説明

ハニカム構造体のセル位置情報算出方法及びそのセル位置情報算出装置並びにハニカム構造体の製造方法

【課題】ハニカム構造体端面におけるセルの位置情報を精度よく算出することができる方法を提供すること。
【解決手段】ハニカム構造体の端面861をカメラ部により撮像し、それにより得られた画像データによりセル88の位置情報を算出する方法である。撮像工程では端面861において隣接領域との境界部分が互いに重複するように分割された複数の領域(S1〜S9)につき、各領域をカメラ部より撮像する。また、画像処理工程では隣接領域との境界部分が互いに重複する部分(例えばS12)におけるセル88の位置情報を、同一セル88について撮像工程にて得られた各領域の画像データに基づいて算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハニカム構造体の端面におけるセル位置情報算出方法及びそのセル情報算出装置並びにハニカム構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、ディーゼルエンジンでは排ガス中のPM(パティキュレートマター)を捕集するフィルタ(DPF)が採用されており、そのDPFを構成するセラミックハニカム構造体としては、図10(a),(b)に示すものが知られている。このセラミックハニカム構造体80には、隔壁81により区画された多数のセル88が設けられるとともに、各セル88の開口端部を交互に閉塞する閉塞部83が設けられている。この特殊な形状のセラミックハニカム構造体80を製造する方法としては、特許文献1に記載の方法が知られている。
【0003】
すなわち、まず、全てのセル88を端面において開口させた構造体本体を作製する。その後、構造体本体の端面に透明又は半透明の樹脂フィルムを貼り付ける。次いで、カメラを用いて構造体本体の端面におけるセル88を撮影する。そして、その画像データを用いてセル88の位置情報を求め、閉塞すべきセル88の開口端部に位置する樹脂フィルムを熱により溶融して貫通穴を形成する。次いで、スラリーに構造体本体の端面を浸漬し、貫通穴を通じてスラリーをセル88内に浸入させる。その後、スラリーを硬化させると共に樹脂フィルムを除去して、セラミックハニカム構造体80が得られる。
【0004】
ここで、構造体本体の端面におけるセル88の撮影は、隣接する領域との境界部分が互いに重複するような複数の領域ごとに行われている。そして、互いに重複する境界部分において、同一のセル88の画像を重ね合わせることにより構造体本体の端面全体の画像を取得している。
【特許文献1】特開2002−28915号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、隣接する各領域の画像を用いて境界部分における同一のセル88の画像を重ね合わせようとしても、精度よく両者の重ね合わせができない場合が生じうる。その理由として、以下が考えられる。すなわち、境界部分は各領域の端部であるため、境界部分の各領域をカメラで撮影する際には、カメラレンズの端部を通して撮影されることとなる。そして、一般にレンズは端部に近づくほど湾曲が大きくなる。そのため、各領域の境界部分の画像には歪みが生じている可能性がある。
【0006】
また、隣接する領域における境界部分の画像は、カメラのレンズにおける異なる部分で撮影される。例えば、図6に示すように領域を設定した場合、領域S1と領域S2との境界部分には、両者の重複部S12が存在する。重複部S12は、領域S1を撮影する際にはレンズの右端部分で撮影され、領域S2を撮影する際にはレンズの左端部分で撮影される。したがって、レンズの右端部分で撮影された画像と左端部分で撮影された画像との間に誤差が生じている可能性がある。
【0007】
しかしながら、上記特許文献1には、重ね合わせが精度よくできない場合におけるセル88の位置情報の算出について何ら言及されていない。そのため、各領域の重複部分において、貫通穴を精度よく形成することが困難だった。
【0008】
本発明は、上記問題に鑑みなされたものであり、ハニカム構造体端面におけるセルの位置情報を精度よく算出することができる方法及び装置を提供することを目的とするものである。また、本発明は、上記方法を用いたハニカム構造体の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下、上記課題を解決するのに有効な手段等につき、必要に応じて作用、効果等を示しつつ説明する。
