説明

ハロゲン化エーテル複合体

本発明は、α−シクロデキストリンおよびハロゲン化エーテルからなる複合体であって、複合体の総重量に対して少なくとも3重量%のハロゲン化エーテル含量を特徴とする、複合体に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フルラン複合体および麻酔剤としてのその製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
フルラン類は、昏睡状態の維持または導入のための麻酔に用いられる医薬であり、従来技術では吸入によって使用される。吸入用麻酔剤は、ガスとしてまたは気化器によって気化された液体として、呼吸マスクを介して、ラリンゲルマスクを介してまたは気管内チューブを介して、投与される。
【0003】
フルラン類は、沸点が低く、蒸気レベルが高い。それらは、ポリハロゲン化エーテルである。それらは親油性物質であり、とりわけ親油性による細胞膜の構成成分との非特異的相互作用によって、その麻酔効果の説明がつく。
【発明の概要】
【0004】
本発明の目的は、吸入以外の経路による投与が可能であるフルラン製剤を提供することである。
【発明を実施するための形態】
【0005】
本発明は、α−シクロデキストリンおよびフルランから形成される複合体であって、フルラン含量が複合体の総重量に対して少なくとも3重量%である複合体を提供する。
【0006】
驚くべきことに、本発明によって、フルラン類とα−シクロデキストリンとの複合体であって、これらの麻酔薬を経口または静脈内投与用に製剤する基礎となり、かつ3重量%以上の高フルラン含量を有し得る複合体を製造することが可能になることを発見した。
【0007】
シクロデキストリン類は、一般的に、トロイド型を有し、それに対応した形状の空洞を有する。フルラン類は、ゲスト分子としてこの空洞に入り、その結果、水溶液として製剤化することができ、かつ意図した薬剤作用部位にフルラン類を提供することができる極めて親油性の高いフルラン類の複合体が得られる。
【0008】
α−シクロデキストリンは、それぞれが3個のOH基を有し、所望により置換されていてもよい(例えばメチル化されていてもよい)、6個のグルコピラノース単位を有する。
【0009】
本発明の複合体のフルラン含量は、好ましくは少なくとも5重量%、より好ましくは少なくとも7重量%、より好ましくは少なくとも8重量%、より好ましくは8〜12重量%である。記載された値は、発明性のある範囲をもたらすように、所望により組合せることができる。
【0010】
フルランは、ポリフッ化エーテルであり、好ましくは、セボフルラン、エンフルラン、イソフルラン、デスフルランおよびメトキシフルランからなる群から選択される。セボフルランが特に好ましい。
【0011】
本発明によれば、複合体は、5〜15重量%、好ましくは7〜13重量%の水含量(残余水含量)を有していてもよい。
【0012】
本発明は、さらに、医薬として使用するための本発明の複合体を提供する。
【0013】
本発明は、さらに、本発明の複合体を含む、経口および/または静脈内投与用に製剤化された麻酔剤を提供する。
【0014】
本発明は、さらに、
a) α−シクロデキストリン水溶液を調製し、
b) フルランを水溶液に加え、
c) 沈殿した複合体を回収する
工程を含む、本発明の複合体を製造する方法を提供する。
【0015】
本発明によって、第1工程において、α−シクロデキストリン水溶液を調製する。これは、好ましくは溶解していないシクロデキストリンが懸濁したまま残っていない完全な溶液である。水溶液中のα−シクロデキストリンの好ましい濃度は、5〜30重量%、好ましくは5〜20重量%、より好ましくは5〜15重量%である。非置換α−シクロデキストリンが用いられるならば、その上限は14.5重量%(非置換α−シクロデキストリンの水への溶解度)である。置換された、特に(部分的に)メチル化されたα−シクロデキストリン類は、より高い水への溶解度を有し得る。
【0016】
α−シクロデキストリンを好ましくは室温で水に溶解する。フルランを溶解したα−シクロデキストリンに添加する。複合体が形成して、水溶液から結晶形で沈殿し、それを回収できる。
【0017】
本発明の状況において、フルラン対α−シクロデキストリンのモル比が1:0.5〜1:2、好ましくは1:0.8〜1:1.2で、フルランが加えられる場合が好ましい。より詳細には、シクロデキストリンに対しておおよそ等モルのフルランの添加が行われ得る。
【0018】
沈殿した複合体において、フルラン対シクロデキストリンのモル比は、例えば、1:1.5〜1:6の範囲で見出される。好ましくは、1:1.5〜1:2の範囲である。沈殿した複合体中のフルランとシクロデキストリンのモル比で測定して、製品中にモル過剰のフルランを用いるものが好ましい。
【0019】
本発明によって、好ましくは、フルランの添加に続いて、複合体の沈殿を促進して収量を上げるために、例えば5〜10℃の温度まで冷却する。
【0020】
実施例および比較例を、下に記載する。
1. 材料
・精製水(Millipore Q品質の水)
・α−シクロデキストリン
・β−シクロデキストリン
・2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン
・メチル−β−シクロデキストリン(RAMEB)
・セボフルラン
全てのシクロデキストリン類を、Cyclo Lab Cyclodextrin Research & Development Laboratory Ltd., Hungaryから購入した。セボフルランをAbbott GmbH, Wiesbadenから購入した。
【0021】
2. 製造した複合体のセボフルラン含量の測定
複合体のセボフルラン含量を、ガスクロマトグラフィーによって測定した。ガスクロマトグラフィー条件は、下記の通りであった:
ガスクロマトグラフ:Shimadzu GC-17A
検出器:水素炎イオン化型検出器(FID)
インジェクター:Shimadzu AoC-5000 オートインジェクター
ソフトウェア:Shimadzu Class-VP 7.4 version
ガス:
キャリア:ヘリウム(99.999%)
さらなるガス:窒素(99.999%)
合成空気(99.999%)
水素(Whatman hydrogen generator)
カラム:Rtx624 (30m×0.32mm×1.8mm) (Restek)
温度プログラム:
【表1】

