説明

ノルボルネニル基含有シロキサン化合物の製造方法

【解決手段】 一般式(1)又は(2)
【化1】


〔Xは式(i)又は(ii)
−SiR3 (i)
【化2】


(Rはアルキル基、qは整数である。)
で示される基であり、R1はアルキル基、アリール基、アラルキル基又はアルカリール基、QはX又はR1と同様の基であり、m,nは整数である。〕
で表されるビニル基含有シロキサン化合物とシクロペンタジエンとを反応させることを特徴とする一般式(3)又は(4)
【化3】


(X,R,R1,Q,m及びnは上記と同様。)
で表されるノルボルネニル基含有シロキサン化合物の製造方法。
【効果】 工程数が少なく、操作が簡便で、工業的規模で大量に入手可能かつ安価な原料を使用でき、高純度及び高収率であり、単位体積当たりの収量が高く、除去工程の導入や多大な廃棄費用が掛かる反応副生物の発生がない等の利点を有するノルボルネニル基含有シロキサン化合物の製造方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィンやシクロオレフィンポリマー等の改質剤等として有用なノルボルネニル基含有シロキサン化合物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ノルボルネニル基含有シロキサン化合物の製造方法としては、従来いくつかの方法が知られている。その一つとして、Mukhbaniani,O.らの文献(非特許文献1:Akademii Nauk Gruzii,Seriya Khimicheskaya,2001,27(1−2),53−57)においては、ノルボルネニル基含有クロロシランから合成する方法が記載されており、例えばノルボルネニル基(ノルボルネン−2−イル)含有クロロシランのR’SiCl3(R’はノルボルネニル基を示す。以下同様。)をアニリンの存在下において加水分解してR’Si(OH)3なるシラノール化合物を合成し、次いでMe3SiCl(Meはメチル基を示す。以下同様。)と共に加水分解縮合することにより、R’Si(OSiMe33なるノルボルネニル基含有シロキサン化合物を合成する方法が提案されている。
【0003】
また、同じ文献には、別の方法として、R’SiMeCl2なるノルボルネニル基含有クロロシランとHO(SiMe2O)nH(n=2〜3の数である。)とをアニリンの存在下で加水分解縮合して、シクロ−R’SiMeO(Me2SiO)nなるノルボルネニル基含有シロキサン化合物を合成するという方法が記載されている。
【0004】
一方、テトラメチルジシロキサンやα,ω−ジヒドロジメチルポリシロキサンといった一部の制限された構造のヒドロシロキサン化合物においては、白金触媒の存在下において、ノルボルナジエンとヒドロシリル化反応させて、上記構造のシロキサン化合物にノルボルネニル基を導入する方法が提案されている(特許文献1:米国特許第6521731号公報、特許文献2:特開平11−315085号公報、特許文献3:西ドイツ国特許第4128932号公報)。
【0005】
しかし、従来の製造方法においては、以下に示すいくつかの問題があった。
(1)ノルボルネニル基含有クロロシランから合成する方法では、工程数が多くて煩雑であること、反応中間体や目的物自体の収率が低いこと、単位体積当たりの収量が低いこと、Me3SiClとの共加水分解には過剰のMe3SiClが必要であり、かつ多量のMe3SiOSiMe3が副生すること、アニリンを用いた加水分解縮合では大量のアニリン塩酸塩が発生するため、除去の工程が別途必要であること、各種副生した産廃物の廃棄処理に多大な費用がかかること、工業的規模で大量に入手しにくい高価な原料(ノルボルネニル基含有クロロシラン)を用いること等の多くの問題を抱えていた。
【0006】
