説明

バインダーレスゼオライト成型体を用いる吸着剤

【課題】本発明は、吸着性能が高く、かつ吸着剤使用量が少ないゼオライト成型体からなる吸着剤を提供するものである。
【解決手段】本発明は、ゼオライト前駆体を、飽和水蒸気と接触させることによって製造したバインダーレスゼオライト成型体であって、該バインダーレスゼオライト成型体のNH−TPD法のh−ピークから求めた酸量が1.0mmol/g以下であることを特徴とするバインダーレスゼオライト成型体からなる吸着剤である。当該成型体にはホウ素、チタン、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム及びインジウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含むことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バインダーレスゼオライト成型体からなる吸着剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ゼオライトは、吸着剤や各種化合物合成用の担体や触媒として有用であり、気体や液体の精製、石油改質反応用の触媒、その他各種石油化学製品やファインケミカル合成用の担体や触媒等として用いられている。
【0003】
吸着剤の分野では、気体または液体の脱水・乾燥、窒素吸着あるいは酸素吸着による空気の分離、空気中に含まれるアンモニア等の塩基性ガスやアセトアルデヒドなど悪臭成分の吸着による脱臭、自動車排ガス中のNOx吸着、各種ガス中の微量成分吸着除去によるガスの精製などさまざまな用途でゼオライトが使用されている。
【0004】
しかしながら、上記吸着剤としてゼオライトを使用する場合、実際にはゼオライトを成型する必要があるが、ゼオライト成型体を製造する場合には、ゼオライト単独での成型性が悪いため、最初に水熱合成法でゼオライト粉体を合成し、その後無機バインダーを用いて成型することが一般的であった。この方法では、充分な強度を達成するためには無機バインダーを多量に必要とすることから、無機バインダーの影響により吸着性能が低下したり、微量成分を吸着除去する場合には、主ガス成分が分解されてしまう等の問題点があった。また、得られる成型体中のゼオライト含有率が低下することから、吸着剤使用量が増加する、あるいは、ゼオライトがバインダー内に埋没して有効利用ができないという問題点もあった。
【0005】
上記問題点を解決するために、実質的にバインダーを含まないゼオライト成型体を製造する方法が提案されている。例えば特許文献1にはMFI型、特許文献2にはBEA型、特許文献3にはMTW型、特許文献4にはMEL型、特許文献5にはRUT型のバインダーレスゼオライト成型体の製造方法である。
【0006】
【特許文献1】特許第03442348号公報
【特許文献2】特開2001−139324号公報
【特許文献3】特開2001−114512号公報
【特許文献4】特開2001−180928号公報
【特許文献5】特開2001−139323号公報 しかし、吸着対象となる成分よっては十分な吸着できるとはいえないこともあり、更に吸着能力を向上させたバインターレスゼオライトが望まれる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記現状に鑑みてなされたものであり、吸着性能が高く、かつ吸着剤使用量が少ないゼオライト成型体を含む吸着剤を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らはゼオライト成型体を含む吸着剤について鋭意検討した結果、下記一般式(1)で示されるゼオライト前駆体と飽和水蒸気とを接触させ得られるゼオライト成型体(以下、「バインダーレスゼオライト」と称する)であって当該バインダーレスゼオライトの酸量が1.0mmol/g以下であるバインダーレスゼオライト成型体を吸着剤として用いることにより、前記課題を解決することができることを見出し発明を完成するに至った。
【0009】
【数1】

【発明の効果】
【0010】
