説明

ノルボルネン系重合体水素化物の製造法

【課題】 生産設備の金属部分を腐食させることなく、重合体溶液の温度を高温で運転するプロセスを可能にし、安全かつ高い生産性を実現できるノルボルネン系重合体水素化物の製法を提供する。
【解決手段】 ノルボルネン系単量体を重合触媒存在下に重合してノルボルネン系重合体を得、次いで当該ノルボルネン系重合体に不均一触媒を添加して、前記ノルボルネン系重合体を水素化した後、水素化反応液から不均一触媒を除去する工程を含むノルボルネン系重合体水素化物の製造方法において、不均一触媒を除去する時の水素化反応液中の水分量が100ppm以下であることを特徴とする、ノルボルネン系重合体水素化物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はノルボルネン系重合体水素化物の製造法に関する。詳しくは、生産設備の金属部分を腐食させることなく、重合体溶液の温度を高温で運転するプロセスを可能にし、安全かつ高い生産性を実現できるノルボルネン系重合体水素化物の製法に関する。
【背景技術】
【0002】
ノルボルネン、テトラシクロドデセン、そのアルキル置換体、エステル型置換体などに代表されるノルボルネン骨格を有する単量体(ノルボルネン系単量体)を重合し、水素化してなる重合体水素化物は、透明性、耐熱性、低吸湿性等に優れており、光学材料等様々な分野に使用されている。
【0003】
ノルボルネン系重合体水素化物は、一般に、遷移金属ハロゲン化物と有機金属化合物から成るメタセシス重合触媒又は付加重合触媒を用いてノルボルネン系単量体を開環重合又は付加重合し、重合体溶液に失活剤を加えて重合触媒を失活させた後、重合体を水素化触媒の存在下に水素と接触させることで得る。
重合触媒にハロゲンが含まれている場合、残留ハロゲンが、水素化工程で還元され、ハロゲンか水素を発生させる。これを防止するため、特許文献1は、水素化反応時に酸捕捉化合物を存在させることを提案している。
【0004】
【特許文献1】特許3259476号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ノルボルネン系重合体水素化物の製造に際しては、通常、水素化反応後に、使用済みの水素化触媒を除去する工程がある。水素化触媒を除去する方法としては、水素化反応液を濾過する方法が採用されている。近年、濾過速度を上げて水素化反応液の粘度を下げ、生産性向上のため、水素化反応液を加温することが検討されている。
また、水素化触媒としては、均一触媒と不均一触媒とがあり、重合体溶液に溶解しない触媒を用いる不均一触媒は、通常、担体に金属が担持してなる。そしてこのような不均一触媒中の金属は操作性の観点、安全性の観点から、表面が酸化処理されている。
本発明者らは、特許文献1に従って、不均一触媒を用いた水素化反応の際に酸捕捉化合物を加えてノルボルネン系重合体水素化物を製造し、加温した水素化反応液を金属製のフィルタで濾過して不均一触媒を除去した。その結果、濾過を繰り返すうちに、次第にフィルタが腐食することが判った。
【0006】
本発明の目的は、生産設備の金属部分を腐食させることなく、重合体溶液の温度を高温で運転するプロセスを可能にし、安全かつ高い生産性を実現できるノルボルネン系重合体水素化物の製法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが検討した結果、濾過時に水素化反応液が加温されている場合に、金属製フィルタの腐食が促進されていることが判明した。そして、本発明者らの更なる検討の結果、不均一触媒の表面に形成された金属酸化物層が水素化段階で還元されて発生する水が、濾過前の水素化反応液中に残存していることが、金属腐食の原因であることをつきとめた。
フィルタが金属製でない場合でも、生産工程で使われる配管が金属である場合に、これらの金属を腐食することになるため、金属製フィルタを用いていない生産工程でも、反応液中の水の残留は問題となる。
そこで前記目的を達成するために検討した結果、ノルボルネン系重合体水素化物を含む溶液の水分量を100ppm以下にすることにより、重合体溶液を高温で取り扱っても金属製フィルタの腐食が抑えられることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成するに至ったものである。
【0008】
かくして本発明によれば、
(1)ノルボルネン系単量体を重合触媒存在下に重合してノルボルネン系重合体を得、次いで当該ノルボルネン系重合体に不均一触媒を添加して、前記ノルボルネン系重合体を水素化した後、水素化反応液から不均一触媒を除去する工程を含むノルボルネン系重合体水素化物の製造方法において、不均一触媒を除去する時の水素化反応液中の水分量が100ppm以下であることを特徴とする、ノルボルネン系重合体水素化物の製造方法
