説明

ノルボルネン系モノマー重合用触媒及びノルボルネン系共重合体の製造方法

【課題】極性基を有するノルボルネン系モノマーの高分子量付加共重合体を製造可能な高活性のノルボルネン系モノマー重合用触媒、及びノルボルネン系(共)重合体の効率的な製造方法を提供する。
【解決手段】一般式(1)で示されるパラジウム錯体(A)を含有するノルボルネン系重合用触媒、及び前記触媒の存在下に一般式(3)及び一般式(4)で示されるモノマーユニットを有するノルボルネン系共重合体を製造する方法。パラジウム錯体(A)としては、一般式(2)で示される錯体が好ましい。


(式中の記号は、明細書に記載の通り)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノルボルネン系モノマーの重合用触媒、及びその触媒を用いた極性基を有するノルボルネン系モノマーの共重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ノルボルネン系重合体を代表とする環状オレフィン系付加重合体は耐熱性及び透明性に優れる有機材料として、光学フィルム等の分野で工業的に利用されている。このような環状オレフィン系付加重合体はTi、Zr、Cr、Co、Ni、Pd等の遷移金属化合物を含む触媒を用いて環状オレフィン系モノマーを付加重合することにより製造できることが種々報告されている。
【0003】
例えば、欧州特許出願公開第0445755号明細書(特許文献1)には、5〜10族元素の遷移金属化合物を主触媒とし、メチルアルミノキサン(MAO)を助触媒として用いることにより数平均分子量が100万を超えるノルボルネンの単独付加重合体が製造できることが報告されている。しかし、この触媒系では、重合の難易度がより高い、極性基を有するノルボルネン系モノマーの重合は実施されておらず、極性基の影響による触媒失活が懸念された。
【0004】
一方、米国特許第3330815号明細書(特許文献2)には、ジクロロビス(ベンゾニトリル)パラジウムやジ(π−アリル)ジ(μ−クロロ)ジパラジウムのみを触媒として用いて、極性基を有するノルボルネン系モノマーの単独付加重合体及びノルボルネンとの共重合体を製造する方法が報告されている。しかし、この特許には、数平均分子量が1万を超えた重合体を製造した例が無く、かつ触媒の重合活性も低く、工業的に有用な製造法とは言い難いものであった。
【0005】
さらに、極性基を有するノルボルネン系モノマーの単独付加重合及びノルボルネンとの共重合を改善する方法が特許第3678754号明細書(特許文献3)や特開2008−31304号公報(特許文献4)に開示されている。これらの方法では、触媒としてジ(π−アリル)ジ(μ−クロロ)ジパラジウムとテトラフルオロホウ酸銀やヘキサフルオロリン酸銀を組み合わせたものを使用することにより重合活性と重合体の分子量がいずれも向上しているものの、実施例で開示されている共重合体の数平均分子量は20万未満であり、機械物性が実用的な値となる数平均分子量が20万以上の共重合体は製造できていなかった。なお、特許文献4の表1では数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)が入れ替わって記載されている。これはMw/Mnが2.5前後であることからも明かであり、表1を正しく解釈すると、数平均分子量が20万以上の共重合体は存在していなかったことが明白である。
【0006】
これらの方法に対し、シクロペンタジエニル配位子を有する第8〜10族遷移金属化合物を主触媒とし、これに主触媒と反応してカチオン性遷移金属化合物を生成できる助触媒を組み合わせることにより極性基を有するノルボルネンとノルボルネンとの付加共重合を効率良く実施でき、高分子量の共重合体が得られることが国際公開第06/064814号パンフレット(特許文献5)に開示されている。しかし、この公報に開示されている極性基を有するノルボルネン化合物はノルボルネン骨格に直接エステル基が導入された構造を有しており、その炭素−炭素二重結合部と極性基との間の距離が近いために、触媒である遷移金属錯体に容易に配位し、触媒活性の低下を招いていた。従って、ノルボルネンの単独付加重合では高活性で高分子量の重合体を製造可能であるが、極性基を有するノルボルネン系モノマーを使用した場合には高分子量の共重合体が得られるものの触媒活性は低かった。
【0007】
これらの先行技術文献の記載から、極性基を有するノルボルネン系モノマーの単独付加重合または付加共重合において、数平均分子量が20万以上の重合体を得ることができる、高活性で、活性の低下が小さい触媒系は知られていなかったことがわかる。
【0008】
このように極性基を有するノルボルネン系付加共重合体の製造方法において、高活性で、実用的な機械物性を有する共重合体を得ることのできる触媒の例は無く、そのような触媒の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】欧州特許出願公開第0445755号明細書
【特許文献2】米国特許第3330815号明細書
【特許文献3】特許第3678754号明細書
【特許文献4】特開2008−31304号公報
【特許文献5】国際公開第06/064814号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、極性基を有するノルボルネン系モノマーの高分子量付加共重合体を製造可能な高活性の触媒系及び当該共重合体の効率的な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、π−アリル(η3−アリル)配位子と2座のβ−ジケチミン配位子を有するパラジウム錯体を主触媒とする触媒系がノルボルネン化合物の重合が可能であることを見出した。さらには本発明の触媒系と重合性炭素−炭素二重結合と極性基(エステル基)との間の距離を遠ざけるためにノルボルネン骨格とエステル基の間にメチレン鎖を1つ導入したノルボルネン化合物とを組み合わせることにより、極性基を有するノルボルネン系モノマーの高分子量付加共重合体を効率的に製造できることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明は以下の[1]〜[6]のノルボルネン系モノマーの重合用触媒、及び[7]〜[10]のノルボルネン系共重合体の製造方法に関する。
[1] 一般式(1)
【化1】

(式中、R1、R2及びR3はそれぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜20の炭化水素基を表し、R4及びR5はそれぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜20の炭化水素基を表し、R6、R7、R8、R9及びR10はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子または炭素数1〜10の炭化水素基を表し、R6、R7、R8、R9及びR10は互いに結合して環構造を形成していてもよい。)で示されるパラジウム錯体(A)を含有することを特徴とするノルボルネン系モノマーの重合用触媒。
[2] 一般式(1)中のR1、R2及びR3が水素原子または炭素数1〜6のアルキル基であり、R4及びR5が炭素数6〜20のアリール基であり、R6、R7、R8、R9及びR10がいずれも水素原子である前項1に記載のノルボルネン系モノマーの重合用触媒。
[3] 一般式(1)中のR1及びR3がメチル基であり、R2が水素原子であり、R4及びR5が2,6−ジイソプロピルフェニル基であり、R6、R7、R8、R9及びR10がいずれも水素原子である、式(2)
【化2】

