説明

ノッチフィルタシステム

光信号の複数回のフィルタ通過が行われて光信号から目標スペクトル成分を除去することができるノッチフィルタシステムが提供される。有利なことに、このノッチフィルタシステムは調整可能である。カスケードの形に構成された多重ノッチフィルタを含むカスケードノッチフィルタシステムが提供され、フィルタのそれぞれが、スペクトルフィルタリング特性を有し、また、その中を光信号が通るときに目標スペクトル成分が光信号からフィルタ除去されるように、適切なフィルタ角度で光信号の経路内に配置される。光信号がフィルタ中を通過するときに目標スペクトル成分が光信号からフィルタ除去されるように、スペクトルフィルタリング特性を有するノッチフィルタと、光信号が適切な角度でフィルタ中を複数回フィルタ通過するように導くための光学アセンブリとを含むマルチパスノッチフィルタシステムが提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般には光のスペクトルフィルタリングに関し、より詳細には、所与の波長帯域内の光を減衰させるために、又はフィルタ除去するために使用されるホログラフィックフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
信号処理において、ほとんどの帯域の光を変化させずに通すが、ある一定の範囲内すなわち帯域内の特定の波長を阻止するフィルタは、帯域消去フィルタと呼ばれる。ノッチフィルタは、狭い範囲すなわち狭帯域の波長を減衰させる帯域消去フィルタである。
【0003】
ノッチフィルタは、天体撮像、遠隔通信、バイオフォトニック(biophotonic)機器、不要蛍光の除去、及びラマン分光法において特に重要な用途を有する。
【0004】
大気中のヒドロキシル(OH)基からの近赤外線放射は、天体観測に重大な影響を及ぼすことが知られている。OHスペクトル線とよく一致した多数の狭い反射波長帯域を有するノッチフィルタを使用して、この望ましくないバックグラウンドを除去することができ、それによって、観測するのに理想的な暗黒の空が得られる。
【0005】
ラマン分光法では、試験にかける材料に入射するのは波長λ0のレーザビーム(すなわち単色光源)である。入射レーザビームは、この材料によって散乱して多数の光ビームになる。散乱光ビームの大部分は弾性散乱を受けており、入射光ビームと同じ波長λ0を有する。散乱ビームのうちのごくわずかが非弾性散乱を受けており、入射光ビームの波長λ0とは異なる波長λSを有する。ラマンスペクトルとも呼ばれる非弾性散乱光ビームは、試験材料を構成している原子の固有振動周波数を明らかにし、したがってその材料の化学成分及び構造についての情報を含む。結果として、非弾性散乱光ビームは対象物に関する信号になり、弾性散乱光ビームはノイズになる。弾性散乱光信号よりも数桁弱い非弾性散乱光信号を正確に測定するために、弾性散乱光ビームは、他のノイズ源と共にフィルタ除去されなければならない。ノッチフィルタは波長λ0の光、すなわち弾性散乱レーザ光ビームを阻止するために使用される。
【0006】
ノッチフィルタの特性は主として、その帯域幅(B)及び最大光学濃度(OD)によって決められる。フィルタの帯域幅は、所与の波長において区別することができる波長の最少差を決定する。光学濃度は、単位距離、すなわち光がフィルタ材料中を進む距離当たりの、所与の波長でのフィルタの吸収/減衰である。
【0007】
市販の多層薄膜ノッチフィルタはブラッグ干渉の原理で動作し、一般に反射モードで使用される。ブラッグ波長λB又はその付近の波長では互いに建設的に干渉し、その結果高い反射率を有するのに対して、他の波長では相殺的に干渉し、その結果低い反射率を有する。
【0008】
多層薄膜ノッチフィルタの波長選択性は、膜内の層の特性及び数によって決まる。それぞれの層の堆積は、十分に制御されなければならない。それぞれの層が、フィルタのコストを増す。市販の多層薄膜ノッチフィルタは、厚さが20マイクロメートルまでに限定される。最大100層まで有する単一帯域フィルタが、遠隔通信事業での使用のために製造されている。これらのフィルタの半値全幅(FWHM)は、0.2nmに達している。しかしながら、現在に至るまで、100層を有する120mmウェハでは、フィルタの表面のわずか7%にわたって良好な均質性を示すにすぎない。層数の限界により、多層薄膜ノッチフィルタは、天体撮像でのOH基の狭帯域線の抑制、及びラマンスペクトル分析を含む多くの分光法応用例に対してはあまりに広い帯域幅を有する。
