説明

バイオポリマーハイブリッドゲルデポー送達システム

本発明は、生物活性剤の長期および/または制御放出送達のためのバイオポリマーゲルベースデポーシステム、生物活性剤を含むバイオポリマーベースゲルデポーの製造方法、ならびにそのようなバイオポリマーゲルデポーの治療における使用に関する。このバイオポリマーゲルベースデポーシステムは、生体適合性ポリアミノサッカリドおよび/またはタンパク質、生体適合性リン酸および/またはスルホンアミド化合物、生物活性剤、水不溶性リン酸アルカリ土類金属塩、ならびに生体適合性グリカンおよび/またはプロテオグリカンを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物活性剤の送達のためのバイオポリマーゲルベースのシステム全般に関する。特に、本発明は、生物活性剤の長期および制御送達を提供するバイオポリマーゲルデポー送達システム、生物活性剤を含むバイオポリマーベースゲルデポーの製造方法、ならびにそのようなバイオポリマーゲルデポーの治療における使用に関する。
【背景技術】
【0002】
インビボにて活性剤を送達する媒体として作用する送達システムは公知であり、主として特定の生物医学的用途に対して設計されている。システムの中には、単に活性剤を運搬する働きをするだけでなく、より効率的な形で活性剤を送達するよう特に設計されたものもある。例えば、そのようなシステムが設計される場合、送達モード(例:経口、局所、経粘膜など)、薬物放出プロファイル、さらにはインビボにおける薬物のADME特性(吸収、分布、代謝、および排出)などのパラメータが特に重視される。
【0003】
ペプチド/タンパク質、抗体、ワクチン、および遺伝子に基づく治療薬などの多くの生物活性剤は、例えば経口および経粘膜経路を用いては効果的に送達されない場合がある。そのような治療薬は、酵素分解を非常に受けやすいか、または分子サイズおよび/または電荷のために体循環へ効率的に吸収されない場合が多い。したがって、このような治療薬の多くは、注射によって送達される。例えば、ワクチンの多くは、タンパク質ベースの薬物の静注による送達に基づくものである。
【0004】
また、対象への生物活性剤の投与では、通常、必要とされる効果を活性剤から得るために、ある期間にわたって活性剤を繰り返し投与する必要もある。例えば、短期間のワクチン接種プロセスによる免疫化は、複数回のワクチン接種、追加免疫、および一般的には高用量のワクチンが必要となり、その結果として業界および最終利用者の両方にとってコストが上昇することになるため、ロジスティクス的にも商業的にも欠点を有する。
【0005】
現在まで、ワクチンの対象への送達は、分散物の形態(固体、またはエマルジョン、または液/液分散物であり得る)、または微粒子の形態で行われることが多く、形態としては、マイクロ粒子、エマルジョン、免疫刺激複合体、リポソーム、ビロソーム、およびウィルス様粒子が挙げられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、抗原に対する免疫反応を開始させる方法の成功にも関わらず、それは依然として、抗原を対象へ繰り返し投与することを必要とするものである。その他の数多くの薬物の対象への投与においても、類似の問題が生ずる。
【0007】
したがって、薬物投与の長期間にわたるより良好な制御のための薬物送達システムの開発が必要とされている。本発明は、公知の送達システムの欠点の少なくともいくつかに対処しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、生物活性剤を含むバイオポリマーハイブリッドゲルデポーを提供し、これを用いて、インビボにて生物活性剤を対象へ送達することができる。本発明のバイオポリマーハイブリッドゲルデポーは、剤の対象への送達速度を制御し、それによって、剤を繰り返し投与する必要性を低減するものである。本明細書で開示されるバイオポリマーベースシステムは、例えば皮下注射されて、UVおよびIR(NIRを含む)光、熱、または触媒の適用などの別個の硬化機構の必要なしに、インビボでの迅速な(自発的な)架橋によってバイオポリマーハイブリッドゲルデポーを形成する能力を有する。
【0009】
本発明の第一実施態様によれば、生物活性剤の送達のための長期放出および/または制御放出送達システム:
(i)生体適合性ポリアミノサッカリドおよび/またはタンパク質を含む第一成分および、
(ii)前記第一成分と架橋し得る、生体適合性リン酸および/またはスルホンアミド化合物を含む第二成分、
を含んでなり、
(a)前記第一および/または第二成分が、前記生物活性剤をさらに含んでなり、
(b)前記第一および/または第二成分が、
(i)水不溶性リン酸アルカリ土類金属塩、および/または、
(ii)生体適合性グリカンおよび/またはプロテオグリカン、
をさらに含んでなり、
前記システムの前記第一および第二成分が、物理的に隔離されており、使用時に、前記第一および第二成分が混合されることにより架橋が促進され、前記生物活性剤を含むバイオポリマーハイブリッドゲルデポーが形成される、ことを含んでなるシステム、が提供される。
【0010】
本発明の第二実施態様によれば、生物活性剤を含む長期放出および/または制御放出バイオポリマーハイブリッドゲルデポーを形成する方法:
生物活性剤を含む長期放出および/または制御放出バイオポリマーハイブリッドゲルデポーの形成方法であって、
(i)生体適合性ポリアミノサッカリドおよび/またはタンパク質を含む第一成分、および前記第一成分と架橋し得る生体適合性リン酸および/またはスルホンアミド化合物を含む第二成分を準備する工程、および
(ii)架橋が促進されて、前記生物活性剤を含むバイオポリマーハイブリッドデポーが生成される条件にて、一定の時間、前記第一および第二成分を混合する工程、
を含んでなり、
(a)前記第一および/または第二成分が、前記生物活性剤をさらに含んでなり、
(b)前記第一および/または第二成分が、
(i)水不溶性リン酸アルカリ土類金属塩、および/または、
(ii)生体適合性グリカンおよび/またはプロテオグリカン、
を含んでなる方法、が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】pH6.8、0.001Mリン酸緩衝液中において26重量%のヒドロキシアパタイトを用いたキトサンゲル化生成物(参考例1)の写真画像である。(A)は、ヒドロキシアパタイト:キトサンが75重量%、(B)50重量%、(C)25重量%である。
【図2】凍結乾燥されたキトサン/ヒドロキシアパタイトゲルの画像である(参考例1)。
【図3】架橋溶液としてのトリポリリン酸有りおよび無しのキトサン/ヒドロキシアパタイト懸濁液のゲル化の写真画像である(参考例2)。
【図4】トリポリリン酸を用いた架橋によって生成したキトサン/ヒドロキシアパタイト/トリポリリン酸ゲル(参考例2)の写真画像である。(A)は、低濃度トリポリリン酸で形成された析出物、(B)は、中濃度トリポリリン酸で形成された析出物と均一ゲルとの混合物、(C)は、高濃度トリポリリン酸で形成された均一なコンプライアンスを有するゲル(uniform complaint gel)である。
【図5】トリポリリン酸を用いた架橋によって生成したキトサン/ヒドロキシアパタイトゲル(参考例2)の概略図である。5mLのキトサン溶液をヒドロキシアパタイト懸濁液(26重量%)と混合し、次に5mLのトリポリリン酸架橋剤溶液をゆるやかに攪拌しながら添加したものであり、ここで、(A)粘稠エマルジョン、(B)膜状ゲル、(C)濁った析出物、(D)ゲル、(E)高強度ゲル、および(F)繊維状ゲル、である。
【図6】凍結乾燥したキトサン−ヒドロキシアパタイト−トリポリリン酸ゲル(参考例2)の画像である。(A)は破断断面図を示し、(B)はゲルの外層を示す。
【図7】擬似相図(pseudo phase diagram)として表したキトサン/ヒドロキシアパタイト/トリポリリン酸/コンドロイチン硫酸(実施例1)およびキトサン/ヒドロキシアパタイト/トリポリリン酸(参考例2)のゲルである。F1とF2との間の領域が、デポー形成に最も適する組成を表す。(D)ゲル、(E)高強度ゲル、および(F)繊維状ゲル、の標記は、図5に従う。
【図8】湿度60%(5トルの水蒸気圧)にてトリポリリン酸を用いて架橋したキトサン/ヒドロキシアパタイト/コンドロイチン硫酸塩(実施例1)の画像である。
【図9】凍結乾燥したキトサン/ヒドロキシアパタイト/トリポリリン酸/コンドロイチン硫酸ゲル(実施例1)のSEM画像である。(A)は破断断面図を示し、(B)はゲルの外表面を示す。
【図10】ナノ粒子およびマイクロ粒子を組み込んだポリマーゲル(実施例2)の写真およびSEM画像である。(A)は、コンプライアンスを有するゲルおよび透明な排除された液相、ならびに(B)細胞壁構造中への粒子の組み込み。
【図11】デポーゲル成分のインビトロでの共注入(経時)、および注射針先端部における自発的なゲルの形成を示す写真画像である。
【図12】コンドロイチン硫酸塩(ChS)−トリポリリン酸(TPP)濃度の、キトサン(Chit)−ヒドロキシアパタイト(HAp)濃度の関数とした写真図である。点線の範囲内のゲル組成は、好ましい組成を表し、実線の範囲内の組成は、なおより好ましい組成を表す。
【図13】コンドロイチン硫酸(ChS)−トリポリリン酸(TPP)濃度の、キトサン(Chit)−ヒドロキシアパタイト(HAp)濃度の関数としたグラフを表す相図である。
【図14】初期HAp比率(重量/体積%)の関数とした固体質量(%)を示すグラフである。
【図15】図15aは、種々のHAp含有量の静ひずみ(%)の関数とした静応力(kPa)を示すグラフである。図15bは、種々のHAp含有量の静ひずみ(%)の関数とした静応力(kPa)を示すグラフである。
【図16】図16aは、種々のHAp含有量の静ひずみ(%)の関数とした圧縮静弾性率(kPa)を示すグラフである。図16bは、種々のHAp含有量の静ひずみ(%)の関数とした圧縮静弾性率(kPa)を示すグラフである。
【図17】図17aは、初期HAp比率(重量/体積(%))の関数としたヤング率(kPa)を示すグラフである。図17bは、初期HAp比率(重量/体積(%))の関数とした圧縮弾性率(kPa)を示すグラフである。
【図18】図18aは、TPP濃度(M)の増加に伴うゲル形成を示す写真図である。図18bは、HAp比率(mg/mL)の増加に伴うゲル形成を示す写真図である。図18cは、せん断力下、TPP(M)の増加に伴うゲル形成を示す写真図である。
【図19】カルボキシメチルセルロース(CMC)−TPP濃度の関数としたキトサン(Chit)−ヒドロキシアパタイト(HAp)濃度を写真で示す図である。点線の範囲内のゲル組成は、好ましい組成を表し、実線の範囲内の組成は、なおより好ましい組成を表す。
【図20】図20aは、せん断力下におけるHAp比率(mg/mL)の増加に伴うゲル形成を示す写真図である。図20bは、TPP架橋がない場合のHAp比率(mg/mL)の増加に伴うゲル形成を示す写真図である。
