説明

ハロゲンシラン中の元素、例えばホウ素の含分を低減させる方法、並びに該方法を実施するための装置

本発明は、精製されたハロゲンシラン、とりわけ非常に高純度のクロロシランを製造するために、工業的な純度のハロゲンシラン中の周期表の第三主族の元素の含分、とりわけホウ素及び/又はアルミニウムを含む化合物の含分を低減させるための方法に関する。本発明はさらに、本方法を実施するための装置に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精製されたハロゲンシラン、とりわけ非常に高純度のクロロシランを製造するために、工業的な純度のハロゲンシラン中にある周期表の第三主族の元素、好ましくはホウ素、及び/又はアルミニウムの含分を低減させるための方法に関する。本発明はさらに、本方法を実施するための装置に関する。
【0002】
従来技術から、さらなる錯化剤と結びつけたトリフェニルメチルクロリドの使用に基づく、ハロゲンシランの精製法は、2種類知られている。その一方が、GB 975 000の多段階法であり、この方法では、ハロゲンシラン中のリン含有不純物を蒸留で除去するためにまず、スズテトラハロゲン化物及び/又はチタンテトラハロゲン化物を添加して、固体の沈殿を形成させた。次の工程では、得られた留出物にトリフェニルメチルクロリドをかなりの過剰量で添加して、スズ塩又はチタン塩によって、並びに場合により存在するさらなる不純物(この不純物に該当するのは、ホウ素、アルミニウム、又は他の不純物である)によって沈殿を形成させることができた。後続の工程で蒸留が行われた。
【0003】
WO 2006/054325 A2から、電子工業グレードの四塩化ケイ素(Sieg)の製造、又は四塩化ケイ素からトリクロロシランの製造、又は工業的な純度のトリクロロシランの製造のための、多段階の方法は公知である。四塩化ケイ素及び/又は工業的な純度のトリクロロシランから出発して、とりわけホウ素を含む不純物(BCl3)は、第一の工程でジフェニルチオカルバゾン及びトリフェニルクロロメタンの添加によって、高沸点性の錯体に変え、そして第二工程で塔蒸留によって除去し、第三工程で塩化リン(PCl3)及びリンを含む不純物、ヒ素及びアルミニウムを含む不純物、及びさらなる金属不純物を蒸留残渣として第二の塔蒸留で分離する。トリフェニルクロロメタンは、ホウ素を除いて多数の金属不純物と錯体を形成することができるため、すべての不純物を分離するためには、両方の錯化剤を使用することが必要であると説明されている。第四の工程になって初めて、ジクロロシランが留去される。
【0004】
本発明の課題は、太陽電池用シリコンの製造、又はとりわけ半導体用シリコンの製造にも適した、とりわけ非常に高純度のハロゲンシラン、とりわけクロロシランを製造するための、簡単な、ひいては経済的な方法、並びに装置を開発することである。
【0005】
この課題は、請求項1及び17の特徴に相当する、本発明による方法及び本発明による装置によって解決される。好ましい実施変法は、従属請求項に記載されている。
【0006】
本発明によれば、工業的な純度のハロゲンシランから精製されたハロゲンシランの製造が可能になる方法が提供され、本方法では周期表の第三主族の元素(III PSE)、とりわけホウ素及び/又はアルミニウムを、ほぼ定量的に分離することができる。とりわけ、非常に高純度のハロゲンシランが得られる。
【0007】
本発明の対象はさらに、精製されたハロゲンシランを製造するために、工業的な純度のハロゲンシラン中にある周期表の第三主族の元素、とりわけホウ素及び/又はアルミニウム含分を低減させるための方法であり、以下の工程:
a)精製すべきハロゲンシランにトリフェニルメチルクロリドを加えて、ハロゲンシランに難溶性の錯体を形成し、そして
b)形成された難溶性錯体を、機械的作用若しくは機械的処置により分離することによって、精製されたハロゲンシランを得る工程
を含むものである。
【0008】
通常は凝集状で沈殿する錯体をまず凝固させるために、機械的な処置を用いた錯体の分離の前に、反応混合物を熱的に処理する、例えば加熱することができ、その結果、錯体をより容易に分離することができる。好ましくは、非常に高純度のハロゲンシランが得られる。ハロゲンシランをさらに精製するために、沈殿された錯体の分離後に蒸留工程を続けることができる。機械的な作用若しくは機械的な処置とは、とりわけ以下の処置、例えば濾過、沈降分離、デカンタ、吸い取り、及び/又は遠心分離と理解され、この際に濾過が好ましい。これらの処置は、非連続的に、又は連続的にも実施することができる。
【0009】
