説明

ハニカム構造体及びハニカム触媒体

【課題】従来のハニカム触媒体より多くの触媒を担持することができ、かつ圧力損失が小さいハニカム触媒体の担体として使用可能なハニカム構造体を提供する。
【解決手段】流体の流路となる複数のセル4を区画形成する多孔質の隔壁5を備え、この隔壁5が、隣り合うセル4を連通する複数の連通孔10が形成されたものであり、セル4の延びる方向に直交する断面における連通孔10の開口径の値が、上記断面において連通孔10内に描かれる隔壁5表面に平行な直線のうちの最長の直線の長さの値より小さく、上記断面において、連通孔10が、上記最長の直線を境界線として最長の直線から開口に向かうに従って連通孔10を形成する側壁の間の距離が短くなる孔であるハニカム構造体100。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハニカム構造体及びハニカム触媒体に関する。更に詳しくは、従来のハニカム触媒体より多くの触媒を担持することができ、かつ圧力損失が小さいハニカム触媒体の担体として使用可能なハニカム構造体及びハニカム触媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、各種エンジン等から排出される排ガスを浄化するために、ハニカム構造体に触媒を担持したハニカム触媒体が用いられている。このようなハニカム触媒体は、流入側の端面から各セルに流体(排ガス)を流入させると、排ガスに含まれる一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)、窒素酸化物(NO)等の有害物質を触媒により浄化するものである。
【0003】
このようなハニカム触媒体に使用されるハニカム構造体は、ハニカム触媒体における排ガスの浄化性能を高めるために以下のように作製されている。即ち、触媒が担持される幾何学的面積が大きくなるように作製されている(例えば、特許文献1,2を参照)。このように触媒が担持される幾何学的面積が大きくなると、排ガスと触媒との接触効率が高まる。そのため、ハニカム触媒体における排ガスの浄化性能が高まる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−33664号公報
【特許文献2】特開2001−269585号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、排ガス規制が厳しくなっている。そのため、ハニカム触媒体における触媒の担持量が非常に多くなることが予定されている。なお、ハニカム触媒体としては、ガソリン用の三元触媒(TWC)、NO吸蔵還元触媒(LNT)、ディーゼル酸化触媒(DOC)、NO選択還元触媒(SCR)などが挙げられる。そこで、従来のハニカム触媒体に比べて多くの触媒を担持させることができ、かつ、多くの触媒を担持させたとしても圧力損失が増大し難い(即ち、圧力損失が低い)ハニカム構造体の開発が切望されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1,2に記載のハニカム触媒体の担体(ハニカム構造体)は、隔壁に形成された気孔(細孔)に触媒を入れ込ませることが難しい。そのため、触媒の担持量を増やすことが困難である。そして、たとえ触媒の担持量を増やすことができたとしても、触媒によって気孔が塞がれてしまうことがある。そのため、圧力損失が増大してしまうという問題があった。
【0007】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものである。その課題とするところは、従来のハニカム触媒体より多くの触媒を担持することができ、かつ圧力損失が小さいハニカム触媒体の担体として使用可能なハニカム構造体及びハニカム触媒体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、以下に示す、ハニカム構造体及びハニカム触媒体が提供される。
【0009】
[1] 流体の流路となる複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁を備え、前記隔壁が、隣り合うセルを連通する複数の連通孔が形成されたものであり、前記セルの延びる方向に直交する断面における前記連通孔の開口径の値が、前記断面において前記連通孔内に描かれる前記隔壁表面に平行な直線のうちの最長の直線の長さの値より小さく、前記断面において、前記連通孔が、前記最長の直線を境界線として前記最長の直線から前記開口に向かうに従って前記連通孔を形成する側壁の間の距離が短くなる孔であるハニカム構造体。
【0010】
[2] 前記セルの延びる方向に直交する断面における前記連通孔の総数が、1〜40個である前記[1]に記載のハニカム構造体。
【0011】
[3] 前記連通孔が、式:0<(前記開口径/前記最長の直線の長さ)<(√3)/2を満たす孔であり、前記隔壁の、セルの延びる方向に直交する断面における厚さtと前記最長の直線の長さとが、式:1<(前記最長の直線の長さ/前記厚さt)<2を満たす関係にある前記[1]または[2]に記載のハニカム構造体。
【0012】
[4] 前記隔壁の気孔率が、40〜70%である前記[1]〜[3]のいずれかに記載のハニカム構造体。
【0013】
[5] 前記[1]〜[4]のいずれかに記載のハニカム構造体と、前記ハニカム構造体の前記隔壁の細孔の内表面、前記隔壁表面、及び、前記隔壁の前記連通孔内表面に担持された触媒と、を備えるハニカム触媒体。
【0014】