【0009】
多層薄膜フィルタの別の欠点は、その屈折率の周期性の段階的変化から生じる。その屈折率の段階的プロファイルは、分析されるスペクトル線と取り違えられる可能性がある不要な高調波及び二次最大値を引き起こす。屈折率の段階的変化ではなく正弦波の形の変化を用いるルゲート薄膜フィルタを使用してこの問題を克服することができるが、このフィルタは極めて高価である。
【0010】
多層薄膜フィルタ技術とは異なり、ホログラフィックフィルタ技術は元来、薄膜堆積によっては不可能な複雑なフィルタプロファイルの設計を可能にする何千もの層を形成する。体積位相ホログラフィック(volume phase holographic)(VPH)ノッチフィルタ(体積ブラッグ格子(volume Bragg grating)(VBG)とも呼ばれる)は基本的に、ブラッグ干渉原理で動作する感光媒体へのブラッグ面の三次元(3−D)記録である。VPHノッチフィルタは、透過モード又は反射モードで使用することができる。体積ホログラムの3−D性は、高い回折効率(100%に近い)、高い波長選択性、及び同じ体積内で多重ホログラム(例えば多重ブラッグ格子)を多重化する能力を提供する。多層相対物よりもずっと厚く均質なVPHノッチフィルタが可能であり、したがって、高い光学濃度を有するVPHノッチフィルタが実現可能である。さらに、ホログラフィックフィルタ中の屈折率の変化を正弦波の形にすることができ、それによって、多層薄膜フィルタによって生成される異質の波長帯域が現れない。よい基本参考文献は、非特許文献1である。
【0011】
ホログラフィックフィルタの別の本質的利点は、それらの相対的堅牢性である。ガラスでできているか、又はガラスプレートの間で封止されるホログラフィックフィルタとは異なり、多層薄膜フィルタはもろいコーティングを有する。
【0012】
従来の体積位相ホログラフィックフィルタは通常、広い波長帯域にわたって高い回折効果を可能にする重クロム酸ゼラチン(DCG)上に記録される。しかしながら、ゼラチンの性質及びフィルタの製造プロセスにより、フィルタの長期安定性だけでなくフィルタの厚さも制限され、したがって阻止帯域の狭さ及び減衰量が制限される。したがって、これらはノッチフィルタの多くの潜在的用途には適さない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】H. Kogelnik, “Coupled Wave Theory for Thick Hologram Gratings”, Bell Syst. Tech. J. 48, 2909-2947 (1969)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
したがって、阻止帯域の高減衰量を維持しながら向上した波長選択性を実現する、分光用途での使用のための、費用効率の高いノッチフィルタシステムが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の一態様によれば、光信号から目標スペクトル成分を除去するカスケードノッチフィルタシステムが提供される。このカスケードノッチフィルタシステムは、カスケードの形に構成された多重ノッチフィルタを含み、これらの多重ノッチフィルタのそれぞれが、スペクトルフィルタリング特性を有し、光信号がその対応するノッチフィルタの垂線に対してあるフィルタ角度を形成するように光信号の経路内に配置され、これらのスペクトルフィルタリング特性及びフィルタ角度は、光信号がノッチフィルタ中を通るときに目標スペクトル成分が光信号からフィルタ除去されるように、各ノッチフィルタに対して一緒に選択される。
【0016】
多重ノッチフィルタのそれぞれは、体積位相ホログラフィックノッチフィルタであることが好ましい。
【0017】
カスケードノッチフィルタシステムはさらに、多重ノッチフィルタの連続したノッチフィルタの間にサンドイッチされた屈折率整合プリズムを含むことができる。
【0018】
