ノイズブランカ
【目的】受信機の帯域制限フィルタの周波数・群遅延特性の非平坦特性に起因する、ノイズ除去用パルス信号の鈍り、遅延、ノイズ検出感度の変動の影響を排除し、高い精度でノイズ信号をブランキングできるノイズブランカを提供する。
【構成】帯域制限フィルタ出力信号からノイズを検出する経路に、帯域制限フィルタの周波数・群遅延特性を平坦化する等価器を備え、ノイズ検出における周波数・群遅延特性の影響を排除するとともに、ノイズ除去用ゲート回路の前段の遅延手段の遅延量を、ノイズ信号とノイズ除去信号とがゲート回路に到達するタイミングが一致するように設定する。
【構成】帯域制限フィルタ出力信号からノイズを検出する経路に、帯域制限フィルタの周波数・群遅延特性を平坦化する等価器を備え、ノイズ検出における周波数・群遅延特性の影響を排除するとともに、ノイズ除去用ゲート回路の前段の遅延手段の遅延量を、ノイズ信号とノイズ除去信号とがゲート回路に到達するタイミングが一致するように設定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノイズブランカに関し、詳細には、無線受信機の復調信号中に混入するノイズ成分低減のためのノイズブランカの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信、特に、移動無線通信では通信機の周囲環境が著しく変化し、多くのノイズ発生源が存在する環境下において通信を行うことが強いられている。特に、自動車のイグニッションノイズは、極めて大きな雑音出力として受信機の復調信号に混入するので、音声モニタ出力信号の質の低下に限らず、データ通信においてもデータ誤り発生の原因となっており、その対策として、従来からノイズブランカ(Noise Blanker)が使用されている。
図8は従来のノイズブランカの一例を示すブロック図である。この例では図示を省略した無線受信機の高周波増幅回路、局部発振器、混合回路等を経て中間周波数信号に変換された後、帯域制限フィルタ101によって所要周波数帯域を通過する周波数成分を取り出し、その帯域信号に対してノイズ軽減処理を行う場合を示している。
即ち、帯域制限フィルタ101を通過後の信号を二分岐し、一方はノイズゲート回路102を経て、図示を省略した復調回路等の次段の処理ブロックに供給する。分岐した他方の信号は、ノイズ検出回路(手段)103を介してノイズ除去信号発生回路104に導き、このノイズ除去信号発生回路104において波形整形された方形波形状の除去信号によって上記ノイズゲート回路102を制御することによって、ノイズ信号部分に対してノイズゲート回路102のゲートを遮断し、ノイズが混在している信号を短時間だけ切り取り、ノイズ信号が次段処理ブロックに伝達されないように構成されている。
【0003】
この例において使用される帯域制限フィルタは、通常、無線通信機に備えられるもので、図9(a)に示すように、夫々の通信システムにおいて規定され通過帯域に応じた比較的狭帯域の帯域制限フィルタ(バンドバスフィルタ)である場合が多い。一般的に狭帯域フィルタは図9(b)に示すように、周波数制限領域における群遅延特性が平坦ではなく、狭帯域であるほど通過帯域内における群遅延特性の平坦性が損なわれる傾向にある。図10は、図8に示した回路の各部の信号波形を示したもので、(a)は帯域制限フィルタ101の入力端部のノイズ信号波形、(b)は帯域制限フィルタ101の出力端部の信号波形であり、これはノイズ検出回路の入力信号となる。また、図10(c)は、ノイズ検出回路103の出力信号波形であり、ノイズ除去信号である。図10(a)、(b)、(c)の横軸は時間経過を示しており、相互を比較すれば明らかなように、ノイズ除去信号のパルス幅が、実際のノイズ信号の幅より広がっていることが分かる。これは、受信信号が帯域制限フィルタ101を通過する際の、フィルタの群遅延特性の影響によるパルス信号の歪み(間延び)に起因するものである。このように、ノイズ除去信号のパルス幅が実際のノイズ信号の幅より広がると、ノイズ成分のみならず希望信号成分の一部についてもブランキングされることになり、会話の場合は内容が不明瞭になってしまうという不具合が発生する。なお、特許文献1にも指摘されているように、ノイズ除去信号の発生タイミングは、ノイズ検出回路103やノイズ除去発生回路の処理時間によって、ノイズ信号がノイズゲート回路102を出力するタイミングより遅れるが、その遅延時間が固定的な値である場合は、ゲート回路の前段に固定的な遅延回路を挿入することによって両者を一致させて、ノイズ成分をブランキングすることが可能である。
【0004】
図11乃至図13は、従来の他のノイズブランカの例を示すブロック図と信号波形図である。この例では、図11に示すように、帯域制限フィルタ101の入力信号を二分岐し、一方を帯域制限フィルタ101に、他方を新たに挿入する広帯域フィルタ105を介して、ノイズ検出回路(手段)103に供給する点が、図8と相違している。即ち、図11に示す例では、ノイズ検出回路103に供給する信号は、狭帯域の帯域制限フィルタ101の群遅延特性の影響を受けない。広帯域フィルタ105は、例えば図12(a)に示すように受信機の受信可能な帯域周波数においてほぼ平坦な周波数−振幅特性を備え、従って、群遅延特性も図12(b)に示すように、ほぼ平坦な特性となっている。この例のように広帯域フィルタを使用することにより群遅延特性の平坦化を行えば、必然的に群遅延の影響を除去することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平3-245615号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、以上説明した従来のノイズブランカのうち図11乃至図13に示したように広帯域フィルタを使用するものでは、広い通過域周波数の何処かに高いレベルの信号が存在すると、その高いレベルの信号によりノイズ検出回路が誤動作を起こすことがある。このような場合、不要なノイズ除去信号が発生し、ノイズを含まない所望チャネル信号についても不要にブランキングされて、正常な通信が阻害されてしまうことになる。
また、図8乃至図10により説明したように、狭帯域の帯域制限フィルタを使用するものでは、狭帯域フィルタに伴う群遅延特性や振幅特性の非平坦性に起因するノイズ除去信号波形の鈍りや、パルス幅の広がりのためにノイズ検出タイミングに遅延が生じ、あるいは受信信号がフィルタの通過位置によってノイズ検出レベルが変化する結果ノイズ検出感度にばらつきが生じ、正確なノイズ除去が妨げられることがあった。
その影響を除去するために、例えば、特許文献1に開示されているように、ノイズゲート回路102の前段(図8では帯域制限フィルタ101とノイズゲート回路102の間)に可変遅延線を挿入し、この遅延線による遅延量が、ノイズ除去信号によってブランキングされるタイミングに一致するように調整することにより、混入するノイズをブランキングすることが考えられる。
