンフィラメントの線維束と結合する。NLとインテグリンとの間では、直接的な相互作用は観察されない。ESは細胞外基質と競合してこの複合体と結合し、そして細胞接着と遊走の抑制をもたらす。このような結合はインテグリンによって媒介されるシグナル伝達を誘発することもできる。一方、この複合体はESの内在化を媒介することができ、これらの過程ではミオシンは輸送タンパクとして用いられる。その後、ESは細胞質に放出されるかもしれない。そして、NLを抑制しBcl-2のmRNAを安定化することができる。残りのESは核に輸送され、そこでCK2によって媒介されるNLリン酸化および他の下流イベントを抑制する。
【0026】
図7は、in vivoでのESとNLの共局在を示す。ビオチン化されたESと抗NL抗体をB16-F10腫瘍担癌マウスに静脈内注射した。ビオチン化されたESと精製したウサギIgGを静脈内注射し、対照群とした。心臓(a〜c)、肝臓(d〜f)、腎臓(g〜i)、腫瘍(j〜l)および対照群の腫瘍(m〜o)において、ビオチン化ESおよび抗NL抗体の分布を、TRITC結合アビジンおよびFITC結合2次抗体により評価した。スケールバーは50μmである。
図8は、SPR(表面プラズモン共鳴)法によって得たESとNLとの結合動力学曲線を示す。結果として、ESとNLの親和係数はKD=2.32×10-8Mである。
【0027】
図9は、標的内皮細胞上のNLの量が多いほど、ESの抗血管新生活性が高まることを示す。a:抗NL抗体を用いたイムノブロットによってRNAiプラスミドによるNL発現抑制作用を検証した。BS/U6/1356はNLの発現を抑制することができる。これに対し、BS/U6/263およびBS/U6/1356Cにはその作用がない。アクチンを対照とした。b:NL欠損HMEC群および対照HMEC群を用いて細胞増殖アッセイを行った。RNAiプラスミドBS/U6/1356でNLの発現を抑えることによってNL欠損細胞を得た。プラスミドBS/U6/1356をトランスフェクトした細胞を対照とした。ESの添加濃度は10μg/mlである。細胞数はMTTアッセイによって分析した。
【0028】
発明の詳細な説明
本発明は1つの驚くべき知見に基づくものである。すなわち、NLはESのレセプターとして後者の生物学的活性を媒介し、同時に、NLの発現量に基づき、細胞レベルでESの有効性を予測することが可能である。
現在、ESを用いるがん治療の領域で、客観的な基準を用いてES治療に適する患者を選択することができるならば、それは顕著な進歩である。本発明は、かかる試みを対象とする方法および診断用キットを提供する。
ESが機能するメカニズムを解明するために、本発明者らは固定化されたESを用いてHMEC膜からESと結合できるタンパク質を分離した。NLはこれらのタンパク質うちの興味深いものの1つである。今回、同タンパク質がESのシグナルネットワーク中の1つの重要な構成要素であることが証明された。NLはESのレセプターとしてその血管新生抑制における活性を媒介することが見出された。
【0029】
部分的に前記新規知見、すなわち、NLがESの特異性レセプターであり、ESの血管新生抑制機能を補助することに基づき、本発明は下記のものを提供する:(i)がん対象のESがん療法に対する感受性を決定するためのキット、(ii)対象におけるESがん療法の成功可能性を決定するための方法、(iii)NLに特異的な有効な血管新生阻害剤を得る方法、(iv)インビトロで内皮細胞の増殖および/または遊走を抑制する血管新生阻害剤をスクリーニングする方法、(v)標的細胞の血管新生阻害剤に対する感受性を高める方法、(vi)血管新生阻害剤の標的内皮細胞に対する抗血管新生効果を強化する方法、(vii)抗血管新生阻害剤治療に感受性の標的がん細胞を決定するための診断用キット、(viii)血管新生阻害剤治療に感受性のがん対象を決定および選択するための診断用キット、(ix)血管新生阻害剤の患者における腫瘍増殖制御効果を増強する方法、および(x)血管新生阻害剤治療に感受性の標的がん細胞を同定する方法。
【0030】
本明細書において使用される用語「エンドスタチン」とは、非還元あるいは還元電気泳動で18kDa〜20kDaの分子量を示すタンパク質を意味する。「エンドスタチン」はまた、この18kDa〜20kDaのタンパク質の前駆形態、断片形態、および修飾されたタンパク質およびペプチドであって、類似したアミノ酸配列を有し、かつ、内皮細胞増殖抑制作用を有するものをも含む。例えば、当該技術分野でよく知られたアミノ酸のサイレント置換は、構造的にまたは化学的に類似したアミノ酸で元のアミノ酸を置換することである。ただし、このような置換は元のアミノ酸の構造、形態と活性にほとんど変えない。このサイレント置換体は添付の特許請求の範囲にも含まれる。
【0031】
用語「エンドスタチン」は、元のタンパク質の両端または内部のドメインから1つまたは複数のアミノ酸が取り除かれて短くなったタンパク質またはペプチドも包含する。ただし、前記タンパク質またはペプチドは内皮細胞増殖抑制活性を保持する。「エンドスタチン」は、元のタンパク質の両端または内部のドメインに1つまたは複数のアミノ酸が付加されて延長されたタンパク質またはペプチドも包含する。ただし、前記タンパク質またはペプチドは内皮細胞増殖抑制活性を保持する。これらの分子は標識実験に用いられる。例えば第1位にチロシンを加え125Iで標識する。他の放射性同位元素による標識化は、ESレセプターを有する標的細胞を殺傷するための分子ツールを提供する。
【0032】
同様に、本明細書において使用される用語「ヌクレオリン」は、還元ゲル電気泳動で大きさにおいて好ましくは100kDa(翻訳後修飾のない正確な分子量は80kDa)のタンパク質である。用語「ヌクレオリン」は、前記100kDaのタンパク質の前駆形態、断片形態、および修飾されたタンパク質およびペプチドであって、類似したアミノ酸配列を有し、かつ、内皮細胞増殖抑制作用を有するものを含む。例えば、当該技術分野でよく知られたアミノ酸のサイレント置換は、構造的にまたは化学的に類似したアミノ酸により元のアミノ酸を置換することである。ただし、このような置換は元のアミノ酸の構造、形態および活性をほとんど変えない。これらの分子は標識実験に用いられる。例えば第1位にチロシンを加えて125Iで標識する。このサイレント置換体は、添付の特許請求の範囲に含まれる。
【0033】
用語「NL特異的」とは、NLが血管新生阻害剤と結合して、その阻害剤の抑制活性を媒介する能力を意味する。
用語「血管新生依存性」は、増殖または遊走に血管新生を必要とする腫瘍を意味する。したがって、体積または質量(または両方)の増加に血液を供給する血管の数量および密度の増加を必要とする腫瘍を包含する。
本明細書において使用される用語「対象」は、すべての動物、例えば哺乳類、ヒト、ヒト以外の霊長類、齧歯動物、ブタ、ウサギなどを含むがこれに限らない。前記対象は特定の治療、あるいは、特定の処置を受ける。例えばある分子の存在レベルの検査の対象となる。
【0034】
本明細書において使用される用語「試料」は、最も広義に使われ、生物試料および環境試料を含むがこれに限らない。ある意味では、それは生物あるいは環境から得られる試料または培養物である。生物試料は動物(ヒトを含む)から得られ、流体、固体、組織およびガスを包含する。生物試料は血液産物、例えば血漿、血清などを包含する。環境試料は環境物質、例えば表面物質、土、水、鉱物、結晶あるいは産業試料を包含する。上記で述べた試料は、本発明が包含する試料の種類を制限するものではない。
【0035】
本明細書において使用される用語「標識」は、化学分子あるいは生物分子を包含する。標識は、標的分子との相互作用によって標的分子の存在および数量を表示する。そのような標識分子は核酸プローブ、例えばDNAプローブまたはRNAプローブ、抗体、放射性同位元素、蛍光色素などを含むがこれに限らない。
本明細書において使用される用語「使用説明」とは、キットの使用説明を包含する。これは、試料中の標的分子、例えばNLの検査の指導に用いられる。
本発明において使用されるように、特異的NL関連血管新生阻害剤をスクリーニングするための適切な結合実験方法は、HPLC、免疫沈降、蛍光結合実験、キャピラリー電気泳動などを包含する。
【0036】
本発明において使用される用語「抗血管新生アッセイ」は、複数の候補分子をスクリーニングすることによって、血管新生抑制におけるその有効性を見出す実験を意味する。ある分子が抗血管新生作用を有することを見出すために、種々の方法が適用される。例えば、種々の由来のタンパク質やペプチド、例えば、天然由来のもの、あるいは人工的に(手動または自動で)合成したものを、ウシ毛細血管内皮細胞増殖試験などの生物活性測定方法により、迅速かつ容易にその内皮細胞増殖抑制活性を検査することができる。他のバイオアッセイは、ニワトリ胚漿尿膜アッセイ、マウス角膜アッセイ、および単離または合成されたタンパク質の移植腫瘍に対する抑制作用の評価を包含する。ニワトリ胚漿尿膜アッセイは、最初にO'Reillyらによって"Angiogenic Regulation of Metastatic Growth", Cell, vol. 79 (2), Oct. 21, 1994, pp. 315-328に記載され、同論文の全体を本明細書に参照により組み込む。さらなる血管新生阻害剤をスクリーニングするための抗血管新生試験は、Yu, et al., PNAS, Vol. 101, No. 21, pp 8005-8010 (2004)に記載されており、その全文を参照により本明細書に組み込む。
【0037】
