説明

バイオセンサシステム

【課題】 溶存酸素の影響を受けずに、NAD又はNADPを補酵素とする脱水素酵素の基質を正確に定量することができ、安価に製造することができ、かつ携帯性に優れた、バイオセンサシステムを提供すること。
【解決手段】 本発明のバイオセンサは、NAD又はNADPを補酵素とする脱水素酵素の基質を検出するバイオセンサシステムであって、光入射用の光ファイバ及び受光用の光ファイバを接続してなる光ファイバプローブ;前記光入射用の光ファイバに、特定の波長の紫外線を入射する紫外線発光ダイオード;及び前記紫外線発光ダイオードから入射した入射光により励起されて発生した蛍光を、前記受光用の光ファイバーを通して検出する検出器を含み、前記光ファイバプローブの先端に、前記脱水素酵素を固定化してなる膜が密着されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオセンサシステムに関し、更に詳細には、NAD又はNADPを補酵素とする脱水素酵素の基質を検出するバイオセンサシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
アルコールは、人間にとって健康と深く関わり合いを有している他、過剰の摂取によると人間関係に影響を及ぼすなど、アルコールの乱用は、我々の社会に直面する重要な問題の1つである(例えば、非特許文献1〜6)。
健康面においては、例えば、先進国におけるアルコール性肝臓疾患は、全ての慢性肝臓疾患の50%以上を占めていることが知られている。すなわち、アルコールの過剰摂取は健康を害することから、臨床面から、特に、血液、血清及び尿の解析において、エタノール濃度を正確に測定することが重要である。
【0003】
また、アルコール飲料は発酵工程を経て製造されているが、発酵工程におけるアルコール飲料の品質を管理するために、工程中のエタノール濃度の測定は重要である。このように、経済的な観点からも、アルコール濃度を正確に測定することは特に重要である。
上述した観点から、エタノールを正確かつ簡便に測定する方法が求められている。
【0004】
従来より、種々のアルコール定量法が報告されている。例えば、酵素をベースとして用いるバイオセンサーがアルコールセンサとして用いられている(例えば、非特許文献7及び8等)。アルコールオキシダーゼ固定化エタノールセンサは、アルコールを定量することにおける最も一般的な方法の1つである。このようなアルコールセンサは、クロマトグラフィー法、分光分析法や蒸留法と比べた場合、簡便に測定でき、かつ迅速に測定できるという利点がある。また、酵素を用いているため、選択性が高いという利点も有する。しかし、アルコールオキシダーゼを用いているため、センサ特性が、試料中の溶存酸素量に依存するという問題がある。
【0005】
一方、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)依存アルコールデヒドロゲナーゼを用いたバイオセンサが報告されている(例えば、非特許文献9及び10)。このようなバイオセンサは、主として光学的方法又は電気化学的方法によって測定されるNADH/NADの比を用いて基質を測定している。また、このようなバイオセンサは、エタノール濃度の測定に用いられるのみならず、種々の基質の濃度を測定することに用いることが可能である。従来のニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)依存アルコールデヒドロゲナーゼを用いたバイオセンサには、光源として水銀ランプが用いられている。しかし、水銀ランプは高価であるとともに、非常に重量があり、携帯用には不向きである。
【0006】
【非特許文献1】G.Heiss, N.J.Johnson, S.Reiland, C.E.Davis, H.A.Tyroler, Circulation 62 (1980) 116
【非特許文献2】M.G. Marmot, Int. J. Epidemiol. 13 (1984) 160
【非特許文献3】S. Linn, M. Carroll, C.Johnson, R.fulwood, W. Kalsbeek, R.Briefel, Am. J. Public Health 83 (1993) 811
【非特許文献4】R.D.Moore, T.A.Pearson, Medicine 65 (1986) 242
【非特許文献5】D.S.Sscovick, N.S.Weiss, N.Fox, Am J. Epidemiol. 123 (1986) 499
【非特許文献6】A.S.Santos, A.C.Pereira, N.Duran, L.T.Kubota, Electrochim. Acta. 52 (2006) 215
