説明

ネコインフルエンザワクチン及び使用方法

本発明は、ネコをインフルエンザウイルス感染から防御するためのワクチン及び前記ワクチンの使用方法に関する。前記ワクチンは1つ以上のH3、N8、H7またはN7−型インフルエンザウイルス由来の1つ以上の抗原を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ネコをインフルエンザウイルス感染から防御するためのワクチン、前記ワクチンを含むキット及び前記ワクチンの使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
動物における咳や他の症状により特徴づけられる呼吸器感染は長年にわたり認識されている。前記感染は、予防接種を受けていない動物が高密度環境に収容されているときに特によく起こり得る。前記感染の原因が例えばヘルペスウイルス、カリシウイルスまたはインフルエンザウイルスと場合により前記呼吸器感染を冒すまたは併発する恐れがある他の生物であることは公知である。前記状態は通常直接致死的ではないが、より重篤な感染及び死に至る恐れがある。
【0003】
典型的には、動物の1つのファミリーを感染させることが公知のインフルエンザウイルスが他のファミリーの動物を感染させることはない。しかしながら、最近競走用グレーハウンドが呼吸器疾患に感染しているのが観察され、その結果多数のイヌが死亡した。報告によれば、Cynda Crawford博士は2004年1月にフロリダ州ジャクソンビルの競走場でのグレーハウンドの死を調査し始め、24匹のグレーハウンドが病気にかかり、8匹が死亡していた。Crawford博士は、ウイルスに対する自然免疫を持たないイヌはウイルスに暴露したらすべて感染し、感染したイヌの80%が症状を発現したと報告した。Crawford博士は、このウイルスはウマインフルエンザ株に密接に関連しているH3N8インフルエンザであるとも報告した。New York Times.com,(2005年9月22日)を参照されたい。Crawford,P.C.ら,“Transmission of Equine Influenza Virus to Dogs”,Science,310,p.482−85(2005年10月21日)も参照されたい。
【0004】
2005年4月21日に出願された米国特許出願第60/673,443号、2006年4月21日に出願され米国特許出願第11/409,416号、及び2006年4月21日に出願された国際特許出願第PCT/US2006/015090号(WO 06/116082として公開)(いずれも全文が参照により本明細書中に組み入れられる)は、イヌを感染させるウマインフルエンザウイルスを用いたCrawford博士の研究も記載している。2006年3月3日に出願された米国特許出願第60/779,080号(全文が参照により本明細書中に組み入れられる)は、ウマインフルエンザウイルスをイヌにおけるインフルエンザに対するワクチンとして使用することを記載している。
【0005】
所与の種の動物を他の種の動物を感染させる恐れがあるインフルエンザウイルスから防御するためのワクチン及び方法が要望されている。以下の開示内容は、前記要望を解決するのに通常適しているワクチン及び方法を記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許出願公開第60/673,443号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第11/409,416号明細書
【特許文献3】国際公開第06/116082号パンフレット
【特許文献4】米国特許出願公開第60/779,080号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】New York Times.com,(2005年9月22日)
【非特許文献2】Crawford,P.C.ら,“Transmission of Equine Influenza Virus to Dogs”,Science,310,p.482−85(2005年10月21日)
【発明の概要】
【0008】
発明の要旨
本発明は、H3、N8、H7またはN7−型インフルエンザ抗原を用いるネコをインフルエンザから防御するためのワクチン及び方法に関する。本発明は、前記ワクチンを含むキット及び前記ワクチンの使用方法にも関する。この防御は、インフルエンザ及び/または1つ以上のその症状の予防;そのリスクの低下;その発症の延期;その蔓延の低下;回復、抑制及び/または根絶を含む。本発明のワクチン、キット及び方法は通常ネコ(Felidae)科のメンバーにおいて使用するために適していると考えられる。
【0009】
簡潔には、本発明は一部、ネコをインフルエンザウイルス感染から防御する(すなわち、個々のネコの間での感染を予防する;1匹のネコから別のネコまたは他の種(例えば、ヒト、イヌ、ウマ、家禽)への感染の蔓延を予防する;そのリスクを低下させる;その発症を遅らす;抑制、回復または根絶させる)ための方法に関する。この方法は、治療有効量の少なくとも1つのH3、N8、H7またはN7−型インフルエンザウイルス抗原を含むワクチンを投与することを含む。
【0010】
本発明は一部、H3、N8、H7またはN7−型インフルエンザ抗原を含む組成物を投与することによるネコをインフルエンザウイルスに起因する呼吸器病変から防御する(すなわち、呼吸器病変を予防する;そのリスクを低下させる;その発症を遅らす;抑制、回復または根絶させる)ための方法にも関する。この方法は、ネコに対して治療有効量の少なくとも1つのH3、N8、H7またはN7−型インフルエンザウイルス抗原を含むワクチンを投与することを含む。
【0011】
本発明は一部、ネコに対してH3、N8、H7またはN7−型インフルエンザ抗原を含む組成物を投与することによりネコがインフルエンザウイルス感染に起因して鼻または口腔分泌物中にインフルエンザウイルスを有するのを防御する(すなわち、鼻または口腔分泌物中のネコインフルエンザウイルスを予防する;そのリスクを低下させる;その発症を遅らす;抑制、回復または根絶させる)ための方法にも関する。この方法は、ネコに対して治療有効量の少なくとも1つのH3、N8、H7またはN7−型インフルエンザウイルス抗原を含むワクチンを投与することを含む。
【0012】
