説明

バイオガス製造システム及びバイオガス中のアンモニアを除去する方法

【課題】メタン発酵により発生したバイオガス中に含まれるアンモニアを効率良く、確実に除去する。
【解決手段】メタン発酵によりバイオガスを発生するメタン発酵槽と、当該メタン発酵槽に接続され、当該メタン発酵槽で発生したバイオガスを送出する第1のガス導管と、当該第1のガス導管を介して上記メタン発酵槽と連結され、内部に張り込まれた溶液中に当該第1のガス導管よりバイオガスが供給される不純物吸収槽と、当該不純物吸収槽に接続され、当該不純物吸収槽内に張り込まれた溶液を通過したバイオガスを送出する第2のガス導管とを備え、上記第2のガス導管は、上記メタン発酵槽の培養液面の上方の空間部に接続され、上記不純物吸収槽から送出されたバイオガスを当該空間部に供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタン発酵により発生したバイオガス中の不純物を除去するバイオガス製造システム及び当該バイオガス中のアンモニアを除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近では地球温暖化防止の観点から、化石燃料に代わる新エネルギーの開発が進められている。その一つとして、生ゴミや活性汚泥槽から排出される余剰汚泥、さらには家畜糞尿も含めた有機系廃棄物からのメタン発酵によるサーマルリサイクルが対象とされている。このようなメタン発酵により生成されるバイオガスのエネルギー利用として、ボイラーで蒸気や温水とされ、あるいはガスエンジンやガスタービンにより電気に変換されているが、ボイラーやガスタービンの硫化水素による腐食や、消防法の排気ガス規制等の問題から、バイオガスの硫化水素濃度を10ppm以下に下げることが必要とされている。また、バイオガスのエネルギー利用として、燃料電池の水素源として利用する開発がなされているが、この場合バイオガス中の硫化水素は除去されねばならない。そのためバイオガス中の硫化水素を何らかの方法で除去する必要がある。
【0003】
このようなバイオガス中に含有される硫化水素の含有量を減少させる方法としては、例えば特許文献1を挙げることができる。特許文献1に開示されたシステムは、メタン発酵槽内で発生する硫化水素を含有するバイオガスを酸素含有気体又は酸素ガスとともに、水中でバブリングさせて硫化水素を硫黄として析出させることにより、バイオガス中の硫化水素の含有量を減少させることができる。詳細には、メタン発酵槽内で発生したバイオガスを、酸素含有気体とともに硫黄吸収槽内の溶液中にバブリングさせる。このとき、硫黄吸収槽内において、バイオガスを循環させ、硫化水素の濃度をより低減させている。また、硫黄吸収槽に処理されているバイオガスの一部を、メタン発酵槽の底部に吹き込むことで槽内の培地を撹拌している。
【0004】
しかし、特許文献1に開示されたシステムでは、バイオガス中の硫化水素を硫黄として回収する技術について非常に有効なシステムであるものの、バイオガス中に極微量に含まれているアンモニアを除去する技術とは言えない。また、アンモニアガスを吸収するシステムとしては、例えば特許文献2に開示されたシステムが挙げられる。しかしながら、特許文献2に開示されたシステムは、アンモニア含有排水のpHをアルカリ側に制御することで発生したアンモニアガスを吸収水に吸収させるといった技術である。したがって、メタン発酵による発生したバイオガスに含まれる極微量のアンモニア成分を回収するといった技術に応用できるものとは言えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−154503号公報
