説明

ハロゲン化芳香族化合物の脱ハロゲン化用溶媒、及びハロゲン化芳香族化合物の脱ハロゲン化方法

【課題】 ハロゲン化芳香族化合物の脱ハロゲン化の反応効率を十分に向上させることが可能な溶媒、並びにその溶媒を用いたハロゲン化芳香族化合物の脱ハロゲン化方法を提供すること。
【解決手段】 本発明の溶媒は、ハロゲン化芳香族化合物の脱ハロゲン化に使用される溶媒であって、鉱油及び合成油から選ばれる少なくとも1種を含有し、硫黄分が350質量ppm以上であることを特徴とする。この溶媒と、ハロゲン化芳香族化合物と、脱ハロゲン化剤とを混合して所定温度に保持することにより、ハロゲン化芳香族化合物の脱ハロゲン化の反応効率を十分に向上させることができ、処理時間の短縮及び処理コストの削減が有効に実現可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロゲン化芳香族化合物の脱ハロゲン化に用いられる溶媒、及びハロゲン化芳香族化合物の脱ハロゲン化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気機器の絶縁油等としてポリ塩化ビフェニル類(PCB)などのハロゲン化芳香族化合物が使用されていたが、この種の化合物の生体・環境に対する影響が明らかになったことから、現在ではその製造が禁止されている。しかし、長期にわたって使用又は保管されているものも未だ多く存在するため、その環境への流出が懸念されている。また、電気機器等の一部においては既にハロゲン化芳香族化合物から他の絶縁油への交換がなされているが、ハロゲン化芳香族化合物の一部は電気機器内に残留して新たな絶縁油中に混入し得るため、その絶縁油を廃棄する際にはそれに含まれるハロゲン化芳香族化合物を無害化する必要が生じる。
【0003】
そこで、ハロゲン化芳香族化合物を含む廃棄物を適性に処理するための方法が検討されており、その一つとしてハロゲン化芳香族化合物の脱ハロゲン化がある。この処理方法は、ハロゲン化芳香族化合物に脱ハロゲン化剤を作用させることにより、ハロゲン化芳香族化合物のハロゲン原子を水素原子に置換して無害化するものである(例えば、特許文献1〜4を参照)。
【特許文献1】特開昭49−82570号公報
【特許文献2】特開昭62−152479号公報
【特許文献3】特開平7−8572号公報
【特許文献4】特開平9−216838号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記従来の処理方法であっても、難分解性化合物であるハロゲン化芳香族化合物の脱ハロゲン化を行う際には、その反応効率が十分とはいえず、処理時間の短縮及び処理コストの削減の点で未だ改善の余地がある。
【0005】
そこで、本発明者らは、ハロゲン化芳香族化合物の脱ハロゲン化の反応効率を向上させる方法について検討し、その結果、脱ハロゲン化に使用される溶媒が反応効率に影響を及ぼす重要な因子であるとの知見を得た。
【0006】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、ハロゲン化芳香族化合物の脱ハロゲン化の反応効率を十分に向上させることが可能な溶媒、並びにその溶媒を用いたハロゲン化芳香族化合物の脱ハロゲン化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、ハロゲン化芳香族化合物の脱ハロゲン化を行うに際し、鉱油及び/又は合成油を含有し、硫黄分が所定条件を満たす溶媒を用いた場合に上記課題が解決されることを見出し、本発明を解決するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の溶媒は、ハロゲン化芳香族化合物の脱ハロゲン化に使用される溶媒であって、鉱油及び合成油から選ばれる少なくとも1種を含有し、硫黄分が350質量ppm以上であることを特徴とする。
【0009】
