説明

ハナビラタケを含む食品

【課題】消費者心理的に安全と考えられる方法で、好ましい食感が得られるように改質された穀物の加工食品を提供する。
【解決手段】ハナビラタケ菌体を細断又は粉砕したものを穀物の粉に添加し、これに混錬処理を施して穀物の加工食品を得る。なお、ハナビラタケ菌体を細断又は粉砕したものに加熱加圧処理を施しても良い。また、穀物の粉としては、例えば小麦粉や米粉を選択しうる。さらに、このようにして得た穀物の加工食品を原料として、麺類やパスタ類、焼き菓子等を製造しても良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、穀物の粉を主要な原料として製造される穀物の加工食品に関するものであり、特に食用茸であるハナビラタケを含むことを特徴とするものである。
【背景技術】
【0002】
小麦や米、とうもろこしといった穀物類の粉を原料としたさまざまな穀物の加工食品が流通している。麺類や焼き菓子に代表される穀物の加工食品においては、その種類に応じて好ましい食感やのどごしを得るために、特定の種類の穀物の粉を選択したり、油脂を添加したりすることが行われている。
【0003】
例えばうどんや素麺に代表される麺類では、原料に使用される小麦粉に含まれるタンパク質(グルテン)がこしの強い良質の麺を得るために重要な役割を果たしており、原料である小麦粉にはグルテン含有量の多いものが選択される。特に、仕上がりが細い素麺では、グルテンの含有量が少ない小麦粉を原料とすると製麺工程で麺が切れてしまうといった事故を発生し易くなるため、一般にグルテン質含有量の少ない日本国産の小麦粉ではなく、オーストラリア産をはじめとする海外産のグルテン含有量の多い小麦粉が使用されることがほとんどである。
【0004】
しかし、近年では、食品への安全志向の高まりから、日本国産の食品を求める消費者も少なくない。このような社会情勢下、日本国産の小麦粉によって良質な麺類を製造することが困難であることは大きな問題であるといわざるを得ない。
【0005】
また、近年では、食品への安全指向と共に健康志向も強く、油脂分が少ない食品を求める消費者も少なくない。この意味で、クッキーに代表される焼き菓子においても、油脂分を少なくしたものが求められていると考えられる。
【0006】
しかし、クッキーに代表される焼き菓子類では、バター等の油脂を添加することで独特の軽い歯ざわりを得ており、油脂の添加量を減らして焼き菓子を製造すると、水分量の減少に伴って著しく硬い焼き上がりとなってしまい、焼き菓子に好ましい軽い歯ざわりは得られない。この為、油脂分の少ないローカロリーな焼き菓子が得られないという問題がある。
【0007】
前記のような問題は、多くの穀物の加工食品において共通的に存在するものであり、これを解決するためにしばしば増粘安定剤のような食品添加物が用いられる。増粘安定剤を添加することで、食品の粘性を高めたり、保水性を高めることが可能であり、これによってさまざまな穀物の加工食品の食感を所望の状態に改質することができるのである。しかしながら、すでに述べたように、近年では食品への安全志向の高まりにより、化学処理等の工程を経て得られた食品添加物への警戒心が一般消費者に広がっている。従って、食品添加物の危険性についての科学的根拠は必ずしも明らかではないものの、食品素材から消費者心理的に安全と考えられる範囲の加工処理のみによって好ましい状態に改質した食品が求められていると考えられる。
【0008】
そこで、従来より、食品素材を穀物の加工食品に添加することによって、食感の改質等を達成しようとするさまざまな試みが行われてきた。このような試みの中には、食品素材として茸類を利用するものが多数報告されている。この理由の一つとしては、茸類が食品として古くから利用されているものであり、しかもローカロリーで健康的な食材と看做されていることからくる安心感が挙げられる。また、このような消費者心理面のみならず、茸類はβグルカン、グリコーゲン、マンナンなどの多糖類や、二糖であるトレハロースを普遍的に含有しており、これらはいずれも増粘性やゲル化作用を期待できる物質であることから、茸類を添加することで増粘安定剤を添加した場合と類似の効果が得られると期待されることも理由であると考えられる。もっとも、茸類であれば等しく増粘安定剤としての効果が発現するわけではなく、適切な種類の茸の選択が好ましい改質を達成できるかどうかを大きく左右することは言うまでも無い。
【0009】
このような試みの一例として、特開平3−22954号公報(特許文献1)に開示された発明をあげることができる。これは、食用茸の細断末または粉砕末を、配合する食品の水分重量に対し4%以上配合することを特徴とする食品の改質方法に関するものであり、実質的に茸類を添加することによって改質された食品を得ようとする試みである。具体的には、アラゲキクラゲやクロアワビタケによって食品の改質が実現される旨の開示が成されている。
【0010】
また、特開平7−155116号公報(特許文献2)には、食用茸を微粉砕して食品用増粘剤を得られることが開示されており、やはり、実質的に茸類を添加することによって改質された食品を得ようとする試みである。具体的には、シロキクラゲ、ナメコ、ハナビラニカワタケを平均粒径50μm以下に微粉砕して得た水溶液を添加することで食品の改質が実現される旨の開示が成されている。
【0011】
