説明

ハードコート層形成用塗料組成物および光学物品

【課題】 本発明は、プラスチック基材上にハードコート層を形成するための塗料組成物および該塗料組成物を塗布して得られるハードコート層を有する光学物品に関するものである。
【解決手段】 (A)25℃の温度で測定したときのpHが2.0〜4.0の範囲にあり、しかも該pH領域におけるゼータ電位が−10〜−30mVの範囲にあるシリカ系微粒子を含むシリカゾル;および(B)特定の有機珪素化合物、その加水分解物および/または該加水分解物の部分縮合物を含むハードコート層形成用塗料組成物、および該塗料組成物をプラスチック基材上に塗布して得られるハードコート層を備えた光学物品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック基材上にハードコート層を形成するための塗料組成物および該塗料組成物を塗布して得られるハードコート層を備えた光学レンズなどの光学物品に関するものである。さらに詳しく述べれば、プラスチック基材、特にプラスチックレンズ基材上に塗布して硬化させることによって、耐擦傷性、透明性、密着性、耐候性、耐光性などに優れた硬化膜(ハードコート層)を形成するための塗料組成物および該ハードコート層を備えた光学物品、特に光学レンズに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、光学レンズ、特に眼鏡レンズの材料としては、無機ガラス基材に代わってプラスチック基材が使用されることが多くなっている。これは、プラスチック基材が軽量性、耐衝撃性、加工性、染色性等の面で優れた特性を備えているばかりでなく、第2世代プラスチックレンズとしてその素材の改良、開発が進められ、より軽量化や高屈折率化等が図られたためである。しかしながら、これらのプラスチック基材は、無機ガラス基材に比べて傷つき易いという欠点がある。
【0003】
そこで、この欠点を回避するため、プラスチック基材を用いた光学レンズの表面には、通常はシリコーン系の硬化性塗膜、即ちハードコート層が設けられている。更に、高屈折率のプラスチックレンズ基材を用いた場合には、このレンズとハードコート層との間に起こる光の干渉(干渉縞として現れる)を避けるため、また、塗膜の耐擦傷性を向上させるため、前記ハードコート層に金属酸化物微粒子を含ませることが行われている。
例えば、特許文献1には、前記金属酸化物微粒子として酸化チタン、酸化ジルコニウム、五酸化アンチモンを含む複合酸化物微粒子を使用することが開示されている。また、特許文献2には、前記金属酸化物微粒子として、チタンと、珪素と、ジルコニウムおよび/またはアルミニウムとからなる複合酸化物微粒子を使用することが開示されている。
【0004】
一方、プラスチックレンズの高屈折率化の流れとは別に、ハードコート層に本来、要求される耐擦傷性において、さらにその性能を向上させることが求められている。しかしながら、前記の公知文献に記載された金属酸化物粒子では、金属酸化物粒子を添加していないものと比較した場合、確かに耐擦傷性は向上するが、差別化製品としてみた場合、まだ十分な耐擦傷性を備えているとは言えなかった。
【0005】
【特許文献1】特開平5−264806号公報
【特許文献2】特許第3203142号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、上記のような問題を解決することを目的として鋭意研究を行った結果、平均粒子径が3〜60nmの範囲にあり、かつ特定の範囲にあるゼータ電位を有するシリカ系微粒子を分散させてなる、pH2.0〜4.0の酸性シリカゾルを塗料組成物中に含ませればよいことを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、前記酸性シリカゾルと有機珪素化合物とを含む塗料組成物を提供することを目的としている。さらに、本発明は、前記塗料組成物をプラスチック基材、特に透明なプラスチックレンズ基材上に塗布して硬化させることによって、該基材上に透明性、密着性、耐候性、耐光性などに優れ、しかも高い耐擦傷性を備えたハードコート層を形成してなる光学物品、特に光学レンズを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るハードコート層形成用塗料組成物は、プラスチック基材上に配設されるハードコート層を形成するための塗料組成物であって、
(A)25℃の温度で測定したときのpHが2.0〜4.0の範囲にあり、しかも該pH領域におけるゼータ電位が−10〜−30mVの範囲にあるシリカ系微粒子を含むシリカゾル;および
(B)下記一般式(I)で表される有機珪素化合物、その加水分解物および/または該加水分解物の部分縮合物;
12aSi(OR33-a ・・・・・(I)
(式中、R1は炭素数1〜6の炭化水素基、ビニル基、エポキシ基、メタクリロキシ基、メルカプト基またはアミノ基を有する有機基、R2は炭素数1〜4の炭化水素基、R3は炭素数1〜8の炭化水素基、アルコキシアルキル基またはアシル基、aは0または1を表す。);
を含有することを特徴としている。
【0008】
前記シリカ系微粒子の平均粒子径は、動的光散乱法で測定したとき、3〜60nmの範囲にあることが好ましい。
さらに、前記シリカ系微粒子は、ケイ素成分のほかに、アルミニウム、ジルコニウム、チタニウム、アンチモン、スズ、亜鉛、ニッケル、バリウム、マグネシウムおよびバナジウムから選ばれた1種または2種以上の金属成分を含むことが好ましい。
また、前記シリカ系微粒子中に含まれる前記金属成分をMOxで表し、さらに前記ケイ素成分をSiO2で表したとき、そのモル比(MOx/SiO2)は、0.0001〜0.010の範囲にあることが好ましい。
さらに、前記金属成分は、前記ケイ素成分と化合した複合酸化物の形態で存在することが好ましい。
【0009】
前記ハードコート層形成用塗料組成物中には、さらに下記成分(C)および(D)から選ばれた1種または2種以上の化合物を含有することが好ましい。
(C)下記一般式(II)で表される有機珪素化合物、その加水分解物および/または該加水分解物の部分縮合物;
〔(R4b Si(OR53-b2 6 ・・・・・(II)
(式中、R4は炭素数1〜5のアルキル基であり、R5は炭素数1〜4のアルキル基またはアシル基であり、R6はメチレン基または炭素数2〜20のアルキレン基であり、bは0または1を表す。)、
(D)下記一般式(III)で表される有機珪素化合物、その加水分解物および/または該加水分解物の部分縮合物;
Si(OR74 ・・・・・(III)
(式中、R7は炭素数1〜8の炭化水素基、アルコキシアルキル基またはアシル基を表す。)。
【0010】
また、前記ハードコート層形成用塗料組成物中には、さらに下記成分(E)〜(G)から選ばれた1種または2種以上の化合物を含有することが好ましい。
(E)未架橋エポキシ化合物;
(F)シアナミド化合物、多価カルボン酸および/または多価カルボン酸無水物;
(G)金属アセチルアセトナート、金属アルコキシド、有機酸の金属塩および/または過塩素酸類。
【0011】
本発明に係る光学物品は、上記のハードコート層形成用塗料組成物をプラスチック基材上に塗布して得られるハードコート層を設けてなることを特徴としている。
前記プラスチック基材は、プラスチックレンズ基材であることが好ましい。
また、前記ハードコート層上には、反射防止膜が形成されていることが好ましい。
さらに、前記プラスチック基材と前記ハードコート層との間には、ポリウレタン樹脂を主成分とするプライマー層が形成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明のハードコート層形成用塗料組成物によれば、透明性、密着性、耐候性、耐光性などに優れ、しかも高い耐擦傷性を備えた硬化性被膜、即ちハードコート層をプラスチック基材上に形成することができる。
また、このようにして形成されたハードコート層は、プラスチックレンズなどのプラスチック基材や反射防止膜との密着性に優れているばかりでなく、プラスチック基材とハードコート層との間に形成されることのあるプライマー層との密着性にも優れている。
したがって、本発明によれば、耐擦傷性、耐候性、耐光性、耐薬品性、耐熱水性などに優れた光学物品、特に光学レンズを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係るハードコート層形成用塗料組成物および光学物品について具体的に説明する。