インジェクター温度:220℃
検出器温度:220℃
スプリット比 100:1
流速:30cm/秒
インジェクションプログラムは下記の通りであった:60℃で10分間インキュベーションした後、250μlの体積の蒸気サンプルを、70℃で、ガスクロマトグラフに注入した。
【0022】
サンプル調製
比較溶液:250μlのDMFを含む1mlの蒸留水をバイアルに入れる
較正溶液:ストック溶液として、2mlの硝子瓶に100mgのセボフルランを秤量し、DMFをマークまで入れる
種々の量のストック溶液(20、65、110、155および200μl)をそれぞれDMFで200μlにして、1mlの蒸留水と共にヘッドスペースバイアル(19.5ml)に入れる。
サンプル溶液:50mgのサンプル溶液を、1mlの蒸留水および200μlのDMFと共に、ヘッドスペースバイアル(19.5ml)に入れる。さらに、1mlの母液(沈殿した複合体を取った後のシクロデキストリンとセボフルランの複合体の上清から調製)を、200μlのDMFと共に、ヘッドスペースバイアル(19.5ml)に入れる。
【実施例】
【0023】
実施例1
この実施例は、セボフルランのα−シクロデキストリン(α−CD)複合体の製造を記載する。
丸底フラスコに、室温で、継続的に撹拌しながら、45.25g(0.0465mol)のα−CDを500mlの水に溶解した。α−CDが完全に溶解した後、6ml(0.0465mol)のセボフルランを、室温で溶液に加えた。白色の沈殿が生じ、それを氷水で5〜10℃に冷却した。混合物をこの温度で4時間撹拌し、フラスコを冷蔵庫中で一夜置いた。次に、沈殿したセボフルラン/α−CD複合体の結晶を濾過して取り、減圧下、五酸化リンで乾燥させた。
【0024】
実施例2
この実施例は、複合体形成に対する適当なシクロデキストリンの選択の影響を示す。比較のために、β−シクロデキストリン(β−CD)、ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン(HP−β−CD)およびRAMEBを用いた。これらの比較例は、本発明に含まれない。
1mlの4種のシクロデキストリン類の水溶液をそれぞれ調製した。この水溶液におけるシクロデキストリン類の濃度は、下記の通りであった:
α−CD:10重量%
β−CD:2重量%
HP−β−CD:10重量%
RAMEB:10重量%
【0025】
セボフルランを、各シクロデキストリンのモル含量に基づいて、1:1のモル比でこれらの溶液に加えた。
HP−β−CDおよびRAMEBの場合は、均一な溶液が得られ;複合体は沈殿しなかった。
α−CDおよびβ−CDでは、白色の沈殿物が形成した。
【0026】
次の工程において、100mlのα−CD(9.05重量%)およびβ−CD(1.78重量%)の水溶液をそれぞれ調製した。再度、セボフルランを1:1のモル比で加えた。実施例1に記載された通りに、さらに回収を行って、白色の沈殿物を得た。
沈殿した複合体のセボフルラン含量をガスクロマトグラフィーによって測定した。結果を下記の表に示す。
【表2】