しかしながら、特許文献には可変遅延線の遅延量を制御するものでは制御が複雑になる可能性がある。また、狭帯域フィルタのどの周波数帯域にノイズ成分が存在するかによって群遅延量が変化する場合があるので、種々異なるノイズ周波数成分の発生に追従して遅延量を制御することは実質的に困難である。
本発明は、このような従来のノイズブランカにおける諸問題に鑑みてなされたものであって、複雑な制御や高価なフィルタを備えることなく、ノイズ周波数成分が種々変化する場合であってもノイズ信号のみを高精度にブランキングすることが可能なノイズブランカを提供すること目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明はこのような課題を解決するために、請求項1記載のノイズブランカは、受信信号を帯域制限フィルタによって所要範囲の周波数帯域に制限した後に、所定レベル以上のノイズ信号を除去するノイズブランカにおいて、上記帯域制限フィルタ出力信号を二分岐し、一方を、遅延手段と、信号の伝達を制御するゲート回路と、を介して次段に出力する第一のルートと、上記二分岐した他方を、帯域制限フィルタの群遅延・周波数特性を補正して夫々の特性を平坦化する群遅延・周波数特性等価手段と、所定レベル以上のノイズ信号を検出するノイズ検出手段と、検出したノイズ信号に対応したノイズ除去信号を発生するノイズ除去信号発生手段と、発生したノイズ除去信号を上記ゲート回路に供給する手段とを含む第二のルートを備え、上記遅延手段の遅延量を所要値に設定することによって、上記ゲート回路におけるノイズ信号通過タイミングと、上記ノイズ除去信号供給タイミングを同期させるように構成したことを特徴とする。
【0008】
請求項2記載の発明は、請求項1記載のノイズブランカにおいて、上記帯域制限フィルタとして通過帯域周波数が異なる複数の帯域制限フィルタが並列に接続され、更に、前記群遅延・周波数特性等価手段として、夫々の帯域制限フィルタに対応する複数の群遅延・周波数特性等価手段が備えられたことを特徴とする。
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載のノイズブランカにおいて、上記帯域制限フィルタの一つに対応して、その通過帯域を複数に分割し、群遅延・周波数特性を平坦化する複数の群遅延・周波数特性等価手段が備えられたことを特徴とする。
請求項4記載の発明は、請求項1乃至3の何れか一項記載のノイズブランカにおいて、少なくとも前記遅延手段、ゲート回路、群遅延・周波数特性等価手段、ノイズ検出手段、ノイズ除去信号発生手段の一部又は全部が、アナログ・デジタル変換手段とDSPとを含むデジタル処理手段によって構成されていることを特徴とする。
請求項5記載の発明は、請求項1乃至4の何れか一項記載のノイズブランカにおいて、上記群遅延・周波数特性等価手段が、ノイズ検出に必要な周波数帯域に限定して群遅延・周波数特性の平坦化処理を行うように構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
以上のように本発明のノイズブランカは、帯域制限フィルタ出力信号からノイズを検出する経路に、帯域制限フィルタの周波数特性及び/又は群遅延特性を補正して、総合的にそれらの特性を平坦化した上で、ノイズを検出するとともに、ノイズを除去するゲート回路の前段に遅延手段を備える。そして、ゲート回路に除去すべきノイズ信号のタイミングと、それをブランキングするためのノイズ除去信号が到達するタイミングが一致するように上記遅延手段の遅延量を設定したものである。
このように構成したので、ノイズ検出に際して、帯域制限フィルタの周波数特性、群遅延特性の少なくとも一方の特性が平坦化されているので、それらの影響が排除され、結果的に、ノイズ除去信号波形が間延びすること、あるいは周波数特性によってノイズ除去信号のレベルが変動することが回避される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明のノイズブランカを備えた無線受信機の一例を示すブロック図。
【図2】本発明の実施例を説明するための図で、(a)、(b)は群遅延・周波数特性等価器の特性を示す図、(c)、(d)は等価後の群遅延・周波数特性を示す図。
【図3】本発明の実施例を説明する図で、(a)は帯域フィルタ1に入力するノイズ信号波形図、(b)は帯域制限フィルタ1を通過することによって変形したノイズ信号波形図、(c)は遅延器2によって所要の時間だけ遅延させたノイズ信号波形図、(d)は群遅延・周波数特性等価器4を通過することによって変形が補正されたノイズ信号波形図、(e)はノイズ検出回路5の出力の信号波形図。
【図4】本発明のノイズブランカを備えた無線受信機の他の例を示すブロック図。
【図5】本発明の変形実施例を説明するための図で、(a)、(b)は帯域制限フィルタAの群遅延・周波数特性等価器の特性を示す図、(c)、(d)は群遅延・周波数特性等価器の群遅延・周波数特性を示す図。
【図6】本発明のノイズブランカを備えた無線受信機の他の例を示すブロック図。
【図7】本発明の実施例を説明するための図で、(a)、(b)は群遅延・周波数特性等価器Bの群遅延・周波数特性等を示す図、(c)、(d)は等価後の群遅延特性、周波数特性を示す図。
【図8】従来のノイズブランカを備えた無線受信機の一例を示すブロック図。
【図9】従来のノイズブランカを説明するための図で、(a)、(b)は帯域制限フィルタの周波数特性、群遅延特性を示す図。
【図10】従来のノイズブランカを説明するための図で、(a)はノイズ信号波形図、(b)は変形したノイズ信号波形図、(c)はノイズ検出信号波形図。
【図11】従来のノイズブランカを備えた無線受信機の他の例を示すブロック図。
【図12】従来のノイズブランカを説明するための図で、(a)、(b)は帯域制限フィルタの周波数特性、群遅延特性を示す図。
【図13】従来のノイズブランカを説明するための図で、(a)はノイズ信号波形図、(b)はノイズ信号波形図、(c)はノイズ検出信号波形図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載される構成要素、種類、組み合わせ、形状、その相対配置などは特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する主旨ではなく単なる説明例に過ぎない。また既に説明したものと同一部分ならびに同一事項には同一符号、番号を付し、重複する説明は省略する。
図1は、本発明に係るノイズブランカを備えた無線受信機の一部を示すブロック図である。この図に示すノイズブランカは、既出図8と同様に、無線受信機の高周波増幅回路、局部発振器、混合回路等を経て中間周波数信号に変換された後、若しくは高周波増幅回路の出力信号から、帯域制限フィルタ1によって所要周波数帯域信号を取り出し、その帯域信号に対してノイズ軽減処理を行う場合を示している。
