説明

ノルボルネン誘導体の製造方法

【課題】 特定のノルボルネン誘導体を製造するに際して、このノルボルネン誘導体を効率よく高純度で製造する方法を提供することを課題とする。
【解決手段】 ジシクロペンタジエンを熱分解反応させてシクロペンタジエンを生成させ、得られたシクロペンタジエンとメチルメタクリレート等の化合物とを連続的に接触させ、ディールスアルダー反応を行うことを特徴とする、ノルボルネン誘導体の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定のノルボルネン誘導体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ノルボルネン誘導体は、付加重合あるいは開環重合により種々の特性の樹脂を製造することができる有用性の高いモノマーである。当該ノルボルネン誘導体は、シクロペンタジエン類あるいはジシクロペンタジエン類と、二重結合を有する化合物とを用いて、ディールスアルダー反応により製造することができる。
従来、高い重合反応性が得られる高純度のノルボルネン誘導体を合成するには、低純度のジシクロペンタジエンを熱分解させてシクロペンタジエンを製造し、二量化させて高純度のジシクロペンタジエンを得る工程を経て、得られた高純度のジシクロペンタジエンと二重結合を有する化合物を反応させる方法が一般的であった。しかしこの方法は工程数が多く、コストもかかるため、簡便で高純度なノルボルネン誘導体を得られる製造方法の開発が望まれていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は特定のノルボルネン誘導体を製造するに際して、このノルボルネン誘導体を効率よく高純度で製造する方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明のノルボルネン誘導体の製造方法は、ジシクロペンタジエンを熱分解反応させてシクロペンタジエンを生成させ、得られたシクロペンタジエンと下記式(1)で表される化合物(以下、「化合物(1)」ともいう)とを連続的に接触させ、ディールスアルダー反応を行うことを特徴とする。
【0005】
【化1】

【0006】
(式中、R1 およびR2 は、炭素数1〜5のアルキル基である。)
【0007】
本発明の製造方法においては、ジシクロペンタジエンを熱分解反応させた後、生成したシクロペンタジエンを蒸留してC10成分を除去することが好ましい。
本発明の製造方法においては、ディールスアルダー反応を行った後、副生成物のイソプレンを除去することが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明のノルボルネン誘導体の製造方法によれば、少ない工程数で効率的かつ低コストで、高純度のノルボルネン誘導体を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
<ジシクロペンタジエンの熱分解工程>
本発明に用いられるジシクロペンタジエンは、高純度のジシクロペンタジエンである必要はなく、純度90質量%以上、好ましくは純度95質量%以上であれば十分用いることができる。
通常、ジシクロペンタジエンはポンプ等により反応器に供給される。当該反応器は、管型反応器、回分反応器等を用いることができるが、熱分解工程を連続的に行うためには、管型反応器が好ましく用いられる。
反応器において、通常300℃以上、好ましくは350℃以上で加熱することにより、ジシクロペンタジエンがシクロペンタジエンに分解される。得られたシクロペンタジエンは、通常、40〜100℃程度に冷却された後、蒸留塔により未分解のジシクロペンタジエンおよび不純物であるC10成分が除去される。得られたシクロペンタジエンは気体のまま直接ディールスアルダー反応へ供給してもよいし、5℃以下に冷却して液化した後に供給してもよい。また、液化した場合は一度タンクへ貯留してからディールスアルダー反応へ供給してもよい。シクロペンタジエンをタンクへ貯留する場合は、熱分解されたシクロペンタジエンが再びジシクロペンタジエンとなるのを防止するために、貯留中のシクロペンタジエンを低温に保つ必要がある。従って、機器コストや冷却コスト、ジシクロペンタジエンの生成による純度の低下などの観点から、得られたシクロペンタジエンは、直接ディールスアルダー反応へ供給されることが望ましい。
【0010】
<ディールスアルダー反応>
ディールスアルダー反応槽は、通常、攪拌装置と温度制御装置を備えた反応槽であり、当該反応槽に、上述した熱分解工程により得られたシクロペンタジエン、化合物(1)、必要に応じて公知の酸触媒および有機溶媒が供給され、反応が行われる。
シクロペンタジエンとのディールスアルダー反応に用いられる化合物(1)は、上記式(1)で表される化合物である。上記式(1)におけるR1 およびR2 は、炭素数1〜5のアルキル基であり、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基等である。この中でもR1 およびR2 がいずれもメチル基である化合物(メチルメタクリレート)が特に好ましい。
ディールスアルダー反応は、通常、150〜200℃、好ましくは165〜185℃の条件下で行われる。ディールスアルダー反応により、まず、化合物(1)とシクロペンタジエンとが反応して、中間生成物である、下記式(2)で表される一核体のノルボルネン誘導体(以下、「化合物(2)」ともいう)が生成する。次に、得られた化合物(2)とシクロペンタジエンとがさらに反応して、目的とする化合物である、下記式(3)で表されるノルボルネン誘導体(以下、「化合物(3)」ともいう)を得ることができる。
【0011】
【化2】

