説明

ハニカムパネルの摩擦接合方法

【課題】ハニカムパネル同士を突き合わせた際の隙間やろうの垂れ、強固な酸化皮膜を除去して、良好な接合品質を得るためのハニカムパネルの摩擦接合方法を提供する。
【解決手段】ろう付け後のハニカムパネル同士を摩擦接合する方法において、ハニカムパネル1の枠材がチャンネル21であり、該チャンネルの凹部側が外方に向いているろう付けハニカムパネルの枠材同士を接合する際、ハニカムパネルの枠材の接合面を予め面削して平坦にすると共に、付着物を除去することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種機材、特に輸送機材の軽量化のために使用されるアルミニウム製ろう付けハニカムパネルを接合して大型の構造体とするためのハニカムパネルの摩擦接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種機材の軽量化、特に輸送機材の軽量化は、燃料の使用量の削減を可能にし、直接環境保護につながるため積極的に進められており、各種機材へのアルミニウム及びその合金素材の使用が多くなっている。アルミニウム及びその合金素材は、軽量であると共に最適な断面形状、例えば、二面構造体により剛性を高くすることができ、平滑性にも優れているため、車両、船舶等の輸送機器用部材として好適である。
【0003】
二面構造体には中空の押出形材やハニカムパネルがあるが、中空の押出形材は、アルミニウム合金を押出成形することにより作製されるため、成形できる形材の幅が限定される。一方、ハニカムパネルは、芯材のハニカムコアの周縁部に枠材を配置し、ハニカムコアの上下面に面板を配設して、この状態でろう付け炉に入れ、これらをろう付けし一体として作製されるため、ろう付け炉の大きさにより作製できるハニカムパネルの幅が限定される。
【0004】
従って、大型の構造体を製作する場合には、中空の押出形材やハニカムパネルの接合は必須となる。従来、その接合には強度面からアーク溶接(TIG、MIG)が適用されているが、溶接時の熱歪みによりアルミニウム合金材料が変形するという問題がある。外観を重視する部位では、アーク溶接時に形成される余盛りの削除が必要となる。更に、溶接時の多大な入熱による溶接部周辺の熱影響によって強度が低下し、その分構造体を厚肉に設計しなければならず、折角の軽量効果を減少させている。
【0005】
車両用構造体には、6000系(Al−Mg−Si系)のアルミニウム合金の押出形材が最も多く使用されているが、通常の6000系アルミニウム合金では、アーク溶接時の入熱により溶接熱影響部(HAZ)が軟化し、本来のアルミニウム合金押出形材の強度を大きく損ねる。また、アーク溶接特有のブローホールの発生や凝固割れ等の欠陥が生じることもあり、その手直しに溶接部をはつり、再溶接を行うため、多大の工数を要すると共に溶接部の外観も悪くなるという難点もある。
【0006】
入熱が少なく、軟化や歪みの程度も少ない接合方式として、アルミニウム及びその合金製の形材の突き合わせ摩擦接合する方法が提案されている。(特許文献1参照)この方法によれば、中空の押出形材同士やハニカムパネル同士を接合した場合、その接合部位の変形が抑えられ、良好な接合を短時間で得ることが可能となる。ハニカムパネルにおいては、ろう付けにより組み立てられたハニカムパネル端部の枠材及び面板を突き合わせ、その突き合わせ面に沿って摩擦接合を行い、この方法で大型のハニカムパネルの製作が可能となる。
【特許文献1】特開平9−309164号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
アルミニウム及びその合金製の二面構造体同士を摩擦接合により接合することによって、従来のアーク溶接によって引き起こされる種々の不都合な点が解消でるが、例えば、ろう付け後のハニカムパネル同士を突き合わせた場合、隙間が生じることがあり、そのままの状態で摩擦接合を行うと、亀裂やトンネル状の穴が生成して、接合品質を著しく低下させる。
【0008】
隙間を生じる原因は、ろう付け加熱及び冷却の際、枠材が熱応力により曲がり、ハニカムパネルの端面にそりが生じるためであると推察され、更に、ろう付けにより、上記端面にろうの垂れが生じることがあるためと考えられる。さらに、ろう付けにより、アルミニウム材の表面に強固な酸化皮膜が形成され、その酸化皮膜が、摩擦接合の際、接合部に残り亀裂の原因になることもある。
【0009】
