説明

ハドロン療法のオンラインによる質の保証のための装置および方法

【課題】 放射線源から発生してターゲットに送達されるハドロン・ビームをオンライン線量モニタリングするための装置および方法。
【解決手段】 この装置は、ハドロン・ビームの中心軸と直交するように配置され、ガス充填されたギャップによって互に隔てられて並列されて、電離箱の集合体を形成する複数の支持プレートを含む。それぞれの支持プレートは、第1の側に1つ以上の集電極を、第2の側に1つ以上の高圧電極を有する。上記複数の支持プレートは、それぞれの支持プレートの第1の側が隣接する支持プレートの第2の側と対向するように、配置される。それぞれの支持プレートは、ターゲットに送達されるハドロン・ビームの中心部分が妨げられずに通過することを可能にする内部キャビティを形成する開口と、複数の電離箱によってハドロン・ビームの周縁部分を遮り且つ測定するための周縁領域とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はハドロン療法、即ち、強い相互作用をする粒子を使用する放射線療法に関わる。より具体的には、本発明は「ブラッグピーク」として知られる、ターゲット容積における深度に応じた線量を測定する装置および方法に関わる。本発明はまた、到達距離が調節されている場合に拡大ブラッグピーク(SOBP)を測定する装置および方法にも関わる。
【背景技術】
【0002】
今日、ハドロン(即ち、中性子、プロトン、パイ中間子、炭素イオンのようなイオン)が放射線療法の分野でX線またはγ線よりも物理的な利点を有することは周知である。所与のエネルギーを有する、即ち、単一エネルギーのプロトン・ビームを形成するプロトンは一定の到達距離を有し、この到達距離を越えて到達することはない。また、その放射エネルギーの最大値は、ターゲット容積における放射線ビームの最大到達点に相当するいわゆるブラッグピークに置かれる。ブラッグピーク位置はハドロン・ビームのエネルギーに応じて異なるから、エネルギーを正確に制御し、変更することによって、ブラッグピークを腫瘍の適切な深さに置き、その部位に最大の放射エネルギーを照射すると同時に、上記腫瘍の周辺の健康な組織を避けることができることは明白である。さらにまた、それぞれのエネルギーが異なる幾つかの単一エネルギー・プロトン・ビームを組み合わせる(即ち、到達距離を調節する)ことによって、腫瘍の厚さに合わせてブラッグピークを拡大すると同時に、周辺の健康な組織および決定器官に対する線量の負荷を制御しながら、均一な線量でターゲットに放射線を照射することができる。
【0003】
もちろん、エネルギーの異なるハドロンを組み合わせるためには調節ホイールのような特殊な装置が必要である。また、腫瘍の形状、サイズおよび位置にできるかぎり一致するようにハドロン・ビームを形成するためにも特殊な装置が必要になる。
【0004】
放射線療法における質の保証は、多くの場合、医学的処方の一貫性と正しさを確かめるのに必要な特定の手順から成る。通常、このような手順は、照射されるべきターゲット容積に対して処方された線量と、極力抑制されなければならない健康な組織に対する線量とに関わる。このような手順はまた、医療従事者の被曝を最小限に抑えることと、照射に対する充分なモニタリングにも関わる。ハドロン療法の質の保証は、従来の放射線療法よりも遥かに厳格な手順を必要とする。実際に、特にビーム強度およびエネルギーの完璧な制御を必要とするハドロン療法施術の場合、従来の放射線療法の質の保証の手順は、不充分である。このような完璧な制御を行なうためには、好適な線量測定システムが提供されねばならない。従って、放射線療法のための線量測定が既に確立されているとしても、ハドロン療法には1点に吸収される線量だけでなく、2Dおよび3D線量分布をも測定できる新しい線量測定システムが必要になる。
【0005】
そのような線量測定システムは次のような特徴を有するものでなければならない。高感度、小型であること、迅速な動的応答、耐放射性(radiation hardness)、エネルギー率および線量率に左右されないこと、組織等価性ならびに線形線量応答。
【0006】