【0010】
請求項1に記載の発明は隔壁により仕切られた複数のセルを備えたハニカム構造体において、そのハニカム構造体の端面を撮像手段により撮像し、それにより得られた画像データにより前記セルの位置情報を算出する方法である。そして、撮像工程では前記端面において隣接領域との境界部分が互いに重複するように分割された複数の領域につき、各領域を前記撮像手段により撮像する。また、画像処理工程では前記隣接領域との境界部分が互いに重複する部分における前記セルの位置情報を、同一セルについて前記撮像工程にて得られた各領域の画像データに基づいて算出する。
【0011】
隣接する領域の重複部分においては、同一のセルにつき複数の画像が撮影されるが、これらの画像データには誤差が生じうる。例えば、画像データをカメラで撮影した場合、カメラレンズの端部を通して撮像することによる画像の歪みや、隣接する領域の重複部分をレンズの異なる部位を通して撮像することが原因となって、同一のセルについて隣接する領域の画像データで誤差が生じうる。このような場合、各領域の単独の画像データを用いてセルの位置情報を算出すると画像データの誤差がそのまま反映されてしまう。
【0012】
この点、本発明のように、隣接領域との重複部分におけるセルの位置情報を、同一のセルについての撮像した各領域の画像データを用いて算出することにより、各領域単独の画像データに含まれている誤差の要因が希釈化される。この結果、重複部分におけるセルの位置情報の算出精度を向上することが可能となる。
【0013】
隣接領域との重複部分におけるセルの位置情報については、請求項2に記載の発明のように、撮像した各領域の画像データごとにセルにおいて予め定めた基準位置の情報を取得し、同一のセルについての取得した基準位置の情報に基づいて算出することができる。また、請求項3に記載の発明のように、撮像した各領域の画像データごとにセルにおいて予め定めた基準位置とそのセルを仕切る隔壁の角度との情報を取得し、同一のセルについての取得した基準位置と隔壁の角度との情報に基づいて算出することもできる。また、請求項4に記載の発明のように、撮像した各領域の画像データごとにセルの輪郭情報を取得し、同一のセルについての取得した輪郭情報に基づいて算出することもできる。
【0014】
また、隣接領域との重複部分におけるセルの位置情報を、請求項5に記載の発明のように、各領域の画像データに含まれる座標情報を取得し、同一のセルについての取得した座標情報の平均値により算出するようにしてもよい。これにより、簡易な方法で各画像データにおける誤差を希釈化し、重複部分におけるセルの位置情報の算出精度を向上することが可能となる。
【0015】
請求項6に記載の発明のように、前記画像処理工程において、前記セルの位置情報として、前記セルの重心位置を算出することとしてもよい。重心はセルのほぼ中央に位置するので、重心位置を算出しておくことで、この位置情報を様々な工程における基準点として利用することができる。例えば、ハニカム構造体の端面に貼ったフィルムの所定位置に貫通穴を形成する工程や、ハニカム構造体の端面におけるセルの検査をする工程等において、重心位置を基準点として用いることができる。
【0016】
また、請求項7に記載の発明のように、前記画像処理工程において、前記セルの位置情報として、前記隣接領域との重複部分において複数の前記セルを結ぶセル列の情報を算出するようにしてもよい。ここで、セル列の情報としては、複数のセルを結ぶセル列の角度や位置等の情報を算出するとよい。セル列の情報を算出することにより、例えば、ハニカム構造体の端面に貼ったフィルムの所定位置に貫通穴を形成する工程や、ハニカム構造体の端面におけるセルの検査をする工程等を、セル列線に沿って連続的に行うことが可能となる。
【0017】
請求項8に記載の発明では、前記画像処理工程において、前記隣接領域との重複部分に含まれる全ての前記セルの位置情報を、前記重複部分に含まれる同一のセルについての各領域の画像データに基づいて算出することを特徴としている。これにより、重複部分に含まれる全てのセル情報を精度よく算出することが可能となる。
【0018】
請求項9に記載の発明では、前記画像処理工程において、前記隣接領域との重複部分に含まれる複数の前記セルうちの一部のセル位置の情報を、同一のセルについての各領域の画像データに基づいて算出するとともに、当該算出した一部のセル位置の情報を用いて、当該重複部分における他のセルの情報を算出することを特徴としている。これによると、重複部分における各セルの情報のそれぞれを各領域の画像データに基づいて算出するものに比べて、画像データからの読み取りデータ個数及び演算回数を低減することができる。このため、処理を簡略化し、算出速度を向上することができる。