(2)白金触媒の存在下において、ノルボルナジエンとヒドロシロキサン化合物とをヒドロシリル化反応させて製造する方法では、上記文献記載の一部の制限された構造のシロキサン化合物では合成できる場合があるが、本発明で言及しているトリストリメチルシリロキシシラン等のようなヒドロシリル化反応性に乏しい性質のものには適用できない方法であった。また、環状構造のヒドロシロキサン化合物の場合では、工業的規模で大量に入手することが困難である上に、高価であり、合成収率自体が低い等の問題があった。更に、触媒として高価な白金や貴金属系の化合物を必ず使用しなくてはならないという問題もあった。一方、原料のノルボルナジエンも工業的には高価な原料であり、経済的に不利になる場合があった。
【0007】
ノルボルナジエンとヒドロシリル化合物からヒドロシリル化反応により誘導したノルボルネニル基含有シラン化合物には、不飽和結合の無い構造異性体(ノルトリサイクレン型)が副生して本質的に不純である場合が知られており(非特許文献2,3:A.D.Petrov et al,Zhurnal Obshchei Khimii,1961,vol.31,No.4,pp1199−1208、H.G.Kuivila et al,J.Org.Chem.,1964,vol.29,pp2845−2851)、目的物を一般的なオレフィン類やシクロオレフィン類と共重合する際に反応率が低くなる場合や、製造された改質樹脂の物性に問題が出る場合があり、この観点においても同製法には問題があった。
【0008】
【特許文献1】米国特許第6521731号公報
【特許文献2】特開平11−315085号公報
【特許文献3】西ドイツ国特許第4128932号公報
【非特許文献1】Akademii Nauk Gruzii,Seriya Khimicheskaya,2001,27(1−2),53−57
【非特許文献2】A.D.Petrov et al,Zhurnal Obshchei Khimii,1961,vol.31,No.4,pp1199−1208
【非特許文献3】H.G.Kuivila et al,J.Org.Chem.,1964,vol.29,pp2845−2851
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、工程数が少なく、操作が簡便で、工業的規模で大量に入手できる安価な原料を使用でき、高純度及び高収率であり、単位体積当たりの収量が高く、除去工程の導入や多大な廃棄費用が掛かるような反応副生物の発生がないといった利点を有し、従来知られている方法では工業的規模で製造するのが困難であったシロキサン部分が特有構造のノルボルネニル基含有シロキサン化合物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意研究を重ねた結果、下記一般式(1)又は(2)で示されるビニル基含有シロキサン化合物とシクロペンタジエンとを反応させる方法、或いは下記一般式(1)又は(2)で示されるビニル基含有シロキサン化合物とジシクロペンタジエンとを混合し、加熱して、ジシクロペンタジエンの熱分解により生じたシクロペンタジエンを上記ビニル基含有シロキサン化合物と反応させる方法によれば、一段階の簡便な操作で目的のノルボルネニル基含有シロキサン化合物が合成でき、かつ使用する原料は工業的規模で大量に入手可能で安価であり、高純度及び高収率であると共に、単位体積当たりの収量が高く、しかも反応副生物の発生がなく、そのため、副生物の除去工程の導入や多大な廃棄費用が掛からないといった利点を有することを見出し、本発明をなすに至った。また、この方法によれば、驚くべきことに、従来工業的規模で製造するのが困難であったシロキサン部分が特有構造のノルボルネニル基含有シロキサン化合物でさえも高収率で得られることを見出し、本発明をなすに至った。
【0011】
即ち、本発明は、下記のノルボルネニル基含有シロキサン化合物の製造方法を提供する。
[I]下記一般式(1)又は(2)
【化1】