本発明は、ろう付けハニカムパネルの摩擦接合における上記従来の問題点を解消するためになされたものであり、その目的は、ろう付け後のハニカムパネル同士を突き合わせた際発生する隙間を極力押さえ、ろうの垂れや強固な酸化皮膜を除去し、接合品質が良く、しかも良好な仕上がりの摩擦接合を得ることができるハニカムパネルの摩擦接合方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するための請求項1によるハニカムパネルの摩擦接合方法は、ろう付け後のハニカムパネル同士を摩擦接合する方法において、ハニカムパネルの枠材がチャンネルであり、該チャンネルの凹部側が外方に向いているろう付けハニカムパネルの枠材同士を接合する際、ハニカムパネルの枠材の接合面を予め面削して平坦にすると共に、付着物を除去することを特徴とする。この構成では、枠材の接合面を面削して、隙間量を低減し、同時に接合面上の付着物を除去できるから、良好な摩擦接合ができる。また、この構成においては、面削が面板の側端及びチャンネルの側板の側端となり、突き合わせ後2か所の接合を同時に摩擦接合できる。
【0011】
請求項2によるハニカムパネルの摩擦接合方法は、請求項1において、前記枠材の接合面はその凸凹が接合面長さ1mあたり少なくとも0.5mm以内となるまで面削されることを特徴とする。この構成では、枠材の接合面を突き合わせた際、凸凹が接合面長さ1mあたり少なくとも0.5mm以内であるから、この状態で摩擦接合しても、隙間が少ないので良好な摩擦接合が達成できる。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明によれば、枠材の接合面を面削することにより、隙間量を低減し、同時に接合面上の付着物を除去できるから、良好な摩擦接合が可能となる。従って、ろう付け後のハニカムパネル同士を突き合わせた際発生する隙間がなく、ろうの垂れや強固な酸化皮膜が除去される結果、接合品質が良く、しかも良好な仕上がりの摩擦接合を得ることができるから、大型の構造物が少ない工数で製作出来、低価格化が図れる。また、面削が面板の側端及びチャンネルの側板の側端となり、突き合わせ後2か所の摩擦接合を同時に行うことができる。従って、上記の効果に加えて、2枚の面板につき同時に摩擦接合ができるため、工数削減が図れる。
【0013】
請求項2の発明によれば、枠材の接合面を突き合わせた際、凸凹が接合面長さ1mあたり少なくとも0.5mm以内であり、隙間が少ないので良好な摩擦接合ができる。従って、上記の効果に加えて、必要以上の面削や面削量不足を無くすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を、図1〜13に基づいて詳述する。
図1は本発明方法を適用するためのハニカムパネルの形態を示す斜視図、図2はハニカムパネルの製作状態を示す断面図である。図1、図2において、ハニカムパネル1は、芯材としてのハニカムコア2の周縁部3に枠材4を配置し、ハニカムコア2の上下面に面板5、5を配設して、この状態でろう付けし一体としてなる。
【0015】
すなわち、アルミニウム製ろう付けハニカムパネル1の場合には、アルミニウム(アルミニウム合金を含む、以下同じ)の箔又は薄板から形成されるハニカムコア2の周縁部3にアルミニウムの押出形材からなる枠材4を溶接により枠組みし、ハニカムコア2の上下面Pにはハニカムコア2と枠材4に対して重なる状態にアルミニウムのブレージングシートからなる面板5、5を載せ、治具でこれらを一体に固定してろう付け炉の中に入れ、ハニカムコア2と面板5、5との間、枠材4と面板5、5との間をろう付け一体とすることにより行われる。なお、ハニカムコア2と枠材4との間もハニカムコア2と面板5、5とから流動するろうによりろう付けされる。
【0016】
このように構成されたハニカムパネル1は、ろう付け加熱及び冷却の際、枠材4が熱応力により曲がり、そりが生じたり、図3に示すように、枠材4と面板5、5との間に段差10が生じ、ハニカムパネル1同士を接合する際の接合面11は、凹凸のある形状になっている。また、接合面11には、図4に示すように、ろう付けの際に流動するろうの垂れ12があり、その表面は通常強固な酸化皮膜に覆われている。このような状態のハニカムパネル1の接合面11同士を突き合わせても、隙間だらけの状態となるし、摩擦接合しても強固な酸化皮膜が残り亀裂の原因になるから、図3の二点鎖線に示すように、面削して隙間を無くし、ろうの垂れ12や強固な酸化皮膜を除去する。
