説明

バイオコークスの製造方法及びその製造物

【課題】バイオマスを原料としたバイオコークスの製造技術に関し、特に石炭コークスの代替燃料として利用可能であるバイオコークスを効率的に生産することを可能としたバイオコークスの製造方法およびその製造物を提供する。
【解決手段】反応容器1内にバイオマス粉砕物10を複数回に亘って分割充填する分割充填工程と、前記分割充填の都度、分割充填体の表面に仕切り薄層4を介在させながら、前記圧力範囲以下で前記分割充填体に予備加圧を行う予備加圧工程と、前記分割充填工程と前記予備加圧工程の繰り返しにより複数の分割充填体と仕切り薄層4が交互に積層された積層体に、完全には炭化させることなくそのヘミセルロースの熱分解又は熱硬化反応を誘起する温度範囲と圧力範囲を維持しながら加圧成型する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマスを原料としたバイオコークスの製造技術に関し、特に石炭コークスの代替燃料として利用可能であるバイオコークスを効率的に生産することを可能としたバイオコークスの製造方法およびその製造物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、製鐵分野に欠かすことが出来ない固形燃料である石炭コークスは、国内生産が乏しいため、ほとんどが中国産を使用している。そのため、中国の高度成長に伴うエネルギー政策によって急速に鉄鋼需要が増したことから、石炭コークスの価格が高騰し、国内の鉄鋼メーカーの経営を著しく圧迫している。また、地球環境保全の見地から、石炭等の化石燃料の使用は規制されており、化石燃料の枯渇化の観点からもこれに代替するエネルギー資源の開発、実用化が求められている。
そこで、石炭コークスの代替燃料として、バイオマスを用いた燃料の利用促進が図られている。ここでバイオマスとは、光合成に起因する全バイオマスを原料対象としており、木・枯葉あるいはその廃棄物などの木質類、茶殻・コーヒー粕などの厨芥類、ケナフ・ヒマワリの茎などの草本類、芋づる・ゴマ茎などの農作物類が挙げられる。
【0003】
バイオマスを燃料化する方法としては、バイオマスを乾燥させて燃料化する方法、加圧して燃料ペレット化する方法等が知られている。しかし、バイオマスを乾燥させるのみでは、空隙率が大きく、みかけ比重が低くなるため、輸送や貯留が困難であり、長距離輸送や貯留して使用する燃料としては有効とはいえない。
バイオマスを燃料ペレット化する方法は、特許文献1(特開昭52−101202号公報)に開示されている。この方法は、細断された有機繊維材料の含水量を16〜28%に調節し、これをダイス内で圧縮して乾燥し燃料ペレットを製造するようにしている。
【0004】
【特許文献1】特開昭52−101202号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載される方法では、圧縮成形を行うことによりバイオマスを燃料化しているが、製造されたペレットには空隙が存在するため、ペレット内への空気(酸素)の拡散が生じ、燃焼時間が短く、粉体バイオマス間の結合が無いため、十分な硬度を有していないものである。
従って、本発明はこのような問題に鑑みなされたもので、バイオコークスを効率的に生産することを可能としたバイオコークスの製造方法およびその製造物に関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
近年、石炭コークスの代替として、バイオコークスが研究されている。
バイオコークスは、バイオマス原料を加圧、加熱した状態で一定時間保持した後、冷却することにより製造される。加圧、加熱条件は、バイオマス粉砕物をそのヘミセルロースの熱分解又は熱硬化反応を誘起する圧力範囲及び温度範囲に設定する。これにより以下の反応機構が成立し、高硬度で高発熱量を有するバイオコークスが製造できる。
その反応機構は、上記した条件で反応を行うことにより、バイオマス粉砕物の繊維成分であるヘミセルロースが熱分解し接着効果を発現させ、反応容器内に発生する過熱水蒸気によりリグニンがその骨格を維持したまま低温で反応し、圧密効果と相乗的に作用することによって、高硬度で高発熱量のバイオコークスが製造できるものである。熱硬化反応は、リグニン等に含まれるフェノール性の高分子間で反応活性点が誘発することにより進行する。
