説明

ハイブリッド塗料及びその製造方法並びにハイブリッド皮膜付き製品及びその製造方法

【課題】親水性及び撥油性による優れた防汚性をもち、かつ耐熱性、高硬度、耐候性、耐薬品性、密着性、低廉性等に優れるハイブリッド皮膜付き製品を低い環境負荷の下で製造可能なハイブリッド塗料を提供する。また、そのようなハイブリッド皮膜付き製品を製造する上で適したハイブリッド塗料の製造方法を提供する。そして、そのようなハイブリッド皮膜付き製品の製造方法を提供する。
【解決手段】ハイブリッド塗料は、水ガラスと、両末端にフッ素含有基をもつオリゴマー及び/又はコオリゴマーである低重合体とが少なくとも混合されてなる。ハイブリッド皮膜付き製品の製造方法は、ハイブリッド塗料を得た後、基材1上にハイブリッド塗料を塗布して基材1上に塗膜層2aを形成し、塗膜層2aを固化してハイブリッド皮膜2bとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド塗料と、ハイブリッド塗料の製造方法と、ハイブリッド皮膜付き製品と、ハイブリッド皮膜付き製品の製造方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
無機ガラス質を少なくとも表面にもつ第1製品は、優れた親水性を有する。この第1製品は、無機ガラス質自体からなるものの他、基材上に無機ガラス質からなる皮膜を形成したものがあり得る。この第1製品は、油性の汚れが付着しても、優れた親水性のため、付着した油性汚れを水のみで容易に除去することができる。この第1製品は、耐熱性、高硬度、耐候性、耐薬品性、低廉性等にも優れるという特質も有している。また、基材上に無機ガラス質からなる皮膜を形成した製品は、密着性に優れるという特質も有している。
【0003】
一方、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素樹脂を少なくとも表面にもつ第2製品は、優れた撥水性及び撥油性を有する。この第2製品は、フッ素樹脂自体からなるものの他、基材上にフッ素樹脂からなる皮膜を形成したものがあり得る。この第2製品は、撥水撥油性であり、油性汚れが付着しにくく、油汚れの拭き取りも容易であるが、水がかかる環境で使用する場合には、逆に油汚れが付着しやすくなるという問題がある。また、この第2製品は、付着した油汚れを水洗いで除去することが困難で、その場合には界面活性剤を必要とするため、環境負荷の点でも問題がある。
【0004】
実使用条件では、水と油汚れが共存することが多いので、油汚れが付着しにくく、また付着した場合、乾拭き、水洗い等、どのような方法でも容易に油汚れを除去できるような、防汚性に優れた製品が求められている。
【0005】
この点、特許文献1記載の塗料を基材上に塗布してなる製品は、塗料が両末端にフルオロアルキル基をもつオリゴマーと、多官能性アルコキシシランとを含むため、皮膜がフルオロアルキル基によって形成された部分と、多官能性アルコキシシランに基づく珪素によって形成された部分とを有することとなる。このため、この製品は、親水性及び撥油性の両者を併せ持ち、水性及び油性の汚れに対する優れた防汚性を発揮することができる。換言すれば、この塗料は親水性及び撥油性の両者を発揮するハイブリッド皮膜を形成し得るハイブリッド塗料であり、得られる製品はハイブリッド皮膜付き製品と言い得る。
【0006】
【特許文献1】特開2003−253250号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1開示のハイブリッド皮膜付き製品は、ハイブリッド皮膜中における親水性、撥油性、耐熱性、高硬度、耐候性、耐薬品性、密着性、低廉性等のさらなる向上が望まれる。
【0008】
また、このハイブリッド皮膜付き製品は、ハイブリッド塗料に有機溶剤を用いる必要があるため、成膜時にVOCを放出することとなり、環境負荷が大きい。
【0009】
さらに、このハイブリッド皮膜付き製品は、ハイブリッド塗料に比較的高価な材料を多く用いており、大量生産を念頭に置くと、コストの面で問題がある。
【0010】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、親水性及び撥油性による優れた防汚性をもち、かつ耐熱性、高硬度、耐候性、耐薬品性、密着性、低廉性等に優れるハイブリッド皮膜付き製品を低い環境負荷の下で製造可能なハイブリッド塗料を提供することを解決すべき課題としている。
【0011】
また、本発明は、そのようなハイブリッド皮膜付き製品を製造する上で適したハイブリッド塗料の製造方法を提供することも解決すべき課題としている。
【0012】
そして、本発明は、そのようなハイブリッド皮膜付き製品を提供することも解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行なった。そして、本発明の課題解決のためには、上記特許文献1開示の公知のハイブリッド塗料の長所と、特開2000−327949号公報等開示の公知の無機塗料の長所とを両立させ、さらにこれを発展させることが有効であることを発見し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
本発明のハイブリッド塗料は、水ガラスと、両末端にフッ素含有基をもつオリゴマー及び/又はコオリゴマーである低重合体とが少なくとも混合されてなることを特徴とする。
【0015】
本発明のハイブリッド塗料によれば、水ガラスに基づく無機ガラス質のマトリックスと、フルオロアルキル基によって形成された部分とを有するハイブリッド皮膜が得られる。このハイブリット皮膜における無機ガラス質のマトリックスは、上記特許文献1開示のハイブリット皮膜における多官能基性アルコキシシランに基づく部分と比べ、添加物等による緻密化が可能であり、また有機成分が少ないため、より優れた親水性を発揮する。このようにして、このハイブリット皮膜は、フッ素オリゴマー及び/又はコオリゴマーによる撥油性、親水性及び基材の優れた親水性により、親水撥油性を示し、油が付着しにくく、油が付着した場合には、いかなる方法でも容易に油を除去できる優れた防汚性を発揮する。
【0016】
特に、このハイブリット塗料は、低重合体が両末端にフッ素含有基を持つオリゴマー及び/又はコオリゴマ−であるため、環境に応じて、基材とオリゴマ−及び/又はコオリゴマ−の親水部分に起因する親水性、両末端のフルオロアルキル基に起因する撥油性がFlip-Flop機構により変化し、油性汚れを効果的に除去することができる。この点、単に含フッ素樹脂水性分散液と水ガラスとを混合したに過ぎない特開平11−5951号公報開示の塗料より高い実用性を有している。
【0017】
また、このハイブリッド塗料によれば、水ガラスに基づく無機ガラス質のマトリックスを有するハイブリッド皮膜を形成できることから、耐熱性、高硬度、耐候性、耐薬品性、密着性等に優れる製品を製造することができる。
【0018】
さらに、このハイブリッド塗料は、必ずしも有機溶剤を用いる必要がなく、環境負荷が小さい。
【0019】
また、このハイブリッド塗料は、水ガラスという安価な材料を多く用いることから、ハイブリッド皮膜付き製品の低廉化を実現することもできる。
【0020】
したがって、本発明のハイブリッド塗料によれば、より優れた防汚性をもち、かつ耐熱性、高硬度、耐候性、耐薬品性、密着性、低廉性等に優れるハイブリッド皮膜付き製品を低い環境負荷の下で製造することが可能である。
【0021】
本発明のハイブリッド塗料は、水ガラスと低重合体とが少なくとも混合されてなる。水ガラスは、一般式SiO2・nA2O・2H2O(Aはアルカリ、nは整数である。)で表され、ソーダ系水ガラス、カリウム系水ガラス等、種々のものが採用され得る。
【0022】
また、低重合体は、両末端にフッ素含有基をもつオリゴマー及び/又はコオリゴマーである。フッ素含有基は、−CF3、−C25、−C37、−C613、−C715等のフルオロアルキル基、−CF(CF3)[OCF2CF(CF3)]POC37(式中、Pは0、1若しくは2である。)等であり得る。この低重合体は、オリゴマーであってもよく、コオリゴマーであってもよく、オリゴマーとコオリゴマーとの混合物であってもよい。以下、場合により、両末端にフッ素含有基をもつオリゴマーをフッ素オリゴマーといい、両末端にフッ素含有基をもつコオリゴマーをフッ素コオリゴマーという。
【0023】
低重合体の具体例としては、化1に示すオリゴマー又は化2に示すコオリゴマー等を採用することができる。
【0024】
【化1】

