説明

バイオセンサセル及びバイオセンサアレイ

それぞれのバイオセンサセル(10)が感知ゾーンを備えるバイオセンサセル(10)及び複数のバイオセンサセル(10)を備えるバイオセンサアレイ。第1の感知電極(24)、第2の感知電極(25)、及び感知電極(24、25)を隔てるギャップ(27)が、感知ゾーン内に配列される。第1の感知電極(24)は、ギャップ(27)を使って第2の感知電極(25)から電気的に絶縁される。捕捉分子(28)は、感知ゾーン内に固定化され、電界効果トランジスタ(16)は、ゲート電極(19)、ソース電極(17)、及びドレイン電極(18)を有し、第1の感知電極(24)は、電界効果トランジスタ(16)のゲート電極(19)に電気的に接続され、第2の感知電極(25)は、ゲート電圧に電気的に接続可能である。本発明は、さらに、生体分子などの標的分子を検出する方法を実現する。

【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
[001]本発明は、一般に、生体分子エレクトロニクスに関するものであり、より具体的には、DNA(デオキシリボ核酸)鎖、タンパク質、及び他の種類の検体などの分子の検出に使用されるバイオセンサセル及びバイオセンサアレイに関するものである。
【発明の背景】
【0002】
[002]バイオテクノロジー及び医学的応用の分野では、与えられた試料内の特定のDNA配列の並行する検出及び分析を実施するために、典型的には専門機器が使用される。ここ10年間、複数の個別DNAセンサを含む、DNAセンサ及びDNAアレイが出現するまで、DNA分析には重要な進歩が見られなかった。これらのDNAアレイは複数のDNA配列の同時検出を実行することを可能にし、これにより、分析時間が短縮され、自動的配列決定が容易になる。
【0003】
[003]しかし、これらのバイオセンサを実験室からエンド ユーザーの手に移すために、高速で、小型化で、低コストの、高い性能(特に高感度及び高い選択性)を発揮することができるデバイスが必要である。特に、新しい信号増幅手段は、増幅されていない試料上で、及び単細胞のゲノム解析において、高い感度(DNAの少数の複製に至るまで)を達成するうえで不可欠である。
【0004】
[004]市販の最新技術によるDNAマイクロアレイチップシステムは、大部分、DNA検出用の光学技術に依存している(2001年のNPL Report COAM 2のBrownらの「Review of Techniques for Single Molecule Detection in Biological Application」という論文を参照)。このようなDNAマイクロアレイチップシステムの設計では、光源、センサ、及び光検出器などのシステムの異なるコンポーネントを統合する作業が複雑であるため、スケーリング及び自動化が重要な課題となる。さらに、光学技術及び他の検出技術を使用してDNAセンサ及びDNAアレイを開発する際の主要な制限因子は、デバイスの感度のレベルである(光検出手段の現在達成可能な感度は、約10−15M、つまり、10−15mol/Lと推定される)。理想的には、バイオセンサは、分子1,000個未満の検出感度(つまり、約10−21Mの感度)で微量生体分子を検出できなければならない。
【0005】
[005]ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)の一般に知られている技術を介して試料中のDNAの量を増やすことにより光学センサの感度を高めることが可能であるが、PCRを実行する手順は、残念なことに、複雑であり、費用が高く、時間がかかり、汚染しがちであることが知られており、そのため、DNA検出時に誤った結果をもたらす増幅プロセスに誤差を持ち込む可能性が高くなる。このような理由から、PCR増幅を必要としないDNA用超高感度バイオセンサを備えることが望ましい。さらに、PCR増幅を回避しても、自動化分子診断システムの設計及びスケーリングが簡素化され、これにより、製造コストが低減される。
【0006】
[006]一般的な分子診断システムで要求される比較的高価で、複雑な光学的設備を避けて、代わりに、半導体技術に基づく電気的検出法に頼る、電子的読み出し技術を使用すれば、原理上、よりロバストな、またより容易な運用が可能になるであろう。また、バイオセンサのスケーリング、及び製造可能性に関して現在の超大規模集積回路(VLSI)半導体技術を活用することもできる。例えば、半導体技術から知られているナノ構造化技術を使用することで、生産コストを低く維持しながら高い感度を備える小型化されたフォーマットが実現される。これらの理由から、電子バイオセンサの開発がますます重要性を帯びてきている。
【0007】
[007]生体分子を電子的に検出するために開発された電子バイオセンサは、一般に、容量バイオセンサ、誘導バイオセンサ、及び抵抗バイオセンサの3つのカテゴリにグループ分けされうる。キャパシタベースの容量バイオセンサは、例えば、米国特許第5,532,128A号及び欧州特許第1450156A1号において開示されており、そこでは、キャパシタセンサの容量は、標的生体分子がいつ存在するかにより変化する。電界効果トランジスタ(FET)ベースの容量バイオセンサは、例えば、米国特許第5,466,348A号において開示されており、そこでは、検出すべき生体分子は、FETのゲート電極に電気的に束縛され、結合され、これにより、FET内にチャネルを発生する電界を変化させる。
【0008】
[008]誘導バイオセンサの実施例は、米国特許出願第2002/0164819A1号において開示されている。抵抗バイオセンサの実施例は、米国特許第4,794,089A号、第5,137,827A号、及び第5,284,748A号において開示されており、そこでは、抵抗バイオセンサは、感知部位のアレイを備え、それぞれの感知部位は、ギャップで隔てられた2本の感知電極を備える。抗原の層が、ギャップ内の非導電性基部上にコーティングされ、導電性ナノ粒子に結合されている抗体標的は、抗原の層と抗体との間の結合反応を通じて検出されうる。そうする際に、導電性粒子は、感知部位の抵抗を変化させる凝集体を形成する基部に結合される。
【0009】
[009]DNA選択に抵抗センサを使用することに関する他の開示は、国際公開第01/00876A1号に見ることができる。抵抗変化の検出に依存する核酸の検出は、Mollerら(2001年のLangmuir、第17巻、54,265ページ)で説明されている。この方法のさらなる開発は、2002年のScience、第295巻、1,503から1,506ページにあるParkらの論文で説明されおり、点突然変異(SNP−一塩基変異多型)の弁別が、10倍高い感度レベル(つまり、約10−13M)及び現在のゲノム検出システムに示されているものよりも100,000倍高い特異度レベルで検出された。
【0010】
[010]Braunら(Nature、第391巻(1998年)775)は、2つの分離された電極上に配置されている表面結合オリゴヌクレオチドを使用してDNAハイブリダイゼーション事象を検出するデバイスを説明している。相補的DNA分子がセンサ内に導入されると、DNA分子の一端が、一方の電極上のオリゴヌクレオチドに結合され、他端が、他方の電極上のオリゴヌクレオチドに結合される。言い換えると、DNA分子が、両方の電極の間に伸び、それにより、それらの間に物理接続を確立する。DNA分子を介して一方の電極から他方の電極へ検出可能な電流が流れるために、プラスに帯電した銀イオンは、マイナスに帯電したDNA分子に結合され、それにより、銀イオンは元素銀に還元される。銀が存在すると、電極間の導電性が高くなって、電極間に電流が流れ、それによりDNA分子が検出される。
【0011】
[011]2004年のMicroelectronic Engineering、第73〜74号、887〜892ページでMalaquinらは、60nmのギャップの互いにかみ合ったナノ電極の加工、及び公称直径100nmを有する約35個の金ナノ粒子により引き起こされるコンダクタンス変化の測定について説明している。約90GΩの標準抵抗は、単一の金ナノ粒子により閉じられたギャップについて報告された。この場合、銀は、Au粒子上に付着し、電極間の導電性を高めるので、従来技術、例えば、Parkらの論文(上記)で説明されている銀強化プロセスを使用するのは難しい。電極間のギャップが非常に小さいので、銀強化などの追加の金属付着プロセスは、電極間にショートを容易に引き起こし、その結果、誤った信号を発生させる。
【0012】
[012]しかし、金属ナノ粒子ベースの抵抗バイオセンサは、コンダクタンス、電流、及び電位などの電極間の検出可能な特性を直接測定する。少量のDNAハイブリダイゼーション事象を検出するために使用されるナノギャップ電極の場合(Malaquinら、2004年のMicroelectronic Engineering、第73〜74巻、887〜892ページ)、読み出し信号は、前に述べたように、測定するのが非常に難しいため(抵抗が極端に高く、電極間の漏れ電流が低いので)、1)検出信号を増幅する、2)信号対雑音比を改善し、3)オンチップの電圧及び電流レベルを安定化する、4)アナログ信号のグラウンドを論理デバイスのグラウンドから分離する、5)信号を比較、対照する、6)信号を2値化し、再構成する、7)信号とメモリに格納されている値とを比較する、といったことのために複雑な回路が必要である。このような信号を検出するため、回路設計及び加工には要求条件が課せられ、高密度感知部位の形成が極端に複雑になり、また実用的に困難になる。
【0013】
