説明

ネジ軸の製造方法及び電動パワーステアリング用ネジ軸

【課題】歩留まりのよいネジ軸の製造方法及び電動パワーステアリング用ネジ軸を提供する。
【解決手段】二つの製品2、2の軸長の和に略等しい長さの円柱状素材1の軸方向中央部にのみ、前記二つの製品2、2の必要ネジ長さの和より長い範囲の転造を行い、前記二つの製品の軸長に相当する位置で転造を施した円柱状素材を分割することで、一回の分割工程によって、軸端部に完全ネジ部7’を有した製品2が二つ形成されるため、加工コストを抑え、歩留まりを向上させることができる。また、前記転造部3を転造ダイスの長さの二倍と前記二つの製品の必要ネジ長さの和に略等しい範囲とすることで、転造部両端の転造ダイスが通過しない部分に形成される不完全ネジ部6を除いた完全ネジ部7にて、二つの製品の必要ネジ長を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一端に非ネジ部を有するネジ軸の製造方法に関するものであり、特に電動パワーステアリング用ネジ軸を製造するのに好適なものである。
【背景技術】
【0002】
ボールネジなどのように一端に非ネジ部を有するネジ軸の製造方法としては、例えば下記特許文献1に記載されるように、必要とされるネジ範囲にだけ部分的にネジの転造をおこなうことにより、切断などの加工工程が不要となり、安価なネジ軸を提供できることが提案されている。しかしながら、下記特許文献2には、前記特許文献1によるネジ軸の製造方法では、ネジ部の軸端部に不完全ネジ部が形成されるため、組付け性が悪く、生産性に問題があることが指摘される。そこで、この問題を解決すべく、前記特許文献2では、前記特許文献1のようにして形成されたネジ部の軸端部不完全ネジ部を後工程で切断除去することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2007−504408号公報
【特許文献2】特許第3938430号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記特許文献2に記載されるネジ軸製造方法では、ネジ部軸端部にできる不完全ネジ部を除去するために、ネジ軸製品一つあたりに少なくとも一回の切断除去工程は必要となり、歩留まりの改善余地がある。
本発明は、上記のような問題点に着目してなされたものであり、歩留まりのよいネジ軸の製造方法及び電動パワーステアリング用ネジ軸を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明のネジ軸の製造方法は、二つの製品の軸長の和に略等しい長さの円柱状素材の軸方向中央部にのみ、前記二つの製品の必要ネジ部長さの和より長い範囲の転造を行い、前記二つの製品の軸長に相当する位置で前記転造を施した円柱状素材を分割することを特徴とするものである。
なお、前記製品とは、ネジ溝転造加工の完了品を指し、熱処理やラック加工、軸端加工等の後工程を有するものを含む。即ち、前記二つの製品とは、前記分割施した後のネジ軸の状態である。
【0006】
また、前記転造の範囲は、転造ダイスの長さの二倍と前記二つの製品の必要ネジ長さの和に略等しい範囲であることを特徴とするものである。
また、本発明の電動パワーステアリング用ネジ軸は、前記ネジ軸の製造方法でネジ軸を製造し、当該ネジ軸の非ネジ部にラックが形成されてなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
而して、本発明のネジ軸の製造方法によれば、二つの製品の軸長の和に略等しい円柱状素材の軸方向中央部にのみ、前記二つの製品の必要ネジ長さの和より長い範囲の転造を行い、前記二つの製品の軸長に相当する位置で前記転造を施した円柱状素材を分割することで、一回の分割工程によって、軸端部に完全ネジ部を有した製品が二つ形成されるため、加工コストを抑え、歩留まりを向上させることができる。
また、前記転造の範囲を転造ダイスの長さの二倍と前記二つの製品の必要ネジ長さの和に略等しい範囲とすることで、転造部両端の転造ダイスの全体が通過しない部分に形成される不完全ネジ部を除いた完全ネジにて、二つの製品の必要ネジ長さを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明のネジ軸の製造方法の一実施形態を示す説明図である。
【図2】本発明の電動パワーステアリング用ネジ軸の一実施形態を示す電動パワーステアリング装置の一部断面図である。
【図3】図2の電動パワーステアリング装置に使用された電動パワーステアリング用ネジ軸の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