【特許文献2】特開2010−444号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、上述した実情に鑑み、メタン発酵により発生したバイオガス中に含まれるアンモニアを効率良く、確実に除去することができるバイオガス製造システム及びバイオガス中のアンモニアを除去する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した目的を達成するため、本発明者らが鋭意検討した結果、メタン発酵槽の空間部と不純物吸収槽との間にバイオガスを循環させることによって、不純物吸収槽内の溶液にアンモニアを回収できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
本発明は以下を包含する。
【0008】
(1)メタン発酵によりバイオガスを発生するメタン発酵槽と、当該メタン発酵槽に接続され、当該メタン発酵槽で発生したバイオガスを送出する第1のガス導管と、当該第1のガス導管を介して上記メタン発酵槽と連結され、内部に張り込まれた溶液中に当該第1のガス導管よりバイオガスが供給される不純物吸収槽と、当該不純物吸収槽に接続され、当該不純物吸収槽内に張り込まれた溶液を通過したバイオガスを送出する第2のガス導管とを備え、上記第2のガス導管は、上記メタン発酵槽の培養液面の上方の空間部に接続され、上記不純物吸収槽から送出されたバイオガスを当該空間部に供給することを特徴とするバイオガス製造システム。
【0009】
(2)上記不純物吸収槽は、上記メタン発酵槽か送出されたバイオガスに含まれる硫化水素、アンモニア及び二酸化炭素を溶液内に吸収することを特徴とする(1)記載のバイオガス製造システム。
【0010】
(3)上記第1のガス導管及び/又は上記第2のガス導管に接続され、バイオガスに対して空気を供給する空気供給管を更に備えることを特徴とする(1)記載のバイオガス製造システム。
【0011】
(4)上記不純物吸収槽内に配設され、上記第1のガス導管を介して送出されたバイオガスを、上記不純物吸収槽に張り込まれた溶液内でバブリングさせる散気手段を更に備えることを特徴とする(1)記載のバイオガス製造システム。
【0012】
(5)メタン発酵槽内の培養液面の上方の空間部からバイオガスを不純物吸収槽に張り込まれた溶液中に供給し、当該溶液を通過したバイオガスを当該メタン発酵槽内の上記空間部に供給することで当該バイオガスを循環させ、バイオガス中のアンモニアを上記溶液に吸収することを特徴とするバイオガス中のアンモニアを除去する方法。
【0013】
(6)上記不純物吸収槽では、アンモニアに加えて二酸化炭素及び硫化水素を吸収することを特徴とする(5)記載の方法。
【0014】
(7)循環するバイオガスに対して空気を供給することを特徴とする(5)記載の方法。
【0015】
(8)上記不純物吸収槽に張り込まれた溶液に対して、バイオガスをバブリングさせることを特徴とする(5)記載の方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るバイオガス製造システム及びバイオガス中のアンモニアを除去する方法によれば、バイオガス中に含まれるアンモニア等の不純物を確実に回収することができ、高品質なバイオガスを製造することができる。したがって、本発明に係るバイオガス製造システム及びバイオガス中のアンモニアを除去する方法を適用することにより、メタン発酵により発生したバイオガスから、高濃度メタンガスを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明を適用したバイオガス製造システムの一例を示す概要図である。
【図2】本発明を適用したバイオガス製造システムの他の例を示す概要図である。
【図3】実施例で使用した湿式メタン発酵装置を示す概念図である。
【図4】メタン発酵槽内の上部空間と吸収槽をガス循環させずに処理した場合のガス発生量とメタン濃度の測定結果を示す特性図である。
【図5】メタン発酵槽内の上部空間と吸収槽をガス循環させながら処理した場合のガス発生量とメタン濃度の測定結果を示す特性図である。
【図6】メタン発酵槽内の上部空間と吸収槽をガス循環させながら処理した場合の不純物吸収槽内のアンモニアイオン濃度を測定した結果を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係るバイオガス製造システム及びバイオガス中のアンモニアを除去する方法を、図面を参照して詳細に説明する。
