説明

ハイブリダイゼーション装置及び方法

【課題】検体濃度が低い場合でもハイブリダイゼーション効率を高めることができる装置および方法を提供すること。
【解決手段】本発明ハイブリダイゼーション装置1、検体液を収容する検体液収容部8と、検体液収容部の深さ方向中間位置あるいはそれより下方に設けられバイオチップ14を水平に保持するバイオチップ取付部と、検体液収容部の両側の外方に対向して設けられた第1および第2のバッファ液収容部10、12と、検体液収容部と第1および第2のバッファ液収容部のそれぞれとを仕切る半透膜4、6と、第1および第2のバッファ液収容部のそれぞれに配置された第1の電極対18、20とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概略的には、ハイブリダイゼーション装置および方法に関し、詳細には、電気泳動を利用したハイブリダイゼーション装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多数遺伝子の一括発現解析を可能とするDNAマイクロアレイ法(DNAチップ法)と呼ばれる新しい分析法が開発され、注目を集めている。このDNAマイクロアレイ法は、核酸−核酸間ハイブリダイゼーション反応に基づいて核酸検出・定量を行う手法であり、バイオチップと呼ばれる、平面基板上に多数のDNA断片(DNAプローブ)を高密度に固定したものが用いられる。
【0003】
DNAマイクロアレイ法では、例えば、研究対象細胞の発現遺伝子等の被験試料(検体)を平面基板上のDNAプローブとハイブリダイゼーションさせ、互いに相補的な核酸(DNA又はRNA)同士を結合させ、その箇所を蛍光色素標識等により高解像度解析装置で高速に読みとる。
このような操作により、被験試料(検体)中の各遺伝子の量を迅速に推定できるため、この方法の導入により、検体の微量化と、その検体を、再現性よく、多量・迅速・系統的に分析、定量することが可能となった(特許文献1参照)。
【0004】
バイオチップを用いたハイブリダイゼーションを効率よく行うためには、プローブと検体との接触効率を上げることが必要である。このため、検体量が非常に少ない場合には、効率よくプローブと検体とを反応させるべく、バイオチップに接触させた検体液を攪拌する、検体液を濃縮するなどの手法が採られる。
【0005】
検体液を攪拌して反応効率を向上させる技術としては、ビーズを混合した検体液をバイオチップに接触させた後、カバーガラスなどを用いて検体液をシーリングし、バイオチップを回転させることにより、ビーズを重力方向に落下させることで検体液を攪拌する方法(特許文献2参照)、微粒子や気泡を検体液中で動かし攪拌する方法が知られている(特許文献3参照)。
【0006】
また、核酸(DNA又はRNA)が電解質溶液中で負の電荷を持つという特徴を利用して、核酸検体を溶液中で電気泳動により強制的に移動させながら基盤に固定化したDNAプローブとハイブリダイゼーションさせ、検体を検出する方法(特許文献4参照)や、核酸検体をゲル内で電気泳動により強制的に移動させながら、ゲル内に固定されたDNAプローブとハイブリダイゼーションさせ、検体を検出する核酸検出装置及び核酸検出方法も開発されている。(特許文献5参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−270877号公報
【特許文献2】特開2003−339375号公報
【特許文献3】WO05/090997
【特許文献4】特許第4122854号
【特許文献5】特許第3829491号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、検体液を攪拌する技術や電気泳動技術を用いても、プローブと検体とのハイブリダイゼーションが不十分となる場合があった。また、装置等の都合で検体液の量を増やさざるを得ない場合や検体そのものの量が非常に少ない場合には、検体液中の検体濃度が低くなるため検体のプローブへの衝突頻度が小さくなり、十分なハイブリダイゼーションを達成できないことがある。