【0012】
この例に示す構成では、帯域制限フィルタ1の出力信号を二分岐し、一方は遅延器(遅延手段)2、ゲート回路3を経て、図示を省略した無線受信機の復調回路等の次段処理ブロックに供給する。また、分岐した他方の帯域フィルタ1の出力信号は、新たに追加した群遅延・周波数特性等価器4を介してノイズ検出回路(ノイズ検出手段)5に供給し、検出したノイズ信号に基づいてパルス信号を発生するノイズ除去信号発生回路6に導き、このノイズ除去信号発生回路6の出力信号によって、ゲート回路3のゲートのオン・オフを制御するように構成されている。このブロックにおいて、混入したイグニッションノイズのように所定レベル以上の大きなノイズをノイズ検出回路5により抽出するとともに、ノイズ除去信号発生回路6においてノイズに対応して矩形波のノイズ除去信号を発生し、このノイズ除去信号によって上記ゲート回路を制御する。ノイズゲート回路そのものの処理については、特許文献1やその他の公知資料に開示されているので、詳細な説明は省略する。
なお、この例において、群遅延・周波数特性等価器(equalizer:「等化器」と云うこともある)4は、帯域制限フィルタ1の群遅延特性、周波数特性の両方、又は、群遅延特性、周波数特性のいずれか一方の等価機能をもった等価器であることを意味する。即ち、「群遅延・周波数特性」を「群遅延又は/及び周波数特性」を示すものとする。従って、群遅延・周波数特性等価器4は、群遅延特性等価器の場合、周波数特性等価器である場合、その両方である場合を含んでいる。なお、等価を行う周波数範囲は、ノイズ検出に必要な範囲においてのみ行うものとし、帯域制限フィルタ1の特性を完全に等価するものではない。ノイズ検出が有効に機能し、一旦減衰した信号を増幅することにより発生する雑音成分が所望の検出動作に影響しない範囲となるように決定する。
本発明の特徴は、帯域制限フィルタ1の群遅延特性、及び/又は、周波数特性の非平坦性を補正して、等価的に平坦になるように、群遅延・周波数特性等価器4をノイズ検出回路の前段に挿入した点である。この手段によって、群遅延特性、周波数特性の非平坦性に起因する不具合を解消するものである。
【0013】
図2は、群遅延・周波数特性等価器4の一例を示す図であって、(a)は周波数特性、(b)は群遅延特性、(c)は等価後の周波数特性、(d)は等価後の群遅延特性を示している。即ち、帯域制限フィルタの周波数特性と群遅延特性は、図9(a)、(b)に示したものとすると、それらを平坦化するために、夫々の特性を反転させたものと等しい補正量をもった図2(a)、(b)の等価器を使用する。その結果、等価後の周波数特性が図2(c)、等価後の群遅延特性が図2(d)に示すように、通過帯域において、ほぼ平坦な特性となる。このような処理を施せば、群遅延や周波数特性の非平坦性に起因するノイズ検出パルスの鈍り、パルス幅の広がり、あるいはノイズ検出レベルの変動を防止することが可能となる。
なお、ゲート回路3の前段に挿入した遅延器2は、ノイズ除去信号発生回路ルート中の処理遅延量を補うためのもので、その意味や動作については特許文献1やその他の文献により公知であるので、詳細説明は省略するが、本発明によれば、ノイズ除去信号発生処理においては、帯域フィルタの群遅延・周波数特性の非平坦性が排除されるので、遅延量はほぼ固定的な値にしておけば良い。
【0014】
図3は、以上のように構成したノイズブランカの各部の信号波形を示したもので、(a)は帯域フィルタ1に入力するノイズ信号波形、(b)は帯域制限フィルタ1を通過することによって変形したノイズ信号波形、(c)は遅延器2によって所要の時間だけ遅延させたノイズ信号波形、(d)は群遅延・周波数特性等価器4を通過することによって変形が補正されたノイズ信号波形、(e)はノイズ検出回路5の出力の信号波形であり、ノイズ信号波形の変形が補正された結果、図10(c)に示したものと異なり、検出信号のパルス幅の広がりがなく理想的な波形に近いものとなっている。従って、この検出結果の波形に基づいてノイズ除去信号を発生すれば、ノイズ成分のみがブランキングされて、次段の処理ブロックに伝達されることがない。
なお、上述したノイズブランカの実現に際しては、各ブロック通りの回路や手段を備える他、例えば、遅延手段、ゲート回路、群遅延・周波数特性等価手段、ノイズ検出手段、ノイズ除去信号発生手段の一部又は全部が、アナログ・デジタル変換手段とDSPとを含むデジタル処理手段によって構成することも可能である。特に、等価器は帯域制限フィルタの特性と逆特性を要求されるので、デジタル処理による方法が適しているであろう。このことは、以下に説明する他の実施例においても同様で、複数の等価器や、フィルタを用いる場合はデジタル処理により、時系列的に切替えて処理を行う方が、使用する部品の削減や小型化の上から好ましい。また、小型化や処理時間の短縮のために、群遅延・周波数特性等価手段において行う等価処理を、通過帯域全域に亘って行う代わりに、ノイズ検出に必要な周波数領域、例えば、ノイズ信号の周波数領域である±7kHzについてのみ行うこともできるし、発生したノイズの周波数領域を検出して、その周波数領域について等価処理をおこなうこともできる。これらの処理は、デジタル処理に適している。
【0015】
図4は、本発明の変形実施例を示すブロック図である。この例に示すノイズブランカの特徴は、帯域制限フィルタとして第一の帯域制限フィルタ11と第二の帯域フィルタ12を備えた無線受信機に対応するものである。例えば、受信帯域が広い場合、あるいは、近隣チャネル周波数におけるノイズや大電力信号の妨害を小さくするために、通過帯域を複数に分割し、夫々の周波数領域に対応して帯域制限周波数幅が狭く減衰特性が急峻な複数のフィルタを並べる場合や、デジタルフィルタをチャンネル周波数に応じて切替える場合を想定している。このように複数の帯域制限フィルタを使用する場合は、夫々のフィルタ毎に、等価器の特性が異なるので、図4に示すように、第一の群遅延・周波数特性等価器13と、第二の群遅延・周波数特性等価器14を備えたものである。なお、この例では、第一の帯域制限フィルタ11と第一の群遅延・周波数特性等価器14が、図1に示した例の帯域制限フィルタ1と群遅延・周波数特性等価器4と同じ特性のものとして、その特性の図示は省略する。
【0016】
図5(a)、(b)は、第二の帯域制限フィルタ(A)12の周波数特性と群遅延特性を示す図で、同図5(c)、(d)は群遅延・周波数特性等価器14の周波数特性と群遅延特性を示す図である。この例における処理や動作は図1乃至図3に示したものとほぼ同様であるので、他の信号波形の図示と説明は省略するが、二つある帯域制限フィルタ11、12は、受信チャネル選択に応じて切替えても良い。また、群遅延・周波数特性等価器13、14については、切り替えられた帯域制限フィルタ11または12のいずれか一方を通過したノイズ信号が、群遅延・周波数特性等価器13、14の対応するいずれか一方を通過することになる場合は、必ずしも切替える必要はない。この方法においては、帯域制限フィルタは二つに限らず、それ以上であっても良いし、上述したように、これらの帯域制限フィルタや等価器をデジタル処理によって実現することも可能である。なお、複数の群遅延・周波数特性等価器を使用する場合において、各等価器における遅延処理量が異なる場合に、必要が有れば遅延器2を可変遅延手段として、その遅延量を、選択した帯域制限フィルタ(あるいは受信チャネル)に対応して制御することも、正確にノイズをブランキングする上で有用である。
