説明

バイオゲル

バイオゲル、バイオゲルを形成させるためのキット、薬物、および方法を記載する。バイオゲルは、止血、創傷封止、組織工学または局所的薬物送達などの種々の用途に用いることができる。本発明によれば、複数の担体、各担体に固定化される複数のフィブリノーゲン結合部分;フィブリノーゲンの各分子が少なくとも2つのフィブリノーゲン結合部分に結合することができるフィブリノーゲンを含むバイオゲルキット(即ち、バイオゲルを形成させるためのキット)が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオゲル、並びにバイオゲルを形成させるためのキット、薬物、および方法に関する。好ましい局面では、バイオゲルは組織接着剤である。バイオゲルまたは組織接着剤は、止血、創傷封止、組織工学または局所的薬物送達を含む種々の用途に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
凝固過程において、フィブリノーゲンは、トロンビンによってフィブリンへと変換される。フィブリノーゲンは、ジスルフィド結合によって互いに連結された3種の鎖(α、β、およびγ)の2セットを含む。これらの鎖は一緒になって、2つの遠位球状ドメイン(Dドメイン)に接続した中心球状ドメイン(Eドメイン)を形成する。トロンビンは、フィブリノーゲンの中心Eドメインに含まれる4つのアルギニン−グリシンペプチド結合を切断し、2つのα鎖の各々からAペプチドを放出し、2つのβ鎖の各々からBペプチドを放出する。AペプチドおよびBペプチドは、フィブリノペプチドと称される。これらのフィブリノペプチドを欠損しているフィブリノーゲン分子は、フィブリンモノマーと呼ばれる。フィブリンモノマーは、フィブリンと呼ばれる規則的な線維性の配列で自然に集合する。フィブリンは、フィブリンファイバーに含まれる異なる分子の側鎖間で共有結合的な架橋の形成によって安定化される。第XIIIa因子によって触媒されるアミノ基転移反応において、特定のグルタミンとリジンとの間でペプチド結合が形成される。
【0003】
活性化されると、血小板も血液凝固の必須部分を形成する。血小板は、露出した創傷表面に接着し、活性化されるようになる。血小板の膜糖タンパク質であるGPIIb/IIIaは、立体構造の変化を受け、フィブリノーゲンに結合し得る。フィブリノーゲンは、1を超える血小板に結合することができ、その結果、血小板は互いに凝集する。血小板凝集体は、フィブリンのメッシュ内で形成される凝血塊の基本構造を形成する。
【0004】
フィブリン組織接着剤(FTA)は、凝固カスケードの最終段階を模倣することによって形成される製造品に与えられた名称であり、フィブリン血栓塊を形成する。市販のFTAキットは、止血用、薬物送達用、並びに外科用接着剤(glue)、および組織封止剤として用いられる強力な生分解性ゲルを速やかに生み出す。フィブリノーゲン、第XIII因子、トロンビン、およびカルシウムイオンは、典型的には、貯蔵中に、フィブリノーゲンと第XIII因子とをカルシウムイオンとトロンビンとから分離するシリンジデバイスによって到達される。シリンジから送り出している最中に化合物を混合すると、フィブリノーゲンのトロンビン分解(thrombinolysis)が起こり、フィブリンが生じ、これは、カルシウムイオンにより活性化される第XIII因子によって後に架橋されるゲル内に自己集合する。しかしながら、多くのFTAは、患者のアナフィラキシー反応および自己免疫反応を誘導する場合があるウシトロンビンを利用する。
【0005】
Zhangら(非特許文献1)は、リポソームからカルシウムイオンの光活性化放出によるフィブリノーゲン系のハイドロゲルの形成、その後のトランスグルタミナーゼ触媒のフィブリノーゲンの架橋の活性化を記載する。しかしながら、これらのハイドロゲルの形成を困難にし、リポソームと第XIII因子の個別の製剤化を必要とする。
【0006】
Hidasら(非特許文献2)は、縫合なしの腎保存手術におけるアルブミングルタールアルデヒド組織接着剤の使用を記載する。ウシ血清アルブミンとグルタールアルデヒドを混合した。グルタールアルデヒド曝露によって、ウシ血清アルブミンのリジン分子、細胞外マトリックスタンパク質、および細胞表面が互いに結合されるようになり、強力な共有結合が生じる。しかしながら、この接着剤の欠点は、グルタールアルデヒドが毒性であり、ウシ血清アルブミンが患者のアレルギー反応を誘導し得るという危険性があるということである。
【0007】
したがって、毒性薬物の使用を必要とせず、アレルギー反応の危険性を最小限にし、安定条件で容易に保存可能である成分から製造し易いゲルまたは組織接着剤を提供することが必要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Bioconjugate Chem.2002(13):640−646
【非特許文献2】Urology 67(4),2006:697−700
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、複数の担体、各担体に固定化される複数のフィブリノーゲン結合部分;フィブリノーゲンの各分子が少なくとも2つのフィブリノーゲン結合部分に結合することができるフィブリノーゲンを含むバイオゲルキット(即ち、バイオゲルを形成させるためのキット)が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図式的に示す:(a)担体に固定化された複数のフィブリノーゲン結合ペプチドを有するアルブミン担体;(b)フィブリノーゲン分子;(c)フィブリノーゲン分子がフィブリノーゲン結合ペプチドとフィブリノーゲン分子との間の非共有結合によって担体を介して互いに連結されているバイオゲル。
【図2】32mg/ml、20℃(A)および37℃(B)で25μlのペプチド修飾されたHSAおよびフィブリノーゲンの混合物におけるひずみ率に対する貯蔵モジュール(四角)および喪失モジュール(三角)のプロットを示す。
【図3】32mg/mlのフィブリノーゲンと混合されたペプチド修飾されたHSAの25μlに対する20℃の貯蔵モジュール(四角)および複素粘度(三角)対振動数を示す(1%のひずみ振幅を有する)。
【図4】ペプチド修飾されたHSAの添加前(a)および添加後(b)のフィブリノーゲン溶液の写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
用語「バイオゲル」とは、本明細書において、天然または組換えの生物学的分子(もしくは化学的に合成された生物学的分子)であるか、あるいは生物学的分子(例えば、生物学的分子の1以上の機能を保持する誘導体)から誘導される1以上の成分を含むゲルが含まれるように用いられる。
【0012】
バイオゲルは、フィブリノーゲンと担体とを接触させることによって形成することができる。複数のフィブリノーゲン結合部分が各担体に固定化され、各フィブリノーゲン分子が少なくとも2つのフィブリノーゲン部分に結合することができるため、フィブリノーゲン分子は、担体を介して互いに連結されるようになる。フィブリノーゲン分子とフィブリノーゲン結合部分との間に非共有結合が形成される。
【0013】
したがって、本発明によれば、フィブリノーゲン分子と複数の担体とを接触させることを含む、バイオゲルを形成させるための方法も提供され、ここで、各担体は、その担体に固定化された複数のフィブリノーゲン結合部分を有し、フィブリノーゲンの各分子は、少なくとも2つのフィブリノーゲン結合部分に結合することができ、その結果、フィブリノーゲン分子は共に、フィブリノーゲン結合部分とフィブリノーゲン分子との間に非共有結合の形成によって担体を介して連結されるようになる。
【0014】
さらに、本発明によれば、フィブリノーゲン分子と複数の担体を含むバイオゲルが提供され、ここで、各担体は、その担体に固定化された複数のフィブリノーゲン結合部分を有し、フィブリノーゲンの各分子は、少なくとも2つのフィブリノーゲン分子部分に結合し、その結果、フィブリノーゲン分子は共に、フィブリノーゲン結合部分とフィブリノーゲン分子との間に非共有結合によって担体を介して連結される。
【0015】
フィブリノーゲン結合部分の代わりに、担体は、各担体に固定化された複数のフィブリノーゲン結合前駆体を有してもよく、ここで、各フィブリノーゲン結合前駆体は、フィブリノーゲン結合部分に変換され得る。このような担体を用いてバイオゲルを形成するためには、フィブリノーゲン結合前駆体をフィブリノーゲン結合部分に変換させることが必要であり、その結果、フィブリノーゲン結合部分がフィブリノーゲン部分に結合することができる。
【0016】