[013]1つの基板上の複数の個別にアドレッシング可能な感知部位のレイアウト構成を有するバイオセンサで生じている他の問題(上述の米国特許第4,794,089A号、第5,137,827A号、及び第5,284,748A号で開示されているような)は、異なる感知部位間の「クロストーク」の発生である。複数の感知部位が、互いに接近した状態で導通した場合、寄生導電経路が、実際の感知部位の隣に形成しうる。複数の隣接する感知部位が導電性である場合(つまり、ギャップが閉じている)、グラウンドへの寄生並列経路が形成される。これらの寄生導電経路は、伝導される電流を増やし、正確な抵抗測定を歪ませる。この問題は、外部電気回路では解消できず、数百個、或いは数千個の導電性感知部位がアレイ上に接近して見つかった場合に重大なものとなりうる。このような理由から、上述の米国特許第4,794,089A号、第5,137,827A号、及び第5,284,748A号で説明されているレイアウト構成は、多数の密集導電性感知部位を検出するのに適していない。
【0014】
[014]抵抗バイオセンサにおける「クロストーク」の問題を解消するために、採用されたアプローチの1つが、ダイオードの使用である。国際公開第99/57550A1号パンフレットでは、それぞれの感知部位に接続されているダイオードを備える多重アレイ検出デバイスを開示している。これらのダイオードは、異なる感知部位間の「クロストーク」を防止し、検出デバイスの感度に有害な電流を最小にするために使用される。しかし、少量のDNAハイブリダイゼーション事象を検出するためにナノギャップ電極が使用される場合(Malaquinら、2004年のMicroelectronic Engineering、第73〜74巻、887〜892ページ)、少数の単一の金ナノ粒子により閉回路をなすナノギャップに対する標準抵抗は、多い−約1から約90GΩである。このような高抵抗は、0.13μm技術におけるダイオード接触抵抗に匹敵し、クロストーク問題を引き起こす。その結果、国際公開第99/57550A1号パンフレットで説明されているレイアウトは、高感度DNAバイオセンサの上述の「クロストーク」問題を解消するためには使用できない。
【0015】
[015]したがって、本発明の目的は、上述の従来技術の欠点の一部を解消する代替えバイオセンサを実現すること、特に、「クロストーク」を防止するとともに、単分子レベルで高い感度(つまり、約10−21Mの感度)を実現し、高密度(感知アレイ内で1,000×1,000感知部位を超える)を実現し、電気的検出回路を簡素化することである。
【発明の概要】
【0016】
[016]本発明の第1の態様によれば、感知ゾーンが配列されている基板を備えるバイオセンサセルが実現される。感知ゾーン内に配列されるのは、第1の感知電極、第2の感知電極、及び第1の感知電極を第2の感知電極から分離するギャップである。第1の感知電極は、ギャップにより第2の感知電極から電気的に絶縁される。捕捉分子は、感知ゾーン内に固定化される。ゲート電極、ソース電極、及びドレイン電極を有する電界効果トランジスタが、バイオセンサセル内に存在し、第1の感知電極は電界効果トランジスタのゲート電極に電気的に接続され、第2の感知電極はゲート電圧に電気的に接続可能である。
【0017】
[017]本発明の第2の態様によれば、本発明の第1の態様による複数のバイオセンサセルを備えるバイオセンサアレイが実現される。
【0018】
[018]本発明の第3の態様は、標的分子を検出する方法を対象とし、この方法は本発明の第1の態様によるバイオセンサセルを標的分子を含む疑いのある試料に接触させることを含み、標的分子を前記捕捉分子のどれか1つに結合することは、測定にかかる形で、バイオセンサにより生成される少なくとも1つの信号を変化させる。少なくとも1つの信号の測定は、標的分子の捕捉分子への前記結合が発生したかどうかを判定するために行われる。
【0019】
[019]バイオセンサセルに関する以下のコメントは、本発明のバイオセンサアレイ及び方法に対応する形で有効であり、その逆もいえる。
【0020】
[020]本発明のバイオセンサセルは、複数の利点を備え、そのうちの1つは、低いレベルのハイブリダイゼーション(核酸が捕捉及び標的分子として使用される場合)又は複合体形成(2つの結合パートナーのうちの少なくとも一方が核酸でない場合、例えば、核酸結合又はハプテン結合抗体が捕捉分子として使用される場合)が、バイオセンサの構造上、導電性粒子に抱合されている標的分子の少量のハイブリダイゼーションにより引き起こされる小さな漏れ電流に対し非常に敏感であるため、検出できるという点である。本発明の他の利点は、本発明のバイオセンサセルがバイオセンサアレイの形で実装される場合に、バイオセンサアレイ全体にわたり数千回もの独立した測定を行うことができ、したがってハイブリダイゼーションが発生したかどうかを示す統計的に有意な読み取り値が得られるという点である。
【0021】
[021]本出願の文脈において、「捕捉分子」という用語は、一般に、「標的分子」に向かう選択的親和性を有する分子を指す。「捕捉分子」という用語は、「プローブ」、つまりプローブ分子という用語と取り替えて用いることができ、「標的分子」という用語は、「検体」又は「試料生体分子」という用語と取り替えて用いることができる。「捕捉分子」という用語は、例えば、核酸、タンパク質、炭水化物類、低分子量化合物、及び標的分子に対する親和性を示し、注目する標的分子と複合体を形成しうる他の分子を包含する。核酸の例としては、デオキシリボ核酸(DNA)、リボ核酸(RNA)、又はペプチド核酸(PNA)分子がある。捕捉分子として使用できるタンパク質の例としては、抗体及びそのフラグメント、限定はしないが、Besteら、Proc.Natl.Acad.Soi.USA 96、1999年、1898〜1903ページ、国際公開第99/16873号パンフレット、国際公開第00/75308号パンフレット、国際公開第03/029471号パンフレット、国際公開第03/029462号パンフレット、国際公開第03/029463号パンフレット、国際公開第2005/019254号パンフレット、国際公開第2005/019255号パンフレット、又は国際公開第2005/019256号パンフレットで説明されているようなリポカリン突然変異タンパク質、いわゆるグルーボディ(国際公開第96/23879号パンフレットを参照)、アンキリンの足場(Hryniewicz−Jankowska Aら、Folia Histochem.Cytobiol.40、2002年、239〜249ページ)又は結晶の足場(国際公開第01/04144号パンフレット)に基づくタンパク質など、抗体に似た特性を有する人工タンパク質(与えられた標的に向かう結合親和性を有するように生成されうることを意味する)がある。捕捉分子として使用されうるタンパク質の他の例は、タンパク質A、アビジン、又はストレプトアビジンがあり、これらは、一般に、生化学において、Fo鎖(タンパク質A)又はビオチン若しくはビオチン類似体(アビジン、ストレプトアビジン)への特異結合を介して注目する標的分子を固定化するために使用される。好適な捕捉分子である低分子量化合物の例は、ハプテン又はそれぞれストレプトアビジン及びジゴキシゲニン結合抗体に特異結合するため一般に標識としてであるビオチン又はジゴキシゲニンなどの分子である。捕捉分子として使用されうる炭水化物類の例は、レクチンである。対応する標的分子又は検体は、生体組織だけでなく、環境試料から得られた分子からも採取できる。標的分子の例としては、核酸(例えば、標的遺伝子又はmRNA転写)、タンパク質、炭水化物類、ペプチド、代謝産物、他の小分子(例えば、化学汚染物質又はダイオキシン若しくはDDTなどの有毒物質)などの巨大生体分子とともに、使用されている捕捉分子により結合された表面標的分子上に載る細胞又は有機体全体などの巨大分子生物学的構造が挙げられる。本発明の範囲内にある捕捉分子及び標的分子の他の好適な組み合わせは、例えば、国際公開第99/57550A1号パンフレット、Nature、第391巻(1998年)775ページ、Nature、第403巻(2000年)635ページで開示されている方法を含む実施例である。複合体形成を容易にするために、標的分子は、例えば、上述のタンパク質に対するリガンドとして作用するビオチン又はジゴキシゲニンなどの小分子化合物で標識することもできる。
【0022】
[022]捕捉分子が配列されている感知ゾーンは、結合事象の検出が検出される第1及び第2の感知電極に近い領域を指す。感知ゾーン内に配列されるのは、第1の感知電極、第2の感知電極、及び電極同士を分離するギャップである。分析すべき標的分子は、導電性粒子への付着により修飾されうる。感知領域は、それらの標的分子が感知ゾーン内の捕捉分子に結合されたときに、導電性粒子が両方の感知電極に直接接触するか、又は2つの感知電極の間で電流が流れる経路を少なくとも形成するように配列/選択される。電流(これ以降、「漏れ電流」と呼ぶ)が、2つの電極の間を流れると、電界効果トランジスタ(FET)のゲート電極が帯電される。この荷電状態で、FETがオンになり、陽性検出を示す信号を送る。このようにして、感知電極間の導電性は、標的分子が結合されると測定にかかる形で変化する。この変化は、電界効果トランジスタにより検出することができ、結合事象の検出が可能になる。
【0023】
[023]感知電極間の漏れ電流が電界効果トランジスタを介して容易に検出できるように、導電性粒子の直径は、好ましくは、第1の感知電極と第2の感知電極との間のギャップのサイズに相当するように、特に約10nmから約150nmの間に収まるように選択される。いくつかの実施形態では、導電性粒子の直径は、ギャップの幅よりも小さい。導電性粒子のサイズをギャップよりも小さくすべきである場合、これらは、銀又は金などの他の金属材料でコーティングして、感知電極をショートするように導電性粒子のサイズを増大又は拡大するとよい。