上記のように茸類に機械的加工処理(細断や粉砕または微粉砕処理)のみを施したものを添加することによって改質した食品は、消費者心理的に安心感が高い点で優れている。しかし、本願研究者の研究によると、これらの食品の改質は必ずしも十分ではなく、化学処理等の工程を経た増粘安定剤と容易に置換できるものでは無い。また、必要な程度に食品を改質するために、平均粒径を50μm以下に微粉砕するといった処理が必要であり、これは比較的コストを要する処理であるため、得られる食品が高価なものになりやすいという問題点がある。
【0012】
また、食感や歯ざわりといった感覚的な要素は一律にどのようなものが好ましいというふうに捉えられるべきものではなく、本質的に好ましい状態は食品の種類によって異なるものである。従って、仮にすべての食品に適しているわけではないとしても、特定の食品には特に適した改質方法が存在する可能性は十分に期待できるものある。
【0013】
そこで、本願発明の発明者は、より高い改質作用が得られる茸の選定を行うとともに、これによって好ましい改質を達成できる食品についての鋭意研究を行い、本発明を完成するに至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平3−22954号公報
【特許文献2】特開平7−155116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上記説明したとおり、本発明が解決しようとする課題は、特定の種類の茸を添加することで好ましい状態に改質された食品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
(1)以上に説明した課題を解決するため、本発明においては、
穀物の粉に対して、
ハナビラタケ菌体を細断又は粉砕したものを添加した後に、
混錬処理を施して得たこと
を特徴とする、穀物の加工食品としている。
【0017】
上記先行技術文献にも開示されている通り、茸類にはさまざま多糖類が含まれ、粉砕処理を行うことで増粘性を発現する種が存在している。特に、キクラゲ科に属するもの(アラゲキクラゲ等)やシロキクラゲ科に属するもの(シロキクラゲやハナビラニカワタケ等)、モエギタケ科に属するもの(ナメコ等)には増粘性を発現する種が多く、これらより食品の改質に利用し得る高い増粘性を得られる種を発見しようとする努力がなされてきていた。しかし、本願発明の発明者は、これらとは全く異なるハナビラタケ科の茸であるハナビラタケを粉砕することでできわめて高い増粘性を得られることを見出した。
【0018】
ハナビラタケは1科1属の特異な茸であるため、同じ科や属に属する他の茸の例から増粘安定剤としての利用可能性を類推することは非常に困難である。本願発明の発明者は、茸類の発現する増粘性の理由を、茸類が含有する多糖類の作用であると考え、過去の調査例にこだわらない調査を行った。下記表1は、さまざまな茸について、ガスクロマトグラフィーにより多糖類の一種であるβグルカンの定量分析を実施した結果である。
【0019】
【表1】

【0020】
分析結果から、ハナビラタケには、他の種の茸類と比較して特異的に多くの割合のβグルカンが含まれることが明らかであり、多くの多糖類を含むことからこれらが増粘安定剤として作用することが期待される。果たして、ハナビラタケは粉砕処理を行うことで特異的に高い増粘性を示し、これを添加することで多くの食品が良好に改質されることを見出した。予想通り、βグルカンに代表される豊富な多糖類によって高い増粘性が発現し、これによる食品の改質がなされているものと想像される。
【0021】
ところで、実はハナビラタケを細断又は粉砕して食品に添加したのみでは、食品はある程度改質されるもののその効果は必ずしも十分とは言えない。例えば、ハナビラタケを平均粒径200μmに粉砕すると、ある程度の増粘性は認められ、他の種類の茸の例よりはかなり良好ではあるものの、これではなお増粘安定剤としての作用は不十分である。ところが、これを平均粒径50μmに微粉砕すると増粘性は大きく改善し、加えてゲル化作用も発現することを見出した。例えば、平均粒径200μmに粉砕したハナビラタケに1.5倍重量の水を加えた溶液では、0.9Pa・sの粘度が得られるものの、ゲル化作用は認められなかったのであるが、ほぼ同様の条件でこれを50μmまで粉砕すると1.2Pa・sもの粘度が得られ、しかもゲル化作用が発現するという現象を確認している。
【0022】
しかし、本願発明の発明者は微粉砕処理のようなコストのかかる処理を行って食品の改質を行ったのでは当然に得られる食品のコスト増を招来してしまうために好ましくないと考え、微粉砕処理に頼らない食品の改質方法を鋭意追求した。この結果、細断又は粉砕したハナビラタケを、穀物の粉に添加して混錬した場合に、好ましい状態に改質された食品が得られることを見出した。これは、ハナビラタケが穀物の粉と共に混錬される際に、細胞壁等が破壊されて多くの多糖類等が遊離し、これが増粘安定剤としての作用を奏するためと考えられる。
【0023】
また、穀物の加工食品の製造工程では多くの場合、穀物の粉に水を加えて混錬する工程を含むのであるから、実質的には多くの穀物の加工食品においては原料となる穀物の粉にハナビラタケを細断又は粉砕したものを添加するのみで、その後は通常の製造工程を利用して改質された食品を得られることになる。これは、品質と共にコストが低いことが強く求められる穀物の加工食品にとって極めて好ましい特徴である。
