説明

バイメタル検査方法及び装置

【課題】バイメタルの動作時における音波を感知する手法では、外乱音(雑音、ノイズ)により誤検知を生じる可能性が高い点、検査環境下で検査結果にばらつきが生じる点、を解消する。
【解決手段】バイメタルBを接触状態で収容する収容部12と、この収容部12に接触接続された固体振動部材13と、収容部12及び固体振動部材13により伝達されたバイメタルBの動作振動を検知する振動検知部14と、この振動検知部14によるバイメタルBの動作振動を検知した際の温度に基づいて検査良否を判断する判断部15と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、周辺環境の影響による検査結果のばらつきを抑制し、安定性と信頼性の高い検査が可能なバイメタル検査方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
バイメタルの検査は、該バイメタルを使用した製品そのものを検査装置に供し、該検査装置において温度を変動させ、このときの製品中の該バイメタルの動作状況を確認することで行っていた。
【0003】
一方、電子部品としてのバイメタル自体の動作検査を行う手法としては、油槽にバイメタルを浸漬し、油の温度を変動させ、このときのバイメタルの動作を目視により、あるいはバイメタルの動作に起因した振動をセンサにより検知することにより、確認するというものがある。
【0004】
以上の手法は、まず製品における検査では、仮にバイメタルの不具合があった場合は、製品を破棄するか、バイメタルの交換をする必要があり、面倒であった。一方、油槽を用いた検査では、目視では安定性に欠け、見逃す可能性があり、また、振動をセンサにより検知する場合は最終的に油槽から取り出して油を除去する必要があり手間となっていた。
【0005】
そこで、以下の特許文献1では、バイメタルを収納部に収納し、温度を変動させて反転動作及び復帰動作の際に発生する音(空気振動:以下、音波と記す)を、音伝達通路を介した音感知部で感知することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3037122号公報
【0007】
しかしながら、特許文献1による手法では、収納部と音感知部とが貫通孔で連絡された音伝達通路を介して接続されて、この音伝達通路を伝達される音波を検知していたので、例えば、周辺、外部、背景の環境で発生するバイメタルの動作以外の音(音波)を拾ってこれが外乱音(雑音、ノイズ)となって誤検知を生じるといった問題、また、検査環境下の湿度、温度、に応じて音波の伝達時間や音波強度が変わるため、これらに起因して検査結果にばらつきが生じるといった問題があり、信頼性に欠くといった問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
解決しようとする問題は、バイメタルの動作時における音波を感知する特許文献1における、外乱音(雑音、ノイズ)により誤検知を生じる可能性が高い点、検査環境下で検査結果にばらつきが生じる点、である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明のバイメタル検査方法は、検査対象となるバイメタルを接触させて収容部に収容し、収容部の温度を変動させ、バイメタルの反転及び復帰動作に伴う動作振動を収容部に接続された固体振動部材により伝達させ、この固体振動部材で伝達された振動を振動検知部により検知し、この振動検知部による振動検知時の温度に基づいて検査良否を判断することを特徴とした。
【0010】
また、上記方法を実施するための本発明のバイメタル検査装置は、検査対象となるバイメタルを接触状態で収容する収容部と、この収容部に接触接続された固体振動部材と、前記収容部及び前記固体振動部材により伝達されたバイメタルの動作振動を検知する振動検知部と、この振動検知部によるバイメタルの動作振動を検知した際の温度に基づいて検査良否を判断する判断部と、を備えることを特徴とした。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、バイメタルの動作振動を音波ではなく固体振動により伝達するので、外乱音の影響や環境をほとんど受けることなく検査することが可能となる。つまり、間接的ではあるがバイメタルと物理的に接触して接続されているので、音波による場合のバイメタルと検知手段との間に介在する空気の例えば湿度や温度の変動で振動の強弱や伝達時間が大きくばらつくこともなく、検査結果が安定し、信頼性の高いものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は本発明のバイメタル検査装置の正面方向から見た全体外観図である。