[塗料組成物]
本発明に係るハードコート層形成用塗料組成物は、プラスチック基材上に配設されるハードコート層を形成するための塗料組成物であって、
(A)25℃の温度で測定したときのpHが2.0〜4.0の範囲にあり、しかも該pH領域におけるゼータ電位が−10〜−30mVの範囲にあるシリカ系微粒子を含むシリカゾル;および
(B)下記一般式(I)で表される有機珪素化合物、その加水分解物および/または該加水分解物の部分縮合物;
12aSi(OR33-a ・・・・・(I)
(式中、R1は炭素数1〜6の炭化水素基、ビニル基、エポキシ基、メタクリロキシ基、メルカプト基またはアミノ基を有する有機基、R2は炭素数1〜4の炭化水素基、R3は炭素数1〜8の炭化水素基、アルコキシアルキル基またはアシル基、aは0または1を表す。);
を含有するものである。
【0014】
シリカゾル
前記成分(A)として本発明で使用されるシリカゾルは、25℃の温度で測定したときのpHが2.0〜4.0、好ましくは2.2〜3.7の範囲にあり、しかも該pH領域におけるゼータ電位が−10〜−30mV、好ましくは−15〜−25mVの範囲にあるシリカ系微粒子を含むものである。さらに詳しく述べれば、前記pHが2.0のときのゼータ電位は、−10〜−20mVの範囲にあり、前記pHが3.0のときのゼータ電位は、−15〜−25mVの範囲にあり、また前記pHが4.0のときのゼータ電位は、−20〜−30mVの範囲にあることが好ましい。
ここで、前記シリカゾルのpHが2.0未満であると、シリカゾルの分散安定性が低下するばかりでなく、このゾルを含むハードコート層形成用塗料組成物のポットライフが短くなって、耐擦傷性の高い塗膜を継続して得ることが難くなる。また、前記pHが4.0を超えると、このゾルを含むハードコート層形成用塗料組成物を用いて硬化塗膜(すなわち、ハードコート膜)を形成しても、該塗膜の耐擦傷性を向上させる効果が期待できなくなる。
また、前記シリカ系微粒子のゼータ電位が−10mVを超えると、このゾルを含むハードコート層形成用塗料組成物のポットライフが短くなる傾向にあり、また前記ゼータ電位が−30mV未満であると、このゾルを含むハードコート層形成用塗料組成物を用いて硬化塗膜(すなわち、ハードコート膜)を形成しても、該塗膜の耐擦傷性を向上させる効果が期待できなくなる。
【0015】
前記シリカ系微粒子の平均粒子径は、動的光散乱法で測定したとき、3〜60nm、好ましくは5〜50nmの範囲にあることが好ましい。
ここで、前記シリカ系微粒子の平均粒子径が3nm未満であると、本発明のハードコート層形成用塗料組成物を用いてプラスチックレンズ基材上に形成される硬化膜(ハードコート層)の耐擦傷性が低下したり、あるいは該シリカゾルを含有するハードコート層形成用塗料組成物の保存安定性が悪化する傾向がある。また、平均粒子径が60nmを超えると、形成されたハードコート層が白濁する傾向にあり、結果としてこのハードコート層を備えた光学物品の透明性の低下を招くばかりでなく、塗膜表面の平滑性が悪くなり、耐擦傷性も低下してくる。
なお、前記シリカ系微粒子を光学用途に使用する場合には、粒子散乱を抑制するために一次粒子径を制御するのはもとより、分散液中での粒子径を微小領域で制御することが極めて重要である。
【0016】
上記のような平均粒子径を有するシリカ微粒子を含むシリカゾルは、例えば特公平04−055126号公報などに記載の従来公知の方法で製造することができる。
また、このシリカゾルを広範囲な用途で使用し、かつその特性を十分に活用するためには、酸性領域からアルカリ性領域でも長期間、安定的に保存できるものが望まれており、このようなものとしては、不純物として含まれるアルカリ金属を低減した酸性シリカゾルがある。
しかし、この従来公知の酸性シリカゾルにおいては、ゾルの安定性は確保できるものの、このゾル中に含まれるシリカ微粒子中にはシリカ成分しか含まれないため、このゾルのpH領域(すなわち、酸性領域)で該微粒子の表面に充分な負のゼータ電位を形成させることはできなかった。
【0017】
本発明者らは、鋭意検討した結果、シリカ成分以外の金属成分を前記シリカ系微粒子中に少量、含ませると、粒子表面に固体酸点が形成させて、より多くの負のゼータ電位が付与されることを知った。
そこで、本発明で使用される前記シリカ系微粒子には、ケイ素成分のほかに、アルミニウム、ジルコニウム、チタニウム、アンチモン、スズ、亜鉛、ニッケル、バリウム、マグネシウムおよびバナジウムから選ばれた1種または2種以上の金属成分を含むことが好ましい。この中でも、アルミニウムを前記シリカ系微粒子中に含ませることが特に好ましい。
【0018】
また、前記シリカ系微粒子中に含まれる前記金属成分をMOxで表し、さらに前記ケイ素成分をSiO2で表したとき、そのモル比(MOx/SiO2)は、0.0001〜0.010の範囲にあることが好ましい。
ここで、前記モル比が0.0001未満では、酸性領域での負電位(ゼータ電位)が十分に形成されないばかりでなく、ゾルの安定性が低下し易くなり、また前記モル比が0.010を超えると、酸性領域でカチオン成分である金属成分が溶出し易くなるためゾルの安定性が低下するので、好ましくない。
さらに、前記金属成分は、前記ケイ素成分と化合した複合酸化物の形態で存在することが好ましい。この複合酸化物の一例を化学式で模式的に示せば、以下の通りである。
【0019】



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−O−Si−O−Al−O−Si−O−
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−O−Si−O−Zr−O−Si−O−
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【0020】
前記シリカゾル中に含まれる固形分濃度、すなわち前記シリカ系微粒子の含量は、10〜40重量%、好ましくは20〜30重量%の範囲にあることが好ましい。ここで、前記含量が10重量%未満であると、塗料組成物に調整した時の固形分濃度が薄くなり、高膜厚のハードコート層を得られ難く、また前記含量が40重量%を超えると、シリカゾルの保存安定性が低下するので、好ましくない。
また、本発明においては、前記シリカゾル(前記シリカ微粒子中のものを含む)の中に不純物として含まれるナトリウムやカリウム等のアルカリ金属成分は、酸化物換算基準で
0.20重量%以下、好ましくは0.10重量%以下であることが好ましい。ここで、前記アルカリ金属成分の含有量が0.2重量%を超えると、酸触媒の存在下で加水分解された有機珪素化合物の加水分解物および/またはその重縮合物などを含む溶液(酸性溶液)と混合したとき、該混合液中に含まれる微粒子などが凝集してゾルの安定性が悪化することがあるので、好ましくない。
【0021】
本発明において、前記シリカゾルは、前記シリカ系微粒子を分散させた水分散液のままで使用することが好ましいが、該水分散液中に含まれる水の一部または全部をメタノール、エタノール、ブタノール、プロパノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類や、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテルなどのエーテル類と溶媒置換して得られる分散液であってもよい。
【0022】
有機珪素化合物(1)
前記成分(B)として本発明で使用される有機珪素化合物(以下、「有機珪素化合物(1)」ともいう。)としては、アルコキシシラン化合物が代表的なものであり、具体的には、メチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、トリメチルクロロシラン、α−グルシドキシメチルトリメトキシシラン、α−グリシドキシエチルトリメトキシシラン、β−グリシドキシエチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)−エチルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)−エチルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキキシラン、N−β(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジエトキキシラン等が挙げられる。これらの中でも、メチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)−エチルトリメトキシシランなどを使用することが好ましい。また、これらの有機珪素化合物(1)は、1種だけでなく2種以上を使用してもよい。
