説明

ハニカム構造体

【課題】排ガス中の粒子状物質(パティキュレート)等を捕集するフィルタとして特に有用な、コーティング材による被覆後における小孔やクラック等の欠陥の発生が確実に抑制された、耐久性に優れたハニカム構造体を提供する。
【解決手段】複数のハニカムセグメントが接合材によって一体的に接合されてなり、かつその接合体の外周面が主成分としてセラミックスを含有するとともに粒状のフィラーと水9〜13質量%とを含有するコーティング材によって被覆されてなり、粒状のフィラーが塗布性および延び性を前記コーティング材に付与するものであることを特徴とするハニカム構造体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハニカムセグメントの複数が接合材によって一体的に接合されたハニカム構造体に関する。さらに詳しくは、排ガス中の粒子状物質(パティキュレート)等を捕集するフィルタとして特に有用な、コーティング材による被覆後における小孔やクラック等の欠陥の発生が確実に抑制された、耐久性に優れたハニカム構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
排ガス用の捕集フィルタとして、例えば、ディーゼルエンジン等からの排ガスに含まれている粒子状物質(パティキュレート)を捕捉して除去するために、ディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)が、ディーゼルエンジンの排気系等に組み込まれて用いられている。このようなDPFを初めとする排ガス用の捕集フィルタは、ハニカムセグメントの複数が接合材によって一体的に接合されたハニカム構造体から構成されている。
【0003】
このようなハニカム構造体は、例えば、炭化珪素等からなる多孔質の隔壁によって区画、形成された流体の流路となる複数のセルが中心軸方向に互いに並行するように配設された構造を有し、それぞれが全体構造の一部を構成する形状を有するとともに、中心軸に対して垂直な方向に組み付けられることによって全体構造を構成することになる形状を有する複数のハニカムセグメントが、接合材によって一体的に接合されて、中心軸に対して垂直な平面で切断した全体の断面形状が円形等の所定の形状となるように成形された後、その外周面がコーティング材により被覆された構造となっている。隣接したセルの端部は、交互に目封じされている。すなわち、一のセルは、一方の端部が開口し、他方の端部が目封じされており、これと隣接する他のセルは一方の端部が目封じされ、他方の端部が開口している。
【0004】
このような構造とすることにより、一方の端部から所定のセル(流入セル)に流入させた排ガスを、多孔質の隔壁を通過させることによって流入セルに隣接したセル(流出セル)を経由して流出させ、隔壁を通過させる際に排ガス中の粒子状物質(パティキュレート)を隔壁に捕捉させることによって、排ガスの浄化をすることができる。
【0005】
このようなハニカム構造体に用いられる、複数のハニカムセグメントを一体的に接合するための接合材及びその外周面を被覆するためのコーティング材に対しては、良好な塗布性が要求される。特に、接合材においては、ハニカムセグメントの圧着時に良好な延び性をも要求される。これらの特性を得るためには、塗布時の接合材及びコーティング材の粘度を下げることが有効な手段であるが、低粘度の接合材及びコーティング材においては、用いる溶媒量が多くなるため、乾燥時における脱溶媒収縮量が大きくなる。このため、接合材による接合後において、接合部剥れやクラック等の欠陥が発生し易く、またコーティング材による被覆後において、小孔、クラック、擦れ等の欠陥が発生し易いという問題があった。
【0006】
このような問題に対応して、有機バインダーを接合材に添加することにより、乾燥硬化の過程でのマイグレーションの発生を抑制し、上述の欠陥の発生を抑制してハニカム構造体の耐久性を向上させることを企図したセラミック構造体が開示されている(特許文献1参照)。
【0007】
なお、特許文献1には、有機バインダーの好適例として、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等が挙げられ、中でも、カルボキシメチルセルロースが好ましく、接合時における接合材の流動性を確保がすることが可能であることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3121497号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に開示されたセラミック構造体に用いられる接合材においては、接合時における流動性は確保されるものの、有機バインダーを添加することに起因して、混練中に一旦粘度が大きくなり、混練を継続すると粘度が低下するという状態の変化が起こるため、接合材の物性が不安定となり、塗布性や延び性を向上させるための物性の調整が難しく、実際上、上述の欠陥の発生を確実に抑制することが困難であるという問題があった。