【0012】
(式中、R1 およびR2 は、上記式(1)と同じ定義である。)
【0013】
<イソプレンの除去方法>
本発明の製造方法においては、ディールスアルダー反応を行った後、副生成物のイソプレンを除去することが好ましい。イソプレンを除去しない場合、イソプレン由来の副生物が生成し、化合物(3)の収率が低下するとともに、得られる化合物(3)の純度が低下するおそれがある。
シクロペンタジエンに不純物として含まれるイソプレンの除去方法について以下に述べる。
ディールスアルダー反応は平衡反応であるため、反応器内の化合物(3)の濃度が上昇すると反応が進行しにくくなる。そのため、通常、ディールスアルダー反応槽から反応液を連続的に抜き出して蒸留し、化合物(3)を重質分として回収し、軽質分を再びディールスアルダー反応槽へ還流させる。軽質分中には不純物であるイソプレンが含まれるため、軽質分を全量還流させると反応系内にイソプレンが蓄積し化合物(3)の純度が低下するおそれがある。従って、化合物(3)をより高純度で得るためには、軽質分を反応系に還流する前に蒸留塔などでイソプレンを多く含む留分を分離し、廃棄すればよい。
【0014】
本発明の製造方法により得られるノルボルネン誘導体は、光学樹脂の原料として好適に用いられる他、感光性パターン形成用樹脂の原料としても好適に用いられる。
【実施例】
【0015】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下において「部」は重量部を示す。また、シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエンおよび化合物(3)の純度は水素炎イオン化検出器付きガスクロマトグラフィ法によって測定した。また、反応器内温はK熱伝対温度計によって測定した。
【0016】
実施例1
純度96%のジシクロペンタジエンを2.0 g/min、水を1.0 g/minの流速で、SUS製の管型反応器へ供給した。管型反応器は2つを直列につなげており、ジシクロペンタジエンと水の混合流体を、1つ目の反応器では内温120℃、2つ目の反応器では内温350℃まで加熱した。管型反応器の出口ガスはガラス製コンデンサーによって凝縮した。コンデンサーを2つ使用し、1つ目のコンデンサーは内温が55℃、2つ目のコンデンサーは内温が5℃とした。1つ目のコンデンサーでは水およびC10化合物を分縮した。2つ目のコンデンサーによって凝縮したシクロペンタジエンは、純度99.0%であった。
さらに、得られたシクロペンタジエンを流量1.6 g/min、 メチルメタクリレートを流量1.2 g/minでSUS製のオートクレーブに連続的に供給し、ディールスアルダー反応を実施した。反応は175℃で3.5時間行った。さらに反応混合物を110℃、42torrのSUS製タンクへ供給し、軽質分と重質分に分離した。未反応シクロペンタジエン、未反応メチルメタクリレート、ジシクロペンタジエンおよびイソプレンは軽質分として再びディールスアルダー反応器へ還流させたが、途中で蒸留塔を経由させて軽質分中のイソプレン、シクロペンタジエンなどのC5化合物を分離した。軽質分からC5化合物を分離する蒸留塔は、理論段数10段のものを使用した。一方、重質分も同様に蒸留塔へ供給し、目的の化合物(3)を1.5 g/minで得ることができた。重質分から化合物(3)を分離するためには、理論段数24段の蒸留塔および理論段数10段の蒸留塔を使用した。
ディールスアルダー反応器には、C5化合物を除去した還流軽質分および原料メチルメタクリレート、原料シクロペンタジエンをそれぞれ連続的に供給し、重質分からは化合物(3)を連続的に得た。最終的には化合物(3)は収率70.0%、純度99.8%で得ることができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジシクロペンタジエンを熱分解反応させてシクロペンタジエンを生成させ、得られたシクロペンタジエンと下記式(1)で表される化合物とを連続的に接触させ、ディールスアルダー反応を行うことを特徴とする、ノルボルネン誘導体の製造方法。
【化1】

(式中、R1 およびR2 は、炭素数1〜5のアルキル基である。)
【請求項2】
ジシクロペンタジエンを熱分解反応させた後、生成したシクロペンタジエンを蒸留してC10成分を除去することを特徴とする、請求項1に記載のノルボルネン誘導体の製造方法。
【請求項3】
ディールスアルダー反応を行った後、副生成物のイソプレンを除去することを特徴とする、請求項2に記載のノルボルネン誘導体の製造方法。

【公開番号】特開2009−227614(P2009−227614A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−75786(P2008−75786)
【出願日】平成20年3月24日(2008.3.24)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】