[6] 前記触媒が、白金、ロジウム、パラジウム、金属置換ゼオライト、バナジウム、チタニア、酸化タングステン、銀、アルミナ、セリア、及びジルコニアからなる群より選択される少なくとも一種を含有する前記[5]に記載のハニカム触媒体。
【発明の効果】
【0015】
本発明のハニカム構造体は、流体の流路となる複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁を備え、上記隔壁が、隣り合うセルを連通する複数の連通孔が形成されたものである。そして、上記連通孔は、以下の条件を満たす孔である。即ち、上記セルの延びる方向に直交する断面における上記連通孔の開口径の値が、上記断面において上記連通孔内に描かれる上記隔壁表面に平行な直線のうちの最長の直線の長さの値より小さい。更に、上記断面において、上記連通孔が、上記最長の直線を境界線として上記最長の直線から上記開口に向かうに従って上記連通孔を形成する側壁の間の距離が短くなる。そのため、本発明のハニカム構造体に触媒を担持させるときに上記連通孔に触媒が良好に入り込み、連通孔の表面に担持されることになる。そのため、従来のハニカム触媒体より多くの触媒が担持されたハニカム触媒体を得ることができる。また、本発明のハニカム構造体の隔壁には「複数の連通孔が形成され」ている。そのため、従来より多くの触媒を担持させたとしても、上記複数の連通孔によって流体の流路が確保される。その結果、ハニカム触媒体の圧力損失の増大を抑制することができる。即ち、圧力損失が小さいハニカム触媒体が得られる。
【0016】
本発明のハニカム触媒体は、「本発明のハニカム構造体と、前記ハニカム構造体の前記隔壁の細孔の内表面、前記隔壁表面、及び、前記隔壁の前記連通孔内表面に担持された触媒と、を備える」ものである。そのため、本発明のハニカム触媒体は、従来のハニカム触媒体より多くの触媒を担持しており、かつ圧力損失が小さい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明のハニカム構造体の一実施形態を模式的に示す斜視図である。
【図2】図1に示すハニカム構造体の、セルが延びる方向に直交する断面を模式的に示す断面図である。
【図3】図2に示すハニカム構造体の隔壁の一部を拡大して模式的に示す断面図である。
【図4】図2に示すハニカム構造体の隔壁の他の一部を拡大して模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について説明する。本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0019】
[1]ハニカム構造体:
本発明のハニカム構造体の一実施形態は、図1、図2に示すハニカム構造体100のように、流体の流路となる複数のセル4を区画形成する多孔質の隔壁5備えている。ハニカム構造体100の多孔質の隔壁5は、隣り合うセル4を連通する複数の連通孔10が形成されたものである。そして、連通孔10は、セル4の延びる方向に直交する断面における開口径Xの値が、上記断面において連通孔10内に描かれる隔壁5を表面に平行な直線のうちの最長の直線12の長さ(以下、「最大径Y」と記す場合がある)の値より小さい。更に、上記断面において、連通孔10は、上記最長の直線12を境界線として最長の直線12から開口に向かうに従って「連通孔10を形成する側壁21,21」の間の距離が短くなっている。
【0020】
このようなハニカム構造体100は、流体の流路となる複数のセル4を区画形成する多孔質の隔壁5を備えている。そして、この隔壁5は、隣り合うセル4を連通する複数の連通孔10が形成されたものである。更に、連通孔10が下記条件を満たす孔である。即ち、連通孔10は、セル4の延びる方向に直交する断面における開口径Xの値が、上記断面において連通孔10内に描かれる隔壁5表面に平行な直線のうちの最長の直線12の長さ(最大径Y)の値より小さい。更に、上記断面において、連通孔10は、上記最長の直線12を境界線として最長の直線12から開口に向かうに従って「連通孔10を形成する側壁21,21」の間の距離が短くなる。そのため、ハニカム構造体100に触媒を担持させるときにいわゆるアンカー効果が生じる。従って、上記連通孔10に触媒が良好に入り込み、連通孔10の表面に担持されることになる。そのため、従来のハニカム触媒体より多くの触媒が担持されたハニカム触媒体を得ることができる。また、ハニカム構造体100の隔壁5には「複数の連通孔10が形成され」ている。そのため、従来より多くの触媒を担持させたとしても、上記複数の連通孔10によって流体の流路が確保される。その結果、ハニカム触媒体の圧力損失の増大を抑制することができる。即ち、圧力損失が小さいハニカム触媒体が得られる。図1は、本発明のハニカム構造体の一実施形態を模式的に示す斜視図である。図2は、図1に示すハニカム構造体の、セルが延びる方向に直交する断面を模式的に示す断面図である。
【0021】
[1−1]隔壁:
隔壁5の厚さは、0.060〜0.288mmであることが好ましく、0.108〜0.240mmであることが更に好ましく、0.132〜0.192mmであることが特に好ましい。隔壁5の厚さが上記範囲であることにより、圧力損失の増大を防止することができる。隔壁5の厚さは、中心軸に平行な断面を電子顕微鏡で観察して測定した値である。
【0022】
隔壁5の気孔率は、40〜70%であることが好ましく、45〜65%であることが更に好ましく、50〜60%であることが特に好ましい。隔壁5の気孔率が上記範囲であると、ハニカム構造体の強度を適度に維持しつつ、圧力損失の増大を防止することができる。隔壁5の気孔率は、水銀ポロシメータにより測定した値である。
【0023】