実施態様によれば本発明による方法は、以下のように説明される。精製すべきハロゲンシランにトリフェニルメチルクロリドを加えて錯体を形成する工程(a)を、錯体化のための装置(2)内で行い、工程(b)で錯体を分離するために、該装置からハロゲンシラン及び錯体を少なくとも部分的に分離ユニット(3)、とりわけ個別の分離ユニット(3)に移す。従ってこの方法実施によれば、工程(a)は工程(b)と分離して、とりわけ空間的に分離して行われる。この分離ユニット(3)内で、高純度のハロゲンシラン、好ましくは高純度のテトラクロロシラン、トリクロロシラン、及び/又はジクロロシランを得るために、好適にはまず機械的作用による分離を行い、そして場合によりハロゲンシランの蒸留を続けることができる。本発明によれば、工程(a)及び(b)は、非常に高純度のハロゲンシランを製造するための連続的な方法で結合されており、好適には冶金法シリコン(metallurgisches Silizium)の反応から出発する。
【0010】
方法実施の利点は、錯体化が分離とは分かれており、かつこの方法で第三主族の元素、例えばホウ素及び/又はアルミニウム若しくはこれらを含む化合物の分離が、連続的な全体の方法に統合可能であることに基づく。これは例えば、錯体化のための少なくとも1つの装置2、好適には複数の並列接続された装置2が、1つの分離ユニット3に配置されていることによって可能になる。1つの、若しくは複数の錯体化するための装置2は、例えばバッチ式又は連続式に(バッチ式反応器又は管型反応器)ハロゲンシランを充填又は貫流させることができ、第三主族の元素、例えばホウ素、及び場合によりさらなる不純物の含分は、分析により測定することができる。引き続き、精製すべきハロゲンシランにトリフェニルメチルクロリドを、PSEの第三主族の元素を有する不純物に対してやや過剰量で、好適には≦20mol%、特に好ましくは≦10mol%、極めて特に好ましくは≦5mol%で、又はそれ未満の量で加える。
【0011】
この際に、例えばホウ素を含む化合物の完全な錯体化を保証するために、生成する反応混合物を均質化することができる。この均質化は、撹拌によって、又は管型反応器内で流動化によって行うことができる。引き続き、ハロゲンシラン及び場合により錯体を分離ユニット3に移す。ここで有利には、まず機械的処置による難溶性錯体の分離が続き、及び場合により精製されたハロゲンシランの蒸留的な後処理が後に続き、非常に高純度のハロゲンシランが得られる。
【0012】
バッチ式、半連続式、又は連続式の並列的に実施されている錯体化(工程a)、及び後続のハロゲンシランの分離によって、本発明による方法は、冶金法シリコンのヒドロハロゲン化から出発する、非常に高純度のハロゲンシランを製造するための連続的な全体の方法に統合することができる。
【0013】
本方法にとって重要な周期表の第三主族の元素(IIIa PSE)(工業的な純度のハロゲンシラン中にあるこれらの含分を低減させる)としてはとりわけ、ホウ素及び/又はアルミニウム、並びに工程条件由来のホウ素及び/又はアルミニウム含有不純物を挙げることができる。一般的にトリフェニルメチルクロリドは、すべての通常のルイス酸によって錯体を形成することができる。これらはホウ素及びアルミニウムの他に、スズ、チタン、バナジウム、及び/又はアンチモンであるか、又はこれらの異物金属(Fremdmetall)を含む化合物であり得る。
【0014】
適切な実施変法では、本発明による方法は様々なやり方で行うことができる。従ってハロゲンシランにトリフェニルメチルクロリドを加えた後にまず、例えば凝固された難溶性錯体を機械的な処置、例えば濾過又は遠心分離によって分離することができる。機械的分離の前に、熱的な処理が有利であり得、反応混合物を加熱して、難溶性錯体を凝固させることができ、ひいては容易に分離可能にすることができる一方で、かつ/又は反応混合物を冷却し、錯体の溶解度をさらに低下させることができる。例えば反応混合物を約0℃に、又は10℃〜−40℃に冷却して、それから錯体の分離を行うことができる。機械的な処置による分離後に、ハロゲンシランの蒸留精製を続けることができる。例えばフラッシュ蒸留は、管型蒸発器又は短路塔(Kurzwegkolonne)を介して行うことができる。通常は、例えばハロゲンシラン、四塩化ケイ素、及び/又はトリクロロシランの蒸留精製は、約31.8℃〜56.7℃の塔頂温度で、かつ約1013.25hPa、又は1013.25mbarabsの圧力で行う。比較的高い、又は比較的低い圧力では、相応して塔頂温度が変わる。易沸騰成分は、高められた圧力で適切に蒸留することができる。
【0015】
得られる精製ハロゲンシラン、好ましくは非常に高純度のハロゲンシランの後の適用範囲に従って、機械的な処置を用いた難溶性錯体の分離だけで、既に充分である。このことは、好適には一回、又は二回の濾過を行うことによって達成可能である。得られる非常に高純度のハロゲンシラン中のホウ素含分は、ハロゲンシラン1kgについてホウ素がとりわけ≦50μg/kg、好ましくは≦20μg/kg、及び特に好ましくは≦5μg/kgである。
