説明

バイオガス発生装置及び方法

【課題】有機性廃液のBODを低減するとともに、水素及びメタンを発生させる。
【解決手段】水素生成菌の1種類の菌である通性嫌気性細菌が内部に収容されたバイオリアクタ1に配管5を介して有機性廃液を導入し、水素生成菌の作用により水素を発生させるとともにメタンの基質となる有機酸を生成する。その有機酸を含む液を、配管9を介して、メタン菌が内部に収容されたバイオリアクタ3に導入し、メタン菌の作用により有機酸を分解してメタンを発生させるとともにBODを低減し、その後配管15から排出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機物を含有する有機性廃液のBOD(生物化学的酸素要求量)又はCOD(化学的酸素要求量)を低減させるとともに、メタンや水素などのバイオガスを生成するバイオガス発生装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図1は、従来の好気的廃水処理法としての活性汚泥法の構成を示すブロック図である。
活性汚泥法では、活性汚泥(微生物の塊)を収容した曝気槽2に有機性廃液を導入した後、酸素(O2)を必要とするので多量の空気を曝気層2に導入する。分解の対象となる有機物をグルコース(C6126)とすると、グルコースは活性汚泥の作用により、以下に示す化学反応式(1)に基づいて二酸化炭素(CO2)と水(H2O)に分解される。
6126+6O2 → 6CO2+6H2O …(1)
【0003】
式(1)に示すように、活性汚泥法ではグルコース1モル当たりにつき6モルの二酸化炭素が発生する。
また、活性汚泥は有機物を食べて新しい活性汚泥を生成し、徐々にその量が増加するので、曝気槽2から余剰汚泥(残渣)を除去する必要がある。
【0004】
図2は、従来の廃水処理法の他の方法としてのUASB(Upflow Anaerobic Sludge Blanket、上向流嫌気性汚泥床)法の構成を示すブロック図である。
UASB法では、メタン発酵槽6に有機性廃液を導入して、微生物の加水分解などにより有機性廃液中の有機物から酢酸やプロピオン酸などの有機酸を生成し、その有機酸を基質(栄養源)としてメタン生成菌によってメタンを発生させるとともに、BODを低減させる。
UASB法は嫌気的発酵であるので、メタン発酵槽6における残渣の発生量が活性汚泥法に比較して少ないという長所がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のUASB法では、有機性廃液のBOD又はCODの低減が課題であり、メタンの発生量はあまり気にしていなかった。しかし今日、メタン発酵により発生するメタンをエネルギー源として利用することが多くなってきた。
また、従来は有機物からのバイオガスとしてはメタンが主流であった。
そこで本発明は、有機性廃液を処理するとともに、バイオガスとして水素及びメタンを発生させることができるバイオガス発生装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、水素生成菌を用いて有機性廃液を嫌気性発酵して水素とメタン原料有機物を生成する水素発酵部と、メタン生成菌を用いてメタン原料有機物を嫌気性発酵してメタンを生成するメタン発酵部とを備えたバイオガス発生装置である。
【0007】
図3は、本発明の構成を示すブロック図である。
水素発酵部1で、例えば水素生成菌(Enterobactor aerogenes)の1種の菌である通性嫌気性細菌を用いて有機性廃液に含有される有機物を分解して、水素とメタン原料有機物となる有機酸やアルコールを生成する。分解対象となる有機物をグルコース(C6126)とすると、グルコースは水素生成菌の作用により、以下に示す化学反応式(2)に基づいて主として酢酸(CH3COOH)と二酸化炭素(CO2)と水素(H2)に分解される。
6126+2H2O → 2CH3COOH+2CO2+4H2 …(2)
【0008】
水素発酵部1で生成したメタン原料有機物をメタン発酵部3に導入し、メタン生成菌を用いてメタン原料有機物を分解してメタンと二酸化炭素を生成する。メタン原料有機物を式(2)で生成した2モルの酢酸とすると、酢酸はメタン生成菌の作用により、以下に示す化学反応式(3)に基づいてメタン(CH4)と二酸化炭素(CO2)に分解される。
2CH3COOH → 2CH4+2CO2 …(3)
【0009】
このように、水素発酵部1で水素を発生させるとともにメタン原料有機物を生成し、メタン発酵部3でメタン原料有機物を分解してメタンを発生させるとともにBODを低減させる。