〔式中、Rは炭素数1〜6のアルキル基であり、R1は炭素数1〜6のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数7〜13のアラルキル基、及び炭素数7〜13のアルカリール基からなる群より選ばれる基であり、Xは下記式(i)又は(ii)
−SiR3 (i)
【化2】

(式中、Rは上記と同様であり、qは1〜5の整数である。)
で示される基であり、QはX又はR1と同様の基であり、mは3〜5の整数であり、nは1〜3の整数である。〕
で表されるビニル基含有シロキサン化合物とシクロペンタジエンとを反応させることを特徴とする下記一般式(3)又は(4)
【化3】

(式中、X,R,R1,Q,m及びnは上記と同様である。)
で表されるノルボルネニル基含有シロキサン化合物の製造方法。
[II]上記一般式(1)又は(2)で表されるビニル基含有シロキサン化合物とジシクロペンタジエンとを混合し、加熱して、ジシクロペンタジエンの熱分解により生じたシクロペンタジエンを上記ビニル基含有シロキサン化合物と反応させることを特徴とする上記一般式(3)又は(4)で表されるノルボルネニル基含有シロキサン化合物の製造方法。
[III]R及びR1がメチル基であることを特徴とする[I]又は[II]記載のノルボルネニル基含有シロキサン化合物の製造方法。
[IV]ビニル基含有シロキサン化合物が、ビニルヘプタメチルシクロテトラシロキサンであり、得られるノルボルネニル基含有シロキサンが、ノルボルネニルヘプタメチルシクロテトラシロキサンである[I]乃至[III]のいずれかに記載のノルボルネニル基含有シロキサン化合物の製造方法。
[V]ビニル基含有シロキサン化合物が、ビニルトリストリメチルシリロキシシランであり、得られるノルボルネニル基含有シロキサンが、ノルボルネニルトリストリメチルシリロキシシランである[I]乃至[III]のいずれかに記載のノルボルネニル基含有シロキサン化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、工程数が少なく、操作が簡便で、工業的規模で大量に入手できる安価な原料を使用でき、高純度及び高収率であり、単位体積当たりの収量が高く、除去工程の導入や多大な廃棄費用が掛かるような反応副生物の発生がないといった利点を有するノルボルネニル基含有シロキサン化合物の製造方法を提供することができる。また、本発明の製造方法によれば、従来知られている方法では工業的規模で製造するのが困難であったシロキサン部分が特有構造のノルボルネニル基含有シロキサン化合物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明において、原料として使用するビニル基含有シロキサン化合物は、下記一般式(1)又は(2)で示される。
【化4】

〔式中、Rは炭素数1〜6のアルキル基であり、R1は炭素数1〜6のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数7〜13のアラルキル基、及び炭素数7〜13のアルカリール基からなる群より選ばれる基であり、Xは下記式(i)又は(ii)
−SiR3 (i)
【化5】

(式中、Rは上記と同様であり、qは1〜5の整数である。)
で示される基であり、QはX又はR1と同様の基であり、mは3〜5の整数であり、nは1〜3の整数である。〕
【0014】
ここで、Rは炭素数1〜6、好ましくは1〜3のアルキル基であり、同一であっても異なっていてもよい。具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、イソブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基等が挙げられる。好ましくはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基である。
【0015】
また、R1は炭素数1〜6、好ましくは1〜3のアルキル基、炭素数6〜12、好ましくは6〜10のアリール基、炭素数7〜13、好ましくは7〜8のアラルキル基、又は炭素数7〜13、好ましくは7〜8のアルカリール基であり、同一であっても異なっていてもよい。アルキル基として具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、イソブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基等が挙げられる。好ましくはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基である。アリール基としてはフェニル基が、アラルキル基としてはベンジル基、フェネチル基等が、アルカリール基としてはトリル基、キシリル基等が好ましい。
【0016】
一般式(1)及び(2)の化合物としては、具体的には以下のものが挙げられる。なお、下記例においてMeはメチル基を示す。
【化6】

【0017】
【化7】

【0018】
これらのビニル基含有シロキサン化合物はいずれも既知であり、工業的規模で大量に入手可能である。
【0019】
もう一方の原料であるシクロペンタジエンも工業的規模で大量に入手可能で安価な原料であり、一般的には室温で安定な二量体であるジシクロペンタジエンを160℃前後で熱分解することにより、容易に得ることができる。
【0020】
なお、熱分解により得られたシクロペンタジエンは、室温で比較的速やかに自己ディールス・アルダー付加反応を起こして二量体のジシクロペンタジエンに戻るため、ビニル基含有シロキサン化合物と混合して反応させるまでは低温(好ましくはドライアイスの温度)状態で貯えて、自己ディールス・アルダー付加反応を抑制させる必要がある。
【0021】
本発明においては、シクロペンタジエンを原料として使用する代わりに(一般的にはジシクロペンタジエンを熱分解して得られたシクロペンタジエンを使用する代わりに)、熱分解する前のジシクロペンタジエンをそのままビニル基含有シロキサン化合物との反応に使用することも可能である。具体的には、ビニル基含有シロキサン化合物とジシクロペンタジエンとを混合し、加熱して、ジシクロペンタジエンの熱分解により生じたシクロペンタジエンを上記ビニル基含有シロキサン化合物と反応させることにより、ノルボルネニル基含有シロキサン化合物を得ることができる。
【0022】
本発明における本質的な反応は、ビニル基含有シロキサン化合物のビニル基とシクロペンタジエンとのディールス・アルダー付加反応である。ビニル基含有シロキサン化合物とジシクロペンタジエンとを混合し、加熱する場合には、加熱された反応混合系の中で、ジシクロペンタジエンが熱分解してシクロペンタジエンが発生し、引き続いてビニル基含有シロキサン化合物のビニル基とディールス・アルダー付加反応することにより、実質的にビニル基含有シロキサン化合物とシクロペンタジエンとを反応させる場合と同じプロセスの反応(ディールス・アルダー付加反応)が起こることになり、結果として目的物であるノルボルネニル基含有シロキサン化合物が得られることになる。この方法の場合、ジシクロペンタジエンを予め熱分解する工程の導入や、得られたシクロペンタジエンを低温状態で貯えつつ、ビニル基含有シロキサン化合物にフィードする設備等が不要となるため、より工程数が少なくなり、かつ操作は簡便となり、設備的な負荷も少ないという点で、シクロペンタジエンを原料として使用する方法よりも好ましい。
【0023】
本発明の製造方法により得られるノルボルネニル基含有シロキサン化合物としては、具体的には以下のものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。なお、下記例においてMeはメチル基を示す。また、具体的な反応条件は後述する。
【化8】