カスケードノッチフィルタシステムはさらに、このシステムによってフィルタ除去される目標スペクトル成分を調整するための調整手段を含むことができ、この調整手段は、多重ノッチフィルタのそれぞれのフィルタ角度を保持して一緒に調整するためのホルダを含む。
【0019】
カスケードノッチフィルタシステムの一実施形態によれば、そのフィルタリング特性及びフィルタ角度は、カスケードの連続したノッチフィルタでそれぞれ異なる。
【0020】
カスケードノッチフィルタシステムの別の実施形態によれば、そのフィルタリング特性及びフィルタ角度は、カスケードの連続したノッチフィルタで同じであり、連続したノッチフィルタは互いに非平行に延びる。
【0021】
本発明の別の態様によれば、光信号から目標スペクトル成分を除去するマルチパスノッチフィルタシステムが提供される。このマルチパスノッチフィルタシステムは、
スペクトルフィルタリング特性を有するノッチフィルタと、
光信号をノッチフィルタに通して複数経路に導くための光学アセンブリとを含み、前記光学アセンブリは、複数経路のそれぞれで、ノッチフィルタの垂線に対して同じフィルタ角度で光ビームをノッチフィルタ上に導き、これらのスペクトルフィルタリング特性及びフィルタ角度は、光信号がノッチフィルタ中を通過するときに目標スペクトル成分が光信号からフィルタ除去されるように、一緒に選択される。
【0022】
光学アセンブリは、前記ノッチフィルタの両側に配置された反射構成要素対を含むことができる。反射構成要素対のそれぞれは、プリズムキューブコーナ(prism cube corner)であることが好ましい。
【0023】
マルチパスノッチフィルタシステムは、ノッチフィルタ及び光学アセンブリを封止する耐漏洩隔室(leak-tight cell)をさらに含むことができ、前記耐漏洩隔室は、光信号を受け取ってフィルタリングされた光信号を出力するための2つの平行な透明壁を含み、屈折率整合液で満たされる。
【0024】
マルチパスノッチフィルタシステムは、追加のノッチフィルタと、ノッチフィルタ及び追加のノッチフィルタをその上に取り付け、光信号の経路内でノッチフィルタのうちの1つを動かすための回転フィルタマウントとを含むことができる。
【0025】
本発明の他の特徴及び利点は、その好ましい実施形態を添付の図面を参照して読めばよりよく理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1A】カスケードの形に構成された多重ノッチフィルタを示す、本発明の一実施形態によるカスケードノッチフィルタシステムの概略斜視図である。
【図1B】本発明の一実施形態による、カスケードノッチフィルタシステム用のホルダの斜視図である。
【図2】本発明の別の実施形態によるカスケードノッチフィルタシステムの概略側面図である。
【図3】本発明の一実施形態によるマルチパスノッチフィルタシステムの概略斜視図である。
【図4A】図3に示されたマルチパスノッチフィルタシステムの概略上面図である。
【図4B】本発明の一実施形態によるマルチパスノッチフィルタシステムの概略上面図である。
【図5】本発明の一実施形態によるマルチパスノッチフィルタシステムの分解組立図である。
【図6】光信号が通る多重パスを示す、組み立てられた図5のノッチフィルタシステムの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下の説明で「光」という語は、可視光を含むすべての電磁放射を指すために用いられる。さらに、「光学の」という語は、電磁(EM)放射スペクトルの、可視、赤外線及び紫外線の領域にある光を含むすべてのEM放射の意味を限定するために使用される。
【0028】
本発明の諸態様を以下で、添付の図面の図1から6を参照してより完全に説明する。図では、全体を通して同じ数字は同じ要素を指す。
【0029】
一般には、本発明は、ある光信号から対象のスペクトル成分を除去するノッチフィルタシステムを提供する。前述のように、ノッチフィルタは、それだけには限らないが、天体撮像、遠隔通信、バイオフォトニック機器、不要蛍光の除去、及びラマン分光法などの多くの用途で必要とされる。したがって、光信号は、そのような状況で分析又は生成されるあらゆる電磁放射とすることができる。「対象のスペクトル成分」という表現は、光信号からフィルタ除去される必要がある特定の波長、又は特定の波長付近の狭い帯域を指すものと理解されたい。
【0030】