次に、本発明のネジ軸の製造方法の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態のネジ軸の製造方法の工程図である。図1aは転造前の円柱状素材1を示す。一般に円柱状素材1は、鋼などの金属からなる。図1bは、転造工程完了品を示す。図1cは、ネジ軸としての製品2、2を示す。なお、図1は、二つの製品2、2が同一の場合を示しており、以後の説明は二つの製品が同一のものについて行う。
図1aの円柱状素材1は、二つの製品2の軸長の和に略等しい長さを有する。また、前記円柱状素材1の長さには、切断代や転造による伸び、熱処理による縮みなどが考慮されている。なお、前記二つの製品が同一のものである場合には、当然ながら、円柱状素材1の長さは製品2の軸長の二倍に相当する。
【0010】
図1bは、本実施形態の転造工程を示したものである。図中矢印は、転造ダイス5の移動軌跡の例を示す。転造ダイス5、5を用いて、前記円柱状素材1の軸方向中央部にのみ転造を行う場合、円柱状素材1の一端より軸方向中央側で円柱状素材1に転造ダイス5、5を接近、当接し、所定の圧力で転造ダイス5、5を円柱状素材1に押し付け、両者を回転させながら転造ダイス5、5を円柱状素材1の軸方向に所定の速度で相対移動させ、所定範囲の転造が完了したら、円柱状素材1の他端より軸方向中央側で円柱状素材1から転造ダイス5、5を離間する。この転造工程により、転造完了後の円柱状素材1’の軸方向中央部に転造部3が、軸両端に非転造部4、4が残った状態となり、転造部3の軸方向中央部には完全ネジ部7が、軸方向両端には、転造ダイス5、5の当接、離間に伴う不完全ネジ部6、6が形成される。即ち、円柱状素材1’は軸方向一端(図左側)から“非転造部4−不完全ネジ部6−完全ネジ部7−不完全ネジ部6−非転造部4”というネジ軸となる。
【0011】
次に、図1cに示すように、円柱状素材1’を製品2の軸長に相当する位置(本例の場合は円柱状素材1’の軸方向中央)で分割し、図左側から“非転造部4−不完全ネジ部6−完全ネジ部7’”、“完全ネジ部7’−不完全ネジ部6−非転造部4”という、一端に完全ネジ部7’、7’を、他端に非転造部4、4を有した二つの製品2、2を得る。なお、円柱状素材1’の分割には、例えばカッターによる切断などが適用される。
【0012】
ここで、本実施形態では、前記転造部3を前記二つの製品2、2の必要ネジ長さの和より長い範囲を転造し、転造部3を分割することで二つの製品2、2に必要なネジ部(図1cの完全ネジ部7’)の長さ、即ち必要ネジ長さを得ることを可能としている。
更に、前記転造部3を、“転造ダイス5の長さ×2+前記必要ネジ長さの和”に略等しい範囲とすることで、転造ダイス5、5の当接、離間に伴い形成される不完全ネジ部6に関係なく、製品2の必要ネジ長さを完全ネジ部7’で形成することが容易となる。
【0013】
この際に、本発明のネジ軸の製造方法によれば、二つの製品2、2の軸長の和に略等しい長さの円柱状素材1の軸方向中央部にのみ、前記二つの製品の必要ネジ長さの和より長い範囲の転造を行い、前記二つの製品2、2の軸長に相当する位置で転造を施した円柱状素材1’を分割することで、一回の分割工程によって、軸端部に完全ネジを有した製品2、2が二つ形成されるため、加工コストを抑え、歩留まりを向上させることができる。
また、転造部3を、“転造ダイス5の長さ×2+前記必要ネジ長さの和”に略等しい範囲とすることで、転造ダイス5、5の当接、離間に伴い形成される不完全ネジ部6を除いた完全ネジ部7’にて、製品の必要ネジ長さを得ることができる。
【0014】
次に、本発明の電動パワーステアリング用ネジ軸の一実施形態について、図面を用いて説明する。図2は、本実施形態に係る電動パワーステアリング装置のステアリングギヤの一部断面図である。同図において、ステアリングギヤケースを構成するラック&ピニオンハウジング21内には、ラック&ピニオン機構を構成するラックシャフト23や図示しないピニオンが内装され、ピニオンはロアシャフト22に連結されている。ラックシャフト23は、ピニオンに噛合するラック25が図の左方に形成されていると共に、両端部には、タイロッド15を揺動自在に支持する球面継手27が固定されている。本実施形態の電動パワーステアリング用ネジ軸は、このラックシャフト23に使用されている。
【0015】
ラック&ピニオンハウジング21の図示右方端部には、ボールネジハウジング33が取付けられている。ボールネジハウジング33には、その下部に電動モータ35の前端がボルトで固定されると共に、電動モータ35のシャフトに固定されたドライブギヤ37と、そのドライブギヤ37に噛合するドリブンギヤ39とが収納されている。また、ボールネジハウジング33には、複列アンギュラ玉軸受を介して、ボールナット45が回転自在に保持されている。