【0023】
本発明においては、前記有機珪素化合物(1)を無溶媒下またはアルコール等の極性有機溶媒中で、酸および水の存在下で部分加水分解または加水分解、あるいはこのようにして得られた加水分解物をさらに部分縮合させたものを使用することができる。通常、このようにして得られた加水分解物(部分加水分解物を含む)や部分縮合物を含む溶液は、前記シリカゾルとを混合して使用されるが、前記有機珪素化合物(1)を前記シリカゾルと混合した後に、部分加水分解または加水分解、あるいは部分縮合させて使用してもよい。
【0024】
前記シリカゾルと前記有機珪素化合物(1)との混合は、この塗料組成物から形成される硬化塗膜(すなわち、ハードコート層)中の、前記シリカゾルに由来する成分の含量(固形分割合)が、該硬化塗膜(有機珪素化合物の加水分解基は完全縮合したものとみなす)100重量%に対して、10〜70重量%、好ましくは15〜60重量%となるような割合で行うことが望ましい。
ここで、前記含量(固形分割合)が10重量%未満であると、本発明の塗料組成物を用いてプラスチックレンズ基材上に形成される硬化塗膜(ハードコート層)の耐擦傷性が不十分となる。また、前記含量(固形分割合)が70%を越えると、ハードコート層とプラスチックレンズ基材との密着性が低下したり、あるいは得られる塗膜にクラック(特に、硬化時)が発生したりする傾向がある。
【0025】
本発明に係るハードコート層形成用塗料組成物中には、さらに下記成分(C)および(D)から選ばれた1種または2種以上の化合物を含有することが好ましい。
(C)下記一般式(II)で表される有機珪素化合物、その加水分解物および/または該加水分解物の部分縮合物;
〔(R4b Si(OR53-b2 6 ・・・・・(II)
(式中、R4は炭素数1〜5のアルキル基であり、R5は炭素数1〜4のアルキル基またはアシル基であり、R6はメチレン基または炭素数2〜20のアルキレン基であり、bは0または1を表す。)、
(D)下記一般式(III)で表される有機珪素化合物、その加水分解物および/または該加水分解物の部分縮合物;
Si(OR74 ・・・・・(III)
(式中、R7は炭素数1〜8の炭化水素基、アルコキシアルキル基またはアシル基を表す。)。
【0026】
有機珪素化合物(2)および(3)
前記成分(C)として本発明で使用される有機珪素化合物(以下、「有機珪素化合物(2)」ともいう。)としては、メチレンビスメチルジメトキシシラン、エチレンビスエチルジメトキシシラン、プロピレンビスエチルジメトキシシラン、ブチレンビスメチルジエトキシシラン、メチレンビストリエトキシラン、エチレンビストリメトキシシラン、プロピレンビストリメトキシシラン、ブチレンビストリメトキシシランなどが挙げられる。これらの中でも、プロピレンビストリメトキシシラン、ブチレンビストリメトキシシランなどを使用することが好ましい。また、これらの有機珪素化合物(2)は、1種だけでなく2種以上を使用してもよい。さらに、下記で述べる有機珪素化合物(3)と併用してもよい。
【0027】
さらに、前記成分(D)として本発明で使用される有機珪素化合物(以下、「有機珪素化合物(3)」ともいう。)としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラn−プロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラn−ブトキシシランなどが挙げられる。これらの中でも、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシランなどを使用することが好ましい。また、これらの有機珪素化合物(3)は、1種だけでなく2種以上を使用してもよい。さらに、上記で述べる有機珪素化合物(2)と併用してもよい。
【0028】
本発明においては、前記有機珪素化合物(2)および/または前記有機珪素化合物(3)を無溶媒下またはアルコール等の極性有機溶媒中で、酸および水の存在下で部分加水分解または加水分解、あるいはこのようにして得られた加水分解物をさらに部分縮合させたものを使用することができる。通常、このようにして得られた加水分解物(部分加水分解物を含む)や部分縮合物を含む溶液は、前記シリカゾルと前記有機珪素化合物(1)との混合物に混合して使用されるが、前記有機珪素化合物(1)の場合と同様に、これらを混合した後に、部分加水分解または加水分解、あるいは部分縮合させて使用してもよい。
【0029】
前記有機珪素化合物(2)および/または前記有機珪素化合物(3)の混合は、この塗料組成物から形成される硬化塗膜(すなわち、ハードコート層)中の、前記有機珪素化合物(2)および/または(3)に由来する成分の含量(固形分割合)が、該硬化塗膜(有機珪素化合物の加水分解基は完全縮合したものとみなす)100重量%に対して、20〜70重量%、好ましくは30〜60重量%であることが望ましい。
ここで、前記含量(固形分割合)が20重量%未満であると、本発明の組成物から形成されるハードコート層とプラスチックレンズ基材などとの密着性が低下する場合があり、また前記含量(固形分割合)が70%を越えると、プラスチックレンズ基材上に形成される硬化塗膜(ハードコート層)の耐擦傷性が不十分となる場合がある。
【0030】
また、本発明に係るハードコート層形成用塗料組成物中には、さらに下記成分(E)〜(G)から選ばれた1種または2種以上の化合物を含有することが好ましい。
(E)未架橋エポキシ化合物;
(F)シアナミド化合物、多価カルボン酸および/または多価カルボン酸無水物;
(G)金属アセチルアセトナート、金属アルコキシド、有機酸の金属塩および/または過塩素酸類。
【0031】
未架橋エポキシ化合物
本発明に係るハードコート層形成用塗料組成物には、ハードコート層の染色性や、プラスチックレンズ基材等への密着性を向上させ、更にはクラック発生を防止するために、上記の成分に加えて、前記成分(E)としての未架橋エポキシ化合物を含有していてもよい。
この未架橋エポキシ化合物としては、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、グリセロールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル等が挙げられる。これらの中でも1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセロールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテルなどを使用することが好ましい。また、これらの未架橋エポキシ化合物は、1種だけでなく2種以上を使用してもよい。
【0032】
前記未架橋エポキシ化合物の混合は、この塗料組成物から形成される硬化塗膜(すなわち、ハードコート層)中の、前記未架橋エポキシ化合物に由来する成分の含量(固形分割合)が、該硬化塗膜中に含まれる前記有機珪素化合物(前記有機珪素化合物(1)、さらに前記有機珪素化合物(2)および/または(3)を含む場合は、これらの総量を意味し、これらの有機珪素化合物の加水分解基は完全縮合してものとみなす)に由来する成分100重量%に対して、1〜20重量%、好ましくは2〜10重量%であることが望ましい。
ここで、前記含量(固形分割合)が1重量%未満であると、未架橋エポキシ化合物の添加の効果が認められない場合があり、また前記含量(固形分割合)が20重量%を越えると、プラスチックレンズ基材上に形成される被膜(ハードコート層)の耐擦傷性が低下する傾向にある。
【0033】
硬化剤、その他
さらに、本発明に係るハードコート層形成用塗料組成物には、該組成物をプラスチック基材上に塗布して硬化させる際にその硬化を促進させるため、前記成分(F)〜(G)としての硬化剤を含有していてもよい。