で示される前項1または2に記載のノルボルネン系モノマーの重合用触媒。
[4] パラジウム錯体(A)と反応してカチオン性パラジウム化合物を生成できるイオン性化合物である助触媒(B)、及びホスフィン系配位子(C)を含有する前項1〜3のいずれかに記載のノルボルネン系モノマーの重合用触媒。
[5] 助触媒(B)が、N,N−ジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートである前項4に記載のノルボルネン系モノマーの重合用触媒。
[6] ホスフィン系配位子(C)がトリイソプロピルホスフィンである前項5に記載のノルボルネン系モノマーの重合用触媒。
[7] 前項1〜6のいずれかに記載の重合用触媒の存在下に、ノルボルネン系モノマーを単独重合または共重合することを特徴とするノルボルネン系(共)重合体の製造方法。
[8] 前項1〜6のいずれかに記載の重合用触媒の存在下に、一般式(3)
【化3】

及び一般式(4)
【化4】

(式中、R11は炭素数1〜10のアルキル基を表し、R12、R13、及びR14はそれぞれ独立して水素原子または炭素数1〜10のアルキル基を表す。)
で示されるモノマーユニットに対応するノルボルネン系モノマーを重合することを特徴とする、一般式(3)及び一般式(4)で示されるモノマーユニットを含むノルボルネン系共重合体の製造方法。
[9] 一般式(3)及び一般式(4)で示されるモノマーユニットのみからなる前項8に記載のノルボルネン系共重合体の製造方法。
[10] R11がメチル基であり、R12、R13及びR14が水素原子である前項8または9に記載のノルボルネン系共重合体の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によればノルボルネンと極性基を有するノルボルネン系モノマーとの高分子量付加共重合体を効率よく製造することができる。本発明により得られるノルボルネン系共重合体は優れた透明性、耐熱性、低吸水性、電気絶縁特性等を有し、光学+用途、医療用途、電材用途、包装材料用途、構造材料用途等の多くの用途で利用できる。
具体的には、レンズや偏光フィルム等の光学用成形品、フィルム、キャリアテープ、フィルムコンデンサー、フレキシブルプリント基板等の電気絶縁材料、プレススルーパッケージ、輸液バッグ、薬液バイアル等の医療用容器、ラップやトレイ等の食品包装成形品、電気器具等のケーシング、インナーパネル等の自動車内装部品、カーポートやグレージング等の建材等に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例1で得られたパラジウム錯体A−1の1H−NMRスペクトルである。
【図2】実施例1で得られたパラジウム錯体A−1の13C−NMRスペクトルである。
【図3】実施例2で得られた共重合体の1H−NMRスペクトルである。
【図4】実施例2で得られた共重合体のIRスペクトルである。
【図5】実施例2で得られた共重合体と比較例1で得られた共重合体のゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)のチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明についてより詳細に説明する。
[ノルボルネン系モノマーの重合用触媒]
本発明のノルボルネン系モノマーの重合用触媒は、パラジウム錯体(A)を必須成分とし、パラジウム錯体(A)と反応してカチオン性パラジウム化合物を生成できるイオン性化合物である助触媒(B)(以下、「助触媒(B)」と略すことがある。)及びホスフィン系配位子(C)を任意成分として含有することを特徴とする。
【0016】
パラジウム錯体(A)
本発明のパラジウム錯体(A)は、π−アリル配位子を有するパラジウムと、2座配位子であるβ−ジケチミンとからなることを特徴とする。
【0017】
本発明のノルボルネン系モノマーの重合用触媒成分であるパラジウム錯体(A)は一般式(1)
【化5】

で示される。
【0018】
一般式(1)におけるR1、R2及びR3はそれぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜20の炭化水素基を表す。
【0019】
炭素数1〜20の炭化水素基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、イソブチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基等の炭素数1〜20の直鎖または分枝鎖を有するアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、4−メチルシクロヘキシル基、アダマンチル基等の炭素数3〜20のシクロアルキル基;フェニル基、1−ナフチル基、2−メチル−1−ナフチル基、アントラセニル基、トリル基、キシリル基、ベンジル基等の炭素数6〜20のアリール基、アルキルアリール基またはアラルキル基が挙げられる。これらのうち、錯体の合成のしやすさの観点から、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基が好ましく、水素原子または炭素数1〜4のアルキル基がより好ましい。
【0020】
一般式(1)におけるR4及びR5はそれぞれ独立して炭素数1〜20の炭化水素基を表す。具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、イソブチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基等の炭素数1〜20の直鎖または分枝鎖を有するアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、4−メチルシクロヘキシル基等の炭素数3〜20のシクロアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、2,6−ジイソプロピルフェニル基、1−ナフチル基、ベンジル基等の炭素数6〜20のアリール基、アルキルアリール基またはアラルキル基等が挙げられ、これらのうち、錯体の合成のしやすさ、及び錯体の安定性の観点から、炭素数6〜20のアリール基、アルキルアリール基が好ましく、2,6−ジイソプロピルフェニル基が特に好ましい。
【0021】
一般式(1)におけるR6、R7、R8、R9及びR10はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子または炭素数1〜20の炭化水素基を表し、R6、R7、R8、R9及びR10は互いに結合して環構造を形成していてもよい。具体例としては、水素原子;フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、イソブチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基等の炭素数1〜20の直鎖または分枝鎖を有するアルキル基;エテニル基、2−プロペニル基等の炭素数2〜20の直鎖または分枝鎖を有するアルケニル基;フェニル基、トリル基、キシリル基等の炭素数6〜20のアリール基、アルキルアリール基またはアラルキル基等が挙げられ、これらのうち、錯体の合成のしやすさの観点から、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基が好ましく、水素原子またはメチル基が特に好ましい。
【0022】
以下に、一般式(1)で示されるパラジウム錯体(A)の具体例を示すが、これらに限定されるものではない。なお、以下の具体例において、Meはメチル基、Etはエチル基、t−Buはt−ブチル基、Phはフェニル基を表す。
【0023】
【化6】

【0024】
【化7】

【0025】
【化8】

【0026】
これらの中でも、本発明においては、式(2)
【化9】

で示されるパラジウム錯体(A)が好ましい。
【0027】
本発明のパラジウム錯体(A)は、前駆体である(π−アリル)パラジウム(II)化合物とβ−ジケチミン化合物
【化10】

(式中、R1、R2、R3、R4及びR5は一般式(1)と同じ意味を示す。)の配位子交換反応により製造することができる。具体的な製造方法として、Organometallics,2006,25,5854−5862に記載の方法を例示することができる。
【0028】
(π−アリル)パラジウム(II)化合物としてはβ−ジケチミン化合物と配位子交換可能な配位子を有する化合物であれば特に制限はされない。目的とするパラジウム錯体(A)に対応するR6、R7、R8、R9及びR10を有する化合物を選択すればよい。例えば、好ましいものとしてジ(π−アリル)ジ(μ−クロロ)ジパラジウム(化学式(5))や(π−アリル)(アセチルアセトナト)パラジウム(化学式(6))を挙げることができる。
【化11】

【0029】
パラジウム錯体(A)を製造する際に用いるβ−ジケチミン化合物は、目的とするパラジウム錯体(A)に対応するR1、R2、R3、R4及びR5を有するβ−ジケチミン化合物を選択すればよい。その具体例を以下に示すが、これらに限定されるものではない。
【0030】
【化12】

