説明

ハイブリッドレンズ及びハイブリッドレンズの製造方法

【課題】 ガラスレンズのレンズ面に非球面複合層を形成すると共に、レンズガラスレンズと金属円筒枠を固定することなく、光学性能に優れた組み付けレンズが得られるハイブリッドレンズ及びハイブリッドレンズの製造方法を提供する。
【解決手段】 成形型と成形型に対向したガラスレンズL1を備えるモールドに、有機高分子系樹脂を注入し、硬化させる成形工程と、支持レンズの中心軸O2をガラスレンズの光軸O1に一致させる心出し工程と、支持レンズL2の外周面を切削する切削工程により、ガラスレンズL1と、ガラスレンズL1の一方のレンズ面に有機高分子系樹脂が積層されガラスレンズL1の外周に延出する支持レンズL2とが一体接合されたハイブリッドレンズが得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学ガラスからなる単レンズに非球面複合層を形成した複合レンズ、いわゆるハイブリッドレンズ、及びハイブリッドレンズの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、組みレンズの精密な光軸合わせをする古典的な方法として、心出し旋削がある。これは、ガラスレンズを金属円筒枠に接着等で固定したものを、光学的偏心検出器と心出し装置をもつ特殊な精密旋盤で、ガラスレンズの心出しをしながら金属円筒枠の外周を旋削する方法であり、現在もカメラをはじめとする各種光学機器の組み付けレンズに広く用いられている(例えば、非特許文献1参照)。
一方、光学ガラスからなる単レンズに非球面複合層を形成した複合レンズ(いわゆる、樹脂接合型非球面レンズ、あるいはハイブリッドレンズと呼ばれる)が、高性能化、小型軽量化を図るために多数提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【非特許文献1】浅野俊雄著「レンズ光学の理論と実際」工学工業技術会、1984年、p.200−201
【特許文献1】特開平1−295701号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、非特許文献1の心出し旋削方法は、ガラスレンズと金属円筒枠を接着等により予め固定しなければならない。接着品質を安定に保つためには、接着剤の量、硬化温度、硬化時間等を精密に制御しなければならず、接着強度不足、接着剤のはみ出し、接着剤蒸散物による光学面の汚染等が懸念される。例えば、接着強度が不十分な場合には、心出し旋削の際にガラスレンズと金属円筒枠が切削抵抗で外れる虞がある。また、心出し旋削では基本的に回転対象の形状しか形成できないため、鏡筒等に組み付ける際に、鏡筒への位置決め部を別加工して形成する必要がある。
【0004】
そこで、本発明は、こうした事情に鑑みなされたもので、ガラスレンズに非球面複合層を形成すると共に、ガラスレンズと金属円筒枠を固定することなく、光学性能に優れた組み付けレンズが得られるハイブリッドレンズ及びハイブリッドレンズの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明のハイブリッドレンズは、ガラスレンズと、該ガラスレンズの一方のレンズ面に有機高分子系樹脂が積層され前記ガラスレンズの外周に延出する支持レンズと、が一体接合されたハイブリッドレンズであって、前記支持レンズの外周面の中心軸と、前記ガラスレンズの光軸とが一致したことを特徴とする。
【0006】
これによれば、ハイブリッドレンズは、ガラスレンズと、ガラスレンズの一方のレンズ面に有機高分子系樹脂が積層されガラスレンズの外周に延出する支持レンズとが一体接合され、しかも支持レンズの外周面の中心軸と、ガラスレンズの光軸とが一致していることにより、ガラスレンズの外周に延出する支持レンズをレンズ枠として、鏡筒等に組み付けることで非球面複合層を有する小型で軽量な高性能の光学系を実現することができる。しかも、こうしたハイブリッドレンズを光学性能の異なる複数種類組み合わせることにより、円筒連結方式等の各種組レンズ等を容易に得ることができる。
【0007】
また、本発明のハイブリッドレンズは、前記有機高分子系樹脂は、シランカップリング剤を含有することを特徴とする。
これによれば、有機高分子系樹脂に接着性付与成分であるシランカップリング剤を含有することにより、ガラスレンズと有機高分子系樹脂が積層された支持レンズとが一体接合されたハイブリッドレンズは、外周旋削等の後加工が行われても、ガラスレンズと支持レンズとが強固に接合され外れ難いハイブリッドレンズが得られる。