したがって、本発明によれば、複数の担体、各担体に固定化された複数のフィブリノーゲン結合前駆体であって、各フィブリノーゲン結合前駆体はフィブリノーゲン結合部分に変換されることができる前駆体;フィブリノーゲンであって、フィブリノーゲンの各分子は少なくとも2つのフィブリノーゲン結合部分に結合することができるフィブリノーゲンを含むバイオゲルキット(即ち、バイオゲルを形成するキット)も提供される。
【0017】
さらに、本発明によれば、バイオゲルを形成させるための方法であって、各担体がその担体に固定化された複数のフィブリノーゲン結合前駆体を含む複数の担体を用意し;フィブリノーゲン結合前駆体をフィブリノーゲン結合部分に変換し;フィブリノーゲンの各分子が少なくとも2つのフィブリノーゲン結合部分に結合することができるフィブリノーゲン分子とフィブリノーゲン結合部分とを接触させることを含み、その結果、フィブリノーゲン分子が共にフィブリノーゲン結合部分とフィブリノーゲン分子との間に非共有結合の形成によって担体を介して連結するようになる。
【0018】
本発明のバイオゲルは、組織基質に接着することができる必要はない。しかしながら、好ましい局面では、本発明のバイオゲルは、組織接着剤である。用語「組織接着剤」とは、本明細書において、組織基質、例えば、皮膚、または粘膜表面に接着することができる基質を意味するものとして用いられる。本発明のバイオゲルまたは組織接着剤は、止血用、封止剤として、組織工学用(例えば、支持体として)、または局所的薬物送達用に用いられてもよい。
【0019】
担体は、可溶性または不溶性担体であってもよいが、血小板ではない。担体は、対象の組織部位、例えば、出血創傷部位、または粘膜部位への局所投与に適していなければならない。可溶性担体は、局所投与よりはむしろ静脈に適していてもよい。担体は、可溶性もしくは不溶性タンパク質、治療薬、ポリマー(例えば、ポリエチレングリコールなどの生体適合性ポリマー)、またはこれらのいずれかの組み合わせを含んでもよい。
【0020】
タンパク質担体の例には、酵素または酵素ではないタンパク質、例えばヒト血清アルブミンが挙げられる。
【0021】
不溶性担体は、微粒子(固体、中空、または多孔性微粒子、好ましくは実質的に球状の微粒子を含む)であってもよい。微粒子は、任意の適切な基質、例えば架橋されたタンパク質で形成されてもよい。適切なタンパク質は、アルブミン(順に血清由来または組換え、ヒトまたは非ヒト)である。本発明における不溶性担体としての使用に適した微粒子は、例えば国際公開第WO92/18164号に記載される周知の噴霧乾燥技術を用いてヒト血清アルブミンを噴霧乾燥させることによって形成されてもよい。
【0022】
担体としての微粒子の使用に代えて、リポソーム、合成ポリマー粒子(例えば、ポリ乳酸、ポリグリコール酸およびポリ(乳酸/グリコール酸))、または細胞膜画分が含まれる。
【0023】
用語「フィブリノーゲン」とは、本明細書において、天然のフィブリノーゲン、組換えフィブリノーゲン、またはトロンビンによってフィブリン(例えば、天然もしくは組換えフィブリンモノマー、または自然集合することができてもよいかもしくはできなくてもよいフィブリンモノマーの誘導体)を形成するように変換され得るフィブリノーゲンの誘導体を含むように用いられる。フィブリノーゲンは、少なくとも2つのフィブリノーゲン結合部分に結合することができなければならない。フィブリノーゲンは、任意の供給源、任意の種(ウシフィブリノーゲンを含む)から得ることができるが、好ましくはヒトフィブリノーゲンである。ヒトフィブリノーゲンは、自己またはドナーの血液から得てもよい。自己のフィブリノーゲンが好ましく、それは、本発明のバイオゲル(または接着剤)が対象に投与された場合の感染の危険性を減らすためである。
【0024】
好ましくは、フィブリノーゲン結合部分はフィブリノーゲンに結合し、解離定数(K)は10−9〜10−6Mであり、例えば、約10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、200、250、300、350、400nMまたはそれらを超える。約100nMのKが好ましい。解離定数は、平衡状態で測定され得る。例えば、既知濃度の放射性標識されたフィブリノーゲンは、フィブリノーゲン結合部分が架橋されたマイクロスフェアとともにインキュベートされ得る。典型的には、5μMのペプチドを1gmのマイクロスフェアに架橋し、または、15〜40μmolのペプチドを1gmのマイクロスフェアに架橋する。ペプチドを連結したマイクロスフェアは、0.5mg/mlに希釈され、pH7.4の等張バッファー(例えば、0.15M NaClを含む0.01M Hepes)中で、0.05〜0.5mg/mlの濃度の放射性標識されたフィブリノーゲンとともに最大1時間20℃でインキュベートされる。マイクロスフェア上のフィブリノーゲン結合部分に結合されたフィブリノーゲンは、遠心分離によって遊離フィブリノーゲンから分離することができ、遊離フィブリノーゲンと結合フィブリノーゲンの量を測定することができる。次に、解離定数は、結合フィブリノーゲン:遊離フィブリノーゲンの濃度比に対して、結合フィブリノーゲンの濃度をプロットすることにより、スキャッチャード分析によって計算することができ、この場合、曲線の傾きがKを表す。
【0025】
本発明のある態様では、フィブリノーゲン結合部分は、フィブリノーゲンに選択的に結合することが好ましい。他の態様では、フィブリノーゲン結合部分がフィブリノーゲンに結合し、別々にフィブリンモノマーおよび/またはフィブリンに結合し得ることが好ましい。フィブリノーゲンおよびフィブリンモノマーおよび/またはフィブリンへの結合は、好ましくは選択的である。
【0026】
好ましくは、フィブリノーゲン結合部分は、フィブリノーゲン結合ペプチドまたはペプチド類似体である。任意の適切なフィブリノーゲン結合ペプチドを用いてもよい。例えば、ペプチドは、自然にまたは血小板の膜糖タンパク質であるGPIIb−IIIaによってフィブリンに結合されるフィブリノーゲンの領域に結合することができてもよい。フィブリノーゲンへのフィブリン結合は、Mosessonら,2001,Ann.N.Y.Acad.Sci.,936,11−30において検討されている。GPIIb−IIIaのフィブリノーゲンへの結合は、Bennett,2001,Annals of NY Acad.Sci.,936,340−354において検討されている。
【0027】
ペプチドは、フィブリノーゲンのα−鎖のカルボキシおよび/またはアミノ末端ドメインに結合することができてもよい。特に、ペプチドは、これらのドメインの1つまたは両方のRGD含有モチーフ(例えば、アミノ酸95〜98のRGDF(配列番号1)、またはアミノ酸572〜575のRGDS(配列番号2))に結合することができてもよい。ペプチドは、フィブリノーゲンのγ−鎖のカルボキシ末端ドメイン、好ましくはこのドメインの最後の12個のアミノ酸(配列HHLGGAKQAGDV(配列番号3))に結合することができてもよい。ペプチドは、フィブリノーゲンのγ−鎖のD−ドメイン、例えば、D−ドメインのβ−鎖セグメントに結合することができてもよい。
【0028】
フィブリノーゲン結合ペプチドは、GPIIbまたはGPIIIaのフィブリノーゲン結合領域由来の配列を含んでもよい。例えば、ペプチドは、GPIIbのアミノ酸残基294〜314の配列に対応する配列AVTDVNGDGRHDLLVGAPLYM(配列番号4)、またはフィブリノーゲン結合活性を保持するその断片もしくは誘導体を含んでもよい。フィブリノーゲン結合活性を保持することが知られている断片は、TDVNGDGRHDL(296〜306)(配列番号5)、GDGRHDLLVGAPL(300〜312)(配列番号6)、およびGAPL(配列番号7)である。TDVNGDGRHDLの適切な誘導体には、T(D,E)VNG(D,E)GRH(D,E)L(配列番号8);TD(V,L)NGDGRHDL(配列番号9);TDV(N,Q)GDGRHDL(配列番号10);TDVNGDG(R,K)HDL(配列番号11)が含まれる。
【0029】
フィブリノーゲン結合ペプチドは、GPIIIaの残基95〜223の配列、またはフィブリノーゲン結合活性を保持するその断片もしくは誘導体を含んでもよい。例えば、残基211〜222は、配列SVSRNRDAPEGG(配列番号12)を含み、GPIIIaに含まれる重要なフィブリノーゲン結合ドメインであると考えられている。GPIIIaの他の適切な領域は、残基109〜171および164〜202を含む。
【0030】