【非特許文献7】G. Wen, Y. Zhang, S. Shuang, C. Dong, M.M.F. Choi, Biosens. Bioelectron. 23 (2007) 121
【非特許文献8】L.V. Shkotova, A.P. Soldatkin, M.V. Gomchar, W. Schuhman, S.V. Dzyadevych, Materials Science and Engineering C 26 (2006) 411
【非特許文献9】C. Schelp, Th. Sceper, F. Buckmann, K.F. Reardon, Anal. Chem. Acta 255 (1991) 223
【非特許文献10】J. Manso, M.L. Mena, P.Y. Sedeno, J.M. Pingarron, Electrochem. Acta (2007), doi;10.1016/j.eleacta.2007.10.0003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、溶存酸素の影響を受けずに、NAD又はNADPを補酵素とする脱水素酵素の基質を正確に定量することができ、安価に製造することができ、かつ携帯性に優れた、バイオセンサシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するため検討を重ねた結果、脱水素酵素を固定化してなる膜が密着された光ファイバプローブ、該光ファイバプローブに、紫外線を入射する紫外線発光ダイオード(UV−LED)、前記紫外線発光ダイオードから入射した入射光により励起された発生した蛍光を検出する検出器を用いることにより、上記目的を達成し得るという知見を得、その知見を素に営々検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明は、上記知見に基づいてなされたものであり、NAD又はNADPを補酵素とする脱水素酵素の基質を検出するバイオセンサシステムであって、前記バイオセンサシステムは、光入射用の光ファイバ及び受光用の光ファイバを接続してなる光ファイバプローブ;前記光入射用の光ファイバに、特定の波長の紫外線を入射する紫外線発光ダイオード;及び前記紫外線発光ダイオードから入射した入射光により励起されて発生した蛍光を、前記受光用の光ファイバーを通して検出する検出器を含み、前記光ファイバプローブの先端に、前記脱水素酵素を固定化してなる膜が密着されていることを特徴とするバイオセンサシステムを提供するものである。
【0010】
前記特定の波長は、好ましくは300〜370nmであり、前記蛍光の波長は、好ましくは450〜510nmである。
前記脱水素酵素の具体例としてはアルコールデヒドロゲナーゼが挙げられ、前記基質としてはエタノールが挙げられる。
前記バイオセンサシステムは、前記光入射用の光ファイバと前記光ファイバプローブとの間に、帯域フィルタを有し、前記受光用の光ファイバと前記光ファイバプローブとの間に長波長透過フィルタを有することが好ましい。
また、前記バイオセンサシステムは、前記光入射用の光ファイバと前記光ファイバプローブとの間に、帯域フィルタを有し、前記受光用の光ファイバと前記光ファイバプローブとの間に帯域フィルタを有してもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、溶存酸素の影響を受けずに、NAD又はNADPを補酵素とする脱水素酵素の基質の量を正確に定量することができる。本発明のバイオセンサシステムは、安価に製造することができ、かつ携帯性に優れたものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明のバイオセンサシステムは、NAD又はNADPを補酵素とする脱水素酵素の基質を検出するバイオセンサシステムであって、
光入射用の光ファイバ及び受光用の光ファイバを接続してなる光ファイバプローブ;
前記光入射用の光ファイバに、特定の波長の紫外線を入射する紫外線発光ダイオード;及び
前記発光ダイオードから入射した入射光により励起されて発生した蛍光を、前記受光用の光ファイバーを通して検出する検出器を含み、
前記光ファイバプローブの先端に、前記脱水素酵素を固定化してなる膜が密着されている。
【0013】