【0008】
また、本発明のハイブリッドレンズは、前記支持レンズは、組み込まれる鏡筒に位置決めする係止部を有することを特徴とする。
これによれば、ハイブリッドレンズを形成する有機高分子系樹脂からなる支持レンズが係止部を有することで、ハイブリッドレンズに新たな加工を施すことなく、組み込まれる鏡筒に位置決めすることができる。また、係止部が有機高分子系樹脂を成形することで形成されるので、鏡筒の設計形状に合わせて任意に設定することができ、鏡筒設計の自由度が大幅に向上する。
【0009】
また、本発明のハイブリッドレンズの製造方法は、ガラスレンズと、該ガラスレンズの一方のレンズ面に有機高分子系樹脂が積層され前記ガラスレンズの外周に延出する支持レンズと、が一体接合されたハイブリッドレンズの製造方法であって、成形型と該成形型に対向した前記ガラスレンズを備えるモールドに、前記有機高分子系樹脂を注入し、硬化させる成形工程と、前記支持レンズの中心軸を前記ガラスレンズの光軸に一致させる心出し工程と、前記支持レンズの外周面を切削する切削工程と、を備えることを特徴とする。
【0010】
これによれば、ガラスレンズと、ガラスレンズの一方のレンズ面に有機高分子系樹脂が積層され、ガラスレンズの外周に延出する支持レンズとが一体接合されたハイブリッドレンズを、支持レンズの外周面を切削することにより、支持レンズの中心軸とガラスレンズの光軸とが高精度に一致した非球面複合層を有するハイブリッドレンズが得られる。また、このハイブリッドレンズを用いることで、ガラスレンズに金属円筒枠を固定する等の新たな加工をすることなく、光学性能に優れた組み付けレンズ等が得られる。
【0011】
また、本発明のハイブリッドレンズの製造方法は、ガラスレンズと、該ガラスレンズの一方のレンズ面に有機高分子系樹脂が積層され前記ガラスレンズの外周に延出する支持レンズと、が一体接合されたハイブリッドレンズの製造方法であって、光を透過する材質からなる成形型と該成形型に対向した前記ガラスレンズを備えたモールドの、前記ガラスレンズを移動して、該ガラスレンズの光軸を前記支持レンズの中心軸に一致させる心出し工程と、前記モールドに前記有機高分子系樹脂を注入する注入工程と、前記モールドに注入された前記有機高分子系樹脂を硬化させる硬化工程と、を備えることを特徴とする。
【0012】
これによれば、成形型と成形型に対向したガラスレンズを備えたモールドの、ガラスレンズを移動して、ガラスレンズの光軸を支持レンズの中心軸に一致させる心出し工程後に、モールドに有機高分子系樹脂を注入し、硬化させることにより、ガラスレンズの光軸と支持レンズの中心軸とが一致した非球面複合層を有するハイブリッドレンズが成形加工のみで得られる。しかもハイブリッドレンズの外形形状を任意に設定することが可能で、ハイブリッドレンズが組み込まれる鏡筒等の設計形状に合わせることができ、鏡筒設計の自由度が大幅に向上する。
【0013】
また、本発明のハイブリッドレンズの製造方法は、有機高分子系樹脂は、シランカップリング剤を含有する紫外線硬化樹脂であることを特徴とする。
これによれば、ガラスレンズのレンズ面に積層され支持レンズを形成する有機高分子系樹脂が、シランカップリング剤を含有する紫外線硬化樹脂であることにより、硬化時間の短縮が図れる等、生産性が向上し、しかもガラスレンズと支持レンズとが強固に接合され、外れ難いハイブリッドレンズが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明のハイブリッドレンズは、ガラスレンズ表面に樹脂層を接合した樹脂接合型レンズであり、樹脂層がレンズを形成すると共に、鏡筒等に組み付けるためのレンズ枠機能を有するものである。本発明の実施の形態を図面に従って説明する。
【0015】
(第1の実施形態)
図1は、本発明のハイブリッドレンズの成形工程におけるレンズモールドの断面図であり、図2は、レンズモールドから取り出されたハイブリッドレンズの断面図である。
図1において、レンズモールド1は、2つの円筒形の成形型2,3が所定の間隔で対向配置されて、その隙間周面が粘着テープ4で巻き回されて封止されている。
【0016】
成形型2は、成形面の中心に所定の深さの円形の凹みからなる案内保持部21と、案内保持部21の凹みの縁の全周に、例えばシリコンゴムからなるパッキン22を備え、案内保持部21の凹みの底面及びパッキン22により、ハイブリッドレンズの母体となるガラスレンズL1が案内保持されている。
