ネットワーク状炭素材料
【課題】 本発明は、比表面積の大きな新規な構成のネットワーク状炭素材料およびそのシート状物を提供することを目的とする。
【解決手段】 バクテリアセルロースを凍結乾燥により、ネットワーク構造を維持したまま乾燥し、不活性ガス雰囲気下で700℃以上で炭素化して、炭素フィブリルが互いに絡み合った状態の、比表面積が30m2/g以上のネットワーク状炭素材料を製造する。
【解決手段】 バクテリアセルロースを凍結乾燥により、ネットワーク構造を維持したまま乾燥し、不活性ガス雰囲気下で700℃以上で炭素化して、炭素フィブリルが互いに絡み合った状態の、比表面積が30m2/g以上のネットワーク状炭素材料を製造する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大きい比表面積を有することにより、例えば高い物質吸着性、物質透過性、電子伝導性および/または化学的安定性等の性質を示すネットワーク状炭素材料に関する。詳しくは、例えば電気二重層キャパシタ、燃料電池などの電極材料等に好適に用いられる炭素フィブリルが絡み合ったシート状の炭素材料に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔質の炭素材料は、各種エネルギーデバイスの電極及びその周辺部材、高温フィルター、断熱材などに工業的に用いられているが、そのほとんどが炭素粉末または炭素繊維をバインダーで結合してシート状に成形して用いられている。また、バインダーで結合した後に炭素化して用いられることもしばしばある。しかしながら、その手法では多孔質構造の精密な制御は困難であり、炭素材料の設計の自由度が著しく阻害されている。この問題を解決する手段として、特開2000−335909号公報(特許文献1)にはポリイミド多孔質膜を炭素化することで微細な連続孔を有する多孔質炭化膜が得られることが記載されている。
【0003】
一方、木質系セルロース系材料は炭素の前駆体と成り得ることが知られているが、その構造はフィブリル径が数μmオーダーと粗いために、機能性材料として用いる際に重要な比表面積は数m2/gと非常に小さいのが一般的である。
【0004】
セルロース系の微細なフィブリルとしては、特開2004−204380号公報(特許文献2)には、微生物が生産するバクテリアセルロースを乾燥することにより、比表面積の大きなシート状物を得る方法が記載されている。バクテリアセルロースは、例えば酢酸菌が生産するものは、食品素材「ナタデココ」として知られており、ナノレベルのフィブリル性を有し、特にフィブリル内部のセルロースが高度に配向、結晶化している。
【0005】
しかしながら、バクテリアセルロースから比表面積の大きな炭素材料を製造することは現在まで成功していなかった。
【特許文献1】特開2000−335909号公報
【特許文献2】特開2004−204380号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、比表面積の大きな新規な構成のネットワーク状炭素材料およびそのシート状物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下の事項に関する。
【0008】
1. 賦活処理なしで製造され、炭素フィブリルが互いに絡み合って3次元ネットワーク構造を形成しており、比表面積が30m2/g以上であることを特徴とするネットワーク状炭素材料。
【0009】
2. 前記炭素フィブリルは、分岐を有しており、
構成する炭素フィブリルの50体積%以上99.99体積%以下は、1nm〜300nmの直径を有するフィブリルであることを特徴とする上記1記載のネットワーク状炭素材料。
【0010】
3. バクテリアセルロースから製造されることを特徴とする上記1または2記載のネットワーク状炭素材料。
【0011】
4. 黒鉛化率が30%以上であることを特徴とする上記1〜3のいずれかに記載のネットワーク状炭素材料。
【0012】
5. バクテリアが産生したゲル状態のバクテリアセルロースを、そのネットワーク構造を維持したまま乾燥する工程と、
乾燥後のバクテリアセルロースを不活性ガス雰囲気下で700℃〜3200℃の温度で炭素化する工程と
を有することを特徴とするネットワーク状炭素材料の製造方法。
【0013】
6. 前記乾燥工程において、乾燥前のゲル状態からの見かけの収縮残存率が幅、長さ方向でも30%以上、厚み方向で10%以上となるように乾燥することを特徴とする上記5記載の製造方法。
【0014】
7. 前記乾燥が凍結乾燥であることを特徴とする上記6記載の製造方法。
【0015】
8. 前記炭素化工程前に、乾燥したバクテリアセルロースをハロゲン蒸気に接触させる工程を有する上記5〜7のいずれかに記載の製造方法。
【0016】
9. 前記炭素化工程前に、乾燥したバクテリアセルロースを加圧密閉下で蒸し焼きする工程を有することを特徴とする上記5〜7のいずれかに記載の製造方法。
【0017】
10. 前記炭素化温度が1500℃〜3200℃であることを特徴とする上記5〜9のいずれかに記載の製造方法。
【0018】
11. 乾燥したバクテリアセルロースを圧縮成形してシート状に成形する工程を有する上記5〜10のいずれかに記載の製造方法。
【0019】
12. 上記11記載の製造方法で製造されるシート状の上記1〜4のいずれかに記載のネットワーク状炭素材料。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、賦活処理なしで製造され、極めて比表面積の大きな30m2/g以上のネットワーク状の多孔質炭素材料を提供することができる。本発明の1態様では、極めて直径の細い微細なフィブリルでありながら、フィブリルの脱落が少なく耐久性に優れたネットワーク状炭素材料を提供することができる。特にネットワーク間にnmオーダーの細孔(網目間隙)を有することから、種々の高機能材料として使用することができる。
【0021】
また、本発明の製造方法によれば、上記のネットワーク状炭素材料を、バクテリアセルロースを原料として、その大きな表面積を維持しながら、収率よく製造することができる。また、炭素化条件を調整することで用途に合わせて黒鉛化率を変えることができ、例えば、黒鉛化率を30%以上に高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明で、ネットワーク状とは、フィブリルが3次元的に絡み合った状態をいうものであり、ネットワーク状材料がシート状に成形されたものは、一種の不織布に相当するともいえる。
【0023】