また、本発明のハロゲン化芳香族化合物の脱ハロゲン化方法は、上記本発明の溶媒と、ハロゲン化芳香族化合物と、脱ハロゲン化剤とを混合して所定温度に保持し、ハロゲン化芳香族化合物のハロゲン原子を水素原子に置換又は除去することを特徴とする。
【0010】
このように、ハロゲン化芳香族化合物の脱ハロゲン化の溶媒として、鉱油及び合成油から選ばれる少なくとも1種からなり、硫黄分が350質量ppm以上である溶媒を用いることで、脱ハロゲン化の反応効率を十分に向上させることができ、処理時間の短縮及び処理コストの削減が有効に実現可能となる。
【0011】
本発明により上記の効果が得られる理由は必ずしも明確ではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、本発明の溶媒は、ハロゲン化芳香族化合物のハロゲン原子を水素原子に置換する場合は、単に脱ハロゲン化の反応場を与える溶媒として機能するだけでなく、ハロゲン化芳香族化合物のハロゲン原子と置換される水素原子の供給源として機能しているものと考えられる。そして、かかる溶媒の硫黄分を350質量ppm以上とすることで、当該硫黄分による十分な触媒作用が発揮され、鉱油又は合成油からの水素原子の脱離反応、及び/又はハロゲン化芳香族化合物のハロゲン原子への置換反応が促進されるため、脱ハロゲン化の反応効率を十分に向上させることができるものと本発明者らは推察する。なお、本発明による作用は上記の作用に限定されるものではない。
【0012】
本発明においては、溶媒のn−d−M環分析により得られる%CN値が20以上であることが好ましい。溶媒の%CN値が20以上であると、ハロゲン化芳香族化合物の脱ハロゲン化の反応効率を更に向上させることが可能となる。
【0013】
本発明の溶媒及びハロゲン化芳香族化合物の脱ハロゲン化方法は、ハロゲン化芳香族化合物がポリ塩化ビフェニル類であり、脱ハロゲン化剤が脱塩素化剤である場合に好適である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ハロゲン化芳香族化合物の脱ハロゲン化の反応効率を十分に向上させることが可能な溶媒、並びにその溶媒を用いたハロゲン化芳香族化合物の脱ハロゲン化方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0016】
本発明の溶媒は、ハロゲン化芳香族化合物の脱ハロゲン化に使用される溶媒であって、鉱油及び合成油から選ばれる少なくとも1種を含有し、硫黄分が350質量ppm以上のものである。
【0017】
本発明でいう「硫黄分」とは、JIS K 2541で標準化された試験方法で測定された硫黄分を意味する。本発明の溶媒の硫黄分は、脱ハロゲン化の十分な反応効率が得られる点から、前述の通り350質量ppm以上であることが必要であり、500質量ppm以上であることが好ましく、1000質量ppm以上であることがより好ましく、3000質量ppm以上であることが更に好ましく、5000質量ppm以上であることが特に好ましい。また、当該硫黄分の上限値は特に制限されないが、酸化劣化によるスラッジの生成量を低減できる点から、10000質量ppm以下であることが好ましく、9000質量ppm以下であることがより好ましい。
【0018】
なお、本発明の溶媒は鉱油及び/又は合成油を主成分とするものであるが、後述するように、本発明の溶媒には、鉱油及び/又は合成油に所定の硫黄化合物を添加して溶媒全体の硫黄分を350質量ppm以上としたものも包含される。
【0019】
本発明で用いられる鉱油としては、例えば、原油を常圧蒸留及び減圧蒸留して得られた潤滑油留分に対して、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、異性化脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理等の1種もしくは2種以上の精製手段を適宜組み合わせて適用して得られるパラフィン系又はナフテン系等の鉱油が挙げられる。
【0020】
