説明

バイオマスフェノール樹脂の製造方法

【課題】低軟化点で成形時の流動性が高くて成形加工性に優れ、しかも植物由来率が高いバイオマスフェノール樹脂を低コストで提供する。
【解決手段】本発明のバイオマスフェノール樹脂の製造方法は、糖質類として澱粉誘導体と、植物由来不飽和アルキルフェノール類及び化石燃料由来フェノール類を含有するフェノール類とを、酸性条件下で反応させる。また本発明では、澱粉誘導体100質量部に対して、フェノール類を200〜800質量部使用することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形材料、鋳造用鋳型、エポキシ樹脂硬化剤、各種バインダー等に用いられるバイオマスフェノール樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
植物は、繰り返し同じ土地で生産でき、石油や鉱物より短時間で再生される資源である。また、石油などの化石燃料由来原料を使用したプラスチックは、製品の焼却時に二酸化炭素を排出し、大気中の二酸化炭素総量を増加させるが、植物由来の原料を使用したプラスチックは、大気中の二酸化炭素総量を増加させない、いわゆるカーボンニュートラル材料である。そのため、環境への配慮から、石油などの化石燃料由来原料の代わりに、植物由来原料を使用した、いわゆるバイオマス樹脂の開発が進められている。
植物由来原料を使用した熱硬化性プラスチックとして、フェノール類と、砂糖類及び澱粉類の混合物とを、酸性触媒の存在下で反応させて得られたフェノール樹脂が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
また、フェノール類とトウモロコシ種皮等の澱粉系物質とを酸性触媒の存在下で反応後、ホルムアルデヒドを加え、反応させて得られたフェノール樹脂が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。
さらに、フェノール類と木材からフェノール樹脂を製造する際、融点100℃以下の反応性物質(ベンジルアルコール等)を添加することで、樹脂の軟化点を下げたフェノール樹脂が開示されている(例えば、特許文献3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−248040
【特許文献2】特開2001−123012
【特許文献3】特開2004−352978
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、特許文献1に記載のフェノール樹脂は高軟化点で成形時の流動性が低く、硬化物を得るための成形の際の加工性が不十分であった。
また、特許文献2に記載のフェノール樹脂は、化石燃料由来のフェノール類を使用した市販のノボラック樹脂に比べて成形物の曲げ強度が約35%も低く、それを改善するため、ホルマリンによる架橋反応を施しているが、それでも約20%も強度が低かった。
更に、特許文献3記載のフェノール樹脂は、ベンジルアルコールの添加によりベンジルフェノールを反応系で誘導し、低軟化点化を実現しているが、ベンジルアルコール自体が高価であることや植物由来率が低下するなどの課題があった。
本発明は、低軟化点で成形時の流動性が高く、成形加工性に優れ、植物由来率が高く、且つベンジルアルコールのような高価な石油系原料をしない、低コストなバイオマスフェノール樹脂を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
[1]糖質類として澱粉誘導体と、植物由来不飽和アルキルフェノール類及び化石燃料由来フェノール類を含有するフェノール類とを、酸性触媒存在下で反応させることを特徴とするバイオマスフェノール樹脂の製造方法。
【0006】
[2]澱粉誘導体100質量部に対して、フェノール類が200〜800質量部である[1]記載のバイオマスフェノール樹脂の製造方法。
【0007】
[3]澱粉誘導体が、各種澱粉のエステル化及び/またはエーテル化及び/または酸化及び/または架橋した澱粉誘導体の単独または混合物である[1]または[2]記載のバイオマスフェノール樹脂の製造方法。
【0008】
