説明

バイオチップおよび分析装置

【課題】ハイブリダイゼーション効率を定量的に把握できるバイオチップを提供する。
【解決手段】ターゲット分子が結合する複数のプローブサイト2が配置されたバイオチップ1において、数量が既知である蛍光分子が結合されるマーカサイト3が配置されていることを特徴とする。このバイオチップ1によれば、マーカサイト3に結合される蛍光分子の数量が既知であるので、プローブサイト2の蛍光の光量と、マーカサイト3の蛍光の光量を比較することで、プローブサイト2のハイブリダイゼーション効率を定量的に把握できる。マーカサイト3にはバイオチップ1の作成時から蛍光分子が結合されていてもよいし、バイオチップ1に対する所定の処理により、所定の量の蛍光分子が結合するようにマーカサイト3を構成してもよい。マーカサイト3はプローブサイト2と同種の生体高分子を用いて形成されていてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリダイゼーションの原理を利用したバイオチップおよびバイオチップを分析する分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
相補的な塩基同士が特異的に結合するハイブリダイゼーションの原理を利用したバイオチップが知られている。このようなバイオチップ上には、各ターゲットDNAに対応するプローブDNAが固定されたプローブサイトが配置されており、ハイブリダイゼーションによってターゲットDNAがそれぞれ対応するサイトに結合する。結合したターゲットDNAの量は、蛍光マーカを用いることで測定することができる(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
【特許文献1】特開2001−78766号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
プローブサイトに結合するターゲットDNAの量は、そのプローブサイトのプローブDNAの数に応じて変動する。しかし、従来のバイオチップでは、各プローブサイトにおけるプローブDNAの数が不明であるため、ハイブリダイゼーション効率を定量的に把握することができないという問題がある。
【0005】
ハイブリダイゼーション効率を定量化する方法として、CodeLink Expression Bioarray System(商標名)で用いられている方法がある。この方法は、スポットによるプローブサイトの形成後、各プローブサイトにおけるスポット量を計測し、計測値のデータを出荷時に添付するものである。
【0006】
しかし、この方法によっても、ハイブリダイゼーションの処理中に離脱するプローブDNAの比率が不明なため、結果的に正確なハイブリダイゼーション効率を算出することはできない。
【0007】
本発明の目的は、ハイブリダイゼーション効率を定量的に把握できるバイオチップ、およびこのようなバイオチップに適合する分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のバイオチップは、ターゲット分子が結合する複数のプローブサイトが配置されたバイオチップにおいて、数量が既知である蛍光分子が結合されるマーカサイトが配置されていることを特徴とする。
このバイオチップによれば、マーカサイトに結合される蛍光分子の数量が既知であるので、プローブサイトの蛍光の光量と、マーカサイトの蛍光の光量を比較することで、プローブサイトのハイブリダイゼーション効率を定量的に把握できる。マーカサイトにはバイオチップの作成時から蛍光分子が結合されていてもよいし、バイオチップに対する所定の処理により、所定の量の蛍光分子が結合するようにマーカサイトを構成してもよい。
【0009】
前記マーカサイトは前記プローブサイトと同種の生体高分子を用いて形成されていてもよい。
この場合には、マーカサイトがプローブサイトと同種の生体高分子を用いて形成されているので、バイオチップの作成時にマーカサイトとプローブサイトに与えられる生体高分子の量を揃えることができる。このため、作成時の条件と無関係に常に蛍光の光量の比率がハイブリダイゼーション効率を正しく示す。また、バイオチップに対する処理によって離脱する生体高分子の比率がマーカサイトとプローブサイトの間で同等となるため、処理の段階と無関係に常に蛍光の光量の比率がハイブリダイゼーション効率を正しく示す。
【0010】
前記マーカサイトは前記プローブサイトの生体高分子と同等の分子量の生体高分子を用いて形成されていてもよい。