本発明の吸着剤は少ない使用量で高い吸着性能を有する。従って空気中に含まれるアンモニア等の塩基性ガスやアセトアルデヒドなど悪臭成分の吸着による脱臭、自動車排ガス中のNOx吸着、各種ガス中の微量成分吸着除去によるガスの精製などさまざまな用途で使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下にバインダーレスゼオライトについて詳細に説明する。まず、本発明に係るゼオライト前駆体について説明する。当該前駆体は、上記式(1)(ただし、式中、Mはアルカリ金属を表し、SDAはテトラアルキルアンモニウムを表し、xは0〜0.1、yは0.0001〜1、zは0.001〜1の範囲を表す。)で表される組成であれば特に制限はされるものではない。好ましくは、xは0〜0.05、yは0.0001〜1、zは0.002〜1の範囲であることが好ましく、特に好ましくは、xは0〜0.02、yは0.0002〜0.5、zは0.002〜0.8の範囲である。
【0012】
前記ゼオライト前駆体の調製方法としては特に限定されないが、アルミニウム成分とアルカリ金属成分とテトラアルキルアンモニウム成分とを含む原料物質を、シリカ成型体に担持する方法が好適である。
【0013】
前記シリカ成型体としては、特に限定されるものではなく、市販品を用いてもよい。シリカ成型体としては、比表面積が比較的大きなものが好適に用いられ、BET法による窒素吸着測定から求めた比表面積が、通常、5〜800m/g、好ましくは20〜600m/gの範囲であることが望ましい。比表面積が少なすぎると結晶化に長時間かかり、また結晶化度が低くなる場合があるからである。
【0014】
また、前記シリカ成型体は、水銀圧入法により求めた細孔径が、例えば4nm以上の細孔を有し、該細孔に基づく表面積は5〜800m/g、好ましくは20〜600m/gであり、該細孔に基づく細孔容積は0.1〜1.5ml/g、好ましくは0.2〜1.3ml/gの範囲である。
【0015】
さらに、その形状としては、特に制限されるものではないが、球状、シリンダー型、リング型を例示できる。その大きさも限定されるものではないが、通常、0.5〜10mm(直径相当)の範囲のものが好ましい。
【0016】
前記シリカ成型体の機械的強度は限定されるものではないが、通常、木屋式硬度計での測定値(成型体10個の平均値)で表して、9.8ニュートン以上、好ましくは9.8〜490ニュートンの範囲が望ましい。シリカ成型体の機械的強度は、得られるバインダーレスゼオライト成型体の機械的強度と相関関係があるため、高強度のシリカ成型体を用いることにより、実用に耐えうる強度を備えるバインダーレスゼオライト成型体を製造できる。
【0017】
前記テトラアルキルアンモニウム成分としては、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラ−n−プロピルアンモニウム、テトライソプロピルアンモニウム、テトラ−n−ブチルアンモニウム、テトラ−n−ペンチルアンモニウム、トリエチルメチルアンモニウム、トリエチル−n−プロピルアンモニウム、トリ−n−プロピルメチルアンモニウム、トリ−n−ブチルメチルアンモニウムなどのハロゲン化物、水酸化物などを例示できる。好ましいテトラアルキルアンモニウム成分はゼオライトの結晶型によって異なる。MFI型の場合は、テトラ−n−プロピルアンモニウムイオンを含有する化合物が好ましく、通常は水酸化テトラ−n−プルピルアンモニウムが用いられる。BEA型の場合は、テトラエチルアンモニウムイオンを含有する化合物が好ましく、通常は水酸化テトラエチルアンモニウムが用いられる。MTW型の場合は、トリエチルメチルアンモニウムイオンを含有する化合物が好ましく、通常は水酸化トリエチルメチルアンモニウムが用いられる。MEL型の場合は、テトラn−ブチルアンモニウムイオンを含有する化合物が好ましく、通常は水酸化テトラn−ブチルアンモニウムが用いられる。RUT型の場合は、テトラメチルアンモニウムイオンを含有する化合物が好ましく、通常は水酸化テトラメチルアンモニウムが用いられる。
【0018】
前記アルカリ金属成分としては、リチウム、ナトリウム、カリウムを提示でき、それらの水酸化物やハロゲン化物あるいはシリカ担体および/または金属塩化合物中のアルカリ金属成分を用いることもできる。
【0019】
