説明

ノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用いた電線・ケーブル

【課題】難燃性、着色性、耐水性に優れ、しかも導体変色のないノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用いた電線・ケーブルを提供する。
【解決手段】ポリオレフィン系樹脂にビニル基を有するリン酸化合物がグラフトされてなる変性ポリオレフィン系樹脂組成物からなると共に受酸剤が添加された樹脂組成物を絶縁体やシースに用いたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロゲン物質や鉛・アンチモンなどの有害な重金属を含まない環境配慮型のノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用いた電線・ケーブルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電線・ケーブル用の被覆材料としては、柔軟性、難燃性、コストの点から最もバランスの取れたポリ塩化ビニル(PVC)が用いられている。近年は安定剤として従来から用いられてきた鉛化合物から埋め立て廃却時に鉛が土中に溶け出すという問題から、鉛を使用しない非鉛PVCが主流となっている。しかし非鉛PVCを用いてもハロゲン物質である塩素が大量に含まれているため、焼却時には有害な塩素系ガスを発生する恐れがあり、焼却条件によっては有害なダイオキシンを発生するおそれがある。
【0003】
最近、ノンハロゲン電線・ケーブル用被覆材料として、塩化ビニルやハロゲン系難燃剤を使用しないノンハロゲン難燃性樹脂組成物が普及してきている。
【0004】
これらノンハロゲン難燃性樹脂組成物は、エチレン−エチルアクリレートやエチレン酢酸ビニル共重合体、エチレン−αオレフィン共重合体、低密度ポリエチレンなどの軟質のポリオレフィン樹脂に水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどの金属水酸化物を添加してなるものである(特許文献1)。
【0005】
これらノンハロゲン難燃性樹脂組成物では、高い難燃性を付与するために水酸化マグネシウムを始めとする無機金属水酸化物を多量に添加している。しかし、無機金属水酸化物を多量に充填すると、樹脂組成物の押出加工性、機械特性が著しく低下することが問題となっている。そのため、赤リンと金属水酸化物を組み合わせて用いることにより、添加する難燃剤の総量を減らす手法が取られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭58−172812号公報
【特許文献2】特開昭64−74246号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、赤リンは浸水時に水中で一部がイオン化し溶け出し、樹脂に添加すると絶縁抵抗が低下することが問題視されている。
【0008】
特に、電線・ケーブルでは、多様な色相が求められるが、赤リンを含有する樹脂組成物は赤紫色に着色し色相が限られることから、適用できる電線・ケーブルの品種が限定されてしまう。
【0009】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、難燃性、着色性、耐水性に優れ、しかも導体変色のないノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用いた電線・ケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために請求項1の発明は、ポリオレフィン系樹脂にビニル基を有するリン酸化合物がグラフトされてなる変性ポリオレフィン系樹脂組成物からなると共に受酸剤が添加された樹脂組成物を、絶縁体やシースに用いたことを特徴とするノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用いた電線・ケーブルである。
【0011】
請求項2の発明は、上記受酸剤が、金属酸化物、金属炭酸塩、金属水酸化物から選ばれた少なくとも1種以上の化合物からなる請求項1記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用いた電線・ケーブルである。
【0012】
請求項3の発明は、上記受酸剤が、炭酸カルシウムである請求項1記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用いた電線・ケーブルである。
【0013】
請求項4の発明は、上記受酸剤の添加量が、上記変性ポリオレフィン系樹脂組成物100質量部に対して、1〜250質量部である請求項1記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用いた電線・ケーブルである。
【0014】
請求項5の発明は、上記電線・ケーブルは湿熱環境下で使用される請求項1記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用いた電線・ケーブルである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、難燃性、着色性、耐水性に優れ、しかも導体変色のないノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用いた電線・ケーブルを得ることができるという優れた効果を発揮するものである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明のノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用いた電線の断面図である。