【0009】
本発明は、このような従来技術の問題を解決するためになされたものであり、検体濃度が低い場合でもハイブリダイゼーション効率を高めることができる装置および方法を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、
ハイブリダイゼーション装置であって、
検体液を収容する検体液収容部と、
前記検体液収容部の深さ方向中間位置あるいはそれより下方に設けられバイオチップを水平に保持するバイオチップ取付部と、
前記検体液収容部の両側の外方に対向して設けられた第1および第2のバッファ液収容部と、
前記検体液収容部と前記第1および第2のバッファ液収容部のそれぞれとを仕切る半透膜と、
前記第1および第2のバッファ液収容部のそれぞれに配置された第1の電極対と、を備えている、
ことを特徴とするハイブリダイゼーション装置が提供される。
【0011】
このような構成によれば、検体液収容部に収容された生体関連物質等の検体は、一対の電極間での電圧印加により、一方の半透膜側に電気泳動されるが、半透膜を透過することができないため、この半透膜近傍には、濃縮された検体が偏在する。
次いで、電極の極性を反転させて一対の電極間に電圧を印加することで、半透膜近傍で濃縮された検体が、重力によってバイオチップに表面に向かって短時間で沈降し、その後バイオチップの表面に沿って、他方の半透膜側に電気泳動される。この結果、検体とバイオチップ内のプローブとの接触効率が向上する。
【0012】
さらに、極性を反転させて電気泳動を行う作業を繰り返すことで、濃縮された検体が、バイオチップ表面上を繰り返し移動し、ハイブリダイゼーション効率がより向上する。
【0013】
本発明の他の好ましい態様によれば、前記バイオチップ取付部が、前記検体液収容部の底部に設けられている。
本発明の他の好ましい態様によれば、前記バイオチップ取付部が、前記検体液収容部の深さ方向中間位置に設けられている。
【0014】
本発明の他の好ましい態様によれば、前記検体液収容部の上下の外方に対向して設けられた第3および第4のバッファ液収容部と、前記検体液収容部と前記第3および第4のバッファ液収容部のそれぞれとを仕切る半透膜と、前記第3および第4のバッファ液収容部のそれぞれに配置された第2の電極対と、を備えている。
【0015】
このような構成によれば、深さ方向に貫通孔を有するバイオチップを使用し、濃縮された検体を、バイオチップ表面上を繰り返し移動させた後、第2の電極対に電圧印加することにより、検体を上下方向に移動させてバイオチップの貫通孔を通過させ、さらにハイブリダイゼーション効率を上げることができる。
【0016】
本発明の他の態様によれば、
バイオチップに固定された第1の生体関連物質と検体液中の第2の生体関連物質とをハイブリダイゼーションさせるハイブリダイゼーション方法であって、
前記バイオチップを検体液中に水平に配置するステップと、
前記バイオチップの表面に沿った第1の方向に沿って前記検体液に電圧を印加し、前記バイオチップの一側部側で前記検体液中の検体を濃縮するステップと、
前記第1の方向とは逆方向に前記検体液に電圧を印加するステップと、を備えている、
ことを特徴とするハイブリダイゼーション方法が提供される。
【0017】
このような構成によれば、検体液収容部に収容された生体関連物質等の検体は、一対の電極間での電圧印加により、一方の半透膜側に電気泳動されるが、半透膜を透過することができないため、この半透膜近傍には、検体が濃縮された検体液が偏在する。
次いで、電極の極性を反転させて一対の電極間に電圧を印加することで、一方の半透膜の近傍で濃縮された検体が、重力によってバイオチップの表面に向かって短時間で沈降する。その後バイオチップ表面に沿って、他方の半透膜側に電気泳動される。したがって、検体とバイオチップ内のプローブとの接触効率が向上する。
【0018】
本発明の他の好ましい態様によれば、前記バイオチップの表面に直交する方向に電圧を印加するステップをさらに備えている。
【0019】