ノッチフィルタシステムは、少なくとも1つのノッチフィルタを含む。ノッチフィルタは、体積位相ホログラフィック(VPH)ノッチフィルタが好ましく、このフィルタは、屈折率が周期的に変化してブラッグ条件を設定するための三次元(3−D)感光体積を指すと理解されたい。VPHフィルタはブラッグ干渉原理により動作するので、体積ブラッグ格子(VBG)とも呼ばれる。感光媒体は、有利には光−熱−屈折(PTR)ガラスなどのドープガラス、又は他の同等の特性の材料などでできている。ガラスでできたVPHフィルタは、重クロム酸ゼラチン(DCG)でできたものとは対照的に、広い温度範囲にわたって相対的により安定であり、高い動作環境温度に長期間さらされた後でも実質的に劣化が見られず、例えば、150℃で数百時間を超えた後で、フィルタの中心波長のFWHMに劣化が見られない。さらに、PTRガラスでできたVPHフィルタは、そのDCG相対物よりも厚く(数ミリメートル(mm)の厚さを示す)、それによってより狭い除去帯域幅を有する(フィルタの中心波長のFWHMは、数cm-1ほどにも狭くなりうる)。しかしながら、フィルタ又は材料の選択は、特定の用途の要件によって異なる場合があることを理解されたい。
【0031】
前述のように、現行の従来型ガラスVPHノッチフィルタは、それだけでは一般に、例えばラマン分光法などの用途に十分なだけの減衰レベルが得られない。この問題は、本発明のシステムにおいて、多重光信号フィルタリングを行い、毎回同じ目的波長成分をフィルタ除去することによって対処される。これは、同一のVPHノッチフィルタ中に光信号を複数回通過させることによって、又は、目的波長成分を減衰させるようにそれぞれ設計及び配置された複数のVPHノッチフィルタのカスケード中に光信号を導くことによって、達成される。それぞれの場合で、本発明のノッチフィルタシステムは、光信号をシステム中に導くための適切な光学アセンブリを含む。上述のどちらの戦略も、本発明の様々な好ましい実施形態についての記述を通して、以下でより詳細に説明する。
【0032】
カスケードノッチフィルタシステム
図1Aを参照すると、本発明の一態様にかかる、光信号(14)から目標スペクトル成分を除去するカスケードノッチフィルタシステム(10A)が示されている。カスケードノッチフィルタシステム(10A)は、カスケードの形に構成された、好ましくは体積位相ホログラフィックノッチフィルタ(VPH)である多重ノッチフィルタ(12)を含む。本明細書でカスケードは、一連の要素、すなわち連続して構成された2つを超える要素を意味するために用いる。それぞれのノッチフィルタ(12)は、光信号(14)の経路内に配置され、単一の固定波長の除去に影響を与えるように適切なブラッグ条件に調整される。
【0033】
このタイプのフィルタの動作原理は、周知のブラッグの法則に基づく。この法則によれば、除去されるブラッグ波長λBは、
透過形VPHでは、λB=2Λnsinθi
反射形VPHでは、λB=2Λnsinθi
から求められる。ここで、nはフィルタの屈折率、Λは屈折率変調周期、θiはブラッグ面の垂線に対する入射光の角度である。したがって、除去される波長は、n及びΛなどの固有の係数によって決まる所与のフィルタのスペクトルフィルタリング特性と、光信号の入射角度との両方に依存すると理解することができる。したがって、カスケードのノッチフィルタ(12)はそれぞれ、光信号(14)の経路内に配置することができ、光信号がノッチフィルタ(12)の垂線(16)に対して、あるフィルタ角度θを形成し、このノッチフィルタは、目標スペクトル成分がブラッグ条件と一致するようにフィルタのスペクトルフィルタリング特性を考慮して選択される。当業者には理解されるように、フィルタ角度θは、ブラッグの法則の入射角度θiと必ずしも一致しないが、それと直接関係がある。
【0034】
フィルタが透過モードで使用される場合、フィルタのスペクトルフィルタリング特性と一直線に合わさったスペクトル成分だけがフィルタで回折されて光信号から除去され、残りの光信号は回折されないでフィルタを通過する。フィルタが反射モードで使用される場合は、フィルタのスペクトルフィルタリング特性と一直線に合わさったスペクトル成分だけがフィルタで反射されて光信号から除去され、残りの光信号はフィルタを通過する。
【0035】
