説明

バイオディーゼル燃料及び清浄剤を含む潤滑油組成物

【課題】エンジン堆積物の付着またはエンジン部分の腐食を低減するか、遅らせることができる潤滑油組成物を提供する。
【解決手段】基油、バイオディーゼル燃料および清浄剤を含む潤滑油組成物であって、清浄剤は、アルカリ土類金属フェネートなどの金属フェネート清浄剤であってよい。潤滑油組成物は更に、ジアルキルジチオリン酸亜鉛化合物など少なくとも一種の耐摩耗性添加剤を含むことができる。潤滑油組成物の製造方法及び使用方法も記載する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基油および金属フェネート清浄剤、特にはアルカリ金属フェネートを含む潤滑油組成物であって、更にバイオディーゼル燃料又はその分解生成物を少なくとも0.3質量%含有する組成物を提供する。本発明はまた、潤滑油組成物の製造方法および使用方法をも提供する。
【背景技術】
【0002】
バイオディーゼルエンジンなどの内燃機関では、潤滑エンジン油への混入または希釈が問題になってきている。バイオディーゼル燃料は、バイオディーゼルエンジンのシリンダに噴射されたのち気化するのに時間がかかる低揮発性の成分を含んでいる。この結果、これら低揮発性成分がシリンダ壁に蓄積し、そののちピストンリングの作動によってクランクシャフトに堆積することがある。バイオディーゼル燃料は一般に酸化安定性が低いために、シリンダ壁またはクランクシャフトのこれら堆積物が酸化的に分解して、重合及び架橋したバイオディーゼルガム、スラッジ又はワニス状堆積物を金属面に形成し、それがバイオディーゼルエンジンまたはクランクシャフトに損害を与えることがある。また、バイオディーゼル燃料やその結果生じた部分燃焼分解生成物が、エンジンの潤滑油に混入することもある。これらバイオディーゼル混入物は更に、エンジン油酸化の生成、堆積物形成、および特に鉛及び銅系軸受材料の腐食をもたらす。従って、バイオディーゼルのエンジン油への影響によるエンジン内の酸化、腐食および堆積物を処理するための添加剤配合物の改善が要求されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
一般的には潤滑油組成物を使用することによって、ガム、スラッジまたは堆積物を最少にすることができる。しかしながら、潤滑油組成物は一般に基油を含んでいることから、内燃機関の稼働部分を潤滑しながら、一方では極限条件で酸化されて堆積物を形成することもある。さらに、潤滑油組成物はそのような極限条件ではエンジン部分の腐食を生じさせることもある。このため、常にエンジン堆積物の付着を低減するもしくは遅らせる必要がある。さらに、エンジン部分の腐食を低減する必要もある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明が提供するのは、エンジン堆積物の付着またはエンジン部分の腐食を低減するもしくは遅らせることができる潤滑油組成物である。一つの態様では、本発明は、バイオディーゼル燃料又はその分解生成物が潤滑油組成物の全質量に基づき少なくとも約0.3質量%混入した潤滑油組成物であって、下記の成分を含む潤滑油組成物に関する。
(a)主要量の潤滑粘度の基油、および
(b)金属フェネート、
ただし、潤滑油組成物中に存在する金属フェネートによる金属フェネートの量は、少なくとも約1000ppmである。態様によっては、基油は主要量で存在する。
【0005】
また、本発明が提供するのは、エンジン堆積物の付着またはエンジンの部分の腐食を低減するもしくは遅らせることができる潤滑油組成物を用いてエンジンを潤滑状態にて運転する方法である。一つの態様では、この方法は、少なくとも一部にバイオディーゼル燃料が供給されたディーゼルエンジンを潤滑状態で運転する方法であって、バイオディーゼル燃料又はその分解生成物が潤滑油組成物の全質量に基づき少なくとも約0.3質量%混入した、下記の成分を含む潤滑油組成物を用いて、該エンジンを作動させることからなる。
(a)主要量の潤滑粘度の基油、および
(b)金属フェネート、
ただし、潤滑油組成物中に存在する金属フェネートによる金属フェネートの量は、少なくとも約1000ppmである。
【0006】
態様によっては、本明細書に開示する潤滑油組成物は植物油または動物油を実質的に含まない。別の態様では、本明細書に開示する潤滑油組成物は植物油または動物油を含むことがない。
【0007】
ある態様では、本明細書に開示する潤滑油組成物は更に、酸化防止剤、耐摩耗性添加剤、清浄剤、さび止め添加剤、抗乳化剤、摩擦緩和剤、多機能添加剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、消泡剤、金属不活性化剤、分散剤、腐食防止剤、潤滑性向上剤、熱安定性向上剤、防曇剤、氷結防止剤、染料、マーカー、静電放散剤、殺生物剤およびそれらの組合せからなる群より選ばれた少なくとも一種の添加剤を含有している。別の態様では、少なくとも一種の添加剤は少なくとも一種の耐摩耗性添加剤である。更に別の態様では、少なくとも一種の耐摩耗性添加剤はジアルキルジチオリン酸亜鉛化合物からなる。それ以上の態様では、ジアルキルジチオリン酸亜鉛化合物から誘導されるリン分は、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.001質量%乃至約0.5質量%、特に約0.01質量%乃至約0.12質量%である。
【0008】
態様によっては、本明細書に開示する潤滑油組成物の硫酸灰分は、潤滑油組成物の全質量に基づき最大で約1.0質量%である。
【0009】
ある態様では、本明細書に開示する潤滑油組成物のバイオディーゼル燃料は、長鎖脂肪酸のアルキルエステルを含む。更なる態様では、長鎖脂肪酸は炭素原子約12個乃至炭素原子約30個を含む。ある態様では、バイオディーゼル燃料の量は、潤滑油組成物の全質量に基づき約1質量%乃至約20質量%である。
【0010】
態様によっては、本明細書に開示する潤滑油組成物の基油の量は、潤滑油組成物の全質量に基づき少なくとも40質量%である。更なる態様では、基油の動粘度は100℃で約5cSt乃至約20cStである。
【0011】
態様によっては、本明細書に開示する潤滑油組成物の金属フェネートの量は、潤滑油組成物の全質量に基づき少なくとも約1000ppmである。別の態様では、開示する潤滑油組成物の金属フェネートの量は、潤滑油組成物の全質量に基づき少なくとも約2000ppmである。別の態様では、金属フェネートはアルカリ金属フェネートである。更なる態様では、アルカリ金属フェネートはカルシウム金属フェネートである。それ以上の態様では、金属フェネートは、(I)式、(II)式、(III)式またはそれらの組合せを有する。
【0012】
【化1】

【0013】
式中、R1、R2、R3、R4、R5およびR6の各々は独立に、H、アルキル、アラルキルまたはアルキルアリールであり、M1、M2およびM3の各々は独立に、アルカリ土類金属であり、そしてnは、1乃至3の整数である。ある態様では、R1、R2、R3、R4、R5およびR6の各々は独立にアルキルであり、そしてM1、M2およびM3の各々はカルシウムである。
【0014】
その他の態様については以下で一部は明らかになり、また一部については具体的に指摘する。
【発明の効果】
【0015】
本明細書に開示する潤滑油組成物は、モーター油(すなわち、エンジン油またはクランクケース油)として、ディーゼルエンジン、特には少なくとも一部にバイオディーゼル燃料が供給されたディーゼルエンジンに使用するのに適していると言うことができる。また、本発明の潤滑油組成物は、熱いエンジン部分を冷やしたり、エンジンにさびや堆積物が無いようにしておいたり、燃焼ガスの漏出に抗してリングや弁を封じるのに使用することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
[定義]
本明細書に開示する内容の理解を容易にするために、本明細書で使用する多数の用語、略語または他の省略表現について、以下に定義する。定義されない用語、略語または省略表現は如何なるものであれ、本出願と同時代にある当該分野の熟練者が使用している通常の意味を有すると解釈できる。
【0017】
「バイオ燃料」は、再生可能な生物資源から生産された燃料(例えば、メタン)を意味する。再生可能な生物資源としては、直近まで生きていた有機体及びそれらの代謝副産物(例えば、牛の糞尿)、植物、もしくは工業や農業、林業、家庭からの生分解性生産物を挙げることができる。生分解性生産物の例としては、藁、材木、肥料、もみ殻、汚泥、生分解性廃棄物、残飯、木材、廃材、樹液、泥炭、鉄道枕木、木材スラッジ、亜硫酸パルプ廃液、農業廃棄物、藁、タイヤ、魚油、タル油、スラッジ廃液、アルコール廃液、都市ごみ、埋立地ガス、他の廃棄物、および自動車用ガソリンにブレンドできるエタノールを挙げることができる。バイオ燃料を生産するのに使用することができる植物としては、トウモロコシ、大豆、アマニ、ナタネ、サトウキビ、パーム油、およびナンヨウアブラギリが挙げられる。バイオ燃料の例としては、発酵糖から誘導されたアルコール、および植物油または木材から誘導されたバイオディーゼルが挙げられる。
【0018】
「バイオディーゼル燃料」は、ディーゼルエンジンを駆動するのに使用される、天然油のエステル化又はエステル交換で作られたアルキルエステルを意味する。ある態様ではバイオディーゼル燃料は、天然油を触媒の存在下でアルコール(例えば、エタノールまたはメタノール)でエステル化して、アルキルエステルにすることによって生成する。別の態様ではバイオディーゼル燃料は、植物油または動物脂肪などの天然油から誘導された少なくとも一種の長鎖脂肪酸のアルキルエステルを含む。更なる態様では長鎖脂肪酸は、炭素原子約8個乃至炭素原子約40個、炭素原子約12個乃至炭素原子約30個、又は炭素原子約14個乃至炭素原子約24個を含む。ある態様では開示するバイオディーゼル燃料は、石油ディーゼル燃料で運転するように設計された従来のディーゼルエンジンを運転するのに使用される。バイオディーゼル燃料は、一般に生分解性で非毒性であり、通常は石油系ディーゼルよりも約60%少ない正味二酸化炭素排出量を示す。
【0019】
「石油ディーゼル燃料」は、石油から生産されたディーゼル燃料を意味する。
【0020】
「主要量」の基油は、基油の量が潤滑油組成物のうちの少なくとも40質量%であることを意味する。ある態様では「主要量」の基油は、潤滑油組成物の50質量%より多い、60質量%より多い、70質量%より多い、80質量%より多い、又は90質量%より多い量の基油を意味する。
【0021】