本明細書において用いる「増殖および/または遊走」に用いられる用語「および/または」は、2つの状況を指す:1)内皮細胞の増殖と遊走とが、両方とも制御される;2)内皮細胞の増殖と遊走のいずれか一方しか制御されない。
本明細書において使用される用語「連結」は、従来の、よく知られた生物学的または化学的技術、例えば架橋などを用いて、抗体をサイトカイン分子などの細胞毒性薬に接続することを指す。
NL分子は、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体の生産に用いることができる。前記抗体は、定性的さらに定量的に、特定の標的細胞中のNLの検査に用いることができる。適切な標識、例えば放射性同位元素または蛍光色素で標識されたNLは、体液や組織中のESの検査に用いることができる。この方法は、がんなどの血管新生関連疾患の診断または予後判定に用いることができる。本発明は、その他の方法も包含している。すなわち、本発明は、ESの血管新生依存型腫瘍に対する効果を増強することによって、関節炎と腫瘍などを含むがこれらに限定されない血管新生関連疾患または過程を治療あるいは予防する方法を含む。
本発明のある態様において、フローサイトメトリーやELISA技術などの方法をNLペプチドの定量に用いる。
【0038】
NLに関連する核酸分子の検出は、DNAプローブハイブリダイゼーション、PCRなどの標準的な分子生物学的技術を利用して実行される。ここに記載される各種のPCRおよびクローニング手順は、「分子クローニング実験マニュアル」(Sambrook et al., eds. Cold Spring Harbor Lab Publ. 1989, latest edition)を参照できる。NLのRNA分子の検出は、ノーザンブロット解析を利用して実行できる。ノーザンブロット解析はRNAの分離および相補的プローブのハイブリダイゼーションを包含する。ある態様において、RNA(または対応するcDNA)は、オリゴヌクレオチドプローブハイブリダイゼーションによって検出することができる。種々の異なるハイブリダイゼーションおよび測定技術を用いた試験が利用できる。例えば、ある態様において、TaqManアッセイ(PE Biosystems, Foster City, Calif.、例えば、米国特許第5,962,233号および第5,538,848号を参照。これらすべてを参照により本明細書に組み込む)が利用される。このアッセイは、PCRの最中に実行される。TaqManアッセイはAMPLITAQ GOLD DNAポリメラーゼの5'-3'エキソヌクレアーゼ活性を利用する。5'-レポーター色素(例えば蛍光色素)と3'-消光色素を有するオリゴヌクレオチドプローブをPCR反応系に導入し、PCRの最中に、プローブが標的配列に結合すれば、AMPLITAQ GOLDポリメラーゼがその5'-3'エキソヌクレアーゼ活性を発揮し、レポーター色素と消光色素の間の配列を切断する。レポーター色素と消光色素の分離は蛍光シグナルを強化させる。蛍光シグナルはPCRの各サイクルで蓄積し、蛍光計でモニターされる。
【0039】
他の態様において、逆転写PCR(RT-PCR)をRNA発現の検出に用いる。RT-PCRにおいて、RNAは逆転写酵素によって相補的DNAまたは「cDNA」に転化される。このcDNAがPCRのテンプレートとして使われる。PCR産物は、任意の適切な方法によって検出する。これは、ゲル電気泳動およびDNA特異的染色または標識プローブのハイブリダイゼーションなどの方法を含むがこれに限らない。ある態様において、定量PCRも用いられる。この方法は、競合テンプレートの標準化混合物を導入するものであり、米国特許第5,639,606号、第5,643,765号および第5,876,978号に記載されている(すべて参照によって本明細書に組み込む)。
【0040】
NLタンパク質分子の検出は、当該技術分野で知られている技術を使用して実行される。これには、例えばラジオイムノアッセイ、ELISA、「サンドイッチ」免疫測定法、免疫放射線測定法、ゲル拡散沈降反応、免疫拡散測定法、in situ免疫測定法(例えば、コロイド状金、酵素または放射性同位体標識を利用する)、ウエスタンブロット、沈降反応、凝集測定法(例えばゲル凝集測定法、血球凝集測定法など)、補体固定測定法、免疫蛍光測定法、プロテインA測定法および免疫電気泳動測定法などが含まれる。
例えば、結合している抗体は、1次抗体の標識を検出することによって検出される。別の態様では、1次抗体と結合できる2次抗体または他の試薬を検出することによって間接的に1次抗体を検出する。さらなる態様においては、2次抗体自身が標識される。当該技術分野において、免疫測定において結合を検定する方法は多く知られていて、それらの方法は本発明の範囲内である。
【0041】
特定のケースでは、自動化したアッセイ手段が利用される。それらの自動化方法は米国特許第5,885,530号、第4,981,785号、第6,159,750号および 第5,358,691号に記載されている(すべて参照によって本明細書に組み込む)。ある態様においては、結果の分析と提示も自動化される。例えば、ある態様において、がんの標識と対応するタンパク質の有無に基づいて疾患の可能な予後を予測するソフトウェアが利用される。
【0042】
受動的抗体治療は、NL特異抗体を介して、内皮細胞依存性のプロセス、例えば繁殖、発育、創傷治癒および組織修復などを調節する。その他、抗NL抗体は、ES治療に対する理想的な標的になる、内因性NL分子を多く含む細胞のスクリーニングに用いることができる。
NLまたはNLアナログに対する特異抗体は、当該技術分野で周知の技術に従って生産される。抗体はポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体であってもよい。前記抗体は周知の免疫測定フォーマットに使用される。例えば競合的、非競合的免疫測定(ELISA、サンドイッチ免疫測定およびラジオイムノアッセイなどを含む)によって体液中の本発明の内皮細胞増殖抑制因子の有無を判定する。体液試料は血液、血清、腹水、胸腔液、脳脊髄液、尿、唾液および他の組織粘液を含むがこれに限らない。
【0043】
本発明は、NLの検定に使われる診断用キットにおける単離された抗体を提供する。好ましい態様において、本発明は特異的にNLと結合するモノクローナル抗体を提供する。
NLを認識することができる限り、本発明中の抗NL抗体は、いかなるモノクローナル抗体またはポリクローナル抗体であってもよい。抗体は、NLまたはそのアナログを抗原として、従来の手法によって生産される。
【0044】
本発明は、モノクローナル抗体およびポリクローナル抗体の両方の使用を企図する。任意の適切な方法を本発明に用いる抗体の産生に使用でき、これは下記の方法を含むがこれに限らない。例えば、モノクローナル抗体を産生するために、標的タンパク質自体、または、これを適切な担体あるいは希釈剤と一緒に、抗体の産生を許す状況の下に動物(例えば哺乳動物)の体内に注射する。動物の抗体産生能力を強化するために、完全または不完全フロイントアジュバントを使用してもよい。通常、標的タンパク質はおよそ2週〜6週おきに1回、合計でおよそ2〜10回注射される。本方法に適切な動物は霊長類、ウサギ、イヌ、ブタ、マウス、ラット、ヒツジ、ヤギなどを含むがこれに限らない。
【0045】
モノクローナル抗体を産生する細胞を準備するために、抗体価が確かめられた動物(例えばマウス)を選択し、最終的な免疫の2日〜5日後に、その脾臓またはリンパ節を採取する。そして、その中の抗体を産生する細胞を骨髄腫細胞と融合させ、抗体を産生するハイブリドーマを得る。抗血清の抗体価の測定は、例えば、抗血清を標識された標的タンパク質と反応させてから、抗体と結合する標識試薬の活性を測ることなどによって行う。細胞融合は既知の方法、例えば、KoehlerおよびMilsteinによって記載される方法(Nature 256:495 [1975])によって実行される。例えば、センダイウイルス(HVJ)、または、好ましくは、ポリエチレングリコール(PEG)が融合プロモーターとして用いられる。
【0046】
ポリクローナル抗体は、患者から抗体を得ることを含む任意の既知の方法または改変された方法によって生産される。例えば、担体タンパク質と免疫原との複合体を生産して、動物に接種する。この手法は上記のモノクローナル抗体の産生方法の対応する部分と同じである。接種を受けた動物体内から抗体を含む材料を取得し、抗体をその中から分離し、精製する。
【0047】
本発明は、ケモカイン、腫瘍壊死因子αなどの細胞毒性薬と連結された抗NL抗体を含む組合せ抗体を作製することによって内皮細胞の増殖および/または遊走を抑制する方法を提供する。そのような組合せ抗体は、内皮細胞を含む細胞試料に投与すると、前記抗NL抗体が前記細胞毒性薬を前記内皮細胞に送達し、そして、腫瘍壊死因子α等の前記細胞毒性薬が前記内皮細胞に作用し、さらに細胞増殖を阻止する。
【0048】
抗体を細胞毒性薬などの他の物質に結合することによって組合せ抗体(すなわちイムノトキシン)を形成する方法は、当該技術分野で周知の技術である。前記イムノトキシン分野の2つの主な進歩は、組み換えDNA技術を用いたより優れた臨床特性を有する組み換え毒素の産生、および抗体、増殖因子またはサイトカインの領域の組合せをコードするDNA要素を毒素遺伝子と融合させることによる単鎖イムノトキシンの産生である。
第一世代のイムノトキシンは、ヘテロ二官能性架橋剤を使用して、イムノトキシンをMAbまたは抗体断片に結合させることによって構築された。また、遺伝子工学を使用して細菌毒素の細胞結合ドメインを抗体のFv部分、または、増殖因子に入れ替えることも見出された。