【0019】
請求項10に記載の発明では、隔壁により仕切られた複数のセルを備えたハニカム構造体において、そのハニカム構造体の端面を撮像手段により撮像し、それにより得られた画像データにより前記セルの位置情報を算出する装置であって、前記端面において隣接領域との境界部分が互いに重複するように分割された複数の領域の画像データを得るべく、前記撮像手段と前記ハニカム構造体との少なくともいずれかを相対的に移動させて前記撮像手段に各領域を撮像させる手段と、前記隣接領域との境界部分が互いに重複する部分における前記セル位置の情報を、同一の前記セルについて前記撮像手段を用いて得られた各領域の画像データに基づいて算出する手段と備えることを特徴としている。このような装置を用いることにより、重複部分におけるセル情報の算出精度を向上することが可能となる。
【0020】
請求項11に記載の発明では、隔壁により仕切られた複数のセルを備え、端面において一部の前記セルを閉塞してなるハニカム構造体を製造する方法において、請求項1から請求項9のいずれかに記載のセル位置算出方法により前記ハニカム構造体の端面におけるセル位置情報を算出するセル位置算出工程と、前記構造体本体の端面を覆うようにフィルムを貼り付けるフィルム貼付工程と、前記セル位置情報に基づいて閉塞すべき前記セル位置の前記フィルムを溶融又は焼却除去して貫通穴を形成する貫通穴形成工程と、スラリーに前記端面を浸漬し、前記貫通穴を通じて前記スラリーを前記セルの端部に浸入させる浸漬工程と、前記スラリーを硬化させるスラリー硬化工程と、前記フィルムを除去するフィルム除去工程とを有することを特徴としている。これにより、重複部分における精度の高いセル情報に基づいて貫通穴を形成することができる。この結果、貫通穴を形成する際の加工精度を向上することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
[第1実施形態]
以下、本発明にかかるハニカム構造体の製造方法を具体化した第1の実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態に係るハニカム構造体は、前述した図10に示すごとく、その端面に位置するセル88の端部の一部を閉塞してなるものであり、自動車用排ガス浄化装置の担体用等に用いられるものである。
【0022】
まず、図1に示すごとく、すべてのセル88を端面861,862において開口させた構造体本体86を作製する。本実施形態では、構造体本体86は押出し成形により作製される。具体的には、コーディエライトを形成するセラミック材料を用い、ほぼ等間隔に形成された多数のセル88を有し、且つ、円柱状をなす長尺のハニカム構造体の基材が作製される。そして、それが所定長さに切断されることにより、構造体本体86が形成される。なお、各セル88の断面は略正方形状に形成される。
【0023】
次に、構造体本体86における一方の端面861の全体に透明又は半透明の樹脂フィルム20を貼り付ける。本実施形態では、一方の面に接着剤を塗布した総厚み110μmの熱可塑性樹脂製フィルムが用いられる。
【0024】
次に、図2に示すごとく、貫通穴形成装置50を用いて、閉塞すべきセル88の開口端部に位置する樹脂フィルム20を熱により溶融あるいは焼却除去して貫通穴21を形成する。貫通穴形成装置50は、画像処理手段51と熱照射手段52と制御手段53とを有している。画像処理手段51は、端面861に貼り付けた樹脂フィルム20を透過することで視覚的にセル88を認識してセル位置等の情報を得るものである。熱照射手段52は、樹脂フィルム20に高密度エネルギービーム(レーザ光)520を照射するものである。また、制御手段53は、画像処理手段51からのセル位置等の情報に基づいてレーザ光520の照射位置を決定し、熱照射手段52を操作するものである。
【0025】
画像処理手段51は、カメラ部511と制御部512とを有している。カメラ部511は、制御部512からの指示に応じて端面861を撮像するとともに、得られた画像データを制御部512に送信する。制御部512は、カメラ部511を端面861に対して移動させるとともに、カメラ部511に撮像指示を出す。また、制御部512は、カメラ部511により得られた画像データに基づいてセル位置等の情報を算出するためのものである。カメラ部511は端面861の広さに応じて複数設置することが好ましいが、本実施形態では1つのカメラ部511を適宜移動させて複数の領域を順次撮影するよう構成してある。具体的には、図5に示すような構造体本体86の端面861を含む9つの領域S1〜S9を順次撮影するように構成してある。