動作の際、図1Aに示されたカスケードノッチフィルタシステムでは、入射光(14)が第1のVPHノッチフィルタ(12)に入射する。ブラッグ条件に適合しない入射光(14)のスペクトル成分は、影響を受けずにVPHノッチフィルタを通される。目標スペクトル成分に対応するスペクトル領域内で、光信号の一部分(16)はVPHノッチフィルタ(12)によって除去されるが、他の部分は、フィルタの光学濃度が目標スペクトル成分を完全にフィルタ除去するには不十分であるので、信号の残りの部分と共に通される。次に、透過光は、第2のVPHノッチフィルタ(12)に入射し、そこで同じプロセスが行われ、それによってさらに、透過光信号内の不要な目標スペクトル成分が減衰する。光信号に複数回のフィルタ通過をさせることによって、不要スペクトル成分の減衰が高められ、光信号が通過するVPHノッチフィルタ(12)の数が多いほど、システムの光学濃度が全体として高くなり、したがって、不要スペクトル成分の減衰が大きくなる。
【0036】
上記で説明したように、このタイプのフィルタでの減衰は、VPHフィルタ(12)のブラッグ面のブラッグ条件、すなわちVPHフィルタ(12)の屈折率の周期的な変調によって設定されるブラッグ条件に適合する1つ又は複数の波長成分を反射又は回折させることによって実現される。ブラッグ条件がブラッグ面への光の入射角度に依存するので、反射された波長成分の性質もまた、各VPHノッチフィルタ(12)への光信号の入射角度に依存する。本発明の一実施形態では、すべてのVPHノッチフィルタ(12)が同じ構造である。すなわち、これらはすべて同じ固有スペクトルフィルタリング特性を有する。このような場合では、同一の波長成分をすべて反射するために、これらはすべて実質的に同じ入射角度で光信号を受け取り、図1Aに示された角度θ、θ'、θ''及びθ'''はすべて同じである。それぞれ異なるフィルタを互いに平行に配置するのは、信号除去を損なうファブリペロー空洞効果を引き起こすことになるので、回避することが好ましい。しかしながら、こうした状態を回避する多数の可能な他のフィルタ配向がある。なぜならば、所与のVPHノッチフィルタ(12)上で、ある同じフィルタ角度θを形成する光ビームの可能なすべての入射方向が、フィルタに対する垂線と一直線に合わさった中心軸を有する円錐を画定するからである。各VPHノッチフィルタ(12)の垂線(16)は、入射光(14)に対してVPHノッチフィルタ(12)の総体を傾けることによりVPHノッチフィルタ(12)のすべてについて同様の角度変化が生じるように、互いに最小距離のところにあるのが好ましい。
【0037】
あるいは、別の好ましい実施形態では、各VPHノッチフィルタは同じでなくてもよく、したがって、互いに異なるスペクトル特性を有し、この場合フィルタ角度θは、フィルタごとに変化することができる。この場合、図1Aに示された角度θ、θ'、θ''及びθ'''は、すべて同じにはならない。もちろん、各VPHノッチフィルタ(12)に付随するスペクトル特性及びフィルタ角度θは依然として、ブラッグ条件が目標波長成分に適合するように選択されなければならない。ノッチフィルタ(12)のいくつかが同じであり、いくつかが異なる混成実施形態も考えることができる。
【0038】
有利なことに、ノッチフィルタシステム(10A)は調整手段を含むことができる。図1Bに示した実施形態に見られるように、ノッチフィルタシステム(10A)はホルダ(19a)内に配置することができる。ホルダは、二軸傾斜機構(19b)上に載っているのが好ましい。この機構により、除去ブラッグ条件を最大にし、また小さな温度変動を補償する手段も得られるように、個々のVPHノッチフィルタ(12)の角度位置を互いに対して、及び入射光(14)に対して調整することが可能になる。別の変形形態によれば、ノッチフィルタシステム(10A)全体をアサーマルパッケージ内に封止することによって、ノッチフィルタシステム(10A)の光学性能に及ぼす温度変動の影響を最小限にすることができる。
【0039】