【0024】
[024]標的分子は、付着している導電性粒子が第1の感知電極を第2の感知電極に接続することができるかぎり感知領域内の任意の位置に配置することができる。一実施形態では、捕捉分子は、2つの感知電極を隔てるギャップ内に固定化される。それとは別に、又はそれと同時に、捕捉分子は、第1及び/又は第2の感知電極の一方又は両方のいずれかの表面上に固定化される。
【0025】
[025]代替えの一実施形態では、標的分子は、導電性粒子の付着により修飾されない。そのような標的分子が感知ゾーン内に配置されている捕捉分子に結合された後、標的分子の導電性を増大しうる試薬が加えられる。このような試薬は、標的分子に結合されうる、またその後、元素金属に還元されうる金属イオンを含むことができ、これにより感知電極間を電流が流れ、電界効果トランジスタにより電流が検出される。このような試薬の一実施例は、Braunら(上記)で説明されている銀強化プロセスで使用されうる銀イオンを含む。
【0026】
[026]特定の標的分子の検出が行われるためには、バイオセンサセル上に配列されている捕捉分子は、好ましくは、試験される試料内に存在することが疑われる標的分子との選択的親和性を有する。非結合事象の基準読み取り値を設定することが望ましい場合、バイオセンサセルは、さらに、標的分子との選択的親和性を有しない捕捉分子を含むことがあり、したがって、非結合事象から生じる周辺信号を測定することができる。これらの信号は、本当の信号を偽りの信号又は不正確な信号から区別するために使用されうる非結合事象の推定読み取り値を与える「基準」信号とも呼ばれる。
【0027】
[027]他の実施形態では、第1の感知電極と第2の感知電極は、くし形であり、互いに向かい合い、互いに係合する複数のフィンガーを持つ。くしのこれらのフィンガーは、第1の感知電極のフィンガーが、それぞれ、第2の感知電極のフィンガーに隣接して配列されるように交互に並べて配列されうる。それぞれのフィンガーは、約0.1μmから約10μmまでの範囲内の幅を取りうる。さらに、第1の感知電極及び第2の感知電極は、それらの間のギャップが、数十ナノメートルから数百ナノメートル、特に約10nmから約150nmまでの範囲内の幅を有する。それとは別に、第1の感知電極及び第2の感知電極は、交互に並べて配列されている複数の第1の感知フィンガー及び複数の第2の感知フィンガーを備える互いにかみ合う電極配列に含むことができる。第1の感知電極及び第2の感知電極は、他の代替え形状を有する場合があり、くし形に限定されないことに留意されたい。例えば、第1の感知電極は、第2の感知電極が配列されているプラットフォーム(これ以降、「プラットフォーム配列」と呼ぶ)を備えることができる。第2の感知電極は、第1の接続部材と第2の接続部材との間に接続された複数のフィンガーを備えることができ、それとは別に、第2の感知電極は、第1の感知電極上に蛇行形構成で配列されたフィンガーを備えることができる。さまざまなプラットフォーム配列において、第2の感知電極は、誘電体部分と導電性部分とを備え、導電性部分が誘電体部分により第1の感知電極から電気的に絶縁されるように配列される。
【0028】
[028]第1の感知電極及び/又は第2の感知電極は、例えば白金、チタン、銅などの導電性材料を含むことができる。現在好ましい材料は、金であるが、それは、電気抵抗が低く、化学的特性が安定しているからである。同様に、導電性粒子も、金で作ることができる。
【0029】
[029]他の実施形態では、バイオセンサセルは、さらに、電界効果トランジスタが埋め込まれた基板を備える。この基板は、第1の感知電極と第2の感知電極との間のギャップ内に生体適合結合層で覆われうる基板面を有し、生体適合結合層は、捕捉分子をその基板面に結合することができる。使用できる生体適合層の例として、コラーゲン(I型、III型、又はV型)、キトサン、ヘパリン、さらには、フィブロネクチン、デコリン、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、ヘパラン硫酸、及び増殖因子(TGFβ、bFGF)が挙げられる。生体適合層の他の例としては、例えばチオール反応部分とアミノ反応部分の両方を担持するヘテロ二官能性架橋分子を介して捕捉分子として作用するチオール修飾DNAオリゴマーが固定されうるアミノシラン膜がある。
【0030】
[030]本発明のバイオセンサセルは、試料上で同時に多数の測定を実行できるようにスケールアップすることができる。本発明のバイオセンサのスケーラビリティは、大きな試料母集団に対し統計的に有意な測定を確定するのに有用である。この目的に従って、本発明の第2の態様は、複数のバイオセンサセルを備えるバイオセンサアレイを対象とする。バイオセンサセルは、例えば、正則行列の形でバイオセンサアレイ内に配列できる。一実施形態では、それぞれのバイオセンサセルの電界効果トランジスタのソース電極は、グラウンドに電気的に接続され、それぞれのバイオセンサセルの電界効果トランジスタのドレイン電極は、対応するビットラインに電気的に接続される。それに加えて、第1の感知電極は、電界効果トランジスタのゲート電極に電気的に接続可能であり、それぞれのバイオセンサセルの第2の感知電極は、対応するワードラインを介してゲート電圧に電気的に接続可能である。ゲート電圧は、ロウドライバ及びロウアドレスデコーダを備えることができる。バイオセンサアレイは、さらに、対応するビットラインに電気的に接続されている複数の信号増幅器を備えることができる。対応するビットライン及び対応するワードラインは、導電性材料、例えば、金、銀、銅、クロム、及びアルミニウムからなる群から選択された金属で作ることができる。
【0031】
[031]本発明の利点は、複数のバイオセンサセルが高密度バイオセンサアレイ内に配列される場合に生じる「クロストーク」をバイオセンサアレイで防止するという点である。さらに、バイオセンサアレイ用の増幅回路及びアドレッシング回路は、高い信号対雑音比及び少量のハイブリダイゼーションに対する高い感度を実現しながら極端に簡素化できる。
【0032】
[032]バイオセンサアレイの上述の実施形態は、試料中に標的が存在するかどうかを示す2値の定性的結果、つまり、「はい、又はいいえ」の結果を出力するように適合されうる。他の実施形態では、バイオセンサは、バイオセンサ内で生じるハイブリダイゼーション事象の量を定量的に推定するように適合されうる。この目的のために、それぞれのバイオセンサセルは、第2の感知電極を対応するワードラインに電気的に接続する非線形電気的コンポーネントを備えることができる。このような非線形コンポーネントは、例えば、ダイオードとすることができ、このダイオードを通じて、例えば連続パルス発生器によって備えられるAC電源が第2の感知電極につながる。AC電源は、標的分子上の導電性粒子により形成されるを導電経路を通してゲートキャパシタを充電する。導電度が高い場合、電極ギャップ間の導電度はハイブリダイゼーション事象の量とともに高まるという事実から、トランジスタがオンになるようなレベルにゲートキャパシタが充電される時間が短くなる。したがって、標的分子と捕捉分子との間のハイブリダイゼーション又は複合体形成の量が多いほど、感知電極間の導電度が高くなる。バイオセンサ内の電界効果トランジスタをオンにするのにかかる時間を計測することにより、バイオセンサ内で生じるハイブリダイゼーション事象の量を定量的に、大ざっぱに推定することができる。この実施形態で使用されうるダイオードとしては、ツェナーダイオード、バラクターダイオード、及びスイッチングダイオードが挙げられる。
【0033】
[033]実用のため配備される場合、バイオセンサアレイは、加工コストが少なくなるようにバイオセンサアレイが使用される目的に応じて構造的に差別化できる。一実施形態では、バイオセンサアレイは、本発明の複数のバイオセンサセルを有するが、内蔵FET及び増幅回路を備えない、感知チップ内に備えられる。これらの感知チップは、生体試料の採取のため広く配備でき(例えば、遠隔地にいるヒト母集団の一部から血液試料を採取するため)、またその後、試験のため実験室に戻されるモバイルチップとして機能することができる。実験室で試験を実施するために、本発明で定義されているようにバイオセンサセルに到達するようにFETセンサモジュールをチップに接続することができる。FETを感知チップから分離する1つの利点は、Si単結晶の代わりに、安い材料、例えば、ガラスを感知チップ用の基板として使用できるためチップ当たりのコストを下げることができることにある。他の利点は、FETセンサの損傷を潜在的に引き起こすおそれのある試料溶液とFETセンサとの間の接触を避けられることである。
【0034】
[034]代替えの実施形態では、バイオセンサアレイは、本発明の複数のバイオセンサセルを有し、一揃いの内蔵FET/アドレッシング及び増幅回路を備える、試験チップ内に備えられる。DNA固定化/ハイブリダイゼーションは、感知チップでのみ実行される。
【0035】
[035]本発明の第3の態様によれば、本発明のバイオセンサセルは、対応するさまざまな捕捉分子を使用するさまざまな標的分子の検出、定量化、及び定性分析に使用されうる。バイオセンサセルの主な用途の1つは、核酸分子の検出である。標的分子は、例えば人体若しくは動物に由来するものであってよい。ウイルス又は細菌感染により引き起こされる人体の特定の病的状態を判定する必要がある場合、バイオセンサセルを使用して、例えば、患者の血液試料中に存在するウイルス性又は細菌性生物に属す核酸配列の存在を検出することができる。バイオセンサセルは、さらに、先天性症状、例えば、特定の遺伝子の存在により識別可能な、遺伝的異常又は特定の疾病に対する遺伝性素因の検出にも使用されうる。バイオセンサは、さらに、食物又は天然源、例えば、海又は河川の微生物個体群を検出するために使用することもできる。