前記アルミニウム成分としては、アルミン酸塩、硝酸塩、硫酸塩、ハロゲン化物、水酸化物等を例示できる。さらに、水溶液の形で用いることが好ましい。通常は、アルミン酸ナトリウムが好ましい。
【0020】
前記ゼオライト前駆体の調製方法において、前記シリカ成型体上に、さらにホウ素、チタン、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、インジウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素(A)を共存させることによって、これら元素が格子内に取り込まれたバイ(ポリ)メタリックなバインダーレスゼオライト成型体を得ることができる。
【0021】
アルミニウムなど、これらゼオライトのT原子(ゼオライト結晶骨格を構成する金属成分)となる金属成分は、シリカ成型体に担持されていればいかなる形態でもよい。たとえば、シリカ成型体中に含まれる前記金属の酸化物を用いてもよい。通常、担持される金属塩としては水溶性の塩が好ましい。金属塩の水溶液を含浸し、乾燥、焼成することにより、金属酸化物として担持された前駆体を用いることもできる。この場合には、T原子となる金属成分および/またはアルカリ金属成分をシリカ成型体に担持し、焼成することによって、上記成分を担持したシリカ成型体を得る。これにテトラアルキルアンモニウム成分および、必要によりアルカリ金属成分を担持してゼオライト前駆体を調製する。かかるゼオライト前駆体を用いることにより、ゼオライト成型体の機械的強度を高めることができる場合がある。
【0022】
前記シリカ成型体に、アルミニウム成分とアルカリ金属成分とテトラアルキルアンモニウム成分とを含む原料物質を担持する方法は、特に限定されるものではないが、シリカ成型体中に前記原料物質を均一に担持することが望ましいため、前記原料物質の水溶液をシリカ成型体に含浸した後、乾燥する方法が望ましい。一例を挙げれば、所定量の各成分を均一な水溶液とし、シリカ成型体の吸水量に見合う水溶液量となるように調製して含浸する。このとき、各成分は同時に担持してもよいし、各成分ごとあるいは均一な混合溶液を数回に分割して担持してもよい。分割担持しても、担持する順番は生成物に影響を与えない。その後、乾燥工程により前記前駆体中の含水量を減少させる。
【0023】
前記前駆体の含水量としては、結晶化の際に担持成分が溶出せず、ゼオライトの収率が良い点から、前駆体の乾燥後の総質量を基準として、通常30質量%以下、さらには20〜0.1質量%の範囲が好ましい。
【0024】
乾燥温度は特に限定されないが、テトラアルキルアンモニウム塩の分解が少なく、効率的に含水量を減少させる点で、好ましくは20〜120℃、より好ましくは50〜110℃で実施される。
【0025】
乾燥する方法は特に限定されず、減圧、常圧のいずれの条件でもよい。常圧において空気の気流下で乾燥することが、簡便なため好ましい。
【0026】
本発明の製法は、前記ゼオライト前駆体を、飽和水蒸気と接触させることを特徴とする。前記飽和水蒸気の温度はゼオライト前駆体がゼオライトに転化されれば特に制限はされないが、含有するテトラアルキルアンモニウム成分の分解が少なく、結晶化度の高いバインダーレスゼオライト成型体を得るために、通常、80〜260℃、好ましくは100〜230℃の範囲が望ましい。結晶化温度が高すぎると、他の鉱物との混晶が生成する場合がある。
【0027】
前記ゼオライト前駆体と飽和水蒸気との接触時間は、通常、2時間以上、好ましくは2〜150時間の範囲である。結晶化時間が短すぎると結晶化度が低下し、逆に長すぎると他のゼオライトとの混晶になる場合があるからである。
【0028】
前記ゼオライト前駆体を飽和水蒸気と接触させる方法およびその装置は、ゼオライト前駆体がゼオライトに転化されれば特に制限されない。例えば、耐圧容器の中空に前駆体を設置し、容器下部に反応温度と容器の容積によって定まる飽和水蒸気量に相当する水を封入した後、恒温槽内で加熱することによって実施できる。また、この前駆体を容器内に入れ、その外側に水を入れた密閉容器を用いてもよいし、あるいは移動床式反応器によって連続的に合成してもよい。
【0029】
前記方法により、各種結晶構造のバインダーレスゼオライト成形体を製造することができる。
【0030】