また、合成油としては、例えば、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ポリフェニルアルカン、ポリフェニルアルケン、ポリフェニルエーテル、ジアルキルジフェニルエーテルなどが挙げられる。
【0021】
本発明においては、溶媒全体の硫黄分が350質量ppm以上であれば、上記の鉱油又は合成油のうちの1種を単独で用いてもよく、あるいは2種以上の混合物として用いてもよい。例えば、硫黄分が350質量ppm以上である鉱油は、それ自身単独で本発明の溶媒として使用することができる。また、硫黄分が350質量ppm未満の鉱油は、溶媒全体の硫黄分が350質量ppm以上となるように、硫黄分が350質量ppm以上の鉱油との混合油とするか、あるいは所定の硫黄化合物を添加することにより、本発明の溶媒の構成成分として使用することができる。鉱油に添加される硫黄化合物としては、硫黄原子を1個以上含むものであれば特に制限されず、元素硫黄、有機硫黄化合物、無機硫黄化合物の何れもが使用可能である。これらの中でも有機硫黄化合物が好ましい。
【0022】
有機硫黄化合物としては、炭素数1〜50の有機硫黄化合物が好適に用いられる。有機硫黄化合物は環状有機硫黄化合物又は非環状有機硫黄化合物の何れであってもよいが、環状有機硫黄化合物が好ましい。かかる環状有機硫黄化合物としては、具体的には、チアン、2−チアゾリン、チアゾリジン、1,3−ジチアン、2,3−ヒドロベンゾチオフェンなどが挙げられる。
【0023】
また、合成油を常法により製造した場合、通常、その硫黄分は350質量ppm以下であるが、このような合成油は、溶媒全体の硫黄分が350質量ppm以上となるように、硫黄分が350質量ppm以上の鉱油と組み合わせるか、あるいは上記鉱油の説明で例示した硫黄化合物を添加することにより、本発明の溶媒の構成成分として使用することができる。
【0024】
また、本発明においては、脱ハロゲン化の反応効率を更に向上できる点から、溶媒のn−d−M環分析により得られる%CN値が、20以上であることが好ましく、25以上であることがより好ましい。また、溶媒の安定性を重視する場合には、当該%CN値は、70以下であることが好ましく、50以下であることがより好ましく、40以下であることが更に好ましく、30以下であることが特に好ましい。なお、本発明でいう「%CN値」とは、ASTM D 3238で標準化された試験方法で測定されたn−d−M環分析の%CN値(ナフテン分)を意味する。
【0025】
n−d−M環分析により得られる%CN値が20以上である溶媒の具体的態様としては、例えば下記溶媒(a−1)〜(a−3)が挙げられる。なお、下記の溶媒(a−1)〜(a−3)はいずれも溶媒全体の硫黄分が350質量ppm以上の溶媒である。
(a−1)n−d−M環分析により得られる%CN値が20以上である鉱油又は合成油のうちの1種単独で又は2種以上の混合物で構成される溶媒。
(a−2)溶媒全体の%CN値が20以上となるように、%CN値が20以上である鉱油又は合成油と、%CN値が20未満である鉱油又は合成油とが混合された溶媒。
(a−3)溶媒全体の%CN値が20以上となるように、%CN値が20未満である鉱油又は合成油にナフテン環を有する化合物が添加された溶媒。
【0026】
上記の溶媒(a−3)に関し、添加されるナフテン環を有する化合物としては、ナフテン環を1個以上有するものであれば特に制限されないが、通常、炭素数6〜50の化合物が使用される。このような化合物としては、インダン、デカヒドロナフタレン、1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン、1,2,3,4,9,10−ヘキサヒドロフェナントレン、1,2,3,4,9,10−ヘキサヒドロアントラセンなどが挙げられる。
【0027】
また、本発明の溶媒の%CAは、脱ハロゲン化の反応効率を更に向上できる点から、2以上であることが好ましく、3以上であることがより好ましい。また、当該%CAは、酸化安定性を維持できる点から、7以下であることが好ましく、6以下であることがより好ましい。なお、本発明でいう「%CA値」とは、ASTM D 3238で標準化された試験方法で測定されたn−d−M環分析の%CA値(芳香族分)を意味する。