【0025】
化1において、RFはフルオロアルキル基、R1は1価の有機基、nは自然数である。
【0026】
1は、親水性であるとともに、水素結合、配位結合、共有結合、イオン結合、エステル結合その他の結合を形成しうる有機基であり得る。
【0027】
1は、例えば、カルボキシル基(−COOH)、スルホ基(−SO3H)、シラノール基(≡SiOH)、ヒドロキシル基(−OH)、アミノ基(−NH2)、ニトロ基(−NO2)、カルボニル基(=C=O)、アミド基(−C(=O)NH−)又はこれらの誘導体を含む有機基であることが好ましい。これらは、親水性でありながら、かつ水ガラスと相互作用しやすいことから、得られるハイブリッド皮膜は、親水性を維持したまま、無機ガラス質のマトリックスとフッ素含有基によって形成された部分との結合が強固になり、耐久性が向上すると考えられるからである。ここで、相互作用とは、水素結合、配位結合、エステル結合、脱水重縮合等をいう。また、前記有機基は親水性であるため、ハイブリット皮膜を親水性とし、防汚性を向上させる働きがある。
【0028】
【化2】

【0029】
化2において、RFはフルオロアルキル基、R2及びR3は1価の有機基、x及びyは自然数である。
【0030】
2は親水性であり得る。R2も、上記R1と同様、例えば、カルボキシル基、スルホ基、シラノール基、ヒドロキシル基、アミノ基、ニトロ基、カルボニル基、アミド基又はこれらの誘導体を含む有機基であることが好ましい。
【0031】
3は、水ガラス又はその他の材料と相互作用し、結合しうる有機基であればどんなものでも選択できる。これらが水ガラス又はその他の材料と結合することで、得られるハイブリット皮膜中にコオリゴマーが強固に固定化され、耐久性が向上すると考えられるからである。ここで、相互作用とは、水素結合、配位結合、共有結合、エステル結合、ウレタン結合、アミド結合、脱水重縮合、ビニル重合その他の結合をいう。
【0032】
3は、水素結合、配位結合、共有結合、エステル結合、ウレタン結合、アミド結合、脱水重縮合、ビニル重合その他の結合を形成しうる有機基であり得る。R3は、上記R1、R2と同様、例えば、カルボキシル基、スルホ基、シラノール基、ヒドロキシル基、アミノ基、ニトロ基、カルボニル基、アミド基を含む有機基であり得る他、アルコキシ基(M(OCn2n+1m3-m;MはSi、Ti、Al等、nは1〜3の自然数、mは1〜3の自然数)、イソシアネート基(−N=C=O)、ビニル基(−CH=CH2−)等を含む有機基であり得る。
【0033】
カルボキシル基をもつフッ素オリゴマーの場合、化3に示すように、フッ素オリゴマーのカルボキシル基が水ガラスとエステル結合し、固定化される。水ガラスとエステル結合しないカルボキシル基は親水性を示し、フッ素オリゴマーの両末端にあるフルオロアルキル基は撥油性を示す。この結果、ハイブリッド皮膜は親水性と撥油性を示す。
【0034】
【化3】

【0035】
また、スルホ基をもつフッ素オリゴマーの場合、化4に示すように、フッ素オリゴマーのスルホ基が水ガラスと水素結合し、固定化される。水ガラスと水素結合しないスルホ基は親水性を示し、フッ素オリゴマーの両末端にあるフルオロアルキル基は撥油性を示す。この結果、ハイブリッド皮膜は親水性と撥油性を示す。
【0036】
【化4】

【0037】
また、配位結合する官能基をもつオリゴマーの場合、化5に示すように、フッ素オリゴマーの官能基が水ガラス中のSiに配位結合し、固定化される。フッ素オリゴマーがSiに配位結合しうる官能基を有していれば良く、配位結合する官能基と親水性官能基(OH、COOH、SO3H、NO2、NH2等)を併せもつフッ素コオリゴマーでも良い。この場合、親水性官能基が親水性を、フッ素オリゴマー及び/又はフッ素コオリゴマーの両末端にあるフルオロアルキル基は撥油性を示す。この結果、ハイブリッド皮膜は親水性と撥油性を示す。
【0038】
【化5】