ハニカム構造体100のセル密度は、15〜140個/cmであることが好ましく、31〜116個/cmであることが更に好ましく、46〜93個/cmであることが特に好ましい。上記セル密度が上記範囲であると、圧力損失の増大を良好に防止することができる。セル密度は、セルの延びる方向に直交する断面における、単位面積当たりのセルの個数である。
【0024】
隔壁5は、セラミックを主成分とするものであることが好ましい。隔壁5の材質としては、具体的には、炭化珪素、珪素−炭化珪素系複合材料、コージェライト、ムライト、アルミナ、スピネル、炭化珪素−コージェライト系複合材料、リチウムアルミニウムシリケート、及びアルミニウムチタネートからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。これらの中でも、コージェライトが好ましい。得られるハニカム構造体は、熱膨張係数が小さく、耐熱衝撃性に優れるためである。なお、「セラミックを主成分とする」というときは、セラミックを全体の50質量%以上含有することをいう。
【0025】
[1−1−1]連通孔:
連通孔10は、上述したように、隣り合うセル4を連通するように形成されている。更に、連通孔10は、開口径Xの値が、セル4の延びる方向に直交する断面において、「連通孔10内に描かれる隔壁5表面に平行な直線(線分)」のうちの「最長の直線(線分)12」の長さの値より小さい孔である。このような連通孔10を形成することにより、触媒を担持させる際にいわゆるアンカー効果が生じる。そのため、ハニカム構造体に触媒を担持させる際に(即ち、触媒用スラリーをハニカム構造体に塗工した際に)、触媒が連通孔10に入り込み易くなる。その結果、ハニカム構造体に、従来のハニカム触媒体の触媒担持量よりも多くの触媒を担持させることができる。なお、従来のハニカム触媒体の触媒担持量は、100〜200g/Lである。一方、本発明のハニカム構造体を用いれば、触媒担持量200〜300g/Lのハニカム触媒体を得ることができる。そして、本発明のハニカム構造体を用いれば、上記触媒担持量であっても、圧力損失は増大せずに従来のハニカム触媒体の圧力損失と同程度の圧力損失が維持される。なお、「連通孔の開口径」というときは、連通孔によって連通される隣り合うセルの一方のセル側の開口径及び他方のセル側の開口径の両方の開口径を意味する。即ち、「開口径の値が「最長の直線」の長さ(最大径Y)の値より小さい」というときは、隣り合うセルの一方のセル側の開口径の値及び他方のセル側の開口径の値のいずれもが最大径Yの値より小さいことを意味する。「連通孔10内に描かれる隔壁5表面に平行な直線」とは、各連通孔10が形成された各隔壁5の厚さ方向に直交する直線(線分)であって連通孔10内に描かれる直線(線分)のことである。
【0026】
連通孔10は、図3、図4に示すように、セル4の延びる方向に直交する断面において、「最長の直線12」を境界線として上記「最長の直線12」から開口14に向かうに従って「連通孔10を形成する側壁21,21」の間の距離が短くなる孔である。即ち、セル4の延びる方向に直交する断面において連通孔10内に描かれる「隔壁5表面に平行な直線」のうち、「一方の側壁21上の点と他方の側壁21上の点とを結んで描かれる直線(線分)」を「孔内線分」とする。連通孔10は、この孔内線分の長さが、境界線である「最長の直線12」から開口14に向かうに従って短くなるような孔である。「開口14に向かうに従って」とは、「一方の開口14及び他方の開口14のそれぞれに向かうに従って」ということを意味する。このような連通孔10を形成することにより、ハニカム構造体に触媒用スラリーを塗工した際に、いわゆるアンカー効果によって触媒が連通孔10に良好に入り込む。そのため、ハニカム構造体100に多くの触媒を担持させることができる。側壁21,21の間の距離は、連続的に短くなってもよいし、段階的に短くなってもよい。「側壁21,21の間の距離が連続的に短くなる」場合は、具体的には、連通孔10が略球形状の空洞である場合などが挙げられる。図3、図4は、側壁21,21の間の距離が連続的に短くなっている連通孔10を示している。図3は、図2に示すハニカム構造体の隔壁の一部を拡大して模式的に示す断面図である。図4は、図2に示すハニカム構造体の隔壁の他の一部を拡大して模式的に示す断面図である。
【0027】
連通孔10は、セルの延びる方向に直交する断面における総数が、1〜40個であることが好ましい。このように連通孔10の総数が上記範囲であると、圧力損失が小さく、かつ、強度(A軸圧縮強度)が良好であるハニカム構造体を得ることができる。
【0028】
ハニカム構造体100は、以下の条件を満たすことが好ましい。即ち、連通孔10は、式:0<(開口径X/最大径Y)<(√3)/2を満たす孔である。更に、隔壁5の、セル4の延びる方向に直交する断面における厚さtと最大径Yとが、式:1<(最大径Y/厚さt)<2を満たす関係にある。上記式の両方を満たすことにより、圧力損失が更に小さいハニカム構造体を得ることができる。
【0029】
セル4は、ハニカム構造体100の一方の端面2から他方の端面3まで貫通する、流体の流路となるものである。図1に示すハニカム構造体100のセル4は、流入端面(一方の端面2)における開口部の外周縁の形状が四角形のセルである。即ち、セル4は、セルの延びる方向に直交する断面において四角形のセルである。なお、流入端面における開口部の外周縁の形状は特に制限はなく、例えば、三角形、四角形、六角形などの多角形、円形、楕円形などとすることができる。また、流出端面(他方の端面3)における開口部の外周縁の形状も特に制限はなく、流入端面における開口部の外周縁の形状と同じであっても良いし異なっていてもよい。例えば、三角形、四角形、八角形などの多角形、円形、楕円形などとすることができる。