【0024】
ところで、穀物の加工食品を好ましく改質することが可能であることが判明したハナビラタケは、偶然にも茸類の中でも上品な芳香を有する茸であり、欧州等では高級食材として取引されるほどである。当然にこれを添加して得た穀物の加工食品は、芳香等に茸類特有のクセも少なく、さまざまな食品への適用に好適であるという利点もある。
【0025】
本発明にかかる穀物の加工食品の特徴は、ハナビラタケ菌体を細断又は粉砕したものが増粘安定剤的な役割を果たすことによって発現する。従って、穀物の加工食品の保水性や粘度が高まり、穀物の加工食品が製造途中に乾燥して割れる・折れるといった事故の発生が抑制されるとともに、製造後に短期間に乾燥して硬化してしまうことが防止されるといった効果がある。また、比較的水分量の少ない穀物の加工食品では、特有の歯ごたえやしっとりした食感が感じられるものとなり、比較的水分量の多い穀物の加工食品では、柔らかいにもかかわらずモチモチとした食感が感じられるものとなる。このような食感は、増粘多糖類によって改質した穀物の加工食品といっても、使用する増粘多糖類の種類によってさまざまなものが得られるのであるが、本発明にかかる穀物の加工食品では、ハナビラタケ菌体を細断又は粉砕したものを使用することで、従来知られた増粘多糖類とは異なる新しい食感が得られている。
【0026】
(2)本発明においては、
前記ハナビラタケ菌体を細断又は粉砕したものは、前記穀物の粉に対して0.5重量%乃至6重量%添加されること
を特徴とする、(1)に記載の、穀物の加工食品としている。
【0027】
本発明にかかる穀物の加工食品では、ハナビラタケ菌体の添加量は好ましい状態に食品が改質される量を選択すればよい。しかし、あまりにハナビラタケ菌体を細断又は粉砕したものの添加量が少ないと食品の改質効果はほとんど発現しないし、逆にあまりに添加量が多いと穀物の加工食品の元来の風味や食感を損なう結果になるおそれがある。例えば、強力な増粘効果よって、歯ごたえが強くなりすぎる(硬いとは異なる印象である)ことは顕在化しやすい問題である。さらに、ハナビラタケは穀物の粉と比較すると比較的高価な食材であるため、これを食品に不必要に大量に添加することはコストの上昇を招く意味でも好ましく無い。適切な添加量は、食品の種類によって異なるものの、穀物の粉に対して0.5重量%乃至6重量%となるように選択すると好ましい状態に改質された穀物の加工食品が得られる。
【0028】
なお、現実には、ハナビラタケ菌体を粉砕したものに対して、例えば、約1.5倍の重量の水を加えた状態とする。こうすると液状であるから、計量が容易であるといった利点があるが、この状態であれば、穀物の粉に対して、1.25重量%乃至15重量%の範囲で添加する、ということになる。
【0029】
(3)本発明においては、
前記ハナビラタケ菌体を細断又は粉砕したものは、前記穀物の粉に対して1.5重量%乃至4重量%添加されること
を特徴とする、(1)に記載の、穀物の加工食品としている。
【0030】
すでに、ハナビラタケ菌体を細断又は粉砕したものを、穀物の粉に対して一定割合添加することが好ましいことを説明したが、より確実に穀物の加工食品を改質しつつ、不必要に多くのハナビラタケ菌体を細断又は粉砕したものを添加しない割合として、穀物の粉に対して1.5重量%乃至4重量%とすることが特に好ましい。本発明にかかる穀物の加工食品は、ハナビラタケ菌体を細断又は粉砕したものの添加量を増やすにつれ、徐々に顕著に改質されたものとなり、やがて変化が少なくなっていくのであるが、多くの食品において、良好に改質されつつ、不必要に多くの量の添加にはならないという添加量が、穀物の量に対して前記割合である。例えば麺類の場合であれば、製造中に麺が切れてしまうという事故が発生しなくなるという改質段階と、さらに進んで喉越しが良い良好な食感の麺が得られるという改質段階があり、本項記載の添加割合を選択することでこれら両方を必要十分に達成することが出来る。
【0031】
なお、先と同様、ハナビラタケ菌体を粉砕したものに対して、約1.5倍の重量の水を加えた状態のものあれば、穀物の粉に対して、3.75重量%乃至10重量%の範囲で添加する、ということになる。
【0032】
(4)本発明においては、
前記ハナビラタケ菌体には、ハナビラタケの子実体を含むこと
を特徴とする、(1)乃至(3)のいずれか一に記載の穀物の加工食品としている。
【0033】
子実体は、茸類を構成する各部のうち、胞子形成のために作られる特定構造に過ぎず、改質された穀物の加工食品を得る目的のようにその形状を問わないのであれば、本来はその原料を子実体に限る理由は無い。しかし、通常茸と呼ばれて食用に供せられるのは子実体であり、これをそのまま利用として穀物の加工食品の改質を達成することが消費者心理的に最も安心感が高いと想像される。また、ハナビラタケ子実体を食用とするために人工栽培が行われているが、栽培された株によっては外観上の理由等で食用として流通させることが好ましくないものも一部発生するため、これを利用して改質された穀物の加工食品を得ることは経済的な理由においても好ましいことである。
【0034】
(5)本発明においては、
前記ハナビラタケ菌体には、ハナビラタケの菌核を含むこと
を特徴とする、(1)乃至(3)のいずれか一に記載の穀物の加工食品としている。
【0035】