多くの場合、透過電離箱は、空気などのイオン性ガスを封入したハウジングを含み、ハウジング内には、互に間隔をあけた電極対、すなわち、高圧電極および集電極が、並列に、または同軸円筒の形態で配置されており、両電極間に電圧が印加されて電界を発生させる。多くの場合、高圧電極は、高電圧電源に接続され、集電極は、低インピーダンスの電流・電圧コンバータを介して接地される。電離放射線が電離箱に進入すると、ガスの原子または分子の一部が電離され、電極間に電流が流れる。放射線ビームによって電離されたイオンまたは電子は、遊離して集電極に引き付けられ、この電流が電流・電圧コンバータによって電圧に変換された後、増幅器によって増幅されてディスプレー上に所与の信号を表示し、この信号を線量としてモニタリングすることができる。このような電離箱の例は、特許文献1〜3に記載されている。
【0007】
電子ビームまたは光子ビームの両方のモニタリングに好適な電離箱は、特許文献4からも公知である。この電離箱は主として一次ビーム進路および一次ビーム進路に隣接する二次ビーム・セル列を有するハウジングを含む。このハウジングは、電子ビームまたは光子ビームの第1部分の放射強度の検出に応答した出力を提供する第1列ビーム測定電極をも内蔵する。このハウジング内には、上記ビームの第2部分の放射強度に応答した出力を提供するための第2列ビーム測定電極も内蔵されている。しかし、この装置は放射線ビームの幾何的特徴、例えば、方向や位置のモニタリングにのみ好適である。しかも、この装置は、放射特性を、ターゲットへの送達中にモニタリングすることができない。
【0008】
上記のものとは異なる透過電離箱システムが、特許文献5に記載されている。このシステムは放射線ビームの対称性およびセンタリングを測定し、修正する方法を実施するのに好適である。この伝送システムはコリメータと照射ターゲットの間に配置され、上記ビームが完全に通過する4つの内部集電極と、上記ビームが表面の第1部分だけを横断し残りの部分が上記コリメータの陰に隠れる外部電極を含む。しかし、このシステムは、発散ビームの制御と、そのセンタリングおよび対称性の修正にのみ好適である。しかも、先に述べた公知例と同様に、ターゲットへの送達中に放射特性をモニタリングすることができない。
【0009】
高速ルーチン3D線量検証を行なうのに好適な周知の線量測定システムとして、INFNおよびトリノ大学によって開発された製品である「Magic Cube」がある(非特許文献1)。Magic Cubeは、並列された12枚の25cm×25cmサイズの電離箱プレートと、それらの間に挟まれた厚さ調整可能な組織等価スラブとのサンドイッチから成る。それぞれの電離箱は、厚さ0.1mmの2枚のベトロナイト(vetronite)のプレート(電極)によって形成され、導電性は35μmの銅フィルムによって確保される。この製品の陰極は、連続した導体であり、陽極は、4mm幅の細片に分断されている。隣接する2条の細片間のギャップは厚さ0.1mmであり、アルゴン(Ar)または窒素(N)が充填されている。但し、この装置は、ターゲット容積への送達中に線量をオンライン検証することができない。ハドロン・ビームをターゲットに送達する前に、処方線量と実際に送達される3D線量分布を比較できるだけである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第4131799号明細書
【特許文献2】米国特許第5326967号明細書
【特許文献3】米国特許第5041730号明細書
【特許文献4】米国特許第5672878号明細書
【特許文献5】欧州特許第0040589号明細書
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】C.Brusasco,R.Cirio,M.Donetti,F.Marchetto,C.Peroni,D.Schardt,B.Voss、「Verification of 3D dose distribution in heavy−ion radiotherapy」、J.Jpn.Soc.Ther.Radiol.Oncol.、1997年、第9号、第2補遺、第59頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、ターゲット容積への送達中に、ハドロン・ビームの送達に影響を及ぼすことなくこのビームのオンライン検証およびモニタリングを可能にする装置および方法の提供が望まれる。
【0013】
具体的には、本発明は、従来技術の欠点を有さない装置および方法を提供することを目的とする。
【0014】
本発明は「ブラッグピーク」として知られる、ターゲット容積中での深度に応じた線量を測定する装置および方法を提供することを特徴とする。