【0019】
本発明を適用したバイオガス製造システムは、例えば図1に示すように、主としてメタン発酵槽1と不純物吸収槽2とから構成されている。メタン発酵槽1には、有機系廃棄物、あるいは有機系廃水等の有機物を含有する処理対象物を供給するための導入管3、及び被処理液抜き取りのための送出管4が配設されている。また、図1は示さないが、メタン発酵槽1には、内部に張り込まれた処理対象物を撹拌する撹拌手段を備えていても良い。撹拌手段としては、撹拌翼を有する機械攪拌装置もしくは槽内液循環装置等の処理対象物を混合できるものであれば如何なる手段でもよい。
【0020】
また、バイオガス製造システムは、メタン発酵槽1の上部に接続されメタン発酵槽1からのバイオガスを不純物吸収槽2へ排出する排出ライン5(第1のガス導管)と、不純物吸収槽2で処理したガスをメタン発酵槽1にリサイクルするためのガス循環ライン6(第2のガス導管)を備えている。排出ライン5は、排出口を不純物吸収槽2に張り込まれた溶液中に位置している。ガス循環ライン6の起端部は、不純物吸収槽2の上部に接続されている。また、ガス循環ライン6の終端部は、メタン発酵槽1に張り込まれた処理対象物の上方に形成された空間部と接続されている。さらに、ガス循環ライン6には、空気供給管7が接続されている。
【0021】
さらに、バイオガス製造システムにおいて、不純物吸収槽2には、処理したガスをホルダー等に送出するための送出管8が接続されている。また、不純物吸収槽の内部に位置する排出ライン5の先端部には、放出されるバイオガスをバブリングさせるための散気手段(図示せず)が配設されていても良い。
【0022】
以上のように構成されたバイオガス製造システムにおいて、メタン発酵槽1は、内部に張り込まれた有機系廃棄物や、有機系廃水等に含まれる有機物をメタン生成細菌等により分解してメタンや、二酸化炭素等のバイオガスを発生するメタン発酵を行なうことができる。メタン発酵槽1内で行なわれるメタン発酵は、中温メタン発酵、高温メタン発酵を問わずいずれの方法によるものであってもよい。例えば、BOD(生化学的酸素要求量)として数万ppmの液を酸化還元電位で−300〜−400mVの嫌気状態にし、51〜55℃に保つものであってもよい。このような嫌気状態により、絶対嫌気性細菌であるメタン生成細菌の活性化が図られ、有機物1kg当たり、300〜1000Lのバイオガスが生成される。
【0023】
なお、有機系廃水、有機系廃棄物とは、生ゴミや家畜糞尿、種々の食品工場の食品から廃棄される有機物を含んだ排水、大豆煮汁、有機系廃棄物や、ウィスキーや焼酎の蒸留廃液、ビール製造工程から排出されるトルーブ廃水等有機系の廃水や、廃棄物、あるいは、これらの工場から排出される有機物を活性汚泥法といわれる好気性処理により処理した余剰汚泥等いずれのものも含まれる。使用するメタン発酵槽1の形式としては、特に限定されるものではなく、ガス攪拌型リアクターに限らず機械攪拌型リアクター等からなる縦型円筒リアクター、及び横型円筒リアクターや卵形消化槽、さらにはUASB(upflow anaerobic sludge-blanket)リアクター、固定床型リアクター、流動床型リアクター等、いずれのものであっても適用することができる。
【0024】
ここで、バイオガスは、メタンとメタン以外の不純物とを含むガスである。不純物としては、硫化水素、アンモニア及び二酸化炭素を挙げることができる。これらメタンと不純物の含有割合は、特に限定されず、如何なる割合で含まれていても良い。このようなバイオガスの発生量や、バイオガス中のメタンや不純物の含有量の測定は、半導体センサー、固体電解質センサー、絶縁体センサー、圧電体センサー、接触燃焼式センサー、光学式センサー、電気化学式センサー等いずれのガスセンサーによって行なわれてもよく、ガスクロマトグラフィーあるいは、ガス検知管により測定してもよい。但し、メタン発酵により発生したバイオガス中に含まれる不純物のなかでも、特にアンモニアは極微量であり、これらセンサーによる検出限界以下の濃度で含まれる場合もある。