この硬化剤としては、アジピン酸、イタコン酸、リンゴ酸、無水トリメリト酸、無水ピロメリト酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸等の有機カルボン酸、グアニジン、グアニジン有機酸、グアニジン無機酸塩、アルキルグアニジン、アミノグアニジン、ジシアンジアミド等のシアナミド化合物、トリス(2,4−ペンタンジオナト)アルミニウム(III)などの、一般式:M(CH2COCH2COCH3n(ここで、Mは金属元素であり、nは金属元素Mの価数である。)で示される金属アセチルアセトナート、チタンアルコキシド、ジルコアルコキシド等の金属アルコキシド、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等のアルカリ金属有機カルボン酸塩、過塩素酸リチウム、過塩素酸マグネシウム等の過塩素酸類などを挙げることができる。これらの中でも、ハードコート層とプラスチック基板との密着性の観点から、有機カルボン酸および一般式:M(CH2COCH2COCH3n(Mは金属元素であり、nは金属元素Mの価数である。)で示される金属アセチルアセトナート化合物が好ましく、アジピン酸、イタコン酸およびトリス(2,4−ペンタンジオナト)アルミニウム(III)が特に好ましい。また、これらの硬化剤は、1種だけでなく2種以上を使用してもよい。
【0034】
前記硬化剤の混合は、この塗料組成物から形成される硬化塗膜(すなわち、ハードコート層)中の、前記硬化剤に由来する成分の含量(固形分割合)が、該硬化塗膜中に含まれる前記有機珪素化合物(前記有機珪素化合物(1)、さらに前記有機珪素化合物(2)および/または(3)を含む場合は、これらの総量を意味し、これらの有機珪素化合物の加水分解基は完全縮合してものとみなす)に由来する成分100重量%に対して、シアナミド化合物、多価カルボン酸、多価カルボンン酸無水物などを用いる場合は、2〜30重量%、好ましくは3〜20重量%であることが望ましい。
ここで、前記含量(固形分割合)が2重量%未満であると、充分な硬度を有するハードコート層が得られない場合があり、また前記含量(固形分割合)が30重量%を越えると、得られる組成物のポットライフの低下を招くこと場合がある。
【0035】
また、前記硬化剤として、金属アセチルアセトナート、金属アルコキシド、有機酸の金属塩、過塩素酸類などを用いる場合は、0.1〜10重量%、好ましくは1〜5重量%であることが望ましい。
ここで、前記含量(固形分割合)が0.1重量%未満であると、充分な硬度を有するハードコート層が得られない場合があり、また前記含量(固形分割合)が10重量%を越えても、硬化に対して優れた性能を期待することができない。
【0036】
さらに、本発明に係るハードコート層形成用塗料組成物には、必要に応じてレベリング剤としての界面活性剤が添加されていてもよい。
この界面活性剤としては、ポリオキシアルキレンジメチルポリシロキサン等のシリコーン系界面活性剤やパーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物等のフッ素系界面活性剤などが挙げられる。これらの中でも、シリコーン系界面活性剤が好ましい。また、これらの界面活性剤は、1種だけでなく2種以上を使用してもよい。
また、本発明に係るハードコート層形成用塗料組成物には、必要に応じてベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤などが添加されていてもよい。
【0037】
さらに、本発明に係るハードコート層形成用塗料組成物は、希釈溶媒として有機溶剤等を含有していてもよい。この希釈溶媒としては、蒸留水や純水等の水、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテルなどのエーテル類、メチルエチルケトン、ジアセトンアルコール等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ等のセルソルブ類などが挙げられる。これらの中でも、メタノール等の低級アルコールや水が好ましい。また、これらの溶媒は、1種だけでなく2種以上を混合して使用してもよい。
本発明に係るハードコート層形成用塗料組成物が有機溶剤等の希釈溶媒を含有していると、流動性が高くなり、プラスチックレンズ基材上への該組成物の塗布が容易になる点で好ましい。
本発明において、前記希釈溶媒の含量は、本発明に係る塗料組成物100重量%に対し、好ましくは50〜90重量%、さらに好ましくは60〜80重量%であることが望ましい。
【0038】
[塗料組成物の調製]
前記塗料組成物の調製方法の一例を示せば、以下の通りであるが、本発明はこれらの方法に限定されるものではない。
シリカゾルの調製
ケイ酸ソーダ溶液を、イオン交換水で希釈して、珪素成分をSiO2換算基準で4.0〜6.0重量%含む希ケイ酸ソーダ溶液を調製する。
次いで、この希ケイ酸ソーダ溶液を水素型陽イオン交換樹脂が充填されたカラムに通過させて、珪素成分をSiO2換算基準で4.0〜6.0重量%含む、pH2.0〜3.0の酸性ケイ酸液を得る。
さらに、アルミン酸ソーダなどの金属成分の水溶液を調製する。
次に、還流器、攪拌機、加熱部及び二つの注液口を備えたステンレス製容器に、前記ケイ酸ソーダ溶液をイオン交換水で希釈したものを仕込み、これを70〜95℃の温度に加熱する。この温度を保持しつつ、一方の注液口から前記酸性ケイ酸液を、別の注液口から前記金属成分水溶液をそれぞれ一定流量ずつ添加する。
【0039】
さらに、添加終了後、70〜95℃の温度に0.5〜3時間保持した後、減圧蒸発法により、珪素成分の含有量がSiO2換算基準で20〜40重量%になるまで濃縮してアルカリ性シリカゾルを得る。
次に、水素型陽イオン交換樹脂を充填した流通式イオン交換カラムに、前記アルカリ性シリカゾルを1回通過させて脱アルカリを行い、一次脱アルカリ処理したシリカゾルを得る。
次いで、この一次脱アルカリ性シリカゾルを陰イオン交換樹脂が充填された流通式イオン交換カラムに通過させる。その後、このゾルを加熱器、温度調節機および還流器を備えたステンレス製容器に入れて60〜90℃の温度に保温し、これを強酸性陽イオン交換樹脂を充填した流通式イオン交換カラムに通過させながら一定時間循環させる方式で二次脱アルカリ処理を行う。
これにより、珪素成分の含有量がSiO2換算基準で20〜40重量%含む酸性シリカゾルを得る。
【0040】
塗料組成物の調製
上記の有機珪素化合物(有機珪素化合物(1)の他に、必要に応じて有機珪素化合物(2)や有機珪素化合物(3)などを含む。)にアルコールを混合し、必要に応じて塩酸などの酸触媒を添加して、前記有機珪素化合物の加水分解を行う。
次いで、この加水分解物を含む溶液に、上記で得られた酸性シリカゾルを混合する。さらに、必要に応じて上記のその他成分を添加し、室温で十分撹拌して、ハードコート層形成用の塗料組成物を調製する。
【0041】
[光学物品]
本発明に係る光学物品は、プラスチックレンズなどのプラスチック基材上に、本発明に係るハードコート層形成用の塗料組成物を用いて硬化塗膜、すなわちハードコート層を形成することによって得られる。
本発明に係る前記塗料組成物は、この光学物品の中でも、プラスチックレンズ基材上に前記ハードコート層を設けてなる光学レンズの製造に使用されることが多いので、以下はこれについて説明する。
【0042】
前記プラスチックレンズ基材としては、屈折率が1.49〜1.74、好ましくは1.49〜1.67のものであれば特に限定されず、ポリスチレン樹脂、芳香族系アリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリチオウレタン樹脂、ポリチオエポキシ樹脂等からなるプラスチックレンズ基材を挙げることができる。なお、これらのプラスチックレンズ基材としては、現在、市販または試験供給されている各種のプラスチックレンズ基材を用いることができる。
前記ハードコート層を形成するための、前記塗料組成物の塗布方法(コーティング方法)としては、ディッピング法やスピンコート法等の公知の方法を使用することができる。
このような方法を用いてプラスチックレンズ基材上に塗布された、前記ハードコート層形成用塗料組成物からなる塗膜を熱硬化させると、ハードコート層が形成される。この熱硬化は、80〜130℃で0.5〜5時間、加熱処理することによって行われる。このようにして得られる硬化塗膜、すなわちハードコート層の膜厚は、1.0〜5.0μm、好ましくは1.5〜4.0μmであることが望ましい。
【0043】