フィブリノーゲン結合ペプチドは、トロンビンの作用によって、フィブリノーゲンに露出されるようになり、フィブリンを生産するための重合反応における第1段階としてフィブリノーゲンに結合する残基の配列を含んでもよい。トロンビンは、フィブリノーゲンのα鎖およびβ鎖のN末端からペプチド(フィブリノペプチドAおよびBを放出する)を切断し、それぞれ配列NH−GPR−(配列番号13)およびNH−GHR−(配列番号14)を露出する。したがって、フィブリノーゲン結合ペプチドの好ましい例には、アミノ末端のアミノ酸配列NH−G(P,H)RX−(配列番号15)を含み、この場合、Xは任意のアミノ酸であり、(P,H)はプロリンまたはヒスチジンのいずれかがその位置に存在することを意味する。好ましくは、ペプチドは、アミノ末端の配列NH−GPRP−(配列番号16)を含む。
【0031】
好ましくは、フィブリノーゲン結合ペプチドは、長さにして4〜30個、より好ましくは4〜10個のアミノ酸残基である。
【0032】
フィブリノーゲン結合前駆体は、担体がフィブリノーゲンと接触すると、フィブリノーゲン分子は共に、固定化されたフィブリノーゲン結合前駆体を有する担体を介して連結されるようになるようにフィブリノーゲンに結合しなくてもよい。好ましくは、フィブリノーゲンに対するフィブリノーゲン結合前駆体の解離定数は、1×10Mより大きい。フィブリノーゲン結合前駆体は、ペプチドまたはペプチド類似体であってもよいが、好ましくはペプチドである。フィブリノーゲン結合前駆体は、フィブリノーゲンでなくてもよく、フィブリノーゲンを含まなくてもよい。
【0033】
本発明の好ましい態様では、フィブリノーゲン結合前駆体は、フィブリノーゲン結合ペプチドへのフィブリノーゲンの結合をブロックまたは阻害(即ち、低下)させるブロッキング成分(好ましくはペプチド)に、アミノ末端で接続されたフィブリノーゲン結合ペプチドを含む。変換剤(好ましくは、トロンビンなどの凝固因子)によるフィブリノーゲン結合前駆体の切断は、担体に結合されたフィブリノーゲン結合ペプチドを露出させ、それによって、フィブリノーゲン結合前駆体がフィブリノーゲン結合部分に変換される。このような態様では、ブロッキング成分は、切断が起こるまでフィブリノーゲンに結合するフィブリノーゲン結合ペプチドの能力をブロックまたは阻害する。好ましくは、ブロッキング成分は、長さにして1〜30個のアミノ酸残基のペプチドである。
【0034】
このような態様では、フィブリノーゲン結合前駆体は、変換剤によって特異的に認識され、フィブリノーゲン結合ペプチドとブロッキング成分との間に位置される切断部位を含まなければならないことは認識される。トロンビンが好ましい変換剤である。しかしながら、他のセリンプロテアーゼまたは凝固因子を用いて、フィブリノーゲン結合前駆体を切断してもよい。トロンビンは、アルギニン残基に対してカルボキシ末端側のペプチド結合であって、通常、アルギニンとグリシン残基との間で切断することが知られている。
【0035】
本発明の特に好ましい態様では、フィブリノーゲン結合前駆体は、アミノ末端でアミノ酸配列NH−ZYXR/GPRP−(配列番号17)を含むペプチドであり、この場合、「/」はトロンビン切断部位を表し、Xは任意のアミノ酸であるが、好ましくはプロリンであり、Yは任意のアミノ酸であるが、好ましくはアスパラギン酸またはアラニンであり、Zは少なくとも1つのアミノ酸であり、好ましくはロイシンまたはプロリンである。例えば、NH−LVPR/GPRP−(配列番号18)、NH−ADPR/GPRP−(配列番号19)、NH−LDPR/GPRP−(配列番号20)、またはNH−LVPR/GPRV−(配列番号21)が挙げられる。
【0036】
フィブリノーゲン結合部分または前駆体は、任意の適切な手段によって担体に結合させることができるが、典型的には共有結合である。好ましい共有結合の例としては、ジスルフィド結合、チオエーテル結合、またはアミド結合である。適切な共有結合は、フィブリノーゲン結合部分または前駆体がシステインを含むペプチドであり、担体がチオール反応基を含む場合に形成され得る。これは、担体上のチオール反応基にシステインの−SH基を連結させることによって担体にペプチドを結合させることできる。好ましくは、末端システイン基は、フィブリノーゲン結合ペプチドまたは前駆体ペプチドに導入されて、担体上のチオール反応基を用いてペプチドを架橋する。あるいは、フィブリノーゲン結合部分または前駆体がマレイミド基(好ましくは、そのカルボキシ末端で、例えば、ペプチドのカルボキシ末端のリジンに結合させて)を含むペプチドであり、担体がスルフヒドリル基を含む場合に共有結合が形成され得る。次に、ペプチドは、ペプチドのマレイミド基と担体のスルフヒドリル基とを反応させることによって担体に結合され得る。
【0037】
典型的には、フィブリノーゲン結合部分のフィブリノーゲン結合活性(必要であればフィブリノーゲン結合前駆体から一度変換される)が担体によって悪影響を及ぼさないことを確保するために、フィブリノーゲン結合部分または前駆体と担体との間にスペーサーを必要とする。適切なスペーサーは、ペプチドであるかまたはポリエチレングリコールなどの非ペプチドである。
【0038】
フィブリノーゲン結合部分または前駆体は、フィブリノーゲン結合ペプチドを含むペプチドであり、この部分または前駆体は末端のアミノ酸残基によって不溶性担体に結合される場合、スペーサー配列は、好ましくは、末端のアミノ酸残基とこの部分または前駆体のフィブリノーゲン結合ペプチドとの間に存在する。スペーサー配列は、例えば、長さにして1〜20個、好ましくは5〜20個のアミン酸残基であってもよい。スペーサー配列GGGGGG(配列番号22)またはGGGGG(配列番号23)が好ましい。
【0039】
担体あたりのフィブリノーゲン結合部分または前駆体の数、最適なバイオゲル(または組織接着剤)形成のために必要とされる担体(担体あたり複数のフィブリノーゲン結合部分または前駆体を有する)とフィブリノーゲンの相対量は、担体とフィブリノーゲンの種々の調製物を用いて変化させてもよいことは承認される。したがって、バイオゲル形成に用いる担体とフィブリノーゲンの最適な相対量を決定するために、担体またはフィブリノーゲンの各々新しいバッチを試験することが必要であるかまたは望ましい場合がある。
【0040】
好ましくは、各担体は、平均して、担体あたり少なくとも5個のフィブリノーゲン結合部分または前駆体を有する。理論的には、担体あたりのフィブリノーゲン結合部分または前駆体の数の上限はない。最適数は、多くの因子、例えば、担体の性質、フィブリノーゲン結合部分または前駆体を付着させるための各担体上の反応基の数に依存する場合がある。しかしながら、各担体は、平均して、担体あたり最大100個のフィブリノーゲン結合部分または前駆体を有することが好ましい。好ましい範囲は、担体あたり10〜20個のフィブリノーゲン結合部分または前駆体である。
【0041】
好ましくは、用いられるフィブリノーゲンの量は、フィブリノーゲン結合部分または前駆体のモル数と比較して、存在するフィブリノーゲンのモル数の少なくとも4分の1(好ましくは2分の1)であるようなものである。好ましくは、フィブリノーゲン結合部分または前駆体のモル数に対するフィブリノーゲンのモル数は、1:4〜4:1の範囲である。
【0042】
動的振動測定を用いて、本発明に従って形成されるバイオゲルの粘弾性特性を評価してもよい。粘弾性固体の貯蔵モジュール(G’)と喪失モジュール(G’’)は、弾性部分を表す貯蔵エネルギー、粘性部分を表す熱として消散されるエネルギーを測定する。タンデルタは、貯蔵モジュール(G’)に対する喪失モジュール(G’’)の比である。したがって、それは弾性寄与および粘性寄与の定量化であり、この場合、1を超える値は液状粘性挙動を示し、1を下回る値は弾性挙動を表す。本発明のバイオゲルは、好ましくは、1未満のタンデルタ値を有する。これは、ゲルの成分が架橋されるという指示を与える。タンデルタは、1Hzの振動数と1%の一定のひずみで測定され得る。タンデルタを測定するための適切な方法は、下記の実施例においてより詳細に記載されている。
【0043】
本発明のキットの成分は、互いに別々に保存されてもよく、あるいはキットの成分のいくつかまたは全ては、一緒に保存される成分が互いに反応しないという条件で一緒に保存されてもよい。キットが固定化されたフィブリノーゲン結合部分を有する担体を含む本発明の態様に関して、担体と反応しないように、フィブリノーゲンは担体とは別々に保存されなければならないことは承認される。フィブリノーゲンと、フィブリノーゲンに結合しない固定化されたフィブリノーゲン結合前駆体を有する担体とを含む本発明のキットの重要な利点は、担体とフィブリノーゲンが一緒に保存可能であるということである。
【0044】
本発明のキットの成分は、組織または他の部位に成分を送達させるために、デバイス(例えば、シリンジ)に互いに別々に保存されてもよい。成分が組織または他の部位で送達されるので、このデバイスは、成分が互いに接触するように配置されてもよい。