【0015】
本発明はまた、到達距離を調節する場合に、拡大ブラッグピーク(SOBP)を測定する装置および方法を提供することを目的とする。
【0016】
本発明はまた、ハドロン・ビームの位置ずれまたは非対称を測定し、モニタリングする装置および方法を提供することを目的とする。
【0017】
さらにまた、本発明は容易に製造し、使用し、且つ容易に据え付けることができ、必要に応じて容易に取り外しできる線量モニター装置を提供することをも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は従来技術の欠点を克服し、従来の装置の予想を超える有益な改良を達成することができる。
【0019】
本発明の第1の態様において、放射線源から発生しそしてターゲットに送達されるハドロン・ビームの中心軸と直交して配置され、ガス充填されたギャップによって互に隔てられて並列されて、電離箱の集合体を形成する、複数の支持プレートを含み、この複数の支持プレートのそれぞれが、第1の側に1つ以上の集電極を、第2の側に1つ以上の高圧電極を有し、この複数の支持プレートのそれぞれの第1の側が、隣接する支持プレートの第2の側と対向している、ハドロン・ビームをオンラインで線量モニタリングするための装置が、提供される。この装置においては、上記複数の支持プレートのそれぞれが、ターゲットに送達されるハドロン・ビームの中心部分が妨げられずに通過することを可能にする内部キャビティを形成する開口と、電離箱の集合体によってこのハドロン・ビームの周縁部分を遮り且つ測定するための周縁領域とを有する。
【0020】
本発明の第1の態様において、上記支持プレートのそれぞれが、上記1つ以上の集電極と上記1つ以上の電圧電極との間に、絶縁材を含むことが有益である。
【0021】
さらに有益な実施形態において、上記支持プレートのそれぞれは、上記1つ以上の集電極および上記1つ以上の電圧電極における漏洩電流を減らすためのガードリング素子を含む。
【0022】
好ましくは、上記1つ以上の集電極および上記1つ以上の電圧電極が、銅製である。
【0023】
さらに好ましくは、上記支持プレートは、標準的プリント回路基板技術を使用することによって得られる。
【0024】
上記複数の支持プレートのうち、少なくとも1枚の支持プレートを、残りの支持プレートに対して90°回転させることによって、上記ビームのセンタリングをチェックし且つ測定することが有益である。
【0025】
さらに有益な実施形態において、上記ターゲットに向かって上記ハドロン・ビームが送達されると、上記ハドロン・ビームが最初に横切るのが、上記少なくとも1枚の支持プレートである。
【0026】
本発明の第2の態様において、放射線源から発生し、ターゲットに送達されるハドロン・ビームの線量を検証する方法が、提供される。ここで、この方法は、
本発明の第1の態様である装置を、この装置の中心軸が上記ハドロン・ビームの中心軸と重なるように上記ターゲットと上記放射線源との間に設置するステップ、
上記ハドロン・ビームを上記ターゲットに送達するステップ、
上記装置の周縁領域において、電離箱の集合体により、この装置を通過する上記ハドロン・ビームの周縁部分の線量分布測定結果を収集するステップ、
上記装置の内部キャビティを通過する上記ハドロン・ビームの中心部分の妨げられない通過を可能にするステップ
を含む。
【0027】
さらに有益な実施形態において、上記方法は、
上記線量分布測定結果を予定の線量分布と比較することによって上記ハドロン・ビーム送達の精度を検証するステップ、
上記ハドロン・ビームの到達距離の変更および拡大ブラッグピーク(SOBP)一貫性を測定するステップ
を含む。
【0028】
第3の態様において、本発明は、ハドロン・ビームのオンライン線量モニタリングを目的とする、本発明の第1の態様としての装置または第2の態様としての方法の使用にも関わる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は、本発明の装置の断面図である。
【図1a】図1aは、図1に示した本発明の装置を矢印Aの方向に見た図である。
【図2】図2は、図1に示した装置の支持プレートを矢印Aの方向に見た図である。
【図3】図3は、図1に示した装置の支持プレートを矢印Aとは反対の方向に見た図である。
【図4】図4は、本発明の装置の分解立体図である。