【0039】
このように、水素結合しうる官能基又は配位結合しうる官能基を持ったフッ素オリゴマーは、水ガラスと相互作用するので、ハイブリッド皮膜に固定化することができる。
【0040】
アルコキシシランをもつフッ素オリゴマーの場合、化6に示すように、フッ素オリゴマーのアルコキシシランが水ガラス中のSiにシロキサン結合し、固定化される。フッ素オリゴマーがアルコキシシランを有していれば良く、配位結合する官能基と親水性官能基(OH、COOH、SO3H、NO2、NH2等)を併せもつフッ素コオリゴマーでも良い。この場合、親水性官能基が親水性を、フッ素オリゴマー及び/又はフッ素コオリゴマーの両末端にあるフルオロアルキル基は撥油性を示す。この結果、ハイブリッド皮膜は親水性と撥油性を示す。また、水ガラスと結合し得るアルコキシドであれば何でも使用できる。フッ素オリゴマーは、一部にアルコキシシランを持っていればどんなものでもよい。
【0041】
【化6】

【0042】
アルコキシドを結合剤として用いる場合、化7に示すように(Mは金属)、アルコキシドと結合できるフッ素オリゴマーであれば、アルコキシドを水ガラスとフッ素オリゴマーとの間の結合剤として使用することができる。アルコキシドは溶液の状態で添加でき、水ガラスより分子が小さいので、より反応性が高いという利点がある。
【0043】
【化7】

【0044】
発明者らの考察によれば、例えば、化8〜化15のオリゴマー又はコオリゴマーを採用することができる。
【0045】
【化8】

【0046】
【化9】

【0047】
【化10】

【0048】
【化11】

【0049】
【化12】

【0050】
【化13】

【0051】
【化14】

【0052】
【化15】

【0053】
本発明のハイブリッド塗料は、水ガラス、低重合体以外に顔料、珪石粉末等の骨材等も混合され得る。
【0054】
本発明のハイブリッド塗料は、水ガラスによるマトリックス中に低重合体を固定するアンカー粒子が混合されてなることが好ましい。この場合、低重合体がアンカー粒子によってマトリックス中に固定され、優れた耐久性を発揮することができる。
【0055】
アンカー粒子としては、低重合体と相互作用できるものであれば、有機、無機を問わず、全ての固体粒子、ゾル状、ゲル状物質を採用することができる。たとえば、微粒シリカ(シリカゾル)や微粒チタニア(チタニアゾル)を採用することができる。シランカップリング剤等によって表面処理されているアンカー粒子であることが好ましい。
【0056】
カルボキシル基がアンカー粒子Aとエステル結合する場合、化16に示すように、フッ素オリゴマーのカルボキシル基がアンカー粒子Aの表面とエステル結合し、アンカー粒子Aに固定化される。
【0057】
【化16】

【0058】
また、スルホ基がアンカー粒子Aと水素結合する場合、化17に示すように、フッ素オリゴマーのスルホ基がアンカー粒子Aの表面と水素結合し、アンカー粒子Aに固定化される。
【0059】
【化17】

【0060】
さらに、フッ素オリゴマーの官能基がアンカー粒子Aに配位結合する場合、化18に示すように、フッ素オリゴマーの官能基がアンカー粒子Aの表面の金属イオンに配位結合し、アンカー粒子Aに固定化される。
【0061】
【化18】

【0062】
フッ素オリゴマーのアルコキシシランがアンカー粒子Aと反応する場合、化19に示すように、フッ素オリゴマーには、あるモノマーとビニルシラン(ビニル基をもつアルコキシシランをモノマーと考える)とのコオリゴマーによりアルコキシシランがあり、このアルコキシシランが水ガラス中のSiにシロキサン結合し、固定化される。
【0063】
【化19】

【0064】
アルコキシドを介してフッ素オリゴマーをアンカー粒子Aに固定化する場合、化20に示すように、フッ素オリゴマーとアンカー粒子Aとをアルコキシドを介して反応させることとなる。
【0065】
【化20】

【0066】
アンカー粒子Aにビニル基を修飾した後、アンカー粒子Aの表面でフッ素オリゴマーを重合する方法としては、化21に示す方法を採用することができる。この場合、ビニル基修飾粒子、モノマー及び過酸化フルオロアルカノイル(高分子論文集、Vol.58、No.4(2001)147〜160頁)をフッ素溶媒中で合成することで、表面にフッ素オリゴマーが固定化されたアンカー粒子Aが得られる。化学式中に破線で示す部分はビニル基修飾粒子だった部分であり、それ以外はビニル基修飾粒子にモノマーが重合した部分である。全体としては、フッ素オリゴマーが固定化されたアンカー粒子Aとなる。
【0067】
【化21】