本発明では、炭素フィブリルが互いに絡み合って3次元ネットワーク状(3次元網目構造)を構成して、重量あたりの比表面積が30m2/g以上である。従来より存在する炭素繊維の不織布等においては、フィブリル径が十数〜数μmと太いためにこのような比表面積を得ることはできなかった。従来の炭素材料では、アルカリ等で処理し表面を多孔性とするいわゆる賦活処理を行ったもので、比表面積が30m2/g以上のものが知られているが、繊維径は基本的には変化しないため、本発明のような1μm以下の極細のフィブリルから得られる目の細かい多孔質炭素材料とは性状は全く異なるものである。
【0024】
本発明は、賦活処理なしで得られた炭素フィブリルであって、比表面積が30m2/g以上を有するものであり、このような構成は従来にない全く新規なものである。さらに好ましくは、比表面積50m2/g以上である。また比表面積の極めて大きなものは製造が次第に困難になるので、一般的には3000m2/g以下である。
【0025】
本発明の炭素フィブリルは、分岐(枝分かれ)を有していることが好ましい。例えば、通常の炭素繊維では1本のまっすぐな繊維であるが、分岐を有する炭素フィブリルでは、1本のフィブリルが途中で2本以上(2本が多い)の複数に分かれており、多くの場合、さらにその先で複数(2本が多い)に分かれている。2本に別れた分岐点では、3本のフィブリルが結合しているともいえる。このように分岐を有することにより、フィブリル同士の絡み合いが一層多くなり、本発明の炭素材料を繰り返し使用したときにもフィブリルの脱落が抑制されるので耐久性が向上する。また、電子伝導性や熱伝導性,機械的特性の観点からも、有利となる。このような特性は、特に使用電位幅が広い高出力キャパシター用の電極として、好適である。
【0026】
ネットワーク状炭素材料は、好ましくは構成する炭素フィブリルの50体積%以上99.99体積%以下が、1nm〜300nmの直径、さらに好ましくは1nm〜150nmの直径を有している。
【0027】
以上のような炭素材料は、好ましくは後述するようなバクテリアセルロースを出発原料として製造される。バクテリアセルロースは、nmオーダーの細いセルロースフィブリルを基本構造としており、高い比表面積、物質透過性、空孔率を有し、さらにフィブリル中のセルロース分子の配向も高度に発達していることから、本発明の炭素材料の前駆体として極めて好適なものである。また、バクテリアセルロースでは、バクテリアの増殖に基づいてセルロースフィブリルが上述のような分岐を有している点でも好ましいものである。
【0028】
次に、本発明のネットワーク状炭素材料の製造方法を説明する。
【0029】
本発明で出発原料として使用するバクテリアセルロースは、公知のものが挙げられ、例えば、アセトバクター・キシリナム・サブスピーシーズ・シュクロファーメンタ(Acetobacter xylinum subsp.sucrofermentans )、アセトバクター・キシリナム(Acetobacter xylinum )ATCC23768、アセトバクター・キシリナムATCC23769、アセトバクター・パスツリアヌス(A. pasteurianus )ATCC10245、アセトバクター・キシリナムATCC14851、アセトバクター・キシリナムATCC11142及びアセトバクターキシリナムATCC10821等の酢酸菌(アセトバクター属)、アグロバクテリウム属、リゾビウム属、サルシナ属、シュードモナス属、アクロモバクター属、アルカリゲネス属、アエロバクター属、アゾトバクター属及びズーグレア属、エンテロバクター属またはクリューベラ属並びにそれらをNTG(ニトロソグアニジン)等を用いる公知の方法によって変異処理することにより創製される各種変異株を培養することにより生産される。本発明では、特に長い繊維長のセルロースが産生されるものが好ましく、酢酸菌等が好ましい。
【0030】
バクテリアセルロースはナタデココの性状を見ればわかるように、水を含んだゲル状の材料であるので、炭素化する前に乾燥する必要がある。この工程を通常の熱風乾燥で処理すると、比表面積が大幅に低下してしまい、結果として得られる炭素材料の比表面積も小さくなる。そこで、本発明では、ゲル状態のバクテリアセルロースのネットワーク構造を維持しながら乾燥する必要がある。具体的には、乾燥後に収縮したときに、最初にバクテリアセルロースのゲル状物を静置したときの状態から、見かけの収縮残存率(=収縮後の長さ/元の長さ)で幅、長さ方向でも30%以上、厚みで10%以上となるように、好ましくは幅、長さ方向でも50%以上、厚みで20%以上の大きさが残るように(収縮率では、幅、長さ方向50%以下、厚み方向80%以下に)、乾燥することが好ましい。
【0031】
このような状態に乾燥できる方法であれば、どのような方法でもよいが、例えば凍結乾燥が簡便で好ましい。凍結乾燥の溶媒としては、水、アルコール等の通常使用される凍結乾燥溶媒を使用することができるが、凍った状態で蒸気圧の高いものが好ましく、特にアルコールが好ましく、中でもt−ブタノールが好ましい。水以外の溶媒を使用するときは、ゲルに含有される水を、凍結乾燥溶媒に置換してから凍結乾燥すればよい。
【0032】
乾燥後のバクテリアセルロースは、セルロースフィブリルが絡み合ったスポンジ状の性状を有している。この形状のまま、炭素化処理を行っても良いが、この時点で成形することで最終的に製造される炭素材料の形状を規定することができる。通常、シート状で不織布として使用される用途では、凍結乾燥後のスポンジ状のバクテリアセルロースを一軸加圧圧縮してシート状に成形することが好ましい。
【0033】
乾燥後のバクテリアセルロースの炭素化は、通常、不活性ガス雰囲気下で700℃〜3200℃の温度で行う。好ましくは、3000℃以下である。また、炭素の結晶化を促進して黒鉛質を上げるためには、高温で炭素処理をすることが好ましく、黒鉛化率30%以上のネットワーク状炭素材料を得るためには、炭素化温度として1500℃〜3200℃(好ましくは3000℃以下)、好ましくは2000℃〜3000℃である。結晶子が発達して黒鉛化率が30%以上になると、透過型電子顕微鏡で炭素六角網目が容易に観察できるようになる。黒鉛化率を高める場合には、炭素化処理を2段階に分けて行ってもよく、1500℃未満の第1次炭素化処理を行った後、1500℃以上で第2次炭素化処理(黒鉛化処理)を行う。不活性ガスとしては窒素、アルゴン等が好ましく、特に黒鉛化の際の高温での処理ではアルゴンが好ましい。尚、黒鉛化率は広角X線散乱強度を学振法で解析することにより求められる値である。用途により要求される物性が異なるので、用途に合わせて黒鉛化率を変えることが好ましい。
【0034】