【図5】図5は、本発明の装置によって測定される深部線量分布の原理を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
典型的には、ハドロン療法装置は、例えばプロトンまたは炭素イオンなどのハドロンを、ビームの状態で所要のエネルギー・レベルにまで加速し、そしてこのハドロン・ビームを、ビーム輸送ラインを通してターゲットに送達する。ビーム輸送ラインに沿い且つ上記ターゲットに至る前までの最後の部分の構造は、ハドロン・ビームを特定のターゲット・アイソセンターに向かって駆動し、方向付けるノズルを含む。
【0031】
図1は、本発明の好ましい実施形態である装置の断面図である。装置10は、ハドロン・ビームの中心軸が装置10の中心軸と一致するように放射線源とターゲットの間に配置されるのが普通である。装置10は、ハウジング20内に組み込まれている。この装置10は、並列に、好ましくはハドロン・ビームの方向と直交して積み重ねられている35枚の電離箱から成る積層体30を含む。この積層体30の間にはガスが充填されており、積層体30は、ボルト70およびナット71によって一体になっている。上記電離箱は、連続して向かい合っている並列の支持プレート80を含み、この支持プレート80は、好ましくはハドロン・ビームの方向に直交して配置されており、それぞれが直径40mmの同心円の開口を有する正方形の形状をしていて、全体として装置10の全長に沿って内側領域50と周縁領域60とを形成する。内側領域50は実質的に中空円筒形を呈し、ハドロン・ビームの一部が妨げられることなく装置を通過することを可能にする。周縁領域60は内側領域50の径方向外側に位置してハドロン・ビームの他の部分を遮断する。装置10の矢印A方向の全長は、約10cmであり、到達距離調節およびSOBPの一貫性の測定値を提供する。
【0032】
それぞれの支持プレートは、一方の側に2つの集電極を、他方の側に1つの高圧電極を有する。積層体30を構成する電離箱は、2枚の支持プレートを、片方の支持プレートにおける2つの集電極が設けられている側が他方の支持プレートにおける高圧電極が設けられている側と対向するように、厚さ1.5mmのガスを挟んで対向させることによって、実施される。
【0033】
図1aに示すように、支持プレート80は、2つの相同且つ別個の半環状である銅製の集電極82,83を一方の側に有し、これらの集電極は配線82’および83’によりデータ収集電子システム100を挟んで接地されている。支持プレート80の他方の側は銅製の高圧電極87を有し、この高圧電極87は配線87’を介して高電圧電源に接続されている(配線はいずれも破線で示されている)。集電極82,83から見た場合の外側領域85および内側領域86は、ギャップ84を介して配線によって接続されおり、集電極82および83におけるリーク電流を軽減するための銅製のガードリングを形成する。支持プレートは、厚さ0.5mmのFR4メッキ板を厚さ35ミクロンの銅はくで被覆する、標準的なプリント回路基板(以下「PCB」と呼称する)技術を使用することによって得られる。
【0034】
水が治療計画の基準材料であるから、装置10の合計の厚みを、これに対応する水当量厚さ(WET)に換算する必要がある。
【0035】
一般的に、材料iのWETは、下記式によって与えられる。
【数1】

上記式において、
は、材料の厚さ(cm)であり、
ρは、材料の密度(g/cm)であり、
【数2】

は、材料のプロトン(または他のハドロン)阻止能(Mev*cm/g)であり、
【数3】

は、水のプロトン(または他のハドロン)阻止能(Mev*cm/g)である。
【0036】
WETは、通常、種々の材料におけるプロトン・エネルギー損失を特徴付けるための「共通分母」として使用される。エネルギー散逸を起こす材料の水当量は、同じエネルギー損失を有する水の厚さである。即ち、水当量は、種々の材料におけるプロトン(または他のハドロン)のエネルギー散逸についての共通の尺度である。特に本発明の場合、好ましい実施形態では、WETの値は、各電離箱につき0.13g/cmである。この値は、電離箱の各材料(空気、銅、プリント基板材料)ごとに別々に上記式に従って計算した結果を合計したものである。従って、例えば、19番目のチャネルの有効深さは、19*0.13=2.47g/cmであり、換言すれば、水の密度は1g/cmであるから、2.47cmとなる。換言すれば、WETは、装置1によって測定された深部線量分布から水中における(または患者における)深部線量分布を計算することを可能にする。従って、本発明の装置は、ターゲット容積中における4.55cmまでの線量分布の測定値を提供することができる。