【0068】
また、本発明のハイブリッド塗料は、水ガラス用硬化剤が混合されてなることが好ましい。この場合、水ガラスが早期に硬化してマトリックスとなり、ハイブリッド皮膜が優れた耐久性を発揮することができる。
【0069】
水ガラス用硬化剤としては、トリポリリン酸アルミニウム、リン酸アルミニウム、リン酸水素アルミニウム、メタリン酸アルミニウム、オルソリン酸アルミニウム、第一リン酸アルミニウム、第二リン酸アルミニウム、リン酸ジルコニウム、リン酸マグネシウム、リン酸亜鉛、リン酸亜鉛カルシウム、リン酸アンモニウム、リン酸鉄、リン酸チタニウム、リン酸硼素、亜鉛華(酸化亜鉛)、活性亜鉛華、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、金属アルミニウム粉末、カオリナイト、スポジュメン粉末、珪弗化カリウム、珪弗化ナトリウム、珪弗化カルシウム、珪弗化鉛、珪弗化銅、珪弗化亜鉛、珪酸アルミニウム、珪酸カルシウム、珪酸二石灰、珪酸マグネシウム、水酸化アルミ二ウム、塩化アルミニウム、フェロシリコン、マンガンシリコン、シリコンナイトライト、シリコンカーバイト、シリコンボライト、シリコンホスフェート、第一リン酸カリウム、第二リン酸カリウム、ゼオライト、Na人工ゼオライト、Fe人工ゼオライト、ベントナイト(雲母)、セピオライト、鹿沼土、珪藻土、アロフェン、メタカオリン、硼酸ジルコニウム、硼酸ナトリウム、硼酸カリウム、硼酸珪素、硼酸カルシウム、酢酸、酢酸アンモニウム、酢酸バリウム、酢酸マグネシウム、酢酸アルミニウム、酢酸マンガン、酢酸亜鉛、蓚酸アルミニウム、蓚酸アンモニウム、蓚酸カルシウム、蓚酸マグネシウム、蓚酸鉄(II)、蓚酸マンガン(II)、蓚酸チタンカリウム、蓚酸カリウムチタン、蓚酸亜鉛、メタノール、エタノール、プロパノール、焼石膏、フリット等であるリン酸化合物、水酸化物、酸化物等を採用することができる。
【0070】
発明者らの試験結果によれば、トリポリリン酸アルミニウム、リン酸アルミニウム、メタリン酸アルミニウム、オルソリン酸アルミニウム、リン酸ジルコニウム、リン酸亜鉛、酸化マグネシウム、珪弗化カリウム及び珪弗化カルシウムが極めて好ましい。特に、トリポリリン酸アルミニウムを含む場合とこれを含まない場合とにおいては、ハイブリッド皮膜の耐水性、密着性及び耐久性に大きな差があり、トリポリリン酸アルミニウムを含む場合には、これらの性能において特段の効果を奏することが確認された。このため、水ガラス用硬化剤の少なくとも一部はトリポリリン酸アルミニウムであることが好ましい。
【0071】
本発明のハイブリッド塗料は本発明の製造方法によって製造することが好ましい。本発明のハイブリッド塗料の製造方法は、両末端にフッ素含有基をもつオリゴマー及び/又はコオリゴマーである低重合体と、アンカー粒子とを反応させ、低重合体付きアンカー粒子を得る反応工程と、
水ガラスに該低重合体付きアンカー粒子を少なくとも混合する混合工程とを備えていることを特徴とする。
【0072】
この場合、得られるハイブリッド塗料は、低重合体とアンカー粒子とが反応した低重合体付きアンカー粒子を有することとなるため、得られるハイブリッド皮膜は、低重合体がより強固にマトリックス中に固定され、優れた耐久性を発揮することができる。
【0073】
反応工程では、TEOS(テトラエトキシシラン)等のアルコキシド、シランカップリング剤等を用いることができる。
【0074】
本発明のハイブリッド皮膜付き製品は、基材と、該基材上に形成されたハイブリッド皮膜とからなり、
該ハイブリッド皮膜は、無機ガラス質のマトリックスと、該マトリックス中に分散され、両末端にフッ素含有基をもつオリゴマー及び/又はコオリゴマーである低重合体とを有していることを特徴とする。
【0075】
本発明のハイブリッド皮膜付き製品は、より優れた防汚性をもち、かつ耐熱性、高硬度、耐候性、耐薬品性、密着性、低廉性等に優れる。また、このハイブリッド皮膜付き製品は、製造時に低い環境負荷を実現することができる。
【0076】
前記ハイブリッド皮膜は、前記マトリックス中に前記低重合体を固定するアンカー粒子を有していることが好ましい。この場合、ハイブリッド皮膜は、優れた耐久性を発揮することができる。
【0077】
本発明のハイブリッド皮膜付き製品の製造方法は、水ガラスと、両末端にフッ素含有基をもつオリゴマー及び/又はコオリゴマーである低重合体とが少なくとも混合されたハイブリッド塗料を得る塗料調製工程と、
基材上に該ハイブリッド塗料を塗布し、該基材上に塗膜層を形成する塗布工程と、
該塗膜層を固化してハイブリッド皮膜とする固化工程とからなることを特徴とする。
【0078】
本発明のハイブリッド皮膜付き製品の製造方法によれば、より優れた防汚性をもち、かつ耐熱性、高硬度、耐候性、耐薬品性、密着性、低廉性等に優れるハイブリッド皮膜付き製品を低い環境負荷の下で製造することができる。
【0079】
基材としては、珪酸カルシウム板、セメント板、スレート板等の無機質のものばかりでなく、鋼板、アルミニウム板、ステンレス板、亜鉛メッキ鋼板等の金属質のものの他、木材等の耐熱温度の低いものも採用することができる。ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリル、FRP等の樹脂材料を基材として採用することもできる。また、プライマー層、釉薬層等を塗布した基材も採用することができる。
【0080】
塗布工程としては、スプレー式、ディッピング式、刷毛塗り式、ロールコート式等、種々の方法を行い得る。塗布工程の前段階として、基材にブラスト処理を施すことが好ましい。
【0081】
固化工程は、塗膜層を350°C以下の温度で焼成する焼成工程を含むことが好ましい。発明者らの試験結果によれば、これによりハイブリッド塗料から水をより確実に蒸発させることができる。350°Cを超える温度で塗膜層を焼成すると、低重合体が分解し、効果的なハイブリッド皮膜が得られ難い。
【0082】
固化工程は、塗膜層を脱アルカリ処理する薬剤処理工程を含むことも好ましい。これにより、水ガラスに基づくマトリックスの耐久性が上がり、優れたハイブリッド皮膜が得られる。
【0083】
使用できる薬液は、各種の有機酸、有機酸塩又は無機酸、無機酸塩、アンモニア塩の水溶液を用いることができる。酸としては、特にリン酸、酢酸が適している。また、無機酸塩の場合には、リン酸塩及びシュウ酸塩の1種又は2種以上、アンモニウム塩、具体的には、リン酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸水素カリウム、リン酸アンモニウム、リン酸水素アンモニウム、シュウ酸ナトリウム、シュウ酸カリウム、シュウ酸アンモニウム、塩化アンモニウム、酢酸アンモニウム、ヨウ化アンモニウム等の水溶液、とりわけリン酸アンモニウムの水溶液を用いるのが好適である。
