説明

バイオアパタイトの製造方法及び生物学的な活性を有する物質の分離方法

【課題】貝殻から生物学的な活性を有する物質を吸着したバイオアパタイトを製造する方法、その生物学的活性を有する物質の分離方法及び用途を提供する。
【解決手段】(I)下記の(1)〜(5)の工程を有することを特徴とする生物学的活性を有する物質を吸着したハイドロキシアパタイト、及び炭酸アパタイトを含むハイドロキシアパタイト(バイオアパタイト)の製造方法:(1)貝類の殻体を洗浄し、貝類の軟組織及び外側の不純物を除去する工程、(2)前記洗浄した貝類の殻体を粉砕する工程、(3)前記粉砕物を酸性条件下で脱灰する工程、(4)リン酸添加工程、及び(5)前記リン酸添加工程で得られたバイオアパタイトを単離する工程、(II)前記生物学的な活性を有する物質の分離方法、及び(III)前記バイオアパタイトの製造工程で得られるバイオアパタイト母液並びに(IV)前記母液の用途。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は貝殻から生物学的活性を有する物質を吸着したハイドロキシアパタイト、及び炭酸アパタイトを含むハイドロキシアパタイト(以下、特許請求の範囲及び明細書において、これらの物質をバイオアパタイトと略記することがある。)を製造する方法、及びその方法で得られた生物学的活性を有する物質の分離方法に関する。さらに詳しく言えば、貝類の殻体、特にホタテ貝の殻体に微量含まれる有機生理活性物質を吸着したハイドロキシアパタイト、及び炭酸アパタイトを含むハイドロキシアパタイト(バイオアパタイト)の製造方法、及びその方法で得られたバイオアパタイトから有機生理活性物質を分離する方法に関する。
【0002】
本発明の方法で得られるバイオアパタイト、及びそれから生物学的活性を有する物質を分離したバイオアパタイトは、例えば、食品、飲料、飼料、化粧品、薬剤等への添加剤として利用することができる。
また、本発明の方法の工程中で得られるバイオアパタイト形成母液は環境廃水(例えば、屎尿)中のリン酸の回収に用いることができる。
【背景技術】
【0003】
産業廃棄物として排出されるホタテ貝殻はホタテ漁業の盛んな北海道全体では年間40万トンが廃棄されており、凍上抑制層材や暗渠疎水材などの土木工事資材として再生利用されているが、公共工事の減少などにより未利用の貝殻が再び増加することが懸念される。廃棄物の資源としての適正利用等を推進するため、ホタテ貝殻の再生利用率の維持・向上を図ることが必要であり、そのために、ホタテ貝殻を有効活用する新たな産業の創出が期待されている。
【0004】
ホタテ貝殻は、95%以上が炭酸カルシウムでできており、成分的には鉱物資源である石灰石と似た化学組成であるが、石灰石に無い、海水由来のナトリウムが含まれている。また、石灰石と比べて鉄やアルミニウム等が殆ど含まれないなど不純物が少なく、全体的に純度が高く、白色度も高い。さらに、微細な断面組織は緻密で、粉砕物の形状は棒状・板状であり、この組織を有することによりホタテ貝殻の強度が高いなどの特徴を持っていることから、土壌改良材、アスファルト舗装材の石粉、食品添加剤などとして活用が検討されている。
【0005】
焼成貝類の殻体では化学物質の分解促進機能、抗菌機能、消臭機能、防虫機能等が知られ、シックハウス対応の壁剤や、キッチン用除菌消臭剤等が上市されているものの、その利用は物理化学的な作用を利用したものに限られており、貝殻に含まれる生物学的に活性を有する物質(有用成分)の利用には至っていない。
【0006】
一方で、西暦600年のマヤ文明では、骨に強固に結合したインプラント(人工歯根)が行われていたことが遺跡の調査などから明らかになっている。そのインプラントの素材は、真珠貝(アコヤ貝)であり、貝が骨に結合することが1998年に再発見された。貝類の殻体中に微量ではあるが、骨や皮膚などの結合組織を活性化する物質が発見されている(Nature, 392:861-862, 1998;非特許文献1)。
【0007】