【0010】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、排ガス中の粒子状物質(パティキュレート)等を捕集するフィルタとして特に有用な、コーティング材による被覆後における小孔やクラック等の欠陥の発生が確実に抑制された、耐久性に優れたハニカム構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明によって、下記のハニカム構造体が提供される。
【0012】
[1] 多孔質の隔壁によって区画、形成された流体の流路となる複数のセルが中心軸方向に互いに並行するように配設された構造を有するハニカム構造体であって、それぞれが全体構造の一部を構成する形状を有するとともに、前記中心軸に対して垂直な方向に組み付けられることによって前記全体構造を構成することになる形状を有する複数のハニカムセグメントが、接合材によって一体的に接合されてなり、かつその接合体の外周面が、主成分としてセラミックスを含有するとともに、粒状のフィラーと水9〜13質量%とを含有するコーティング材によって被覆されてなり、前記粒状のフィラーが塗布性および延び性を前記コーティング材に付与するものであることを特徴とするハニカム構造体。
【0013】
このように構成することによって、コーティング材による被覆後における、小孔やクラック等の欠陥の発生を確実に抑制することができる。すなわち、粒状のフィラーが用いられることによってフィラーがコーティング材中で転がり易くなって(フィラーの転がり性が向上して)、コーティング材を塗布する際や圧着する際に接合材が良好に延びることができるようになる。その結果、塗布性及び延び性を向上させることが可能となり、溶媒を多く用いて接合材の粘度を低下させる必要がなく、乾燥時の脱水収縮を抑制することができ、乾燥時における上述の欠陥の発生を抑制することができる。また、混練時の粘度変化が小さいため、コーティング材が安定し、その塗布性や延び性を向上させる調整が容易となって、上述の欠陥の発生を確実に抑制することができる。
【0014】
[2] 前記コーティング材に含有される前記粒状のフィラーが、平均10〜300μmの直径を有する前記[1]に記載のハニカム構造体。
【0015】
このように構成することによって、上述のフィラーの転がり性を確保することができ、しかも、コーティング材に良好な乾燥性を付与することができる。
【0016】
[3] 前記コーティング材に含有される前記粒状のフィラーが、中空構造を有する前記[1]または[2]に記載のハニカム構造体。
【0017】
このように構成することによって、コーティング材のヤング率が低減し、ハニカム構造体の耐熱衝撃性を向上させて、使用時のクラックの発生をさらに確実に抑制することができる。
【0018】
[4] 前記コーティング材が、前記粒状のフィラーを、20〜70体積%含有する前記[1]〜[3]のいずれかに記載のハニカム構造体。
【0019】
このように構成することによって、コーティング材の塗布性及び延び性を確保することができるとともに、コーティング材としての強度を保持することが可能となり、耐久性を向上させることができる。
【0020】
[5] 前記コーティング材が、無機粒子、酸化物繊維及びコロイド状酸化物からなる群から選ばれる少なくとも一種をさらに含有する前記[1]〜[4]のいずれかに記載のハニカム構造体。
【0021】
このように構成することによって、コーティング材の塗布性及び延び性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように、本発明によって、排ガス中の粒子状物質(パティキュレート)等を捕集するフィルタとして特に有用な、コーティング材による被覆後における小孔やクラック等の欠陥の発生が確実に抑制された、耐久性に優れたハニカム構造体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明のハニカム構造体の一の実施の形態(中心軸に対して垂直な平面で切断した全体の断面形状が円形)を模式的に示す斜視図である。
【図2】本発明のハニカム構造体の他の実施の形態(中心軸に対して垂直な平面で切断した全体の断面形状が正方形)の一部を端面側から見た正面図である。