が提供される。
【0009】
また、本発明によれば、
(2)ノルボルネン系重合体に配合する時の不均一触媒が、還元処理されたものである前記(1)記載のノルボルネン系重合体水素化物の製造方法、
(3)不均一触媒除去前に、水素化反応液をフラッシングして水素化反応液中の水分を除去する工程を有する前記(1)又は(2)記載のノルボルネン系重合体水素化物の製造方法、
(4)前記重合触媒が、ハロゲン原子を有するものである前記(1)記載のノルボルネン系重合体水素化物の製造方法
が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のノルボルネン系重合体は、ノルボルネン骨格を有する単量体(ノルボルネン系単量体)を重合して得られるものであり、具体的には
(A)ノルボルネン系単量体の開環重合体、及びノルボルネン系単量体と、ノルボルネン系単量体と共重合可能な他の単量体との開環共重合体(以下、これらをまとめて「ノルボルネン系開環重合体」ということがある)、並びに
(B)ノルボルネン系単量体を付加型重合させた樹脂、及びノルボルネン系単量体と、ノルボルネン系単量体と共重合可能な他の単量体の付加共重合体(以下、これらをまとめて「ノルボルネン系付加重合体」ということがある)である。
【0011】
(A)ノルボルネン系開環重合体
ノルボルネン系開環重合体を与えるノルボルネン系単量体としては、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン(慣用名:ノルボルネン)及びその誘導体(環に置換基を有するもの)、トリシクロ[4.3.01,6.12,5]デカ−3,7−ジエン(慣用名ジシクロペンタジエン)及びその誘導体、7,8−ベンゾトリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン(慣用名メタノテトラヒドロフルオレン:1,4−メタノ−1,4,4a,9a−テトラヒドロフルオレンともいう)及びその誘導体、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン(慣用名:テトラシクロドデセン)及びその誘導体、などが挙げられる。
【0012】
置換基としては、アルキル基、アルキレン基、ビニル基、アルコキシカルボニル基、アルキリデン基などが例示でき、上記ノルボルネン系モノマーは、これらを2種以上有していてもよい。具体的には、8−メトキシカルボニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−メチル−8−メトキシカルボニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−エチリデン−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エンなどが挙げられる。
これらのノルボルネン系モノマーは、それぞれ単独であるいは2種以上を組み合わせて用い
られる。
これらのノルボルネン系単量体と共重合可能な他の単量体はそれぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0013】
ノルボルネン系単量体、又はノルボルネン系単量体と共重合可能な単量体との開環重合は、重合触媒存在下で進行する。重合触媒としては、通常少なくともメタセシス触媒が用いられ、必要に応じて助触媒を併用することができる。
【0014】
用いるメタセシス触媒としては、ノルボルネン系単量体を開環重合することができるものであれば良く、特に限定されないが、ハロゲン原子を有するものが、本発明において著効を示す。メタセシス触媒は遷移金属原子を中心原子として、複数のイオン、原子、多原子イオン及び/又は化合物が結合してなる錯体である。
【0015】
遷移金属原子としては、4族、5族、6族及び8族(長周期型周期表、以下にて同じ)の原子が使用される。それぞれの族の原子は特に限定されないが、4族の原子としては例えばチタンが挙げられ、5族の原子としては例えばタンタルが挙げられ、6族の原子としては、例えばモリブデンやタングステンが挙げられ、8族の原子としては、例えばルテニウムやオスミウムが挙げられる。
【0016】
6族のタングステンやモリブデンを中心原子とするメタセシス触媒としては、六塩化タングステンなどの金属ハロゲン化物;タングステン塩素酸化物などの金属オキシハロゲン化物;酸化タングステンなどの金属酸化物;及びトリドデシルアンモニウムモリブデートやトリ(トリデシル)アンモニウムモリブデートなどの有機金属酸アンモニウム塩などを用いることができる。