本発明の方法における結晶構造としては特に限定されるものではないが、MFI型および/またはMEL型、BEA型、MTW型、RUT型、MWW型等が例示され、MFI型であることが好ましい。なお「MFI型」、「MEL型」、「BEA型」、「MTW型」、「RUT型」、「MWW型」とは、国際ゼオライト学会による構造を示すコードである。
【0031】
前記ゼオライト結晶化方法により、シリカ成型体の形状を維持した各種結晶構造のバインダーレスゼオライト成型体を製造後は、(1)イオン交換・洗浄、(2)乾燥、(3)焼成を行う。
【0032】
上記(1)のイオン交換・洗浄においては、塩酸、塩化アンモニウム、硝酸、硝酸アンモニウム等の水溶液を用いてイオン交換を行い、水等を用いて洗浄することが好ましい。イオン交換・洗浄を行うことにより、ゼオライト成型体が有するカウンターカチオンを低減することができる。イオン交換を行う温度としては、30〜90℃が好ましい。
【0033】
上記(2)の乾燥する温度としては、80〜180℃が好ましい。
【0034】
上記(3)の焼成としては、450〜700℃の温度で2〜10時間行うことが好ましい。このような焼成を行うことによりゼオライト成型体中に残存する有機成分を除去することができる。
【0035】
本発明の方法により、原料物質のほぼ全量をゼオライトに転化でき、原料であるシリカ成型体は、形状を保持したまま、その全量がゼオライトに転化するため、生成したゼオライトには本質的にバインダーは含まれないことになる。このように、簡便な方法でバインダーレスゼオライト成型体が得られる。
【0036】
本発明のバインダーレスゼオライト成型体では、BET法による窒素吸着測定から求めた比表面積が300〜550m/g、好ましくは315〜500m/gの範囲である。また、該成型体では、水銀圧入法により求めた細孔径が4nm以上の細孔を有する。該細孔による比表面積は、通常、2〜150m/g、好ましくは4〜100m/gの範囲である。該細孔による細孔容積は、通常、0.15〜1.5ml/g、好ましくは0.2〜1.3ml/gの範囲である。
【0037】
本発明においては上記製造方法により製造されるバインダーレスゼオライト成型体を用い、かつ該成型体のNH−TPD法のh−ピークから求めた酸量が1.0mmol/g以下、好ましくは0.7mmol/g以下、より好ましくは0.3mmol/g以下である。吸着剤の性能は該酸量によって大きく変化し、該酸量が1.0mmol/gよりも高くなると、吸着性能が著しく低下する。
【0038】
NH−TPDを行うと、通常、2つの脱離ピークが得られ、低温側をl−ピーク、高温側をh−ピークと呼ぶ。このうち、h−ピークがゼオライトの固体酸を示しており、上記2つのピークをガウス関数を用いて波形分離を行い、h−ピークの面積から酸量を算出する。
【0039】
本発明のバインダーレスゼオライト成型体の上記酸量は、SiとAlのモル比を変化させたり、該ゼオライト成型体のプロトンサイトの全部または一部を、Na、K、Cs、Zn、NH、Ca、Ba、Ag、Li、Mg、Ti、Cuイオンでイオン交換することで任意に調整することができる。
【実施例】
【0040】
以下に実施例を掲げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0041】
なお、実施例において、次の測定法を用いた。
【0042】
(ゼオライトの含有率の測定法)
粉末X線回折により確認した。2θ=5〜140°で測定されたCuKαX線回折で存在が認められる全ピーク面積の総和に対する、ゼオライトに帰属するピーク面積の総和の比率として測定した。ゼオライト含有率がほぼ100%とは、前記の条件で測定した結果、ゼオライト以外のピークが認められないことをいう。測定条件はX線源としてCuKα線、強度出力45kV、40mA、発散スリット1°で測定した。
【0043】
(結晶化度の測定法)
粉末X線回折法により確認した。測定条件はX線源CuKα線、出力45kV、40mA、走査角度2θ=20〜30°で行った。上記条件で標準試料と試料を測定し、各試料のゼオライトに帰属するピークのうち、メインピーク強度(MFI型の時、2θ=23.1°)のピーク比(下記式(2))によって結晶化度を算出した。
【0044】
【数2】

【0045】
