説明

ハイブリッド過給機発電システム

【課題】主機関を緊急停止する必要が生じた場合でも、船内停電に至ることなく直ちに主機関を緊急停止できるようにしたハイブリッド過給機発電システムを提供する。
【解決手段】主機関に搭載されたハイブリッド過給機10の発電機30を船内電力の主電源とし、かつ、非常用電源のディーゼル発電設備50を備えているハイブリッド過給機発電システムが、発電機30で発電された電力の直流出力と並列に接続した電力貯蔵部として2次電池60を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば船舶の内燃機関に搭載されるハイブリッド過給機により発電するハイブリッド過給機発電システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド過給機は、たとえば舶用ディーゼルエンジン等の内燃機関から排出されるエンジン排熱を過給機のコンプレッサ駆動力として利用するだけでなく、発電機を駆動する動力としても利用して電力を供給する装置である。このようなハイブリッド過給機を搭載した船舶では、ハイブリッド過給機の発電機により発電した電力で船内電力を賄う場合があり、ハイブリッド過給機発電システムと呼ばれている。なお、このようなハイブリッド過給機発電システムは、非常用の発電設備としてディーゼル発電設備を備えている。
【0003】
船舶の過給機付主機関とプロペラとの間を連結する推進軸に軸駆動発電装置を設けた船舶推進システムにおいては、たとえば下記の特許文献1に開示されているように、過給機に直結した高速発電機で発電した電力を周波数変換装置により周波数変換した後、軸駆動発電装置に供給することが行われている。このような電力の供給を受けた軸駆動発電装置は、船舶の推進加勢をする推進電動機として駆動される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−255637号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述したハイブリッド過給機発電システムの場合、ハイブリッド過給機の発電機は、搭載した主機関が常用負荷で運転中の場合にのみ発電可能である。このため、船内の電力をハイブリッド過給機の発電のみで賄う場合には、主機関を何らかの理由で緊急停止しなければならない状況になると、船内停電になるという問題がある。
【0006】
具体的に説明すると、たとえば前進中の船舶を危険回避のために後進させるクラッシュアスターンの実施時には、主機関とともにハイブリッド過給機の運転が停止されるため、ハイブリッド過給機の発電機による発電も停止されて船内停電となる。すなわち、比較的大型船舶の場合、船舶の運航状況によっては、危険を回避するために主機関の回転方向を直ちに逆転し、船舶を急停止させる場合がある。このような緊急停止時において、2サイクルの舶用ディーゼルエンジンを採用した主機関では、いったん主機関を停止した後、プロペラが逆方向に回転するように再起動することになるため、ハイブリッド過給機の運転停止は避けられない。
【0007】
このような船内停電を避けるためには、主機関を停止する前にディーゼル発電設備を起動することが必要となる。すなわち、主機関を非常停止する前に非常用電源のディーゼル発電設備を起動し、船内の電源を確保することが必要になる。しかし、ディーゼル発電設備を起動するためには、通常数十秒程度の時間を要するためすぐに主機関を停止することはできず、この間に船舶は進み続けることとなる。すなわち、クラッシュアスターンの実施時に船内停電を防止するためには、ディーゼル発電設備の起動が完了するまで主機関の停止を待つことが必要になる。
従って、クラッシュアスターンの実施による主機関の緊急停止時には、船内停電防止のために船舶の危険回避に遅れを生じることが懸念され、また、主機関の異常による主機関の緊急停止時には、主機関の停止まで時間を要するため故障の拡大が懸念される。
【0008】
このため、上述した従来のハイブリッド過給機発電システムにおいては、主機関を緊急停止する必要が生じた場合でも、船内停電に至ることなく直ちに主機関の緊急停止を可能にすることが必要となる。すなわち、船舶の危急停止や主機関の逆転が必要な状況でも、非常用電源のディーゼル発電設備が起動するまでの起動待ち時間をなくし、迅速かつ安全な緊急停船操作を可能にすることが望まれる。
本発明は、上記の課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、主機関を緊急停止する必要が生じた場合でも、船内停電に至ることなく直ちに主機関を緊急停止できるようにしたハイブリッド過給機発電システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記の課題を解決するため、下記の手段を採用した。
本発明に係るハイブリッド過給機発電システムは、内燃機関から排出された排熱によって駆動される排気タービンと、この排気タービンにより駆動されて前記内燃機関に外気を圧送するコンプレッサと、前記排気タービンおよび前記コンプレッサの回転軸と連結される回転軸を有する発電機とを備えたハイブリッド過給機を有し、前記発電機を船内電力の主電源とし、かつ、非常用電源のディーゼル発電設備を備えているハイブリッド過給機発電システムであって、前記発電機で発電された電力の直流出力と並列に接続した電力貯蔵部を備えていることを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明に係るハイブリッド過給機発電システムは、前記発電機からの発電を停止した場合、前記ディーゼル発電設備が起動し、所定の電力を供給する発電を開始するまでの間、前記電力貯蔵部より電力を供給することを特徴とするものである。