【0036】
[036]このような状況において、核酸分子は、例えば(長い鎖の)DNA分子及びRNA分子、PNA分子、cDNA分子、或いは、例えば、10から50個までの塩基対(bp)、特に10から30個までの塩基対を含むより短いオリゴヌクレオチドであると理解される。核酸は、二本鎖でありうるが、少なくとも一本鎖領域を持つか、又は例えば、検出のための先行する熱変性(鎖分離)の結果として一本鎖として存在する可能性がある。
【0037】
[037]本発明が、所定のヌクレオチド配列の核酸「標的」分子の検出に使用される場合、これらは、好ましくは一本鎖形態で検出される、つまり、適切であれば検出に先立って、例えば変性により一本鎖に転換される。この場合、使用される捕捉分子は、一本鎖領域に相補的な配列を有する核酸分子である。次いで、これらの核酸捕捉分子は、核酸への捕捉分子のハイブリダイゼーションが検出されるのを妨げる分子間構造を形成しない限り、約20bpから約50bpを有する核酸分子であるか、或いは長さが最大約500bp以上であるより長いヌクレオチド配列を持つことができる。
【0038】
[038]バイオセンサセルを使用することで、個々の測定系列で単一の種類の核酸分子を検出することが可能になるだけでなく、むしろ、同時に或いは連続して複数の核酸分子を検出できる。この目的のために、本発明の第2の態様によるバイオセンサアレイは、それぞれ検出すべき特定の核酸分子に対する(特異)結合親和力を有する複数の種類の捕捉分子と併せて使用することができ、固定化ユニット上に結合されることができ、及び/又は複数の固定化ユニットを使用することができ、ただ1つの種類の捕捉分子が前記ユニットのそれぞれに結合される。
【0039】
[039]一実施形態では、本発明のバイオセンサセルは、例えば米国特許第5,712,385号で説明されているように人体内の、微生物、例えば、エイズを引き起こすHIV、又は鳥インフルエンザを引き起こすH5N1などのウイルス性生物の存在により引き起こされる抗原の検出に使用される。捕捉分子は、与えられた試料中の微生物の存在及び/又は量についてアッセイを実行するための捕捉分子又はプローブとして作用する抗体を含むことができる。この文脈において、「抗体」という用語は、可能な限り最も広い意味で理解されるべきであるが、標的抗原に特異的に結合する限り、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、及び抗体フラグメントを特に対象とする。抗体をバイオセンサセルの表面に付着させるために、バイオセンサセル内に存在する生体適合層上に抗体を直接固定化することができる。それとは別に、抗体は、生体適合層に向かう親和力を示すアンカーリガンドを組み込むことにより修飾されうる。好ましくは、抗原分子は、導電性ナノ粒子、最も好ましくは金ナノ粒子で標識され、これにより、複合体形成の検出が容易になる。
【0040】
[040]他の実施形態では、バイオセンサセルは、リボソームRNA(これ以降R−RNAと呼ぶ)、トランスファーRNA(これ以降t−RNAと呼ぶ)、又は他のRNAを含む細菌性又はウイルス性生物、そのような生物のメンバ又は大サイズ、中サイズ、若しくは小サイズのカテゴリ又は分類群、及びR−RNA又はt−RNAを含む未だ知られていない生物を特異的に、また敏感に検出し、定量化するために使用される。このような生物の検出は、例えば、米国特許第5,723,597号で説明されている。本発明のバイオセンサセルを使用して検出されうるRNAを含む細菌の例としては、限定はしないが、大腸菌、クラミジア、サルモネラ菌、マイコプラズマ肺炎菌、真正細菌、レジオネラ菌、マイコバクテリウム、緑膿菌、及びクリプトコックスネオフォルマンスが挙げられる。
【0041】
[041]さらに他の実施形態では、本発明は、人体の遺伝的異常の検出に使用される。例えば、本発明は、この疾病の危険を承知の上で鎌状赤血球貧血の出生前診断に使用できる。簡単に言うと、鎌状細胞突然変異をもたらすことが疑われる特異βグロビンDNA配列が、最初に得られ、導電性ナノ粒子、好ましくは金ナノ粒子で標識されうる。正常βAグロビン遺伝子配列との合成DNA配列相同性は、試料標的配列のアッセイを実行するためのプローブとして使用できる。正常βA又は異常βSグロビン遺伝子配列の存在は、バイオセンサにより測定された信号の差で検出され、それにより、その条件が試料中に存在するかどうかを判定することができる。
【0042】
[042]要約すると、本発明は、1)異なるバイオセンサセル間の「クロストーク」問題を解消し、2)少量のDNAハイブリダイゼーション事象を検出する高い感度を実現し、3)増幅回路、アドレッシング回路などの回路類を著しく簡素化し、4)信号対雑音比を改善するバイオセンサアレイを実現する。本発明には、臨床及び実験室プロセスにおける広範な用途が考えられ、例えば、mRNA発現分析、SNP(単一ヌクレオチド多形)分析、再配列決定、全ゲノムコピー数分析、DNAタンパク質相互作用、タンパク質間相互作用、及び抗体抗原同定を含む。
【0043】
[043]本発明のこれらの態様は、以下の説明、図面、及び限定されない実施例を考慮してさらに完全に理解される。
【0044】
[044]本発明を理解するために、また本発明をどのように実用できるかを示すために、付属の図面を参照しつつ、限定されない実施例のみを使って好ましい実施形態を説明することにする。
【好ましい実施形態の詳細な説明】
【0045】
[055]本発明によるバイオセンサセル10を通る断面が、図1に示されている。バイオセンサセル10は、基板11を備える。基板11は、一連の半導体層12、第1の電気的絶縁層13、及び第2の電気的絶縁層14を含む層配列を備える。基板11の層配列は、第2の電気的絶縁層14を封じ込める基板面15で終端する。シリコン(Si)は、好ましくは、半導体層12を形成するために使用され、第1及び第2の電気的絶縁層13、14の材料として二酸化ケイ素(SiO)を使用する。しかしながら、他の好適な半導体及び電気的絶縁材料も、それぞれ、基板11内の層12から14に使用されうる。
【0046】
[056]電界効果トランジスタ(FET)16は、基板11に、特に、半導体層12及び第1の電気的絶縁層13内に埋め込まれる。FET16は、半導体層12内に配列され、半導体層12の好適なドーピングにより形成されるソース及びドレイン領域17、18、並びにソース領域17とドレイン領域18の上に、またその間に横方向に第1の電気的絶縁層13内に配置され、第1の電気的絶縁層13の残り部分がゲート領域19の電気的絶縁のためゲート領域19と半導体層12との間に保持されるように配置されているゲート領域19を備える。本出願では、ソース、ドレイン、及びゲート領域17、18、19は、ときには、それぞれ、ソース、ドレイン、及びゲート電極でも示されている。
【0047】
[057]半導体層12では、ゲート領域19の下のソース領域17とドレイン領域18との間の領域は、FET16のチャネル領域として作用する。ソース及びドレイン領域17、18は、対応するソース及びドレイン接続部21、23を介してそれぞれのソース及びドレイントラック導体20、22に電気的に接続される。ソース及びドレイントラック導体20、22は、第2の電気的絶縁層14内に配列される、つまり、基板11内にも埋め込まれる。したがって、ソース及びドレイン接続部21、23は、第1の電気的絶縁層13を通して伸びている。ゲート領域19は、ゲート接続部26を介して基板面15上に配列されている第1の感知電極24に電気的に接続される。したがって、ゲート接続部26は、ゲート領域19から第1及び第2の電気的絶縁層13、14を通して第1の感知電極24に伸びる。さらに、第2の感知電極25は、相隔てて配列され、基板面15上の第1の感知電極24から電気的に絶縁される。したがって、第1の感知電極24と第2の感知電極25との間にギャップ27が存在する。ギャップ27は、第1の感知電極24と第2の感知電極25との間の基板面15を露出させる。第2の感知電極25は、FET16のゲート領域19を、1Vから5Vまでの範囲(どの技術ノードが実装されるかによる)、特に0.6Vから1.5Vまでの範囲内のゲート電圧V19で充電することができる所定のゲート電圧発生器(図に示されていない)に電気的に接続される。第1及び第2の感知電極24、25のさらなる詳細について、以下で説明する。
【0048】
[058]第1の及び第2の感知電極24、25用の材料として金(Au)を使用するのが現在のところ好ましい。しかしながら、第1及び/又は第2の感知電極24、25に他の好適な導電体材料を使用することができる。さらに、第1及び/又は第2の感知電極24、25に使用される導電体材料と場合によっては異なる導電体材料をゲート接続部26に使用することもできる。ソース及びドレイントラック導体20、22並びにソース及びドレイン接続部21、23は、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、クロム(Cr)、タングステン(W)、及びアルミニウム(Al)からなる群の材料などの導電体材料を含むことができる。
【0049】