【0030】
図1に示すハニカム構造体100は、外周に配設された外周壁7を有している。外周壁7の厚さは、特に限定されないが、0.2〜4.0mmが好ましい。外周壁7の厚さを上記範囲とすることにより、ハニカム構造体の強度を適度に維持しつつ、圧力損失の増大を防止することができる。
【0031】
外周壁7の材質は、隔壁5と同じであることが好ましいが、異なっていてもよい。
【0032】
ハニカム構造体100の形状は、特に限定されない。円筒形状、底面が楕円形の筒形状、底面が四角形、五角形、六角形等の多角形の筒形状等が好ましく、円筒形状であることが更に好ましい。また、ハニカム構造体100の大きさは、特に限定されないが、セルの延びる方向における長さが50〜300mmであることが好ましい。また、例えば、ハニカム構造体100の外形が円筒形の場合、その底面の直径は、110〜350mmであることが好ましい。
【0033】
ハニカム構造体の中心軸方向の長さは、通常、50〜300mmである。
【0034】
[2]ハニカム構造体の製造方法:
本発明のハニカム構造体は、例えば以下のように製造することができる。セラミック原料及び造孔材を含有する成形原料を混練して坏土を得る坏土調製工程と、坏土を押出成形して複数のセルが形成されたハニカム成形体を得る成形工程と、ハニカム成形体を焼成して隔壁を備えたハニカム構造体を得る焼成工程と、を有する方法である。この方法では、隔壁の、セルの延びる方向に直交する断面における厚さより大きな平均粒子径の造孔材を用いる。
【0035】
このようなハニカム構造体の製造方法は、隔壁の、セルの延びる方向に直交する断面における厚さより大きな平均粒子径の造孔材を用いる。そのため、「隣り合うセルを連通する複数の連通孔が形成され」かつ「前記連通孔の開口径の値が、前記連通孔内に描かれる前記隔壁表面に平行な直線のうちの最長の直線の長さの値より小さい」隔壁を備えるハニカム構造体を作製することができる。即ち、従来のハニカム触媒体より多くの触媒を担持することができ、かつ圧力損失が小さいハニカム触媒体の担体として使用可能なハニカム構造体を作製することができる。
【0036】
本発明のハニカム構造体を製造する方法について、以下に具体的に説明する。
【0037】
[2−1]坏土調製工程:
本工程においては、セラミック原料及び造孔材を含有する成形原料を混合し混練して坏土を得る。そして、本工程では、造孔材として、隔壁の、セルの延びる方向に直交する断面における厚さより大きな平均粒子径の造孔材を用いる。このような造孔材を使用することにより、得られるハニカム構造体の隔壁に上述した連通孔が複数形成されることになる。
【0038】
造孔材としては、例えば、澱粉、発泡樹脂、吸水性樹脂、シリカゲルなどを用いることができる。
【0039】
造孔材の平均粒子径は、隔壁の、セルの延びる方向に直交する断面における厚さより大きい限り特に制限はない。具体的には、50〜200μmであることが好ましい。
【0040】
なお、造孔材としては、従来公知の平均粒子径のものを併用することが好ましい。多孔質の隔壁を形成するため、即ち、多数の細孔を形成するためである。従来公知の造孔材の平均粒子径は、通常、1〜30μmである。
【0041】
成形原料中の造孔材の含有量は、セラミック原料100質量部に対して、1〜8質量部であることが好ましい。造孔材の含有量が上記範囲であると、多くの触媒を担持することができるハニカム構造体を作製することができる。更に、多くの触媒を担持していても圧力損失の低いハニカム触媒体を得ることができる。
【0042】
セラミック原料としては、炭化珪素、珪素−炭化珪素系複合材料、コージェライト化原料、ムライト、アルミナ、スピネル、炭化珪素−コージェライト系複合材料、リチウムアルミニウムシリケート、及びアルミニウムチタネートからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。これらの中でも、コージェライト化原料が好ましい。コージェライト化原料であると、熱膨張係数が小さく、耐熱衝撃性に優れたハニカム構造体が得られるためである。
【0043】
成形原料は、セラミック原料及び造孔材以外に、分散媒、添加剤などを含むものであってもよい。
【0044】
分散媒としては、水等を挙げることができる。添加剤としては、有機バインダ、界面活性剤等を挙げることができる。分散媒の含有量は、セラミック原料100質量部に対して、30〜150質量部であることが好ましい。
【0045】
有機バインダとしては、メチルセルロース、ヒドロキシプロポキシルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール等を挙げることができる。これらの中でも、メチルセルロースとヒドロキシプロポキシルセルロースとを併用することが好ましい。有機バインダの含有量は、セラミック原料100質量部に対して、1〜10質量部であることが好ましい。
【0046】
界面活性剤としては、エチレングリコール、デキストリン、脂肪酸石鹸、ポリアルコール等を用いることができる。これらは、一種単独で使用してもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。界面活性剤の含有量は、セラミック原料100質量部に対して、0.1〜5.0質量部であることが好ましい。
【0047】
成形原料を混練して坏土を形成する方法としては、特に制限はなく、例えば、ニーダー、真空土練機等を用いる方法を挙げることができる。
【0048】
[2−2]成形工程:
本工程では、坏土調製工程で得られた坏土をハニカム形状に押出成形して一方の端面から他方の端面まで貫通する複数のセルが形成されたハニカム成形体を得る。押出成形は、所望のセル形状、隔壁厚さ、セル密度を有する口金を用いて行うことができる。口金の材質としては、摩耗し難い超硬合金が好ましい。
【0049】
[2−3]焼成工程:
本工程では、得られたハニカム成形体を焼成して流体の流路となる複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁を備えたハニカム構造体を得る。
【0050】
焼成温度は、ハニカム成形体の材質よって適宜決定することができる。例えば、ハニカム成形体の材質がコージェライトの場合、焼成温度は、1380〜1450℃が好ましく、1400〜1440℃が更に好ましい。また、焼成時間は、3〜10時間程度とすることが好ましい。
【0051】
ハニカム成形体を焼成する前に乾燥させてもよい。乾燥方法は、特に限定されるものではない。例えば、熱風乾燥、マイクロ波乾燥、誘電乾燥、減圧乾燥、真空乾燥、凍結乾燥等を挙げることができる。これらの中でも、誘電乾燥、マイクロ波乾燥又は熱風乾燥を単独で又は組合せて行うことが好ましい。また、乾燥条件としては、乾燥温度30〜150℃、乾燥時間1分〜2時間とすることが好ましい。
【0052】
[3]ハニカム触媒体:
本発明のハニカム触媒体は、本発明のハニカム構造体と、このハニカム構造体の隔壁の細孔の内表面、隔壁表面、及び、隔壁の連通孔内表面に担持された触媒と、を備えるものである。このようなハニカム触媒体は、本発明のハニカム構造体と上記触媒とを備えるため、従来のハニカム触媒体より多くの触媒を担持しており、かつ従来のハニカム触媒体と同程度の圧力損失であるかまたは圧力損失が小さい。そのため、排ガス規制が厳しくなった際にもハニカム触媒体として良好に使用することができる。
【0053】
本発明のハニカム触媒体は、排ガスを、流入側の端面(一方の端面)から所定のセルに流入させ、その後、この所定のセルに流入した排ガスを、隔壁を透過させる。このとき、触媒により排ガス中の有害物質を浄化することができる。「排ガス」は、自動車用、建設機械用、及び産業用定置エンジン、並びに燃焼機器等から排出されるガスのことである。「有害物質」は、一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)、窒素酸化物(NO)等のことである。このようにして隔壁を透過した透過流体(浄化ガス)は、所定のセルに隣接するセル(残余のセル)の流出側の端面(他方の端面)の開口部から流出される。排ガスは、隔壁に形成された複数の連通孔にも流入し、連通孔を通過して残余のセルに流れ込む。このように複数の連通孔にも排ガスが流入する。即ち、複数の連通孔によって排ガスの流路が確保される。そのため、ハニカム触媒体における圧力損失の増大を防止することができる。
【0054】
[3−1]触媒:
触媒は、目的に応じて適宜決定することができる。例えば、三元触媒、酸化触媒、NO選択還元触媒、NO吸蔵還元触媒などを挙げることができる。触媒の単位体積当りの担持量は、100〜300g/Lであることが好ましく、150〜250g/Lであることが更に好ましい。
【0055】
三元触媒とは、主に炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NO)を浄化する触媒のことをいう。例えば、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)を含む触媒を挙げることができる。この三元触媒により、炭化水素は酸化されて水と二酸化炭素になる。一酸化炭素は酸化されて二酸化炭素になる。窒素酸化物は還元されて窒素になる。このようにして、それぞれ酸化または還元によって浄化される。
【0056】
酸化触媒としては、貴金属を含有するものを挙げることができる。具体的には、白金(Pt)、パラジウム(Pd)及びロジウム(Rh)からなる群より選択される少なくとも一種を含有するものが好ましい。
【0057】
NO選択還元触媒としては、金属置換ゼオライト、バナジウム、チタニア、酸化タングステン、銀、アルミナ、セリア、及びジルコニアからなる群より選択される少なくとも1種を含有するものを挙げることができる。
【0058】
NO吸蔵還元触媒としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、これらの両方からなるもの等を挙げることができる。アルカリ金属としては、K、Na、Li等を挙げることができる。アルカリ土類金属としては、Caなどを挙げることができる。
【0059】
[4]ハニカム触媒体の製造方法:
本発明のハニカム触媒体は、例えば以下のように製造することができる。
【0060】
まず、触媒担体としてハニカム構造体を作製する。このハニカム構造体は、上述した本発明のハニカム構造体の製造方法に従って作製することができる。
【0061】
次に、得られたハニカム構造体の隔壁の細孔の内表面、隔壁表面、及び、隔壁の連通孔内表面に触媒を担持させ。このようにして、ハニカム触媒体を製造することができる。触媒の担持方法については特に制限はない。従来公知のハニカム触媒体の製造方法において用いられる方法に従って触媒を担持することができる。例えば、以下の方法等を挙げることができる。まず、触媒を含有する触媒スラリーを調製する。その後、調製した触媒スラリーを、ディッピングや吸引によりセル内に流入させる。この触媒スラリーは、セル内の隔壁の表面全体に塗工することが好ましい。そして、触媒スラリーをセル内に流入させた後に、余剰スラリーを圧縮空気で吹き飛ばす。その後、触媒スラリーを乾燥、焼付けする。焼き付け条件は450〜700℃、0.5〜6時間とすることができる。このようにして、ハニカム構造体に触媒を担持させることができる。