[4]フェノール類中の植物原料由来不飽和アルキルフェノール類と化石燃料由来フェノール類の質量比率が、植物原料由来不飽和アルキルフェノール類:化石燃料由来フェノール類=1:99〜50:50である[1]〜[3]のいずれかに記載のバイオマスフェノール樹脂の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のバイオマスフェノール樹脂の製造方法によれば、高い植物由来率を有する上に、低軟化点で成形時の流動性が高く、成形加工性に優れるバイオマスフェノール樹脂を低コストで製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のバイオマスフェノール樹脂の製造方法は、糖質類として澱粉誘導体と、植物由来不飽和アルキルフェノール類及び化石燃料由来フェノール類を含有するフェノール類とを、酸性触媒存在下で反応させる方法である。
この反応では、酸性触媒によって、澱粉誘導体からヒドロキシメチルフルフラールが生成し、そのヒドロキシメチルフルフラールとフェノール類とが酸性触媒によって反応することによって、バイオマスフェノール樹脂を形成する。
【0011】
まずは、本発明のバイオマスフェノール樹脂に使用する澱粉誘導体について説明する。一般的に澱粉誘導体は、その糊化温度やその時の粘度が低くなっているため、特に澱粉を原料とした時に見られる樹脂製造時の急激な増粘に伴う、攪拌停止を回避できる。急激な増粘による攪拌停止は、局所的に熱がかかり糖質類の炭化を引き起こし、目的のバイオマスフェノール樹脂が製造出来なくなってしまう。
澱粉誘導体としては、各種澱粉のエステル化及び/またはエーテル化及び/または酸化及び/または架橋した澱粉誘導体の単独または混合物が好ましい。各種澱粉のエステル化した澱粉誘導体としては、酢酸澱粉、リン酸化澱粉、オクテニルコハク酸澱粉が挙げられ、各種澱粉をエーテル化した澱粉誘導体としては、ヒドロキシプロピル澱粉、ヒドロキシエチル澱粉が挙げられ、各種澱粉を酸化した澱粉誘導体としては酸化澱粉が挙げられ、各種澱粉を架橋した澱粉誘導体としては、リン酸架橋澱粉が挙げられる。また各種澱粉について、エステル化、エーテル化、酸化、架橋反応のいずれかを2種以上行った澱粉誘導体である複合澱粉としては、酢酸アジピン酸架橋澱粉、酢酸リン酸化架橋澱粉、酢酸酸化澱粉、ヒドロキシプロピルリン酸架橋澱粉、リン酸モノエステル化リン酸架橋澱粉が挙げられる。これら各種澱粉誘導体は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0012】
フェノール類に含まれる植物原料由来不飽和アルキルフェノール類としては、例えば、カルダノール、カシューナッツシェルリキッドなどが挙げられるが、反応性が高く、入手が容易な点からカルダノールが好ましい。これらは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0013】
フェノール類中に含まれる化石燃料由来フェノール類としては特に限定されないが、フェノール、クレゾール、キシレノール、プロピルフェノール、ブチルフェノール、ブチルクレゾール、フェニルフェノール、クミルフェノール、メトキシフェノール、ブロモフェノール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールSなどが挙げられる。これらの中でも、反応性が高く、しかも入手容易な点で、フェノール、クレゾール、キシレノール、ビスフェノールAが好ましい。これらは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0014】
フェノール類中の植物原料由来不飽和アルキルフェノール類と化石燃料由来フェノール類の質量比率は、植物原料由来不飽和アルキルフェノール類:化石燃料由来フェノール類が1:99〜50:50であることが好ましく、5:95〜40:60であることがより好ましい。植物原料由来不飽和アルキルフェノール類の質量比率が1:99以上であれば、得られるバイオマスフェノール樹脂の軟化点を下げることが可能で、成形時の流動性が高く、成形加工性に優れ、50:50以下であれば、成形物に要求される実用特性を満足することができる。
【0015】
バイオマスフェノール樹脂を得る際の糖質類とフェノール類との質量比率は、糖質類固形分を1としたときに、フェノール類が1〜20倍であることが好ましく、2〜8倍であることがより好ましい。フェノール類が糖質類の1倍以上であれば、反応性、収率も高く、非常に高い植物由来率のバイオマスフェノール樹脂が得られ、20倍以下であれば、経済的にも安価にバイオマスフェノール樹脂が得られる。
【0016】