また、貝類の殻体にはカルシウムが豊富に含まれており、その多くは炭酸カルシウムの形態を示す。カルシウムは生体の構成成分として、また必須な栄養成分として炭酸カルシウムは天然に豊富に存在し、安価なカルシウム補給剤として利用されているが、水溶性が低く,その生体親和性は決して高くない。一方、リン酸カルシウムの一種であるバイオアパタイトは生体への親和性が高く有用であり、歯科充填剤、硬組織代替素材などとしての利用が検討されている。バイオアパタイトは天然には動物の骨組織の構成成分として存在し、産業上は牛骨が原料として利用されているが、牛由来の原料はBSEなど安全性の問題があり、利用は減少している。特開平10−87307号公報(特許文献1)には動物の殻と、リン酸化合物を反応させることを特徴とする抗菌性を有するリン酸カルシウムの製造方法が開示されており、得られるカルシウムがハイドロキシアパタイト構造を有するとしている。
【0008】
ハイドロキシアパタイトは合成によっても得ることができる。合成法としては、溶液法(湿式法)、固相法、水熱法、アルコキシド法(熱分解法)、フラックス法など、多種の方法がある。一般に広く用いられている方法は溶液法であり、カルシウムイオンを含む溶液と、リン酸イオンを含む溶液とを混合して合成する。素材の特性を生かし、目的・用途にかなった方法が求められている。しかしながら、カルシウムを豊富に含む貝類の殻体、特に産業廃棄物として大量に廃棄されているホタテ貝の殻体を素材として、ヘルスケアに用いることのできる無駄のないバイオアパタイト合成法は、これまで開発されていなかった。
【0009】
【非特許文献1】Nature, 392:861-862, 1998
【特許文献1】特開平10−87307号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述のごとく、貝類の殻体からはバイオアパタイトが得られるだけでなく、貝類の殻体中には未知の有用な生理活性物質の存在が示唆されてきたものの、その効率よい分離、精製法は未開拓のままである。
従って、本発明の課題は貝殻から生物学的な活性を有する物質を吸着したバイオアパタイトを製造する方法を提供することにある。
本発明の他の課題は前記方法で得られた生物学的活性を有する物質の分離方法を提供することにある。
さらに本発明の他の課題は、前記バイオアパタイトの製造工程中で得られる、バイオアパタイト形成母液の有効利用法(例えば、環境廃水からのリン酸の回収法)を提供することにある。
さらに本発明の別の課題は、本発明の方法で得られる、バイオアパタイト、及び生物学的活性物質を含む組成物の用途を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者らは、骨や歯の硬組織と取り組んできた長年の経験から、貝類の殻体に存在する無機及び有機の生理活性物質の有効利用を図るべく鋭意研究を重ねた結果、系統的に貝類の殻体から生物学的な活性を有する物質を吸着したバイオアパタイトを製造し、かつ吸着された生物学的な活性を有する有用物質を分離する方法を確立した。
【0012】
すなわち、本発明は以下の1〜11に記載のバイオアパタイトの製造方法、それからの生物学的活性物質の分離方法、及びバイオアパタイト形成母液並びにその利用に関する。
1.下記の(1)〜(5)の工程を有することを特徴とする生物学的活性を有する物質を吸着したハイドロキシアパタイト、及び炭酸アパタイトを含むハイドロキシアパタイト(バイオアパタイト)の製造方法:
(1)貝類の殻体を洗浄し、貝類の軟組織及び外側の不純物を除去する工程、
(2)前記洗浄した貝類の殻体を粉砕する工程、
(3)前記粉砕物を酸性条件下で脱灰する工程、
(4)リン酸添加工程、及び
(5)前記リン酸添加工程で得られたバイオアパタイトを単離する工程。
2.貝類の殻体を粉砕する工程(2)が、液体窒素を用いて凍結下で粉砕する工程である前項1に記載のバイオアパタイトの製造方法。
3.脱灰工程(3)が、前記粉砕物を水懸濁物とした後撹拌しながら酸を添加しつつ上昇するpH値を2付近に維持し、pH値が上昇しなくなった時点で水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHを9付近に調整し透明溶液(バイオアパタイト形成母液)を得る工程である前項1に記載のバイオアパタイトの製造方法。
4.前記(3)の脱灰工程において、発生するCO2による発泡をアルコールの噴霧により抑制する前項3に記載のバイオアパタイトの製造方法。