【0017】
またメタセシス触媒として、4族、5族、6族及び8族の金属原子を中心原子とする金属カルベン錯体を用いることもできる。金属カルベン錯体は、中心金属原子にカルベン化合物が結合し、金属原子(M)とカルベン炭素が直接に結合した構造(M=C)を錯体中に有するものである。カルベン化合物とは、カルベン炭素すなわちメチレン遊離基を有する化合物の総称である。ルテニウムカルベン錯体の中で、少なくとも2つのカルベン炭素がルテニウム金属原子に結合しており、該カルベン炭素のうち少なくとも一つには、N、O、P、Sなどのヘテロ原子を含む基が結合しているルテニウムカルベン錯体が特に好ましい。
【0018】
ルテニウムカルベン錯体としては、例えば、ベンジリデン(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)(3−メチル−2−ブテン−1−イリデン)(トリシクロペンチルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)ピリジンルテニウムジクロリドなどのヘテロ原子含有カルベン化合物と中性の電子供与性化合物が結合したルテニウムカルベン錯体;ベンジリデンビス(1,3−ジシクロヘキシルイミダゾリジン−2−イリデン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデンビス(1,3−ジイソプロピル−4−イミダゾリン−2−イリデン)ルテニウムジクロリドなどの2つのヘテロ原子含有カルベン化合物が結合したルテニウムカルベン錯体;などが挙げられる。
【0019】
メタセシス触媒の使用量は、重合条件により適宜選択されるが、全単量体に対するモル比で、通常1/10〜1/1,000,000、好ましくは1/100〜1/500,000、さらに好ましくは1/1,000〜1/200,000の範囲である。
【0020】
また、メタセシス重合を行う際は、重合活性を制御する目的で、上記メタセシス触媒とともに、助触媒を用いることができる。用いる助触媒としては、例えば、有機アルミニウム化合物や有機スズ化合物などが挙げられ、好ましくは有機アルミニウム化合物である。
【0021】
有機アルミニウム化合物としては、具体的には、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリプロピルアルミニウム、トリブチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウムなどのトリアルキルアルミニウムや、ジエチルアルミニウムクロライド、エチルアルミニウムジクロライドなどのアルキルハライドアルミニウムなどが挙げられるが、好ましくはトリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロライドである。
これらの助触媒はそれぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることが出来る。
【0022】
助触媒の使用量は、メタセシス触媒1モル当たり、通常0.01〜30モル、好ましくは0.1〜20モル、さらに好ましくは1〜10モルであるときに、ゲルや高分子量成分の発生が少なく、かつ、重合活性が高く分子量の制御が行いやすくなり好ましい。上記メタセシス触媒と助触媒の組み合わせでは、タングステン系化合物と有機アルミニウム化合物の組み合わせが特に好ましい。
【0023】
重合反応は、通常、溶剤中で行う。用いる溶剤としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;シクロヘキサン、シクロオクタンなどの脂肪族環状炭化水素;ペンタン、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族鎖状炭化水素;であり、好ましくはトルエン、シクロヘキサンである。これらの溶剤はそれぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。溶剤の使用量は、単量体100重量部当たり、通常10〜1000重量部、好ましくは50〜700重量部、より好ましくは100〜500重量部の範囲である。
【0024】
重合温度は、通常0〜150℃、好ましくは10〜100℃、より好ましくは20〜80℃の範囲である。この範囲であるときに低分子量成分の生成とゲルや高分子量成分の生成の防止をバランス良く行うことができる。重合時間は、通常30分から10時間、好ましくは1〜7時間、より好ましくは2〜5時間の範囲である。
重合反応終了後においては、反応混合物から、常法に従い、ノルボルネン系開環重合体を単離することができる。
【0025】
(B)ノルボルネン系付加重合体
