説明

バイオマス中の重金属元素の除去方法及び重金属汚染土壌の浄化方法

【課題】稲藁、籾殻、大豆、植物などのバイオマス中に含まれる重金属元素を低コストでかつ高効率に抽出する方法を提供する。
【解決手段】バイオマス中の重金属元素の除去方法は、重金属元素を含有するバイオマスをカルボン酸水溶液中に浸漬する工程と、バイオマスをカルボン酸水溶液中に保持して重金属元素を溶出させる工程と、重金属元素除去後のバイオマスをカルボン酸水溶液から取出す工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、稲藁、籾殻、大豆、植物などのバイオマス中に含まれる重金属元素を効率良く、かつ低コストで除去する方法、および重金属元素を含む汚染土壌を浄化する方法に関するものである。さらに好ましくは、本発明は、重金属元素除去後のバイオマスから高純度な非晶質シリカを製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉛、カドミウム、ヒ素といった重金属元素成分は、環境や人体に対して悪影響を与えることは明らかである。そのなかでもカドミウムは、廃鉱山や旧精錬所などから土壌に混入し、廃鉱山等の近郊や下流域の水田などに高濃度で汚染された土壌を形成する。このような汚染土壌の水田で栽培された玄米を日常的に摂取したことが、往時のイタイイタイ病の主要な原因である。
【0003】
食品衛生法においては、玄米中のカドミウム許容濃度を1ppm以下と設定している。しかしながら近年、食品中のカドミウム濃度に関する更に厳しい国際基準値が世界保健機関(WHO)等にて検討されていること、また消費者の食品に対する安全性への関心が高まっていることなどを背景に、農作物中のカドミウム濃度をより一層削減する必要がある。
【0004】
玄米中のカドミウム含有量が新しい基準値を超える可能性がある場合には、汚染されていない土を水田に盛る方法(客土)を行うことがある。しかし、この客土は、コストが非常に高くなることから、経済性の点において継続的な実用化は困難である。そこで、重金属元素を含む汚染土壌の水田における重金属元素除去対策として、従来から幾つかの方法が提案されている。
【0005】
先ず、植物を用いた汚染土壌修復技術(ファイトレメディエーション)がある。稲、大豆、アブラナなどのある種の植物は、高濃度の重金属元素を吸収でき、しかも重金属に対する耐性機構を備えており、超集積植物と呼ばれている。このような植物を鉛、カドミウム、亜鉛、ヒ素などが存在する汚染土壌地域で栽培し、これらの重金属元素を植物中に取り込み、その植物を収穫した後に焼却処理することにより、カドミウムをはじめとする重金属元素を土壌から回収する。しかし、この方法では焼却によって大気中にカドミウムなどの重金属元素が放出されるといった環境問題を引き起こす可能性が高いとの指摘がある。
【0006】
一方、土壌中のカドミウムは、その化学状態によって植物や農作物に吸収される量が大きく異なる。土壌を酸素不足の還元状態にすれば、カドミウムは土壌中の陰イオンと結合して植物の根から吸収され難い状態になり、玄米中のカドミウム濃度を低く抑えることが可能となる。具体的には、出穂期の前後3週間に水田を完全に湛水する方法が取られている。
【0007】
また、特開2005−169381号公報に開示された「重金属汚染土壌の浄化方法」では、カドミウムを含む水田土壌に塩化第二鉄を添加すると、生成する水素イオンと塩化物イオンの働きによって土壌に吸着したカドミウムが効率よく抽出できることが教示されている。この方法では、水田の水において鉄イオンと塩素イオンが生成し、塩素イオンがカドミウムなどの重金属元素と反応して塩化物を形成するが、余剰に発生した塩素イオンが稲藁に吸収されるといった問題もある。