図2を参照すると、本発明の別の実施形態が示されている。この特定の場合では、光が1つの媒体から次の媒体へ、例えば空気又は真空からVPHノッチフィルタ(12)中へ進むときの、屈折率の変化によるフレネル損失を回避するために、屈折率整合プリズム(20)が、ノッチフィルタシステム(10A)のVPHノッチフィルタ(12)の間に「サンドイッチされた」ギャップ(18)内に配置されることが好ましい。追加のプリズム(20)は、VPHノッチフィルタ(12)のカスケードの前及び後に配置することもできる。第1のプリズム(20a)の機能は、入射光ビームに対し垂直の入口面(entrance facet)をノッチフィルタに持たせることであり、最後のプリズム(20b)の機能は、出力光ビームが確実に、入射光ビームの軸と並行して出て行くようにすることである。代替方法として、ノッチフィルタシステムは、屈折率整合液で満たされたケース内に封止することもできる。
【0040】
ノッチフィルタシステム(10A)は、フィルタリングされる光と入射光を一直線に合わせる、すなわち光を軸上に保持するように、VPHフィルタ(12)のカスケードの前及び/又は後に配置された追加の補正光学部品、例えばプリズムを有することができるのが好ましい。
【0041】
当業者には理解されるように、任意の追加構成要素をノッチフィルタシステム内で使用して、そこを通るどの点でも光信号を導くか、そうでなければ変換することができる。これら追加の構成要素、及び上記で定義された構成要素を一括して本明細書では、適切な光学アセンブリと呼ぶ。
【0042】
マルチパスノッチフィルタシステム
図3から6を参照すると、同一のVPHノッチフィルタ中を光信号が複数回通過する、本発明の第2の態様の代替実施形態が示されている。このようなマルチパスノッチフィルタシステムでは、その光学アセンブリは、それぞれの通過のときに光信号が確実にVPHノッチフィルタに同じ入射角(ノッチフィルタの垂線に対するフィルタ角度)で入射するように設計される。この目的のために、添付の図面で好ましくはプリズムキューブコーナを使用することが示されているが、他の反射性の構成要素又は構成要素の組合せを別法として使用することもできる。
【0043】
図5及び図6に示された、マルチパスノッチフィルタシステム(10B)の一実施形態では、システム(10B)は、フレネル反射を回避するために屈折率整合液(図を分かりやすくするために図示せず)で満たされるのが好ましい耐漏洩隔室(leak-tight cell)22と、少なくとも1つのVPHノッチフィルタ(12)とを含む。耐漏洩隔室(22)は、入射光を受け取り、フィルタリングされた光を通すための2つの平行な透明壁(24A及び24B)を有する。透明壁(24A及び24B)は、プリズムキューブコーナ(26A及び26B)などの反射構成要素を含む。
【0044】
本発明のこの第2の態様によれば、マルチパスノッチフィルタシステム(10B)は、有利なことに除去波長が調整可能とすることができる。これは、ノッチフィルタ(12)を、そこを通る光ビームの伝搬方向に対して垂直な回転軸に関して回転させることによって簡単に実現することができる。図4Bに示されるように、この軸に関してフィルタがどう回転しても、ノッチフィルタの両側で同じようにフィルタ角度θを変更することになり、それによって、ブラッグ条件が適合する波長が変わる。一実施形態では(図示せず)、フィルタはそれ自体を中心に回転することができる。
【0045】
図3から6に示された別の実施形態では、マルチパスノッチフィルタシステム(10B)は、複数のVPHノッチフィルタ(12)を含むことができ、それぞれが好ましくは、異なるスペクトルフィルタリング特性を有し、光信号の経路内でノッチフィルタのうちのどれか1つを動かすように適合された回転フィルタマウント上に取り付けられる。回転フィルタマウントは回転シャフト(28)によって実施することができ、この回転シャフトは、耐漏洩隔室(22)中を垂直に通り、その向きを制御するための適切な手段(図示せず)を備える。VPHノッチフィルタ(12)は、回転シャフト(28)上に取り付けられ、耐漏洩隔室(22)内に封じ込められた屈折率整合液に浸漬される。図3及び図5の実施形態では、回転シャフト(28)は、その上に3つのVPHノッチフィルタ(12)が取り付けられて示されているが、もちろん他の構成も考えることができる。図4A及び図4Bに示された実施形態からより明確に分かるように、フィルタリングされる波長成分は、どのフィルタが光ビームの経路内にあるかということにも、光信号及びこのフィルタの垂線の間の角度にも依存することができ、それによって、除去バンドの広い選択が可能になり、また本ノッチフィルタシステムの多用性が示される。