しかし、このバイオコークスは未だ実験段階にとどまっており、反応容器にバイオマス粉砕物を人手で充填して一つの反応容器でバッチ的に製造しているのが実状であった。
そこで本発明は、上記したバイオコークスを効率的に製造する装置及び方法を提案する。
【0007】
本発明は、反応容器内に充填されたバイオマス粉砕物を、そのヘミセルロースの熱分解又は熱硬化反応を誘起する温度範囲と圧力範囲を維持しながら加圧成型してバイオコークスを製造するバイオコークス製造方法であって、
前記反応容器内に前記バイオマス粉砕物を複数回に亘って分割充填する分割充填工程と、前記分割充填の都度、分割充填体の表面に仕切り薄層を介在させながら、前記圧力範囲以下で前記分割充填体に予備加圧を行う予備加圧工程と、前記分割充填工程と前記予備加圧工程の繰り返しにより複数の分割充填体と仕切り薄層が交互に積層された積層体に熱硬化反応を誘起する温度域で加圧成型して圧密固化状のバイオコークスを得る加圧成型工程を具えたことを特徴とする。
【0008】
このように、仕切り薄層を介在させながら、バイオマス粉砕物を複数回に亘って分割充填して交互に積層することにより、ひとつの反応容器で複数に分割することができる圧密固化状のバイオコークスを得ることができるため、反応容器数を減らすことができ反応容器の設置面積を小さくすることが可能になる。
また、反応容器が加圧方向に長くなり、前記積層体の層が増加しても、予備加圧工程を行うことで下層の圧力不足の危険性が減少することができ、効率よくバイオコークスを製造することができる。
【0009】
また、前記仕切り薄層が、前記バイオマス粉砕物がそのヘミセルロースの熱分解又は熱硬化反応を誘起する温度範囲で完全には炭化しない材料で形成された通気性を有する薄層体であることを特徴とする。
このことにより、上記温度範囲内で完全には炭化しない材料で形成された仕切り薄層を介在させることにより、加圧成型後も完全には炭化しない状態でバイオコークス内に残存することが可能である。
【0010】
また、前記予備加圧工程は、前記仕切り薄層の装填動作と前記分割充填体に予備加圧動作が連続的に行われる予備加圧ピストンによる反応容器内への進退動作工程であることを特徴とする。
そして、前記予備加圧ピストンは、押時の排気と引抜時の外気進入機構を有する予備加圧ピストンであることを特徴とする。
【0011】
このように、予備加圧ピストンを用いることにより、前記仕切り薄層の装填動作と前記分割充填体に予備加圧動作が連続的に行われるので、予備加圧工程を効率よく行うことができる。
また、予備加圧ピストンは押時の排気と引抜時の外気進入機構を有しているので、通気性を有する仕切り薄層は、予備加圧ピストンの押時ではバイオマス粉砕物と予備加圧ピストン間の空気を排気して予備加圧ピストンに吸着する。引抜時では予備加圧ピストンへ空気を取り入れてバイオマス粉砕物側に残り、仕切り薄層となって装填される。
【0012】
さらに、物の発明として、前記バイオマス粉砕物中のヘミセルロースが熱分解され且つ該バイオマス粉砕物中のリグニンが熱硬化反応により圧密固化状に形成されたバイオコークスであって、前記バイオコークスが複数の分割圧密固化体と仕切り薄層が交互に積層され、該仕切り薄層を介して前記分割圧密固化体間を分離可能に構成したことを特徴とする。
また、前記仕切り薄層が、前記バイオマス粉砕物のそのヘミセルロースの熱分解又は熱硬化反応を誘起する温度範囲で完全には炭化しない材料で形成された、紙、布を主成分とする吸水性と通気性を有する薄層体で形成されたであることを特徴とする。
【0013】
複数の分割圧密固化体と仕切り薄層が交互に積層して成型することにより、高硬度の圧密固化状のバイオコークスが該仕切り薄層を介して分割圧密固化体間を分離することが可能になる。また、仕切り薄層を紙、布を主成分とする薄層体で形成することにより、該仕切り薄層は分割圧密固化体に付着したまま燃料として使用することが可能であるため、回収する必要がない。
なお、以上述べた各構成は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、互いに組み合わせることが可能である。