【特許文献1】特開2005−169381号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この発明の目的は、稲藁、籾殻、大豆、植物などのバイオマス中に含まれる重金属元素を低コストでかつ高効率に抽出する方法を提供することである。
【0009】
この発明の他の目的は、汚染土壌における植物栽培による汚染土壌修復技術(ファイトレメディエーション)を実用化できるようにすることである。
【0010】
この発明のさらに他の目的は、重金属元素を除去したバイオマスから高純度の非晶質シリカを作製することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明に従ったバイオマス中の重金属元素の除去方法は、重金属元素を含有するバイオマスをカルボン酸水溶液中に浸漬する工程と、バイオマスをカルボン酸水溶液中に保持して重金属元素を溶出させる工程と、重金属元素除去後のバイオマスをカルボン酸水溶液から取り出す工程とを備える。
【0012】
好ましくは、カルボン酸は、水酸基を有する。あるいは、カルボン酸として、例えば、クエン酸、イソクエン酸、シュウ酸、酒石酸、リンゴ酸および乳酸を挙げることができる。
【0013】
好ましくは、カルボン酸水溶液の温度は、50℃以上90℃以下である。また、好ましくは、カルボン酸水溶液の濃度は、1%以上20%以下である。さらに、好ましくは、カルボン酸水溶液中のバイオマスの保持時間は、1分以上である。
【0014】
好ましくは、バイオマスは、稲わら、籾殻、麦わら、麦殻、大豆のいずれかである。一つの実施形態では、カルボン酸水溶液中に浸漬する前のバイオマス中の重金属元素の含有量は20ppm以上であり、カルボン酸水溶液による処理後のバイオマス中の重金属元素の含有量は5ppm以下である。他の実施形態では、カルボン酸水溶液による処理後のバイオマス中の重金属元素の含有量は1ppm以下である。
【0015】
この発明に従った重金属汚染土壌の浄化方法は、重金属元素を含む汚染土壌に植物を生育し、この植物中に重金属元素を吸収させる工程と、重金属元素を吸収した植物を土壌から分離する工程と、土壌から分離した植物の一部または全部をバイオマスとして、カルボン酸水溶液中に浸漬して重金属元素を水溶液中に溶出させる工程と、重金属元素除去後のバイオマスをカルボン酸水溶液から取り出す工程とを備える。
【0016】
一つの実施形態に係る浄化方法は、上記の工程に加えて、カルボン酸水溶液から取り出したバイオマスを水洗する工程と、水洗後のバイオマスを大気雰囲気中で加熱してシリカを作製する工程とをさらに備える。さらに、この浄化方法は、シリカを汚染土壌に散布する工程を備えていてもよい。
【0017】
重金属汚染土壌に生育する植物は、例えば、稲または麦である。好ましくは、カルボン酸は、水酸基を有する。あるいは、カルボン酸は、例えば、クエン酸、イソクエン酸、シュウ酸、酒石酸、リンゴ酸または乳酸である。
【0018】
好ましくは、カルボン酸水溶液の温度は、50℃以上90℃以下であり、カルボン酸水溶液の濃度は、1%以上20%以下であり、カルボン酸水溶液中のバイオマスの保持時間は、1分以上である。
【0019】
水洗後のバイオマスを大気雰囲気中で加熱してシリカを作製する場合、大気雰囲気中での加熱温度は、好ましくは、300℃以上1100℃以下であり、作製されるシリカは、非晶質シリカである。
【0020】
上記の構成の技術的意義および作用効果については、以下の項目中に記載する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明においては、カドミウム、鉛、ヒ素などの重金属元素を含むバイオマスから簡便かつ安価に重金属元素を抽出する方法を提案する。具体的には、環境および人体に対して安全で安心なカルボン酸水溶液を適切な条件に管理した状態で、その水溶液中に上記のバイオマスを浸漬することにより、カルボシキル基によるキレート反応を利用してバイオマス中に含まれる重金属元素を水溶液中に抽出させる。その後、その水溶液を濾過することで重金属成分のみを除去する。この方法によれば、焼却による大気放出を行うことなく、有害廃棄物として処理することが可能になる。また、カルボン酸水溶液中で浸漬して重金属元素を除去した稲藁や籾殻については、その後に水洗処理を行い、さらに適切な温度域で焼成することにより、高純度の非晶質シリカを作製することも可能となる。