【0017】
面削の程度は、ハニカムパネル1の接合面11同士を突き合わせて隙間が全くない状態が理想であるが、ハニカムパネル1の接合面11同士を突き合わせ、摩擦接合するため加圧拘束したした際、図5に示すように接合面11の長さαにおいて、1mあたりその凹凸が少なくとも0.5mm以内となる面削の程度が必要となる。凹凸が0.5mm以内というのは、数多くの実験に基づくもので、この範囲であれば、摩擦接合に支障を来たすことがない。凹凸が0.5mmを越えると摩擦接合に支障を来す可能性が高くなる。
【0018】
面削したハニカムパネル1は、図6に示すように、その接合面11同士を突き合わせ、治具(不図示)により加圧拘束する。その接合線に沿い摩擦接合工具13の硬質なピン14を高速回転させ接合面11の一端に刺し込み、その接合線に沿い他端まで移動させることによって摩擦接合を行う。その後、ハニカムパネル1を裏返し、同じように摩擦接合すると、図7に示すように、接合部15によりハニカムパネル1同士を接合することができる。
【0019】
しかしながら、上記面削は、接合面11の長さα方向において、1mあたりその凹凸が少なくとも0.5mm以内となるまで必要であるから、ろう付け後のハニカムパネル1の出来具合により、例えば、図3に示す枠材4の接合面板16の厚みがかなり薄くなるまで面削する場合も生じてくる。このような場合、摩擦接合工具13により摩擦接合させる際、枠材4の強度不足を招き、座屈する恐れが出てくる。
【0020】
このため、図8に示すように、枠材4はその接合面11となる接合面板16が面削される厚みtを予め有しているのが好ましく、その厚みtは0.5mm〜5mmの範囲とするのが好ましい。接合面をこの範囲内の厚さにして、二点鎖線に示すように面削することにより、ろう付け後の反り、しなりを吸収して凸凹を接合面11の長さ1mあたり少なくとも0.5mm以内とすることができ、枠材4の強度に影響されず良好な摩擦接合ができる(図9)。
【0021】
厚みtが0.5mmに満たないと、面削しても凸凹が接合面11の長さ1mあたり0.5mm以内とすることが困難となる。逆に、厚みtが5mmを越えると、効果が飽和状態となり枠材4の重量が増し、ハニカムパネル1の軽量性の利点が低下し、加えて、ハニカムパネル1を製作する過程で、ろう付け加熱時に周囲の温度が上がり難くなり、ろう付けが困難となる。
【0022】
図10、11は、枠材4の接合面板16の両端部とこれに直交する水平板17との隅角部18に厚肉部19を有するハニカムパネル1aの摩擦接合方法を示すものである。接合面板16及び水平板17の厚みは、摩擦接合の際座屈しない程度まで薄くすることができ、軽量化が図られる。従って、その状態で摩擦接合すると、隅角部18が膨らみ、外観上あたかも厚肉部19が出来たようになるが、その結果、接合部15に素材不足がおき空洞や亀裂が生じてしまう。このハニカムパネル1aは、隅角部18に厚肉部19を設けることで、摩擦接合時に変形や接合部15に欠陥を生じないようにしたものである。
【0023】
図12は、角管状の枠材4に代えて、枠材としてチャンネル21を適用した場合であり、このチャンネル21の凹部22側が外方に向いているハニカムパネル1bの摩擦接合方法を示すものである。すなわち、チャンネル21は背板23の両端に側板24、24を設けてなり、従って、面削が面板5の側端及びチャンネル21の側板24の側端となり、図示の摩擦接合工具13aを用いれば、突き合わせ後2か所の接合を同時に摩擦接合できる。
【0024】
すなわち、この摩擦接合工具13aは、面板5及びチャンネル21の側板24の厚みt1 とほぼ同程度の長さl1 (t1≒l1 )を有するピン25の両端に、円盤26、27をほぼ平行に固着して糸巻型接合部28を構成し、更に、軸29を介して同構成の糸巻型接合部30が取り付けられてなる。また、糸巻型接合部28と30との距離L1 は、2つの接合箇所間の距離L2 に等しい。
【0025】
上記構成の摩擦接合工具13aを使用すれば、図13に示すように、裏当て治具が必要なくなり、糸巻型接合部28及び30がハニカムパネル1a及び1aに追従して軸方向の振れが無くなり、ハニカムパネル1aの2つの接合箇所を同時に摩擦接合することが可能となる。従って、一度の操作によってハニカムパネル1b同士の接合が可能となり、接合前段取り、接合後処理も一度でよいことになる。
【0026】
以下、本発明の効果を確認するための実施例について説明する。
実施例1