【発明の効果】
【0014】
以上記載のごとく本発明では、バイオコークスを効率的に生産することを可能としたバイオコークスの製造方法およびその製造物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但しこの実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
【0016】
図1は本発明の実施例に係るバイオコークス製造方法の工程を示す図である。図2は予備加圧ピストンの断面図であり、(a)は押時、(b)は引抜時を示す。図3は本実施例のバイオコークスを分割する手段の一例を示す図である。
【0017】
本発明の実施例に係るバイオコークス製造方法について、図1を用いて説明する。
本発明では、所定粒径以下まで粉砕する前処理を行ったバイオマス粉砕物10を原料としている。ここで用いられるバイオコークスの原料となるバイオマスは、光合成に起因する有機物であって、木質類、草木類、農作物類、厨芥類等のバイオマスであり、例えば、廃木材、間伐材、剪定枝、植物、農業廃棄物、コーヒー粕や茶粕等の厨芥廃棄物等が挙げられる。
まず、原料となるバイオマス粉砕物10の前処理として、バイオマスの含水率を5〜10%に乾燥させる水分調整を行い、該乾燥したバイオマスを粒子径3mm以下、好ましくは0.1mm以下に粉砕する。また、バイオマスの種類によっては乾燥・粉砕後に調湿する物もある。これにより、バイオマスを反応容器1に充填する際、嵩密度が向上し均質な充填が可能となり、加熱成型においてバイオマス間の接触が高まり、成型後の硬度も向上する。
【0018】
上記前処理を行ったバイオマス粉砕物10を反応容器1に投入する。
反応容器1内にバイオマス粉砕物10が充填されたら、該バイオマス粉砕物10の表面に予備加圧ピストン3を用いて、仕切り薄層4を介在させながら予備加圧する。このときの予備加圧は、バイオマス粉砕物10をそのヘミセルロースの熱分解又は熱硬化反応を誘起する圧力範囲以下とする。
【0019】
ここで仕切り薄層4とは、前記バイオマス粉砕物10をそのヘミセルロースの熱分解又は熱硬化反応を誘起する温度範囲で完全には炭化しない材料で形成された、紙、布を主成分とする吸水性と通気性を有する薄層体であり、仕切り薄層4は多孔14を有し、例えば、1−10mm程度の厚さのろ紙が好ましい。
また、ろ紙以外に同様の機能を保有するものとして、ハニカム紙、多孔質木材プレート、多孔質耐熱樹脂プレートなども用いることが可能である。
【0020】
上記のように、前記反応容器内に前記バイオマス粉砕物10を複数回に亘って分割充填し、前記分割充填の都度、分割充填体の表面に仕切り薄層4を介在させながら、分割充填体に予備加圧する。さらに、前記分割充填工程と前記予備加圧工程の繰り返しにより複数の分割充填体と仕切り薄層4が交互に積層される。
【0021】
そして、加圧ピストン2により、複数の分割充填体と仕切り薄層4が交互に積層された積層体を、そのヘミセルロースの熱分解又は熱硬化反応を誘起する温度範囲と圧力範囲を維持しながら加圧成型する。具体的には、温度115〜230℃、圧力8〜25MPaの範囲が望ましい。
【0022】
ここで、前記予備工程において用いられる予備加圧ピストン3は、押時の排気と引抜時の外気進入機構を有している。
図2に示すように、予備加圧ピストン3の押時(図2(a))では、バイオマス粉砕物10と予備加圧ピストン3間の空気20を排気するために、仕切り薄層4は予備加圧ピストン3に吸着する。また、予備加圧ピストン3の引抜時(図2(b))では、予備加圧ピストン3へ空気20を取り入れることにより、仕切り薄層4はバイオマス粉砕物10側に残り、反応容器内に装填される。
【0023】
次に、本実施例のバイオコークスを分割する手段の例として、図3を用いて説明する。
バイオマス粉砕物10を加圧、加熱した状態で一定時間保持することにより製造されたバイオコークス11は冷却後、押出ピストン16により反応容器1から排出される。このとき、加圧ピストン2を用いて押出して排出させてもよい。