【0016】
工程(a)及び(b)を含む本発明による方法は、非常に高純度のハロゲンシランを製造するための連続的な方法で結合されていることができ、とりわけ冶金法シリコンのヒドロハロゲン化から出発する。
【0017】
ハロゲンシランとは、好ましくはクロロシラン及び/又はブロモシランと理解され、この際に四塩化ケイ素、トリクロロシラン、及び/又はこれらのシランの混合物、場合によりこれらのシランとさらなるハロゲンシラン、例えばジクロロシラン、及び/又はモノクロロシランとの混合物が特に好ましい。従って本方法は一般的に、形成される錯体の溶解度が相応して僅かであり、かつ/又はこれらの化合物がハロゲンシランに匹敵する沸点若しくは沸点範囲を有するか、又はハロゲンシランと共沸を起こし得たような場合には、ハロゲンシラン中にある周期表の第三主族元素の含分を良好に低減するために適している。従って、周期表の第三主族の元素を含む化合物は、部分的には蒸留のみによっては分離が非常に困難であるか、又はそもそもハロゲンシランとはまったく分離できない。ハロゲンシランの沸点の範囲にある沸点とは、常圧(約1013.25hPaまたは1013.25mbar)でハロゲンシランの1つの沸点の±20℃の範囲にある沸点と見なされる。
【0018】
本方法はまた適切には、テトラブロモシラン、トリブロモシラン、及び/又はハロゲンシランの混合物を精製するために適用することもできる。ハロゲンシラン中には一般的に、フッ素、塩素、臭素、又はヨウ素から選択されるさらなるハロゲン原子とは独立して、あらゆるハロゲンが含まれていてよく、その結果例えば、混合ハロゲンシラン、例えばSiBrCl2F、又はSiBr2ClFも含まれていてよい。これらの好ましいモノマー化合物の他にまた、二量体化合物、又は高分子化合物、例えばヘキサクロロジシラン、デカクロロテトラシラン、オクタクロロトリシラン、ペンタクロロジシラン、テトラクロロジシラン、並びモノマー性、ダイマー性、線状、分枝状、及び/又は環状のオリゴマー性、及び/又はポリマー性ハロゲンシランを含む液状混合物のホウ素含分を相応して低減させることができる。
【0019】
工業的な純度のハロゲンシランとは、汚染されたハロゲンシランと理解され、とりわけハロゲンシラン含分が≧97質量%であり、かつ周期表の第三主族の元素の含分がそれぞれ1つの元素について、最大0.1質量%、例えば≦0.1質量%、かつ≧100μg/kgである。好ましくは当該ハロゲンシランは少なくとも99.00質量%の含分、例えば少なくとも99.9質量%の1つ又は複数の所望のハロゲンシラン含分を有し、かつ上記の定義に従った第三主族の元素で汚染されている。その組成は例えば、四塩化ケイ素の含分が97.5質量%、かつトリクロロシラン(HSiCl3)の含分が2.2質量%であるか、又はSiCl4がおよそ85質量%、かつHSiCl3が15質量%であるか、又は四塩化ケイ素が99.0質量%であり得る。
【0020】
精製されたハロゲンシランとして通用するのは、周期表の第三主族元素の含分が、本方法の実施によって低減されている、工業的ハロゲンシランである。
【0021】
非常に高純度のハロゲンシランとして通用するのは、ハロゲンシラン含分が99.9質量%のハロゲンシラン、好ましくは99.99質量%のハロゲンシランであり、及びとりわけ最大不純物がPSEの第三主族の元素それぞれ、とりわけホウ素及びアルミニウムを含む化合物について、ハロゲンシラン1キログラムにつき前記元素が、≦50μg/kg、とりわけ≦25μg/kg、好ましくは≦20μg/kg、≦15μg/kg、又は≦10μg/kgであり、この際に不純物はハロゲンシラン中の各元素について、本発明によればそれぞれホウ素及びアルミニウムについて、≦5μg/kg、≦2μg/kg、又は≦1μg/kgであるのが特に好ましい。
【0022】
ホウ素を含む化合物は例えば、塩化ホウ素、又はホウ素エステルである。また一般的には、ハロゲンシランの合成の際に製造される、又は方法において共沸されたホウ素を含むすべての化合物を、ハロゲンシラン1キログラムあたりホウ素がとりわけ最大≦20μg/kg、好ましくは≦5μg/kg、≦2μg/kg、特に好ましくは≦1μg/kgに低減させることができる。一般的にはホウ素及び/又はホウ素を含む化合物を、その出発濃度にかかわらず、50〜99.9質量%低減させることができる。相応することが、アルミニウム、又はアルミニウム含有化合物にもあてはまる。典型的なアルミニウム含有化合物は、AlCl3である。
【0023】