炭素化工程では、乾燥後のバクテリアセルロースを炭素板の間に挟んで処理することが好ましい。このような処理により、炭素収率{=残存重量×100/乾燥セルロース重量}で、10重量%程度以上が得られる。一方、例えばるつぼの中に静置して処理を行うと、炭素収率で7%以下、最悪の場合0%になる場合があり、比表面積も前駆体のバクテリアセルロースより大幅に低下し、フィブリル構造が緻密化してしまうことがある。これは、バクテリアセルロースのフィブリルが特に繊細なために影響を受けやすいためと考えられる。従って、炭素板の間に挟んで処理を行うことは、バクテリアセルロースを原料とする場合に特に好ましい方法である。
【0035】
本発明の1実施形態では、炭素化工程前に、乾燥したバクテリアセルロースをハロゲン蒸気に接触させることが好ましい。ハロゲンとしては、臭素およびヨウ素が好ましく、特にヨウ素が好ましい。この工程は、乾燥したバクテリアセルロースにハロゲン蒸気が接触するようにすればどのような方法でもよく、密閉容器中で処理してもよいし、流通式で処理しても良い。処理雰囲気は、純ハロゲン蒸気だけで満たした空間でもよいし、空気または反応に悪影響を与えないアルゴン等の不活性ガスが共存していてもよい。処理条件は、蒸気圧も考慮して適宜設定するができるが、例えば20〜120℃程度、好ましくは50〜100℃で、10分〜10日程度、好ましくは6時間から3日程度処理すればよい。
【0036】
このようにハロゲン処理を行ったバクテリアセルロースを、好ましくは上述のように炭素板の間に挟んで炭素化処理を行うと、炭素収率15重量%以上の高い収率で、高比表面積の炭素材料が得られる。
【0037】
さらに本発明の1実施形態では、炭素化工程前に、乾燥したバクテリアセルロースを加圧密閉下で蒸し焼きすることが好ましい。蒸し焼きは、不活性ガス雰囲気中で、適当な密閉容器中で、完全に炭素化しない温度で加熱することにより行われる。通常、700℃未満、好ましくは500℃以下で、通常200℃以上の温度である、処理時間は10分〜3日間、好ましくは1〜24時間、さらに好ましくは2〜10時間(例えば5時間)である。
【0038】
このように加圧密閉下で蒸し焼き処理を行ったバクテリアセルロースを、好ましくは上述のように炭素板の間に挟んで炭素化処理を行うと、炭素収率15重量%以上の高い収率で、高比表面積の炭素材料が得られる。
【0039】
本発明の製造方法では、ハロゲン処理と蒸し焼き処理を併用しても良い。その場合は、通常はハロゲン処理してから蒸し焼き処理することが好ましい。
【0040】
以上の処理、即ち、炭素板に挟んでの炭素化、炭素化工程前のハロゲン処理および蒸し焼き処理は、成形していない乾燥バクテリアセルロースに対しても、シート状に成形したものに対しても適用できる。
【0041】
このようにして得られたネットワーク状炭素材料、特にシート状物は、その高い比表面積により、高い物質吸着性、物質透過性、電子伝導性等の物性を生かして、電気二重層キャパシタの電極材料として好適に使用することができる。特に、結晶性を高めて電極の化学的安定性を向上させたり、逆に結晶性を抑えて電解液に対する影響を抑えたりすることができるので、処理温度により黒鉛化率を調整してバランスのよい電極材料を提供することができる。
【0042】
また、燃料電池の触媒を担持する担体は、大きな表面積が必要である一方、水素、酸素、水が容易に通過できる空間・空隙が必要であるが、本発明のネットワーク状炭素材料、特にシート状物は、このような燃料電池の触媒担体用途にも好適に使用される。さらに、フィルタ、その他の表面積と空間が必要な用途に好適に使用することができる。
【実施例】
【0043】
次に、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。
【0044】
尚、乾燥したバクテリアセルロース、ネットワーク状炭素材料の細孔構造は窒素吸着法により測定した。比表面積はBET法により算出した。細孔径分布は、窒素吸着等温線を利用してDollimore-Heal(DH)法により算出した。
【0045】
<比較例1>
ゲル状の市販の微生物産生微細繊維状セルロース(バクテリアセルロース)含水物を熱風乾燥した。重量は1%以下になり、外観で厚み方向には1/100以下、縦、横方向で1/2以下の寸法に収縮した。表面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した結果、緻密化していることが分かった。比表面積を測定したところ、2m2/g以下であった。
【0046】
<実施例1>
比較例1で用いたバクテリアセルロース含水物をt−ブチルアルコール中に20時間以上浸漬することで、水とt−ブチルアルコールの溶媒交換を行った。その後、試料を冷却して凍結し、凍結乾燥処理を行った。その結果、白いスポンジ状の乾燥物を得た。出発原料のゲル状物から、厚み方向が98%、縦、横方向が95%の大きさまで収縮していた。
【0047】
SEM観察を行った結果、表面(図1参照)、内部(図2参照)ともに、微細なフィブリルが分岐で連結したネットワーク構造(多孔質構造)を有していることが分かった。得られたものの比表面積は、50m2/g以上であった。また、細孔径分布を測定したところ、直径が2〜10nmの範囲の細孔を多数有していることが明らかになった(図3参照)。
【0048】
<比較例2>
実施例1で得られたバクテリアセルロース乾燥物を炭素るつぼの中に静置し、窒素雰囲気化で1400℃1時間の熱処理を行ったところ、外観で1/10程度に寸法が収縮した炭素化物を得た。炭素収率を算出したところ、10%以下であった。
【0049】
<実施例2>
実施例1で得られたバクテリアセルロース乾燥物を一軸圧縮成形機で、厚みが元の試料の1/10になるように加圧成形してシート状物を得た。この試料を窒素吸着で比表面積、細孔径分布を測定したところ、圧縮前後でほとんど変化が無いことが確認できた。
【0050】
<実施例3>
実施例2で得た試料を2枚の炭素板で挟み、炭素るつぼ中に静置し、窒素雰囲気化で1400℃1時間の熱処理を行ったところ、シート状の炭素膜が得られた。炭素収率は、14%であった。SEM観察を行ったところ、表面、断面共に炭素フィブリルが連結した多孔質構造を維持していることが分かった。また、比表面積は70m2/gと若干増加していた。細孔径分布は、わずかに径が大きい側にシフトしていた(図3参照)。
【0051】
<実施例4>(蒸し焼き処理)