【0022】
本願発明者らは、カドミウムなどの重金属元素によって汚染された土壌に稲、麦、大豆などの植物を栽培し、ファイトレメディエーションによってこれらの植物中に重金属元素成分を集約させた状態で植物を回収する。続いて重金属元素を含む上記のバイオマスを、特定のカルボン酸水溶液中に浸漬して攪拌するといった酸洗浄処理を行う。この酸洗浄処理によって、重金属元素をカルボキシル基によるキレート反応によってバイオマスから系外に排出・除去し、水溶液中に沈降する重金属元素化合物を回収する。この方法によれば、環境や人体への負荷を抑えつつ、水田土壌に含まれる重金属元素成分を効率的に削減・回収できる。これを実現するには、以下に記載の酸洗浄処理に関する各条件を適正に管理する必要がある。
【0023】
(1)重金属元素を含むバイオマスを準備する工程
従来技術であるファイトレメディエーションによって、水田あるいはその近傍の土壌に稲、麦、大豆などの植物を栽培し、それらの植物中にカドミウムをはじめとする重金属元素成分を集約・蓄積させる。
【0024】
(2)バイオマスをカルボン酸水溶液中で浸漬・洗浄する工程
重金属元素を含有するバイオマスをカルボン酸水溶液中に保持して、重金属元素を水溶液中に溶出させる。カルボン酸としては、水酸基を有するものが好ましい。水酸基を有するカルボン酸を用いる目的は、カルボン酸を構成するカルボキシル基によるキレート反応を利用してバイオマス中に含まれるカドミウム、鉛、ヒ素などの重金属元素成分イオンを捕捉し、系外から酸水溶液中に排出するためである。これを実現するには、カルボン酸として、クエン酸、イソクエン酸、酒石酸、リンゴ酸、乳酸のいずれかが望ましい。シュウ酸は、水酸基を有していないが、好ましいカルボン酸として使用可能である。
【0025】
籾殻や稲藁においては、他の農作物や木材などに比べてシリカ成分が多いことから、上記の重金属元素を抽出した後、その残渣を大気中で焼成することで高純度の非晶質シリカを得ることができる。このことを実現するには、カルボン酸として、水酸基を有していて、しかもカルボキシル基の数が3基以上であるカルボン酸、具体的にはクエン酸あるいはイソクエン酸を使用することが好ましい。このようなカルボン酸であれば、重金属元素に加えてアルカリ金属不純物元素を除去でき、焼成後の試料として98%以上の非晶質シリカを得ることができる。以上のことから、稲藁や籾殻を対象とする場合には、クエン酸あるいはイソクエン酸の水溶液の利用がより望ましい。
【0026】
水酸基を有するカルボン酸水溶液の濃度に関しては、1%以上20%以下が望ましい。濃度が1%未満では、重金属元素成分をバイオマス内部から系外に排出させるための十分なキレート効果が得られない。他方、濃度が20%を超えてもキレート効果は向上しない。むしろ、濃度が高すぎると、稲藁や籾殻を対象とした場合において、その残渣からシリカを生成する際に焼成前の工程である残渣の水洗処理過程で水洗回数が増えるといった経済性の問題が生じてくる。
【0027】
水酸基を有するカルボン酸水溶液の温度に関しては、常温以上が好ましく、より好ましくは50℃〜90℃である。水溶液の温度を50〜90℃に高めることで、稲藁や籾殻に含まれるカドミウムをより多く系外に排出することが可能となる。水溶液温度が90℃を超えてもその効果は向上せず、100℃付近の沸騰状態では、水分が蒸発してカルボン酸水溶液の濃度変動を引き起こすといった問題が生じる。
【0028】
カルボン酸水溶液中に浸漬したバイオマスから重金属元素成分を十分に除去するには、水溶液中のバイオマスの保持時間を1分以上にするのが好ましい。