本発明によれば、本方法の方法工程a)では好ましくは、周期表の第三主族(IIIa PSE)元素の1つ又は複数の形成された錯体の可溶性生成物、とりわけ当該元素を含む化合物の可溶性生成物、特に好ましくはホウ素及び/又はアルミニウム含有化合物の可溶性生成物をトリフェニルメチルクロリドが上回る量で、かつ1つ又は複数の錯体から沈殿が形成されるような量で、錯体形成化合物のトリフェニルメチルクロリドを加え、1つ又は複数の錯体から沈殿が形成される。この際に特に好ましくは、添加するトリフェニルメチルクロリドの量は、当該化合物が僅かな過剰量で、周期表の第三主族の元素を有する不純物に対して≦約20mol%、とりわけ≦10mol%、特に好ましくは≦5mol%で添加されるように量定する。
【0024】
従ってトリフェニルメチルクロリドの添加前に、工業的な純度のハロゲンシラン中にある不純物の含分、とりわけPSEのIIIaの元素の含分及び場合により、トリフェニルメチルクロリドと難揮発性及び/又は難溶性の錯体を形成するさらなる不純物の含分を測定するのが望ましかった。これらはとりわけ、先に説明したホウ素及び/又はアルミニウムを含む化合物である。含分測定は例えば、ICP−MSを用いて行うことができる。これらの元素(IIIa PSE)の含分、及び/又は場合によりトリフェニルメチルクロリドと反応するさらなる不純物の含分にかかわらず、トリフェニルメチルクロリドの必要量を測定することができる。
【0025】
これまで先行技術では、トリフェニルメチルクロリドを、含まれるホウ素化合物に対して明らかな過剰量で添加していた。本発明による方法によれば、トリフェニルメチルクロリドの必要量を、汚染度に適合させることができる。この方法によって、環境を大事にしながら、トリフェニルメチルクロリドの添加量を、例えばより正確に難溶性ホウ素錯体の可溶性生成物に適合させることができる。工程手法のよりよい理解のために、適用例での実施例を示す。
【0026】
方法工程(a)におけるトリフェニルメチルクロリドの添加は、一回の計量供給によって、又は段階的にも行うことができる。この際にこの添加は、装置の種類又は方法実施によって、固体として、又は溶剤に溶解されても行うことができる。溶剤としては不活性の高沸点性溶剤、又は好ましくは非常に高純度のハロゲンシラン、例えば四塩化ケイ素、及び/又はトリクロロシランを使用することができる。この方法でトリフェニルメチルクロリドの添加は、非常に正確に供給することができ、かつ短時間で良好な完全混合を達成できる。
【0027】
工業的な純度のハロゲンシランにトリフェニルメチルクロリドを添加するのと同時、又はその後に、方法工程a)で反応混合物を熱的に処理することができる。熱的な処理は冒頭で説明したように、例えば凝集状の錯体の凝固のため、及び/又は反応の完全化のために加熱であってよい。代替的には、反応混合物をまず加熱し、そして引き続き冷却して、場合により反応を完全化する、及び引き続いて錯体の溶解度をさらに低下させることができる。すると、沈殿する錯体が、冷却された反応混合物から分離される。
【0028】
好ましくは浴の温度を30℃〜100℃、好ましくは50℃〜85℃に加熱し、この際に凝集状の沈殿がますます共に凝固し、かつハロゲンシランの上方に浮遊する。これに続いて、好ましくは撹拌せずに冷却してかつ濾別し、吸い取る、遠心分離するか、又はデカンタする。1つの変法によれば、凝固された沈殿は、第一の工程でデカンタ除去し、そして反応混合物をまず次の工程で濾過に供する。この方法で、濾過器の耐久期間を高めることができる。1つの実施態様によれば、トリフェニルメチルクロリドの添加は撹拌しながら行い、場合によりその後に反応混合物を、とりわけ撹拌せずに加熱して、これに続いて反応混合物の冷却を、とりわけ撹拌せずに行うことができる。この後に錯体の分離を、機械的処置によって行うことができる。
【0029】
濾過媒体としては、本発明による方法ではとりわけ膜、又は平均細孔直径≦100μmの絶対濾過が考慮される。好ましいのは、平均細孔直径が≦10μm、又は≦1μmの濾過媒体であり、この際に平均細孔直径が≦0.2μmの濾過媒体が特に好ましい。より小さい細孔直径、例えば≦0.10μm、又はより良好には≦0.05μm、とりわけ≦0.02μmの細孔直径を同様に使用することができ、この際に、濾過の間に増加して費やされる圧力若しくは圧力損失が考慮されるべきである。
【0030】