排出された高硬度の圧密固化状のバイオコークス11は、複数の分割圧密固化体と仕切り薄層4が交互に積層して成型されているので、叩く等の負荷を与えることにより、該仕切り薄層4を介して分割圧密固化体間を分離することが可能である。
【0024】
また、図3に示すように、反応容器1の排出部にバイオコークス11の押出量を検知する押出量検知センサ5を配接し、その押出した部分を近接された叩き割りシリンダ15等で効率よく分離する手段を用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明によれば、石炭コークスの代替燃料として利用可能な高硬度で高発熱量のバイオコークスを効率的に生産することを可能であり、ひとつの反応容器で複数の圧密固化状のバイオコークスを得ることができるため、省スペース化、低コスト化を実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施例に係るバイオコークス製造方法の工程を示す図である。
【図2】予備加圧ピストンの断面図であり、(a)は押時、(b)は引抜時である。
【図3】本実施例のバイオコークスを分割する手段の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0027】
1 反応容器
2 加圧ピストン
3 予備加圧ピストン
4 仕切り薄層
5 押出量検知センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応容器内に充填されたバイオマス粉砕物を、そのヘミセルロースの熱分解又は熱硬化反応を誘起する温度範囲と圧力範囲を維持しながら加圧成型してバイオコークスを製造するバイオコークス製造方法であって、
前記反応容器内に前記バイオマス粉砕物を複数回に亘って分割充填する分割充填工程と、前記分割充填の都度、分割充填体の表面に仕切り薄層を介在させながら、前記圧力範囲以下で前記分割充填体に予備加圧を行う予備加圧工程と、前記分割充填工程と前記予備加圧工程の繰り返しにより複数の分割充填体と仕切り薄層が交互に積層された積層体に熱硬化反応を誘起する温度域で加圧成型して圧密固化状のバイオコークスを得る加圧成型工程を具えたことを特徴とするバイオコークス製造方法。
【請求項2】
前記仕切り薄層が、前記バイオマス粉砕物がそのヘミセルロースの熱分解又は熱硬化反応を誘起する温度範囲で完全には炭化しない材料で形成された通気性を有する薄層体であることを特徴とする請求項1記載のバイオコークス製造方法。
【請求項3】
前記予備加圧工程は、前記仕切り薄層の装填動作と前記分割充填体に予備加圧動作が連続的に行われる予備加圧ピストンによる反応容器内への進退動作工程であることを特徴とする請求項1記載のバイオコークス製造方法。
【請求項4】
前記予備加圧ピストンは、押時の排気と引抜時の外気進入機構を有する予備加圧ピストンであることを特徴とする請求項1記載のバイオコークス製造方法。
【請求項5】
前記バイオマス粉砕物中のヘミセルロースが熱分解され且つ該バイオマス粉砕物中のリグニンが熱硬化反応により圧密固化状に形成されたバイオコークスであって、前記バイオコークスが複数の分割圧密固化体と仕切り薄層が交互に積層され、該仕切り薄層を介して前記分割圧密固化体間を分離可能に構成したことを特徴とするバイオコークス。
【請求項6】
前記仕切り薄層が、前記バイオマス粉砕物のそのヘミセルロースの熱分解又は熱硬化反応を誘起する温度範囲で完全には炭化しない材料で形成された、紙、布を主成分とする吸水性と通気性を有する薄層体で形成されたであることを特徴とする請求項5記載のバイオコークス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−274111(P2008−274111A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−119271(P2007−119271)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【出願人】(501370370)三菱重工環境エンジニアリング株式会社 (175)
【出願人】(000125347)学校法人近畿大学 (389)
【Fターム(参考)】