【0017】
図6は、本発明の他の実施例を示すブロック図である。この例では、既に説明した図1の構成において、更に、群遅延・周波数特性等価器4の他に、第二の群遅延・周波数特性等価器15を備えている。この群遅延・周波数特性等価器15の周波数特性は、図7(a)に示すように低域周波数阻止型(高域フィルタ)の周波数特性を有し、群遅延特性の等価特性は図7(b)に示すように、図2(b)と同じく、帯域制限フィルタ1の群遅延特性を平坦化する。従って、この等価器によれば、周波数特性は図7(c)に示すようになっており、群遅延特性は図7(d)に示すように平坦になっている。
この実施例によれば、受信周波数より低い周波数領域に大きなノイズ信号が存在する場合に、それを除去する上で有用である。即ち、この実施例は等価器の周波数特性として、低域フィルタ特性、又は、高域フィルタ特性を持たせることによって、ノイズ検出回路のルートについては帯域制限フィルタとの総合的な周波数特性として、低域フィルタ、又は、高域フィルタとして機能するように構成した点が特徴的である。この方法によれば、複数の等価器、又は、複数の特性に切り替え可能な等価器を備えておき、ノイズが発生する周波数領域が受信周波数より高い周波数領域であるか低い周波数領域であるかに応じて、適宜、切替えることにより、電波環境に応じて最適なノイズブランカとして機能させることが可能となる。
【0018】
以上のように本発明のノイズブランカは、帯域制限フィルタ出力信号からノイズを検出する経路に、帯域制限フィルタの周波数特性及び/又は群遅延特性を補正して、総合的にそれらの特性を平坦化した上で、ノイズを検出するとともに、ノイズを除去するゲート回路の前段に遅延手段を備える。そして、ゲート回路に除去すべきノイズ信号のタイミングと、それをブランキングするためのノイズ除去信号が到達するタイミングが一致するように上記遅延手段の遅延量を設定したものである。このように構成したので、ノイズ検出に際して、帯域制限フィルタの周波数特性、群遅延特性の少なくとも一方の特性が平坦化されているので、それらの影響が排除され、結果的に、ノイズ除去信号波形が間延びすること、あるいは周波数特性によってノイズ除去信号のレベルが変動することが回避される。 従って、必要以上長期間にわたって受信信号がマスクされる不具合、ブランキングのタイミングがずれる不具合、ゲート回路を開閉するために十分なノイズ検出レベルが得られない等の不具合の少なくとも一つが解消され、高い精度でノイズを除去することができるノイズブランカを構成することが可能となる。
これらの構成は、実際の群遅延・周波数特性等価器を備える場合の他、アナログ・デジタル変換手段やDSP、所要プログラムやデータを記憶したメモリ等を備えることによって、デジタル処理として構成すれば、装置の大型化やコストアップを伴うことなく、本発明を実現することが出来る。
【0019】
以上本発明の実施例を説明したが、本発明はこれらの例に限定することなく、種々の変形が可能である。例えば、図4に示す例において、帯域フィルタを分割して並列に接続する数は、二つに限らず、それ以上の数であっても構わない。
更に、図6に示すように一つの帯域制限フィルタに対して、複数の群遅延・周波数等価器を備える場合、夫々の周波数特性として、低域フィルタ特性と高域フィルタ特性の組合せ、あるいは、更に帯域フィルタ特性を組合せたものであってもよいし、図4、図6に示すものの混合型であってもよい。
また、特許文献1にも指摘されているように、ノイズ除去信号の発生タイミングは、ノイズ検出回路やノイズ除去発生回路の処理時間によって、ノイズ信号がノイズゲート回路を出力するタイミングより遅れるが、その遅延時間が固定的名値である場合は、ゲート回路の前段に固定的な遅延回路を挿入することによって両者を一致させて、ノイズ成分のみをブランキングすることが可能であることも既に説明したとおりである。
【符号の説明】
【0020】
1、11、12 帯域制限フィルタ、2 遅延器、3 ゲート回路、4、13、14、15 群遅延・周波数特性等価回路、5 ノイズ検出回路、6 ノイズ除去信号発生回路
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノイズブランカに関し、詳細には、無線受信機の復調信号中に混入するノイズ成分低減のためのノイズブランカの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信、特に、移動無線通信では通信機の周囲環境が著しく変化し、多くのノイズ発生源が存在する環境下において通信を行うことが強いられている。特に、自動車のイグニッションノイズは、極めて大きな雑音出力として受信機の復調信号に混入するので、音声モニタ出力信号の質の低下に限らず、データ通信においてもデータ誤り発生の原因となっており、その対策として、従来からノイズブランカ(Noise Blanker)が使用されている。
図8は従来のノイズブランカの一例を示すブロック図である。この例では図示を省略した無線受信機の高周波増幅回路、局部発振器、混合回路等を経て中間周波数信号に変換された後、帯域制限フィルタ101によって所要周波数帯域を通過する周波数成分を取り出し、その帯域信号に対してノイズ軽減処理を行う場合を示している。
即ち、帯域制限フィルタ101を通過後の信号を二分岐し、一方はノイズゲート回路102を経て、図示を省略した復調回路等の次段の処理ブロックに供給する。分岐した他方の信号は、ノイズ検出回路(手段)103を介してノイズ除去信号発生回路104に導き、このノイズ除去信号発生回路104において波形整形された方形波形状の除去信号によって上記ノイズゲート回路102を制御することによって、ノイズ信号部分に対してノイズゲート回路102のゲートを遮断し、ノイズが混在している信号を短時間だけ切り取り、ノイズ信号が次段処理ブロックに伝達されないように構成されている。
【0003】