インフルエンザ抗原はネコに対して当業者に公知の方法で送達され得る。投与経路には、非限定的に(皮下または筋肉内送達を含めた)非経口送達または他の経路、例えば皮内または経皮送達が含まれる。非経口、皮内または経皮送達のためのデバイスは当業者に公知であり、本発明で使用され得る。
【0013】
本発明の1つの実施形態は、ネコに対して治療有効量のi)少なくとも1つのH3、N8、H7またはN7−型インフルエンザウイルス抗原、及びii)少なくとも1つの医薬的に許容され得る賦形剤を含むワクチンを投与することを含むネコをインフルエンザウイルス感染から防御するための方法に関する。H3、N8、H7またはN7−型インフルエンザウイルス抗原は1つ以上の不活化ウイルスを含み得る。H3、N8、H7またはN7−型インフルエンザウイルス抗原は、i)1つ以上の生弱毒ウイルス、ii)1つ以上の組換えウイルス、iii)1つ以上のウイルス様粒子、iv)1つ以上の欠陥ウイルス粒子及びv)1つ以上の抗原をコードする核酸からなる群からの1つ以上を含み得る。このワクチンは1つ以上のウイルス分離株由来のH3、N8、H7またはN7−型インフルエンザウイルス抗原を含み得る。このワクチンは、少なくとも1つのH3、N8、H7またはN7−型インフルエンザウイルス由来の抗原を含む。このワクチンは皮下、筋肉内、皮内、経皮、眼内、粘膜または経口投与され得る。このワクチンは鼻腔内に投与され得る。このワクチンはネコに対して1回以上投与され得る。このワクチンは、鼻気管炎ワクチン、カリシウイルスワクチン、汎白血球減少症ワクチン、クラミジアワクチン、百日咳ワクチン、ネコ免疫不全症ウイルスワクチン、ネコ白血病ワクチンまたは狂犬病ウイルスワクチンからなる群から選択される少なくとも1つのワクチンと一緒に投与され得る。
【0014】
本発明の別の実施形態は、ネコに対して治療有効量のi)少なくとも1つのH3、N8、H7またはN7−型インフルエンザウイルス抗原及びii)少なくとも1つの医薬的に許容され得る賦形剤を含むワクチンを投与することを含む、ネコをインフルエンザウイルスに起因する呼吸器病変から防御するための方法に関する。このワクチンはネコがインフルエンザウイルスに感染する前にネコに対して投与され得る。この方法はネコをインフルエンザウイルスに起因する肺病変から防御することを含み得る。
【0015】
本発明の別の実施形態は、ネコに対して治療有効量のi)少なくとも1つのH3、N8、H7またはN7−型インフルエンザウイルス抗原及びii)少なくとも1つの医薬的に許容され得る賦形剤を含むワクチンを投与することを含む、ネコがインフルエンザウイルス感染に起因して鼻または口腔分泌物中にインフルエンザウイルスを有するのを防御する方法に関する。このワクチンはネコがインフルエンザウイルスに感染する前にネコに対して投与され得る。
【0016】
本発明の別の実施形態は、i)治療有効量の少なくとも1つのH3、N8、H7またはN7−型インフルエンザウイルス抗原及びii)少なくとも1つの医薬的に許容され得る賦形剤を含むネコインフルエンザワクチンに関する。ウイルス抗原は1つ以上の不活化ウイルスを含み得る。ウイルス抗原は、i)1つ以上の生弱毒ウイルス、ii)1つ以上の組換えウイルス、iii)1つ以上のウイルス様粒子、iv)1つ以上の欠陥ウイルス粒子及びv)1つ以上の抗原をコードする核酸からなる群からの1つ以上を含み得る。
【0017】
本発明の別の実施形態は、治療有効量の少なくとも1つのH3、N8、H7またはN7−型インフルエンザウイルス抗原を含むワクチン;及びネコに対して前記ワクチンを投与するための器具、ネコに対して前記ワクチンを投与するのを助ける医薬的に許容され得る賦形剤、ネコの前記ワクチンに対する免疫応答を強化する医薬的に許容され得る賦形剤、ネコが前記ワクチンと同時に消費する食物及びネコがワクチンと同時に消費するご馳走からなる群から選択される少なくとも1つのコンポーネントを含む、ネコをインフルエンザウイルス感染から防御するためのキットに関する。このキットはネコに対してワクチンを皮下、筋肉内、皮内、経皮、眼内、粘膜または経口投与するための器具を含み得る。このキットはネコに対してワクチンを鼻腔内投与するための器具を含み得る。
【0018】
本発明の別の実施形態は、ネコに対してH3、N8、H7またはN7−型インフルエンザウイルス抗原を含むインフルエンザワクチンを投与することを含む、インフルエンザウイルスのネコから1つ以上の他の動物への蔓延を予防する方法に関する。1つ以上の他の動物には(非限定的に)イヌ、ウマ、ヒト、他のネコまたは鳥類が含まれ得る。
【0019】
本発明の別の実施形態は、抗体価を赤血球凝集阻止(HI)アッセイまたは酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)を用いて測定することを含むネコのインフルエンザの診断方法に関する。
【0020】
本出願人の発明の更なる作用効果は本明細書の記載から当業者には明白であろう。
【0021】
好ましい実施形態の詳細な説明
好ましい実施形態の詳細な説明は、具体的使用の要件に最もうまく適合させ得るべく当業者が本発明を各種形態で改変し、適用し得るように当業者に本出願人の発明、その原理及びその実際の適用を理解させるためだけに意図されている。本発明の好ましい実施形態を示しているが、この詳細な説明及びその具体例は単に例示の目的のために意図されている。従って、本発明は本明細書中に記載されている好ましい実施形態に限定されず、いろいろに修飾され得る。
【0022】
本明細書中で使用されている場合、用語「ネコ」はネコ科のメンバーを指す。この科のメンバーには野生、動物園及び家畜のメンバー、例えばネコ亜科、ヒョウ亜科またはチーター亜科のメンバーが含まれる。ネコ科に含まれる種の非限定例はネコ、ライオン、トラ、ピューマ、ジャガー、ヒョウ、ユキヒョウ、黒ヒョウ、北米ヤマライオン、チーター、オオヤマネコ、ボブキャット、カラカルまたはその雑種である。ネコには家畜ネコ、純血種及び/または混血種伴侶ネコ、ショーネコ、実験用ネコ、クローン化ネコ、及び野生または野生化ネコも含まれる。
【0023】
本明細書中で使用されている場合、「イヌ」はイヌ科のメンバーを指す。このメンバーの非限定例には家畜イヌのすべての品種、野生イヌ、オオカミ、キツネ、コヨーテ、ジャッカル、ディンゴ、ハイエナ、ドール、クルペオ及びフェネックが含まれる。
【0024】