【0027】
この表は、α−CDが、セボフルラン含量が高い複合体の形成に適当であり、一方、β−CDは、セボフルラン含量が比較的低い複合体のみが得られることを示している。
【0028】
実施例3
この実施例では、α−CDとセボフルランの複合体の製造条件を変更した。結果を下記の表2に示す。
【表3】

【0029】
実施例3.1では、比較的少量の水を用いたために、α−CDが完全に溶解しなかった。この製造条件下では、複合体のセボフルラン含量が減少することが分かった。
【0030】
実施例3.4は、水含量が低い場合を示す。この場合、収率は実施例1と同様に高いが、複合体のセボフルラン含量は5.7重量%と実施例1より低いことが分かった。
【0031】
実施例3.2および3.3は、水含量が高い場合を示す。これらは、出発溶液のセボフルラン/α−シクロデキストリンのモル比が異なる(実施例3.2では1:1、実施例3.3では1:2)。両方の場合において、セボフルラン含量の高い複合体が得られた。この表から明らかなように、この複合体のモル比と比較して明らかに過剰量のセボフルランの使用は(実施例3.2)、複合体の収量を増大させる。
【0032】
実施例4
上記実施例より、9% α−シクロデキストリン水溶液を調製し、モル比1:1でセボフルランをα−CD溶液に加えた場合に、収率がよく、複合体中のセボフルラン含量が高いことが分かった。下記の表3は、これらの条件下で、複合体の製造が、確実に再現性があることを示す。3回の実験では、実質的に同一のまたは同等の結果が得られた。
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
α−シクロデキストリンおよびフルランから形成された複合体であって、複合体の総重量に対して少なくとも3重量%のフルラン含量を特徴とする、複合体。
【請求項2】
フルラン含量が、少なくとも5重量%、好ましくは少なくとも7重量%、より好ましくは少なくとも8重量%、より好ましくは8〜12重量%である、請求項1に記載された複合体。
【請求項3】
フルランが、セボフルラン、エンフルラン、イソフルラン、デスフルランおよびメトキシフルランからなる群から選択されることを特徴とする、請求項1または2に記載された複合体。
【請求項4】
5〜15重量%、好ましくは7〜13重量%の水含量を有することを特徴とする、請求項1〜3の何れか1項に記載された複合体。
【請求項5】
医薬として使用するための、請求項1〜4の何れか1項に記載された複合体。
【請求項6】
請求項1〜4の何れか1項に記載された複合体を含むことを特徴とする、経口および/または静脈内投与用に製剤化された麻酔剤。
【請求項7】
a) α−シクロデキストリンの水溶液を調製し、
b) フルランを水溶液に加え、
c) 沈殿した複合体を回収する
工程によって特徴付けられる、請求項1〜4の何れか1項に記載された複合体を製造する方法。
【請求項8】
工程a)で調製される水溶液中のα−シクロデキストリンの濃度が、5〜30重量%、好ましくは5〜20重量%、より好ましくは5〜15重量%であることを特徴とする、請求項7に記載された方法。
【請求項9】
工程b)で、フルラン対α−シクロデキストリンが1:0.5〜1:2、好ましくは1:0.8〜1:1.2のモル比で加えられることを特徴とする、請求項7または8に記載された方法。
【請求項10】
工程b)で、フルランが室温で加えられることを特徴とする、請求項7〜9の何れか1項に記載された方法。
【請求項11】
フルラン添加に続いて、好ましくは5と10℃の間の温度まで冷却することを特徴とする、請求項7〜10の何れか1項に記載された方法。

【公表番号】特表2013−517254(P2013−517254A)
【公表日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−548444(P2012−548444)
【出願日】平成23年1月14日(2011.1.14)
【国際出願番号】PCT/EP2011/050428
【国際公開番号】WO2011/086146
【国際公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(512185235)ザピオテック・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (1)
【氏名又は名称原語表記】SAPIOTEC GmbH
【Fターム(参考)】