本発明のバイオセンサシステムは、NAD(酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)又はNADP(酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸)を補酵素とする脱水素酵素の基質を検出するためのシステムである。本発明のバイオセンサシステムにおいて用いられる脱水素酵素としては、NAD又はNADPを補酵素とするものであれば、特に制限はないが、例えば、アラニン脱水素酵素、アルコール脱水素酵素、アルデヒド脱水素酵素、イソクエン酸脱水素酵素、ウリジン−5’−ジホスフォ−グルコース脱水素酵素、ガラクトース脱水素酵素、ギ酸脱水素酵素、グリセルアルデヒド−3−リン酸脱水素酵素、グリセロール脱水素酵素、グリセロール−3−リン酸脱水素酵素、グルコース脱水素酵素、グルコース−6−リン酸脱水素酵素、グルタミン酸脱水素酵素、コレステロール脱水素酵素、サルコシン脱水素酵素、ソルビトール脱水素酵素、炭酸脱水素酵素、乳酸脱水素酵素、3−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素、ピルビン酸脱水素酵素、フルクトース脱水素酵素、6−ホスフォグルコン酸脱水素酵素、ホルムアルデヒド脱水素酵素、マンニトール脱水素酵素、リンゴ酸脱水素酵素、ロイシン脱水素酵素等が利用できる。また、NAD又はNADPを補酵素とする脱水素酵素が関与する酵素反応は数多く存在し様々な分野における測定方法として有用であり、さらに酸化酵素に比べて脱水素酵素を利用することで、試料中の溶存酸素の影響を回避できるという利点もある。
すなわち、本発明のバイオシステムを用いて検出することのできる基質は、上記脱水素酵素の基質となる化合物である。例えば、脱水素酵素としてアルコールデヒドロゲナーゼを用いる場合、エタノールを検出、定量することができる。
【0014】
脱水素酵素、基質と、NAD又はNADPとの酵素反応により、基質濃度に依存したNADH(還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)又はNADPH(還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸)が生成する。本発明のバイオセンサシステムにおいては、そのNADH又はNADPHの濃度を測定することにより基質の濃度を測定する。本発明においては、紫外線発光ダイオードから入射した紫外線により励起した蛍光を検出することにより、NADH又はNADPHの濃度を測定する。
【0015】
次に、本発明のバイオセンサシステムについて図面を参照しつつ説明する。図1は、本発明のバイオセンサシステム10を模式的に示す図面である。本発明のバイオセンサシステムは、光入射用の光ファイバ11と、受光用の光ファイバ11’とを接続してなる光ファイバプローブ12を有する。このようなプローブ12としては、市販されているものを用いてもよく、例えば、Ocean Optics Inc.(米国)から市販されている、2 in 1 Optical fiber assembly(BIF600−UV/VIS)とF100−9009(Ocean Optics Inc.社製)とを組み合わせたもの等を用いることができる。
【0016】
光入射用の光ファイバ11には、特定の波長の紫外線を入射する紫外線発光ダイオード14が接続されている。また、図1に示すバイオセンサシステムにおいては、紫外線発光ダイオード14と光ファイバプローブ12との間には帯域フィルター(バンドパスフィルター)16が接続されている。本発明のバイオセンサシステムにおいては、光源として紫外線発光ダイオード14を用いているため、光源として水銀ランプを用いた場合よりも、装置を簡素化することができ、また、安価で製造でき、携帯用としても用いることが可能となる。
【0017】
NADを補酵素とする脱水素酵素の場合について説明すると、NADHは340nmの紫外線を吸収するが、NADは340nmの紫外線を吸収しないという性質を利用するものであり、従って、紫外線発光ダイオードとしては、300〜370nm、好ましくは340nm付近の波長の紫外線を励起するものが用いられる。従って、図1に示すように、紫外線発光ダイオード14と光ファイバプローブ12との間には帯域フィルター16が接続することが好ましい。帯域フィルターとは、光源からの光のうち、特定の波長のものだけを透過するフィルターのことを意味し、本発明においては、例えば、330〜350nmの紫外線を通過させるものが用いられる。このような帯域フィルターとしては市販のものを特に制限なく用いることができる。
【0018】
図1に示すバイオセンサシステムにおいては、受光用の光ファイバ11’には、紫外線発光ダイオード14から入射した入射光により励起されて発生した蛍光を検出する検出器20が接続されている。検出器20は、具体的には分光光度計が用いられる。励起された蛍光は、NADHの場合、450〜510nm、より具体的には491nm付近であり、従って、図1に示すように、特定の波長よりも大きい波長の蛍光のみを透過させる長波長透過フィルター(ハイパスフィルター)18を配置することが好ましい。図1においては、400nm以上の波長の蛍光を透過させる長波長透過フィルターが用いられている。このような長波長透過フィルターとしては市販のものを特に制限なく用いることができる。