【0045】
本発明のキットは、バイオゲルまたは組織接着剤を生じさせるキットの成分の使用方法に関する取扱説明書を含んでもよい。
【0046】
本発明のキットは、毒性薬物を必要としない、バイオゲル(または組織接着剤)がキットの成分を用いて簡単に生成され、安定な状態で成分を容易に保存することができるとい利点を有する。また、本発明のキットを用いてバイオゲルまたは組織接着剤を形成させるために、トロンビン(他の酵素)の存在を要件としないことは承認される。トロンビンを含まない本発明のキットは特に有利であり、それは、このようなキットを用いて形成されたバイオゲルまたは組織接着剤に対するアレルギー反応の危険性が、外因性のトロンビンを用いて形成されたバイオゲルまたは組織接着剤と比較して低減されるためである。トロンビン(または他の酵素)を含まない本発明のキットの更なる利点は、酵素活性を維持する条件下でキットの成分を保存する必要がないということである。
【0047】
本発明のある態様によれば、フィブリノーゲン結合前駆体は、固定化されたフィブリノーゲン結合前駆体を有する担体が投与される部位に存在する変換剤によって、フィブリノーゲン結合部分に変換され得る。これは、変換剤がキットの一部とすべき必要性がないという利点を有する。結論として、変換剤の活性を維持する条件下でキットの成分を保存することを要しない。
【0048】
好ましくは、変換剤は、創傷部位薬物である。用語「創傷部位薬物」とは、本明細書において、創傷部位に存在する薬物を意味するように用いられる。好ましい態様では、創傷部位薬物は凝固因子である。適切な凝固因子の例には、トロンビン、第VIIa因子、第Xa因子、または第XIa因子が挙げられる。好ましくは、凝固因子はトロンビンである。
【0049】
他の態様によれば、本発明のキットは、フィブリノーゲン結合前駆体をフィブリノーゲン結合部分に変換するための変換剤をさらに含んでもよい。変換剤は、担体とは分離しなければならない。このような態様では、変換剤は、担体が投与されるべき部位に存在することが期待されない薬物であってもよい。あるいは、変換剤は、担体が投与されるべき部位に存在する薬物であってもよい。変換剤は、トロンビン、第VIIa因子、第Xa因子、または第XIa因子などの凝固因子であってもよい。
【0050】
固定化されたフィブリノーゲン結合部分を有する担体を含む本発明のキットは、凝固因子をさらに含んでもよい。凝固因子によってフィブリノーゲン結合部分に変換され得るフィブリノーゲン結合前駆体を含む本発明のキットは、フィブリノーゲン結合前駆体をフィブリノーゲン結合部分に変換しない凝固因子を含んでもよい。このような態様では、(フィブリノーゲン結合前駆体を変換しない)凝固因子は、キットの別々の成分として、あるいは担体および/またはフィブリノーゲンとともに提供されてもよい。凝固因子は、例えば各フィブリノーゲン結合前駆体に連結された担体に固定化されてもよい。
【0051】
本発明のキットが凝固因子(例えば、トロンビン)を含む場合、これは、好ましくは、凝固因子に対するアレルギー反応の危険性を低下させるために、非ヒト(例えば、ウシ凝固因子)というよりはむしろ、ヒト配列である凝固因子である。
【0052】
本発明のバイオゲルまたは組織接着剤は、組織部位に投与される前に、またはインサイチューで、組織部位、例えば創傷部位で形成されてもよい。組織部位でのバイオゲルまたは組織接着剤は、局所的に投与される担体を含む。
【0053】
トロンビンは、本発明のバイオゲルまたは組織接着剤が投与されるかまたは形成される組織部位に存在してもよいことは承認される。例えば、組織部位が出血している創傷部位である場合、宿主トロンビンが創傷部位に存在する可能性がある。当然に、トロンビンは、本発明のキットを用いて提供される場合、代替的または付加的に存在してもよい。
【0054】
フィブリノーゲンに結合し、別々にフィブリンモノマーおよび/またはフィブリンに結合することができるフィブリノーゲン結合部分の使用は、本発明のバイオゲルまたは接着剤がトロンビンの存在下で形成され、あるいは一度形成されるとトロンビンと接触されるようになる場合に有利であり得る。トロンビンが、フィブリノーゲンおよび固定化されたフィブリノーゲン結合部分を有する担体と一緒に存在する場合、トロンビンは、少なくともいくつかのフィブリノーゲンをフィブリンモノマーに変換する。これらの条件下で、フィブリノーゲン結合部分もフィブリンモノマーに結合し、その結果、トロンビンによって形成されたフィブリンモノマーが担体によって互いに連結可能になることが好ましいことは承認される。
【0055】
本発明のバイオゲルまたは接着剤は、一度形成されるとトロンビンと接触するようになる場合、フィブリノーゲン結合部分に結合されたフィブリノーゲンはフィブリンモノマーに変換されることができ、フィブリノーゲン結合部分はフィブリンモノマーに結合された状態になる場合に有利となり得る。これらの環境下で、フィブリノーゲンとフィブリノーゲン結合部分との間に形成された非共有結合は、フィブリノーゲンのフィブリンモノマーへの変換によって崩壊しない。また、フィブリノーゲン結合部分に結合された少なくともいくつかのフィブリンモノマーは、フィブリノーゲン結合部分に連結された状態でフィブリンを形成するために集合することができる場合に有利であり得る。これらの環境下で、バイオゲルまたは組織接着剤は、フィブリンの形成によって強化され得る。
【0056】
トロンビン(例えば、本発明のキット由来、または創傷部位での宿主トロンビン由来)がある場合、トロンビンと接触させる前に、担体とフィブリノーゲンとを互いに接触させるか、または担体、フィブリノーゲンおよびトロンビンを互いに実質的に同時に接触させることが好ましい。
【0057】
担体と接触させる前に、トロンビンとフィブリノーゲンとを互いに接触させる場合に、バイオゲルまたは組織接着剤が形成されてもよい場合があるが、これは、トロンビンの前に担体とフィブリノーゲンとを互いに接触させることによるか、または担体、フィブリノーゲンおよびトロンビンを互いに実質的に同時に接触させることによって形成されたバイオゲルまたは組織接着剤よりも利用性が小さいことが期待される。これは、トロンビンが、フィブリノーゲン分子をフィブリンモノマーに変換し、次に担体との接触させる前に凝集して不溶性フィブリンを形成することが期待されるからである。しかしながら、ある状況では、例えば、トロンビンが担体と接触させるまでまたはその後に不活性となる場合、担体の前にトロンビンとフィブリノーゲンとを接触させることによってバイオゲルおよび組織接着剤を形成することが適切である場合もある。
【0058】
また、本発明によれば、複数の担体とフィブリノーゲン分子およびトロンビンとを接触させることを含むバイオゲルを形成させるための方法が提供され、ここで、複数のフィブリノーゲン結合部分は、各担体に固定化され、各フィブリノーゲン分子は、少なくとも2つのフィブリノーゲン結合部分に結合して、フィブリノーゲン結合部分とフィブリンモノマーとの間の非共有結合によって担体を介してともに連結されるバイオゲルを形成することができる。
【0059】
バイオゲルは、フィブリンを含んでもよく、または含まなくてもよい。したがって、フィブリンモノマーは、バイオゲルのフィブリンの一部であってもよく、またはフィブリンモノマーは、バイオゲルのフィブリンの一部でなくてもよい。
【0060】
また、本発明によれば、フィブリンモノマーおよび複数の担体を含むバイオゲルが提供され、各担体は、その担体に固定化された複数のフィブリノーゲン結合部分を有し、ここで、フィブリンモノマーはともに、フィブリノーゲン結合部分とフィブリンモノマーとの間の非共有結合によって担体を介して連結される。
【0061】
さらに、本発明によれば、フィブリンおよび複数の担体を含むバイオゲルが提供され、各担体は、その担体に固定化された複数のフィブリノーゲン結合部分を有し、ここで、フィブリンのフィブリンモノマーはともに、フィブリノーゲン結合部分とフィブリンモノマーとの間の非共有結合によって担体を介して連結される。
【0062】
好ましい局面では、バイオゲルは組織接着剤である。
【0063】
本発明のキットは、第XIII因子を含み、場合により、第XIII因子から第XIIIa因子に活性するためのカルシウムイオンおよびトロンビンを含んでもよい(その場合、カルシウムイオンおよびトロンビンは、第XIII因子とは別々でなければならない)。あるいはまたは加えて、第XIIIa因子は、本発明のバイオゲルまたは組織接着剤が投与または形成される組織部位に存在してもよい。例えば、組織部位が出血している創傷部位であれば、宿主第XIIIa因子は、創傷部位に存在する場合がある。
【0064】
