説明

ハイスループットグリカンマイクロアレイ

本発明は、グリカン類に結合する実体を検出するためのグリカン類のアレイを提供する。ある実施形態において、上記アレイは、疾患、血液型、抗体、細菌またはウイルスの感染、癌などを検出するために用いることができる。また本発明は、そのような検出のための方法およびキットを提供する。別の実施形態において、本発明は、少なくともグリカンを含む組成物を哺乳動物に投与することにより、その哺乳動物の疾患を予防または処置する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、米国仮特許出願第60/550,667号(2004年3月5日出願)、米国仮特許出願第60/558,598号(2004年3月31日出願)、および米国仮特許出願第60/629,833号(2004年11月19日出願)の出願日の利益を主張するものであり、上記仮特許出願の内容は、本明細書において参考として援用される。
【0002】
(政府による財政的支援)
本明細書に記載される本発明は、国立衛生研究所により認められた助成金番号U54GM62116の下、米国政府の援助によってなされたものである。米国政府は本発明において一定の権利を有する。
【0003】
(技術分野)
本発明は、グリカンのライブラリー、グリカンのアレイ、および様々な型のグリカンに結合する分子をハイスループットで同定するための方法に関する。本明細書に記載されるアレイおよび方法は、エピトープの同定、抗体の検出、疾患の検出、および薬物の発見に用いることができ、そして、分析手段として用いることができる。別の実施形態において、本発明は、それらの抗体の産生に関連する疾患を処置および予防するのに有用なグリカン組成物を提供する。上記グリカン組成物は、癌細胞エピトープ、細菌感染、ウイルス感染などに対して免疫応答を生じさせるのに用いることができる。
【背景技術】
【0004】
(発明の背景)
グリカンは、典型的に、細胞とその環境との間の、最初の、かつ最も重要である可能性のある界面である。すべての生体系の生体構成要素として、グリカンは、認識、付着、運動性、および信号伝達のプロセスに関与している。グリカンを研究すべき理由は以下のように少なくとも3つある:(1)生体内のすべての細胞およびウイルスは、多様な型のグリカンで被覆されている。(2)グリコシル化は、すべての生体内で起こる翻訳後修飾または翻訳時の修飾の一形態である。(3)グリコシル化の変化は、ヒトの病理の発生において初期かつおそらく重要な時点を示す。非特許文献1;非特許文献2)。これらの細胞特定グリコシル化分子は、糖タンパク質および糖脂質を含み、種々のグリカン認識タンパク質(レクチンと呼ばれる)によって特異的に認識される。しかし、これらの相互作用が非常に複雑であること、そして、十分確立されたグリカンライブラリーおよび分析手法がないことが、グリコミクス(glycomics)の発展において大きな障害となっている。
【0005】
ヌクレオチドおよびタンパク質のマイクロアレイの開発は、ゲノム、遺伝子発現、およびプロテオソームの研究に変革をもたらした。これらアレイの革新のペースが爆発的である一方で、グリカンマイクロアレイの開発は比較的遅いものであった。その理由の一つは、化学的および構造的に多様なグリカンの群を確実に固定化することが困難であったということである。さらに、核酸およびタンパク質に日常的に適用される現在利用可能な分子的手法(例えば迅速な配列決定およびインビトロ合成)の多くによる分析は、グリカン類に容易に適用できない。しかし、グリカンアレイの使用は、スクリーニングの手順を速め、そして、抗体、疾患、感染、移植組織の拒絶、および癌関連グリカンエピトープの検出を簡単かつ安価なものにし得る。
【0006】
従って、新しい手段および手法により、炭水化物相互作用の分析を迅速化し、それらが認識する抗体およびエピトープの特定または識別を容易し、疾患の早期検出を可能し、そして、有効な治療剤を発見するための新しい方法を提供する。
【非特許文献1】Jun Hirabayashi、「Oligosaccharide microarrays for glycomics」、Trends in Biotechnology、2003年、21(4):p.141−143
【非特許文献2】Sen−Itiroh Hakomori、「Tumor−associated carbohydrate antigens defining tumor malignancy:Basis for development of and−cancer vaccines」、The Molecular Immunology of Complex Carbohydrates−2、Albert M Wu編、Kluwer Academic/Plenum、2001年
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0007】
(発明の概要)
本発明は、グリカンのライブラリーおよびグリカンのアレイ(またはマイクロアレイ)を提供し、そして様々な型のグリカンと他の分子との相互作用を同定しかつ解析するための、そのようなアレイを用いる方法を提供する。このようなグリカンのライブラリー、グリカンのアレイ、およびスクリーニング方法は、どのタンパク質、レセプター、抗体、核酸、または他の分子もしくは物質がどのグリカンに結合するかを同定するのに有用である。本発明のグリカンアレイは、多くの流体または溶液の小量試料を同時にスクリーニングすることを可能にする。本発明のグリカンアレイは、酸性、塩基性の水性または有機性の洗浄工程による除去の後、再利用可能である。従って、本発明のグリカンライブラリーおよびグリカンアレイは、レセプターリガンドの特徴付け、抗グリカン抗体の検出、疾患の診断、細胞膜上および細胞下構成要素内の炭水化物の同定、抗体エピトープの同定、酵素の特徴付け、およびファージディスプレイライブラリースクリーニングに用いることができる。
【0008】
したがって、本発明の一局面は、グリカンのライブラリーを含む。本発明のライブラリーは、二種以上のグリカンを含む。各グリカンは、少なくとも一つの糖単位、典型的には少なくとも二つの糖単位を有する。本発明のグリカンは、直鎖オリゴ糖および分枝オリゴ糖を含み、さらに、天然に存在するグリカンおよび合成グリカンを含む。本発明のグリカンにおいて、任意の型の糖単位が存在し得、これらの糖単位としては、アロース、アルトロース、アラビノース、グルコース、ガラクトース、グロース、フコース、フルクトース、イドース、リキソース、マンノース、リボース、タロース、キシロース、ノイラミン酸、または他の糖単位が挙げられる。そのような糖単位は、種々の置換基を有することができる。例えば、糖単位上に典型的に存在する置換基の代わりにまたはそれに加えて存在し得る置換基には、N−アセチル、N−アセチルノイラミン酸、オキシ(=O)、シアル酸、硫酸(−SO)、リン酸(−PO)、低級アルコキシ、低級アルカノイルオキシ、低級アシル、および/または低級アルカノイルアミノアルキルが挙げられる。脂肪酸、脂質、アミノ酸、ペプチド、およびタンパク質を、本発明のグリカンに結合させてもよい。本発明のライブラリーは、一般的に、多くの異なる型のグリカン、例えば、少なくとも約35種のグリカン、少なくとも約50種のグリカン、あるいは、少なくとも約225種のグリカンを有する。
【0009】
別の実施形態において、本発明は、グリカン分子のアレイを提供し、それは、固体支持体およびグリカン分子のライブラリーを備え、ここで、各グリカン分子はアミド結合を介して上記固体支持体に共有結合されている。多くの実施形態において、上記アレイはマイクロアレイである。本発明のアレイおよびマイクロアレイは、固体支持体と、上記固体支持体上の複数の規定されたグリカンプローブ部位とを含み、各グリカンプローブ部位は、一つの型のグリカン分子が複数コピーそこに結合されている上記固体支持体の、一領域を規定する。これらのマイクロアレイは、例えば、約2〜約100,000の異なるグリカンプローブ部位を有し得るか、あるいは約2〜約10,000の異なるグリカンプローブ部位を有し得る。従って、本発明のライブラリーを固体支持体に結合させてアレイまたはマイクロアレイを形成することができる。
【0010】
別の実施形態において、本発明は、試験分子または試験物質が本発明のライブラリー中またはアレイ上のグリカンに結合できるかどうかを同定する方法を提供する。上記方法は、上記ライブラリーまたは上記アレイを上記試験分子または試験物質と接触させる工程、および、上記試験分子または試験物質が上記ライブラリー中または上記アレイ上にあるグリカンに結合するかどうかを観察する工程を包含する。
【0011】
別の実施形態において、本発明は、本発明のライブラリー中または本発明のアレイ上に存在するグリカンのいずれに試験分子または試験物質が結合できるかを同定する方法を提供する。上記方法は、上記ライブラリーまたは上記アレイを上記試験分子または試験物質と接触させる工程、および、上記試験分子または試験物質が上記ライブラリー中または上記アレイ上にあるどのグリカンに結合できるかを観察する工程を包含する。
【0012】
別の実施形態において、本発明は、本発明のアレイを製造する方法を提供し、それは、アレイの固体支持体の表面を反応性部分(例えば、N−ヒドロキシスクシンイミド基(NHS)、アミノ(−NH)、イソチオシアネート(−NCS)、またはヒドロキシル(−OH))を有するトリアルコキシシランで誘導体化して、アレイ上に少なくとも一つの誘導体化グリカンプローブ部位を生成させる工程、および、上記誘導体化された表面上の反応性部分と反応することができる結合部分を有するグリカンを含むグリカン溶液と、上記誘導体化プローブ部位とを接触させることにより、アレイを提供する工程を包含する。各グリカンプローブ部位におけるグリカンの密度は、上記誘導体化グリカンプローブ部位に付与されるグリカン溶液の濃度を変えることにより、調節できる。
【0013】
本発明の別の局面は、キャリアと、有効量の一種以上のグリカン分子とを含む組成物である。この組成物は、上記組成物中の各グリカン分子は、ある疾患の患者に見出される抗体に結合し、かつ上記疾患ではない患者からの血清が、上記組成物中の上記グリカン分子のいずれかに結合する抗体を実質的に含まない。本発明の組成物を用いて処置することができる疾患の例には、細菌感染、ウイルス感染、炎症、癌、移植拒絶、自己免疫疾患、またはそれらの組合せが挙げられる。そのような組成物を、哺乳動物の免疫化のため調製することができる。あるいは、そのような組成物を、食物サプリメント(補助食品)に調製することができる。本発明の組成物は、癌、細菌感染、ウイルス感染、炎症、移植拒絶、自己免疫疾患などの疾患を処置および予防するのに有用である。
【0014】
本発明の別の局面は、患者の体液中の抗体を検出する方法である。上記方法は、上記患者から得られた試験試料を本発明のグリカンライブラリーまたはグリカンアレイと接触させる工程、および、上記ライブラリーまたは上記アレイのグリカンに上記試験試料中の抗体が結合するかどうかを観察する工程を包含する。本発明の一局面によれば、そのような抗体によって結合されるグリカンの型により、ある特定の疾患が存在することが示されるか、または患者における、ある特定の疾患が発病する傾向が示される。試験試料の結合パターンを、問題の疾患にかかっていない健常者からの対照試料の結合と比較することができる。上記試験試料および対照試料は、例えば、血液、血清、組織、尿、唾液、乳、またはその他の試料であり得る。本発明に使用する都合よい試料の型は、血清である。
【0015】
例えば、乳癌の患者は、セルロプラスミン、Neu5Acα2−6GalNAcα、種々の修飾を有する特定のT−抗原、LNT−2(腫瘍促進性ガレクチン−4に対する公知のリガンド(Huflejt&Leffler(2004).Glycoconjugate J,20:247−255参照))、Globo−H抗原、およびGM1抗原などのグリカンと反応する循環性抗体を有する。GM1は、以下の炭水化物構造:Gal−β3−GalNAc−β4−[Neu5Ac−α3]−Gal−β4−Glc−βを含むグリカンである。Sulfo−Tは、硫酸残基を有するT抗原であり、例えば、Sulfo−Tは、以下の構造:Galβ3GalNAcの炭水化物を含み得る。Globo−Hは、以下の炭水化物構造:フコース−α2−Gal−β3−GalNAc−β3−Gal−α4−Gal−β4−Glcを含むグリカンである。LNT−2は、以下の炭水化物構造:GlcNAc−β3−Gal−β4−Glc−βを含むグリカンである。従って、癌の存在は、本グリカンアレイを用いてこれらのグリカンに結合する抗体を検出することにより、検出することができる。さらに、癌性組織に対する免疫応答をブーストするこれらの癌特異的抗原の組成物を投与することにより、癌を処置または予防することができる。
【0016】
別の具体例において、本発明のアレイおよび方法を使用することにより、HIVに特異的であることが公知の中和抗体が、マンノースを含有するグリカン、特にMan8グリカンに反応性であることが見出された。従って、Man8グリカンに結合する循環性抗体を患者が有するかどうかを検出することにより、HIV感染を検出することができる。さらに、Man8グリカンを被験体に投与することにより、HIV感染を処置または阻害することができる。
【0017】
本発明の別の局面は、移植レシピエントでの移植組織拒絶を検出する方法であって、移植レシピエントからの試験試料をグリカンのアレイと接触させる工程、および、上記試験試料中の抗体により一種以上のグリカンが結合されるかどうかを観察する工程を包含する方法である。上記方法は、異種移植組織拒絶を検出するために用いることもできる。移植組織または異種移植組織に特異的なグリカンをグリカンアレイにおいて使用して、一種以上のグリカンが試験試料中の抗体により結合されるかどうかを観察する。移植拒絶を検出するためのアレイに使用できるグリカンの具体例には、Gal−α3−Gal−β(図7の構造33)、Gal−α3−Gal−β4−GlcNAc[α3−フコース]−β(図7の構造34)、Gal−α3−Gal−β4−Glc−β(図7の構造35)、Gal−α3−Gal[α2−フコース]−β4−GlcNAc−β(図7の構造36)、Gal−α3−Gal−β4−GalAc−β(図7の構造37)、Gal−α3−GalAc−α(図7の構造38)、Gal−α3−Gal−β(図7の構造39)、もしくはGal−β4−GlcNAc[α3−フコース]−β(図7の構造65)、またはそれらの組合せのいずれか一つが挙げられる。
【0018】
従って、本発明のアレイ上で使用されるグリカンは、特定の疾患または状態に関連する抗体と反応するグリカンを含み得る。例えば、癌、細菌感染、ウイルス感染、炎症、移植拒絶、自己免疫疾患などに応答して産生される抗体を、本発明のグリカンアレイを用いて検出できる。
【0019】
本発明の別の局面は、乳癌を検出するためのアレイまたはマイクロアレイである。上記アレイまたはマイクロアレイは、固体支持体と、上記固体支持体上の複数の規定されたグリカンプローブ部位とを含み、そこにおいて、各グリカンプローブ部位は、一つの型のグリカン分子が複数コピーそこに結合されている、上記固体支持体の一領域を規定するものであり、かつ上記グリカンは上記マイクロアレイに開裂可能なリンカーによって結合されている。これらのマイクロアレイは、例えば、約2〜約100,000の異なるグリカンプローブ部位を有することができるか、あるいは、約2〜約10,000の異なるグリカンプローブ部位を有することができる。上記アレイまたはマイクロアレイにおいて使用するため選択されるグリカンとしては、良性または前悪性の腫瘍を有する哺乳動物の血清中にある新生物に関連する抗体と反応するグリカンが挙げられる。セルロプラスミン、Neu5Acα2−6GalNAcα、特定のT−抗原、LNT−2、Globo−H−、およびGM1のようなグリカンを、そのようなタイプのアレイに用いることができる。
【0020】
本発明の別の局面は、本発明のアレイのいずれかと、上記アレイを使用するための説明書とを備えるキットである。別の実施形態において、本発明は、グリカンのライブラリーと、上記グリカンのライブラリーからアレイを作製するための説明書とを備えるキットを提供する。
【0021】
別の実施形態において、本発明は、患者または哺乳動物がある疾患を有するかどうかを同定する方法を提供し、上記方法は、本発明のアレイまたはライブラリーを試験試料と接触させる工程、および、上記試験試料中の抗体が、上記疾患に関連する抗体と反応するグリカンと結合するかどうかを観察する工程を包含する。例えば、検出できる疾患には、癌、細菌感染、ウイルス感染、炎症、移植拒絶、自己免疫疾患などが挙げられる。
【0022】
別の実施形態において、本発明は、哺乳動物の疾患または状態を処置または予防する方法を提供し、上記方法は、上記疾患または状態に関連する抗体に結合する少なくとも一種のグリカン分子の有効量を含む組成物を、上記哺乳動物に投与する工程を包含する。例えば、処置できる疾患および症状には、癌、細菌感染、ウイルス感染、炎症、移植拒絶、自己免疫疾患などが挙げられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
(発明の詳細な説明)
本発明は、どの型のタンパク質、レセプター、抗体、脂質、核酸、炭水化物ならびに他の分子および物質が所与のグリカン構造に結合できるかを同定するため用いることができる、グリカンのライブラリーおよびアレイを提供する。
【0024】
本発明のライブラリー、アレイおよび方法は、いくつかの利点を有する。例えば、本発明のアレイおよび方法は、再現性ある結果をもたらす。さらに本発明のライブラリーおよびアレイは、多数のそして多種多様なグリカンを提供する。例えば、本発明のライブラリーおよびアレイは、少なくとも2種の、少なくとも3種の、少なくとも10種の、少なくとも20種の、少なくとも35種の、少なくとも50種の、少なくとも100種の、または少なくとも200種のグリカンを有する。ある実施形態において、本発明のライブラリーおよびアレイは、一アレイあたりに、約2〜約100,000の異なるグリカン、約2〜約10,000の異なるグリカン、約2〜約1,000の異なるグリカン、または約2〜500の異なるグリカンを有する。そのような多数のグリカンにより、多数のグリカンの型の同時アッセイが可能になる。
【0025】
本明細書に記載するとおり、本発明のアレイは、種々のグリカン結合性タンパク質を首尾よくスクリーニングするのに用いられた。そのような実験は、グリカンの分解がほとんど起こらないこと、そして、スクリーニングアッセイ中に消費されるグリカン結合性タンパク質がごく少量であることを実証している。従って、本発明のアレイは、複数回のアッセイに使用できる。本発明のアレイおよび方法は、高い信号対雑音比(SN比)をもたらす。本発明により提供されるスクリーニング法は、迅速かつ簡単である。なぜなら、この方法はわずか一工程または数工程しか含まないからである。典型的には、本発明のアッセイ手順において、表面修飾またはブロッキングの工程は必要ない。
【0026】
本発明のアレイ上におけるグリカンの組成は、必要に応じて当業者により変えることができる。多くの異なる複合糖質を本発明のアレイに組み込むことができ、上記複合糖質には、例えば、天然に存在するグリカンまたは合成のグリカン、糖タンパク質、糖ペプチド、糖脂質、細菌および植物の細胞壁のグリカンなどが含まれる。本発明のアレイに異なるグリカンを結合させるための固定化手順は、容易に制御され、アレイの構築を容易に可能にする。
【0027】
(定義)
以下の省略形が用いられ得る。α−AGPは、α−酸の糖タンパク質を意味する。AF488は、AlexaFluour−488を意味する。CFGは、Consortium for Functional Glycomicsを意味する。ConAは、コンカナバリンAを意味する。CVNはシアノビリンNを意味する。DC−SIGNは、樹状細胞特異的ICAM捕捉性(grabbing)ノンインテグリンを意味する。ECAは、アメリカデイゴ(Erythrina cristagalli)を意味する。ELISAは、酵素結合免疫吸着検定法を意味する。FITCは、フルオレセインイソチオシアネートを意味する。GBPは、グリカン結合性タンパク質を意味する。HIVは、ヒト免疫不全ウイルスを意味する。HAは、インフルエンザ血球凝集素を意味する。NHSは、N−ヒドロキシスクシンイミドを意味する。PBSは、リン酸緩衝生理食塩水を意味する。SDSは、ドデシル硫酸ナトリウムを意味する。SEMは、平均の標準誤差を意味する。Siglecは、シアル酸免疫グロブリンスーパーファミリーレクチンを意味する。
【0028】
ここで用いる「規定のグリカンプローブ部位」は、ある密度の複数のグリカン分子(すべて類似のグリカン構造を有する)が結合される固体支持体の予め規定された領域である。ここで用語「グリカン領域」もしくは「選ばれた領域」または単に「領域」は、用語「特定のグリカンプローブ部位」に対して交換可能に(同じ意味で)使用される。規定のグリカンプローブ部位は、任意の都合がよい形を有することができ、例えば、円形、方形、楕円形、くさび形などを有し得る。ある実施形態において、規定のグリカンプローブ部位、および、従って、個々のグリカンの型または構造的に関連のあるグリカンの個々の群が結合される領域は、約1cmよりも小さく、あるいは1mm未満、あるいは0.5mm未満である。ある実施形態において、グリカンプローブ部位は、約10000μm未満または100μm未満の面積を有する。規定のグリカンプローブ部位のそれぞれの中に結合される複数のグリカン分子は、実質的に同じものである。また、各グリカン種の複数のコピー(複数個の各グリカン種)が、特定のグリカンプローブ部位のそれぞれの中に存在する。特定のグリカンプローブ部位のそれぞれの中にある各グリカンの型のコピーの数は、数千〜数百万であり得る。
【0029】
本明細書において使用されるように、本発明のアレイは、規定されたグリカンプローブ部位を有し、そのそれぞれは、「1つの型のグリカン分子」を有する。使用される「1つの型のグリカン分子」は、実質的に構造が同じ複数のグリカン分子の群であり得るか、あるいは、構造が類似する複数のグリカン分子の群であり得る。一つの規定されるグリカンプローブ部位内にあるグリカン分子すべてが同じ構造を有している必要はない。ある実施形態において、一つの規定のグリカンプローブ部位内にあるグリカンは、構造異性体であり、種々の数の糖単位を有するか、あるいは、ある程度異なる様式で分枝している。しかし、一般的に、規定されるグリカンプローブ部位内にあるグリカンは、実質的に同じ型の糖単位を有し、かつ/または、ほぼ同じ比率でそれぞれの種類の糖単位を有するものである。一つのグリカンプローブ部位内にあるグリカンの糖単位における置換基の種類も実質的に同じである。
【0030】
用語レクチンは、炭水化物と相互作用するか、炭水化物に結合するか、または炭水化物を架橋する分子を指す。用語ガレクチンは、動物のレクチンである。ガレクチンは、一般に、ガラクトース含有グリカンに結合する。
【0031】
本明細書において用いる用語「患者」は、哺乳動物または鳥である。そのような哺乳動物および鳥は、飼い慣らされた動物、家畜、実験に使用される動物、動物園の動物などを含む。例えば、患者は、イヌ、ネコ、サル、ウマ、ラット、マウス、ウサギ、ヤギ、類人猿、またはヒトの哺乳動物であり得る。他の実施形態において、動物は、ニワトリ、カモ(アヒル)、ガチョウ、または七面鳥などの鳥である。多くの実施形態において、患者はヒトである。
【0032】
本明細書に記載するグリカンの構造要素のいくつかは省略形で示される。使用される省略形の多くは表1に提供される。さらに、本発明のグリカンは、表1に提供される任意の糖単位、単糖類、またはコア構造を有することができる。
【0033】
(表1)
【0034】
【表1−1】

【0035】
【表1−2】

*KDNについての別名は、3−デオキシ−D−グリセロ−K−ガラクト−ノヌロソン酸である。
【0036】
本発明のグリカンに存在する糖単位またはその他の糖構造は、種々の態様で化学的に修飾され得る。本発明のグリカン中において糖単位が有し得る修飾および置換基の型のいくつかを、その修飾/置換基の省略形とともに一覧にしたものが、以下の表2である。
【0037】
(表2)
【0038】
【表2】