ハナビラタケからきわめて良質の増粘安定剤が得られることはすでに説明したとおりであるが、一方でハナビラタケは、人工栽培が行われているとは言うものの、成長が遅い茸であるために、製造コストが高くつきやすいという問題がある。また、ハナビラタケの子実体は、薄く花びら状に波打った形状であり、非常に表面積が大きいことから雑菌が付着し易いといった難しさがある。
【0036】
他方、菌核は、菌糸の集合体であり、ハナビラタケの場合には後に子実体を形成する起点となる組織であるので、子実体の場合と同様に菌核を利用して改質された穀物の加工食品を得ることができる。また、ハナビラタケの子実体は、薄く花びら状に波打った形状であり、非常に表面積が大きいことから雑菌が付着し易いといった難しさがある一方、ハナビラタケの菌核は特開2009−50192号公報に開示されている通り、表面積が小さい塊状であるのみならず、栽培時に子実体を発生させる工程を経ずに収穫できることなどから雑菌の付着可能性もきわめて低くすることが可能であるなど、大量生産に適した性質を備えている。
【0037】
さらに、同公報に開示されている通り、ハナビラタケ菌核は、ハナビラタケ子実体とほぼ同等の多糖類を含んでおり、これを用いて得られた穀物の加工食品は子実体の場合とほぼ同品質のものが得られる。
【0038】
また、前記の通り、ハナビラタケ菌核は塊状であり、ハナビラタケ特有の薄く花びら状に波打った美しい外観は備えていないものの、改質された穀物の加工食品の原料としての利用であれば、これはなんら問題とならない。そこで、ハナビラタケ菌核を原材料として含む穀物の加工食品とすることで、より低コストで、より安全に大量生産が可能になるという効果が得られる。
【0039】
(6)本発明においては、
前記ハナビラタケ菌体を細断又は粉砕したものに対して加熱加圧処理を施した後に、
前記混錬処理を施すこと
を特徴とする、(1)乃至(5)のいずれか一に記載の穀物の加工食品としている。
【0040】
すでに説明したとおり、ハナビラタケ菌体を細断又は粉砕したものを穀物の粉に添加して混錬処理を行うことで、改質された穀物の加工食品が得られるのであるが、本願発明の発明者はさらに、ハナビラタケ菌体を細断又は粉砕したものを加熱加圧処理することによって、より好ましい改質効果が得られることを見出した。つまり、より少ない量のハナビラタケ菌体を細断又は粉砕したものを添加することで、より多くの量の添加をした場合と同等の結果を得られるというものであり、これによって多くのハナビラタケ菌体を添加することで穀物の加工食品本来の食感や風味が損なわれるおそれが少なくなるほか、比較的高価な食用茸であるハナビラタケの使用量が低減することで穀物の加工食品のコストを低く抑えることが出来るという効果が得られる。
【0041】
なお、ここでいう加熱加圧処理とは、一般的にオートクレーブ処理として知られた処理で十分である。すなわち、水の存在下で121℃にて30分程度(このときの圧力はゲージ圧で約150kPa程度)維持すれば良い。このような処理を行うことで、なぜ穀物の加工食品のより好ましい改質が達成されるかは必ずしも明らかではない。しかし、加熱加圧処理によってハナビラタケ菌体の一部の細胞壁が破壊されて多糖類が遊離するほか、細胞壁が高温・高圧によって柔らかくなり、穀物の粉との混錬処理時に容易に破壊されてやはり多くの多糖類が遊離し、これらが一種の増粘安定剤として働いて結果として穀物の加工食品の改質が達成されるものと想像される。
【0042】
(7)本発明においては、
前記穀物の粉は、小麦粉であること
を特徴とする、(1)乃至(6)のいずれか一に記載の穀物の加工食品としている。
【0043】
小麦粉は、グルテン含有量の多いものや少ないもの等、さまざまな性質のものが流通しているが、小麦粉を利用した穀物の加工食品には、小麦粉に含まれるグルテンがきわめて重要な役割を果たすものが多い。グルテンの働きで小麦粉を水と共に混錬した際に組織化が進み、例えばこれによって麺類を製造するとこしのある良質の麺が得られる。ところが、日本国産の小麦粉は通常グルテン含有量が少なく、良質の麺の製造が困難であることはすでに説明したとおりである。
【0044】
本発明によれば、グルテン含有量の少ない小麦粉を使用しても、高品質の穀物の加工食品が得られる。なお、グルテン含有量の少ない小麦粉を使用した際に得られる本発明にかかる穀物の加工食品は、単純にグルテン含有量の多い小麦粉を使用した穀物の加工食品に類似のものが得られるのではなく、特有の歯ごたえやしっとり感を備えた、従来に例の無い良好な食感のものが得られるのであり、これを指して高品質の穀物の加工食品と呼んでいる。なお、グルテン含有量が少ない小麦粉とは、概ね7%以下程度のグルテン含有量の小麦粉を指している。
【0045】
ところで、グルテン含有量の多い小麦粉を使用して本発明にかかる穀物の加工食品を製造しても、滑らかでしっとり感を備えた優れたものとなる。
【0046】
このように、本発明は、穀物の粉を小麦粉とすると非常に顕著な効果が得られるものである。
【0047】
(8)本発明においては、
前記穀物の粉は、米粉であること
を特徴とする、(1)乃至(6)のいずれか一に記載の穀物の加工食品としている。
【0048】