【0024】
【化9】

【0025】
上記のノルボルネニル基含有シロキサン化合物には、一般的に以下に示すような構造異性体が存在することが知られており、各化合物はいずれも異性体混合物として得られ、異性体の混合比率は各化合物においてそれぞれ特有である。
【化10】

【0026】
本発明の製造方法において、ビニル基含有シロキサン化合物とシクロペンタジエンとのモル比(シクロペンタジエン/ビニル基含有シロキサン化合物)は、理論的にディールス・アルダー付加反応が完結するには1.0で良いことになるが、制限は特に無く、任意である。ジシクロペンタジエンを使用する場合も同様に、ビニル基含有シロキサン化合物とジシクロペンタジエンとのモル比(ジシクロペンタジエン/ビニル基含有シロキサン化合物)は、理論的にディールス・アルダー付加反応が完結するには0.5で良いことになるが、これについても制限は特に無く、任意である。前者の場合、モル比は4〜0.2であることが好ましく、より好ましくは1.6〜0.4の範囲が良い。モル比が4を超えたり、0.2未満ではいずれも過剰である一方の原料が未反応で多く残存することになるため、経済的に不利となる場合がある。但し、未反応で残ったものは蒸留精製時に回収して次反応に使用することができる。また、後者の場合、モル比は2〜0.1が好ましく、より好ましくは0.8〜0.2の範囲が良い。モル比が2を超えたり0.1未満では、いずれも過剰である一方の原料が未反応で多く残存することになるため、経済的に不利となる場合がある。但し、この場合も未反応で残った原料は蒸留精製時に回収して次反応に使用することができる。
【0027】
反応温度は、ビニル基含有シロキサン化合物とシクロペンタジエンを反応させる場合は、0〜100℃が好ましく、より好ましくは30〜70℃の範囲が良い。反応温度が100℃より高いと、シクロペンタジエンの二量化が進んで反応率が低下する場合がある。但し、二量化したジシクロペンタジエンが再び熱分解する温度(160℃前後)まで加熱すればシクロペンタジエンが再びジシクロペンタジエンより供出されるので、主反応は再び進行する。一方、反応温度が0℃より低いと、ディールス・アルダー付加反応が遅くなる場合がある。
【0028】
また、ビニル基含有シロキサン化合物とジシクロペンタジエンを反応させる場合は、100〜250℃が好ましく、より好ましくは120〜200℃の範囲が良い。反応温度が250℃より高いと、ディールス・アルダー付加反応の逆反応(ノルボルネニル基含有シロキサン化合物からシクロペンタジエンが脱離する反応)の割合が増えて、反応率が低下する場合がある。一方、反応温度が100℃より低いと、ジシクロペンタジエンの熱分解(シクロペンタジエンの供出)が抑制されて、反応率が低下する場合がある。
【0029】
反応原料の混合方法には特に制限はない。ビニル基含有シロキサン化合物とシクロペンタジエンを反応させる場合には、一般的にはビニル基含有シロキサン化合物を仕込んで加熱し、シクロペンタジエンを滴下するのが好ましい。この際、上述したようにシクロペンタジエンは室温で比較的速やかに自己ディールス・アルダー付加反応を起こして二量体のジシクロペンタジエンに戻るため、ビニル基含有シロキサン化合物と混合して反応するまでは、低温状態(好ましくはドライアイスの温度)で貯えて、自己ディールス・アルダー付加反応を抑制させる必要がある。
【0030】
また、ビニル基含有シロキサン化合物とジシクロペンタジエンとを反応させる場合には、ビニル基含有シロキサン化合物とジシクロペンタジエンとを一括に混合したものを加熱する方法、ビニル基含有シロキサン化合物を仕込んで加熱し、ジシクロペンタジエンを滴下する方法、ジシクロペンタジエンを仕込んで加熱し、ビニル基含有シロキサン化合物を滴下する方法、又は加熱した高沸点溶媒にビニル基含有シロキサン化合物とジシクロペンタジエンの混合物を滴下する方法のいずれを行っても良い。
【0031】
本発明の製造方法では、ビニル基含有シロキサン化合物とシクロペンタジエン又はジシクロペンタジエンとを反応させるいずれの場合においても、基本的に反応溶媒を必要とするものではないが、何らかの理由で使用する場合には、例えばトルエン、キシレン、メシチレン、デカリン等の芳香族系炭化水素、デカン、ウンデカン、ドデカン、流動パラフィン等の脂肪族系炭化水素、エーテル類やアルコール類等の種々の溶媒を用いることができる。
【0032】
なお、ビニル基含有シロキサン化合物とジシクロペンタジエンとを反応させる場合において、反応溶媒を使用する場合には、実施する反応温度よりも高い沸点を有する溶媒を選択することが望ましい。反応温度よりも沸点の低い溶媒では、反応温度が目的とする温度よりも低い温度で沸騰し、還流するため、目的とする温度に到達できず、反応率が低下する場合がある。