実施例2で得られたシート状物を、小型のオートクレーブ中に静置し窒素ガスで中を置換した後に密閉し400℃3時間の加熱処理を行ったところ、茶色のシートを得た。収率は40%であった。SEM観察を行ったところ、表面、断面共に炭素フィブリルが連結した多孔質構造を保持していることを確認できた(図4、5参照)。その後、実施例3と同様の1400℃の炭素化処理を行い、黒色のシート物を得た。収率は45%であり、バクテリアセルロース乾燥物からの収率は18%と大きな改善が確認できた。SEM観察を行ったところ、表面、断面共に炭素フィブリルが連結した多孔質構造であることが分かった(図6、7参照)。また、比表面積は70m2/gと前駆体であるバクテリアセルロースと比べて若干増加していた。細孔径分布は、わずかに径が大きい側にシフトしていた。広角X線散乱において2θ=25°付近にブロードな散乱が確認された。黒鉛化度は10%以下であった。
【0052】
<実施例5>(黒鉛化処理)
実施例4で作製したネットワーク状多孔質炭素シートを黒鉛化炉内に炭素板で挟んで静置し、アルゴンガス雰囲気で3000℃1.5時間の熱処理を行った。その結果、灰色の鈍い光沢を呈する炭素シートを得た。SEM観察を行ったところ、表面は炭素フィブリルが連結した多孔質構造であり、断面はシート平面方向にフィブリルが配向した構造を有していることが分かった(図8、9参照)。また、高分解能透過型電子顕微鏡(HRTEM)で観察した結果、炭素六角網面の発達を示す格子縞が多数観察された(図10参照)。広角X線散乱を測定したところ、黒鉛結晶の成長を示す002反射が2θ=26°付近に明確に観察された。黒鉛化率は、約30%と推算された。
【0053】
<実施例6>(ヨウ素処理)
実施例2で得られたバクテリアセルロースシート状物0.3gとヨウ素0.6gを500ccのガラス容器内に入れ、密閉した後に80℃で24時間加熱処理を行った。その後、実施例3と同様に1400℃で炭素化処理を行い黒色のシート物を得た。バクテリアセルロースからの炭素収率は22%であり、大きな改善が確認できた。SEM観察を行ったところ、表面は炭素フィブリルが連結した多孔質構造であることが分かった。広角X線散乱において2θ=25°付近にブロードな散乱が確認された。黒鉛化度は10%以下であった。
【0054】
<実施例7>(黒鉛化処理)
実施例6で作製したネットワーク状多孔質炭素シートを黒鉛化炉内に炭素板で挟んで静置し、アルゴンガス雰囲気で3000℃1.5時間の熱処理を行った。その結果、灰色の鈍い光沢を呈する炭素シートを得た。SEM観察を行ったところ、表面は炭素フィブリルが連結した多孔質構造であり、断面はシート平面方向にフィブリルが配向した構造を有していることが分かった(図11、12参照)。また、高分解能透過型電子顕微鏡(HRTEM)で観察した結果、炭素六角網面の発達を示す格子縞が多数観察された(図13参照)。また、同じ視野の電子線回折パターンから、黒鉛結晶が配向していることが分かった(図14)。広角X線散乱を測定したところ、黒鉛結晶の成長を示す002反射が2θ=26°付近に明確に観察され、黒鉛化率は約35%であった。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】実施例1で作製したバクテリアセルロース乾燥物の表面のSEM画像である。
【図2】実施例1で作製したバクテリアセルロース乾燥物の内部のSEM画像である。
【図3】実施例1,3のバクテリアセルロースまたは炭素材料のDH法による細孔径分布を示すグラフである。
【図4】実施例4で蒸し焼き処理後のバクテリアセルロース表面のSEM画像である。
【図5】実施例4で蒸し焼き処理後のバクテリアセルロースの断面のSEM画像である。
【図6】実施例4で作製した炭素材料表面のSEM画像である。
【図7】実施例4で作製した炭素材料の断面のSEM画像である。
【図8】実施例5で作製した炭素材料表面のSEM画像である。
【図9】実施例5で作製した炭素材料の断面のSEM画像である。
【図10】実施例5で作製した炭素材料のHRTEM画像である。
【図11】実施例7で作製した炭素材料表面のSEM画像である。
【図12】実施例7で作製した炭素材料の断面のSEM画像である。
【図13】実施例7で作製した炭素材料のHRTEM画像である。
【図14】図13のHRTEM画像視野での電子線回折パターンである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、大きい比表面積を有することにより、例えば高い物質吸着性、物質透過性、電子伝導性および/または化学的安定性等の性質を示すネットワーク状炭素材料に関する。詳しくは、例えば電気二重層キャパシタ、燃料電池などの電極材料等に好適に用いられる炭素フィブリルが絡み合ったシート状の炭素材料に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔質の炭素材料は、各種エネルギーデバイスの電極及びその周辺部材、高温フィルター、断熱材などに工業的に用いられているが、そのほとんどが炭素粉末または炭素繊維をバインダーで結合してシート状に成形して用いられている。また、バインダーで結合した後に炭素化して用いられることもしばしばある。しかしながら、その手法では多孔質構造の精密な制御は困難であり、炭素材料の設計の自由度が著しく阻害されている。この問題を解決する手段として、特開2000−335909号公報(特許文献1)にはポリイミド多孔質膜を炭素化することで微細な連続孔を有する多孔質炭化膜が得られることが記載されている。
【0003】
一方、木質系セルロース系材料は炭素の前駆体と成り得ることが知られているが、その構造はフィブリル径が数μmオーダーと粗いために、機能性材料として用いる際に重要な比表面積は数m2/gと非常に小さいのが一般的である。
【0004】
セルロース系の微細なフィブリルとしては、特開2004−204380号公報(特許文献2)には、微生物が生産するバクテリアセルロースを乾燥することにより、比表面積の大きなシート状物を得る方法が記載されている。バクテリアセルロースは、例えば酢酸菌が生産するものは、食品素材「ナタデココ」として知られており、ナノレベルのフィブリル性を有し、特にフィブリル内部のセルロースが高度に配向、結晶化している。
【0005】
しかしながら、バクテリアセルロースから比表面積の大きな炭素材料を製造することは現在まで成功していなかった。
【特許文献1】特開2000−335909号公報
【特許文献2】特開2004−204380号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、比表面積の大きな新規な構成のネットワーク状炭素材料およびそのシート状物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下の事項に関する。