*3が存在するとき、それは3、4を意味し、4が存在するとき、それは4、6を意味する。
【0039】
糖単位間の結合は、アルファ(α)結合またはベータ(β)結合であり、糖環の面に対して、α結合は下に向かっており、β結合は上に向かっていることを意味する。本明細書においてときに使用される簡略表記において、文字「a」はα結合を示すのに用いられ、文字「b」はβ結合を示すのに用いられる。
【0040】
(グリカン)
本発明は、グリカン結合反応の解析、エピトープの同定、疾患の検出、処置および予防、ならびに抗体の調製に有用なグリカンの組成物、ライブラリーおよびアレイを提供する。これらのグリカンは、多数の異なる型の炭水化物およびオリゴ糖を含む。概して、個々のグリカンの主要な構造的特性および組成を同定してきた。ある実施形態において、ライブラリー、組成物およびグリカンアレイは、グリカン、炭水化物および/またはオリゴ糖の個々の実質的に純粋なプールからなる。他の実施形態において、その出所は定義されている一方、その構造ははっきり知られていない可能性があるグリカンが使用される。多くの実施形態において、本発明に使用されるグリカンは、純粋であるかまたは実質的に純粋である。しかし、グリカンのあるものは、構造が類似するグリカンの混合物であってもよいし、同じ起源からのグリカンの混合物であってもよい。本明細書に記載するライブラリーのグリカンは、本発明のグリカンアレイを作製するため用いることができる。
【0041】
本発明のグリカンは、直鎖および分枝のオリゴ糖を含むほか、ならびに天然に存在するグリカンおよび合成のグリカンを含む。例えば、グリカンは、糖アミノ酸、糖ペプチド、糖脂質、グリコアミノグリカン(GAG)、糖タンパク質、全細胞、細胞成分、複合糖質、糖模倣物、糖リン脂質アンカー(GPI)、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)結合複合糖質、細菌性リポ多糖、およびエンドトキシン(内毒素)であり得る。またグリカンは、N−グリカン、O−グリカン、糖脂質、および糖タンパク質を含み得る。
【0042】
本発明のグリカンは、2つ以上の糖単位を含む。任意の型の糖単位が、本発明のグリカンに存在し得るが、例えば、アロース、アルトロース、アラビノース、グルコース、ガラクトース、グロース、フコース、フルクトース、イドース、リキソース、マンノース、リボース、タロース、キシロースなどの糖単位が挙げられる。本明細書に提供する表は、本発明のグリカンに使用され得る糖単位のその他の例を列挙している。そのような糖単位は、種々の修飾および置換基を有し得る。意図される修飾および置換基の型のいくつかの例を本明細書の表に示している。例えば、糖単位は、水素(H)置換基、ヒドロキシ(−OH)置換基、カルボキシレート(−COO)置換基、およびメチレンヒドロキシ(−CH−OH)置換基の代わりに、種々の置換基を有し得る。従って、本発明のグリカンにおける糖単位のヒドロキシ(−OH)置換基、カルボン酸(−COOH)置換基、およびメチレンヒドロキシ(−CH−OH)置換基に由来する水素原子のいずれかを、低級アルキル部分で置換できる。例えば、本発明のグリカンにおける糖単位のヒドロキシ(−OH)置換基、カルボン酸(−COOH)置換基、およびメチレンヒドロキシ(−CH−OH)置換基に由来する水素原子のいずれかを、アミノアセチル(−NH−CO−CH)で置換できる。本発明のグリカンにおける糖単位のヒドロキシ(−OH)置換基、カルボン酸(−COOH)置換基、およびメチレンヒドロキシ(−CH−OH)置換基に由来する水素原子のいずれかを、N−アセチルノイラミン酸で置換できる。本発明のグリカンにおける糖単位のヒドロキシ(−OH)置換基、カルボン酸(−COOH)置換基、およびメチレンヒドロキシ(−CH−OH)置換基に由来する水素原子のいずれかを、シアル酸で置換できる。本発明のグリカンにおける糖単位のヒドロキシ(−OH)置換基、カルボン酸(−COOH)置換基、およびメチレンヒドロキシ(−CH−OH)置換基についてOH基のいずれかをアミノ基または低級アルキルアミノで置換できる。本発明のグリカンにおける糖単位のヒドロキシ(−OH)置換基、カルボン酸(−COOH)置換基、およびメチレンヒドロキシ(−CH−OH)置換基についてOH基のいずれかをスルフェート(−SO)またはホスフェート(−PO)で置換できる。従って、糖単位上に典型的に存在する置換基の代わりに、またはそれに加えて存在し得る置換基には、N−アセチル、N−アセチルノイラミン酸、オキシ(=O)、シアル酸、スルフェート(−SO)、ホスフェート(−PO)、低級アルコキシ、低級アルカノイルオキシ、低級アシル、および/または低級アルカノイルアミノアルキルが挙げられる。
【0043】
他に記載しない限り、以下の定義を用いる。アルキル、アルコキシ、アルケニル、アルキニルなどは、直鎖および分枝の両方の基を意味する。しかし、個々のラジカル(例えばプロピル)についての言及は、分枝鎖異性体(例えばイソプロピル)が具体的に示されているとき、直鎖基のみを包含する。ハロはフルオロ、クロロ、ブロモ、またはヨードである。
【0044】
具体的に、低級アルキルは(C〜C)アルキルを指し、それは、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、ペンチル、3−ペンチル、またはヘキシルであり得、(C〜C)シクロアルキルは、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、またはシクロヘキシルであり得、(C〜C)シクロアルキル(C〜C)アルキルは、シクロプロピルメチル、シクロブチルメチル、シクロペンチルメチル、シクロヘキシルメチル、2−シクロプロピルエチル、2−シクロブチルエチル、2−シクロペンチルエチル、または2−シクロへキシルエチルであり得、(C〜C)アルコキシは、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ、sec−ブトキシ、ペントキシ、3−ペントキシ、またはヘキシルオキシであり得る。
【0045】
1つ以上のキラル中心を有する本発明のグリカンは、光学活性形およびラセミ形で存在または分離してもよいことが当業者に理解される。多形を示し得る化合物もある。本発明は、本発明のグリカンの任意のラセミ形、光学活性形、多形型の形態、もしくは立体異性形、またはそれらの混合物を包含することが、理解されるべきである。当該技術において利用可能な手法を、光学活性形を調製するため用いることができる(例えば、ラセミ形の分割により、再結晶の手法により、光学活性の出発材料からの合成により、キラル合成により、あるいは、キラル固定相を用いるクロマトグラフィー分離により)。
【0046】
置換および範囲について下記に挙げられる特定の値および好ましい値は、単なる例示である。それらは、他の特定される値または特定される範囲内のもしくは置換についての他の値を排除するものではない。
【0047】
本発明のライブラリー、アレイおよび組成物は、特に有用である。というのも、多様なグリカン構造を作るのは困難であり、また、単一グリカン種の実質的に純粋な溶液を生成させるのは難しいからである。例えば、グリカンに典型的に存在する糖単位は、いくつかのヒドロキシル基(−OH)を有し、それらのヒドロキシル基のそれぞれが実質的に等しい化学反応性であるため、一つの選択したヒドロキシル基を操作することは困難である。1つのヒドロキシル基をブロックし他の1つを遊離のままにすることは、容易なことではなく、所望の位置選択性および立体選択性を得るため注意深く設計された一連の反応を必要とする。さらに、必要な操作の数は、オリゴ糖のサイズとともに増加する。従って、二糖類の合成は5〜12の工程を必要とし得る一方、40もの化学工程が典型的な四糖の合成に必要とされ得る。従って従来、オリゴ糖類の化学合成は、精製の問題、低収率および高コストを伴うものであった。しかし、本発明は、多数の構造が異なるグリカンのライブラリーおよびアレイを提供することにより、これらの問題を解決している。
【0048】
本発明のグリカンは、種々の手法により得られている。例えば、N−アセチルグルコサミンとガラクトースの誘導体の間でグリコシル化を行うことによりN−アセチルラクトサミン類を調製するよう開発された化学的手法のいくつかは、Aly,M.R.E.;Ibrahim,E.−S.I.;El−Ashry,E.−S.H.E.およびSchmidt,R.R.,Carbohydr.Res.1999,316,121−132;Ding,Y.;Fukuda,M. and Hindsgaul,O.,Bioorg.Med.Chem.Lett.1998,8,1903−1908;Kretzschmar,G.and Stahl,W.,Tetrahedr.1998,54,6341−6358に記載されている。これらの手法は、本発明のグリカンを調製するのに使用できるが、そのような化学合成は多数の冗長な保護/脱保護の工程を伴うため、これらの方法で得られる生成物の量は少なく、例えば、ミリグラム量となり得る。
【0049】
グリカン合成に通常必要な保護−脱保護の工程を回避する1つの方法は、単糖間の結合反応のため、位置特異的かつ立体特異的な酵素(グリコシルトランスフェラーゼと呼ばれる)を用いることにより、オリゴ糖を合成する自然のやり方を模倣することである。これらの酵素は、グリコシル供与体(通常、糖ヌクレオチド)からグリコシルアクセプターに高い効率で単糖を転移させるのを触媒する。多くの酵素が水溶液(pH6〜8)中で室温において作用し、それは、1つの容器で複数工程の反応のためいくつかの酵素を組み合わせることを可能にする。高い位置特異性、立体特異性、および触媒効率のため、酵素は、オリゴ糖および複合糖質の実用的合成に特に有用である。Koeller,K.M.and Wong,C.−H.,Nature 2001,409,232−240;Wymer,N.and Toone,E.J.,Curr.Opin.Chem.Biol.2000,4,110−119;Gijsen,H.J.M.;Qiao,L.;Fitz,W.and Wong,C.−H.,Chem.Rev.1996,96,443−473参照。
【0050】
哺乳動物源および非哺乳動物源(例えば細菌)からのグリコシルトランスフェラーゼの分離およびクローニングが最近進歩したため、種々のオリゴ糖の調製が容易になっている。DeAngelis,P.L.,Glycobiol.2002,12,9R−16R;Endo,T.and Koizumi,S.,Curr.Opin.Struct.Biol.2000,10,536−541;Johnson,K.F.,Glycoconj.J.1999,16,141−146。一般に、細菌のグリコシルトランスフェラーゼは、哺乳動物のグリコシルトランスフェラーゼよりも、供与体およびアクセプターの特異性がゆるやかである。また、細菌の酵素は、酵素の過剰発現のため簡単にスケールアップできる細菌発現系(例えば大腸菌)においてうまく発現される。哺乳動物酵素の正しい折りたたみおよび活性に必要な翻訳後の修飾機構を細菌発現系は欠いているため、細菌源からの酵素はこの系に適合する。従って、多くの実施形態において、哺乳動物源からの酵素よりも細菌酵素の方がグリカンを生成させるための合成手段として使用される。
【0051】
例えば、Galβ(1−4)GlcNAc−の繰り返し単位は、β4−ガラクトシルトランスフェラーゼ(β4GalT)とβ3−N−アセチルラクトサミニルトランスフェラーゼ(β3GlcNAcT)の協同作用により酵素的に合成することができる。Fukuda,M.,Biochim.Biophys,Acta.1984,780:2,119−150;Van den Eijnden,D.H.;Koenderman,A.H.L.and Schiphorst,W.E.C.M.,J.Biol.Chem.1988,263,12461−12471。以前、本発明者らは、細菌N.meningitidesの酵素β4GalT−GalEおよびβ3GlcNAcTをクローニングして特徴を明らかにするとともに種々のガラクトシドの予備的合成にそれらが有用であることを実証した。Blixt,O.;Brown,J.,;Schur,M.;Wakarchuk,W.and Paulson,J.C.,J.Org.Chem.2001,66,2442−2448;Blixt,O,;van Die,I.;Norberg,T.and van den Eijnden,D.H.,Glycobiol.1999,9,1061−1071。β4GalT−GalEは、費用効率の高い手法をもたらす安価なUDP−グルコースのUDP−ガラクトースへの原位置転化(in situ転化)のためにβ4GalTおよびウリジン−5’−ジホスホ−ガラクトース−4’−エピメラーゼ(GalE)から構築された融合タンパク質である。本発明のグリカン、ライブラリーおよびアレイを生成させるため使用される手法のさらなる具体例は、実施例に示されている。
【0052】
多くの場合、本発明の組成物、ライブラリーおよびアレイに使用されるグリカンの構造は、本明細書に記載されているものである。しかし、ある場合には、グリカンの厳密な構造の代わりにグリカンの出所が提供される。従って、任意の利用可能な天然物からのグリカンを本発明のアレイおよびライブラリーに使用できる。例えば、既知の糖タンパク質は、有用なグリカン源である。そのような糖タンパク質からのグリカンは、利用可能な手順、例えば、本明細書に記載される手順を用いて分離することができる。次いで、そのようなグリカン調製物を本発明の組成物、ライブラリーおよびアレイに用いることができる。
【0053】
本発明のライブラリー中または本発明のアレイ上に与えられるグリカンの具体例を表3に示す。表3中のグリカン1〜200は、図7に示すグリカン1〜200に相当する。
【0054】
(表3)
【0055】
【表3−1】