【0029】
なお、先行技術文献である特開2005−169381号公報に開示された「重金属汚染土壌の浄化方法」においても、キレート液処理を利用しているが、ここでは、水田土壌を水酸イオンによって洗浄して排出したカドミウム含有廃液をキレート処理することで水酸化物として沈降させる方法を提案しており、稲藁や籾殻などのバイオマスからカドミウムを抽出することを目的にキレート処理を行っているわけではない。また、ここで用いているキレート液としては、ピロリジン系、イミン系、カルバミン酸系等の液体重金属捕集剤であって、本発明者らが提案している水酸基を有するカルボン酸水溶液とは全く異なるものである。
【0030】
本願発明の方法において、カルボン酸水溶液で洗浄処理されるべきバイオマスは、好ましくは、稲藁、籾殻、麦わら、麦殻、大豆のいずれかである。カルボン酸水溶液中に浸漬する前のバイオマス中の重金属元素の含有量に特に制約は無いが、土壌中の重金属元素成分を十分に吸収して集約しているバイオマスを対象とする場合には、浸漬前のバイオマス中の重金属元素含有量は例えば20ppm以上であり、カルボン酸水溶液による処理後のバイオマス中の重金属元素の含有量は例えば5ppm以下である。処理後の重金属元素の含有量は少ないほど好ましく、例えば1ppm以下である。
【0031】
(3)洗浄処理後のバイオマスの水洗および大気焼成による高純度シリカの生成
上記のカルボン酸水溶液中でのカルボキシル基によるキレート反応によって、バイオマス中の重金属元素イオンをバイオマスから系外への排出・除去をより効率的に行うには、カルボン酸水溶液中での洗浄処理に続いて、その残渣の水洗処理が有効である。常温での水洗処理によっても除去効果はあるが、50℃以上の温度での水洗処理によって、さらに排出・除去効果は向上する。また水洗処理条件に関して、バイオマスの体積に対して20倍以上、より好ましくは50倍以上の水を用いることで十分な除去効果が得られる。
【0032】
カルボン酸水溶液中での浸漬・洗浄処理と、それに続く水洗処理を行った稲藁や籾殻などのシリカ成分を多く含むバイオマスについては、大気中で焼成することによって、高純度かつ非晶質構造を有するシリカを得ることができる。本発明者らは、上述した適正な条件を満足するカルボン酸水溶液中での洗浄処理および水洗処理を施した稲藁や籾殻を燃焼する条件として、大気雰囲気で300℃以上1100℃以下とすることが望ましいことを見出した。300℃未満では、炭水化物が十分に燃焼しないために残留炭素成分が増加してシリカ純度が低下する。一方、燃焼温度が1100℃を超えると、非晶質構造から結晶構造となってしまう。
【0033】
図1は、3種類の籾殻を常温から1000℃まで昇温した際の示差熱量分析の結果を示している。準備した3種類の籾殻は、酸処理洗浄を一切行っていない原料籾殻、5%濃度の硫酸水溶液中で15分間浸漬・洗浄処理した籾殻、および5%濃度のクエン酸水溶液中で15分間浸漬・洗浄処理した籾殻である。
【0034】
図1から明らかなように、原料籾殻においては450℃〜550℃付近に発熱反応が確認される。これは籾殻中に含まれる炭水化物(セルロースやヘミセルロースなど)の燃焼を意味している。これに対して硫酸水溶液およびクエン酸水溶液で洗浄処理した籾殻では、いずれも上記の発熱反応は確認されず、他方、300℃〜400℃付近での吸熱反応が確認された。
【0035】
上記の3種類の籾殻試料について、熱分解ガスクロマト質量分析を行うことで400℃での分解挙動を解析した。その結果を図2に示す。硫酸水溶液およびクエン酸水溶液で洗浄処理した籾殻では、図中に○印で記載した箇所にピークが検出されており、これはレボグルコサンの生成を意味している。つまり、硫酸あるいはクエン酸水溶液に籾殻を浸漬することで、これらの酸による加水分解が生じて籾殻に含まれるポリマーであるセルロースの分子構造変化が生じた。一方、酸処理洗浄を施していない原料籾殻では、レボグルコサンの生成は確認されていない。