本明細書中で使用されている場合、「ウマ」はウマ科のメンバーを指す。このメンバーの非限定例には野生ウマ、家畜ウマのすべての品種、ロバ、野生ロバ、家畜ロバ、オナガー、インドノロバ、キヤン、シマウマ及びクアッガが含まれる。
【0025】
本明細書中で使用されている場合、「ネコをインフルエンザウイルス感染から防御する」には、非限定的に個々のネコ内での感染の予防;1匹のネコから1匹以上の他のネコまたは他の種への感染の蔓延の予防;個々のネコ内でのインフルエンザウイルス感染のリスクの低下;1匹のネコから1匹以上の他のネコまたは他の種へのインフルエンザウイルス感染の蔓延のリスクの低下;個々のネコ内でのインフルエンザウイルス感染の発症の延期;1匹のネコから1匹以上の他のネコまたは他の種へのインフルエンザウイルス感染の蔓延の開始の延期;個々のネコでのインフルエンザウイルス感染の抑制;1匹のネコから1匹以上の他のネコまたは他の種へのインフルエンザウイルス感染の蔓延の抑制;個々のネコでのインフルエンザウイルス感染の回復;1匹のネコから1匹以上の他のネコまたは他の種へのインフルエンザウイルス感染の蔓延の回復;個々のネコ内でのインフルエンザウイルス感染の減弱;1匹のネコから1匹以上の他のネコまたは他の種へのインフルエンザウイルス感染の蔓延の減弱;個々のネコ内でのインフルエンザウイルス感染の根絶;または1匹のネコから1匹以上の他のネコまたは他の種へのインフルエンザウイルス感染の蔓延の根絶が含まれる。他の種の非限定例にはヒト、ウマ、イヌ及び家禽が含まれる。
【0026】
本明細書中で使用されている場合、「ネコ流行性感冒」はネコでのインフルエンザ起因の流行性感冒を指す。本明細書中で使用されている「ネコ流行性感冒」はネコヘルペスウイルスまたはネコカリシウイルスに起因する流行性感冒を指さない。
【0027】
本明細書中で使用されている場合、「インフルエンザウイルス抗原」はH3、H7、N8またはN7−型インフルエンザウイルス(例えば、H3N8またはH7N7)由来の1つ以上のタンパク質もしくはペプチドまたは1つ以上の核酸を含む。インフルエンザウイルス抗原は、H3、H、N8またはN7インフルエンザウイルス由来の、全または部分インフルエンザウイルスビリオンもしくはインフルエンザウイルス様粒子をも含み得る。
【0028】
本明細書中で使用されている場合、「H3インフルエンザウイルス」または「H3型インフルエンザウイルス」は、他のタンパク質が属するクラスに関係なく、赤血球凝集素タンパク質がH3に属するとして分類されているインフルエンザ株(例えば、H3N8)を含む。本明細書中で使用されている場合、「H7インフルエンザウイルス」または「H7型インフルエンザウイルス」は他のタンパク質が属するクラスに関係なく、赤血球凝集素タンパク質がH7に属するとして分類されているインフルエンザ株(例えば、H7N7)を含む。本明細書中で使用されている場合、「N8インフルエンザウイルス」または「N8型インフルエンザウイルス」は、ノイラミニダーゼタンパク質がN8に属するとして分類されているインフルエンザ株(例えば、H3N8)を含む。本明細書中で使用されている場合、「N7インフルエンザウイルス」または「N7型インフルエンザウイルス」は、ノイラミニダーゼタンパク質がN7に属するとして分類されているインフルエンザ株(例えば、H7N7)を含む。H3、H7、N8またはN7インフルエンザウイルス由来の抗原は随伴H3、H7、N8またはN7−型インフルエンザウイルス由来の抗原であり得る。前記抗原は、赤血球凝集素またはノイラミニダーゼタンパク質(またはそのエピトープ領域)、またはインフルエンザ内に含まれる他のタンパク質であり得る。H3、H7、N8またはN7−型インフルエンザウイルスの抗原は、インフルエンザウイルスの全部または一部、及び赤血球凝集素、ノイラミニダーゼまたは他のインフルエンザウイルスタンパク質または生物学的構造物を含む。
【0029】
インフルエンザウイルス株A/イヌ/フロリダ/43/2004の特定抗原は、他の公知のイヌインフルエンザウイルス、ウマインフルエンザウイルス、H3またはH7−型インフルエンザウイルス、及びN8−またはN7−型インフルエンザウイルスの配列と高い相同性を示す。
【0030】
表1は、A/イヌ/フロリダ/43/2004として同定されるイヌインフルエンザウイルスと他のH3N8ウマ分離株(A/イヌ/フロリダ/242/2003分離株を含む)の赤血球凝集素(すなわち、HA)遺伝子、ノイラミニダーゼ(すなわち、NA)遺伝子及び核タンパク質(NP)遺伝子によりコードされるアミノ酸配列間の類似性を示す。表1に記載されている株は本発明に従ってネコワクチンとして有用である。
【0031】
【表1】

【0032】
本発明に従って使用され得るH3インフルエンザウイルス(または、その一部)の他の非限定例には、ウマ−2/ケンタッキー/93、ウマ−1/ペンシルバニア/63、ウマ/ウィスコンシン/03、ウマ/ケンタッキー/02、ウマ/ケンタッキー/93及びウマ/ニューマーケット2/93が含まれる。本発明に従って使用され得る他のH3インフルエンザウイルスの非限定例には、いずれも全文を参照により本明細書中に含まれるとする米国特許第6,177,082号、同第6,398,774号または同第6,436,408号に記載されているものが含まれる。いずれも全文を参照により本明細書中に含まれるとする2006年4月21日に出願された米国特許出願第11/409,416号及び2006年4月21日に出願された国際特許出願第PCT/US2006/015090号(WO 06/116082として公開)も本発明に従って有用なH3、H7、N8またはN7−型インフルエンザウイルスを記載している。
【0033】
しかしながら、他のH3、H7、N8またはN7−型インフルエンザウイルスも本発明に従って使用され得ると考えられる。
【0034】
HAは抗体応答を誘発し、NAは細胞応答を誘発すると考えられている。
【0035】
本発明によれば、ネコは、1つ以上の不活化(すなわち、死滅)及び/または生弱毒インフルエンザウイルスワクチン、または1つ以上のウイルス分離株由来のインフルエンザウイルス抗原を多数含むワクチンを用いて免疫化され得る。
【0036】
本発明に従って有用な不活化ワクチンの例は、Intervet Inc.(米国デラウェア州ミルスボロ)より液体ワクチンとして販売されているEQUICINE II(商標)ワクチンである。EQUICINE II(商標)ワクチンは、不活化A/ペンシルバニア/63インフルエンザウイルス(“A/Pa/63”)及びA/ウマ/ケンタッキー/93インフルエンザウイルス(“A/KY/93”)をカルボホール(すなわち、HAVLOGEN(登録商標)アジュバント(Intervet Inc.))と一緒に含む。