【0026】
図6に示すごとく、領域S1の輪郭は、R11〜R14の境界線に囲まれた四角形状をしている。また、領域S2の輪郭はR21〜R24の境界線に囲まれた四角形状をしている。同様に、領域Snの輪郭は、すべてRn1〜Rn4の境界線に囲まれた四角形をしている。
【0027】
ここで、隣接する領域の境界部分には両者に属する重複部が存在する。例えば、領域S1とS2の境界部分には、両者の重複部S12が存在する。さらに領域S1と領域S6との境界部分には両者の重複部S16が存在する。そのため、領域S1を撮像する際には、この重複部S12,S16を含めて撮像する。また、領域S2を撮像する際には、領域S1及びS5との重複部S12,S25及び、図示しない領域S3との重複部をも含めて撮像する。そして、他の領域S3〜S9を撮像する際も同様に、隣接する領域との重複部を含めて撮像する。
【0028】
制御部512は、カメラ部511により得られた各領域S1〜S9の画像データを基に、各セル88の形状、位置及び開口面積等のセル情報を算出する。具体的には、画像データを基に各セル88における四角形の四隅の座標を検出し、その四隅の座標に基づき各セル88における四角形の形状、重心座標及び開口面積等のセル情報を算出する。
【0029】
重複部においては、同一のセルにつき複数の画像が撮影される。例えば、重複部S12内のセルC12は、領域S1及びS2の両画像に含まれる。ところが、領域S1の画像データに含まれるセルC12に対応するセルC1と、領域S2の画像データに含まれるセルC12に対応するセルC2との間には、レンズの歪み等の理由により、両画像データに誤差が生じている場合がある(図7(a)参照)。そこで、本実施形態では、重複部内のセル位置等の情報は、同一のセルについての各領域の画像データに基づいて算出した値の平均値を採用する。例えば、図7(b)に示すように、領域S12内のセルC12の形状及び開口面積は、セルC1における各頂点座標(C1a〜C1d)とセルC2における各頂点座標(C2a〜C2d)との対応座標の平均値を用いて算出する。また、セルC12の重心座標C12xについても、セルC1における各頂点座標(C1a〜C1d)に基づき算出した重心座標C1xとセルC2における各頂点座標(C2a〜C2d)に基づき算出した重心座標C2xとの平均値を採用する。
【0030】
また、領域S1,S2,S5及びS6が重複する領域S1256では、各領域の画像データに基づく4つの値の平均値を用いてセル位置等の情報の算出を行う。
【0031】
制御手段53は、上記のようにして得られたセル88の位置等の情報に基づいて、貫通穴21の形成位置及び大きさを算出する。本実施形態では、端面861において隣接するセル88の端部が開口と閉塞を交互に繰り返す市松模様状となるように貫通穴21の形成位置を算出する。
【0032】
熱照射手段52は、CO2レーザ発射装置521とその制御部を内蔵した移動装置522とを有している。CO2レーザ発射装置521は複数設置した方が効率は向上するが、本実施形態では設備コストの関係上1組のCO2レーザ発射装置521を用いている。CO2レーザ発射装置521で貫通穴21を形成する際にはレーザ光520が照射されており、その照射は各セル88における四角形の重心位置を基点にするとともに四角形の面積に応じて行われる。
【0033】
貫通穴21を形成する際には、構造体本体86をCO2レーザ発射装置521の下まで移動させ又はCO2レーザ発射装置521を構造体本体86の上に移動させると共に、カメラ部511直下に位置するときの座標上の原点を合わす。そして、制御手段53の指示に基づいて、CO2レーザ発射装置521からレーザ光520を順次照射して樹脂フィルム20を溶融または焼却除去して、貫通穴21を形成する。また、本実施形態では、図3に示すごとく、周辺の一部が欠けた四角形に対しては全て開口が形成されるように輪郭位置22を算出し、樹脂フィルム20を除去する。
【0034】