【0056】
【表3−2】

【0057】
【表3−3】

【0058】
【表3−4】

【0059】
【表3−5】

【0060】
【表3−6】

【0061】
【表3−7】

【0062】
【表3−8】

【0063】
【表3−9】

表で使用される省略形の多くは、本明細書またはfunctional glycomics.org.のウェブサイトで規定されているものである。特に、以下の省略形を使用した。Spは「スペーサー」を意味する。
【0064】
本発明のグリカンは、それに結合されたスペーサー、リンカー、標識(ラベル)、結合部分、および/またはその他の部分を有することができる。これらのスペーサー、リンカー、標識、結合部分、および/またはその他の部分は、グリカンを固体支持体に結合させ、アッセイにおいて特定のグリカンを検出し、グリカンを精製し、あるいは、グリカンを操作するため、用いることができる。例えば、本発明のグリカンは、結合されたアルキルアミン基、アミノ酸、ペプチド、またはタンパク質により付与されるアミノ部分を有することができる。ある実施形態において、グリカンは、アルキルアミン部分(例えば、−OCHCHNH(Sp1と呼ぶ)、−OCHCHCHNH(Sp2またはSp3と呼ぶ)、NH−(CO)(CH−NH−(Sp4と呼ぶ)、または(CH−NH(Sp5と呼ぶ)(それらは有用な結合部分(アミン)を有しかつスペーサーまたはリンカーとして作用する))を有する。
【0065】
(グリカンアレイ)
本発明のアレイは、特徴が明らかにされた特定のグリカン構造のライブラリーを用いる。上記アレイは、一連の多様な炭水化物結合性タンパク質(例えば、植物レクチンおよびC型レクチン、シグレック、ガレクチン、インフルエンザ血球凝集素、並びに抗炭水化物抗体(精製していない血清、精製された血清画分、および精製されたモノクローナル抗体調製物からのもの))を用いて有効性が確認されている。
【0066】
本発明のライブラリー、アレイおよび方法は、いくつかの利点を有する。本発明の特別な利点の一つは、本発明のアレイおよび方法が再現性の高い結果をもたらすことである。
【0067】
もう一つの利点は、本発明のライブラリーおよびアレイが一反応で複数(多数)のグリカンのスクリーニングを可能にすることである。従って、本発明のライブラリーおよびアレイは、多数のおよび多様なグリカンを備える。例えば、本発明のライブラリーおよびアレイは、2種以上のグリカン、3種以上のグリカン、10種以上のグリカン、30種以上のグリカン、40種以上のグリカン、50種以上のグリカン、100種以上のグリカン、150種以上のグリカン、175種以上のグリカン、200種以上のグリカン、250種以上のグリカン、または500種以上のグリカンを有する。ある実施形態において、本発明のライブラリーおよびアレイは、2種より多いグリカン、3種より多いグリカン、10種より多いグリカン、40種より多いグリカン、50種より多いグリカン、100種より多いグリカン、150種より多いグリカン、175種より多いグリカン、200種より多いグリカン、250種より多いグリカン、または500種より多いグリカンを有する。他の実施形態において、本発明のライブラリーおよびアレイは、約2〜約100000、約2〜約10000、約2〜約7500、約2〜約1000、約2〜約500、約2〜約200、または約2〜約100の異なるグリカンを一ライブラリーまたは一アレイあたりに有する。他の実施形態において、本発明のライブラリーおよびアレイは、約50〜約100000、約50〜約10000、約50〜約7500、約50〜約1000、約50〜約500、または約50〜約200の異なるグリカンを一ライブラリーまたは一アレイあたりに有する。そのような多数のグリカンは、多数のグリカン種の同時アッセイを可能にする。
【0068】
さらに、本明細書に記載するとおり、本発明のアレイは、種々のグリカン結合性タンパク質を首尾よくスクリーニングするため用いられた。本発明のグリカンアレイは、酸性、塩基性の水性または有機性洗浄工程による除去の後、再利用できる。実験により、グリカンの分解がほとんど起こらないこと、および、スクリーニングアッセイ中に消費されるグリカン結合性タンパク質がごく少量であることが実証されている。従って、本発明のアレイは、複数のアッセイに使用できる。
【0069】
本発明のアレイおよび方法は高い信号対雑音比(SN比)をもたらす。本発明により提供されるスクリーニング法は、迅速かつ簡便である。というのも、それは一工程または数工程しか必要としないからである。一般的に、本発明のアッセイ法では、表面の修飾またはブロッキングの工程を必要としない。
【0070】
本発明のアレイ上にあるグリカンの構成は、当業者により必要に応じて変更することができる。多くの異なる複合糖質を本発明のアレイに組み込むことができ、例えば、精製されたグリカン類、天然または合成のグリカン類、糖タンパク質、糖ペプチド、糖脂質、細菌および植物細胞壁のグリカン類などがそれに含まれる。本発明のアレイに異なるグリカンを結合させるための固定化法は、簡単に制御され、アレイの構築を簡単に可能にする。
【0071】
スペーサー分子またはスペーサー基を用いて、グリカンをアレイに結合させることができる。そのようなスペーサー分子または基は、適正に安定な(例えば、ほぼ化学的に不活性な)鎖または重合体を含む。例えば、上記スペーサー分子またはスペーサー基はアルキレン基とすることができる。アルキレン基の一例は−(CH)n−(nは1〜20の整数)である。ある実施形態においてnは1〜10の整数である。
【0072】
異なるグリカンのユニークなライブラリーは、任意の利用可能な手法により、アレイ表面の固体支持体上の複数の特定の領域に結合される。一般的に、上記アレイは、グリカン分子のライブラリーを得、上記ライブラリー中のグリカンに結合部分を有するスペーサー分子を結合し、上記ライブラリーのグリカン上に存在する上記特定の結合部分と反応するよう誘導体化された表面を有する固体支持体を得、そして、上記結合部分と上記固体支持体の誘導体化された表面との間に共有結合を形成することにより上記グリカン分子を上記固体支持体に結合させることによって、作製される。
【0073】
例えば、(ポリ)トリフルオロクロロエチレン表面を有する基材を用いることにより炭素−炭素結合を介して、より好ましくは、シロキサン結合により(例えば、ガラスまたは酸化シリコンを固体基材として用いて)、固体基材に誘導体化試薬を結合させることができる。一実施形態において、基材表面とのシロキサン結合は、トリクロロシリル基またはトリアルコキシシリル基を有する誘導体化試薬の反応を介して形成される。
【0074】
例えば、特定の第一級アミノ基を含むよう修飾されたグリカンライブラリーを使用できる。かくして、ある実施形態において、本発明のグリカンは、結合されたアルキルアミン基、アミノ酸、ペプチド、またはタンパク質により付与されたアミノ部分を有することができる。例えば、グリカンは、第一級アミノ基を与える結合されたアルキルアミン基(例えば−OCHCHNH基(Sp1と呼ぶ)、−OCHCHCHNH基(Sp2またはSp3と呼ぶ)、NH−(CO)(CH−NH−基(Sp4と呼ぶ)、または(CH−NH基(Sp5と呼ぶ)を有することができる。グリカン上の第一級アミノ基は、固体支持体のN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)で誘導体化された表面と反応し得る。そのようなNHSで誘導体化された固体支持体は市販品として入手できる。例えば、NHSで活性化されたガラススライドは、Accelr8 Technology Corporation,Denver,CO(現在Schott Nexterion,Germany)から入手できる。すべての必要なグリカンを結合させた後、固体支持体上に残存するNHS官能基を不活性化させるため、さらにスライドをエタノールアミン緩衝剤とともにインキュベートすることができる。このアレイは、さらに表面を修飾することなく使用できる。一般的に、非特異的結合を防ぐためのブロッキング工程は必要でない。図1は、グリカン分子のアレイを作製するためのそのような方法の模式図を示す。
【0075】
それぞれの型のグリカンは、特定のグリカンプローブ部位において固体支持体に接触またはプリント(印刷)される。適当なプリント法には、ピエゾプリント法またはピンプリント法がある。特定のグリカンプローブ部位に種々のグリカンを付与するため、マイクロアレイ遺伝子用プリンターを使用できる。このプリント工程は図1に模式的に示される。X方向のプリントはグリカンの「縦列」となり、X方向に垂直な方向のプリントは「横列」となる。プリント中、イングジェットは一般に静止しており、ステッピングステージがヘッドに対してX方向にガラススライドまたは他の固体表面を移動させる。ウェーハがヘッドを通過するに従って、適当なグリカンが各グリカンプローブ部位にプリントされる。いくつかのノズルが同時に所定量のグリカン溶液を分配する。
【0076】
例えば、約0.1nL〜約10nLまたは約0.5nLのグリカン溶液を特定のグリカンプローブ部位一つあたりに塗布することができる。種々の濃度のグリカン溶液を、固体支持体に接触させまたはプリントすることができる。例えば、約0.1〜約1000μMグリカン、約1.0〜約500μMグリカン、または約10〜約100μMグリカンのグリカン溶液を使用できる。一般に、いくつかの(例えば3〜6の)特定のグリカンプローブ部位からなる繰り返し部に各濃度のものを塗布することが望ましい。そのような繰り返し部は、あるグリカンとある試験分子との間の結合反応が真の結合性相互作用であるか否かを確認する内部対照を提供する。
【0077】
(グリカン結合を検出する方法)
意図するところによれば、本発明のアレイは、新規の治療薬のために化学的および分子生物学的ライブラリーをスクリーニングするのに有用であり、既知の生物学的レセプターについておよび既知のリガンドに対する新規のレセプターについてリガンドを同定するのに有用であり、診断および処置の目的でエピトープを同定し、抗体の特徴を調べ、ヒトの個体群の遺伝子型を特定するのに有用であり、そして、多くの他の用途に有用である。任意のそのようなリガンド、レセプター、レクチン類、ガレクチン類、抗体、タンパク質等は、本明細書に記載されるアレイおよび方法を用いて検出できる可能性のあるグリカン結合性物質となり得る。
【0078】
本発明のアレイは、分子認識に基づくアッセイに用いることが意図される。そこにおいて、グリカン結合性物質を含む可能性がある試料は、上記アレイの支持体表面の所定の空間的位置(グリカンプローブ部位)にある出所または構造が知られたグリカンのアレイに接触させられる。上記アレイの特定のグリカンプローブ部位において標識を検出することにより、結合が認識される。そこにおいて、上記標識は、グリカン結合性物質に直接または間接的に結合される。グリカン結合性物質の結合は、洗浄中そして結合標識の検出が完了するまでグリカンアレイによる上記物質の保持が可能になるよう、十分に親和性が高いものである。
【0079】
本発明のアレイの使用において、アレイのある特定の位置でグリカンに結合されるレクチン、抗体、タンパク質、分子、または化学成分の正体は、結合された物質に結合する標識の位置を検出し、それをアレイの標識ファイルと関連づけることにより、特定することができる。上記標識ファイルは情報のファイルであり、そこには、上記ファイルに属する上記アレイ中の各グリカンの正体と位置が記録されている。この標識ファイルを物理的なアレイと関連付ける種々の方法がある。例えば、シリコンチップ、磁気帯、またはバーコードにより、アレイまたはそのハウジング上に、上記標識ファイルを物理的にコード化することができる。一方、アレイを特定の標識ファイルに対応させる情報は、データ解析装置または上記装置とやりとりを行うコンピュータに記憶される実際のファイルを用いて、アレイまたはそのハウジング上に含めることができる。標識ファイルの物理的アレイへの関連づけは、データ解析時に行うことができる。それを行うさらにもう一つの方法は、ディスクまたはカードのような手段に上記標識ファイルを記憶することであり、そのような手段は、アッセイにおいてアレイを使用するときアレイの使用者によりデータ解析装置に挿入できるものである。
【0080】
グリカン結合性物質に標識を直接結合させることができる(例えば、上記標識と精製されたグリカン結合性物質との共有結合により)。一方、グリカン結合性物質に標識を間接的に結合させてもよい。例えば、既知のグリカン結合性物質に結合する二次抗体に、標識を共有結合させることができる。
【0081】
結合された標識は、任意の利用可能な検出方法を用いて観測することができる。例えば、アレイスキャナーを用いて、アレイに結合される蛍光標識分子を検出することができる。本明細書に例示される実験では、ScanArray5000(GSI Lumonics,Watertown,MA)共焦点スキャナーが用いられた。そのようなアレイスキャナーからのデータは、当該技術において利用可能な方法により解析することができ、例えば、ImaGene画像解析ソフトウェア(BioDiscovery Inc.,El Segundo,CA)を用いて解析できる。
【0082】
(疾患を検出する方法)
本発明によれば、本発明のグリカンアレイを用いて患者の体液からの抗体を検出することができる。それらの抗体により認識される特定のグリカンエピトープにより、特定の疾患のタイプが分かる。問題とする疾患でない健常者は、そのような抗体のレベルがさらにより低いかまたはそれらのグリカンと反応する抗体が殆どない。癌、細菌感染、ウイルス感染、炎症、移植拒絶、自己免疫疾患などの疾患に伴う抗体を、本発明のグリカンアレイを用いて検出できる。
【0083】
疾患を検出するため、患者から試験試料を得る。患者は、ある疾患であってもよいし、なかってもよい。従って、本発明の方法は、患者がある疾患を有するかどうかまたはある疾患にかかる性質を有するかどうか診断または検出するために用いられる。一方、本発明の方法は、ある特定の疾患を有することがわかっている患者について用いることができる。この場合、上記疾患の予後をモニターできる。
【0084】
患者から得られる試験試料は、任意の組織、体液の試料または病理試料とすることができる。例えば、試験試料は、血液試料、血清試料、血漿試料、尿試料、母乳試料、腹水試料、または組織試料とすることができる。多くの実施形態において、試料は血清試料である。試験試料はグリカン結合性物質を含んでもよいし含まなくともよい。本明細書に記載する方法は、そのようなグリカン結合性物質が試験試料に存在するかどうかを検出することを可能にする。
【0085】
ある実施形態において、特定のグリカン結合性物質の存在により、特定の疾患、症状または疾病状態(病態)がわかる。従って、例えば、本明細書に例示するとおり、患者血清中の抗体によるグリカン結合の増加が検出されれば、患者が疾患である可能性があることがわかる。経時的なグリカン結合のレベルの比較は、疾患が進行しているかどうか、患者が疾患から回復しているかどうか、または疾患が緩解しているかどうかの指標をもたらす。従って、本発明は、疾患を検出するとともに患者における疾患の進行をモニターするための方法を提供する。
【0086】
特定の疾患または疾患を発症する可能性を検出するための方法についていくつかの具体例を例示の目的で記載する。
【0087】
乳癌:乳癌は通常、乳管の内側を覆う細胞および末端管小葉単位において始まり、その第一段階は「導管過形成」をもたらす個々の(複数の)細胞の過度の増殖と考えられている。次いで過形成細胞のあるものは非定型となり得、上記非定型の過形成細胞が腫瘍性または癌性となる危険性が顕著になる。最初、癌性細胞は乳管にとどまっており、その状態を非浸潤性乳管癌(DCIS)と呼ぶ。しかし、ある時間後、そのような乳癌細胞は、管環境の外にある組織に侵入することができ、患者にとって致命的となり得る転移の危険性をもたらす。乳癌は、不連続な前悪性(前癌性)および悪性の細胞の段階(すなわち、正常な管上皮、非定型の導管過形成、非浸潤性乳管癌(DCIS)、および最終的な浸潤性の腺管癌)を経て進行する。最初の3つの段階は、管系内に限定されており、従って、診断および処置を行う場合、治癒の確率が最も高くなる。
【0088】
DCIS期を通じての乳癌は理論上かなり処置可能なものであるが、有効な治療には、早期診断と効果的な治療法の両方が必要である。目下、マンモグラフィー(乳房撮影法)が乳癌を検出するための最新の診断手段である。しかし、マンモグラフィーは、0.1cm〜1cmの範囲のサイズに達した腫瘍を検出できるにすぎないことがしばしばある。そのような腫瘍塊になるまで、疾患のプロセスの開始後8〜10年もかかる場合がある。そのような遅い段階での乳癌の検出は、有効な治療を可能にするにはしばしば遅すぎる。
【0089】
従って、一実施形態において、本発明は、患者の乳癌を検出および診断するための迅速で信頼性が高く非侵襲的な方法を提供する。上記方法は、患者からの試験試料をグリカンのライブラリーまたはアレイに接触させる工程、および、上記試験試料中の抗体が所定のグリカンに結合するかどうかを観察する工程を包含する。上記試験試料は任意の体液または組織の試験試料とすることができるが、容易に得られそして本発明の方法を用いて容易に検出できる抗体を含むものは血清である。血清の試験試料中にある抗体に結合し得るグリカンには、セルロプラスミン、Neu5GC(2−6)GalNAc、GM1、Sulfo−T、Globo−H(グロボ−H)、およびLNT−2がある。対照として、乳癌患者からの抗体により結合されるグリカンのパターンを、健康で癌性でない者からの血清試料中にある抗体により結合されるグリカンのパターンと比較することができる。
【0090】
ウイルスの検出:本明細書に例示するように、そして、米国仮特許出願第60/550667(2004年3月5日出願)にさらに記載されるように、抗HIV中和抗体(2G12)は、Man8グリカンに選択的に結合する。すべての試験された天然の高マンノース型構造の中で、2G12抗体は、Man8グリカンにのみ結合することについて、驚くべき予想外の強い選択性を示した。このグリカンは、全N結合グリカン類の20%の程度までHIVgp120に存在することが報告されている(Scanlan et al.(2002)J Virol 76,7306−7321)。比較として、結晶学的研究ですでに調べられたMan9グリカンは、2G12による結合が相対的に弱く、また、Man5、Man6およびMan7グリカンは全く結合を示さなかった。
【0091】
ウイルスタンパク質のグリコシル化は、ウイルス酵素よりもむしろ宿主細胞酵素によって通常行われる。多くのウイルスゲノムがかなり変わりやすいと想定すると、宿主酵素によるウイルスタンパク質のグリコシル化は、容易に突然変異するウイルス核酸の翻訳により生じるエピトープよりも安定な抗原性エピトープを生じさせる可能性が高い。従って、ウイルスに付随するグリカンは、ウイルスの感染を阻害および処置するための改良された組成物(ワクチンを含む)の基礎を形成し得る。
【0092】
また本明細書に示すとおり、インフルエンザウイルス血球凝集素は、Neu5Acα2−3−結合ガラクトシドに結合する(24、162−169、176−180、図7参照)が、任意のNeu5Acα2−6−またはNeu5Acα2−8−結合シアロシドには結合しない。無傷のインフルエンザウイルス(例えばA/Puerto Rico/8/34(H1N1))もアレイに強く結合した。全体の親和性は、以前の知見と整合しており、また、α2−3シアロシドおよびα2−6シアロシドの両方に対して特異性を示している。Rogers,G.N.& Paulson,J.C.(1983)Virol.127,361−73。また、インフルエンザウイルスは、特定のO結合シアロシドと同様に、Neu5Acα2−3−結合ガラクトシドおよびNeu5Acα2−6−結合ガラクトシド(24、151、157、161−180、182−190、199、図7参照)にも結合した。
【0093】
従って、本発明は、ウイルスの感染、例えば、HIVまたはインフルエンザの感染を検出する方法を提供する。上記方法は、患者からの試験試料をグリカンのライブラリーまたはアレイに接触させる工程、および、ウイルス、ウイルス抗原、またはウイルス自体に反応性の抗体が上記試験試料中に存在するかどうかを観察する工程を包含する。そのような抗体、ウイルス抗原、およびウイルス粒子の存在は、それらの抗体、ウイルス抗原およびウイルス粒子に結合することが予め確認されているグリカンへのその結合を検出することにより、検出できる。従って、抗体、ウイルス抗原、またはウイルスに結合するグリカンは、感染があるかどうかを知らせるものである。そのようなグリカンは、ウイルス特異的グリカンエピトープまたは宿主細胞上に存在するウイルス結合性部位とすることができる。例えば、ウイルス特異的グリカンエピトープの一種は、Man8グリカン(類)(それに抗HIV2G12抗体が結合する)である。Man8グリカン類に結合する抗体の検出は、HIV感染またはAIDS発症への進行を知る一つの指標である。当業者は、本明細書の開示を利用してウイルス感染についてスクリーニングするためのグリカンアレイを容易に調製することができる。
【0094】
グリコシル化レベルの検出:また、本発明のグリカンアレイは、種々の糖タンパク質が適切にグリコシル化されているかどうかを検出するため用いることができる。種々の疾患は、不適当なレベルのグリコシル化(例えばグリコシル化の欠如)または不適切なタイプのグリコシル化により特徴付けられる。例えば、糖鎖欠損糖タンパク質症候群(CDGS)は、タンパク質のグリコシル化不足に関係するものである。CDGSについての最も一般的な初期試験は、等電点電気泳動法を用いて糖タンパク質トランスフェリン上のグリコシル化パターンを解析することである。本発明によれば、患者のトランスフェリン試料からグリカンを分離し、本明細書に記載する固体表面にプリントし、そして、定量することができる。定量は、特定のグリカンに結合する抗体またはレクチンを用いて行うことができる。また、トランスフェリンのグリコシル化の変化を通じて、アルコール依存症を診断することができる。
【0095】
移植拒絶の検出:本明細書に例示するとおり、移植される組織に対して誘導される免疫応答は、本発明のアレイおよび方法を用いて検出された。特に、糖尿病患者数人がブタ胎児ランゲルハンス島様細胞集塊の移植を受けた。移植の前、並びに移植後1ヶ月(t=1)、移植後6ヶ月(t=2)および移植後12ヶ月(t=3)に、これらの患者から血清を採取した。本明細書に記載し例示するとおり、移植後、α−Gal−3グリカンエピトープに反応性である抗体が顕著により多量に検出された(図11参照)。例えば、移植レシピエント中の抗体が以下のグリカンエピトープに結合した。Gal−α3−Gal−β(構造33)、Gal−α3−Gal−β4−GlcNAc[α3−フコース]−β(構造34)、Gal−α3−Gal−β4−Glc−β(構造35)、Gal−α3−Gal[α2−フコース]−β4−GlcNAc−β(構造36)、Gal−α3−Gal−β4−GalAc−β(構造37)、Gal−α3−GalAc−α(構造38)、およびGal−α3−Gal−β(構造39)。
【0096】
特に、α−Gal−LeXに結合する抗体を検出した(図7の構造34、図11Cにも示す)。このα−Gal−LeXグリカンはヒトに存在しないが、ブタの腎臓細胞上に存在することが報告されている。Bouhors D.et al.,Gala1−3−LeX expressed on iso−neolacto ceramides in porcine kidney GLYCOCONJ.J.(10)1001−16(1998)参照。しかし、ブタ胎児ランゲルハンス島様細胞集塊の移植を受けた患者は、α−Gal−LeXグリカンエピトープに対する免疫応答(抗体の生産)をはっきり示した。
【0097】
従って、本発明のアレイおよび方法は、移植および/または異種移植の後の移植片拒絶を検出、モニター、評価、および処置するため有用である。
【0098】
(疾患を処置する方法)
また、本発明は、疾患を処置および予防するための免疫原および栄養補助食品として使用できるグリカン組成物を提供する。従って、例えば、本発明の組成物は、癌、細菌感染、ウイルス感染、炎症、移植拒絶、自己免疫疾患などのような疾患を処置するため用いることができる。ある実施形態において、本発明の組成物に含有させるため選ばれるグリカンは、抗原性であり、ある細菌種、あるウイルス種、癌細胞種などに対して免疫応答を生じさせ得るものである。他の実施形態において、本発明の組成物に含有させるため選ばれるグリカンは、必ずしも抗原性ではない。その代わりに、グリカンは、ある疾患の予後に寄与する抗体、レセプターなどに結合し得るものであるか、または、それらへの結合と競合し得るものである。従って、例えば、炎症または移植拒絶時に組織破壊を引き起こし得る抗体に結合させるため、非抗原性グリカンを投与してもよい。他の実施形態において、自己免疫応答を処置または予防するため、グリカンを投与する。
【0099】
そのような組成物は、疾患、感染または免疫症状に伴う循環抗体により通常認識される一種以上のグリカンを含む。例えば、乳癌を処置または予防するため調製される組成物は、転移性の乳癌を有する患者の循環抗体により通常認識されるグリカンを含む。従って、乳癌を処置および予防するための組成物に含まれ得るグリカンの具体例には、セルロプラスミン、Neu5Gc(2−6)GalNAc、GM1、Sulfo−T、Globo−H、およびLNT−2が含まれる。ある実施形態において、グリカンの型および量は、患者の抗癌性細胞免疫応答を引き起こすのに有効なものである。
【0100】
同様に、ウイルスの感染を予防または処置するための組成物は、ウイルスに特異的なグリカンエピトープを含む。例えば、ウイルス特異的グリカンエピトープの一種は、抗HIV2G12抗体が結合する一つまたは複数のMan8グリカンである。当業者は、本明細書の開示を利用して、Man8グリカンの組成物または多くの種類のウイルス感染を処置および予防するための他のウイルス特異的グリカンエピトープの組成物を容易に調製することができる。
【0101】
同様に、細菌の感染を処置または予防するための本発明の組成物は、細菌に特異的なグリカンエピトープを含む。
【0102】
本発明の組成物は、患者に直接投与してもよく、冒された器官にまたは全身に投与してもよく、あるいは、生体外で患者またはヒト細胞株に由来する細胞に付与して後に患者に投与してもよく、あるいは、患者に由来する免疫細胞からの亜集団(分集団)を選別するためインビトロで本発明の組成物を使用して後に患者に再投与してもよい。上記組成物は、アジュバントとともに、または、免疫刺激性サイトカイン(例えばインターロイキン2)とともに投与することができる。免疫刺激性アジュバントの一例はデトックス(Detox)である。また、グリカンは、適当なキャリア(例えばスカシガイヘモシアニン(KLH)またはマンナン)に結合(抱合)させてもよい(WO95/18145およびLongenecker et al(1993)Ann.NY Acad.Sci.690,276−291参照)。グリカンは患者に経口投与、筋内投与、皮内投与、または皮下投与することができる。
【0103】
ある実施形態において、本発明の組成物は、体液性応答を生じさせる態様で投与される。従って、一種または複数種のグリカンに対して誘導される抗体の生産は、望ましい免疫応答が得られたかどうかの一つの尺度である。
【0104】
ある実施形態において、本発明の組成物は、細胞免疫応答を生じさせ、NK細胞または細胞障害性T細胞(CTL)による腫瘍細胞死をもたらすような態様で投与される。Tヘルパー細胞を活性化する投与の方法は特に有用である。上述したように、体液性応答を刺激することも有用であり得る。そのような応答を促進する特定のサイトカイン(例えばインターロイキン2、インターロイキン12、インターロイキン6、またはインターロイキン10)を同時に投与することも有用であり得る。
【0105】
注入の部位により、デリバリー系を用いることにより、または患者からの該当する細胞個体群を選択的に精製しかつ一種または複数種のグリカンを抗原提示細胞に生体外投与することにより、特定の細胞個体群(例えば抗原提示細胞)を上記免疫組成物の標的とすることも有用であり得る。例えば、樹状細胞を、Zhou et al(1995)Blood 86,3295−3301;Roth et al(1996)Scand.J.Immunology 43,646−651に記載されるように選別することができる。
【0106】
従って本発明のさらなる局面は、疾患に対して有効なワクチンを提供し、それは、上記疾患を有する患者の循環抗体により結合されるグリカンの有効量を含む。
【0107】
(本発明の抗体)
本発明は、種々の疾患の患者に存在する循環抗体と反応するグリカンに結合する抗体を提供する。そのような抗体は、疾患の診断および処置に有用である。例えば、本明細書に例示するとおり、種々の患者は、乳癌に関連するグリカンエピトープに対して異なる量および時に異なる種類の抗体を生産している可能性がある。従って、患者が乳癌エピトープに反応性の抗体を生産し始めている場合でも、本発明の乳癌関連グリカンエピトープに対して良好な親和性を有することが分かっている抗体を投与することは有益である。同様に、本明細書に例示するとおり、特定のグリカン分子は、抗HIV中和抗体により認識される優れた抗原性エピトープである。分かっているHIVエピトープに対して若干異なる(例えば向上した)親和性を有する抗体は、HIVを処置および検出するのに有用である。従って、本発明は、本明細書に示すグリカンエピトープのいずれかに結合することができる抗体調製物を提供する。
【0108】
選ばれたグリカン、選ばれた型のグリカンまたは選ばれたグリカンの混合物を免疫抗原として用いることにより、抗体を調製することができる。必要に応じて、上記グリカンまたはグリカン混合物をキャリアタンパク質に結合させることができる。一般的に使用されるそのようなキャリアタンパク質でエピトープに化学結合されるものには、スカシガイヘモシアニン(KLH)、チログロブリン、ウシ血清アルブミン(BSA)、および破傷風毒素がある。結合されるタンパク質は、動物(例えば、マウス、ラットまたはウサギ)を免疫化するのに使用できる。
【0109】
必要に応じて、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体を、例えば、それに対して抗体が生じたグリカンまたはグリカンの混合物が結合されたマトリックスに結合させ、そしてそこから溶出させることにより、さらに精製することができる。ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体の精製および/または濃縮のため免疫技術において一般的な種々の技法が当業者に知られている(Coligan,et al.,Unit 9,Current Protocols in Immunology,Wiley Interscience,1991,この引用によりその内容は本明細書に記載されたものとする)。
【0110】
また、エピトープを模倣するモノクローナル抗体を生産させるため抗イディオタイプ技術を用いることもできる。例えば、第一のモノクローナルに対して作られた抗イディオタイプモノクローナル抗体は、上記第一のモノクローナル抗体により結合されるエピトープの「イメージ」である超可変領域において結合ドメインを有する。
【0111】
グリカンへの結合に適する抗体は、上記グリカンの少なくとも一つのタンパク質または領域に対して特異的である。例えば、本発明の適当な抗体を生成させるため、グリカンの全体またはグリカンの断片を当業者は用いることができる。本発明の抗体には、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、並びにポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体のフラグメントが含まれる。
【0112】
ポリクローナル抗体の調製は当業者によく知られている(Green et al.,Production of Polyclonal Antisera,in Immunochemical Protocols(Manson,ed.),pages 1−5(Humana Press 1992);Coligan et al.,Production of Polyclonal Antisera in Rabbits,Rats,Mice and Hamsters,in Current Protocols in Immunology,section 2.4.1(1992)(この引用により、それらの内容は本明細書に記載されたものとする))。例えば、グリカンまたはグリカン混合物を動物宿主に注射し(好ましくは、一つ以上の追加免疫化を組み込む所定のスケジュールに従って)、そして、上記動物から定期的に血液を採取する。次いで、グリカンまたはグリカンのフラグメントに特異的なポリクローナル抗体を、例えば、適当な固体支持体に結合されたグリカンを用いるアフィニティクロマトグラフィーにより、そのような抗血清から精製することができる。
【0113】
モノクローナル抗体の調製も同様に通常のものである(Kohler & Milstein,Nature,256:495(1975);Coligan et al.,sections 2.5.1−2.6.7;and Harlow et al.,Antibodies:A Laboratory Manual,page 726(Cold Spring Harbor Pub.1988)(この引用により、これらの内容は本明細書に記載されたものとする))。簡単に説明すると、抗原(グリカン)を含む組成物をマウスに注射し、血清試料を取り出して抗体生産の存在を確認し、脾臓を取り出してBリンパ球を得、上記Bリンパ球を骨髄腫細胞と融合してハイブリドーマを生成させ、上記ハイブリドーマをクローニングし、上記抗原に対して抗体を生産する陽性のクローンを選別し、そして、上記ハイブリドーマ培養物から抗体を分離することにより、モノクローナル抗体を得ることができる。モノクローナル抗体は、種々のよく確立された技法により、ハイブリドーマ培養物から分離かつ精製することができる。そのような分離法には、プロテインAセファロースを用いるアフィニティクロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、およびイオン交換クロマトグラフィーが含まれる(Coligan et al.,sections 2.7.1−2.7.12 and sections 2.9.1−2.9.3;Barnes et al.,Purification of Immunoglobulin G(IgG),in Methods in Molecular Biology,Vol.10,pages 79−104(Humana Press 1992))。インビトロおよびインビボでモノクローナル抗体を増殖させる方法は当業者が利用可能なところである。インビトロでの増殖は、必要に応じて哺乳動物の血清(例えば胎児ウシ血清)または微量元素および成長維持補助因子(例えば正常なマウスの腹腔浸出細胞、脾臓細胞、骨髄マクロファージ)により補足された適当な培養培地(例えばダルベッコ変法イーグル培地またはRPMI1640培地)において行うことができる。インビトロでの生産は、相対的に純粋な抗体調製物をもたらし、大量の必要な抗体を生成させるためのスケールアップを可能にする。大規模なハイブリドーマの培養は、エアリアクター、連続撹拌リアクターにおける均質な懸濁培養により、または固定化もしくは捕捉された細胞培養により行うことができる。インビボでの増殖は、抗体生産性腫瘍の増殖を生じさせるため、親細胞に組織適合性である哺乳動物(例えば、同系のマウス)に細胞のクローンを注入することにより行うことができる。必要に応じて、注入に先立ち、炭化水素(特に純粋なテトラメチルペンタデカンのような油)を上記動物に投与する。1〜3週間後、必要なモノクローナル抗体を上記動物の体液から回収する。