【図2】本発明のノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用いた電線・ケーブルの断面図である。
【図3】本発明のノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用いた他の電線・ケーブルの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な一実施の形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0018】
先ず本発明のノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用いた電線・ケーブルの例を図1〜3で説明する。
【0019】
図1は、銅導体1に絶縁体2を被覆した電線10であり、絶縁体2を後述する本発明のノンハロゲン難燃性樹脂組成物により作製する。
【0020】
図2は、銅導体1に絶縁体2を被覆した3線心の電線10を介在4と共に撚り合わせ、押え巻きテープ5を施し、最外層をシース3として押出被覆した電線・ケーブル11を示す図であり、シース3を、後述する本発明のノンハロゲン難燃性樹脂組成物により作製する。
【0021】
図3は、銅導体1に絶縁体2を被覆したものを絶縁線心6とし、この絶縁線心6を対撚りした対撚線7を4本撚り合わせたコア8の外周に金属シールド9を施し、シース3を押出被覆したケーブル11を示したものである。シース3を、後述する本発明のノンハロゲン難燃性樹脂組成物により作製する。
【0022】
図1〜図3に示した絶縁体2とシース3を形成するノンハロゲン難燃性樹脂組成物は、ポリオレフィン系樹脂にビニル基を有するリン酸化合物がグラフトされてなる変性ポリオレフィン系樹脂組成物であって、湿熱環境下で使用される際に銅導体の変色を抑えるために、上記樹脂組成物に受酸剤を添加したものである。
【0023】
本発明者らは、ノンハロゲン難燃性樹脂組成物として、従来のように樹脂に難燃剤を多量に添加するのではなく、樹脂そのものを難燃化し、その樹脂を電線・ケーブルの絶縁体やシースに適用することを考えた。
【0024】
難燃化する方法としては、難燃性が高いリン元素の導入が効果的と考え、透明でビニル基を有するリン酸化合物を樹脂にグラフトすることを考えた。
【0025】
また、このグラフト樹脂を用いてノンハロゲン難燃性樹脂組成物の開発を行い、電線・ケーブルヘの適用を鋭意研究した。
【0026】
グラフト樹脂の難燃性は、グラフト樹脂に含まれるリンの量、すなわち単位質量当りのリン濃度を高めることにより向上する。
【0027】
ノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用いて、実際に図1〜3に示した電線・ケーブルを作製し、難燃性試験を行なったところ、リン濃度と難燃性の関係が以下のように明らかになった。
【0028】
JIS60度傾斜燃焼試験に合格するためには、グラフト樹脂中のリン濃度が少なくとも0.5mass%以上必要なことが分かった。
【0029】
なお、リン濃度が0.5mass%未満の場合であっても適宜メラミンシアヌレートなどの難燃剤を加えることによって、上記難燃試験に合格することも可能である。
【0030】
垂直トレイ燃焼試験などの垂直燃焼試験に合格するためには、より高いリン濃度が求められ、少なくともリン濃度が2.5mass%以上必要なことが分かった。
【0031】
さらに、本発明者らは、ポリオレフィン樹脂にビニル基を有するリン酸化合物をグラフトした樹脂に受酸剤を混和させることにより、導体変色が抑制できることを確認した。
【0032】
導体変色の原因は、湿熱環境でリン酸化合物が遊離するためと考えられるが、受酸剤がリン酸化合物を捕捉するため効果的に変色を抑えられたものと推定している。受酸剤としては、安価で十分な効果を発揮する炭酸カルシウムを用いることが望ましい。
【0033】
本発明において、湿熱環境とは、温度30℃以上、湿度70%以上の状態に連続的または断続的にある状態を言う。
【0034】
本発明で用いられるポリオレフィン樹脂として、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、直鎖状超低密度ポリエチレン等のポリエチレン、エチレンとメチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、酢酸ビニル、グリシジルメタクリレート、ブテン−1、プロピレン等との共重合体、SEBS、SEB、SIS、SEEPS、StEt共重合体等のスチレン系エラストマ、マレイン酸グラフト低密度ポリエチレン等を包含する。
【0035】
本発明で用いるポリオレフィン樹脂にビニル基を有するリン酸化合物をグラフトした樹脂では、特に一分子当たりのリン含有量が高いものほど効果的であり、本発明では10mass%以上のビニル基を有するリン酸化合物を使用するのが好ましい。
【0036】
本発明で用いられるビニル基を有するリン酸化合物は、一分子当たりのリン含有量が10mass%以上であることが好ましく、化1、化2、化3および化4で示されるジエチルビニルホスホナート、ジメチルビニルホスホナート、ジフェニルビニルホスフィンオキシド、ジフェニルビニルホスホナートが好適である。
【0037】
【化1】