【0016】
ボールナット45はドリブンギヤ39の内径内に収納されている。そして、ドリブンギヤ39の軸心内径側と、ボールナット45の外径側との間には、スプライン嵌合部61が設けてある。これにより、ドリブンギヤ39とボールナット45とは、自由に相対摺動することができる。
ラックシャフト23の図示右方には雄ボールネジ溝(ネジ部)51が形成される一方、ボールナット45には雌ボールネジ溝53が形成され、雄ボールネジ溝51と雌ボールネジ溝53との間には、循環ボールを構成する多数個の鋼球55が介装されている。また、ボールナット45には、鋼球55を循環させるための図示しない循環コマが装着されている。
【0017】
この電動パワーステアリング装置では、運転者によってステアリングホイールが操舵されると、その操舵力がロアシャフト22からピニオンに伝達され、それに噛合するラック25に伴ってラックシャフト23が図の左右の何れかの方向に移動し、左右のタイロッドを介して転舵輪が転舵する。同時に、図示しない操舵トルクセンサの出力に基づき、電動モータ35が正逆何れかの方向に所定の回転トルクをもって回転し、その回転トルクがドライブギヤ37、ドリブンギヤ39を介してボールナット45に伝達され、このボールナット45を回転することにより、雌ボールネジ溝53に係合した鋼球55を介してラックシャフト23の雄ボールネジ溝51にスラスト力が作用し、これにより操舵アシストトルクが発現する。
【0018】
図3は、前記ステアリングギヤに用いられたラックシャフト23である。このラックシャフトは、前記図1の実施形態と同様にして製造されたボールネジ軸であり、転造部3に相当する雄ボールネジ溝51には、完全ネジ部7’と不完全ネジ部6が存在する。前記ボールナット45の雌ボールネジ溝53と噛合するのは雄ボールネジ溝51の完全ネジ部7’である。そして、製造工程の順序は問わないが、図の左方の非転造部4にラック25が形成されて電動パワーステアリング用ネジ軸とされている。
【0019】
前記図1の実施形態と同様にして製造された本実施形態の電動パワーステアリング用ネジ軸は、二つの製品2、2の軸長の和に略等しい長さの円柱状素材1の軸方向中央部にのみ、前記二つの製品2、2の必要ネジ長さの和より長い範囲の転造を行い、前記二つの製品2、2の軸長に相当する位置で転造を施した円柱状素材1’を分割することで、一回の分割工程によって、軸端部に完全ネジ部7’を有した製品2、2が二つ形成されるため、加工コストを抑え、歩留まりを向上させることができる。
【0020】
なお、前記実施形態の製品2は、必ずしも完成品という意味ではなく、ラック加工や面取り、ネジ穴加工といった軸端部加工の後工程があるものも含まれる。即ち、例えば図1cの分割工程以降の状態を示す。
また、前記実施形態では、ネジ軸としてボールネジ軸を製造する場合についてのみ詳述したが、本発明のネジ軸の製造方法は、ボールネジ軸に限らず、通常のメートルネジなどのネジであってもよい。
【符号の説明】
【0021】
1、1’は円柱状素材、2は製品、3は転造部、4は非転造部、5は転造ダイス、6は不完全ネジ部、7、7’は完全ネジ部、23はラックシャフト、45はボールナット、51は雄ボールネジ溝(ネジ部)、53は雌ボールネジ溝、55は鋼球

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二つの製品の軸長の和に略等しい長さの円柱状素材の軸方向中央部にのみ、前記二つの製品の必要ネジ部長さの和より長い範囲の転造を行い、前記二つの製品の軸長に相当する位置で前記転造を施した円柱状素材を分割することを特徴とするネジ軸の製造方法。
【請求項2】
前記転造の範囲は、転造ダイスの長さの二倍と前記二つの製品の必要ネジ長さの和に略等しい範囲であることを特徴とする請求項1に記載のネジ軸の製造方法。
【請求項3】
前記請求項1又は2に記載のネジ軸の製造方法でネジ軸を製造し、当該ネジ軸の非ネジ部にラックが形成されてなることを特徴とする電動パワーステアリング用ネジ軸。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−40606(P2012−40606A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−186566(P2010−186566)
【出願日】平成22年8月23日(2010.8.23)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】