このような構成によれば、深さ方向に貫通孔を有するバイオチップを使用し、濃縮された検体が、バイオチップ表面上を繰り返し移動した後、バイオチップの表面に直交する方向に電圧印加することにより、バイオチップの貫通孔を通して検体を電気泳動によって通過させ、さらにハイブリダイゼーション効率を上げることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、検体液を高度に濃縮することにより、生体関連物質プローブと検体との接触効率を上げ、ハイブリダイゼーション効率を上げることができる。また、それによりハイブリ時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】第1の実施形態のハイブリダイゼーション装置の模式的な縦断面図である。
【図2】本発明の実施形態のハイブリダイゼーション装置で使用されるバイオチップの一例の模式図である。
【図3】本発明の実施形態のハイブリダイゼーション装置で使用されるバイオチップの他の例の模式図である。
【図4】第2の実施形態のハイブリダイゼーション装置の模式的な縦断面図である。
【図5】第3実施形態のハイブリダイゼーション装置の模式的な縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の好ましい実施形態のハイブリダイゼーション装置およびハイブリダイゼーション方法について詳細に説明する。まず、図1に沿って、本発明の第1の実施形態のハイブリダイゼーション装置の構造について説明する。図1は、第1の実施形態のハイブリダイゼーション装置1の模式的な縦断面図である。
【0023】
本実施形態のハイブリダイゼーション装置1は、バイオチップに固定されているDNA等の生体関連物質プローブ(第1の生体関連物質)に、検体液に含まれる検体(第2の生体関連物質)をハイブリダイゼーションさせる装置である。
【0024】
図1に示されているように、本発明のハイブリダイゼーション装置1は、直方体形状を有する本体2を備えている。本体2は、直方体状の内部空間を有し、この内部空間の左右両側部には、第1および第2の半透膜4、6が、上下方向に延びるように配置され、内部空間を中央の検体液収容部8と、左右の第1および第2のバッファ液収容部10、12に仕切っている。すなわち、第1および第2のバッファ液収容部10、12は、中央の検体液収容部8の側部外方に対向して設けられ、検体液収容部8と第1の半透膜4および第2の半透膜6で仕切られている。
【0025】
また、検体液収容部8の底部には、薄板状のバイオチップ14が水平状態で取付けられるバイオチップ取付部16が設けられている。バイオチップ取付部16は、バイオチップ14を検体液収容部8の底部に水平に保持することができれば、その構造は、特に限定されるものではない。
【0026】
検体液中の検体を重力で落下させてバイオチップ上に濃縮するため、バイオチップは検体液収容部8の深さ方向中間位置あるいはそれより下方に取り付けるのが好ましい。したがって、バイオチップ取付部16は、検体液収容部8の深さ方向の中間位置あるいはそれより下方に、本実施形態では、検体液収容部8の底部に設けられている。
【0027】
バイオチップ取付部16の具体的構造としては、バイオチップ14が浮き上がらないようにチップの四隅を固定する構成や、半透膜を支持する枠などと一体になって検体液収容部8の底部にバイオチップ14を固定する構成などがあげられるが、バイオチップ14を検体液収容部8の底部に水平に保持することができれば、特に限定されるものではない。また、バイオチップ14を本体2の底部に直接貼り付けるバイオチップ取付部であっても良い。
【0028】
さらに、第1のバッファ液収容部10および第2のバッファ液収容部12内には、それぞれ第1および第2の電極18、20が配置されている。それぞれ電極18、20は、電源22と接続され、電圧の印加、および極性の切り換えが可能とされている。ハイブリダイゼーション装置1は、絶縁材料24によって外部と絶縁されている。
【0029】