5.リン酸添加工程(4)が、水酸化ナトリウム水溶液を添加しpHを9付近に維持しつつ、前記透明溶液に該溶液中のカルシウムイオンに対してモル比で、化学量論的に0.6倍量となる量のリン酸溶液を添加しバイオアパタイトの沈殿を生成させる工程である前項1記載のバイオアパタイトの製造方法。
6.貝類がホタテ貝、及び/またはアコヤ貝である前項1に記載のバイオアパタイトの製造方法。
7.前項1で得られたバイオアパタイトの粉末を尿素水溶液中にて分散・撹拌し、4〜10℃にて12〜24時間静置した後、遠心分離し、上清を蒸留水に対して透析し、その後凍結乾燥することを特徴とする生物学的活性を有する物質を含有する組成物の分離方法。
8.前項1で得られたバイオアパタイト粉末の懸濁液をカラムに充填し、尿素を含むリン酸カリウム緩衝液(pH6.8)のリン酸カリウム濃度を0.1から1.0Mまで漸次上昇させることにより、吸着している生理活性物質を分別溶出し採取することを特徴とする生物学的活性を有する物質を含有する組成物の分離方法。
9.前記前項3に記載のバイオアパタイト形成母液。
10.前項9に記載のバイオアパタイト形成母液を用いることを特徴とする環境廃水中のリン酸の回収方法。
11.環境廃水が人間及び動物の屎尿を含む前項10に記載の環境廃水中のリン酸の回収方法。
【発明の効果】
【0013】
北海道産の貝類、とくにホタテ貝及びアコヤ貝の殻の成分を、無機物質と有機物質に分け、それぞれの成分を無駄なく利用し得る系統的方法を確立することができた。
本発明による最も顕著な成果は、殻体粉末の脱灰液という単一の溶液内にて、生物学的活性を有する物質を吸着したハイドロキシアパタイト、及び炭酸アパタイトを含むハイドロキシアパタイト(バイオアパタイト)を創製することができる点である。これまで、このように単純な操作でバイオアパタイトを貝の殻体から創製する報告は無く、貝の殻体を一旦、加熱してカルシウム化合物などを得て、それにリン酸を加えるというような、コストも面からも、操作の面からも無駄の多い合成法のみが行われてきた。これに対し本発明においては、長年の骨の脱灰処理による生理活性物質の抽出操作の経験から、脱灰液の処理法として、新しい方法を提供した。本発明による、単一溶液処理法によりバイオアパタイトを製造する利点は、操作が簡単で、経費、操作を短縮した点ばかりではない。すなわち「バイオアパタイト形成母液」には、殻体由来の全ての可溶性物質が含まれており、この同一様液内でバイオアパタイトが生成するので、本法においては、この母液内に存在する全てのバイオアパタイト吸着性の有機質が回収できるという重要な利点をもっている。さらにこの母液は、必要に応じて滅菌濾過が可能であり、医療用素材製造法に適している。因みに、これまで知られているサイトカインなどの細胞増殖活性物質は、バイオアパタイトに強く吸着されることが知られており、本発明により得られるバイオアパタイトは、そこに吸着されている生物学的活性を有する物質の有効利用の途を開くものである。さらに、本発明の方法で得られるバイオアパタイト形成母液は人間及び動物の屎尿等を含む環境廃水中のリン酸の回収に用いることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下本発明を詳細に説明する。
本発明のバイオアパタイトの製造方法は以下の工程からなる。
【0015】
(1)貝類の殻体の前処理工程
貝類としては、特に限定されないが、例えば、ホタテ貝、アコヤ貝、牡蛎貝等が用いられる。これらの中でもホタテ貝及びアコヤ貝が好ましく用いられる。
貝類の殻体の前処理工程では、残存する軟組織を除去し、外側の不純物を除去する。次いで軟組織などを除いて、水、蒸留水等で洗浄した貝類の殻体を人力によって、約300メッシュ以下の粉末に粉砕する。粉砕には、例えば、ステンレス製のミルが用いられる。このとき、有機成分の変性を防ぐために、液体窒素を用いて、凍結下で粉砕する方法を採用することが好ましい。しかし、無機成分のみの分離を目的にする場合には、凍結乾燥は不要である。
【0016】
(2)脱灰工程
未脱灰試料から中性で抽出される成分と次工程の脱灰後初めて抽出される成分とは、根本的に異なるので、脱灰の前に中性の緩衝液にて、脱灰前に可溶成分を抽出する。この操作は、同時に粉末の洗浄をも兼ねている。