【0084】
具体的には、リン酸、硝酸、硫酸、塩酸、シュウ酸、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸等の酸の水溶液を使用できる。
【0085】
また、リン酸水素亜鉛、リン酸水素アルミニウム、リン酸二水素アンモニウム(第一リン酸アンモニウム)、リン酸水素二アンモニウム(第二リン酸アンモニウム)、リン酸水素アンモニウムナトリウム、リン酸二水素カリウム(第一リン酸カリウム)、リン酸水素二カリウム(第二リン酸カリウム)、リン酸二水素カルシウム(第一リン酸カルシウム)、リン酸水素二カルシウム(第二リン酸カルシウム)、リン酸二水素ナトリウム(第一リン酸ナトリウム)、リン酸水素二ナトリウム(第二リン酸ナトリウム)、リン酸水素マグネシウム、リン酸二水素マグネシウム、オルトリン酸二水素マンガン(オルトリン酸二水素第一マンガン、酸性リン酸第一マンガン)、リン酸二水素リチウム(第一リン酸リチウム)、リン酸水素二リチウム(第二リン酸リチウム)、ピロリン酸、ピロリン酸アンモニウム、ピロリン酸カリウム、ピロリン酸水素カリウム、ピロリン酸水素ナトリウム、メタリン酸アンモニウム、メタリン酸ナトリウム等の可溶性リン酸塩の水溶液を使用できる。
【0086】
さらに、酢酸アルミニウム、酢酸アンモニウム、酢酸カドミウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウム、酢酸クロム(II)(酢酸第一クロム)、酢酸クロム(III)(酢酸第二クロム)、酢酸ゲルマニウム、酢酸コバルト(II)(酢酸第一コバルト)、酢酸水素アンモニウム、酢酸水素カリウム、酢酸セリウム、酢酸銅(I)(酢酸第一銅)、酢酸銅(II)(酢酸第二銅)、酢酸銅カリウム、酢酸銅カルシウム、酢酸ナトリウム、酢酸鉛(II)(酢酸第一鉛)、酢酸ニッケル(II)(酢酸第一ニッケル)、酢酸バリウム、酢酸マンガン(II)(酢酸第一マンガン)、酢酸リチウム等の可溶性酢酸塩の水溶液を使用できる。
【0087】
また、硝酸亜鉛、硝酸アルミニウム、硝酸アンモニウム、硝酸カルシウム、硝酸カリウム、硝酸銀、硝酸クロム、硝酸コバルト(II)(硝酸第一コバルト)、塩基性硝酸コバルト(II)(塩基性硝酸第一コバルト)、硝酸ジルコニウム、オキシ硝酸ジルコニウム、硝酸水銀、硝酸スカンジウム、硝酸スズ(II)(硝酸第一スズ)、硝酸スズ(IV)(硝酸第二スズ)、硝酸ストロンチウム、硝酸セシウム、硝酸セリウム(III)(硝酸第一セリウム)、硝酸セリウム(IV)(硝酸第二セリウム)、硝酸セリウムアンモニウム、硝酸タリウム(I)(硝酸第一タリウム)、硝酸タリウム(III)(硝酸第二タリウム)、硝酸チタン、硝酸鉄(II)(硝酸第一鉄)、硝酸鉄(III)(硝酸第二鉄)、硝酸銅(II)(硝酸第二銅)、硝酸ナトリウム、硝酸鉛(II)、硝酸ニッケル(II)、塩基性硝酸ニッケル、硝酸ネオジウム、硝酸ネオジウムニッケル、硝酸ネオジウムマグネシウム、硝酸ネオジウムルビジウム、硝酸バリウム、硝酸ビスマス、硝酸マグネシウム、硝酸マンガン、硝酸ランタン、硝酸ランタンアンモニウム、硝酸ランタンカリウム、硝酸ランタンナトリウム、硝酸ランタンニッケル、硝酸ランタンマグネシウム、硝酸リチウム、硝酸テルニウム、硝酸ルビジウム、硝酸ロジウム等の可溶性硝酸塩の水溶液を使用できる。
【0088】
さらに、シュウ酸アルミニウム、シュウ酸アンモニウム、シュウ酸カドミウム、シュウ酸カリウム、シュウ酸水素カリウム、シュウ酸水素ナトリウム、シュウ酸水素バリウム、シュウ酸水素リチウム、シュウ酸ナトリウム、シュウ酸リチウム等の可溶性シュウ酸塩の水溶液を使用できる。
【0089】
また、硫酸亜鉛、硫酸亜鉛アンモニウム、硫酸アンモニウム、硫酸亜鉛カリウム、硫酸アルミニウム、硫酸アルミニウムアンモニウム、硫酸アルミニウムカリウム、硫酸アルミニウムタリウム、硫酸アルミニウムナトリウム、硫酸アンチモン、硫酸アンモニウム、硫酸アンモニウムナトリウム、硫酸イッテルビウム(III)、硫酸イットリウム、硫酸イットリウムカリウム、硫酸イットリウムナトリウム、硫酸イリジウム(IV)、硫酸イリジウム(III)、硫酸イリジウム(IV)、三硫酸イリジウム(III)三カリウム、二硫酸イリジウム(III)カリウム、硫酸イリジウムセシウム、硫酸イリジウムタリウム、硫酸インジウム、硫酸インジウムアンモニウム、硫酸ウラニル、硫酸ウラニルアンモニウム、硫酸ウラニルカリウム、硫酸ウラニルナトリウム、硫酸塩化マグネシウムカリウム、硫酸カドミウム、硫酸カドミウムアンモニウム、、硫酸カドミウムカリウム、硫酸カリウム、硫酸ガリウム、硫酸ガリウムアンモニウム、硫酸ガリウムカリウム、硫酸ガリウムセシウム、硫酸ガリウムルビジウム、硫酸カルシウム、硫酸カルシウムカリウム、硫酸カルシウムナトリウム、硫酸銀、硫酸クロム(II)(硫酸第一クロム)、硫酸クロム(III)(シュウ酸第二クロム)、硫酸クロムアンモニウム、硫酸クロムカリウム、硫酸クロムルビジウム、硫酸コバルト(II)(硫酸第一コバルト)、硫酸コバルト(III)(硫酸第二コバルト)、硫酸コバルトアンモニウム、硫酸コバルトカリウム、硫酸コバルトセシウム、硫酸コバルトタリウム、硫酸コバルトルビジウム、硫酸サマリウム、硫酸ジルコニウム、オキシ硫酸ジルコニウム、硫酸水素アンモニウム、硫酸水素カリウム、硫酸水素カルシウム、硫酸水素ストロンチウム、硫酸水素セシウム、硫酸水素タリウム、硫酸水素ナトリウム、硫酸水素バナジウム、硫酸水素バリウム、硫酸水素ビスマス、硫酸水素マグネシウム、硫酸水素リチウム、硫酸水素スカンジウム、硫酸水素スカンジウムアンモニウム、硫酸水素スカンジウムカリウム、シュウ酸水素スカンジウムナトリウム、硫酸スズ(II)(硫酸第一スズ)、硫酸スズ(IV)(硫酸第二スズ)、硫酸セシウム、硫酸セリウム(III)(硫酸第一セリウム)、硫酸セリウム(IV)(硫酸第二セリウム)、硫酸セリウムアンモニウム、硫酸タリウム(I)(硫酸第一タリウム)、硫酸タリウム(III)(硫酸第二タリウム)、硫酸チタン(IV)(硫酸第二チタン)、硫酸鉄(II)(硫酸第一鉄)、硫酸鉄(III)鉄(II)(硫酸第二鉄第一鉄)、硫酸鉄(III)(硫酸第二鉄)、硫酸鉄(II)アンモニウム(硫酸第一アンモニウム)、三硫酸鉄(III)アンモニウム(硫酸第二鉄アンモニウム)、硫酸鉄タリウム(II)(硫酸第二鉄タリウム)、硫酸鉄(II)