【図21】ヒアルロン酸ナトリウム−TPP濃度の関数としたキトサン(Chit)−ヒドロキシアパタイト(HAp)濃度を写真で示す図である。点線の範囲内のゲル組成は、好ましい組成を表し、実線の範囲内の組成は、なおより好ましい組成を表す。
【図22】カラーヒストグラム図である。矢印は、デポー形成組成物中のHApおよびTPPの増加を示す。
【図23】図23aは、グレースケール(0−255)の関数として、ピクスル数(Pixle population)(%)として表されるデポーの成熟から20時間後のグレースケールヒストグラムである。図23bは、せん断力下におけるTPP濃度(M)の増加に伴うゲル形成を示す写真図である(Chit−HAp−ChS‐TPP)。
【図24】グレースケール(0−255)の関数として、ピクスル数(%)として表されるデポーの成熟から20時間後のグレースケールヒストグラムである。
【図25】熱処理キトサンに対するC(mg/mL)の関数とした粘度数(η)を示すグラフである。
【図26】中和された低Mキトサンの微粒子を表す写真図であり、左が沈澱時、右が再懸濁時を示す。
【図27】超音波処理キトサンに対するC(mg/mL)の関数とした粘度数(η)を示すグラフである。
【図28】図28aおよび図28bは、標識および係留(tethering)反応での(a)FITCおよび(b)ポリペプチドとのインキュベーションの開始時ならびに24時間後における、低Mキトサンおよびクロロアセチル化キトサンの微粒子懸濁液の上清のUV−可視光吸収スペクトルを示すグラフである。
【図29】図29aおよび図29bは、凍結乾燥した低Mキトサンおよびクロロアセチル化キトサン、ならびにポリペプチド係留、およびFITC標識低Mキトサンの発光スペクトルを示すグラフである。
【図30】図30a〜30cは、FITCおよびポリペプチドを充填したデポー、ならびにこれらの対応する上清の発光スペクトルを示すグラフである。
【図31】種々のペプチドに対する時間(日)の関数とした吸収(280nm)を示すグラフおよび棒グラフである。
【図32】種々のペプチドに対する時間(日)の関数とした吸収(280nm)を示すグラフおよび棒グラフである。
【図33】種々の形態のリポペプチドを注入した種々のマウスグループに対する抗体力価(log10)のプロットである。抗体力価は、3および7週間後に測定した。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、生体適合性ポリアミノサッカリドおよび/またはタンパク質(「第一成分」)を、第一成分と架橋し得る生体適合性リン酸および/またはスルホンアミド化合物(「第二成分」)と混合することで、迅速な(自発的な)架橋が起こり、続いてバイオポリマーハイブリッドゲルデポーが形成されること、ならびにこれが、注射の後にインビボにて自発的に発生し得ること、という解明に(一部)基づいている。
【0013】
前述の第一および第二成分は、自発的な架橋、ゲル化、および相分離の機構によってバイオポリマーハイブリッドゲルデポーを形成するものと考えられる。バイオポリマーハイブリッドゲルの形成は、体積を大きく変化させることなく起こると考えられ、したがって、初期の水相組成のままの組成を有する。相分離の際、ゲル相は次に、さらなる架橋や浸透圧の誘発により収縮を起こし、その結果、ゲル密度の増加率が架橋ネットワークの弾性力と平衡するまで、水相が排除される(シネレシス)。このようなプロセスの結果(ゲル化および相分離、さらなる架橋およびシネレシス)、透明な過剰の非膨張性水相が排除されて、圧縮されたコンプライアンスを有するバイオポリマーハイブリッドゲルデポーの自発的な形成が引き起こされる。
【0014】
本発明のバイオポリマーハイブリッドゲルデポーは、生体適合性であり、生体適合性である代謝物/分解産物を有する。生体適合性は、当業者に公知の概念である。これは、外来性物質のほとんどが何らかの形態の免疫反応を誘発するものであり、したがって絶対的に生体適合性であることはないという点で、絶対的な用語ではなく、むしろ相対的な用語である。生体適合性外来性物質は、許容される免疫反応を誘発するものである。したがって、本明細書で用いられる「生体適合性」の用語は、実質的に、インビボにて有害な免疫、毒性、もしくは傷害性反応を引き起こさないか、または特定の細胞型もしくは組織との不都合な結合を起こさないように、生物学的に適合性を有する成分を意味する。
【0015】
<第一成分>
第一成分は、いずれかの適切な生体適合性ポリアミノサッカリドおよび/またはタンパク質を含む。
【0016】
特に、生体適合性ポリアミノサッカリドおよび/またはタンパク質は、キトサン、キチン、およびヒアルロン酸(さらには塩)、ならびにその適切に官能化された誘導体などの適切なポリアミノサッカリドから選択することができる。
【0017】
一態様においては、第一成分は、アルブミンおよびコラーゲン(または適切な塩)、またはその適切に官能化された誘導体などの生体適合性タンパク質を含む。
【0018】
別の態様においては、第一成分は、キトサン、その塩、またはその適切に官能化された誘導体から選択される生体適合性ポリアミノサッカリドを含む。
【0019】
別の態様においては、第一成分は、(i)ポリアミノサッカリドの混合物、(ii)タンパク質の混合物、または(iii)ポリアミノサッカリドとタンパク質との混合物を含む。
【0020】
第一成分が、第二成分の生体適合性リン酸および/またはスルホンアミドと架橋し得る必要があることから、第一成分の適切な生体適合性ポリアミノサッカリドおよび/またはタンパク質は、架橋する能力を有する官能基を持つ化学部分を特徴とするものであることは理解されるであろう。この意味において、好ましくは、生体適合性ポリアミノサッカリドおよび/またはタンパク質は、生理学的条件下にて第二成分と架橋し得る求電子基を持つものから選択される。好ましい求電子基としては、アンモニウム、アルキルアンモニウム、およびその求電子性誘導体が挙げられる。より好ましくは、求電子基は、アルキルアンモニウムであり、より好ましくは、−CH−NHである。したがって、生体適合性ポリアミノサッカリドおよび/またはタンパク質上の適切な官能基としては、プロトン化することができ、生理学的条件下にてその状態が維持されるアミンおよびアルキルアミン基が挙げられる。好ましい態様においては、第一成分は、キトサン、その塩、またはその適切な官能性誘導体を含み、これらは、生理学的条件下にて第二成分と架橋する能力を保持している。一態様においては、アミノ基がプロトン化されて、第二成分との架橋能力を有することを確実にするために、第一成分をpH緩衝処理してもよい。例えば、第一成分がキトサンを含む場合、第一成分は酸性水溶液の形態であることが好ましい。これは、キトサンを、例えば1%酢酸溶液などの酸性水溶液中に溶解することで行うことができる。
【0021】
キトサンは、ランダムに分布するβ−(1−4)−結合したD−グルコサミン(脱アセチル化ユニット)とN−アセチル−D−グルコサミン(アセチル化ユニット)とから構成される、直鎖状ポリアミノサッカリドである。脱アセチル化度(%DA)は、NMR分光法で測定することができ、市販のキトサンの%DAは60〜100%の範囲である。
【0022】
キトサンは、生体適合性であり、酵素分解性であり(例えば、リゾチーム加水分解)、無毒性である(その分解産物は、比較的に非免疫原性、および非発癌性である)。
【0023】
キトサン中のアミノ基のpKa値は約6.5である。したがって、キトサンは、正に帯電しており(すなわち、アミノ基がプロトン化されている)、pHおよび%DA値に応じた電荷密度にて酸性から中性の溶液に対して溶解可能である。言い換えると、キトサンは、生理学的条件下にて正に帯電した高分子電解質として作用することができ、したがって、第二成分と架橋する適切な官能性を有する。
【0024】
キトサンは、その分子量を改変してその性質に影響を与えてもよい。この改変が得られた誘導体の架橋能力に悪影響を及ぼさない限りにおいて、そのような誘導体もまた意図されるものであり、本明細書にて「適切に官能化された誘導体」という用語に包含される。
【0025】
一態様においては、キトサンは、分子量(Mw)が40〜150kDaである短鎖キトサンである。より好ましくは、Mwは、50〜100kDaの範囲であり、さらにより好ましくは50〜80kDaである。
【0026】
<第二成分>
第二成分は、第一成分と架橋し得るリン酸および/またはスルホンアミド化合物を含む。したがって、リン酸および/またはスルホンアミド化合物は、第一成分の生体適合性ポリアミノサッカリドおよび/またはタンパク質との間の架橋を促進するように適切に官能化されたものから選択することができる。第二成分は、好ましくは、インビボでの迅速な(自発的な)架橋およびゲルデポーの形成を促進するリン酸および/またはスルホンアミド成分から選択される。適切な架橋性リン酸化合物としては、トリポリリン酸およびその塩が挙げられる。トリポリリン酸の公知の塩としては、トリポリリン酸ナトリウムおよびトリポリリン酸カリウムが挙げられる。式:Na10であるトリポリリン酸ナトリウム(STPP、場合によってはSTP、またはトリリン酸ナトリウム、またはTPP)は、ナトリウムのポリリン酸塩である。これは、トリリン酸のナトリウム塩である。
【0027】
適切なその他の架橋性スルホンアミド成分としては、(ビス)スルホスクシンイミジルスベレートおよびジアミノカルボキシスルホネートが挙げられる。
【0028】
その他の適切な架橋性成分としては、グルタルアルデヒドおよびエピクロロヒドリンが挙げられる。
【0029】
一態様においては、第二成分は、(i)リン酸架橋剤(またその混合物)、(ii)スルホンアミド架橋剤(またその混合物)、または(iii)リン酸およびスルホンアミド架橋剤の混合物を含む。
【0030】
好ましい態様においては、第二成分はTPPを含む。
【0031】
さらなる態様においては、第二成分は、第一と第二成分との架橋をさらに促進する追加化合物を含んでもよい。そのような架橋促進剤としては、例えば、前記でキトサンに関連して考察したように、生体適合性ポリアミノサッカリドおよび/またはタンパク質上のアルキルアミン基をプロトン化する酸性媒体の使用が挙げられる。
【0032】
別の態様においては、生体適合性ポリアミノサッカリドおよび/またはタンパク質(「第一成分」)と、生体適合性リン酸および/またはスルホンアミドとは、約1:1〜1:2の範囲の重量/重量比でシステム内に存在する。
【0033】
送達システムの第一および/または第二成分は、生物学的活性剤に加えて、生理学的pHでの複数の負の電荷を特徴とする、生体適合性水不溶性リン酸アルカリ土類金属塩、および/または生体適合性グリカンおよび/もしくはプロテオグリカンをさらに含む。
【0034】
<水不溶性リン酸アルカリ土類金属塩>