粉末にその質量の約5〜10倍量の0.01M塩酸を加え、撹拌しつつ4M塩酸を加えてpH2付近(pH2.0〜2.2)まで下げる。その後、脱灰の進行と共に、pHが上昇するが、塩酸を適量ずつ加えながら、このpH2付近を持続させる。二酸化炭素の発生により発泡するが、時々エタノールを噴霧して泡を消滅させつつ脱灰を進行させる。脱灰が進行し、もはやpHの上昇が見られなくなった段階を、脱灰終了と判定し、その後、撹拌しつつ徐々にアルカリ(例えば4M水酸化ナトリウム)を添加してpHを9.0付近に上昇させ、無色透明な溶液(バイオアパタイト形成母液)を得る。この溶液は、必要に応じて滅菌ろ過によって無菌化することができる。
【0017】
(3)リン酸添加工程
アルカリ性になった透明脱灰液を激しく撹拌しつつ、徐々に、第二リン酸ナトリウム溶液(例えば、0.5M Na2HPO4)を、化学量論的に正確に溶液内のカルシウムイオンとリン酸イオンのモル比で10:6に到達するまで加える。
その際、pHが、漸次下降するので、注意深く、少しずつ、アルカリ(例えば、1M水酸化ナトリウム)を添加して、pHを9付近に保つことが極めて重要な鍵であり、この点を怠った方法では、バイオアパタイトは生成できない。例えば、pHが5〜6まで下降した条件では、第2リン酸カルシウム(Ca・HPO4・2H2O)が生成する。以上の操作によって、バイオアパタイトの沈殿と、それに吸着した生物学的活性物質を得ることができる。
【0018】
このように本発明では、貝類の殻体を酸性条件下で脱灰し、その脱灰溶液をpH9程度の条件下でリン酸溶液と反応させることでバイオアパタイト沈殿を生じさせて、これを単離してバイオアパタイトを得ることができる。このバイオアパタイトは、生物学的な活性を有する物質を吸着しているが、本発明では、さらにこのバイオアパタイト沈殿を尿素溶液処理することにより、バイオアパタイトに吸着されている貝類殻体中の有用物質を溶出させることができる。例えば、バイオアパタイトの粉末を尿素水溶液中にて分散・撹拌し、4〜10℃にて12〜24時間静置した後、遠心分離し、上清を蒸留水に対して透析し、その後凍結乾燥することによって生物学的活性を有する物質を含有する組成物を分離することができる。
【0019】
また、吸着している各種の生理活性物質と高純度のハイドロキシアパタイトとの分離は、カラムクロマトグラフィーの原理に従って、カラムのリン酸濃度を段階的に上昇させて、逐次分別溶出することができる。すなわち、沈殿した懸濁液をカラムに充填し、6M尿素を含むリン酸緩衝液(pH6.8)のリン酸濃度を0.1から1.0Mまで漸次上昇させることにより、吸着している生理活性物質を分別溶出して、採取する。
【0020】
このように、本発明では貝類殻体に含まれる無機有用物質としてのバイオアパタイトと有機有用物質としての生物学的活性を有する物質を含有する組成物を同時に調製することができる。すなわち、本発明によれば、貝殻を脱灰溶解した溶液から、簡単な操作によって、バイオアパタイト吸着性の生物活性物質を分離抽出すると同時に、高純度のバイオアパタイトを製造する新しい方法を提供することができる。
本発明の方法により得られるバイオアパタイトあるいはそれから生成物学的活性物質を分離したバイオアパタイトは、例えば、食品、飲料、飼料、化粧品、薬剤等への添加剤等として利用可能であり、有機有用物質(生物学的活性物質)はインプラント(人工歯根)補助剤等として利用することができる。
【実施例】
【0021】
以下に実施例、比較例及び試験例を挙げて本発明を説明するが、本発明の内容がこれらに限定されるものではない。
【0022】
実施例1:ホタテ貝の殻体の脱灰
ホタテ貝の殻体を水で洗浄し、残存する軟組織、外側の不純物を除去した。ステンレスミル内で液体窒素存在下で殻体を300メッシュ以下の粉末に粉砕した。この殻体粉末に5倍量の0.1M塩酸水溶液を加え、4Mの塩酸水溶液に溶解しpHを2まで下げた。その後、脱灰の進行と共に、pHが上昇するが4M塩酸を少しずつ加えてpH2を持続させた。この時二酸化炭素の発生により発泡するが、エタノールを噴霧して消泡させつつ脱灰させた。pHが上昇しなくなった時点で脱灰終了と判定し、その後、撹拌しつつ徐々に4M水酸化ナトリウムを加えてpH9に調整して、無色透明の液体(バイオアパタイト形成母液)を得た。