図3に示す断面形状を持ち、面板(材質:6N01)の厚さ2.5mm、枠材(材質:6063)の肉厚5mm、幅40mm、パネル高さ100mm、パネル長さ3000mm(接合長さ)、ハニカムコア(材質:6N01)の肉厚0.3mm、セルサイズ30mmのろう付け後のハニカムパネルの接合面を最大1.5mm面削した。なお、ろう付け後のハニカムパネルのパネル長さ3000mmの曲がりは最大1.3mmであった(この測定は、母材を定盤上に固定し、置針式形状式測定装置にて、面削面を全長に渡り走査し、凹凸を記録することにより、行った。)。
【0027】
2枚のハニカムパネルの接合面を突き合わせ加圧拘束すると、その接合面の隙間は0.5mm以下となり、その状態で、ピンが直径5.0mm、長さ4.5mmであり、円盤の直径が10mmの摩擦接合工具を1000rpmで回転させ、300mm/分の送り速度で接合線に沿って移動させて摩擦接合を行った。次いで、裏返しにして反対側を同じように摩擦接合した。その結果、接合部は、摩擦接合による誤差等の欠陥が無く、表面にも欠陥が無く、透過X線検査でも内部に欠陥が無いことが確認出来た。
【0028】
比較例1
実施例1で得たろう付け後のハニカムパネルの接合面を突き合わせ、加圧拘束したが、その時の接合面の隙間は最大2.2mmとなった。この状態で面削しないままで、実施例1と同じ条件で摩擦接合した。その結果、接合部には断続的に溝状の欠陥が見られ、表面上の欠陥がない部分でも接合部の金属が不足してトンネル状の欠陥が生じているのが認められた。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明方法を適用するためのハニカムパネルの形態を示す斜視図である。
【図2】ハニカムパネルの製作状態を示す断面図である。
【図3】本発明のハニカムパネルの摩擦接合方法の実施形態を示す断面図である。
【図4】本発明方法を適用するろう付け後のハニカムパネルを示す側面図である。
【図5】本発明のハニカムパネルの摩擦接合方法の実施形態を示す平面図である。
【図6】本発明のハニカムパネルの摩擦接合方法の実施形態を示す断面図である。
【図7】本発明方法により作製されたハニカムパネルを示す断面図である。
【図8】本発明のハニカムパネルの摩擦接合方法の実施形態を示す断面図である。
【図9】本発明方法により作製されたハニカムパネルを示す断面図である。
【図10】本発明のハニカムパネルの摩擦接合方法の他の実施形態を示す断面図である。
【図11】本発明の他の方法により作製されたハニカムパネルを示す断面図である。
【図12】本発明のハニカムパネルの摩擦接合方法の他の実施形態を示す断面図である。
【図13】本発明の他の方法による作製状態のハニカムパネルを示す斜視図である。
【符号の説明】
【0030】
1、1a、1b ハニカムパネル
2 ハニカムコア
3 周縁部
4 枠材
5 面板
10 段差
11 接合面
12 垂れ
13、13a 摩擦接合工具
14 ピン
15 接合部
16 接合面板
17 水平板
18 隅角部
19 厚肉部
21 チャンネル
22 凹部
23 背板
24 側板
25 ピン
26、27 円盤
28、30 糸巻型接合部
29 軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ろう付け後のハニカムパネル同士を摩擦接合する方法において、ハニカムパネルの枠材がチャンネルであり、該チャンネルの凹部側が外方に向いているろう付けハニカムパネルの枠材同士を接合する際、ハニカムパネルの枠材の接合面を予め面削して平坦にすると共に、付着物を除去することを特徴とするハニカムパネルの摩擦接合方法。
【請求項2】
前記枠材の接合面は、その凹凸が接合面長さ1mあたり少なくとも0.5mm以内となるまで面削されることを特徴とする請求項1記載のハニカムパネルの摩擦接合方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−264879(P2008−264879A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−144352(P2008−144352)
【出願日】平成20年6月2日(2008.6.2)
【分割の表示】特願平10−228783の分割
【原出願日】平成10年8月13日(1998.8.13)
【出願人】(000002277)住友軽金属工業株式会社 (552)
【Fターム(参考)】