【0031】
このようなβ−ジケチミン化合物は市販されているものをそのまま使用することができる。また、Organometallics,1997,16,1514−1516に記載の方法で製造したものを使用することもできる。
【0032】
前記配位子交換反応は前駆体である(π−アリル)パラジウム(II)化合物を溶媒に溶解したものに、β−ジケチミン化合物もしくは必要に応じてそれに塩基を加えたものを添加し、所定の温度で所定の時間撹拌を行うことで実施することができる。
【0033】
配位子交換反応の際に使用する溶媒としては、各基質と反応しないものであれば特に制限はないが、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素;シクロヘキサン等の脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;ジクロロメタン、クロロホルム、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素;ニトロメタン、ニトロベンゼン、アセトニトリル等の含窒素系炭化水素;ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類が挙げられる。これらの溶媒は混合して使用してもよい。また、使用する溶媒は脱水処理を施し、脱気処理したものが好ましい。
【0034】
溶媒の使用量は、反応を著しく遅延しなければ、特に制限はないが、前駆体である(π−アリル)パラジウム(II)化合物の溶解性等に応じて適宜定めることができる。通常、前駆体である(π−アリル)パラジウム(II)化合物1gに対して、1〜100gの溶媒を用いる。
【0035】
反応温度は特に制限されないが、一般には、−100〜150℃、好ましくは−50〜120℃である。温度が−100℃より低いと反応速度が遅くなり、温度が150℃より高いと生成した錯体の分解が起こることがある。上記範囲内で反応温度を選択することにより、反応速度を調整することができる。
【0036】
反応時間も特に制限はなく、反応温度にもよるが、例えば1分〜50時間、好ましくは30分〜3時間である。また、反応は窒素ガスやアルゴンガスのような不活性ガス雰囲気下で行うことが望ましい。
【0037】
反応終了後は、通常の分離・精製操作を行うことにより、目的のパラジウム錯体(A)を単離することができる。具体的には、原料としてジ(π−アリル)ジ(μ−クロロ)ジパラジウムを使用した場合は、反応で生成したLiCl等の塩を遠心分離やろ過で除去した後、再結晶することにより目的のパラジウム錯体(A)を単離する。一方、(π−アリル)(アセチルアセトナト)パラジウムを原料として使用した場合は、反応で生成したアセチルアセトンを溶媒と共に減圧下で留去した後、あらためて溶媒を加え、再結晶することにより目的のパラジウム錯体(A)を単離する。
【0038】
反応で得られた生成物が目的のパラジウム錯体(A)であることの確認はNMRスペクトル、元素分析、マススペクトル、X線結晶解析等により行うことができる。
以上のようにして得られるパラジウム錯体(A)は、ノルボルネン系モノマーの重合用触媒成分として有用である。
【0039】
本発明のノルボルネン系モノマーの重合用触媒は、パラジウム錯体(A)の少なくとも1種を含有するものであればよいが、パラジウム錯体(A)と反応してカチオン性パラジウム化合物を生成できるイオン性化合物である助触媒(B)、及びホスフィン系配位子(C)をさらに含有するものが、より高い触媒活性を発現できる点で好ましい。
【0040】
助触媒(B)
本発明で用いられるパラジウム錯体(A)と反応してカチオン性パラジウム化合物を生成できるイオン性化合物である助触媒(B)としては、非配位性アニオンとカチオンとを組み合わせたイオン性化合物が挙げられる。
【0041】
非配位性アニオンとしては、1991年版周期表第13族元素の4級アニオンが挙げられる。具体的には、テトラ(フェニル)ボレート、テトラ(フルオロフェニル)ボレート、テトラキス(ジフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(トリフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(テトラフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(テトラフルオロメチルフェニル)ボレート、テトラキス[3,5−ジ(トリフルオルメチル)フェニル]ボレート、テトラ(トリイル)ボレート、テトラ(キシリル)ボレート、トリフェニル(ペンタフルオロフェニル)ボレート、[トリス(ペンタフルオロフェニル)フェニル]ボレート、トリデカハイドライド−7,8−ジカルバウンデカボレート等が挙げられる。
【0042】
前記カチオンとしては、カルボニウムカチオン、オキソニウムカチオン、アンモニウムカチオン、ホスホニウムカチオン、シクロヘプチルトリエニルカチオン、遷移金属を有するフェロセニウムカチオン等が挙げられる。
【0043】
カルボニウムカチオンの具体例としては、トリフェニルカルボニウムカチオン、トリ置換フェニルカルボニウムカチオン等の3置換カルボニウムカチオンが挙げられる。トリ置換フェニルカルボニウムカチオンの具体例としては、トリ(メチルフェニル)カルボニウムカチオン、トリ(ジメチルフェニル)カルボニウムカチオンが挙げられる。
【0044】
オキソニウムカチオンの具体例としては、ヒドロキソニウムカチオン、メチルオキソニウムカチオン等のアルキルオキソニウムカチオン、ジメチルオキソニウムカチオン等のジアルキルオキソニウムカチオン、トリメチルオキソニウムカチオン、トリエチルオキソニウムカチオン等のトリアルキルオキソニウムカチオン等が挙げられる。
【0045】
アンモニウムカチオンの具体例としては、トリメチルアンモニウムカチオン、トリエチルアンモニウムカチオン、トリプロピルアンモニウムカチオン、トリ(n−ブチル)アンモニウムカチオン等のトリアルキルアンモニウムカチオン、N,N−ジエチルアニリニウムカチオン、N,N−2,4,6−ペンタメチルアニリニウムカチオン等のN,N−ジアルキルアニリニウムカチオン、ジ(イソプロピル)アンモニウムカチオン、ジシクロヘキシルアンモニウムカチオン等のジアルキルアンモニウムカチオンが挙げられる。
【0046】
ホスホニウムカチオンの具体例としては、トリフェニルホスホニウムカチオン、トリ(メチルフェニル)ホスホニウムカチオン、トリ(ジメチルフェニル)ホスホニウムカチオン等のトリアリールホスホニウムカチオンが挙げられる。
【0047】
フェロセニウムカチオンの具体例としては、フェロセニウムカチオン、1,1−ジメチルフェロセニウムカチオン、1,1−ジエチルフェロセニウムカチオン等のジアルキルフェロセニウムカチオン等が挙げられる。
【0048】
助触媒(B)の好ましい例は、トリチルテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリフェニルカルボニウムテトラ(フルオロフェニル)ボレート、N,N−ジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリチルテトラキス[3,5−ジ(トリフルオロメチル)フェニル]ボレート、N,N−ジメチルアニリニウムテトラキス[3,5−ジ(トリフルオロメチル)フェニル]ボレート、1,1’−ジメチルフェロセニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート等である。これらの中では触媒活性向上の観点から、N,N−ジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートが特に好ましい。
【0049】
ホスフィン系配位子(C)
本発明で用いられるホスフィン系配位子(C)とは、水素原子、アルキル基もしくはアリール基から独立して選ばれる3つの置換基が結合した3価のリン化合物である。具体的にはトリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリ−t−ブチルホスフィン等のトリアルキルホスフィン類、トリシクロペンチルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン等のトリシクロアルキルホスフィン類、ならびにトリフェニルホスフィン等のトリアリールホスフィン類を挙げることができる。これらの中では触媒活性向上の観点から、トリアルキルホスフィン類が好ましく、特にトリイソプロピルホスフィンが好ましい。
【0050】
高活性にノルボルネン系共重合体を製造することができる本発明の触媒の好ましい態様の1つは、パラジウム錯体(A)として、一般式(1)において、R1がメチル基であり、R2が水素原子であり、R3がメチル基であり、R4及びR5がアリール基であり、R6、R7、R8、R9、及びR10がいずれも水素原子である錯体を用い、助触媒(B)として、N,N−ジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート{[(C65)N(Me)2H][B(C654]}を用い、さらにホスフィン系配位子(C)として、トリイソプロピルホスフィンを用いる場合である。
【0051】
また、本発明の触媒の最も好ましい態様は、パラジウム錯体(A)として、一般式(1)において、R1がメチル基であり、R2が水素原子であり、R3がメチル基であり、R4及びR5が2,6−ジイソプロピルフェニル基であり、R6、R7、R8、R9及びR10がいずれも水素原子である錯体を用い、助触媒(B)として、N,N−ジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート{[C65N(Me)2H][B(C654]}を用い、さらにホスフィン系配位子(C)として、トリイソプロピルホスフィンを用いる場合である。
【0052】
本発明の触媒におけるパラジウム錯体(A)と助触媒(B)との使用割合は、各種の条件により異なるため一義的には定められないが、通常は(A)/(B)(モル比)で1/0.1〜1/100であり、好ましくは1/0.5〜1/50、さらに好ましくは1/1〜1/10である。
【0053】
本発明の触媒におけるパラジウム錯体(A)とホスフィン系配位子(C)との使用割合は、各種の条件により異なるため一義的には定められないが、通常は(A)/(C)(モル比)で1/0.1〜1/2であり、好ましくは1/0.5〜1/1.8、さらに好ましくは1/1〜1/1.5である。
【0054】
パラジウム錯体(A)、助触媒(B)、ホスフィン系配位子(C)の各触媒成分は後述のようにノルボルネン系モノマーの重合の際に混合、接触させて使用する。
各触媒成分を接触させる温度は特に制限されないが、一般には、−100〜150℃、好ましくは−50〜120℃である。温度が−100℃より低いと各成分間の反応が遅くなり、温度が150℃より高いと各成分の分解を招き、触媒の活性が低下する。上記範囲内で接触温度を選択することにより、重合に使用した際に重合速度や生成ポリマーの分子量等を調整することができる。
【0055】
各触媒成分の混合は溶媒存在下に行っても良い。使用可能な溶媒としては特に限定はされないが、各触媒成分との反応性が無く、工業的スケールでの製造がされていて、入手が容易なものが好ましい。具体的には、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素;シクロヘキサン等の脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;ジクロロメタン、クロロホルム、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素;ニトロメタン、ニトロベンゼン、アセトニトリル等の含窒素系炭化水素;ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類等を使用することができる。これらの中でも、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、ハロゲン化炭化水素が好ましい。また、これらの溶媒は混合して使用してもよい。