【0049】
当該技術分野で周知の技術であるように、サイトカインは免疫系細胞の間の、そして、されにはこれらの細胞と他の組織タイプに属する細胞との間のコミュニケーションの中心となる小分子である。サイトカインは免疫細胞および他の細胞種によって活発に分泌される。免疫細胞によって生産されるサイトカインは、リンホカインとして知られるサブセットを構成する。その作用は、通常は局所的であるが、時々全身に影響を及ぼし得る。
リンパ球および免疫反応に刺激作用および抑制作用を有する多くの既知のサイトカインがある。比較的よく知られたサイトカインのいくつかの例は以下を包含する:ヒスタミン、プロスタグランジン、TNF-α、IL-1およびIL-6。サイトカインには3つの種類が存在する。
【0050】
本発明の別の側面では、抗NL抗体を用いて、表面に大量のNLを発現する腫瘍細胞または内皮細胞をスクリーニングする。このような患者群を見つけることは、効果的な血管新生関連のガン療法の実施に極めて有益である。それは、細胞表面に高レベルのNLの発現を有する患者は、ES抗腫瘍治療に対する理想的な対象となるからである。
腫瘍細胞のESへの感受性をさらに高めるために、本発明は以下の方法を提供する:外因性NL遺伝子を標的細胞に導入し、これにより正常レベル以上の細胞表面NLを発現させる。これらの改変された標的細胞は、NLのレベルの上昇によって、ESに対する攻撃にさらに感受性となる。
【0051】
本発明は、がんの診断に用いる、NLの検出および評価のためのキットを提供する。ある態様において、前記キットは測定に用いる試薬およびバッファーに加えて、NLに対する特異抗体も含む。他の態様において、前記キットはNL mRNAまたはcDNAの特異的検出に用いる試薬(例えばオリゴヌクレオチドプローブまたはベクター)を含む。好ましい態様において、前記キットは測定分析に用いるすべての構成要素、例えば、対照、測定を実行するためのインストラクション、および結果の分析や提示に必要なソフトウェア等を含む。
【0052】
本発明はまた、下記のキットを包含する:このキットはNLの測定のための標識、例えばNLに対する抗体を含む。抗体溶液を調製し、血漿、尿、組織および細胞培養培地からNLとそのペプチドの存在を検出する。同キットはさらに、迅速で、信頼性が高く、高感度で、かつ特異的にESを測定し、その局在を評価する。これらのキットは以下の技術を含むが、これに限らない:競合的、非競合的測定法、ラジオイムノアッセイ、生物および化学発光測定法、蛍光測定法、ドットブロット、酵素結合免疫吸着測定法、例えばELISA、マイクロタイタープレート、尿または血液の迅速なモニタリングのための抗体コート試験片(ストリップ、ディップスティック)、免疫細胞化学など。各々のキットの分析範囲、感度、精度、信頼性、特異性および再現性は、当該技術分野の技術者に一般に知られているプラクティスによって確立される。
【0053】
同様に、本発明の診断用キットは、組織内および細胞内のESの局在の調査にも用いられる。このNL免疫組織化学キットは、使用説明およびNL分子を含む。前記NL分子は、好ましくは、フルオレセインイソチオシアネートなどの蛍光分子または他の試薬により標識あるいは連結されて、1次抗血清を視覚化する。免疫組織化学は当該技術分野の技術者に周知の技術である。前記キットは、光学および電子顕微鏡検査によって、組織内または細胞内のESの局在を評価する。これは、研究と臨床の両方に応用される。例えば、生検により得た腫瘍切片を検査することによって、ES産生部位を確定する。かかる情報は、腫瘍に関する臨床での診断や治療に役立つ。
【0054】
本発明は下記の実施例でさらに解説される。本発明の範囲はこれらの実施例に限らない。それどころか、本発明は、異なる実施態様、変更形態および多くの均等な形態で実現され得ることを理解すべきである。下記の記載を閲読することによって、当該技術分野の技術者は、本発明の精神および/または添付の特許請求の範囲から逸脱しない、さらなる多くの実施態様が理解できる。
【実施例】
【0055】
実施例1 NLはES結合タンパク質である
ESのメカニズムを研究するために、固定されたESを用いて、直接ヒト微小血管内皮細胞(HMEC)からES結合タンパク質を分離した。NLはESのシグナル伝達ネットワークの重要な構成要素として同定され、また同ネットワークにおいて最も興味深い構成要素である。本実施例ではNLがESの新しいレセプターとして機能し、ESの抗血管新生活性を調節することを示す。
方法
NLとESとの相互作用の研究には、一般的に知られた方法を用いた。これらの方法の詳細な説明は、以下のとおりである。特に別記しない限り、以下の材料を用いた:内皮細胞(HMECまたはHUVEC)(ATCCのカタログ番号は、それぞれCRL 10636またはCRL-1730である)、ES(Protgenから購入)、NL(ピキア酵母(Pichia)により発現(Invitrogen))、抗NLモノクローナル抗体(Santa Cruzから購入)。
【0056】
細胞遊走アッセイ
内皮細胞(HMECまたはHUVEC、1ウェルにつき2×104細胞)は、0.5%のウシ胎児血清(HyClone)と10ng/mlのVEGF(PeproTech EC)とを含むDMEM(Hyclone)培地とともに、Transwell(TM)フィルタ(孔径8μm、Costar)の上室に播種した。同時に、上室と下室に所定濃度のES(Protgenから購入)と他の試薬(NLおよび抗NL抗体))とを加えた。内皮細胞は、37℃、5%CO2、6時間のインキュベーションで細胞遊走させた。エタノールで固定し、エオジンで染色した後、1ウェルあたり5つのランダムな高倍率(×400倍)視野で、フィルタを通過して完全に下室に移動した細胞数を数え、平均値を計算した。各群につき3ウェルを観察した。
【0057】
細胞増殖アッセイ
内皮細胞、例えばHMECまたはHUVEC(1ウェルにつき1×10細胞)を、0.5%ウシ胎児血清と10ng/ml bFGF(PeproTech EC)とを含むDMEM培地とともに、96穴プレートに播種した。実験開始時に、異なる濃度のESと他の試薬とを1ウェルあたり最終体積200μlまで加えた。内皮細胞は、37℃、5%CO2、48時間のインキュベーションで増殖させた。その後、元の培地は、フェノールレッドを含まないが、0.5mg/mlのMTT(Sigma)を含む100μlのDMEM培地と交換した。続いて37℃、5%CO2、4時間のインキュベーションの後、細胞を0.05Mの塩酸を含むイソプロパノールで溶解し、そして、570nmでの吸光度を測定した。
【0058】
MALDI-TOF質量分析による単離タンパク質の同定
ES結合Ni-NTAアフィニティーカラムから得られた画分を回収し、これを12% SDS-PAGE電気泳動分析に供した。主なバンドをシーケンスグレードの修飾ブタトリプシン(プロメガ)で消化した後、得られたペプチドをMALDI-TOF質量分析によって分析した。使用した機器はBruker Biflex線形飛行時間型質量分析器(Bruker Franzen)であり、これは、マルチプローブSCOUT源、超窒素レーザー(337nm)およびデュアルマイクロチャンネルプレート検出器を備えている。MALDI-TOF質量分析データは、Swiss-Protタンパク質データベースに照会し、タンパク質を同定した。
【0059】
間接免疫蛍光法
HMECをES(20μg/ml)とともに37℃、5%CO2にて1時間インキュベートした。細胞を、透過化処理なしで抗体染色を行い、それぞれ、FITC結合ヤギ抗マウスIgG(Santa Cruz)およびTRITC結合ヤギ抗ウサギIgG(Santa Cruz)を2次抗体として添加した。Olympus Fluoviewレーザー共焦点画像処理システム(オリンパス)の上で観察し画像化した。画像は、Fluoview 2.0ソフトウェア(オリンパス)によって制御される複数の光電子増倍管を用いて取得した。
【0060】
組み換えNLの調製
NLのcDNAは、RNAの分離と逆転写システム(プロメガ)によってHMECから得た。NLの配列はポリヒスチジン(His)6と融合し、ピキア酵母発現ベクターpPIC9K(インビトロジェン)にクローニングした。このプラスミドを制限酵素SalI(プロメガ)で線形化し、ピキア酵母株GS115(インビトロジェン)を電気形質転換した。G418(インビトロジェン)を用いて選択した形質転換体は、Invitrogen社の指示に記載された方法に従って、BMMY培地中、30℃で3日間、フラスコで振盪培養した。その後、NLをNi-NTAニッケルイオンアフィニティーカラム(Qiagen)で、培地上清から精製した。
【0061】
NLポリクローナル抗体の産生
前記pPIC9K-GS115ピキア発現系で調製した50μgの組み換えNLを、ニュージーランドホワイトウサギに接種した。初回免疫はフロイント完全アジュバント(Sangon)とともに皮下注射した。14日後、50μgの組み換えNLをフロイント不完全アジュバント(Sangon)とともにブースターとして筋肉内注射した。その後、第4、10、22週に、50μgの組み換えNLを、アジュバントなしで、ブースターとして皮下注射した。最後のブースターの1週間後に血清を得、抗体をプロテインAカラム(Amersham Biosciences)によって精製した。すなわち、グリシン−塩酸バッファー(0.15M、pH 2.5)で溶出し、これをすぐに0.15MトリスでpHを6.8-7.2に中和した。合わせた画分は孔径0.2μmのフィルター(Millipore)で濾過滅菌し、分注して-80℃で保存した。