【0008】
1. 賦活処理なしで製造され、炭素フィブリルが互いに絡み合って3次元ネットワーク構造を形成しており、比表面積が30m2/g以上であることを特徴とするネットワーク状炭素材料。
【0009】
2. 前記炭素フィブリルは、分岐を有しており、
構成する炭素フィブリルの50体積%以上99.99体積%以下は、1nm〜300nmの直径を有するフィブリルであることを特徴とする上記1記載のネットワーク状炭素材料。
【0010】
3. バクテリアセルロースから製造されることを特徴とする上記1または2記載のネットワーク状炭素材料。
【0011】
4. 黒鉛化率が30%以上であることを特徴とする上記1〜3のいずれかに記載のネットワーク状炭素材料。
【0012】
5. バクテリアが産生したゲル状態のバクテリアセルロースを、そのネットワーク構造を維持したまま乾燥する工程と、
乾燥後のバクテリアセルロースを不活性ガス雰囲気下で700℃〜3200℃の温度で炭素化する工程と
を有することを特徴とするネットワーク状炭素材料の製造方法。
【0013】
6. 前記乾燥工程において、乾燥前のゲル状態からの見かけの収縮残存率が幅、長さ方向でも30%以上、厚み方向で10%以上となるように乾燥することを特徴とする上記5記載の製造方法。
【0014】
7. 前記乾燥が凍結乾燥であることを特徴とする上記6記載の製造方法。
【0015】
8. 前記炭素化工程前に、乾燥したバクテリアセルロースをハロゲン蒸気に接触させる工程を有する上記5〜7のいずれかに記載の製造方法。
【0016】
9. 前記炭素化工程前に、乾燥したバクテリアセルロースを加圧密閉下で蒸し焼きする工程を有することを特徴とする上記5〜7のいずれかに記載の製造方法。
【0017】
10. 前記炭素化温度が1500℃〜3200℃であることを特徴とする上記5〜9のいずれかに記載の製造方法。
【0018】
11. 乾燥したバクテリアセルロースを圧縮成形してシート状に成形する工程を有する上記5〜10のいずれかに記載の製造方法。
【0019】
12. 上記11記載の製造方法で製造されるシート状の上記1〜4のいずれかに記載のネットワーク状炭素材料。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、賦活処理なしで製造され、極めて比表面積の大きな30m2/g以上のネットワーク状の多孔質炭素材料を提供することができる。本発明の1態様では、極めて直径の細い微細なフィブリルでありながら、フィブリルの脱落が少なく耐久性に優れたネットワーク状炭素材料を提供することができる。特にネットワーク間にnmオーダーの細孔(網目間隙)を有することから、種々の高機能材料として使用することができる。
【0021】
また、本発明の製造方法によれば、上記のネットワーク状炭素材料を、バクテリアセルロースを原料として、その大きな表面積を維持しながら、収率よく製造することができる。また、炭素化条件を調整することで用途に合わせて黒鉛化率を変えることができ、例えば、黒鉛化率を30%以上に高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明で、ネットワーク状とは、フィブリルが3次元的に絡み合った状態をいうものであり、ネットワーク状材料がシート状に成形されたものは、一種の不織布に相当するともいえる。
【0023】
本発明では、炭素フィブリルが互いに絡み合って3次元ネットワーク状(3次元網目構造)を構成して、重量あたりの比表面積が30m2/g以上である。従来より存在する炭素繊維の不織布等においては、フィブリル径が十数〜数μmと太いためにこのような比表面積を得ることはできなかった。従来の炭素材料では、アルカリ等で処理し表面を多孔性とするいわゆる賦活処理を行ったもので、比表面積が30m2/g以上のものが知られているが、繊維径は基本的には変化しないため、本発明のような1μm以下の極細のフィブリルから得られる目の細かい多孔質炭素材料とは性状は全く異なるものである。
【0024】
本発明は、賦活処理なしで得られた炭素フィブリルであって、比表面積が30m2/g以上を有するものであり、このような構成は従来にない全く新規なものである。さらに好ましくは、比表面積50m2/g以上である。また比表面積の極めて大きなものは製造が次第に困難になるので、一般的には3000m2/g以下である。
【0025】
本発明の炭素フィブリルは、分岐(枝分かれ)を有していることが好ましい。例えば、通常の炭素繊維では1本のまっすぐな繊維であるが、分岐を有する炭素フィブリルでは、1本のフィブリルが途中で2本以上(2本が多い)の複数に分かれており、多くの場合、さらにその先で複数(2本が多い)に分かれている。2本に別れた分岐点では、3本のフィブリルが結合しているともいえる。このように分岐を有することにより、フィブリル同士の絡み合いが一層多くなり、本発明の炭素材料を繰り返し使用したときにもフィブリルの脱落が抑制されるので耐久性が向上する。また、電子伝導性や熱伝導性,機械的特性の観点からも、有利となる。このような特性は、特に使用電位幅が広い高出力キャパシター用の電極として、好適である。
【0026】
ネットワーク状炭素材料は、好ましくは構成する炭素フィブリルの50体積%以上99.99体積%以下が、1nm〜300nmの直径、さらに好ましくは1nm〜150nmの直径を有している。
【0027】
以上のような炭素材料は、好ましくは後述するようなバクテリアセルロースを出発原料として製造される。バクテリアセルロースは、nmオーダーの細いセルロースフィブリルを基本構造としており、高い比表面積、物質透過性、空孔率を有し、さらにフィブリル中のセルロース分子の配向も高度に発達していることから、本発明の炭素材料の前駆体として極めて好適なものである。また、バクテリアセルロースでは、バクテリアの増殖に基づいてセルロースフィブリルが上述のような分岐を有している点でも好ましいものである。
【0028】
次に、本発明のネットワーク状炭素材料の製造方法を説明する。
【0029】