成形型3は、成形面31に所定の非球面が形成されている。非球面は、ドーム状の弾性研磨工具を用いる部分研磨法、あるいは総形砥石を用いる研磨法などにより形成することができる。
【0017】
なお、成形型2,3の材質としては、一般的な金型材質を用いることができるが、特に樹脂層厚の厚いレンズや樹脂層厚の差が大きい、いわゆる偏肉性の強いレンズを成型する場合にはBK7、あるいはBSC7などの光学ガラスを研削加工したガラス型を用いて、紫外線を樹脂層の上下両面から照射するようにして成形するのが、光学歪み防止、あるいは成形時間の短縮の面から好ましい。また、レンズモールド1は、2つの成形型2,3をガスケットで封止、固定する構成であってもよい。
【0018】
こうしたレンズモールド1に、有機高分子系樹脂が注入、充填される。有機高分子系樹脂の注入方法は、例えば、注入針をガラス型2,3の隙間の粘着テープ4を嵌通させて注入する。
注入される有機高分子系樹脂は、特に限定されるものではなく、成形型を用いて成型可能であれば、感光性樹脂、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂などを適宜選択することができる。熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、チオウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂などが挙げられる。また、熱可塑性樹脂としては、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリカーボネートなどが挙げられる。とりわけ、ポリチオール化合物とポリイソシアネート化合物からなるチオウレタン樹脂が、屈折率、アッベ数、強度等の各種特性に優れるため、好ましく用いることができる。
【0019】
なお、本発明に用いられる有機高分子系樹脂には、予め樹脂組成物中にガラスレンズと樹脂層との接着性付与成分であるシランカップリング剤を添加することができる。シランカップリング剤としては、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−グリドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルジメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。
【0020】
また、必要に応じて、重合剤(硬化剤)、重合開始剤、離型剤、酸化防止剤、黄変防止剤、紫外線吸収剤などを適宜含むことができる。重合剤及び重合開始剤は、用いる樹脂の種類及び硬化条件などに応じて、適宜選択することができる。
【0021】
そして、有機高分子系樹脂が注入されたレンズモールド1は、熱エネルギーを用いて加熱硬化(重合)、あるいは、紫外線等を光照射して硬化され、ハイブリッドレンズの成形工程が終了する。硬化方法は、用いる有機高分子系樹脂により適宜選択される。
【0022】
図2に、成形工程が終了し、レンズモールド1から取り出されたハイブリッドレンズ10の断面図を示す。なお、図2は、説明の便宜のために各構成要素の寸法や比率を実際のものとは異ならせてある。
図2において、レンズモールド1から取り出されたハイブリッドレンズ10は、ガラスレンズL1と、有機高分子系樹脂からなる所定の非球面複合層が形成された支持レンズL2が一体に接合されている。しかし、ガラスレンズL1の中心軸(光軸)O1と、支持レンズL2の中心軸O2とに微少のズレが生じている。このズレの解消は、心出し旋削を用いてガラスレンズL1の光軸O1と支持レンズL2の中心軸O2とを高精度に一致させて、ハイブリッドレンズが完成する。
【0023】
図3は、心出し旋削装置にハイブリッドレンズがセットされた状態を示す模式図である。
心出し旋削装置50は、公知のように、心出し機構を備え心出し調整を行う装置であり、中空スピンドル51、心出し調整取付け具52、クランプ治具53、反射偏心測定器54、刃物台55などを備えている。
心出し調整取付け具52は、XYテーブルと球面受座による任意方向の傾斜装置が組み合わされた調整具である。反射偏心測定器54は、オートコリメイション式の偏心測定器であり、ガラスレンズL1にレーザ等の光線を照射してガラスレンズL1の曲率求心の偏心を測定する非接触測定装置である。なお、偏心は、傾き誤差を含む偏心を意味する。
【0024】