【0033】
また、反応溶媒は、1種単独で又は2種以上の溶媒を混合して用いても良い。その沸点は目的物の沸点とは10〜20℃以上離れていることが、精製の際に分離しやすくてより望ましい。
【0034】
反応圧力は、ビニル基含有シロキサン化合物とシクロペンタジエン又はジシクロペンタジエンとを反応させるいずれの場合においても、常圧もしくは加圧(0〜2MPa程度)で実施でき、特に制限はない。従って、大気圧に開放された反応器でも実施できるし、密閉されたオートクレーブ中でも実施できる。
【0035】
反応時の雰囲気は、ビニル基含有シロキサン化合物とシクロペンタジエン又はジシクロペンタジエンとを反応させるいずれの場合においても、一般的には不活性ガスの雰囲気下が望ましく、不活性ガスの具体例としては窒素、アルゴン等が挙げられる。但し、反応系内の水分含量については、本発明の方法においては格別の制約は無く、任意である。
【0036】
反応時間は、ビニル基含有シロキサン化合物とシクロペンタジエン又はジシクロペンタジエンとを反応させるいずれの場合においても、0.5〜50時間が好ましく、より好ましくは1〜20時間の範囲で反応させれば良い。0.5時間より短いと反応が未達となる場合があり、50時間より長いと目的物の濃度は既に飽和して、それ以上にはほとんど増加せず、単に無用の熟成を施しているだけの状態となっている場合がある。
【0037】
本発明の方法においては、反応終了後に、好ましくは105〜1Pa程度の減圧条件で、一般的な蒸留操作によって、反応混合物中より未反応原料(及び場合によっては加えて反応溶媒)を留去し、次いで、目的のノルボルネニル基含有シロキサン化合物を留去することにより、精製された高純度(但し、前述したように異性体混合物となる)のノルボルネニル基含有シロキサン化合物を得ることができる。なお、ノルボルネニル基含有シロキサン化合物は必要以上の高温に晒されると、その一部がディールス・アルダー付加反応の逆反応を引き起こして反応原料(シクロペンタジエンとビニル基含有シロキサン化合物)に分解し、それらが目的物の留分に混入して純度が低下する場合があるので、蒸留時には可能な限り減圧度を高くして、留去する時の系内温度を250〜0℃程度に極力低く抑えることが望ましい。また、薄膜蒸留装置等の特別の装置の使用により、目的物に掛かる熱履歴を少なくして、蒸留時の熱の影響を軽減する等の措置も講ずることができる。
【0038】
本発明の製造方法によって得られるノルボルネニル基含有シロキサン化合物は、ポリオレフィンや、透明性等の光学特性に優れたシクロオレフィンポリマーの改質に有用な化合物である。ポリオレフィンには、ラジカル重合触媒等の存在下に、オレフィンモノマーと共重合してグラフトポリマーを形成する等により樹脂の改質を行うことができる。シクロオレフィンポリマーには、メタセシス重合触媒の存在下に、シクロオレフィンモノマーと共重合することによってグラフトポリマーを形成する等により樹脂の改質を行うことができる。シクロオレフィンモノマーと共にメタセシス重合に供するためには、その構造にノルボルネニル基を持つことが必要であるが、本発明によれば、従来工業的規模では得られなかった構造のノルボルネニル基含有シロキサン化合物が得られ、それにより従来得られなかった特性を有する樹脂改質が可能となることは、本発明の大きな利点である。
【実施例】
【0039】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0040】
[実施例1]
窒素置換を十分に行った還流冷却管、撹拌機及び温度計を備えた四口フラスコ中に、ビニルトリストリメチルシリロキシシラン387.2g(1.20モル)及びジシクロペンタジエン95.2g(0.72モル)を仕込み、160〜170℃に温調した。次いで、7時間熟成したところ、ガスクロマトグラフィーによる内部組成の分析により、目的のノルボルネニルトリストリメチルシリロキシシランが約80%の収率で得られていることが確認できた。次いで、蒸留操作により、沸点が106〜113℃(0.3kPa)の留分373gを捕集することにより、精製された目的のノルボルネニルトリストリメチルシリロキシシランを得ることができた。収率は、ビニルトリストリメチルシリロキシシランに対して、80%であった。
また、ノルボルネニルトリストリメチルシリロキシシランは2種類の異性体の混合物であり、ガスクロマトグラフィーでは、目的物のピークは64%と35%に分割して検出された(総和すると99%であった)。