【0037】
本発明に従って有用な不活化ワクチンの別の例は、ウマインフルエンザウイルスA/ウマ/オハイオ/03(“Ohio 03”)である。幾つかの実施形態では、前記ワクチンはMVP Laboratories,Inc.(ネブラスカ州ラルストン)から市販されている乳化されたポリマーをベースとするアジュバントであるCARBIGEN(商標)アジュバントを含んでいる。前記ワクチンの場合、投与単位は典型的には少なくとも約250HA単位のウイルス、約250〜約12,500HA単位のウイルス、または約1000〜約6200HA単位のウイルスを含む。CARBIGEN(商標)アジュバントの推奨濃度は約5〜約30(質量)%である。
【0038】
生弱毒ワクチンは慣用の手段を用いて製造され得る。前記手段には、通常、例えばインビトロ継代による病原性株の修飾;寒冷順応;遺伝子操作による生物の病原性の修飾;キメラの作成;抗原のウイルスベクターへの挿入;非ビルレントな野生型株の選択;及び当業者に公知の他の方法が含まれる。
【0039】
幾つかの実施形態では、生弱毒ウイルス株は、野生型ウイルスを細胞培養、実験動物、非宿主動物または卵を用いて連続継代させることにより誘導される。継代中の遺伝子変異の蓄積により、典型的には生物の元宿主へのビルレンスが次第に失われる。
【0040】
幾つかの実施形態では、生弱毒ウイルス株は、許される細胞に弱毒化変異ウイルス及び病原性ウイルスを同時に感染させることにより作成される。こうして得られる所望の組換えウイルスは、病原性ウイルス由来の防御抗原をコードする遺伝子を有する弱毒化ウイルスの安全性を有している。
【0041】
幾つかの実施形態では、生弱毒ウイルス株は寒冷順応により作成される。寒冷順応されたウイルスは上気道で見られる温度でしか複製しないという利点を有している。寒冷順応されたウマインフルエンザウイルスの作成方法は米国特許第6,177,082号(全文が参照により本明細書に含まれるとする)に記載されている。こうして得られる所望の寒冷順応されたウイルスには以下の表現型:寒冷順応、温度感受性、優性干渉及び/または弱毒化の1つ以上が付与される。
【0042】
幾つかの実施形態では、生弱毒ウイルス株は、病原性ウイルスを元ウイルスの防御性を保存しながら元ウイルスに比して病原性がないか少ないウイルスに変換させるために、分子手段、例えば点突然変異、欠失または挿入により作成される。
【0043】
幾つかの実施形態では、生弱毒ウイルスは、防御抗原の遺伝子の候補を非病原性または弱病原性インフルエンザ、他のウイルスまたは他の生物のゲノムにクローン化することにより作成される。
【0044】
不活化(すなわち、死滅)ウイルスワクチンは慣用の方法を用いてウイルスを不活化することにより作成され得る。典型的には、前記ワクチンは、免疫応答を高め得る賦形剤及びワクチン中に慣用されている他の賦形剤を含む。例えば、以下の実施例において、EQUICINE II(商標)ワクチンはHAVLOGEN(登録商標)アジュバントを含んでいる。ウイルスの不活化は、ウイルスの複製能力を不能または低下させるべくウイルスを不活化薬品(例えば、ホルマリン、β−プロピオラクトン(“BPL”)、ブロモエチルアミン(“BEA”)及びバイナリーエチレンイミン(“BEI”))で、または非化学的方法(例えば、熱、凍結融解または音波処理)により処理することにより実施され得る。
【0045】
通常、ワクチンは治療有効量で投与される。「治療有効量」は、ネコ患者において標的ウイルスに対する防御応答を誘発させるのに十分な量である。典型的には、用量がインフルエンザまたは1つ以上(典型的には、2つ以上)のその症状を予防する、そのリスクを低下させる、その発症を遅らす、その蔓延を縮小する、回復させる、抑制させるまたは根絶させるならば、その用量は「治療有効」である。典型的なインフルエンザ症状には、例えば発熱(ネコの場合、典型的には≧103.0°F;≧39.4℃)、咳、くしゃみ、組織病理学的病変、眼脂、鼻汁、嘔吐、下痢、抑鬱、体重減少、吐瀉物がない嘔吐、喀血及び/または可聴ラ音が含まれる。他のしばしばより重症な症状には、例えば肺、縦隔または胸腔での出血;気管炎;気管支炎;細気管支炎;支持的気管支肺炎;及び/または肺の上皮内層及び気道内腔の好中球及び/またはマクロファージの浸潤が含まれる。
【0046】
このワクチンは併用治療の一部として投与されてもよい。すなわち、治療は、このワクチンそのものに加えて1つ以上の追加活性物質、アジュバント、治療薬等の投与を含む。この場合、治療有効量を構成するワクチンの量は、ワクチンを単独で投与した場合に治療有効量を構成するワクチンの量よりも多くても少なくてもよいと認識されるべきである。他の治療には当業界で公知のもの、例えば抗ウイルス剤投薬、鎮痛剤、解熱剤投薬、去痰剤、抗炎症剤投薬、抗ヒスタミン剤、インフルエンザウイルス感染により生ずる細菌感染を治療するための抗生物質、休息及び/または流体の投与が含まれ得る。幾つかの実施形態では、本発明のワクチンを鼻気管炎ワクチン、カリシウイルスワクチン、汎白血球減少症ワクチン、クラミジアワクチン、百日咳ワクチン、免疫不全症ウイルスワクチン、白血病ウイルスワクチンまたは狂犬病ワクチンと一緒に投与する。
【0047】
幾つかの実施形態では、例えば生弱毒ワクチンの典型的な用量は、約10pfu/ネコまたはそれ以上、より典型的には約10〜約10pfu/ネコである。本明細書中、“pfu”はプラーク形成単位を意味する。幾つかの実施形態では、生弱毒ワクチンの典型的な用量は、約10TCID50/ネコ以上、より典型的には約10〜約10TCID50/ネコである。幾つかの実施形態では、生弱毒ワクチンの典型的な用量は、約10EID50/ネコ以上、より典型的には約10〜約10EID50/ネコである。幾つかの実施形態では、死滅ワクチンの典型的な用量は、約40HA単位以上、典型的には約40〜約10,000HA単位、より典型的には約500〜約6200HA単位である。幾つかの実施形態では、この用量は約6100〜約6200HA単位である。
【0048】