「硫酸灰分」は、潤滑油中の金属含有添加剤(例えば、カルシウム、マグネシウム、モリブデン、亜鉛等)の量を意味し、一般にASTM D874によって測定でき、それも参照内容として本明細書の記載とする。
【0022】
組成物がある化合物を「実質的に含まない」とは、組成物が化合物を組成物の全質量に基づき20質量%未満、10質量%未満、5質量%未満、4質量%未満、3質量%未満、2質量%未満、1質量%未満、0.5質量%未満、0.1質量%未満、又は0.01質量%未満で含むことを意味する。
【0023】
組成物がある化合物を「含むことがない」とは、組成物が化合物を組成物の全質量に基づき0.001質量%乃至0質量%で含んでもよいことを意味する。
【0024】
以下の記述において開示する数値は全て、それに関連して「約」又は「およそ」が用いられているか否かにかかわらず、おおよその値である。数値は1パーセント、2パーセント、5パーセント、又はときには10乃至20パーセントも変わることがある。下限RLと上限RUで数値範囲を開示するときは常に、該範囲内の如何なる数値も明確に開示している。特に、下記の範囲内の数値を明確に開示している:R=RL+k*(RU−RL)、ただし、kは1パーセント乃至100パーセントの範囲で1パーセントずつ増加する変数である、すなわち、kは1パーセント、2パーセント、3パーセント、4パーセント、5パーセント、・・・50パーセント、51パーセント、52パーセント、・・・95パーセント、96パーセント、97パーセント、98パーセント、99パーセント、又は100パーセントである。さらに、上に定義したように二つの数値Rで定義した如何なる数値範囲も明確に開示している。
【0025】
本明細書で提供するのは、バイオディーゼル燃料又はその分解生成物が潤滑油組成物の全質量に基づき少なくとも約0.3質量%混入した潤滑油組成物であって、下記の成分を含む潤滑油組成物である:
(a)主要量の潤滑粘度の基油、および
(b)金属フェネート、
ただし、潤滑油組成物中に存在する金属フェネートによる金属フェネートの量は、少なくとも約1000ppmである。更なる態様では、基油は主要量で存在する。
【0026】
A)潤滑粘度の油
開示する潤滑油組成物は一般に、少なくとも一種の潤滑粘度の油を含有している。当該分野の熟練者に知られている任意の基油を、開示する潤滑粘度の油として使用することができる。潤滑油組成物を製造するのに適した基油については、モーティア(Mortier)、外著、「潤滑剤の化学と技術(Chemistry and Technology of Lubricants)」、第2版、ロンドン、スプリンガー(Springer)、第1章及び第2章(1996年)、およびA.シケリア、Jr.(A.Sequeria,Jr.)著、「潤滑油基油とろう処理(Lubricant Base Oil and Wax Processing)」、ニューヨーク、マーセル・デッカー(Marcel Decker)、第6章(1994年)、およびD.V.ブロック(D.V.Brock)著、ルブリケーション・エンジニアリング(Lubrication Engineering)、第43巻、p.184−5(1987年)に記載されていて、それらも全て参照内容として本明細書の記載とする。一般に潤滑油組成物中の基油の量は、潤滑油組成物の全質量に基づき約70乃至約99.5質量%であってよい。ある態様では潤滑油組成物中の基油の量は、潤滑油組成物の全質量に基づき約75乃至約99質量%、約80乃至約98.5質量%、又は約80乃至約98質量%である。
【0027】
ある態様では基油は、任意の天然または合成の潤滑基油留分であるか、あるいは潤滑基油留分を含有している。合成油の制限的でない例としては、エチレンなど少なくとも一種のアルファオレフィンの重合で製造されたポリアルファオレフィン類又はPAOs、あるいはフィッシャー・トロプシュ法などの一酸化炭素ガスと水素ガスを用いる炭化水素合成法により製造された油を挙げることができる。ある態様では、基油は、一種以上の重質留分を基油の全質量に基づき約10質量%未満で含む。重質留分は、粘度が100℃で少なくとも約20cStである潤滑油留分を意味する。ある態様では重質留分の粘度は、100℃で少なくとも約25cSt又は少なくとも約30cStである。更なる態様では基油中の一種以上の重質留分の量は、基油の全質量に基づき約10質量%未満、約5質量%未満、約2.5質量%未満、約1質量%未満、又は約0.1質量%未満である。それ以上の態様では基油は重質留分を含まない。
【0028】
ある態様では潤滑油組成物は、潤滑粘度の基油を主要量で含有している。態様によっては基油の100℃での動粘度は、約2.5センチストークス(cSt)乃至約20cSt、約4センチストークス(cSt)乃至約20cSt、又は約5cSt乃至約16cStである。基油または開示する潤滑油組成物の動粘度は、ASTM D445によって測定することができ、それも参照内容として本明細書の記載とする。
【0029】
別の態様では基油は、基材油または基材油のブレンドであるか、あるいはそれを含有している。更なる態様では基材油は、蒸留、溶剤精製、水素処理、オリゴマー化、エステル化および再精製を含むが、それらに限定されない各種の異なる方法を用いて製造される。ある態様では基材油は再精製基材油を含む。更に別の態様では再精製基材油は、製造、汚染もしくは以前の使用によって混入した物質を実質的に含まない。
【0030】
ある態様では基油は、米国石油協会(API)公報1509、第14版、1996年12月(すなわち、客車用モーター油及びディーゼルエンジン油のためのAPI基油互換性ガイドライン)に規定されているI−V種のうちの一種類以上の基材油を一種以上含有していて、それも参照内容として本明細書の記載とする。APIガイドラインは、基油を各種の異なる方法を用いて製造することができる潤滑剤成分として規定している。I、II、III種基油は鉱油であり、各々特定範囲の量の飽和度と硫黄分と粘度指数を有する。IV種基材油はポリアルファオレフィン(PAO)である。V種基油には、I、II、III又はIV種に含まれないその他全ての基油が含まれる。
【0031】
下記第1表に、I、II及びIII種基油の飽和度レベル、硫黄レベルおよび粘度指数を記載する。
【0032】
第 1 表
────────────────────────────────────
種 飽和度(ASTM 硫黄(ASTM 粘度指数(ASTM D
D2007で決定) D2270で決定) 4294、ASTM D 4297又はASTM D3120で決定)
────────────────────────────────────
I 飽和度90%未満 硫黄0.03%以上 80以上、120未満
II 飽和度90%以上 硫黄0.03%以下 80以上、120未満
III 飽和度90%以上 硫黄0.03%以下 120以上
IV ポリアルファオレフィン(PAO)と規定
V I、II、III又はIV種に含まれないその他全ての基油
────────────────────────────────────
【0033】
ある態様では基油は、I、II、III、IV、V種又はそれらの組合せの基油を一種以上含む。別の態様では基油は、II、III、IV種又はそれらの組合せの基油を一種以上含む。更なる態様では基油は、II、III、IV種又はそれらの組合せの基材油を一種以上含み、かつ基油の動粘度は100℃で、約2.5センチストークス(cSt)乃至約20cSt、約4cSt乃至約20cSt、又は約5cSt乃至約16cStである。
【0034】
基油は、潤滑粘度の天然油、潤滑粘度の合成油およびそれらの混合物からなる群より選ぶことができる。ある態様では基油として、合成ろうや粗ろうの異性化により得られた基材油、並びに原油の芳香族及び極性成分を(溶剤抽出よりはむしろ)水素化分解することにより生成した水素化分解基材油を挙げることができる。別の態様では潤滑粘度の基油として、天然油、例えば動物油、植物油、鉱油(例えば、液体石油、およびパラフィン型、ナフテン型又は混合パラフィン・ナフテン型の溶剤処理又は酸処理鉱油)、石炭または頁岩から誘導された油、およびそれらの組合せを挙げることができる。動物油の制限的でない例としては、骨油、ラノリン、魚油、ラード油、イルカ油、アザラシ油、サメ肝油、牛脂油、および鯨油が挙げられる。植物油の制限的でない例としては、ヒマシ油、オリーブ油、ピーナッツ油、ナタネ油、トウモロコシ油、ゴマ油、綿実油、大豆油、ヒマワリ油、べに花油、大麻油、アマニ油、キリ油、オイチシカ油、ホホバ油、およびメドウフォーム油が挙げられる。そのような油は部分的にまたは完全に水素化されていてもよい。
【0035】
ある態様では潤滑粘度の合成油として、炭化水素油およびハロ置換炭化水素油、例えば重合及び共重合オレフィン類、アルキルベンゼン類、ポリフェニル類、アルキル化ジフェニルエーテル類、アルキル化ジフェニルスルフィド類、並びにそれらの誘導体、およびそれらの類似物及び同族体等を挙げることができる。別の態様では合成油として、アルキレンオキシド重合体、真の共重合体、共重合体、および末端ヒドロキシル基がエステル化やエーテル化等によって変性しうるそれらの誘導体を挙げることができる。更なる態様では合成油として、ジカルボン酸と各種アルコールのエステル類が挙げられる。ある態様では合成油として、C5−C12モノカルボン酸とポリオールとポリオールエーテルとから製造されたエステル類が挙げられる。更なる態様では合成油として、トリアルキルリン酸エステル油、例えばトリ−n−ブチルホスフェートおよびトリ−イソ−ブチルホスフェートが挙げられる。
【0036】
ある態様では潤滑粘度の合成油として、ケイ素系の油(例えば、ポリアルキル、ポリアリール、ポリアルコキシ、ポリアリールオキシ−シロキサン油及びシリケート油)が挙げられる。別の態様では合成油として、リン含有酸の液体エステル類、高分子量テトラヒドロフラン類、およびポリアルファオレフィン類等が挙げられる。
【0037】
ろうの水素異性化から誘導された基油も、単独で、あるいは前記天然及び/又は合成基油と組み合わせて使用することができる。そのようなろう異性化油は、天然又は合成ろうまたはそれらの混合物を水素異性化触媒を用いて水素異性化することにより生成する。
【0038】
更なる態様では基油は、ポリ−アルファ−オレフィン(PAO)を含有している。一般にポリ−アルファ−オレフィン類は、炭素原子数約2〜約30、約4〜約20、又は約6〜約16のアルファ−オレフィンから誘導することができる。好適なポリ−アルファ−オレフィン類の制限的でない例としては、オクテン、デセンおよびそれらの混合物等から誘導されたものが挙げられる。これらポリ−アルファ−オレフィン類の粘度は、100℃で約2乃至約15、約3乃至約12、又は約4乃至約8センチストークスであってよい。場合によっては、ポリ−アルファ−オレフィン類を鉱油など他の基油と一緒に使用することもできる。