この分析方法では、測定装置特性により解析結果が大きく異なる場合があるため、通常、触媒学会から提供される参照触媒を標準物質として利用する。
【0046】
ZSM−5型ゼオライトの場合には、「JRC−Z5−90H(1)」を用い、これに非晶質シリカ(例えば、富士シリシア化学社製キャリアクトQ−50の粉砕品)を任意の割合で混合したサンプルを標準物質として、検量線を作成した。検量線作成時と同一条件で結晶化度を測定することにより、ZSM−5型ゼオライト成型体の結晶化度を測定した。
【0047】
(酸量の測定)
酸量の測定はNH−TPD法によるh−ピーク面積により求める。以下に酸量の測定を具体的に示す。NH−TPD法とは、アンモニア吸着を用いた昇温脱離法の略称である。手順としては(1)資料を500℃で不活性ガス流通下で放置(前処理)、(2)アンモニアを資料に常温で吸着させること(アンモニア吸着処理)、(3)不活性ガスにより系内の清浄(清浄処理1)、(4)不活性ガス流通下で10℃/minで昇温し脱離するアンモニアをガスクロマトグラフィーにより測定、(5)(4)より得られたチャートの波形分離処理。低温側i−ピーク、高温側h−ピークをする。h−ピークの面積より酸量を求める。面積の基準はキャリブレーション1点法により求める。すなわち、測定装置に空のセルを装着し、その中に一定量のアンモニアをパルス導入し、ガスクロマトグラフィー測定によって得られたピークの面積を基準とする。
【0048】
なお試料重量は0.1g、不活性ガス流量は30ml/minで行うことが好ましい。
【0049】
更に具体的には日本ベル製触媒分析装置(BEL−CAT−25)においてNH−TPDを行い酸量を測定した。粉砕したゼオライト成型体0.1gをヘリウム気流中で500℃(1時間)処理した。10vol%NH(ヘリウムバランス)を30ml/minの流量で流し、100℃で1時間処理し、NHを吸着させた。100℃で10分間ヘリウムを流して過剰のNHを除去した後、ヘリウム流量30ml/minで温度を100℃から600℃まで昇温速度10℃/minで昇温し、脱離したNH量をガスクロマトグラフィーで測定した。得られたスペクトルをガウス関数を用いて波形分離を行い、h−ピークの面積から酸量を求めた。
【0050】
(実施例1)
水酸化ナトリウム0.43gを蒸留水10gに完全に溶解させた後、アルミン酸ナトリウム2.23gを加えて完全に溶解させた。混合溶液中に40質量%の水酸化テトラn−プロピルアンモニウム(以下、TPAOHと称する)水溶液6.77gを加え、さらに蒸留水を加えて全量17.2mlの担持液を調製した。120℃で一昼夜乾燥させたシリカビーズ(富士シリシア製「キャリアクトQ−50」、10〜20メッシュ)20gを、前記水溶液17.2mlに1時間含浸させ、シリカビーズ上にアルミン酸ナトリウムとTPAOHを担持した。組成比は、SiAl0.075Na0.125 TPA0.04であった。
【0051】
これを蒸発皿上に移した。100℃の湯浴上で乾燥させた後、80℃オーブンで窒素の気流下において5時間乾燥させた。得られた前駆体をテフロンカップに入れ、容積100mlのジャケット付きテフロン(登録商標)るつぼの中空に設置した。るつぼ容器の底に1.00gの蒸留水を入れ、180℃で8時間加熱した。るつぼを室温まで冷却し、取り出した生成物をビーカーに入れ、1M硝酸アンモニウム水溶液300mlを加え、60℃で30分間撹拌し、イオン交換を行った。該イオン交換操作を3回繰返した後、蒸留水500mlで水洗し、120℃で5時間乾燥させた。得られた白色固体を空気の気流中において550℃で5時間焼成し、SiO/Alモル比が28のバインダーレスゼオライト成型体Aを得た。
【0052】
該成型体Aを粉砕した後に、粉末X線回折で測定したところ、ZSM−5型ゼオライトであり、ゼオライト含有率はほぼ100%であった。
【0053】
「JRC−Z5−90H(1)」を標準サンプルとして用いた結晶化度の測定の結果、結晶化度は100%であった。
【0054】
NH−TPD法により、h−ピークの酸量を測定した結果、0.87mmol/gであった。
【0055】
77Kにおける窒素のBET3点法(P/P0=0.01、0.03、0.06)による比表面積は380m/gであった。また、水銀圧入法で細孔分布を測定した結果、4nm以上の全マクロ細孔容積は0.98ml/gであり、同じマクロ細孔の表面積は27m/gであった。