第1の半透膜4および第2の半透膜6は、後述する検体液収容部8に収容するDNA等の検体を透過させず、検体液中の水や塩類のような低分子は透過させる膜である。第1の半透膜4および第2の半透膜6の材料は、使用する検体、検体液の溶媒の種類に応じて適宜選択されるが、一般に、検出しようとしている検体より小さいカットオフ分子量を示す膜材料が選択される
【0030】
具体的には、第1の半透膜4および第2の半透膜6は、ゼラチン膜、アセテート膜、アクリルアミド系やポリビニルアルコール等のハイドロゲル、再生セルロース膜等の中から選択される。機械的強度、取り扱い、入手の容易性等の点で、アセテ−ト膜が好ましい。
【0031】
検体液収容部8は、検体液を収容する空間である。容積は小さいほうが好ましいが、検体を濃縮する半透膜を両側に設置するため、1から5mm程度の厚さ(深さ)であることが好ましい。
【0032】
第1のバッファ液収容部10および第2のバッファ液収容部12は、バッファ溶液が充填されそのバッファ溶液中に電極18、20が配置される空間である。このようなバッファ液収容部10、12を設けることで、バイオチップ14と電極18、20を隔離して、バイオチップが電極近傍のpH上昇により劣化したり、反応阻害の影響を受けないようにすることができる。
【0033】
また、電極近傍で発生する気体によって、バイオチップに印加される電場が不均一になることを防止することができる。バッファ溶液槽の体積及び形状は特に限定されず任意に選択することができる。
【0034】
バッファ溶液の組成としては、一般的に生体関連物質のハイブリダイズ反応に利用される溶液組成が上げられ、SSCやTN、TBE溶液やTAE溶液などが挙げられる。
【0035】
電極18、20の大きさ、形状および配置は、検体液収容部8とバイオチップ14に均一の電圧を印加することができるものであれば特に限定されないが、例えば、平板上または平板メッシュ状の形態であることが好ましい。
【0036】
電極18、20に用いられる材料としては、グラファイト、白金、金、金属に金メッキした材料が挙げられる。電極は、絶縁体に固定され、且つ該絶縁体が透明材料であることが好ましい。そのような例としては、ガラス、ポリエチレンテレフタレートフィルムなどの透明基板に、酸化スズ、ITO、金または白金等を主たる構成材料とする薄膜またはその積層体が部分的に形成された透明電極が挙げられる。
【0037】
次に、図2に沿って、ハイブリダイゼーション装置1で使用されるバイオチップ14(ゲル保持チップ)の構成を説明する。図2は、バイオチップ14の模式図である。
バイオチップ14は、矩形の薄板である基板26に、厚さ方向に貫通する多数の貫通孔26aが形成された構造を有している。各貫通孔26aの周縁には、環状断面の中空繊維28が配置され、その内部空間に核酸、タンパク質等の生体関連物質プローブが固定化された高分子ゲル30が保持されている。
【0038】
基板26の寸法は、各辺の長さが数ミリないし数センチ、厚さが数十ミクロンから1mm程度の範囲である。基板26の材料は、ガラス、セラミック、プラスチックなどが好ましいが、特に限定されない。
【0039】
本実施形態で使用するバイオチップ14は特許文献1に記載されているようなバイオチップであり、多数中空繊維を樹脂で一体化して柱状の中空繊維配列体とし、中空繊維の中空部に生体関連物質プローブを高分子ゲル30と共に注入して高分子ゲル30内に固定化した後、この中空繊維配列体を中空繊維の長手方向と交叉する方向にスライスすることによって製造されている。
【0040】
しかしながら、中空繊維のゲル保持体を用いることなく、基板の厚さ方向に延びる貫通孔内に、生体関連物質プローブが固定化された高分子ゲルが充填されているバイオチップでもよい。
中空繊維以外のゲル保持体を用いたバイオチップとしては、例えば、積層された複数のシート状部材やブロック状部材にレーザー等で貫通孔を穿ち、その中に生体関連物質プローブが固定化された高分子ゲルを注入しシート化した電気泳動担体などが挙げられる。
【0041】