これらには、得られたゲルデポーの細胞壁の構造に剛性(すなわち、骨類似性(bone likeness)を付与できる、適切なすべての水不溶性リン酸カルシウムおよびマグネシウムが含まれる。Mg2+、Zn2+、Na、CO2−、およびSiO4−でドープされたリン酸カルシウムなどのドープされたリン酸カルシウムを用いてもよい。
【0035】
一態様において、水不溶性リン酸アルカリ土類金属塩は、アパタイトである。
【0036】
アパタイトは、リン酸鉱の一種であり、フルオロアパタイト(Ca(PO)F)、クロロアパタイト(Ca(POCl)、ブロモアパタイト(Ca(POBr)、およびヒドロキシアパタイト(Ca(PO(OH))(これらはまた、通常、結晶単位格子が分子2つ分を含むことを示すために、Ca10(PO(OH、F、Cl、Br)と記述されることも多い)が挙げられる。ヒドロキシアパタイトは、六方晶系として結晶化する。これは、3.1〜3.2の比重を有し、モース硬度で5の硬度である。ヒドロキシアパタイトは、歯(エナメル質)および骨に見られる。骨の約70%がヒドロキシアパタイトから構成されている。
【0037】
好ましい態様においては、水不溶性リン酸アルカリ土類金属塩は、ヒドロキシアパタイトである。
【0038】
一態様においては、水不溶性リン酸アルカリ土類金属塩は、第一成分中に存在する。この態様においては、第一成分の水不溶性リン酸アルカリ土類金属塩とポリアミノサッカリドおよび/またはタンパク質との重量/重量比の範囲は、約1:6〜1:12であることが好ましい。水不溶性リン酸アルカリ土類金属塩がヒドロキシアパタイトであり、ポリアミノサッカリドおよび/またはタンパク質がキトサンであるさらに好ましい態様においては、ヒドロキシアパタイトとキトサンとの好ましい重量/重量比は、約1:1〜1:4であり、より好ましくは、重量/重量比は1:1である。
【0039】
別の態様においては、水不溶性リン酸アルカリ土類金属塩は、第二成分中に存在する。本態様においては、水不溶性リン酸アルカリ土類金属塩(例:ヒドロキシアパタイト)と生体適合性リン酸および/またはスルホンアミド(例:TTP)との重量/重量比の範囲が、1:6〜1:12であることが好ましい。
【0040】
<生体適合性グリカンおよび/またはプロテオグリカン>
上述の水不溶性リン酸アルカリ土類金属塩の特性によって、ゲルデポーの構造に明確な剛性が付与されるが、このリン酸塩によって付与される「骨類似性」は、欠点を有する。本発明者らはまた、剛性の骨様ゲルデポーが、皮下送達システムにとって望ましくないものである肉芽腫の形成を引き起こす可能性もあることも見出した。
【0041】
この問題を解決する目的で、いかなる特定の理論にも束縛されことを望むものではないが、発明者らは、生体適合性プロテオグリカンおよび/またはグリカンを添加することによって、ゲルデポーをより柔軟とすることが可能であり、それによって、構造を維持し、したがっていずれの有害な免疫学的または傷害性反応を最小限に抑えながら、ゲルデポーにプラスチック様の特性が付与されることも見出した。プロテオグリカンおよび/またはグリカンを添加することで、そのままではゲルデポーが剛性および粒状となり過ぎることを引き起こし、組織への刺激および生体侵食性(bio-erosion)の低下を誘発するものであるリン酸アルカリ土類金属塩の結晶化および成長を阻害することができると考えられる。したがって、プロテオグリカンおよび/またはグリカンの添加から得られる別の利点は、ゲルデポーの構造がそのコンプライアンス特性を維持することに加えて、より長期間にわたる安定性に見られる。
【0042】
したがって、一態様においては、本発明によるシステムおよび方法の第一および/または第二成分は、少なくとも1つのプロテオグリカン、グリカン、またはこれらの混合物を含み、これは、好ましくは、生理学的pHにおいて複数の負電荷を有することを特徴とする。
【0043】
適切なグリカンとしては、カルボキシメチルセルロース(CMC)が挙げられる。
【0044】
プロテオグリカンは、強くグリコシル化された糖タンパク質である。適切なプロテオグリカンとしては、コンドロイチン、ヒアルロン酸デキストラン、ペントサン、ケラタン、デルマタン、およびヘパラン(およびこれらの誘導体(コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸ナトリウム、デルマタン硫酸、およびヘパラン硫酸など))、ヘパリン(およびその誘導体)、アグリカン(およびその誘導体)が挙げられる。
【0045】
好ましい態様においては、生理学的pHにおいて複数の負電荷を有することを特徴とする生体適合性グリカンおよび/またはプロテオグリカンは、プロテオグリカンまたはその混合物である。
【0046】
好ましい態様においては、プロテオグリカン成分は、コンドロイチン硫酸塩である。コンドロイチン硫酸塩は、交互に繋がった糖(N−アセチル−ガラクトサミンおよびグルクロン酸)の非分岐ポリサッカリド鎖から構成される硫酸化グリコサミノグリカンである。その硫酸塩は糖に共有結合している。グルクロン酸残基の一部がL−イズロン酸にエピ化された場合、得られたジサッカリドは、デルマタン硫酸塩と称される。この分子は生理学的pHにおいて複数の負電荷を有することから、コンドロイチン硫酸の塩にはカチオンが存在する。コンドロイチン硫酸塩の市販製剤は、通常、ナトリウム塩である。この意味で、本発明のデポーに用いられる適切なプロテオグリカンの選択肢の中で、(生理学的pHにおいて)同じ複数の負電荷を示すいずれのプロテオグリカン誘導体もまた、適切である。
【0047】
コンドロイチン硫酸塩は、細胞外基質の主成分であり、組織の構造一体性の維持において重要である。これはまた、軟骨の重要な構造成分でもあり、アグリカンの一部として、密に充填されて高度に帯電したコンドロイチン硫酸塩の硫酸塩基を通して、圧縮に対するその耐性の大部分を提供している。
【0048】
コンドロイチン鎖は、100を超える別々の糖を有する場合があり、その各々が、種々の位置および量で硫酸化され得る。各々のモノサッカリドは、硫酸化されないままであってよく、1回の硫酸化、または2回の硫酸化を受けてもよい。最も一般的には、N−アセチル−ガラクトサミンの4および6位のヒドロキシルが硫酸化され、いくつかの鎖はグルクロン酸の2位が硫酸化されている。硫酸化は、特定のスルホトランスフェラーゼによって媒介される。このような異なる位置での硫酸化により、コンドロイチングリコサミノグリカン鎖に特定の生物活性が付与される。
【0049】
以下のような旧分類の用語がいくつか存在する。コンドロイチン硫酸塩A(N−アセチル−ガラクトサミン糖の4位炭素が硫酸化部位である(コンドロイチン−4−硫酸塩としても知られる))、コンドロイチン硫酸塩B(デルマタン硫酸塩の旧名称であり、現在はコンドロイチン硫酸塩の形態として分類されるものではない)、コンドロイチン硫酸塩C(N−アセチル−ガラクトサミン糖の6位炭素が硫酸化部位である(コンドロイチン−6−硫酸としても知られる))、コンドロイチン硫酸塩D(グルクロン酸の2位炭素およびN−アセチル−ガラクトサミン糖の6位炭素が硫酸化部位である(コンドロイチン−2,6−硫酸塩としても知られる))、およびコンドロイチン硫酸塩E(N−アセチル−ガラクトサミン糖の4および6位炭素が硫酸化部位である(コンドロイチン−4,6−硫酸塩としても知られる))が挙げられる。このような誘導体はすべて、本発明においての使用が意図される「コンドロイチン硫酸塩」として本発明に包含される。
【0050】
一態様においては、プロテオグリカンは、第二成分中に存在する。本態様においては、プロテオグリカンと生体適合性リン酸および/またはスルホンアミドとの重量/重量比が1:3であることが好ましい。より好ましくは、プロテオグリカンがコンドロイチン硫酸塩であり、生体適合性リン酸および/またはスルホンアミドがTTPである場合、好ましい重量/重量比は、1:3である。
【0051】
したがって、本発明のさらなる実施態様によれば、生物活性剤の送達のための長期放出送達システム:
(i)キトサン(または適切に官能化されたその誘導体)を含む第一成分および、
(ii)トリポリリン酸を含む第二成分、
を含んでなり、
(a)第一および/または第二成分が、生物活性剤をさらに含んでなり、
(b)第一および/または第二成分が、
(i)ヒドロキシアパタイトおよび/または、
(ii)コンドロイチン硫酸塩、
をさらに含んでなり、
前記システムの第一および第二成分が、物理的に隔離されており、使用時に、第一および第二成分が混合されることにより架橋が促進され、生物活性剤を含むバイオポリマーハイブリッドゲルデポーが形成されるシステム、が提供される。
【0052】
本発明の別の実施態様によれば、生物活性剤を含む長期放出バイオポリマーハイブリッドゲルデポーの形成方法:
(i)キトサン(または適切に官能化されたその誘導体)を含む第一成分およびトリポリリン酸を含む第二成分を準備する工程、および
(ii)架橋が促進されて、前記生物活性剤を含むバイオポリマーハイブリッドデポーが形成される条件にて、一定の時間、前記第一および第二成分を混合する工程、
を含んでなり、
(a)第一および/または第二成分が、生物活性剤をさらに含んでなり、
(b)第一および/または第二成分が
(i)ヒドロキシアパタイトおよび/または、
(ii)コンドロイチン硫酸塩、
を含んでなる方法、が提供される。
【0053】
<生物活性剤>
第一および/または第二成分はまた、対象に投与されると、その対象に対して剤の長期放出を提供することができる生物活性剤も含む。
【0054】
「生物活性剤」という用語は、インビボにて所望される生理学的効果を誘発することができるとして当業者に公知である合成されたかまたは天然由来であるいずれの分子をも包含することが意図され、例えば、疾患もしくは病状の治療または予防での用途を有する医薬、またはワクチン、特に対象への長期の送達を必要とするものである。
【0055】
生物活性剤は、そのような剤が他の経路を介して送達された場合に発生する問題のために、例えば皮下投与を必要とする治療薬であってよい。このような剤の例としては、低吸収、高親油性、高分子量、および/または過剰な正味電荷のために生体利用度が低い化合物、ならびに酵素分解を受けやすい剤が挙げられる。このような剤には、生理学的に不安定である小分子、ペプチドもしくはタンパク質治療薬、抗体、合成ホルモン、組換えもしくは不活化ワクチン、または遺伝子治療薬が包含される。
【0056】
一態様においては、生物活性剤は、インスリン、コルチゾール、エストロゲン、または成長ホルモンなどのペプチドホルモン、インフリキシマブ、アダリムマブ、ニツキシマブ(nituximab)、アレムツズマブ、ダクリズマブ、またはバシリキシマブなどの抗体、エタネルセプトおよび感染病原体に対するワクチン、または免疫去勢(LHRH)もしくはその他の行動修飾のためのものなどの融合タンパク質から選択されるが、これらに限定されない。
【0057】
その他の具体的な活性剤としては、以下が挙げられる。
・プレドニゾン、非常に僅かな水溶性を示すステロイド系抗炎症薬、