【0056】
[ノルボルネン系共重合体の製造方法]
本発明のノルボルネン系共重合体の製造方法は、本発明の重合用触媒の存在下に、ノルボルネン系モノマーを付加重合することを特徴とする。
【0057】
本発明の製造方法は、(i)ノルボルネン系モノマー1種類のみを付加重合することにより、ノルボルネン系モノマーの単独付加重合体を得る方法、(ii)ノルボルネン系モノマー2種類以上を付加共重合することにより、ノルボルネン系モノマーの付加共重合体を得る方法である。必要に応じて(iii)ノルボルネン系モノマー1種類以上とノルボルネン系モノマーと共重合可能な他のモノマー1種類以上とを付加共重合することにより、ノルボルネン系モノマーの付加共重合体を得てもよい。
【0058】
ノルボルネン系モノマー
本発明に用いられるノルボルネン系モノマーは、ノルボルネン環構造を有する化合物(以下、単に「ノルボルネン類」ということがある。)である。極性あるいは非極性の置換基を有していてもよく、ノルボルネン環以外の環構造を有していても良い。
【0059】
本発明に用いられるノルボルネン類の具体例としては、2−ノルボルネン、5−メチル−2−ノルボルネン、5−エチル−2−ノルボルネン、5−n−ブチル−2−ノルボルネン、5−n−ヘキシル−2−ノルボルネン、5−n−デシル−2−ノルボルネン、5−シクロヘキシル−2−ノルボルネン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、5−ビニル−2−ノルボルネン、5−フェニル−2−ノルボルネン、5−ベンジル−2−ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、ジヒドロジシクロペンタジエン、テトラシクロ[9.2.1.02,10.03,8]テトラデカ−3,5,7,12−テトラエン、テトラシクロ[10.2.1.02,11.04,9]ペンタデカ−4,6,8,13−テトラエン等の無置換または炭化水素基を有するビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン類;
【0060】
テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−メチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−エチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−エチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−n−ブチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−シクロヘキシルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−エチリデンテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−ビニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−フェニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン等の無置換または炭化水素基を有するテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン類;
【0061】
5−ノルボルネン−2−カルボン酸メチル、5−ノルボルネン−2−カルボン酸エチル、5−ノルボルネン−2−カルボン酸n−ブチル、2−メチル−5−ノルボルネン−2−カルボン酸メチル、2−メチル−5−ノルボルネン−2−カルボン酸エチル、2−メチル−5−ノルボルネン−2−カルボン酸n−ブチル、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸メチル、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸エチル等のアルコキシカルボニル基を有するビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン類;テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボン酸メチル、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボン酸エチル、4−メチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボン酸メチル、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4,5−ジカルボン酸メチル、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4,5−ジカルボン酸エチル等のアルコキシカルボニル基を有するテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン類;
【0062】
5−ノルボルネン−2−カルボン酸、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸等のヒドロキシカルボニル基を有するビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン類;テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボン酸、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4,5−ジカルボン酸等のヒドロキシカルボニル基を有するテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン類;
【0063】
2−ヒドロキシ−5−ノルボルネン、2−ヒドロキシメチル−5−ノルボルネン、2,2−ジ(ヒドロキシメチル)−5−ノルボルネン、2,3−ジ(ヒドロキシメチル)−5−ノルボルネン等のヒドロキシル基を有するビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン類;テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−オール、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−メタノール、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4,5−ジメタノール等のヒドロキシル基を有するテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン類;
【0064】
2−アセトキシ−5−ノルボルネン、2−アセトキシメチル−5−ノルボルネン、2,2−ジ(アセトキシメチル)−5−ノルボルネン、2,3−ジ(アセトキシメチル)−5−ノルボルネン等のアセトキシル基を有するビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン類;4−アセトキシテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン、4−アセトキシメチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン、4,5−ジ(アセトキシメチル)テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン等のアセトキシル基を有するテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン類;
【0065】
5−ノルボルネン−2−カルボニトリル、5−ノルボルネン−2−カルボキサミド等の窒素原子を含む官能基を有するビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン類;テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボニトリル、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボキサミド等の窒素原子を含む官能基を有するテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン類;
【0066】
2−クロロ−5−ノルボルネン、2−フルオロ−5−ノルボルネン等のハロゲン原子を有するビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン類;4−クロロテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン、4−フルオロテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン等のハロゲン原子を有するテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン類;
【0067】
2−トリメチルシロキシ−5−ノルボルネン、2−トリメトキシシリル−5−ノルボルネン、2−トリス(トリメトキシシリロキシ)シリル−5−ノルボルネン等のケイ素原子を含む官能基を有するビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン類;4−トリメチルシロキシテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン、4−トリメトキシシリルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン、4−トリス(トリメトキシシリロキシ)シリルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン等のケイ素原子を含む官能基を有するテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン類;
【0068】
5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物、5−ノルボルネン−2,3−カーボネート、5−ノルボルネン−2,3−ジチオカーボネート等の酸無水物構造、カーボネート構造、ジチオカーボネート構造を有するビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン類;テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4,5−ジカルボン酸無水物、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4,5−カーボネート、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4,5−ジチオカーボネート等の酸無水物構造、カーボネート構造、ジチオカーボネート構造を有するテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン類等を挙げることができる。
これらのノルボルネン類はそれぞれ単独で用いることもできるし、2種以上組み合わせて用いることもできる。
【0069】
本発明で用いられるノルボルネン系モノマーは、下記一般式(3)
【化13】