幾つかの好ましい実施形態では、このワクチンは、生弱毒ワクチンを免疫原性レベルよりも少なくとも約100.5pfu/ネコ高い濃度で含む。幾つかの好ましい実施形態では、このワクチンは、生弱毒ワクチンを免疫原性レベルよりも少なくとも約100.5TCID50/ネコ高い濃度で含む。幾つかの好ましい実施形態では、このワクチンは、生弱毒ワクチンを免疫原性レベルよりも少なくとも約100.5EID50/ネコ高い濃度で含む。
【0049】
免疫原性レベルは、当業界で通常公知のチャレンジ用量滴定研究技術を用いて実験的に決定され得る。前記技術は、典型的には多数のネコに異なる用量のワクチンを予防接種した後、ネコをビルレントウイルスでチャレンジして最低防御用量を決定することを含む。
【0050】
好ましい投与レジメンに影響を与える因子の例には、被験者のタイプ(例えば、種及び品種)、年齢、体重、性別、食餌、活動度、肺の大きさ及び状態;投与経路;使用する具体的なワクチンの有効性、安全性及び免疫の持続期間プロフィール;送達システムを使用するか;及びワクチンを薬物及び/またはワクチン併用の一部としてするかが含まれ得る。よって、実際使用される用量は特定の動物毎に異なり得、従って上記した典型的な用量からはずれてもよい。前記用量の調節は通常の方法を用いて当業者がなし得る。更に、生弱毒ウイルスは通常自己増殖性であり、よって投与されるウイルスの具体的な量は必ずしも臨界的でないことに注目すべきである。
【0051】
ワクチンをネコ患者に対して1回投与しても、或いは数日間、数週間、数ヶ月または数年間に2回以上投与してもよいと考えられる。幾つかの実施形態では、ワクチンを少なくとも2回投与する。幾つかの前記実施形態では、例えばワクチンを2回投与し、第2回用量(例えば、追加免疫)を第1回から少なくとも約2週間後に投与する。幾つかの実施形態では、ワクチンを2回投与し、第2回用量を第1回から約8週間以内に投与する。幾つかの実施形態では、第2回用量を第1回投与から約2週間〜約4年後、第1回投与から約2〜約8週間後、または第1回投与から約3〜約4週間後に投与する。幾つかの実施形態では、第2回用量を第1回投与から約4週間後に投与する。上記実施形態において、第1回及びその後の投与は例えば量及び/または形の点で異なり得る。しかしながら、多くの場合、投与は量及び形に関して同じである。1回しか投与しない場合、その用量中のワクチンの量は通常治療有効量のワクチンを含む。しかしながら、2回以上投与するときには、これらの用量中のワクチンの量はまとめて治療有効量を構成し得る。
【0052】
幾つかの実施形態では、ネコレシピエントがインフルエンザに感染する前にワクチンを投与する。前記実施形態では、ワクチンを例えばインフルエンザまたは1つ以上(典型的には、2つ以上)のインフルエンザの症状の発症を予防する、そのリスクを減らす、またはその発症を遅らすために投与し得る。
【0053】
幾つかの実施形態では、ネコレシピエントがインフルエンザに感染した後にワクチンを投与する。前記実施形態では、ワクチンは例えばインフルエンザまたは1つ以上(典型的には、2つ以上)のインフルエンザの症状を回復、抑制または根絶させ得る。
【0054】
ワクチンの好ましい組成は、例えばワクチンが不活化ワクチン及び/または生弱毒ワクチンであるかに依存する。ワクチンの投与方法にも依存する。ワクチンは1つ以上の慣用されている医薬的に許容され得る担体、アジュバント、他の免疫応答強化剤及び/またはビヒクル(総称して、“賦形剤”と称する)を含むと考えられる。前記賦形剤は通常ワクチン中の活性成分と適合性であるように選択される。賦形剤の使用は通常当業者に公知である。
【0055】
用語「医薬的に許容され得る」は、修飾される名詞が医薬品中に使用するために適していることを意味するべく形容詞的に使用される。例えば医薬ワクチン中の賦形剤を指すために使用されている場合、該賦形剤が組成物の他の成分と適合性であり、意図するレシピエントのイヌに対して有害でないとして特徴づける。
【0056】
このワクチンは、例えば粘膜投与(例えば、鼻腔内、経口、気管内及び眼内)及び非経口投与(例えば、非限定的に皮下または筋肉内投与)を含めた慣用手段により投与され得る。このワクチンを(非限定的に、皮膚パッチを用いるまたは局所投与を含めた)皮内または経皮投与してもよい。粘膜投与はしばしば生弱毒ワクチンに対して特に有利である。非経口投与はしばしば不活化ワクチンに対して特に有利である。
【0057】
粘膜ワクチンは、例えば医薬的に許容され得るエマルジョン剤、溶液剤、懸濁液剤、シロップ剤及びエリキシル剤のような液体剤形であり得る。前記ワクチンのために適当な賦形剤の例には当業界で慣用されている不活性希釈剤、例えば水、生理食塩液、デキストロース、グリセロール、ラクトース、スクロース、デンプン末、アルカン酸のセルロースエステル、セルロースアルキルエステル、タルク、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、酸化マグネシウム、リン酸及び硫酸のナトリウム及びカルシウム塩、ゼラチン、アカシアガム、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン及び/またはポリビニルアルコールが含まれる。賦形剤には各種湿潤剤、乳化剤、懸濁剤、矯味矯臭剤(例えば、甘味剤)及び/または芳香剤も含まれる。
【0058】
経口粘膜ワクチンは、例えば通常の投与のために錠剤化またはカプセル化され得る。前記カプセル剤または錠剤は徐放性製剤を含み得る。カプセル剤、錠剤またはピル剤の場合、剤形は緩衝剤(例えば、クエン酸ナトリウム、炭酸マグネシウムまたはカルシウム、或いは炭酸水素マグネシウムまたはカルシウム)を含み得る。錠剤及びピル剤に追加的に腸溶性コーティングを被せてもよい。
【0059】
ワクチンをネコ患者の飲料水及び/または食物を介して投与してもよいと考えられる。更には、ワクチンをご馳走または玩具の形態で投与してもよいとも考えられる。
【0060】
「非経口投与」には皮下注射、粘膜下注射、静脈内注射、筋肉内注射、胸骨内注射及び注入が含まれる。注射剤(例えば、滅菌注射可能な水性または油性懸濁液剤)は、適当な賦形剤(例えば、ビヒクル、溶媒、分散剤、湿潤剤、乳化剤及び/または懸濁剤)を用いて公知の技術に従って製造化され得る。これらの例には、典型的には水、生理食塩液、デキストロース、グリセロール、エタノール、コーン油、綿実油、落花生油、ゴマ油、ベンジルアルコール、ベンジルアルコール、1,3−ブタンジオール、リンゲル液、等張性塩化ナトリウム溶液、無刺激性固定油(例えば、合成モノ−またはジグリセリド)、脂肪酸(例えば、オレイン酸)、ジメチルアセトアミド、界面活性剤(例えば、イオン性及びノニオン性洗剤)、プロピレングリコール及び/またはポリエチレングリコールが含まれる。賦形剤の例には少量の他の補助物質(例えば、pH緩衝剤)も含まれる得る。