・ヒドロキシカンプトテシン、例:10−ヒドロキシカンプトテシン、組織(部位)特異的な送達および活性を提供し、細網内皮系との相互作用が低減された抗癌薬、
・特に、開発途上国において広がっている低再免疫化率に対抗するための(3回の注射による免疫化スケジュール)、B型肝炎表面抗原HBsAg、およびB型肝炎コア抗原HBcAg免疫化、
・DNA遺伝子ワクチンプラスミドDNA送達、ヒト免疫不全ウィルスおよびインフルエンザDNAワクチン、ヌクレアーゼ分解に対するDNA保護を提供、細胞移入および細胞傷害性の限界の問題を解決するDNAザイムのための薬物送達システム、癌およびその他の遺伝子障害に対するsiRNA分子のための薬物送達システム、
・抗癌薬ドキソルビシンの腫瘍部位への送達。
【0058】
活性剤は、分子の形態で存在してよく(すなわち、実質的に、ゲルデポー中に分散した分子として)、または微粒子の形態でもよい(すなわち、ゲルデポー中に近接して位置する数多くの分子の集団)。しかし、理解されるように、本発明のバイオポリマーハイブリッドゲルデポー中に活性剤を提供することができる数多くのシナリオが存在する。当該剤は、カプセル化されていても、細孔内に存在しても、遊離アミンと結合していても、タンパク質上に保持されていても、および/または移植後すぐにバースト効果(burst effect)を得るための遊離状態であってもよい。用いられる的確な方法は、生物活性剤および用途に応じて異なる。加えて、または別の選択肢として、生物活性剤は、ポリマーの1または2つ以上の成分と結合していてもよい。結合している場合、活性剤は、ゲルデポー中に存在するキャリア分子と結合(イオン結合もしくは共有結合)していてよい。例えば、活性剤は、キトサンと結合していてよい。本態様において、活性剤は、注射の前に第二成分の生体適合性リン酸および/またはスルホンアミドと、早すぎるまたは不要の架橋をイン サイチューにて起こすことを防止するために、システムの第一成分中に提供してよいことは理解されるであろう。
【0059】
<バイオポリマーハイブリッドゲルデポー>
好ましい態様のうちの1つを参照すると、キトサンは、トリポリリン酸と架橋することができ、それによって、古典的な誘引性ポリマーに誘発される溶媒枯渇を起こし、ポリマーの圧縮および液相の排除、すなわち、鎖−鎖架橋から得られるものを超えるシネレシスがもたらされる。
【0060】
通常、バイオポリマーハイブリッドは、実質的に液体である成分(液体分散物を含む)から自発的に形成される。すなわち、バイオポリマーハイブリッドの形成の前は、第一および第二成分は、気体でも、半固体でも、固体の形態でもない。従って、好ましくは、これらの成分は、容易に注射される形で提供され、このことによって、追加の硬化機構/装置(例:UV、IR、熱)の必要性も回避される。
【0061】
得られたゲルデポーは、熱可塑性でなく、半固体(例:ペースト)から得られたものでもなく、ここで、その構成成分からのポリマーの形成に形態の変化は必要ない。これは、無機/有機物質の二元固体と称される場合がある。本発明のゲルデポーは、ヤング率(弾性率)で表される「コンプライアンスを有する」ことを特徴とする。一態様においては、デポーのヤング率の範囲は、約20〜60kPaであり、好ましくは約10kPaである。好ましい圧縮弾性率は、100kPa〜500kPaの範囲であり、好ましくは約220kPaである。
【0062】
好ましくは、ゲルデポーは、生分解性であり、それは、インビボで分解可能であるという意味である。生体侵食は類似の用語である。ゲルデポーからの活性剤の放出プロファイルは短期的および長期的な部分を含んでいてよい。短期的なプロファイルは、ゲルデポー中に存在する遊離の活性剤によって達成し得るものであり、一方長期的なプロファイルは、ゲルデポーが生分解されて、より強く埋設された活性剤を徐々に放出することに依存するものである。
【0063】
本明細書で用いる「長期放出」の表現は、剤の対象への放出速度が、その剤が対象へ直接投与された場合に生ずるものよりも遅いことを意味する。一態様において、生物活性剤は、約12ヶ月までの期間にわたって対象へ放出される。当該剤は、この期間全体にわたって、連続的また非連続的に放出されてよい。
【0064】
「制御放出」の用語は、生物活性成分のポリマーから対象への放出速度が、バイオポリマーゲルデポーが分解される速度、および活性剤がデポー中に含まれるモード(すなわち、カプセル化、結合化、溶液中の遊離など)や、その他の因子としてデポーのサイズや位置などの作用によって制御されることを意味する。
【0065】
一態様においては、得られたバイオポリマーハイブリッドゲルデポー中の特定の成分の%重量/重量比の範囲は、以下の通りである。
【0066】
生体適合性ポリアミノサッカリドおよび/またはタンパク質:生体適合性リン酸および/またはスルホンアミド:水不溶性リン酸アルカリ土類金属塩:生体適合性グリカンおよび/またはプロテオグリカンが、約4:6:1:2から約4:12:4:4
【0067】
しかし、これは動力学的質量制御輸送プロセスであることから、上記の比率は、限定された度合いで、処理条件(バッチサイズを含む)に依存し得るものであることは理解されるであろう。この範囲外では、非常に異なる特性のデポーが作製される場合があり、これは、本明細書で想定される以外の特別に有利な用途を有する可能性がある(例:より軟質または硬質のゲル)。
【0068】
したがって、さらなる態様において、本発明は、
(i)生体適合性ポリアミノサッカリドおよび/またはタンパク質、
(ii)(i)と実質的に架橋した生体適合性リン酸および/またはスルホンアミド、
(iii)水不溶性リン酸アルカリ土類金属塩、
(iv)生体適合性グリカンおよび/またはプロテオグリカン、ならびに
(v)生物活性剤、
を含んでなるバイオポリマーハイブリッドゲルデポーを提供する。
【0069】
さらなる態様においては、本発明は、
(i)キトサン(または適切に官能化されたその誘導体)、
(ii)(i)と実質的に架橋したトリポリリン酸、
(iii)ヒドロキシアパタイト、
(iv)コンドロイチン硫酸塩、ならびに、
(v)生物活性剤、
を含むバイオポリマーハイブリッドゲルデポーを提供する。
【0070】
<さらなる成分>
本発明のバイオポリマーハイブリッドゲルデポーはまた、アジュバントを含んでもよい。アジュバントは、免疫反応を調節することで、抗原が単独で投与された場合よりも少量の抗原または低い用量を用いて、より永続的にレベルの高い免疫を得るものである。
【0071】
種々のアジュバントが当業者に公知である。アジュバントの例としては、フロイント不完全アジュバント(IFA)、アジュバント65(ピーナッツ油、モノオレイン酸マンニド、およびモノステアリン酸アルミニウムを含有)、オイルエマルジョン、Ribiアジュバント、プルロニックポリオール(pluronic polyols)、ポリアミン、アブリジン、Quil A、サポニン、MPL、QS−21、およびアルミニウム塩などのミネラルゲルが挙げられる。その他の例としては、SAF−1、SAF−0、MF59、Seppic ISA720などの水中油型エマルジョン、ならびにISCOMおよびISCOMマトリックスなどのその他の微粒子アジュバントが挙げられる。
【0072】
加えて、活性剤および/またはゲルデポーは、さらなる量の薬理学的に許容される適切なキャリア、希釈剤、または賦形剤を含んでよい。これらとしては、すべての公知の溶媒、分散媒、充填剤、固体キャリア、キャスティング剤(castings)、抗真菌および抗菌剤、界面活性剤、等張剤および吸収剤などが挙げられる。活性剤および/またはゲルデポーはまた、その他の補助的な生理学的活性剤も含んでよいことは理解されるであろう。
【0073】
<対象への投与>
上述のシステムは、好ましくは、2つの成分の溶液および懸濁液を、これらが対象へ容易に注射可能であるように用いることを含む。当該システムは、第一および第二成分が使用の直前まで分離されている(物理的に隔離されている)ように設計される。好ましい態様においては、第一および第二成分は、例えば単針の注射針を有するデュアルコンパートメントシリンジ(dual compartmentalised syringe)を用いて、注射の直前に混合される。このようなシステムにおいて2つの成分を分離することは、成分が迅速に架橋することから、注射針の閉塞を防止または最小化する。したがって、ゲルデポー形成の大部分はインビボで起こることが好ましいものの、少なくとも一部のゲルデポーは、第一および第二成分が混合された際に、シリンジチャンバーまたは注射針内にて注射の間に形成される場合があることは理解されるであろう。
【0074】
ニードル出口部において交わって混合を起こさせる2つの成分用の別々の流路を有する特別に設計された二針を用いた混注も用いてよい。
【0075】
別の態様において、本発明はまた、第一および第二成分が、インビボにて同一の部位に、同時に、または順次に注射されるという可能性も意図している。しかし、この種の投与は、成分の一方が迅速に生物システム中に吸収される場合は好ましくないことがあることは理解されるであろう。
【0076】
したがって、さらなる態様において、本発明は、生物活性剤を対象へ送達する方法:
(i)生体適合性ポリアミノサッカリドおよび/またはタンパク質を含む第一成分、および、
(ii)第一成分と架橋し得る生体適合性リン酸および/またはスルホンアミド化合物を含む第二成分、
を投与することにより、前記第一および第二成分は、同時にまたは順次に同一部位に注射されることを含み、
(a)前記第一および/または第二成分が、前記生物活性剤をさらに含んでなり、
(b)前記第一および/または第二成分が、
(i)水不溶性リン酸アルカリ土類金属塩、および/または、
(ii)生体適合性グリカンおよび/またはプロテオグリカン、
をさらに含んでなる方法、を提供する。
【0077】
さらなる可能性として、このシステムを用いて、インビボでの注射のために製造されるゲルデポーベースのインプラントを形成し得ることも意図される。すなわち、ゲルデポーは、エキソビボで形成し、次にこれを移植してもよい。
【0078】
したがって、またさらなる態様においては、本発明は、生物活性剤を対象へ送達する方法:
(i)生体適合性ポリアミノサッカリドおよび/またはタンパク質、
(ii)実質的に(i)と架橋した生体適合性リン酸および/またはスルホンアミド、
(iii)水不溶性リン酸アルカリ土類金属塩、
(iv)生体適合性グリカンおよび/またはプロテオグリカン、ならびに、
(v)生物活性剤、
を含んでなるバイオポリマーハイブリッドゲルデポーを移植する工程を含む方法、を提供する。
【0079】
上述の好ましい送達モードに関連して、架橋およびゲル形成は、迅速に、そして第一および第二成分の混合後1〜5秒以内に生ずることが好ましい。より好ましくは、ゲルデポーは、第一および第二成分の混合後1〜2秒で形成される。
【0080】
本発明によるインビボ注射は、皮下、筋肉内、または腹腔内であってよい。好ましくは、本発明は、直接、皮下へ送達するシステムである。