なお、1H−NMRスペクトルの解析によっては、異性体比は59/41であった。得られたノルボルネニルトリストリメチルシリロキシシランのIRスペクトルを図1に示す。
【0041】
[実施例2]
窒素置換を十分に行った還流冷却管、撹拌機及び温度計を備えた四口フラスコ中に、ビニルヘプタメチルシクロテトラシロキサン61.7g(0.20モル)及びジシクロペンタジエン15.9g(0.12モル)を仕込み、160〜170℃に温調した。次いで、13時間熟成したところ、ガスクロマトグラフィーによる内部組成の分析により、目的のノルボルネニルヘプタメチルシクロテトラシロキサンが約75%の収率で得られていることが確認できた。次いで、蒸留操作により、沸点が98〜103℃(0.13kPa)の留分56gを捕集することにより、精製された目的のヘプタメチルシクロテトラシロキサンを得ることができた。収率は、ビニルヘプタメチルシクロテトラシロキサンに対して、75%であった。
また、ノルボルネニルヘプタメチルシクロテトラシロキサンは2種類の異性体の混合物と考えられるが、ガスクロマトグラフィー(パックドカラム)では目的物のピークは分割し難く、単一のピークで98%であったが、1H−NMRの解析によっては、異性体比は51/49であった。得られたノルボルネニルヘプタメチルシクロテトラシロキサンのIRスペクトルを図2に示す。
【0042】
[実施例3]
窒素置換を十分に行った還流冷却管、撹拌機、温度計及び滴下ロートを備えた四口フラスコ中に、ビニルヘプタメチルシクロテトラシロキサン61.7g(0.20モル)を仕込み、50〜60℃に温調した。次いで、ジシクロペンタジエンを160〜170℃に加熱して熱分解することにより得られたシクロペンタジエン(ドライアイスで冷却して滴下ロートに貯留した)の31.8g(0.24モル)を滴下した。50〜60℃を維持しながら、2時間掛けて滴下し、1時間熟成したところ、ガスクロマトグラフィーによる内部組成の分析により、目的のノルボルネニルヘプタメチルシクロテトラシロキサンが約80%の収率で得られていることが確認できた。
【0043】
[実施例4]
ビニルトリストリメチルシリロキシシランを387.2g(1.20モル)使う代わりに698.5g(2.165モル)を使用し、ジシクロペンタジエンを95.2g(0.72モル)使う代わりに157.4g(1.191モル)を使用する以外は実施例1と同様に実施したところ、160〜170℃の温調条件下で12時間熟成した結果、ガスクロマトグラフィーによる内部組成の分析により、目的のノルボルネニルトリストリメチルシリロキシシランが約81%の収率で得られていることが確認できた。
【0044】
[実施例5]
ビニルへプタメチルシクロテトラシロキサンを61.7g(0.20モル)使う代わりに740.6g(2.4モル)を使用し、ジシクロペンタジエンを15.9g(0.12モル)使う代わりに174.5g(1.32モル)を使用する以外は実施例2と同様に実施したところ、160〜170℃の温調条件下で12時間熟成した結果、ガスクロマトグラフィーによる内部組成の分析により、目的のノルボルネニルヘプタメチルシクロテトラシロキサンが約85%の収率で得られていることが確認できた。
【0045】
[比較例1]
実施例1に対して、白金触媒存在下でのノルボルナジエンとトリストリメチルシリロキシシランのヒドロシリル化反応によるノルボルネニルトリストリメチルシリロキシシランの合成を試みた。
窒素置換をそれぞれ十分にした滴下ロート、還流冷却管、撹拌機及び温度計を備えた四口フラスコ中に、ノルボルナジエン46.1g(0.5モル)及び塩化白金酸のイソプロパノール溶液0.1g(Pt原子5×10-6モル含有)を仕込み、60〜70℃に温調した。次いで、トリストリメチルシリロキシシラン148.3g(0.5モル)を滴下ロートからゆっくりと滴下した。4時間掛けて滴下を終了し、そのまま3時間熟成した。ガスクロマトグラフィーによる内部組成の分析により、目的のノルボルネニルトリストリメチルシリロキシシランは痕跡量しか生成していないことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】実施例1で得られたノルボルネニルトリストリメチルシリロキシシランのIRスペクトルである。
【図2】実施例2で得られたノルボルネニルヘプタメチルシクロテトラシロキサンのIRスペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)又は(2)
【化1】