この場合には、マーカサイトがプローブサイトの生体高分子と同等の分子量の生体高分子を用いて形成されているので、バイオチップの作成時にマーカサイトとプローブサイトに与えられる生体高分子の量を揃えることができる。このため、作成時の条件と無関係に常に蛍光の光量の比率がハイブリダイゼーション効率を正しく示す。また、バイオチップに対する処理によって離脱する生体高分子の比率がマーカサイトとプローブサイトの間で同等となるため、処理の段階と無関係に常に蛍光の光量の比率がハイブリダイゼーション効率を正しく示す。
【0011】
蛍光の発光量が異なる複数の前記マーカサイトが配置されていてもよい。
この場合には、広範囲にわたり、ハイブリダイゼーション効率を安定して把握できる。
【0012】
前記ターゲット分子はDNA、RNA、タンパク質、糖鎖、メタボロームのいずれかであってもよい。
【0013】
本発明の分析装置は、ターゲット分子が結合する複数のプローブサイトと、蛍光の発光量が既知であるマーカサイトと、が配置されたバイオチップを分析する分析装置であって、前記バイオチップに励起光を照射する照射手段と、前記励起光を照射したときの前記プローブサイトおよび前記マーカサイトの蛍光の発光量を取得する取得手段と、取得された前記プローブサイトおよび前記マーカサイトの蛍光の発光量を比較することで前記プローブサイトのハイブリダイゼーション効率を定量的に測定する測定手段と、を備えることを特徴とする。
この分析装置によれば、バイオチップのマーカサイトに結合される蛍光分子の数量が既知であるので、プローブサイトの蛍光の光量と、マーカサイトの蛍光の光量を比較することで、プローブサイトのハイブリダイゼーション効率を定量的に把握できる。
【0014】
前記マーカサイトの蛍光に基づいて前記取得手段による取得領域の位置決めを行う位置決め手段を備えてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明のバイオチップによれば、マーカサイトに結合される蛍光分子の数量が既知であるので、プローブサイトの蛍光の光量と、マーカサイトの蛍光の光量を比較することで、プローブサイトのハイブリダイゼーション効率を定量的に把握できる。
【0016】
本発明の分析装置によれば、バイオチップのマーカサイトに結合される蛍光分子の数量が既知であるので、プローブサイトの蛍光の光量と、マーカサイトの蛍光の光量を比較することで、プローブサイトのハイブリダイゼーション効率を定量的に把握できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図1〜図4を参照して、本発明によるバイオチップの一実施形態について説明する。
【0018】
図1(a)は、本実施形態のバイオチップの構成を示す斜視図である。
【0019】
図1(a)に示すように、本実施形態のバイオチップは、基板1上にターゲットDNAを検出するためのプローブサイト2群と、基板1上にマーカが固定されたマーカサイト3と、を有する。図1(a)において、基板1の四隅にそれぞれマーカサイト3が、他の位置にマトリクス状にプローブサイト2が、それぞれ設けられている。
【0020】
図1(b)はプローブサイト2およびマーカサイト3に固定されたDNAを模式的に示す図である。
【0021】
図1(b)に示すように、個々のプローブサイト2では、特定のターゲットDNAを検出するためのプローブDNA21が固定されている。
【0022】
また、マーカサイト3では、その末端に蛍光分子6が1つずつ固定されたDNA31が固定されている。
【0023】
図1(a)に示すように、本実施形態のバイオチップでは、例えば、所定のDNA溶液を付着させたピン4を、順次、基板1に接触させてスポットすることでプローブサイト2およびマーカサイト3を形成する。この場合、基板1をステージに固定した状態で、プローブサイト2およびマーカサイト3を続けて形成することにより、プローブサイト2とマーカサイト3間の正確な位置関係を確保できる。
【0024】
図1(c)に示すように、通常、プローブサイト2は目視では確認できない。しかし、本実施形態ではマーカサイト3の位置が蛍光分子6の発光により確認できるため、マーカサイト3の位置を基準として、プローブサイト2の位置を把握できる。
【0025】
本実施形態では、プローブサイト2およびマーカサイト3を、ともにDNA溶液をスポットすることで形成している。また、形成するDNAの分子数を揃えることで、プローブサイト2およびマーカサイト3にスポットされるDNA溶液の流動特性や粘性を同等にしている。このため、プローブサイト2およびマーカサイト3にスポットされる溶液量を同等にすることができる。一般に、バイオチップの作成時には、温度や湿度等の環境に応じてピン4により供給されるDNA溶液の量が変動する。しかし、本実施形態によれば、プローブサイト2およびマーカサイト3に対する変動が連動するので、プローブサイト2およびマーカサイト3にスポットされたDNA量を常に一致させることができる。
【0026】