【0081】
上述のように、バイオポリマーハイブリッドゲルデポーは、医薬またはワクチンなどの生物活性剤の投与における用途を有する。
【0082】
バイオポリマーハイブリッドゲルデポーは、疾患もしくは病状の治療または予防を目的として、インビボで形成しても、対象中へ移植してもよい。本明細書で用いる「治療する」および「予防する」という用語は、対象における疾患もしくは病状のいずれの治療、予防をも意味する。「治療」および「予防」は、(a)疾患もしくは病状の抑止、すなわち、その発症の阻止、または(b)疾患もしくは病状の症状の軽減または寛解、すなわち、疾患もしくは病状の症状の退縮の誘発、を含む。効果は、疾患もしくは病状の部分的または完全な治癒という意味で、治療的なものであり得る。
【0083】
本明細書で用いる「疾患」とは、対象が罹患し、活性剤の長期放出を提供するゲルデポーを用いて治療または予防することができる、健康状態からの逸脱のいずれをも意味するために用いられる一般用語である。「病状」とは、対象の身体の一部の機能異常であって、活性剤の長期放出を提供するゲルデポーを用いて治療または予防することができるものを意味する。
【0084】
疾患または病状が治療または予防されるべき対象は、ヒト、またはヒトにとって経済的な重要性および/もしくは社会的な重要性を有する哺乳類であってよく、例えば、ヒト以外の食肉類(ネコおよびイヌなど)、ブタ類(swine)(ブタ(pigs)、オスブタ(hogs)、およびイノシシ)、反芻動物(ウシ(cattle)、オスウシ(oxen)、ヒツジ、キリン、シカ、ヤギ、バイソン、およびラクダなど)、ウマ、ならびに、これらもヒトにとって経済的な重要性を有することから、絶滅危惧種であるトリ、動物園で飼育されているトリ、および家禽類(fowl)、より詳細には、飼育された家禽類、例えばシチメンショウ、ニワトリ、アヒル、ガチョウ、ホロホロチョウなどの家禽(poultry)、を含むトリ類である。この用語は、特定の年齢を示すものではない。従って、成体および新生のいずれの対象も含まれることが意図される。
【0085】
本明細書で用いられる単数形「一の(a)」、「一の(an)」、および「その(the)」は、文脈から明らかにそうでないことが示されていない限りは、複数である態様を含む。従って、例えば、一の「ウィルス」、への言及は、単一のウィルス粒子ならびに2もしくはそれ以上のウィルス粒子を含み、「一の遺伝子」は、単一の遺伝子または2もしくはそれ以上の遺伝子を含む。「その発明」への言及は、その発明の単一または複数の態様を含む。
【0086】
本明細書およびそれに続く請求項を通して、文脈からそれ以外の意味に解されない限りにおいて、「含む(comprise)」の単語、ならびに「含む(comprises)」および「含んでいる(comprising)」などのその変形は、記述された整数もしくは工程、または整数もしくは工程の群を含むが、それ以外の整数もしくは工程、または整数もしくは工程の群のいずれをも除外しないことを示唆するものであることは理解されるであろう。
【0087】
それ以外に定義されない限りにおいて、本明細書で用いられるすべての技術および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるものと同一の意味を有する。本明細書で述べるものと類似または同等の物質および方法のいずれを用いても、本発明を実施または試験することができるが、好ましい物質および方法をここで説明する。
【0088】
本発明のさらなる特徴を、以下の限定されない実施例でより詳細に説明する。
【実施例】
【0089】
<使用物質>
1%酢酸中の1重量%キトサンの粘度が20℃にて約100mPa・sである低分子量キトサン(約150kDa)を、シグマ−アルドリッチから入手し、これらの実施例のポリマー製剤のすべてに用いた。ナトリウムトリポリリン酸(工業グレード、85%)、ヒドロキシアパタイト(I型懸濁液、0.001M リン酸緩衝液中、pH6.8、総固形分26重量%)、およびコンドロイチン硫酸塩A(ウシ気管由来のナトリウム塩、約70% 細胞培養試験済み、残りはコンドロイチン硫酸塩C)を、シグマ−アルドリッチケミカルズから入手した。
【0090】
<参考例>
参考例1(キトサン/ヒドロキシアパタイト)
1体積%酢酸中の1重量%および2重量%のキトサン溶液を得た。リン酸緩衝液中の26重量%ヒドロキシアパタイトの100、200、または300μLを、キトサン溶液の5mLに添加した。ヒドロキシアパタイトと混合した1重量%キトサン溶液は、ゲルを形成しなかった。他方、2重量%キトサン溶液は、26重量%ヒドロキシアパタイトと混合すると、25重量%、50重量%、および75重量%ヒドロキシアパタイト:キトサン混合物がそれぞれ得られ、ゲルを形成した。明確にすると、キトサン溶液に対して25重量%のヒドロキシアパタイトとは、キトサン100gあたり25gのヒドロキシアパタイトを含有するということである。
【0091】
いずれの場合でも、混合物は、最初に激しく攪拌し、次に室温にて12時間静置した。
【0092】
50重量%および75重量%ヒドロキシアパタイト:キトサン混合物からは、均一な硬質ゲルが得られ、一方25重量%ヒドロキシアパタイト:キトサン混合物は、12時間後も粘稠液体のままであった。発明者らは、このことが、ヒドロキシアパタイト粒子表面上のリン酸基の、溶液中のキトサン鎖上の塩基性窒素含有基との架橋に関与する能力を示すものであると考える。すなわち、キトサン溶液の弱酸性条件において、キトサンのプロトン化アミン基は、ヒドロキシアパタイト粒子表面上のリン酸基との架橋を起こすものと考えられる。ヒドロキシアパタイトはまた、このような弱酸性条件において、僅かに溶解することもできる。生成物は、均一な顆粒状固体と称するのが最も適切であり、これを図1に示す。
【0093】
図2に示すように、ゲル生成物の凍結乾燥したマイクロ構造を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて分析した。生成した均一ゲルは、ゲル化プロセスの過程で作られた大型のキャビティ中に、初期溶液中に存在した水のすべてを含有していた。キトサン−ヒドロキシアパタイトゲルのマイクロ構造は、溶液中でのヒドロキシアパタイト粒子とキトサン鎖とのこの架橋を示している。
【0094】
参考例2(キトサン/ヒドロキシアパタイト/トリポリリン酸デポー)
50から400μLの範囲の体積のヒドロキシアパタイト懸濁液を、激しく攪拌しながら、1%酢酸溶液中の2重量%キトサンの5mLに添加した。トリポリリン酸溶液を、2から80mMの範囲の種々の濃度で調製した。次に、ゆっくりした攪拌速度にて、各トリポリリン酸溶液の5mLを、各々のキトサン−ヒドロキシアパタイト混合物へ添加した。トリポリリン酸は、一般に、溶液中にて、微粒子ヒドロキシアパタイトよりも活性で、架橋速度も非常に速い物質である。したがって、トリポリリン酸は、潜在的な架橋剤として、堅固だが、剛性の低いポリマーを提供するために導入した。
【0095】
一般に、そして参考例1と比較して、トリポリリン酸を用いたゲル化プロセスはほとんど瞬間的に生じた。さらには、トリポリリン酸溶液を用いたキトサン−ヒドロキシアパタイト懸濁液のゲル化は、図3の画像が示すように、トリポリリン酸の非存在下でのものよりも均一なゲルを生成した。ヒドロキシアパタイト:キトサンおよびトリポリリン酸の範囲全体にわたって非常に異なる特性のゲルが得られたが、これらのすべてが、自発的なゲル形成の際に、高いシネレシス(体積縮小)を示した。図4Aに示すように、トリポリリン酸の濃度が低い場合、混合物は、透明な上清と共に析出物を形成した。図4Cに示すように、トリポリリン酸の濃度が高い場合、均一なコンプライアンスを有するゲルおよび透明な上清溶液が見られた。図4Bに示すように、これらの2つの限度値の間では、これらの混合物が見られた。
【0096】
デポーゲルの物理特性の半定量的評価を、その外観および弾性の観察、ならびにこれらの擬似相図上へのプロットによって行った(図5)。生成したゲルは、(A)粘稠エマルジョン、(B)膜状ゲル、(C)濁った析出物、(D)ゲル、(E)強度の高いゲル、および(F)繊維状ゲル、のいずれかに分類した。
【0097】
最適な組成範囲でゆっくり混合した場合、ゲル化は、自発的に発生し、ヒドロキシアパタイト粒子をすべて含有し、シネレシスによって透明な液相(キトサンが枯渇)が周囲の液体として押出された強度の高い白色ゲルが得られることが分かった。この組成領域の一方の側では(低トリポリリン酸)、弱いゲルが形成され、反対の側では(高トリポリリン酸)、繊維状ゲルが形成された。シネレシス現象により、トリポリリン酸の架橋なしに形成されたゲルと比較して、多孔度の低いより密な物質が生成した。必要な特性を有するゲルは、高いヒドロキシアパタイト:キトサン比、および高いトリポリリン酸濃度においてのみ生成する。
【0098】
ゲルの一例のSEM画像を図6に示す。ゲル形成プロセスの過程で2つの異なる構造が形成されることが見られた。1つ目は、ゲルの多孔性の塊であり(図6A)、2つ目は、多孔度の低い外層である(図6B)。
【0099】
トリポリリン酸溶液をキトサンのみの溶液(すなわち、ヒドロキシアパタイトなし)に添加した場合、混合した際にこの2つの溶液の間に架橋したキトサンの膜が形成され、均一なゲルの形成が阻害される。
【0100】
<本発明の実施例>
実施例1(キトサン/ヒドロキシアパタイト/コンドロイチン硫酸/トリポリリン酸デポー)
ヒドロキシアパタイト懸濁液40μLおよび1%酢酸溶液中の2重量%のキトサン2mLの混合物を調製した。100mMトリポリリン酸溶液中の1%コンドロイチン硫酸も調製した。コンドロイチン硫酸溶液の0.5、1、または2mLを、室温でゆっくり攪拌しながらヒドロキシアパタイトとキトサンとの混合物へ添加した
【0101】
コンドロイチン硫酸塩は、水溶性のポリマー塩であり、酸性条件下で析出するものであり、従って、ヒドロキシアパタイトとキトサンとの混合物への添加および自発的なゲル化の前に、最初にトリポリリン酸架橋剤溶液に溶解した。
【0102】
このプロセスで形成されたゲルは、キトサン−ヒドロキシアパタイト−トリポリリン酸ゲルと類似の物理特性を有する。図8の画像は、キトサン/ヒドロキシアパタイト/コンドロイチン硫酸塩/トリポリリン酸ゲルが、その組成中にコンドロイチン硫酸塩を含まない類似のゲルと比較して、淡褐色を有することを示しており、プロットは、デポー形成のための好ましい組成範囲を示す。最適な組成範囲では、淡褐色のコンプライアンスを有するヒドロゲルが、透明な枯渇された液相と共に自発的に形成された。キトサン−コンドロイチン硫酸塩−ヒドロキシアパタイト−トリポリリン酸ゲルのマイクロ構造は、キトサン−ヒドロキシアパタイト−トリポリリン酸を有するゲルに類似の構造を示した(図9参照)。
【0103】
図9Aは、ゲルの多孔性の塊を示し、図9Bは、多孔度の低い外層を示す。繊維様物の形成は、ゲル化プロセスの過程での攪拌に起因すると考えられる。