[059]上面図から(図3Bに示されているように)、第1及び第2の感知電極24、25は、好適な形状を取りうる。本発明によれば、上面図内の第1及び第2の感知電極24、25は、くし形であり、互いに向き合って配列され、くしは互いに係合する。このような電極配列は、さらに、当業では互いにかみ合う電極としても知られている。特に、くしは、それぞれ、複数のフィンガーを備える。第1の感知電極24のくしのそれぞれのフィンガーは、第2の感知電極25のくしのそれぞれのフィンガーと交互に並ぶ。第1及び第2の感知電極24、25のくしのそれぞれのフィンガーは、約0.1μmから約20μmまでの範囲、特に約0.5μmから約10μmまでの範囲内の幅を持つことができる。ギャップ27は、約10nmから約200nmまでの範囲、特に約30nmから約150nmまでの範囲内の幅を持つことができる。
【0050】
[060]捕捉分子として作用する捕捉DNA鎖28は、第1の感知電極24と第2の感知電極25との間のギャップ27において基板面15上に固定化される。必要ならば、捕捉分子を、チオール又はアミノ基により修飾し、例えば、基板面、又は生体適合層上に固定することができる。捕捉分子は、生体適合物質を含む溶液をマイクロピペットで落とし、次いで乾燥させて、捕捉分子を含む固定化された薄膜を後に残すことにより基板上に固定化されうる。公刊文献で説明されている手順を含む、他の手順も使用することができる。簡単に言うと、一実施例では、金基板を、特定の時間の間、1.0Mリン酸カリウム緩衝液(pH 7.0)中で1.0μMプローブオリゴヌクレオチド溶液、400μLに浸け、その後、10mM NaCl、5mM TRIS(pH 7.4)(R−BFR)で5秒間すすぎ、その後、基板を脱塩水中の1.0mM MCH溶液、400μLに1時間浸け、その後、R−BFRで5秒間すすぎ、そして最後に、窒素の流れの中で乾燥させる。基板面上に直接固定化する前に、基板面を強酸、例えば、ピラニア溶液(硫酸70%/過酸化物30%)で洗浄するとよい。
【0051】
[061]捕捉DNA鎖28の固定化を増強するために第1の感知電極24と第2の感知電極25との間のギャップ27内に生体適合結合層(図に示されていない)を設けると都合がよい場合がある。生体適合結合層がギャップ27内に設けられた場合、捕捉DNA鎖28は、生体適合結合層を介してギャップ27内の基板面15に固定化される。
【0052】
[062]図1に示されている本発明の実施形態によれば、標的分子として作用する標的DNA鎖29は、分析のため捕捉DNA鎖28にハイブリダイゼーションされる。標的DNA鎖29はそれぞれ、2つの端部のうちの第1の端部が、対応する捕捉DNA鎖28にハイブリダイゼーションされ、2つの端部のうちの第2の端部が、導電性粒子30に接続される。したがって、導電性粒子30は、ギャップ27上に載っている。本発明によれば、バイオセンサセル10は、FET16がオン状態にあるか、オフ状態にあるかを判定することにより標的DNA鎖29の存在を検出する。特に、第1の感知電極24と第2の感知電極25との間の電気的絶縁ギャップ27が、導電性ブリッジを介してブリッジされる場合、FET16の状態は、所定のゲート電圧発生器を使ってゲート電圧V19でFET16のゲート領域19を充電することにより変えられる。導電性粒子30は、そのような導電性ブリッジを表す。言い換えると、標的DNA鎖29が、捕捉DNA鎖28にハイブリダイゼーションされる場合、標的DNA鎖29に接続されている導電性粒子30は、第1の感知電極24と第2の感知電極25との間の導電度をかなり増やすので、ゲート電圧V19が印加されることにより所定のゲート電圧発生器とゲート領域19との間に電流を流すことができる。したがって、FET16の状態の検出により、標的DNA鎖29の存在に関する情報が直接得られる。
【0053】
[063]本発明の現在好ましい一実施形態によれば、金(Au)ナノ粒子は、導電性粒子30としてバイオセンサ内に存在し、標的分子に付着する。これらの金ナノ粒子はそれぞれ、約10nmから約160nmまでの直径を有する。ナノ粒子は、理想的には、均質な組成であるとよいが、実際には、ランダムに分散した不均一組成である。それとは別に、導電性粒子30は、コアが銀(Ag)又は金(Au)シェルで覆われた金(Au)ナノ粒子を含むコアシェル構造をなしていてもよい。
【0054】
[064]理想的には、導電性粒子の直径は、結合が生じた後感知電極が自動的にブリッジされるように感知電極間のギャップの幅よりも大きくなければならない。しかし、実際の状況では、このような大きな粒子に標的分子を付着させることは必ずしも可能でない場合がある。このような場合、導電性粒子の直径は、ギャップの幅よりも小さいことがあり、検出を行うためには、上述のように結果として感知電極がショートする適当なサイズ又は導電性になるように金属層、例えば、銀又は金を粒子に堆積させることにより粒子を増強又は拡大しなければならないことがある(上記のBraunらの文献を参照)。金属層の堆積(誤った信号を発生する危険性が高い)を通じて粒子のサイズを拡大することにより電極をショートさせるのとは別に、試験すべき試料中の標的分子の濃度を高めることにより電極をショートさせることもできる。
【0055】
[065]導電性粒子は、このような場合に均質な構造を有することがある、つまり、粒子の組成は、全体を通して一様である。このような場合、粒子は、コアシェル構造を備えることができ、コアは、標的分子に付着した導電性粒子を含み、シェルは、堆積した金属層を含む。
【0056】
[066]バイオセンサセル10内の標的DNA鎖29の存在の検出は、好ましくは、ギャップ27の導電性の変化に基づき、ギャップ27のキャパシタンスの変化には基づかない。
【0057】
[067]さらには、バイオセンサセル10に使用されている、上述の材料は、限定として理解してはならず、上述の材料に対応する他の材料も同様に使用できることに留意されたい。同様に、使用されている捕捉DNA鎖28以外の捕捉分子、及び使用されている標的DNA鎖29以外の標的分子は、本発明の範囲から逸脱することなく使用できる。
【0058】
[068]本発明によるバイオセンサセル10用の理想的等価回路が、図2Aに示されているが、ただし、ゲート誘電体層は、純粋絶縁体である。次いで、ゲート誘電体層は、ゲートキャパシタンスC19を有するキャパシタを表す。さらに、第1及び第2の感知電極24、25は、抵抗を有しないとみなされる。次いで、ゲートキャパシタンスC19は、導電性粒子30の抵抗R30を介してゲート電圧V19により充電される。この場合、1つの導電性粒子30が第1及び第2の感知電極24、25をショートしている限り、第2の感知電極25に印加されるゲート電圧V19は、FET16がオンになるようにゲート領域19に完全に印加される。
【0059】
[069]本発明によるバイオセンサセル10用の実用的等価回路が、図2Bに示されている。理想的等価回路に加えて、実用的等価回路は、ゲートキャパシタンスC19と並列に接続されたゲート抵抗R19を含むが、それは、一般に、ゲート誘電体層は純粋な電気的絶縁体でない、つまり、わずかな漏れ電流がゲート誘電体を通してグラウンドに流れるからである。特に、金ナノ粒子が、導電性粒子30として使用される場合、標準的抵抗R30は、約1011Ω(Malaquinら、2004年のMicroelectronic Engineering、第73〜74巻、887〜892ページ)であり、ゲート抵抗R19は、約1012Ωである。後者の値は、ITRS 2001(International Technology Roadmap for Semiconductors 2001 Edition)の表51aからの直接的結果であり、1つの金ナノ粒子によりショートされる第1の感知電極24と第2の感知電極25との間よりも約10倍高い。ゲート電圧V19の大半は、それでも、FET16をオンにさせるゲート領域19へのFETターンオン電圧Vonとして所定のゲート電圧発生器により印加される。そのため、本発明は、増幅回路を著しく簡素化し、デバイスの感度及び信号対雑音比を改善する。
【0060】
[070]以下では、検出限界(LOD)、つまり、検出が行われるのに必要な結合された導電性粒子30の最小数Nは、導電性粒子30が90GΩ/Nの抵抗を有する金(Au)ナノ粒子(つまり、1ナノ粒子当たり90GΩ)であると仮定して導かれる。0.13μmノードについては、ITRS 2001では、以下の表1のデータを示している。
【表1】

【0061】
[071]検出限界LODを導くために、FET16のゲート幅は2μmであると仮定されている。したがって、総ゲート漏れ電流は、それぞれ200pA及び2pAであり、ゲート抵抗R19は、以下の式(1)及び(2)に従って上記の表1から集めることができる。
19(LOP)=1V/200pA=5×10Ω (1)
19(LSTP)=1V/2pA=5×1011Ω (2)
【0062】
[072]さらに、図2Bに示されている実用的等価回路に関して、FETターンオン電圧Vonは、以下の式(3)に従って導くことができる。
on=V19×R19/(R30+R19) (3)
【0063】
[073]FETターンオン電圧Vonが少なくとも1Vである場合にFET16はオンになるため(表1と比較)、式(3)は、以下の式(4)及び(5)に変形できる。
1.5R19(LOP)≧R30+R19(LOP) (4)
1.2R19(LSTP)≧R30+R19(LSTP) (5)
【0064】
[074]式(4)及び(5)のさらなる変形で、以下の式(6)及び(7)が得られる。
19(LOP)≧2×R30=2×90GΩ/N≒2×1011Ω/N (6)
19(LSTP)≧5×R30=5×90GΩ/N≒5×1011Ω/N (7)
【0065】
[075]式(1)を式(6)に代入し、式(2)を式(7)に代入することで、以下の式(8)及び(9)に従って検出限界LOD、つまり、検出に必要な金ナノ粒子の最小数Nを求める。