本実施形態のバイオチップでは、プローブサイト2およびマーカサイト3にスポットされたDNA量が一致しているため、バイオチップの作成後にマーカサイト3のスポット量を測定することにより、プローブサイト2のスポット量を把握できる。マーカサイト3のスポット量は、蛍光分子6に対応する波長の励起光を照射したときのマーカサイト3の発光量に基づいて正確に測定できる。
【0027】
また、プローブサイト2およびマーカサイト3に同等の分子量のDNAが同等の状態でスポットされているので、バイオチップに対する処理によって離脱するDNAの比率がプローブサイト2およびマーカサイト3間で同等となる。このため、ターゲットDNAの固定化処理、洗浄、あるいはプレハイブリダイゼーションの処理後における各プローブサイト2のプローブDNA21の量なども、その時点におけるマーカサイト3のスポット量に基づいて把握できる。
【0028】
図2はハイブリダイゼーションを行った後の状態を示しており、図2(a)はバイオチップの状態を模式的に示す図、図2(b)は励起光を照射したときの各サイトの発光の様子を示す図である。
【0029】
図2(a)に示すように、ハイブリダイゼーションによって蛍光分子6が付けられたターゲットDNA7が、プローブDNA21に結合する。ハイブリダイゼーションの後、バイオチップに励起光を照射すると、図2(b)に示すように、各サイトの蛍光分子6が発光する。この発光量は蛍光分子6の数に対応しているため、マーカサイト3の発光量を基準として、各プローブサイト2の蛍光分子6の数を評価することができる。
【0030】
例えば、マーカサイト3のすべてのDNA31に蛍光分子6を結合させておけば、マーカサイト3の光量がハイブリダイゼーション効率100パーセントに相当する。したがって、マーカサイト3の光量を基準とすることで、各プローブサイト2でのハイブリダイゼーション効率を定量的に評価できる。
【0031】
図3はマーカサイト3および各プローブサイト2の光量を示す図である。図3において、マーカサイト3の光量はハイブリダイゼーション効率100パーセントに相当しており、各プローブサイト2の光量、すなわち各プローブサイト2のハイブリダイゼーション効率が絶対値として示される。
【0032】
図4はハイブリダイゼーション後のバイオチップを分析する分析装置の構成を示すブロック図である。
【0033】
図4に示すように、測定装置はバイオチップに励起光を照射する照射手段101と、励起光を照射したときのプローブサイト2およびマーカサイト3の蛍光の発光量を取得するスキャナ(取得手段)102と、スキャナ102により取得されたプローブサイト2およびマーカサイト3の蛍光の発光量を比較することでプローブサイト2のハイブリダイゼーション効率を定量的に算出する算出手段103と、マーカサイト3の蛍光に基づいてスキャナ102の撮影範囲の位置決めを行う位置決め手段104と、を備える。
【0034】
プローブサイト2の光量は、スキャナ102により基板1の面を撮影することで取得される。このとき、撮影領域を特定する際に、マーカサイト3を位置決め手段104による位置決めの基準として使用することができる。また、プローブサイト2の光量に基づいて、算出手段103はハイブリダイゼーション効率の絶対値を算出する。絶対値はマーカサイト3の光量を基準とすることで算出される。
【0035】
上記実施形態では、基板1の四隅に形成されたマーカサイト3のマーカ濃度を同一としたが、複数のマーカサイトのマーカ濃度にグラデーションを付けてもよい。この場合、マーカサイトの発光量と比較することにより、低発光量から高発光量まで広範囲においてプローブサイトの発光量を安定して算出することができる。マーカ濃度は、例えば、マーカサイト3にスポットされるDNA溶液について、蛍光分子を結合させたDNAの比率を変化させることで制御できる。
【0036】
上記実施形態では、マーカサイト3のすべてのDNA31に蛍光分子6を1つずつ結合する例を示したが、蛍光分子の分子数を制御できればよく、例えば、2つ以上の蛍光分子を結合してもよい。
【0037】
上記実施形態では、DNAの検出について例示したが、本発明は、RNA、タンパク質、糖鎖、メタボローム等、種々のターゲット分子の検出に適用できる。また、本発明は、基板上での検出を行う場合に限定されず、例えば、メッシュあるいは3次元ゲル等の構造にプローブを結合させたバイオチップにも適用できる。
【0038】
上記実施形態では、マーカサイト3の発光量をハイブリダイゼーション効率100パーセントに対応させているが、マーカサイト3の発光量は任意の値(例えば、10パーセント、1パーセント等)に設定できる。
【0039】