【0062】
細胞接着アッセイ
被験細胞は、30分間の血清飢餓の後、ES(20μg/ml)とポリリシン(Sigma)(50μg/ml)とで被覆した96穴プレートに播種した。37℃、5%CO2、1時間のインキュベーション後、非接着細胞を、新鮮な培地で穏やかに洗浄することによって除去した。残った細胞は、室温で25分間、クリスタルバイオレット(0.1%を精製水に溶解)で染色した。プレートを流水で洗浄し、残ったクリスタルバイオレットを0.5% Triton X-100(Sangon)で溶解して、570nmでの吸光度を測定した。
【0063】
多くの血管新生阻害剤の標的として、内皮細胞がインビトロでの血管新生抑制作用のモデルとして使われる。残念ながら、おそらくアッセイが確立されていないこと、および、細胞系がそれほど安定ではないことにより、結果は通常変動しやすく、再現性も低い。したがって、本実施例においては、HMECを抗血管新生アッセイの良好なモデルとして選択した。細胞遊走アッセイでは、ESは濃度依存的にVEGFによって誘導されるHMECの遊走を抑制し、その50%抑制濃度(IC50)は4μg/ml(図1a)であり、さらに、ESは4ng/mlもの低濃度でさえHMECの遊走を15%抑制した。同様の結果(図1b)はbFGFで誘導したHMECの増殖アッセイにおいても得られた。細胞遊走アッセイおよび増殖アッセイの結果は、HMECがESに対して極めて高感受性な細胞系であることを証明するものであり、これを利用して再現性のよい安定した結果を得ることができる。
【0064】
HMECがESに感受性であるという事実は、この細胞上にESの潜在的レセプターが存在し得ることを意味する。さらなる実験では、ESは生理状況下でHMECと結合できることが明らかとなった(図2d)。したがって、HMECからESレセプターを分離することから始めた。組み換えESを、そのN末端のHis-tagを介してNi-NTAビーズに予め負荷し、ESアフィニティーカラムを調製した。Marshakらによって報告されたとおり、HMECの細胞膜粗画分は、1% Triton X-100処理でタンパク質を放出する。調製した細胞膜タンパク質を前記で調製したESアフィニティーカラムに通し、ES非結合タンパク質をPBSバッファーで除去した。ES結合タンパク質はES-Ni-NTAビーズに付着した。各画分を回収して、還元SDS-PAGE分析を行った。対照実験は平行して行ったが、唯一の違いは、ESが結合していないNi-NTAカラムを使用したことである。分子量110kDaおよび80kDaの2つのタンパク質が特異的にESアフィニティーカラムに結合することが示された(図2a)。そして、MALDI-TOFによるペプチドマスフィンガープリントによって、これらが、NL(110kDa)とその分解断片(80kDa)であることが同定された。
【0065】
この結果は、NLに対するモノクローナル抗体でのイムノブロットによってさらに確認された。ESとNLの相互作用を確かめるために、以下の研究を行った:インビトロでの免疫沈降の結果は、ESと組み換えNLの相互作用が特異的であることを示し(図2b)、そして、両者の間に複合体が形成された。この複合体は200mMのヘパリンによって解体することができる(図2c)。ウサギ抗NLポリクローナル抗体(Ausubel et al., 1995に従って調製)がその結合を妨げることができることから、ESはNLを介してHMECと結合することもできる(図2d)。この結論は、ESとプレインキュベーションしたHMECを用いて得られた免疫沈降の結果よってさらに確認された(図2e)。これらの結果は、ESと全ての内因性NL(細胞表面、細胞質および細胞核)が、生細胞内で複合体を形成することを示す。さらに、レーザー走査型共焦点免疫蛍光顕微鏡検査によって、ESとNLとがHMECの細胞表面上に共存することが観察された(図2f〜i)。これらを合わせて考えると、ESはインビトロあるいはインビボのいずれにおいてもNLと特異的に結合することから、NLはESの可能なレセプターであるといえる。
【0066】
実施例2 NLはESの新しいレセプターである
NLがESのレセプターであるならば、NLはESの抗血管新生活性、例えば内皮細胞の遊走、増殖および接着の抑制を媒介しなければならない。ESの活性を媒介する過程におけるNLの役割を特徴づけるために、ES、組み換えNLおよびNLに対するポリクローナル抗体をそれぞれ用いて、競合的細胞遊走および増殖アッセイを行った。NLはHMECから分離されたESのレセプターであるため、NLが他の広く認められた内皮細胞で類似した役割を演ずるかどうかを示されなければならない。したがって、直接臍帯静脈から単離されるHUVECを用いて競合的細胞遊走および増殖アッセイを行った。この種の内皮細胞はVEGFの誘導下に孔径8μmの膜を通過して遊走することができ、そして、ESはかかる遊走を抑制する。組み換えNLは濃度依存的にESの抑制作用を打ち消したが(図3a)、これは、組み換えNLがESの抗血管新生活性に関与していることを示すものである。図3bに示すように、組み換えNL自体は細胞遊走に影響を及ぼさないため、NL自体が内皮細胞の遊走を誘発する可能性は除外された。HUVEC細胞増殖アッセイからも同様の結果が得られた(図3c)。NLに対するポリクローナル抗体は、予想通りにESの細胞増殖に関する抑制作用を阻害した(図3c)。以上の研究結果は、NLがESの抗血管新生機能のレセプターであることを強く示唆するものである。
【0067】
NLがESのレセプターであることをさらに確認するために、RNA干渉(RNAi)(Sui, G. et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 99, 2002, p5515-5520)によってNLの発現を抑制し、かかる変化を、ESの抗血管新生についての別の重要な活性、すなわち細胞接着について評価した。結果として、NLの発現が完全に抑えられなくとも(図3e)、NLの発現をDNAベクターに基づくRNA干渉によって抑制した場合、固定化されたESおよびポリリシン(Sigma)(人工合成された細胞外基質)に対するHMECの接着力がかなり減少したことが示された(図3d)。Rehnらは、固定化したESに対する内皮細胞の接着力が、ESの活性、例えば接着斑の形成とFAKのリン酸化に重要であると報告した。そして、この接着力の喪失は内皮細胞に対するESの機能の喪失を意味する。これらの研究は、NLがESの活性および細胞外基質(ECM)への内皮細胞の接着に不可欠であることを示している。さらに、NLの発現をDNAベクターに基づくRNA干渉によって抑えた後、HMECをESの抗血管新生についての別の重要な活性、すなわち細胞増殖の影響について評価した。HMEC細胞膜におけるNLの発現を抑制したHMEC細胞の増殖はESによって抑制されなかったが、これに対し、NLの発現を抑制しなかったHMEC細胞の増殖はESによって抑制された(図3f)。これらを合わせ考えると、NLがESの新規なレセプターであり、ESのシグナル伝達経路に重要な役割を有しているといえる。
【0068】
実施例3 NLはESのシグナル経路を媒介する
ESのシグナル伝達経路におけるNLの正確な役割を示すために、その下流イベントも調査した。ESをHMECとともにインキュベートした場合、ES-NL複合体の量は時間依存的に変動し、2時間前後で最大値に達した(図2e)。ESは、細胞表面NLを介して例えばHMECにより内在化され、その後、一部の内在化されたESは細胞によって分解される。ESの内在化と分解との間にバランスが存在しているようであることが示された(図2e)。
【0069】
ESの内在化が細胞表面NLを介したものであることを確認するために、ビオチン(Pierce)でESを標識して免疫蛍光局在アッセイを行った。HMECをビオチン化したESと異なる時間インキュベートした後、ビオチン化したESをTRITC標識した抗ビオチンタンパク質(Pierce)で染色し、ESの内在化のプロセスを蛍光顕微鏡下で観察した(図4a〜f)。30分のインキュベーションで、内在化されたESの大部分は細胞質に分布し、量も少なかった(図4b)。1時間のインキュベーションでは、内在化されたESは増加し、核に蓄積し始めた(図4c)。2時間程度のインキュベーションで、内在化されたESの量は最大値に達した(図4d)。3時間では、核に蓄積したESが消失し始めた(図4e)。7時間では、ESは核内でほとんど見つからなかった(図4f)。免疫沈降の結果(図2e)に比べ、蛍光実験においては、内在化されたESの量が最大値に到達するまでタイムラグがあるが、これはおそらく、ビオチン化したESの分解速度が遅いためと考えられる。重要なことは、HMECをNLに対するポリクローナル抗体とプレインキュベートすると、内在化されるビオチン化ESの量が明らかに減少したことであり、これはESが細胞表面NLを介して内在化されることを示すものである(図4d、g)。さらに、蛍光顕微鏡で細胞内にいくつかの小さい点が観察されたが(図4b〜e)、これはESが小胞に内在化されることを示唆するものと考えられる。この知見は、WickstromとChristianらによる先行論文と一致している。
【0070】