【0037】
ハウジング20を、イオン性ガスが充填されている密封容器とするために、密閉してもよい。
【0038】
本発明では、ハドロン・ビームが装置10を横断する時、周縁領域60がビームの周縁部分を遮り、電離箱の積層体30によってハドロン・ビームに関する情報が提供される。到達距離を調節されたハドロン・ビームの線量は、それぞれの電離箱によって測定され、同時にデータ収集されて、図5に示すようなヒストグラムが得られる。一方、内側領域50は、ターゲットに送達されるビーム中央部分を自由に通過させる。それぞれの電離箱は、測定時間中に放射された線量を集計する。
【0039】
装置10を患者の直ぐ上流に配置することの利点は、装置10の周縁領域60がハドロン・ビームの1.5%〜15%を捕捉することができ、残りの部分が妨げられずに内側領域50を通過してターゲットに送達されることである。換言すると、例えば、70MeVまでのエネルギーを有する上記ハドロン・ビームの90〜900pAがこの装置を横断することになる。従って、電離箱内に1.5mmのエアギャップを有することにより、上記装置は、4.5nA〜45nAの電流を読取ることができる。
【0040】
データ収集電子システムもまた、設けられている。このデータ収集電子システムは、装置10が、128本のチャネルによって1ms〜10sの間に含まれる抽出率でハドロン・ビームを測定することを可能にする。具体的には、このデータ収集システムは、下記の機能を有する。
電流を数値に変換する機能、
圧力および温度を測定する機能、
イーサネット・プロトコルを介して制御システムとのデータ交換を制御する機能、
測定装置に高電圧電源を提供する機能。
【0041】
図2は、図1に示した装置の支持プレートを矢印Aの方向に見た図である。支持プレート80は直径40mmの開口81を有し、それぞれ重複測定を行う相同且つ別個の半環状の集電極82,83を含む。即ち、両集電極は、同じ深部線量分布を測定するとともに、それぞれの測定値を比較することによってビームの非対称または位置ずれに関する情報を提供する。集電極82,83は、間隔をあけて互いの端部が向い合う関係で同一平面に配置されて、2つのギャップ84を有する環状ディスクを形成しており、データ収集電子システムを挟んで接地されている。ギャップ84は、集電極82,83間の分離線を形成し、この分離線は、ハドロン・ビームの方向と直交している。ギャップ84は、支持プレート80に対し上下左右いずれの方向を向いていてもよい。集電極82,83は分離線と直交する方向で起こり得るハドロン・ビームのずれに関する情報を提供する。それぞれの集電極の内径は2.6cmであり、外径は4.6cmである。ギャップ84と、集電極の径方向外側領域85と、径方向内側領域86とは、励磁電流を規定領域だけに閉じ込め、電流信号が集電極82,83から横方向に広がることに起因するエラーを防止するのに好適な、銅製のガードリングを形成する。このガードリングは、絶縁材によって集電極から隔離されており、リーク電流を遮って、リーク電流が集電極を迂回して地中へ流れるようにする。
【0042】
図3は、図2の装置を矢印Aとは反対の方向に見た図である。支持プレート80は、上述した集電極と同様に、径方向外側領域89および径方向内側領域86と一緒にガードリングを形成する、縦方向に通るギャップ88を有する高圧電極87を含む。高圧電極87は、イオン化によって発生したイオンまたは電子を集電極に向かって移動させるのに充分な、300Vまでの高電圧を供給する電源に接続されている。高圧電極の内径は、2.6cmであるが、外径は、集電極の外径よりも大きく、約5.1cmである。
【0043】
上記支持プレート80が、矢印Aの方向から見える側に集電極82、83を有し、矢印Aとは反対の方向から見える側に高圧電極87を有する場合でも、当業者ならば容易にこの逆配置に対応できるはずである。装置10に、即ち、電離箱の積層体30に乾燥空気またはその他の気体を充填する態様もまた、明らかである。
【0044】
図4は、本発明の好ましい実施形態に従う装置10の分解立体図である。装置10は、以下を含む。
通過するハドロン・ビームと直交する35個の電離箱の積層体30。