【0046】
動作の際、入射光信号(30)は、その発散度(divergence)が、ミリラジアン(mrad)程度であるブラッグ条件の受容角度(angular acceptance)未満になるように、すでに平行化されていることが好ましい。図6に示されるように、平行化された入射光(30)は、透明壁の一方(24A)を通って耐漏洩隔室(22)に入り、屈折率整合液中を通過し、回転シャフト(28)上に取り付けられたVPHノッチフィルタ(12)の最初の1つに当たる。当たる光と、VPHノッチフィルタ(12)に対する垂線とによって規定される入射角度が、ブラッグ回折にかけられる除去波長帯域の中心波長を決める。光信号(30)の不要な目標スペクトル成分の一部分が、VPHノッチフィルタ(12)で反射又は回折によって除去されるが、光信号(30)の残りは共振ブラッグ条件を満足せず、その結果通されて、影響を受けないままVPHノッチフィルタ(12)を通過する。しかしながら、不要なスペクトル成分は、光信号の不要なスペクトル成分の一部分も実際には通されるので、VPHノッチフィルタ(12)で減衰するだけである。減衰した不要なスペクトル成分を伴う透過光(32)は、反射手段である再帰反射器(retroreflector)プリズムキューブコーナ(26B)に達し、そこでキューブコーナ(26B)によって反射、変位されてVPHノッチフィルタ(12)の方へ戻る。再度、反射光(34)の必要なスペクトル成分がVPHノッチフィルタ(12)中を通されて、不要なスペクトル成分はさらに減衰する。VPHノッチフィルタ(12)中のこの第2の通過に続いて、透過光(36)は、別のプリズムキューブコーナ(26A)に達し、反射されて、第3の通過のためにVPHノッチフィルタ(12)の方へ戻る。これは、光信号が複数回のフィルタ通過を経るように、数回繰り返され、それによって、最後の透過光信号(40)内の除去波長帯域の減衰は最大になる。
【0047】
有利なことに、本ノッチフィルタシステムは、10cm-1未満のスペクトル帯域幅で、40dbよりも大きいレーザ減衰(すなわち4.0よりも大きい光学濃度)を示すことができる。さらに、このシステムで利用可能な波長は、300nmの調整範囲を有する調整可能バージョンで、現行のPTRガラスの場合に、350nmから2500nmまでになる。これらの向上した特性により、本ノッチフィルタシステムの使用が、とりわけラマン分光法、遠隔通信、及び天体撮像の用途で可能になる。
【0048】
上述の実施形態のどれにも、添付の特許請求の範囲に定義された本発明の範囲から逸脱することなく、多数の改変を加えることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光信号から目標スペクトル成分を除去するカスケードノッチフィルタシステムであって、
カスケードの形に構成された多重ノッチフィルタを備え、前記多重ノッチフィルタのそれぞれは、スペクトルフィルタリング特性を有し、前記光信号がその対応する前記ノッチフィルタの垂線に対してあるフィルタ角度を形成するように前記光信号の経路内に配置され、前記スペクトルフィルタリング特性及び前記フィルタ角度は、前記光信号が前記ノッチフィルタ中を通るときに前記目標スペクトル成分が前記光信号からフィルタ除去されるように、各ノッチフィルタに対して一緒に選択されることを特徴とするカスケードノッチフィルタシステム。
【請求項2】
前記フィルタリング特性及び前記フィルタ角度は、前記カスケードの連続したノッチフィルタでそれぞれ異なることを特徴とする請求項1に記載のカスケードノッチフィルタシステム。
【請求項3】
前記フィルタリング特性及び前記フィルタ角度は、前記カスケードの連続したノッチフィルタで同じであり、前記連続したノッチフィルタは互いに非平行に延びることを特徴とする請求項1に記載のカスケードノッチフィルタシステム。
【請求項4】
前記多重ノッチフィルタのそれぞれは、体積位相ホログラフィックノッチフィルタであることを特徴とする請求項1に記載のカスケードノッチフィルタシステム。
【請求項5】
前記体積位相ホログラフィックノッチフィルタは感光ガラス材料を含むことを特徴とする請求項4に記載のカスケードノッチフィルタシステム。
【請求項6】