【0114】
抗体はファージディスプレイ法を使用することにより調製することもできる。一具体例において、本発明のグリカンまたはグリカンの混合物のような抗原で生物を免疫処置する。上記免疫処置された生物の脾臓からリンパ球を分離する。全RNAを上記脾臓細胞から分離し、上記全RNA内に含まれるmRNAを相補デオキシリボ核酸(cDNA)に逆転写する。免疫グロブリンの軽鎖(L鎖)および重鎖(H鎖)の可変領域をコードするcDNAをポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅する。単一鎖フラグメントの可変(scFv)抗体を生成させるため、上記軽鎖および重鎖の増幅産物を、スプライスオーバーラップ伸長PCRにより結合して完全な配列を生成させることができ、そして、適当なベクターに連結することができる。次いで、大腸菌を、scFvをコードするベクターで形質転換し、ヘルパーファージに感染させ、その表面に抗体を提示するファージ粒子を生成させる。一方、完全な抗原結合フラグメント(Fab)を生成させるため、重鎖の増幅産物を、ファージ外被タンパク質をコードする核酸配列と融合させることができ、そして、軽鎖の増幅産物を適当なベクターにクローニングすることができる。ファージ外被タンパク質に融合された重鎖を発現する大腸菌を、上記軽鎖の増幅産物をコードするベクターで形質転換する。軽鎖と重鎖の間のジスルフィド結合は、大腸菌の周辺質において確立される。この方法の結果、最高10クローンを有する抗体ライブラリーが生産される。同じまたは異なる宿主からのものとすることができるさらに免疫化された生物の免疫応答をその後に付加することにより、上記ライブラリーの大きさを1018ファージに増やすことができる。特定の抗原を認識する抗体をパンニングにより選別することができる。簡単に説明すると、抗体ライブラリー全体を、必要な抗体に対する固定化抗原にさらすことができる。抗原に結合する抗体を発現していないファージは洗い流される。必要な抗体を発現するファージは、抗原上に固定化される。次いで、これらのファージを流出させ、再度大腸菌において増幅する。抗原に特異的に結合する抗体を発現するファージの数を増やすため、このプロセスを繰り返すことができる。抗原に結合する抗体を発現するファージを分離した後、上記抗体についてのコード配列を有するベクターを、ファージ粒子から分離することができ、そして、上記コード配列を適当なベクターに再度クローニングして可溶型の抗体を生成させることができる。もう一つの具体例において、特定のグリカンエピトープに結合する抗体(例えばモノクローナル抗体)について選別するため、ヒトのファージライブラリーを使用することができる。簡単に説明すると、疾患(例えば、癌、細菌感染、ウイルス感染、炎症、移植拒絶、自己免疫疾患など)を有するヒトから脾臓細胞を分離することができ、そして、それを用いて、本明細書に記載される方法および当該技術において利用可能な方法に従い、ヒトのファージライブラリーを生成させることができる。そのような方法は、特定のグリカンエピトープに結合するヒトモノクローナル抗体を得るため、使用することができる。抗原および抗体を分離するためのファージディスプレイ法は、当該技術において知られており、報告されている(Gram et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.,89:3576(1992);Kay et al.,Phage display of peptides and proteins:A laboratory manual.San Diego:Academic Press(1996);Kermani et al.,Hybrid,14:323(1995);Schmitz et al.,Placenta,21 Suppl.A:S106(2000);Sanna et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.,92:6439(1995))。
【0115】
本発明の抗体は、「ヒト化」モノクローナル抗体から得ることができる。ヒト化モノクローナル抗体は、マウス相補性決定領域をマウス免疫グロブリンの可変重鎖および可変軽鎖からヒトの可変ドメインに移し、次いで、上記マウスの対応物のフレームワーク領域にヒトの残基を置換することによって生成される。ヒト化モノクローナル抗体から得られる抗体成分を使用することによって、マウス定常領域の免疫原性に伴う問題の可能性が回避される。マウス免疫グロブリン可変ドメインをクローニングするための一般的な手法が報告されている(Orlandi et al.,Proc.Nat’l Acad.Sci.USA,86:3833(1989)(この引用によりその内容は本明細書に記載されたものとする))。ヒト化モノクローナル抗体を生成させるための手法が報告されている(Jones et al.,Nature,321:522(1986);Riechmann et al.,Nature,332:323(1988);Verhoeyen et al.,Science,239:1534(1988);Carter et al.,Proc.Nat’l Acad.Sci.USA,89:4285(1992);Sandhu,Crit.Rev.Biotech.,12:437(1992);およびSinger et al.,J.Immunol.,150:2844(1993)(この引用によりそれらの内容は本明細書に記載されたものとする))。
【0116】
さらに本発明の抗体はヒトモノクローナル抗体から得ることができる。そのような抗体は、抗原による攻撃に応答して特定のヒト抗体を生産するよう「設計」されたトランスジェニックマウスから得られる。この手法では、内因性の重鎖および軽鎖の遺伝子座において目的とする部分が破壊された胚幹細胞株から誘導された血統のマウスに、ヒトの重鎖および軽鎖の遺伝子座の要素を導入する。そのトランスジェニックマウスは、ヒト抗原(例えば本明細書に記載するグリカン)に特異的なヒト抗体を合成することができ、そして、上記マウスはヒト抗体を分泌するハイブリドーマを生成させるのに使用することができる。トランスジェニックマウスからヒト抗体を得るための方法が報告されている(Green et al.,Nature Genet.,7:13(1994);Lonberg et al.,Nature,368:856(1994);およびTaylor et al.,Int.Immunol.,6:579(1994)(この引用によりそれらの内容は本明細書に記載されたものとする))。
【0117】
本発明の抗体フラグメントは、抗体のタンパク質加水分解により調製することができ、あるいは、上記フラグメントをコードするDNAの大腸菌における発現により調製することができる。抗体フラグメントは、通常の方法により抗体全体をペプシンまたはパパインで消化することによって得ることができる。例えば、F(ab’)で表される5Sフラグメントをもたらすペプシンで抗体を酵素開裂することにより、抗体フラグメントを生成させることができる。チオール還元剤を用い、さらに必要に応じてジスルフィド結合の開裂から生じるスルフヒドリル基のためのブロッキング基を用いて、このフラグメントをさらに開裂させることができ、それにより3.5SのFab’一価フラグメントを生成させることができる。一方、ペプシン法を用いた酵素による開裂により、2つの一価Fab’フラグメントとFcフラグメントが直接生成される。これらの方法が報告されている(米国特許第4036945号、第4331647号、および第6342221号、並びにそれらに含まれる参考文献;Porter,Biochem.J.,73:119(1959);Edelman et al.,Methods in Enzymology,Vol.1,page 422(Academic Press 1967);およびColigan et al.at sections 2.8.1−2.8.10 and 2.10.1−2.10.4)。
【0118】
インタクトの抗体により認識される抗原にフラグメントが結合する限り、抗体を開裂する他の方法(例えば、一価の軽い重鎖フラグメントを形成するための重鎖の分離、フラグメントのさらなる開裂、または酵素法、化学法もしくは遺伝子法)を用いることもできる。
【0119】
例えば、Fvフラグメントは、V鎖とV鎖の結合を含む。この結合は、非共有結合とすることができる(Inbar et al.,Proc.Nat’l Acad.Sci.USA,69:2659(1972))。一方、可変鎖同士は、分子間ジスルフィド結合により連結することができ、あるいは、グルタルアルデヒドのような化学物質により架橋することができる(Sandhu,Crit.Rev.Biotech.,12:437(1992))。Fvフラグメントは、ペプチドリンカーにより連結されるV鎖とV鎖とからなることが好ましい。これらの単鎖抗原結合性タンパク質(sFv)は、オリゴヌクレオチドにより連結されたVドメインおよびVドメインをコードするDNA配列からなる構造遺伝子を構築することにより調製することができる。上記構造遺伝子は発現ベクターに挿入される。次いで上記発現ベクターは大腸菌などの宿主細胞に導入される。組換え宿主細胞は、リンカーペプチドが2つのVドメインを架橋しているポリペプチド単鎖を合成する。sFvを調製するための方法が報告されている(Whitlow et al.,Methods:A Companion to Methods in Enzymology,Vol.2,page 97(1991);Bird et al.,Science,242:423(1988),Ladner et al.,米国特許第4946778号;Pack et al.,Bio/Technology,11:1271(1993);およびSandhu,Crit.Rev.Biotech.,12:437(1992))。
【0120】
抗体フラグメントの他の形態は、単一の相補性決定領域(CDR)を形成するペプチドである。CDRペプチド(「最小認識単位」)は、対象とする抗体のCDRをコードする遺伝子を構築することにより得ることができる。例えば、そのような遺伝子は、抗体生産細胞のRNAから可変領域を合成するため、ポリメラーゼ連鎖反応を用いて調製することができる(Larrick et al.,Methods:A Companion to Methods in Enzymology,Vol.2,page 106(1991))。
【0121】
本発明の抗体は、毒素に結合してもよい。そのような抗体は、動物(癌、細菌感染、ウイルス感染などの疾患をわずらうヒトを含む)を処置するため用いてもよい。例えば、乳癌発病の原因と関連があるグリカンに結合する抗体を、破傷風毒素に結合し、乳癌の患者に投与することができる。同様に、ウイルス特異的グリカンエピトープに結合する抗体を、破傷風毒素に結合し、ウイルスに感染している患者に投与することができる。毒素結合抗体は、乳癌細胞またはウイルスに結合してそれを殺すことができる。
【0122】
本発明の抗体を検出可能な標識に結合してもよい。そのような抗体は、動物(例えばヒト)が疾患であるかまたは感染しているかどうかを判定するための診断アッセイにおいて使用できる。検出可能な標識の具体例には、蛍光タンパク質(例えば緑色蛍光タンパク質、赤色蛍光タンパク質、黄色蛍光タンパク質)、蛍光マーカー(例えば、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、テキサスレッド)、放射性標識(例えばH、32P、125I)、酵素(例えばβ−ガラクトシダーゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、β−グルクロニダーゼ、アルカリ性ホスファターゼ)、またはアフィニティ標識(例えばアビジン、ビオチン、ストレプトアビジン)が含まれる。抗体を検出可能な標識に結合する方法は当該技術において知られている。Harlow et al.,Antibodies:A Laboratory Manual,page 319(Cold Spring Harbor Pub.1988)。
【0123】
(用量、処方および投与の経路)
本発明の組成物は、疾患を処置または予防するために投与される。ある実施形態において、本発明の組成物は、上記組成物中のグリカンに対して免疫応答をもたらすよう投与される。ある実施形態において、本発明の組成物は、疾患(例えば、癌、細菌感染、ウイルス感染、炎症、移植拒絶、自己免疫疾患など)に伴う少なくとも一つの症状の軽減をもたらすため投与される。
【0124】
必要な一つまたは複数の効果を得るため、グリカンまたはその組合せは、例えば、少なくとも約0.01mg/kg体重以上から約500〜750mg/kg体重まで、少なくとも約0.01mg/kg体重から約300〜500mg/kg体重まで、少なくとも約0.1mg/kg体重以上から約100〜300mg/kg体重まで、または少なくとも約1mg/kg体重以上から約50〜100mg/kg体重までの単一用量または分割用量として投与され得るが、他の用量でも有益な結果をもたらし得る。投与される量は種々の因子によって変わる。種々の因子としては、どの種類のグリカンが投与されるか、投与の経路、疾患が進行しているかいないか、体重、身体状態、健康、患者の年齢、予防または処置を行うべきかどうか、および、グリカンが化学修飾されているかどうかが挙げられるが、これらに限定されない。そのような因子は、動物モデルまたは当該技術において利用可能な他の試験系を用いて、臨床医により容易に決定され得る。
【0125】
本発明による治療剤(グリカン)の投与は、例えば、患者の生理学的状態、投与の目的が治療であるか予防であるか、および、当業者に知られた他の要因に応じて、一回の投与、複数回の投与、連続的な様式、または間欠的な様式であり得る。グリカンまたはその組合せの投与は、所定の期間にわたる実質的に連続的なものであってもよく、あるいは、間隔をあけた一連の投与であってもよい。局所投与および全身投与の両方ともが意図される。
【0126】
上記組成物を調製するため、グリカン、抗体、またはそれらの組合せが合成されるかまたは入手され、そして、必要に応じてまたは所望されるように精製される。次いで、これらの治療剤は凍結乾燥され得るかまたは安定化され得、それらの濃度は適当な量に調節され得、そして、必要に応じてこの治療剤は他の薬剤と組み合わせられ得る。単位用量中に含まれる所定のグリカン、結合性物質、抗体、またはそれらの組合せの絶対重量は、広範に変化し得る。例えば、約0.01〜約2g、または、約0.1〜約500mgの少なくとも一種のグリカン、結合性物質、または特定のグリカンに特異的な抗体が、投与され得る。あるいは、単位用量は、約0.01gから約50gまで、約0.01gから約35gまで、約0.1gから約25gまで、約0.5gから約12gまで、約0.5gから約8gまで、約0.5gから約4gまで、または約0.5gから約2gまで変わり得る。
【0127】
一種または複数種のグリカン、結合性物質、抗体、またはそれらの組合せの日用量も同様に変わり得る。そのような日用量は、例えば、約0.1g/日から約50g/日まで、約0.1g/日から約25g/日まで、約0.1g/日から約12g/日まで、約0.5g/日から約8g/日まで、約0.5g/日から約4g/日まで、および約0.5g/日から約2g/日までの範囲に及び得る。
【0128】
従って、本発明の治療剤を含む一つ以上の適当な単位用量の形態は、経口、非経口(皮下、静脈内、筋肉内、および腹腔内を含む)、直腸、皮膚、経皮、胸腔内、肺内、および鼻腔内(吸入)の経路を含む種々の経路で投与され得る。また治療剤は、徐放のために処方されてもよい(例えば、マイクロカプセル化を用いる。WO94/07529および米国特許第4962091号参照)。処方物は、適当な場合、個々の単位用量の形態で便利に与えられ得、そして、医薬技術分野で周知の任意の方法のいずれかにより調製され得る。そのような方法は、治療剤を、液体のキャリア、固体のマトリックス、半固体のキャリア、細かく分割された固体のキャリア、またはそれらの組合せと混合する工程、並びに、次いで必要に応じて生成物を所望の送達系に導入または成形する工程を包含し得る。
【0129】
本発明の治療剤が経口投与のために調製される場合、一般的に上記治療剤は、薬学的に受容可能なキャリア、希釈剤、または賦形剤と組み合わされて、薬学的処方物または単位投薬形態を形成する。経口投与のため、上記治療剤は、散剤、顆粒製剤、液剤、懸濁剤、乳剤として存在し得るか、あるいは、チューインガムからの活性成分の摂取のために、天然または合成のポリマー中または樹脂中に存在し得る。また上記治療剤は、大型丸剤、舐剤、またはペースト剤として提供されてもよい。また、経口投与される本発明の治療剤は、徐放のために処方され得る。例えば、上記治療剤は、コーティングされてもよく、マイクロカプセル化されてもよく、または持続性の送達デバイス内に入れられてもよい。そのような処方物における総活性成分は、上記処方物の0.1〜99.9重量%から構成される。
【0130】
「薬学的に受容可能である」により、キャリア、希釈剤、賦形剤、および/または塩が、処方物の他の成分と共存できかつそのレシピエントに有害でないということが意味される。
【0131】
本発明の治療剤を含む薬学的処方物は、周知かつ容易に利用可能な成分を用いて当該分野で公知の方法により調製され得る。例えば、治療剤は、一般的な賦形剤、希釈剤、またはキャリアを用いて処方され得、そして、錠剤、カプセル剤、液剤、懸濁剤、散剤、エアロゾル剤などの形態にされ得る。そのような処方物に適する賦形剤、希釈剤、およびキャリアの例としては、緩衝剤、ならびに充填剤および増量剤(例えばデンプン、セルロース、糖類、マンニトール、およびシリカ誘導体)が挙げられる。また、結合剤(例えばカルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、および他のセルロース誘導体、アルギン酸塩、ゼラチン、並びにポリビニル−ピロリドン)も含有され得る。保湿剤(例えばグリセロール)、崩壊剤(例えば炭酸カルシウムおよび重炭酸ナトリウム)が含有され得る。また、パラフィンなどの溶解遅延剤も含有され得る。さらに、第四級アンモニウム化合物などの吸収促進剤も含有され得る。セチルアルコールおよびモノステアリン酸グリセロールなどの界面活性剤が含有され得る。カオリンおよびベントナイトなどの吸着キャリアが添加され得る。タルク、ステアリン酸カルシウムおよびステアリン酸マグネシウム、並びに固体のポリエチレングリコールなどの滑剤もまた含有され得る。保存剤もまた添加され得る。また本発明の組成物は、セルロースおよび/またはセルロース誘導体などの増粘剤を含有することもできる。それらはまた、ガム類、例えばキサンタンガム、グアーガムもしくはカルボガム、またはアラビアガム、あるいは、ポリエチレングリコール類、Bentone類およびモンモリロナイト類などを含有してもよい。
【0132】
例えば、本発明の治療剤を含む錠剤またはカプレットは、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、および炭酸マグネシウムなどの緩衝剤を含むことができる。またカプレットおよび錠剤は、不活性成分、例えば、セルロース、α化デンプン、二酸化ケイ素、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ステアリン酸マグネシウム、微結晶セルロース、デンプン、タルク、二酸化チタン、安息香酸、クエン酸、コーンスターチ、鉱油、ポリプロピレングリコール、リン酸ナトリウム、ステアリン酸亜鉛などを含むこともできる。少なくとも一つの本発明の治療剤を含む硬ゼラチンカプセル剤または軟ゼラチンカプセル剤は、不活性成分(例えば、ゼラチン、微結晶セルロース、ラウリル硫酸ナトリウム、デンプン、タルク、および二酸化チタンなど)ならびに、液体のビヒクル(例えばポリエチレングリコール(PEG)類および植物油)を含有することができる。また、一つ以上の本発明の治療剤を含む腸溶カプレットまたは腸溶錠は、胃での分解に抵抗しかつより中性からアルカリ性である十二指腸の環境で溶解するよう設計される。
【0133】
また、本発明の治療剤は、便利な経口投与のためエリキシル剤または液剤として処方することができ、あるいは、非経口投与(例えば、筋肉内、皮下、腹腔内、または静脈内の経路による)のため適当な液剤として処方することができる。また、本発明の治療剤の薬学的処方物は、水性または無水の溶液または分散液の形態をとることができ、あるいは、乳剤、懸濁剤、または軟膏の形態をとることができる。
【0134】
従って、上記治療剤は、非経口投与(例えば、注射(例えば大量注射または連続点滴)による)のために処方され得、そして、アンプル、プレフィルドシリンジ、小容量の点滴容器、の単位投薬形態または多回用量容器で提供され得る。上述したように、投薬形態の貯蔵寿命の維持を助長するために、保存剤が添加され得る。活性薬剤および他の成分は、懸濁剤、液剤、または油性または水性のビヒクル中の乳剤を形成することができ、そして、処方用薬剤、例えば懸濁化剤、安定剤、および/または分散剤を含むことができる。一方、治療剤と他の成分は、使用の前に適当なビヒクル(例えば滅菌発熱性物質除去水)を用いて構成するため、滅菌固形物の無菌的単離または溶液からの凍結乾燥により得られる粉末の形態であってもよい。
【0135】
これらの処方物は、当該技術において周知である、薬学的に受容可能なキャリア、ビヒクル、およびアジュバントを含むことができる。例えば、一種以上の有機溶媒を用いて溶液を調製することができる。一種または複数種の有機溶媒は、生理学的観点から受容可能であり、水に加えて、例えば以下のような溶媒から選択される:アセトン、エタノール、イソプロピルアルコール、グリコールエーテル(例えば「Dowanol」の名称で販売されている製品)、ポリグリコールおよびポリエチレングリコール、短鎖の酸のC〜Cアルキルエステル、乳酸エチルまたは乳酸イソプロピル、脂肪酸トリグリセリド(例えば「Miglyol」の名称で市販されている製品)、ミリスチン酸イソプロピル、動物油、鉱油および植物油、並びにポリシロキサン。
【0136】
必要に応じて、酸化防止剤、界面活性剤、他の保存剤、膜形成剤、角質溶解剤もしくは面皰溶解剤、香料、香味料、および着色料から選択されるアジュバントを添加することができる。t−ブチルヒドロキノン、ブチル化ヒドロキシアニソール、ブチル化ヒドロキシトルエン、並びにα−トコフェロールおよびその誘導体などの酸化防止剤が、添加され得る。
【0137】
さらに、治療剤は徐放性の投薬形態等としての処方に非常に適する。例えば、血管系または気道の特定の部分にできる限りある期間にわたって活性剤を放出するよう処方物を構成することができる。コーティング、外被、および保護マトリックスは、例えば、ポリマー物質(例えばポリラクチド−グリコレート)、リポソーム、ミクロエマルション、ミクロ粒子、ナノ粒子、またはワックスから作られ得る。これらのコーティング、外被、および保護マトリックスは、留置デバイス(例えば、ステント、カテーテル、腹膜透析チューブ、ドレーンデバイスなど)をコーティングするのに有用である。
【0138】
局所投与のため、当該技術で知られているとおり、標的領域への直接塗布のために治療剤を処方することができる。局所的塗布のため主に適用される剤形は、例えば、クリーム、乳液、ゲル、分散液もしくはミクロエマルション、高度にまたは低度に増粘されたローション、含浸パッド、軟膏もしくはスティック、エアロゾル処方物(例えばスプレーまたは泡)、石ケン、洗剤、ローションまたは石ケンのケーキの形態をとることができる。この目的のための他の従来的な形態には、創傷包帯、コーティングされた包帯もしくは他のポリマー被覆物、軟膏、クリーム、ローション、ペースト、ゼリー、スプレー、およびエアロゾルがある。かくして、本発明の治療剤は、経皮投与のためパッチまたは包帯を介して送達され得る。一方、この治療剤は、接着剤ポリマー(例えばポリアクリル酸エステルまたはアクリル酸エステル/酢酸ビニル共重合体)の一部として処方され得る。長期塗布のため、皮膚の加湿または浸軟が最小限に抑えられるよう、微細孔および/または通気性の裏打ち積層材を用いることが望ましいかもしれない。裏打ち層は、所望される保護機能および支持機能をもたらすような適当な厚みであり得る。適当な厚みは、一般的に約10〜約200ミクロンである。
【0139】
軟膏およびクリームは、例えば、適当な増粘剤および/またはゲル化剤の添加とともに水性または油性の基剤を用いて処方され得る。ローションは、水性または油性の基剤を用いて処方され得、そして一般的に一種以上の乳化剤、安定剤、分散剤、懸濁化剤、増粘剤、または着色剤をさらに含み得る。また活性成分は、例えば米国特許第4140122号、第4383529号、または第4051842号に開示されるとおりイオントホレシス(イオン泳動)を介しても送達され得る。局所処方物中に存在する本発明の治療剤の重量百分率は、種々の因子に依存するが、一般的に処方物総重量の0.01%〜95%、代表的に0.1〜85重量%である。
【0140】
一種以上の分散剤、可溶化剤または懸濁化剤をさらに含む水性または非水性の基剤中、一種以上の治療剤を用いて、点剤、例えば点眼剤または点鼻剤を処方することができる。液体スプレーは通常、加圧された容器から送達される。点剤は、簡単な点眼瓶−キャップしたボトルから供給され得、あるいは液体の内容物を液滴で供給するのに適合したプラスチックボトルを介して供給され得、または特殊な形状の封入容器から供給すされ得る。
【0141】
また治療剤は口内または喉内での局所投与のために処方され得る。例えば、風味を付けた基剤(通常スクロースおよびアカシアまたはトラガカントガム)をさらに含むロゼンジとして、不活性な基剤(例えばゼラチンおよびグリセリンまたはスクロースおよびアカシアガム)中に上記組成物を含むトローチとして、さらに、適当な液体のキャリア中に本発明の組成物を含むうがい薬として、活性成分が処方され得る。
【0142】
本発明の薬学的処方物は、必要に応じた成分として、薬学的に受容可能なキャリア、希釈剤、可溶化剤、または乳化剤、および当該技術分野において利用可能な型の類の塩を含むことができる。そのような物質の例としては、通常の生理食塩水溶液、例えば生理緩衝食塩水溶液および水が挙げられる。本発明の薬学的処方物に有用なキャリアおよび/または希釈剤の具体的で非限定的な例としては、水および生理的に許容される緩衝生理食塩水溶液(例えばリン酸緩衝生理食塩水溶液(pH7.0〜8.0))が挙げられる。
【0143】
また本発明の活性成分は気道に投与され得る。従って本発明は、本発明の方法に使用するためのエアロゾルの薬学的処方物および投薬形態を提供する。
【0144】
一般にそのような投薬形態は、ある疾患の臨床的症状を処置するかまたは予防するのに有効な量の本発明の薬剤の少なくとも一つを含む。本発明の意図する疾患としては、例えば、癌、細菌感染、ウイルス感染、炎症、移植拒絶、自己免疫疾患などが挙げられる。ある疾患の一つ以上の症状を統計的に有意に減衰させることが、上記疾患の処置とみなされる。
【0145】
一方、吸入または吹込みによる投与のため、上記組成物は、乾燥粉末、例えば、治療剤と適当な粉末基剤(例えばラクトースまたはデンプン)の粉末混合物の形態をとることができる。上記粉末組成物は、例えば、カプセルもしくはカートリッジの中、または例えばゼラチンもしくはブリスターパックの中で、単位投薬形態で提供され得る。このブリスターパックから、吸入器、吹込装置、または定量吸入器(例えば、Newman,S.P.in Aerosols and the Lung,Clarke,S.W.and Davia,D.編,pp.197−224,Butterworths,London,England,1984に開示される加圧定量吸入器(MDI)および乾燥粉末吸入器を参照)を用いて、上記粉末が投与され得る。
【0146】
また本発明の治療剤は、エアロゾル形態または吸入形態で投与される場合、水溶液で投与することができる。かくして、他のエアロゾル薬学的処方物は、例えば、治療すべき徴候または疾患に特異的な一種以上の本発明の治療剤を約0.1mg/ml〜約100mg/ml含む生理学的に受容可能な緩衝生理食塩水溶液を含み得る。液体中に溶解も懸濁もされていない微粒子固体治療剤の形態である乾燥エアロゾル剤も本発明の実施に有用である。本発明の治療剤は、散粉剤として処方され得、そして、約1〜5μmの平均粒子径、あるいは2〜3μmの平均粒子径を有する微粒子を含むことができる。微粒子は、当該技術分野で周知の技術を用いて粉砕およびスクリーンろ過により調製することができる。所定量の微粒材料(粉末の形態とすることができる)を吸入することにより、上記粒子は投与され得る。各投薬形態の個々のエアロゾル用量に含まれる一つまたは複数の活性成分の単位量は、それ自体で、特定の免疫応答、血管の症状または疾患を処置するのに有効な量を構成しなくともよいことが、理解される。何故なら、複数の投薬単位を投与することにより必要な有効量が達成され得るからである。また、個々のまたは一連の投与で、投薬形態の用量より少ない量を用いても、有効量が達成され得る。
【0147】
上部気道(鼻)または下部気道への吸入による投与のため、ネブライザーもしくは加圧パックまたはエアロゾルスプレーを送達する便利な他の手段から、本発明の治療剤は、便利に送達され得る。加圧パックは、適当なプロペラント(例えばジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素、または他の適当なガス)を含み得る。加圧エアロゾルの場合、投薬単位は、計量された量を送達する弁を提供することにより決定され得る。ネブライザーとしては、米国特許第4624251号、同第3703173号、同第3561444号、および同第4635627号に記載されるネブライザーが挙げられるが、これらに限定されない。本明細書中に開示される型のエアロゾル送達系は、多くの市販の供給元(Fisons Corporation(Bedford,Mass.)、Schering Corp.(Kenilworth,NJ)およびAmerican Pharmoseal Co.,(Valencia,CA)が挙げられる)から入手可能である。鼻内投与のため、点鼻剤、液体スプレー(例えばプラスチックボトル噴霧器または定量吸入器を介する)を介して、治療剤が投与され得る。代表的な噴霧器は、Mistometer(Wintrop)およびMedihaler(Riker)である。
【0148】
さらに、ここに記載される症状に対するものであるかまたは他の何らかの症状に対するものであるかを問わず、この活性成分は、他の治療剤(例えば、鎮痛剤、抗炎症剤、他の抗癌剤など)と組合せても用いられ得る。
【0149】
(キット)
さらに本発明は、疾患を検出、制御、予防、または処置するための包装された薬学的組成物(例えばキットまたは他の容器)に関する。本発明のキットは、癌、細菌感染、ウイルス感染、炎症、移植拒絶、自己免疫疾患などの疾患を検出、制御、予防、または処置するために設計され得る。一実施形態において、上記キットまたは容器は、疾患を検出するためのグリカンのアレイまたはライブラリーと、上記疾患の検出のために上記グリカンのアレイまたはライブラリーを使用するための説明書とを保持する。上記アレイは、上記疾患を有する者の血清試料中に存在する抗体によって結合される少なくとも一種のグリカンを含む。
【0150】
もう一つの実施形態において、上記キットまたは容器は、疾患を処置、予防または制御するための薬学的組成物の治療的に有効な量と、上記疾患の制御のために上記薬学的組成物を使用するための説明書とを保持する。上記薬学的組成物は、少なくとも一種の本発明のグリカンを、上記疾患が制御、予防、または処置されるような治療的に有効な量で含む。
【0151】
さらなる実施形態において、上記キットは、疾患に関連するグリカンに特異的に結合する抗体を含む容器を備える。上記抗体は、直接結合される治療剤または間接的に結合される治療剤を有することができる。また上記抗体は、液体の形態、粉末の形態、または患者へのすみやかな投与を可能にする他の形態で提供され得る。
【0152】
また本発明のキットは、本発明の組成物を投与するために有用な手段を有する容器を備えることができる。そのような手段としては、シリンジ、綿棒、カテーテル、消毒液などが挙げられる。
【0153】
以下の実施例は、本発明の特定の局面を例示するためのものであり、本発明を限定しようとするものではない。
【実施例】
【0154】
(実施例1:グリカンの酵素的合成)
本発明者らは、以前に細菌N.meningitidesの酵素β4GalT−GalEおよびβ3GlcNAcTをクローニングしかつその特徴を調べている。Blixt,O.;Brown,J.;Schur,M.;Wakarchuk,W.and Paulson,J.C.,J.Org.Chem.2001,66,2442−2448;Blixt,O.;van Die,I.;Norberg,T.and van den Eijnden,D.H.,Glycobiol.1999,9,1061−1071。β4GalT−GalEは、費用効率の高い手法をもたらす安価なUDP−グルコースのUDP−ガラクトースへのインシチュ転化のために、β4GalTおよびウリジン−5’−ジホスホ−ガラクトース−4’−エピメラーゼ(GalE)から構築された融合タンパク質である。
【0155】
β4GalT−GalEとβ3GlcNAcTとの両酵素を大型発酵槽(100L)においてE.coli AD202中で過剰に発現させた。細菌を、2YT培地において培養し、イソプロピル−チオガラクトピラノシド(IPTG)で誘導して最終的に8〜10gの細菌細胞ペースト/L細胞培地を生成した。次いでこの酵素を、ミクロフルイダイザーにより細胞から放出させ、塩化マンガン(10mM)およびTriton X(0.25%)を含むTris緩衝液(25mM、pH7.5)中に可溶化し、1Lの細胞培養物β4GalT−GalEあたり約50U、および1Lの細胞培養物β3GlcNAcTあたり約115Uの酵素活性をそれぞれ得た。
【0156】
β3GlcNAcT(表4)の特異性研究は、ラクトース(4)がよりよいアクセプター基質(100%)である一方、N−アセチルラクトサミン(6)に対して上記酵素は約7〜8%の活性しか示さないことを明らかにした。これら二糖の構造を以下に示す。
【0157】
【化1】