糖質類とフェノール類とを反応させる際には、酸性触媒が用いられる。酸性触媒としては、例えば、鉱酸類(例えば、塩酸、硫酸等)、有機酸類(例えば、パラトルエンスルホン酸、シュウ酸等)などが使用される。酸性触媒の使用量は、糖質類固形分とフェノール類との合計を100質量%とした際に0.1〜50質量%であることが好ましく、0.2から10質量%であることがより好ましい。酸性触媒の使用量が0.1質量%以上であれば、十分な糖質類の液状化が可能で、50質量%以下であれば、酸分解やゲル化を抑制できる。
【0017】
反応温度は20〜200℃であることが好ましく、120〜160℃であることがより好ましい。反応温度が20℃以上であれば、充分に反応させることができ、200℃以下であれば過分解を抑制できる。
【0018】
反応時間は0.5〜20時間であることが好ましく、1〜3時間であることがより好ましい。反応時間が0.5時間以上であれば、高い収率で樹脂を得ることができ、20時間以下であれば、生産性の低下を抑制できる。
【0019】
本発明の製造方法によれば、低軟化点で流動性が高く、成形加工性に優れるバイオマスフェノール樹脂が得られる。また、植物由来率が高いことから、いわゆるカーボンニュートラルの概念により、二酸化炭素量増加を抑制できる。
上記のようなバイオマスフェノール樹脂は、成形材料、鋳造用鋳型、エポキシ樹脂硬化剤、各種バインダー等に用いることができる。
【実施例】
【0020】
以下の実施例および比較例では、得られたバイオマスフェノール樹脂について、軟化点、ゲル化時間、流動性、植物由来率を以下の方法で調べた。
【0021】
[軟化点]
JIS K 6910に準じて軟化点を測定した。
[ゲル化時間]
JIS K 6912に準じてゲル化時間を測定した。(ヘキサメチレンテトラミン添加量10質量%)
[流動性]
JIS K 6910に準じて流動性を測定した。
[植物由来率]
100−{[(フェノール仕込み量)−(留去した未反応フェノール量)+(中和塩の量(理論値))]/(樹脂収量)}×100
【0022】
[実施例1]
温度計、攪拌装置、冷却管を備えた内容量2Lの三口フラスコに、フェノール1128g、カルダノール60g、酢酸澱粉396g、濃硫酸7.9gを仕込んだ。なお、糖質類とフェノール類の質量比率は1:3、カルダノールとフェノールの質量比率は5:95、濃硫酸添加量は、糖質類の固形分とフェノール類の合計100質量%に対して0.5質量%であった。
次いで、昇温途中で生成する水を除きながら155℃まで加熱し、155℃を保ったまま、1時間攪拌した。少量の水に溶解させた水酸化カルシウム6.0gを添加して中和した。その後、180℃、11kPaの減圧下で未反応のフェノール401gを留去し1017gのフェノール樹脂を得た。得られた樹脂の軟化点、ゲル化時間、流動性、植物由来率を表1に示す。
【0023】
[実施例2]
温度計、攪拌装置、冷却管を備えた内容量2Lの三口フラスコに、フェノール1128g、カルダノール125g、酸化澱粉418g、濃硫酸8.4gを仕込んだ。なお、糖質類とフェノール類の質量比率は1:3、カルダノールとフェノールの質量比率は10:90、濃硫酸添加量は、糖質類の固形分とフェノール類の合計100質量%に対して0.5質量%であった。
次いで、昇温途中で生成する水を除きながら155℃まで加熱し、155℃を保ったまま、1時間攪拌した。少量の水に溶解させた水酸化カルシウム6.4gを添加して中和した。その後、180℃、11kPaの減圧下で未反応のフェノール400gを留去し1070gのフェノール樹脂を得た。得られた樹脂の軟化点、ゲル化時間、流動性、植物由来率を表1に示す。
【0024】
[実施例3]
温度計、攪拌装置、冷却管を備えた内容量2Lの三口フラスコに、フェノール940g、カルダノール235g、酢酸澱粉294g、濃硫酸7.3gを仕込んだ。なお、糖質類とフェノール類の質量比率は1:4、カルダノールとフェノールの質量比率は20:80、濃硫酸添加量は、糖質類の固形分とフェノール類の合計100質量%に対して0.5質量%であった。
次いで、昇温途中で生成する水を除きながら155℃まで加熱し、155℃を保ったまま、1時間攪拌した。少量の水に溶解させた水酸化カルシウム5.6gを添加して中和した。その後、180℃、11kPaの減圧下で未反応のフェノール441gを留去し936gのフェノール樹脂を得た。得られた樹脂の軟化点、ゲル化時間、流動性、植物由来率を表1に示す。
【0025】
[実施例4]
温度計、攪拌装置、冷却管を備えた内容量2Lの三口フラスコに、フェノール:752g、カルダノール:501g、ヒドロキシプロピル澱粉:501g、濃硫酸8.8gを仕込んだ。なお、糖質類とフェノール類の質量比率は1:2.5、カルダノールとフェノールの質量比率は40:60、濃硫酸添加量は、糖質類の固形分とフェノール類の合計100質量%に対して0.5質量%であった。