また、図1のバイオセンサシステムにおいては、長波長透過フィルター(ハイパスフィルター)18を用いているが、長波長透過フィルター(ハイパスフィルター)に変え、帯域フィルターを用いてもよい。この場合、例えば、450〜510nmの波長の蛍光のみを透過させる帯域フィルターを用いる。
【0019】
図1に示すバイオセンサシステムにおいては、検出器20で受信したデータを解析するためのコンピュータシステム22が接続されており、このようなコンピュータシステム22を接続させることにより、データの解析が容易である。
【0020】
次に、図1に示すバイオセンサシステムにおいて用いられる光ファイバプローブ12について説明する。光ファイバプローブ12は、その先端に、脱水素酵素を固定化してなる膜が密着されている。
脱水素酵素を固定化してなる膜について説明する。本明細書において、以下、酵素固定化膜と記載する場合は、脱水素酵素を固定化してなる膜を意味する。
酵素固定化膜は、膜材料である担体上に脱水素酵素が固定化されたものである。用いられる担体としては、従来より酵素を固定化するために用いられている材料のものを特に制限なく用いることができる。このような材料としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリジメチルシロキサン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン等が挙げられる。このような担体の厚みは、特に限定されないが、好ましくは100nm〜200μmであり、更に好ましくは10μm〜100μmである。
【0021】
本発明のバイオセンサシステムは、紫外線発光ダイオードから入射した励起光により励起されて発生した蛍光によりNAD又はNADの濃度を定量し、それによりNAD又はNADを補酵素とする脱水素酵素の基質を検出するものである。従って、試料中の基質と酵素固定化膜中の脱水素酵素とが、補酵素の存在下に反応する必要がある。本発明のバイオセンサシステムは、後述するように、補酵素であるNAD又はNADの存在下に酵素と基質とを反応させるため、試料溶液中に補酵素であるNAD又はNADを一緒に存在させ、この補酵素と基質とが酵素固定化膜中で酵素と反応する必要がある。従って、酵素固定化膜を構成する担体は多孔性であることが好ましい。担体の孔のサイズに特に制限はないが、通常は、直径が0.1〜1μm程度であり、好ましくは0.2μm程度でよい。また、担体の空隙率は60〜90%であることが好ましい。
【0022】
前記酵素固定化膜は、脱水素酵素が担体に固定化されてなるものであるが、酵素を、例えばポリマーと混合して担体上に塗布し乾燥して製造される。このようなポリマーとしては、従来より酵素固定化膜を製造するために用いられているものを特に制限なく用いることができ、例えば、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール又はポリビニルアルコールにSbQの光官能基を組み合わせたPVA−SbQ、SPP−H13、ホスホリルコリン基を含むポリマー等が挙げられる。
上記の中でも、ホスホリルコリン基を含むポリマーである、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)と他のモノマーとの共重合体を用いた場合、酵素を固定化した後の脱塩処理をする必要がないので好ましい。
また、脱水素酵素を担体に固定化する方法としては、他に、グルタルアルデヒドの架橋による方法を用いてもよいが、本発明においては、方法は特に限定されない。
【0023】
このような共重合体を製造するために用いられるモノマーとしては、例えば、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、アミル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、エチレングリコール(メタ)アクリレート、エチレングリコールメチルエーテル(メタ)アクリレート、ポリ(エチレングリコール)(メタ)アクリレート、ポリ(エチレングリコール)メチルエーテル(メタ)アクリレート、N−ビニルピロリドン、酢酸ビニル、γ−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリルオキシプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、メチルトリビニルメチルジエトキシシラン等が挙げられる。このような共重合体は、MPCと上記モノマーとのラジカル共重合によって得ることができる。
【0024】