ルビジウム(硫酸第一鉄ルビジウム)、硫酸鉄(III)ルビジウム(硫酸第二鉄ルビジウム)、硫酸銅(I)(硫酸第一銅)、硫酸銅(II)(硫酸第二銅)、硫酸銅アンモニウム、硫酸銅カリウム、硫酸銅セシウム、硫酸銅タリウム、硫酸銅ナトリウム、硫酸銅ルビジウム、硫酸トリウムアンモニウム、硫酸トリウムカリウム、硫酸トリウムナトリウム、硫酸ナトリウム、硫酸ナトリウムカリウム、硫酸ニッケル、硫酸ニッケルアンモニウム、硫酸ニッケルカリウム、硫酸ニッケルセシウム、硫酸ニッケルタリウム、硫酸ニッケルナトリウム、硫酸ニッケルルビジウム、硫酸ネオジウム、硫酸バナジウム、硫酸バナジウムアンモニウム、硫酸バナジウムカリウム、硫酸バナジウムルビジウム、硫酸ハフニウム、硫酸パラジウム、硫酸ビスマス、硫酸ヒドロキシルアンモニウム、硫酸プルトニウム、硫酸ベリリウム、硫酸ベリリウムアンモニウム、硫酸ベリリウムカリウム、硫酸ベリリウムナトリウム、硫酸マグネシウム、硫酸マグネシウムアンモニウム、硫酸マグネシウムカリウム、硫酸マグネシウムカルシウムカリウム、硫酸マグネシウムタリウム、硫酸マグネシウムナトリウム、硫酸マグネシウムルビジウム、硫酸マンガン(II)(硫酸第一マンガン)、硫酸マンガン(III)(硫酸第二マンガン)、硫酸マンガン(IV)、硫酸マンガン(II)アンモニウム(硫酸第一マンガンアンモニウム)、三硫酸二マンガン(II)二アンモニウム(三硫酸二第一マンガン二アンモニウム)、硫酸マンガン(III)アンモニウム(硫酸第二マンガンアンモニウム)、硫酸マンガン(II)カリウム(硫酸第一マンガンカリウム)、三硫酸二マンガン(II)二カリウム(三硫酸二第一マンガン二カリウム)、硫酸マンガン(III)カリウム(硫酸第二マンガンカリウム)、硫酸マンガン(II)セシウム(硫酸第一マンガンセシウム)、硫酸マンガン(III)セシウム(硫酸第二マンガンセシウム)、硫酸マンガン(II)ナトリウム(硫酸第一マンガンナトリウム)、硫酸マンガン(II)ルビジウム(硫酸第一マンガンルビジウム)、硫酸マンガン(III)ルビジウム(硫酸第二マンガンルビジウム)、硫酸ランタン、硫酸ランタンアンモニウム、硫酸ランタンカリウム、硫酸ランタンナトリウム、硫酸リチウム、硫酸ルテニウム,硫酸ルビジウム、硫酸ロジウムカリウム、硫酸ロジウムセシウム等の可溶性硫酸塩の水溶液を使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0090】
以下、本発明を具体化した実施例1〜9と比較例1〜3とを説明する。
【実施例1】
【0091】
低重合体として、オリゴマーを用意した。このオリゴマーは、上記化1のRFが−C37であり、R1がカルボキシル基であるアクリル酸のフッ素オリゴマーである。
【0092】
このフッ素オリゴマー0.1g、3号ソーダ系水ガラス(日本化学工業)100g、アエロジル90G(日本アエロジル)10g及び水400gを混合し、ハイブリッド塗料を調製した。
【0093】
図1に示すように、基材1としてのガラス板にハイブリッド塗料をスプレー式で塗布した。こうして、基材1上に30g/m2の厚みの塗布層2aを形成した。
【0094】
塗布層2aをもつ基材1を150°Cで30分間加熱した。
【0095】
焼成工程後の塗布層2aを5%酢酸水溶液に10分浸漬した。こうして、図2に示すように、基材1上にハイブリッド皮膜2bを形成し、ハイブリッド皮膜付き製品を得た。
【実施例2】
【0096】
低重合体として、コオリゴマーを用意した。このコオリゴマーは、上記化2のRFが−C37であり、R2がジメチルアミド、R3がカルボキシル基であるジメチルアクリルアミドとアクリル酸とのフッ素コオリゴマーである。
【0097】
このフッ素コオリゴマー0.1g、上記ソーダ系水ガラス100g、上記アエロジル10g及び水400gを混合し、ハイブリッド塗料を調製した。そして、実施例1と同様の塗布工程、加熱工程及び薬品処理工程を行い、ハイブリッド皮膜付き製品を得た。
【実施例3】
【0098】
実施例1で用いたフッ素オリゴマー0.1g、上記ソーダ系水ガラス100g、上記アエロジル10g、水ガラス用硬化剤としてのリン酸カルシウム10g、酸化チタン顔料1g及び水400gを混合し、ハイブリッド塗料を調製した。
【0099】
実施例1、2と同様、基材1としてのガラス板にハイブリッド塗料をスプレー式で塗布した。こうして、基材1上に30g/m2の厚みの塗布層2aを形成した。
【0100】
塗布層2aをもつ基材1を150°Cで30分間加熱した。こうして、基材1上にハイブリッド皮膜2bを形成し、ハイブリッド皮膜付き製品を得た。
(比較例1)
【0101】
上記ソーダ系水ガラス100g、上記アエロジル10g及び水400gを混合し、無機塗料を調製した。そして、実施例1と同様の塗布工程、加熱工程及び薬品処理工程を行い、無機皮膜付き製品を得た。
【0102】
(比較例2)
【0103】
上記ソーダ系水ガラス100g、上記アエロジル10g及び水400gを混合し、無機塗料を調製した。そして、実施例1と同様の塗布工程、加熱工程及び薬品処理工程を行った。得られた無機皮膜上に撥水及び撥油処理剤としてのフルオロアルキルシランLS−160(信越化学)を薄く塗布し、無機皮膜を撥水及び撥油処理した。こうして、無機皮膜付き製品を得た。
(比較例3)
【0104】
市販のPTFE板をそのまま製品とした。
【0105】
(評価法)
各実施例1〜3及び比較例1〜3の製品の試験片について、協和界面科学CA−Xにより、水接触角(°)を測定して親水性を評価するとともに、油接触角(°)を測定して撥油性を評価した。また、協和界面科学CA−Xにより、水中油接触角(°)を測定して水中での油汚れの除去性を評価した。
【0106】
また、180°Cに加熱した油の上方40cmに各試験片を配置し、付着した油の量を測定することにより、油蒸気付着量(g/m2)を求めた。
【0107】
付着油の水中での除去試験として、各試験片にオレイン酸を20g/m2となるように塗布した後、25°Cの水に15分間浸漬した。浸漬後の重量変化から、オレイン酸の除去率(%)を測定した。
【0108】
耐熱水性として、90°Cの水に各試験片を8時間及び50時間浸漬し、皮膜の変化を目視で評価した。評価は、全く変化がなかった試験片を◎とし、若干変化があった試験片を○とし、変化があった試験片を△とし、著しく変化があった試験片を×とした。
【0109】
これらを表1に示す。実施例1、2の試験片が特に優れているが、実施例3の試験片も従来の製品に相当する比較例1〜3の試験片と比べ、良好な結果であることがわかる。
【0110】
【表1】