【0025】
メタン発酵槽1で発生したバイオガスは、排出ライン5を介して不純物吸収槽2内に入り込まれた溶液中に排出される。排出ライン5の先端部に散気手段を配設した場合には、バイオガスを溶液中にバブリングすることができる。なお、バブリングとは、溶液中に気体を放出して、多数の気泡を形成させることをいう。気泡は水中を徐々に上昇し、上方の気液界面を経て、空間に到達する。なお、不純物吸収槽2に張り込まれる溶液としては、バイオガス中に含まれる不純物、特にアンモニアを吸収できる溶液であれば特に限定されないが、例えば水を使用することができる。不純物吸収槽2に張り込まれる水は、河川水、湖沼水、水道水、地下水あるいは工業用水であってよい。水はバッチ的に入れ替えても、連続的に入れ替えても、入れ替えることなく連続的に使用してもかまわない。
【0026】
不純物吸収槽2内の溶液を通過したバイオガスは、ガス循環ライン6を介してメタン発酵槽1に供給される。このとき、ガス循環ライン6の終端部は、メタン発酵槽1に張り込まれた処理対象物の上方に形成された空間部と接続されているため、バイオガスは当該空間部に供給されることとなる。このとき、ガス循環ライン6に接続された空気供給管7から所定量の空気を混合するようにして、バイオガスを当該空間部に供給することができる。当該空間部に供給されたバイオガスは、メタン発酵により発生したバイオガスと共に排出ライン5を介して不純物吸収槽2内の溶液へと再び排出される。
【0027】
このように、本バイオガス製造システムによれば、メタン発酵槽1にて発生したバイオガスを、排出ライン5、不純物吸収槽2内に入り込まれた溶液、ガス循環ライン6、上記空間部といった順に循環させることができる。本バイオガス製造システムでは、バイオガスをこのように循環させることにより、バイオガスに含まれる極微量のアンモニアをアンモニウムイオンとして不純物吸収槽2内の溶液に吸収することができる。また、同時に、バイオガスに含まれる二酸化炭素も不純物吸収槽2内の溶液に吸収することができる。不純物吸収槽2内の溶液に吸収された不純物は、その濃度を高くし、槽内の溶液を取りかえる等によりバイオガス製造システムから取り除くことができる。
【0028】
このとき、空気供給管7から供給する空気量は、バイオガスに対して例えば1〜8%(体積比)が好ましい。上記範囲で空気をバイオガスに供給することで、上述のように循環するバイオガスの流量を大きくすることができ、バイオガスに含まれるアンモニア等の不純物の除去効率を高くすることができる。なお、本バイオガス製造システムにおいては、上述のようにバイオガスを循環させているため、上記範囲のように供給する空気量が少なくても十分なガス流量を維持することができる。なお、空気供給管7から供給する空気は、バイオガスに対して間欠的に供給されても良いし、バイオガスに対して連続的に供給しても良い。
【0029】
特に、本バイオガス製造システムでは、不純物吸収槽2内の溶液を通過したバイオガスを、メタン発酵槽1内の処理対象物内ではなく、空間部に供給することで循環流路を形成している。通常、メタン発酵槽1内におけるメタン発酵は嫌気性微生物(群)が関与している。バイオガスに空気を送り込むなどして酸素を含む場合、処理対象物内に酸素を含有するバイオガスを供給すると嫌気性微生物によるメタン発酵が阻害される虞がある。しかしながら、本バイオガス製造システムによれば、メタン発酵槽1内の空間部をバイオガスの循環路とするため、嫌気性微生物の生育やメタン発酵効率を高く維持することができる。
【0030】
また、本バイオガス製造システムでは、バイオガスの循環流路がメタン発酵槽1内の処理対象物を通過しないような構成となっている。このため、本バイオガス製造システムは、バイオガスをメタン発酵槽1内の処理対象物に通過させるように循環流路を形成した場合と比較して、簡易な装置構成でバイオガスの循環流路を形成することができる。また、バイオガスをメタン発酵槽1内の処理対象物に通過させるように循環流路を形成した場合には、処理対象物内にバイオガスを供給する部分の目詰まりといった問題が生ずる。本バイオガス製造システムでは、バイオガスをメタン発酵槽1内の処理対象物に通過させないため、このような目詰まりといった問題を回避することができる。