及び一般式(4)
【化14】

(式中、R11は炭素数1〜10のアルキル基を表し、R12、R13、及びR14はそれぞれ独立して水素原子または炭素数1〜10のアルキル基を表す。)
で示されるモノマーユニットに対応するノルボルネン類が好ましい。
【0070】
一般式(3)におけるR11が表す炭素数1〜10のアルキル基は直鎖状でも分岐していてもよい。
【0071】
直鎖状のアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ぺンチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、n−デシル基等が挙げられる。分岐を有するアルキル基の例としては、イソプロピル基、イソブチル基、sec−ブチル基、ネオペンチル基、イソヘキシル基、イソオクチル基、イソデシル基等が挙げられる。
【0072】
これらの中でもR11としては、炭素数1〜3の直鎖状のアルキル基が経済性の面で好ましい。モノマー製造コストの観点からは、メチル基が特に好ましい。
【0073】
一般式(3)におけるR12及び一般式(4)におけるR13及びR14は、それぞれ独立して水素原子または炭素数1〜10のアルキル基を表し、炭素数3〜10のアルキル基は分岐していてもよい。これらのアルキル基としては前述のR11のアルキル基と同様のものが挙げられる。これらの中でもR12、R13及びR14としては、モノマー製造コストの観点から、水素原子が好ましい。
【0074】
なお、R12が水素原子である場合、一般式(3)で示されるモノマーユニットの基本になるノルボルネン類は、R11が炭素数1のアルキル基のとき、2−アセトキシメチル−5−ノルボルネン、R11が炭素数2のアルキル基のとき、2−[(エチルカルボニルオキシ)メチル]−5−ノルボルネン、R11が炭素数3の直鎖状のアルキル基のとき、2−[(プロピルカルボニルオキシ)メチル]−5−ノルボルネンとなる。
13及びR14が水素原子である場合、一般式(4)で示されるモノマーユニットの基本になるノルボルネン類はノルボルネンとなる。
【0075】
本発明の製造方法において、パラジウム錯体(A)、助触媒(B)及びホスフィン系配位子(C)を用いたノルボルネン系モノマーの重合は、塊状重合、懸濁重合、乳化重合、溶液重合、沈殿重合等で行うことができる。溶媒を用いる重合を行う場合には、触媒活性に悪影響を与えない溶媒を使用する必要がある。使用可能な溶媒としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素;シクロヘキサン等の脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;ジクロロメタン、クロロホルム、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素;ニトロメタン、ニトロベンゼン、アセトニトリル等の含窒素系炭化水素;ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;酢酸エチル、酢酸n−プロピル、酢酸n−ブチル等のエステル類;δ−バレロラクトン、γ−ブチロラクトン等のラクトン類及び水が挙げられる。これらの溶媒は混合して使用してもよい。また、水を使用する際はアニオン型、カチオン形、非イオン型の界面活性剤等を用いて反応液を乳化状態にすることもできる。
【0076】
沈殿重合は溶液重合の一種であり、溶媒としてモノマーは溶解するが、ポリマーが溶解しないものを使用する。沈殿重合では重合と共にポリマーが析出してくるので、再沈殿精製のために大量に使用する貧溶媒(メタノール等)が不要となり、製造コストの面で有利となる。
【0077】
重合を行う際には、パラジウム錯体(A)、助触媒(B)及びホスフィン系配位子(C)を混合するが、その混合順序は、パラジウム錯体(A)が助触媒(B)と接触する前にホスフィン系配位子(C)と混合されるようになっていれば、その他は特に限定されない。予めパラジウム錯体(A)成分とホスフィン系配位子(C)を混合し、さらに助触媒(B)を混合して反応組成物を得、重合させる単量体を含む溶液にこれを添加してもよい。また、重合させる単量体とパラジウム錯体(A)及びホスフィン系配位子(C)を含む溶液に、助触媒(B)を添加してもよく、重合させる単量体と助触媒(B)の混合溶液中にパラジウム錯体(A)及びホスフィン系配位子(C)の混合物を添加してもよい。
【0078】
本発明では、予めパラジウム錯体(A)とホスフィン系配位子(C)とを混合し、1分間以上、好ましくは30分〜1時間程度接触させた後に、助触媒(B)と混合して反応系に添加するか、もしくはパラジウム錯体(A)とホスフィン系配位子(C)との混合物を助触媒(B)を含む反応系に添加することが好ましい。このような操作を行うことにより、より高い重合活性を発現することが可能になる。
【0079】
重合温度も特に制限されないが、一般には、−100〜150℃、好ましくは−50〜120℃、最も好ましくは30〜100℃である。温度が−100℃より低いと重合速度が遅くなり、温度が150℃より高いと触媒の活性が低下することがある。上記範囲内で重合温度を選択することにより、重合速度や分子量等を調整することができる。
【0080】
重合時間も特に制限はなく、例えば1分〜100時間である。また、反応は窒素ガスのような不活性ガス雰囲気下で行うことが望ましい。
【0081】
重合反応終了後、生成物であるノルボルネン系重合体は、必要に応じて公知の操作、処理方法(例えば、再沈殿等)により後処理を行い、ろ過分別後、乾燥を行うことにより単離される。
【0082】
本発明の方法で製造される一般式(3)及び一般式(4)で示されるモノマーユニットから構成されるノルボルネン系共重合体においては、一般式(3)で示されるモノマーユニットの含有量は10〜70モル%であることが好ましい。一般式(3)で示されるモノマーユニットが10モル%未満であると共重合体の疎水性が高くなり、有機溶媒に対する溶解性は低下するが、吸水性が低くなる傾向がある。一方、70モル%を超えると共重合体が親水性となり、有機溶媒に対する溶解性が向上するが、吸水性が高くなる傾向がある。従って、一般式(3)で示されるモノマーユニットの含有量を調整することにより、共重合体の溶媒への溶解性と吸水性を制御することが可能である。
【0083】
本発明の方法で製造される一般式(3)及び一般式(4)で示されるモノマーユニットから構成されるノルボルネン系共重合体をフィルム、シート等へ成形する際に必要となる溶媒への適度な溶解性と低吸水性を両立させる観点からは、一般式(3)で示されるモノマーユニットの含有量は5〜80モル%が好ましく、10〜70モル%がより好ましく、10〜60モル%がさらに好ましい。なお、一般式(4)で示されるモノマーユニットの含有量は粉末状もしくはフィルム状の共重合体を適当な重水素化溶媒に溶解させ、1H−NMRを測定し、その積分値より算出することができる。
【0084】
本発明の方法で製造されるノルボルネン系共重合体は、基本的にはノルボルネン類のみで構成される。ただし、この場合であっても本発明のノルボルネン系共重合体の性質をほとんど変化させないような微少量、例えば1モル%以下の第3のモノマーユニットの存在を除外するものではない。また、本発明の方法で製造されるノルボルネン系共重合体は物性改良のため、本発明の効果を損なわない範囲でノルボルネン系モノマーと共重合可能な第3のモノマーを共重合させていてもよい。
【0085】
第3のモノマーには特に制限はないが、エチレン性炭素−炭素二重結合を有するモノマーが好ましく、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン及び1−ヘキセン等のα−オレフィン類;スチレン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼン等の芳香族ビニル化合物類;1,3−ブタジエン、イソプレン等の鎖状共役ジエン類;エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル等のビニルエーテル類;メチルアクリレート、エチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート等のアクリレート類;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート等のメタクリレート類;等を挙げることができる。なかでも、エチレン、プロピレン、1−ヘキセンのようなα−オレフィン類やスチレンのような芳香族ビニル化合物類が特に好ましい。
【0086】
本発明の方法で製造されるノルボルネン系共重合体において、各モノマーユニットの共重合様式は重合条件により、ランダム、ブロック、交互のいずれをもとり得るが、共重合体の物性向上の観点からは、ランダムであることが望ましい。
【0087】
本発明の方法で製造されるノルボルネン系共重合体のゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)法により測定したポリスチレン換算数平均分子量(Mn)は50,000〜2,000,000である。さらには100,000〜1,500,000がより好ましい。ポリスチレン換算数平均分子量が50,000未満であると機械強度が不十分である。ポリスチレン換算数平均分子量が2,000,000を超えると、キャストフィルムを成形する際に溶媒への溶解度が低下するばかりでなく、溶液粘度が高くなり、成形加工性が低下する。また、分子量分布Mw/Mn(重量平均分子量/数平均分子量)は、1.00〜4.00が好ましく、1.30〜3.50がより好ましく、1.50〜3.00がさらに好ましい。分子量分布が広いとキャストフィルム成形時の溶液が均一になりにくいため、良好なフィルムが作製しにくくなる。
【0088】
本発明の方法で製造されるノルボルネン系共重合体の23℃における飽和吸水率は、通常、0.001〜1質量%、好ましくは0.005〜0.7質量%、さらに好ましくは0.01〜0.5質量%である。飽和吸水率がこの範囲内であると、各種光学特性、例えば透明性、位相差、位相差の均一性、及び寸法精度が、高温多湿のような条件下でも維持され、他材料との密着性や接着性に優れるため使用途中で剥離等が発生せず、また、酸化防止剤等の添加物との相溶性も良好であるため、添加の自由度が大きくなる。なお、上記飽和吸水率はJIS K7209に準拠し、23℃水中で24時間浸漬して増加質量を測定することにより求められる値である。
【0089】
本発明の方法で製造されるノルボルネン系共重合体のガラス転移温度(Tg)は、共重合体の場合、その構成モノマー単位の種類、組成比、添加剤等の有無により異なるが、通常、80〜350℃、好ましくは100〜320℃、さらに好ましくは120〜300℃である。Tgが上記範囲よりも低いと、熱変形温度が低くなり、耐熱性に問題が生じるおそれがあり、また、得られる光学フィルムの温度による光学特性の変化が大きくなることがある。また、Tgが上記範囲よりも高いと、延伸加工時にTg近辺まで加熱する場合に樹脂が熱劣化する可能性が高くなる。
【0090】
本発明の方法で製造されるノルボルネン系共重合体は溶液流延法(溶液キャスト法)により成膜してフィルムに加工することができる。使用する溶媒としてはトルエン、テトラヒドロフラン(THF)、ジクロロメタン、クロロホルム等を用いることができる。
【実施例】
【0091】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの記載により何らの限定を受けるものではない。
【0092】
各実施例及び比較例において、触媒活性は以下の式
【数1】


により算出した。得られたポリマーの重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、分子量分布(Mw/Mn)は、ポリスチレンを標準物質として用いたゲルパーミエイションクロマトグラフ(GPC)により求めた。また、共重合体中のノルボルネンと2−アセトキシメチル−5−ノルボルネンの組成比は、1H−NMRにより得られたピーク[δ:3.5−4.5ppm,2−アセトキシメチル−5−ノルボルネン(「ANB」と略す。)の「−COOCH2−」ユニット]と[δ:0.5−3.0ppm,ノルボルネン(「NB」と略す。)及び2−アセトキシメチル−5−ノルボルネンの「CH3COO−」、「−CH2−」及び「−CH=」ユニット]の積分比から求め、ANB含有率は以下の式
【数2】