【0039】
更なる態様では基油は、ポリアルキレングリコールまたはポリアルキレングリコール誘導体を含有していて、ポリアルキレングリコールの末端ヒドロキシル基はエステル化やエーテル化、アセチル化等により変性していてもよい。好適なポリアルキレングリコール類の制限的でない例としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリイソプロピレングリコール、およびそれらの組合せが挙げられる。好適なポリアルキレングリコール誘導体の制限的でない例としては、ポリアルキレングリコールのエーテル類(例えば、ポリイソプロピレングリコールのメチルエーテル、ポリエチレングリコールのジフェニルエーテル、ポリプロピレングリコールのジエチルエーテル等)、ポリアルキレングリコールのモノ及びポリカルボン酸エステル類、およびそれらの組合せが挙げられる。場合によっては、ポリアルキレングリコールまたはポリアルキレングリコール誘導体を、ポリ−アルファ−オレフィン類や鉱油など他の基油と一緒に使用することもできる。
【0040】
更なる態様では基油は、ジカルボン酸(例えば、フタル酸、コハク酸、アルキルコハク酸、アルケニルコハク酸、マレイン酸、アゼライン酸、スベリン酸、セバシン酸、フマル酸、アジピン酸、リノール酸二量体、マロン酸、アルキルマロン酸、およびアルケニルマロン酸等)と、各種アルコール(例えば、ブチルアルコール、ヘキシルアルコール、ドデシルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールモノエーテル、およびプロピレングリコール等)とのエステル類の何れかを含む。これらエステル類の制限的でない例としては、アジピン酸ジブチル、セバシン酸ジ(2−エチルヘキシル)、フマル酸ジ−n−ヘキシル、セバシン酸ジオクチル、アゼライン酸ジイソオクチル、アゼライン酸ジイソデシル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジデシル、セバシン酸ジエイコシル、およびリノール酸二量体の2−エチルヘキシルジエステル等を挙げることができる。
【0041】
更なる態様では基油は、フィッシャー・トロプシュ法により製造された炭化水素を含む。フィッシャー・トロプシュ法では、水素と一酸化炭素を含むガスからフィッシャー・トロプシュ触媒を用いて炭化水素が製造される。これらの炭化水素は、基油として使用できるためには更なる処理を要することがある。例えば、当該分野の熟練者に知られている方法を用いて炭化水素を脱ろう、水素異性化および/または水素化分解してもよい。
【0042】
更なる態様では基油は、未精製油、精製油、再精製油またはそれらの混合物を含む。未精製油は、天然原料または合成原料からそれ以上の精製処理無しに直接得られたものである。未精製油の制限的でない例としては、レトルト操作により直接得られた頁岩油、一次蒸留により直接得られた石油、およびエステル化法により直接得られてそれ以上の処理無しに使用できるエステル油を挙げることができる。精製油は、一つ以上の性状を改善するために一以上の精製法で更に処理されていることを除いては、未精製油と同じものである。溶剤抽出、二次蒸留、酸又は塩基抽出、ろ過およびパーコレートなど、多数のそのような精製法が当該分野の熟練者に知られている。再精製油は、精製油を得るために用いたのと同様の方法を精製油に適用することにより得られる。そのような再精製油は、再生又は再処理油としても知られていて、しばしば使用された添加剤や油分解生成物の除去を目的とする方法により追加処理される。
【0043】
B)バイオディーゼル燃料
開示する潤滑油組成物は一般に、少なくとも一種のバイオディーゼル燃料を含有している。ディーゼルエンジンを運転するのにそのままの形で使用することができる任意のバイオディーゼル燃料を、本発明でも使用することができる。バイオディーゼル燃料の制限を意図しない例は、ゲールハルト・クノーテ(Gerhard Knothe)及びジョン・ファン・ゲルペン(Jon Van Gerpen)著、「バイオディーゼル便覧(The Biodiesel Handbook)」、AOCS出版(2005年)に開示されていて、それも参照内容として本明細書の記載とする。
【0044】
ある態様ではバイオディーゼル燃料は、植物油または動物脂肪などの天然油から誘導された一種以上の長鎖脂肪酸のモノアルキルエステルを含む。別の態様ではバイオディーゼル燃料は、一種以上の長鎖脂肪酸のメチルエステルを含む。更なる態様では長鎖脂肪酸の炭素原子数は、約10〜約30、約14〜約26、又は約16〜約22である。更なる態様では長鎖脂肪酸は、パルミチン酸(C16)、オレイン酸(C18:1)、リノール酸(C18:2)および他の酸を含む。それ以上の態様ではバイオディーゼル燃料は、トウモロコシ油、カシューナッツ油、オート麦油、ルピナス油、ケナフ油、キンセンカ油、綿実油、大麻油、大豆油、コーヒー油、アマニ油、ヘーゼルナッツ油、トウダイグサ油、カボチャ種油、コリアンダー油、カラシ油、ツバキ油、ゴマ油、べに花油、こめ油、キリ油、ヒマワリ油、カカオ油、ピーナッツ油、ケシ油、ナタネ油、オリーブ油、ヒマシ油、ピーカンナッツ油、ホホバ油、ナンヨウアブラギリ油、マカダミアナッツ油、ブラジルナッツ油、アボカド油、ヤシ油、パーム油、チャイニーズ牛脂油または藻類油のエステル化又はエステル交換から誘導される。それ以上の態様ではバイオディーゼル燃料は、天然油またはナタネ、大豆、ナンヨウアブラギリまたは他の新バイオマス、UCO(使用済食用油)、MSW(都市ごみ)から、あるいは任意の実施可能な燃料資源から化学的に変換される。
【0045】
ある態様では開示するバイオディーゼル燃料は、EN14214標準規格を満たすバイオディーゼル燃料を含んでいて、それも参照内容として本明細書の記載とする。別の態様では開示するバイオディーゼル燃料は、第2表に示すようなEN14214規格値の一部を満たしている。
【0046】
第 2 表
─────────────────────────────────────
性状 単位 下限 上限 試験法
─────────────────────────────────────
エステル含量 % 96.5 EN14103d
密度(15℃) kg/m3 860 EN ISO3675又は
EN ISO12185
粘度(40℃) mm2/s 3.5 − EN ISO3104
引火点 ℃ >101 900 ISO CD3679e
硫黄分 mg/kg − 5.0 −
タール残渣(10 % − − EN ISO10370
%蒸留残液中)
セタン価 − 51.0 10 EN ISO5165
硫酸灰分 % − 0.3 ISO3987
─────────────────────────────────────
【0047】
一般に、ASTM D6751−03規格値を満たす純粋なバイオディーゼル燃料は、B100表示である。ASTM D6751−03も参照内容として本明細書の記載とする。ある態様では、B100バイオディーゼル燃料を石油ディーゼル燃料と混合してバイオディーゼルブレンドとすることができて、ブレンドは排出量を低減してエンジン性能を向上させることが可能である。バイオディーゼルブレンドには表示「Bxx」がある、ただし、xxは、バイオディーゼルブレンドの全容量に基づくB100バイオディーゼルの容量%量を意味する。例えば「B6」は、B100バイオディーゼル燃料6容量%と、石油ディーゼル燃料94容量%とからなるバイオディーゼルブレンドを意味する。
【0048】
ある態様では開示するバイオディーゼル燃料は、B100、B95、B90、B85、B80、B75、B70、B65、B60、B55、B50、B45、B40、B35、B30、B25、B20、B15、B10、B8、B6、B5、B4、B3、B2又はB1バイオディーゼル燃料である。別の態様では、B100バイオディーゼル燃料を一種以上の鉱油系ディーゼルとブレンドする、ただし、B100バイオディーゼル燃料の量は、バイオディーゼルブレンドの全容量に基づき約5容量%、約6容量%、約10容量%、約15容量%、約20容量%、約25容量%、約30容量%、約35容量%、約40容量%、約45容量%、約50容量%、約55容量%、約60容量%、約65容量%、約70容量%、約75容量%、約80容量%、約85容量%、約90容量%、又は約95容量%である。
【0049】
ある態様ではバイオディーゼル燃料を、石油ディーゼル燃料で運転するように設計された従来のディーゼルエンジンを運転するために使用する。別の態様ではバイオディーゼル燃料を、天然油または他のバイオ燃料で運転するように設計された改良ディーゼルエンジンを運転するために使用する。
【0050】
潤滑油組成物中のバイオディーゼル燃料の量は、生分解性および粘度など所望の性状を得るのに適した任意の量であってよい。ある態様では潤滑油組成物中のバイオディーゼル燃料の量は、潤滑油組成物の全質量に基づき少なくとも約0.3質量%、少なくとも約1質量%、少なくとも約2質量%、少なくとも約3質量%、少なくとも約4質量%、少なくとも約5質量%、少なくとも約10質量%、少なくとも約15質量%、少なくとも約20質量%、少なくとも約25質量%、少なくとも約30質量%、少なくとも約35質量%、少なくとも約40質量%、少なくとも約45質量%、又は少なくとも約50質量%である。
【0051】
C)潤滑油添加剤
開示する潤滑油組成物は一般に、少なくとも一種の金属フェネートを含有する。エンジン堆積物の付着を低減するもしくは遅らせることのできる任意の金属フェネートを使用することができる。ある態様では金属フェネートとして、アルキルフェノールの塩類、アルキルフェノールスルフィド類、およびアルキルフェノール−アルデヒド縮合物を挙げることができる。別の態様では金属フェネートを、金属水酸化物または金属酸化物などの塩基で過塩基化する。ある態様では開示する金属フェネートは、(I)式、(II)式、(III)式またはそれらの組合せを有する二価金属フェネートからなる。
【0052】
【化2】

【0053】
式中、R1、R2、R3、R4、R5およびR6の各々は独立に、H、アルキル、アラルキルまたはアルキルアリールであり、M1、M2およびM3の各々は独立に、アルカリ土類金属であり、そしてnは、1乃至3の整数である。
【0054】
ある態様ではアルカリ土類金属は、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムまたはラジウムである。別の態様ではアルカリ土類金属は、カルシウムまたはマグネシウムである。更なる態様ではアルカリ土類金属はカルシウムである。nの値は一般に、含まれている特定の金属に依存する。