さらに、本発明に係る光学レンズは、その使用目的によっても異なるが、前記ハードコート層の上側表面に反射防止膜の層が形成され、さらに必要に応じて前記プラスチックレンズ基材と前記ハードコート層との間にプライマーが形成されていることが好ましい。
前記反射防止膜を形成する方法としては、公知の方法を使用することができる。その代表的な方法としては、SiO2、SiO、Ta25、SnO2、WO3、TiO2、ZrO2、Al23等の金属酸化物、MgF2等の金属フッ化物或いはその他の無機物を用いて、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等により前記ハードコート層上に被膜を形成する乾式法や、中空シリカゾルにアルコキシシラン化合物および/または多官能アクリレート化合物を混合した塗料組成物やフッ素系塗料組成物を、ディッピング法やスピンコート法等を用いて前記ハードコート層上に塗布した後、これに加熱処理またはUV照射処理を施して被膜を形成する湿式法などが挙げられる。また、前記反射防止膜は、一層であってもよく、また必要に応じて複数層であってもよい。
【0044】
また、前記プライマー層を形成するための塗料組成物としては、ブロック型ポリイソシアネートとポリオールとから形成される熱硬化型ポリウレタン樹脂、水性エマルジョンタイプのポリウレタン樹脂などを含有する組成物が挙げられる。
【0045】
[測定方法および評価試験方法]
次に、本発明の実施例その他で使用された測定方法および評価試験方法を具体的に述べれば、以下の通りである。
【0046】
(1)シリカ系微粒子の平均粒子径測定
シリカゾル(固形分濃度20重量%)の試料7.0gを長さ3cm、幅2cm、高さ2cmの透過窓付き円柱状ステンレスセルに入れて、動的光散乱法による超微粒子粒度分析装置(Honeywell社製、型式9340-UPA150)を用いて、粒子径分布を測定し、これより平均粒子径を算出した。
(2)シリカゾルのpH測定
シリカゾル(固形分濃度20重量%)の試料50mlを入れたセルを、25℃の温度に保たれた恒温槽中で、pH4、7および9の標準液で更正が完了したpHメータ(堀場製作所製、F22)のガラス電極を挿入して測定した。
【0047】
(3)シリカ系微粒子のゼータ電位測定
固形分濃度を0.2重量%に調整したシリカゾルの試料15mlを入れたセルを、25℃の温度に保たれた恒温部中で、レーザードップラー電気泳動法によるゼータ電位測定装置(Malven Instruments社製、Zetasizer)を用いて、それぞれのpH条件下で該試料中に分散させた粒子のゼータ電位を計測した。
(4)耐擦傷性試験
前記の試験片の表面を、ボンスタースチールウール♯0000(日本スチールウール(株)製)に1kgの荷重をかけ、3cmの距離を50往復/100秒の条件で擦った後、傷の入り具合を目視にて判定し、以下の基準で評価した。
A:殆ど傷が入らない
B:若干の傷が入る
C:かなりの傷が入る
D:擦った面積のほぼ全面に傷が入る。
【0048】
(5)密着性試験
ナイフにより前記の実施例基板および比較例基板のレンズ表面に1mm間隔で切れ目を入れ、1平方mmのマス目を100個 形成し、セロハン製粘着テープを強く押し付けた後、プラスチックレンズ基板の面内方向に対して90度方向へ急激に引っ張り、この操作を合計5回行い、剥離しないマス目の数を数え、以下の基準で評価した。
良好:剥離していないマス目の数が95個以上
不良:剥離していないマス目の数が95個未満。
(6)耐熱水性試験
90℃の湯中に前記の実施例基板および比較例基板を120分間浸漬させた後、前記の密着性試験と同様の試験を行い、以下の基準で評価した。
良好:剥離していないマス目の数が95個以上
不良:剥離していないマス目の数が95個未満。
【0049】
(7)耐候性試験
前記の実施例基板および比較例基板をキセノンウエザーメーター(スガ試験機(株)製X−75型)で曝露試験をした後、クラックの確認および前記の密着性試験と同様の試験を行い、以下の基準で評価した。なお、曝露時間は、200時間実施した。
良好:剥離していないマス目の数が95個以上
不良:剥離していないマス目の数が95個未満。
(8)耐衝撃性試験
重さ17gの硬球を127cmの高さから前記の実施例基板および比較例基板の中心部に落下させ、以下の基準で評価した。
無:前記基板に割れが認められないとき。(ただし、該基板にヒビが入っても、破片が飛び散らない場合を含む。)
有:前記基板に割れが認められ、一部でも破片が飛び散ったとき。
【実施例】
【0050】
以下、実施例に基づき本発明を更に具体的に説明する。しかし、本発明は、これらの実施例に記載された範囲に限定されるものではない。
[ハードコート形成用塗料組成物の調製]
【0051】
[実施例1]
シリカゾルの調製
珪素成分の含有量をSiO2換算基準で表し、ナトリウム成分の含有量をNa2O換算基準で表し、アルミニウム成分の含有量をAl23換算基準で表したとき、SiO224.0重量%、SiO2/Na2Oモル比3.0、Al23/SiO2モル比0.0006のケイ酸ソーダ溶液(AGCエスアイテック社製3号ケイ酸ソーダ)を、イオン交換水で希釈して、珪素成分をSiO2換算基準で4.8重量%含む希ケイ酸ソーダ溶液を調製した。
次いで、この希ケイ酸ソーダ溶液を水素型陽イオン交換樹脂(三菱化成工業(株)製ダイアイオン、SK−1B)が充填されたカラムに通過させて、珪素成分をSiO2換算基準で4.6重量%含む、pH2.8の酸性ケイ酸液を得た。
次に、還流器、攪拌機、加熱部及び二つの注液口を備えた300Lのステンレス製容器に、前記ケイ酸ソーダ溶液1.3kgをイオン交換水21.6kgで希釈したものを仕込み、これを85℃に加熱した。この温度を保持しつつ、一方の注液口から前記の酸性ケイ酸液を165.9kg、別の注液口からアルミン酸ソーダ溶液(Al23として1.0重量%、Na2Oとして0.77重量%)を5.4kgそれぞれ一定流量で同時に15時間かけて添加した。
【0052】
さらに、添加終了後、85℃の温度を1時間保持した後、減圧蒸発法により、珪素成分の含有量がSiO2換算基準で22.0重量%になるまで濃縮してアルカリ性シリカゾル(BS−1)を得た。
次に、水素型陽イオン交換樹脂(三菱化成工業(株)製ダイアイオン、SK−1B)6Lを充填した流通式イオン交換カラムに、前記アルカリ性シリカゾル(BS−1)約30Lを液空間速度10Hr-1で1回通過させて脱アルカリを行い、一次脱アルカリ処理したシリカゾルを得た。この一次脱アルカリゾルを陰イオン交換樹脂(三菱化成工業(株)製ダイアイオン、SA10A)を充填した流通式イオン交換カラムに液空間速度4.0Hr-1で通過させた。次いで、加熱器、温度調節機および還流器を備えた50Lのステンレス製容器に、この1次脱アルカリゾル30Lを入れて80℃の温度に保温し、これを同温度に維持された5Lの強酸性陽イオン交換樹脂を充填した流通式イオン交換カラムに、液空間速度13.5Hr-1で通過させながら、一定時間循環する方式で二次脱アルカリ処理を行い、珪素成分の含有量がSiO2換算基準で20重量%含む酸性シリカゾル(AS−1)を得た。
【0053】
このようにして得られた酸性シリカゾル(AS−1)中に含まれるシリカ系微粒子の平均粒子径は、動的光散乱法で測定したとき、16.5nmであった。また、25℃の温度で測定したときの前記酸性シリカゾルのpHは2.3であり、その時の該酸性シリカゾル中に含まれるシリカ系微粒子のゼータ電位は−18mVであった。
また、前記酸性シリカゾル中には、ナトリウム成分をNa2O換算基準で0.04重量%含んでおり、Na2O/SiO2モル比が0.0013であった。さらに該ゾル中に含まれるシリカ系微粒子中には、シリカ成分をSiO2で表し、アルミニウム成分をAl23で表したとき、Al23/SiO2モル比が0.0021となるような割合でアルミニウム成分を含んでいた。
【0054】
塗料組成物の調製
γ―グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(東レ・ダウコーニング(株)製Z−6040)100gにメタノール50gを混合し、攪拌しながら、この溶液の中に0.01Nの塩酸水溶液23gを滴下した。更に、この溶液を室温で一昼夜攪拌して、シラン化合物の加水分解を行った。