前記システムによってフィルタ除去される前記目標スペクトル成分を調整するための調整手段をさらに含み、前記調整手段は、前記多重ノッチフィルタのすべてのフィルタ角度を保持して一緒に調整するためのホルダを含むことを特徴とする請求項1に記載のカスケードノッチフィルタシステム。
【請求項7】
前記多重ノッチフィルタの連続したノッチフィルタの間にサンドイッチされた屈折率整合プリズムをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載のカスケードノッチフィルタシステム。
【請求項8】
前記光信号に対して垂直の入口面を形成するために前記ノッチフィルタのカスケードの前に位置決めされた第1のプリズムと、前記ノッチフィルタのカスケードの出口の前記光信号が確実に前記ノッチフィルタのカスケードの入口の前記光信号と平行になるようにするために、前記ノッチフィルタのカスケードの後に配置された最後のプリズムとをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載のカスケードノッチフィルタシステム。
【請求項9】
前記ノッチフィルタのカスケードを封止する、屈折率整合液で満たされたケースをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載のカスケードノッチフィルタシステム。
【請求項10】
光信号から目標スペクトル成分を除去するマルチパスノッチフィルタシステムであって、
スペクトルフィルタリング特性を有するノッチフィルタと、
前記光信号を前記ノッチフィルタに通して複数経路に導くための光学アセンブリとを備え、前記光学アセンブリは、前記複数経路のそれぞれで、前記ノッチフィルタの垂線に対して同じフィルタ角度で前記光ビームを前記ノッチフィルタ上に導き、前記スペクトルフィルタリング特性及び前記フィルタ角度は、前記光信号が前記ノッチフィルタ中を通過するときに前記目標スペクトル成分が前記光信号からフィルタ除去されるように、一緒に選択されることを特徴とするマルチパスノッチフィルタシステム。
【請求項11】
前記光学アセンブリは、前記ノッチフィルタの両側に配置された反射構成要素対を含むことを特徴とする請求項10に記載のマルチパスノッチフィルタシステム。
【請求項12】
前記少なくとも1つの反射構成要素はプリズムキューブコーナであることを特徴とする請求項11に記載のマルチパスノッチフィルタシステム。
【請求項13】
前記ノッチフィルタは体積位相ホログラフィックノッチフィルタであることを特徴とする請求項10に記載のマルチパスノッチフィルタシステム。
【請求項14】
前記ノッチフィルタ及び前記光学アセンブリを封止する耐漏洩隔室をさらに含み、前記耐漏洩隔室は、前記光信号を受け取ってフィルタリングされた前記光信号を出力するための2つの平行な透明壁を含み、屈折率整合液で満たされることを特徴とする請求項10に記載のマルチパスノッチフィルタシステム。
【請求項15】
前記ノッチフィルタをその上に取り付け、前記ノッチフィルタを前記光信号の経路内に位置決めするために前記ノッチフィルタの回転軸に関して前記ノッチフィルタを回転させるための回転フィルタマウントをさらに含むことを特徴とする請求項10に記載のマルチパスノッチフィルタシステム。
【請求項16】
追加のノッチフィルタと、前記ノッチフィルタ及び前記追加のノッチフィルタをその上に取り付け、前記光信号の経路内で前記ノッチフィルタのうちの1つを動かすための回転フィルタマウントとをさらに含むことを特徴とする請求項10に記載のマルチパスノッチフィルタシステム。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2010−521699(P2010−521699A)
【公表日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−552037(P2009−552037)
【出願日】平成20年3月7日(2008.3.7)
【国際出願番号】PCT/CA2008/000463
【国際公開番号】WO2008/106800
【国際公開日】平成20年9月12日(2008.9.12)
【出願人】(509252173)フォトン イーティーシー.インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】