【0061】
ワクチンは、ネコ患者の免疫応答(抗体応答及び/または細胞応答が含まれ得る)を強化して、ワクチンの有効性を高める賦形剤を1つ以上含み得る。前記賦形剤(すなわち、“アジュバント”)を使用することは不活化ワクチンを使用するときに特に有利であり得る。アジュバントは、ネコ患者の免疫系の細胞に対して直接的効果(例えば、サイトカインまたはカルメット−ゲラン桿菌(“BCG”))または間接的効果(リポソーム)を有する物質であり得る。しばしば適当なアジュバントの例には、油(例えば、鉱油)、金属塩(例えば、水酸化アルミニウムまたはリン酸アルミニウム)、細菌成分(例えば、細菌性リポサッカライド、フロイントのアジュバント及び/またはMDP)、植物成分(例えば、Quil A)、及び/または1つ以上の担体作用を有する物質(例えば、ベントナイト、ラテックス粒子、リポソーム及び/またはQuil A,ISCOM)が含まれる。上記したように、アジュバントの例にはCARBIGEN(商標)アジュバント及びカルボポールも含まれる。本発明がアジュバントを含むワクチン及びアジュバントを含まないワクチンの両方を包含することを認識されるべきである。
【0062】
ワクチンを貯蔵のために凍結乾燥(または、他の方法で液体容量を減量)した後、投与前または投与時に液体中で再構成してもよいと考えられる。前記再構成は、例えばワクチングレードの水を用いてなされ得る。
【0063】
本発明は更に、上記した方法を実施する際に使用するために適したキットを含む。前記キットは上記したワクチンを含む投与形態を含む。前記キットは少なくとも1つの追加コンポーネント及び典型的にはワクチンを追加コンポーネントと一緒に使用するための説明書をも含む。追加コンポーネントの例は、投与前または投与中にワクチンと混合され得る1つ以上の追加成分(例えば、1つ以上の上記賦形剤、食物及び/またはご馳走)であり得る。追加コンポーネントは、代替(または追加)として1つ以上のネコ患者に対してワクチンを投与するための器具を含む。前記器具の例は、注射器、吸入器、ネブライザー、ピペット、鉗子、または医学的に許容され得る送達ビヒクルであり得る。幾つかの実施形態では、器具はワクチンを皮下投与するために適している。幾つかの実施形態では、器具はワクチンを鼻腔内投するために適している。
【0064】
製薬業界または生物学界で公知の他の賦形剤及び投与モードも使用され得る。
【0065】
実施例
下記実施例は単なる例示であって、本発明の開示の残りを決して限定するものではない。
【0066】
下記実施例では、A/イヌ/フロリダ/242/2003をチャレンジウイルスとして使用した。このウイルスはA/イヌ/フロリダ/43/2004分離株と約99%の相同性を有していることは公知であり(表1参照)、ネコにおいて感染及び抗体陽転の症状を誘発することが判明している。実施例2は、ネコにおけるイヌインフルエンザワクチンの有効性を説明し、CARBIGEN(商標)アジュバントを含むワクチン組成物中の不活化A/イヌ/フロリダ/43/2004抗原を予防接種されたネコでの赤血球凝集阻止(すなわち、“HI”または“HAI”)価を示す。表7は、予防接種前、予防接種後及び第2回予防接種後、並びにチャレンジ後のHI価を示す。これらの結果は予防接種を受けたネコについて予防接種後の各段階のHI価を示し、対照では殆どまたは全く上昇しなかった。表8は、同研究からのウイルス分離の結果を示す。チャレンジした動物は臨床兆候、ウイルス排出または正の組織病理を示さなかったが、正のHI価(表7)は免疫化動物における有意な抗体価を示している。
【0067】
他のイヌインフルエンザウイルス抗原ワクチン、ウマインフルエンザウイルス抗原ワクチン、H3またはN8インフルエンザウイルス抗原ワクチンも本発明に包含されることを留意すべきである。本発明に従って有用な他のインフルエンザウイルス抗原の非限定例は表1に示すウイルス株に由来するものである。本明細書及び下記実施例中に記載されている抗原は本発明及び好ましい実施形態を例示するために挙げられており、特許請求されている発明の範囲を限定するものではない。
【0068】
更に、H3インフルエンザウイルス抗原以外のインフルエンザ抗原が本発明に従って使用され得ることにも留意すべきである。前記抗原の非限定例には、ウマAlサブタイプ(H7N7)であるウマ/PA/63由来のものが含まれる。前記抗原の1つ以上をそのまま、または1つ以上のH3インフルエンザ抗原と一緒に使用してもよいと考えられる。
【実施例1】
【0069】
ネコインフルエンザチャレンジモデルの開発
本実施例は、ネコがH3N8インフルエンザウイルスに感受性であることを示し、ネコインフルエンザワクチンの有効性を調べるために有用なチャレンジモデルを作成する。
【0070】
手順:市販業者から購入した14匹の13週齢ネコを無作為に4群に割り当てた(表2)。14週齢で、第1群及び第2群のネコを鶏卵増殖させたイヌインフルエンザ(A/イヌ/フロリダ/242/2003)ウイルスでチャレンジした。各ネコに2mlの容量で全部で約107.0TCID50のウイルスを与えた。偽チャレンジのために、ネコを2mlのウイルス非含有尿膜腔液でチャレンジした。
【0071】
気管内チャレンジのために、カフ付気管チューブ(サイズ2.5,米国のRusch,Teleflex Medical)及び栄養チューブ(サイズ5Fr,1.7mm,長さ/16インチ,米国のKendall)から構成されている送達チューブを用いてまず2mlのチャレンジウイルス(第1群)またはウイルス非含有尿膜腔液(第3群)を気管に投与した後、2mlのPBSを投与した。
【0072】
口腔鼻チャレンジのために、2mlのチャレンジウイルス(第2群)または2mlのウイルス非含有尿膜腔液(第4群)をネブライザーを用いてミストとして投与した。ネコをチャレンジから16日間インフルエンザ関連の臨床兆候について観察した。すべてのネコに標準の成長食餌を与え、水は自由に与えた。
【0073】
【表2】

【0074】