【0104】
実施例2(キトサン粒子が組み込まれた注射用デポーゲル)
キトサンを含むポリマーの最終組成は、500nmから3ミクロンの範囲のキトサン粒子(ワクチン、アジュバント、または薬物を組み込む能力を有するが、本実施例ではそのようにはしていない)と共に、溶解性キトサンおよびコンドロイチン硫酸塩、ヒドロキシアパタイト(ナノ粒子として)、ならびにトリポリリン酸(主たる架橋性物質として)とした。溶液、懸濁液、および粒子は、上記のように調製し、自発的なゲル化を発生させた。図10Aは、混合した際に、シネレシスによって排除された透明な液相と共に形成されたゲルを示す。図10Bから分かるように、バイオポリマー粒子はすべてゲルのマイクロ構造内に明らかに取り込まれている。
【0105】
ポリマー成分の注射性、および混注の際の自発的なゲル化を、注射針およびプラスチックシリンジを用いて、キトサンとヒドロキシアパタイトとの懸濁液およびトリポリリン酸架橋剤溶液により示した。シリコーンオイルを用いて、ゲル形成のプロセスおよびシネレシスを調べることができる不活性透明媒体を提供した。
【0106】
図11は、これらの段階および形成された相を示す。シリコーンオイル媒体中に、体積減少を起こす際にゲルから排除された液体を示す透明な水相に囲まれた白色のゲル相が見られる。
【0107】
実施例3(キトサン−HAp−ChS−TPPデポー)
以下のデポー組成について調べた。
成分A: HApの重量%を変化させた、1体積%AcOH中の2重量%キトサン
成分B: TPP(M)を変化させた、1重量%ChSの水溶液
【0108】
最適濃度を、図12に図で示す。
【0109】
好ましい組成は、実施例2で前述したように、ChSなしで、すなわち、Chit−HAp−TPPで形成されたデポー組成に類似のものである。相は、上記の一連のAおよびB成分から得られたヒドロゲル形成に基づいて、図で表すことができる(図13参照)。
【0110】
実施例4(デポーゲルの機械特性)
圧縮弾性率およびヤング率を、コンドロイチン硫酸塩を含有しないシステムの一連のデポー組成、すなわち、Chit−HAp−TPP、およびコンドロイチン硫酸塩を含有するデポーシステム、すなわち、Chit−HAp−ChS‐TPPについて測定した。種々の組成において、デポーを薄層構造として形成し、次に、水和状態で厚さ約1mmの円形ディスクを切り出し、パーキンエルマー示差熱分析DMTA装置で特性決定した。
【0111】
正確な機械的弾性率の測定には、サンプルを軟質ヒドロゲルの完全体として形成する必要があるため、注射針の先端で形成させるのではなく、平面形状を採用した。このため、好ましいデポー形成のための最初のHAp比率を超えるHAp比率で形成し、好ましい組成範囲に外挿する必要があった。これらのデポーヒドロゲルサンプルの水含有量。
【0112】
これらのヒドロゲルの水含有量は、図14に示すように、ヒドロキシアパタイト含有量に比例して変化した。
【0113】
図15aおよび15bは、デポーゲルの種々のHap含有量で得られた応力−ひずみ曲線を示す。
【0114】
図16aおよび16bに示すように、これらから2つのシステムの対応する圧縮静弾性率が得られた。
【0115】
最後に、ヤング率および圧縮弾性率を異なる初期HAp比率についてプロットし、以下に示すように、注射用ゲルの好ましい組成範囲における弾性率値を外挿して示した。これより、6kPaから20kPaの範囲、平均10kPaの好ましいヤング率、および100kPaから500kPaの範囲、平均220kPaの好ましい圧縮弾性率が得られた。これは、図17aおよび17bの陰をつけた領域で示す。
【0116】
実施例5(ChSの代わりとしてのCMC)
以下の組成の変化について調べた。
成分A: HAp%を変化させた、1%AcOH中の2%キトサン
成分B: TPP(M)を変化させた、1%CMCの水溶液
【0117】
キトサン−HAp懸濁液を、ホモジナイザー(18mmステーター、せん断速度14,100s−1)を2分間用いて形成した。これに、エッペンドルフピペットディスペンサーを用いて、等体積の成分。バイアルの振とう(2〜3分間)の前後、および20時間後(熟成デポー形成)に、この混合物の写真を撮影した。TPP濃度の上昇に従って、膜状ゲルは次第により稠密で低体積のゲルデポーへと変化し、これは、ディスペンサーの直径に関連する構造を有していた(図18a参照)。
【0118】
1%CMCを含有する系へTPP架橋剤を添加しなかった場合(以下参照)、キトサン溶液[バイアル1、図18b]、またはHAp懸濁液と共にキトサン[バイアル6、11、16、21]を添加すると、広がった膜状ゲルが形成した。このことは、正に帯電したキトサンと負に帯電したCMCポリマー鎖とが静電気によって会合していることを示している。より広がったゲル構造がTPP架橋剤の非存在下で作られる(上記のTPPを増加させる前述したシリーズで示されるように)。
【0119】
これら混合物にせん断力を掛けると、図18cに示すシリーズ6から10のバイアル[9]に見られるように、0.08M TPPにてより透明な上清が観察された。
【0120】
この最適TPP濃度、0.08Mは、図19に示す[バイアル4、9、14、19、24]に見られるように、すべてのシリーズで見ることができ、このことは、架橋の化学量論が、当量点(滴定終点)に近いことを示唆している。CMCを成分として有する以下の組成範囲は、好ましいデポー形成の領域を示している。
【0121】
図19に示すように、20時間の静置後、ゲルは明らかにさらに収縮している。
【0122】
好ましい組成は、前述のCMCなし、すなわち、Chit−HAp−TPPのデポー組成に類似している。
【0123】
実施例6(ChSの代わりとしてのヒアルロン酸Na)
以下の組成の変化について調べた。
成分A: HAp%を変化させた、1%AcOH中の2%キトサン
成分B: TPP(M)を変化させた、1%NaHyaの水溶液
【0124】
一連のデポー合成から、ChSの代わりとしてNaHyaを用いてデポーを形成することができることが示される。この傾向は、いずれの負に帯電したポリマーもChSの代わりとすることができ、それによって柔軟性のあるデポーを誘導する静電結合性成分を提供することができることを示唆している。
【0125】
ヒドロゲルデポー製剤は、より高いHAp比率を用いた場合、色が濃くなった。例えば、HAp比率を上昇させた[バイアル30、35、40、45、および50]0.1M TPPにおいてこの傾向が見られる(図20a)。また、ゲルの体積は、HAp比率の上昇と共に低下し(ゲルデポー密度の増加を示す)、これは、HApの架橋度への寄与が増加することに部分的に起因する。
【0126】
TPP架橋剤をシステムに添加しなかった場合、生成物は、より大きな粒子が沈澱を形成する濁った懸濁液であり(図20b参照)、キトサンとNaHyaとの間の会合レベルを示すのみである。TPPの増加に従って上昇する沈澱レベルは、TPP粒子が、Chit鎖を溶液から沈澱へと移動させる架橋部位として作用することを明らかに示している。
【0127】
TPP架橋剤を組成中に用いなかった場合は、濁った析出物が形成されており、それは、ここでも、負に帯電したヒアルロン酸塩と正に帯電したキトサン鎖との静電会合に起因するものである(図20b)。
【0128】
これまでに見られたように、HApレベルが高いと、生成物がより濃い色となる。NaHyaを含む組成範囲にて、好ましいデポー形成の領域を示す(図21参照)。
【0129】
実施例7(色分析による好ましいデポー組成(Chit−HAp−ChS−TPP))
好ましいデポー組成は、色ヒストグラム分析によっても識別することができ、これを、キトサン−ヒドロキシアパタイト−コンドロイチン硫酸塩−TPPのシステムについて示す(図22参照)。各色はその平均値を考慮した。値は、色の強度を無視するために、合計100%に対して標準化した。
【0130】
実施例8(デポー形成の好ましい範囲(例 Chit−HAp−ChS−TPPシステム)を示すグレースケールヒストグラム分析)
形成されるゲルの透明性または不透明性は、2つの機構に由来するものであり、第一は、キトサン溶液中のHApの存在、第二は、TPPと架橋した際のポリマーの相分離、または正に帯電したキトサンと負に帯電したChS、CMC、またはHyaとの凝集である。このような逆に帯電したポリマーが混合時に衝突すると、それらは2つの溶液の界面で膜を形成するか、または濁った分散液として析出する。このような視覚的なパラメータは、黒色背景で系の画像を撮影することにより、グレースケールヒストグラムとして定量化される(図23aおよび23b)。
【0131】
低いグレースケールのピークは、黒色背景が見えることから透明液体を表し、グレースケールの値が高いピークは、ヒドロゲルまたは析出物形成を表し、ピークサイズからその量が定量される。ピーク形状は、これをデコンボリューションすることでテクスチャ情報を得ることができることから、デポーヒドロゲルの発達したマイクロ構造を示している。従って、このグレースケール法は、好ましい形成組成を決定する重要なパラメータを定量するものである。
【0132】
合成で用いられた組成から得られた領域外[バイアル51、52、53、54、55]および好ましい領域内[バイアル61、62、63、64、65]のChit−HA−ChS−TPPシステムは(図23b)、ヒドロゲル、ならびにその組織分布的マイクロ構造の発達を示す。このマイクロ構造の発達は、そのデコンボリューションによって示されるようにピークプロファイルの複雑性が増加することで示される。グレースケール分布の値が低いピーク(約50)は、相分離の際に形成された上清液を示し、高い値のピークは、デポー形成を示す。形状の複雑性は、形成されたデポーにおける構造的特徴が増加することを意味する。TPPの増加に従って、相分離が明らかであり、さらには好ましい架橋度におけるより多くの構造的テクスチャに特徴的なピークの複雑性の増加も明らかである[53、54、63、64]。
【0133】
好ましい組成範囲内および範囲外のいずれのChit−HA−ChS−TPPシステム共に、そのデコンボリューションによって示されるピークプロファイルの複雑性の増加が示すように、ヒドロゲル、ならびにその組織分布的マイクロ構造の発達を見せる(図24)。
【0134】
実施例9(タンパク質/ペプチドとの結合およびデポー中への組み込みのためのグルコサミンオリゴマーならびに低Mwキトサンの作製)
(a)キトサンの熱加水分解解重合
キトサンを、酸性HCl条件下にて解重合し(35%HClの30mLを1%AcOH中2%キトサンの30mLに添加した)、窒素雰囲気下にて、スチームを用いて1時間加熱した。この混合物を、40%NaOH水溶液を用いて中和した。氷浴中にてエタノールをこの混合物へ添加し、得られたキトサンをすべて析出させた。
【0135】