これにより、構造体本体86の端面861は、閉塞予定のセル88の開口端部に相当する部分に貫通穴21を設けた樹脂フィルム20が配設された状態となる。このような樹脂フィルム20の貼り付けから貫通穴21の形成までの作業が、構造体本体86の他方の端面862に対しても同様に行われる。このとき、各セル88の一方の端部を樹脂フィルム20により閉塞し、他方の端部に貫通穴21を形成するようにされる。
【0035】
構造体本体86の両端面861,862に貫通穴21が形成された後、端面閉塞材を含有するスラリー65に一方の端面861を浸漬し、貫通穴21を通じてスラリー65をセル88の端部に浸入させる。本実施形態では、図4に示すごとく、ディップ装置60を用いて行う。
【0036】
ディップ装置60は、ハンドリング部61と液槽62と制御部63とを有している。ハンドリング部61は構造体本体86を把持して移動させるためのものである。液槽62にはスラリー65が入れられている。このスラリー65は、焼成後コーディエライトとなる材料を主体とする端面閉塞材を含有している。制御部63はハンドリング部6を制御するためのものである。また、制御部63には、スラリー65の液面位置を検知する液面センサ631を接続してある。
【0037】
このディップ装置60を用いて作業を行うにあたっては、まず図4に示すごとく、処理すべき端面861を下にして構造体本体86を基準台64上に載置する。次いで、ハンドリング部61のクランプ部611によって構造体本体86を掴んで所定量持ち上げる。次いでハンドリング部61を移動してスラリー65の上方に構造体本体86を移動する。次いで、ハンドリング部61を下降させて、構造体本体86の端面861をスラリー65に浸漬する。
【0038】
このとき、制御部63は、液面センサ631のデータとハンドリング部61の上下方向の移動量とからディップ深さを算出し、所望の浸漬深さとなるようにハンドリング部61を制御する。これにより、構造体本体86の端面861において、スラリー65が貫通穴21からセル88の端部に浸入する。次に、ディップ装置60を用いた同様の作業を、構造体本体86の他方の端面862に対しても行う。
【0039】
次に、スラリー65をセル88の端部に浸入させた構造体本体86を乾燥させた後、焼成する。これにより、焼成・固化したスラリー65によりセル88の端部に閉塞部83が形成される。それと共に、端面861,862に貼り付けられていた樹脂フィルム20が焼却除去される。これにより、一部のセル88の端部を閉塞したハニカム構造体80が得られる。
【0040】
以上詳述した本実施の形態によれば、以下の優れた効果が得られる。
【0041】
本実施形態では、互いに隣接する領域の重複部におけるセル88の位置情報(形状、位置及び開口面積に関する情報)を、同一のセルについて得られた各領域の画像データに基づいて算出している。これにより、各領域単独の画像データに含まれている誤差の要因が希釈化される。特に、本実施形態のように、分割された各領域S1〜S9を順次撮像する場合、例えば重複部S12は、領域S1を撮像する際にはレンズの右端部を通して撮像され、領域S2を撮像する際にはレンズの左端部を通して撮像される。また、例えば領域S1,S2,S5,S6の重複部S1256を撮像する際には、レンズの右下、左下、左上、右上の部分を通して撮像される。したがって、重複部における同一のセルは、レンズにおけるほぼ対象の部分を通して撮像される。そのため、同一セル88についての複数の画像データを平均化することにより、各領域の画像データ単独で算出した場合の形状、位置及び開口面積等の情報に比べてレンズの形状等に起因する誤差を低減することが可能となる。
【0042】
本実施形態では、同一セル88についての画像データに基づいて、重複部におけるセル88の重心位置情報を算出している。重心はセル88のほぼ中央に位置するので、セル88の位置を認識するためのデータとしては適切である。すなわち、算出されたセル88の重心位置の情報に基づいて、本実施形態のように貫通穴21を形成する際の基準とすることができる。また、品質検査等を行う場合にも、セル88の重心位置を基準点として用いることができる。
【0043】
また、本実施形態では、誤差が低減されたセル88の形状、位置及び面積の情報に基づいて貫通穴21を形成している。これにより、貫通穴21を形成する際の加工精度を向上することが可能となる。
【0044】
[第2実施形態]
次に本発明を具体化した第2実施形態について、図面を参照しつつ説明する。図8は第2実施形態における重複部におけるセル位置等の情報の算出方法を説明するための図である。本実施形態では、制御部512における画像データの処理方法が第1実施形態と異なるが他は第1実施形態と同様である。第1実施形態と同一の構成については、第1実施形態と同一の符号を付し、説明を省略する。