【0055】
ある態様ではR1、R2、R3、R4、R5およびR6の各々は独立に、アルキル基である。別の態様ではアルキル基は、炭素原子を少なくとも8個含む。別の態様ではアルキル基は、炭素原子約9個〜約22個を含む。更なる態様ではアルキル基は直鎖アルキル基である。それ以上の態様ではアルキル基は分枝アルキル基である。ある態様では(I)式、(II)式または(III)式のフェニル環のうちの一つ以上を、一個以上の多芳香環、例えばナフチル環、アントラセニル環またはフェナントレニル環で置換することができる。
【0056】
ある態様では金属フェネートは、一種以上のフェノール化合物と金属塩基を、低粘度の鉱油中で金属塩基の反応性に応じて約25℃乃至約260℃の温度で反応させることにより製造する。ある態様ではフェノール化合物は、(IV)式の化合物であってもよい。
【0057】
【化3】

【0058】
式中、R7は、H、アルキル、アラルキルまたはアルキルアリールである。ある態様では(IV)式のフェニル環を、ナフチル環、アントラセニル環またはフェナントレニル環などの多芳香環で置換することができる。
【0059】
ある態様では、一種以上のフェノール化合物を水酸化カルシウムなどのアルカリ土類金属塩基と反応させることにより、金属フェネートを製造する。別の態様では一種類のフェノール化合物をアルカリ土類金属塩基と反応させることにより、対称な金属フェネート(例えば、(I)式のR1とR2が同じである、(II)式のR3とR4が同じである、あるいは(III)式のR5とR6が同じである)を製造する。更なる態様では二種以上のフェノール化合物をアルカリ土類金属塩基と反応させることにより、非対称な金属フェネート(例えば、(I)式のR1とR2が異なる、(II)式のR3とR4が異なる、あるいは(III)式のR5とR6が異なる)を製造する。それ以上の態様では、二種以上のフェノール化合物を同時にアルカリ土類金属塩基と反応させる。それ以上の態様では二種以上のフェノール化合物を順次アルカリ土類金属塩基と反応させる。
【0060】
ある態様では(I)式、(II)式、(III)式または(IV)式の各々は独立に、ヒドロキシル、チオール、カルボキシル、アミノ、ハロ、アルキル、アシル、アルコキシ、アルキルスルファニル、アルケニル、アルキニル、エステル、アミド、ニトロ、シアノ、スルホネート、ホスフェート、ホスホネート、複素環またはアリールから選ばれた一種以上の置換基で更に置換されている。
【0061】
(IV)式のフェノール化合物は、商品として得ることもできるし、あるいはフェノール化合物をH2SO4やAlCl3などの触媒を用いて、オレフィン類、塩素化パラフィン類またはアルコール類でアルキル化することにより製造することもできる。ある態様では、代表的なフリーデル・クラフツ型のアルキル化にてフェノール化合物を塩素化パラフィンでアルキル化するのに、触媒はAlCl3である。ある態様では、(1)希釈油と、アルコール、水及び沈降物と混合状態にあるエチレングリコールなどアルキル多価アルコールと、ハロゲン化物イオンとの混合物の存在下で、硫化アルキルフェノールを、水酸化又は酸化カルシウムなどのアルカリ土類塩基で中和する工程、(2)反応混合物を、ハロゲン化物イオンの存在下でCO2で炭酸化する工程、そして(3)アルコール、グリコール水および沈降物を除去する工程を含む過塩基化法により、過塩基性硫化アルキルフェネートを製造する。過塩基化法の前、その間又はその後の何れかにおいて、アルキルフェネートを、ステアリン酸などの長鎖カルボン酸、その無水物又は塩で処理することができる。
【0062】
ある態様では標準的なフェネートを生成させるのに、理論量を越える過剰な金属塩基が必要である。いわゆる塩基性アルカリフェネートを生成させることも可能である。公知文献の方法によれば、金属を化学量論量の2倍も3倍も含む塩基性アルカリ土類金属フェネートを製造することができる。
【0063】
アルカリ土類金属フェネートの重要な機能が酸の中和にあるので、これら物質への過剰な塩基の取込みは、無金属フェネートにまさる明らかな利点をもたらすことができる。ある態様では塩基性フェネートを、フェノールスルフィドから製造することもできる。これにより、フェノールスルフィドに酸中和能という利点が付与される。
【0064】
一般に、過塩基性アルカリ土類金属フェネートを、生成物に含まれる全塩基度の量で定義することができる。ある態様では清浄剤を、そのTBN(全塩基価)で分類することができ、例えば300TBNの合成スルホネートと呼ぶ。試料のTBNは、ASTAM D−2869、または他の任意の同等の方法により決定することができ、それも参照内容として本明細書の記載とする。塩基価は、物質に含まれる等価量の水酸化カリウムによって定義することができる。例えば、300TBNのカルシウムスルホネートは、グラム当り水酸化カリウム300ミリグラム、もっと簡単には300mgKOH/gと等価な塩基を含む。一般に、過塩基性度は油溶性およびろ過性に依存する。
【0065】
本発明の潤滑油組成物中に存在する金属フェネートによる金属の量は、通常は少なくとも約1000ppm、又は少なくとも約1500ppm、又は少なくとも約2000ppmである。一般に本発明の潤滑油組成物は、金属フェネートによる金属を最大5000ppm含むことができる。
【0066】
本発明に使用できるアルカリ土類金属フェネートのTBNは、約40乃至約400、約200乃至約400、約100乃至約300、又は約140乃至約250とすべきである。高いTBNを持つ好適な市販フェネートの制限的でない例としては、下記の性状を有する、シェブロン・オロナイト・カンパニーLLC(Chevron Oronite Company LLC、カリフォルニア州サンラモン)製のカルシウムフェネート類(カルシウム5.25%、硫黄3.4%、TBN145)、(カルシウム5.25%、硫黄2.4%、TBN147)、(カルシウム9.25%、硫黄3.3%、TBN250)、または(カルシウム12.5%、硫黄2.4%、TBN320)を挙げることができる。好適な市販カルシウムフェネートの他の制限的ではない例としては、LUBRIZOL6499(カルシウム9.2%、硫黄3.25%、TBN250)、LUBRIZOL6500(カルシウム7.2%、硫黄2.6%、TBN200)、またはLUBRIZOL6501(カルシウム6.8%、硫黄2.3%、TBN190)を挙げることができる。これらのフェネートは全て、ルブリゾル・コーポレーション(Lubrizol Corporation、オハイオ州ウィクリフ)製である。
【0067】
任意に、潤滑油組成物は更に、潤滑油組成物の所望の任意の特性を付与または改善することができる、少なくとも一種の添加剤または調整剤(以下、「添加剤」と呼ぶ)を含んでいてもよい。当該分野の熟練者に知られている任意の添加剤を、開示する潤滑油組成物に使用することができる。好適な添加剤は、モーティア、外著、「潤滑剤の化学と技術」、第2版、ロンドン、スプリンガー(1996年)、およびレスリー・R.ルドニック(Leslie R.Rudnick)著、「潤滑油添加剤:化学と用途(Lubricant Additives: Chemistry and Applications)」、ニューヨーク、マーセル・デッカー(Marcel Dekker)(2003年)に記載されていて、それら両方とも参照内容として本明細書の記載とする。ある態様では添加剤は、酸化防止剤、耐摩耗性添加剤、清浄剤、さび止め添加剤、抗乳化剤、摩擦緩和剤、多機能添加剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、消泡剤、金属不活性化剤、分散剤、腐食防止剤、潤滑性向上剤、熱安定性向上剤、防曇剤、氷結防止剤、染料、マーカー、静電放散剤、殺生物剤およびそれらの組合せからなる群より選ぶことができる。一般に、添加剤の各々を使用する場合に潤滑油組成物中でのその濃度は、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.001質量%乃至約10質量%、約0.01質量%乃至約5質量%、又は約0.1質量%乃至約2.5質量%の範囲であってよい。さらに、潤滑油組成物中の添加剤の総量は、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.001質量%乃至約20質量%、約0.01質量%乃至約10質量%、又は約0.1質量%乃至約5質量%の範囲であってよい。
【0068】
開示する潤滑油組成物は任意に、摩擦および過剰な摩耗を低減することができる耐摩耗性添加剤を含むことができる。当該分野の熟練者が知っている任意の耐摩耗性添加剤を、潤滑油組成物に使用することができる。好適な耐摩耗性添加剤の制限的でない例としては、ジチオリン酸亜鉛、ジチオリン酸塩の金属(例えば、Pb、SbおよびMo等)塩、ジチオカルバメートの金属(例えば、Zn、Pb、SbおよびMo等)塩、脂肪酸の金属(例えば、Zn、PbおよびSb等)塩、ホウ素化合物、リン酸エステル類、亜リン酸エステル類、リン酸エステル又はチオリン酸エステルのアミン塩、ジシクロペンタジエンとチオリン酸の反応生成物、およびそれらの組合せを挙げることができる。耐摩耗性添加剤の量は、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.01質量%乃至約5質量%、約0.05質量%乃至約3質量%、又は約0.1質量%乃至約1質量%で変えることができる。好適な耐摩耗性添加剤は、レスリー・R.ルドニック著、「潤滑油添加剤:化学と用途」、ニューヨーク、マーセル・デッカー、第8章、p.223−258(2003年)に記載されていて、それも参照内容として本明細書の記載とする。
【0069】
ある態様では耐摩耗性添加剤は、ジアルキルジチオリン酸亜鉛化合物などの二炭化水素ジチオリン酸金属塩であるか、あるいはそれを含有している。二炭化水素ジチオリン酸金属塩の金属は、アルカリ又はアルカリ土類金属であっても、あるいはアルミニウム、鉛、スズ、モリブデン、マンガン、ニッケルまたは銅であってもよい。ある態様では金属は亜鉛である。別の態様では二炭化水素ジチオリン酸金属塩のアルキル基は、炭素原子数約3〜約22、炭素原子数約3〜約18、炭素原子数約3〜約12、又は炭素原子数約3〜約8である。更なる態様ではアルキル基は線状であるかまたは分枝している。
【0070】
開示する潤滑油組成物中のジアルキルジチオリン酸亜鉛を含む二炭化水素ジチオリン酸金属塩の量は、そのリン分で量られる。ある態様では開示する潤滑油組成物のリン分は、