LOD(LOP)≧200金ナノ粒子 (8)
LOD(LSTP)≧2金ナノ粒子 (9)
【0066】
[076]低電力LOD(LOP)で動作し、200金ナノ粒子を有するデバイスを使用した場合の検出限界は、約10−21Mの感度に対応するが、2金ナノ粒子の低スタンバイ電力型LOD(LSTP)を使用した場合の検出限界は、約10−23Mの感度に対応する。
【0067】
[077]従来バイオセンサで行った測定と本発明のバイオセンサで行った測定との差の比較を試みる際に、比較実験が実施された。実験結果は、以下の図4A及び4Bにそれぞれ示されている。従来のバイオセンサでは、100μmのAu粒子と約90nmのギャップを持つ電極(図3A)が、この実験で使用された。ごく少数のAu粒子が存在し、第1の感知電極及び第2の感知電極をショートさせた場合、電極間の測定された抵抗が非常に高いことが観察される(約10−11Ω、1Vで10−11Aの漏れ電流により導かれる)。図4Aは、従来の方法を使用して測定された信号の値を表すグラフを示している。従来の方法を使用して検出可能な電気的特性を測定する場合、信号は、Au粒子なしの電極からの測定結果と比較して1Vのときに有意な差が見られなかったくらい十分に弱く、3Vでは2桁にすぎない(図4A)。
【0068】
[078]しかし、本発明を使用した場合、約9桁の差が、1Vでは見られた(図4B)。この結果から、本発明は、電極をショートさせる少数のAu粒子(90GΩ/Au粒子とした場合)と高い信号対雑音比を検出する能力を有することがわかる。FET16は、標的DNA鎖29が、捕捉DNA鎖28にハイブリダイゼーションされ、FETターンオン電圧Vonに達するか、又はそれを超えたときにオンになる。
【0069】
[079]FET16で発生する信号が実信号であるか、例えば、特に、プロトコルを最適化する際の不適切な洗浄プロセスのせいで残留/又は金属粒子により引き起こされる偽信号であるかどうかを判定するために、非相補的捕捉DNAを含む細胞を、バイオセンサセルとしてすべての処理を受ける基準細胞として固定化することができる。標的DNAは、非相補的捕捉DNAとハイブリダイゼーションせず、最終的に洗い流されるので、電極のショートは発生しない。基準細胞内のFETは、常時「オフ」ステータスになければならない。この特徴により、プロセス全体、特に実験時のさまざまなステップでの洗浄プロセスが適切に実行されることが保証される。バイオセンサアレイは、信号確認/又はトラブルシューティング用の1つの基準を必要とするだけである。
【0070】
[080]本発明の第1の実施形態によるバイオセンサアレイ100の上面図が、図5に示されている。バイオセンサアレイ100は、正則行列の形に配列された上述の複数のバイオセンサセル10を備える。すでに上で説明されているコンポーネントは、本明細書では、同一の参照記号を使用して表されているが、ここでまた説明することはしない。図5においてわかりやすくするという理由から、1つのバイオセンサセル10だけを、破線を有する円で、また対応する参照記号を使って表していることに留意されたい。
【0071】
[081]本発明の第1の実施形態によるバイオセンサアレイ100は、本発明の16個のバイオセンサセル10を4×4の行列、つまり4行×4列の行列の形にした規則正しい配列を備える。ここで、行列は、正則行列である必要はないことに留意されたい。さらに、行列は、任意の数の行及び列を含むことができ、4×4行列に限定されないものとする。
【0072】
[082]行列の行は、ワードライン101で表され、行列の列は、ビットライン102により表される。それぞれのワードライン101は、一方で、複数の所定のゲート電圧発生器103の1つに電気的に接続され、他方で、同じ行列行に属すバイオセンサセル10の第2の感知電極25に電気的に接続される。それぞれのビットライン102は、一方で、複数の検出電圧発生器及び信号増幅器104の1つに電気的に接続され、他方で、同じ行列列に属すバイオセンサセル10のFET16のドレイン領域17に電気的に接続される。すべてのバイオセンサセル10のFET16のソース領域18は、グラウンドに電気的に接続される。動作中、標的DNA鎖29が、捕捉DNA鎖28のどれかでハイブリダイゼーションされた場合、それぞれのバイオセンサセル10のFET16は、ワードライン101を通して対応する所定のゲート電圧発生器103により放出される単一方形波信号105を使ってオンにされる。したがって、それぞれのバイオセンサセル10に対応する検出電圧発生器及び信号増幅器104が、それぞれのビットライン102を通してこのFET16を充電する場合、検出電圧発生器及び信号増幅器104は、グラウンドへの接続に基づく電流増大による対応する信号を使ってこのFET16のターンオン状態を検出し、この対応する信号を増幅する。
【0073】
[083]ビットライン102は、FET16を使ってワードライン101から電気的に分離されるので、従来技術のバイオセンサアレイで知られている「クロストーク」問題は、本発明の第1の実施形態によるバイオセンサアレイ100において解決に成功している。さらに、すべてのビットライン102の出力は、ワードライン101に印加される単一方形波信号105に対応する個別バイオセンサセル100に関する情報を同時に供給することができ、このため、アドレッシング回路が著しく簡素化される。
【0074】
[084]本発明の第1の実施形態によるバイオセンサアレイ100で使用されるような本発明によるバイオセンサセル10の第1及び第2の感知電極24、25が図3Bに詳しく示されている。上ですでに説明されているように、第1及び第2の感知電極24、25は、互いに向かい合うくしの形状を取りうる。したがって、第1の感知電極24は、複数の第1の感知電極フィンガー241を備え、第2の感知電極25は、複数の第2の感知電極フィンガー251を備える。第1及び第2の感知電極フィンガー241、251は、互いに係合する。言い換えると、第1の感知電極フィンガー241と第2の感知電極フィンガー251は、図3Bの平面図の上から底への方向で交互に並ぶ、つまり第1の感知電極フィンガー241に隣接して、第2の感知電極フィンガー251が配列され、またその逆も行われる。第1及び第2の感知電極24、25のくし形構造のせいで、ギャップ27は、交互に並ぶ第1及び第2の感知電極フィンガー241、251の間を縫うように配置される。
【0075】
[085]バイオセンサアレイ100で使用されるようなバイオセンサセル10の第1及び第2の感知電極34、35を有する他の代替え実施形態が、図3C及び図3Dに詳しく示されている。第1の感知電極34は、第2の感知電極35が配列されるプラットフォームを備える。図の水平線にそって切り取った断面図から、第2の感知電極35は、誘電体部分51及び導電性部分52を備え、誘電体部分51が導電性部分52を第1の感知電極34から電気的に絶縁するように配列されていることがわかる。図3Cにおいて、第2の感知電極35は、第1の接続部材57と第2の接続部材59との間に接続された複数のフィンガー56を備える。図3Dにおいて、第2の感知電極35は、第1の感知電極34上に曲がりくねる形状で配列されている複数のフィンガー66を備える。図3Eは、第2の感知電極35がフィンガーコネクタ67に接続された複数のフィンガー76を備える複雑で、不規則な電極構成を示している。第1の感知電極34は、プラットフォームとしては構成されていないが、第2の感知電極35に隣接して配列される。同様に、断面図から、第2の感知電極35は、誘電体部分51及び導電性部分52を備え、誘電体部分51が導電性部分52を第1の感知電極34から電気的に絶縁するように配列されていることがわかる。
【0076】
[086]本発明の第2の実施形態によるバイオセンサアレイ200の上面図が、図6に示されている。本発明の第2の実施形態によるバイオセンサアレイ200は、バイオセンサセル10のそれぞれが、さらにダイオード201を非線形コンポーネントとして備えるという点で本発明の第1の実施形態によるバイオセンサアレイ100と異なる。バイオセンサセル10のそれぞれにおいて、ダイオード201は、第2の感知電極25及び対応するワードライン101を、電流が対応するワードライン101からそれぞれのFET16のゲート領域19に流れ、その反対方向には流れないように電気的に接続する。したがって、ゲートキャパシタは、ワードライン101、非線形コンポーネント201、及び標的DNA鎖29に接続されている導電性粒子30を通じて対応する所定のゲート電圧発生器103により充電されうる。ゲートキャパシタが、>1Vまで充電されると、FETトランジスタはオンになる。FETトランジスタをオンにするのに要する充電時間は、第1の感知電極と第2の感知電極との間の導電性に依存し、次いで、ハイブリダイゼーション事象の量とともに増大する。したがって、ハイブリダイゼーション事象の量は、充電時間に基づき定量的に推定されうる。
【0077】
[087]第1の実施形態によるバイオセンサアレイ100とは対照的に、ハイブリダイゼーションされたバイオセンサセル10を充電するために、多重方形波信号202がワードライン101に印加される。ただ1つの導電性粒子30によりショートされた第1の感知電極24と第2の感知電極25との間の抵抗、さらにはゲートキャパシタC19は、あらかじめ決定できるので、個別バイオセンサセル10内のハイブリダイゼーションの量は、多重方形波信号202を対応するワードライン101に印加しながらパルスの数(充電時間に相当する)の関数として対応するビットライン102を流れる電流のレベルを測定することにより推定されうる。