【0028】
更に、本発明の溶媒においては、脱ハロゲン化の反応効率を更に向上できる点から、%CNと%CAとの和が、28以上であることが好ましく、29以上であることがより好ましい。また、%CNと%CAとの和は、酸化安定性を維持できる点から、39以下であることが好ましく、38以下であることがより好ましい。
【0029】
また、本発明の溶媒の動粘度は特に制限されないが、脱ハロゲン化の際に十分な反応効率が得られる点から、40℃における動粘度は、50mm/s以下であることが好ましく、30mm/s以下であることがより好ましく、20mm/s以下であることが更に好ましい。また、当該40℃における動粘度は、蒸発量を低減できる点から、2mm/s以上であることが好ましく、3mm/s以上であることがより好ましく、5mm/s以上であることが更に好ましく、6mm/s以上であることが一層好ましく、7mm/s以上であることが特に好ましい。
【0030】
また、本発明の溶媒の密度は特に制限されないが、蒸発量を低減できる点から、15℃における密度が0.851以上であることが好ましい。また、15℃における密度は、脱ハロゲン化の反応効率を向上できる点から、0.910以下であることが好ましい。なお、本発明でいう「15℃における密度」とは、JIS K 2249で標準化された試験方法により測定された密度を意味する。
【0031】
また、本発明の溶媒の流動点は特に制限されないが、脱ハロゲン化の反応効率を更に向上できる点から、好ましくは−10℃以下、より好ましくは−12.5℃以下、更に好ましくは−15℃以下である。なお、本発明でいう「流動点」とは、JIS K 2269で標準化された試験方法により測定された流動点を意味する。
【0032】
また、本発明の溶媒のアニリン点は特に制限されないが、好ましくは84℃以上、より好ましくは86℃以上であり、また、好ましくは110℃以下、より好ましくは100℃以下である。アニリン点が84℃以上であると、酸化安定性をより高水準で維持することができる。また、アニリン点が110℃以下であると、ハロゲン化芳香族化合物を含有する電気絶縁油等に迅速に溶解させることができ、脱ハロゲン化の反応効率をより向上ざせることができる。なお、本発明でいう「アニリン点」とは、JIS K 2256で標準化された試験方法により測定されたアニリン点を意味する。
【0033】
また、本発明の溶媒の屈折率は特に制限されないが、その20℃における屈折率は、好ましくは1.467以上、より好ましくは1.468以上、更に好ましくは1.469以上、特に好ましくは1.470以上であり、また、好ましくは1.478以下、より好ましくは1.477以下、更に好ましくは1.476以下、特に好ましくは1.475以下である。20℃における屈折率が1.467以上であると、脱ハロゲン化の反応効率をより向上させることができる。また、20℃における屈折率が1.478以下であると、ハロゲン化芳香族化合物を含有する電気絶縁油等に迅速に溶解させることができ、脱ハロゲン化の反応効率をより向上ざせることができる。なお、本発明でいう「20℃における屈折率」とは、JIS K 0062で標準化された試験方法により測定された屈折率を意味する。
【0034】
また、本発明の溶媒の平均分子量は特に制限されないが、平均分子量は、蒸発量を低減できる点から、好ましくは200以上、より好ましくは210以上、更に好ましくは220以上、特に好ましくは230以上である。また、平均分子量は、脱ハロゲン化の反応効率を更に向上できる点から、好ましくは450以下、より好ましくは400以下、更に好ましくは370以下、特に好ましくは350以下である。なお、本発明でいう「平均分子量」とは、ASTM D 2502で標準化された試験方法により測定されたRelative Molecular Massを意味する。
【0035】