次いで、この加水分解液に、前記酸性シリカゾル(AS−1) 300g、イソプロピルアルコール100g、トリス(2,4−ペンタンジオナト)アルミニウム(III)(東京化成工業株式会社)2g、およびレベリング剤としてシリコーン系界面活性剤(東レ・ダウコーニング(株)製「L−7001」)1.0gを加え、室温で一昼夜攪拌して、ハードコート層形成用の塗料組成物(ハードコート塗料H1)を調製した。
【0055】
[実施例2]
塗料組成物の調製
γ―グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(東レ・ダウコーニング(株)製Z−6040N)80g、テトラエトキシシラン(多摩化学(株)製)20gにメタノール70gを混合し、攪拌しながら、この溶液の中に0.01Nの塩酸水溶液28gを滴下した。更に、この溶液を室温で一昼夜攪拌して、シラン化合物の加水分解を行った。
次いで、この加水分解液に、前記酸性シリカゾル(AS−1) 450g、イソプロピルアルコール100g、トリス(2,4−ペンタンジオナト)アルミニウム(III)(東京化成工業株式会社)2g、およびレベリング剤としてシリコーン系界面活性剤(東レ・ダウコーニング(株)製「L−7001」)1.0gを加え、室温で一昼夜攪拌して、ハードコート層形成用の塗料組成物(ハードコート塗料H2)を調製した。
【0056】
[実施例3]
塗料組成物の調製
トリス(2,4−ペンタンジオナト)アルミニウム(III)(東京化成工業株式会社)2gをトリス(2,4−ペンタンジオナト)鉄(III)(東京化成工業株式会社)3gに変更する以外は、実施例2と同様にしてハードコート層形成用の塗料組成物(ハードコート塗料H3)を調製した。
【0057】
[実施例4]
シリカゾルの調製
実施例1の場合と同様に、珪素成分をSiO2換算基準で4.6重量%含む、pH2.8の酸性ケイ酸液を得た。
次いで、還流器、攪拌機、加熱部および二つの注液口を備えた300Lのステンレス製容器に、実施例1で使用した前記ケイ酸ソーダ溶液1.26kgをイオン交換水22.8kgで希釈した。これを95℃に加熱した後、前記酸性ケイ酸液186.3kg、アルミン酸ソーダ溶液12.3kgおよび2Nの硫酸12.6kgを、それぞれ別々の注液口から19時間かけて同時に添加した。各溶液の添加速度は一定になるように努め、特にpHが8.5を下回らないように注意した。得られたゾルをイオン交換水で3倍重量になるように希釈し、次いで限外濾過膜で脱塩、洗浄を行った後、濃縮して、珪素成分の含有量がSiO2換算基準で30重量%含むアルカリ性シリカゾル(BS−2)を得た。
次に、実施例1の場合と同様に、このアルカリ性シリカゾル(BS−2)に一次脱アルカリ処理、二次脱アルカリ処理を実施して、珪素成分の含有量がSiO2換算基準で30重量%含む酸性シリカゾル(AS−2)を得た。
【0058】
このようにして得られた酸性シリカゾル(AS−2)中に含まれるシリカ系微粒子の平均粒子径は、動的光散乱法で測定したとき、24.3nmであった。また、25℃の温度で測定したときの前記酸性シリカゾルのpHは3.1であり、その時の該酸性シリカゾル中に含まれるシリカ系微粒子のゼータ電位は−22mVであった。
また、前記酸性シリカゾル中には、ナトリウム成分をNa2O換算基準で0.06重量%含んでおり、Na2O/SiO2モル比が0.0013であった。さらに該ゾル中に含まれるシリカ系微粒子中には、シリカ成分をSiO2で表し、アルミニウム成分をAl23で表したとき、Al23/SiO2モル比が0.0004となるような割合でアルミニウム成分を含んでいた。
【0059】
塗料組成物の調製
γ―グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(東レ・ダウコーニング(株)製Z−6040)100gにメタノール50gを混合し、攪拌しながら、この溶液の中に0.01Nの塩酸水溶液23gを滴下した。更に、この溶液を室温で一昼夜攪拌して、シラン化合物の加水分解を行った。
次いで、この加水分解液に、前記酸性シリカゾル(AS−2) 200g、イソプロピルアルコール200g、トリス(2,4−ペンタンジオナト)アルミニウム(III)(東京化成工業株式会社製)2g、およびレベリング剤としてシリコーン系界面活性剤(東レ・ダウコーニング(株)製「L−7001」)1.0gを加え、室温で一昼夜攪拌して、ハードコート層形成用の塗料組成物(ハードコート塗料H4)を調製した。
【0060】
[実施例5]
塗料組成物の調製
γ―グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(東レ・ダウコーニング(株)製Z−6040N)100gにメタノール50gを混合し、攪拌しながら、この溶液の中に0.01Nの塩酸水溶液23gを滴下した。更に、この溶液を室温で一昼夜攪拌して、シラン化合物の加水分解を行った。
次いで、この加水分解液に、前記酸性シリカゾル(AS−2)300g、イソプロピルアルコール250g、トリス(2,4−ペンタンジオナト)アルミニウム(III)(東京化成工業株式会社製)2g、無水トリメリト酸(キシダ化学(株)製)5gおよびレベリング剤としてシリコーン系界面活性剤(東レ・ダウコーニング(株)製「L−7001」)1.0gを加え、室温で一昼夜攪拌して、ハードコート層形成用の塗料組成物(ハードコート塗料H5)を調製した。
【0061】
[実施例6]
塗料組成物の調製
γ―グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(東レ・ダウコーニング(株)製Z−6040N)80g、テトラエトキシシラン(多摩化学(株)製)20gにメタノール70gを混合し、攪拌しながら、この溶液の中に0.01Nの塩酸水溶液28gを滴下した。更に、この溶液を室温で一昼夜攪拌して、シラン化合物の加水分解を行った。
次いで、この加水分解液に、前記酸性シリカゾル(AS−2) 300g、イソプロピルアルコール250g、トリス(2,4−ペンタンジオナト)アルミニウム(III)(東京化成工業株式会社製)2g、グリセロールポリグリシジルエーテル(ナガセ化成工業株式会社製「デナコールEX−314」)10g、およびレベリング剤としてシリコーン系界面活性剤(東レ・ダウコーニング(株)製「L−7001」)1.0gを加え、室温で一昼夜攪拌して、ハードコート層形成用の塗料組成物(ハードコート塗料H6)を調製した。
【0062】
[実施例7]
シリカゾルの調製
実施例1の場合と同様に、珪素成分をSiO2換算基準で4.6重量%含む、pH2.8の酸性ケイ酸液を得た。
次いで、還流器、攪拌機、加熱部および二つの注液口を備えた300Lのステンレス製容器に、実施例1で使用した前記ケイ酸ソーダ溶液1.26kgをイオン交換水22.8kgで希釈した。これを95℃に加熱した後、前記酸性ケイ酸液186.3kg、ZrO2濃度が1.0重量%のオキシ塩化ジルコニウム溶液6.5kgを、それぞれ別々の注液口から19時間かけて同時に添加した。各溶液の添加速度は一定になるように努め、特にpHが8.5を下回らないように注意した。得られたゾルをイオン交換水で3倍重量になるように希釈し、次いで限外濾過膜で脱塩、洗浄を行った後、濃縮して、珪素成分の含有量がSiO2換算基準で30重量%含むアルカリ性シリカゾル(BS−3)を得た。
次に、実施例1の場合と同様に、このアルカリ性シリカゾル(BS−3)に一次脱アルカリ処理、二次脱アルカリ処理を実施して、珪素成分の含有量がSiO2換算基準で30重量%含む酸性シリカゾル(AS−3)を得た。
【0063】
このようにして得られた酸性シリカゾル(AS−3)中に含まれるシリカ系微粒子の平均粒子径は、動的光散乱法で測定したとき、26.3nmであった。また、25℃の温度で測定したときの前記酸性シリカゾルのpHは3.2であり、その時の該酸性シリカゾル中に含まれるシリカ系微粒子のゼータ電位は−21mVであった。
また、前記酸性シリカゾル中には、ナトリウム成分をNa2O換算基準で0.06重量%含んでおり、さらに該ゾル中に含まれるシリカ系微粒子中には、シリカ成分をSiO2で表し、ジルコニウム成分をZrO2で表したとき、ZrO2/SiO2モル比が0.0030となるような割合でジルコニウム成分を含んでいた。
【0064】
塗料組成物の調製
γ―グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(東レ・ダウコーニング(株)製Z−6040)100gにメタノール50gを混合し、攪拌しながら、この溶液の中に0.01Nの塩酸水溶液23gを滴下した。更に、この溶液を室温で一昼夜攪拌して、シラン化合物の加水分解を行った。