密封フランジ2、密封窓3、入口フランジ4、ボルト70、ナット71、フレーム6、およびキャビティ8を有する出口フランジ7を含むアルミ製密封ハウジング20。密封ハウジング20は、電離箱の積層体30に電気的遮蔽および充分な感応電流の発生(faradization)を提供するとともに、気密支持手段としても機能する。
ハドロン・ビームの一部が妨げられずに通過できるように装置10の全長を貫通する40mmアルミ内部パイプ5。
【0045】
本発明では、上記放射線源からの入射ハドロン・ビームが横断する最初の支持プレートを、残りの支持プレートに対して90°だけ回転させる。このプレートを90°回転させることによって、集電極82,83の間の分離線と直交するハドロン・ビームのずれをチェックし、測定することができる。
【0046】
上記好ましい実施形態の1変更例として、内部パイプ5をアルミ・ホイルで被覆したプラスチックで形成することができる。この場合、アルミ・ホイルとハウジング20との間に電気的接触も得られる。
【0047】
上記好ましい実施形態の別の変更例では、内部パイプ5に代えて、総厚が80μmのアルミ・ホイルおよびアルミニウム被覆されたマイラー(mylar)を使用する。
【0048】
例えば、高圧電極および集電極の内外径、開口81の直径など、上述した装置寸法は、眼の癌の治療ための実時間測定に装置10を使用するのに好適な寸法である。但し、他の放射線治療用途に装置10を使用する場合に好適な寸法は、当業者は容易に想到可能である。
【0049】
本発明の1つ以上の実施形態の詳細を、添付の図面を参照して説明したが、添付の図面は簡略図であり、従って、限定的なものではなく、本発明は請求項によってのみ制限されることは、明らかである。図面では、図示の便宜上、いくつかの部分が、サイズを誇張されていて縮尺の通りに描かれていない場合がある。寸法および相対寸法は、本発明を実施する実際の縮尺と必ずしも一致しない。また、当業者は、本発明の範囲内に含まれる多様な変更および改変を認識可能である。従って、好ましい実施形態の説明は、本発明の範囲を制限するとみなされるべきではない。
【0050】
本発明の好ましい実施形態の説明は、特に眼科用途に関し、70MeVのエネルギーを有するハドロン・ビームが眼の癌の治療に充分有効であることは、周知である。但し、当業者には明らかなように、例えば、脳腫瘍、泌尿生殖器癌、消化管癌など、眼科以外の領域での使用に適応する他の実施形態を選択することは容易である。例えば、装置の電離箱の間に組織等価材(例えば、プラスチック製吸収材)を介在させること、またはWETを修正し、異なるエネルギー値(例えば、235MeV)のハドロン・ビームを使用するために電離箱の数を変更することは、容易に達成できる。
【0051】
以上の説明および請求項における用語「第1の」、「第2の」などは類似の要素を区別するために使用されたものであって、必ずしも逐次的または時間的順序を記述するために使用したものではない。従って、状況に応じて、これらの語を互に入れ替えることができ、本願明細書に図示および記述したのとは異なる順序で本発明の実施形態を実施することができる。
【0052】
また、明細書および請求項における用語「頂部」、「底部」、「上」、「下」などは、説明の便宜上使用したものであって、必ずしも相対位置を記述するのが目的ではない。状況に応じて、これらの語を互に入れ替えることができ、本願明細書に図示および記述したのとは異なる方向でも本発明の実施形態を実施することができる。例えば、ある要素の「下方に」および「上方に」はこの要素の両側に配置されていることを示す。
【0053】
尚、請求項における用語「含む」は、そのあとに列記されている要素またはステップに限定されると解釈されるべきではなく、その他の要素またはステップを除外するものではない。即ち、「手段AおよびBを含む装置」という表現は、手段AおよびBのみから成る装置に限定すべきではない。本発明に関する限り、AおよびBが装置の関連部品であることを意味するに過ぎない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線源から発生しそしてターゲットに送達されるハドロン・ビームの中心軸と直交して配置され、ガス充填されたギャップ(40)によって互に隔てられて並列されて、電離箱の集合体(30)を形成する、複数の支持プレート(80)を含み、前記複数の支持プレートのそれぞれが、第1の側に1つ以上の集電極(82,83)を、第2の側に1つ以上の高圧電極(87)を有し、前記複数の支持プレートのそれぞれの前記第1の側が、隣接する支持プレートの前記第2の側と対向している、前記ハドロン・ビームをオンラインで線量モニタリングするための装置(10)であって、