【実施例】
【0062】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0063】
[気孔率(%)]:
気孔率(%)は、水銀ポロシメータ(水銀圧入法)によって測定した。水銀ポロシメータとしては、Micromeritics社製、商品名:Auto Pore III 型式9405を用いた。
【0064】
[触媒担持量(g/L)]:
ハニカム構造体の容積1L当りの、三元触媒の担持量(g/L)を算出した。
【0065】
[貴金属担持量(g/L)]:
ハニカム構造体の容積1L当りの、三元触媒に含まれる基金属の担持量(g/L)を算出した。貴金属は、白金(Pt)とロジウム(Rh)との割合(Pt:Rh)が、5:1となるように構成されている。
【0066】
[連通孔の総数]:
セルの延びる方向に直交する断面における連通孔の総数は、走査型電子顕微鏡(SEM)によって求めた。具体的には、SEMによってセルの延びる方向に直交する断面を撮影し、撮影されたSEM写真中の連通孔の総数を数えることにより求めた。
【0067】
(実施例1)
[ハニカム構造体(A)の作製]
コージェライト化原料として、アルミナ、水酸化アルミニウム、カオリン、タルク、及びシリカを使用した。コージェライト化原料100質量部に、造孔材を5質量部、分散媒を85質量部、有機バインダを8質量部、界面活性剤を3質量部、それぞれ添加し、混合、混練して坏土を調製した。分散媒として水を使用した。造孔材としては平均粒子径20〜50μmのコークスを使用した。有機バインダとしてはヒドロキシプロピルメチルセルロースを使用した。分散剤としてはエチレングリコールを使用した。
【0068】
次に、所定の金型を用いて坏土を押出成形し、セル形状が四角形(セルの延びる方向に直交する断面において四角形のセル)で、全体形状が円柱形(円筒形)のハニカム成形体を得た。そして、ハニカム成形体をマイクロ波乾燥機で乾燥した。その後、更に熱風乾燥機で完全に乾燥させた。その後、乾燥させたハニカム成形体の両端面を切断し、所定の寸法に整えた。
【0069】
その後、得られたハニカム成形体を、更に、1410〜1440℃で、5時間、焼成した。このようにしてハニカム構造体を得た。
【0070】
次に、平均粒子径が40μmであるγAlと平均粒子径が1.5μmであるCeOとの混合物粒子(比表面積50m/g)をボールミルにて湿式解砕した。このようにして細孔を有する平均粒子径2.0μmの解砕粒子を得た。得られた解砕粒子を、Pt及びRhを含む溶液に浸漬して解砕粒子の細孔内にPt及びRhを担持させた。その後、Pt及びRhを担持させた解砕粒子に、酢酸及び水を加えて三元触媒コート用スラリーを得た。そして、この三元触媒コート用スラリーに作製したハニカム構造体を浸漬させた。このようにして、ハニカム構造体の隔壁表面、隔壁の細孔表面、及び、隔壁の連通孔内表面に三元触媒をコートして三元触媒層を形成した。その後、乾燥させ、更に600℃で3時間焼成させることによってハニカム触媒体を得た。
【0071】
得られたハニカム触媒体は、直径が25mmであった。中心軸方向の長さ(表1中、「長さ」と記す)は50mmであった。隔壁の厚さ(表1中、「隔壁厚さt」と記す)は114.3μmであった。隔壁の気孔率が50%であった。セル密度は62個/cmであった。ハニカム触媒体の酸化物(γAlとCeO)の担持量(表1中、「触媒担持量」と記す)は260g/Lであった。ハニカム触媒体の単位体積当たりの貴金属の担持量(表1中、「貴金属量」と記す)は3.00g/Lであった。また、触媒層の平均細孔径は、解砕粒子の平均粒子径と同じ2.0μmであった。結果を表1に示す。
【0072】
また、得られたハニカム触媒体は、開口径Xは277μmであった。連通孔の最大径Yは300μmであった。(開口径X/最大径Y)の値(表2中、「X/Y」と記す)は0.92であった。(最大径Y/厚さt)の値(表2中、「Y/t」と記す)は2.6であった。連通孔の総数(表2中、「連通孔個数」と記す)は15個であった。結果を表2に示す。
【0073】
なお、本実施例において「開口径X」は、セルの延びる方向に直交する断面において複数の連通孔が存在する場合には、複数の連通孔の開口径の平均値を示す。「最大径Y」は、セルの延びる方向に直交する断面において複数の連通孔が存在する場合には、複数の連通孔の「最大径Y」の平均値を示す。
【0074】
【表1】

【0075】
【表2】

【0076】
作製したハニカム触媒体について、[圧力損失]、[A軸圧縮強度]、及び[浄化性能]の各評価を行った。各評価の評価方法を以下に示す。
【0077】
[圧力損失]
室温条件下、0.5m/分の流速でエアーを試料(ハニカム触媒体)に流通させ、試料前後の差圧(エアー流入側の圧力とエアー流出側の圧力との差)を測定する。このようにして、圧力損失を算出した。なお、表2中、「圧力損失比」とは、比較例2のハニカム触媒体の圧力損失に対する、実施例1〜17、比較例1,3の各ハニカム触媒体の圧力損失の比の値を意味する。圧力損失は、圧力損失比が0.80以下である場合には「A」とした。0.80超で1.00未満の場合には「B」とした。1.00以上である場合には「C」とした。このようにして評価した。
【0078】
[A軸圧縮強度]