潤滑油組成物の全質量に基づき約0.01質量%乃至約0.12質量%、約0.01質量%乃至約0.10質量%、又は約0.02質量%乃至約0.08質量%である。
【0071】
一態様では潤滑油組成物のリン分は、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.01乃至0.08質量%である。別の態様では潤滑油組成物のリン分は、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.05乃至0.12質量%である。
【0072】
二炭化水素ジチオリン酸金属塩は、公知技術に従ってまず、通常はアルコールおよびフェノール化合物のうちの一種以上をP25と反応させることで、二炭化水素ジチオリン酸(DDPA)を生成させ、次いで生成したDDPAを金属化合物、例えば金属の酸化物、水酸化物又は炭酸塩で中和することにより製造することができる。ある態様では、第一級及び第二級アルコールの混合物をP25と反応させることにより、DDPAを製造することができる。別の態様では、二種以上の二炭化水素ジチオリン酸を製造することができて、一種類のジチオリン酸の炭化水素基は全く第二級の性質であるが、残りのジチオリン酸の炭化水素基は全く第一級の性質である。亜鉛塩は、二炭化水素ジチオリン酸から亜鉛化合物と反応させることにより製造することができる。ある態様では塩基性又は中性の亜鉛化合物を使用する。別の態様では亜鉛の酸化物、水酸化物又は炭酸塩を使用する。
【0073】
ある態様では、(II)式で表されるジアルキルジチオリン酸から、油溶性のジアルキルジチオリン酸亜鉛を生成させることができる。
【0074】
【化4】

【0075】
式中、R8およびR9の各々は独立に、線状又は分枝アルキル、または線状又は分枝置換アルキルである。ある態様ではアルキル基は、炭素原子数約3〜約30、又は炭素原子数約3〜約8である。
【0076】
(II)式のジアルキルジチオリン酸は、アルコールR8OHおよびR9OH(ただし、R8およびR9は上に定義した通りである)を、P25と反応させることにより製造することができる。ある態様ではR8とR9は同じである。別の態様ではR8とR9は異なっている。更なる態様ではR8OHとR9OHを同時にP25と反応させる。それ以上の態様ではR8OHとR9OHを順次P25と反応させる。
【0077】
ヒドロキシルアルキル化合物の混合物も使用することができる。これらヒドロキシルアルキル化合物は、モノヒドロキシルアルキル化合物である必要はない。ある態様では、モノ、ジ、トリ、テトラ及び他のポリヒドロキシアルキル化合物または前者の二種以上の混合物から、ジアルキルジチオリン酸を製造する。別の態様では、第一級アルキルアルコールのみから誘導するジアルキルジチオリン酸亜鉛は、単一の第一級アルコールから誘導する。更なる態様ではその単一第一級アルコールは、2−エチルヘキサノールである。ある態様では、第二級アルキルアルコールのみからジアルキルジチオリン酸亜鉛を誘導する。更なる態様ではその第二級アルコールの混合物は、2−ブタノールと4−メチル−2−ペンタノールの混合物である。
【0078】
ジアルキルジチオリン酸の生成工程に使用される五硫化リン反応体は、P23、P43、P47又はP49のうちの一種以上をある量含むことがある。組成物それ自体が少量の遊離硫黄を含むこともある。ある態様では五硫化リン反応体は、P23、P43、P47及びP49の何れも実質的に含まない。ある態様では五硫化リン反応体は遊離硫黄を実質的に含まない。
【0079】
本発明において、全潤滑油組成物の硫酸灰分は、ASTM D874によって測定したときに、多くて約5質量%、多くて約4質量%、多くて約3質量%、多くて約2質量%、又は多くて約1質量%である。
【0080】
任意に、開示する潤滑油組成物は更に追加の清浄剤を含有することができる。エンジン堆積物の付着を低減するまたは遅らせることができる任意の化合物又は化合物の混合物を、清浄剤として使用することができる。好適な清浄剤の制限的でない例としては、ポリオレフィン置換コハク酸イミド類またはポリアミンのコハク酸アミド類、例えばポリイソブチレンコハク酸イミド類またはポリイソブチレンアミンコハク酸アミド類、脂肪族アミン類、マンニッヒ塩基又はアミン類、およびポリオレフィン(例えば、ポリイソブチレン)マレイン酸無水物を挙げることができる。好適なコハク酸イミド清浄剤は、英国特許第960493号、欧州特許第0147240号、欧州特許第0482253号、欧州特許第0613938号、欧州特許第0557561号の各明細書及び国際公開第98/42808号パンフレットに記載されていて、それら全て参照内容として本明細書の記載とする。ある態様では清浄剤は、ポリイソブチレンコハク酸イミドなどのポリオレフィン置換コハク酸イミドである。市販清浄添加剤の制限的でない例としては、F7661及びF7685(インフィニウム(Infineum)社製、ニュージャージー州リンデン)、およびOMA4130D(オクテル・コーポレーション(Octel Corporation)製、英国マンチェスター)が挙げられる。
【0081】
好適な金属清浄剤の制限的ではない例としては、硫化又は未硫化アルキル又はアルケニルフェネート類、アルキル又はアルケニル芳香族スルホネート類、ホウ酸化スルホネート類、多ヒドロキシアルキル又はアルケニル芳香族化合物の硫化又は未硫化金属塩類、アルキル又はアルケニルヒドロキシ芳香族スルホネート類、硫化又は未硫化アルキル又はアルケニルナフテネート類、アルカノール酸の金属塩類、アルキル又はアルケニル多酸の金属塩類、およびそれらの化学的及び物理的混合物を挙げることができる。好適な金属清浄剤の他の制限的ではない例としては、金属スルホネート類、サリチレート類、ホスホネート類、チオホスホネート類、およびそれらの組合せが挙げられる。金属は、スルホネート、サリチレート又はホスホネート清浄剤を製造するのに適した任意の金属であってよい。好適な金属の制限的ではない例としては、アルカリ金属、アルカリ金属および遷移金属が挙げられる。ある態様では金属は、Ca、Mg、Ba、K、NaまたはLi等である。
【0082】
一般に清浄剤の量は、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.001質量%乃至約5質量%、約0.05質量%乃至約3質量%、又は約0.1質量%乃至約1質量%である。好適な清浄剤は、モーティア、外著、「潤滑剤の化学と技術」、第2版、ロンドン、スプリンガー、第3章、p.75−85(1996年)、およびレスリー・R.ルドニック著、「潤滑油添加剤:化学と用途」、ニューヨーク、マーセル・デッカー、第4章、p.113−136(2003年)に記載されていて、それら両方とも参照内容として本明細書の記載とする。
【0083】
ある態様では開示する潤滑油組成物は、基油の酸化を低減または防止することができる酸化防止剤を含有している。当該分野の熟練者が知悉している任意の酸化防止剤を、潤滑油組成物に使用することができる。好適な酸化防止剤の制限的ではない例としては、アミン系酸化防止剤(例えば、アルキルジフェニルアミン類、フェニル−a−ナフチルアミン、アルキル又はアラルキル置換フェニル−a−ナフチルアミン、アルキル化p−フェニレンジアミン類、およびテトラメチル−ジアミノジフェニルアミン等)、フェノール系酸化防止剤(例えば、2−tert−ブチルフェノール、4−メチル−2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、2,4,6−トリ−tert−ブチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、4,4’−メチレンビス−(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、および4,4’−チオビス(6−ジ−tert−ブチル−o−クレゾール)等)、硫黄系酸化防止剤(例えば、ジラウリル−3,3’−チオジプロピオネート、および硫化フェノール系酸化防止剤等)、リン系酸化防止剤(例えば、亜リン酸塩等)、ジチオリン酸亜鉛、油溶性銅化合物、およびそれらの組合せを挙げることができる。酸化防止剤の量は、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.01質量%乃至約10質量%、約0.05質量%乃至約5質量%、又は約0.1質量%乃至約3質量%で変えることができる。好適な酸化防止剤は、レスリー・R.ルドニック著、「潤滑油添加剤:化学と用途」、ニューヨーク、マーセル・デッカー、第1章、p.1−28(2003年)に記載されていて、それも参照内容として本明細書の記載とする。
【0084】
ある態様では酸化防止剤は、ジアリールアミンであるか、あるいはそれを含有している。好適なジアリールアミン化合物の制限的ではない例としては、ジフェニルアミン、フェニル−a−ナフチルアミン、アルキル化ジアリールアミン類、例えばアルキル化ジフェニルアミン類およびアルキル化フェニル−a−ナフチルアミン類を挙げることができる。ある態様ではジアリールアミン化合物は、アルキル化ジフェニルアミンである。ジアリールアミン化合物は、単独でも、あるいは他のジアリールアミン化合物を含む他の潤滑油添加剤と組み合わせても使用することができる。
【0085】
一態様では、アルキル化ジフェニルアミンを(I)式で表すことができる。
【0086】
【化5】

【0087】
式中、R1およびR2の各々は独立に、水素、または炭素原子数約7〜約20、又は約7〜約10のアラルキル基、または炭素原子数約1〜約24の線状又は分枝アルキル基であり、そして少なくとも一方の芳香環がアラルキル基または線状又は分枝アルキル基を含む限り、xおよびyの各々は独立に、0、1、2又は3である。ある態様ではR1およびR2の各々は独立に、炭素原子約4〜約20個、約4〜16個、約4〜約12個、又は約4〜約8個を含むアルキル基である。
【0088】
ある態様ではアルキル化ジフェニルアミンとしては、これらに限定されるものではないが、ビスノニル化ジフェニルアミン、ビスオクチル化ジフェニルアミン、およびオクチル化/ブチル化ジフェニルアミンが挙げられる。別の態様ではアルキル化ジフェニルアミンは、(I)式(ただし、R1およびR2の各々は独立にオクチルであり、そしてxおよびyの各々は1である)の第一の化合物からなる。更なる態様ではアルキル化ジフェニルアミンは、(I)式(ただし、R1およびR2の各々は独立にブチルであり、そしてxおよびyの各々は1である)の第二の化合物からなる。それ以上の態様ではアルキル化ジフェニルアミンは、(I)式(ただし、R1はオクチルであり、R2はブチルであり、そしてxおよびyの各々は1である)の第三の化合物からなる。それ以上の態様ではアルキル化ジフェニルアミンは、(I)式(ただし、R1はオクチルであり、xは2であり、そしてyは0である)の第四の化合物からなる。それ以上の態様ではアルキル化ジフェニルアミンは、(I)式(ただし、R1はブチルであり、xは2であり、そしてyは0である)の第五の化合物からなる。ある態様ではアルキル化ジフェニルアミンは、第一化合物、第二化合物、第三化合物、第四化合物、第五化合物またはそれらの組合せからなる。