また、本発明の溶媒の全窒素分は、脱ハロゲン化の反応効率を更に向上できる点から、好ましくは4質量ppm以上であり、より好ましくは5質量ppm以上である。また、当該全窒素分は、洗浄後の電気機器における電気絶縁性を維持できる点から、好ましくは20質量ppm以下であり、より好ましくは18質量ppm以下である。なお、本発明でいう「全窒素分」とは、JIS K 2609で標準化された試験方法により測定された窒素分を意味する。
【0036】
また、本発明の溶媒の塩基性窒素分は、脱ハロゲン化の反応効率を更に向上できる点から、好ましくは1質量ppm以上であり、より好ましくは2質量ppm以上である。また、当該塩基性窒素分は、洗浄後の電気機器における電気絶縁性を維持できる点から、好ましくは7質量ppm以下であり、より好ましくは6質量ppm以下である。なお、本発明でいう「塩基性窒素分」とは、米国VOP社のVOP Method 260−90“NITROGEN BASES IN HYDROCARBONS BY POTENTIOMETRIC TITRATION”(1990)に規定される方法で測定された窒素分を意味する。
【0037】
また、本発明の溶媒の80℃における誘電正接は、洗浄後の電気機器における電気絶縁性を維持できる点から、好ましくは0.5%以下であり、より好ましくは0.2%以下、更に好ましくは0.1%以下である。なお、本発明でいう「80℃における誘電正接」とは、JIS C 2101で標準化された試験方法により測定された誘電正接を意味する。
【0038】
また、本発明の溶媒の80℃における体積抵抗率は、洗浄後の電気機器における電気絶縁性を維持できる点から、好ましくは0.01TΩ・m以上であり、より好ましくは0.05TΩ・m以上、更に好ましくは0.1TΩ・m以上、特に好ましくは0.5TΩ・m以上である。なお、本発明でいう「80℃における体積抵抗率」とは、JIS C 2101で標準化された試験方法により測定された体積抵抗率を意味する。
【0039】
上記構成を有する本発明の溶媒によれば、ハロゲン化芳香族化合物の脱ハロゲン化における反応効率を十分に向上させることができ、処理時間の短縮及び処理コストの削減の点で非常に有用である。
【0040】
次に、本発明のハロゲン化芳香族化合物の脱ハロゲン化方法について説明する。
【0041】
本発明のハロゲン化芳香族化合物の脱ハロゲン化方法は、上記本発明の溶媒と、ハロゲン化芳香族化合物と、脱ハロゲン化剤とを混合して所定温度に保持し、ハロゲン化芳香族化合物のハロゲン原子を水素原子に置換するものである。
【0042】
本発明が適用されるハロゲン化芳香族化合物は特に制限されず、例えば、二塩化ビフェニル、三塩化ビフェニル、四塩化ビフェニル、五塩化ビフェニル、六塩化ビフェニル等のポリ塩化ビフェニル類(PCB)、ペンタクロロフェノールなどが挙げられる。なお、本発明でいうPCBには、ダイオキシン類に分類されるコプラナーPCB(共平面状構造を有するPCB)が包含される。
【0043】
本発明においては、ハロゲン化芳香族化合物を単独で本発明の溶媒に添加してもよく、電気機器から抜き取ったハロゲン化芳香族化合物を含む電気絶縁油等を処理する際には当該電気絶縁油等を本発明の溶媒で希釈してその混合物を脱ハロゲン化に供してもよい。また、本発明の溶媒は、ハロゲン化剤の溶媒として使用することができる。更に、本発明の溶媒は、ハロゲン化芳香族化合物に対して十分な洗浄力を有しており、ハロゲン化芳香族化合物が適用された電気機器や熱交換器などを洗浄するための洗浄剤として好適に使用することができる。かかる洗浄後に生じる廃液は、ハロゲン化芳香族化合物及び本発明の溶媒が含むものであり、そのまま脱ハロゲン化に供し得るものである。したがってこの場合は、洗浄後の廃液からのハロゲン化芳香族化合物の抽出工程などを省略することができ、また、脱ハロゲン化のための溶媒を別途用意する必要もない。このように、本発明の溶媒を洗浄剤及び脱ハロゲン化用溶媒の両方の用途に使用することは、処理時間の短縮及び処理コストの削減を更に効果的に達成することができる点で好ましい。
【0044】