第XIIIa因子がフィブリンを含む本発明のバイオゲルまたは組織接着剤と接触すると、バイオゲルまたは組織接着剤は、第XIIIa因子がフィブリンと反応して、フィブリンを共有結合的に架橋させることによってさらに強化されてもよい。
【0065】
また、本発明によれば、バイオゲルを形成させるための方法が提供され、この方法は、複数の担体とフィブリノーゲン分子およびトロンビンとを接触させることを含み、ここで、複数のフィブリノーゲン結合部分は各担体に固定化され、各フィブリノーゲン分子は少なくとも2つのフィブリノーゲン結合部分に結合して、フィブリンを含むバイオゲルを形成し、そこでは、フィブリンのフィブリンモノマーはともに、フィブリノーゲン結合部分とフィブリンモノマーとの間の非共有結合によって担体を介して連結され;バイオゲルと第XIIIa因子とを接触させることを含み、その結果、フィブリンのフィブリンモノマーはともに、ペプチド結合によって共有結合的に架橋されるようになる。
【0066】
さらに、本発明によれば、フィブリンおよび複数の担体を含むバイオゲルが提供され、各担体は、その担体に固定化された複数のフィブリノーゲン結合部分を有し、ここで、フィブリンのフィブリンモノマーはともに、ペプチド結合によって共有結合的に連結され、フィブリンのフィブリンモノマーはともに、フィブリン結合部分とフィブリンモノマーとの間の非共有結合によって担体を介して連結される。
【0067】
好ましい局面では、バイオゲルは組織接着剤である。
【0068】
本発明のキットは、さらに、創傷治癒の促進剤を含んでもよい。適切な例には、増殖因子、例えば血小板由来増殖因子が挙げられる。促進剤は、キットの別々の成分であってもよく、または担体に固定化されてもよい。
【0069】
本発明のキットは、さらに、抗菌剤、例えば抗生物質を含んでもよい。抗菌剤は、キットの別々の成分であってもよく、または担体に固定化されてもよい。
【0070】
各担体に固定化された複数のフィブリノーゲン結合部分を有する担体が、宿主フィブリノーゲンが存在する組織部位(例えば、出血している創傷部位)に投与されると、担体は、宿主のフィブリノーゲンと反応して、インサイチューで組織部位にバイオゲルまたは組織接着剤を形成することは承認される。
【0071】
同様に、各担体に固定化された複数のフィブリノーゲン結合前駆体を有する担体が、フィブリノーゲン結合前駆体をフィブリノーゲン結合部分に変換するための変換剤と宿主フィブリノーゲンとが存在する組織部位(例えば、出血している創傷部位)に投与されると、フィブリノーゲン結合前駆体は、フィブリノーゲン結合部分に変換され、次に、担体は、宿主フィブリノーゲンと反応して、インサイチューで組織部位にバイオゲルまたは組織接着剤を形成する。例えば、フィブリノーゲン結合前駆体は、宿主トロンビン、または別の凝固因子によってフィブリノーゲン結合部分に変換されてもよい。
【0072】
したがって、さらに、本発明によれば、各担体がその担体に固定化された複数のフィブリノーゲン結合部分を有する局所的に投与される担体、および内因性フィブリノーゲンを含むバイオゲルが提供され、ここで、内因性フィブリノーゲンの各分子は、少なくとも2つのフィブリノーゲン結合部分に結合され、その結果、フィブリノーゲン分子はともに、フィブリノーゲン結合部分と内因性フィブリノーゲン分子との間の非共有結合によって担体により連結される。
【0073】
用語「内因性フィブリノーゲン」とは、本明細書において、フィブリノーゲンが、担体が投与される部位に存在する宿主フィブリノーゲンを意味するように用いられる。典型的には、宿主の血液が創傷部位に存在するため、宿主フィブリノーゲンが存在する。
【0074】
また、本発明によれば、バイオゲルを形成するための担体の使用が提供され、担体は、その担体に固定化された複数のフィブリノーゲン結合部分またはフィブリノーゲン結合前駆体を有する。
【0075】
バイオゲルは、好ましくは組織接着剤である。
【0076】
担体は、止血用、封止剤として、局所的薬物送達用、または組織工学用のバイオゲルまたは組織接着剤を形成させるために用いられてもよい。
【0077】
バイオゲルまたは組織接着剤を形成させるための担体の投与は、宿主のアレルギー反応の危険性を最小限にする利点があり、それは、外因性のフィブリノーゲンまたはトロンビンを必要とせず、毒性薬物を要せず、担体が安定条件で容易に保存され得るためである。
【0078】
また、本発明によれば、宿主フィブリノーゲンが存在する部位での出血を調節する方法が提供され、この方法は、その部位に複数の担体を局所的に投与することを含み、ここで、各担体は、その担体に固定化された複数のフィブリノーゲン結合部位を有し、この部位の宿主フィブリノーゲン分子は少なくとも2つのフィブリノーゲン結合部分に結合することができる。
【0079】
さらに、本発明によれば、宿主フィブリノーゲンおよび凝固因子が存在する部位での出血を調節する方法が提供され、この方法は、その部位に複数の担体を局所的に投与することを含み、ここで、各担体は、その担体に固定化された複数のフィブリノーゲン結合前駆体を有し、フィブリノーゲン結合前駆体は、宿主凝固因子によってフィブリノーゲン結合部分に変換されることができ、その部位での宿主フィブリノーゲン分子は少なくとも2つのフィブリノーゲン結合部分に結合することができる。
【0080】
さらに、本発明によれば、出血を調節するかまたは創傷を処置もしくは封止するための医薬(例えば、バイオゲルまたは組織接着剤)の製造における複数の担体の使用が提供され、ここで、各担体は、その担体に固定化された複数のフィブリノーゲン結合部分またはフィブリノーゲン結合前駆体を有する。
【0081】
また、本発明によれば、バイオゲルを形成するための複数の担体の使用が提供され、各担体は、その担体に固定化された複数のフィブリノーゲン結合部分またはフィブリノーゲン結合前駆体を有する。
【0082】
さらに、本発明によれば、出血の調節、または創傷の処置もしくは封止において(バイオゲルまたは組織接着剤として)用いるための複数の担体が提供され、ここで、各担体は、担体に固定化された複数のフィブリノーゲン結合部分またはフィブリノーゲン結合前駆体を有する。
【0083】
担体は、不溶性または可溶性であってもよい。担体は、局所的に投与されてもよい。
【0084】
担体が可溶性担体である場合、固定化されたフィブリノーゲン結合部分またはフィブリノーゲン結合前駆体を有する担体の好ましい局所製剤は、液体製剤であり、好ましくは生理学的なpHの等張緩衝液に含まれる。
【0085】
担体が不溶性担体である場合、固定化されたフィブリノーゲン結合部分またはフィブリノーゲン結合前駆体を有する担体の好ましい局所製剤は、例えば組織部位に噴霧することができる粉末の形態である。
【0086】
粉末化担体は、任意の適切な方法を用いて形成されてもよく、この方法には、(例えば、生理学的なpHの等張緩衝液に懸濁された)各担体に固定化された複数のフィブリノーゲン結合部分またはフィブリノーゲン結合前駆体を有する担体の懸濁液を噴霧乾燥させるかまたは凍結乾燥させることが含まれる。好ましくは、噴霧乾燥が用いられ、これは凍結乾燥よりも迅速であって、簡単に計量できる乾燥方法であり得るためである。適切な噴霧乾燥法は、国際公開第WO92/18164号に記載されている。
【0087】
本発明によれば、バイオゲルを形成させるための薬物が提供され、この薬物は可溶性担体を含み、フィブリノーゲン結合前駆体の複数のフィブリノーゲン結合部分が各担体に固定化されている。
【0088】
また、本発明によれば、バイオゲルを形成させるための薬物が提供され、この薬物は、各担体に固定化された複数のフィブリノーゲン結合部分またはフィブリノーゲン結合前駆体を有する不溶性担体を含み、薬物は、凍結乾燥以外によって形成された粉末の形態である。
【0089】
また、本発明によれば、粉末化された薬物を形成させるための方法が提供され、この薬物は、各担体に固定化された複数のフィブリノーゲン結合部分またはフィブリノーゲン結合前駆体を有する不溶性担体を含み、この方法は、薬物の懸濁液を噴霧乾燥させることを含む。
【0090】
好ましくは、薬物は局所投与に適している。薬物が、各担体に固定化された複数のフィブリノーゲン結合前駆体を有する可溶性担体を含む場合、薬物は静脈内投与に適していてもよい。
【0091】
担体または薬物は、キットの成分として提供されてもよい。キットは、さらに、凝固因子、創傷治癒の促進剤、または抗菌剤を含んでもよい。凝固因子、創傷治癒の促進剤、または抗菌剤は、キットの別々の成分であってもよく、または担体に固定されてもよい。ある好ましい態様では、凝固因子、創傷治癒の促進剤、または抗菌剤は、フィブリノーゲン結合前駆体の一部であってもよく、その結果、フィブリノーゲン結合前駆体がフィブリノーゲン結合部分に変換されると放出される。