【0036】
上記の加水分解は、クエン酸以外に、イソクエン酸、シュウ酸、酒石酸、リンゴ酸および乳酸水溶液を用いた場合でも確認されている。また籾殻中のヘミセルロースについても同様にクエン酸水溶液中での浸漬により加水分解が生じてフルフラールが生成することを確認している。
【0037】
以上の結果より、本発明で用いるカルボン酸水溶液によってバイオマス中に含まれるセルロースやヘミセルロース等の高分子系炭水化物は分子構造の変化を起こしていることが認められる。その結果、高分子系炭水化物は溶液中に溶出し易くなり、酸処理後の稲藁や籾殻などの残渣を大気焼成した場合に得られるシリカ中の残存炭素量は減少し、シリカの高純度化が図れる。
【0038】
上記のようなカルボン酸水溶液中での稲藁や籾殻の洗浄処理後の残渣から抽出するシリカの高純度化においても、クエン酸やシュウ酸をはじめとするカルボン酸水溶液の利用は、炭水化物の分子構造変化を促進させて、結果として焼成後のシリカ純度の向上に寄与する。その際に用いるカルボン酸水溶液の濃度も1%以上20%以下が望ましい。
【0039】
(4)重金属汚染土壌の浄化
重金属元素を含む汚染土壌に植物を生育し、この植物中に重金属元素を吸収させ、さらにこの植物を土壌から分離することにより、土壌に含まれる重金属元素の量を減少させることができる。土壌から分離した植物またはバイオマスに対しては、上述したカルボン酸水溶液による浸漬・洗浄処理、その後の水洗処理、その後の加熱処理等を施す。バイオマスを大気雰囲気中で加熱してシリカを作製した場合、そのシリカを上記の汚染土壌に散布するようにしてもよい。シリカは良好な可溶性を有しており、可溶性シリカ成分が70%以上あり、市販のシリカゲル肥料と同等の性能を有している。
【実施例1】
【0040】
バイオマス原料として、カドミウム含有量が異なる稲の茎葉部を準備した。この試料は、秋田県農林水産技術センターより入手したものである。
【0041】
各稲藁試料を80℃に加熱保持したクエン酸水溶液中に15分間浸漬し、水道水で水洗処理した後に、大気雰囲気下100℃で試料を乾燥して水分を除去した。原料の稲藁およびクエン酸水溶液洗浄処理を施した稲藁の試料をそれぞれ1g秤量し、これをフッ酸10mL中に入れて加温して稲藁中のSi成分を溶解した後、フッ酸を蒸発させた。さらに、硫酸を加えて有機物を分解した。その後、加温して硫酸を蒸発した後、硝酸を加えて100mLに定容してICP発光分析法にてCd含有量を測定した。その結果を表1に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
本発明で規定する適正な濃度を有するクエン酸水溶液中で洗浄処理を行った結果、いずれの稲藁試料においてもCd含有量は分析下限界値(<1ppm)以下となり、稲藁からのCdの完全排出・除去が可能であることを確認した。特に、90ppmのCdを含む場合であっても、クエン酸水溶液の濃度を1%以上の適正範囲に設定することで酸洗浄処理後の稲藁中のCd含有量は1ppm未満にまで削減できるといった著しい効果が認められた。他方、0.5%濃度のクエン酸水溶液中で洗浄した場合には、Cdの除去量は十分ではなく、稲藁中にCdが残存することが確認された。
【実施例2】
【0044】
実施例1で用いたカドミウム含有量が異なる稲の茎葉部(試料番号1および4)について、異なる温度に保持した5%濃度のクエン酸水溶液中に15分間浸漬し、水道水で水洗処理した後に大気雰囲気下100℃で試料を乾燥して水分を除去した。原料の稲藁およびクエン酸水溶液洗浄処理を施した稲藁の試料をそれぞれ1g秤量し、これをフッ酸10mL中に入れて加温して稲藁中のSi成分を溶解した後、フッ酸を蒸発させた。さらに、硫酸を加えて有機物を分解した。その後、加温して硫酸を蒸発した後、硝酸を加えて100mLに定容してICP発光分析法にてCd含有量を測定した。その結果を表2に示す。