また、脱ハロゲン化剤としては、ナトリウム、カリウム、リチウム、ルビジウム、セシウム又はこれらの合金等のアルカリ金属、水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)、水酸化カリウム(苛性カリ)、ナトリウムアルコキシド、カリウムアルコキシド、水酸化カルシウム等のアルカリ性物質が挙げられる。本発明においては、上記の脱ハロゲン化剤のうち1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0045】
脱ハロゲン化剤の使用量は、ハロゲン化芳香族化合物の種類及び量に応じて適宜選定されるが、ハロゲン芳香族化合物に対して理論量の1.0〜50倍であることが好ましく、1.05〜20倍であることがより好ましい。例えば、ハロゲン化芳香族化合物がポリ塩化ビフェニルであり、脱ハロゲン化剤が金属ナトリウムである場合の脱ハロゲン化は、下記反応式(1)に従って進行する。この場合のポリ塩化ビフェニルと金属ナトリウムとの化学量論比は1:(m+n)であるから、金属ナトリウムの使用量は、モル換算で、ポリ塩化ビフェニルの(m+n)〜50(m+m)倍であることが好ましく、1.05(m+n)〜20(m+n)倍であることがより好ましい。
【0046】
【化1】

【0047】
また、本発明のハロゲン化芳香族化合物の脱ハロゲン化方法においては、上記反応式(1)に従って進行する脱ハロゲン化反応の他に、ハロゲン化芳香族化合物の重合反応を伴う脱ハロゲン化が同時に起こってもよい。かかる重合反応を伴う脱ハロゲン化を積極的に進行させたい場合のポリ塩化ビフェニルの使用量は、モル換算で、ポリ塩化ビフェニルの(m+n)〜2(m+n)倍であることが好ましく、1.1(m+n)〜2(m+n)倍であることがより好ましい。例えば、ハロゲン化芳香族化合物がポリ塩化ビフェニルであり、脱ハロゲン化剤が金属ナトリウムである場合の重合反応を伴う脱ハロゲン化は、下記反応式(2−1)又は(2−2)に従って進行する。なお、下記反応式(2−1)及び(202)には2量体が生成する場合の例を示したが、生成する重合体は3量体以上の多量体であってもよい。
【0048】
【化2】

【0049】
【化3】

【0050】
また、本発明の溶媒の使用量は、ハロゲン化芳香族化合物及び脱ハロゲン化剤の使用量の合計100mg当たり、好ましくは100〜500ml、より好ましくは150〜450mlである。
【0051】
脱ハロゲン化を行うに際し、本発明の溶媒への反応基質(ハロゲン化芳香族化合物及び脱ハロゲン化剤)の添加の順序は特に制限されない。例えば、本発明の溶媒に脱ハロゲン化剤を添加して脱ハロゲン化剤の分散液又は溶液を調製した後、かかる分散液又は溶液にハロゲン化芳香族化合物を添加して脱ハロゲン化を行ってもよい。
【0052】
また、上述のように本発明の溶媒を洗浄剤として用いた場合には、洗浄後の廃液に脱ハロゲン化剤を添加して脱ハロゲン化を行うことができる。この場合、廃液に脱ハロゲン化剤を単独で添加してもよいが、本発明の溶媒に脱ハロゲン化剤を添加した分散液又は溶液を別途調製し、その分散液又は溶液と廃液とを混合して脱ハロゲン化を行うことが好ましい。
【0053】
また、脱ハロゲン化の際には、必要に応じて、ハロゲン化芳香族化合物のハロゲン原子と置換される水素原子の供給源として、活性水素化合物を反応液に添加してもよい。かかる活性水素化合物としては、水、有機酸、第1アミン、第2アミン、アルコールなどが挙げられる。活性水素化合物の添加量は、脱ハロゲン化剤に対して、好ましくは0.5当量以下、より好ましくは0.2当量以下である。
【0054】
脱ハロゲン化の反応温度は、好ましくは0〜200℃、より好ましくは室温以上溶媒の沸点以下の温度である。反応時間は、反応液中のハロゲン化芳香族化合物が所定濃度以下となるように適宜選定することができる。脱ハロゲン化が完了した後の反応液には未反応の脱ハロゲン化剤が存在し得るため、中和又は希釈等の後処理を行うことが好ましい。
【0055】