小麦粉と並んで、米粉からも麺類や和菓子をはじめとする多くの穀物の加工食品が作られている。これらについても、小麦粉の場合と同様に改質によって優れた食感を付与することでより付加価値の高い穀物の加工食品とすることが出来る。実際、米粉のみからでは良質の穀物の加工食品を得ることが困難なために、例えば米粉麺ではしばしばタピオカ澱粉や馬鈴薯澱粉を添加して製造されるが、必ずしも良好な食感が得られるものではない。本発明によれば、特有の歯ごたえやしっとり感を備えた、良好な食感の穀物の加工食品が得られる。
【0049】
このように、本発明は、穀物の粉を米粉としても顕著な効果が得られるものである。
【0050】
(9)本発明においては、
請求項1乃至請求項8のいずれか一に記載の穀物の加工食品であること
を特徴とする、麺類及びパスタ類としている。
【0051】
麺類及びパスタ類には、さまざまな形状のものがあり、中には非常に細長いものも製造されている。これらでは、しばしば製造途中で切れたり折れたりしてしまうといった事故が発生し、時に製造者の経営を圧迫する一要因となっている。特に、気温が高く乾燥しやすい夏場においては製麺を実施できない場合があるほどである。これは、麺類及びパスタ類の原材料の穀物の粉として、グルテン含有量の少ない小麦粉を使用した際に特に顕著であるが、必ずしもこれに限られるものではない。しかし、本発明にかかる穀物の加工食品である、改質された麺類及びパスタ類では、このような事故はほぼ撲滅される。
【0052】
また、製造途中での事故の発生を防止できるのみならず、本発明にかかる麺類及びパスタ類では、柔軟でモチモチとした好ましい食感を備えたものとなることが判明している。このように、本発明にかかる麺類及びパスタ類は優れた特徴を有するものである。
【0053】
ところで、このような効果は、ハナビラタケを細断又は粉砕したものの配合割合が高ければより顕著であることは当然であるが、原材料である穀物の粉に対して1.5重量%乃至4重量%を添加するとその効果は明瞭に認められ、特に製造時の問題に大きな効果がある。さらに、好ましくは原材料である小麦粉の重量に対して約2重量%を配合するとその効果はさらに顕著であり、大いに食感の改善した麺類又はパスタ類が得られる。
【0054】
ところで、先にも述べたとおり、現実には、ハナビラタケ菌体を粉砕したものに対して、例えば、約1.5倍の重量の水を加えた状態とすると便利であるが、この状態であれば、穀物の粉に対して、3.75重量%乃至10重量%の範囲で添加すると効果が明瞭に認められ、好ましくは約5重量%を配合するとよい、ということになる。
【0055】
さらに、穀物の粉が小麦粉である場合には、特にグルテンの含有量の少ない小麦粉が使用されることが好ましい。グルテン含有量が11重量%程度と比較的多い小麦粉を使用しても、のど越しの良いすぐれた麺類及びパスタ類が得られる。しかし、グルテン含有量の多い小麦粉を使用した際は、製造途中での事故は比較的発生しにくい。次に、グルテン含有量が7重量%以下程度と比較的少ない小麦粉では、顕著に柔軟でモチモチとした好ましい食感を備えたものとなるとともに、製造途中での事故が抑制される。さらに、グルテン含有量が5重量%以下程度の小麦粉ではこれらの効果はさらに顕著となる。このように、グルテン含有量が少ない小麦粉を使用した麺類及びパスタ類とすることで、本発明に特徴的な顕著な効果が得られる。
【0056】
(10)本発明においては、
(1)乃至(8)のいずれか一に記載の穀物の加工食品であること
を特徴とする、焼き菓子としている。
【0057】
クッキー類に代表される焼き菓子類は、バター等の油脂類を添加することで特有の軽い歯ざわりが得られるが、油脂類の添加量を少なくすると硬すぎる焼き上がりとなって食感に問題を生じる。しかし、本願発明に係る焼き菓子では、油脂類の添加量を少なくしても硬い焼き上がりとなることなく、特有の柔軟性を有する新しい食感が得られることが判明した。近年では、食品への健康志向も強く、油脂分の少ないローカロリーな焼き菓子を求める消費者は多いと予想され、油脂類の添加量が少ないにも関わらず硬い焼き上がりとならない本発明は、価値が高いものである。
【0058】
また、この場合に限らず一般に焼き菓子類は時間経過と共に水分が失われて硬化が進行し、これは油脂類が少ない場合に特に顕著である。ところが、本発明にかかる焼き菓子類では、製造後3日を経過しても硬化が進行しないことが分かっている。下表2は製造後の焼き菓子の硬度を測定したものである。
【表2】

【0059】
上記の効果は、保水効果が付与されると共に、デンプンの劣化が抑制されることによるものだと考えられるが、このように、本発明にかかる焼き菓子類は、保存性の観点でも優れた特徴を有するものである。
【0060】
(11)本発明においては、
(1)乃至(8)のいずれか一に記載の穀物の加工食品であること
を特徴とする、シート状食品としている。
【0061】
ここにシート状食品とは、餃子の皮やシュウマイの皮に代表される点心の皮を指しており、典型的には小麦粉や米粉を主原料として製造されるものである。すでに説明したとおり、本発明にかかる穀物の加工食品では、特有の歯ごたえやしっとり感を備えた従来に例の無い良好な食感が得られるのであるが、この特徴はシート状食品において極めて好ましいものである。
【0062】
(12)本発明においては、
(1)乃至(8)のいずれか一に記載の穀物の加工食品であること
を特徴とする、鉄板焼き食品としている。
【0063】
本発明にかかる穀物の加工食品である鉄板焼き食品とは、お好み焼きやたこ焼きのような食品を指している。これら鉄板焼き食品においても、本発明にかかる穀物の加工食品の特徴である特有の柔らかいにもかかわらずもちもちとした食感は極めて好ましいものである。