本発明で出発原料として使用するバクテリアセルロースは、公知のものが挙げられ、例えば、アセトバクター・キシリナム・サブスピーシーズ・シュクロファーメンタ(Acetobacter xylinum subsp.sucrofermentans )、アセトバクター・キシリナム(Acetobacter xylinum )ATCC23768、アセトバクター・キシリナムATCC23769、アセトバクター・パスツリアヌス(A. pasteurianus )ATCC10245、アセトバクター・キシリナムATCC14851、アセトバクター・キシリナムATCC11142及びアセトバクターキシリナムATCC10821等の酢酸菌(アセトバクター属)、アグロバクテリウム属、リゾビウム属、サルシナ属、シュードモナス属、アクロモバクター属、アルカリゲネス属、アエロバクター属、アゾトバクター属及びズーグレア属、エンテロバクター属またはクリューベラ属並びにそれらをNTG(ニトロソグアニジン)等を用いる公知の方法によって変異処理することにより創製される各種変異株を培養することにより生産される。本発明では、特に長い繊維長のセルロースが産生されるものが好ましく、酢酸菌等が好ましい。
【0030】
バクテリアセルロースはナタデココの性状を見ればわかるように、水を含んだゲル状の材料であるので、炭素化する前に乾燥する必要がある。この工程を通常の熱風乾燥で処理すると、比表面積が大幅に低下してしまい、結果として得られる炭素材料の比表面積も小さくなる。そこで、本発明では、ゲル状態のバクテリアセルロースのネットワーク構造を維持しながら乾燥する必要がある。具体的には、乾燥後に収縮したときに、最初にバクテリアセルロースのゲル状物を静置したときの状態から、見かけの収縮残存率(=収縮後の長さ/元の長さ)で幅、長さ方向でも30%以上、厚みで10%以上となるように、好ましくは幅、長さ方向でも50%以上、厚みで20%以上の大きさが残るように(収縮率では、幅、長さ方向50%以下、厚み方向80%以下に)、乾燥することが好ましい。
【0031】
このような状態に乾燥できる方法であれば、どのような方法でもよいが、例えば凍結乾燥が簡便で好ましい。凍結乾燥の溶媒としては、水、アルコール等の通常使用される凍結乾燥溶媒を使用することができるが、凍った状態で蒸気圧の高いものが好ましく、特にアルコールが好ましく、中でもt−ブタノールが好ましい。水以外の溶媒を使用するときは、ゲルに含有される水を、凍結乾燥溶媒に置換してから凍結乾燥すればよい。
【0032】
乾燥後のバクテリアセルロースは、セルロースフィブリルが絡み合ったスポンジ状の性状を有している。この形状のまま、炭素化処理を行っても良いが、この時点で成形することで最終的に製造される炭素材料の形状を規定することができる。通常、シート状で不織布として使用される用途では、凍結乾燥後のスポンジ状のバクテリアセルロースを一軸加圧圧縮してシート状に成形することが好ましい。
【0033】
乾燥後のバクテリアセルロースの炭素化は、通常、不活性ガス雰囲気下で700℃〜3200℃の温度で行う。好ましくは、3000℃以下である。また、炭素の結晶化を促進して黒鉛質を上げるためには、高温で炭素処理をすることが好ましく、黒鉛化率30%以上のネットワーク状炭素材料を得るためには、炭素化温度として1500℃〜3200℃(好ましくは3000℃以下)、好ましくは2000℃〜3000℃である。結晶子が発達して黒鉛化率が30%以上になると、透過型電子顕微鏡で炭素六角網目が容易に観察できるようになる。黒鉛化率を高める場合には、炭素化処理を2段階に分けて行ってもよく、1500℃未満の第1次炭素化処理を行った後、1500℃以上で第2次炭素化処理(黒鉛化処理)を行う。不活性ガスとしては窒素、アルゴン等が好ましく、特に黒鉛化の際の高温での処理ではアルゴンが好ましい。尚、黒鉛化率は広角X線散乱強度を学振法で解析することにより求められる値である。用途により要求される物性が異なるので、用途に合わせて黒鉛化率を変えることが好ましい。
【0034】
炭素化工程では、乾燥後のバクテリアセルロースを炭素板の間に挟んで処理することが好ましい。このような処理により、炭素収率{=残存重量×100/乾燥セルロース重量}で、10重量%程度以上が得られる。一方、例えばるつぼの中に静置して処理を行うと、炭素収率で7%以下、最悪の場合0%になる場合があり、比表面積も前駆体のバクテリアセルロースより大幅に低下し、フィブリル構造が緻密化してしまうことがある。これは、バクテリアセルロースのフィブリルが特に繊細なために影響を受けやすいためと考えられる。従って、炭素板の間に挟んで処理を行うことは、バクテリアセルロースを原料とする場合に特に好ましい方法である。
【0035】
本発明の1実施形態では、炭素化工程前に、乾燥したバクテリアセルロースをハロゲン蒸気に接触させることが好ましい。ハロゲンとしては、臭素およびヨウ素が好ましく、特にヨウ素が好ましい。この工程は、乾燥したバクテリアセルロースにハロゲン蒸気が接触するようにすればどのような方法でもよく、密閉容器中で処理してもよいし、流通式で処理しても良い。処理雰囲気は、純ハロゲン蒸気だけで満たした空間でもよいし、空気または反応に悪影響を与えないアルゴン等の不活性ガスが共存していてもよい。処理条件は、蒸気圧も考慮して適宜設定するができるが、例えば20〜120℃程度、好ましくは50〜100℃で、10分〜10日程度、好ましくは6時間から3日程度処理すればよい。
【0036】
このようにハロゲン処理を行ったバクテリアセルロースを、好ましくは上述のように炭素板の間に挟んで炭素化処理を行うと、炭素収率15重量%以上の高い収率で、高比表面積の炭素材料が得られる。
【0037】
さらに本発明の1実施形態では、炭素化工程前に、乾燥したバクテリアセルロースを加圧密閉下で蒸し焼きすることが好ましい。蒸し焼きは、不活性ガス雰囲気中で、適当な密閉容器中で、完全に炭素化しない温度で加熱することにより行われる。通常、700℃未満、好ましくは500℃以下で、通常200℃以上の温度である、処理時間は10分〜3日間、好ましくは1〜24時間、さらに好ましくは2〜10時間(例えば5時間)である。
【0038】
このように加圧密閉下で蒸し焼き処理を行ったバクテリアセルロースを、好ましくは上述のように炭素板の間に挟んで炭素化処理を行うと、炭素収率15重量%以上の高い収率で、高比表面積の炭素材料が得られる。
【0039】
本発明の製造方法では、ハロゲン処理と蒸し焼き処理を併用しても良い。その場合は、通常はハロゲン処理してから蒸し焼き処理することが好ましい。
【0040】
以上の処理、即ち、炭素板に挟んでの炭素化、炭素化工程前のハロゲン処理および蒸し焼き処理は、成形していない乾燥バクテリアセルロースに対しても、シート状に成形したものに対しても適用できる。
【0041】
このようにして得られたネットワーク状炭素材料、特にシート状物は、その高い比表面積により、高い物質吸着性、物質透過性、電子伝導性等の物性を生かして、電気二重層キャパシタの電極材料として好適に使用することができる。特に、結晶性を高めて電極の化学的安定性を向上させたり、逆に結晶性を抑えて電解液に対する影響を抑えたりすることができるので、処理温度により黒鉛化率を調整してバランスのよい電極材料を提供することができる。