【0089】
ある態様では、開示する潤滑油組成物中のアルキル化ジフェニルアミンなどジアリールアミン化合物の量は、潤滑油組成物の全質量に基づき少なくとも約0.1質量%、少なくとも約0.2質量%、少なくとも約0.3質量%、少なくとも約0.4質量%、少なくとも約0.5質量%、少なくとも約1.0質量%、少なくとも約1.5質量%、少なくとも約2質量%、又は少なくとも約5質量%である。
【0090】
開示する潤滑油組成物は任意に、粒子をコロイド状態で懸濁しておくことでスラッジやワニス、他の堆積物を防ぐことができる分散剤を含有することができる。当該分野の熟練者が知っている任意の分散剤を、潤滑油組成物に使用することができる。好適な分散剤の制限的ではない例としては、アルケニルコハク酸イミド類、他の有機化合物で変性したアルケニルコハク酸イミド類、エチレンカーボネート又はホウ酸による後処理で変性したアルケニルコハク酸イミド類、コハク酸アミド類、コハク酸エステル類、コハク酸エステル−アミド類、ペンタエリトリトール類、フェネート−サリチレート類及びそれらの後処理類似物、アルカリ金属又は混合アルカリ金属、アルカリ土類金属のホウ酸塩類、水和アルカリ金属ホウ酸塩の分散物、アルカリ土類金属ホウ酸塩の分散物、ポリアミド無灰分散剤、ベンジルアミン類、マンニッヒ型分散剤、リン含有分散剤、およびそれらの組合せを挙げることができる。分散剤の量は、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.01質量%乃至約10質量%、約0.05質量%乃至約7質量%、又は約0.1質量%乃至約4質量%で変えることができる。好適な分散剤は、モーティア、外著、「潤滑剤の化学と技術」、第2版、ロンドン、スプリンガー、第3章、p.86−90(1996年)、およびレスリー・R.ルドニック著、「潤滑油添加剤:化学と用途」、ニューヨーク、マーセル・デッカー、第5章、p.137−170(2003年)に記載されていて、それら両方とも参照内容として本明細書の記載とする。
【0091】
開示する潤滑油組成物は任意に、可動部分間の摩擦を小さくすることができる摩擦緩和剤を含有することができる。当該分野の熟練者が知悉している任意の摩擦緩和剤を、潤滑油組成物に使用することができる。好適な摩擦緩和剤の制限的ではない例としては、脂肪カルボン酸類;脂肪カルボン酸の誘導体(例えば、アルコール、エステル、ホウ酸化エステル、アミドおよび金属塩等);モノ、ジ又はトリアルキル置換リン酸又はホスホン酸類;モノ、ジ又はトリアルキル置換リン酸又はホスホン酸の誘導体(例えば、エステル、アミドおよび金属塩等);モノ、ジ又はトリアルキル置換アミン類;モノ又はジアルキル置換アミド類;およびそれらの組合せを挙げることができる。ある態様では摩擦緩和剤は、脂肪族アミン類、エトキシル化脂肪族アミン類、脂肪族カルボン酸アミド類、エトキシル化脂肪族エーテルアミン類、脂肪族カルボン酸類、グリセロールエステル類、脂肪族カルボン酸エステル−アミド類、脂肪イミダゾリン類、脂肪第三級アミン類(ただし、脂肪族又は脂肪基は、化合物を好適に油溶性にするために炭素原子を約8個より多く含む)からなる群より選ばれる。別の態様では摩擦緩和剤は、脂肪族コハク酸又は無水物をアンモニアまたは第一級アミンと反応させることで生成した脂肪族置換コハク酸イミドからなる。摩擦緩和剤の量は、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.01質量%乃至約10質量%、約0.05質量%乃至約5質量%、又は約0.1質量%乃至約3質量%で変えることができる。好適な摩擦緩和剤は、モーティア、外著、「潤滑剤の化学と技術」、第2版、ロンドン、スプリンガー、第6章、p.183−187(1996年)、およびレスリー・R.ルドニック著、「潤滑油添加剤:化学と用途」、ニューヨーク、マーセル・デッカー、第6章及び第7章、p.171−222(2003年)に記載されていて、それら両方とも参照内容として本明細書の記載とする。
【0092】
開示する潤滑油組成物は任意に、潤滑油組成物の流動点を下げることができる流動点降下剤を含有することができる。当該分野の熟練者が知悉している任意の流動点降下剤を、潤滑油組成物に使用することができる。好適な流動点降下剤の制限的でない例としては、ポリメタクリレート類、アルキルアクリレート重合体、アルキルメタクリレート重合体、ジ(テトラパラフィンフェノール)フタレート、テトラパラフィンフェノールの縮合物、塩素化パラフィンとナフタレンの縮合物、およびそれらの組合せを挙げることができる。ある態様では流動点降下剤は、エチレン・酢酸ビニル共重合体、塩素化パラフィンとフェノールの縮合物、またはポリアルキルスチレン等からなる。流動点降下剤の量は、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.01質量%乃至約10質量%、約0.05質量%乃至約5質量%、又は約0.1質量%乃至約3質量%で変えることができる。好適な流動点降下剤は、モーティア、外著、「潤滑剤の化学と技術」、第2版、ロンドン、スプリンガー、第6章、p.187−189(1996年)、およびレスリー・R.ルドニック著、「潤滑油添加剤:化学と用途」、ニューヨーク、マーセル・デッカー、第11章、p.329−354(2003年)に記載されていて、それら両方とも参照内容として本明細書の記載とする。
【0093】
開示する潤滑油組成物は任意に、水や蒸気にさらされる潤滑油組成物の油−水分離を促進することができる抗乳化剤を含有することができる。当該分野の熟練者が知悉している任意の抗乳化剤を、潤滑油組成物に使用することができる。好適な抗乳化剤の制限的でない例としては、陰イオン界面活性剤(例えば、アルキルナフタレンスルホネート類、およびアルキルベンゼンスルホネート類等)、非イオン性アルコキシル化アルキルフェノール樹脂、アルキレンオキシドの重合体(例えば、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、およびエチレンオキシドとプロピレンオキシドのブロック共重合体等)、油溶性酸のエステル類、ポリオキシエチレンソルビタンエステル、およびそれらの組合せを挙げることができる。抗乳化剤の量は、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.01質量%乃至約10質量%、約0.05質量%乃至約5質量%、又は約0.1質量%乃至約3質量%で変えることができる。好適な抗乳化剤は、モーティア、外著、「潤滑剤の化学と技術」、第2版、ロンドン、スプリンガー、第6章、p.190−193(1996年)に記載されていて、それも参照内容として本明細書の記載とする。
【0094】
開示する潤滑油組成物は任意に、油の泡を破壊することができる抑泡剤又は消泡剤を含有することができる。当該分野の熟練者が知悉している任意の抑泡剤又は消泡剤を、潤滑油組成物に使用することができる。好適な消泡剤の制限的でない例としては、シリコーン油又はポリジメチルシロキサン類、フルオロシリコーン類、アルコキシル化脂肪酸類、ポリエーテル類(例えば、ポリエチレングリコール類)、分枝ポリビニルエーテル類、アルキルアクリレート重合体、アルキルメタクリレート重合体、ポリアルコキシアミン類、およびそれらの組合せを挙げることができる。ある態様では消泡剤は、グリセロールモノステアレート、ポリグリコールパルミテート、モノチオリン酸トリアルキル、スルホン化リシノール酸のエステル、ベンゾイルアセトン、メチルサリチレート、グリセロールモノオレエート、またはグリセロールジオレエートからなる。消泡剤の量は、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.01質量%乃至約5質量%、約0.05質量%乃至約3質量%、又は約0.1質量%乃至約1質量%で変えることができる。好適な消泡剤は、モーティア、外著、「潤滑剤の化学と技術」、第2版、ロンドン、スプリンガー、第6章、p.190−193(1996年)に記載されていて、それも参照内容として本明細書の記載とする。
【0095】
開示する潤滑油組成物は任意に、腐食を低減することができる腐食防止剤を含有することができる。当該分野の熟練者が知悉している任意の腐食防止剤を、潤滑油組成物に使用することができる。好適な腐食防止剤の制限的でない例としては、ドデシルコハク酸の半エステル又はアミド類、リン酸エステル類、チオリン酸エステル類、アルキルイミダゾリン類、サルコシン類、およびそれらの組合せを挙げることができる。腐食防止剤の量は、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.01質量%乃至約5質量%、約0.05質量%乃至約3質量%、又は約0.1質量%乃至約1質量%で変えることができる。好適な腐食防止剤は、モーティア、外著、「潤滑剤の化学と技術」、第2版、ロンドン、スプリンガー、第6章、p.193−196(1996年)に記載されていて、それも参照内容として本明細書の記載とする。
【0096】
開示する潤滑油組成物は任意に、滑り金属面が極圧条件下で焼付くのを防ぐことができる極圧(EP)剤を含有することができる。当該分野の熟練者が知悉している任意の極圧剤を、潤滑油組成物に使用することができる。一般に極圧剤は、金属と化学的に結合して表面膜を形成することができる化合物であり、金属面が高荷重で相対したときにその表面膜が微小突起物の融着を防ぐ。好適な極圧剤の制限的でない例としては、動物又は植物硫化油脂、動物又は植物硫化脂肪酸エステル類、三価又は五価リン酸の完全又は部分エステル化エステル類、硫化オレフィン類、二炭化水素ポリスルフィド類、硫化ディールス・アルダー付加物、硫化ジシクロペンタジエン、脂肪酸エステルと一不飽和オレフィンの硫化又は共硫化混合物、脂肪酸と脂肪酸エステルとアルファ−オレフィンの共硫化ブレンド、官能基置換二炭化水素ポリスルフィド類、チア−アルデヒド類、チア−ケトン類、エピチオ化合物、硫黄含有アセタール誘導体、テルペンと非環状オレフィンの共硫化ブレンド、およびポリスルフィドオレフィン生成物、リン酸エステル又はチオリン酸エステルのアミン塩類、およびそれらの組合せを挙げることができる。極圧剤の量は、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.01質量%乃至約5質量%、約0.05質量%乃至約3質量%、又は約0.1質量%乃至約1質量%で変えることができる。好適な極圧剤は、レスリー・R.ルドニック著、「潤滑油添加剤:化学と用途」、ニューヨーク、マーセル・デッカー、第8章、p.223−258(2003年)に記載されていて、それも参照内容として本明細書の記載とする。