【0078】
[088]本発明のバイオセンサセル10内の信号増幅回路などのFET及び補助回路は、半導体製造、特にCMOS製造においてよく知られている生産プロセスを使用して加工されうる。くし形の第1及び第2の感知電極24、25は、1)基板の深紫外線リソグラフィパターニング、2)パターン形成基板上に金薄膜をスパッタリングすること、及び3)スパッタリングされた金薄膜をパターン形成基板からリフトオフすることにより加工できる。くし形の第1の感知電極24及びくし形の第2の感知電極25は、それぞれ、感知電極対を形成する。
【0079】
[089]複数の感知電極対を生産した後、本発明の単一のバイオセンサセル10についてそれぞれの感知電極対が用意されている場合、バイオセンサセル10は、それぞれの感知電極対の第1の感知電極24と第2の感知電極25との間に可能なショートカットに関して試験されなければならない。バイオセンサセル10は、この試験の結果、合格のバイオセンサセルと不合格のバイオセンサセルに分けられるが、ただし、これらのバイオセンサセルは、感知電極対の内側の第1の感知電極24のフィンガーと第2の感知電極25のフィンガーとの間にショートカットが存在する場合に不合格である。主に、合格のバイオセンサセルの歩留まりY(パーセント)は、第1の感知電極24と第2の感知電極25との間のギャップ27の幅が増えると増大するが、不合格のバイオセンサセル10の割合Yは、以下の式(10)に従って減少する。
=100%−Y (10)
合格のバイオセンサセルの歩留まりY(パーセント)は、それぞれの感知電極対におけるフィンガー241、251の幅に依存する。
【0080】
[090]DNAを捕捉分子で固定化/ハイブリダイゼーションするプロトコルは、公刊文献、例えば、Parkらの論文(Science、第295巻、1503〜1506ページ、2002年)に見られる。簡単に言うと、試料をバイオセンサセルに導入するのに先立って、第1の感知電極と第2の感知電極との間のギャップに捕捉分子を固定化することによりバイオセンサセルのプライミングをまず行う。次いで、バイオセンサセルを調査すべき試料、好ましくは、標的核酸配列を含むことが疑われる電解質などの液状媒質と接触させる。これは、核酸配列を捕捉分子に結合できるような方法で、つまり、二本鎖ハイブリッド分子の融点以下の温度で実行される。媒質が検出すべき複数の核酸を含む場合について、二本鎖ハイブリッド分子を形成するために対応する捕捉分子に、ここでそれぞれの場合において同時に、又は連続して結合することができるように条件が選択される。
【0081】
[091]標的核酸配列が試料中に存在する場合、捕捉分子とのハイブリダイゼーションが生じる。ハイブリダイゼーションされていない核酸分子が、好適な洗浄ステップを使って反応空間から取り除かれた後、電気的検出が実行されうる。(電解質は、導電性があるので、検出前に洗い流されなければならない。)前の方で述べたように、ハイブリダイゼーションを行った結果、バイオセンサセルのFETにおいて、対応する所定のゲート電圧発生器により放出される単一方形波信号を使ってオンにされる。検出電圧発生器及び信号増幅器は、グラウンドへの接続に基づき増大する電流を使ってFETの「オン」状態を検出し、それにより、ハイブリダイゼーション事象を表す信号を記録する。バイオセンサを使用する際の適用すべきプロトコルの他の詳細については、例えば、Linda A.ChriseyのNucleic Acids Research 1996、第24巻、第15号、3031〜39ページで見出せるだろう。
【0082】
[092]要約すると、本発明は、以下の点で優れているバイオセンサセル及びバイオセンサアレイを実現するということである。
1.高感度バイオセンサアレイの「クロストーク」問題を解消すること、
2.導電性粒子に抱合される標的DNA鎖の少量のハイブリダイゼーションにより引き起こされる抵抗/コンダクタンスの小さな変化に対する感度を高めること、
3.感知回路及び増幅回路を極端に簡素化すること、
4.信号対雑音比を著しく改善すること、及び
5.アドレッシング回路を簡素化すること。
【0083】
[093]本発明は、好ましい実施形態に関して説明されているけれども、請求項で述べているように本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、多くの変更及び修正を加えられうることが理解されなければならない。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】標的及び捕捉DNA鎖を介して結合されている金ナノ粒子がゲート電圧発生器と電界効果トランジスタのゲート電極との間を導通させる、本発明によるバイオセンサセルを通る断面を示す図である。
【図2A】本発明によるバイオセンサセルに理想的な等価回路を示す図である。
【図2B】本発明によるバイオセンサセルに対する実用的な等価回路を示す図である。
【図3A】本発明の一実施形態で使用されうるナノスケールの互いにかみ合う電極のクローズアップ写真である。
【図3B】本発明の第1の実施形態によるバイオセンサアレイで使用されるような本発明によるバイオセンサセルの第1及び第2の感知電極を示す詳細図である。
【図3C】プラットフォーム配列で構成される他の電極配列を示す図である。
【図3D】プラットフォーム配列で構成される他の電極配列を示す図である。
【図3E】プラットフォーム配列で構成される他の電極配列を示す図である。
【図4A】感知電極が測定器に直接接続されている従来のバイオセンサを使って測定された電流(A)対電圧(V)のグラフである。
【図4B】本発明のバイオセンサを使って測定された電流(A)対電圧(V)のグラフである。
【図5】正則行列の形に配列されている本発明の複数のバイオセンサセルを備える本発明の第1の実施形態によるバイオセンサアレイを示す図である。
【図6】それぞれのバイオセンサセルがそれぞれのダイオードに電気的に接続されている、正則行列の形に配列されている本発明の複数のバイオセンサセルを備える本発明の第2の実施形態によるバイオセンサアレイを示す図である。
【符号の説明】
【0085】
10 バイオセンサセル
11 基板
12 半導体層
13 第1の電気的絶縁層
14 第2の電気的絶縁層
15 基板面
16 電界効果トランジスタ(FET)
17、18 ソース及びドレイン領域
19 ゲート領域
20、22 ソース及びドレイントラック導体
21、23 ソース及びドレイン接続部
24 第1の感知電極
241 第1の感知電極フィンガー
25 第2の感知電極
251 第2の感知電極フィンガー
26 ゲート接続部
27 ギャップ
28 捕捉DNA鎖
29 標的DNA鎖
30 導電性粒子
34 第1の感知電極
35 第2の感知電極
51 第2の感知電極上の誘電体部分
52 第2の感知電極上の導電性部分
56、66、76 複数のフィンガー
57 第1の接続部材
59 第2の接続部材
67 フィンガーコネクタ
19 ゲート電圧
30 粒子抵抗
19 ゲートキャパシタンス
19 ゲート抵抗
on FETターンオン電圧
100 第1の実施形態によるバイオセンサアレイ
101 ワードライン
102 ビットライン
103 所定のゲート電圧発生器
104 検出電圧発生器及び信号増幅器
105 単一方形波信号
200 第2の実施形態によるバイオセンサアレイ
201 ダイオード
202 多重方形波信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
第1の感知電極、第2の感知電極、及び前記第1の感知電極を前記第2の感知電極から隔てるギャップを内部に配列した、前記第1の感知電極が前記第2の感知電極から前記ギャップにより電気的に絶縁されている、前記基板上に配列された感知ゾーンと、
前記感知ゾーン内に配列された捕捉分子と、
ゲート電極、ソース電極、及びドレイン電極を備える電界効果トランジスタと
を具備し、
前記第1の感知電極は前記電界効果トランジスタの前記ゲート電極に電気的に接続され、
前記第2の感知電極はゲート電圧に電気的に接続可能である、バイオセンサセル。
【請求項2】
捕捉分子は、前記第1の感知電極と前記第2の感知電極との間の前記ギャップ内に固定化される請求項1に記載のバイオセンサセル。
【請求項3】
捕捉分子は、前記第1の感知電極及び/又は前記第2の感知電極の表面に固定化される請求項1又は2に記載のバイオセンサセル。
【請求項4】
前記第1の感知電極及び前記第2の感知電極は、くし形であり、互いに向き合って配列され、互いに係合する複数のフィンガーを有する請求項1〜3のいずれか一項に記載のバイオセンサセル。
【請求項5】
前記くし形のフィンガーは、前記第1の感知電極のフィンガーが、それぞれ、前記第2の感知電極のフィンガーに隣接して配列されるように交互に並べて配列される請求項4に記載のバイオセンサセル。
【請求項6】
それぞれのフィンガーは、約0.1μmから約20μmまでの範囲内の幅を有する請求項4又は5に記載のバイオセンサセル。
【請求項7】
前記第1の感知電極及び前記第2の感知電極は、前記ギャップが1nmから10μmまでの範囲内の幅を有するように配列される請求項4〜6のいずれか一項に記載のバイオセンサセル。
【請求項8】
前記ギャップは、約10nmから約150nmまでの範囲の幅を有する請求項7に記載のバイオセンサセル。
【請求項9】
前記第1の感知電極及び前記第2の感知電極は、交互に並ぶ形で配列された複数の第1の感知電極及び第2の感知電極を備える互いにかみ合う電極配列に含まれる請求項1〜3のいずれか一項に記載のバイオセンサ。
【請求項10】