前記複数の支持プレートのそれぞれが、前記ターゲットに送達される前記ハドロン・ビームの中心部分が妨げられずに通過することを可能にする内部キャビティ(50)を形成する開口(81)と、前記電離箱の集合体によって前記ハドロン・ビームの周縁部分を遮り且つ測定するための周縁領域(60)とを有することを特徴とする、前記装置。
【請求項2】
前記支持プレート(80)のそれぞれが、前記1つ以上の集電極(82,83)と前記1つ以上の電圧電極(87)との間に、絶縁材を含むことを特徴とする、請求項1に記載の装置(10)。
【請求項3】
前記支持プレート(80)のそれぞれが、前記1つ以上の集電極(82,83)および前記1つ以上の電圧電極(87)における漏洩電流を減らすためのガードリング素子(84,85,86,88,89)を含むことを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の装置(10)。
【請求項4】
前記1つ以上の集電極(82,83)および前記1つ以上の電圧電極(87)が、銅製であることを特徴とする、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の装置(10)。
【請求項5】
前記支持プレート(80)が、標準的プリント回路基板技術を使用することによって得られることを特徴とする、請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の装置(10)。
【請求項6】
前記複数の支持プレート(80)のうち、少なくとも1枚の支持プレートを、残りの支持プレートに対して90°回転させることによって、前記ビームのセンタリングをチェックし且つ測定することを特徴とする、請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の装置(10)。
【請求項7】
前記ターゲットに向かって前記ハドロン・ビームが送達されると、前記ハドロン・ビームが最初に横切るのが、前記少なくとも1枚の支持プレート(80)であることを特徴とする、請求項6に記載の装置(10)。
【請求項8】
放射線源から発生し、ターゲットに送達されるハドロン・ビームの線量を検証する方法であって、
請求項1から請求項7までのいずれか1項に記載の装置(10)を、前記装置(10)の中心軸が前記ハドロン・ビームの中心軸と重なるように前記ターゲットと前記放射線源との間に設置するステップ、
前記ハドロン・ビームを前記ターゲットに送達するステップ、
前記装置の前記周縁領域(60)において、前記電離箱の集合体(30)により、前記装置を通過する前記ハドロン・ビームの前記周縁部分の線量分布測定結果を収集するステップ、
前記装置の前記内部キャビティ(50)を通過する前記ハドロン・ビームの前記中心部分の妨げられない通過を可能にするステップ
を含むことを特徴とする、前記方法。
【請求項9】
前記線量分布測定結果を予定の線量分布と比較することによって前記ハドロン・ビーム送達の精度を検証するステップ、
前記ハドロン・ビームの到達距離の変更および拡大ブラッグピーク(SOBP)一貫性を測定するステップ
を含むことを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
ハドロン・ビームのオンライン線量モニタリングを目的とする、請求項1から請求項7までのいずれか1項に記載の装置または請求項8もしくは請求項9に記載の方法の使用。

【図1】
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【図1a】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2010−523955(P2010−523955A)
【公表日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−501490(P2010−501490)
【出願日】平成20年3月29日(2008.3.29)
【国際出願番号】PCT/EP2008/053774
【国際公開番号】WO2008/119777
【国際公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.イーサネット
【出願人】(502017227)
【Fターム(参考)】