分離したキトサン析出物をエタノール中に再懸濁し、数回の遠心分離を行って、MWの測定が可能となるように精製を完了させた。精製された解重合されたキトサンの析出物を、次に一晩凍結乾燥し、乾燥キトサン質量0.35gが得られ、全体の収率は58%であった。
【0136】
還元粘度ηred(または粘度数η)を測定して、処理したキトサンの分子量MWを得た。ここで、熱処理したキトサンの150mgを15mLの0.2M AcOHおよび0.1M AcONaに溶解し、1%溶液を得た。キャピラリー粘度測定法(タイプ531 10/I)を25.00℃±0.01で用い、1g/dL溶液を0.1g/dLまで希釈したものの極限粘度を得た。以下の式を用いた。
【0137】
比粘度:
【数1】

【0138】
還元粘度または粘度数(η):
【数2】

【0139】
極限粘度数または固有粘度:
【数3】

【0140】
処理キトサンのC=0における切片(図25参照)、[η]は49.867であり、これをシュタウディンガーの式に当てはめると、60.113kDaのMwが得られ、(DD=80%に対してK=0.00083046、α=0.9999)である。
[η]=KMα
【0141】
これより、処理キトサンサンプルの重合度354が得られた。
【0142】
このM低下キトサンは、NaOH溶液で中和すると再懸濁可能である微粒子を生成することができた。図26(左)に見られるように、0.2M AcOHおよび0.1M AcONa中の0.25%キトサン溶液は、1N NaOHと4.4:1(体積/体積)で混合すると、濁った懸濁液を生成した(pH=12.7)。
【0143】
この懸濁液中の微粒子は、ポリペプチドまたはタンパク質と結合することができ、pHを低下させることで溶解して、形成されるデポーへ架橋によって連結されるために、デポー成分と混合することができる(図26(右)参照)。
【0144】
(b)超音波処理を用いたキトサン解重合
0.2M AcOHおよび0.1M 酢酸ナトリウム(NaOAc)中の2%キトサンのサンプル30gを、以下の表に示すように、1秒パルスのオン/オフプログラムを用い、温度およびパワー入力を変化させて超音波処理することで、キトサンの超音波処理による解重合を行った。
【0145】
次に、10%NaOHを用いてサンプルを析出させ、遠心分離し、エタノール、続いて水により中性pHが得られるまで数回洗浄し、最後に、これらを凍結乾燥した。次に、サンプルをGPCおよび固有粘度によって特性決定した。
【0146】
【表1】

【0147】
表27は、超音波処理によって初期キトサン(I)分子量が約1.1×10から、Mw60×10が得られた酸性化加熱処理と比較して、約300×10まで減少したことを示している。
【0148】
実施例10(デポー形成および短鎖キトサン(Mw60×10)によるワクチン結合)
(a)短鎖キトサンへの結合
短鎖キトサンへの結合後の溶液中のFITCまたはチオール含有ペプチドの量を以下のようにして測定した:
非クロロアセチル化(A)またはクロロアセチル化(B)短鎖キトサン溶液を、蛍光色素FITC(32μg/ml)(A)または3kD チオール含有ペプチド(2mg/ml)(B)と共にインキュベートした。溶液を1N NaOHでpH8〜9に調節し、混合ラック上37℃にて一晩インキュベートした。各溶液の吸収スペクトルを0時間および24時間後に測定した。FITC含有溶液は495nmの波長で、ペプチド含有溶液は280nmで測定した。
【0149】
まず、キトサン鎖の官能性NH基の反応性の測定を、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)の結合、および24時間の結合後に溶液中に残ったFITCの495nmでの測定によって行った。図28aから、FITCの大部分がキトサン鎖と共有結合したことが分かる。
【0150】
凍結乾燥した短鎖キトサン100mgを5mLの乾燥アセトン中に懸濁した。クロロ酢酸500mgおよびクロロ無水酢酸(chloroactic anhydride)50mgをチューブに添加し、シールした。この混合物を50℃にて1時間攪拌し、ポリペプチド係留反応のためのクロロアセチル化短鎖キトサンを生成させた。
【0151】
次に、チオール含有ペプチドを、溶液中で24時間接触させることでクロロアセチル化短鎖キトサンに結合させ、結合せずに溶液中に残留したペプチドの度合いを、280nmにおけるペプチドの内在蛍光によって測定した。ペプチドの結合は、溶液の蛍光として図28bに示す。
【0152】
次に、得られたペプチド結合短鎖キトサンを、270nmで励起した固体蛍光により、ペプチド含有量について固体乾燥サンプルで直接分析し、図29aに示すように、結合前のクロロアセチル化(ClAcO)キトサンと比較した。
【0153】
短鎖キトサンのアミン官能性は、図29bに示すように、FITC結合および330nmで励起した蛍光スペクトルにより確認した。
【0154】
(b)短鎖キトサン、FITC標識短鎖キトサン、およびポリペプチド結合短鎖キトサンのデポーへの組み込み
デポーの形成は、主成分としての長鎖ポリマーキトサンを、結合したポリペプチドをデポーの構造中へ運ぶベクターとして作用する短鎖キトサンと混合することで行った。この方法により、ポリペプチドは、短鎖を介してデポー構造と共有結合し、一方デポーの機械特性は、ポリマーキトサン成分によって保持される。デポーおよびその上清の内在蛍光は、285nm(ポリペプチド)および346nm(FITC)で励起した。図30aは、長鎖ポリマーキトサンのすべてがデポー形成に取り込まれることを示している。
【0155】
デポーは、ポリマーキトサンの溶液を、キトサン鎖が係留したポリペプチドと混合することで製剤した。図30bは、デポーの形成の過程で、短鎖キトサンが係留したポリペプチドのすべてが構造中に組み込まれることを示している。
【0156】
短キトサン鎖がデポー中に組み込まれたことを確認するために、FITC標識短鎖キトサンをポリマーキトサンと混合してデポーを形成した。図30cに示すのは、得られたデポーおよびその上清の発光スペクトル(346nmで励起)であり、FITC標識短鎖がすべて組み込まれていることを示している。
【0157】
実施例11(シネレシスの研究)
(a)デポー形成の過程での抗原の取り込みおよび放出(リゾチームは初期量のみ)
ヒトリゾチームおよびグルコサミニダーゼの初期生理的濃度におけるデポー形成による抗原の取り込み(A)およびインキュベーション下における上清への放出(B)を図31に示す。
【0158】
タンパク質卵白アルブミン(OVA)、ペプチド抗原、または蛍光色素ラベル(FITC)の形態の抗原含有(400μg)生理食塩水100μlを、1mlのキトサン溶液中にプレミックスした。デポーの形成は、抗原含有(プレミックス)または抗原非含有(無し)のキトサン溶液を1mlのトリポリリン酸溶液に添加し、10分間静置させた後に激しく混合することで行った。次に、デポー形成後の上清の吸収(280nm)の読み取りを種々の時間点で行い、溶液中に残った抗原の残留量を測定した。比較として、抗原の非存在下で形成したが、プレミックスのデポーに用いたものと同量の抗原を意図的にスパイクしたデポー上清にも吸収の読み取りを行った。(B)抗原含有デポーを、酵素リゾチーム(50μg/ml)およびN−アセチル−ベータ−D−グルコサミニダーゼ(10U/L)の存在下または非存在下、37℃にて、500μlの生理食塩水中でインキュベートした。デポー溶液の吸収(280nm)の読み取りを種々の時間点で行った。各記号は、3つの反復サンプルの吸収読み取りからの平均および標準誤差を示す(図31参照)。
【0159】
(b)デポー形成の過程での抗原の取り込みおよび放出(リゾチームを補給)
ニワトリリゾチームを継続的に補給した状態でのデポー形成による抗原の取り込み(A)およびインキュベーション下における上清への放出(B)を図32に示す。
【0160】
(A)抗原含有(400μg)生理食塩水100μlを、1mlのキトサン溶液中に混合し、これを次に1mlのトリポリリン酸溶液に添加することでデポーを形成した。デポーの形成後、280nmでの吸収の読み取りを行って溶液中に残った抗原量を測定し、前図のように抗原の取り込みを確認した。(B)抗原含有デポーを、鶏卵リゾチーム(2mg/ml)の存在下または非存在下、37℃にて、500μlの生理食塩水中でインキュベートした。デポー溶液の吸収(280nm)の読み取りを種々の時間点で行った。酵素溶液は、第5日および18日に新しい溶液と交換した(矢印で表示、図32)。各記号は、3つの反復サンプルの吸収読み取りからの平均および標準誤差を示す。
【0161】
(c)デポーを用いたインビボにおけるワクチン免疫反応(マウス)
ワクチン接種によって引き起こされた抗体反応を図33に示す。
【0162】
マウス(グループあたり4体)に、20ナノモルの遊離のリポペプチドまたはリポペプチド結合マイクロ粒子による首筋へのワクチン接種を行った。ワクチン接種はまた、一方のシリンジにキトサン溶液と共に製剤された20ナノモルのリポペプチドまたはリポペプチド結合粒子を入れ、他方にトリポリリン酸溶液を入れたデュアルインジェクションニードルシステム(dual injection needle system)を用いて、麻酔下でも行った。3および7週間後にマウスの採血を行って血清を採取し、抗体力価をELISAアッセイによって測定した。
【0163】
図33は、プライミング用量と一致する高い遊離の抗体反応、およびこれよりは低いが大きいものであり、第3週から7週にかけて僅かに増加している遊離粒子中の抗原に対する反応を示している。デポー自体の中、およびデポー中の粒子の中のリポペプチド抗体は、第7週に免疫反応の誘発を開始するのに十分な程度に大幅な遅延を示している。より強く固定化することにより、すなわち、デポー中にある粒子の中に抗体が存在することにより、最も大きな遅延が示されている(矢印で示す)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物活性剤の送達のための長期放出および/または制御放出送達システムであって、
(i)生体適合性ポリアミノサッカリドおよび/またはタンパク質を含む第一成分、および、
(ii)前記第一成分と架橋し得る、生体適合性リン酸および/またはスルホンアミド化合物を含む第二成分、
を含んでなり、
(a)前記第一および/または第二成分が、前記生物活性剤をさらに含んでなり、
(b)前記第一および/または第二成分が、
(i)水不溶性リン酸アルカリ土類金属塩、および/または、
(ii)生体適合性グリカンおよび/またはプロテオグリカン、
をさらに含んでなり、
前記システムの前記第一および第二成分が、物理的に隔離されており、使用時に、前記第一および第二成分が混合されることにより架橋が促進され、前記生物活性剤を含むバイオポリマーハイブリッドゲルデポーが形成される、システム。
【請求項2】
前記生体適合性ポリアミノサッカリドおよび/またはタンパク質が、キトサンまたはその塩である、請求項1に記載の送達システム。
【請求項3】
前記キトサンが、40〜150kDaの分子量を有する、請求項2に記載の送達システム。