NLがどのようにESの内在化を媒介するかについて説明するために、架橋実験と免疫沈降実験を行った。まず、架橋試薬により生存HMECからES、NLおよび他のタンパク質の複合体を分離する試みを行った。BS3(PIERCE社からの架橋試薬)を用いて分子量が300kDaをはるかに超える巨大な複合体を得た(データは示さず)。この複合体は抗ES抗体および抗NL抗体のいずれによっても染色することができたが、構成要素の特定ができなかった。別方法として、NLに対するポリクローナル抗体を用いてHMEC溶解液の中で免疫沈降を行い、NLと相互作用するタンパク質を分離した。分子量200kDa前後のタンパク質が見出され、それはMALDI-TOFにより非筋肉ミオシンと確認された。
【0071】
ミオシンは巨大なスーパーファミリーを構成しており、膜動態および細胞皮層におけるアクチンの組織化に関与し、そうして細胞の遊走、接着およびエンドサイトーシスに影響を及ぼす。このスーパーファミリーの中で、双頭クラスVミオシンは、アクチンフィラメントに沿って小胞、細胞小器官およびmRNA粒子を輸送する。細胞表面NLは、ESと結合し細胞核にESを輸送する(図4a〜f)。ミオシンは細胞内タンパク質であるから、それは細胞表面NLの細胞内ドメインと結合しなければならない。このNL-ミオシン複合体は、ES内在化のプロセスに輸送体として用いられると推測される。また、Shibataらは同様のプロセスを報告しており、それによると、神経細胞の成長因子であるミッドカイン(midkine)がNLを介して内在化され、細胞核に局在したとのことである。興味深いことに、NLのN末端に対する抗体は、細胞表面NLを介してHep-2細胞に内在化される。したがって、内在化は一般的な現象であるとみられ、リガンドが細胞表面NLと結合すると回避不能になる。違いは、ESは細胞増殖を抑制することができるが、抗NL抗体はそれができないことである(図3c)。
【0072】
前記現象は、多くのリガンドが特異的に細胞表面NLと結合することができ、その内在化を誘発することができるが、内在化の後のその運命が異なることを示す。次に、ESが細胞核に輸送された後の機能を調査した。Boucheらは、NLが細胞生存と増殖とを促進する現象を報告した。これは、例えば核内でのDNAの転写およびリボソームの生成を含み、N末端のセリン残基がbFGFの誘発下である種のキナーゼ(例えばCK2)によってリン酸化されると起こる。Folkmanらも、bFGFによって誘発される内皮細胞の遊走がESによって抑制されることを報告した。
【0073】
Boucheらの研究によると、bFGFに誘発されたNLのリン酸化は、この単離された核システムにおいて、他のキナーゼ、例えばcdc2によってではなくCK2によって媒介される。したがって、ESは、bFGFに誘発されたCK2によって媒介されるNLのリン酸化を妨げることによって細胞増殖を抑制すると推測される。この仮説を確かめるために、静止状態のHMECの核を単離し、ESの存在下または非存在下でリン酸化実験を行った。その結果、ESをHMECの核とプレインキュベートすると、NLのリン酸化が抑制された(図4h)。さらに、VEGFによってではなく、bFGFによってNLのリン酸化が媒介された(図4h)。これは、bFGFが内皮細胞の増殖を誘発するのに対し、VEGFは内皮細胞の遊走を誘発するという先の報告を説明するものである。本実施例で観察した現象は、ESがbFGFに誘発されたCK2によって媒介されたNLのリン酸化を抑制し、細胞生存および増殖を抑制することを示すものである。
【0074】
実施例4 ESはNL-ミオシン複合体を介して細胞遊走および接着に影響を及ぼす
上記で、NLがESの新しいレセプターであり、細胞遊走、増殖および接着に対するESの抑制作用を媒介することが証明された。インテグリンもESのレセプターであることが報告されているため、NLとインテグリンとの間に相互作用が存在するか否かを検討することは興味深い。インテグリンファミリーの中で、インテグリンα5β1がESのレセプターであることがRehnらおよびSudhakarらにより報告された。したがって、マウス抗インテグリンβ1抗体(Santa Cruz)とウサギ抗NL抗体を用いた間接免疫蛍光法により、細胞表面NLとインテグリンα5β1との共局在を調査した。レーザー走査型共焦点顕微鏡法により、細胞表面NLとインテグリンβ1とが一部オーバーラップしていることが観察された(図4i〜k)。これは、細胞表面において、NLとインテグリンβ1との間に何らかの相互作用が存在することを示唆するものである。したがって、NLに対するポリクローナル抗体による免疫沈降を、NLとインテグリンβ1との複合体を取得するために導入した。残念ながら、沈降物の中にインテグリンβ1は見られなかった。これは、NLとインテグリンβ1との間の相互作用が間接的であることを意味する。ミオシンが膜の運動および細胞皮層でのアクチンの組織化に関与していることが知られており、したがって、細胞遊走、接着およびエンドサイトーシスに影響を及ぼす。同時に、NLと非筋肉ミオシンとが細胞皮層で複合体を形成し、この複合体が内皮細胞の運動性と接着に重要であることが知られている。したがって、ESは、NL-ミオシン複合体によって細胞の運動性および接着に影響を与えると推測される。考えられることは、細胞表面NLとインテグリンα5β1とが、ミオシンなどの他のタンパク質と一緒に巨大な複合体を形成し、全体としてESのレセプターとして機能しているということである(図6)。
【0075】
実施例5 NLの分布がESの低い毒性の根拠となる
ESは特異的に血管新生と腫瘍増殖とを抑制し、そして、動物実験においてESの毒性は観察されず、さらに、臨床試験においては低い毒性しか観察されなかった。これらの知見の背後にある具体的な分子機構はまだ知られていない。NLがESの抗血管新生における特異的な活性を媒介するという上記結論は、NLが細胞内に遍在するタンパク質であるという先の報告と矛盾するようである。このパラドックスを解明するために、異なる増殖状態にあるHMECの表面NL量を調査した。その結果、急激に増殖している細胞の表面NL量は、比較的静止状態にある細胞に比べて非常に高いことが示された(図5a〜f)。比較的静止状態にある細胞は24時間の血清飢餓によって得、そして、細胞周期の段階はフローサイトメトリー(Becton Dickinson, Worldwide Inc., San Jose, CA)によって測定した(図5g〜h)。フローサイトメトリーの結果は、血清飢餓の後、G1期の細胞の割合が24%増加し、S期の細胞の割合が30%減少することを示した(図5g〜h)。細胞は完全にG1期になってないが、細胞表面NL量は24時間の血清飢餓後に顕著に減少した。細胞膜表面NL量の違いによって、ESに対する内皮細胞の感受性の違いが生じると推測される。
【0076】
同様の細胞現象が動物実験で見られるか否かを調査するために、腫瘍組織および正常器官の細胞表面NL量を評価した。まず、Hela腫瘍を接種したヌードマウス(Vital River Laboratory Animal Tech Co.,Ltd、Beijing)の背部に、NLに対するポリクローナル抗体を注射した。注射は、接種された腫瘍とは離れた部位に行った。そして、免疫組織化学法によってこれらの抗体の分布を観察した(図5i〜l)。その結果、NLに対する抗体は、腫瘍によって誘発された内皮細胞だけに集積し、正常組織、例えば心臓、腎臓と肺などには集積しなかった(図5i〜l)。
【0077】
これらの知見は、Folkmanの抗血管新生の理論と全く一致している。成体においては、血管内皮細胞は若干の内因性血管新生刺激因子によって上方調節される以外は、静止状態にあってほとんど増殖しない。これに対し、増殖している内皮細胞はある種の生理的あるいは病的血管新生プロセス、例えば腫瘍の増殖や転移で現れる。これらを合わせ考えると、ESのレセプターであるNLの内皮細胞表面における量の違いが、動物実験および臨床試験でのESの低毒性の根拠となる。腫瘍によって誘発された血管内皮細胞膜表面のNLの量が正常組織に比べて非常に多いため、ESは特異的にNLと結合して、選択的に腫瘍組織の上で抗血管新生活性を発揮する。一方、ESは正常器官とあまり結合しない。正常器官の細胞表面にはNLが多く存在しないため、ESを用いて腫瘍を治療する際に毒性を誘発しない。
【0078】
実施例6 組み換えNLは細胞遊走アッセイにおいてESの機能を調節する
NLのcDNAは、SV総RNA単離システムおよび逆転写システム(プロメガ)を使用してメーカーのプロトコルに従ってHMECから得た。PCRによってNLとポリヒスチジン(His)6タグとの融合配列を得た後、これを発現ベクターpPIC9K(インビトロジェン)にサブクローニングした。メーカーのプロトコルに従って、このプラスミドを制限酵素Sal I(プロメガ)で線形化し、ピキア酵母株GS115を電気形質転換した。G418(インビトロジェン)を用いて選択した安定した形質転換体は、BMMY培地(10g/lの酵母抽出物;20g/lのペプトン;100mmol/lのリン酸カリウム、pH 6.0;13.4g/lの酵母窒素ベース;40mg/lのビオチン;および、毎日の追加で0.5%の最終濃度を与えるメタノール)で3日間、振盪フラスコにて30℃で培養した。NLは、培地上清からNi-NTAニッケルイオン-アフィニティーカラム(Qiagen)で精製した。1lの培地上清をpH 8.0に合わせた後、6mlのNi-NTAビーズが充填されたカラムを用い、メーカーの指示に従って洗浄および溶出を行った。最終的に培地1リットルあたりおよそ3mgのNLが得られた。この手順によって得られたNLを用いて、NLに対するポリクローナル抗体を産生した。
【0079】