【0056】
(比較例1)
実施例1において、ゼオライト前駆体を飽和水蒸気と接触させ、イオン交換・洗浄、乾燥、焼成した後、焼成後の生成物をビーカーに入れ、実施例1と同様のイオン交換操作を再度3回繰り返した後、蒸留水500mlで水洗し、120℃で5時間乾燥させた。得られた白色固体を空気の気流中において550℃で3時間焼成し、SiO/Alモル比が28のバインダーレスゼオライト成型体Bを得た。
【0057】
該成型体Bを粉砕した後に、粉末X線回折で測定したところ、ZSM−5型ゼオライトであり、ゼオライト含有率はほぼ100%であった。
【0058】
「JRC−Z5−90H(1)」を標準サンプルとして用いた結晶化度の測定の結果、結晶化度は100%であった。
【0059】
NH−TPD法により、h−ピークの酸量を測定した結果、1.12mmol/gであった。
【0060】
77Kにおける窒素のBET3点法(P/P0=0.01、0.03、0.06)による比表面積は360m/gであった。また、水銀圧入法で細孔分布を測定した結果、4nm以上の全マクロ細孔容積は0.86ml/gであり、同じマクロ細孔の表面積は26m/gであった。
【0061】
(実施例2)
水酸化ナトリウム1.31gを蒸留水10gに完全に溶解させた後、アルミン酸ナトリウム0.65gを加えて完全に溶解させた。混合溶液中に40質量%のTPAOH水溶液6.77gを加え、さらに蒸留水を加えて全量17.2mlの担持液を調製した。120℃で一昼夜乾燥させたシリカビーズ(富士シリシア製「キャリアクトQ−50」、10〜20メッシュ)20gを、前記水溶液17.2mlに1時間含浸させ、シリカビーズ上にアルミン酸ナトリウムとTPAOHを担持した。組成比は、SiAl0.042Na0.125 TPA0.04であった。
【0062】
これを比較例1と同様にして、SiO/Alモル比が48のバインダーレスゼオライト成型体Cを得た。
【0063】
該成型体Cを粉砕した後に、粉末X線回折で測定したところ、ZSM−5型ゼオライトであり、ゼオライト含有率はほぼ100%であった。
【0064】
「JRC−Z5−90H(1)」を標準サンプルとして用いた結晶化度の測定の結果、結晶化度は100%であった。
【0065】
NH−TPD法により、h−ピークの酸量を測定した結果、0.64mmol/gであった。
【0066】
77Kにおける窒素のBET3点法(P/P0=0.01、0.03、0.06)による比表面積は420m/gであった。また、水銀圧入法で細孔分布を測定した結果、4nm以上の全マクロ細孔容積は1.0ml/gであり、同じマクロ細孔の表面積は24m/gであった。
【0067】
(実施例3)
実施例2において、アルミン酸ナトリウムの量を0.31gとし、ゼオライト前駆体の組成をSiAl0.01Na0.125 TPA0.04とした以外は、実施例2と同様にして、SiO/Alモル比が200のバインダーレスゼオライト成型体Dを得た。
【0068】
該成型体Dを粉砕した後に、粉末X線回折で測定したところ、ZSM−5型ゼオライトであり、ゼオライト含有率はほぼ100%であった。
【0069】
「JRC−Z5−90H(1)」を標準サンプルとして用いた結晶化度の測定の結果、結晶化度は98%であった。
【0070】
NH−TPD法により、h−ピークの酸量を測定した結果、0.15mmol/gであった。
【0071】
77Kにおける窒素のBET3点法(P/P0=0.01、0.03、0.06)による比表面積は400m/gであった。また、水銀圧入法で細孔分布を測定した結果、4nm以上の全マクロ細孔容積は1.1ml/gであり、同じマクロ細孔の表面積は25m/gであった。
【0072】
(実施例4)
実施例2において、アルミン酸ナトリウムの量を0.031gとし、ゼオライト前駆体の組成をSiAl0.001Na0.125 TPA0.04とした以外は、実施例2と同様にして、SiO/Alモル比が2000のバインダーレスゼオライト成型体Eを得た。該成型体Dを粉砕した後に、粉末X線回折で測定したところ、ZSM−5型ゼオライトであり、ゼオライト含有率はほぼ100%であった。
【0073】