形成される難溶性錯体、とりわけホウ素含有錯体の純粋に機械的な分離が企図されている場合には、方法実施ごとに、本発明によるハロゲンシランの処理は、精製すべきハロゲンシランの加水分解を止めるために、まずトリフェニルメチルクロリドの入念な乾燥を必要とする。引き続き、ハロゲンシランに乾燥させたトリフェニルメチルクロリドを保護ガス雰囲気下で加え、場合により撹拌する。適切には、引き続き常圧で数時間にわたって熱処理を行う。一般的に、反応混合物は5分〜最大10時間、通常は最大1時間処理する。精製されたハロゲンシランを製造するための取得又は分離は、通常、濾過、遠心分離及び/又はデカンタによって行われる。方法操作は、必要に応じて非連続的に又は連続的に行うことができる。後の蒸留によるハロゲンシランの後処理では、水分、とりわけ僅少量の残量水分は邪魔にならない。なぜならば、好ましくは比較的高沸点性の、ホウ素含有化合物の加水分解生成物が形成され、当該化合物は蒸留により分離可能だからである。
【0031】
実施例1a〜1dが示しているのは、ホウ素含分を低減させるために、トリフェニルメチルクロリドの添加直後に、難溶性錯体の機械的分離を行うことができるということである。反応混合物の一定の滞留時間は、精製されたハロゲンシラン、とりわけ非常に高純度のハロゲンシランのホウ素含分のさらなる低減につながらない。同様に反応混合物の熱処理は、反応の完全化のための加熱という意味では必ず必要なわけではないが、加熱は沈殿物の有利な凝固につながり、この沈殿物は機械的により容易に除去することができる。
【0032】
この方法で製造される精製ハロゲンシラン、とりわけ非常に高純度のハロゲンシラン、好ましくは非常に高純度の四塩化ケイ素及び/又はトリクロロシランは、エピタキシャル層の製造、単結晶、マルチ結晶(multikristall)、又は多結晶のインゴット製造又はウェハ製造、太陽電池の製造、又は半導体産業、例えば電子部材で適用するための非常に高純度シリコンの製造、又は医薬工業でのSiO2製造、光ファイバーの製造、又はさらなるケイ素含有化合物の製造のために使用することができる。
【0033】
本発明の対象はさらに、精製されたハロゲンシランを製造するための、工業的な純度のハロゲンシラン中にある周期表の第三主族(IIIa PSE)の元素の含分、とりわけホウ素及び/又はアルミニウム含分を低減させるための装置(1)、並びにその使用であり、当該装置(1)は、とりわけ供給装置が配置されている当該元素の化合物を錯体化するための装置(2)、及び錯体化のための装置に配置された分離ユニット(3)を含み、とりわけこの分離ユニット(3)は、ハロゲンシランへの機械的作用若しくは機械的処置によって、沈殿された錯体(沈殿物)を分離する装置を含む。錯体化のための装置(2)、及び分離ユニットは、直接相互に接続されていてよい。装置(2)(反応器)は例えば、分離ユニット(3)、例えば濾過器と直接つながっていてよい。好ましくはこの装置によって、非常に高純度のハロゲンシランを得ることができる。
【0034】
代替的な本発明による装置(1)では、分離ユニット(3)が、錯体化のための少なくとも1つの装置(2)の下流に後接続されており、とりわけ分離ユニット(3)は錯体化のための装置(2)とは分かれている。このことにより、冶金法シリコンのヒドロハロゲン化から出発して、非常に高純度のハロゲンシランを製造するための全体の装置(Gesamtanlage)、例えば連続的に稼働する全体の装置に装置(1)を統合することが可能になる。この際に錯体化のための装置(2)は、並列に、及び/又は直列に接続された、半連続式又は連続的な錯体化及び反応混合物の均質化のための反応器、例えばバッチ式反応器及び/又は管型反応器を有することができ、この下流に少なくとも1つの分離ユニット(3)が、錯体からハロゲンシランを分離するために配置されている。本発明によれば分離ユニット(3)は、ハロゲンシランへの機械的作用を用いて錯体の沈殿物を分離する少なくとも1つの装置、及び場合により、吹き込み部(Destillationsblase)、塔、又は管型蒸発器、及び少なくとも1つの蒸留受け器が配置されている蒸留ユニットを含む。
【0035】
本発明による分離ユニット(3)は、とりわけ少なくとも1つの濾過ユニット、デカンタユニット、浮遊する沈殿物の吸い取りのための、及び/又は沈降した沈殿物の分離のための装置、遠心分離ユニット/遠心分離器、及び場合により蒸留ユニットを含む。同様に分離ユニット(3)は、濾過ユニット、デカンタユニット、吸い取りのための装置、及び/又は遠心分離器の他に、下流に蒸留塔、又は管型蒸発器、並びにとりわけ配置された吹き込み部、及び非常に高純度のハロゲンシランを取得するための、とりわけ非常に高純度のハロゲンシランの分別された取得のための少なくとも1つの蒸留受け器を有することができる。本発明によれば複数の分離ユニットは、並列又は直列に接続されていてよく、及び/又は直列接続と並列接続とから成る組み合わせで設置されていてよい。また適切には、様々な分離ユニットが相互に組み合わされていてよく、その例は例えば遠心分離器と、後接続された濾過器との組み合わせである。
【0036】