HUVEC(1ウェルにつき2×104細胞)を、DMEM培地、0.5%のウシ胎児血清、および10ng/mlのbFGF(PeproTech EC)を含むTranswellフィルタ(8μm孔、Costar)の上室に播種した。ES(5μg/ml、Protgen)および組み換えNL(20μg/ml)または抗NL抗体(20μg/ml)を、遊走実験開始時に加えた。また、PBSを対照としてこの遊走実験系に加えた。同じDMEM培地と他の試薬を下室に加えた。内皮細胞は、37℃、5%CO2の条件下で6時間遊走させた。エタノールで固定し、エオジンで染色した後、光学顕微鏡下で5つの異なる視野を選択し、完全にフィルタを通過して遊走した細胞数を数え、平均値を得た。結果は、組み換えヒトNLが濃度依存的にESの細胞遊走における抑制作用を軽減し、そして、組み換えNLがESの抗血管新生活性に関与していることを示した。同様に、NLに対するポリクローナル抗体は、ESの細胞増殖における抑制作用を阻害した。
【0080】
実施例7 腫瘍細胞表面NLの抗NL抗体でのブロックによる腫瘍増殖の加速
NLのcDNAは、SV総RNA単離システムおよび逆転写システム(プロメガ)を使用してメーカーのプロトコルに従ってHMECから得た。PCRによってNLとポリヒスチジン(His)6タグとの融合配列を得、これを発現ベクターpPIC9K(インビトロジェン)にサブクローニングした。メーカーのプロトコルに従って、このプラスミドを制限酵素Sal I(プロメガ)で線形化し、ピキア酵母株GS115を電気形質転換した。G418(インビトロジェン)を用いて選択した安定した形質転換体を、BMMY培地(10g/lの酵母抽出物;20g/lのペプトン;100mmol/lのリン酸カリウム、pH 6.0;13.4g/lの酵母窒素ベース;40mg/lのビオチン;および、毎日の追加で0.5%の最終濃度を与えるメタノール)で3日間、振盪フラスコにて30℃で培養した。NLは培地上清からNi-NTAニッケルイオン-アフィニティーカラム(Qiagen)で精製した。1lの培地上清をpH 8.0に合わせた後、6mlのNi-NTAビーズが充填されたカラムを用い、メーカーの指示に従って洗浄および溶出を行った。最終的に培地1リットルあたりおよそ3mgのNLが得られた。この手順によって得たNLを用いて、NLに対するポリクローナル抗体を産生した。
【0081】
Hela細胞をヌードマウス(Vital River Laboratory Animal Tech Co.,Ltd、Beijing)の皮下に接種した。その翌日から、抗NL抗体を、3日おきに、接種された腫瘍から離れた部位のマウスの皮下にゆっくりと注射した。7回目の注射後、ヌードマウスを安楽死し、腫瘍重量を計量し、腫瘍サイズを3回測定した。これらの動物実験の結果は、腫瘍細胞表面NLを抗NL抗体でブロックすると、腫瘍増殖が顕著に加速することを示した。これは、NLが腫瘍増殖と血管新生の調節に重要な役割を果たすことを証明するものである。
【0082】
実施例8 ES-Ni-NTAアフィニティークロマトグラフィーを用いたNL特異的血管新生阻害剤のスクリーニング
NLのcDNAは、SV総RNA分離システムおよび逆転写システム(プロメガ)を使用してメーカーのプロトコルに従ってHMECから得た。PCRによってNLとポリヒスチジン(His)6タグとの融合配列を得た後、これを発現ベクターpPIC9K(インビトロジェン)にサブクローニングした。メーカーのプロトコルに従って、このプラスミドを制限酵素Sal I(プロメガ)で線形化し、ピキア酵母株GS115を電気形質転換した。G418(インビトロジェン)を用いて選択した安定した形質転換株を、BMMY培地(10g/lの酵母抽出物;20g/lのペプトン;100mmol/lのリン酸カリウム、pH 6.0;13.4g/lの酵母窒素ベース;40mg/lのビオチン;そして、毎日の追加で0.5%の最終濃度を与えるメタノール)で3日間、振盪フラスコにて30℃で培養した。NLは、培地上清からNi-NTAニッケルイオン-アフィニティーカラム(Qiagen)で精製した。1lの培地上清をpH 8.0に合わせた後、6mlのNi-NTAビーズが充填されたカラムを用い、メーカーの指示に従って洗浄および溶出を行った。最終的に培地1リットルあたりおよそ3mgのNLが得られた。NLは、そのN末端に融合したヒスチジンを介してNi-NTAニッケルイオン-アフィニティーカラムに固定した。このアフィニティービーズは、ハイスループット法でNLと結合するタンパク質をスクリーニングするのに用いる。得られたNL結合タンパク質は、MALDI-TOFによるペプチドマスフィンガープリントによって特定される。これらの抗血管新生プロセスに対する生物活性は、前述の細胞遊走アッセイや増殖アッセイなどの細胞実験によって測定できる。
【0083】
実施例9 腫瘍血管表面におけるESとNLとの生体内共局在
SPR(表面プラズモン共鳴)
ESとNLとの結合動力学はSPR方法で測定した(方法はBIAcore 2000(TM)バイオセンサーシステムのハンドブックを参照)。測定には、Amersham Pharmacia BiotechのBIAcore 2000(TM)バイオセンサーシステムを用いた。精製したESは、20mMの酢酸ナトリウム(pH 6.5)で100μg/mlに希釈し、ハンドブックに従い、アミン結合キット(1−エチル−3−(ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド、(N−ヒドロキシスクシンイミド))(Amersham Pharmacia Biotech)を用いて、研究用CM5センサーチップ上に共有結合的に固定した(Amersham Pharmacia Biotech)。20mM酢酸ナトリウム、pH 6.5中の100μg/mlのESを、活性化された研究用CM5センサーチップ上に、SPR装置で9,000単位の反応値が得られるまで注入した。反応していないセンサーチップの表面はpH 8.5のエタノールアミンでブロックした(Amersham Pharmacia Biotech)。
【0084】
ESとNLとの結合動力学のSPR分析は、25℃で、HBSバッファー(10mMのHEPES、150mMのNaCl、3.4mMのEDTAおよび0.005%の界面活性剤P20、pH 7.4)に溶解したNL(62.5、125、250および500nM)を、10μl/分の流速でSPRに20μl注入して行った。ESとNLとの結合動力学曲線は、流動相バッファーに溶解したNLの濃度数値(レゾナンスユニット)の経時変化を示す。生データはAmersham Pharmacia Biotech の分析ソフトBIAevaluation 3.1を用いて分析した。ESとNLの結合定数ka(M-1s-1)、解離定数kb(M-1s-1)および平衡定数KDはLangmuir結合モデル(化学量論1:1)を用いて解析した。
リアルタイムSPRは、2分子間の相互作用に関する親和性を評価する迅速で高感度な実験方法である。この方法を用いてESとNLとの間の親和性を測定した。ESとNLの結合動力学曲線の分析によって、ESとNLとの間の平衡定数は、KD=2.32×10-8Mであると計算された。
【0085】
ESとNLの生体内共局在
指数増殖期のマウス黒色腫細胞B16/F10(ATCC)(200μlのPBS中に2×106細胞)を、2月齢のBalb/cマウス(Vital River Laboratory Animal Tech Co.,Ltd、Beijing)の皮下に接種した。8日後に、ESとNLとがマウス体内で共局在しているかを確認する実験を行った。ビオチン化ES(40μg)およびNLに対するウサギポリクローナル抗体(200μg)を、それぞれ順次担癌マウス体内に静脈注射した。対照群には、ビオチン化ESおよび精製ウサギIgGを注射した。1時間後にマウスを麻酔し、20mlのPBSで心臓灌流を行ってから安楽死した。マウスのいくつかの正常組織と腫瘍とを摘出、固定そして薄切した。切片はTRITC結合アビジン(Pierce)およびFITC結合2次抗体(Santa Cruz)で同時に検査し、Olympus Fluoviewレーザー走査型共焦点画像処理システム(オリンパス)の下で観察した。
【0086】
ESとNLとの共局在は、in vivoにおいても観察された。ビオチン化ESとNLに対するウサギポリクローナル抗体とを、それぞれ順次担癌マウス体内に静脈注射した。対照群には、ビオチン化ESと精製ウサギIgGとを注射した。1時間後、マウスのいくつかの正常組織と腫瘍とを免疫蛍光検査に供した。ビオチン化ESとウサギ抗NLポリクローナル抗体とは、腫瘍の血管表面に選択的に集積していた(図7j〜l)。これに対し、心臓(図7a〜c)、肝臓(図7d〜f)および腎臓(図7g〜i))の血管壁上では、ビオチン化ESとウサギ抗NLポリクローナル抗体は確認できなかった。マウスの腫瘍組織において、ビオチン化ESとウサギ抗NLポリクローナル抗体との良好なオーバーラップが観察された。対照群の腫瘍組織では、対照IgGは観察できなかった(図7m〜o)。これらの結果は、ESとNLとが正常組織ではなく、腫瘍血管表面にしか共局在しないことを示唆するものである。
【0087】
実施例10 標的内皮細胞上のNLの量とESの抗血管新生活性との関連性
実施例1に示したインビトロでの内皮細胞増殖モデルを用いて、ESの抗血管新生活性を調査した。このモデルを介してESがNL欠損内皮細胞に対する影響を調査し、内皮細胞上のNLの量とESの抗血管新生活性との関連性を明らかにする。