【0023】
実施例2:酸脱灰溶液からのバイオアパタイトの生成
実施例1で得たバイオアパタイト形成母液に0.5M濃度のリン酸溶液を、酸脱灰溶液のカルシウムイオンのモル比で化学量論的に正確に0.60倍量加えた。このときpHが漸次下降するので、注意深く、少しずつ1M水酸化ナトリウムを添加し、pHを9に保った。この操作により得られた沈殿を試験物質−1とした。
【0024】
比較例1:
実施例1で得たバイオアパタイト形成母液に0.5M濃度のリン酸溶液を、酸脱灰溶液のカルシウムイオンのモル比で化学量論的に正確に0.60倍量加えた。このときpHが漸次下降するので、注意深く、少しずつ1M水酸化ナトリウムを添加し、pHを5に保った。この操作により得られた沈殿を試験物質−2とした。
【0025】
試験例1:バイオアパタイト構造の確認
試験物質−1と試験物質−2をX線回折分析に供した。その回折像を図1及び図2に示す。試験物質−1のX線回折像である図1はバイオアパタイトの回折像を示したのに対し、試験物質−2のX線回折像は第二リン酸カルシウムの回折像を示しており、酸脱灰溶液にリン酸溶液を反応させるときのpH条件が、バイオアパタイトの形成に重要であり、pH9を保つことが必要であることが示された。
【0026】
実施例3:
ホタテ貝の殻体から得られたバイオアパタイトはホタテ貝の殻体に含まれる生物学的活性物質を吸着していることが考えられたため、試験物質−1を100g、6M尿素を含む0.5Mリン酸緩衝液に分散し、4℃で24時間撹拌抽出して、その後静置して上清を遠心分離した。得られた上清を蒸留水に対して充分透析した後、凍結乾燥して乾燥サンプル(試験物質−3)約50mgを得た。
【0027】
実施例4:バイオアパタイトからのタンパクの溶出
アコヤ貝粉末(300メッシュ以下)を用いて、上記実施例2と同様の方法によって調製したバイオアパタイトを蒸留水に懸濁し、そのスラリーをガラスカラム(5×15cm)に充填してカラムクロマトグラフィーを行った。予め蒸留水を流して洗浄した後、溶離液として(1)6M尿素/0.1Mリン酸緩衝液、(2)6M尿素/0.5Mリン酸緩衝液、(3)6M尿素/1.0Mリン酸緩衝液(いずれもpH6.8)の3種の順に、各200mlを流した。各溶出液は、蒸留水に対して十分透析して凍結乾燥した(この凍結乾燥物を以下、0.1M分画、0.5M分画及び1.0M分画と呼ぶ。)。
【0028】
試験例2:細胞培養法
マウス骨骨髄細胞由来の骨芽細胞MC3T3E1株(奥羽大学児玉博明博士から恵与された株。以下E1株と略記することがある。)をイーグル(Eeagle)MEM培地(10%胎児血清、1%抗生物質3種混合液を含む)で、5%炭酸ガス気相、37℃にて培養した。サブコンフルエントの状態まで培養後、通法に従って0.2%トリプシンで剥離し、96ウエルの細胞培養シャーレに、1ウエル当たり3000個/0.1mlの細胞を播種した。細胞播種群を3グループに分け、実施例4で得た0.1M分画、0.5M分画及び1.0M分画をそれぞれのグループに、各々0.01ml加え、3日間培養した。
それぞれのウエルに水溶性テトラゾリウム塩試薬(CCK−8,同仁化学薬品)を0.01ml加え、2時間後に450nmの吸光度をマイクロリーダにて測定した。
対照(Control)の結果と共に、結果を図3のグラフに示す。図3のグラフから、バイオアパタイトクロマトグラフィーからの0.1M及び0.5M分画を添加したグループで有意にE1細胞が増殖していることが判明した。
【0029】
実施例5:バイオアパタイト形成母液の応用(廃水からの燐酸イオンの回収)
1mlのバイオアパタイト形成母液に、終濃度1.0、2.5、及び50mMになるようにリン酸イオン(第2燐酸ナトリウム)を加えた。その結果を、リン酸イオン非添加の結果と共に図4の写真に示す。この結果から、バイオアパタイト形成母液は、高濃度のカルシウムを含んでいるので、極めて低濃度のリン酸イオンでも、直ちに沈殿させる能力を持っていることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の方法により簡便な手段で作製できるバイオアパタイト形成母液は、環境廃水等からリン酸イオンを回収するのに応用可能であるがわかった。現在、世界的にリン酸資源が枯渇傾向にある一方、廃水、特に人間及び動物の屎尿を含む廃水中にはリン酸イオンが高まっており、その結果、浄水処理、魚介類の生息に影響をあたえているといわれる。この点、リン酸回収法の一つとして、貝類から得られるバイオアパタイト形成母液の応用は大いに期待されるところである。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】実施例1で得られたバイオアパタイトのX線回折分析図である。