さらに、特開2000−60554号公報に記載の樹脂板に形成された複数の貫通孔にゲルを介してプローブが保持されているチップも使用可能である。さらにまた、貫通孔を備えず、基板上に生体関連物質を固定化したバイオチップでもよい。
【0042】
図3は、ハイブリダイゼーション装置で使用される、他のバイオチップ32の模式図である。このバイオチップ32では、ガラス、セラミック、プラスチック等の基板34上に、生体関連物質36が固定化されている。固定化は、基板に生体関連物質が、共有結合的に固定化されていることが好ましいが、物理的な吸着であってもよい。また、基板34上に第1の生体関連物質36が固定化されたゲルを配置してもよい。
【0043】
バイオチップに固定化される第1の生体関連物質としては、核酸、たんぱく質、アミノ酸、ペプチド、糖、脂質、抗体などを用いることができる。
【0044】
次に、本実施形態のハイブリダイゼーション装置を用いたハイブリダイゼーション方法について説明する。
【0045】
所定の生体関連物質プローブが高分子ゲル30と共に貫通孔に充填されているバイオチップ14を、検体液収容部8の底部に設けられているバイオチップ取付部16に水平に取付ける。次に、DNA等の生体関連物質(検体)を公知の方法で標識した標識検体を含む検体液で検体液収容部8を満たす。さらに、バッファ液で、第1のバッファ液収容部10および第2のバッファ液収容部12を満たす。
【0046】
次に、第1のバッファ液収容部10に配置された第1の電極18を正極とし、第2のバッファ液収容部12に配置された第2の電極20を負極として、電極18、20に電圧を印加して、検体液収容部8内に注入された検体液に含まれるDNA等の生体関連物質を泳動させる。DNA等の核酸は、負に荷電するので、正極の第1の電極18に向かって泳動するが、第1の半透膜4を透過することができないため、第1の半透膜4近傍に、濃縮された検体が偏在することになる。検体である第2の生体関連物質としては、タンパク質、DNA、RNAなどを用いることができ、電荷を持ち、電気泳動に用いられる生体関連物質であれば特に限定されない。
【0047】
次いで、電極の極性を反転させ、電極18、20に電圧を印加する。第1の半透膜4近傍で濃縮された検体は、正極の第2の電極20に向かって泳動し始めるが、泳動による移動より早く重力によってバイオチップ14の表面に向かって沈降し始める。この結果、濃縮された検体が、バイオチップ14の表面に沿って、第2の電極20(第2の半透膜側)に向かって電気泳動される。このように極性を反転させた泳動を繰り返しながらハイブリダイゼーション操作を行う。
このような操作により、濃縮された検体がバイオチップ表面に沿って移動するので、プローブと検体との接触効率が向上する。
【0048】
次に、図4に沿って、本発明の第2の実施形態のハイブリダイゼーション装置40について詳細に説明する。図4は、本発明の第2の実施形態のハイブリダイゼーション装置の模式的な断面図である。第2の実施形態のハイブリダイゼーション装置の基本構造は、上述した第1の実施形態と同一であるため、第1の実施形態のハイブリダイゼーション装置と共通する部分は同一符号を付して説明を省略し、第1の実施形態と異なる部分の構造のみを説明する。
【0049】
図4に示されているように、第2の実施形態のハイブリダイゼーション装置40では、バイオチップ取付部42が、検体液収容部の深さ方向中間位置に配置され、バイオチップ取付部42に取付けられたバイオチップ14によって検体液収容部が第1の検体液収容部44と第2の検体液収容部46に区切られるように構成されている。
【0050】
このような構成によれば、第1の検体液収容部44を上方に配置した状態で検体を濃縮した後、上下をひっくり返して第2の検体液収容部46を上方に配置させて検体を濃縮することにより、バイオチップの両面から濃縮ハイブリを行うことが可能となる。このような操作には、バイオチップ取付部が、検体液収容部の深さ方向中間位置に設けられていることが最も好ましい。
【0051】