【0097】
開示する潤滑油組成物は任意に、鉄金属面の腐食を防ぐことができるさび止め添加剤を含有することができる。当該分野の熟練者が知悉している任意のさび止め添加剤を、潤滑油組成物に使用することができる。好適なさび止め添加剤の制限的でない例としては、油溶性のモノカルボン酸類(例えば、2−エチルヘキサン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ベヘン酸、およびセロチン酸等)、油溶性のポリカルボン酸類(例えば、タル油脂肪酸、オレイン酸およびリノール酸等から生成したもの)、アルケニル基が炭素原子10個以上を含むアルケニルコハク酸類(例えば、テトラプロペニルコハク酸、テトラデセニルコハク酸、およびヘキサデセニルコハク酸等)、分子量が600乃至3000ダルトンの範囲にある長鎖アルファ、オメガ−ジカルボン酸類、およびそれらの組合せを挙げることができる。さび止め添加剤の量は、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.01質量%乃至約10質量%、約0.05質量%乃至約5質量%、又は約0.1質量%乃至約3質量%で変えることができる。
【0098】
好適なさび止め添加剤の他の制限的でない例としては、非イオン性ポリオキシエチレン界面活性剤、例えばポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレン高級アルコールエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンソルビトールモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビトールモノオレエート、およびポリエチレングリコールモノオレエートを挙げることができる。好適なさび止め添加剤のそれ以外の制限的でない例としては、ステアリン酸及び他の脂肪酸類、ジカルボン酸類、金属石鹸、脂肪酸アミン塩類、重質スルホン酸の金属塩類、多価アルコールの部分カルボン酸エステル、およびリン酸エステルが挙げられる。
【0099】
ある態様では潤滑油組成物は、少なくとも一種の多機能添加剤を含有している。好適な多機能添加剤の制限的でない例としては、硫化オキシモリブデンジチオカルバメート、硫化オキシモリブデンオルガノリンジチオエート、オキシモリブデンモノグリセリド、オキシモリブデンジエチレートアミド、アミン−モリブデン錯化合物、および硫黄含有モリブデン錯化合物を挙げることができる。
【0100】
ある態様では潤滑油組成物は、少なくとも一種の粘度指数向上剤を含有している。好適な粘度指数向上剤の制限的でない例としては、ポリメタクリレート型重合体、エチレン・プロピレン共重合体、スチレン・イソプレン共重合体、水和スチレン・イソプレン共重合体、ポリイソブチレン、および分散型粘度指数向上剤を挙げることができる。
【0101】
ある態様では潤滑油組成物は、少なくとも一種の金属不活性化剤を含有している。好適な金属不活性化剤の制限的でない例としては、ジサリチリデンプロピレンジアミン、トリアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、およびメルカプトベンズイミダゾール類を挙げることができる。
【0102】
開示する添加剤は、添加剤を一種より多く含む添加剤濃縮物の形であってもよい。添加剤濃縮物は、好適な希釈剤、例えば好適な粘度の炭化水素油を含んでいてもよい。そのような希釈剤は、天然油(例えば、鉱油)、合成油およびそれらの組合せからなる群より選ぶことができる。鉱油の制限的でない例としては、パラフィン系油、ナフテン系油、アスファルト系油、およびそれらの組合せが挙げられる。合成基油の制限的でない例としては、ポリオレフィン油(特には、水素化アルファ−オレフィンオリゴマー類)、アルキル化芳香族、ポリアルキレンオキシド類、芳香族エーテル類、およびカルボン酸エステル類(特には、ジエステル油)、およびそれらの組合せが挙げられる。ある態様では希釈剤は、天然でも合成でもよい軽質炭化水素油である。一般に希釈油の粘度は、40℃で約13センチストークス乃至約35センチストークスであってよい。
【0103】
D)潤滑油組成物の製造方法
開示する潤滑油組成物は、当該分野の熟練者が知悉している任意の潤滑油製造方法により製造することができる。ある態様では、基油を金属フェネートとブレンドまたは混合することができる。任意に、金属フェネートに加えて一種以上の他の添加剤を添加することができる。金属フェネートと任意の添加剤は基油に別個に加えてもよいし、あるいは同時に加えてもよい。ある態様では、金属フェネートと任意の添加剤を基油に別個に一回以上の添加で加えるが、添加は任意の順序であってよい。別の態様では、金属フェネートと添加剤を基油に同時に加えるが、任意に添加剤濃縮物の形であってよい。ある態様では、混合物を約25℃乃至約200℃、約50℃乃至約150℃、又は約75℃乃至約125℃の温度に加熱することによって、金属フェネートでも如何なる固形添加剤でも基油に可溶化するのを助けることができる。
【0104】
成分をブレンド、混合または可溶化するのに、当該分野の熟練者に知られている任意の混合装置または分散装置を用いることができる。ブレンダ、撹拌器、分散機、ミキサ(例えば、遊星形ミキサおよび二段遊星形ミキサ)、ホモジナイザ(例えば、ガウリン・ホモジナイザ、およびラニー・ホモジナイザ)、微粉砕機(例えば、コロイドミル、ボールミル、およびサンドミル)、もしくは当該分野で知られている他の任意の混合又は分散装置を用いて、ブレンド、混合または可溶化を行うことができる。
【0105】
E)潤滑油組成物の用途
開示する潤滑油組成物は、モーター油(すなわち、エンジン油またはクランクケース油)として、ディーゼルエンジン、特には少なくとも一部にバイオディーゼル燃料が供給されるディーゼルエンジンに使用するのに適していると言える。
【0106】
また、本発明の潤滑油組成物は、熱いエンジン部分を冷やしたり、エンジンにさびや堆積物が無いようにしておいたり、燃焼ガスの漏出に備えてリングや弁を封じるのに使用することもできる。モーター油組成物は、基油、バイオディーゼル燃料および開示する金属フェネートを含有することができる。任意にモーター油組成物は、金属フェネート化合物に加えて更に一種以上の他の添加剤を含んでいてもよい。ある態様ではモーター油組成物は更に、流動点降下剤、清浄剤、分散剤、耐摩耗性添加剤、酸化防止剤、摩擦緩和剤、さび止め添加剤またはそれらの組合せを含む。
【0107】
以下の実施例は、本発明の態様を例示するために提示するのであって、本発明を提示する特定の態様に限定しようとするものではない。特に指示しない限り、部およびパーセントは全て質量である。数値は全ておおよそである。数値範囲が記されている場合に、記載された範囲外の態様であってもなお本発明の範囲内に含まれると解釈すべきである。各実施例に記載された特定の詳細を、本発明の必然的な特徴であると解釈すべきではない。
【実施例】
【0108】
以下の実施例は、説明の目的でのみ提示しようとするものであり、決して本発明の範囲を限定するものではない。
【0109】
15W40油(SAE粘度グレード)をシミュレートするために、以下の実施例の潤滑油組成物を粘度指数向上剤の添加により調製した。バイオディーゼル燃料エンジンにおける燃料希釈の影響をシミュレートするために、実施例1および比較例1−5を、6質量%のB100バイオディーゼル燃料で仕上げ処理した。従来のディーゼル燃料エンジンにおける燃料希釈の影響をシミュレートするために、比較例6を、6質量%の従来ディーゼル燃料(超低硫黄燃料又はULSF)で調合処理した。
【0110】
(基準配合物)
種々の清浄剤の性能を高温腐食台上試験にて評価するために、基本組成物を製造して使用した。基本組成物は、エチレンカーボネート後処理ポリイソブテニルコハク酸イミド(シェブロン・オロナイト・カンパニーLLC製、カリフォルニア州サンラモン)活性分で1.1質量%、ホウ酸化コハク酸イミド(シェブロン・オロナイト・カンパニーLLC製)活性分で2.5質量%、高分子量ポリコハク酸イミド(シェブロン・オロナイト・カンパニー製)活性分で1.8質量%、低過塩基性カルシウムスルホネート清浄剤(TBN=17mgKOH/g、シェブロン・オロナイト・カンパニーLLC製)活性分で0.18質量%、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(シェブロン・オロナイト・カンパニーLLC製)活性分で1.1質量%、アルキル化ジフェニルアミン酸化防止剤(オクチル化/ブチル化ジフェニルアミン、商品名IRGANOX L−57、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(Ciba Specialty Chemicals)社製)0.3質量%、ヒンダードフェノール酸化防止剤(3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸のC7−C9分枝アルキルエステルの混合物、商品名IRGANOX L−135、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)0.5質量%、硫黄含有オキシモリブデンコハク酸イミド錯体(シェブロン・オロナイト・カンパニーLLC製)0.2質量%(Moで90ppm)、ポリアクリレート流動点降下剤(ローマックス(Rohmax)社製、カリフォルニア州ホルシャム)0.3質量%、消泡剤Siで5ppm、およびエチレン・プロピレン共重合体非分散型粘度指数向上剤(シェブロン・オロナイト・カンパニーLLC製)6.5質量%を基油に含有させ、基油は、水素化処理600ニュートラル基油(14質量%、シェブロンニュートラル油600N(Chevron Neutral Oil 600N)、シェブロン・オロナイト・カンパニーLLC製)とII種基油(86質量%、シェブロンニュートラル油220N(Chevron Neutral Oil 220N)、シェブロン・オロナイト・カンパニーLLC製)との混合物であった。組成物のリン分は0.109質量%であった。