前記第1の感知電極は、プラットフォームを備え、前記第2の感知電極は前記第1の感知電極上に配列される請求項1〜3のいずれか一項に記載のバイオセンサ。
【請求項11】
前記第2の感知電極は、誘電体部分と導電性部分とを備え、前記第2の感知電極は前記導電性部分が前記誘電体部分により前記第1の感知電極から電気的に絶縁されるように配列される請求項10に記載のバイオセンサ。
【請求項12】
前記第2の感知電極は、第1の接続部材と第2の接続部材との間に接続された複数のフィンガーを備える請求項11に記載のバイオセンサ。
【請求項13】
前記第2の感知電極は、前記第1の感知電極上に曲がりくねった形状で配列された複数のフィンガーを備える請求項11に記載のバイオセンサ。
【請求項14】
前記捕捉分子は、試験されるべき試料中に存在することが疑われる標的分子との選択的親和性を有する請求項1〜13のいずれか一項に記載のバイオセンサセル。
【請求項15】
試験されるべき前記試料中に存在することが疑われる前記標的分子との選択的親和性を有しない捕捉分子をさらに含む請求項1〜14のいずれか一項に記載のバイオセンサセル。
【請求項16】
標的分子と選択的親和性を有する前記捕捉分子と少なくとも部分的に複合体を形成する前記標的分子をさらに含み、それぞれの標的分子は導電性粒子に結合され、前記導電性粒子は、前記第1の感知電極と前記第2の感知電極との間に導電性経路を形成し、これにより、前記第1の感知電極と前記第2の感知電極との間に電流を流すことができ、それにより、前記電界効果トランジスタの前記ゲート電極を充電する請求項14又は15に記載のバイオセンサセル。
【請求項17】
前記導電性粒子は、金、銀、銅、及びそれらの合金からなる群から選択された金属を含む請求項14〜16のいずれか一項に記載のバイオセンサセル。
【請求項18】
前記導電性粒子は、約10nmから約100nmまでの範囲内の直径を有する請求項14〜17のいずれか一項に記載のバイオセンサセル。
【請求項19】
前記導電性粒子は、前記第1の感知電極を前記第2の感知電極から隔てる前記ギャップの前記幅よりも大きい直径を有する請求項14〜18のいずれか一項に記載のバイオセンサセル。
【請求項20】
前記導電性粒子は、均質構造を有する請求項19に記載のバイオセンサセル。
【請求項21】
前記導電性粒子は、シェルにより囲まれたコアを含む請求項19に記載のバイオセンサセル。
【請求項22】
前記基板は、生体適合結合層で覆われた表面を有し、前記生体適合結合層は前記捕捉分子を前記基板面に結合できる請求項1〜21のいずれか一項に記載のバイオセンサセル。
【請求項23】
前記第1の感知電極及び前記第2の感知電極は、それぞれ、生体適合層で覆われた表面を有する請求項1〜22のいずれか一項に記載のバイオセンサ。
【請求項24】
前記電界効果トランジスタは、前記基板内に埋め込まれる請求項1〜23のいずれか一項に記載のバイオセンサセル。
【請求項25】
前記電界効果トランジスタは、金属酸化物電界効果トランジスタを含む請求項1〜24のいずれか一項に記載のバイオセンサセル。
【請求項26】
請求項1〜25のいずれか一項に記載の複数のバイオセンサセルを備えるバイオセンサアレイ。
【請求項27】
前記バイオセンサセルは、正則行列の形に配列される請求項26に記載のバイオセンサアレイ。
【請求項28】
それぞれのバイオセンサセルの前記電界効果トランジスタの前記ソース電極は、グラウンドに電気的に接続され、それぞれのバイオセンサセルの前記電界効果トランジスタの前記ドレイン電極は、対応するビットラインに電気的に接続され、それぞれのバイオセンサセルの前記第2の感知電極は、対応するワードラインを介して前記ゲート電圧に電気的に接続可能である請求項27に記載のバイオセンサアレイ。
【請求項29】
前記対応するビットラインに電気的に接続されている複数の信号増幅器をさらに備える請求項28に記載のバイオセンサアレイ。
【請求項30】
それぞれのバイオセンサセルは、ハイブリダイゼーション事象の量を定量的に推定するために前記第2の感知電極及び前記対応するワードラインを電気的に接続する非線形コンポーネントを備える請求項26〜29のいずれか一項に記載のバイオセンサアレイ。
【請求項31】
前記非線形コンポーネントは、ダイオードである請求項30に記載のバイオセンサアレイ。
【請求項32】
標的分子を検出する方法であって、
a)請求項1〜25のいずれか一項に記載のバイオセンサセルを試料中に存在することが疑われる前記標的分子を含むことが疑われる試料と接触させ、前記標的分子を前記捕捉分子のいずれか1つに結合することで前記バイオセンサにより生成される信号を測定可能な形で変化させるステップと、
b)前記バイオセンサセルにより生成される少なくとも1つの信号を測定して、前記標的分子の前記捕捉分子への結合が発生したかどうかを判定するステップと
を含む方法。
【請求項33】
前記バイオセンサにより生成される少なくとも1つの信号を測定するステップは、
a)前記バイオセンサセルを前記試料に接触させるのに先立ち第1の電気的測定を実行するステップと、
b)前記バイオセンサセルを前記試料に接触させた後、第2の電気的測定を実行するステップと、
c)前記第1の電気的測定を前記第2の電気的測定と比較し、前記第1の電気的測定が変化したかどうかを判定するステップと
を含む請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記第1及び/又は第2の電気的測定を実行するステップは、トランジスタ電流を測定するステップを含み、前記トランジスタ電流は電圧電位、キャパシタンス、電気抵抗、前記電流、又は前記第1及び/又は前記第2の感知電極の間の電位のうちの少なくとも1つの関数となっている請求項33に記載の方法。
【請求項35】
請求項15に記載の基準バイオセンサセルを前記試料と接触させて、それにより基準信号を発生させるステップをさらに含む請求項32〜34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記第2の電気的測定を前記基準細胞から発生した基準信号と比較して捕捉分子との標的分子のハイブリダイゼーション事象が発生したかどうかを判定するステップをさらに含む請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記バイオセンサにより生成された前記少なくとも1つの信号を前記試料中の前記標的分子の存在と相関させるステップをさらに含む請求項32〜36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
少なくとも1つの捕捉分子は、核酸分子、タンパク質、炭水化物、低分子量化合物、及びそれらの混合物からなる群から選択される請求項32〜37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
前記核酸分子は、一本鎖DNA分子、RNA分子、及びPNA分子からなる群から選択される請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記DNA分子は、遺伝子又は遺伝子フラグメントである請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記RNA分子は、mRNA転写である請求項39に記載の方法。
【請求項42】
前記タンパク質は、抗体、抗体フラグメント、抗体類似特性を有するタンパク質、ストレプトアビジン、アビジン、及びタンパク質Aからなる群から選択される請求項38に記載の方法。
【請求項43】
前記標的分子は、核酸分子、タンパク質、炭水化物、ペプチド、代謝産物、及び生体細胞からなる群から選択される請求項32〜42のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
前記核酸配列は、DNA分子、RNA分子、及び10から50の塩基対(bp)を有するオリゴヌクレオチドからなる群から選択される請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記標的分子は、金ナノ粒子で標識される請求項32〜44のいずれか一項に記載の方法。
【請求項46】
前記標的分子は、ビオチン、ジゴキシゲニン、フルオレセイン、及びローダミンからなる群から選択された標識と抱合される請求項32〜45のいずれか一項に記載の方法。
【請求項47】
前記標的分子の前記導電性を増強するための、前記標的分子に結合することができる試薬を追加するステップをさらに含む請求項32〜46のいずれか一項に記載の方法。
【請求項48】
前記試薬は、還元性金属イオンを含む請求項47に記載の方法。
【請求項49】
前記金属イオンは、前記標的分子との結合後、元素金属に還元される請求項47又は48に記載の方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図3E】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2009−524046(P2009−524046A)
【公表日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−551231(P2008−551231)
【出願日】平成18年1月20日(2006.1.20)
【国際出願番号】PCT/SG2006/000013
【国際公開番号】WO2007/084077
【国際公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【出願人】(503231882)エージェンシー フォー サイエンス,テクノロジー アンド リサーチ (179)
【Fターム(参考)】