レンズモールド1から取り出されたハイブリッドレンズ10は、支持レンズL2が心出し旋削装置50のクランプ治具53に取付けられる。
そして、反射偏心測定器54からガラスレンズL1にレーザ等の光線が照射されて、ガラスレンズL1の曲率求心の偏心が測定される。そして、反射偏心測定器54により測定された偏心量に基づいて、心出し調整取付け具52のXYテーブル、および球面受座を作動して、支持レンズL2の中心軸をガラスレンズL1の光軸に一致させる。これが、心出し工程である。
【0025】
そして、心出し工程が終了すると、心出し旋削装置50の刃物台55を作動して、支持レンズL2の外周面LPを所定の外径寸法に旋削する。したがって、図2の切削部aに示すように、支持レンズL2の外周面LPは、支持レンズL2の中心軸O2とガラスレンズL1の光軸O1との偏心分が旋削され、ガラスレンズL1の光軸O1と支持レンズL2の中心軸O2とが高精度に一致する。これが、旋削工程である。
【0026】
この旋削工程において旋削される支持レンズL2は、ガラスレンズL1上に直接樹脂が重合され、しかも支持レンズL2を形成する有機高分子系樹脂中には、予め接着性付与成分であるシランカップリング剤が添加されていることにより、ガラスレンズL1に強固に接合され、旋削が行われてもガラスレンズL1と外れ難い。
なお、レンズモールド1(成形型2,3)の外径寸法は、こうした偏心(いわゆる、削り代)を予め想定した所定寸法に設定される。
【0027】
このように完成したハイブリッドレンズは、支持レンズL2がレンズを形成すると共に、レンズ枠機能を有し、例えば、鏡筒に組み付けられ、カメラの交換レンズ等に用いることができる。なお、この製造方法を用いて、所定特性のガラスレンズL1に所定特性の支持レンズL2が一体に形成されたハイブリッドレンズを、複数種類組み合わせて、例えば、円筒連結方式などの各種組レンズに適用することができる。
【0028】
(第2の実施形態)
図4は、ハイブリッドレンズのレンズモールドの断面図であり、図5はレンズモールドが心出し装置にセットされた状態を示す模式図であり、図6はハイブリッドレンズの断面図である。
先ず、図4に基づいてレンズモールド11の構成を説明する。レンズモールド11は、ガスケット5、弾性体壁6、ガラス型7、ガラスレンズL1とを備えている。
【0029】
ガスケット5は、円筒形の、例えばポリウレタンエラストマーからなり、円筒形の内面から外面5aに貫通する孔5bが形成されている。このガスケット5の一方の円筒断面には、シリコンゴムからなる弾性体壁6が貼り付け固定されている。なお、弾性体壁6の中心部には、ガスケット5の円筒内面を中心軸とする環状のパッキン部61が形成されている。
【0030】
また、ガスケット5の他方の円筒断面側には、ガスケット5に固定された弾性体壁6から所定寸法離れた位置に、成形型としてのガラス型7が嵌め込まれている。なお、ガラス型7は、光を透過する材質からなる成形型であり、例えばBK7から構成され、200〜400nmの範囲の紫外線を透過する。また、ガラス型7の内面(成形面)71には、所定の非球面が形成されている。
さらに、弾性体壁6に形成された環状のパッキン部61に、ガラス型7の内面71から所定寸法離れて、ハイブリッドレンズの母体になるガラスレンズL1が嵌め込まれている。これらのガスケット5と、ガラス型7の内面71と、ガラスレンズL1とで構成された隙間が、有機高分子系樹脂中が注入されるモールド部を形成している。
【0031】
このように構成されたレンズモールド11は、図5に示すように、心出し装置80にセットされ、ハイブリッドレンズが製造される。
心出し装置80は、心出し調整取付け具81、ガラスレンズL1を保持するクランプ治具82、レンズモールド11を保持するチャック83、反射偏心測定器84、紫外線照射装置85、制御部86などを備えている。
【0032】
心出し調整取付け具81は、XYテーブルと球面受座による任意方向の傾斜装置が組み合わされた調整具である。反射偏心測定器84は、オートコリメイション式の偏心測定器であり、ガラスレンズL1にレーザ等の光線を照射してガラスレンズL1の曲率求心の偏心を測定する非接触測定装置である。なお、偏心は、傾き誤差を含む偏心を意味する。
また、紫外線照射装置85は、例えば、高圧水銀灯により紫外線を照射する。制御部86は、心出し調整取付け具81、反射偏心測定器84、紫外線照射装置85を制御する。
【0033】
ハイブリッドレンズの製造方法は、先ず、レンズモールド11(ガスケット5の円筒形の外面5a)を心出し装置80のチャック83の所定位置に保持、固定する。そして、ガラスレンズL1が心出し装置80のクランプ治具82に保持される。