ノルボルネン系付加重合体の製造に用いるノルボルネン系単量体としては、前記(A)のノルボルネン系開環重合体の項で列記したノルボルネン系単量体と同様のものなどが挙げられる。
【0026】
ノルボルネン系単量体と付加共重合可能なその他の単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、3−エチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ペンテン、4−エチル−1−ヘキセン、3−エチル−1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセンなどの炭素数2〜20のエチレン又はα−オレフィン;シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、3,4−ジメチルシクロペンテン、3−メチルシクロヘキセン、2−(2−メチルブチル)−1−シクロヘキセン、シクロオクテン、3a,5,6,7a−テトラヒドロ−4,7−メタノ−1H−インデンなどのシクロレフィン;1,4−ヘキサジエン、4−メチル−1,4−ヘキサジエン、5−メチル−1,4−ヘキサジエン、1,7−オクタジエンなどの非共役ジエン;などが挙げられる。これらのノルボルネン系単量体及びノルボルネン系単量体と付加共重合可能なその他の単量体は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0027】
ノルボルネン系付加重合体は、上記ノルボルネン系単量体の一種以上を、又はノルボルネン系単量体とその他の付加共重合可能な単量体とを、前述したような炭化水素系溶媒中、付加重合触媒の存在下で重合して得ることができる。
【0028】
付加重合触媒としては、従来公知のものを使用すればよい。例えば特開昭60−168708号公報、特開昭61−120816号公報、特開平2−173112号公報、特開平5−9223号公報などで開示されているものが使用できる。具体的にはチーグラー触媒やメタロセン触媒などが挙げられる。
【0029】
チーグラー触媒としては、バナジウム系化合物と有機アルミニウム化合物のような還元剤とよりなる触媒が挙げられる。具体的には可溶性のバナジウム化合物、及び有機アルミニウム化合物から形成される触媒を用いて製造する。バナジウム化合物の具体例として、VOCl、VO(OC)Cl、VO(OCCl、VO(O−i−C)Cl、VO(O−n−C)Cl,VO(OC、VOBr、VCl、VOCl、及びVO(O−n−Cなどが挙げられる。これらのバナジウム化合物は単独で、あるいは二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0030】
メタロセン触媒は、通常、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、及びタンタルなどのメタロセン(遷移金属成分)、及び有機アルミニウム化合物から形成される触媒を用いて調製することができる。
メタロセンの具体例しては、rac−ジメチルシリル−ビス(1−インデニル)ジルコニウムジクロリド、rac−フェニルメチルシリル−ビス(1−インデニル)ジルコニウムジクロリド、rac−ジフェニルシリル−ビス(1−インデニル)ハフニウムジクロリド、rac−フェニルメチルシリル−ビス(1−インデニル)ハフニウムジクロリド、イソプロピレン(9−フルオレニル)シクロペンタジエニルジルコニウムジクロリドなどが挙げられる。これらのメタロセンは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0031】
チーグラー触媒又はメタロセン触媒に用いられる有機アルミニウム化合物としては、トリアルキルアルミニウム、ジアルキルアルミニウムアルコキシド、アルキルアルミニウムセスキアルコキシド、部分的にアルコキシ化されたアルキルアルミニウム、ジアルキルアルミニウムハライド、アルキルアルミニウムセスキハライド、アルキルアルミニウムジハライドのように部分的に水素化されたアルキルアルミニウムならびに部分的にアルコキシ化及びハロゲン化されたアルキルアルミニウムなどが挙げられる。これらの中では、特にアルキルアルミニウムハライド、アルキルアルミニウムジハライド、アルキルアルミニウム又はこれらの混合物(アルミノキサン)を用いるのが好ましい。これらの有機アルミニウム化合物はそれぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0032】