【請求項4】
前記キトサンが、50〜100kDaの分子量を有する、請求項3に記載の送達システム。
【請求項5】
前記キトサンが、50〜80kDaの分子量を有する、請求項3に記載の送達システム。
【請求項6】
前記生物活性剤が、前記キトサンと結合している、請求項2から5のいずれか一項に記載の送達システム。
【請求項7】
前記生体適合性リン酸および/またはスルホンアミドが、トリリン酸ナトリウム(TPP)である、請求項1から6のいずれか一項に記載の送達システム。
【請求項8】
前記水不溶性リン酸アルカリ土類金属塩が、ヒドロキシアパタイトである、請求項1から7のいずれか一項に記載の送達システム。
【請求項9】
前記生体適合性グリカンおよび/またはプロテオグリカンが、コンドロイチン硫酸塩、ヒアルロン酸ナトリウム、およびカルボキシメチルセルロースから選択される、請求項1から8のいずれか一項に記載の送達システム。
【請求項10】
前記生体適合性グリカンおよび/またはプロテオグリカンが、プロテオグリカンである、請求項1から8のいずれか一項に記載の送達システム。
【請求項11】
前記生体適合性プロテオグリカンが、コンドロイチン硫酸塩である、請求項10に記載の送達システム。
【請求項12】
前記生物活性剤が、インスリン、コルチゾール、エストロゲン、または成長ホルモンなどのペプチドホルモン、インフリキシマブ、アダリムマブ、ニツキシマブ(nituximab)、アレムツズマブ、ダクリズマブ、またはバシリキシマブなどの抗体、エタネルセプトおよび感染病原体に対するワクチン、または、免疫去勢(LHRH)もしくはその他の行動修飾のためのものなどの融合タンパク質、から選択される、請求項1から11のいずれか一項に記載の送達システム。
【請求項13】
前記第一成分が、前記水不溶性リン酸アルカリ土類金属塩を含む、請求項1から12のいずれか一項に記載の送達システム。
【請求項14】
前記第二成分が、前記生体適合性グリカンおよび/またはプロテオグリカンを含む、請求項1から13のいずれか一項に記載の送達システム。
【請求項15】
前記生体適合性ポリアミノサッカリドおよび/またはタンパク質:生体適合性リン酸および/またはスルホンアミドの%重量/重量比の範囲が、約1:1〜1:2である、請求項1から14のいずれか一項に記載の送達システム。
【請求項16】
前記水不溶性リン酸アルカリ土類金属塩:生体適合性リン酸および/またはスルホンアミドの%重量/重量比の範囲が、約1:6〜1:12である、請求項1から15のいずれか一項に記載の送達システム。
【請求項17】
前記水不溶性リン酸アルカリ土類金属塩:生体適合性ポリアミノサッカリドおよび/またはタンパク質の%重量/重量比の範囲が、約1:6〜1:12である、請求項1から16のいずれか一項に記載の送達システム。
【請求項18】
前記生体適合性グリカンおよび/またはプロテオグリカン:生体適合性リン酸および/またはスルホンアミドの%重量/重量比が、約1:3である、請求項1から17のいずれか一項に記載の送達システム。
【請求項19】
生体適合性ポリアミノサッカリドおよび/またはタンパク質:生体適合性リン酸および/またはスルホンアミド:水不溶性リン酸アルカリ土類金属塩:生体適合性グリカンおよび/またはプロテオグリカンの%重量/重量比の範囲が、約4:6:1:2〜約4:12:4:4である、請求項1から14のいずれか一項に記載の送達システム。
【請求項20】
前記生物活性剤を含む前記バイオポリマーハイブリッドゲルデポーのヤング率が、約20〜60kPaの範囲である、請求項1から19のいずれか一項に記載の送達システム。
【請求項21】
前記生物活性剤を含む前記バイオポリマーハイブリッドゲルデポーの圧縮弾性率が、約100kPa〜500kPaの範囲である、請求項1から20のいずれか一項に記載の送達システム。
【請求項22】
生物活性剤を含む長期放出および/または制御放出バイオポリマーハイブリッドゲルデポーの形成方法であって、
(i)生体適合性ポリアミノサッカリドおよび/またはタンパク質を含む第一成分、および前記第一成分と架橋し得る生体適合性リン酸および/またはスルホンアミド化合物を含む第二成分を準備する工程、および
(ii)架橋が促進されて、前記生物活性剤を含むバイオポリマーハイブリッドデポーが形成される条件にて、一定の時間、前記第一および第二成分を混合する工程、
を含んでなり、
(a)前記第一および/または第二成分が、前記生物活性剤をさらに含んでなり、
(b)前記第一および/または第二成分が、
(i)水不溶性リン酸アルカリ土類金属塩、および/または、
(ii)生体適合性グリカンおよび/またはプロテオグリカン、
をさらに含んでなる、方法。
【請求項23】
前記第一および第二成分がインビボにて同一の部位において、皮下、筋肉内、または腹腔内に、別々に、または順次に注射される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記第一および第二成分が、エキソビボで混合され、得られた前記生物活性剤を含むバイオポリマーハイブリッドゲルデポーが移植される、請求項22または請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記バイオポリマーハイブリッドゲルデポーが、前記第一および第二成分が混合された後1〜5秒で形成される、請求項22から24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
生物活性剤を含む長期放出および/または制御放出バイオポリマーハイブリッドゲルデポーの形成方法であって、
(i)キトサン(または適切に官能化されたその誘導体)を含む第一成分、およびトリポリリン酸を含む第二成分を準備する工程、および
(ii)架橋が促進されて、前記生物活性剤を含むバイオポリマーハイブリッドデポーが形成される条件にて、一定の時間、前記第一および第二成分を混合する工程、
を含んでなり、
(a)前記第一および/または第二成分が、前記生物活性剤をさらに含んでなり、
(b)前記第一および/または第二成分が、
(i)ヒドロキシアパタイトおよび/または、
(ii)コンドロイチン硫酸塩、
をさらに含んでなる、方法。
【請求項27】
バイオポリマーハイブリッドゲルデポーであって、
(i)生体適合性ポリアミノサッカリドおよび/またはタンパク質、
(ii)(i)と実質的に架橋した生体適合性リン酸および/またはスルホンアミド、
(iii)水不溶性リン酸アルカリ土類金属塩、
(iv)生体適合性プロテオグリカン、ならびに、
(v)生物活性剤、
を含んでなる、バイオポリマーハイブリッドゲルデポー。
【請求項28】
バイオポリマーハイブリッドゲルデポーであって、
(i)キトサン(または適切に官能化されたその誘導体)、
(ii)(i)と実質的に架橋したトリポリリン酸、
(iii)ヒドロキシアパタイト、
(iv)コンドロイチン硫酸塩、ならびに、
(v)生物活性剤、
を含んでなる、バイオポリマーハイブリッドゲルデポー。
【請求項29】
前記ゲルデポーのヤング率が、約20〜60kPaの範囲である、請求項27および請求項28に記載のバイオポリマーハイブリッドデポーゲル組成物。
【請求項30】
前記ゲルデポーの圧縮弾性率が、約100〜500kPaの範囲である、請求項27から29のいずれか一項に記載のバイオポリマーハイブリッドデポーゲル組成物。
【請求項31】
前記生物活性剤が、前記キトサンと結合している、請求項28から30のいずれか一項に記載のバイオポリマーハイブリッドデポーゲル組成物。
【請求項32】
前記キトサンが、50〜100kDaの分子量を有している、請求項31に記載のバイオポリマーハイブリッドゲルデポー組成物。
【請求項33】
アジュバントをさらに含んでなる、請求項27から32のいずれか一項に記載のバイオポリマーハイブリッドゲルデポー。
【請求項34】
1もしくは2つ以上の医薬、許容され、適切であるキャリア、希釈剤、または賦形剤をさらに含んでなる、請求項27から33のいずれか一項に記載のバイオポリマーハイブリッドゲルデポー。
【請求項35】
生物活性剤を対象へ送達する方法であって、
(i)生体適合性ポリアミノサッカリドおよび/またはタンパク質を含む第一成分、および
(ii)前記第一成分と架橋し得る生体適合性リン酸および/またはスルホンアミド化合物を含む第二成分、
を投与することにより、前記第一および第二成分は、同時にまたは順次に同一部位に注射されることを含み、
(a)前記第一および/または第二成分が、前記生物活性剤をさらに含んでなり、
(b)前記第一および/または第二成分が、
(i)水不溶性リン酸アルカリ土類金属塩、および/または、
(ii)生体適合性グリカンおよび/またはプロテオグリカン、
をさらに含んでなる方法。
【請求項36】
(i)生体適合性ポリアミノサッカリドおよび/またはタンパク質、
(ii)実質的に(i)と架橋した生体適合性リン酸および/またはスルホンアミド、
(iii)水不溶性リン酸アルカリ土類金属塩、
(iv)生体適合性グリカンおよび/またはプロテオグリカン、ならびに、
(v)生物活性剤、
を含んでなるバイオポリマーハイブリッドゲルデポーを移植する工程を含む、生物活性剤を対象へ送達する方法。
【請求項37】
前記生物活性剤が、約12ヶ月までの期間にわたり、長期放出により送達される、請求項35または請求項36に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10(A)】
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【図10(B)】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図22】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図3】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図23】
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【公表番号】特表2012−532147(P2012−532147A)
【公表日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−518698(P2012−518698)
【出願日】平成22年7月9日(2010.7.9)
【国際出願番号】PCT/AU2010/000883
【国際公開番号】WO2011/003155
【国際公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【出願人】(508095474)ポリマーズ シーアールシー リミテッド (7)
【氏名又は名称原語表記】Polymers CRC Ltd.
【住所又は居所原語表記】8 Redwood Drive, Notting Hill, Victoria 3168, Australia
【Fターム(参考)】