【0045】
第1実施形態においては、各領域の画像データに含まれているセル88の各頂点の座標から、重複部におけるセル位置等の情報を算出したが、本実施形態では、セル88の一の頂点座標と一の隔壁81の基準座標軸に対する角度とからセル位置等の情報を算出している。すなわち、本実施形態の構造体本体86では、同一形状のセル88が所定間隔で繰り返し並んでいる。そのため、セル88の一の頂点と隔壁81の角度が分かれば、他の頂点や重心位置等を算出することが可能である。
【0046】
具体的には、図8に示すように、セルC1における一の頂点座標C1aと一の隔壁81の基準座標軸に対する角度θ1を領域S1の画像データから検出する。同様に、セルC2についても、対応する頂点座標C2aと隔壁81の基準座標軸に対する角度θ2を領域S2の画像データから検出する。そして、頂点座標C1a及びC2aの平均値C12aと隔壁81の角度θ1及びθ2の平均値θ12とを算出する。各セル88における正方形の一辺の長さは予め分かっているので、重複部S12におけるセルC12の頂点座標C12aと隔壁81の傾きθ12とから、セル位置情報を算出することが可能となる。
【0047】
本実施形態では、画像データからのセル88の検出値は、頂点の座標及び隔壁81の角度の2つである。したがって、セル88の各頂点の座標情報を読み取っていた第1実施形態の場合に比べて、読み取りデータの個数を低減することができ、処理を簡略化することができる。
【0048】
[第3実施形態]
次に本発明を具体化した第3実施形態について、図面を参照しつつ説明する。図9は第3実施形態における重複部におけるセル位置等の情報の算出方法を説明するための図である。本実施形態では、制御部512における画像データの処理方法が第1実施形態と異なるが他は第1実施形態と同様である。第1実施形態と同一の構成については、第1実施形態と同一の符号を付し、説明を省略する。
【0049】
第1実施形態においては、重複部における各セル88の位置情報を、同一のセル88について得られた各領域の画像データに基づいて算出した。本実施形態では、重複部における複数のセル88のうち一部のセル88の位置情報については、各領域の画像データに含まれる対応するセル88の画像データに基づいて算出する。そして、他のセル88の位置情報については、算出した一部のセル88の位置情報から推定する。
【0050】
具体的には、図9に示すように、隣接する領域の画像データに含まれているセルC3及びC4の各頂点の座標(C3a〜C3d,C4a〜C4d)からセルC3及びC4の重心座標C3x,C4xの座標を算出し、これ用いて重複部における対応するセルC34の重心座標C34xを算出する。同様にして、隣接する領域の画像データに含まれているセルC5及びC6の各頂点の座標(C5a〜C5d,C6a〜C6d)から重複部における対応するセルC56の重心座標C56xを算出する。これらのセル情報の算出方法については、第1実施形態と同様である。
【0051】
C34x及びC56xの位置情報を算出した後、C34xとC56xとを結ぶセル列線Lを算出する。そして、本実施形態の構造体本体86では同一形状のセル88が所定間隔で繰り返し並んでいる点を利用し、重複部に存在する他のセル88の重心座標Cijxについては、セル列線L上に所定間隔で並んでいるものと推定する。
【0052】
本実施形態では、重複部における複数のセル88のうち一部のセル88の位置情報についてのみ各領域の画像データに含まれる対応するセル88の画像データに基づいて算出し、他のセル88の位置情報については算出した一部のセル88の位置情報から推定している。このため、第1実施形態のように、重複部における各セル88の位置情報を同一のセル88についての隣接する各領域の画像データに基づいて算出するものに比べて、画像データからの読み取りデータ個数及び演算の回数を低減することができる。このため、処理を簡略化し、算出速度を向上することができる。
【0053】
また、本実施形態では、セル列線L上にセル88の重心位置を推定することにより、貫通穴21を形成する工程において、CO2レーザ発射装置521と構造体本体86との相対移動を直線状とすることができる。これにより、セル88の重心位置へのレーザ光520の照射を、セル列線Lに沿って連続的に行うことができるとともに、照射の位置ずれを低減することが可能となる。