【発明の効果】
【0010】
本発明のバイオガス発生装置では、水素発酵部で水素生成菌を用いて有機性廃液を嫌気性発酵して水素とメタン原料有機物を生成し、メタン発酵部でメタン生成菌を用いて水素発酵部からのメタン原料有機物を嫌気性発酵してメタンを生成するようにしたので、有機性廃液のBODを低減させるとともに、バイオガスとして水素及びメタンを生成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図4は、一実施例を示す概略構成図である。ただし、本発明はこの実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内で種々の変更を行なうことができる。
容積が500m3のバイオリアクタ(水素発酵部)1が設けられている。バイオリアクタ1には、内部に水素生成菌の1種類の菌である通性嫌気性細菌が収容されており、有機性廃液を導入するための原水配管5と、バイオリアクタ1内で液を循環させる循環配管7と、処理後の液を排出する排出配管9が接続されている。バイオリアクタ1では水素生成菌の働きにより、有機性廃液がメタン原料有機物に変換され、水素と二酸化炭素が発生する。
発生した水素と二酸化炭素の混合ガスは、混合状態でも燃料電池などに利用することができるが、水素の純度を上げるためにバイオリアクタ1の上部に水素捕集部(図示略)を配置してもよい。水素捕集部では、水素を透過させ二酸化炭素を透過させないパラジウム膜などを用いた膜分離器を使用することにより、又は混合ガスをアルカリ溶液に透過させることにより二酸化炭素を吸収させて回収したりすることにより、水素濃度を高めることができる。
【0012】
バイオリアクタ1は、配管9を介して、容積が2000m3のバイオリアクタ(メタン発酵部)3に接続されている。配管9には希釈水を供給する希釈水配管11が合流している。バイオリアクタ3には、内部にメタン生成菌が収容されており、バイオリアクタ3内で液を循環させる循環配管13と、処理後の液を排出する排出配管15が接続されている。バイオリアクタ3ではメタン生成菌の働きにより、メタン原料有機物が分解されてメタンと二酸化炭素が生成する。
発生したメタンと二酸化炭素の混合ガスは、混合状態でも利用することができるが、メタンの純度を上げるためにバイオリアクタ3の上部にメタン捕集部(図示略)を配置してもよい。メタン捕集部では、メタンを透過させ二酸化炭素を透過させない膜分離器を使用することにより、ゼオライト吸着器を用いてメタンと二酸化炭素の吸着の強さの差を利用したり、又は混合ガスをアルカリ溶液に透過させることにより二酸化炭素を吸収させて回収したりすることにより、メタン濃度を高めることができる。
【0013】
本発明者らにより、グルコース濃度が1.5%の原水を水素生成菌の1種の菌である通性嫌気性細菌を用いて水素発酵処理した場合、水素の収率は0.5〜1mol/mol glucose、すなわち(2)式に対して12.5〜25%であり、水素生成速度は30〜60mmol/L/時間(1リットル容器で1時間に水素が30〜60mmol発生する)であることが確認されている。
この実施例を用いて、水素生成速度が30mmol/L/時間の場合、グルコース濃度が1.5%、すなわちBODが16000ppmの原水を、8020m3/日、すなわち120ton・glucose/日の流量で、空間速度(SV)を0.67/時間として処理したとき、バイオリアクタ1内で8064m3/日の水素が発生する。
【0014】
バイオリアクタ1内で、上記の式(2)に基づいて生成した酢酸を含む液を配管9を介してバイオリアクタ3内に導入し、メタン収率を1.8mol/mol glucoseとし、配管11からの希釈水の添加で空間速度を0.16/時間として処理した場合、バイオリアクタ3内で27000m3/日のメタンが発生し、配管15から排出される処理水のBODは11000ppmになる。
また、バイオリアクタ3への流入BODが高いときは、配管11からの希釈水の添加によりBOD濃度を下げればよい。そのとき、メタン発生速度及び空間速度を一定に保つには、バイオリアクタ3の容積を上げればよい。
このようにして、原水配管5から導入される有機性廃液のBODを低減させて排出流路15から排出することができる。
【0015】
バイオリアクタ1で発生した水素を精製すれば例えば燃料電池などのエネルギー源として利用することができる。水素を燃焼させても温室効果ガスである二酸化炭素は発生しない。さらに、バイオリアクタ3で発生したメタンを精製すればエネルギー源として利用することができる。