【0158】
【化2】

これらのアクセプターの還元末端にアグリコンとして疎水性のパラ−フェニル環を付加することにより、酵素の活性は10倍まで高められた(4および5、ならびに6および7を比較)。アクセプターの糖に疎水性アグリコンを付加することによる酵素活性の増加は、程度こそ低いが、β4GalTについても見られた(12と13および14とを比較)。これらの酵素は、基質特異性がゆるやかであるため、ポリ−N−アセチルラクトサミン類を含む種々の炭水化物構造を予備合成するのために非常に有用である。
【0159】
(表4.選択されたβ4GalT−GalEおよびβ3GlcNAcTの特異性データ)
【0160】
【表4】

省略形:pNP パラ−ニトロフェニル、sp 2−アジドエチル、sp7 5−アジド−3−オキサペンチル、Alloc アリルオキシカルボニル
ポリ−N−アセチルラクトサミンは、N−アセチルラクトサミンの繰り返しからなるユニークな炭水化物構造であり、それは、さらなる修飾(例えばシアリル化および/またはフコシル化)のための骨格構造を提供する。それらの伸長オリゴ糖は、セレクチン類またはガレクチン類に対する特異的リガンドとして相互作用することにより種々の生物学的機能に関与することが明らかにされている。Ujita,M.;McAuliffe,J.;Hindsgaul,O.;Sasaki,K.;Fukuda,M.N.およびFukuda,M.,J.Biol.Chem.1999,274,16717−16726;Appelmelk,B.J.;Shiberu,B.;Trinks,C.;Tapsi,N.;Zheng,P.Y.;Verboom,T.;Maaskant,J.;Hokke,C.H.;Schiphorst,W.E.C.M.;Blanchard,D.;SimoonsSmit,I.M.;vandenEijnden,D.H.およびVandenbroucke Grauls,C.M.J.E.,Infect,Immun.1998,66,70−76;Leppaenen,A.;Penttilae,L.;Renkonen,O.;McEver,R.P.およびCummings,R.D.,J.Biol.Chem.2002,277,39749−39759;Renkonen,O.,Cell.Mol Life Sci.2000,57,1423−1439;Baldus,S.E.;Zirbes,T.K.;Weingarten,M.;Fromm,S.,;Glossmann,J.;Hanisch,F.G.;Monig,S.P.;Schroder,W.;Flucke,U.;Thiele,J.;Holscher,A.H.およびDienes,H.P.,Tumor Biology.2000,21,258−266;Cho,M.およびCummings,R.D.,TIGG.,1997,9,47−56,171−178。
【0161】
表4中の特異性データに基づき、ガラクトシド類およびポリラクトサミン類の酵素合成をマルチグラムの量で行うことができる。この方法は種々のフコシルトランスフェラーゼ(FUT)を用いた。いくつかのフコシルトランスフェラーゼ(FUT)は、基質特異性および生物学的機能に関し、異なる研究室において特徴が調べられている。Murray,B.W.;Takayama,S.;Schultz,J.およびWong,C.H.,Biochem.1996,35,11183−11195;Weston,B.W.;Nair,R.P.;Larsen,R.D.およびLowe,J.B.,J.Biol.Chem.1992,267,4152−4160;Kimura,H.;Shinya,N.;Nishihara,S.;Kaneko,M.;Irimura,T.およびNarimatsu,H.,Biochem.Biophys.Res.Comm.1997,237,131−137;Chandrasekaran,E.V.;Jain,R.K.;Larsen,R.D.;Wlasichuk,K.およびMatta,K.L.,Biochem.1996,35.8914−8924;Devries,T.;Vandeneijnden,D.H.;Schultz,J.およびOneill,R.,FEBS Lett.1993,330,243−248;Devries,T.およびvan den Eijnden,D.H.,Biochem.1994,33,9937−9944。
【0162】
利用可能な特異性データとともに組換えFUT類の大規模生産を行うことにより、種々の貴重なフコシドをマルチグラムの量で合成することが可能になった。スキームIは、ポリ−LacNAc骨格を伸長するため用いられた一般的な手順と、異なるFUTおよびGDP−フコースを用いる選ばれたフコシル化構造とを例示する。
【0163】
【化3】

スキームIと、以下の組換えフコシルトランスフェラーゼを用いて、種々のフコシル化ラクトサミン誘導体の系統的なグラム規模の合成を開始した:FUT−II、FUT−III、FUT−IV、FUT−V、およびFUT−VI。FUT−Vを除くすべての上記フコシルトランスフェラーゼを、昆虫細胞発現系で生産し、粗酵素混合物として、GDP−セファロースアフィニティカラムで部分的に精製するかまたはタンジェントフローフィルトレーター(TFF−MWCO 10k)において濃縮した。FUT−V酵素は、Murray,B.W.;Takayama,S.;Schultz,J.およびWong,C.H.,Biochem.1996,35,11183−11195に記載されるようにA.nigerにおいて発現させた。
【0164】
フコシル化ラクトサミン誘導体の生産の異なる段階に関して、収率は、LeX(2酵素工程)で75〜90%、二量体LacNAc構造(4酵素工程)で45〜50%、そして、三量体lacNAc構造(6酵素工程)で30〜35%であった。
【0165】
(実施例2:シアル酸含有オリゴ糖の合成)
シアル酸は、2−ケト−3−デオキシ−ノヌロソン酸類について使用される総称である。この一連の単糖類の最も一般的に存在する誘導体は、N−アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)、N−グリコリルノイラミン酸(Neu5Gc)、および非アミノ化3−デオキシ−D−グリセロ−D−ガラクト−2−ノヌロソン酸(KDN)に由来する誘導体である。シアル酸含有オリゴ糖類は、種々の生物学的制御および生物学的機能に関与する重要な範疇の炭水化物である。シアル酸類は、毒素/ウイルスの吸着、および、炭水化物結合性タンパク質(CBP)との相互作用を介する多様な細胞のコミュニケーションに関与していることがわかっている。セレクチン類およびシグレック類(シアル酸結合免疫グロブリンスーパーファミリーレクチン類)は、よく特徴が明らかにされているCBP類に属し、このCBP類は、シアル酸の相互作用を通じて生物学的に機能する。
【0166】
シアル酸を含むオリゴ糖類の合成は簡単ではない。残念ながら、その化学的アプローチには、いくつかの阻害因子が共通して存在する。例えば、シアル酸を用いる立体選択的グリコシル化は、一般に異性体の生成物をもたらし、その結果、精製の問題およびより低い収率をもたらす。また、その複雑な性質により、広範な保護基の操作が必要であり、そして、これらの構成要素(building block)を調製するため、アクセプター基質と供与体基質との両方の慎重な設計と相当な努力が必要である。
【0167】
炭水化物構造をシアリル化する迅速かつ効率的な方法として、シアリルトランスフェラーゼによる触媒作用を介する方法が選択される。Neu5Ac含有オリゴ糖を生成させる酵素的シアリル化は、分析および調製の両目的に対してシアリル化炭水化物を生成させる方法である。Koeller,K.M.およびWong,C.−H.,Nature 2001,409,232−240;Gilbert,M.;Bayer,R.;Cunningham,A.−M.;DeFrees,S.;Gao,Y.;Watson,D.C.;Young,N.M.およびWakarchuk,W.W.,Nature Biotechnol.1998,16,769−772;Ichikawa,Y.;Look,G.C.およびWong,C.H.,Anal.Biochem.1992,202,215−238。しかし、Neu5GcまたはKDNの構造を有するオリゴ糖類を調製するための効率的な方法は、これらのシアロシド誘導体が稀少であるため、これまで同じような程度には研究されていなかった。
【0168】
種々のシアロシド誘導体を得るための簡単な方法を、最初にWongと共同研究者により開発された方法の改良法を用いて考案した。Crocker,P.R.,Curr.Opin.Struct.Biol.2002,12,609−615。この方法は、組換えシアリルトランスフェラーゼとともに市販のNeu5Acアルドラーゼ、ST3−CMP−Neu5Acシンテターゼを用いた。Gilbert,M.;Bayer,R.;Cunningham,A.−M.;DeFrees,S.;Gao,Y.;Watson,D.C.;Young,N.M.およびWakarchuk,W.W.,Nature Biotechnol.1998,16,769−772。
【0169】
Neu5Acオリゴ糖類を生成させる好ましい経路は、スキームIIに記載されるワンポット法を用いるものであった(BおよびC)。
【0170】
【化4】

簡単に説明すると、ST3−CMP−Neu5Acシンテターゼは、量的に1当量のNeu5Acと1当量のCTPとからCMP−Neu5Acの形成を触媒した。膜ろ過(MWカットオフ10k)による融合タンパク質の除去の後、選択したガラクトシドと表5に示す組換えシアリルトランスフェラーゼを導入して所望のNeu5Ac−シアロシドを生成させた。
【0171】
(表5.合成のため生成された組換えシアリルトランスフェラーゼ)
【0172】
【表5】

単位/1Lの細胞培養物
この合成スキームは、代表的にシアリル化生成物の70〜90%の回収収率で、マルチグラム量の生成物をもたらした。
【0173】
Neu5Gc誘導体およびKDN誘導体を合成するため、上記ワンポット系は、経路BおよびCに加えてもう一つの酵素反応を含むことになる(スキームII)。この点に関し、マンノース誘導体であるピルベート(3当量)、および市販の微生物Neu5Acアルドラーゼ(Toyobo)をワンポット半サイクル(スキームII、A)に導入した。表5の酵素は、まずまずの収率(45〜90%)で、Neu5Gcのα(2−3)−結合シアル酸誘導体、α(2−6)−結合シアル酸誘導体またはα(2−8)−結合シアル酸誘導体、KDN、およびいくつかの9−アジド−9デオキシ−Neu5Ac−類似体を用いて、種々のN結合オリゴ糖およびO結合オリゴ糖を生成させることができた。O結合シアリル−オリゴ糖類は、生物医学界が求めるもう一つのクラスの化合物である。これらの構造は、種々の癌組織およびリンパ腫ににおいてしばしば見出され、結腸、乳房、膵臓、卵巣、胃、および肺の腺癌を含む多くの型のヒトの悪性疾患において高度に発現される。Dabelsteen,E.,J.Pathol.1996,179,358−369;Itzkowitz,S.H.;Yuan,M.;Montgomery,C.K.;Kjeldsen,T.;Takahashi,H.K.およびBigbee,W.L.,Cancer Res.1989,49,197−204。
【0174】
本発明者らは、ニワトリST6GalNAc−Iのクローニング、発現および特徴づけと、それを使用したO結合シアロシド抗原(STn−抗原、α(2−6)SiaT−抗原、α(2−3)SiaT−抗原、およびDi−SiaT−抗原)の予備合成について以前に報告している。Blixt,O.;Allin,K.;Pereira,L.;Datta,A.およびPaulson,J.C.,J.Am.Chem.Soc.2002,124,5739−5746。簡単に説明すると、組換え酵素を、昆虫細胞において発現させ、CDP−セファロースアフィニティクロマトグラフィーにより精製して約10U/Lの細胞培養物を生成した。その酵素活性を一連のアクセプター小分子(表6)について評価した。そして、GalNAc上のアノマー位がトレオニンにα−結合していることが酵素活性に絶対必要であることを見出した。
【0175】
(表6.α−D−ガラクト誘導体のchST6GalNAc−I活性)
【0176】
【表6】

注:Palcic,M.M.;Heerze,L.D.;Pierce,M.およびHindsgaul,O.,Glycoconj.J.1988,5,49−63に記載されるようにSep−Pak(C18)カートリッジを用いることにより生成物を単離した。
【0177】
従って、保護されたトレオニンを末端に有するO結合シアロシドは、スキームIVを用いるグラム規模の反応において首尾よく合成できた。これらの化合物を他の官能基に結合可能にするため、chST6GalNAc−Iを用いる酵素的伸長の前に、トレオニン上のN−アセチル保護基を除去可能な9−フルオレニル(F−moc)誘導体で置換することができた。Blixt,O.;Collins,B.E.;Van Den Nieuwenhof,I.M.;Crocker,P.R.およびPaulson,J.C.,(2003 J.Biol.Chem.15:278)。表6に示すとおり、この酵素は、この位置におけるかさ高い基に対し感受性でなかった(化合物6)。
【0178】
【化5】

(実施例3:ガングリオシド模倣物の合成)
ガングリオシド類は、一連の構造上多様なシアリル化分子を含む糖脂質である。それらは、神経組織において結合するとともに多く存在し、そして、増殖因子、毒素およびウイルスに対するレセプターとして作用すること、ならびに、ヒトの黒色腫および神経芽腫の細胞の付着を促進することが見出されている。Kiso,M.,Nippon Nogei Kagaku Kaishi.2002,76,1158−1167;Gagnon,M.およびSaragovi,H.U.,Expert Opinion on Therapeutic Patents.2002,12,1215−1223;Svennerholm,L.,Adv.Gen.2001,44,33−41;Schnaar,R.L.,Carbohydr.Chem.Biol.2000,4,1013−1027;Ravindranath,M.H.;Gonzales,A.M.;Nishimoto,K.;Tam,W.−Y.;Soh,D.およびMorton,D.L.,Ind.J.Exp.Biol.2000,38,301−312;Rampersaud,A.A.;Oblinger,J.L.;Ponnappan,R.K.;Burry,R.W.およびYates,A.J.,Biochem.Soc.Trans..1999,27,415−422;Nohara,K.,Seikagaku.1999,71,337−341。
【0179】
これらのシアリル化ガングリオシド構造の重要性にもかかわらず、その効率的な調製方法は限られていた。糖脂質コア構造へのシアル酸の導入は、困難な作業であり、うまく実行される合成戦略とともに複雑な技術を要することが分かっている。
【0180】
最近、Campylobacter jejuni(OH4384)からのいくつかのグリコシルトランスフェラーゼ遺伝子が、この病原性細菌によって発現される種々のガングリオシド関連リポオリゴ糖(LOS)の生産に関与していることが明らかにされている。Gilbert,M.;Brisson,J.−R.;Karwaski,M.−F.;Michniewicz,J.;Cunningham,A.−M.;Wu,Y.;Young,N.M.およびWakarchuk,W.W.,J.Biol.Chem.2000,275,3896−3906。これらの遺伝子のうち、二官能α(2−3/8)シアリルトランスフェラーゼをコードするcst−IIは、Neu5Ac α(2−3)およびα(2−8)のラクトースおよびシアリルラクトースへの転移をそれぞれ触媒することが明らかにされている。もう一つの遺伝子cgtAは、β(1−4)−N−アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ(β4GalNAcT)(これは、GalNAcβ(1−4)をNeu5Acα(2−3)ラクトースアクセプターに転移させてGM2(Neu5Acα(2−3)[GalNAcβ(1−4)]Galβ(1−4)Glc−)エピトープを生成させることが報告されている)をコードする。
【0181】
上記二つのグリコシルトランスフェラーゼ遺伝子(cst−IIおよびcgtA)の遺伝子産物は、大規模に(100LのE.coli発酵)首尾よく過剰発現され、そして、種々のガングリオシド模倣物の予備合成に使用された。合成目的のため、これら酵素の広範な特異性の研究が、ニュートラルな構造およびシアリル化された構造を用いてさらに行われ、これらの酵素の合成上の有用性がさらに明らかにされた。
【0182】
GalNAc含有オリゴ糖の経済的な合成のため、高価なウリジン−5’−ジホスフェート−N−アセチルガラクトサミン(UDP−GalNAc)を、インシチュで安価なUDP−GlcNAcからUDP−GlcNAc−4’−エピメラーゼ(GalNAc−E)により生成させた。GalNAc−Eを、ラット肝臓からE.coli発現ベクター(pCWori)内にクローニングし、E.coli AD202細胞において発現させた。簡単に説明すると、ラクトース誘導体を、α(2−8)−シアリルトランスフェラーゼおよび粗CMP−Neu5Acを用いてシアル酸の繰り返しで伸長させた。いくつかの生成物(GM3、GD3、GT3)をこの混合物から単離した。CDP−Neu5Acを2.5当量から4当量に増やすことにより、GT3の形成が優先的になり、少量のGD3が単離された。代表的な収率は、主化合物が40〜50%の範囲であり、副次的化合物が15〜20%である。単離した化合物を、GM2−シンテターゼ(CgtA)およびGalEの作用を用いてさらに精製し、対応するGM2、GD2およびGT2構造を定量的収率で得た(スキームV)。
【0183】
【化6】