バイオチップ取付部の構造は、バイオチップによって区切られる第1の検体液収容部44と第2の検体液収容部46の深さが略等しくなるように、バイオチップを検体液収納部全体の深さ方向の中間位置に水平に保持することが出来れば、特に限定されない。
例えば半透膜を保持する支持体にバイオチップを取り付け、この支持体を装置の装置の筐体に嵌め込み、バイオチップが動かないように取り付ける構成があげられる。
【0052】
第2の実施形態のハイブリダイゼーション装置40を用いたハイブリダイゼーションでは、一定時間毎に、ハイブリダイゼーション装置40を上下を反転させながら、第1の実施形態のハイブリダイゼーション装置1によるハイブリダイゼーションと同様の操作を行っても良い。
【0053】
次に、図5に沿って、本発明の第3実施形態のハイブリダイゼーション装置50について詳細に説明する。図5は、本発明の第3実施形態のハイブリダイゼーション装置50の模式的な縦断面図である。第3実施形態のハイブリダイゼーション装置の基本構造は、上述した第2の実施形態と同一であるため、第2の実施形態のハイブリダイゼーション装置と共通する部分は同一符号を付して説明を省略し、第2の実施形態と異なる部分の構造のみを説明する。
【0054】
図5に示されている、第3実施形態のハイブリダイゼーション装置50では、第1の検体収容部44の上方に第3の半透膜52を介して、第3の電極54が配置された第3のバッファ液収容部56が設けられ、第2の検体収容部46の下方に第4の半透膜58を介して、第4の電極60が配置された第4のバッファ液収容部62が設けらている。各電極54、60は電源62に接続されている。
第3実施形態のハイブリダイゼーション装置50においても、バイオチップ14が検体液収容部の深さ方向中間位置に配置されるようにバイオチップ取付部が設けられていることが好ましい。
【0055】
第3実施形態のハイブリダイゼーション装置50を用いたハイブリダイゼーションでは、第2の実施形態のハイブリダイゼーション装置40と同様にハイブリダイゼーションを行った後、第3および第4の電極54、60に電圧を印加し、バイオチップ14の貫通孔を通して検体を電気泳動によって通過させる。
【0056】
ハイブリダイズ操作が終了した後、ハイブリダイズしなかった検体成分は、バイオチップをバッファ液等で洗浄することにより、除去することができるが、貫通孔を有するバイオチップの場合には、バイオチップに電圧を印加し、洗浄することもできる。
【0057】
上述した各ハイブリダイゼーション方法では、検体を公知の方法で蛍光分子により標識しておけば、ハイブリダイズした検体を蛍光検出により検出することができる。ハイブリダイズした検体の検出は、上記洗浄操作の後、装置から取り出して実施することができる。検出に用いる励起光はレーザー、水銀ランプまたはハロゲンランプ等の光源からフィルターにより濾過した光が用いられる。蛍光は、CCD、ホトダイオードなどによって検出することができる。
【0058】
本発明は上記実施形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された事項の範囲内で種々の変更又は変形が可能である。
【実施例】
【0059】
次に、本発明の実施形態を以下の実施例により具体的に説明する。
(実施例1)
直径0.3mmの孔が、孔の中心間距離を0.42mmとして縦横各12列に合計144個配置された厚さ0.1mmの多孔板2枚を重ね、これらの多孔板の各孔に、外径280μm、内径180μm、長さ30cmのカーボンブラック含有ポリカーボネート中空繊維を通過させた。2枚の多孔板の間隔を100mmとし、糸を張った状態で固定した。
【0060】
次に、樹脂原料を2枚の多孔板の間に流し込んだ。樹脂としては、ポリウレタン樹脂接着剤(日本ポリウレタン工業株式会社製 ニッポラン4276、コロネート4403)を使用した。また、この接着剤の総重量に対し、2.5質量%のカーボンブラックを添加した。室温で24時間静置して樹脂を硬化し中空繊維集束固定物を得た。次に下記に示す配合比になるように重合液を調製した。
【0061】

【0062】