【0031】
ところで、本発明に係るバイオガス製造システム及びバイオガス中のアンモニアを除去する方法は、図1に示したバイオガス製造システムに限定されるものではない。本発明を適用したバイオガス製造システムは、図2に示すように、不純物吸収槽2内部に酸素含有ガスを供給する構成であっても良い。なお、図2に示すバイオガス製造システムにおいて、図1に示したバイオガス製造システムと同じ構成については同じ符号を付すことにより、その詳細な説明を省略する。
【0032】
図2に示すバイオガス製造システムは、不純物吸収槽2に空気などの酸素含有ガスを供給する管路9と、送出管8の中途部から分岐して管路9に連結された導入ライン10とを備える。図2に示したバイオガス製造システムにおいても、図1に示したバイオガス製造システムと同様にバイオガス中に含まれるアンモニアを効率良く除去することができる。これに加えて、図2に示したバイオガス製造システムによれば、特開2005−154503号公報に詳細に記載されたメカニズムにより、バイオガスに含まれる硫化水素を不純物吸収槽2内で除去することができる。
【0033】
図2に示したバイオガス製造システムにおいて、排出ライン5から溶液内に導入されたバイオガスが溶液を通過した後、バイオガスの少なくとも一部が送出管8、導入ライン10及び管路9を介して再び溶液内に導入される。このように、バイオガスの少なくとも一部が不純物吸収槽2に張り込まれた溶液内を循環する。このとき、不純物吸収槽2に張り込まれた溶液に酸素含有ガスが供給されることによって、溶液中で下記(1)式に従って反応が進行する。
【0034】
HS+1/2O → HO+S …… (1)
【0035】
これにより、バイオガスに含まれる硫化水素は、硫黄として溶液内に析出することとなる。特に、上述のようにバイオガスの一部を溶液内に循環させることにより、バイオガスの溶液内における滞留時間を上げることができ、より効率良く硫化水素を除去することができる。このように、図2に示すバイオガス製造システムによれば、上述したようにバイオガス中に含まれるアンモニアのみならず硫化水素も除去することができる。以上のように、本バイオガス製造システムによれば、硫化水素を構成する硫黄成分を固体硫黄として回収することができる。この固体硫黄は水中に分散しているため、定期的に液を取りだし、ろ過、あるいは遠心分離等の方法により硫黄を処理水から分離し、回収することができる。水として純度の良い水を用いた場合、回収された硫黄は純度が高いため、硫黄から他の硫化物、あるいは硫酸、硫酸塩を製造するための原料として使用することができる。
【0036】
なお、アンモニアや硫化水素等の不純物を除去したバイオガスは、送出管8から排出され、次工程に供給される。送出管8からの処理済バイオガスの排出は、不純物吸収槽2の上部貯蔵ガス中の硫化水素濃度やアンモニア濃度をモニターし、これら濃度が規定の濃度以下になったとき、図示していないバルブを開いて排出するようにプログラムされていることが好ましい。また、これらバイオガス中の不純物濃度は、不純物吸収槽2に張り込まれた溶液に含まれるアンモニウムイオン濃度や析出した硫黄量から算出しても良い。すなわち、当該溶液中のアンモニウムイオン濃度や硫黄量が規定の値以上となったとき、バイオガス中の不純物が十分に除去されたと判断し、バイオガスを外部へ排出することができる。
【0037】
送出管8から排出されたバイオガスは、例えばPSA方式(プレッシャースイング吸着方式)によるガス精製分離装置に供給され、より高品質のガスとして精製することもできる。また、送出管8から排出されたバイオガスは、アンモニアや二酸化炭素、硫化水素等の不純物が除去されているため、そのままガスエンジン等の燃料として使用されても良い。
【0038】