より算出した。
【0093】
実施例及び比較例で合成した物質の諸物性は、以下の通りに測定した。
1.1H−NMR,13C−NMR
使用機種:JEOL EX−400(400MHz,日本電子社製)、
測定方法:重水素化クロロホルムに溶解し、内部標準物質にテトラメチルシランを使用して測定した。
2.FT−IR
使用機種
システム:Spectrum GX(パーキンエルマー社製)、
ATR:MIRacleTM(Pike Technologies社製)。
測定方法
1回反射ATR法により測定した。
【0094】
3.ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)
使用機種
カラム:Shodex GPC K−G+KF−806M(昭和電工社製)、
検出器:Shodex SE−61(昭和電工社製)。
測定条件
溶媒:テトラヒドロフラン、
測定温度:40℃、
流速:1.0ml/分、
試料濃度:1.0mg/ml、
注入量:1.0μl、
検量線:Universal Calibration curve、
解析プログラム:SIC 480II(システム インスツルメンツ社製)。
【0095】
また、2,4−(2,6−ジイソプロピルフェニルイミノ)ペンタンはFeldmanらの合成法(Organometallics,1997,16,1514)に従って合成した。
【0096】
合成例1:2−アセトキシメチル−5−ノルボルネンの合成
10Lのステンレス製オートクレーブにジシクロペンタジエン(東京化成工業社製,759.80g,5.747mol)、酢酸アリル(東京化成工業社製,1457.86g,14.561mol)及びヒドロキノン(和光純薬工業社製,2.25g,0.0204mol)を加えた。系内を窒素置換した後、500rpmで撹拌しながら、このオートクレーブを190℃まで昇温し、5時間反応させた。反応終了後、オートクレーブを室温まで冷却し、内容物を蒸留装置に移し、減圧下に蒸留を行い、0.07kPa、48℃の留分として、無色透明液状物1306.70gを得た。
得られた液状物の1H−NMRを測定し、目的の2−アセトキシメチル−5−ノルボルネンであることを確認した。また、得られた2−アセトキシメチル−5−ノルボルネンのエキソ異性体とエンド異性体のモル比率はエキソ/エンド=18/82であった。
【0097】
実施例1:(π−アリル){N,N’−(1,3−ジメチル−1,3−プロパンジイル)ビス(2,6−ジイソプロピルベンゼンアミナト−κN)}パラジウム[錯体A−1]の合成
【化15】

三方コックを装備した二口フラスコを窒素置換し、これに2,4−ビス(2,6−ジイソプロピルフェニルイミノ)ペンタン(754mg,1.80mmol)を仕込み、脱水テトラヒドロフラン(和光純薬工業社製,20ml)を加えて溶解した。これを、ドライアイス−エタノール浴に漬けて−78℃に冷却した後、n−ブチルリチウムの1.6mol/lヘキサン溶液(和光純薬工業社製,1.14ml,1.82mmol)を滴下し、滴下終了後、−78℃で30分撹拌した後、徐々に室温に戻した。
別途用意した三方コックを装備した二口フラスコを窒素置換し、これにジ(π−アリル)ジ(μ−クロロ)ジパラジウム(和光純薬工業社製,300mg,0.820mmol)を仕込み、脱水ジクロロメタン(和光純薬工業社製,20ml)を加えて溶解した。
この溶液を氷浴に漬けて0℃に冷却し、これに先に調製したテトラヒドロフラン/ヘキサン混合溶液を5分間かけてゆっくりと滴下し、0℃で30分反応を行った。その後、減圧下に溶媒を完全に留去し、あらためて脱水トルエン(和光純薬工業社製,20ml)を加えて撹拌した後、窒素下に遠心分離を行って、不要な塩を取り除き、上澄みのトルエン溶液を回収した。この溶液を減圧下にて濃縮し、トルエンから再結晶を行って、黄色結晶106mgを得た。得られた結晶の1H−NMR、13C−NMR及びIRスペクトル測定を行い、目的とするパラジウム錯体A−1であることを確認した。1H−NMRスペクトルを図1、13C−NMRスペクトルを図2に示す。
【0098】
実施例2:ノルボルネンと2−アセトキシメチル−5−ノルボルネンの付加共重合
三方コックとメカニカルスターラーを装備した三口フラスコを窒素置換し、それにノルボルネン(東京化成工業社製,4.71g,0.050mol)と合成例1で調製した2−アセトキシメチル−5−ノルボルネン(16.62g,0.100mol)を加え、トルエン75mlで溶解し、さらにN,N−ジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート[(C65)(CH32NH][B(C654](助触媒B−1;東ソー・ファインケム社製,8.0mg,0.010mmol)をジクロロメタン1mlで溶解した溶液を加えた後、80℃まで昇温した。そこへ実施例1で合成し、別容器中で調製したパラジウム錯体A−1(5.7mg,0.010mmol)とトリイソプロピルホスフィン[P(i−C373](配位子C−1;ストレム社製,1.6mg,0.010mmol)をトルエン3.5mlに溶解した触媒溶液を添加し、80℃で30分重合反応を行った。その後、その反応溶液に別途調製したノルボルネン(東京化成工業社製,4.71g,0.050mol)をトルエン5.4mlで溶解した溶液を加え、さらに80℃で30分重合反応を行った。反応終了後、少量の塩酸を添加したメタノール8mlを反応液に加え、反応を停止した後、トルエンで希釈し、さらに多量のメタノール中に注いでポリマーを析出させ、ろ別洗浄後、減圧下に90℃で5時間乾燥して白色粉末状のポリマー1.57gを得た。ポリマー収量と、仕込み触媒量及び反応時間より算出される触媒活性は157g−ポリマー/(mmol−Pd・h)であった。
得られたポリマーはTHFやクロロホルム等の一般溶剤に容易に溶解し、数平均分子量はMn=323,000、分子量分布はMw/Mn=2.14であった。また、1H−NMRの積分値から算出したポリマー中の2−アセトキシメチル−5−ノルボルネンモノマーユニットの組成は14.8mol%であった。1H−NMRスペクトルを図3、IRスペクトルを図4、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)のチャートを図5に示す。