この例において使用される帯域制限フィルタは、通常、無線通信機に備えられるもので、図9(a)に示すように、夫々の通信システムにおいて規定され通過帯域に応じた比較的狭帯域の帯域制限フィルタ(バンドバスフィルタ)である場合が多い。一般的に狭帯域フィルタは図9(b)に示すように、周波数制限領域における群遅延特性が平坦ではなく、狭帯域であるほど通過帯域内における群遅延特性の平坦性が損なわれる傾向にある。図10は、図8に示した回路の各部の信号波形を示したもので、(a)は帯域制限フィルタ101の入力端部のノイズ信号波形、(b)は帯域制限フィルタ101の出力端部の信号波形であり、これはノイズ検出回路の入力信号となる。また、図10(c)は、ノイズ検出回路103の出力信号波形であり、ノイズ除去信号である。図10(a)、(b)、(c)の横軸は時間経過を示しており、相互を比較すれば明らかなように、ノイズ除去信号のパルス幅が、実際のノイズ信号の幅より広がっていることが分かる。これは、受信信号が帯域制限フィルタ101を通過する際の、フィルタの群遅延特性の影響によるパルス信号の歪み(間延び)に起因するものである。このように、ノイズ除去信号のパルス幅が実際のノイズ信号の幅より広がると、ノイズ成分のみならず希望信号成分の一部についてもブランキングされることになり、会話の場合は内容が不明瞭になってしまうという不具合が発生する。なお、特許文献1にも指摘されているように、ノイズ除去信号の発生タイミングは、ノイズ検出回路103やノイズ除去発生回路の処理時間によって、ノイズ信号がノイズゲート回路102を出力するタイミングより遅れるが、その遅延時間が固定的な値である場合は、ゲート回路の前段に固定的な遅延回路を挿入することによって両者を一致させて、ノイズ成分をブランキングすることが可能である。
【0004】
図11乃至図13は、従来の他のノイズブランカの例を示すブロック図と信号波形図である。この例では、図11に示すように、帯域制限フィルタ101の入力信号を二分岐し、一方を帯域制限フィルタ101に、他方を新たに挿入する広帯域フィルタ105を介して、ノイズ検出回路(手段)103に供給する点が、図8と相違している。即ち、図11に示す例では、ノイズ検出回路103に供給する信号は、狭帯域の帯域制限フィルタ101の群遅延特性の影響を受けない。広帯域フィルタ105は、例えば図12(a)に示すように受信機の受信可能な帯域周波数においてほぼ平坦な周波数−振幅特性を備え、従って、群遅延特性も図12(b)に示すように、ほぼ平坦な特性となっている。この例のように広帯域フィルタを使用することにより群遅延特性の平坦化を行えば、必然的に群遅延の影響を除去することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平3-245615号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、以上説明した従来のノイズブランカのうち図11乃至図13に示したように広帯域フィルタを使用するものでは、広い通過域周波数の何処かに高いレベルの信号が存在すると、その高いレベルの信号によりノイズ検出回路が誤動作を起こすことがある。このような場合、不要なノイズ除去信号が発生し、ノイズを含まない所望チャネル信号についても不要にブランキングされて、正常な通信が阻害されてしまうことになる。
また、図8乃至図10により説明したように、狭帯域の帯域制限フィルタを使用するものでは、狭帯域フィルタに伴う群遅延特性や振幅特性の非平坦性に起因するノイズ除去信号波形の鈍りや、パルス幅の広がりのためにノイズ検出タイミングに遅延が生じ、あるいは受信信号がフィルタの通過位置によってノイズ検出レベルが変化する結果ノイズ検出感度にばらつきが生じ、正確なノイズ除去が妨げられることがあった。
その影響を除去するために、例えば、特許文献1に開示されているように、ノイズゲート回路102の前段(図8では帯域制限フィルタ101とノイズゲート回路102の間)に可変遅延線を挿入し、この遅延線による遅延量が、ノイズ除去信号によってブランキングされるタイミングに一致するように調整することにより、混入するノイズをブランキングすることが考えられる。
しかしながら、特許文献には可変遅延線の遅延量を制御するものでは制御が複雑になる可能性がある。また、狭帯域フィルタのどの周波数帯域にノイズ成分が存在するかによって群遅延量が変化する場合があるので、種々異なるノイズ周波数成分の発生に追従して遅延量を制御することは実質的に困難である。
本発明は、このような従来のノイズブランカにおける諸問題に鑑みてなされたものであって、複雑な制御や高価なフィルタを備えることなく、ノイズ周波数成分が種々変化する場合であってもノイズ信号のみを高精度にブランキングすることが可能なノイズブランカを提供すること目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明はこのような課題を解決するために、請求項1記載のノイズブランカは、受信信号を帯域制限フィルタによって所要範囲の周波数帯域に制限した後に、所定レベル以上のノイズ信号を除去するノイズブランカにおいて、上記帯域制限フィルタ出力信号を二分岐し、一方を、遅延手段と、信号の伝達を制御するゲート回路と、を介して次段に出力する第一のルートと、上記二分岐した他方を、帯域制限フィルタの群遅延・周波数特性を補正して夫々の特性を平坦化する群遅延・周波数特性等価手段と、所定レベル以上のノイズ信号を検出するノイズ検出手段と、検出したノイズ信号に対応したノイズ除去信号を発生するノイズ除去信号発生手段と、発生したノイズ除去信号を上記ゲート回路に供給する手段とを含む第二のルートを備え、上記遅延手段の遅延量を所要値に設定することによって、上記ゲート回路におけるノイズ信号通過タイミングと、上記ノイズ除去信号供給タイミングを同期させるように構成したことを特徴とする。
【0008】
請求項2記載の発明は、請求項1記載のノイズブランカにおいて、上記帯域制限フィルタとして通過帯域周波数が異なる複数の帯域制限フィルタが並列に接続され、更に、前記群遅延・周波数特性等価手段として、夫々の帯域制限フィルタに対応する複数の群遅延・周波数特性等価手段が備えられたことを特徴とする。
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載のノイズブランカにおいて、上記帯域制限フィルタの一つに対応して、その通過帯域を複数に分割し、群遅延・周波数特性を平坦化する複数の群遅延・周波数特性等価手段が備えられたことを特徴とする。
請求項4記載の発明は、請求項1乃至3の何れか一項記載のノイズブランカにおいて、少なくとも前記遅延手段、ゲート回路、群遅延・周波数特性等価手段、ノイズ検出手段、ノイズ除去信号発生手段の一部又は全部が、アナログ・デジタル変換手段とDSPとを含むデジタル処理手段によって構成されていることを特徴とする。
請求項5記載の発明は、請求項1乃至4の何れか一項記載のノイズブランカにおいて、上記群遅延・周波数特性等価手段が、ノイズ検出に必要な周波数帯域に限定して群遅延・周波数特性の平坦化処理を行うように構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