【0092】
本発明のキットは、区分化されたキットであってもよく、互いに別々の状態であることが望まれるキットの成分は別々の区分または容器に含まれる。本発明のキットは、本発明の方法を実施するキット成分を用いるための取扱説明書を含んでもよい。
【0093】
本発明のバイオゲルまたは組織接着剤は、組織部位、例えば皮膚または粘膜組織に局所的に投与されてもよい。本発明のバイオゲルまたは組織接着剤は、止血用、封止剤として、局所的薬物送達用または組織工学用に用いられてもよい。
【0094】
本発明のバイオゲルまたは組織接着剤は、ゲルまたは接着剤を投与部位と接触させる前にゲルまたは接着剤を形成させることによって、あるいは投与部位でゲルまたは組織接着剤を形成させることによって投与されてもよい。
【0095】
また、各々がフィブリノーゲン結合部分に変換され得る複数のフィブリノーゲン結合前駆体が各担体に固定化されている可溶性担体を含む薬物は、例えば、出血を調節するため、または薬物送達用に静脈内に投与されてもよい。好ましい静脈内製剤は、20%の水性等張溶液である。好ましい態様では、フィブリノーゲン結合前駆体は、トロンビンによって変換され得る。
【0096】
さらに、本発明によれば、出血を調節するための方法が提供され、この方法は、可溶性担体を含む薬物を静脈内に投与することを含み、ここで、各々がフィブリノーゲン結合部分に変換され得る複数のフィブリノーゲン結合前駆体は、各担体に固定化されている。
【0097】
さらに、本発明によれば、対象に薬物を送達するための方法が提供され、この方法は、対象に可溶性担体を含む薬物を静脈内投与することを含み、ここで、各々がフィブリノーゲン結合部分に変換され得る複数のフィブリノーゲン結合前駆体は、各担体に固定化され、この担体は薬物を含むかまたは薬物が担体に固定化されている。
【0098】
当然に、局所または静脈用製剤は無菌でなければならない。
【0099】
本発明のバイオゲルまたは組織接着剤は、創傷治癒の促進剤、または抗菌剤をさらに含んでもよい。
【0100】
また、本発明によれば、出血を調節するための方法が提供され、この方法は、出血している部位に本発明のバイオゲルまたは組織接着剤を局所投与することを含む。
【0101】
また、本発明によれば、創傷を処置または封止するための方法が提供され、この方法は、創傷部位に本発明のバイオゲルまたは組織接着剤を(好ましくは局所的に)投与することを含む。
【0102】
また、本発明によれば、薬剤として用いるための本発明のバイオゲルまたは組織接着剤が提供される。
【0103】
さらに、本発明によれば、出血を調節するか、または創傷を処置もしくは封止するための薬剤の製造における本発明のバイオゲルまたは組織接着剤の使用が提供される。
【0104】
また、本発明によれば、出血を調節するか、または創傷を処置もしくは封止するための本発明のバイオゲルまたは組織接着剤が提供される。
【0105】
本発明のバイオゲルまたは組織接着剤の使用は、局所的な使用であってもよい。バイオゲルまたは組織接着剤は、可溶性担体と、フィブリノーゲン結合前駆体から変換されたフィブリノーゲン結合部分とを用いて形成される場合、この使用は静脈内であってもよい。
【0106】
本発明の好ましい態様は、一例としてのみ、ここに記載されている。
【0107】
本発明の第1の好ましい態様によれば、各々がアミノ末端でフィブリノーゲン結合配列を含む複数のペプチド(例えば、配列GPRPGGGGGGC(配列番号24)のペプチド)は、それらのカルボキシ末端で担体に連結され、それは可溶性タンパク質(例えばアルブミン)である。バイオゲルは、ペプチドを連結した担体とフィブリノーゲンとを接触させることによって形成される。次に、バイオゲルは、創傷の手当てとして局所的に投与されてもよい。
【0108】
本発明の第2の好ましい態様によれば、第1の好ましい態様のペプチドを連結した担体とフィブリノーゲンとは、創傷部位で混合され、インサイチューでバイオゲルを形成する。
【0109】
本発明の第3の好ましい態様によれば、第1の好ましい態様のペプチドを連結した担体は、宿主血液由来のフィブリノーゲンが存在する創傷部位に投与されて、インサイチューでバイオゲルを形成する。
【0110】
本発明の第4の好ましい態様によれば、各々がそのアミノ末端でブロッキングペプチド配列に接続されたフィブリノーゲン結合配列を含む複数のペプチド(例えば、LVPRGPRPGGGGGGC(配列番号25)のペプチド)は、それらのカルボキシ末端で担体に連結され、それは可溶性タンパク質(例えばアルブミン)である。ペプチドを連結した担体は、フィブリノーゲンと組み合わせられ、次に、単一の混合物として創傷に適用され得る。創傷部位に存在する宿主トロンビンは、ペプチドを切断して、ブロッキングペプチドを放出し、フィブリノーゲン結合配列を露出する。フィブリノーゲン結合配列が露出された担体は、フィブリノーゲンと反応して、インサイチューでバイオゲルを形成する。
【0111】
あるいは、第4の好ましい態様のペプチドを連結した担体は、静脈内に投与することができる。創傷部位の宿主トロンビンは、ペプチドを切断して、ブロッキングペプチドを放出し、フィブリノーゲン結合配列を露出する。フィブリノーゲン結合配列が露出された担体は、宿主フィブリノーゲンと反応して、創傷部位で出血を調節する。
【0112】
上記される第4の好ましい態様のバイオゲルは、組織接着剤であってもよい。
【0113】
不溶性担体(例えば、アルブミンマイクロスフェア)は、上記の好ましい態様のいずれか(静脈内投与用以外)において可溶性タンパク質担体の代わりに用いられてもよい。
【0114】
分岐したポリエチレングリコール(PEG)または任意の他の生体適合性ポリマーは、上記の好ましい態様のいずれかにおいて可溶性タンパク質の代わりに用いられてもよい。
【0115】
凝固因子は、上記の好ましい態様のいずれかにおいて担体に固定化されてもよいが、ただし、フィブリノーゲン結合前駆体が担体に固定化されている場合には、凝固因子はフィブリノーゲン結合前駆体をフィブリノーゲン結合部分に変換しない。
【0116】
担体は、上記の好ましい態様のいずれかにおいて創傷治癒の促進剤(例えば、血小板由来増殖因子などの増殖因子)をさらに含んでもよい。
【0117】
本発明のさらに好ましい態様は、添付の図面を参照して、下記の実施例に記載されている。
【実施例】
【0118】
実施例1
ヒト血清アルブミンを含む、担体に固定化されたフィブリノーゲン、及びフィブリノーゲン結合ペプチドを用いたバイオゲルまたは組織接着剤の形成
ヒト血清アルブミン(HSA)と、40倍の過剰なモル数のリンカーのスクシンイミジル−4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボキシレート(SMCC)をpH7.4で反応させた。修飾されたタンパク質(HSA−SMCC)を精製し、平均して1モルのHSAが18モルのSMCCで修飾されたことを測定した。GPRPGGGGGGC(B10;配列番号24)またはLVPRGPRPGGGGGGC(TC−15;配列番号25)のいずれかが、マレイミド部分と比較して過剰な1.5モルでHSA−SMCCに添加された。次に、ペプチド修飾されたHSAタンパク質は、未反応のペプチドから精製され、−80℃、7mg/mlで保存された。供給業者(Scottish National Blood Transfusion service)によって説明されるように、凍結乾燥されたヒトフィブリノーゲンを水に溶かし、16mg/mlとした。
【0119】
ペプチド修飾されたHSA(5μl)を0.3mlのフィブリノーゲン溶液に添加し、B10−HSAについてはインスタントゲルが観察され、TC−15については、ゲルは観察されなかった。露出されたGPRPペプチド配列は、フィブリノーゲンの2つの遠位ドメイン(D)のカルボニル領域内の「a」ポケットに結合することで知られている(図1b)。複数の露出されたGPRP配列(B10)で修飾されたHSAは、フィブリノーゲンの重合のための分岐点として働くと考えれる(図1c)。このゲルは、トロンビンがない場合に形成される。
【0120】
実施例2〜5の方法
ペプチド修飾されたHSAの合成