【0111】
[実施例1]
上記の基本組成物に、過塩基性カルシウムフェネートを活性分で1.45質量%、Caで2100ppm添加してなる潤滑油組成物を製造した。
【0112】
[比較例1]
基本組成物に、過塩基性カルシウムフェネートを活性分で0.63質量%、Caで915ppm、ホウ酸化カルシウムスルホネートを活性分で0.27質量%、Caで405ppm、および過塩基性マグネシウムスルホネートを活性分で0.23質量%、Mgで390ppm添加してなる潤滑油組成物を製造した。
【0113】
[比較例2]
基本組成物に、ホウ酸化カルシウムスルホネートを活性分で1.4質量%、Caで2100ppm添加してなる潤滑油組成物を製造した。
【0114】
[比較例3]
基本組成物に、過塩基性マグネシウムスルホネートを活性分で0.77質量%、Mgで1300ppm添加してなる潤滑油組成物を製造した。
【0115】
[比較例4]
基本組成物に、過塩基性カルシウムスルホネート(TBN=410mgKOH/g、シェブロン・オロナイト・カンパニーLLC製)を活性分で0.83質量%、Caで2100ppm添加してなる潤滑油組成物を製造した。
【0116】
[比較例5]
基本組成物に、過塩基性カルシウムサリチレート(TBN=168mgKOH/g、商品名OSCA463、OSCAケミカル(株)(OSCA Chemical Co., Ltd.)製)を活性分で2.1質量%、Caで2100ppm添加してなる潤滑油組成物を製造した。
【0117】
[比較例6]
基本組成物に、過塩基性カルシウムフェネートを活性分で1.45質量%、Caで2100ppm添加してなる潤滑油組成物を製造した。この配合物は、6質量%の従来ディーゼル燃料(ULSF)で調合処理した。
【0118】
(腐食抑制:高温腐食台上試験(HTCBT))
高温腐食台上試験は、135℃でのディーゼルエンジン油の腐食性を評価するための標準試験法である。この試験法を使用してディーゼルエンジン油に試験を行って、種々の金属、例えばカム従動子や軸受に普通使用されている鉛と銅の合金を、エンジン油が腐食する傾向を決定した。銅、鉛、スズおよびリン青銅の四種類の金属試験片を、計量した量のエンジン油に浸漬した。高温のエンジン油に空気を一定時間吹き付けた。試験が終了した時点で、腐食および腐食生成物を検出するために銅試験片および疲労した油をそれぞれ調べた。
【0119】
実施例1および比較例1−6について、ASTM D6594に従う高温腐食台上試験にて評価を行ったが、それも参照内容として本明細書の記載とする。API CJ−4の要求条件を満たす工業標準規格の限度は、Cu最大20ppmおよびPb最大100ppmである。下記第3表に、試験の結果を示す。試験結果は、過塩基性カルシウムフェネート清浄剤を含む実施例1が、優れた腐食抑制性能を示したことを示唆している。過塩基性カルシウムフェネートを1000ppm未満で含む比較例1は、最大20ppmの限度を僅かに上回る銅腐食結果を示した。また、比較例6は、バイオディーゼルの代わりに従来ディーゼル燃料(ULSF)で試験を実施しても、このような利益が得られないことを示した。
【0120】
【表1】

【0121】
本発明について限られた数の実施態様で記載したが、一つの実施態様の特殊な特徴が本発明の他の実施態様にもあると考えるべきではない。単一の実施態様が本発明の全ての態様を代表しているわけではない。ある実施態様では、本明細書に記されていない多数の工程が方法に含まれていることがある。別の実施態様では、本明細書に挙げられていない工程は方法に含まれないか、あるいは実質的に含まれない。記載した実施態様からの変形や変更が存在する。添付した特許請求の範囲は、本発明の範囲内に含まれるそのような変形や変更全てを包含することを意図している。
【0122】
この明細書に記した全ての公報及び特許出願は、各々個々の公報又は特許出願を参照内容として記載すると明確にかつ別個に示唆したかのごとく同程度にまで、参照内容として本明細書の記載とする。上記の発明について理解を明瞭にするために説明と実施例によってある程度詳しく記載したが、添付した特許請求の範囲の真意又は範囲から逸脱することなく一定の変換や変更を本発明に成しうることは、当該分野の熟練者であれば本発明の教示に照して容易に明らかであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオディーゼル燃料又はその分解生成物が潤滑油組成物の全質量に基づき少なくとも約0.3質量%混入した潤滑油組成物であって、下記の成分を含む潤滑油組成物:
(a)主要量の潤滑粘度の基油、および
(b)金属フェネート、
ただし、潤滑油組成物中に存在する金属フェネートからの金属の量は、少なくとも約1000ppmである。
【請求項2】
さらに、酸化防止剤、耐摩耗性添加剤、清浄剤、さび止め添加剤、抗乳化剤、摩擦緩和剤、多機能添加剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、消泡剤、金属不活性化剤、分散剤、腐食防止剤、潤滑性向上剤、熱安定性向上剤、防曇剤、氷結防止剤、染料、マーカー、静電放散剤、殺生物剤およびそれらの組合せからなる群より選ばれた少なくとも一種の添加剤を含む請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
さらに、少なくとも一種の耐摩耗性添加剤を含む請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
少なくとも一種の耐摩耗性添加剤がジアルキルジチオリン酸亜鉛化合物からなる請求項3に記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
ジアルキルジチオリン酸亜鉛化合物から誘導されるリン分が、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.001質量%乃至約0.5質量%である請求項4に記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
ジアルキルジチオリン酸亜鉛化合物から誘導されるリン分が、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.01質量%乃至約0.12質量%である請求項5に記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
ジアルキルジチオリン酸亜鉛化合物から誘導されるリン分が、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.01質量%乃至約0.08質量%である請求項6に記載の潤滑油組成物。
【請求項8】
ジアルキルジチオリン酸亜鉛化合物から誘導されるリン分が、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.05質量%乃至約0.12質量%である請求項6に記載の潤滑油組成物。
【請求項9】
潤滑油組成物の硫酸灰分が、潤滑油組成物の全質量に基づき最大約2.0質量%である請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項10】
バイオディーゼル燃料が、長鎖脂肪酸のアルキルエステルを含む請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項11】
長鎖脂肪酸が、炭素原子約12個乃至炭素原子約30個を含む請求項10に記載の潤滑油組成物。
【請求項12】
バイオディーゼル燃料又はその分解生成物が、潤滑油組成物中に潤滑油組成物の全質量に基づき約0.3質量%乃至約20質量%の量で存在する請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項13】
基油の動粘度が、100℃で約4cSt乃至約20cStである請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項14】
金属フェネートがアルカリ土類金属フェネートである請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項15】
アルカリ土類金属フェネートがカルシウム金属フェネートである請求項14に記載の潤滑油組成物。
【請求項16】
金属フェネートが、(I)式、(II)式、(III)式またはそれらの組合せを有する請求項14に記載の潤滑油組成物:
【化1】

式中、R1、R2、R3、R4、R5およびR6の各々は独立に、H、アルキル、アラルキルまたはアルキルアリールであり、M1、M2およびM3の各々は独立に、アルカリ土類金属であり、そしてnは、1乃至3の整数である。
【請求項17】
1、R2、R3、R4、R5及びR6の各々が独立にアルキルであり、そしてM1、M2およびM3の各々がカルシウムである請求項16に記載の潤滑油組成物。
【請求項18】
少なくとも一部にバイオディーゼル燃料が供給されたディーゼルエンジンを潤滑下に運転する方法であって、バイオディーゼル燃料又はその分解生成物が潤滑油組成物の全質量に基づき少なくとも約0.3質量%混入した、下記の成分を含む潤滑油組成物を用いて、該エンジンを運転することからなる方法:
(a)主要量の潤滑粘度の基油、および
(b)金属フェネート、
ただし、潤滑油組成物中に存在する金属フェネートによる金属の量は、少なくとも約1000ppmである。
【請求項19】
潤滑油組成物が更に、少なくとも一種の耐摩耗性添加剤を含む請求項18に記載の方法。
【請求項20】
少なくとも一種の耐摩耗性添加剤がジアルキルジチオリン酸亜鉛化合物からなる請求項19に記載の方法。
【請求項21】
金属フェネートの量が、潤滑油組成物の全質量に基づき少なくとも約2質量%である請求項18に記載の方法。
【請求項22】
潤滑油組成物中に存在する金属フェネートからの金属の量が、少なくとも約1500ppmである請求項18に記載の方法。
【請求項23】
金属フェネートがアルカリ土類金属フェネートである請求項18に記載の方法。
【請求項24】
アルカリ土類金属フェネートがカルシウムフェネートである請求項23に記載の方法。

【公開番号】特開2009−108320(P2009−108320A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−280219(P2008−280219)
【出願日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【出願人】(598037547)シェブロン・オロナイト・カンパニー・エルエルシー (135)
【Fターム(参考)】