かくして、多種多様のグリカン(例えば、ポリ−N−アセチルラクトサミンおよびその対応するフコシル化および/またはシアリル化化合物、N結合およびO結合グリカンの種々のシアロシド誘導体、およびガングリオシド模倣構造)を生成させるための手法が開発された。さらに、稀少なシアル酸誘導体を調製する単純な経路を記載した。この研究は、種々のグリコシルトランスフェラーゼの機能的な手段を用いることにより、複雑な炭水化物構造の化学的酵素的合成が容易で実用的なレベルに達し得ることを実証している。これらの酵素の特異性についての詳細な情報が、広範な種類の構造を有するグリカン化合物のライブラリーを開発するため必要である。本発明は、炭水化物のそのようなライブラリーを提供するとともに、炭水化物−タンパク質の相互作用、さらには、炭水化物−炭水化物の相互作用の高処理能力研究において上記ライブラリーを使用する方法を提供する。
【0184】
(実施例4:天然源からのグリカンの単離)
この実施例は、どのようにしてウシ膵臓リボヌクレアーゼBから特定の型のマンノース含有グリカンを分離できるか例示する。
【0185】
ウシ膵臓リボヌクレアーゼBのプロナーゼ消化:ウシ膵臓リボヌクレアーゼB(Sigma Lot060K7650)を緩衝液(0.1M Tris+1mM MgCl+1mM CaCl pH8.0)に溶解させ、そして、プロナーゼ(Calbiochem Lot B50874)を加えて、5部の糖タンパク質に対し1部のプロナーゼの重量比とした。それを60℃で3時間インキュベートした。消化した試料中のマンノース含有グリカンを、緩衝液(0.1M Tris、1mM MgCl、1mM CaCl、pH8.0)において新しく調製したConAを用いてアフィニティ精製し、200mlの0.1Mメチル−a−D−マンノピラノシド(Calbiochem LotB37526)により洗浄し溶出させた。ConA溶出試料をCarbograph固相抽出カラム(Alltech 1000mg、15ml)上で精製し、30%アセトニトリル+0.06%TFAで溶出させた。それを乾燥させ、そして1mlの水で戻した。MALDIにより質量分析を行い、グリカンの定量をフェノール硫酸アッセイにより行った。
【0186】
プロナーゼ消化したリボヌクレアーゼbを、5mlの0.1M Tris(pH8.0)で希釈し、0.1MのTris、1mMのMgCl、1mMのCaCl(pH8.0)において15mlのConAカラムに投入し、50mlの0.1Mメチル−α−D−マンノピラノシドを用いて洗浄し、溶出させた。次いで、それをCarbograph固相抽出カラム(Alltech 1000mg、15ml)で精製し、80%アセトニトリル(0.1%TFAを含む)で溶出させ、乾燥させ、2mlの水で戻した。Voyager Elite MALDI−TOF(Perseptive BioSystems)をネガティブモードで用いて、質量分析およびグリカンの定量を行った。
【0187】
Dionexでのフラクションの分離:プロナーゼで消化したリボヌクレアーゼbを、PA−100カラムを用いるDIONEXに注入し、以下の勾配を用いて溶出させた。溶液A=0.1MのNaOH、B=0.1MのNaOH中0.5MのNaOAc、0%Bについて3分間、次いで0%Bから6.7%Bまで34分で直線勾配。各ピークフラクションを集め、0.1%TFAを含む80%アセトニトリルでの溶出により、Carbograph固相カラム(Alltech 150mg、4ml)で精製した。それらを乾燥させ、そして水で戻した。最終的な質量分析およびグリカンの定量を行った。
【0188】
(実施例5:グリカンアレイの調製および使用)
材料:天然の糖タンパク質、α1−酸糖タンパク質(α−AGP)であるα−AGP糖型Aおよびα−AGP糖型Bを、Shiyan,S.D.&Bovin,N.V.(1997)Glycoconj.J.14,631−8に記載されるように調製した。セルロプラスミン、フィブリノゲン、およびアポトランスフェリンを、Sigma−Aldrich Chemical Company,MOから入手した。合成グリカンリガンド7〜134、146〜200(図7に示す構造)を、The Consortium for Functional Glycomicsから得るか、または、Pazyninaら(2003)Mendeleev Commun.13,245−248;Pazyninaら(2002)Mendeleev Commun.12,183−184;Pazyninaら(2002)Tet.Lett.43,8011−8013;Nifant’evら(1996)J.Carbohydr.Chem.15,939−953;Zemlyanukhinaら(1995)Carbohydr.Lett.1,277−284に記載されるように調製した。リガンド111、135〜139(図7に示す)を、Leeら(2004)Angew.Chem.Int.Ed.43,1000−1003に記載されるようにワンポット化学合成により得た。リガンド140〜145(図7に示す)を本明細書に記載する通りリボヌクレアーゼから単離した。
【0189】
NHSで活性化されたガラススライド(Slide−H)(Schott Nexterion(ドイツ)から入手)を用いた。これらのスライドをヒドロゲル(多成分コーティングマトリックス(厚み:10〜60nm)からなる)で被覆し、それを、マイクロアレイガラス基板と架橋して過酷な洗浄工程を可能にする。長い親水性ポリマーのスペーサーにより、官能基(アミン−反応性N−ヒドロキシスクシンイミド−エステル)をコーティングマトリックスにつなぎ、それにより、柔軟性のある溶液状の環境において固定化されたプローブが非常に利用しやすいことを確かなものにしている。使用したロボット印刷アレイ作製装置は、Robotic Labware Designs(Carlsbad,CA)による特注品であった。CMP4Bマイクロアレイスポットピン(TeleChem International,Inc.)を用いてアレイをプリントした。
【0190】
いくつかのグリカン結合性タンパク質(GBP)を市販の供給元から入手した(ConAおよびECAをEY−laboratories Inc.,San Mateo,CAから入手、抗CD15をBD Biosciences,San Jose,CAから入手)。他の型のグリカン結合性タンパク質(下記のものを含む)は、様々な研究者から入手した(DC−SIGN(van Dieら(2003)Glycobiology 13,471−478)、インフルエンザウイルスA/Puerto Rico/8/34(H1N1)(Gamblinら(2004)Science 303,1838−42)、2G12(Calareseら(2003)Science 300,2065−71)、シアノビリン−N(Scanlanら(2002)J.Virol.76,7306−21)、H3HA(Stevens,BlixtおよびWilson;作成中の原稿))。
【0191】
The General Clinical Research Center,Scripps Hospital,La Jollaにおいて健常な志願者からヒト血清を入手した。ヒト唾液も同様に健常な志願者から得た。この試料を3000rpmで30分間遠心分離し、56℃で25分間加熱インキュベートした。CD22を、Blixtら(2003)J.Biol.Chem.278,31007−19に記載されるように発現させ、精製した。また、ラットガレクチン4についてHuflejtら(1997)J.Biol.Chem.272,14294−303によって記載されるように、組換えヒトガレクチン4を調製した。Molecular ProbesからのAlexaFluor488タンパク質標識キットを用い、製造者の説明書に従って、ガレクチン−4−AlexaFluor488を調製した。Scanlanら(2002)J.Virol.76,7306−21に記載されるようにウサギ抗CVNを得た。モノクローナルマウス抗ヒトIgG−IgM−IgA−ビオチン抗体およびストレプトアビジン−FITCを、Pierce,Rockford,ILから入手した。ウサギ抗ヤギIgG−FITC、ヤギ抗ヒトIgG−FITC、マウス抗−HisTag−IgG−Alexafluor−488、および抗マウスIgG−Alexafluor−488を、Vector Labs(Burlingame,CA)から購入した。ウサギ抗インフルエンザウイルスA/PR/8/34を、World Influenza Centre,Mill Hill,London,UKから入手した。他の試薬および消耗品は、できるだけ高い品質の市販の供給元から入手した。
【0192】
ウシ膵臓リボヌクレアーゼBのプロナーゼ消化:540mgのウシ膵臓リボヌクレアーゼb(Sigma Lot060K7650)を5mlの0.1M Tris+1mM MgCl+1mM CaCl(pH8.0)に溶解した。108mgのプロナーゼ(Calbiochem LotB50874)を加えて、5部の糖タンパク質に対し1部のプロナーゼの重量比とした。この混合物を60℃で3時間インキュベートした。108mgのプロナーゼの第2用量をさらに加えて、37℃でさらに3時間インキュベートした。その後、それを30分間煮沸し、冷却し、そして遠心分離した。0.1M Tris、1mM MgCl、1mM CaCl、pH8.0において新しく調製したConA 20mlに試料を投入し、200mlの0.1Mメチル−α−D−マンノピラノシド(Calbiochem LotB37526)により洗浄し溶出させた。CoA溶出試料を、Carbograph固相抽出カラム(Alltech 1000mg、15ml)で精製し、30%アセトニトリル+0.06%TFAで溶出させた。溶出物を乾燥させ、そして1mlの水で戻した。MALDIにより質量分析を行い、グリカンの定量をフェノール硫酸アッセイにより行った。
【0193】
ウシ膵臓リボヌクレアーゼBから得られた炭水化物をDIONEXクロマトグラフィーにより分離した。20μlのプロナーゼ消化リボヌクレアーゼbを、PA−100カラムを用いるDIONEXに注入し、以下の勾配を用いて溶出させた。(溶液A=0.1MのNaOH、溶液B=0.1MのNaOH中0.5MのNaOAc):0%Bについて3分間、次いで0%Bから6.7%Bまで直線勾配で34分間。各ピークフラクションを集め、0.1%TFAを含む80%アセトニトリルでの溶出により、Carbograph固相カラム(Alltech 150mg、4ml)で精製した。次いでピークフラクションを乾燥させ、そして水で戻した。最終的な質量分析およびグリカンの定量を行った。
【0194】
グリカンアレイの作製:プリント緩衝液中(0.005%のTween−20を含む300mMリン酸塩、pH8.5)の種々の濃度の(10〜100μM)のアミン含有グリカン約0.6nLをロボットピン付着させることにより、マイクロアレイをNHS活性化ガラススライドにプリントした。各化合物を2つの濃度(100μMおよび10μM)でプリントし、各濃度を6連とした。プリントされたスライドを、80%湿度の雰囲気中30分間反応させ、次いで、一夜乾燥させた。緩衝液(50mMホウ酸塩緩衝液中50mMのエタノールアミン、pH9.2)中1時間の浸漬により、残存するNHS基をブロックした。スライドを水ですすぎ、乾燥させ、使用するまで室温でデシケータ中に保存した。
【0195】
グリカン結合性タンパク質の結合アッセイ:プリントされたスライドを、表面のさらなる修飾なしで分析した。標識されたタンパク質を用いる一段階法またはサンドイッチ法(ここで、グリカン結合性タンパク質(GBP)を含む可能性のある試料とともにスライドをまずインキュベートし、次いで、標識された二次抗体または標識された抗体と予め複合化されたGBPをスライド上に載せた)のいずれかにおいて、スライドをインキュベートした。GBPを、緩衝液(通常、0.005〜0.5%のTween−20を含むPBS)中5〜50μg/mLの濃度で加えた。二次抗体(PBS中10μg/mL)を、結合されたGBP上に重ねた。GBP−抗体予備複合体を、GBP:2次抗体:3次抗体についてそれぞれ1:0.5:0.25(5〜50μg/mL)のモル比で調製した(氷上15分)。試料(50〜100μL)を1つのスライドの表面に直接塗布して顕微鏡カバーガラスで覆うか、または、薄いテープで分離されペーパークリップで互いに押された2つの平行なスライドの間に試料(50〜100μL)を付与した(Tingら(2003)BioTechniques 35,808−810参照)。次いで、加湿チャンバー内で30〜60分間それをインキュベートした。その後スライドを(i)PBS−Tween(0.05%)、(ii)PBS、および(iii)脱イオン水における連続的なすすぎにより洗浄し、次いで、直ちに画像化に供した。血清試料を、代表的に1:25の希釈で使用し、0.4〜0.8mLをカバーガラスなしでスライド表面に直接塗布した。唾液試料も同様に取り扱った。スライドを室温において90分間ゆるやかに揺らし、その後、二次抗体による検出を行った(表7)。ウイルスそのものを、ノイラミニダーゼインヒビターカルボン酸オセルタミビル(10μM)を含む緩衝液(0.05%のTween−20を含むPBS)中100μg/mLの濃度で付与した(0.8mL)。スライドを室温で90分間ゆるやかに揺らし、その後、同様にノイラミニダーゼインヒビターの存在下で二次抗体による検出を行った(表7)。
【0196】
(表7.グリカン結合性タンパク質の結合価)
【0197】
【表7】

:使用する省略形:Ab=抗体、F=FITC、AF=AF488
:DC−SIGNの結合後、抗ヒトIgG−AF488で被覆することにより結合を検出した。
:PBSで1:25に希釈した血清の結合後、ヤギ抗ヒトIgG/M/A−ビオチン(1:100)(Pierce)で被覆し、その後、ストレプトアビジン−FITC(1:100)で被覆することにより、結合を検出した。
:CVNの結合の後、ポリクローナルウサギ抗CVN IgG−AF488で被覆し、その後、抗ウサギIgG−FITCで被覆することにより、結合を検出した。
:ウイルスの結合の後、ウサギ抗PR8で被覆し、その後、ヤギ抗ウサギIgG−AF−488で被覆することにより、結合を検出した。
【0198】
イメージの捕捉とシグナルの処理:蛍光強度を、ScanArray5000(Perkin Elmer,Boston,MA)共焦点スキャナーを用いて検出した。画像解析はImaGene画像解析ソフトウェア(BioDiscovery Inc,El Segundo,CA)を用いて行った。バックグランドに対するシグナルは、代表的に50:1より大きく、バックグランドの減算を行わなかった。データはMS Excelソフトウェアを用いてプロットした。
【0199】
(結果)
グリカンアレイの設計:所定のグリカンライブラリーをマイクロガラススライドに共有結合させるため採用した手法では、図1に例示するような標準的なマイクロアレイプリント技術を用いた。アミノ−反応性NHS−活性化マイクロガラスの表面を用いることで、水性条件下、室温においてアミド結合を形成することにより、末端アミンを有するグリカン類の共有結合が可能になる。200の複合糖質の化合物ライブラリーは、糖タンパク質の末端配列および糖脂質グリカンに相当する多様で生物学的に適切な構造を含む。グリカン結合性タンパク質により検出されるグリカン構造を図2に列挙し、また、より包括的なグリカンのリストを図7、表3および表9に提供する。さらに、各グリカン結合性タンパク質の主な特異性の概要を示す例示的な記号による構造を各図に示している。
【0200】
グリカンのプリントの最適化:プリント工程時間の長さは重要な事項であった。というのも、湿気(水分)に敏感なNHS−スライドが、工程中、空気にさらされるからである。フルオレセインで標識したコンカナバリンA(conA)の結合を、リガンド結合の一手段として用いた。高マンノースグリカン134〜138(図7および表3に示す構造)に対するconAの最大結合は、50μMより高い濃度で得られ、化合物136(図7に示す構造)について見られたように、5時間までのプリント時間で見られる最高結合の変動は10%未満であった。完成したアレイについて、各グリカンの100μMおよび10μMの標準プリント濃度をそれぞれ、プリントされたグリカンの飽和レベルおよび亜飽和レベルに相当するものとして選択した。すべての試料を6連でプリントし、ガラススライドあたり2400を超えるスポットされたリガンドのアレイ(対照を含む)を作製した。
【0201】
GBP特異性の概要を調べるための一般的手法:一般に、GBP類はそれらのリガンドに対して親和性が低く、結合していないタンパク質を除去する洗浄工程に耐えるような十分な親和力で結合しないと予想される。この理由から、慣用的に使用される手法は、天然に存在する多価相互作用を模倣するのに必要な多価性を生じさせることであった。これらの実験で評価されたグリカン結合性タンパク質のいくつかおよび強い結合を得るため用いられた多価性の程度を表7にまとめている。結合に必要な価数は2〜12の範囲であった。いくつかの場合、一価のグリカン結合性タンパク質が、二価の組換えIg−Fcキメラとして評価された。また、他の場合、二次抗体の使用を通じてより高い価数が得られた。グリカン結合性タンパク質または二次抗体のいずれかに蛍光標識を含めることにより、結合を検出した。
【0202】
植物レクチンの特異性:図3に示すように、2つのレクチン、ConAおよびErythrina critagalliレクチン(ECA)は、それらの報告された特異性と合致して、アレイ上のグリカンの異なるサブセットに対して結合を示した。ConAは、1つ以上のα−D−マンノース(Manα1)残基からなる合成リガンドに選択的に結合し、さらに、単離された高マンノースN−グリカンおよび二分岐N結合グリカン(134〜145、199、図7参照)に選択的に結合した。ECAは、種々の末端N−アセチルラクトサミン(LacNAc)構造、ポリ−LacNAc(9、73、76、図7参照)および枝分れO−グリカン(49、72、図7参照)に排他的に結合した。またECAは、末端Fucα1−2Gal置換(105〜107、図7参照)を許容した。これらの特異性は、他の方法論を用いて以前に認められた特異性と整合する。例えば、Guptaら(1996)Eur.J.Biochem.242,320−326;Brewerら(1985)Biochem.Biophys.Res.Commun.127,1066−71;Lisら(1987)Meth.Enzymol.138,544−551;Iglesiasら(1982)Eur.J.Biochem.123,247−252参照。
【0203】
ヒトGBP類の特異性の分析:哺乳動物のグリカン結合性タンパク質(GBP)の3つの主要なファミリーは、グリカンリガンド−C型レクチン、シグレックおよびガレクチンの認識を通じた細胞表面の生物学に関与している。各クラスから一つの典型的なメンバーを分析に選択した(図4)。
【0204】
DC−SIGN(C型レクチンファミリーのグループ2サブファミリーの一員)は、先天性免疫およびヒト免疫不全ウイルス−1(HIV−1)の病原性に関係する樹状細胞タンパク質である(Kooyk,Y.&Geijtenbeek,T.B.(2002)Immunol.Rev.186,47−56)。図4に示すとおり、組換えDC−SIGN−Fcは、2クラスのグリカン、N結合オリゴ糖およびO結合オリゴ糖の上で末端配列として見出されるFucα1−3GlcNAcオリゴ糖およびFucα1−4GlcNAcオリゴ糖を有する種々のフコシル化オリゴ糖(7、8、51、66、94、102、図7参照)、および、Manα1−2−残基を末端に有するマンノース含有オリゴ糖(135〜138、144、145、図7参照)を認識した。これは、例えばGuoら(2004)Nat.Struct.Mol.Biol.11,591−8;van Dieら(2003)Glycobiology 13,471−478;およびAdamsら(2004)Chem.l Biol.11,875−81に記載されるように、他のグループによって見出された特異性と整合する。
【0205】
CD22(免疫グロブリンスーパーファミリーレクチン類(シグレック類(Siglecs)の一員)は、周知のB細胞シグナル伝達の負調節因子であり、Siaα2−6Gal配列を有するグリカンに選択的に結合する。Blixtら(2003)J.Biol.Chem.278,31007−19;Engelら(1993)J.Immunol.150,4719−4732;Kelmら(1994)Curr.Biol.4,965−72;Powellら(1993)J.Biol.Chem.268,7019−7027。図4Bに示すとおり、CD22は、二分岐N結合グリカンを含む末端Siaα2−6Galβ1−4GlcNAc配列を有する7つの構造に排他的に結合した(154、187〜189および199、図7参照)。さらなる6−O−GlcNAc−硫酸化(Neu5Acα2−6Galβ1−4[6Su]GlcNAc−183、図7参照)は、対応する硫酸化していないグリカンと比べて、結合を増強するようであった。これは、このグリカンがヒトCD22に対して好ましいリガンドであり得ることを示唆した。
【0206】
ガレクチン類は、末端および内部のガラクトース残基に結合するβ−ガラクトシド結合性レクチンのファミリーである。Hirabayashiら(2002)Biochim.Biophys.Acta 1572,232−54参照。ガレクチン4は、抗アポトーシス活性を有する可能な細胞内媒介物として特定された。Huflejtら(1997)J.Biol.Chem.272,14294−303;Huflejt,M.E.& Leffler,H.(2004)Glycoconjugate J.20,247−55。飽和グリカン(100μMの濃度でプリント)に対するガレクチン4の結合と亜飽和グリカン(10μMの濃度でプリント)に対するガレクチン4の結合とを比較することにより、好ましい結合特異性が明らかになった。特に、図4Cに示すとおり、ラクトースに結合されるGalα1−3−(35〜37)、lac(NAc)に結合されるFucα1−2−(100、103、105〜107)、またはラクトースに結合されるGlcNAcβ1−3−(123)が、さらには3’−硫酸化(11〜16)が、親和性を実質的に高めた。この特異性のプロフィールは、ガレクチン4のラットオルソログについて報告されたプロフィールに似ている。Wuら(2004)Biochimie 86,317−26;Odaら(1993)J.of Biol.Chem.268,5929−5939参照。
【0207】
グリカン特異的抗体:また、3つの異なる供給源からのモノクローナル抗グリカン抗体およびポリクローナル抗グリカン抗体を分析した(図5)。市販の白血球分化抗原CD−15は、炭水化物抗原ルイス(Galβ1−4[Fucα1−3]GlcNAc)を認識することが記載されている。本明細書中に記載するアレイ上で評価するとき、この抗体は、ルイス構造(7、8、66、図7参照)に非常に特異的であったが、同じ構造でさらなるシアリル化(161)、硫酸化(26)、フコシル化(102)、またはLacNAc伸長(73)(構造について図7参照)によって修飾されたものを認識しなかった。図5Aは、抗CD15抗体調製物のルイスグリカンに対する特異性を示す。
【0208】
最も研究されているヒト抗HIVモノクローナル抗体の一つは2G12である。これは、主要なエンベロープの糖タンパク質gp120上にある高マンノース型N結合グリカンの認識を介して広範囲の天然HIV単離株を中和する。Leeら(2004)Angew.Chem.Int.Ed.43,1000−1003;Calareseら(2003)Science 300,2065−71;Scanlanら(2002)J.Virol.76,7306−21;Sanders(2002)J.Virol.76,7293−305;Trkolaら(1996)J.Virol.70,1100−8。本グリカンアレイは、リボヌクレアーゼBから単離された一連の天然高マンノースN−グリカン(Man5〜Man9)を有する種々の合成マンノースフラグメントを含んでいる。
【0209】
図5Bに示すとおり、組換え2G12は、合成されたManα1−2−末端マンノースオリゴ糖(135、136、138)の強い結合を示した。Bryanら(2004)J.Am.Chem.Soc.126,8640−41;Leeら(2004)Angew.Chem.Int.Ed.43,1000−1003;Adamsら(2004)Chem.l Biol.11,875−81をさらに参照。さらに、一連の天然高マンノース型N−グリカンの中で、2G12は、Man5グリカン、Man6グリカン、Man7グリカン、またはMan9グリカン(140、142、143、145)よりもMan8グリカン(144)に対して好ましい結合を示した(これらの構造について図7参照)。
【0210】
特に、2G12抗体が結合したグリカンは、以下のMan−8N−グリカン構造のいずれかを有していたか、またはそれらの組合せであった。
【0211】
【化7】