【0054】
[他の実施形態]
上記実施形態では、重複部におけるセル位置等の情報を、隣接する領域に含まれている同一のセル88についての頂点の座標や隔壁81の角度等から算出した。しかし、各セルを仕切る隔壁81を認識することにより各セル88の輪郭情報を認識し、その輪郭情報からセル88の位置情報を算出するようにしてもよい。
【0055】
上記実施形態では、重複部におけるセル88の位置情報を、隣接する領域に含まれている同一のセル88についての頂点の座標や隔壁81の角度等から算出した。しかし、セル88において予め定めた他の基準位置等に基づいてセル88の位置情報を算出するようにしてもよい。
【0056】
上記実施形態では、制御部512によりカメラ部511を端面861に対して移動させることにより、各領域S1〜S9の撮像を行った。しかし、構造体本体86が載置されているステージ(図示せず)に対して制御部512から移動指示を出し、構造体本体86とカメラ部511との間での相対移動をさせて各領域S1〜S9の撮像を行うようにしてもよい。
【0057】
上記第2実施形態では、セルC1及びセルC2の隔壁81の角度は、基準座標軸からの角度とした。しかし、基準座標軸のような絶対的な固定軸からの角度ではなく、セルC1とセルC2との間の相対的な角度を用いるようにしてもよい。
【0058】
上記第3実施形態では、重複部における一部のセル情報を、隣接する領域に含まれている同一のセルにおける各頂点の座標から算出した。しかし、一部のセル情報を第2実施形態のように、一の頂点の座標と隔壁81の傾きとから算出してもよい。また、第3実施形態では複数のセル88を結ぶセル列線Lを算出したが、これに加えて又はこれに代えてセル列の角度や位置の情報を算出するようにしてもよい。このようなセル列の情報も、セル88位置へのレーザ光の照射等の工程に用いることができる。
【0059】
なお、上記実施の形態では、構造体本体86をコーディエライトで形成したが、炭化珪素(SiC)を用いて形成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】第1実施形態例におけるハニカム構造体本体に樹脂フィルムを貼り付ける工程を示す説明図。
【図2】第1実施形態に係る貫通穴形成工程を示す説明図。
【図3】第1実施形態に係る貫通穴及び輪郭位置を形成した状態を示す説明図。
【図4】第1実施形態に係るスラリーへの浸漬工程を示す説明図。
【図5】第1実施形態に係る領域の分割状態を示す説明図。
【図6】第1実施形態に係る領域S1を示す説明図。
【図7】第1実施形態に係る重複部分におけるセル情報の算出方法の説明図。
【図8】第2実施形態に係る重複部分におけるセル情報の算出方法の説明図。
【図9】第3実施形態に係る重複部分におけるセル情報の算出方法の説明図。
【図10】(a)はハニカム構造体の断面図、(b)はハニカム構造体を正面からみた説明図。
【符号の説明】
【0061】
20…樹脂フィルム、21…貫通穴、50…貫通穴形成装置、51…画像処理手段、511…カメラ部、512…制御部、52…熱照射手段、520…高密度エネルギービーム、521…CO2レーザ発射装置、53…制御手段、60…ディップ装置、61…ハンドリング部、62…液槽、63…制御部、65…スラリー、80…セラミックハニカム構造体、81…隔壁、83…閉塞部、86…構造体本体、861,862…端面、88…セル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
隔壁により仕切られた複数のセルを備えたハニカム構造体において、そのハニカム構造体の端面を撮像手段により撮像し、それにより得られた画像データにより前記セルの位置情報を算出する方法であって、
前記端面において隣接領域との境界部分が互いに重複するように分割された複数の領域につき、各領域を前記撮像手段により撮像する撮像工程と、
前記隣接領域との境界部分が互いに重複する部分における前記セルの位置情報を、同一セルについて前記撮像工程にて得られた各領域の画像データに基づいて算出する画像処理工程とを有することを特徴とするハニカム構造体のセル位置算出方法。
【請求項2】
前記画像処理工程において、前記各領域の画像データごとに、前記セルにおいて予め定めた基準位置の情報を取得し、
同一のセルについての前記取得した基準位置の情報に基づいて、前記隣接領域との重複部分における前記セルの位置情報を算出することを特徴とする請求項1に記載のハニカム構造体けるセル位置算出方法。