また、本発明はプローブサイトに結合するターゲット分子を、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応法)により増幅する場合についても適用できる。この場合、PCRによる増幅率や増幅時の蛍光分子付きDNAの比率等を制御することで、マーカサイト3の発光量を基準として、プローブサイト2のハイブリダイゼーション効率を求めることができる。
【0040】
上記実施形態では、ターゲット分子に蛍光分子を予め付加させてからハイブリダイゼーションを行っているが、本発明は、ハイブリダイゼーション後に蛍光分子を付加する場合にも適用できる。例えば、ターゲット分子をビオチンで標識しておき、ハイブリダイゼーション後に、アビジンを結合させた蛍光分子をターゲット分子に付加する手法にも適用できる。
【0041】
また、上記実施形態では、マーカサイト3に予め蛍光分子6を付加しているが、バイオチップのユーザが所定の段階でマーカサイトに蛍光分子を結合できるようにしてもよい。例えば、バイオチップの作成時にはマーカサイトにビオチンを付加したDNAを配置しておき、バイオチップの使用時、例えばハイブリダイゼーション後に、アビジンを付加した蛍光分子を結合させるようにしてもよい。
【0042】
本発明は、2色法(競合ハイブリダイゼーション法)に対しても適用できる。この場合には、2色の蛍光の蛍光分子を付加したDNAを混合してスポットすることで、各マーカサイトを形成すればよい。
【0043】
本発明の適用範囲は上記実施形態に限定されることはない。本発明は、ハイブリダイゼーションの原理を利用したバイオチップおよびバイオチップを分析する分析装置に対し、広く適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本実施形態のバイオチップの構成を示す図であり、(a)は本実施形態のバイオチップの構成を示す斜視図、(b)はプローブサイトおよびマーカサイトに固定されたDNAを模式的に示す図、(c)はマーカサイトの位置が認識される様子を示す図。
【図2】ハイブリダイゼーションを行った後の状態を示す図であり、(a)はバイオチップの状態を模式的に示す図、(b)は励起光を照射したときの各サイトの発光の様子を示す図。
【図3】マーカサイトおよび各プローブサイトの光量を示す図。
【図4】ハイブリダイゼーション後のバイオチップを分析する分析装置の構成を示すブロック図。
【符号の説明】
【0045】
1 バイオチップ
2 プローブサイト
3 マーカサイト
101 照射手段
102 スキャナ(取得手段)
103 算出手段
104 位置決め手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターゲット分子が結合する複数のプローブサイトが配置されたバイオチップにおいて、
数量が既知である蛍光分子が結合されるマーカサイトが配置されていることを特徴とするバイオチップ。
【請求項2】
前記マーカサイトは前記プローブサイトと同種の生体高分子を用いて形成されていることを特徴とする請求項1に記載のバイオチップ。
【請求項3】
前記マーカサイトは前記プローブサイトの生体高分子と同等の分子量の生体高分子を用いて形成されていることを特徴とする請求項2に記載のバイオチップ。
【請求項4】
蛍光の発光量が異なる複数の前記マーカサイトが配置されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のバイオチップ。
【請求項5】
前記ターゲット分子はDNA、RNA、タンパク質、糖鎖、メタボロームのいずれかであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のバイオチップ。
【請求項6】
ターゲット分子が結合する複数のプローブサイトと、数量が既知である蛍光分子が結合されるマーカサイトと、が配置されたバイオチップを分析する分析装置であって、
前記バイオチップに励起光を照射する照射手段と、
前記励起光を照射したときの前記プローブサイトおよび前記マーカサイトの蛍光の発光量を取得する取得手段と、
取得された前記プローブサイトおよび前記マーカサイトの蛍光の発光量を比較することで前記プローブサイトのハイブリダイゼーション効率を定量的に測定する測定手段と、
を備えることを特徴とする分析装置。
【請求項7】
前記マーカサイトの蛍光に基づいて前記取得手段による取得領域の位置決めを行う位置決め手段を備えることを特徴とする請求項6に記載の分析装置。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−85806(P2007−85806A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−273076(P2005−273076)
【出願日】平成17年9月21日(2005.9.21)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】