「JRC−Z5−90H(1)」を標準サンプルとして用いた結晶化度の測定の結果、結晶化度は96%であった。
【0074】
NH−TPD法により、h−ピークの酸量を測定した結果、0.02mmol/gであった。
【0075】
77Kにおける窒素のBET3点法(P/P0=0.01、0.03、0.06)による比表面積は380m/gであった。また、水銀圧入法で細孔分布を測定した結果、4nm以上の全マクロ細孔容積は0.86ml/gであり、同じマクロ細孔の表面積は23m/gであった。
【0076】
(比較例2)
実施例2で調製したバインダーレスゼオライト成型体20gを粉砕し、アルミナゾル(日産化学製アルミナゾル520、アルミナ含有量20.7質量%)41.4g(アルミナとして8.57gを混練し、スラリーを濃縮した。水分量を40質量%に調製した後、0.7mm直径に押し出し成型した。これを、空気の気流中で650℃において3時間焼成することにより、アルミナバインダーで成型されたゼオライト成型体Fを得た。
【0077】
(実施例5)
実施例1〜4および比較例1、2で得られた成型体A〜Fについて、空気中の臭気成分(アセトアルデヒド)の吸着性能を調べた。
【0078】
反応管に上記ゼオライト成型体10g充填し、10ppmのアセトアルデヒドおよび3vol%の水蒸気を含んだ空気を空間速度500,000Hr−1で流通させた。約5分間流通後、吸着剤出口の空気中のアセトアルデヒド濃度を測定し、アセトアルデヒドの除去率を求めた。結果を表1に示す。
【0079】
【表1】

【0080】
表1から明らかなように、本発明のバインダーレスゼオライト成型体を吸着剤として使用し、かつNH−TPDのh−ピークから求めた酸量を1.0mmol/g以下にすることによって高い吸着性能が得られることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の吸着剤は少ない使用量で高い吸着性能を有する。また、バインダーを含まないので、無機バインダーの影響により吸着性能が低下したり、微量成分を吸着除去する場合には、主ガス成分が分解されてしまうといった問題が解消される。したがって、空気中に含まれるアンモニア等の塩基性ガスやアセトアルデヒドなど悪臭成分の吸着による脱臭、自動車排ガス中のNOx吸着、各種ガス中の微量成分吸着除去によるガスの精製などさまざまな用途で使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】バインダーレスゼオライト成型体CのNH−TPDスペクトル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下一般式(1)で表されるゼオライト前駆体と飽和水蒸気とを接触させ得られるバインダーレス成型体(以下、「バインダーレスゼオライト成型体」と称する)であってかつ当該バインダーレスゼオライト成型体の酸量が1.0mmol/g以下(酸量はNH−TPD法によるh−ピーク換算。以下「酸量」と略す)であるバインダーレスゼオライト成型体を含むことを特徴とする吸着剤。
【数1】

【請求項2】
前記酸量が0.7mmol/g以下であることを特徴とする請求項1記載の吸着剤。
【請求項3】
前記成型体にはホウ素、チタン、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム及びインジウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含むことを特徴とする請求項1又は2記載の吸着剤。
【請求項4】
前記バインダーレスゼオライトの結晶構造がMFI型であることを特徴とする請求項1または2記載の吸着剤。

【図1】
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【公開番号】特開2006−334454(P2006−334454A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−158785(P2005−158785)
【出願日】平成17年5月31日(2005.5.31)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】