付加重合反応は、通常、メタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール化合物を重合反応系内に添加することにより、停止させることができる。反応停止を実行するには、重合反応に使用したノルボルネン系単量体が付加重合体へ転化した割合を転化率と定義した場合に、転化率が通常90%以下、好ましくは85%以下、より好ましくは80%以下の時点で行うことが望ましい。
【0033】
また、上述したノルボルネン系開環重合体及びノルボルネン系付加重合体を得るに際して、重合触媒にハロゲンを含有するものを用いる場合は、前記特許文献1にも記載されているハイドロタルサイト(MgAl(OH)16CO・4HO)などの酸捕捉剤を用いるのが好ましい。酸捕捉剤の量は、用いた重合触媒の加水分解により発生しうるハロゲン化水素の最大量、すなわち化学量論量に対し0.5当量以上、好ましくは1〜100当量、さらに好ましくは2〜10当量である。
なお、後述する水素化触媒がハロゲンを含有している場合は、水素化触媒から発生しうるハロゲン化水素の最大量に対し0.5当量以上、好ましくは1〜100当量、さらに好ましくは2〜10当量をさらに添加すると良い。
酸捕捉剤の添加は、−50℃〜100℃の任意の温度、好ましくは0℃〜80℃、0〜50kg/cmの任意の圧力、通常は常圧〜10kg/cm、好ましくは常圧〜5kg/cmで行う。引き続く重合触媒不活性化剤の添加及び反応は前述と同様である。
【0034】
水素化工程
本発明においては、ノルボルネン系開環重合体又はノルボルネン系付加重合体を、その分子中のオレフィン系不飽和基(主鎖の二重結合及び不飽和環の二重結合など)の一部又は全部を飽和させることにより、ノルボルネン系開環重合体の水素化物又はノルボルネン系付加重合体の水素化物とする。水素化物とすることで、ノルボルネン系重合体の耐熱劣化性、耐光劣化性をさらに改善することができる。
【0035】
(水素化触媒)
本発明では、水素化触媒として、不均一触媒を用いる。不均一触媒は、担体に金属が担持されたものである。不均一触媒としては、ニッケル、パラジウム、白金、ルテニウム、ジルコニウム又はこれらの金属を用いてカーボン、シリカ、ケイソウ土、アルミナ、酸化チタン、マグネシア、合成ゼオライトなどの担体に担持させた固体触媒が一般的で、例えば、ニッケル/シリカ、ニッケル/ケイソウ土、ニッケル/アルミナ、パラジウム/カーボン、パラジウム/シリカ、パラジウム/ケイソウ土、パラジウム/アルミナなどが挙げられる。
不均一触媒は、高活性を維持して短時間で目的とする水素化を行うことができるが、触媒除去が容易であるとともに、重合触媒残査を吸着することができるので、その結果、不純物の少ないノルボルネン系重合体を得ることができる。
【0036】
不均一触媒は、通常、担体に付着させた金属酸化物を還元して活性を持たせた後、金属表面に酸化皮膜を形成し、安定化させて使用している。しかし、酸化皮膜を有する不均一触媒を水素化反応に使用すると、反応条件下で水素により酸化皮膜が還元され、発生した水が反応溶液中に混入する。上述した通り、この水が、金属製フィルタを腐食させる。そこで、この水を低減するため、不均一触媒を水素化反応に供する前に還元処理して、不均一触媒から発生する水分を除去した後、使用する方法が挙げられる。還元処理した触媒は、窒素ガスやアルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気下、乾燥状態で保管すればよい。触媒活性維持の観点から、還元処理後通常150時間以内、好ましくは100時間以内に使用する。
【0037】
還元反応は、常法に従って行うことができる。反応器内に不均一系水素化触媒を入れ、必要に応じて溶媒の存在下で加温しながら水素を供給することで反応を行う。
反応温度は、通常50〜300℃以下、好ましくは100〜250℃以下で行われる。反応温度が低いと還元が不十分で酸化皮膜が残留し、ノルボルネン系重合体の水素化反応時に発生する水の量が増える。
水素圧は、通常、0.01〜10MPa、好ましくは0.00〜6MPa、さらに好ましくは0.1〜5MPaとする。水素圧が低いと還元が不十分で酸化皮膜が残留し、ノルボルネン系重合体の水素化反応時に発生する水の量が増える。
還元反応後の不均一水素化触媒は、溶媒を使用した場合は溶媒を除去し、不活性ガスの存在下での減圧乾燥、又は高温不活性ガスの流通など、公知の乾燥方法にて水分の除去を行う。
【0038】
(水素化反応)
水素化触媒の使用量は、ノルボルネン系重合体100重量部あたり、通常0.01〜100重量部、好ましくは0.1〜50重量部、より好ましくは1〜30重量部の範囲である。水素化反応は、通常0.1〜20MPaの水素圧下、0〜250℃の温度範囲、1〜20時間の反応時間で行われる。水素化反応は、1〜200気圧の水素圧下、0〜250℃で、用いる水素化触媒に適した条件下で行う。