【図3】本発明のハニカム構造体の他の実施の形態に用いられるハニカムセグメントを模式的に示す斜視図である。
【図4】図3におけるA−A線断面図である。
【図5】接合材への混練による粘度の時間的変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1、2に示すように、本発明の実施の形態におけるハニカム構造体1は、多孔質の隔壁6によって区画、形成された流体の流路となる複数のセル5がハニカム構造体1の中心軸方向に互いに並行するように配設された構造を有し、それぞれが全体構造の一部を構成する形状を有するとともに、ハニカム構造体1の中心軸に対して垂直な方向に組み付けられることによって全体構造を構成することになる形状を有する複数のハニカムセグメント2が、主成分としてセラミックスを含有するとともに粒状のフィラーを含有する接合材9によって一体的に接合されて構成されてなるものである。接合材9によるハニカムセグメント2の接合の後、ハニカム構造体1の中心軸に対して垂直な平面で切断した全体の断面形状が円形、楕円形、三角形、正方形、その他の形状となるように研削加工され、外周面がコーティング材4によって被覆される。このハニカム構造体1をDPFとして用いる場合、ディーゼルエンジンの排気系等に配置することにより、ディーゼルエンジンから排出されるスートを含む粒子状物質(パティキュレート)を捕捉することができる。なお、図1においては、一つのハニカムセグメント2においてのみ、セル5及び隔壁6を示している。
【0025】
それぞれのハニカムセグメント2は、図3、4に示すように、ハニカム構造体1(図1参照)の全体構造の一部を構成する形状を有するとともに、ハニカム構造体1(図1参照)の中心軸に対して垂直な方向に組み付けられることによって全体構造を構成することになる形状を有している。セル5はハニカム構造体1の中心軸方向に互いに並行するように配設されており、隣接しているセル5におけるそれぞれの端部が交互に充填材7によって目封じされている。
【0026】
所定のセル5(流入セル)においては、図3、4における左端部側が開口している一方、右端部側が充填材7によって目封じされており、これと隣接する他のセル5(流出セル)においては、左端部側が充填材7によって目封じされるが、右端部側が開口している。このような目封じにより、図2に示すように、ハニカムセグメント2の端面が市松模様状を呈するようになる。
【0027】
このような複数のハニカムセグメント2が接合されたハニカム構造体1を排ガスの排気系内に配置した場合、排ガスは図4における左側から各ハニカムセグメント2のセル5内に流入して右側に移動する。
【0028】
図4においては、ハニカムセグメント2の左側が排ガスの入口となる場合を示し、排ガスは、目封じされることなく開口しているセル5(流入セル)からハニカムセグメント2内に流入する。セル5(流入セル)に流入した排ガスは、多孔質の隔壁6を通過して他のセル5(流出セル)から流出する。そして、隔壁6を通過する際に排ガス中のスートを含む粒子状物質(パティキュレート)が隔壁6に捕捉される。
【0029】
このようにして、排ガスの浄化を行うことができる。このような捕捉によって、ハニカムセグメント2の内部にはスートを含む粒子状物質(パティキュレート)が経時的に堆積して圧力損失が大きくなるため、スート等を燃焼させる再生が行われる。
【0030】
なお、図2〜4には、全体の断面形状が正方形のハニカムセグメント2を示すが、三角形、六角形等の形状であってもよい。また、セル5の断面形状も、三角形、六角形、円形、楕円形、その他の形状であってもよい。
【0031】
図2に示すように、接合材9は、ハニカムセグメント2の外周面に塗布されて、ハニカムセグメント2を接合するように機能する。接合材9の塗布は、隣接しているそれぞれのハニカムセグメント2の外周面に行ってもよいが、隣接したハニカムセグメント2の相互間においては、対応した外周面の一方に対してだけ行ってもよい。
【0032】
このような対応面の片側だけへの塗布は、接合材9の使用量を節約できる点で好ましい。接合材9の厚さは、ハニカムセグメント2の相互間の接合力を勘案して決定され、例えば、0.2〜4.0mmの範囲で適宜選択される。
【0033】
コーティング材4は、ハニカムセグメント2の接合体の外周面に塗布されて、ハニカムセグメント2の接合体の外周面を保護するように機能する。コーティング材4の厚さは、例えば、0.1〜1.5mmの範囲で適宜選択される。
【0034】