上記共重合体としては、例えば、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)と2−エチルヘキシルメタクリレート(EHMA)との共重合体が挙げられ、該共重合体は、下記一般式(1)で表わされる繰り返し単位を有するポリマーである。
【0025】
【化1】

【0026】
一般式(1)において、aは0.1〜0.9であり、好ましくは0.1〜0.4である。また、bは0.1〜0.9であり、好ましくは0.6〜0.9である。
【0027】
一般式(1)で表わされる繰り返し単位を有するポリマーを得るには、公知の方法により反応させて行う。使用する溶媒としては、モノマーを溶解することのできるものであれば制限なく用いることができ、例えば、水、メタノール、エタノール、プロパノール、t−ブチルアルコール、ベンゼン、トルエン、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、クロロホルム、及びこれらの混合物などが挙げられる。
【0028】
また、重合開始剤としては、通常に用いられるラジカル開始剤を特に制限なく用いることができ、例えば、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスバレロニトリル等の脂肪族アゾ化合物や、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、加硫酸アンモニウム、加硫酸カリウム等の有機過酸化物等が挙げられる。
【0029】
一般式(1)で表わされる繰り返し単位を有するポリマーの分子量は、通常、5,000〜3,000,000程度である。
なお、一般式(1)で表わされる繰り返し単位を有するポリマーとしては、市販されているものを用いてもよく、例えば、日本油脂(株)製、Lipidure(登録商標)シリーズ等が使用可能である。
【0030】
次に、上記酵素固定化膜の製造方法について図面を参照しつつ説明する。図2は、本発明のバイオセンサシステムにおいて用いられる、酵素固定化膜及び光ファイバプローブの製造方法を概略的に示す図である。
まず、担体31に、ポリマー及び脱水素酵素の混合溶液32を塗布する。ポリマーとしては上述したものが用いられ、脱水素酵素も上述したものが用いられる。ポリマー及び脱水素酵素を溶解して混合溶液とするための溶媒としては、例えば、エタノール等が挙げられる。混合溶液中の脱水素酵素及びポリマーの濃度に特に制限はないが、通常は、脱水素酵素を、担体1cmあたり50ユニット程度、ポリマーを、担体1cmあたり1μL(濃度:10重量%)程度用いることが好ましい。次いで、担体上に塗布した混合溶液32を乾燥して酵素を担体31に固定化し、酵素固定化膜33を得る。乾燥は、通常、0〜8℃程度の温度で0.5〜6時間行なう。
【0031】
次に、光ファイバプローブの先端への酵素固定化膜の密着について説明する。図2を参照して明らかなように、光ファイバプローブ14の先端に、酵素固定化膜33を密着させ、例えば、シリコンチューブリング35により、酵素固定化膜33を光ファイバプローブ14の先端に固定する。
【0032】
次に、本発明のバイオセンサシステムを用いて、脱水素酵素の基質となる化合物を検出する方法について図1を参照しつつ説明する。
本発明のバイオセンサシステム10を用いて、脱水素酵素の基質となる化合物を検出するには、光ファイバプローブ12を試料溶液に浸す。この試料溶液には、脱水素酵素の補酵素となるNAD又はNADPが含まれている。
【0033】
光ファイバプローブ12の先端には、上述した、酵素固定化膜(脱水素酵素を固定化してなる膜)が密着しており、試料溶液中の基質が、補酵素であるNAD又はNADPと共に、酵素固定化膜中に浸入し、酵素固定化膜に固定化されている脱水素酵素と基質とが反応し、補酵素であるNAD又はNADPは、それぞれNADH又はNADPHに変化する。このようにして生成されたNADH又はNADPHを蛍光により検出する。補酵素としてNADを用いる脱水素酵素の場合について説明すると、紫外線発光ダイオード14から照射される、中心波長335nmの紫外線を、帯域フィルター16を通過させ、波長330〜350nmの紫外線のみを通過させ、励起した蛍光を長波長透過フィルター18を通過させ、400nm以上の波長の蛍光のみを通過させたのち、検出器(分光高度計)20により、波長491nmの蛍光強度を測定する。検出器20により測定したデータは、コンピュータ22によって解析される。
【0034】
本発明のバイオセンサシステムによって、NAD又はNADPを補酵素とする脱水素酵素の基質となる化合物を検出(定量)するには、最初にNAD又はNADPの標準液を用いて蛍光強度を測定し、検量線を作成した後に試料の測定を実施し、既知量のNAD又はNADPを含む試料について蛍光を測定し、消費されたNAD又はNADPの量から、試料中に含まれている脱水素酵素の基質となる化合物の量を求める。