【0039】
(脱気)
水素化反応終了後、水素化触媒の除去工程に移る前に反応器内に残留している未反応の水素を脱気させる。方法は特に限定されないが、反応溶液を溶媒の沸点以下に冷却後、徐々に排気する方法、反応溶液を溶剤の沸点以上の温度で常温常圧の反応器に移送し、ガス化した溶剤と一緒に水素を排気させる方法が挙げられる。後者では、反応溶液内に含まれる水分も同時に共沸して除去することができるので好ましい。
【0040】
脱気後、水素化反応液をフラッシングすることによっても、当該反応液中の水分を除去することができる。フラッシングの方法としては、水素化反応液をフラッシング用の容器に配管を通して移送する際、配管から容器に水素化反応液が開放された瞬間に水素化反応液中の溶媒を気化させる方法;配管の先端に微細な孔のあるノズルを配置し、ここからフラッシング用の容器へ水素化反応液を注入する方法;などが挙げられる。容器内の温度に格別な制限はなく、水素化反応液の温度が高ければ(特に水素化反応用の溶媒の沸点以上であれば)容器内の温度は室温でも良く、水素化反応液の温度が低ければ、容器を加温すればよいが、反応液を構成する溶媒の揮発が激しいと水素化触媒の除去効率が低下するので、容器を加温する場合、当該溶媒の沸点以下であるのが好ましい。また、容器内は、常圧でも減圧されていても良い。
【0041】
(水素化触媒の除去)
脱気後、必要に応じてフラッシング工程を経た水素化反応液から、水素化触媒を除去する方法は、常法でよく、格別な制限はない。例えば、濾過、又は遠心分離によって水素化反応後の溶液中から除去することができる。
【0042】
濾過は、適当なフィルタを用い、好ましくは加圧又は減圧により、反応液の入る側と出る側との間に差圧をつけることにより行う。
フィルタとしては、紙製フィルタ、合成樹脂製フィルタ、繊維(布)製フィルタ、金属製フィルタなどが挙げられるが、強度と耐熱性、繰り返し使用が可能な点で金属製フィルタが好ましい。
金属製フィルタの材質は耐食性の優れたステンレス材が好ましい。ステンレス材としては、マルテンサイト系ステンレス、フェライト系ステンレス、オーステナイト系ステンレス、析出硬化系ステンレスが挙げられる。金属製フィルタは一般に金属製の鋼線で編みこまれた網目状になっており、残留応力が残りやすく、また濾過時にも応力を受けやすいことから、腐食を受けやすい。そのため、材質は特に耐食性の強いオーステナイト系ステンレスが好ましい。
【0043】
差圧をつける方法としては、イン側(水素化反応液側)を加圧する方法とアウト側(濾液側)を減圧する方法、又はこれらの組み合わせが考えられるが、構造上簡単であることからイン側を加圧する方法が好ましい。
加圧する方法としては、反応液自体にポンプ等で加圧して送液してフィルタを通す方法、反応液を加圧容器に入れて、圧縮空気又は圧縮窒素等の加圧用の気体により加圧する方法などがある。加圧する圧力は、特に限定されないが、濾過の効率と装置の簡易さから、通常0.01〜10MPa、好ましくは0.02〜8MPa、特に好ましくは0.05〜5MPaである。濾過に際して濾別すべき水素化触媒がフィルタの目詰まりを起こしやすいものであるときには、フィルタのイン側に予め濾過助剤を推積しておくことも好ましい。
濾過助剤としては、けいそう土、シリカ、合成ゼオライト、パーライト、ラジオライトなどの不活性で溶剤に溶けない粉状物が適している。
【0044】
遠心分離は、例えばいわゆる固液分離用の遠心分離機を用いて、好ましくは反応液を連続フィードして行う。その条件は、例えば1000〜9000Gで、0.01〜0.2時間程度行うことにより水素化触媒を分離して回収することができる。
【0045】
水素化触媒を水素化反応溶液から除去する際には、溶液の粘度を下げ、除去速度を上げるためには、水素化反応溶液の温度を高くすることが好ましい。通常20〜180℃、好ましくは40〜160℃、更に好ましくは80℃〜150℃である。
【0046】
(乾燥)
水素化触媒を除去したノルボルネン系重合体を含む溶液から、定法により未反応の単量体と炭化水素系溶媒を除去して、本発明のノルボルネン系重合体を単離することができる。
【0047】
未反応の単量体や炭化水素系溶媒の除去方法としては、貧溶媒との混合により、樹脂成分を析出させることにより凝固を行う凝固法や直接乾燥法などがあるが、直接乾燥法が貧溶媒などの揮発性成分の新たな添加を必要とせず、揮発成分の絶対量自体を最小限に行うことができるので上記のように、故意に途中で重合反応を停止させ、未反応の単量体を残留させる場合には、その分離が容易であり好適である。
【0048】