以上の通り、本発明のハロゲン化芳香族化合物の脱ハロゲン化方法によれば、本発明の溶媒中でハロゲン化芳香族化合物の脱ハロゲン化を行うことで、脱ハロゲン化の反応効率を向上させることができ、処理時間の短縮及び処理コストの削減を有効に実現することができる。
【実施例】
【0056】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0057】
[実施例1〜4、比較例1、2]
先ず、以下に示す溶媒1〜6を準備した。各溶媒の諸性状を表1に示す。
溶媒1:鉱油(硫黄分:400質量ppm、%CN値:56.2)
溶媒2:鉱油(硫黄分:400質量ppm、%CN値:54.5)
溶媒3:鉱油(硫黄分:900質量ppm、%CN値:28.7)
溶媒4:鉱油(硫黄分:8400質量ppm、%CN値:26.0)
溶媒5:鉱油(硫黄分:300質量ppm、%CN値:31.8)
溶媒6:鉱油(硫黄分:300質量ppm、%CN値:30.2)。
【0058】
次に、溶媒1〜6を用い、以下のようにして金属ナトリウム分散体法によるPCBの脱塩素化を行い、反応効率を評価した。
【0059】
先ず、温度計、冷却管及び攪拌器を付けた1L四つ口フラスコに、溶媒1〜6のいずれか300gと、PCB(鐘淵化学工業(株)社製、商品名:カネクロール KC−400)0.2gと、水0.5gとを仕込み、撹拌下、40℃に加温し、フラスコ内をアルゴンガスでパージした。その一方で、フラスコに仕込んだ溶媒と同種の溶媒に金属ナトリウム粒子を分散させた分散液(金属ナトリウム:15質量%)30gを調製した。この分散液をフラスコ内に5分かけて滴下し、40℃で2時間反応させた。
【0060】
上記の反応において、反応開始から所定時間経過後に反応液5mlを採取し、水5mlを加えて分液した。そして、有機層のうち1mlをシリカゲルカラムクロマト処理し(展開溶媒:n−ヘキサン)、ECD検出器を備えるガスクロマトグラフによりPCB濃度を分析した。PCB濃度が0.5mg/kg以下となるまでこの操作を繰り返し、その所要時間に基づき反応効率を評価した。各実施例又は比較例における所要時間を表1に示す。なお、表1中の「>120」は、反応開始から2時間(すなわち120分)経過後にPCB濃度が0.5mg/kg以下とならなかったことを意味する。
【0061】
【表1】

【0062】
表1に示した結果から明らかなように、本発明の溶媒に係る溶媒1〜4を用いた実施例1〜4では、比較例1、2と比較して、PCB濃度が0.5mg/kg以下となるまでの所要時間が極端に短いことが確認された。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロゲン化芳香族化合物の脱ハロゲン化に使用される溶媒であって、鉱油及び合成油から選ばれる少なくとも1種を含有し、硫黄分が350質量ppm以上であることを特徴とする溶媒。
【請求項2】
n−d−M環分析により得られる%CN値が20以上であることを特徴とする、請求項1に記載の溶媒。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の溶媒と、ハロゲン化芳香族化合物と、脱ハロゲン化剤とを混合して所定温度に保持し、前記ハロゲン化芳香族化合物のハロゲン原子を水素原子に置換することを特徴とするハロゲン化芳香族化合物の脱ハロゲン化方法。
【請求項4】
前記ハロゲン化芳香族化合物がポリ塩化ビフェニル類であり、前記脱ハロゲン化剤が脱塩素化剤であることを特徴とする、請求項3に記載のハロゲン化芳香族化合物の脱ハロゲン化方法。


【公開番号】特開2006−257034(P2006−257034A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−77979(P2005−77979)
【出願日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【出願人】(000004307)日本曹達株式会社 (434)
【Fターム(参考)】