〔式中、Rは炭素数1〜6のアルキル基であり、R1は炭素数1〜6のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数7〜13のアラルキル基、及び炭素数7〜13のアルカリール基からなる群より選ばれる基であり、Xは下記式(i)又は(ii)
−SiR3 (i)
【化2】

(式中、Rは上記と同様であり、qは1〜5の整数である。)
で示される基であり、QはX又はR1と同様の基であり、mは3〜5の整数であり、nは1〜3の整数である。〕
で表されるビニル基含有シロキサン化合物とシクロペンタジエンとを反応させることを特徴とする下記一般式(3)又は(4)
【化3】

(式中、X,R,R1,Q,m及びnは上記と同様である。)
で表されるノルボルネニル基含有シロキサン化合物の製造方法。
【請求項2】
下記一般式(1)又は(2)
【化4】

〔式中、Rは炭素数1〜6のアルキル基であり、R1は炭素数1〜6のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数7〜13のアラルキル基、及び炭素数7〜13のアルカリール基からなる群より選ばれる基であり、Xは下記式(i)又は(ii)
−SiR3 (i)
【化5】

(式中、Rは上記と同様であり、qは1〜5の整数である。)
で示される基であり、QはX又はR1と同様の基であり、mは3〜5の整数であり、nは1〜3の整数である。〕
で表されるビニル基含有シロキサン化合物とジシクロペンタジエンとを混合し、加熱して、ジシクロペンタジエンの熱分解により生じたシクロペンタジエンを上記ビニル基含有シロキサン化合物と反応させることを特徴とする下記一般式(3)又は(4)
【化6】

(式中、X,R,R1,Q,m及びnは上記と同様である。)
で表されるノルボルネニル基含有シロキサン化合物の製造方法。
【請求項3】
R及びR1がメチル基であることを特徴とする請求項1又は2項記載のノルボルネニル基含有シロキサン化合物の製造方法。
【請求項4】
ビニル基含有シロキサン化合物が、ビニルヘプタメチルシクロテトラシロキサンであり、得られるノルボルネニル基含有シロキサンが、ノルボルネニルヘプタメチルシクロテトラシロキサンである請求項1乃至3のいずれか1項記載のノルボルネニル基含有シロキサン化合物の製造方法。
【請求項5】
ビニル基含有シロキサン化合物が、ビニルトリストリメチルシリロキシシランであり、得られるノルボルネニル基含有シロキサンが、ノルボルネニルトリストリメチルシリロキシシランである請求項1乃至3のいずれか1項記載のノルボルネニル基含有シロキサン化合物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−56801(P2006−56801A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−238212(P2004−238212)
【出願日】平成16年8月18日(2004.8.18)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】