バイオリアクタ1の容積が20m3(2×2×5m、20000L)、水素生成速度が30mmol/L/時間とすると、1日間の水素発生重量は、
2(g/mol)×30/1000(mol/L/時間)×24(時間)×20000(L)=28800(g)=28.8(kg)
となる。
【0016】
これを1日間の水素発生量に換算すると、
28.8×1000(g)×22.4/1000(m3/mol)÷2(g/mol)=323(Nm3)
となる。Nはノーマルの意味で、1気圧の状態を表している。
発生した水素をエネルギー変換効率が55%の燃料電池に用いたとき、−ΔG=237.3kJ・molより、電気エネルギーは、
30/1000(mol/L/時間)×24(時間)×20000(L)÷237.3(kJ・mol)×0.55
=1897(MJ)
=521(kW・h)
となる。
【0017】
ある会社の微細藻類及び光を用いた水素発酵では、同じ条件で1日間に400L(0.4m3)の水素を発生する。その水素を上記の燃料電池に用いたときの電気エネルギーは、
22(kW)×0.4(m3)÷323(m3)=0.64(kW・h)
である。
【0018】
図4の実施例において、循環配管7,13はなくてもよい。また、バイオリアクタ3に導入するメタン原料有機物を希釈する必要のないときは、希釈水配管11を設けなくてもよい。
このように本発明によれば、有機性廃液から水素を従来よりも効率よく得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】従来の廃水処理法としての活性汚泥法の構成を示すブロック図である。
【図2】従来の廃水処理法の他の方法としてのUASB法の構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の構成を示すブロック図である。
【図4】一実施例を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0020】
1 バイオリアクタ(水素発酵部)
3 バイオリアクタ(メタン発酵部)
5 原水配管
7,13 循環配管
9,15 排出配管
11 希釈水配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素生成菌を用いて有機性廃液を嫌気性発酵して水素と二酸化炭素を含む混合ガスを発生させるとともに、前記混合ガスを系外へ除去してメタン原料有機物を生成する水素発酵部と、
前記水素発酵部とは別の槽として構成され、前記水素発酵部で処理された液が供給され、その液に含まれる前記メタン原料有機物をメタン生成菌により嫌気性発酵してメタンを含む混合ガスを発生させるメタン発酵部と、
を備えたバイオガス発生装置。
【請求項2】
前記水素発酵部で発生した混合ガスから水素を捕集する水素捕集部をさらに備えた請求項1に記載のバイオガス発生装置。
【請求項3】
前記メタン発酵部で発生した混合ガスからメタンを捕集するメタン捕集部をさらに備えた請求項1又は2に記載のバイオガス発生装置。
【請求項4】
水素発酵部を用い、水素生成菌を用いて有機性廃液を嫌気性発酵して水素と二酸化炭素を含む混合ガスを発生させて除去するとともに、前記混合ガスが除去された後のメタン原料有機物を得るステップと、
前記水素発酵部とは別の槽として構成されたメタン発酵部を用い、前記メタン原料有機物をメタン生成菌により嫌気性発酵させてメタンを含む混合ガスを発生させて回収するステップと、
を含むバイオガス発生方法。
【請求項5】
前記水素発酵部で除去した混合ガスから水素を捕集するステップをさらに含む請求項4に記載のバイオガス発生方法。
【請求項6】
前記メタン発酵部で回収した混合ガスからメタンを捕集するステップをさらに含む請求項4又は5に記載のバイオガス発生方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−80336(P2008−80336A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−275890(P2007−275890)
【出願日】平成19年10月24日(2007.10.24)
【分割の表示】特願平11−335818の分割
【原出願日】平成11年11月26日(1999.11.26)
【出願人】(591210611)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】