10mg/mlのヒト血清アルブミン(HSA)と、全量が0.7mlである5、10、20または40倍の過剰なモル数のリンカーであるスルホスクシンイミジル−4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボキシレート(Sulfo−SMCC)をpH7.4で反応させた。修飾されたタンパク質(HSA−SMCC)をZebra(商標)脱塩スピンカラム(Pierce,Rockford,IL)によって精製し、平均して1モルのHSAがそれぞれ5、8、16または18モルのSulfo−SMCCにより修飾されたことを確認した。HSA1分子あたりに結合したマレイミド基の数を決定するために、3ナノモルのHSAの試料を室温で30分間、バッファーに含まれる既知量のシステイン(100ナノモル)とともにインキュベートした。次に、残りのシステインを20分間、1mmolの5,5−ジチオビス(2−ニトロベンゾエート)(DTNB)と反応させ、A412を測定した。マレイミドレベルは、対照およびタンパク質試料の吸光度を比較することによって計算された。GPRPGGGGGGC(B10;配列番号24)またはLVPRGPRPGGGGGGC(TC−15;配列番号25)ペプチドのいずれかが、マレイミド部分と比較して過剰な1.5モルでHSA−SMCCに添加された。次に、ペプチド修飾されたHSAタンパク質は、Zebra(商標)脱塩スピンカラム(Pierce,Rockford,IL)を用いて、未反応のペプチドから精製され、−80℃、7mg/mlで保存された。凍結乾燥されたヒトフィブリノーゲン(Scottish National Blood Transfusion Service,Edinburgh,Scotland)を水に溶解して、8、16、32および64mg/mlとした。フィブリノーゲンおよびアルブミンの濃度は、1%フィブリノーゲン E280=15、および1%HSA E280=13.8を用いる280nm(A280)の吸光度から決定した。
【0121】
流動特性
動的振動測定を用いて、ゲルの粘弾性特性を評価した。混合物を室温で一晩平衡化し、25mmの径、1°の円錐角の円錐および平板を有するPhysica MCR−501(Anton Paar,Germany)流量計の下段プレートにゲルを移した。加湿雰囲気で20又は37±℃のいずれかで試験を行った。振動数掃引を1%の一定のひずみ振幅で0.01〜50Hzで行った。試験されたレオロジーパラメータは、流動計を備えた専用のAnton Paarソフトウェアを用いて開始された。
【0122】
実施例2 ゲル形成に対するペプチド修飾されたHSAの量およびフィブリノーゲン濃度の影響
フィブリノーゲンの重合は、フィブリノーゲンとHSA溶液の混合後、最初に視覚的にモニターされた。5、8、16または18モルのいずれかのフィブリノーゲン結合ペプチドで修飾されたペプチド修飾されたHSAを1モルのHSAと複合化した。このペプチド修飾されたHSAまたは未修飾のHSAの25μl試料を8、16、32または64mg/mlのフィブリノーゲンの0.2mlと混合した。ゲルの形成は、室温で0.5時間後に視覚的に測定された。未修飾のHSAまたは5または8モルのペプチドで修飾されたHSAについては、試験されたフィブリノーゲンの全ての濃度でゲル形成が観察されなかった。重合は、32または64mg/mlのフィブリノーゲンでのみ、16または18モルの結合ペプチドを有するペプチド修飾されたHSAを用いて観察された。
【0123】
図4は、ペプチド修飾されたHSA(25μl、18モルのペプチド)の添加の前(a)および後(b)のフィブリノーゲン溶液(0.2ml 32mg/mlのフィブリノーゲン)の写真を示す。本発明に従って形成されたバイオゲルは(b)に示される。
【0124】
実施例3 ペプチド修飾されたHSAの量の影響
混合物のレオロジー特性に対するペプチド修飾されたHSAおよびフィブリノーゲンの量の効果を測定するために、32および64mg/mlのフィブリノーゲンによるペプチド修飾されたHSAの25または50μlを用いて、せん断強度を測定した。HSAの1モルあたり16モルの結合ペプチドで修飾されたペプチド修飾されたHSAをこの実験に用いた。ゲルの線形粘弾性ひずみ限度内で動的振動実験が行われたことを確かめるために、ひずみ掃引を行った。図2は、32mg/mlのフィブリノーゲンと混合した25μlのペプチド修飾されたHSAについての20および37℃のひずみ掃引を示す。貯蔵モジュール(G’)および喪失モジュール(G’’)は、範囲全体で安定であるように見え、この洗浄粘弾性ひずみ範囲において1%の一定ひずみを選択した。周波数掃引は、架橋ネットワークを示すG’’より大きなG’値を示した(表1)。表に示される値は、1Hzの振動数で取られる。タンデルタは、貯蔵モジュールに対する喪失モジュールの比である。したがって、それは、弾性と粘性の寄与の定量であり、その場合、1を超える値は粘性様の液体を示し、1未満は弾性を表す。複素粘度ηは、角振動数(ω)で割った複素モジュールGとして定義され、同条件下で測定された。これらの条件下では、ペプチド修飾されたHSAとフィブリノーゲンの両方の量は、ゲルの機械的強度にほとんど影響を及ぼさないようである。
【0125】
【表1】

32mg/mlによる、HSA(25μl)あたり18ペプチド結合したペプチド修飾されたHSAの異なるバッチでは、G’が5200、複素粘度が820、タンデルタが0.105であった。
【0126】
実施例4 レオロジー特性に対する温度の影響
ゲルに対する温度の効果についての検討は、手術体温時に用いられる場合、又は局所的に適用される場合の製造品の適用に重要である。本発明者らは、20℃と37℃でのゲルの機械的強度および表2に示される値は、1Hzの振動数で取られることを評価した。32mg/mlのフィブリノーゲン、16モルのペプチドで修飾された25μLのHSAから生じたゲルの温度上昇は、G’と複素粘度との両方の減少をもたらした(表2)。20℃と37℃でのタンデルタは1未満であり、したがって、(非共有結合的な)架橋ネットワーク構造は37℃で維持される。
【0127】
【表2】

実施例5 ヒト血漿におけるゲル形成
ペプチド修飾されたHSAがヒト血漿中でフィブリノーゲンを重合し得るかどうかを検討することは、外科用接着剤/粘着材として製造品の応用に重要である。18モルのペプチドで修飾されたペプチド修飾されたHSA(75μl)を0.8mlのヒトのプール血漿と混合した。血漿誘導ゲル上のレオロジーを37℃で行い、G’値が6100であり、タンデルタが0.104であった。この結果から、ペプチド修飾されたHSAは、37℃で(非共有結合的な)架橋ネットワーク構造をもたらす、ヒト血漿中でフィブリノーゲンを重合することができるという結論に達する。
【図1(a)】

【図1(b)】

【図1(c)】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオゲルの形成のためのキットであって、複数の担体であって、各担体がその担体に固定化された複数のフィブリノーゲン結合部分を有する担体と、個別に、フィブリノーゲンであって、フィブリノーゲンの各分子が少なくとも2つのフィブリノーゲン結合部分に結合することができるフィブリノーゲンとを含む、キット。
【請求項2】
バイオゲルの形成のためのキットであって、複数の担体であって、各担体がその担体に固定化された複数のフィブリノーゲン結合前駆体を有し、各フィブリノーゲン前駆体がフィブリノーゲン結合部分に変換され得る複数の担体と、フィブリノーゲンであって、フィブリノーゲンの各分子が少なくとも2つのフィブリノーゲン結合部分に結合することができるフィブリノーゲンとを含む、キット。
【請求項3】
前記フィブリノーゲン結合前駆体が、創傷部位薬物によってフィブリノーゲン結合部分に変換され得る、請求項2に記載のキット。
【請求項4】
前記創傷部位薬物が凝固因子である、請求項3に記載のキット。
【請求項5】
前記フィブリノーゲン結合前駆体をフィブリノーゲン結合部分に変換しない凝固因子をさらに含む、請求項4に記載のキット。
【請求項6】
各フィブリノーゲン結合前駆体が前記凝固因子に連結される、請求項5に記載のキット。
【請求項7】
前記フィブリノーゲン結合前駆体をフィブリノーゲン結合部分に変換するための変換剤をさらに含む、請求項2に記載のキット。
【請求項8】
前記変換剤が創傷部位薬物である、請求項7に記載のキット。
【請求項9】
前記創傷部位薬物が凝固因子である、請求項8に記載のキット。
【請求項10】
前記フィブリノーゲン結合前駆体をフィブリノーゲン結合部分に変換しない凝固因子をさらに含む、請求項9に記載のキット。
【請求項11】
凝固因子をさらに含む、請求項1に記載のキット。
【請求項12】
創傷治癒の促進剤または抗菌剤をさらに含む、請求項1〜11のいずれか1項に記載のキット。
【請求項13】
前記担体が可溶性担体である、請求項1〜12のいずれか1項に記載のキット。
【請求項14】
前記担体が生体適合性ポリマーを含む、請求項1〜13のいずれか1項に記載のキット。
【請求項15】
組織接着剤を形成するための請求項1〜14のいずれか1項に記載のキット。
【請求項16】
バイオゲルの形成のための薬物であって、該薬剤は可溶性担体を含み、複数のフィブリノーゲン結合部分または各々がフィブリノーゲン結合部分に変換され得る複数のフィブリノーゲン結合前駆体が、各担体に固定化される、薬物。