ここで、各黒丸はマンノース残基を表す。
【0212】
2G12抗体とMan−9−N−グリカン類との間で認められた結合のレベルはより小さかった。表8に示すとおり、より単純な合成グリカンは、Man8グリカンと同様に2G12に結合する。しかし、より単純な化合物は、gp120の高マンノースグリカンではない免疫原に対して抗体を生成させる免疫反応を誘導する可能性がより高い。また、上記天然の構造は、不要な免疫反応を生じさせる可能性がより低い。実際、酵母のマンナンは、マンノースの重合体であるが、ヒトにおいて強い免疫原であり、治療用組換え糖タンパク質の酵母での生産に対して大きな障害となっている。
【0213】
(表8)
図7に示すグリカンアレイ中のマンノース含有グリカンに対する2G12の結合の概要。試料1〜6は糖タンパク質であり、試料134〜139は合成された高マンノースグリカンであり、試料140〜145はウシリボヌクレアーゼから単離された天然の高マンノース糖ペプチドであり、試料199はシアル酸の末端にある二分岐複合型グリカンである。相対結合活性:−=<1000、+=1000〜6000、++6000〜25000、+++>25000。
【0214】
【表8】

これらの結果は、8つのマンノース残基を有するグリカンが2G12抗HIV中和抗体に結合するための優れた抗原であることを示している。
【0215】
より複雑な試料に対してアレイを試験するため、ヒトの血清および唾液に存在する抗グリカン抗体を調べた。血清または唾液とのインキュベーションの後、結合されたIgG、IgAおよびIgMを、標識された抗ヒトIgG/A/M抗体を用いてグリカンアレイ上で検出した。
【0216】
血清および唾液の両方において、抗体特異性の驚くべき多様性が認められた。10人からの血清試料について認められた結合の結果を図5Cに示す。ヒト抗グリカン抗体のこのプロフィールにより、ABO血液型フラグメント(個々人で異なって現れる)(32、81、83)、マンノースフラグメント(135〜139)、α−Gal−(31〜37)、およびガングリオシド−エピトープ(55〜59、132、168)が検出され、さらに、ラムノース(200)およびグラム陰性細菌細胞壁ペプチドグリカンのフラグメント(127)が検出されている(これらの構造については図7を参照)。特に、Galβ1−3GlcNAcのサブ構造を含むグリカンが、フコシル化(25、51、94、100)された場合を除き、一貫して検出され(12、61、62、132、150、168)、従って、ヒトの血液型抗原H、ルイス、またはルイスをもたらしている(構造について図7を参照)。これらの構造のすべては、血液型抗原として特定することができるか、または、ヒトが晒される微生物(例えば細菌、酵母など)のフラグメントとして特定することができる。
【0217】
図12に示すとおり、種々のグリカン結合性タンパク質は、唾液においても検出される。
【0218】
細菌およびウイルスのGBP類の分析:シアノビリン−N(CVN)は、シアノバクテリアのタンパク質であり、エンベロープ糖タンパク質gp120上にある高マンノース基に結合することにより、HIV−1感染の初期段階を阻害することができる。Adamsら(2004)Chem.Biol.11,875−81;Bewely,C.A.& Otero−Quintero,S.(2001)J.Am.Chem.Soc.123,3892−3902。アレイ上で、CVNは、末端Manα1−2−残基を有する合成フラグメント(135〜138)を特異的に認識し、そして、1つ以上のManα1−2−末端を有する高マンノースグリカン(140〜145)を同様に特異的に認識して、その報告された特異性と合致していた(図6および7)。さらに、CVNは、いくつかのラクト−構造およびネオラクト−構造(53、62、75、176、図6および7参照)に結合した。
【0219】
インフルエンザウイルスは、ウイルス結合性タンパク質(血球凝集素)を介して細胞表面レセプター決定因子としてのシアロシドを認識するその能力において、特異性を示す。起源の種類に応じて、血球凝集素は、NeuAcα2−3Gal結合またはNeuAcα2−6Gal結合においてシアル酸を有するシアロシドに対し、特異性を有する。Connorら(1994)Virol.205,17−23;Rogers,G.N.& D’Souza,B.L.(1989)Virol.173,317−22;Rogersら(1983)Nature 304,76−8。シアロシド類の血球凝集素に対する元々の親和性は弱い(Kdは約2mM)が、細胞表面における多価相互作用を通じて結合は強化される。Sauterら(1989)Biochem.28,8388−96。
【0220】
図6Bに示す結果は、組換えトリH3血球凝集素(Duck/Ukraine/1/63)が、Neu5Acα2−3−結合ガラクトシド(24、162〜169、176〜180、図7参照)に結合したが、Neu5Acα2−6−またはNeu5Acα2−8−結合シアロシドに結合しなかったことを明らかにしている。インタクトなインフルエンザウイルス(例えばA/Puerto Rico/8/34(H1N1))もまたアレイに強く結合した(図6C)。全般的な親和性は、以前の知見と整合しており、そして、α2−3およびα2−6の両シアロシドに対する特異性を示している。Rogers,G.N.&Paulson,J.C.(1983)Virol.127,361−73。
【0221】
Neu5Acα2−3−結合ガラクトシドおよびNeu5Acα2−6−結合ガラクトシド(24、151、157、161〜180、182〜190、199、図7参照)への結合、さらには特定のO結合シアロシドへの結合のような詳細な特異性も明らかになった。
【0222】
従って、本明細書中に記載されるグリカンマイクロアレイは、種々のグリカン結合性物質を検出するために用いられ得る。上記マイクロアレイは、ロボットによるプリントにより作製され得、また、マイクロアレイへの結合は、DNAマイクロアレイに対して用いられる走査法および画像解析ソフトウェアにより検出され得る。アミン−官能化グリカンの使用とNHS−活性化ガラス表面とを組み合わせることにより、標準的なDNAプリントプロトコルに変更を加えることなく、グリカン類の強くかつ再現可能な共有結合がもたらされる。このアレイは、検出に使用される標識タンパク質にかかわらず均一に低いバックグランドをもたらすため、多種多様なグリカン結合性タンパク質の特異性を評価するために、表面の調製をさらに行うことなく用いられ得る。さらに、最適シグナルのため必要なグリカン結合性タンパク質はわずか0.1〜2μgであり、これは、同じグリカンライブラリーを主に用いるELSAベースのアレイに必要な量の1/100未満である。Fazioら(2002)J.Am.Chem.Soc.124,14397−14402。このアレイは、多種多様なグリカン結合性タンパク質に対してうまく機能し、他の手段によって明らかにされた一次的特異性を裏づけ、そして、これまで認識されていなかった新たな局面の細かな特異性を明らかにした。
【0223】
(実施例6:グリカンアレイを用いる新形成の診断)
この実施例は、本発明のグリカンアレイを用いることにより乳癌患者に存在する抗体が検出され得ることを例示する。特定の型のグリカンに結合する抗体を検出するために、わずかな容量のヒト血清試料しか必要でなかった。従って、本発明は、乳房新形成を検出するための非侵襲的なスクリーニング法を提供する。
【0224】
(材料と方法)
個々の血清(プールせず)を、転移性乳癌(MBC)と診断された9人の患者から採取した。血液試料を処置の前に採取したため、患者の免疫応答には治療介入による干渉がなかった。乳癌である一方予後が良好な一人の患者(IDC、ステージ1)もこの実験に含めた。対照として(すなわち「健康な」血清として)、悪性腫瘍が認められない10人の健常者(男性5人、女性5人)から血清を採取した。
【0225】
血清を、3%BSAを含むPBSで1:25に希釈し、加湿チャンバー内で室温において90分間グリカンアレイスライド上に置いた。次いで、グリカンアレイスライドを、PBS/0.05%Tweenでゆるやかにすすぎ、ヒトのIgG、IgMおよびIgAに対するビオチニル化ヤギ抗体とともにインキュベートし、PBS/0.05%Tween中ですすぎ、そして、ストレプトアビジン−Alexa488蛍光染料とともにインキュベートした。PBS/0.05%TweenおよびHO中ですすいだ後、グリカンアレイスライドを乾燥させ、市販のDNAアレイスキャナーを用いてスキャンした。画像を解析し、個々のグリカンに結合した抗体に対応するスポットの蛍光強度を、ScanArray5000(Perkin Elmer,Boston,MA)共焦点スキャナーを用いて定量した。また、ImaGene画像解析ソフトウェア(BioDiscovery Inc.El Segundo,CA)を用いて画像解析を行った。シグナル対バックグランドは、代表的に50:1よりも大きく、バックグランドの減算を行わなかった。MS Excelソフトウェアを用いてデータをプロットした。
【0226】
(結果)
これらの実験の結果を図8〜10に示す。アレイ上にある特定のグリカンに結合した標識抗体の相対蛍光強度のプロフィールを、図8に示す。図8に示すとおり、対照からの血清の反応性と転移性乳癌患者からの血清の反応性との間に顕著な相違が存在する。特に、特定の抗炭水化物抗体のレベルが、転移性乳癌の患者においてかなり高くなっている。転移性癌患者からの血清が結合するグリカンとしては、セルロプラスミン、Neu5Gc(2−6)GalNAc、GM1、Sulfo−T、Globo−H、およびLNT−2が挙げられる。
【0227】
GM1は以下の構造を有する:Gal−β3−GalNAc−β4−[Neu5Ac−α3]−Gal−β4−Glc−β。
【0228】
Sulfo−T抗原は硫酸残基を有するT抗原である。一般にT抗原は、Galβ3GalNAcの構造を有し、種々の修飾を有し得る。LNT−2は、発癌促進性ガレクチン4に対するリガンドである。Huflejt&Leffler(2004)Glycoconjugate J,20:247−255参照。LNT−2の構造は、以下のグリカンを含む:GlcNAc−β3−Gal−β4−Glc−β。
【0229】
Globo−Hは以下の構造を有する:フコース−α2−Gal−β3−GalNAc−β3−Gal−α4−Gal−β4−Glc。
【0230】
これらのグリカンに結合する抗体は、従って、一連のグリカン種と反応する。これらの抗体に対して反応性であるグリカンの集団は、個々の抗体単独の検出よりも精密に新形成の状態を明らかにする。さらに、個々のグリカン集団に反応性である抗体のレベルを、定量し得、そして、数学的かつ統計学的な血清試料解析に使用される点数値に変換し得る。それは、新形成が認められない個体の数値範囲の指標と比較されるとき、個々の患者に対する新形成のリスクについて診断を下すことを可能にする。
【0231】
具体的に述べると、セルロプラスミン(図8、化合物番号2)に対する抗体および癌特異的炭水化物抗原Neu5Acα2−6GalNAcα−(STn−、図8、化合物番号3および化合物番号4)に対する抗体は、「健康な」個体と比較すると、すべてのMBC患者において有意により高いレベルにあることがわかる。健康な個体よりも転移性乳癌患者においてより高いレベルで存在するその他の特定のグリカンに対しても抗体が存在する。これらの特異的グリカンの範疇には、種々の修飾を有するT抗原の群(図9参照、化合物番号5、8〜13)、LNT−2(発癌促進性ガレクチン4に対する既知のリガンド、HuflejtおよびLeffler,2004)、Globo−H抗原、およびGM1抗原が含まれる。
【0232】
図10に示すように、各患者について図9に列挙される血清抗体のレベルに対応する相対蛍光強度を合せることにより、癌の個体群と癌でない個体群との間を明確な区別を提供する抗体シグナルの範囲をもたらす。従って、この試験は、適切な治療標的の特定を可能にするべく、特定の糖タンパク質のプロフィールと疾患の種々の段階との間の適切な関係のためのさらなる手段を提供することができる。
【0233】
これらの知見は、乳癌患者での悪性転換において一種より多いグリカンが天然に存在するエピトープとして存在することを示唆するとともに、これまで試験された癌(乳癌)患者の各々においてそれらのエピトープが免疫応答を誘導することを示唆する。さらに、これらの結果は、腫瘍関連グリカンに対して反応性である異なる抗体の集団を、個々の患者の血清において同時に検出できることを示している。いくつかの抗体型のそのような検出は、一つの型のグリカンに反応性である一つの型の抗体の存在についての情報よりはるかに良好な診断情報をもたらす。
【0234】
これらの腫瘍関連グリカンを合せたものは、発癌促進性グリカンの抗体活性を中和する抗体の生産をもたらす免疫応答を誘導するためのワクチン組成物にとって好ましい免疫原となる。そのような組成物は、癌細胞、間質細胞、および内皮細胞の細胞表面上の群をなすN結合グリカンエピトープを模倣するため、多価グリカンを含むことができる。
【0235】
(実施例7:α−Gal−3グリカンエピトープに対する抗体が異種移植を受けた患者の血清において検出された)
この実施例は、いくつかのこれまで明らかにされていなかったグリカン構造が、ブタ組織をヒトに移植した後に急性器官拒絶の一因となることを示す。
【0236】
当業者に一般的に公知であるとおり、ヒトはα−Gal−3グリカンエピトープに対して免疫応答を示す。というのも、それらのグリカンはブタ細胞表面上で豊富であるからである。そのため、これらのα−Gal−3エピトープに対する免疫応答は、組織の異種移植を可能にするため克服しなければならない大きな問題となっている。しかし、この実施例に示すとおり、他のグリカン構造が、急性の器官拒絶に寄与している。これらの移植に関連するグリカン構造を、この実施例において明らかにし説明する。
【0237】
(材料と方法)
1991年〜1994年において、数人の糖尿病(I)患者が、ブタ胎仔ランゲルハンス島様細胞集塊(ICC)の移植を受けた。Groth,C.G.ら,Transplantation of porcine fetal pancreas to diabetic patients,The Lancet 344:1402−4(1994)参照。本発明者は、これら患者の3人からの血清を、移植前(t=0)、移植1ヶ月後(t=1)、移植6ヶ月後(t=2)、および移植12ヶ月後(t=3)に分析した。
【0238】
血清を、3%BSAを含むPBSで必要に応じて希釈し、加湿チャンバー内で室温において90分間グリカンアレイスライド上に置いた。次いで、グリカンアレイスライドを、PBS/0.05%Tweenでゆるやかにすすぎ、ヒトのIgG、IgMおよびIgAに対するビオチニル化ヤギ抗体とともにインキュベートし、PBS/0.05%Tween中ですすぎ、そして、ストレプトアビジン−Alexa488蛍光染料とともにインキュベートした。PBS/0.05%TweenおよびHO中ですすいだ後、グリカンアレイスライドを乾燥させ、市販のDNAアレイスキャナーを用いてスキャンした。画像を解析し、個々のグリカンに結合した抗体に対応するスポットの蛍光強度を、ScanArray5000(Perkin Elmer,Boston,MA)共焦点スキャナーを用いて定量した。また、ImaGene画像解析ソフトウェア(BioDiscovery Inc,El Segundo,CA)を用いて画像解析を行った。シグナル対バックグランドは、代表的に50:1よりも大きく、バックグランドの減算を行わなかった。MS Excelソフトウェアを用いてデータをプロットした。
【0239】
(結果)
図11は一人の患者からの代表的な結果を示している。分析されたすべての患者について、同様の結果が見られた。グリカン33〜39(図7に示す構造)は図11Dにおいてグリカン1〜7として示されている。グリカン33〜39は、同じ構造を有するものではないが、それぞれがα−Galで終わっている。t=0で採取された血清の反応性(明るい青色の棒)と比較すると、移植後1ヶ月で採取された血清(t=1)、移植後6ヶ月で採取された血清(t=2)、および移植後12ヶ月で採取された血清(t=3)は、有意により多量の抗グリカン抗体を有している。化合物8はLeX(Gal−β4−GlcNAc[α3−フコース]−β、図7の構造65)であり、これはヒト細胞上にあるため、ヒトはこのグリカン構造に対する抗体をもたない。最後の構造9はα−Gal−LeX(Gal−α3−Gal−β4−GlcNAc[α3−フコース]−β、図7の構造34(図11Cにも示す))であり、ヒトにおいて見出されないが、ブタ腎臓細胞上に存在することが報告されている。Bouhors D.ら,Gala1−3−LeX expressed on iso−neolacto ceramides in porcine kidney GLYCOCONJ.J.(10)1001−16(1998)参照。しかし、ブタ胎仔ランゲルハンス島様細胞集塊の移植を受けた患者は明らかに構造9(α−Gal−LeX)に対する免疫反応(抗体生産)を示している。
【0240】
従って、図11に示すとおり、移植レシピエントの血清中に抗体が存在するかどうかを試験するための本発明のグリカンアレイおよび方法は、組織移植を受ける前と後で抗体反応に明確な相違があることを明らかにしている。従って、本発明のアレイおよび方法は、移植および/または異種移植の後、移植片拒絶をモニターしかつ評価するために有用である。
【0241】
本発明の組成物、ライブラリー、アレイ、および方法に使用できるグリカンのさらなる例を表9に示す。なお、スペーサーまたはリンカーは、α結合またはβ結合のいずれかとしてグリカンに結合することができる。スペーサーまたはリンカーがグリカンの還元末端に結合される場合もある。
【0242】
(表9)
【0243】
【表9−1】

【0244】
【表9−2】

【0245】
【表9−3】

【0246】
【表9−4】

【0247】
【表9−5】

【0248】
【表9−6】

【0249】
【表9−7】

【0250】
【表9−8】

【0251】
【表9−9】

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【表9−10】

【0253】
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【0254】
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【0255】
【表9−13】

【0256】
【表9−14】

【0257】
【表9−15】

【0258】
【表9−16】

【0259】
【表9−17】

【0260】
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【0261】
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【0265】
【表9−23】

【0266】
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【0267】
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【0287】
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【0288】
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【表9−47】