ハニカムセグメント2の材料としては強度、耐熱性の観点から、炭化珪素、珪素−炭化珪素系複合材料、窒化珪素、コージェライト、ムライト、アルミナ、スピネル、炭化珪素−コージェライト系複合材、珪素−炭化珪素複合材、リチウムアルミニウムシリケート、チタン酸アルミニウム、Fe−Cr−Al系金属からなる群から選択される少なくとも一種を用いることが好ましい。中でも、炭化珪素又は珪素−炭化珪素系複合材料が好ましい。
【0035】
ハニカムセグメント2の作製は、例えば、上述の材料から適宜選択したものに、メチルセルロース、ヒドロキシプロポキシルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール等のバインダー、界面活性剤、溶媒としての水等を添加して、可塑性の坏土とし、この坏土を上述の形状となるように押出成形し、次いで、マイクロ波、熱風等によって乾燥した後、焼結することにより行うことができる。
【0036】
セル5の目封じに用いる充填材7としては、ハニカムセグメント2と同様な材料を用いることができる。充填材7による目封じは、目封じをしないセル5をマスキングした状態で、ハニカムセグメント2の端面をスラリー状の充填材7に浸漬することにより開口しているセル5に充填することにより行うことができる。充填材7の充填は、ハニカムセグメント2の成形後における焼成前に行っても、焼成後に行ってもよいが、焼成前に行うことの方が、焼成工程が1回で終了するため好ましい。
【0037】
以上のようなハニカムセグメント2の作製の後、ハニカムセグメント2の外周面にスラリー状の接合材9を塗布し、所定の立体形状(ハニカム構造体1の全体構造)となるように複数のハニカムセグメント2を組み付け、この組み付けた状態で圧着した後、加熱乾燥する。このようにして、複数のハニカムセグメント2が一体的に接合された接合体が作製される。その後、この接合体を上述の形状に研削加工し、外周面をコーティング材4によって被覆し、加熱乾燥する。このようにして、図1に示すハニカム構造体1が作製される。
【0038】
接合材9は、主成分としてセラミックスを含有するとともに粒状のフィラーを含有する。接合材9及びコーティング材4としては、同じ材料を用いることができる。本実施の形態において、接合材9及びコーティング材4に主成分として含有されるセラミックスとしては、例えば、炭化珪素、窒化珪素、コージェライト、アルミナ、ムライト等のセラミックスを挙げることができる。これに、コロイダルシリカ、コロイダルアルミナ等のコロイダルゾル、必要に応じて金属繊維や造孔材を配合したものであってもよい。
【0039】
接合材9及びコーティング材4に含有される粒状のフィラーとしては、例えば、無機材料又は有機材料からなるものを挙げることができる。無機材料の具体例としては、ガラスビーズ、フライアッシュバルーン等を挙げることができ、有機材料の具体例としては、澱粉、発泡樹脂等を挙げることができる。
【0040】
粒状のフィラーは、平均10〜300μmの直径を有することが好ましく、平均15〜250μmがさらに好ましく、平均20〜200μmが特に好ましい。粒状のフィラーの平均直径が10μm未満であると、転がり性を付与するフィラーとしての効果が発揮されず、接合材9及びコーティング材4の良好な塗布性、延び性が得られず欠陥が十分に抑制されないことがある。一方、平均径が300μmを超えると、粒子間隙が大きくなるため、塗布後の脱水速度が大きくなり、接合材9及びコーティング材4の表面が速く乾き、接合材9の場合、接合しようとするハニカムセグメント2を押し付けても十分な接合強度が得られず、コーティング材4の場合、小孔やクラック、擦れ等の欠陥が生じ易い。
【0041】
粒状のフィラーは、長中心軸/短中心軸比が1.0〜4.0の範囲にあることが好ましく、真球であることがさらに好ましい。
【0042】
粒状のフィラーは、接合材9及びコーティング材4に、20〜70体積%の割合で含有されることが好ましい。25〜65体積%であることがさらに好ましく、30〜60体積%であることが特に好ましい。含有割合が20体積%未満であると、フィラーとしての効果が発揮されないことがあり、70体積%を超えると、必要な強度が得られないことがある。
【0043】
粒状のフィラーは、中空構造を有することが好ましい。中空構造を有する粒子(中空粒子)を用いることにより、接合材9及びコーティング材4が硬化して形成される接合部及び外周面の密度が低下し、ヤング率を低減することが可能となる。これにより、接合部及び外周面の耐熱衝撃性が向上し、使用時のクラック発生を抑制することができる。
【0044】