なお、図1及び2に示したバイオガス製造システムでは、不純物吸収槽2を1槽として示したが、複数槽として不純物吸収槽2を構成しても良い。この場合、アンモニアや硫化水素等の不純物の除去能力を大幅に向上させることができる。複数の不純物吸収槽2を設けるとバイオガスの処理量、あるいは処理速度を増加することができる。また、複数の不純物吸収槽2を交互に用いることにより運転中の槽の掃除が容易になり、連続運転が可能になる。また、運転中トラブルが発生してもバイオガスを導入する槽を切り替えることにより運転の緊急停止の事態を避けることができる。
【0039】
同様に、図1及び2に示したバイオガス製造システムでは、メタン発酵槽1を1槽として示したが、複数槽のメタン発酵槽1を備える構成でもよい。複数のメタン発酵槽1を備えることにより、バイオガスの発生量を増加させることでシステム全体におけるバイオガスの生産性を向上させることできる。なお、複数のメタン発酵槽1を備える場合、不純物吸収槽2は同数であっても良いし、メタン発酵槽1と異なる数であっても良い。
【実施例】
【0040】
以下、実施例により本発明に係るバイオガス製造システム及びバイオガス中のアンモニアを除去する方法をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【0041】
〔実施例1〕
本実施例では、残飯及び蒸留廃液を用いて湿式メタン発酵を行い、発生ガスに含まれるアンモニアと硫化水素を除去し、効率的かつ低コストな湿式メタン発酵プロセスを検討した。
【0042】
試験方法
試験材料として残飯及び蒸留廃液を使用し、中温嫌気性消化汚泥を用いた高温メタン発酵を行った。試験で使用した残飯及び蒸留廃液の組成を表1に示す。使用した残飯は、タンパク質濃度が高く、C/N比が14.2であった。
【0043】
【表1】

【0044】
本実施例で使用した湿式メタン発酵装置の概念図を図3に示した。メタン発酵槽は機械攪拌型で実容積8Lである。また、発酵温度は53℃に制御した。発酵槽の後段に吸収槽を設けるとともに発生するバイオガスを電磁流量計で測定し、そのバイオガス量に対して空気をメタン発酵槽に自動供給(発生するバイオガスに対して8%)できるようにした。また、メタン発酵槽内の上部空間と吸収槽をガス循環し、硫化水素の酸化だけでなく、アンモニアを吸収槽で吸収できるようにした。
【0045】
分析方法
〔アンモニウムイオン(NH4+−N)〕
測定するサンプルを遠心分離(4℃、1000rpm、10min)し、0.45μmメンブレンフィルター(ADANTEC TOYO)を用いてろ過した後、希釈して測定した。測定には日本ダイオネクス株式会社製イオンクロマトグラム(型番:ICS−1500)、記録・分析には同社ソフトウエアChromeleon(Ver.6.80 SP2)を使用した。分析条件は、以下の通り。
使用カラム: CG20A、CS20A
カラム温度:35℃
使用サプレッサ:ASRS_4mm
サプレッサ電流:60mA
溶離液:20mM、メタンスルホン酸溶液
溶離液流量:1ml/min
注入サンプル量:25μl
〔硫化水素(HS)、アンモニア(NH)〕
硫化水素、アンモニアの測定には、光明理化学工業株式会社製の北川式ガス検知管を使用した。
【0046】
結果
図3に示した湿式メタン発酵装置において、メタン発酵槽内の上部空間と吸収槽をガス循環させずに処理した場合の、冷却管後におけるガス発生量とメタン濃度の測定結果を図4に示した。図4に示すように、この場合のメタン含量は50%程度に留まっていた。これは、培養液中のアンモニアイオンが高くなりメタン発酵が阻害されると考えられる。
【0047】
また、図3に示した湿式メタン発酵装置において、メタン発酵槽内の上部空間と吸収槽をガス循環させながら処理した場合のガス発生量とメタン濃度の測定結果を図5に示した。図5に示したように、メタン含量は80%と顕著に向上した。さらに、発生ガス中にH2S、NH3は全く検出されず、H2S及びNH3は脱硫水槽内に効率良く回収することができた。二酸化炭素について、一般的なバイオガス中では60%程度であるが、二酸化炭素が不純物吸収槽内で吸収されることにより、メタン含量が80%と高濃度に至ったと推される。