【請求項17】
バイオゲルの形成のための薬物であって、各々の担体に固定化されている、複数のフィブリノーゲン結合部分または各々がフィブリノーゲン結合部分に変換され得る複数のフィブリノーゲン結合前駆体を有する不溶性担体を含み、凍結乾燥以外で形成された粉末の形態である薬物。
【請求項18】
前記フィブリノーゲン結合前駆体が、創傷部位薬物によってフィブリノーゲン結合部分に変換され得る、請求項16または17に記載の薬物。
【請求項19】
前記創傷部位薬物が凝固因子である、請求項18に記載の薬物。
【請求項20】
組織接着剤を形成させるための請求項16〜19のいずれか1項に記載の薬物。
【請求項21】
フィブリノーゲン分子及び複数の担体を含むバイオゲルであって、各担体は、該担体に固定化された複数のフィブリノーゲン結合部分を有し、フィブリノーゲンの各分子は、少なくとも2つのフィブリノーゲン結合部分に結合して、該フィブリノーゲン分子が共に、該フィブリノーゲン結合部分と該フィブリノーゲン分子との間の非共有結合によって該担体を介して連結されるようになるバイオゲル。
【請求項22】
フィブリンモノマー及び複数の担体を含むバイオゲルであって、各担体は、該担体に固定化された複数のフィブリノーゲン結合部分を有し、該フィブリンモノマーは共に、該フィブリノーゲン結合部分と該フィブリンモノマーとの間の非共有結合によって該担体を介して連結されるバイオゲル。
【請求項23】
フィブリン及び複数の担体を含むバイオゲルであって、各担体は、該担体に固定化された複数のフィブリノーゲン結合部分を有し、該フィブリンのフィブリンモノマーは共にペプチド結合によって共有結合的に連結され、該フィブリンのフィブリンモノマーは共に、該フィブリノーゲン結合部分と該フィブリンモノマーとの間で非共有結合によって該担体を介して連結されるバイオゲル。
【請求項24】
組織接着剤である、請求項21〜23のいずれか1項に記載のバイオゲル。
【請求項25】
フィブリノーゲン分子と複数の担体とを接触させることを含むバイオゲルを形成させるための方法であって、各担体は、該担体に固定化された複数のフィブリノーゲン結合部分を有し、フィブリノーゲンの各分子は、少なくとも2つのフィブリノーゲン結合部分を結合することができ、それにより、該フィブリノーゲン分子は共に、該フィブリノーゲン結合分子と該フィブリノーゲン分子との間の非共有結合の形成によって該担体を介して連結されるようになる方法。
【請求項26】
複数の担体を用意し、ここで、各担体は該担体に固定化された複数のフィブリノーゲン結合前駆体を含み;該フィブリノーゲン結合前駆体をフィブリノーゲン結合部分に変換し;フィブリノーゲン分子と該フィブリノーゲン結合部分とを接触させ、ここで、フィブリノーゲンの各分子は少なくとも2つのフィブリノーゲン結合部分に結合することでき、それにより、該フィブリノーゲン分子は共に、該フィブリノーゲン結合分子と該フィブリノーゲン分子との間の非共有結合の形成によって該担体を介して連結されるようになることを含むバイオゲルを形成させるための方法。
【請求項27】
複数の担体とフィブリノーゲン分子およびトロンビンとを接触させることを含むバイオゲルを形成させるための方法であって、ここで、複数のフィブリノーゲン結合分子は、各担体に固定化され、各フィブリノーゲン分子は、少なくとも2つのフィブリノーゲン結合部分に結合して、フィブリンモノマーが共に、該フィブリノーゲン結合部分と該フィブリンモノマーとの間の非共有結合により該担体を介して連結されるバイオゲルを形成することができる方法。
【請求項28】
複数の担体とフィブリノーゲン分子およびトロンビンとを接触させることを含むバイオゲルを形成させるための方法であって、ここで、複数のフィブリノーゲン結合部分は、各担体に固定化され、各フィブリノーゲン分子は、少なくとも2つのフィブリノーゲン結合部分に結合して、フィブリンのフィブリンモノマーが共に、該フィブリノーゲン結合部分と該フィブリンモノマーとの間の非共有結合により該担体を介して連結される該フィブリンを含むバイオゲルを形成することができ;該バイオゲルと第XIIIa因子とを接触させ、それにより、該フィブリンのフィブリンモノマーが共にペプチド結合により共有結合的に連結されるようになる方法。
【請求項29】
バイオゲルの形成に用いるための粉末化薬物を形成させる方法であって、該薬物は、各担体に固定化された複数のフィブリノーゲン結合部分またはフィブリノーゲン結合前駆体を含み、ここで、該薬物の懸濁液を噴霧乾燥させることを含む方法。
【請求項30】
前記バイオゲルが組織接着剤である、請求項25〜29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
宿主フィブリノーゲンが存在する部位で出血を調節する方法であって、該部位に複数の担体を局所投与することを含み、ここで、各担体は、その担体に固定化された複数のフィブリノーゲン結合部分を有し、該部位の宿主フィブリノーゲン分子は、少なくとも2つのフィブリノーゲン結合部分に結合することができる方法。
【請求項32】
宿主フィブリノーゲンおよび凝固因子が存在する部位で出血を調節する方法であって、該部位に複数の担体を局所投与することを含み、ここで、各担体は、その担体に固定化された複数のフィブリノーゲン結合前駆体を有し、該フィブリノーゲン結合前駆体は、宿主凝固因子によってフィブリノーゲン結合部分に変換されることができ、該部位の宿主フィブリノーゲン分子は、少なくとも2つのフィブリノーゲン結合部分に結合することができる方法。
【請求項33】
請求項21〜24のいずれか1項に記載のバイオゲルを出血部位に局所投与することを含む出血を調節する方法。
【請求項34】
請求項21〜24のいずれか1項に記載のバイオゲル、または複数の担体を創傷部位に局所投与することを含む創傷を処置または封止する方法であって、各担体は、その担体に固定化された複数のフィブリノーゲン結合部分またはフィブリノーゲン結合前駆体を有する方法。
【請求項35】
可溶性担体を含む薬物を静脈内投与することを含む出血を調節する方法であって、各々がフィブリノーゲン結合部分に変換され得る複数のフィブリノーゲン結合前駆体は、各担体に固定化されている方法。
【請求項36】
バイオゲルを形成させるための複数の担体の使用であって、各担体が、その担体に固定化された複数のフィブリノーゲン結合部分またはフィブリノーゲン結合前駆体を有する使用。
【請求項37】
止血における、封止剤としての、局部的薬物送達のための、または組織工学のための請求項36に記載の使用。
【請求項38】
組織接着剤を形成させるための請求項36または37に記載の方法。
【請求項39】
止血における、封止剤としての、局部的薬物送達のための、または組織工学のための請求項21〜24のいずれか1項に記載のバイオゲルの使用。
【請求項40】
薬剤として用いるための、請求項21〜24のいずれか1項に記載のバイオゲル、または請求項16〜20のいずれか1項に記載の薬物。
【請求項41】
出血を調節するかまたは創傷を処置もしくは封止するための薬剤の製造における、請求項21〜24のいずれか1項に記載のバイオゲル、または請求項16〜20のいずれか1項に記載の薬物の使用。
【請求項42】
出血を調節するかまたは創傷を処置もしくは封止するためのバイオゲルの製造における複数の担体の使用であって、各担体は、その担体に固定化された複数のフィブリノーゲン結合部分またはフィブリノーゲン結合前駆体を有する使用。

【図2】
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【図3】
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【図4a)】
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【図4b)】
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【公表番号】特表2010−510818(P2010−510818A)
【公表日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−537703(P2009−537703)
【出願日】平成19年11月27日(2007.11.27)
【国際出願番号】PCT/GB2007/004538
【国際公開番号】WO2008/065388
【国際公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【出願人】(506117127)ヘモスタティクス リミテッド (4)
【Fターム(参考)】