以上のように本発明のノイズブランカは、帯域制限フィルタ出力信号からノイズを検出する経路に、帯域制限フィルタの周波数特性及び/又は群遅延特性を補正して、総合的にそれらの特性を平坦化した上で、ノイズを検出するとともに、ノイズを除去するゲート回路の前段に遅延手段を備える。そして、ゲート回路に除去すべきノイズ信号のタイミングと、それをブランキングするためのノイズ除去信号が到達するタイミングが一致するように上記遅延手段の遅延量を設定したものである。
このように構成したので、ノイズ検出に際して、帯域制限フィルタの周波数特性、群遅延特性の少なくとも一方の特性が平坦化されているので、それらの影響が排除され、結果的に、ノイズ除去信号波形が間延びすること、あるいは周波数特性によってノイズ除去信号のレベルが変動することが回避される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明のノイズブランカを備えた無線受信機の一例を示すブロック図。
【図2】本発明の実施例を説明するための図で、(a)、(b)は群遅延・周波数特性等価器の特性を示す図、(c)、(d)は等価後の群遅延・周波数特性を示す図。
【図3】本発明の実施例を説明する図で、(a)は帯域フィルタ1に入力するノイズ信号波形図、(b)は帯域制限フィルタ1を通過することによって変形したノイズ信号波形図、(c)は遅延器2によって所要の時間だけ遅延させたノイズ信号波形図、(d)は群遅延・周波数特性等価器4を通過することによって変形が補正されたノイズ信号波形図、(e)はノイズ検出回路5の出力の信号波形図。
【図4】本発明のノイズブランカを備えた無線受信機の他の例を示すブロック図。
【図5】本発明の変形実施例を説明するための図で、(a)、(b)は帯域制限フィルタAの群遅延・周波数特性等価器の特性を示す図、(c)、(d)は群遅延・周波数特性等価器の群遅延・周波数特性を示す図。
【図6】本発明のノイズブランカを備えた無線受信機の他の例を示すブロック図。
【図7】本発明の実施例を説明するための図で、(a)、(b)は群遅延・周波数特性等価器Bの群遅延・周波数特性等を示す図、(c)、(d)は等価後の群遅延特性、周波数特性を示す図。
【図8】従来のノイズブランカを備えた無線受信機の一例を示すブロック図。
【図9】従来のノイズブランカを説明するための図で、(a)、(b)は帯域制限フィルタの周波数特性、群遅延特性を示す図。
【図10】従来のノイズブランカを説明するための図で、(a)はノイズ信号波形図、(b)は変形したノイズ信号波形図、(c)はノイズ検出信号波形図。
【図11】従来のノイズブランカを備えた無線受信機の他の例を示すブロック図。
【図12】従来のノイズブランカを説明するための図で、(a)、(b)は帯域制限フィルタの周波数特性、群遅延特性を示す図。
【図13】従来のノイズブランカを説明するための図で、(a)はノイズ信号波形図、(b)はノイズ信号波形図、(c)はノイズ検出信号波形図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載される構成要素、種類、組み合わせ、形状、その相対配置などは特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する主旨ではなく単なる説明例に過ぎない。また既に説明したものと同一部分ならびに同一事項には同一符号、番号を付し、重複する説明は省略する。
図1は、本発明に係るノイズブランカを備えた無線受信機の一部を示すブロック図である。この図に示すノイズブランカは、既出図8と同様に、無線受信機の高周波増幅回路、局部発振器、混合回路等を経て中間周波数信号に変換された後、若しくは高周波増幅回路の出力信号から、帯域制限フィルタ1によって所要周波数帯域信号を取り出し、その帯域信号に対してノイズ軽減処理を行う場合を示している。
【0012】
この例に示す構成では、帯域制限フィルタ1の出力信号を二分岐し、一方は遅延器(遅延手段)2、ゲート回路3を経て、図示を省略した無線受信機の復調回路等の次段処理ブロックに供給する。また、分岐した他方の帯域フィルタ1の出力信号は、新たに追加した群遅延・周波数特性等価器4を介してノイズ検出回路(ノイズ検出手段)5に供給し、検出したノイズ信号に基づいてパルス信号を発生するノイズ除去信号発生回路6に導き、このノイズ除去信号発生回路6の出力信号によって、ゲート回路3のゲートのオン・オフを制御するように構成されている。このブロックにおいて、混入したイグニッションノイズのように所定レベル以上の大きなノイズをノイズ検出回路5により抽出するとともに、ノイズ除去信号発生回路6においてノイズに対応して矩形波のノイズ除去信号を発生し、このノイズ除去信号によって上記ゲート回路を制御する。ノイズゲート回路そのものの処理については、特許文献1やその他の公知資料に開示されているので、詳細な説明は省略する。
なお、この例において、群遅延・周波数特性等価器(equalizer:「等化器」と云うこともある)4は、帯域制限フィルタ1の群遅延特性、周波数特性の両方、又は、群遅延特性、周波数特性のいずれか一方の等価機能をもった等価器であることを意味する。即ち、「群遅延・周波数特性」を「群遅延又は/及び周波数特性」を示すものとする。従って、群遅延・周波数特性等価器4は、群遅延特性等価器の場合、周波数特性等価器である場合、その両方である場合を含んでいる。なお、等価を行う周波数範囲は、ノイズ検出に必要な範囲においてのみ行うものとし、帯域制限フィルタ1の特性を完全に等価するものではない。ノイズ検出が有効に機能し、一旦減衰した信号を増幅することにより発生する雑音成分が所望の検出動作に影響しない範囲となるように決定する。
本発明の特徴は、帯域制限フィルタ1の群遅延特性、及び/又は、周波数特性の非平坦性を補正して、等価的に平坦になるように、群遅延・周波数特性等価器4をノイズ検出回路の前段に挿入した点である。この手段によって、群遅延特性、周波数特性の非平坦性に起因する不具合を解消するものである。
【0013】
図2は、群遅延・周波数特性等価器4の一例を示す図であって、(a)は周波数特性、(b)は群遅延特性、(c)は等価後の周波数特性、(d)は等価後の群遅延特性を示している。即ち、帯域制限フィルタの周波数特性と群遅延特性は、図9(a)、(b)に示したものとすると、それらを平坦化するために、夫々の特性を反転させたものと等しい補正量をもった図2(a)、(b)の等価器を使用する。その結果、等価後の周波数特性が図2(c)、等価後の群遅延特性が図2(d)に示すように、通過帯域において、ほぼ平坦な特性となる。このような処理を施せば、群遅延や周波数特性の非平坦性に起因するノイズ検出パルスの鈍り、パルス幅の広がり、あるいはノイズ検出レベルの変動を防止することが可能となる。
なお、ゲート回路3の前段に挿入した遅延器2は、ノイズ除去信号発生回路ルート中の処理遅延量を補うためのもので、その意味や動作については特許文献1やその他の文献により公知であるので、詳細説明は省略するが、本発明によれば、ノイズ除去信号発生処理においては、帯域フィルタの群遅延・周波数特性の非平坦性が排除されるので、遅延量はほぼ固定的な値にしておけば良い。