そして、反射偏心測定器84からレンズモールド11(ガラスレンズL1)にレーザ等の光線が照射されて、ガスケット5の中心軸に対するガラスレンズL1の曲率求心の偏心が測定される。測定した偏心量は、制御部86に電圧値として出力される。そして、制御部86からの制御信号に基づいて、心出し調整取付け具81のXYテーブル、および球面受座が作動して、ガスケット5の中心軸をガラスレンズL1の光軸に一致させる。これが、心出し工程である。
【0034】
そして、心出し工程が終了すると、レンズモールド11に、有機高分子系樹脂として、例えば紫外線硬化樹脂が注入、充填される。紫外線硬化樹脂の注入は、注入針(シリンジ)などを用いてガスケット5の孔5bから注入する。紫外線硬化樹脂の注入後に、テープなどにより孔5bが封止される。なお、紫外線硬化樹脂には、ガラスレンズと樹脂層との接着性付与成分であるシランカップリング剤、重合開始剤などを適宜含むことができる。
【0035】
そして、紫外線照射装置85からレンズモールド11に紫外光を照射する。照射された紫外光は、ガラス型7を透過してレンズモールド11に注入された紫外線硬化樹脂を照射し、紫外線硬化樹脂を硬化させる。これが、硬化工程である。
【0036】
そして、硬化工程を終了したレンズモールド11は、心出し装置80から取外され、レンズモールド11から取り出されて、ハイブリッドレンズ12が完成する。図2に、レンズモールドから取り出されたハイブリッドレンズの断面図を示す。
ハイブリッドレンズ12は、ガラスレンズL1と、所定の非球面が形成された支持レンズL3とが一体に接合され、ガラスレンズL1の光軸と、支持レンズL3の中心軸とが高精度に一致した高性能のハイブリッドレンズが得られる。
【0037】
完成したハイブリッドレンズは、支持レンズL3が紫外線硬化樹脂からなる所定の非球面が形成されると共に、レンズ枠機能を有し、例えば、鏡筒に組み付けられ、カメラの交換レンズ等に用いることができる。なお、この製造方法を用いて、所定特性のガラスレンズL1に所定特性の支持レンズL3が一体に形成されたハイブリッドレンズを、複数種類組み合わせて、例えば、円筒連結方式などの各種組レンズに適用することができる。
【0038】
また、本実施形態のハイブリッドレンズの製造方法によれば、支持レンズL3が成形加工のみで形成されるため、ハイブリッドレンズ12(すなわち、支持レンズL3)の外形形状を任意に設定することができる。ハイブリッドレンズの外形形状の変形例を、図7に示す。
【0039】
図7(a)〜図7(c)は、ハイブリッドレンズの正面図であり、各ハイブリッドレンズは、ガラスレンズL1と所定の非球面が形成された各支持レンズが一体に接合されている。
図7(a)に示すハイブリッドレンズ13は、支持レンズL4の外周部が、弦bに示される係止部としての切り欠き部が形成されている。また、図7(b)に示すハイブリッドレンズ14は、支持レンズL5の外周部に、例えば一つの凹形状の係止部としての溝cが形成されている。また、図7(c)に示すハイブリッドレンズ15は、支持レンズL6の外周部に、例えば三つの凸形状の係止部としての突起dが形成されている。
【0040】
このように、ハイブリッドレンズの外形形状は、ハイブリッドレンズが組み込まれる鏡筒等の設計形状に合わせて任意に設定することができる。したがって、ハイブリッドレンズを鏡筒等に組み込む際に、ハイブリッドレンズに新たな加工を施すことなく、弦bに示される切り欠き部、溝c、突起d(いずれも、図7参照)等の係止部を用いて、鏡筒に位置決め(案内、回転位置決め、回転止めを含む)することができ、鏡筒設計の自由度が大幅に向上する。
【0041】
以上の実施形態において、有機高分子系樹脂として、紫外線硬化樹を用い、心出し装置80に紫外線照射装置85を配備した場合で説明したが、有機高分子系樹脂として特に限定されるものではなく、成形型を用いて成型可能であれば、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂などを適宜選択することができる。その場合には、紫外線照射装置85に代えて、熱エネルギー発生装置等を配備する。しかし、硬化時間の短縮が図れるなどの生産性の面から、紫外線硬化樹等の光硬化性樹脂を用いるのが好ましい。
【0042】