A軸圧縮強度とは、社団法人自動車技術会発行の自動車規格であるJASO規格M505−87に規定されている圧縮強度(MPa)のことである。具体的には、ハニカム構造体(ハニカム触媒体)に、その中心軸方向に圧縮荷重を負荷したときの破壊強度である。ハニカム構造体が破壊されるときの圧力を「A軸圧縮強度」とする。本実施例において、A軸圧縮強度の測定を行い、評価を行った。評価基準は、A軸圧縮強度が1.00MPa以上である場合には「A」とした。1.00MPa未満で0.50MPa以上の場合には「B」とした。0.50MPa未満の場合には「C」とした。
【0079】
[浄化性能]
まず、本実施例のハニカム触媒体を三元触媒用試験片とし、この三元触媒用試験片に、NOを含む試験用ガスを流した。次に、このハニカム触媒体(三元触媒用試験片)から排出された排出ガスのNO量をガス分析計で分析した。
【0080】
ここで、三元触媒用試験片に流入させる試験用ガスの温度を200℃とした。なお、三元触媒用試験片及び試験用ガスは、ヒーターにより温度調整することができるようにしておいた。ヒーターとしては、赤外線イメージ炉を用いた。試験用ガスとしては、具体的には、窒素に、二酸化炭素5体積%、酸素14体積%、一酸化窒素350ppm(体積基準)、及び水10体積%が混合されたガスを用いた。この試験用ガスは、水と、その他のガスを混合した混合ガスと、を別々に準備しておき、試験を行う際に、配管中で、これらを混合させて得た。ガス分析計としては、HORIBA社製の「MEXA9100EGR」を用いた。また、三元触媒用試験片に流入するときの試験用ガスの空間速度は、50000(時間−1)とした。
【0081】
表2中の「NO浄化率」は、試験用ガスのNO量から、「三元触媒用試験片からの排出ガスのNO量」を差し引いた値を、試験用ガスのNO量で除算して100倍した値である。ここで、NO浄化率が50%以上である場合には「A」とした。30%超で50%未満である場合には「B」とした。30%以下である場合には「C」とした。このようにして浄化性能の評価を行った。
【0082】
本実施例のハニカム触媒体は、圧力損失比が0.93で圧力損失の評価が「B」であった。A軸圧縮強度が1.10でその評価が「A」であった。NO浄化率が61%であった。そして、浄化性能の評価が「A」であった。各測定結果及び各評価結果([圧力損失]、[A軸圧縮強度]、及び[浄化性能])を表2に示す。
【0083】
(実施例2〜17、比較例1〜3)
表1に示す、直径、中心軸方向の長さ、隔壁の厚さ、隔壁の気孔率、及び、セル密度を満たすとともに、表2に示す、開口径X、最大径Y、(開口径X/最大径Y)の値、(最大径Y/厚さt)の値、及び、連通孔の総数を満たすハニカム構造体を作製した。その後、作製したハニカム構造体を用いて、表1に示す触媒担持量及び貴金属量を満たすハニカム触媒体を作製した。作製したハニカム触媒体について、実施例1と同様にして、[圧力損失]、[A軸圧縮強度]、及び[浄化性能]の各評価を行った。結果を表2に示す。
【0084】
(実施例18)
まず、実施例1と同様にしてハニカム構造体を作製した。なお、作製したハニカム構造体は、直径が25mmであった。中心軸方向の長さが50mmであった。隔壁の厚さが114.3μmであった。隔壁の気孔率が50%であった。セル密度が62個/cmであった。
【0085】
次に、平均粒子径5μmのゼオライト200gに水1kg加え、ボールミルにて湿式粉砕して解砕粒子を得た。得られた解砕粒子にバインダーとしてアルミナゾルを20g加えた。このようにしてNO還元触媒スラリーを得た。そして、このNO還元触媒スラリーの中にハニカム構造体を浸漬させた。その後、120℃で20分乾燥させ、600℃で1時間焼成した。このようにしてハニカム触媒体を得た。
【0086】
得られたハニカム触媒体は、ゼオライトの担持量は260g/Lであった。また、得られたハニカム触媒体は、開口径Xが277μmであった。連通孔の最大径Yが300μmであった。(開口径X/最大径Y)の値(表3中、「X/Y」と記す)が0.92であった。(最大径Y/厚さt)の値(表3中、「Y/t」と記す)が2.6であった。連通孔の総数(表3中、「連通孔個数」と記す)が15個であった。結果を表3に示す。
【0087】
作製したハニカム触媒体について、実施例1と同様にして、[圧力損失]、[A軸圧縮強度]、及び[浄化性能]の各評価を行った。なお、本実施例においては[浄化性能]の評価は、上述した[浄化性能]の方法に代えて、以下の方法で行った。結果を表3に示す。
【0088】
[浄化性能]
まず、本実施例のハニカム触媒体をNO還元触媒用試験片とし、このNO還元触媒用試験片に、NOを含む試験用ガスを流した。次に、このハニカム触媒体(NO還元触媒用試験片)から排出された排出ガスのNO量をガス分析計で分析した。
【0089】
ここで、NO還元触媒用試験片に流入させる試験用ガスの温度を200℃とした。なお、NO還元触媒用試験片及び試験用ガスは、ヒーターにより温度調整することができるようにしておいた。ヒーターとしては、赤外線イメージ炉を用いた。試験用ガスとしては、具体的には、窒素に、二酸化炭素5体積%、酸素14体積%、一酸化窒素350ppm(体積基準)、アンモニア350ppm(体積基準)及び水10体積%が混合されたガスを用いた。この試験用ガスは、水と、その他のガスを混合した混合ガスと、を別々に準備しておき、試験を行う際に、配管中で、これらを混合させて得た。ガス分析計としては、HORIBA社製の「MEXA9100EGR」を用いた。また、NO還元触媒用試験片に流入するときの試験用ガスの空間速度は、50000(時間−1)とした。
【0090】
表3中の「NO浄化率」は、試験用ガスのNO量から、「NO還元触媒用試験片からの排出ガスのNO量」を差し引いた値を、試験用ガスのNO量で除算して100倍した値である。ここで、NO浄化率が50%以上である場合には「A」とした。30%超で50%未満である場合には「B」とした。30%以下である場合には「C」とした。このようにして浄化性能の評価を行った。