本実施の形態において、接合材9及びコーティング材4は、上述のセラミックス及び粒状のフィラーに加えて、無機粒子、酸化物繊維及びコロイド状酸化物からなる群から選ばれる少なくとも一種を5〜60質量%の割合でさらに含有してもよい。これらを含有させることにより、接合材9及びコーティング材4としての特性を向上させることができる。
【0045】
無機粒子としては、例えば、炭化珪素、窒化珪素、コージェライト、アルミナ、ムライト、ジルコニア、燐酸ジルコニウム、アルミニウムチタネート及びチタニアからなる群から選ばれる少なくとも一種のセラミックス;Fe−Cr−Al系金属;ニッケル系金属;金属Si;SiC等を挙げることができる。
【0046】
酸化物繊維としては、例えば、アルミノシリケート質繊維、その他の繊維を挙げることができる。
【0047】
コロイド状酸化物としては、例えば、シリカゾル、アルミナゾル等を挙げることができる。
【0048】
接合材9及びコーティング材4の熱伝導率は、0.1〜5.0W/m・kであることが好ましく、0.2〜3.0W/m・kであることがさらに好ましい。熱伝導率が0.1W/m・k未満であると、ハニカムセグメント2間の熱伝達を阻害してハニカム構造体1内の温度を不均一にすることがある。熱伝導率が5.0W/m・kを超えると、接合強度が低下することがあるとともに、ハニカム構造体1の製造が困難となることがある。
【0049】
接合材9及びコーティング材4の熱膨張率は、熱衝撃等によってクラックが発生するを防止するため、比較的低いことが好ましく、1×10−6〜8×10−6/℃の範囲であることが好ましい。1.5×10−6〜7×10−6/℃の範囲であることがさらに好ましく、2×10−6〜6×10−6/℃の範囲であることが特に好ましい。
【実施例】
【0050】
以下、本発明を実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によっていかなる制限を受けるものではない。
【0051】
本実施例では、原料としてSiC粉末及びSi粉末を80:20の重量割合で混合し、これに造孔材として澱粉、発泡樹脂を加え、さらにメチルセルロース及びヒドロキシプロポキシルメチルセルロース、界面活性剤及び水を添加して、可塑性の坏土を作製した。この坏土を押出成形し、マイクロ波及び熱風で乾燥して隔壁の厚さが310μm、セル密度が約46.5セル/cm(300セル/平方インチ)、断面形状が一辺35mmの正方形、長さが152mmのハニカムセグメントを得た。
【0052】
このハニカムセグメントに対し、端面が市松模様状を呈するように、隣接するセルが互いに反対側となる一方の端部でハニカムセグメントの製造に用いた材料と同様の材料と用いて目封じし、乾燥させた後、大気雰囲気中約400℃で脱脂し、その後、Ar不活性雰囲気中で約1450℃で焼成して、Si結合SiCの焼成ハニカムセグメントを得た。
【0053】
一方、フィラーとして発泡樹脂(アクリルニトリル樹脂)、有機バインダーとしてメチルセルロース、無機粒子としてSiC粉末、酸化物繊維としてアルミノシリケート質繊維、無機バインダーとしてシリカゲル40質量%水溶液及び粘土を混合し、水を加えて、ミキサーを用いて30分間混練し、表1に示す組成の接合材A〜Kを得た。表1における接合材A〜Kの内、接合材A〜Iは後述するように、本発明の実施例に用いられ、接合材J、Kは比較例に用いられる。
【0054】
【表1】

【0055】
表2は、表1に示す接合材B、H、Kについてミキサーによって混練中に、一定時間毎に粘度を測定した結果を示す。図5は、接合材B、H、Kへの混練による粘度の時間的変化を示す。図5において、特性曲線B1は接合材B、特性曲線H1は接合材H、特性曲線K1は接合材Kをそれぞれ用いた場合を示す。
【0056】
【表2】

【0057】
これらの結果からわかるように、有機バインダーを添加した接合材K(特性曲線K1)では混練初期に粘度が増大した後、15分を過ぎた時点付近から粘度変化がほぼ見られなくなる。これに対し、発泡樹脂を添加した接合材B(特性曲線B1)及び接合材H(特性曲線H1)では、混練を通じて粘度変化がほとんど見られない。
【0058】
次に、表1に示す接合材を用いて焼成ハニカムセグメントを接合した。この接合では、接合材の厚みが1mmとなるように、各々複数個ずつ接合した後、200℃、5時間乾燥して、実施例1〜9及び比較例1のハニカム構造体を得た。それぞれのハニカム構造体から、所定の強度試験用サンプルを10個ずつ切り出し、JIS R1601に従って3点曲げ接合強度の測定を行なった。結果を表3に示す。
【0059】