【0045】
【表2】

【0046】
Cdを含む稲藁をクエン酸水溶液中に浸漬することでCdの除去が可能であるが、特に40℃以上に管理したクエン酸水溶液中で洗浄処理を行った結果、いずれの稲藁試料においてもCd含有量は分析下限界値(<1ppm)以下となり、稲藁からのCdの排出・除去に関する顕著な効果を確認した。なお、室温に近い水温23℃のクエン酸水溶液中で洗浄した場合には、Cdはわずかに残存することが確認された。
【実施例3】
【0047】
実施例1で用いたカドミウム含有量が異なる稲の茎葉部(試料番号1および4)を、80℃に加熱保持した5%濃度のクエン酸水溶液中に浸漬し、水道水で水洗処理した後に大気雰囲気下100℃で試料を乾燥して水分を除去した。その際、浸漬時間を変えることでCd除去量を評価した。なお、Cd含有量の分析方法は実施例1と同様とした。その結果を表3に示す。
【0048】
【表3】

【0049】
上記の酸処理条件下では、1分間以上の酸処理洗浄を行うことで稲藁中に含まれるCdは完全に系外に排出・除去できる。他方、15秒といった短い洗浄処理では、Cdは稲藁中にわずかに残存することが確認された。
【実施例4】
【0050】
実施例1で用いたカドミウム含有量が異なる稲の茎葉部(試料番号1〜4の4種類)を、異なる濃度に管理したシュウ酸水溶液(水温;25℃,50℃)中に15分間浸漬し、水道水で水洗処理した後に大気雰囲気下100℃で試料を乾燥して水分を除去した。シュウ酸水溶液洗浄処理を施した稲藁の試料をそれぞれ1g秤量し、これをフッ酸10mL中に入れて加温して稲藁中のSi成分を溶解した後、フッ酸を蒸発させた。さらに、硫酸を加えて有機物を分解した。その後、加温して硫酸を蒸発した後、硝酸を加えて100mLに定容してICP発光分析法にてCd含有量を測定した。その結果を表4に示す。
【0051】
【表4】

【0052】
シュウ酸水溶液の液温を25℃に管理した場合、濃度を1%以上に管理することでCd含有量の削減効果は認められるが、液温を50℃に管理すれば、1%以上の濃度では全ての稲藁試料においてCd含有量が分析下限界値(<1ppm)以下となり、稲藁からのCdの完全排出・除去が可能であることを確認した。
【実施例5】
【0053】
実施例1において、5%濃度で80℃のクエン酸水溶液で処理した稲藁30gを大気中で800℃にて30分間焼成し、得られた稲藁灰に含まれるSiO成分を分析した結果を表5に示す。クエン酸水溶液での洗浄処理を施さない試料も同様に焼成して分析を行った。同表から判るように、クエン酸水溶液での洗浄処理によって全ての試料におけるSiO純度は向上し、98%以上の高い値を示した。一方、無処理の試料は約92%と低いことが確認された。
【0054】
【表5】

【0055】
以上、図面を参照してこの発明の実施形態を説明したが、この発明は、図示した実施形態のものに限定されない。図示した実施形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0056】
この発明は、バイオマス中に含まれる重金属元素を低コストで高効率に除去できる方法、および重金属汚染土壌の浄化方法として有利に利用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】籾殻を常温から1,000℃まで昇温した際の示差熱量分析結果を示す図である。
【図2】400℃で熱処理した3種類の試料に関する熱分解ガスクロマト質量分析結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重金属元素を含有するバイオマスをカルボン酸水溶液中に浸漬する工程と、
前記バイオマスを前記カルボン酸水溶液中に保持して前記重金属元素を溶出させる工程と、