次いで、この加水分解液に、前記酸性シリカゾル(AS−3) 300g、イソプロピルアルコール100g、トリス(2,4−ペンタンジオナト)アルミニウム(III)(東京化成工業株式会社)2g、およびレベリング剤としてシリコーン系界面活性剤(東レ・ダウコーニング(株)製「L−7001」)1.0gを加え、室温で一昼夜攪拌して、ハードコート層形成用の塗料組成物(ハードコート塗料H7)を調製した。
【0065】
[比較例1]
シリカゾルの調製
珪素成分をSiO2換算基準で30重量%含む塩基性シリカゾル(触媒化成工業(株)製「カタロイドSI−30」)を予め準備した。この塩基性シリカゾル中に含まれるシリカ微粒子の平均粒子径は、動的光散乱法で測定したとき、15.6nmであった。さらに、25℃の温度で測定したときの前記塩基性シリカゾルのpHは9.1であり、その時の該塩基性シリカゾル中に含まれるシリカ系微粒子のゼータ電位は−52mVであった。また、前記塩基性シリカゾルには、ナトリウム成分をNa2O換算基準で0.4重量%含んでいた。
【0066】
塗料組成物の調製
前記塩基性シリカゾル200gに0.1Nの塩酸23gおよび99%酢酸25gを加えて3時間、攪拌した。
次いで、前記混合液にγ―グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(東レ・ダウコーニング(株)製Z−6040)100gを加え、室温で一昼夜攪拌して、シラン化合物の加水分解を行った。
さらに、この加水分解液に、イソプロピルアルコール200g、トリス(2,4−ペンタンジオナト)アルミニウム(III)(東京化成工業株式会社)2g、およびレベリング剤としてシリコーン系界面活性剤(東レ・ダウコーニング(株)製「L−7001」)1.0gを加え、室温で攪拌して、ハードコート層形成用の塗料組成物(ハードコート塗料C1)を調製した。
【0067】
[比較例2]
塗料組成物の調製
比較例1で使用した前記塩基性シリカゾル(触媒化成工業(株)製「カタロイドSI−30」)300gに0.1N塩酸28gおよび99重量%濃度の酢酸25gを加えて3時間、攪拌した。
次いで、前記混合液にγ―グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(東レ・ダウコーニング(株)製Z−6040)80g、テトラエトキシシラン(多摩化学(株)製)20gを混合し、室温で一昼夜攪拌して、シラン化合物の加水分解を行った。次いで、この加水分解液に、イソプロピルアルコール250g、トリス(2,4−ペンタンジオナト)アルミニウム(III)(東京化成工業株式会社製)2g、グリセロールポリグリシジルエーテル(ナガセ化成工業株式会社製「デナコールEX−314」)10g、およびレベリング剤としてシリコーン系界面活性剤(東レ・ダウコーニング(株)製「L−7001」)1.0gを加え、室温で攪拌して、ハードコート層形成用の塗料組成物(ハードコート塗料C2)を調製した。
【0068】
[比較例3]
チタン系複合酸化物微粒子分散ゾルの調製
チタン、珪素およびジルコニウムを含むチタン系複合酸化物微粒子(チタン成分をTiO2で表したときの含有量:約48.8重量%)を20重量%含むメタノール分散ゾル(触媒化成工業(株)製「オプトレイク1120Z(S−95・A8)」)を予め準備した。このメタノール分散ゾル中に含まれるチタン系複合酸化物微粒子の平均粒子径は、動的光散乱法で測定したとき、10nmであった。さらに、純水にて上記ゾルを10倍に希釈した溶液を25℃の温度で測定したときの前記メタノール分散ゾルのpHは4.7であり、その時の該メタノール分散ゾル中に含まれるチタン系複合酸化物微粒子のゼータ電位は−38mVであった。なお、前記メタノール分散ゾル中には、ナトリウム成分は含まれていなかった。
【0069】
塗料組成物の調製
γ―グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(東レ・ダウコーニング(株)製Z−6040)100gにメタノール50gを混合し、攪拌しながら、この溶液の中に0.01Nの塩酸水溶液23gを滴下した。さらに、この溶液を室温で一昼夜攪拌して、シラン化合物の加水分解を行った。
次いで、この加水分解液に、前記メタノール分散液300g、イソプロピルアルコール100g、トリス(2,4−ペンタンジオナト)アルミニウム(III)(東京化成工業株式会社)2g、およびレベリング剤としてシリコーン系界面活性剤(東レ・ダウコーニング(株)製「L−7001」)1.0gを加え、室温で一昼夜攪拌して、ハードコート層形成用の塗料組成物(ハードコート塗料C3)を調製した。
【0070】
[比較例4]
シリカゾルの調製
実施例1の場合と同様に、珪素成分をSiO2換算基準で4.6重量%含む、pH2.8の酸性ケイ酸液を得た。
次いで、還流器、攪拌機、加熱部および二つの注液口を備えた300Lのステンレス製容器に、実施例1で使用した前記ケイ酸ソーダ溶液1.26kgをイオン交換水25.8kgで希釈した。これを98℃に加熱した後、前記酸性ケイ酸液230.7kg、アルミン酸ソーダ溶液4.8kgを、それぞれ別々の注液口から47時間かけて同時に添加した。各溶液の添加速度は一定になるように努め、特にpHが8.5を下回らないように注意した。得られたゾルをイオン交換水で3倍重量になるように希釈し、次いで限外濾過膜で脱塩、洗浄を行った後、濃縮して、珪素成分の含有量がSiO2換算基準で30重量%含むアルカリ性シリカゾル(RBS−1)を得た。
次に、実施例1の場合と同様に、このアルカリ性シリカゾル(RBS−1)に一次脱アルカリ処理、二次脱アルカリ処理を実施して、珪素成分の含有量がSiO2換算基準で30重量%含む酸性シリカゾル(RAS−1)を得た。
【0071】
このようにして得られた酸性シリカゾル(RAS−1)中に含まれるシリカ系微粒子の平均粒子径は、動的光散乱法で測定したとき、65.4nmであった。また、25℃の温度で測定したときの前記酸性シリカゾルのpHは3.1であり、その時の該酸性シリカゾル中に含まれるシリカ系微粒子のゼータ電位は−33mVであった。
また、前記酸性シリカゾル中には、ナトリウム成分をNa2O換算基準で0.05重量%含んでおり、さらに該ゾル中に含まれるシリカ系微粒子中には、シリカ成分をSiO2で表し、アルミニウム成分をAl23で表したとき、Al23/SiO2モル比が0.0002となるような割合でアルミニウム成分を含んでいた。
【0072】
塗料組成物の調製
γ―グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(東レ・ダウコーニング(株)製Z−6040)100gにメタノール50gを混合し、攪拌しながら、この溶液の中に0.01Nの塩酸水溶液23gを滴下した。更に、この溶液を室温で一昼夜攪拌して、シラン化合物の加水分解を行った。
次いで、この加水分解液に、前記酸性シリカゾル(RAS−1) 200g、イソプロピルアルコール200g、トリス(2,4−ペンタンジオナト)アルミニウム(III)(東京化成工業株式会社製)2g、およびレベリング剤としてシリコーン系界面活性剤(東レ・ダウコーニング(株)製「L−7001」)1.0gを加え、室温で一昼夜攪拌して、ハードコート層形成用の塗料組成物(ハードコート塗料C4)を調製した。
【0073】
[比較例5]
シリカゾルの調製
実施例1にて得られた珪素成分の含有量がSiO2換算基準で20重量%含む酸性シリカゾル(AS−1)に28%のアンモニア水溶液(キシダ化学(株)製)を加え、25℃の温度で測定した時のpHが8.0になるように調整した。以下、このシリカゾルをRBS−2という。
塗料組成物の調製
シリカゾルをRBS−2に変更する以外は、実施例1と同様に塗料組成物(ハードコート塗料C5)を調製した。
【0074】
[プライマーコート層形成用塗料組成物の調製]
[調製例1]
塗料組成物の調製
市販の水分散ポリウレタン樹脂(第一工業製薬(株)製「スーパーフレックス460:固形分濃度38%」)200gに純水100gを混合し、攪拌しながらメタノール500g、およびレベリング剤としてシリコーン系界面活性剤(東レ・ダウコーニング(株)製「L−7604」)2gを加え、室温にて一昼夜攪拌して、プライマーコート層形成用の塗料組成物(以下、「プライマー塗料」という)を調製した。
【0075】
[試験片の作製]