【0099】
比較例1:ノルボルネンと2−アセトキシメチル−5−ノルボルネンの付加共重合(特許文献4の方法による重合)
三方コックを装備した二口フラスコを窒素置換し、それに合成例1で調製した2−アセトキシメチル−5−ノルボルネン(14.13g,0.085mol)を加え、トルエン50mlで溶解した。さらに、ジ(π−アリル)ジ(μ−クロロ)ジパラジウム[[(C35)PdCl]2](錯体A−2;和光純薬工業社製,9mg,0.025mmol)をトルエン1mlに溶解した溶液、トリシクロヘキシルホスフィン[P(C6113](配位子C−2;ストレム社製,14mg,0.050mmol)をトルエン1mlに溶解した溶液、N,N−ジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート[(C65)(CH32NH][B(C654](助触媒B−1;ストレム社製,60mg,0.075mmol)をジクロロメタン1mlに溶解した溶液をそれぞれ順番に加えた後、フラスコをオイルバスに浸し、撹拌しながら90℃まで昇温した。これに別途調製したノルボルネン(東京化成工業社製,8.00g,0.085mol)をトルエン10mlに溶解した溶液を添加することで反応を開始し、90℃で2時間重合反応を行った。反応終了後、反応液を多量のメタノール中に注いでポリマーを析出させ、ろ別洗浄後、減圧下に60℃で5時間乾燥して白色粉末状のポリマー19.4gを得た。ポリマー収量と、仕込み触媒量及び反応時間より算出される触媒活性は194g−ポリマー/(mmol−Pd・h)であった。
得られたポリマーはTHFやクロロホルム等の一般溶剤に容易に溶解し、数平均分子量はMn=58,000、分子量分布はMw/Mn=2.06であった。また、1H−NMRの積分値から算出したポリマー中の2−アセトキシメチル−5−ノルボルネンモノマーユニットの組成は37.3mol%であった。ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)のチャートを図5に示す。
【0100】
比較例2:ノルボルネンと2−アセトキシメチル−5−ノルボルネンの付加共重合(特許文献5の方法による重合)
三方コックを装備した二口フラスコを窒素置換し、それにノルボルネン(11.80g,0.125mol)、合成例1で調製した2−アセトキシメチル−5−ノルボルネン(41.50g,0.250mol)及びトリチルテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート[Ph3C][B(C654](助触媒B−2;東ソー・ファインケム社製、185mg,0.200mmol)を加え、トルエン60mlで溶解した。そこへShawらの合成法(Shaw.B.L.,Proc.Chem.Soc.,1960,247)に従って合成したシクロペンタジエニル(η3−アリル)パラジウム[(C55)Pd(C35)](パラジウム錯体A−3;43mg,0.200mmol)とトリシクロヘキシルホスフィン[P(C6113](配位子C−2;ストレム社製,56mg,0.200mmol)をトルエン15mlに溶解した触媒溶液を添加し、室温で1.5時間重合反応を行った。その後、その反応溶液に、反応性が高く先に消費されるノルボルネンを補充するために別途調製したノルボルネン(東京化成工業社製,11.80g,0.125mol)をトルエン60mlで溶解した溶液を加え、さらに3時間重合反応を行った。反応終了後、反応液を多量のメタノール中に注いでポリマーを析出させ、ろ別洗浄後、減圧下に60℃で5時間乾燥して白色粉末状のポリマー50.0gを得た。ポリマー収量と、仕込み触媒量及び反応時間より算出される触媒活性は56g−ポリマー/(mmol−Pd・h)であった。
得られたポリマーはTHFやクロロホルムなどの一般溶剤に容易に溶解し、数平均分子量はMn=304,000、分子量分布はMw/Mn=1.22であった。また、1H−NMRの積分値から算出したポリマー中の2−アセトキシメチル−5−ノルボルネンモノマーユニットの組成は37.5mol%であった。
【0101】
実施例2及び比較例1〜2について、用いた触媒(主触媒、助触媒、配位子)、仕込みノルボルネン(NB)と2−アセトキシメチル−5−ノルボルネン(ANB)のモル比(NB/ANB)、付加共重合で得られた共重合体の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)、共重合体中のNBとANBのモル比(NB/ANB)をまとめて表1に示す。表1中の各記号の意味は以下の通りである。
主触媒:
A−1:(π−アリル){N,N’−(1,3−ジメチル−1,3−プロパンジイル)ビス(2,6−ジイソプロピルベンゼンアミナト−κN)}パラジウム、
A−2:[(C35)PdCl]2
A−3:(C55)Pd(C35)、
助触媒:
B−1:[(C65)NH(CH32][B(C654]、
B−2:[(C653C][B(C654]、
配位子:
C−1:P(iPr)3
C−2:P(C6113
比較例1は重合温度の違いを考慮しても触媒活性は比較的高いが、分子量が低く実用的な強度が得られない。比較例2は分子量は比較的高いが、触媒活性が低く、実用的ではない。
【0102】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明の製造方法により得られる高分子量のノルボルネン系共重合体は優れた透明性、耐熱性、低吸水性、電気絶縁特性等を有することにより、レンズや偏光フィルムなどの光学用成形品、フィルム、キャリアテープ、フィルムコンデンサー、フレキシブルプリント基板などの電気絶縁材料、プレススルーパッケージ、輸液バック、薬液バイアルなどの医療用容器、ラップやトレイなどの食品包装成形品、電気器具などのケーシング、インナーパネルなどの自動車内装部品、カーポートやグレージングなどの建材などに利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】