【0014】
図3は、以上のように構成したノイズブランカの各部の信号波形を示したもので、(a)は帯域フィルタ1に入力するノイズ信号波形、(b)は帯域制限フィルタ1を通過することによって変形したノイズ信号波形、(c)は遅延器2によって所要の時間だけ遅延させたノイズ信号波形、(d)は群遅延・周波数特性等価器4を通過することによって変形が補正されたノイズ信号波形、(e)はノイズ検出回路5の出力の信号波形であり、ノイズ信号波形の変形が補正された結果、図10(c)に示したものと異なり、検出信号のパルス幅の広がりがなく理想的な波形に近いものとなっている。従って、この検出結果の波形に基づいてノイズ除去信号を発生すれば、ノイズ成分のみがブランキングされて、次段の処理ブロックに伝達されることがない。
なお、上述したノイズブランカの実現に際しては、各ブロック通りの回路や手段を備える他、例えば、遅延手段、ゲート回路、群遅延・周波数特性等価手段、ノイズ検出手段、ノイズ除去信号発生手段の一部又は全部が、アナログ・デジタル変換手段とDSPとを含むデジタル処理手段によって構成することも可能である。特に、等価器は帯域制限フィルタの特性と逆特性を要求されるので、デジタル処理による方法が適しているであろう。このことは、以下に説明する他の実施例においても同様で、複数の等価器や、フィルタを用いる場合はデジタル処理により、時系列的に切替えて処理を行う方が、使用する部品の削減や小型化の上から好ましい。また、小型化や処理時間の短縮のために、群遅延・周波数特性等価手段において行う等価処理を、通過帯域全域に亘って行う代わりに、ノイズ検出に必要な周波数領域、例えば、ノイズ信号の周波数領域である±7kHzについてのみ行うこともできるし、発生したノイズの周波数領域を検出して、その周波数領域について等価処理をおこなうこともできる。これらの処理は、デジタル処理に適している。
【0015】
図4は、本発明の変形実施例を示すブロック図である。この例に示すノイズブランカの特徴は、帯域制限フィルタとして第一の帯域制限フィルタ11と第二の帯域フィルタ12を備えた無線受信機に対応するものである。例えば、受信帯域が広い場合、あるいは、近隣チャネル周波数におけるノイズや大電力信号の妨害を小さくするために、通過帯域を複数に分割し、夫々の周波数領域に対応して帯域制限周波数幅が狭く減衰特性が急峻な複数のフィルタを並べる場合や、デジタルフィルタをチャンネル周波数に応じて切替える場合を想定している。このように複数の帯域制限フィルタを使用する場合は、夫々のフィルタ毎に、等価器の特性が異なるので、図4に示すように、第一の群遅延・周波数特性等価器13と、第二の群遅延・周波数特性等価器14を備えたものである。なお、この例では、第一の帯域制限フィルタ11と第一の群遅延・周波数特性等価器14が、図1に示した例の帯域制限フィルタ1と群遅延・周波数特性等価器4と同じ特性のものとして、その特性の図示は省略する。
【0016】
図5(a)、(b)は、第二の帯域制限フィルタ(A)12の周波数特性と群遅延特性を示す図で、同図5(c)、(d)は群遅延・周波数特性等価器14の周波数特性と群遅延特性を示す図である。この例における処理や動作は図1乃至図3に示したものとほぼ同様であるので、他の信号波形の図示と説明は省略するが、二つある帯域制限フィルタ11、12は、受信チャネル選択に応じて切替えても良い。また、群遅延・周波数特性等価器13、14については、切り替えられた帯域制限フィルタ11または12のいずれか一方を通過したノイズ信号が、群遅延・周波数特性等価器13、14の対応するいずれか一方を通過することになる場合は、必ずしも切替える必要はない。この方法においては、帯域制限フィルタは二つに限らず、それ以上であっても良いし、上述したように、これらの帯域制限フィルタや等価器をデジタル処理によって実現することも可能である。なお、複数の群遅延・周波数特性等価器を使用する場合において、各等価器における遅延処理量が異なる場合に、必要が有れば遅延器2を可変遅延手段として、その遅延量を、選択した帯域制限フィルタ(あるいは受信チャネル)に対応して制御することも、正確にノイズをブランキングする上で有用である。
【0017】
図6は、本発明の他の実施例を示すブロック図である。この例では、既に説明した図1の構成において、更に、群遅延・周波数特性等価器4の他に、第二の群遅延・周波数特性等価器15を備えている。この群遅延・周波数特性等価器15の周波数特性は、図7(a)に示すように低域周波数阻止型(高域フィルタ)の周波数特性を有し、群遅延特性の等価特性は図7(b)に示すように、図2(b)と同じく、帯域制限フィルタ1の群遅延特性を平坦化する。従って、この等価器によれば、周波数特性は図7(c)に示すようになっており、群遅延特性は図7(d)に示すように平坦になっている。
この実施例によれば、受信周波数より低い周波数領域に大きなノイズ信号が存在する場合に、それを除去する上で有用である。即ち、この実施例は等価器の周波数特性として、低域フィルタ特性、又は、高域フィルタ特性を持たせることによって、ノイズ検出回路のルートについては帯域制限フィルタとの総合的な周波数特性として、低域フィルタ、又は、高域フィルタとして機能するように構成した点が特徴的である。この方法によれば、複数の等価器、又は、複数の特性に切り替え可能な等価器を備えておき、ノイズが発生する周波数領域が受信周波数より高い周波数領域であるか低い周波数領域であるかに応じて、適宜、切替えることにより、電波環境に応じて最適なノイズブランカとして機能させることが可能となる。
【0018】
以上のように本発明のノイズブランカは、帯域制限フィルタ出力信号からノイズを検出する経路に、帯域制限フィルタの周波数特性及び/又は群遅延特性を補正して、総合的にそれらの特性を平坦化した上で、ノイズを検出するとともに、ノイズを除去するゲート回路の前段に遅延手段を備える。そして、ゲート回路に除去すべきノイズ信号のタイミングと、それをブランキングするためのノイズ除去信号が到達するタイミングが一致するように上記遅延手段の遅延量を設定したものである。このように構成したので、ノイズ検出に際して、帯域制限フィルタの周波数特性、群遅延特性の少なくとも一方の特性が平坦化されているので、それらの影響が排除され、結果的に、ノイズ除去信号波形が間延びすること、あるいは周波数特性によってノイズ除去信号のレベルが変動することが回避される。 従って、必要以上長期間にわたって受信信号がマスクされる不具合、ブランキングのタイミングがずれる不具合、ゲート回路を開閉するために十分なノイズ検出レベルが得られない等の不具合の少なくとも一つが解消され、高い精度でノイズを除去することができるノイズブランカを構成することが可能となる。
これらの構成は、実際の群遅延・周波数特性等価器を備える場合の他、アナログ・デジタル変換手段やDSP、所要プログラムやデータを記憶したメモリ等を備えることによって、デジタル処理として構成すれば、装置の大型化やコストアップを伴うことなく、本発明を実現することが出来る。