【図2】図2は本発明のバイメタル検査装置の側面方向から見た全体外観図である。
【図3】図3は本発明のバイメタル検査装置の要部構成図である。
【図4】図4は本発明のバイメタル検査装置におけるプロファイルデータ作成に関する手法を説明するためのフローチャートである。
【図5】図5は本発明のバイメタル検査装置におけるプロファイルデータ作成に関する手法を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、例えば次の形態にて実施可能である。収容部は、例えばバイメタルと固体振動部材とのみ接触する構成とすることが望ましい。この理由は、収容部を載置すると、例えば並列的に載置した場合の別のバイメタルの動作振動を載置した台を介してその別の収容部を介して伝達されたり、また、載置台を介した余計な固体振動が収容部に伝達されたりして、誤検知する可能性がある。したがって、収容部は複数のバイメタルを検査する場合は隣接させず、かつできるだけ接触するものがないことが望ましい。
【0014】
固体振動部材は、金属線材を用いることが望ましい。この理由は、振動伝達特性が温度(高温)により大きく変わることがないからである。固体振動は、材質や、当該材質の検査時の状態、すなわち例えば温度に応じて、さらには伝送経路全長における固体振動部材の自重とバイメタルさらには収容部の重量等で、膨縮及び伸縮が生じ、同材質でも検査結果に影響することがある。したがって、固体振動部材は、振動伝達特性が良好で、かつ温度や加重で容易に膨縮及び伸縮が生じない材質を選択する。
【0015】
なお、この金属線材は、何らの被覆加工されていない露出した状態で使用し、該金属線材の経路上において若干たるんでいても構わないが、振動の減衰が激しい場合は、経路途中で減衰防止のために所定長さの金属線材同士を接続する。接続箇所は、収納部を振動検知部や判断部を設けた本体から脱着するために少なくとも1箇所有することが望ましい。
【0016】
振動検知部は、固体振動部材に接続されてこの振動を圧電素子で検知し信号に変換する。なお、経路に応じて振動検知部の直後に固体振動部材の振動信号を増幅する増幅器を備えていることで、より詳細な振動を把握することができる。
【0017】
判断部は、別途制御された収容部に付与する温度と、振動検知部から出力された振動信号のうちバイメタルの反転及び復帰動作に伴う動作振動と、に基づいて良否を判断する。この判断部には、できる限り外部ノイズとなる要因を排除する目的で、例えば固体振動部材の材質、及び室温による材質変化、といったプロファイルを備え、検査時にこのプロファイルを用いて(該プロファイル分の変動を差し引いて)温度によるバイメタルの動作を検査するようにしている。こうすることで誤差が少なく安定的でかつ信頼性の高い検査を行うことが可能となる。
【実施例1】
【0018】
以下に、図1〜図3を参照して具体的な構成について説明する。図1及び図2には、本発明のバイメタル検査装置1(以下、検査装置1と記す)を示している。まず、図1において検査装置1には、検査に際して作業者が操作する部材が集合する操作パネル2と、この操作パネル2において温度や全体の制御操作を行うためのボタン等がタッチパネルに操作可能に表示された操作部3と、後述の検査槽6内の温度と設定温度とを表示する温度表示部4と、検査結果や状況を印刷するためのプリンタ5と、検査対象のバイメタルBを収容した収容部ごと収納する検査槽6と、この検査槽6を開閉する扉部7と、検査槽6内の温度を検知する温度センサ8とを有する。
【0019】
さらに、図2において検査装置1は、上記構成の他、検査槽6内の温度を変化させるためのヒータ9と及び冷却部10と、検査槽6や該検査装置1自体の熱を放出するためのファン11とを有する。そして、本発明の検査装置1では、上記において、以下の構成を有する点が特徴となる。
【0020】
すなわち本発明の検査装置1は、図2及び図3に示すように、検査対象となるバイメタルBを接触状態で収容する収容部12と、この収容部12を接触接続されて例えば中空支持する径1mmで経路長300mmとしたSUS304でなる固体振動部材13と、収容部12及び固体振動部材13により伝達されたバイメタルBの動作振動を検知する例えば本例では圧電素子でなる振動検知部14と、振動検知部14によるバイメタルBの動作振動を検知した際の温度に基づいて検査良否を判断する判断部15と、を備えている。