【発明の効果】
【0064】
(1)以上説明したとおり、本発明に係る穀物の加工食品においては、穀物の粉に対して食用茸であるハナビラタケ菌体を細断又は粉砕したものを添加して混錬処理を施したものであるので、消費者心理的に安心感が高く、広い範囲の需要者に受け入れられる食品改質材料を提供できるという効果が得られる。また、ハナビラタケが原材料であることから、芳香等に茸類特有のクセも少なく、さまざまな食品への適用に好適であるという効果もある。
【0065】
さらに、本発明にかかる穀物の加工食品の製造工程は実質的に穀物の粉にハナビラタケの細断又は粉砕したものを添加さえすれば従来の製造工程をそのまま使用して製造することが可能であり、製造に必要となる専用設備が極めて少なく、従って安価に提供可能であることも、本発明に係る穀物の加工食品の優位点である。
【0066】
(2)ハナビラタケ菌体を細断又は粉砕したものを、穀物の粉に対して0.5重量%乃至6重量%添加したので、必要十分に改質されつつ、穀物の加工食品の元来の風味や食感を損なうことの無い、好ましい状態に改質された穀物の加工食品が得られるという効果がある。
【0067】
(3)ハナビラタケ菌体を細断又は粉砕したものを、穀物の粉に対して1.5重量%乃至4重量%添加したので、より確実に改質され、穀物の加工食品の製造時の歩留まり改善や、のど越し等の食感の改善が達成された、より優れた穀物の加工食品が得られるという効果がある。
【0068】
(4)ハナビラタケ菌体のうち、その子実体を原料として含むこととしたが、子実体は通常食用に供せられている部分であり、これを細断又は粉砕したものを使用した穀物の加工食品は、消費者心理的にますます安心感を与えることが出来るほか、食用に栽培されるハナビラタケの外観不良品等を利用して改質された穀物の加工食品が得られるなど、製造コストを低減する効果も得られる。
【0069】
(5)ハナビラタケ菌体のうち、その子実体を菌核として含むこととしたが、菌核は雑菌の付着する可能性が極めて低く、かつ子実体よりも栽培時の工程が少なくてすむと言った特徴があり、より安価に大量に改質された穀物の加工食品を提供できる効果が得られる。
【0070】
(6)ハナビラタケ菌体を細断又は粉砕したものに加熱加圧処理を施したので、より少ないハナビラタケ菌体を細断又は粉砕したものの添加によって必要な改質を達成した穀物の加工食品が得られ、より安価に大量に改質された穀物の加工食品を提供できる効果が得られる。また、多くのハナビラタケ菌体を添加することで穀物の加工食品本来の食感や風味が損なわれるおそれが少なくなるという効果も得られる。
【0071】
(7)穀物の粉は小麦粉としたので、好ましく改質された、小麦粉を原料に製造されるさまざまな穀物の加工食品が得られる。特に日本国産のようにのグルテンの含有量の少ない小麦を原料としても、製造途中の事故によって歩留まりが低下してしまうことなく、また、近年の食品の安全志向から日本国産の食品を求める消費者の要求に応えることも可能となる。
【0072】
(8)穀物の粉は米粉としたので、好ましく改質された米粉を原料に製造されるさまざまな穀物の加工食品が得られる。その効果は(7)の場合と同様のものが得られる。
【0073】
(9)穀物の粉に対して食用茸であるハナビラタケ菌体を細断又は粉砕したものを添加して混錬処理を施すなどして得た麺類及びパスタ類としたので、細く長い麺類及びパスタ類であっても製造途中で切れてしまうといった事故を発生することが抑制され、これら製造時の歩留まりを改善することが出来る。これにより、より安価に麺類やパスタ類を提供できるようになるという効果が得られる。
【0074】
また、のど越しの良いすぐれた麺類やパスタ類を提供できるという効果も得られる。特に、穀物の粉として通常麺類やパスタ類の製造には適さないグルテンの含有量の少ない小麦粉によってこれらが製造可能となるほか、このときには柔軟でモチモチとした食感を備える今までに無い麺類やパスタ類を提供可能であるという顕著な効果がある。
【0075】
(10)穀物の粉に対して食用茸であるハナビラタケ菌体を細断又は粉砕したものを添加して混錬処理を施すなどして得た焼き菓子類としたので、焼き菓子類に添加する油脂を減らしても焼き上がりが硬くなることなく、ローカロリーな焼き菓子とすることができ、近年の健康志向から、油脂分が少ない食品を求める消費者の要求に応えることが可能となる。
【0076】
また、焼き上がり後時間が経過しても硬化が進行し難い、長期間にわたって好ましい食感が持続する焼き菓子が得られるという効果もある。
【0077】
(11)穀物の粉に対して食用茸であるハナビラタケ菌体を細断又は粉砕したものを添加して混錬処理を施すなどして得たシート状食品としたので、特有の歯ごたえやしっとり感を備えた良好な食感のシート状食品が得られる。これにより、シート状食品を利用して製造される食品群、例えば餃子やシュウマイといった点心等を提供することが可能になるという効果がある。
【0078】
(12)穀物の粉に対して食用茸であるハナビラタケ菌体を細断又は粉砕したものを添加して混錬処理を施すなどして得た鉄板焼き食品としたので、特有の柔らかいにも関わらずモチモチとした食感の鉄板焼き食品が得られる。例えば、これまでに無い良好な食感のお好み焼きやたこ焼き等を提供できるようになるという効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0079】