【0091】
本実施例のハニカム触媒体は、圧力損失比が0.93で圧力損失の評価が「B」であった。A軸圧縮強度は1.10であった。その評価は「A」であった。NO浄化率は75%であった。浄化性能の評価が「A」であった。各測定結果及び各評価結果([圧力損失]、[A軸圧縮強度]、及び[浄化性能])を表3に示す。
【0092】
【表3】

【0093】
(実施例19〜34、比較例4〜6)
実施例2〜17、比較例1〜3で作製したハニカム構造体と同様のハニカム構造体を用いた。そして、各ハニカム構造体を、実施例18と同様に作製したNO還元触媒スラリー中に浸漬させた。その後、120℃で20分乾燥させ、600℃で1時間焼成した。このようにして実施例19〜34、比較例4〜6の各ハニカム触媒体を得た。なお、各ハニカム触媒体は、ゼオライトの担持量は260g/Lであった。作製した各ハニカム触媒体について、実施例18と同様にして、[圧力損失]、[A軸圧縮強度]、及び[浄化性能]の各評価を行った。結果を表3に示す。
【0094】
表2,3から明らかなように、実施例1〜34のハニカム触媒体は、比較例1〜6のハニカム触媒体に比べて、圧力損失が小さく、従来のハニカム触媒体よりも多くの触媒を担持することができることが確認できた。即ち、圧力損失比を同じとすれば、実施例1〜34のハニカム触媒体は、比較例1〜6のハニカム触媒体に比べて、多くの触媒を担持することができることが確認できた。
【0095】
実施例2,4〜14,17では、「連通孔が、式:0<(開口径X/最大径Y)<(√3)/2を満たす孔」であり、「厚さtと最大径Yとが、式:1<(最大径Y/厚さt)<2を満たす関係」にある。そのため、実施例1,15,16に比べて、「圧力損失」の評価が良好であった。
【0096】
気孔率が同じ(65%)である実施例2,9〜14のうち、実施例9〜14は、「連通孔の総数」が「1〜40個」の範囲内である。一方、実施例2は、「連通孔の総数」が「1〜40個」の範囲外である。そのため、実施例9〜14は、実施例2に比べて、「A軸圧縮強度」の評価が良好であった。
【0097】
実施例1,5〜16では、「気孔率が40〜70%」の範囲内であり、「連通孔の総数が1〜40個」の範囲内である。実施例1,5〜16のうち、実施例5〜14は、式:0<(開口径X/最大径Y)<(√3)/2を満たし、更に、式:1<(最大径Y/厚さt)<2を満たしている。そのため、実施例5〜14は、上記式を満たさない実施例1,15,16に比べて、「圧力損失」及び「A軸圧縮強度」の評価がいずれも良好であり、圧力損失比及びA軸圧縮強度のバランスが良好であった。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明のハニカム構造体及びハニカム触媒体は、エンジンから排出される排ガスの浄化に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0099】
2:一方の端面、3:他方の端面、4:セル、5:隔壁、7:外周壁、10:連通孔、12:最長の直線、14:開口、21:側壁、100:ハニカム構造体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体の流路となる複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁を備え、
前記隔壁が、隣り合うセルを連通する複数の連通孔が形成されたものであり、
前記セルの延びる方向に直交する断面における前記連通孔の開口径の値が、前記断面において前記連通孔内に描かれる前記隔壁表面に平行な直線のうちの最長の直線の長さの値より小さく、
前記断面において、前記連通孔が、前記最長の直線を境界線として前記最長の直線から前記開口に向かうに従って前記連通孔を形成する側壁の間の距離が短くなる孔であるハニカム構造体。
【請求項2】
前記セルの延びる方向に直交する断面における前記連通孔の総数が、1〜40個である請求項1に記載のハニカム構造体。
【請求項3】
前記連通孔が、式:0<(前記開口径/前記最長の直線の長さ)<(√3)/2を満たす孔であり、
前記隔壁の、セルの延びる方向に直交する断面における厚さtと前記最長の直線の長さとが、式:1<(前記最長の直線の長さ/前記厚さt)<2を満たす関係にある請求項1または2に記載のハニカム構造体。
【請求項4】
前記隔壁の気孔率が、40〜70%である請求項1〜3のいずれか一項に記載のハニカム構造体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のハニカム構造体と、前記ハニカム構造体の前記隔壁の細孔の内表面、前記隔壁表面、及び、前記隔壁の前記連通孔内表面に担持された触媒と、を備えるハニカム触媒体。
【請求項6】
前記触媒が、白金、ロジウム、パラジウム、金属置換ゼオライト、バナジウム、チタニア、酸化タングステン、銀、アルミナ、セリア、及びジルコニアからなる群より選択される少なくとも一種を含有する請求項5に記載のハニカム触媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−213755(P2012−213755A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−35348(P2012−35348)
【出願日】平成24年2月21日(2012.2.21)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】