【0111】
比較例1〜3の試験片も防汚製品としてよく用いられるものに相当する。比較例1の試験片は、付着した油汚れが水で除去しやすい(つまり、水中油接触角が高い)が、空気中では油が付着しやすい(つまり、油接触角が低い)ものであることがわかる。比較例3の試験片は、油が付着しにくく、拭き取り掃除がしやすい(つまり、油接触角が高い)が、水洗いでは油が除去しにくい(つまり、水中油接触角が低い)ものである。比較例2の試験片は、比較例1の試験片に撥水及び撥油処理を施したものだが、本来の良好な性質(比較例1の長所)を失い、比較例3と同様の性質になっていることがわかる。すなわち、比較例1〜3の試験片はいずれも短所がある。
【0112】
これらに対し、実施例1〜3の試験片は比較例1〜3の長所を兼ね備えており、油が付着しにくく(つまり、油接触角が高く、油をはじくので拭き取りが容易)、油が付着した場合でも水で除去しやすい(つまり、水中油接触角が高く、水で油が除去しやすい)。
【実施例4】
【0113】
ブラスト処理したアルミニウム製グリスフィルター用基材1を用意し、この基材1に実施例2のハイブリッド塗料をスプレー式で塗布した。こうして、基材1上に30g/m2の厚みの塗布層2aを形成した。そして、実施例1と同様の固化工程を行い、グリスフィルターを得た。
【0114】
このグリスフィルターを使用すると、油蒸気が付着しにくく、また付着した油汚れを水で容易に除去することができ、手入れの労力が低減された。
【実施例5】
【0115】
実施例1で用いたフッ素オリゴマー0.1g、上記ソーダ系水ガラス100g、上記アエロジル10g、酸化チタン顔料5g及び水400gを混合し、ハイブリッド塗料を調製した。
【0116】
ブラスト処理したステンレス製キッチンシンク用基材1を用意し、この基材1にこのハイブリッド塗料をスプレー式で塗布した。こうして、基材1上に200g/m2の厚みの塗布層2aを形成した。そして、実施例1と同様の焼成工程を行った後、薬剤処理工程として、焼成工程後の塗布層2aを5%リン酸水溶液に10分浸漬した。こうして、キッチンシンクを得た。
【0117】
このキッチンシンクを使用すると、キッチンで発生する油性汚れが付着しにくく(つまり、油性汚れをはじき)、また付着した油性汚れを水で容易に除去することができ、手入れの労力が低減された。
【実施例6】
【0118】
実施例1で用いたフッ素オリゴマー0.5g、メタノールシリカゾル(日産化学)5g、TEOS(和光特級)0.5g及び25%アンモニア水0.5mlをエタノール25ml中で2時間反応させた。こうして、実施例1のフッ素オリゴマーを表面に固定化したフッ素オリゴマー修飾シリカゾルを得た。このフッ素オリゴマー修飾シリカゾルが低重合体付きアンカー粒子である。
【0119】
フッ素オリゴマー修飾シリカゾル0.5g、2Kカリウム系水ガラス50g、水ガラス用硬化剤としてのリン酸アルミニウム(太平洋化学)10g、酸化チタン顔料1g、骨材としての珪石粉末(SP−3、雪印)5g及び水20gを混合し、ハイブリッド塗料を調製した。
【0120】
このハイブリッド塗料を基材1としてのアルミニウム板にスプレー式で塗布した。こうして、基材1上に200g/m2の厚みの塗布層2aを形成した。塗布層2aをもつ基材1を220°Cで1時間加熱した。こうして、基材1上にハイブリッド皮膜2bを形成し、ハイブリッド皮膜付き製品を得た。
【実施例7】
【0121】
アンカー粒子としてのガラスフリット10g(日本フリット)、TEOS(和光特級)0.5g、バインドシラン(Amersham)0.5ml及び25%アンモニア水溶液0.5ml(関東化学)をアセトン50ml(和光純薬)に添加し、24時間攪拌し、ガラスフリット上にバインドシラン処理した。
【0122】
このバインドシラン処理済みのガラスフリット10g、アクリル酸モノマー5g、パーフルオロオキサイド100gをフッ素溶媒(アサクリーンAK225(旭硝子))150g中で反応させた。こうして、アクリル酸のフッ素オリゴマーを表面に修飾したガラスフリットを得た。この修飾ガラスフリットが低重合体付きアンカー粒子である。
【0123】
この修飾ガラスフリット5g、上記カリウム系水ガラス50g、水ガラス用硬化剤としてのピロリン酸アルミニウム(太平洋化学)10g、顔料としてのダイピロキサイドブラック(♯9565、大日精化工業)1g及び水20gを混合し、ハイブリッド塗料を調製した。
【0124】
このハイブリッド塗料を基材1としてのステンレス板にスプレー式で塗布した。こうして、基材1上に200g/m2の厚みの塗布層2aを形成した。塗布層2aをもつ基材1を180°Cで1時間加熱した。こうして、基材1上にハイブリッド皮膜2bを形成し、ハイブリッド皮膜付き製品を得た。
【実施例8】
【0125】
アンカー粒子としての上記珪石粉末10g、TEOS(和光特級)0.5g、上記バインドシラン0.5ml、25%アンモニア水溶液0.5ml(関東化学)をアセトン50ml(和光純薬)に添加し、24時間攪拌し、珪石粉末上にバインドシラン処理した。
【0126】
このバインドシラン処理済みの珪石粉末10g、アクリル酸モノマー5g、パーフルオロオキサイド100gをフッ素溶媒(アサクリーンAK225(旭硝子))150g中で反応させた。この修飾珪石粉末が低重合体付きアンカー粒子である。
【0127】
この修飾珪石粉末5g、上記カリウム系水ガラス50g、酸化チタン顔料1g及び水20gを混合し、ハイブリッド塗料を調製した。
【0128】
このハイブリッド塗料を基材1としての亜鉛めっき鋼鈑にスプレー式で塗布した。こうして、基材1上に200g/m2の厚みの塗布層2aを形成した。塗布層2aをもつ基材1を200°Cで3時間加熱した。さらに、3%リン酸水溶液に4時間浸漬した。こうして、基材1上にハイブリッド皮膜2bを形成し、ハイブリッド皮膜付き製品を得た。
【実施例9】
【0129】
実施例1で用いたフッ素オリゴマー1.0g、上記ソーダ系水ガラス100g、コロイダルシリカ(ST−XS、日産化学)50g、顔料としてのリン酸ジルコニウム10g及び水100gを混合し、ハイブリッド塗料を調製した。
【0130】
このハイブリッド塗料を基材1としてのガラス板にスプレー式で塗布した。こうして、基材1上に80g/m2の厚みの塗布層2aを形成した。塗布層2aをもつ基材1を150°Cで30分間加熱した。さらに、10%リン酸アンモニウム水溶液に3時間浸漬した。こうして、基材1上にハイブリッド皮膜2bを形成し、ハイブリッド皮膜付き製品を得た。
【0131】
以上において、本発明を実施例1〜9に即して説明したが、本発明は実施例1〜9に制限されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0132】
本発明は、レンジフィルタ、レンジフード、換気扇のファン、キッチンバック、ホワイトボード、建材等に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0133】
【図1】実施例1〜9及び比較例1〜3に係り、基材及び塗膜層の断面図である。
【図2】実施例1〜9及び比較例1〜3に係り、基材及び皮膜の断面図である。
【符号の説明】
【0134】
1…基材
2a…塗膜層
2b…皮膜、ハイブリッド皮膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水ガラスと、両末端にフッ素含有基をもつオリゴマー及び/又はコオリゴマーである低重合体とが少なくとも混合されてなることを特徴とするハイブリッド塗料。
【請求項2】
前記低重合体は、化1に示すオリゴマー(RFはフルオロアルキル基、R1は1価の有機基、xは自然数である。)又は化2に示すコオリゴマー(RFはフルオロアルキル基、R2及びR3は1価の有機基、x及びyは自然数である。)である請求項1記載のハイブリッド塗料。
(化1)