[調製例2]
プラスチックレンズ基材の前処理
市販のプラスチックレンズ基材CR−39(PPG社製モノマー使用)を必要枚数、用意し、これらを40℃に保った10重量%濃度のKOH水溶液に3分間浸漬してエッチング処理を行った。更に、これらを取り出して水洗した後、十分に乾燥させた。
【0076】
プライマー層の形成
上記のようにして得られたプラスチックレンズ基材を、表1に示す組み合わせに従い、上記のプライマー層形成用の塗料組成物を塗布して塗膜を形成した。なお、この塗料組成物の塗布は、ディッピング法(引き上げ速度100mm/分)を用いて行った。
次に、前記塗膜を100℃で10分間、加熱処理して、塗膜(プライマー層)の予備硬化を行った。
このようにして形成された前記プライマー層の予備硬化後の膜厚は、概ね0.5μmであった。
【0077】
ハードコート層の形成
前記プラスチックレンズ基材またはプライマーコート層の表面に、表1に示す組み合わせに従い、上記のハードコート層形成用塗料組成物(すなわち、実施例1〜7で得られたハードコート塗料H1〜H7、および比較例1〜5で得られたハードコート塗料C1〜C5)をそれぞれ塗布して塗膜を形成した。なお、この塗料組成物の塗布は、ディッピング法(引き上げ速度180mm/分)を用いて行った。
次に、前記塗膜を100℃で10分間、乾燥させた後、100℃で2時間、加熱処理して、塗膜(ハードコート層)の硬化を行った。この際、前記プライマー層の本硬化も同時に行った。
このようにして形成された前記ハードコート層の硬化後の膜厚は、概ね2.4〜2.8μmであった。
【0078】
反射防止膜層の形成
硬化されたハードコート層の表面に、表1に示す組み合わせに従い、以下に示す構成の無機酸化物成分を真空蒸着法によって蒸着させた。ハードコート層側から大気側に向かって、SiO2:0.06λ、ZrO2:0.15λ、SiO2:0.04λ、ZrO2:0.25λ、SiO2:0.25λの順序で積層された反射防止膜の層を形成した。なお、設計波長λは、520nmとした。
【0079】
【表1】

【0080】
[実施例8および比較例6]
調製例2で得られた試験用光学レンズ(すなわち、実施例塗料組成物を用いて得られた試験片1〜9、および比較例塗料組成物を用いて得られた試験片10〜16)を、上記に示す評価試験法に供して、それぞれの耐擦傷性、密着性、耐熱性(密着性)、耐候性(外観および密着性)および耐衝撃性(レンズ割れの有無)について測定・評価した。その結果を表2に示す。
【0081】
【表2】

【0082】
上記の表2からも明らかなように、実施例1〜7で調製されたハードコート塗料を用いて調製された光学レンズ(試験片No. 1〜9)は、耐擦傷性において優れていることが分かった。このうち、試験片No. 8および9の光学レンズについては、その他の光学レンズ(試験片No. 1〜7)に較べて、耐擦傷性の面において少し劣っているが、これはレンズの最上部表面に蒸着法に基づく反射防止膜を設けたことによるものである。また、試験片No. 8の光学レンズが耐衝撃性試験で割れたのも、同様な理由によるものである。これに対し、試験片No. 9の光学レンズは、プラスチックレンズ基材とハードコート層との間にプライマー層を設けてあるので、耐衝撃性試験で割れることはなかった。
一方、比較例1〜5で調製されたハードコート塗料を用いて調製された光学レンズ(試験片No. 10〜16)は、耐擦傷性においてかなり劣っていることが分かった。また、試験片No. 12の光学レンズは、耐候性試験でクラックの発生が認められた。なお、試験片No. 15の光学レンズが耐衝撃性試験で割れたのは、前記と同様な理由によるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック基材上に配設されるハードコート層を形成するための塗料組成物であって、
(A)25℃の温度で測定したときのpHが2.0〜4.0の範囲にあり、しかも該pH領域におけるゼータ電位が−10〜−30mVの範囲にあるシリカ系微粒子を含むシリカゾル;および
(B)下記一般式(I)で表される有機珪素化合物、その加水分解物および/または該加水分解物の部分縮合物;
12aSi(OR33-a ・・・・・(I)
(式中、R1は炭素数1〜6の炭化水素基、ビニル基、エポキシ基、メタクリロキシ基、メルカプト基またはアミノ基を有する有機基、R2は炭素数1〜4の炭化水素基、R3は炭素数1〜8の炭化水素基、アルコキシアルキル基またはアシル基、aは0または1を表す。);
を含有することを特徴とするハードコート層形成用塗料組成物。
【請求項2】
前記シリカ系微粒子の平均粒子径が、動的光散乱法で測定したとき、3〜60nmの範囲にあることを特徴とする請求項1に記載のハードコート層形成用塗料組成物。
【請求項3】
前記シリカ系微粒子が、ケイ素成分のほかに、アルミニウム、ジルコニウム、チタニウム、アンチモン、スズ、亜鉛、ニッケル、バリウム、マグネシウムおよびバナジウムから選ばれた1種または2種以上の金属成分を含むことを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載のハードコート層形成用塗料組成物。
【請求項4】
前記シリカ系微粒子が、該微粒子中に含まれる前記金属成分をMOxで表し、さらに前記ケイ素成分をSiO2で表したとき、そのモル比(MOx/SiO2)が0.0001〜0.010の範囲にあることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のハードコート層形成用塗料組成物。
【請求項5】
前記金属成分が、前記ケイ素成分と化合した複合酸化物の形態で存在することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のハードコート層形成用塗料組成物。
【請求項6】
前記塗料組成物中に、さらに下記成分(C)および(D)から選ばれた1種または2種以上の化合物を含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のハードコート層形成用塗料組成物。
(C)下記一般式(II)で表される有機珪素化合物、その加水分解物および/または該加水分解物の部分縮合物;
〔(R4b Si(OR53-b2 6 ・・・・・(II)
(式中、R4は炭素数1〜5のアルキル基であり、R5は炭素数1〜4のアルキル基またはアシル基であり、R6はメチレン基または炭素数2〜20のアルキレン基であり、bは0または1を表す。)、
(D)下記一般式(III)で表される有機珪素化合物、その加水分解物および/または該加水分解物の部分縮合物;
Si(OR74 ・・・・・(III)
(式中、R7は炭素数1〜8の炭化水素基、アルコキシアルキル基またはアシル基を表す。)。
【請求項7】
前記塗料組成物中に、さらに下記成分(E)、(F)および(G)から選ばれた1種または2種以上の化合物を含有することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のハードコート層形成用塗料組成物。
(E)未架橋エポキシ化合物;
(F)シアナミド化合物、多価カルボン酸および/または多価カルボン酸無水物;
(G)金属アセチルアセトナート、金属アルコキシド、有機酸の金属塩、および/または過塩素酸類。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のハードコート層形成用塗料組成物をプラスチック基材上に塗布して得られるハードコート層を設けてなる光学物品。
【請求項9】
前記プラスチック基材が、プラスチックレンズ基材であることを特徴とする請求項8に記載の光学物品。
【請求項10】
前記ハードコート層上に、反射防止膜が形成されていることを特徴とする請求項8〜9のいずれかに記載の光学物品。
【請求項11】
前記プラスチック基材と前記ハードコート層との間に、ポリウレタン樹脂を主成分とするプライマー層が形成されていることを特徴とする請求項8〜10のいずれかに記載の光学物品。

【公開番号】特開2009−197078(P2009−197078A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−38330(P2008−38330)
【出願日】平成20年2月20日(2008.2.20)
【出願人】(000190024)日揮触媒化成株式会社 (458)
【Fターム(参考)】