以下、本願発明の実施形態について、具体的な実施例を下に説明する。
【実施例1】
【0080】
ハナビラタケ子実体100gに対し、150mlの水を加えて、平均粒子径が200μm程度となるように粉砕した後に、121℃で30分間オートクレーブ処理を行った試料を得た(試料1)。また、比較のため、ハナビラタケ子実体に代えてシイタケ子実体、ブナシメジ子実体、キクラゲ子実体を用いて同様の試料を調整した(それぞれ、試料2、試料3、試料4)。さらに、増粘安定剤として広く利用されているグアーガムで同様の試料を調整した(試料5)。
【0081】
以上で得た試料1乃至試料5を、グルテン含有量がそれぞれ5重量%、7重量%、11重量%の小麦粉に対して5重量%添加し、通常の手法によって素麺を作成した。なお、素麺の製造過程に小麦粉とハナビラタケ子実体を粉砕したものの混錬工程が含まれることは言うまでも無い。さて、グルテン含有量の少ない小麦粉で素麺を製造すると、製造途中で切れてしまうという問題があるが、下表3はこのようにして製造した素麺の歩留まりを示したものである。
【0082】
【表3】

【0083】
上表から明らかなように、ハナビラタケ子実体を粉砕したものを小麦粉に添加して製造した本発明にかかる素麺では他の種類の茸の場合と比較して良好な歩留まりを実現しており、グルテン含有量の少ない日本国産の小麦粉によっても、素麺の製造が可能になることが判明した。さらに、このようにして作られた素麺の食感について、その特徴を定性的に説明したものが下表4である。
【0084】
【表4】

【0085】
上表から定性的ながら読み取れる事実として、グルテン含有量の多い小麦粉によって本発明にかかる穀物の加工食品を製造した場合、のど越しの良い高品質の麺が得られるが、グルテン含有量の少ない小麦粉によって本発明にかかる穀物の加工食品を製造した場合は、今までに無い良好な食感(柔軟でモチモチとした食感)をも備える好ましいものとなることが分かる。
【0086】
広く知られるとおり、日本国産の小麦はグルテンの含有量が少なく、良質な麺類の原材料として適しているものでは無い。しかし、本願発明によれば、国産の小麦を原材料とした高品質の麺類を提供できることが明らかになった。
【0087】
同様にパスタ類や中華麺、うどんでも同様の効果が得られ、小麦粉を使用する麺類の食感を改善する効果があることが判明した。さらに、米粉を用いた麺類についても同様であることは言うまでも無い。
【0088】
なお、この実施例ではハナビラタケ子実体を原料としているが、ハナビラタケの菌核も実質的にハナビラタケ子実体とほぼ同成分であり、同等の結果が得られる。ハナビラタケ菌核はハナビラタケ子実体よりも栽培工程が単純で安価に生産できるほか、塊状で表面積も少なく、子実体発生工程を要しないことから雑菌の付着もほとんど発生しないなどの利点があり、これを原料とすることでより安価大量に増粘安定剤を提供可能となる利点がある。
【実施例2】
【0089】
本発明に係る麺類は、優れた性質を備えることを上記実施例にて説明したが、別の例でさらに好ましい発明の態様について説明を補足する。
【0090】
乾燥パスタと異なり、生パスタは特有の弾力を有することが特徴であり、人気のある食物であるが、一方で乾燥パスタと比較すると噛み切った際にベタつき感を感じることがあり、これを苦手とする消費者が存在することも事実である。この欠点を、本発明で解決できることが判明しているのである。
【0091】
小麦粉に対して、実施例1で得た試料1を添加して、リングイネ(断面が楕円形のパスタの一種)を作成した。試料1の小麦粉に対する添加割合は、ハナビラタケ重量換算で、0%(比較対照用)、2%、5%、10%、15%、20%とした。従って、試料1の重量換算では、それぞれ、0%、5%、12.5%、25%、37.5%、50%となる。なお、生パスタの製造過程で、小麦粉とハナビラタケ子実体を粉砕したものの混錬工程が含まれることは言うまでも無い。
【0092】
次に、作成したリングイネについて、8名による官能検査を実施した。作成したリングイネの定性的性質及び、官能検査で最もおいしいと評価した者の人数を整理した結果を、下表4に示す。
【0093】
【表4】

【0094】
上表から明らかなように、本発明に係る生パスタでは、ハナビラタケ粉砕物を適量添加することにより、生パスタ特有の弾力を保持しつつ、欠点である、噛み切る際のべたつき感を抑える効果があり、非常に優れた生パスタを提供することが可能である。
【0095】
なお、同じく、上表から明らかなように、ハナビラタケ重量換算で、ハナビラタケ粉砕物の小麦粉に対する添加割合は、5重量%程度が好まれ、少なすぎても多すぎても好ましくない。この例に限らず、具体的な添加割合の最適値は、小麦粉や食品の種類によっても前後するが、最適な割合が存在することはすでに説明したとおりである。
【実施例3】
【0096】
クッキーを作る際に添加するバター等の油脂類を減量し、これに変えて実施例1で得た試料1を添加し、常法によってクッキーを作成した。なお、クッキーの製造過程に小麦粉とハナビラタケ子実体を粉砕したものの混錬工程が含まれることは言うまでも無い。
【0097】