直接乾燥法は、通常減圧条件下、生産性の観点から好ましくは加熱を伴う減圧条件下に付加重合体を含有する重合反応液を置くことにより重合体成分以外の未反応の単量体を含む揮発性成分を揮発除去させて付加重合体と分離し、揮発除去された揮発性成分を改めてコンデンサーなどの装置により凝縮し、その後に必要に応じて蒸留などの工程を経由してそれぞれ回収することにより行われる。直接乾燥法には、遠心薄膜連続蒸発乾燥機、界面熱交換型連続反応器型乾燥機、高粘度リアクタ装置など公知の装置を用いて行うことができる。
水添触媒分離後のノルボルネン系重合体水素化物を含む溶液を乾燥する設備及びそれに付帯する配管の材質も、上述同様、耐食性の優れたステンレス材が好ましい。
【0049】
本発明のノルボルネン系重合体水素化物は、必要に応じて各種配合剤を配合して樹脂組成物とした後、各種成形体に成形して使用することもできる。配合剤としては、格別限定はないが、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、近赤外線吸収剤等の安定剤;滑剤、可塑剤等の樹脂改質剤;染料や顔料等の着色剤;帯電防止剤等が挙げられる。これらの配合剤は、単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができ、その配合量は本発明の目的を損ねない範囲で適宜選択される。
【0050】
ノルボルネン系重合体水素化物と上記配合剤とは、定法により混合すれば良く、例えば、配合剤を適当な溶剤に溶解してノルボルネン系重合体水素化物の溶液に添加し、必要に応じて溶剤を除去する方法;ミキサー、二軸混錬機、ロール、ブラベンダー、押出機等でノルボルネン系重合体水素化物を溶融状態にして配合剤を混練する方法;等が挙げられる。
こうして得られる樹脂組成物は、各種成形体に成形して各種用途に使用することができる。成形方法としては格別な限定はないが、低複屈折性、機械強度、寸法精度等に優れた成形物を得るためには、溶融成形法を用いるのが好ましい。溶融成形法としては、射出成形法、射出圧縮成形法、押出し成形法、押出し延伸成形法、多層押出し成形法、プレス成形法、ブロー成形法、射出ブロー成形法、インフレーション成形法等が挙げられるが、低複屈折性、寸法安定性等の観点から、射出成形法及び押出し成形法が好ましい。
成形体の形状は特に限定されず、球状、棒状、板状、円柱状、筒状、レンズ状、フィルム又はシート形状等種々の形状とすることができる。
【実施例】
【0051】
以下に、参考例、実施例、比較例を挙げて、本発明を具体的に説明する。なお、各種物性の測定法は次のとおりである。
(1)水素化率は、H−NMRにより測定した。
(2)重量平均分子量は、テトラヒドロフランを溶媒とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算値、又は、シクロヘキサンを溶媒とするGPCによるポリイソプレン換算値として測定した。
(3)水分量の測定:水素化反応液に、含水量が既知である、脱水処理されたアセトンを等量加え、重合体水素化物を凝固させた。固形分を除去した後、溶液分の水分量を、カール・フィッシャー測定装置を用いて測定した。測定値とアセトンの含水量から水素化反応液中の水分量を算出した。
【0052】
[参考例1](重合)
窒素雰囲気下で、トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン(DCP)8.5重量部及びテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン(TCD)1.5重量部をシクロヘキサン300重量部に溶解し、分子量調節剤として1−ヘキセン0.35重量部を添加した。
この溶液にトリイソブチルアルミニウムの10重量%シクロヘキサン溶液1.5重量部、及び、イソブチルアルコール0.055重量部の混合物を添加した。
この溶液を40℃に保ちながら、DCP76.5重量部とTCD13.5重量部の混合物と六塩化タングステンの0.6重量%シクロヘキサン溶液15重量部を2時間かけて連続的に添加し、重合した。重合液にブチレンオキサイド0.048重量部とイソプロピルアルコール0.26重量部を加えて重合触媒を不活性化した。
重合転化率は100%であり、GPC(シクロヘキサン溶媒)で測定した重合体の重量平均分子量は16,000であった。
【0053】
[参考例2](水添触媒の還元)
珪藻土担持ニッケル触媒(日産ガードラー社製;製品名「G−96D」、ニッケル担持率58重量%)10重量部をシクロヘキサン30重量部に加え、耐圧反応器中で、150℃、水素圧1.0MPaで30分還元反応を行った。窒素雰囲気下で濾過によりシクロヘキサンを除去した後、120℃で1時間減圧乾燥を行い、還元処理された珪藻土担持ニッケル触媒10重量部を得た。
【0054】
実施例1