【0021】
収容部12は、本実施例では例えば金属製とされ、バイメタルBを載置することで内部で接触させている。そして、固体振動部材13の一端は、収容部12と例えば本実施例では接触接続し、かつ中空支持している。また、固体振動部材13の他端は、振動検知部14において振動を検知する検知部14Aに接続されている。
【0022】
振動検知部14には、前記の検知部14Aと共に振動の検知信号を増幅する増幅器14Bが設けられている。また、判断部15は検査良否を判断するが、ここに後述するプロファイルデータ部15Aが設けられている。なお、判断部15は、具体的には、振動検査部14と共にワンチップマイコン化されて検査装置1に実装され、該検査装置1の全体の制御をも行う。
【0023】
収容部12から振動検知部14に至る固体振動部材13で形成される振動信号の経路は、減衰が激しい場合は、経路途中で減衰防止のため、所定長さの固体振動部材13同士を接続して経路を形成する。
【0024】
以下、本発明の検査装置1の動作を説明する。バイメタルBを(検査槽6内の)収容部12に入れ、外部の影響を受けないようにすること、及び複数の収容部12におけるバイメタルBの条件を均一化するため、扉部7を閉めて検査槽6を密閉する。
【0025】
続いて、操作パネル2において、操作部3により、検査槽6内の温度を変化させる。この設定温度と該検査槽6内の実際の温度は温度表示部4においてモニタできるようになっている。ちなみに検査槽6内の温度は温度センサ8により検知する。
【0026】
ある温度に達してバイメタルBが動作すると、検知部14Aは、振動を検知してこの振動を電気信号に変換し、増幅部14Bに出力する。増幅部14Bでは、前記振動の電気信号(以下、振動信号と記す)を、増幅して判断部15に出力する。
【0027】
上記のバイメタル検査の手順において、検知能力のさらなる向上を図るために、本例では、判断部15におけるプロファイルデータ部15Aにおいて格納されたプロファイルデータが用いられる。
【0028】
バイメタルBの個々においては構造的に機械的な発振プロファイルが異なっており、また、それを検知する検知部14Aを構成するセンサ(圧電セラミック)の応答プロファイルも個々に異なり、応答特性は非線形である。そこで、まず、振動検知部14がバイメタルBの動作時の振動を検知するためのしきい値を検索する。
【0029】
バイメタルBの動作時の発振信号から、当該バイメタルBのプロファイルを取得して個々の特性を把握する。これら検知部14Aにおけるセンサの応答プロファイルと、個々のバイメタルBの特性すなわちプロファイルと、に基づいてプロファイルデータが作成され、これを用いるから、環境や背景の雑音や振動が容易に除去でき、高精度かつ信頼性の高い検査を行うことができる。
【0030】
一般的にバイメタルBの動作特性は金属の構造エネルギーに依存するバンド構造が見付けられることと、検知部14Aの特性との相関により得られる発振プロファイルとは異なり、しきい値検索は、バイメタルBと検知部14Aの特性の拡がりを吸収するために行われ、検索時間は必要な精度を得るために最短の時間であることが望ましい。
【0031】
このプロファイルデータは、次のようにして作成される。図4及び図5には、プロファイルデータの作成手順を示している。まず、判断部15からの指令により、これから検査しようとするバイメタルBがどのような特性であるかを把握するために、プロファイルデータ部15Aにおけるプロファイルデータ中のバイメタルBに関するプロファイルを初期化する(手順1、以下手順を「#」と記す)。
【0032】
続いて、判断部15におけるプロファイルデータ部15A中のしきい値検索用のバッファ領域をクリアし(#2)、再度クリアする(#3)。次に、判断部15によりプロフィールデータ部15Aに検索のためのしきい値をバッファ領域にロードする(#4)。
【0033】
判断部15は、バイメタルBに対するしきい値を変更する指令を出力した旨の表示を行い(#5)、その後、バイメタルBの加熱動作させるためにヒータ9に対して加熱要求信号を出力する(#6)。加熱と同時に判断部15は、しきい値の検索を打ち切るためのタイマ設定を行い、これを有効とし(#7)、続いて、判断部15は、AD変換シーケンス番号を設定する(#8)。