【請求項3】
前記画像処理工程において、前記各領域の画像データごとに、前記セルにおいて予め定めた基準位置とそのセルを仕切る隔壁の角度との情報を取得し、
同一のセルについての前記取得した基準位置と前記隔壁の角度との情報に基づいて、前記隣接領域との重複部分における前記セルの位置情報を算出することを特徴とする請求項1に記載のハニカム構造体のセル位置算出方法。
【請求項4】
前記画像処理工程において、前記各領域の画像データごとに、前記セルの輪郭情報を取得し、
同一のセルについての前記取得した輪郭情報に基づいて、前記隣接領域との重複部分における前記セルの位置情報を算出することを特徴とする請求項1に記載のハニカム構造体のセル位置算出方法。
【請求項5】
前記画像処理工程において、前記画像データに含まれる座標情報を取得し、
前記隣接領域との重複部分における前記セルの位置情報を、同一のセルについての前記取得した座標情報の平均値により算出することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載のハニカム構造体におけるセル位置算出方法。
【請求項6】
前記画像処理工程において、前記セルの位置情報として、前記セルの重心位置を算出することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載のハニカム構造体のセル位置算出方法。
【請求項7】
前記画像処理工程において、前記セルの位置情報として、前記隣接領域との重複部分において複数の前記セルを結ぶセル列の情報を算出することを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載のハニカム構造体のセル位置算出方法。
【請求項8】
前記画像処理工程において、前記隣接領域との重複部分に含まれる全ての前記セルの位置情報を、前記重複部分に含まれる同一のセルについての各領域の画像データに基づいて算出することを特徴とする請求項1から請求項7のいずれかに記載のハニカム構造体のセル位置算出方法。
【請求項9】
前記画像処理工程において、前記隣接領域との重複部分に含まれる複数の前記セルうちの一部のセル位置の情報を、同一のセルについての各領域の画像データに基づいて算出するとともに、
当該算出した一部のセル位置の情報を用いて、当該重複部分における他のセル位置の情報を算出することを特徴とする請求項1から請求項7のいずれかに記載のハニカム構造体のセル位置算出方法。
【請求項10】
隔壁により仕切られた複数のセルを備えたハニカム構造体において、そのハニカム構造体の端面を撮像手段により撮像し、それにより得られた画像データにより前記セルの位置情報を算出する装置であって、
前記端面において隣接領域との境界部分が互いに重複するように分割された複数の領域の画像データを得るべく、前記撮像手段と前記ハニカム構造体との少なくともいずれかを相対的に移動させて前記撮像手段に各領域を撮像させる手段と、
前記隣接領域との境界部分が互いに重複する部分における前記セル位置の情報を、同一の前記セルについて前記撮像手段を用いて得られた各領域の画像データに基づいて算出する手段と備えることを特徴とするハニカム構造体のセル位置算出装置。
【請求項11】
隔壁により仕切られた複数のセルを備え、端面において一部の前記セルを閉塞してなるハニカム構造体を製造する方法において、
請求項1から請求項9のいずれかに記載のセル位置算出方法により前記ハニカム構造体の端面におけるセル位置情報を算出するセル位置算出工程と、
前記構造体本体の端面を覆うようにフィルムを貼り付けるフィルム貼付工程と、
前記セル位置情報に基づいて閉塞すべき前記セル位置の前記フィルムを溶融又は焼却除去して貫通穴を形成する貫通穴形成工程と、
スラリーに前記端面を浸漬し、前記貫通穴を通じて前記スラリーを前記セルの端部に浸入させる浸漬工程と、
前記スラリーを硬化させるスラリー硬化工程と、
前記フィルムを除去するフィルム除去工程とを有することを特徴とするハニカム構造体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−55338(P2008−55338A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−236256(P2006−236256)
【出願日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】