RNA干渉(RNAi)によってNLの発現を抑制し、この発現の変化の、ESの抗血管新生における重要な活性である細胞増殖への影響を検討した。HMECに、DNAベクターに基づくRNA干渉プラスミドBS/U6/1356をトランスフェクトすると、HMEC内のNLの発現が抑制された(図9a)。対照プラスミドBS/U6、BS/U6/263およびBS/U6/1356CをトランスフェクトしたHMECにおいては、NLの発現が抑制されなかった(図9a)。さらに、DNAベクターに基づくRNA干渉によってNLの発現を抑制したHMECにおいて、ESの抗血管新生における別の重要な活性である細胞増殖についての影響を評価した。その結果、HMECにおけるNLの発現を抑制すると、HMECの増殖はESによって抑制されないが、NLの発現を抑制していないHMEC細胞の増殖はESによって抑制された(図9b)。この結果から、内皮細胞におけるNLの量とESの抗血管新生活性との間に直接的な関連性があることが分かる。一方、内皮細胞上のNLの量の増加を介して、ESの抗血管新生活性を増強できるし、また、腫瘍新生血管におけるNLの量の測定を介して、当該腫瘍またはこの腫瘍を有する患者に対するESの治療効果が予測できる。
【0088】
DNAベクターに基づくRNA干渉プラスミドBS/U6の構築は、Shi博士らの論文(「A DNA vector-based RNAi technology to suppress gene expression in mammalian cells.」 Sui, G. et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 99, 2002, p5515-5520)に記載されたとおりに行った。NLに特異的なRNA干渉配列BS/U61356は、NL配列中の1356から1377までであり、また同様に、NLに特異的なRNA干渉配列BS/U6/263は、NL配列中の263から286まで(この干渉配列は不活性である)である。なお、この特異的配列と塩基組成が同一のランダム配列BS/U61356Cを対照とした。NCBIで検索したところ、このランダム配列は既知配列のいずれとも相同性がなかった。プラスミドは、lipofectin(TM)(Invitrogen)によって細胞にトランスフェクトした。
以下の参考文献リストに含まれるがこれに限定されない、本明細書で参照するすべての論文、著作、特許、特許出願、ウェブサイトおよびその他の印刷物は、その全体を参照により本明細書に組み込む。
【0089】
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【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1a】種々の濃度のESの存在下で、HMECを用いて行った細胞遊走アッセイの結果を示した図である。対照はPBSである。
【図1b】種々の濃度のESの存在下で、HMECを用いて行った細胞増殖アッセイの結果を示した図である。対照はPBSである。
【図2a】HMECの細胞表面からES-Ni-NTAアフィニティーカラムを用いて分離されたES結合タンパク質が、NLとそのフラグメントであることを示す図である。左がSDS-PAGE分析の結果、右がNLに対するモノクローナル抗体を用いたイムノブロットの結果である。対照は、ES非結合カラムにより分離した試料である。
【図2b】インビトロでESがNLと特異的に結合することを示した図である。
【図2c】ヘパリンがES-NL複合体の形成を阻害することを示した図である。
【図2d】ESが細胞表面のNLを介してHMECと特異的に結合することを示した図である。
【図2e】HMECとESとを異なる時間インキュベートした際のNLとESとの結合量の変化を示した図である。
【図2f−i】HMEC細胞表面におけるNLおよびESの共局在を示した写真図である。
【0100】
【図3a】NLがESの細胞遊走阻害活性を抑制することを示した図である。対照はPBSである。
【図3b】NL自体は細胞遊走に影響を及ぼさないことを示した図である。対照はPBSである。
【図3c】細胞増殖アッセイにおいて、ES、NLおよび抗NL抗体をそれぞれ加えた結果を示したグラフである。対照はPBSである。
【図3d】NL欠損群およびHMEC対照群について細胞接着アッセイを行った結果を示したグラフである。RNAiがNL欠損群、対照が空のプラスミドでトランスフェクトしたHMEC対照群を示す。
【図3e】抗NL抗体を用いたイムノブロットによって、RNAiプラスミド(BS/U6/1356)によるNL発現抑制作用を検証した結果を示した図である。
【図3f】NL欠損群とHMEC対照群を用いて細胞増殖アッセイを行った結果を示したグラフである。BS/U6/NL(1356)がNL欠損群、BS/U6が空のプラスミドでトランスフェクトしたHMEC対照群を示す。
【図4a−g】ESがHMECによって内在化されることを示した写真図である。HMECを10μg/mlのビオチン化ESの非存在下(a)、あるいは存在下で、0.5時間(b)、1時間(c)、 2時間(d)、3時間(e)および7時間(f)インキュベートし、内在化されたESをTRITC標識アビジンで染色した。抗NL抗体を加えると、ESの内在化が阻害された(g)。スケールバーは25μmである。
【図4h】核内で、ESがCK2によって媒介されるNLリン酸化を抑制することを示した図である。
【図4i−k】NLが、HMECの細胞表面においてインテグリンβ1と共局在することを示した写真図である。スケールバーは10μmである。
【0101】
【図5a−f】HMECの細胞表面NLの分布を示した写真図である。スケールバーは20μmである。
【図5g−h】増殖細胞(g)および静止細胞(h)の細胞周期段階をフローサイトメトリーによって測定した結果を示した図である。
【図5i−l】担癌ヌードマウスの細胞表面NLの分布を示した写真図である。スケールバーは50μmである。
【図6】NLがESのシグナルネットワークを媒介する様子を示した模式図である。
【図7a−o】担癌マウスにおけるin vivoでのESとNLの共局在の状況を示した写真図である。スケールバーは50μmである。
【図8】SPR法によって得たESとNLとの結合動力学曲線を示したグラフである。
【図9】標的内皮細胞上のNLの量が多いほど、ESの抗血管新生活性が高まることを示した図である。上のイムノブロットは、RNAiプラスミドによるNL発現抑制作用を抗NL抗体を用いて検証した結果を、下のグラフは、NL欠損HMEC群(BS/U6/1356C)および対照HMEC群(BS/U6)を用いて細胞増殖アッセイを行った結果をそれぞれ示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象のエンドスタチンがん療法に対する感受性を評価するためのキットであって、
a. ヌクレオリンを標識する標識、および
b. 前記対象の試料を、前記標識を用いて試料中のヌクレオリンの量を測定することによりスクリーニングするための使用説明、
を含む、前記キット。
【請求項2】
対象が哺乳動物である、請求項1に記載のキット。
【請求項3】
対象がヒトである、請求項1に記載のキット。
【請求項4】
標識されるヌクレオリンが、細胞膜表面のヌクレオリンである、請求項1に記載のキット。
【請求項5】
標識されるヌクレオリンが、全細胞中のヌクレオリンである、請求項1に記載のキット。
【請求項6】
標識が抗体を含む、請求項1に記載のキット。
【請求項7】
抗体がモノクローナル抗体である、請求項6に記載のキット。
【請求項8】
抗体がポリクローナル抗体である、請求項6に記載のキット。
【請求項9】
標識が核酸分子を含む、請求項1に記載のキット。
【請求項10】
核酸分子がDNA分子である、請求項9に記載のキット。
【請求項11】
核酸分子がRNA分子である、請求項9に記載のキット。
【請求項12】
対象におけるエンドスタチンがん療法の成功の可能性を評価する方法であって、
a. 前記対象から得た試料を、ヌクレオリンの発現レベルについてスクリーニングすること、および
b. ヌクレオリン発現量に基づいて、前記対象がエンドスタチンがん療法に感受性か否かを決定すること、
を含む、前記方法。
【請求項13】
血管新生の阻害に有効なヌクレオリン特異的血管新生阻害剤を製造する方法であって、
a. 候補分子のプールに適切な結合アッセイを行い、複数のヌクレオリン特異的分子を得ること、
b. 抗血管新生アッセイにより、前記複数のヌクレオリン特異的分子の各々の血管新生抑制効果を試験すること、および、
c. 抗血管新生アッセイによって示された、有効な血管新生抑制作用を生じるヌクレオリン特異的分子を選択すること、
を含む、前記方法。
【請求項14】
ヌクレオリン特異的血管新生阻害剤が、タンパク質またはペプチドである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
ヌクレオリン特異的血管新生阻害剤が小分子である、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
ヌクレオリン特異的血管新生阻害剤が、血管新生依存性疾患の治療に使用するものである、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
血管新生依存性疾患ががんである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
血管新生依存性疾患が内皮細胞疾患である、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
インビトロで増殖中の内皮細胞に加えらた場合に、内皮細胞の増殖および/または遊走を抑制する能力を有する血管新生阻害剤を選択する方法であって、
a. 薬学的に許容できる方法を用いて、ヌクレオリンを標的分子として、これと特異的に相互作用する分子を見出す工程、