【0035】
本発明のバイオセンサシステムは、光源として紫外線発光ダイオードを用いており、従来用いられている水銀ランプよりも安価に製造することができる。また、紫外線発光ダイオードは水銀ランプよりも重量が小さいため、携帯用として用いることも可能である。本発明のバイオセンサシステムは、例えば、微小化学物質分析システム(μTAS)に用いることができる。
【実施例】
【0036】
以下に、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、これらにより本発明は何ら制限を受けるものではない。
実施例1
以下の装置等を用いて、図1に示すバイオセンサシステムを作製した。
紫外線発光ダイオード:UVTOP BL335(Sensor Electronic Technology,Inc.社製)
光ファイバ(光ファイバアセンブリ):BF600−UV/VIS(Ocean Optics Inc.社製)
光ファイバープローブ:F100−9009(Ocean Optics Inc.社製)
帯域フィルター:(バンドパス波長:330〜350nm、朝日分光(株)製)
長波長透過フィルター:(カットオフ波長:400nm、朝日分光(株)製)
光ファイバー分光計:USB2000及びUSB4000(Ocean Optics Inc.社製)
なお、USB2000は、図1に示す検出器であり、USB4000は、紫外線発光ダイオードに接続されている。
【0037】
光ファイバプローブの先端には、1×1cmに切断したポリテトラフルオロエチレン(空隙率80%、孔のサイズ0.2μm、JGWP14225、ミリポア)をシリコーン−O−リングを用いてしっかりと密着させた。リン酸バッファー中に、上記光ファイバプローブを浸し、2分毎に、それぞれ、1、2、5、10、40、100、300、500、1000、2000、5000マイクロモル/L)となるように、NADH溶液を滴下し、蛍光強度をモニターした。
蛍光強度の測定結果のグラフを図3に示す。図3において、横軸は時間(分)を表わし、縦軸は蛍光強度を表す。図3から明らかなように、NADHの濃度が上昇すると、それに伴い蛍光強度が上昇することがわかる。この結果より、上記光ファイバプローブを備えたバイオセンサシステムを用いることにより、NADHの検出及び定量が可能であることが明らかとなった。
【0038】
次に、上述のようにして得られた蛍光強度と、NADHの濃度との関係を調べ、検量線を作製した。図4は、NADHの濃度と蛍光強度との関係を示す検量線であり、横軸はNADHの濃度(マイクロモル/L)の対数を表し、縦軸は蛍光強度を表す、図4から明らかなように、上記光ファイバプローブを備えたバイオセンサシステムを用いてNADHの濃度を測定し、検量線を作成した結果、NADHの濃度が1〜300マイクロモル/Lの範囲で直線を示すことがわかった。すなわち、NADH濃度が上記範囲である場合、上述したバイオセンサによりNADHの定量が可能であることがわかった。
なお、図4に示す検量線は以下の式によって表され、相関係数は0.993であった。
蛍光強度(カウント) = 1.97×〔NADH(マイクロモル/L)〕0.89
【0039】
実施例2
以下の操作により、酵素固定化膜を作製した。
2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)と2−エチルヘキシルメタクリレートの共重合体(EHMA)及びアルコールデヒドロゲナーゼの混合溶液(溶媒:エタノール)を、それぞれ1マイクロリットル/cm、及び50単位/cmとなるように、実施例1で用いたポリテトラフルオロエチレン膜上に塗布し、冷蔵庫(約4℃)内に3時間静置し、上記混合溶液を硬化させた。次いで、不必要なアルコールデヒドロゲナーゼをリン酸バッファーで洗浄し、脱水素酵素が固定化された膜を得た。
得られた膜を、図1に示すバイオセンサシステムにおける光ファイバプローブの先端にシリコーン−O−リングを用いてしっかりと密着させ、本発明のバイオセンサシステムとした。
【0040】
次いで、NADを含む(20ミリmol/リットル濃度)リン酸バッファーに、上記光ファイバプローブを浸し、2分毎に、それぞれ、0.1、1、5、10、50、100、500、1000ミリモル/L)となるように、エタノールを滴下し、蛍光強度をモニターした。
蛍光強度の測定結果のグラフを図5に示す。図5において、横軸は時間(分)を表わし、縦軸は蛍光強度を表す。図3から明らかなように、エタノールの濃度が上昇すると、それに伴い蛍光強度が上昇することがわかる。この結果より、上記光ファイバプローブを備えた、本発明のバイオセンサシステムを用いることにより、エタノールの検出及び定量が可能であることが明らかとなった。