次に上記重合液に2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二硫酸塩(以下VA044)を0.1質量部添加し、中空繊維集束固定物の中空繊維中に充填した。その後、温度を55℃に上げ重合を行った。なお、144配列のうち、10配列は65ベースの核酸プローブAを重合液に加え中空繊維内で重合した。その後、ミクロトームにて、繊維軸と直角方向に、厚さ0.25mmの薄片を切り出し、図2に示すような縦横15mm角のバイオチップを得た。
【0063】
得られたバイオチップを図1に示すハイブリダイゼーション装置の検体液収容部の底部に設けたバイオチップ取付部に取り付けた。取り付けたバイオチップは水平に保持されていた。半透膜は横20mm高さ5mm、スぺクトロポア社製 カットオフ分子量3500を、電極はステンレス製の板に金メッキ処理をしたものを用いた。検体液収容部には、プローブAと相補的に結合する65ベースのCy5染料で標識された核酸検体aの100fmolを0.5×SSC 0.2%SDSに溶解して充填した。
【0064】
次に、電極に6Vの電圧を20分印加した後、電極を反転し、6Vの電圧を20分印加する操作を、4回繰り返しハイブリダイゼーションを行った。ハイブリダイゼーション終了後、2xSSC、0.2%SDS溶液中で40分その後、2xSSC溶液中で20分洗浄をおこなった。
【0065】
その後、蛍光顕微鏡を用いてバイオチップを観察した。
その結果、プローブを固定化したスポットから光量6000の蛍光を検出することができた。
【0066】
(実施例2)
実施例1で作製したバイオチップを図4に示すハイブリダイゼーション装置の検体液収容部の深さ方向中間位置に設けたバイオチップ取付部に取り付けた。取り付けたバイオチップは水平に保持されていた。半透膜の材質および大きさ、検体液収容部の大きさとバッファ液組成は実施例1と同様にし、ハイブリダイゼーションおよび洗浄作業をおこなった。その後、蛍光顕微鏡を用いてバイオチップを観察した。その結果、プローブの固定化したスポットから光量8000の蛍光を検出することができた。
【0067】
(実施例3)
実施例1で作製したバイオチップを用い、図5に示すハイブリダイゼーション装置の検体液収容部の深さ方向中間位置に設けたバイオチップ取付部に取り付けた。取り付けたバイオチップは水平に保持されていた。第1および第2の半透膜4、6は横15mm高さ5mmのものを、第3および第4の半透膜は15mm角のものを用いた。検体液収納部44、46の一方に、プローブAと相補的に結合する65ベースのCy5染料で標識された核酸検体aの100fmolを0.5×SSC 0.2%SDSに溶解して充填した。検体液収納部44、46の他方には核酸検体を溶解しない0.5×SSC 0.2%SDS溶液を充填した。
【0068】
次に、第1および第2の電極18、20間に6Vの電圧を20分印加した後、電極を反転し、10分間電圧を印加した。電圧をOFFにした後、第3および第4の電極54、60間に検体液が充填されている側の電極をマイナスとして6Vの電圧を20分間印加した。この操作により、検体をバイオチップの反対側に移動させた後、装置を180度反転し、上記と同様の作業を2回繰り返した。ハイブリダイゼーション終了後、2xSSC、0.2%SDS溶液中で40分その後、2xSSC溶液中で20分洗浄をおこなった。その後、蛍光顕微鏡を用いてバイオチップを観察した。その結果、プローブの固定化したスポットから光量20000の蛍光を検出することができた。ハイブリ時間は80分であった。
【0069】
(実施例4)
縦横15mm、厚さ1mmのガラス板に、実施例1で使用した重合液を、スポッターを用いて144箇所スポットした後、温度を55℃に上げ重合を行った。実施例1同様に、144スポットのうちの10スポットには65ベースの核酸プローブAを重合液に加え重合し図3に示すバイオチップを作製した。
【0070】
実施例1と同様の方法にて、バイオチップを用いてハイブリダイゼーションおよび洗浄をおこなった。その後、蛍光顕微鏡を用いてバイオチップを観察した。その結果、プローブの固定化したスポットから光量7000の蛍光を検出することができた。