【0042】
また、燃料電池の触媒を担持する担体は、大きな表面積が必要である一方、水素、酸素、水が容易に通過できる空間・空隙が必要であるが、本発明のネットワーク状炭素材料、特にシート状物は、このような燃料電池の触媒担体用途にも好適に使用される。さらに、フィルタ、その他の表面積と空間が必要な用途に好適に使用することができる。
【実施例】
【0043】
次に、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。
【0044】
尚、乾燥したバクテリアセルロース、ネットワーク状炭素材料の細孔構造は窒素吸着法により測定した。比表面積はBET法により算出した。細孔径分布は、窒素吸着等温線を利用してDollimore-Heal(DH)法により算出した。
【0045】
<比較例1>
ゲル状の市販の微生物産生微細繊維状セルロース(バクテリアセルロース)含水物を熱風乾燥した。重量は1%以下になり、外観で厚み方向には1/100以下、縦、横方向で1/2以下の寸法に収縮した。表面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した結果、緻密化していることが分かった。比表面積を測定したところ、2m2/g以下であった。
【0046】
<実施例1>
比較例1で用いたバクテリアセルロース含水物をt−ブチルアルコール中に20時間以上浸漬することで、水とt−ブチルアルコールの溶媒交換を行った。その後、試料を冷却して凍結し、凍結乾燥処理を行った。その結果、白いスポンジ状の乾燥物を得た。出発原料のゲル状物から、厚み方向が98%、縦、横方向が95%の大きさまで収縮していた。
【0047】
SEM観察を行った結果、表面(図1参照)、内部(図2参照)ともに、微細なフィブリルが分岐で連結したネットワーク構造(多孔質構造)を有していることが分かった。得られたものの比表面積は、50m2/g以上であった。また、細孔径分布を測定したところ、直径が2〜10nmの範囲の細孔を多数有していることが明らかになった(図3参照)。
【0048】
<比較例2>
実施例1で得られたバクテリアセルロース乾燥物を炭素るつぼの中に静置し、窒素雰囲気化で1400℃1時間の熱処理を行ったところ、外観で1/10程度に寸法が収縮した炭素化物を得た。炭素収率を算出したところ、10%以下であった。
【0049】
<実施例2>
実施例1で得られたバクテリアセルロース乾燥物を一軸圧縮成形機で、厚みが元の試料の1/10になるように加圧成形してシート状物を得た。この試料を窒素吸着で比表面積、細孔径分布を測定したところ、圧縮前後でほとんど変化が無いことが確認できた。
【0050】
<実施例3>
実施例2で得た試料を2枚の炭素板で挟み、炭素るつぼ中に静置し、窒素雰囲気化で1400℃1時間の熱処理を行ったところ、シート状の炭素膜が得られた。炭素収率は、14%であった。SEM観察を行ったところ、表面、断面共に炭素フィブリルが連結した多孔質構造を維持していることが分かった。また、比表面積は70m2/gと若干増加していた。細孔径分布は、わずかに径が大きい側にシフトしていた(図3参照)。
【0051】
<実施例4>(蒸し焼き処理)
実施例2で得られたシート状物を、小型のオートクレーブ中に静置し窒素ガスで中を置換した後に密閉し400℃3時間の加熱処理を行ったところ、茶色のシートを得た。収率は40%であった。SEM観察を行ったところ、表面、断面共に炭素フィブリルが連結した多孔質構造を保持していることを確認できた(図4、5参照)。その後、実施例3と同様の1400℃の炭素化処理を行い、黒色のシート物を得た。収率は45%であり、バクテリアセルロース乾燥物からの収率は18%と大きな改善が確認できた。SEM観察を行ったところ、表面、断面共に炭素フィブリルが連結した多孔質構造であることが分かった(図6、7参照)。また、比表面積は70m2/gと前駆体であるバクテリアセルロースと比べて若干増加していた。細孔径分布は、わずかに径が大きい側にシフトしていた。広角X線散乱において2θ=25°付近にブロードな散乱が確認された。黒鉛化度は10%以下であった。
【0052】
<実施例5>(黒鉛化処理)
実施例4で作製したネットワーク状多孔質炭素シートを黒鉛化炉内に炭素板で挟んで静置し、アルゴンガス雰囲気で3000℃1.5時間の熱処理を行った。その結果、灰色の鈍い光沢を呈する炭素シートを得た。SEM観察を行ったところ、表面は炭素フィブリルが連結した多孔質構造であり、断面はシート平面方向にフィブリルが配向した構造を有していることが分かった(図8、9参照)。また、高分解能透過型電子顕微鏡(HRTEM)で観察した結果、炭素六角網面の発達を示す格子縞が多数観察された(図10参照)。広角X線散乱を測定したところ、黒鉛結晶の成長を示す002反射が2θ=26°付近に明確に観察された。黒鉛化率は、約30%と推算された。
【0053】
<実施例6>(ヨウ素処理)
実施例2で得られたバクテリアセルロースシート状物0.3gとヨウ素0.6gを500ccのガラス容器内に入れ、密閉した後に80℃で24時間加熱処理を行った。その後、実施例3と同様に1400℃で炭素化処理を行い黒色のシート物を得た。バクテリアセルロースからの炭素収率は22%であり、大きな改善が確認できた。SEM観察を行ったところ、表面は炭素フィブリルが連結した多孔質構造であることが分かった。広角X線散乱において2θ=25°付近にブロードな散乱が確認された。黒鉛化度は10%以下であった。
【0054】
<実施例7>(黒鉛化処理)
実施例6で作製したネットワーク状多孔質炭素シートを黒鉛化炉内に炭素板で挟んで静置し、アルゴンガス雰囲気で3000℃1.5時間の熱処理を行った。その結果、灰色の鈍い光沢を呈する炭素シートを得た。SEM観察を行ったところ、表面は炭素フィブリルが連結した多孔質構造であり、断面はシート平面方向にフィブリルが配向した構造を有していることが分かった(図11、12参照)。また、高分解能透過型電子顕微鏡(HRTEM)で観察した結果、炭素六角網面の発達を示す格子縞が多数観察された(図13参照)。また、同じ視野の電子線回折パターンから、黒鉛結晶が配向していることが分かった(図14)。広角X線散乱を測定したところ、黒鉛結晶の成長を示す002反射が2θ=26°付近に明確に観察され、黒鉛化率は約35%であった。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】実施例1で作製したバクテリアセルロース乾燥物の表面のSEM画像である。