【0290】
【表9−48】

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【0292】
【表9−50】

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【0295】
【表9−53】

【0296】
【表9−54】

【0297】
【表9−55】

【0298】
【表9−56】

【0299】
【表9−57】

【0300】
【表9−58】

【0301】
【表9−59】

【0302】
【表9−60】

【0303】
【表9−61】

【0304】
【表9−62】

【0305】
【表9−63】

【0306】
【表9−64】

【0307】
【表9−65】

【0308】
【表9−66】

【0309】
【表9−67】

【0310】
【表9−68】

【0311】
【表9−69】

【0312】
【表9−70】

【0313】
【表9−71】

【0314】
【表9−72】

【0315】
【表9−73】

【0316】
【表9−74】

【0317】
【表9−75】

【0318】
【表9−76】

【0319】
【表9−77】

【0320】
【表9−78】

【0321】
【表9−79】

【0322】
【表9−80】

【0323】
【表9−81】

【0324】
【表9−82】

【0325】
【表9−83】

【0326】
【表9−84】

【0327】
【表9−85】

【0328】
【表9−86】

【0329】
【表9−87】

【0330】
【表9−88】

【0331】
【表9−89】

【0332】
【表9−90】

【0333】
【表9−91】

【0334】
【表9−92】

【0335】
【表9−93】

【0336】
【表9−94】

【0337】
【表9−95】

【0338】
【表9−96】

【0339】
【表9−97】

【0340】
【表9−98】

【0341】
【表9−99】

【0342】
【表9−100】

【0343】
【表9−101】

【0344】
【表9−102】

【0345】
【表9−103】

【0346】
【表9−104】

【0347】
【表9−105】

【0348】
【表9−106】

【0349】
【表9−107】

【0350】
【表9−108】

【0351】
【表9−109】

【0352】
【表9−110】

【0353】
【表9−111】

【0354】
【表9−112】

【0355】
【表9−113】

【0356】
【表9−114】

【0357】
【表9−115】

【0358】
【表9−116】

【0359】
【表9−117】

【0360】
【化8】

【0361】
【化9】

【0362】
【化10】

【0363】
【化11】

【0364】
【化12】

本明細書で引用または言及したすべての特許および刊行物は、本発明が属する当該技術分野において当業者の技術水準を示すものである。そのように引用された特許または刊行物のそれぞれは、その全体が個々に参考として援用されたかまたは本明細書中にその全体が示されたのと同程度に、本明細書により参考として援用される。本出願人は、そのように引用された特許または刊行物からの任意のかつすべての内容および情報を本明細書に物理的に援用する権利を保有する。
【0365】
本明細書に記載される特定の方法および組成物は、好ましい実施形態を表すものであり、例示であって、本発明の範囲を限定することを意図しない。本明細書を考慮して、他の目的、局面および実施形態が当業者によって想到されるが、それらも特許請求の範囲に規定される本発明の精神の範囲内に包含されるものである。当業者に明らかなように、本発明の範囲および精神から逸脱することなく、本明細書中で開示された発明に対し、種々の置換および変更が施され得る。本明細書中で適切に例示的に記載された本発明は、本明細書中に必ずしも具体的に開示されていない任意の一つもしくは複数の要素または一つもしくは複数の限定事項を用いることなく、実施され得る。本明細書中に適切に例示的に記載された方法およびプロセスは種々の順序の工程で実施することができる。すなわち、それらは、本明細書および特許請求の範囲に示される工程の順序に必ずしも制限されない。本明細書および特許請求の範囲において使用される単数形「a」、「an」および「the」は、文章において明確な断りがない限り、複数の言及を含むものである。従って、例えば、「宿主細胞(a host cell)」の言及は、複数(例えば、1または集団の培養物)のそのような宿主細胞を含む等々である。いかなる場合においても、特許は、本明細書中に具体的に開示される特定の実施例もしくは実施形態または方法に限定して解釈されるものではない。いかなる場合においても、本出願人による応答の書面において特定的に条件や保留なく明確に採用される陳述がない限り、特許は、いかなる審査官または特許庁の他の職員または従業者によってなされたいかなる言述によっても限定して解釈されるものではない。
【0366】
使用されている用語および表現は、限定の表現としてではなく説明の表現として用いられている。そのような用語および表現の使用は、示されたまたは記載された特徴と等価なものまたはその部分を排除することを意図するものではなく、特許請求の範囲において請求される本発明の範囲内において種々の変更が可能であることを理解する。従って、当然のことながら、本発明は好ましい実施形態および必要に応じた特徴により具体的に開示されてきたが、本明細書中に開示される概念の変更およびバリエーションを当業者が採用し得、そして、そのような変更およびバリエーションも添付の特許請求の範囲に規定される本発明の範囲内にあるとみなされることが、理解される。
【0367】
本発明を本明細書に広くかつ包括的に記載してきた。この包括的な開示の中に含まれるより狭い種およびやや包括的な群のそれぞれも本発明の一部をなすものである。このことは、除かれる事項が本明細書中に具体的に記載されているか否かにかかわらず、ある主題を類概念から除く但し書きまたは消極的限定を有する本発明の包括的記載にもあてはまる。
【0368】
他の実施形態もまた特許請求の範囲内である。また、本発明の特徴または局面がマーカッシュ群の形式で記載される場合、当業者に明らかなとおり、それによって本発明は、マーカッシュ群の任意の個々のメンバーまたはそのメンバーの下位集団によって記載される。
【図面の簡単な説明】
【0369】
【図1】図1は、多様なグリカンのライブラリーをアミノ反応性のガラス表面に共有結合によってプリントすることを示し、そして本明細書に記載されるマイクロアレイ技術を用いた画像解析を示す。ある実施形態において、アミノ官能化グリカンライブラリーを、N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)で誘導体化したガラス表面にプリントし、各グリカンの型が既知のグリカンプローブ部位にプリントされたグリカンのマイクロアレイを形成する。
【図2】図2は、本発明のライブラリーの一部となり得るまたは本発明のアレイ上で用いることができる代表的なグリカンの構造を提供する。これらのグリカン構造の多くがグリカン結合性タンパク質と結合する。用いられる丸、四角、および三角の記号は、異なる糖単位を表す。これらの記号の意味は、以下のグリカン一覧に規定される。以下の略号が使用される。Gal=ガラクトース、Glc=グルコース、Man=マンノース、GalNAc=N−アセチルガラクトサミン、GlcNAc=N−アセチルグルコサミン、Fuc=フコース、NeuAc=N−アセチルノイラミン酸、NeuGc=N−グリコリルノイラミン酸、KDN=2−ケト−3−デオキシノノン酸、S=SO、SP1=(CH−NH−、SP2=(CH−NH−、SP3=(CH−NH−、SP4=NH−(CO)(CH−NH−、SP5=(CH−NH−。記号の命名法についてさらなる情報は、Consortium for Functional Glycomicsのウェブサイト(http://www.functionalglycomics.org)において見出され得る。本明細書に記載されるその他の表は、本発明のグリカンライブラリーおよびアレイに使用できるさらなるグリカン構造を示している。使用される糖類、糖誘導体、および糖結合の型についてのさらなる記術は、本明細書に示される表および本文で見ることができる。
【図3】図3A〜Cは、プリントの最適化および選択される植物レクチンの特異性を示すデータを提供する。図3Aは、グリカンの濃度およびプリント時間の長さと、フルオレセインイソチオシアネートに結合体化した結合コンカナバリンA(ConA−FITC)から検出されるシグナルの相対蛍光とを関係づけるグラフを提供する。最適なグリカン濃度およびプリント時間は、選ばれたマンノースグリカン構造をプリントし、次いでそれに結合するConAを検出することにより、決定された。代表的なマンノースグリカン(136、図7参照)を種々の濃度(4μM〜500μM)で8連にて6つの異なる時点でプリントした。図3Bは、図7に提供される構造を有するグリカンの完成したアレイ上におけるConA−FITCの結合特異性を示す。図に示すとおり、ConAは、N−アセチルグルコサミンで終わり得るマンノース含有グリカンに結合する。図3Cは、図7および表3に提供される構造を有するグリカン(グリカン1〜200)のアレイ上におけるFITC標識Erythrina cristagalli(ECA−FITC)の結合特異性を示す。図に示すとおり、Erythrina cristagalliは、フコースで終わり得るガラクトース−β4−N−アセチルグルコサミン含有グリカンに結合する。示されるグリカン構造に使用される記号は、図2で示すものと同じである。
【図4】図4A〜Dは、本発明のグリカンアレイ上における哺乳動物グリカン結合性タンパク質の特異性を示す。図4Aは、図7に示す構造を有するグリカンアレイへのC型レクチン(樹状細胞特異的ICAM捕捉性ノンインテグリン(DC−SIGN))による結合を示す。DC−SIGNをヒトFc抗体フラグメントに結合体化し、標識抗ヒトIgG抗体調製物による検出を可能にした。特に、DC−SIGN−Fcキメラ(30μg/mL)を、二次ヤギ抗ヒトIgG−Alexa−488抗体(10μg/mL)により検出した。図に示すとおり、DC−SIGNは、α1−2−および/またはα1−3/4−フコシル化グリカンに選択的に結合し、そしてManα1−2−グリカンに選択的に結合した。図4Bは、CD22(レクチンのシアル酸含有免疫グロブリンスーパーファミリー(Siglec)の一員)による結合を示す図である。二次ヤギ抗ヒトIgG−Alexa−488(5μg/mL)および三次ウサギ抗ヤギIgG−FITC(2.5μg/mL)抗体で予め複合化されたCD22−Fcキメラ(10μg/mL)は、Neu5Acα2−6Gal−グリカンに排他的に結合した。図4Cは、グリカンのアレイに結合するヒトのガレクチン4を示す図である。100μMおよび10μMでプリントされたグリカンを用いて評価されたヒトガレクチン4−Alexa488(10μg/mL)は、血液型グリカンに選択的に結合した。
【図5】図5A〜Cは、本発明のグリカンアレイ上における種々の抗炭水化物抗体の特異性を示す図である。図5Aは、N−アセチルグルコサミン−[α3(フコース)][β4(ガラクトース)]を含むルイスグリカンに対する抗CD15抗体調製物の特異性を示す図である。マウス抗CD15−FITCモノクローナル抗体(BD Biosciences Clone HI98、100テスト)は、ルイスグリカンに排他的に結合した。図5Bは、マンノース−8およびマンノース−9グリカンに対するヒト抗HIV 2G12モノクローナル抗体の特異性を示す図である。上記抗HIV 2G12抗体(30μg/mL)は、ヤギ抗ヒトIgG−FITC(15μg/mL)と予め複合化された。図に示すとおり、これらの抗体は、Man8およびMan9 N−グリカンを含む特定のManα1−2−グリカンに結合した。図5Cは、いくつかのグリカン型に対するヒト血清の結合特異性を示す図である。10人の健常個体からのヒト血清(1:25希釈)を、それぞれグリカンアレイに結合させ、次いでモノクローナルマウス抗ヒトIgG−IgM−IgA−ビオチン抗体(10μg/mL)およびストレプトアビジン−FITC(10μg/mL)それぞれを重ねることにより検出した。結果は、10の実験すべてにおける結合についての平均および標準偏差を表す。ヒト血清中に存在する抗炭水化物抗体は、種々の血液型抗原に結合するとともに、マンナン類および細菌フラグメントに結合した。
【図6】図6A〜Cは、本発明のアレイにおける特定のグリカンに対する、種々の細菌およびウイルスのグリカン結合性タンパク質の特異性を示す図である。図6Aは、シアノビリン−N(細菌のグリカン結合性タンパク質)により結合されるグリカン類を示す図である。シアノビリン−N(30μg/mL)結合は、二次ポリクローナルウサギ抗シアノビリン−N(10μg/mL)抗体および三次抗ウサギIgG−FITC(10μg/mL)抗体により検出した。シアノビリン−Nは、種々のα1−2マンノシドに結合した。図6Bは、インフルエンザH3血球凝集素により結合されるグリカンの型を示す図である。Duck/Ukraine/1/63(H3/H7)から得られた純粋な組換え血球凝集素(150μg/mL)は、マウス抗HisTag−IgG−Alexa−488(75μg/mL)および抗マウスIgG−Alexa−488(35μg/mL)で予め複合化された。グリカンアレイ上でのインキュベーションにより、血球凝集素は、Neu5Acα2−3Galを末端に有するグリカンのみに結合した。図6Cは、精製された血球凝集素としての同じ型のグリカンにインフルエンザウイルスが結合することを示す。インタクトなインフルエンザウイルス A/Puerto Rico/8/34(H1N1)を、100μg/mlの濃度で、ノイラミニダーゼインヒビターであるカルボン酸オセルタミビル10μMの存在下においてグリカンアレイに付与した。上記ウイルスは、NeuAcα2−3GalおよびNeuAcα2−6Gal配列の両方を有する広範囲のシアロシドと結合した。
【図7A】図7A〜Cは、本発明のいくつかのライブラリーおよびグリカンアレイに使用されるグリカン構造の模式図を提供する。図に示すグリカン構造について使用される記号は、図2に示すものと同じであるが、図7Cの右下欄に、いくつかのさらなる糖単位に対する記号が規定されている。図7に示すグリカン1〜200は、各グリカンの化学名が記載される表3に示すグリカン1〜200に相当する。
【図7B】図7A〜Cは、本発明のいくつかのライブラリーおよびグリカンアレイに使用されるグリカン構造の模式図を提供する。図に示すグリカン構造について使用される記号は、図2に示すものと同じであるが、図7Cの右下欄に、いくつかのさらなる糖単位に対する記号が規定されている。図7に示すグリカン1〜200は、各グリカンの化学名が記載される表3に示すグリカン1〜200に相当する。
【図7C】図7A〜Cは、本発明のいくつかのライブラリーおよびグリカンアレイに使用されるグリカン構造の模式図を提供する。図に示すグリカン構造について使用される記号は、図2に示すものと同じであるが、図7Cの右下欄に、いくつかのさらなる糖単位に対する記号が規定されている。図7に示すグリカン1〜200は、各グリカンの化学名が記載される表3に示すグリカン1〜200に相当する。
【図8】図8は、転移性乳癌患者の血清に見出される抗炭水化物抗体にどのグリカンが反応するかを示す棒グラフを提供する。抗体が結合したグリカンの型は、以下のとおりのx軸上の番号により特定される。バックグランド(#1、陰性対照)、セルロプラスミン(#2)、Neu5Gc(2−6)GalNAc(#3)、Neu5Ac(2−6)GalNAc(#4)、GMI(#5)、Sulfo−T(#6)、Globo−H(#7)、LNT−2(#8)、およびラムノース(#10、陽性対照)。x軸上に同定されるグリカンの上のバーのクラスタは、個々の患者における所与の抗グリカン抗体の相対蛍光強度を表している。赤色の棒(各群のバー1〜9)は、x軸上に同定されるグリカンとの転移性乳癌患者の血清の反応について観察された強度を表す。オレンジ色のバー(各バーのクラスタにおける10番目の棒)は、転移性癌患者1〜9についての平均値を表す。黄色のバー(各バーのクラスタの11番目のバー)は、非転移性乳癌の患者についての平均値を表す。青色のバー(12番目〜21番目のバー)は、「健常」個体の平均値を表す。濃青色のバー(バーのクラスタの22番目のバー)は、健常個体についての平均値を表す。
【図9】図9は、癌患者(N=9)および非癌患者(N=10)における選ばれた癌関連抗グリカン抗体のさらなる相対蛍光レベルを示す棒グラフである。これらの抗体と反応するグリカンの型を示すとともに、表示したグリカン種と反応する血清を有する患者の数を示す。x軸は、血清が癌患者から採取されたか非癌患者から採取されたかを示す。差込図は、転移性乳癌患者(1)および「健常」個体(2)における種々の修飾を有する既知の癌関連T抗原の群について、合せた相対蛍光レベルを示すものである。
【図10】図10は、各患者の血清中の腫瘍関連抗グリカン抗体について観察された蛍光レベル(図9から)を合せたものを示す棒グラフである。「癌」と表示されたバーは、個々の転移性癌患者について観察されたシグナルを合せたものを示している。「非癌」と表示されたバーは、個々の非癌患者について観察されたシグナルを合せたものを示している。
【図11A】図11Aは、α−Galについての構造(ブタ胎児ランゲルハンス島様細胞集塊の移植を受けた患者からの抗体に結合するグリカンのいくつかに見られるグリカン構造)を提供する(この構造について使用される記号は、本明細書、例えば図2または7において示される)。
【図11B】図11Bは、LeXグリカン(図7の化合物65)についての構造を提供する。これは、図11Dの棒グラフ中の化合物8に相当するグリカンである。
【図11C】図11Cは、α−Gal−LeXグリカン(図7の化合物34)についての構造を提供する。これは、図11Dの棒グラフ中の化合物9に相当するグリカンである。
【図11D】図11Dは、グリカンに対して反応性である特定の循環性抗体が、ブタ胎児ランゲルハンス島様細胞集塊の移植を受けた糖尿病患者に存在することを示す棒グラフを提供する。移植前、そして、移植後1ヶ月(t=1)、移植後6ヶ月(t=2)、および移植後12ヶ月(t=3)、それらの患者から血清を採取した。棒グラフは、x軸上でそれぞれグリカン1〜7として同定されるグリカン33〜39(図7に示す構造)と血清抗体との反応性を示す。より明るい色のバー(オリジナルにおいて青色)は、移植前の患者の血清中の抗体に対する特定のグリカンの反応性を示している。より濃い色のバー(オリジナルにおいて緑色)は、移植後t=1〜3の患者の血清中の抗体に対する、同定されたグリカンの反応性を合せたものを示している。よって、移植組織に対して指向する免疫反応を、本発明のグリカンアレイを用いて検出することができる。
【図12】図12は、ヒトの唾液が、異なる型のグリカンと結合する抗体を含むことを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体支持体およびグリカン分子のライブラリーを備えるグリカン分子のアレイであって、各グリカン分子がアミド基またはアミン基を介して該固体支持体に共有結合されている、グリカン分子のアレイ。
【請求項2】
前記ライブラリーにおけるそれぞれの型のグリカン分子が、規定のグリカンプローブ部位において、前記固体支持体に結合されている、請求項1に記載のアレイ。
【請求項3】
各グリカンプローブ部位は、前記固体支持体の一領域を規定し、該領域は、該領域に結合された複数コピーの類似する型のグリカン分子を有する、請求項2に記載のアレイ。
【請求項4】
前記アレイは、マイクロアレイである、請求項1に記載のアレイ。
【請求項5】
前記固体支持体は、ガラススライドである、請求項1に記載のアレイ。
【請求項6】
前記ガラススライドは、ヒドロゲルで被覆されている、請求項1に記載のアレイ。
【請求項7】
前記グリカン分子は、前記固体支持体上にプリントされている、請求項1に記載のアレイ。
【請求項8】
前記グリカン分子は、アミノ反応性の固体支持体上にプリントされている、請求項1に記載のアレイ。
【請求項9】
前記グリカン分子は、N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)誘導体化された固体支持体上にプリントされている、請求項1に記載のアレイ。
【請求項10】
各グリカンが、スペーサーに共有結合されており、該スペーサーが、アミド結合により前記固体支持体に結合されている、請求項1に記載のアレイ。
【請求項11】
各グリカンが、エーテル、エステル、アミド、またはそれらの組合せによりスペーサーに共有結合されている、請求項10に記載のアレイ。
【請求項12】
前記スペーサーが、アルキル、ペプチド、アミノ酸、タンパク質、またはそれらの組合せである、請求項10に記載のアレイ。
【請求項13】
請求項1に記載のアレイであって、10〜100,000種の異なる単離されたグリカンを備え、該グリカンが、α共有結合またはβ共有結合により互いに共有結合されたアロース、アルトロース、アラビノース、グルコース、ガラクトース、グロース、フコース、フルクトース、イドース、リキソース、マンノース、リボース、タロース、またはキシロースの糖単位の直鎖または分枝鎖であり、かつ、該糖単位は、該糖単位上に存在するヒドロキシ(−OH)置換基、カルボン酸(−COOH)置換基、およびメチレンヒドロキシ(−CH−OH)置換基の代わりに、またはそれに加えて存在する、N−アセチル置換基、N−アセチルノイラミン酸置換基、オキシ(=O)置換基、シアル酸置換基、硫酸(−SO)置換基、リン酸(−PO)置換基、低級アルコキシ置換基、低級アルカノイルオキシ置換基、低級アシル置換基、および/または低級アルカノイルアミノアルキル置換基を有することができる、アレイ。
【請求項14】
前記グリカンの一部が、天然に存在するグリカンである、請求項1に記載のアレイ。
【請求項15】
前記グリカンの一部が、酵素により合成されたグリカンである、請求項1に記載のアレイ。
【請求項16】
前記グリカンは、糖アミノ酸、糖ペプチド、糖脂質、グリコアミノグリカン、糖タンパク質、細胞成分、複合糖質、糖模倣物、糖リン脂質、グリコシルホスファチジルイノシトール結合複合糖質、細菌性リポ多糖、またはそれらの組合せを含む、請求項1に記載のアレイ。
【請求項17】
請求項1に記載のアレイであって、少なくとも一つのグリカンが、α−Gal−3グリカン、α−Gal−LeXグリカン、Fucα1−3GlcNAcグリカン、Fucα1−4GlcNAcグリカン、Siaα2−6Galβ1−4GlcNAcグリカン、Neu5Acα2−6Galβ1−4GlcNAc[6Su]グリカン、ルイス(Galβ1−4[Fucα1−3]GlcNAc)グリカン、Neu5Acα2−3−ガラクトシド、Neu5Acα2−6−シアロシド、Neu5Acα2−8−シアロシド、またはそれらの組合せを含む、アレイ。
【請求項18】
前記グリカンのライブラリーが、明細書に記載された表3または表9から選択される少なくとも35種のグリカンをさらに備える、請求項1に記載のアレイ。
【請求項19】
明細書に記載された表3または表9に列挙されているグリカンから選択される、225〜7500種の異なる単離されたグリカンを含む、ライブラリー。
【請求項20】
アレイにおいて、各グリカンがスペーサーに共有結合されている、請求項19に記載のライブラリー。
【請求項21】
前記スペーサーが、アルキル、ペプチド、アミノ酸、タンパク質、またはそれらの組合せである、請求項20に記載のライブラリー。
【請求項22】
前記スペーサーが、アミノアルキルである、請求項20に記載のライブラリー。
【請求項23】
キャリアおよび有効量の少なくとも一種のグリカン分子を含む組成物であって、該組成物中の各グリカン分子は、ある疾患を有する患者において見出される抗体に結合し、かつ、該疾患を有さない患者からの血清は、該組成物中の該グリカン分子のいずれかに結合する抗体を実質的に含まない、組成物。
【請求項24】
前記疾患が細菌の感染、ウイルス感染、炎症、癌、移植拒絶、または自己免疫疾患である、請求項23に記載の組成物。
【請求項25】
少なくとも2種のグリカン分子を有する、請求項23に記載の組成物。
【請求項26】
哺乳動物の免疫化のために調製される、請求項23に記載の組成物。
【請求項27】
組織への局所投与のために調製される、請求項23に記載の組成物。
【請求項28】
補助食品として調製される、請求項23に記載の組成物。
【請求項29】
少なくとも一種のグリカンが明細書に記載された表3または表9に列挙されているグリカンから選択される、請求項23の組成物。
【請求項30】
キャリアおよび有効量のα−Gal−3グリカンを含有する組成物であって、該組成物は、移植組織拒絶を処置または予防するために調製されている、組成物。
【請求項31】
請求項30に記載の組成物であって、前記α−Gal−3グリカンが、Gal−α3−Gal−β(構造33)、Gal−α3−Gal−β4−GlcNAc[α3−フコース]−β(構造34)、Gal−α3−Gal−β4−Glc−β(構造35)、Gal−α3−Gal[α2−フコース]−β4−GlcNAc−β(構造36)、Gal−α3−Gal−β4−GalAc−β(構造37)、Gal−α3−GalAc−α(構造38)、Gal−α3−Gal−β(構造39)、またはそれらの組合せである、組成物。
【請求項32】
キャリアおよび有効量の少なくとも一種のグリカン分子を含有する組成物であって、該組成物中の各グリカン分子は、健常者において見出される抗体に結合し、かつ、該疾患を有する患者からの血清は、該組成物中の該グリカン分子のいずれかに結合する抗体を実質的に含まない、組成物。
【請求項33】
試験試料中の分子がグリカンに結合できるかどうかを試験する方法であって、(a)請求項1〜18のいずれか一項に記載のアレイにあるグリカンを該試験試料と接触させる工程、および(b)該試験試料中の分子が該アレイにあるグリカンに結合するかどうかを観察する工程、を包含する、方法。
【請求項34】
試験試料中の分子がグリカンに結合できるかどうかを試験する方法であって、(a)請求項19〜22のいずれか一項に記載のライブラリーにあるグリカンを該試験試料と接触させる工程、および(b)該試験試料中の分子が該ライブラリーにあるグリカンに結合するかどうかを観察する工程、を包含する、方法。
【請求項35】
前記試験試料中のどの分子が前記グリカンに結合するかを決定する工程をさらに包含する、請求項33または34に記載の方法。
【請求項36】
前記分子が、抗体、酵素、ウイルスタンパク質、細胞のレセプター、細胞型特異的抗原、または核酸である、請求項33または34に記載の方法。
【請求項37】
前記核酸がRNAである、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記分子が、原核生物由来である、請求項33または34に記載の方法。
【請求項39】
前記分子が、プリオン、ウイルス、細菌由来である、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記分子が真核生物由来である、請求項33または34に記載の方法。
【請求項41】
前記分子が、細胞または組織の成分である、請求項33または34に記載の方法。
【請求項42】
試験試料中の抗体を検出する方法であって、該試験試料を請求項1〜18のいずれか一項に記載のアレイと接触させる工程、および、一種以上のグリカンが該試験試料中の抗体によって結合されるかどうかを観察する工程、を包含する、方法。
【請求項43】
前記試験試料が血液、血清、抗血清、モノクローナル抗体調製物、リンパ、血漿、唾液、尿、精液、母乳、腹水、組織抽出物、細胞溶解物、細胞懸濁物、ウイルス懸濁物、またはそれらの組合せである、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
対照試料中の抗体が前記試験試料中の抗体により結合されるグリカン分子と同じグリカン分子に結合するかどうかを観察する工程をさらに包含する、請求項42に記載の方法。
【請求項45】
血清中の抗体を検出する方法であって、該血清を請求項1〜18のいずれか一項に記載のアレイと接触させる工程、および、一種以上のグリカンが抗体によって結合されるかどうかを観察する工程を包含する、方法。
【請求項46】
移植レシピエントにおける移植組織の拒絶を検出する方法であって、該移植レシピエントからの試験試料をグリカンのアレイと接触させる工程、および、一種以上のグリカンが該試験試料中の抗体によって結合されるかどうかを観察する工程、を包含する、方法。
【請求項47】
移植レシピエントにおける異種移植組織拒絶を検出する方法であって、該移植レシピエントからの試験試料をグリカンのアレイと接触させる工程、および、一種以上のグリカンが該試験試料中の抗体によって結合されるかどうかを観察する工程を包含し、該アレイ中の該グリカンが、以下:Gal−α3−Gal−β(図7の構造33)、Gal−α3−Gal−β4−GlcNAc[α3−フコース]−β(図7の構造34)、Gal−α3−Gal−β4−Glc−β(図7の構造35)、Gal−α3−Gal[α2−フコース]−β4−GlcNAc−β(図7の構造36)、Gal−α3−Gal−β4−GalAc−β(図7の構造37)、Gal−α3−GalAc−α(図7の構造38)、Gal−α3−Gal−β(図7の構造39)、もしくはGal−β4−GlcNAc[α3−フコース]−β(図7の構造65)、またはそれらの組合せのうちのいずれか一つを含む、方法。
【請求項48】
前記試験試料が血液、血清、血漿、唾液、尿、母乳、腹水、またはリンパである、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
少なくとも一種のグリカンが、ヒトにおいては見出されないがブタの細胞上に存在する、α−Gal−LeX(Gal−α3−Gal−β4−GlcNAc[α3−フコース]−β(図7の構造34))を含む、請求項47に記載の方法。
【請求項50】
哺乳動物の疾患を処置または予防する方法であって、該疾患を有する患者において検出される抗体に結合する有効量の少なくとも一種のグリカン分子を含む組成物を、該哺乳動物に投与する工程を包含する、方法。
【請求項51】
前記少なくとも一種のグリカンが、α−Gal−3グリカンまたはα−Gal−LeXグリカンを含む、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
α−Gal−3グリカンに結合することができる、単離された抗体。
【請求項53】
Gal−α3−Gal−β(図7の構造33)、Gal−α3−Gal−β4−GlcNAc[α3−フコース]−β(図7の構造34)、Gal−α3−Gal−β4−Glc−β(図7の構造35)、Gal−α3−Gal[α2−フコース]−β4−GlcNAc−β(図7の構造36)、Gal−α3−Gal−β4−GalAc−β(図7の構造37)、Gal−α3−GalAc−α(図7の構造38)、Gal−α3−Gal−β(図7の構造39)、またはそれらの組合せを含むグリカンに結合することができる、単離された抗体。
【請求項54】
請求項1〜18のいずれか一項に記載のアレイと該アレイを使用するための説明書とを備える、キット。
【請求項55】
請求項19〜22のいずれか一項に記載のグリカンのライブラリーと、該グリカンのライブラリーからアレイを作製するための説明書とを備える、キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2007−527539(P2007−527539A)
【公表日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−502085(P2007−502085)
【出願日】平成17年3月7日(2005.3.7)
【国際出願番号】PCT/US2005/007370
【国際公開番号】WO2005/088310
【国際公開日】平成17年9月22日(2005.9.22)
【出願人】(501244222)ザ スクリプス リサーチ インスティテュート (33)
【Fターム(参考)】