以上のように、第1実施形態、および第2実施形態において説明した本発明のハイブリッドレンズは、ガラスレンズ表面に、所定の非球面複合層が形成され有機高分子系樹脂からなる支持レンズが接合されることにより、小型で軽量な光学系を実現することができる。また、本発明のハイブリッドレンズは、カメラの交換レンズの他に、投影機用非球面レンズ、スチルカメラ、ビデオカメラ、望遠鏡、双眼鏡、顕微鏡、光ディスク/光磁気ディスク読取用ピックアップレンズ等の光学部品及び光学機器に幅広く適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明のハイブリッドレンズの成形工程におけるレンズモールドの断面図。
【図2】本発明のハイブリッドレンズの断面図。
【図3】心出し旋削装置にハイブリッドレンズがセットされた状態を示す模式図。
【図4】第2実施形態におけるレンズモールドの断面図。
【図5】第2実施形態のレンズモールドが心出し装置にセットされた状態を示す模式図。
【図6】第2実施形態のハイブリッドレンズの断面図。
【図7】第2実施形態における別のハイブリッドレンズの正面図。
【符号の説明】
【0044】
1,11…レンズモールド、2,3…成形型、4…粘着テープ、5…ガスケット、6…弾性体壁、7…成形型としてのガラス型、10,12,13,14,15…ハイブリッドレンズ、21…案内保持部、22…パッキン、31…成形面、50…旋削装置、51…中空スピンドル、52…心出し調整取付け具、53…クランプ治具、54…反射偏心測定器、55…刃物台、80…心出し装置、81…心出し調整取付け具、82…クランプ治具、83…チャック、84…反射偏心測定器、85…紫外線照射装置、86…制御部、L1…ガラスレンズ、L2,L3,L4,L5,L6…支持レンズ、LP…外周面、O1…ガラスレンズの光軸、O2…支持レンズの中心軸、a…切削部、b…弦、c…溝、d…突起。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスレンズと、
該ガラスレンズの一方のレンズ面に有機高分子系樹脂が積層され前記ガラスレンズの外周に延出する支持レンズと、が一体接合されたハイブリッドレンズであって、
前記支持レンズの外周面の中心軸と、前記ガラスレンズの光軸とが一致したことを特徴とするハイブリッドレンズ。
【請求項2】
請求項1に記載のハイブリッドレンズにおいて、
前記有機高分子系樹脂は、シランカップリング剤を含有することを特徴とするハイブリッドレンズ。
【請求項3】
請求項1または2に記載のハイブリッドレンズにおいて、
前記支持レンズは、組み込まれる鏡筒に位置決めする係止部を有することを特徴とするハイブリッドレンズ。
【請求項4】
ガラスレンズと、該ガラスレンズの一方のレンズ面に有機高分子系樹脂が積層され前記ガラスレンズの外周に延出する支持レンズと、が一体接合されたハイブリッドレンズの製造方法であって、
成形型と該成形型に対向した前記ガラスレンズを備えるモールドに、前記有機高分子系樹脂を注入し、硬化させる成形工程と、
前記支持レンズの中心軸を前記ガラスレンズの光軸に一致させる心出し工程と、
前記支持レンズの外周面を切削する切削工程と、
を備えることを特徴とするハイブリッドレンズの製造方法。
【請求項5】
ガラスレンズと、該ガラスレンズの一方のレンズ面に有機高分子系樹脂が積層され前記ガラスレンズの外周に延出する支持レンズと、が一体接合されたハイブリッドレンズの製造方法であって、
光を透過する材質からなる成形型と該成形型に対向した前記ガラスレンズを備えたモールドの、前記ガラスレンズを移動して、該ガラスレンズの光軸を前記支持レンズの中心軸に一致させる心出し工程と、
前記モールドに前記有機高分子系樹脂を注入する注入工程と、
前記モールドに注入された前記有機高分子系樹脂を硬化させる硬化工程と、
を備えることを特徴とするハイブリッドレンズの製造方法。
【請求項6】
請求項4または5に記載のハイブリッドレンズの製造方法において、
有機高分子系樹脂は、シランカップリング剤を含有する紫外線硬化樹脂であることを特徴とするハイブリッドレンズの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−171164(P2006−171164A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−361011(P2004−361011)
【出願日】平成16年12月14日(2004.12.14)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】