【0048】
さらに、図3に示した湿式メタン発酵装置において、メタン発酵槽内の上部空間と吸収槽をガス循環させながら処理した場合の不純物吸収槽内のアンモニアイオン濃度を測定した結果を図6に示した。図6に示したように、不純物吸収槽内のアンモニアイオンは2000mg/l以下に抑えられることが明らかとなった。
【0049】
以上の結果より、メタン発酵槽内の上部空間と吸収槽をガス循環させながら処理した場合、バイオガス中のメタン含量を大幅に向上させ、かつアンモニアだけでなく、硫化水素も除去できることが明らかとなった。
【符号の説明】
【0050】
1…メタン発酵槽、2…不純物吸収槽、3…処理対象物導入管、4…送出管、5…排出ライン、6…ガス循環ライン、7…空気供給管、8…送出管、9…管路、10…導入ライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタン発酵によりバイオガスを発生するメタン発酵槽と、
当該メタン発酵槽に接続され、当該メタン発酵槽で発生したバイオガスを送出する第1のガス導管と、
当該第1のガス導管を介して上記メタン発酵槽と連結され、内部に張り込まれた溶液中に当該第1のガス導管よりバイオガスが供給される不純物吸収槽と、
当該不純物吸収槽に接続され、当該不純物吸収槽内に張り込まれた溶液を通過したバイオガスを送出する第2のガス導管とを備え、
上記第2のガス導管は、上記メタン発酵槽の培養液面の上方の空間部に接続され、上記不純物吸収槽から送出されたバイオガスを当該空間部に供給することを特徴とするバイオガス製造システム。
【請求項2】
上記不純物吸収槽は、上記メタン発酵槽か送出されたバイオガスに含まれる硫化水素、アンモニア及び二酸化炭素を溶液内に吸収することを特徴とする請求項1記載のバイオガス製造システム。
【請求項3】
上記第1のガス導管及び/又は上記第2のガス導管に接続され、バイオガスに対して空気を供給する空気供給管を更に備えることを特徴とする請求項1記載のバイオガス製造システム。
【請求項4】
上記不純物吸収槽内に配設され、上記第1のガス導管を介して送出されたバイオガスを、上記不純物吸収槽に張り込まれた溶液内でバブリングさせる散気手段を更に備えることを特徴とする請求項1記載のバイオガス製造システム。
【請求項5】
メタン発酵槽内の培養液面の上方の空間部からバイオガスを不純物吸収槽に張り込まれた溶液中に供給し、当該溶液を通過したバイオガスを当該メタン発酵槽内の上記空間部に供給することで当該バイオガスを循環させ、バイオガス中のアンモニアを上記溶液に吸収することを特徴とするバイオガス中のアンモニアを除去する方法。
【請求項6】
上記不純物吸収槽では、アンモニアに加えて二酸化炭素及び硫化水素を吸収することを特徴とする請求項5記載の方法。
【請求項7】
循環するバイオガスに対して空気を供給することを特徴とする請求項5記載の方法。
【請求項8】
上記不純物吸収槽に張り込まれた溶液に対して、バイオガスをバブリングさせることを特徴とする請求項5記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−101139(P2012−101139A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−248985(P2010−248985)
【出願日】平成22年11月5日(2010.11.5)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 刊行物 :第62回日本生物工学会大会 講演要旨集 発行所 :社団法人日本生物工学会 発行日 :平成22年9月25日 講演日 :平成22年10月29日 講演番号:3P−2048
【出願人】(000220262)東京瓦斯株式会社 (1,166)
【出願人】(504159235)国立大学法人 熊本大学 (314)
【Fターム(参考)】