【0011】
このようなハイブリッド過給機発電システムによれば、発電機で発電された電力の直流出力と並列に接続した電力貯蔵部を備えているので、主機関を緊急停止するなどしてハイブリッド過給機の発電機が発電できなくなっても、非常用電源のディーゼル発電設備が起動して発電を開始するまでの間、並列に接続された電力貯蔵部から直流の電力を供給することができる。すなわち、危険回避のために主機関の逆転が必要になっても、船内停電防止のために非常用電源が起動するまで待つ待機時間をなくし、即時に危険回避の緊急操作が実施可能となる。
【0012】
この場合、前記電力貯蔵部は、前記発電機で発電された交流の電力を直流に変換するコンバーターと並列に接続された2次電池またはフライホイール・バッテリであることが好ましい。
なお、2次電池は、充電を行うことにより電気を蓄えて繰り返しの使用が可能な電池であり、フライホイール・バッテリは、電気が持つエネルギーを一時的に回転運動の物理的エネルギーに変換して保存しておき、電気が必要な時に回転運動から発電によって電気を得るエネルギー保存装置である。
【発明の効果】
【0013】
上述した本発明のハイブリッド過給機発電システムによれば、主機関を緊急停止するなどしてハイブリッド過給機の発電機が発電できなくなった場合には、非常用電源のディーゼル発電設備が起動して発電を開始するまでの間、発電機で発電された電力の直流出力と並列に接続した電力貯蔵部から一時的に直流電力が供給される。このため、ディーゼル発電設備を起動して船内停電を防止する待機時間が不要となり、危険回避等のために主機関を直ちに緊急停止する緊急操作が可能になる。従って、船舶の主電源にハイブリッド過給機発電システムを採用しても、クラッシュアスターンの実施による主機関の緊急停止や、主機関の異常による主機関の緊急停止等を速やかに実施できるため、船舶航行の安全性確保に支承はなく、しかも、主機関の故障拡大も防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係るハイブリッド過給機発電システムの一実施形態を示すシステム構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係るハイブリッド過給機発電システムの一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1に示す実施形態のハイブリッド過給機発電システムは、ハイブリッド過給機10を搭載した船舶において、ハイブリッド過給機10の発電機30により発電した電力を船内電力として使用する。すなわち、ハイブリッド過給機10の発電機30が、船舶で使用する電力の主電源となる。
【0016】
ハイブリッド過給機10は、たとえば舶用ディーゼルエンジン等の内燃機関から排出されるエンジン排熱を過給機20のコンプレッサ駆動力として利用するだけでなく、発電機30を駆動する動力としても利用して電力を供給する装置である。このハイブリッド過給機10は、1台の過給機20と1台の発電機30とを備えており、船舶航行用の主機関である内燃機関から排出される排熱を利用することにより、内燃機関の燃焼用空気として圧縮空気を供給するとともに、発電機30を駆動して電力を得る装置である。
【0017】
過給機20は、内燃機関から排出される排気ガスの排熱で駆動される排気タービン21とロータ軸22で連結されたコンプレッサ23を備えており、排気タービン21の駆動力でコンプレッサ23を回転駆動させ、コンプレッサ23で圧縮された外気を燃焼用空気として内燃機関に圧送する装置である。
発電機30は、上述したコンプレッサ23の回転軸と同軸に連結されている。このため、発電機30で発電された電力は、コンプレッサ23が高速回転することから、船内電力の主電源として使用する一般的な三相交流電力と比較して、周波数の高い交流となる。
【0018】
発電機30で発電された交流電力は、電力ケーブル11を介してコンバーター12に導かれる。このコンバーター12は、交流電力を整流して直流電力に変換するための装置である。
上述したコンバーター12は、直流ケーブル13を介してインバーター14と接続されている。このインバーター14は、直流電力から所望の周波数を有する交流電力を電気的に生成する電力変換装置である。このインバーター14で生成された三相交流電力は、電力ケーブル15を介して船内電気系統の母線16に供給される。
【0019】
また、本実施形態のハイブリッド過給機発電システムは、船内電源の各種制御を行う制御部40を備えている。この制御部40は、インバーター14と制御用ケーブル17を介して接続されており、船舶で使用する電力の主電源(常用電源)であるハイブリッド過給機10の発電機30について、発電状況の監視や各種制御を実施できる。
【0020】
また、本実施形態のハイブリッド過給機発電システムは、船舶で使用する電力の非常電源としてディーゼル発電設備50を備えている。このディーゼル発電設備50は、専用のディーゼルエンジンで非常用発電機を駆動して発電する非常用電源設備であり、上述した主電源の停止時に起動信号を出力する制御部40と制御用ケーブル51を介して接続されている。なお、このディーゼル発電設備50で発電された非常用の三相交流電力は、電力ケーブル52を介して母線16に供給される。