表3に示すように、フィラーを添加しない接合材(接合材J)を用いた比較例1の場合、接合部に大きな剥れが見られた。また、同様に平均径が10〜300μmの範囲を外れる発泡樹脂を添加した接合材(接合材F、G)を用いた実施例6、7の場合、及び発泡樹脂の添加量が20〜70体積%の範囲を外れる接合材(接合材H、I)を用いた実施例8、9の場合、延び性不良のために、接合部にごく一部の剥れが見られたり、接合強度がやや低い値となった。
【0060】
【表3】

【0061】
さらに、接合材B、Jを用いた実施例10、比較例1の場合に対して密度と強度/ヤング率比を比較した。結果を表4に示す。
【0062】
表4に示すように、中空の発泡樹脂を添加した接合材Bを用いた実施例10の場合の方が、中空の発泡樹脂を添加しない接合材Jを用いた比較例1の場合よりも、強度/ヤング率比が向上することが確認された。これにより使用時の耐熱衝撃性の向上が期待できる。
【0063】
【表4】

【0064】
さらに、表1に示す接合材A〜Jのそれぞれに、水を添加してコーティング可能な粘度に調整することにより、コーティング材L〜Uを作製した。そして、焼成ハニカムセグメントを16本接合して得られた接合体の外周を研削した後、その外周部に対してコーティング材L〜Uをそれぞれ個別に塗布し、200℃で2時間乾燥して、実施例11〜19及び比較例2のハニカム構造体を得た。表5に、添加水分量(質量%)及びこのハニカム構造体のコーティング層の外観(小孔、クラック、擦れの有無)を、目視によって検査した結果を示す。
【0065】
【表5】

【0066】
表5に示すように、フィラーを添加しないコーティング材(コーティング材U)を用いた比較例2の場合、小孔、クラック、擦れからなる欠陥が生じた。また、平均直径が10〜300μmの範囲を外れるフィラーを添加したコーティング材Q、R及びフィラーの含有量が20〜70体積%の範囲を外れるコーティング材S、Tを用いた実施例16〜19の場合、小孔、クラック、擦れの一部からなる欠陥が若干生じた。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明のハニカム構造体は、排ガス用の捕集フィルタとして、例えば、ディーゼルエンジン等からの排ガスに含まれている粒子状物質(パティキュレート)を捕捉して除去するためのディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)として有用である。
【符号の説明】
【0068】
1…ハニカム構造体、2…ハニカムセグメント、4…コーティング材、5…セル、6…隔壁、7…充填材、9…接合材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質の隔壁によって区画、形成された流体の流路となる複数のセルが中心軸方向に互いに並行するように配設された構造を有するハニカム構造体であって、それぞれが全体構造の一部を構成する形状を有するとともに、前記中心軸に対して垂直な方向に組み付けられることによって前記全体構造を構成することになる形状を有する複数のハニカムセグメントが、接合材によって一体的に接合されてなり、かつその接合体の外周面が、主成分としてセラミックスを含有するとともに、粒状のフィラーと水9〜13質量%とを含有するコーティング材によって被覆されてなり、
前記粒状のフィラーが塗布性および延び性を前記コーティング材に付与するものであることを特徴とするハニカム構造体。
【請求項2】
前記コーティング材に含有される前記粒状のフィラーが、平均10〜300μmの直径を有する請求項1に記載のハニカム構造体。
【請求項3】
前記コーティング材に含有される前記粒状のフィラーが、中空構造を有する請求項1または2に記載のハニカム構造体。
【請求項4】
前記コーティング材が、前記粒状のフィラーを、20〜70体積%含有する請求項1〜3のいずれか一項に記載のハニカム構造体。
【請求項5】
前記コーティング材が、無機粒子、酸化物繊維及びコロイド状酸化物からなる群から選ばれる少なくとも一種をさらに含有する請求項1〜4のいずれか一項に記載のハニカム構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−46417(P2012−46417A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−209119(P2011−209119)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【分割の表示】特願2005−515446(P2005−515446)の分割
【原出願日】平成16年11月11日(2004.11.11)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】