ウイルスを分離するために、鼻スワブ及び口咽頭スワブをチャレンジから−2日目(すなわち、チャレンジの2日前)〜14日目の間毎日2mlのウイルス輸送培地を含んでいるチューブに採取した。少し改変したが(ウマインフルエンザウイルスの代わりにイヌインフルエンザウイルス)SAM 124(アイオワ州アメスに所在のUSDA)に記載されている赤血球凝集阻止(HI)アッセイ及び酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)によりイヌインフルエンザウイルス抗体価を測定するために、血液サンプルを0日目(チャレンジ前)、チャレンジから7日目及び14日目に採取した。チャレンジ後の臨床兆候は毎日記録した。ネコは1〜14日目の間臨床兆候について観察した。研究が終了したら、ネコはすべて安楽死させ、組織病理学的に評価するために組織サンプルを採取した。
【0075】
結果:体温の高い(>103°F)列が少数散発的に観察された以外、いずれのチャレンジ方法によってもウイルスチャレンジした後でもインフルエンザ関連兆候は全く観察されなかった。チャレンジ後、気管内的にチャレンジした5匹のネコのうちの1匹及び口腔鼻的にチャレンジした5匹のネコのうちの0匹が表3に示すように測定可能なHI価を有していた。一方、ELISA方法によると、気管内的にチャレンジした5匹のネコのうち4匹(第1群)及び口腔鼻的にチャレンジした5匹のネコのうちの5匹(第2群)が表3に示すように偽チャレンジ群(<400)よりも高いELISA価を有していた。
【0076】
ウイルス分離の結果を表4及び5に示す。ビルレントなイヌインフルエンザウイルスをチャレンジした後、イヌインフルエンザウイルスが第1群(気管内)の5匹のネコのうち1匹(20%)及び第2群(口腔鼻)の5匹のネコのうち5匹(100%)から分離された。第3群のネコからも第4群のネコからもウイルスは分離されなかった。チャレンジの気管内及び口腔鼻経路の間でウイルス(ウイルス分離株)を排出するネコの%に有意な差(P=0.048)があった(20%対100%)。
【0077】
結論:本研究の結果から、
1)ネコをH3N8インフルエンザウイルスに曝すと、ネコは高感度ELISAアッセイにより測定され得た抗−H3N8インフルエンザウイルス抗体を産生したこと;
2)ネコはH3N8インフルエンザウイルス感染に対して感受性であり、チャレンジから1〜4日目に鼻/口腔分泌物中にチャレンジウイルスを排出したこと;及び
3)チャレンジの経路(口腔鼻対気管内)はウイルス排出に対して有意な(P=0.048)影響を有していること;
が立証される。
【0078】
【表3】

【0079】
【表4】

【0080】
【表5】

【実施例2】
【0081】
ネコにおけるH3N8ウイルスワクチンの有効性
以下の研究において、ネコにおけるH3N8ウイルスワクチンの有効性を調べた。
【0082】
手順:市販業者から購入した12匹の7週齢ネコを無作為に2群に割り当てた(表6)。8及び12週齢で、10匹のネコ(第1群)に不活化のCARBIGEN(商標)アジュバントを含むイヌインフルエンザウイルス(A/イヌ/フロリダ/43/2004)ワクチンを皮下経路により予防接種した。ワクチンを作成するために、A/イヌ/フロリダ/43/2004ウイルスを標準方法を用いてバイナリーエチレンイミン(“BEI”)により不活化した。ワクチンの各用量は、5質量%のCARBIGEN(商標)アジュバント、約1280HA単位の不活化ウイルス、投与の全容量を1mlとするのに十分なPBS、及びpHを7.2〜7.4に調節するのに十分なNaOHを含んでいた。第2群の10匹のネコに皮下経路により1mlのPBSを偽予防接種した。H3N8ウマインフルエンザウイルス標準プロトコル(アイオワ州アメスに所在のSupplemental Assay Method(SAM)124,CVB,USDA)を用いてHI価を測定するために、第1回及び第2回予防接種日、第1回及び第2回予防接種から7日目及び14日目にすべてのネコから血清サンプルを採取した。すべてのネコに標準の成長食餌を与え、水は自由に与えた。
【0083】
【表6】

【0084】
予防接種を受けたネコ及び年齢整合させた対照ネコのすべてを第2回予防接種から2週間目にビルレントなイヌインフルエンザウイルス(ネコ1匹あたり107.2TCID50のA/イヌ/フロリダ/242/2003)で口腔鼻的にチャレンジした。チャレンジウイルスをネブライザーを用いてミスト(2ml/ネコ)として投与した。ネコをチャレンジから14日間インフルエンザ関連臨床兆候について観察した。鼻スワブ及び口咽頭スワブをチャレンジから−2日目(すなわち、チャレンジの2日前)〜14日目の間毎日ウイルス分離のために2mlのウイルス輸送培地を含んでいるチューブに採取した。HI価を測定するために、血液サンプルをチャレンジから7日目及び14日目に採取した。ネコは1〜14日目の間インフルエンザ臨床兆候について観察した。研究が終了したら、ネコはすべて安楽死させ、組織病理学的に評価するために組織サンプルを採取した。
【0085】
結果:血清HI価の結果を表7に示す。予防接種を受けたネコ(第1群)はすべて不活化イヌインフルエンザウイルス(H3N8)ワクチンに対するHI抗体価を生じ、対照はすべてチャレンジ前の負のHI抗体(<10)のままである。チャレンジ後、予防接種を受けたネコ及び対照ネコのいずれにおいても体温の高い(>103°F)例が少数散発的に観察された。他のインフルエンザ関連兆候はウイルスチャレンジ後全く観察されなかった。
【0086】
チャレンジ後の観察期間中、第1群(予防接種)の10匹のネコのうちの0匹及び第2群(対照)の10匹のネコのうちの8匹がチャレンジ後最初の7日間中の1〜3日の間に鼻分泌物及び/または口腔分泌物中にウイルスを排出した(表8)。ネコにイヌインフルエンザウイルスワクチンを予防接種するとネコの100%でH3N8ウイルス排出が防止された(表9)。
【0087】
結論:本研究の結果から、
1)予防接種を受けたネコはすべてH3N8型イヌインフルエンザウイルスワクチンを予防接種後HI抗体を生じたこと;
2)チャレンジ後、すべてのネコでHI抗体価の少なくとも2倍の増加が見られたこと;及び
3)ネコにイヌインフルエンザウイルス(H3N8)ワクチンを予防接種すると、ネコの100%でイヌインフルエンザチャレンジウイルスの発生が防止されたこと;
が立証される。
【0088】
【表7】

【0089】
【表8】

【0090】
【表9】

【0091】