【0021】
このように、主機関に搭載されたハイブリッド過給機10の発電機30を船内電力の主電源とし、かつ、非常用電源のディーゼル発電設備50を備えているハイブリッド過給機発電システムに対し、本実施形態では、発電機30で発電された電力の直流出力と並列に接続した電力貯蔵部として、2次電池60を設けている。
【0022】
2次電池60は、充電を行うことにより電気を蓄えて繰り返しの使用が可能な電池であり、ハイブリッド過給機10が通常通り運転されている場合に発電機30で発電した直流電力の一部が充電されるようになっている。この場合、2次電池60の電源容量は、非常電源のディーゼル発電設備50を起動して正常に発電できる状態になるまでの時間をカバーできればよい。
2次電池60から供給される直流電力は、電池用直流ケーブル61を介して直流ケーブル13に導かれるので、インバーター14で三相の交流電力に変換された後、電力ケーブル15を介して母線16に供給される。
【0023】
このような本実施形態のハイブリッド過給機発電システムによれば、発電機30で発電された電力の直流出力と並列に接続した電力貯蔵部の2次電池60を備えているので、船舶の主機関が緊急停止されてハイブリッド過給機10の発電機30が発電できなくなった場合でも、制御部40から出力される起動信号を受けて非常用電源のディーゼル発電設備50が起動し、所定の交流電力を供給する発電を開始するまでの間、並列に接続された2次電池60から直流電力を供給して船舶の停電を防止することができる。
【0024】
すなわち、上述した本実施形態のハイブリッド過給機発電システムは、主機関を緊急停止するなどしてハイブリッド過給機10の発電機30が発電できなくなっても、非常用電源のディーゼル発電設備50が起動して発電を開始するまでの間、発電機30で発電された電力の直流出力と並列に接続した2次電池60から一時的に直流電力を供給することができる。このため、ディーゼル発電設備50の起動を待たずに主機関を直ちに緊急停止しても、発電機30から供給される常用電源が使用できないにもかかわらず、2次電池60から給電される電力により船内が停電するようなことはない。
【0025】
従って、船舶の主電源にハイブリッド過給機発電システムを採用しても、換言すれば、船舶の常用電源としてハイブリッド過給機10の発電機30を使用しても、クラッシュアスターンの実施による主機関の緊急停止や、主機関の異常による主機関の緊急停止等を速やかに実施することが可能になる。この結果、省エネルギー効果の高いハイブリッド過給機10により船舶の電源系統を構築し、ハイブリッド過給機10を船舶の主電源とするハイブリッド過給機発電システムを採用しても、船舶航行の安全性確保に支障はなく、しかも、主機関の故障拡大も防止できる。
【0026】
ところで、上述した実施形態では、電力貯蔵部として2次電池60を採用したが、たとえばフライホイール・バッテリを採用することも可能である。このフライホイール・バッテリは、電力が持つエネルギーを一時的に回転運動の物理的エネルギーに変換して保存しておく装置であり、電力が必要な時には、回転運動から発電した電力を得ることができるエネルギー保存装置である。
なお、本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、その要旨を逸脱しない範囲内において適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0027】
10 ハイブリッド過給機
12 コンバーター
14 インバーター
20 過給機
21 排気タービン
23 コンプレッサ
30 発電機
40 制御部
50 ディーゼル発電設備
60 2次電池(電力貯蔵部)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関から排出された排熱によって駆動される排気タービンと、この排気タービンにより駆動されて前記内燃機関に外気を圧送するコンプレッサと、前記排気タービンおよび前記コンプレッサの回転軸と連結される回転軸を有する発電機とを備えたハイブリッド過給機を有し、前記発電機を船内電力の主電源とし、かつ、非常用電源のディーゼル発電設備を備えているハイブリッド過給機発電システムであって、
前記発電機で発電された電力の直流出力と並列に接続した電力貯蔵部を備えていることを特徴とするハイブリッド過給機発電システム。
【請求項2】
前記発電機からの発電を停止した場合、前記ディーゼル発電設備が起動し、所定の電力を供給する発電を開始するまでの間、前記電力貯蔵部より電力を供給することを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド過給機発電システム。
【請求項3】
前記電力貯蔵部は、前記発電機で発電された交流の電力を直流に変換するコンバーターと並列に接続された2次電池またはフライホイール・バッテリであることを特徴とする請求項1または2に記載のハイブリッド過給機発電システム。


【図1】
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【公開番号】特開2012−176673(P2012−176673A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−40377(P2011−40377)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】