【図2】比較例1で得られた第二リン酸カルシウムのX線回折分析図である。
【図3】試験例2によるマウスの骨芽細胞MC3T3E1株の培養に対する本発明のバイオアパタイト溶出分画の促進効果を示すグラフである。
【図4】実施例5によるバイオアパタイト形成母液と各種第2リン酸ナトリウム濃度溶液との反応結果を示す図面代用写真であり、写真中の「1.0」、「2.5」、「50」はリン酸イオンの終濃度「1.0mM」、「2.5mM」、及び「50mM」を表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(1)〜(5)の工程を有することを特徴とする生物学的活性を有する物質を吸着したバイオアパタイトの製造方法:
(1)貝類の殻体を洗浄し、貝類の軟組織及び外側の不純物を除去する工程、
(2)前記洗浄した貝類の殻体を粉砕する工程、
(3)前記粉砕物を酸性条件下で脱灰する工程、
(4)リン酸添加工程、及び
(5)前記リン酸添加工程で得られたバイオアパタイトを単離する工程。
【請求項2】
貝類の殻体を粉砕する工程(2)が、液体窒素を用いて凍結下で粉砕する工程である請求項1に記載のバイオアパタイトの製造方法。
【請求項3】
脱灰工程(3)が、前記粉砕物を水懸濁物とした後撹拌しながら酸を添加しつつ上昇するpH値を2付近に維持し、pH値が上昇しなくなった時点で水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHを9付近に調整し透明溶液(バイオアパタイト形成母液)を得る工程である請求項1に記載のバイオアパタイトの製造方法。
【請求項4】
前記(3)の脱灰工程において、発生するCO2による発泡をアルコールの噴霧により抑制する請求項3に記載のバイオアパタイトの製造方法。
【請求項5】
リン酸添加工程(4)が、水酸化ナトリウム水溶液を添加しpHを9付近に維持しつつ、前記透明溶液に該溶液中のカルシウムイオンに対してモル比で、化学量論的に0.6倍量となる量のリン酸溶液を添加しバイオアパタイトの沈殿を生成させる工程である請求項1記載のバイオアパタイトの製造方法。
【請求項6】
貝類がホタテ貝、及び/またはアコヤ貝である請求項1に記載のバイオアパタイトの製造方法。
【請求項7】
請求項1で得られたバイオアパタイトの粉末を尿素水溶液中にて分散・撹拌し、4〜10℃にて12〜24時間静置した後、遠心分離し、上清を蒸留水に対して透析し、その後凍結乾燥することを特徴とする生物学的活性を有する物質を含有する組成物の分離方法。
【請求項8】
請求項1で得られたバイオアパタイト粉末の懸濁液をカラムに充填し、尿素を含むリン酸カリウム緩衝液(pH6.8)のリン酸カリウム濃度を0.1から1.0Mまで漸次上昇させることにより、吸着している生理活性物質を分別溶出し採取することを特徴とする生物学的活性を有する物質を含有する組成物の分離方法。
【請求項9】
前記請求項3に記載のバイオアパタイト形成母液。
【請求項10】
請求項9に記載のバイオアパタイト形成母液を用いることを特徴とする環境廃水中のリン酸の回収方法。
【請求項11】
環境廃水が人間及び動物の屎尿を含む請求項10に記載の環境廃水中のリン酸の回収方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−120449(P2009−120449A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−297784(P2007−297784)
【出願日】平成19年11月16日(2007.11.16)
【出願人】(592196156)株式会社アミノアップ化学 (7)
【出願人】(506312043)日本天然素材株式会社 (7)
【出願人】(501249076)
【Fターム(参考)】