【0038】
【化2】

【0039】
【化3】

【0040】
【化4】

【0041】
ビニル基を有するリン酸化合物をポリオレフィン樹脂にグラフトするには、ビニルリンとポリオレフィンが共存する系内にラジカルを導入する必要がある。ラジカルを導入する方法として、有機過酸化物やアゾ化合物を熱や光により分解させる方法、電子線またはγ線照射等が考えられる。
【0042】
有機過酸化物として、ケトンパーオキサイド類、パーオキシケタール類、ハイドロパーオキサイド類、ジアルキルパーオキサイド類、ジアシルパーオキサイド類、パーオキシジカーボネート類、パーオキシエステル類などを用いることが出来る。
【0043】
本発明において、受酸剤の添加量は、ポリオレフィン樹脂にビニル基を有するリン酸化合物をグラフトした樹脂100質量部に対して、1〜250質量部であり、添加量が1質量部より少ないと、受酸剤としての効果が得られず、250質量部より多いと電線・ケーブルに求められる機械特性を満たすことが出来ない。より好ましくは、5〜200質量部である。
【0044】
受酸剤としては、金属酸化物、金属炭酸塩、金属水酸化物を用いることが出来る。なお、これらの受酸剤は単独で用いても混合してもよい。
【0045】
上記金属酸化物として、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、ホウ酸亜鉛を用いることができる。
【0046】
上記金属水酸化物として、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、ヒドロキシスズ酸亜鉛、ハイドロタルサイトを用いることが出来る。
【0047】
上記金属炭酸塩として、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸亜鉛、ドロマイト、ハンタイトを用いることが出来る。
【0048】
これらの受酸剤は、いずれも白色であり、着色性に何ら問題はない。
【0049】
また、上記の受酸剤以外にも必要に応じて、酸化防止剤、滑剤、安定剤、着色剤、加工助剤、架橋剤、架橋助剤、銅害防止剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤を加えることが可能である。
【0050】
本発明のノンハロゲン難燃性樹脂組成物は、電線の絶縁体だけでなく、ケーブルのシースにも適用できる。
【実施例】
【0051】
本発明のノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用いた電線・ケーブルは、以下のように作製した。
【0052】
先ず表1に示す配合でグラフト樹脂#1〜#5を作製した。
【0053】
【表1】