クッキー類の特有の軽い歯ざわりには、これに含まれる油脂類が大きな働きをしており、油脂類を減量して作成すると、非常に硬い焼き上がりとなって食感に深刻な問題を生じてしまう。ところが、上記のようにして得たクッキーは、硬い焼き上がりとなることなく、独特の柔軟性を備える新しい食感のものが得られた。
【0098】
クッキーに限らず、焼き菓子類では、製造後の時間経過と共に水分が失われて硬化が進行し、特に油脂分の少ない焼き菓子ではこれが顕著である。ところが、本発明にかかるクッキーは、製造後時間を経過してもほとんど硬化しないという顕著な特徴を有することも分かった。この様子は、すでに示した表2から明らかであり、製造後のクッキーの硬度が3日を経過してもほとんど変化しないことが読み取れる。
【0099】
この顕著な効果には、本発明にかかる穀物の加工食品に添加するハナビラタケ菌体を細断又は粉砕したものの保水作用が大きく関与していると考えられる。下記表3には、ハナビラタケ菌体を細断又は粉砕したものの保水作用を調査した結果を示している。調査は、上記試料1乃至試料4をろ紙に添加後、25℃・湿度50%にてインキュベートし、下記の計算式によって算出した。
【0100】
【数1】

【0101】
【表5】

【0102】
上表5から、ハナビラタケ菌体を細断又は粉砕したものはキクラゲと共に高い保水作用を有していることが明らかである。
【0103】
近年、油脂の含有量の少ない、ローカロリーな食品を求める消費者は少なくないが、本願発明によれば、硬すぎる等の不都合の無いクッキー等の焼き菓子を提供できることが明らかになった。
【実施例4】
【0104】
実施例1で得た試料1を小麦粉に対して5重量%添加し、常法によってお好み焼きを作成した。なお、お好み焼きの製造過程に小麦粉とハナビラタケ子実体を粉砕したものの混錬工程が含まれることは言うまでも無い。
【0105】
このようにして得たお好み焼きは、通常のものに比べて柔らかいにもかかわらずモチモチとした食感を有するものであり、好ましい食感のお好み焼きが得られることが明らかになった。これと同様に、たこ焼き等、鉄板焼き食品で同様の効果が得られることが分かっている。
【実施例5】
【0106】
実施例1で得た試料1を小麦粉に対して5重量%添加し、常法によって餃子の皮を作成した。なお、餃子の皮の製造過程に小麦粉とハナビラタケ子実体を粉砕したものの混錬工程が含まれることは言うまでも無い。
【0107】
このようにして得た餃子の皮は、通常のものに比べて柔らかいにもかかわらずモチモチとした食感を有するものであり、好ましい食感の餃子の皮が得られることが明らかになった。これと同様に、シュウマイのような点心の皮などのシート状食品で、同様の効果が得られることが分かっている。
【産業上の利用可能性】
【0108】
以上のように、本発明は特定の種類の茸を添加することで好ましい状態に改質された食品を提供可能とするものであり、消費者心理的に安心感のある食品を提供可能とする、産業上の価値の高いものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
穀物の粉に対して、
ハナビラタケ菌体を細断又は粉砕したものを添加した後に、
混錬処理を施して得たこと
を特徴とする、穀物の加工食品。
【請求項2】
前記ハナビラタケ菌体を細断又は粉砕したものは、前記穀物の粉に対して0.5重量%乃至6重量%添加されること
を特徴とする、請求項1に記載の、穀物の加工食品。
【請求項3】
前記ハナビラタケ菌体を細断又は粉砕したものは、前記穀物の粉に対して1.5重量%乃至4重量%添加されること
を特徴とする、請求項1に記載の、穀物の加工食品。
【請求項4】
前記ハナビラタケ菌体には、ハナビラタケの子実体を含むこと
を特徴とする、請求項1乃至請求項3のいずれか一の請求項に記載の穀物の加工食品。
【請求項5】
前記ハナビラタケ菌体には、ハナビラタケの菌核を含むこと
を特徴とする、請求項1乃至請求項3のいずれか一の請求項に記載の穀物の加工食品。
【請求項6】
前記ハナビラタケ菌体を細断又は粉砕したものに対して加熱加圧処理を施した後に、
前記混錬処理を施すこと
を特徴とする、請求項1乃至請求項5のいずれか一の請求項に記載の穀物の加工食品。
【請求項7】
前記穀物の粉は、小麦粉であること
を特徴とする、請求項1乃至請求項6のいずれか一の請求項に記載の穀物の加工食品。
【請求項8】
前記穀物の粉は、米粉であること
を特徴とする、請求項1乃至請求項6のいずれか一の請求項に記載の穀物の加工食品。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8のいずれか一の請求項に記載の穀物の加工食品であること
を特徴とする、麺類及びパスタ類。
【請求項10】
請求項1乃至請求項8のいずれか一の請求項に記載の穀物の加工食品であること
を特徴とする、焼き菓子。
【請求項11】
請求項1乃至請求項8のいずれか一の請求項に記載の穀物の加工食品であること
を特徴とする、シート状食品。
【請求項12】
請求項1乃至請求項8のいずれか一の請求項に記載の穀物の加工食品であること
を特徴とする、鉄板焼き食品。

【公開番号】特開2011−160760(P2011−160760A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−29595(P2010−29595)
【出願日】平成22年2月14日(2010.2.14)
【出願人】(307029098)
【Fターム(参考)】