参考例1で得た重合液100重量部に、ハイドロタルサイト粉末(協和化学工業社製、合成ハイドロタルサイト)0.24重量部及び参考例2で得た還元処理された珪藻土担持ニッケル触媒1.2重量部及びシクロヘキサン10重量部を加え、耐圧反応器中で、170℃、水素圧4.5MPaで2時間、水素化反応させた。耐圧反応器を40℃まで冷却後、未反応の水素を排気し、水素化反応液105重量部を得た。得られた水素化反応液の水分量は7ppmであった。
この水素化反応液を加熱して120℃とした後、濾過助剤としてラジオライト#500 1重量部全面に配したSUS304製金網を備えた加圧濾過器(石川島播磨重工社製;製品名「リーフフィルター」)を使用して濾過し、触媒を分離した。
得られた水素化物の重量平均分子量は、35,000(シクロヘキサン中、ポリイソプレン換算)、ガラス転移温度は150℃、透過率は98%であり、H−NMRの結果、ノルボルネン系単量体の開環重合体の水素化物であり、水素化率は99.9%以上であることが確認された。
上記の水素化反応及び濾過操作を繰り返し50回実施した後、リーフフィルターの表面を目視で観察したが、割れ・破断等の外観の異常はなかった。
【0055】
実施例2
予備還元処理をしていない珪藻土担持ニッケル触媒を用いる以外は、実施例1と同様の操作で水素化反応を行った。水素化反応後の耐圧反応器を120℃まで冷却後、配管を通じて、排気ラインを有する常温・常圧の耐圧容器中に移送した。このとき、水素化反応液には多くのシクロヘキサンが含まれており、液温がシクロヘキサンの沸点(80.74℃)を超えるため、配管から耐圧容器に移動する瞬間に水素化反応液が耐圧容器内にフラッシングされた。フラッシングにより耐圧容器中で気化したガス分は排気ラインから除去され、耐圧容器内には、水分が除去された水素化反応液90重量部が貯められた。貯められた水素化反応液を、室温まで冷却した。得られた水素化反応液の水分量は65ppmであった。
この水素化反応液について、実施例1と同様にして水素化触媒を分離除去した。
得られた水素化物の重量平均分子量は、35,000(シクロヘキサン中、ポリイソプレン換算)、ガラス転移温度は150℃、透過率は98%であり、H−NMRの結果、ノルボルネン系単量体の開環重合体の水素化物であり、水素化率は99.9%以上であることが確認された。
上記の水添及び濾過操作を繰り返し50回実施した後、リーフフィルターの表面を目視で観察したが、割れ・破断等の外観の異常はなかった。
【0056】
比較例1
珪藻土担持ニッケル触媒(日産ガードラー社製;製品名「G−96D」、ニッケル担持率58重量%)を、還元せずにそのまま用いる以外は実施例1と同様の操作で水素化反応を行った。得られた水素化反応液の水分量は110ppmであった。
この水素化反応液について、実施例1と同様にして水素化触媒を分離除去した。
得られた水素化物の重量平均分子量は、35,000(シクロヘキサン中、ポリイソプレン換算)、ガラス転移温度は150℃、透過率は98%であり、H−NMRの結果、ノルボルネン系単量体の開環重合体の水素化物であり、水素化率は99.9%以上であることが確認された。
上記の水添及び濾過操作を繰り返し50回実施した後、リーフフィルターの表面を目視で観察したところ、金網の亀裂が3箇所で観察された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノルボルネン系単量体を重合触媒存在下に重合してノルボルネン系重合体を得、次いで当該ノルボルネン系重合体に不均一触媒を添加して、前記ノルボルネン系重合体を水素化した後、得られた水素化反応液から前記不均一触媒を除去する工程を含むノルボルネン系重合体水素化物の製造方法において、不均一触媒を除去する時の水素化反応液中の水分量が100ppm以下であることを特徴とする、ノルボルネン系重合体水素化物の製造方法。
【請求項2】
ノルボルネン系重合体に配合する時の不均一触媒が、還元処理されたものである請求項1記載のノルボルネン系重合体水素化物の製造方法。
【請求項3】
不均一触媒除去前に、水素化反応液をフラッシングして水素化反応液中の水分を除去する工程を有する請求項1又は2記載のノルボルネン系重合体水素化物の製造方法。
【請求項4】
前記重合触媒が、ハロゲン原子を有するものである請求項1記載のノルボルネン系重合体水素化物の製造方法。

【公開番号】特開2007−238677(P2007−238677A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−60084(P2006−60084)
【出願日】平成18年3月6日(2006.3.6)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】