【0034】
その後、判断部15は、上限しきい値用のタイミングポインタを設定し(#11)、続いて下限しきい値用のタイミングポインタを設定した後(#12)、加熱時のバイメタルBを動作させ、しきい値をスキャンする(#13)。これを終えると、判断部15におけるプロファイルデータ部15A中のしきい値検索用のバッファ領域をクリアし(#14)、しきい値の検索を打ち切るための前記タイマ設定を無効とする(#15)。
【0035】
この後、判断部15は、AD変換シーケンス番号をクリアし(#16)、今度はバイメタルBの冷却復帰させるために冷却部10へ冷却要求信号を出力しこれを表示する(#17)。その後、しきい値の検索を打ち切るためのタイマ設定を行い、これを有効とし(#18)、冷却時のバイメタルBを復帰させ、しきい値をスキャンする(#19)。
【0036】
そして、判断部15は、#13及び#19におけるスキャン結果を判定処理し(#20)、しきい値をアップデートし(#21)、しきい値のスキャンを終えるならば(#22でYes)、#23へ進みプロフィールデータ部15Aのプロファイルデータを保存し(#23)、処理を終了する。一方、しきい値の再スキャンを行う場合(#22でNo)、処理は#5へ戻る。
【0037】
このようにして得られたプロファイルデータ部15Aを用いて、例えば固体振動部材13の経路に伴う自重や検査時の室温による該固体振動部材13の特性変化等を差し引いて(ノイズをカットして)、実際のバイメタルBの動作に伴う振動のみを取り出し、その動作時の温度に基づいて良否の判断を行う。判断部15において演算された良否の結果は、上記操作部3のタッチパネルにおいて表示され、その結果は例えば連続的でもよいがプリンタ5により印字されて記録される。
【0038】
このように、本発明の検査装置1は、動作振動の経路を固体振動部材としたので、従来の音波型の空気を閉じこめておく経路構成とする必要がなくなるので、小型化・軽量化が可能となる。
【0039】
また、本発明の検査装置1は、固体振動を検知するので、検知する振動周波数帯域が広くなり、結果として信号処理効果が強調されると共に検知に要するコスト、例えば上記実施例では圧電素子を用いることができるのでセンシングデバイスのコストを抑えることが可能となる。
【0040】
さらに、本発明の検査装置1は、判断部15におけるプロファイルデータ部15Aを持つことで、環境振動(背景振動)をキャンセリング除去したり、バイメタルBの個体特有の振動プロファイルやその検査時における環境プロファイル、及び固体振動部材13の検査時におけるプロファイルを、モニタリング処理したり、これらプロファイルデータに伴うしきい値の変更による誤検知対応が可能となり、結果として安定かつ信頼性の高い検査が行える。
【符号の説明】
【0041】
1 (バイメタル)検査装置
12 収容部
13 固体振動部材
14 振動検知部
14A 検知部
14B 増幅部
15 判断部
15A プロファイルデータ部
B バイメタル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイメタルの反転及び復帰動作を検査する方法であって、検査対象となるバイメタルを接触させて収容部に収容し、収容部の温度を変動させ、バイメタルの反転及び復帰動作に伴う動作振動を前記収容部に接続された固体振動部材により伝達させ、この固体振動部材で伝達された振動を振動検知部により検知し、この振動検知部による振動検知時の温度に基づいて検査良否を判断することを特徴とするバイメタル検査方法。
【請求項2】
バイメタルの反転及び復帰動作を検査する装置であって、検査対象となるバイメタルを接触状態で収容する収容部と、この収容部に接触接続された固体振動部材と、前記収容部及び前記固体振動部材により伝達されたバイメタルの動作振動を検知する振動検知部と、この振動検知部によるバイメタルの動作振動を検知した際の温度に基づいて検査良否を判断する判断部と、を備えたことを特徴とするバイメタル検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−98165(P2012−98165A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−246334(P2010−246334)
【出願日】平成22年11月2日(2010.11.2)
【出願人】(510291334)株式会社アーズ (1)
【Fターム(参考)】