【0041】
次に、上述のようにして得られた蛍光強度と、エタノールの濃度との関係を調べ、検量線を作製した。図6は、エタノールの濃度と蛍光強度との関係を示す検量線であり、横軸はエタノールの濃度(ミリモル/L)の対数を表し、縦軸は蛍光強度を表す、図6から明らかなように、本発明のバイオセンサシステムを用いてエタノールの濃度を測定し、検量線を作成した結果、エタノールの濃度が1〜100ミリモル/Lの範囲で直線を示すことがわかった。すなわち、エタノール濃度が上記範囲である場合、本発明のバイオセンサによりエタノールの定量が可能であることがわかった。
なお、図6に示す検量線は以下の式によって表され、相関係数は0.994であった。
蛍光強度(カウント) = 1.54×〔エタノール(ミリモル/L)〕0.52
【0042】
実施例2で作製されたバイオセンサシステムは、光源として紫外線発光バイオードを用いているため、従来の水銀ランプを用いたセンサと比べ、重量が軽いものであるため、携帯用としても適している。また、実施例2のバイオセンサシステムを用いてエタノールの定量を行う場合、全電力消費は150mW程度であり、従来の水銀ランプを用いる場合の約1%であった。また、本発明のバイオセンサシステムは軽量であるため、例えば、微小化学物質分析システム(μTAS)に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明のバイオセンサシステムを模式的に示す図面である。
【図2】本発明のバイオセンサシステムにおいて用いられる、酵素固定化膜及び光ファイバプローブの製造方法を概略的に示す図である。
【図3】蛍光強度の測定結果を示すグラフである。
【図4】NADHの濃度と蛍光強度との関係を示す検量線である。
【図5】蛍光強度の測定結果を示すグラフである。
【図6】エタノールの濃度と蛍光強度との関係を示す検量線である。
【符号の説明】
【0044】
10 バイオセンサシステム 11 光入射用の光ファイバ
11’ 受光用の光ファイバ11’ 12 光ファイバプローブ
14 紫外線発光ダイオード
16 バンドパスフィルター(帯域フィルター)
18 長波長透過フィルター(ハイパスフィルター)
20 検出器 22 コンピュータシステム
31 担体
32 ポリマー及び脱水素酵素の混合溶液 33 酵素固定化膜
34 光ファイバプローブ 35 シリコンチューブリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
NAD又はNADPを補酵素とする脱水素酵素の基質を検出するバイオセンサシステムであって、
前記バイオセンサシステムは、
光入射用の光ファイバ及び受光用の光ファイバを接続してなる光ファイバプローブ;
前記光入射用の光ファイバに、特定の波長の紫外線を入射する紫外線発光ダイオード;及び
前記紫外線発光ダイオードから入射した入射光により励起されて発生した蛍光を、前記受光用の光ファイバーを通して検出する検出器を含み、
前記光ファイバプローブの先端に、前記脱水素酵素を固定化してなる膜が密着されていることを特徴とするバイオセンサシステム。
【請求項2】
前記特定の波長が、300〜370nmであり、前記蛍光の波長が450〜510nmである、請求項1に記載のバイオセンサシステム。
【請求項3】
前記脱水素酵素がアルコールデヒドロゲナーゼであり、前記基質がエタノールである、請求項1又は2に記載のバイオセンサシステム。
【請求項4】
前記光入射用の光ファイバと前記光ファイバプローブとの間に、帯域フィルタを有し、前記受光用の光ファイバと前記光ファイバプローブとの間に長波長透過フィルタを有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載のバイオセンサシステム。
【請求項5】
前記光入射用の光ファイバと前記光ファイバプローブとの間に、帯域フィルタを有し、前記受光用の光ファイバと前記光ファイバプローブとの間に帯域フィルタを有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載のバイオセンサシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−168671(P2009−168671A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−8191(P2008−8191)
【出願日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【出願人】(504179255)国立大学法人 東京医科歯科大学 (228)
【出願人】(506209422)地方独立行政法人 東京都立産業技術研究センター (134)
【Fターム(参考)】