【0019】
以上本発明の実施例を説明したが、本発明はこれらの例に限定することなく、種々の変形が可能である。例えば、図4に示す例において、帯域フィルタを分割して並列に接続する数は、二つに限らず、それ以上の数であっても構わない。
更に、図6に示すように一つの帯域制限フィルタに対して、複数の群遅延・周波数等価器を備える場合、夫々の周波数特性として、低域フィルタ特性と高域フィルタ特性の組合せ、あるいは、更に帯域フィルタ特性を組合せたものであってもよいし、図4、図6に示すものの混合型であってもよい。
また、特許文献1にも指摘されているように、ノイズ除去信号の発生タイミングは、ノイズ検出回路やノイズ除去発生回路の処理時間によって、ノイズ信号がノイズゲート回路を出力するタイミングより遅れるが、その遅延時間が固定的名値である場合は、ゲート回路の前段に固定的な遅延回路を挿入することによって両者を一致させて、ノイズ成分のみをブランキングすることが可能であることも既に説明したとおりである。
【符号の説明】
【0020】
1、11、12 帯域制限フィルタ、2 遅延器、3 ゲート回路、4、13、14、15 群遅延・周波数特性等価回路、5 ノイズ検出回路、6 ノイズ除去信号発生回路
【特許請求の範囲】
【請求項1】
受信信号を帯域制限フィルタによって所要範囲の周波数帯域に制限した後に、所定レベル以上のノイズ信号を除去するノイズブランカにおいて、前記帯域制限フィルタ出力信号を二分岐し、一方を、遅延手段と、信号の伝達を制御するゲート回路と、を介して次段に出力する第一のルートと、前記二分岐した他方を、前記帯域制限フィルタの群遅延・周波数特性を補正して夫々の特性を平坦化する群遅延・周波数特性等価手段と、所定レベル以上のノイズ信号を検出するノイズ検出手段と、検出したノイズ信号に対応したノイズ除去信号を発生するノイズ除去信号発生手段と、発生したノイズ除去信号を前記ゲート回路に供給する手段とを含む第二のルートを備え、前記遅延手段の遅延量を所要値に設定することによって、前記ゲート回路におけるノイズ信号通過タイミングと、前記ノイズ除去信号供給タイミングを同期させるように構成したことを特徴とする無線受信機のノイズブランカ。
【請求項2】
請求項1記載のノイズブランカにおいて、前記帯域制限フィルタとして通過帯域周波数が異なる複数の帯域制限フィルタが並列に接続され、更に、前記群遅延・周波数特性等価手段として、夫々の帯域制限フィルタに対応する複数の群遅延・周波数特性等価手段が備えられたことを特徴とする無線受信機のノイズブランカ。
【請求項3】
請求項1又は2記載のノイズブランカにおいて、前記帯域制限フィルタの一つに対応して、その通過帯域を複数に分割して群遅延・周波数特性を平坦化する複数の群遅延・周波数特性等価手段が備えられたことを特徴とする無線受信機のノイズブランカ。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか一項記載のノイズブランカにおいて、少なくとも前記遅延手段、ゲート回路、群遅延・周波数特性等価手段、ノイズ検出手段、ノイズ除去信号発生手段の一部又は全部が、アナログ・デジタル変換手段とDSPとを含むデジタル処理手段によって構成されていることを特徴とする無線受信機のノイズブランカ。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか一項記載のノイズブランカにおいて、前記群遅延・周波数特性等価手段が、ノイズ検出に必要な周波数帯域に限定して群遅延・周波数特性の平坦化処理を行うように構成されていることを特徴とする無線受信機のノイズブランカ。
【請求項1】
受信信号を帯域制限フィルタによって所要範囲の周波数帯域に制限した後に、所定レベル以上のノイズ信号を除去するノイズブランカにおいて、前記帯域制限フィルタ出力信号を二分岐し、一方を、遅延手段と、信号の伝達を制御するゲート回路と、を介して次段に出力する第一のルートと、前記二分岐した他方を、前記帯域制限フィルタの群遅延・周波数特性を補正して夫々の特性を平坦化する群遅延・周波数特性等価手段と、所定レベル以上のノイズ信号を検出するノイズ検出手段と、検出したノイズ信号に対応したノイズ除去信号を発生するノイズ除去信号発生手段と、発生したノイズ除去信号を前記ゲート回路に供給する手段とを含む第二のルートを備え、前記遅延手段の遅延量を所要値に設定することによって、前記ゲート回路におけるノイズ信号通過タイミングと、前記ノイズ除去信号供給タイミングを同期させるように構成したことを特徴とする無線受信機のノイズブランカ。
【請求項2】
請求項1記載のノイズブランカにおいて、前記帯域制限フィルタとして通過帯域周波数が異なる複数の帯域制限フィルタが並列に接続され、更に、前記群遅延・周波数特性等価手段として、夫々の帯域制限フィルタに対応する複数の群遅延・周波数特性等価手段が備えられたことを特徴とする無線受信機のノイズブランカ。
【請求項3】
請求項1又は2記載のノイズブランカにおいて、前記帯域制限フィルタの一つに対応して、その通過帯域を複数に分割して群遅延・周波数特性を平坦化する複数の群遅延・周波数特性等価手段が備えられたことを特徴とする無線受信機のノイズブランカ。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか一項記載のノイズブランカにおいて、少なくとも前記遅延手段、ゲート回路、群遅延・周波数特性等価手段、ノイズ検出手段、ノイズ除去信号発生手段の一部又は全部が、アナログ・デジタル変換手段とDSPとを含むデジタル処理手段によって構成されていることを特徴とする無線受信機のノイズブランカ。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか一項記載のノイズブランカにおいて、前記群遅延・周波数特性等価手段が、ノイズ検出に必要な周波数帯域に限定して群遅延・周波数特性の平坦化処理を行うように構成されていることを特徴とする無線受信機のノイズブランカ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2010−263574(P2010−263574A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−114761(P2009−114761)
【出願日】平成21年5月11日(2009.5.11)
【出願人】(000003595)株式会社ケンウッド (1,981)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年5月11日(2009.5.11)
【出願人】(000003595)株式会社ケンウッド (1,981)
【Fターム(参考)】
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