(化2)

【請求項3】
前記R1は、親水性であるとともに、水素結合、配位結合、共有結合、イオン結合、エステル結合その他の結合を形成しうる有機基であり、
前記R2は親水性であり、
前記R3は、水素結合、配位結合、共有結合、エステル結合、ウレタン結合、アミド結合、脱水重縮合、ビニル重合その他の結合を形成しうる有機基である請求項2記載のハイブリッド塗料。
【請求項4】
前記R1及び前記R2は、カルボキシル基、スルホ基、シラノール基、ヒドロキシル基、アミノ基、ニトロ基、カルボニル基、アミド基又はこれらの誘導体を含む有機基であり、
前記R3は、カルボキシル基、スルホ基、シラノール基、ヒドロキシル基、アミノ基、ニトロ基、カルボニル基、アミド基、アルコキシ基、イソシアネート基又はビニル基を含む有機基である請求項3記載のハイブリッド塗料。
【請求項5】
前記水ガラスによるマトリックス中に前記低重合体を固定するアンカー粒子が混合されてなる請求項1乃至4のいずれか1項記載のハイブリッド塗料。
【請求項6】
水ガラス用硬化剤が混合されてなる請求項1乃至5のいずれか1項記載のハイブリッド塗料。
【請求項7】
両末端にフッ素含有基をもつオリゴマー及び/又はコオリゴマーである低重合体と、アンカー粒子とを反応させ、低重合体付きアンカー粒子を得る反応工程と、
水ガラスに該低重合体付きアンカー粒子を少なくとも混合する混合工程とを備えていることを特徴とするハイブリッド塗料の製造方法。
【請求項8】
基材と、該基材上に形成されたハイブリッド皮膜とからなり、
該ハイブリッド皮膜は、無機ガラス質のマトリックスと、該マトリックス中に分散され、両末端にフッ素含有基をもつオリゴマー及び/又はコオリゴマーである低重合体とを有していることを特徴とするハイブリッド皮膜付き製品。
【請求項9】
前記ハイブリッド皮膜は、前記マトリックス中に前記低重合体を固定するアンカー粒子を有している請求項8記載のハイブリッド皮膜付き製品。
【請求項10】
水ガラスと、両末端にフッ素含有基をもつオリゴマー及び/又はコオリゴマーである低重合体とが少なくとも混合されたハイブリッド塗料を得る塗料調製工程と、
基材上に該ハイブリッド塗料を塗布し、該基材上に塗膜層を形成する塗布工程と、
該塗膜層を固化してハイブリッド皮膜とする固化工程とからなることを特徴とするハイブリッド皮膜付き製品の製造方法。
【請求項11】
前記固化工程は、前記塗膜層を350°C以下の温度で焼成する焼成工程を含む請求項10記載のハイブリッド皮膜付き製品の製造方法。
【請求項12】
前記固化工程は、前記塗膜層を脱アルカリ処理する薬剤処理工程を含む請求項10又は11記載のハイブリッド皮膜付き製品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−154020(P2007−154020A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−350545(P2005−350545)
【出願日】平成17年12月5日(2005.12.5)
【出願人】(000000479)株式会社INAX (1,429)
【出願人】(504229284)国立大学法人弘前大学 (162)
【Fターム(参考)】