【図2】実施例1で作製したバクテリアセルロース乾燥物の内部のSEM画像である。
【図3】実施例1,3のバクテリアセルロースまたは炭素材料のDH法による細孔径分布を示すグラフである。
【図4】実施例4で蒸し焼き処理後のバクテリアセルロース表面のSEM画像である。
【図5】実施例4で蒸し焼き処理後のバクテリアセルロースの断面のSEM画像である。
【図6】実施例4で作製した炭素材料表面のSEM画像である。
【図7】実施例4で作製した炭素材料の断面のSEM画像である。
【図8】実施例5で作製した炭素材料表面のSEM画像である。
【図9】実施例5で作製した炭素材料の断面のSEM画像である。
【図10】実施例5で作製した炭素材料のHRTEM画像である。
【図11】実施例7で作製した炭素材料表面のSEM画像である。
【図12】実施例7で作製した炭素材料の断面のSEM画像である。
【図13】実施例7で作製した炭素材料のHRTEM画像である。
【図14】図13のHRTEM画像視野での電子線回折パターンである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
賦活処理なしで製造され、炭素フィブリルが互いに絡み合って3次元ネットワーク構造を形成しており、比表面積が30m2/g以上であることを特徴とするネットワーク状炭素材料。
【請求項2】
前記炭素フィブリルは、分岐を有しており、
構成する炭素フィブリルの50体積%以上99.99体積%以下は、1nm〜300nmの直径を有するフィブリルであることを特徴とする請求項1記載のネットワーク状炭素材料。
【請求項3】
バクテリアセルロースから製造されることを特徴とする請求項1または2記載のネットワーク状炭素材料。
【請求項4】
黒鉛化率が30%以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のネットワーク状炭素材料。
【請求項5】
バクテリアが産生したゲル状態のバクテリアセルロースを、そのネットワーク構造を維持したまま乾燥する工程と、
乾燥後のバクテリアセルロースを不活性ガス雰囲気下で700℃〜3200℃の温度で炭素化する工程と
を有することを特徴とするネットワーク状炭素材料の製造方法。
【請求項6】
前記乾燥工程において、乾燥前のゲル状態からの見かけの収縮残存率が幅、長さ方向でも30%以上、厚み方向で10%以上となるように乾燥することを特徴とする請求項5記載の製造方法。
【請求項7】
前記乾燥が凍結乾燥であることを特徴とする請求項6記載の製造方法。
【請求項8】
前記炭素化工程前に、乾燥したバクテリアセルロースをハロゲン蒸気に接触させる工程を有する請求項5〜7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
前記炭素化工程前に、乾燥したバクテリアセルロースを加圧密閉下で蒸し焼きする工程を有することを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
前記炭素化温度が1500℃〜3200℃であることを特徴とする請求項5〜9のいずれかに記載の製造方法。
【請求項11】
乾燥したバクテリアセルロースを圧縮成形してシート状に成形する工程を有する請求項5〜10のいずれかに記載の製造方法。
【請求項12】
請求項11記載の製造方法で製造されるシート状の請求項1〜4のいずれかに記載のネットワーク状炭素材料。
【請求項1】
賦活処理なしで製造され、炭素フィブリルが互いに絡み合って3次元ネットワーク構造を形成しており、比表面積が30m2/g以上であることを特徴とするネットワーク状炭素材料。
【請求項2】
前記炭素フィブリルは、分岐を有しており、
構成する炭素フィブリルの50体積%以上99.99体積%以下は、1nm〜300nmの直径を有するフィブリルであることを特徴とする請求項1記載のネットワーク状炭素材料。
【請求項3】
バクテリアセルロースから製造されることを特徴とする請求項1または2記載のネットワーク状炭素材料。
【請求項4】
黒鉛化率が30%以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のネットワーク状炭素材料。
【請求項5】
バクテリアが産生したゲル状態のバクテリアセルロースを、そのネットワーク構造を維持したまま乾燥する工程と、
乾燥後のバクテリアセルロースを不活性ガス雰囲気下で700℃〜3200℃の温度で炭素化する工程と
を有することを特徴とするネットワーク状炭素材料の製造方法。
【請求項6】
前記乾燥工程において、乾燥前のゲル状態からの見かけの収縮残存率が幅、長さ方向でも30%以上、厚み方向で10%以上となるように乾燥することを特徴とする請求項5記載の製造方法。
【請求項7】
前記乾燥が凍結乾燥であることを特徴とする請求項6記載の製造方法。
【請求項8】
前記炭素化工程前に、乾燥したバクテリアセルロースをハロゲン蒸気に接触させる工程を有する請求項5〜7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
前記炭素化工程前に、乾燥したバクテリアセルロースを加圧密閉下で蒸し焼きする工程を有することを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
前記炭素化温度が1500℃〜3200℃であることを特徴とする請求項5〜9のいずれかに記載の製造方法。
【請求項11】
乾燥したバクテリアセルロースを圧縮成形してシート状に成形する工程を有する請求項5〜10のいずれかに記載の製造方法。
【請求項12】
請求項11記載の製造方法で製造されるシート状の請求項1〜4のいずれかに記載のネットワーク状炭素材料。
【図3】
【図1】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図1】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2007−55865(P2007−55865A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−245221(P2005−245221)
【出願日】平成17年8月26日(2005.8.26)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年8月26日(2005.8.26)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】
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