請求の範囲を含めた明細書中の単語「含む」は、排他的ではなくむしろ包括的に解釈されるべきである。この解釈はこれらの単語が米国特許法に記載されている解釈と同じであると意図される。
【0092】
好ましい実施形態の上記した詳細説明は、具体的使用の要件に最もうまく適合させるべく当業者が本発明を各種形態で改変し、適用し得るように当業者に本発明、その原理及びその実際の用途を理解させるためにのみ意図されている。従って、本発明は上記実施形態に限定されず、さまざまに改変され得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネコに対して治療有効量の
i)少なくとも1つのH3−、H7−、N8−またはN7−型インフルエンザウイルス抗原、及び
ii)少なくとも1つの医薬的に許容され得る賦形剤
を含むワクチンを投与することを含むネコをインフルエンザウイルス感染から防御する方法。
【請求項2】
H3−、H7−、N8−またはN7−型インフルエンザウイルス抗原が1つ以上の不活化ウイルスを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
H3−、H7−、N8−またはN7−型インフルエンザウイルス抗原が
i)1つ以上の生弱毒ウイルス、
ii)1つ以上の組換えウイルス、
iii)1つ以上のウイルス様粒子、
iv)1つ以上の欠陥ウイルス粒子、及び
v)1つ以上の抗原をコードする核酸
からなる群からの1つ以上を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
ワクチンが1つ以上のウイルス分離株由来の、H3−、H7−、N8−またはN7−型インフルエンザウイルス抗原を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
ワクチンが少なくとも1つのH3、N8またはH3N8インフルエンザウイルス由来の抗原を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
ワクチンが皮下、筋肉内、皮内、経皮、眼内、粘膜または経口投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
ワクチンが鼻腔内投与される請求項1に記載の方法。
【請求項8】
ワクチンがネコに1回または複数回投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
ワクチンが、鼻気管炎ワクチン、カリシウイルスワクチン、汎白血球減少症ワクチン、クラミジアワクチン、百日咳ワクチン、ネコ免疫不全症ウイルスワクチン、ネコ白血病ワクチンまたは狂犬病ウイルスワクチンからなる群から選択される少なくとも1つのワクチンと一緒に投与される請求項1に記載の方法。
【請求項10】
ネコに治療有効量の
i)少なくとも1つのH3−、H7−、N8−またはN7−型インフルエンザウイルス抗原、及び
ii)少なくとも1つの医薬的に許容され得る賦形剤
を含むワクチンを投与することを含む、ネコをインフルエンザウイルスに起因する呼吸器病変から防御する方法。
【請求項11】
ワクチンが、ネコがインフルエンザウイルスに感染する前にネコに投与される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
ネコをインフルエンザウイルスに起因する肺病変から防御することを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
ネコに治療有効量の
i)少なくとも1つのH3−、H7−、N8−またはN7−型インフルエンザウイルス抗原、及び
ii)少なくとも1つの医薬的に許容され得る賦形剤
を含むワクチンを投与することを含むネコがインフルエンザウイルス感染に起因して鼻または口腔分泌物中にインフルエンザウイルスを有するのを防御する方法。
【請求項14】
ワクチンが、ネコがインフルエンザウイルスに感染する前にネコに投与される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
i)治療有効量の少なくとも1つのH3−、H7−、N8−またはN7−型インフルエンザウイルス抗原、及び
ii)少なくとも1つの医薬的に許容され得る賦形剤
を含むネコインフルエンザワクチン。
【請求項16】
ウイルス抗原が1つ以上の不活化ウイルスを含む、請求項15に記載のワクチン。
【請求項17】
ウイルス抗原が
i)1つ以上の生弱毒ウイルス、
ii)1つ以上の組換えウイルス、
iii)1つ以上のウイルス様粒子、
iv)1つ以上の欠陥ウイルス粒子、及び
v)1つ以上の抗原をコードする核酸
からなる群からの1つ以上を含む、請求項15に記載のワクチン。
【請求項18】
治療有効量の少なくとも1つのH3−、H7−、N8−またはN7−型インフルエンザウイルス抗原を含むワクチン;及び
前記ワクチンをネコに対して投与するための器具、前記ワクチンをネコに対して投与するのを助ける医薬的に許容され得る賦形剤、前記ワクチンに対するネコの免疫応答を強化する医薬的に許容され得る賦形剤、ネコが前記ワクチンと同時に消費する食物、及びネコが前記ワクチンと同時に消費するご馳走からなる群から選択される少なくとも1つのコンポーネント;
を含む、ネコをインフルエンザウイルス感染から防御するためのキット。
【請求項19】
キットがワクチンをネコに対して皮下、筋肉内、皮内、経皮、眼内、粘膜または経口投与するための器具を含む、請求項18に記載のキット。
【請求項20】
キットがワクチンをネコに対して鼻腔内投与するための器具を含む、請求項18に記載のキット。

【公表番号】特表2010−508291(P2010−508291A)
【公表日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−534858(P2009−534858)
【出願日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際出願番号】PCT/US2007/082537
【国際公開番号】WO2008/070332
【国際公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【出願人】(506196247)インターベツト・インターナシヨナル・ベー・ベー (85)
【Fターム(参考)】