濾過器としては、適切な化学的耐久性を有する焼結された材料、膜フィルター、並びにポリマー材料及び場合により繊維材料をベースとするフィルターカートリッジ、巻き付け状フィルターカートリッジ、織布フィルター、並びにすべての適切なフィルター実施を使用することができる。
【0037】
本発明によれば濾過ユニットは、平均細孔直径≦100μmの濾過媒体を有する。好ましいのは、平均細孔直径が≦10μm、又は≦1μmの濾過媒体であり、この際に平均細孔直径が≦0.20μmの濾過媒体が特に好ましい。より小さい細孔直径、例えば≦0.10μm、又はより良好には≦0.05μm、とりわけ≦0.02μmの細孔直径を同様に使用することができ、この際に、濾過の間に増加して費やされる圧力若しくは圧力損失が装置的に考慮されるべきである。
【0038】
濾過媒体は一般的に、精製すべきハロゲンシランに対して、また場合により現れる加水分解生成物に対して、化学的な耐性があるのが望ましい。濾過媒体として考慮されるのはとりわけ、無機材料、及び/又は不活性の有機材料、例えば金属、活性炭、ゼオライト、ケイ酸塩、並びにポリマー、例えばポリマーのフルオロカーボン、例えばPTTE(ポリテトラフルオロエチレン)、PFA(ペルフルオロアルコキシ(PFA)置換されたフッ化ポリマー)、又は有機ポリマー、例えばPP(ポリプロピレン)、PE(ポリエチレン)、PA(ポリアミド)である。特に好ましいのは、PTTE/PFAから成るフィルターである。
【0039】
分離ユニット(3)が蒸留塔を有する場合、これは通常、非常に高純度のハロゲンシランの蒸留精製された生成留分、例えば四塩化ケイ素、及び/又はトリクロロシランが塔頂で得られ、その一方で可溶性の、及び/又は難沸騰性の錯体は吹き込み部に留まる精留塔であるだろう。装置は、バッチ式に、又は連続式に稼働させることができる。
【0040】
この際に装置(1)は、冶金法シリコンから出発して非常に高純度のハロゲンシランの製造に用いられる、比較的大きな装置の構成要素であってよく、とりわけ装置(1)は、冶金法シリコンの反応のための反応器を含む全体の装置に組み込まれている。
【0041】
以下の実施例は、本発明による方法をより詳細に説明するものであるが、本発明はこの実施例によって制限されることはない。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】機械的な分離ユニットを有する装置の概略図である。
【0043】
実施例
ホウ素含分の測定:試料の準備と試料の測定は、試料を脱イオン水で加水分解し、そして加水分解物からフッ化水素酸(スプラピュア)を用いてフッ素を除去することによって、分析の当業者に慣用の方法で行った。残留物を脱イオン水に取り、そして元素含分をICP−MS(ELAN 6000 Perkin Elmer)で測定した。
【0044】
実施例1
原液の製造
取り付け部(Septenaufsatz)を有するガラスフラスコ中で四塩化ケイ素199.9gにトリフェニルメチルクロリド0.010gを加えた(0.005%の懸濁液)。直ちに形成される沈殿物の一部を、約10分後に底部として取り去り、その一方で残りの液体は黄色く濁ったままだった。
【0045】
実施例1a
実施例1に従って懸濁液を調製し、そして錯化剤の添加直後に取り付け式フィルターMinisart(R) 0.45μmで濾過した。沈殿物が非常に細かい粒子状であったため、二度濾過した。10mlの注射器を用いて濾過を行った。得られた濾液はやや黄色っぽく、僅かな濁りがあるだけだった。
【0046】
実施例1b
実施例1に従って懸濁液を調製し、そして錯化剤の添加の15分後に、10mlの注射器を用いて取り付け式フィルターMinisart(R) 0.45μmで濾過した。沈殿物が細かかったので、二度濾過した。得られた濾液はやや黄色っぽく、僅かな濁りがあるだけだった。
【0047】
実施例1c
実施例1に記載の懸濁液を作成し、錯化剤の添加の30分後に、10mlの注射器を用いて取り付け式フィルターMinisart(R) 0.45μmで濾過した。沈殿物が細かかったので、二度濾過した。得られた濾液はやや黄色っぽく、僅かな濁りがあるだけだった。
【0048】
表1
実施例1、1a、1b、及び1cのホウ素含分
【表1】

【0049】
実施例1d
実施例1に従って懸濁液を調製し、そして10mlの注射器を用いて取り付け式フィルターMinisart(R) 0.2μmで二度濾過した。この方法で得られた濾液は、透明で無色だった。原液のホウ素含分は、もともとの214μg/kgから17μg/kgに減らすことができた。
【0050】
ホウ素含分は、引き続いたフラッシュ蒸留によって、蒸留後には5μg/kg未満の含分に減らすことができた。
【0051】