【0054】
ポリマであるポリオレフィン樹脂としてEVA、EEA、LDPEを用い、このポリマ100質量部に対して、ビニルリンとして、ジエチルビニルホスホナート(リン元素含有量:約19mass%)またはジメチルビニルホスホナート(リン元素含有量:約23mass%)、リン酸ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンビニル(リン元素含有量:約6mass%)を目的とするリン濃度に応じた分量準備し、そこにジクミルパーオキサイド(DCP)を適量溶かし、ポリオレフィン樹脂に含浸後、180℃に設定した押出機で押出反応することによりグラフト樹脂を作製した。
【0055】
作製したグラフト樹脂の組成および蛍光X線分析(RIX2000、Rigaku)により測定したリン元素含有量を表1に示した。
【0056】
表1のグラフト樹脂#1〜#5を用いて表2に示した組成で各主配合剤を添加し、加圧ニーダによって150℃で混練後、これを図1〜3で説明した電線の絶縁体2として、導体径2.0mmの銅導体1に、160℃、厚さ0.8mmで押出被覆して作製した。
【0057】
電線・ケーブルの評価は以下に示す方法により判定した。
【0058】
(1)引張試験
作製した電線をJIS C 3005に準拠して引張試験を行い、引張強さ10MPa以上、伸び350%以上を目標値とした。
【0059】
(2)傾斜燃焼試験
作製した電線をJIS C 3612に準拠して60度傾斜燃焼試験を行った。30秒間着火した後、60秒以内に自己消炎したものを○(合格)とする。
【0060】
(3)垂直燃焼試験
作製した電線をIEEE383に準拠した垂直トレイ燃焼試験を行い、延焼距離が180cm未満のものを○(合格)とする。
【0061】
(4)導体変色試験
作製した電線を温度60℃、湿度95%の恒温恒湿槽内で14日間加熱後、被覆材を除去し、目視で導体の変色を調べる。変色が無いものを○(合格)とする。
【0062】
(5)浸水試験
作製した電線を75℃の水道水に2,000時間浸漬後、絶縁抵抗を測定した。絶縁抵抗が100MΩ・km以上あるものを○(合格)とする。
【0063】
本発明のノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用いて製造した実施例1〜13と、また上記と同様にして作製した比較例1〜5を表2にまとめて示す。
【0064】
【表2】

【0065】
表2に示したように、実施例1〜13は、グラフト樹脂#1〜#5に、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、ハイドロタルサイト、酸化マグネシウムのいずれかの受酸剤を添加したノンハロゲン難燃性樹脂組成物により構成されており、機械的特性、耐水性、難燃性の目標を満足し、その上で、導体変色が認められなかった。
【0066】
詳細をみると、実施例5〜12は、リン濃度が2.5mass%以上のため、60度傾斜燃焼試験及び垂直トレイ燃焼試験に合格しており、リン濃度が2.5mass%未満のため60度傾斜燃焼試験のみ合格の実施例1〜4,13と比較して難燃性に優れる。
【0067】
これに対して比較例1〜4は、グラフト樹脂#1〜#4を用いているが、受酸剤を添加していないため、機械的特性、耐水性、難燃性の目標は満足するものの、導体変色が認められる。
【0068】
また、実施例13、比較例5は、グラフト樹脂#5(リン元素濃度0.1mass%)を用い、リン濃度が0.5mass%未満であるが、難燃剤としてメラミンシアヌレートを添加しているため、60度傾斜燃焼試験に合格している。しかし、比較例5は、受酸剤を添加していないため、導体変色が確認された。これに対して、受酸剤を添加した実施例13は導体変色が改善されている。
【符号の説明】
【0069】
1 銅導体
2 絶縁体
3 シース
10 電線
11 ケーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン系樹脂にビニル基を有するリン酸化合物がグラフトされてなる変性ポリオレフィン系樹脂組成物からなると共に受酸剤が添加された樹脂組成物を、絶縁体やシースに用いたことを特徴とするノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用いた電線・ケーブル。
【請求項2】
上記受酸剤が、金属酸化物、金属炭酸塩、金属水酸化物から選ばれた少なくとも1種以上の化合物からなる請求項1記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用いた電線・ケーブル。
【請求項3】
上記受酸剤が、炭酸カルシウムである請求項1記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用いた電線・ケーブル。
【請求項4】
上記受酸剤の添加量が、上記変性ポリオレフィン系樹脂組成物100質量部に対して、1〜250質量部である請求項1記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用いた電線・ケーブル。
【請求項5】
上記電線・ケーブルは、湿熱環境下で使用されることを特徴とする請求項1記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用いた電線・ケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−168676(P2011−168676A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−32838(P2010−32838)
【出願日】平成22年2月17日(2010.2.17)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】