前記重金属元素除去後のバイオマスを前記カルボン酸水溶液から取り出す工程とを備える、バイオマス中の重金属元素の除去方法。
【請求項2】
前記カルボン酸は、水酸基を有する、請求項1に記載のバイオマス中の重金属元素の除去方法。
【請求項3】
前記カルボン酸は、クエン酸、イソクエン酸、シュウ酸、酒石酸、リンゴ酸および乳酸からなる群から選ばれた酸である、請求項1に記載のバイオマス中の重金属元素の除去方法。
【請求項4】
前記カルボン酸水溶液の温度は、50℃以上90℃以下である、請求項1〜3のいずれかに記載のバイオマス中の重金属元素の除去方法。
【請求項5】
前記カルボン酸水溶液の濃度は、1%以上20%以下である、請求項1〜4のいずれかに記載のバイオマス中の重金属元素の除去方法。
【請求項6】
前記カルボン酸水溶液中の前記バイオマスの保持時間は、1分以上である、請求項4または5に記載のバイオマス中の重金属元素の除去方法。
【請求項7】
前記バイオマスは、稲わら、籾殻、麦わら、麦殻、大豆のいずれかである、請求項1〜6のいずれかに記載のバイオマス中の重金属元素の除去方法。
【請求項8】
前記カルボン酸水溶液中に浸漬する前のバイオマス中の重金属元素の含有量は20ppm以上であり、
前記カルボン酸水溶液による処理後のバイオマス中の重金属元素の含有量は5ppm以下である、請求項1〜7のいずれかに記載のバイオマス中の重金属元素の除去方法。
【請求項9】
前記カルボン酸水溶液による処理後のバイオマス中の重金属元素の含有量は1ppm以下である、請求項1〜8のいずれかに記載のバイオマス中の重金属元素の除去方法。
【請求項10】
重金属元素を含む汚染土壌に植物を生育し、この植物中に前記重金属元素を吸収させる工程と、
前記重金属元素を吸収した植物を土壌から分離する工程と、
土壌から分離した前記植物の一部または全部をバイオマスとして、カルボン酸水溶液中に浸漬して前記重金属元素を水溶液中に溶出させる工程と、
前記重金属元素除去後のバイオマスを前記カルボン酸水溶液から取り出す工程とを備える、重金属汚染土壌の浄化方法。
【請求項11】
前記カルボン酸水溶液から取り出した前記バイオマスを水洗する工程と、
水洗後の前記バイオマスを大気雰囲気中で加熱してシリカを作製する工程とをさらに備える、請求項10に記載の重金属汚染土壌の浄化方法。
【請求項12】
前記シリカを前記汚染土壌に散布する工程をさらに備える、請求項11に記載の重金属汚染土壌の浄化方法。
【請求項13】
前記重金属汚染土壌に生育する植物は、稲または麦である、請求項10〜12のいずれかに記載の重金属汚染土壌の浄化方法。
【請求項14】
前記カルボン酸は、水酸基を有する、請求項10〜13のいずれかに記載の重金属汚染土壌の浄化方法。
【請求項15】
前記カルボン酸は、クエン酸、イソクエン酸、シュウ酸、酒石酸、リンゴ酸および乳酸からなる群から選ばれた酸である、請求項10〜13のいずれかに記載の重金属汚染土壌の浄化方法。
【請求項16】
前記カルボン酸水溶液の温度は、50℃以上90℃以下であり、
前記カルボン酸水溶液の濃度は、1%以上20%以下であり、
前記カルボン酸水溶液中の前記バイオマスの保持時間は、1分以上である、請求項10〜15のいずれかに記載の重金属汚染土壌の浄化方法。
【請求項17】
前記大気雰囲気中での加熱温度は、300℃以上1100℃以下であり、
前記シリカは、非晶質シリカである、請求項11に記載の重金属汚染土壌の浄化方法。



【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−39601(P2009−39601A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−204612(P2007−204612)
【出願日】平成19年8月6日(2007.8.6)
【出願人】(504100802)
【出願人】(000142595)株式会社栗本鐵工所 (566)
【Fターム(参考)】