蒸留は、窒素雰囲気下で、マグネチックスターラで常に撹拌しながら行った。温度供給は、温度制御を有する油浴を介して行った。浴温度は蒸留の間、約80℃であり、そしてこの温度は、蒸留終了付近の吹き込み部では最大60℃だった。四塩化ケイ素の沸点は、常圧で約57℃だった。
【0052】
以下で本発明による装置を、図1中で概略的に示される実施例に基づきより詳細に説明する。
【0053】
図面の説明:
図1:機械的な分離ユニットを有する装置の概略図である。
【0054】
図1に示されている、ハロゲンシラン中にある周期表の第三主族の元素の含分を低減させるための装置(1)は、反応条件に対して耐性のある材料から、例えば貴金属合金から作られている。装置(1)は、当該元素を含む化合物を錯体化するための装置(2)、及び該装置(2)に配置された分離ユニット(3)を含む。錯体化のための装置(2)は通常、反応器(釜型反応器又は管型反応器であってよい)であり、この反応器には分離ユニット(3)が配置されている。先に説明したように、この分離ユニット(3)は、濾過ユニット、及び場合により蒸留ユニットを有することができる。図1の分離ユニット(3)は濾過器であり、かつ錯体化のための装置(2)の下流に配置されている。反応器内にある反応混合物の測地線的な高さを有用にするために、濾過ユニット又は濾過ユニットの束は、反応器の下部に直接設置することができる。
【0055】
図1では、装置(1)に供給部(2.1)が備え付けられており、この供給部を介して、工業的な純度のハロゲンシランを錯体化のための装置(2)に誘導し、さらなる供給部(2.2)を介してトリフェニルメチルクロリドを添加することができる。形成される反応混合物はこの後、分離ユニット(3)のフィルターによって誘導することができ、精製されたハロゲンシラン(3.1)が得られる。(3.2)では、トリフェニルメチルクロリドの添加により析出した錯体を除去することができる。
【0056】
代替的には、分離ユニット(3)は付加的に蒸留ユニットを有することができ、この際に蒸留ユニットは吹き込み部、少なくとも1つの分離段を有する塔(精留塔)、又は管型蒸発器、及びその都度非常に高純度のハロゲンシランを取得するための少なくとも1つの蒸留受け器を有する(図示せず)。トリフェニルメチルクロリド量のより正確な供給のために、錯体化装置(2)には、供給装置(図示せず)が配置されていてよい。
【符号の説明】
【0057】
1 本発明による装置、 2 錯体化装置、 2.1 供給部、 2.2 供給部、 3 分離ユニット、 3.1 精製されたハロゲンシラン、 3.2 錯体の除去

【特許請求の範囲】
【請求項1】
精製されたハロゲンシランを製造するために、工業的な純度のハロゲンシラン中の周期表の第三主族の元素の含分を低減させる方法であって、以下の工程
a)ハロゲンシランに難溶性の錯体を形成するために、精製すべきハロゲンシランにトリフェニルメチルクロリドを加える工程、
b)形成された難溶性の錯体を、機械的作用で分離することによって、精製されたハロゲンシランを得る工程、
を含む、方法。
【請求項2】
錯体の分離を、遠心分離、吸い取り、デカンタ、沈降分離、及び/又は濾過によって行うことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
錯体を形成するために、精製すべきハロゲンシランにトリフェニルメチルクロリドを加える工程(a)を、錯体化するための装置(2)内で行い、
工程(b)で錯体を分離するために、該装置からハロゲンシランと錯体を少なくとも部分的に分離ユニット(3)に移す
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
工程(a)及び(b)が、非常に高純度のハロゲンシランを製造するための連続的な方法で結合されていることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
ホウ素及び/又はアルミニウムの含分が低減されることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記ハロゲンシランがクロロシランに相応することを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記ハロゲンシランがテトラクロロシラン、及び/又はトリクロロシランに相応することを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
工業的な純度のハロゲンシラン中にある、トリフェニルメチルクロリドによって錯体を形成する不純物の含分を測定することを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