(式中、R1、R2及びR3はそれぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜20の炭化水素基を表し、R4及びR5はそれぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜20の炭化水素基を表し、R6、R7、R8、R9及びR10はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子または炭素数1〜10の炭化水素基を表し、R6、R7、R8、R9及びR10は互いに結合して環構造を形成していてもよい。)で示されるパラジウム錯体(A)を含有することを特徴とするノルボルネン系モノマーの重合用触媒。
【請求項2】
一般式(1)中のR1、R2及びR3が水素原子または炭素数1〜6のアルキル基であり、R4及びR5が炭素数6〜20のアリール基であり、R6、R7、R8、R9及びR10がいずれも水素原子である請求項1に記載のノルボルネン系モノマーの重合用触媒。
【請求項3】
一般式(1)中のR1及びR3がメチル基であり、R2が水素原子であり、R4及びR5が2,6−ジイソプロピルフェニル基であり、R6、R7、R8、R9及びR10がいずれも水素原子である、式(2)
【化2】

で示される請求項1または2に記載のノルボルネン系モノマーの重合用触媒。
【請求項4】
パラジウム錯体(A)と反応してカチオン性パラジウム化合物を生成できるイオン性化合物である助触媒(B)、及びホスフィン系配位子(C)を含有する請求項1〜3のいずれかに記載のノルボルネン系モノマーの重合用触媒。
【請求項5】
助触媒(B)が、N,N−ジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートである請求項4に記載のノルボルネン系モノマーの重合用触媒。
【請求項6】
ホスフィン系配位子(C)がトリイソプロピルホスフィンである請求項4または5に記載のノルボルネン系モノマーの重合用触媒。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の重合用触媒の存在下に、ノルボルネン系モノマーを単独重合または共重合することを特徴とするノルボルネン系(共)重合体の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載の重合用触媒の存在下に、一般式(3)
【化3】

及び一般式(4)
【化4】

(式中、R11は炭素数1〜10のアルキル基を表し、R12、R13、及びR14はそれぞれ独立して水素原子または炭素数1〜10のアルキル基を表す。)
で示されるモノマーユニットに対応するノルボルネン系モノマーを重合することを特徴とする、一般式(3)及び一般式(4)で示されるモノマーユニットを含むノルボルネン系共重合体の製造方法。
【請求項9】
一般式(3)及び一般式(4)で示されるモノマーユニットのみからなる請求項8に記載のノルボルネン系共重合体の製造方法。
【請求項10】
11がメチル基であり、R12、R13及びR14が水素原子である請求項8または9に記載のノルボルネン系共重合体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−153777(P2012−153777A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−12920(P2011−12920)
【出願日】平成23年1月25日(2011.1.25)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】