b. 工程a.で得られたヌクレオリン特異的分子を、内皮細胞の増殖および/または遊走を抑制する効果について試験する工程、および
c. 得られた内皮細胞の増殖および/または遊走の抑制に有効な分子を確定し、該分子の抗血管新生機能の有効性をエンドスタチンの抗血管新生機能の有効性と比較する工程、
を含む、前記方法。
【請求項20】
ヌクレオリン特異的分子がタンパク質またはペプチドである、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
ヌクレオリン特異的分子が小分子である、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
標的細胞の血管新生阻害剤への反応性を増強する方法であって、
a. 外因性ヌクレオリンを標的細胞に導入し、外因性ヌクレオリンを発現する複数の改変標的細胞を得ること、および
b. 改変標的細胞に対するエンドスタチンの殺傷率を測定すること、
を含む、前記方法。
【請求項23】
標的細胞ががん細胞である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
標的細胞が内皮細胞である、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
血管新生阻害剤がエンドスタチンである、請求項22に記載の方法。
【請求項26】
外因性ヌクレオリンが、ウイルスベクターによって標的細胞に導入される、請求項22に記載の方法。
【請求項27】
標的内皮細胞に対する血管新生阻害剤の抗血管新生作用を強化する方法であって、
a. 薬学的有効量の外因性ヌクレオリン分子を前記標的細胞に導入し、前記ヌクレオリン分子を前記標的細胞に発現させること、および
b. 前記標的細胞を前記血管新生阻害剤と共にインキュベートし、前記標的細胞の増殖を抑制すること、
を含む、前記方法。
【請求項28】
血管新生阻害剤がエンドスタチンである、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
内皮細胞ががん細胞である、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
標的細胞の血管新生阻害剤への個々の感受性を分析するための診断用キットであって、
a. ヌクレオリン分子と特異的に結合する分子、および
b. 薬物学的に許容できる担体、
を含む、前記キット。
【請求項31】
血管新生阻害剤がエンドスタチンである、請求項30に記載のキット。
【請求項32】
標的細胞ががん細胞である、請求項30に記載のキット。
【請求項33】
抗血管新生阻害剤治療に感受性の標的腫瘍細胞を決定するための診断用キットであって、
a. ヌクレオリンに対する抗体、および
b. 薬物学的に許容できる担体、
を含む、前記キット。
【請求項34】
抗体がポリクローナル抗体である、請求項33に記載のキット。
【請求項35】
抗体がモノクローナル抗体である、請求項33に記載のキット。
【請求項36】
患者のエンドスタチン療法への感受性を決定する方法であって、患者から採取した試料を、ヌクレオリンに対する抗体と接触させ、該試料中のヌクレオリンと該抗体との複合体の形成を検出することを含み、ここで、高いレベルの複合体の存在が、エンドスタチン療法の成功の高い可能性を示す、前記方法。
【請求項37】
がんを有する患者における腫瘍増殖を抑制する血管新生阻害剤の効果を強化する方法であって、
a. 前記患者の腫瘍試料中に存在する内因性ヌクレオリン分子のレベルを確認すること、および、
b. 前記患者のヌクレオリンの発現レベルを利用して、血管新生阻害剤が前記患者において腫瘍抑制効果を奏する可能性を決定すること、
を含み、ここで、より高いレベルのヌクレオリン発現が、血管新生阻害剤治療の成功のより高い可能性を示す、前記方法。
【請求項38】
血管新生阻害剤がエンドスタチンである、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
患者の腫瘍試料中のヌクレオリン分子のレベルの確認を、抗ヌクレオリン抗体とヌクレオリンとの免疫沈降によって行う、請求項37に記載の方法。
【請求項40】
抗血管新生阻害剤治療に感受性の標的がん細胞を同定する方法であって、
a. 抗ヌクレオリン抗体を産生すること、
b. 前記抗ヌクレオリン抗体を対象から採取した試料と接触させること、および
c. 前記試料中に存在するヌクレオリンのレベルによって、抗血管新生阻害剤治療に感受性の標的がん細胞を同定すること、
を含み、ここで、高レベルが高い感受性を示す、前記方法。
【請求項41】
抗ヌクレオリン抗体がポリクローナル抗体である、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
抗ヌクレオリン抗体がモノクローナル抗体である、請求項40に記載の方法。
【請求項43】
血管新生阻害剤がエンドスタチンである、請求項40に記載の方法。
【請求項44】
細胞試料中の複数の内皮細胞の増殖および/または遊走を抑制する方法であって、
a. 抗ヌクレオリン抗体を細胞毒性薬に結合させて、細胞毒性抗ヌクレオリン抗体を形成すること、および
b. 前記細胞毒性抗ヌクレオリン抗体を前記細胞試料に適用し、前記複数の内皮細胞の増殖および/または遊走を抑制すること、
を含む、前記方法。
【請求項45】
細胞毒性薬がサイトカインである、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
細胞毒性薬が腫瘍壊死因子である、請求項44に記載の方法。
【請求項47】
細胞試料ががん患者から採取したものである、請求項44に記載の方法。

【図1a】
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【図1b】
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【図2a】
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【図2b】
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【図2c】
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【図2d】
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【図2e】
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【図2f−i】
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【図3a】
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【図3b】
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【図3c】
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【図3d】
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【図3e】
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【図3f】
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【図4a−g】
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【図4h】
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【図4i−k】
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【図5a−f】
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【図5g−h】
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【図5i−l】
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【図6】
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【図7a−o】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2008−541066(P2008−541066A)
【公表日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−510385(P2008−510385)
【出願日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際出願番号】PCT/CN2006/000942
【国際公開番号】WO2006/119706
【国際公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【出願人】(506259634)清華大学 (13)
【出願人】(507369132)北京普▲羅▼吉生物科技▲発▼展有限公司 (5)
【氏名又は名称原語表記】Protgen Ltd.
【Fターム(参考)】