次いで、昇温途中で生成する水を除きながら155℃まで加熱し、155℃を保ったまま、1時間攪拌した。少量の水に溶解させた水酸化カルシウム6.6gを添加して中和した。その後、180℃、11kPaの減圧下で未反応のフェノール282gを留去し1328gのフェノール樹脂を得た。得られた樹脂の軟化点、ゲル化時間、流動性、植物由来率を表1に示す。
【0026】
[実施例5]
温度計、攪拌装置、冷却管を備えた内容量2Lの三口フラスコに、フェノール:1368g、カルダノール:72g、酢酸リン酸架橋澱粉:180g、濃硫酸8.1gを仕込んだ。なお、糖質類とフェノール類の質量比率は1:8、カルダノールとフェノールの質量比率は5:95、濃硫酸添加量は、糖質類の固形分とフェノール類の合計100質量%に対して0.5質量%であった。
次いで、昇温途中で生成する水を除きながら155℃まで加熱し、155℃を保ったまま、1時間攪拌した。少量の水に溶解させた水酸化カルシウム6.1gを添加して中和した。その後、180℃、11kPaの減圧下で未反応のフェノール987gを留去し530gのフェノール樹脂を得た。得られた樹脂の軟化点、ゲル化時間、流動性、植物由来率を表1に示す。
【0027】
[比較例1]
温度計、攪拌装置、冷却管を備えた内容量2Lの三口フラスコに、フェノール1128g、酢酸澱粉376g、濃硫酸7.5gを仕込んだ。なお、糖質類とフェノール類の質量比率は1:3、濃硫酸添加量は、糖質類の固形分とフェノール類の合計100質量%に対して0.5質量%であった。
次いで、昇温途中で生成する水を除きながら155℃まで加熱し、155℃を保ったまま、1時間攪拌した。少量の水に溶解させた水酸化カルシウム5.7gを添加して中和した。その後、180℃、11kPaの減圧下で未反応のフェノール372gを留去し1025gのフェノール樹脂を得た。得られた樹脂の軟化点、ゲル化時間、流動性、植物由来率を表1に示す。
【0028】
[比較例2]
温度計、攪拌装置、冷却管を備えた内容量2Lの三口フラスコに、フェノール940g、カルダノール235g、木粉294g、濃硫酸43.8gを仕込んだ。なお、糖質類とフェノール類の質量比率は1:4、カルダノールとフェノールの質量比率は20:80、濃硫酸添加量は、糖質類の固形分とフェノール類の合計100質量%に対して2.9質量%であった。
次いで、昇温途中で生成する水を除きながら155℃まで加熱し、155℃を保ったまま、1時間攪拌した。少量の水に溶解させた水酸化カルシウム33.1gを添加して中和した。その後、180℃、11kPaの減圧下で未反応のフェノール479gを留去し882gのフェノール樹脂を得た。得られた樹脂の軟化点、ゲル化時間、流動性、植物由来率を表1に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
実施例1〜5のフェノール樹脂は、軟化点が低く、流動性が高く、植物由来率が高かった。これに対し、カルダノールを含まない比較例1や、木粉を適用した比較例2は軟化点が高く、流動性が低かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖質類として澱粉誘導体と、植物由来不飽和アルキルフェノール類及び化石燃料由来フェノール類を含有するフェノール類とを、酸性触媒存在下で反応させることを特徴とするバイオマスフェノール樹脂の製造方法。
【請求項2】
澱粉誘導体100質量部に対して、フェノール類が200〜800質量部であることを特徴とする請求項1記載のバイオマスフェノール樹脂の製造方法。
【請求項3】
澱粉誘導体が、各種澱粉のエステル化及び/またはエーテル化及び/または酸化及び/または架橋した澱粉誘導体の単独または混合物であることを特徴とする請求項1または2に記載のバイオマスフェノール樹脂の製造方法。
【請求項4】
フェノール類中の植物原料由来不飽和アルキルフェノール類と化石燃料由来フェノール類の質量比率が、植物原料由来不飽和アルキルフェノール類:化石燃料由来フェノール類が1:99〜50:50である請求項1乃至3のいずれか1項に記載のバイオマスフェノール樹脂の製造方法。

【公開番号】特開2011−225712(P2011−225712A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−96555(P2010−96555)
【出願日】平成22年4月20日(2010.4.20)
【出願人】(000165000)群栄化学工業株式会社 (108)
【Fターム(参考)】