【0071】
(比較例1)
実施例1と同様の方法で、電圧を印加せずにシグナル強度が実施例1と同じ6000となるまでハイブリダイゼーションを行った。その結果、プローブのシグナル強度が6000になるまでには10時間必要であることが分った。
【0072】
(比較例2)
実施例2と同様の方法で、電圧を印加せずにシグナル強度が実施例2と同じ8000となるまでハイブリダイゼーションを行った。その結果、プローブのシグナル強度が8000になるまでには10時間必要であることが分った。
【0073】
(比較例3)
実施例4と同様の方法で、電圧を印加せずにシグナル強度が実施例4と同じ7000となるまでハイブリダイゼーションを行った。その結果、プローブのシグナル強度が7000になるまでには10時間必要であることが分った。
(比較例4)
実施例1と同様の装置にて、検体液収納部に直径1mmのジルコニアボールを10個入れ、左右に装置を浸透することにより溶液を攪拌しながら、電圧を印加せずに、実施例1と同様にシグナル強度が6000となるまでハイブリダイゼーションを行った。その結果プローブのシグナル強度が6000になるまでには6時間必要であることが分った。
【符号の説明】
【0074】
1:ハイブリダイゼーション装置
2:本体
4:第1の半透膜
6:第2の半透膜
8:検体液収容部
10:第1のバッファ液収容部
12:第2のバッファ液収容部
14:バイオチップ
16:バイオチップ取付部
18:第1の電極
20:第2の電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハイブリダイゼーション装置であって、
検体液を収容する検体液収容部と、
前記検体液収容部の深さ方向中間位置あるいはそれより下方に設けられバイオチップを水平に保持するバイオチップ取付部と、
前記検体液収容部の両側の外方に対向して設けられた第1および第2のバッファ液収容部と、
前記検体液収容部と前記第1および第2のバッファ液収容部のそれぞれとを仕切る半透膜と、
前記第1および第2のバッファ液収容部のそれぞれに配置された第1の電極対と、を備えている、
ことを特徴とするハイブリダイゼーション装置。
【請求項2】
前記バイオチップ取付部が、前記検体液収容部の底部に設けられている、
請求項1に記載のハイブリダイゼーション装置。
【請求項3】
前記バイオチップ取付部が、前記検体液収容部の深さ方向中間位置に設けられている、
請求項1に記載のハイブリダイゼーション装置。
【請求項4】
前記検体液収容部の上下の外方に対向して設けられた第3および第4のバッファ液収容部と、
前記検体液収容部と前記第3および第4のバッファ液収容部のそれぞれとを仕切る半透膜と、
前記第3および第4のバッファ液収容部のそれぞれに配置された第2の電極対と、を備えている、
請求項3に記載のハイブリダイゼーション装置。
【請求項5】
バイオチップに固定された第1の生体関連物質と検体液中の第2の生体関連物質とをハイブリダイゼーションさせるハイブリダイゼーション方法であって、
前記バイオチップを検体液中に水平に配置するステップと、
前記バイオチップの表面に沿った第1の方向に沿って前記検体液に電圧を印加し、前記バイオチップの一側部側で前記検体液中の検体を濃縮するステップと、
前記第1の方向とは逆方向に前記検体液に電圧を印加するステップと、を備えている、
ことを特徴とするハイブリダイゼーション方法。
【請求項6】
前記バイオチップの表面に直交する方向に電圧を印加するステップをさらに備えている、
請求項5に記載のハイブリダイゼーション方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−47848(P2011−47848A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−197804(P2009−197804)
【出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】