方法工程a)で、周期表の第三主族元素の化合物の1つ又は複数の形成された錯体の可溶性生成物をトリフェニルメチルクロリドが上回り、かつ錯体の沈殿が形成されるような量で、トリフェニルメチルクロリドを添加することを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
方法工程a)で、トリフェニルメチルクロリドを段階的に添加することを特徴とする、請求項1から9までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
方法工程a)で、トリフェニルメチルクロリドを加えるのと同時に、又はトリフェニルメチルクロリドを加えた後で、反応混合物を熱的に処理することを特徴とする、請求項1から10までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
平均細孔直径≦100μmの濾過媒体を用いて濾過を行うことを特徴とする、請求項1から11までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
非常に高純度のハロゲンシランが得られることを特徴とする、請求項1から12までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
周期表の第三主族の元素の含分がそれぞれ、≦50μg/kgである非常に高純度のハロゲンシランが得られることを特徴とする、請求項1から13までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
錯体の機械的な分離に、少なくとも1つの蒸留が続き、かつ高純度のハロゲンシランが得られることを特徴とする、請求項1から14までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
錯体の機械的な分離に、少なくとも1つの蒸留が続き、かつ高純度のテトラクロロシラン、トリクロロシラン、及び/又はジクロロシランが得られることを特徴とする、請求項1から15までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
精製されたハロゲンシランを製造するために、工業的な純度のハロゲンシラン中にある周期表の第三主族の元素の含分を低減させる装置(1)であって、
該装置(1)が、
当該元素を含む化合物を錯体化するための少なくとも1つの装置(2)、及び
錯体化のための装置に配置された分離ユニット(3)
を含み、
この際、分離ユニット(3)が、ハロゲンシランへの機械的作用によって錯体の沈殿物を分離する装置を含む、装置(1)。
【請求項18】
分離ユニット(3)が、錯体化のための少なくとも1つの装置(2)に、下流で後接続されていることを特徴とする、請求項17に記載の装置。
【請求項19】
分離ユニット(3)が遠心分離ユニット、デカンタユニット、及び/又は濾過ユニット、及び場合により蒸留ユニットを有することを特徴とする、請求項17又は18に記載の装置。
【請求項20】
蒸留ユニットが、吹き込み部、塔、及び少なくとも1つの蒸留受け器を有することを特徴とする、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
錯体化のための装置(2)に、供給装置が配置されていることを特徴とする、請求項17から20までのいずれか1項に記載の装置。
【請求項22】
装置(1)が、冶金法シリコンを反応させるための反応器を含む全体の装置に組み込まれていることを特徴とする、請求項17から21までのいずれか1項に記載の装置。
【請求項23】
請求項1から22までのいずれか1項に記載の方法を実施するための、請求項17から22のいずれか1項に記載の装置の使用。

【図1】
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【公表番号】特表2011−509907(P2011−509907A)
【公表日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−542546(P2010−542546)
【出願日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際出願番号】PCT/EP2008/065892
【国際公開番号】WO2009/089950
【国際公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【出願人】(501073862)エボニック デグサ ゲーエムベーハー (837)
【氏名又は名称原語表記】Evonik Degussa GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1−11, D−45128 Essen, Germany
【Fターム(参考)】